説明

ガラス繊維布帛の製造方法およびガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法

【課題】安価に実施できるうえ、ガラス繊維の強度の劣化を生じることなく集束剤を十分に除去でき、しかも目あきが大きくなることを抑制できるようにする。
【解決手段】集束剤が付着されたガラス繊維布帛(6)を、ヒートクリーニングすることなく、洗浄液(2)に浸漬する。集束剤の主成分は有機物であり、洗浄液(2)にこの主成分を分解できる有機物分解酵素を含有させる。洗浄液(2)へ浸漬したガラス繊維布帛(6)に、高周波発生装置(9)から超音波を発する。洗浄液(2)へ浸漬したガラス繊維布帛(6)に対し、押圧手段(10)でガラス繊維布帛(6)の厚さ方向に圧力を加える。ガラス繊維布帛(6)を洗浄液(2)に浸漬したのち、さらにシランカップリング剤を接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維の強度を低下させることなく集束剤を除去できる、ガラス繊維布帛の製造方法と、これにより得られたガラス繊維布帛で強化するガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維を織成等したガラス繊維布帛は、繊維強化樹脂(Fiber Reinforced Plastic:FRP)の補強材や、自動車用鋼板の補強材、或いは不燃シート材の補強材等として有用である。このガラス繊維布帛は、ガラス繊維の糸曳き時や製織時の毛羽の発生を防いで織りやすくするために、製糸工程及びサイジング(糊付)工程において、デンプン等の有機物である糊や滑り剤などの集束剤がガラス繊維の表面に塗布される。このガラス繊維で織成したガラス繊維布帛をFRPの補強材として使用する場合、付着している集束剤がFRP成型時に樹脂の含浸を阻害する虞がある。このため、従来はガラス繊維布帛を、例えば最高温度400℃で、72時間かけて焼成(ヒートクリーニング)することにより、有機物を除去することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、ガラス繊維布帛をヒートクリーニングする場合は、このガラス繊維布帛を耐熱性の鉄心に巻き替える必要があり、処理工数がかかるうえ、燃費コストが高くつく問題がある。しかもこのヒートクリーニングの際の加熱で、ガラス繊維の強度が著しく劣化し、例えば60%以上も劣化する問題があり、不燃テントの基布など、不燃シートには強度不足の点から使用することができない問題があった。また、上記のヒートクリーニングによる有機物の消失で、ガラス繊維糸同士間に隙間が広がり、織組織の目あきが大きくなる問題があり、例えば自動車用鋼板の補強材に用いる場合は、その目あき部分から接着剤が漏出して外観不良を生じる虞がある。
【0004】
また、上記のヒートクリーニングに代えて、水溶性高分子を主成分とする集束剤を用いてガラス繊維布帛を織成したのち、これを水洗して集束剤を除去することが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この集束剤の除去方法は、ガラス繊維布帛を含水状態とし、水蒸気雰囲気下において超音波などの高周波を付与したのち、このガラス繊維布帛を水洗するものである。しかしこの方法ではエポキシ樹脂などを水溶化した特殊な集束剤を用いる必要があるうえ、例えばガラス繊維布帛に対する集束剤の付着量を0.35重量%程度に少なく抑えても、洗浄後のガラス繊維布帛に残存する集束剤は、0.06重量%以上と多く、十分に集束剤を除去することができない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−35280号公報
【特許文献2】特開平10−245766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、安価に実施できるうえ、ガラス繊維の強度の劣化を生じることなく集束剤を十分に除去でき、しかも目あきが大きくなることを抑制できる、集束剤が除去されたガラス繊維布帛の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために多くの試行錯誤の繰り返し実験を重ねた結果、集束剤が付着したガラス繊維布帛をヒートクリーニングすることなく、水と接触させることで集束剤を除去できることを見出し、さらに鋭意検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明1は、ガラス繊維布帛の製造方法に関し、集束剤が付着されたガラス繊維布帛を、ヒートクリーニングすることなく、洗浄液に浸漬して上記の集束剤を除去することを特徴とする。
また本発明2はガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法に関し、本発明1の製造方法で製造されたガラス繊維布帛に、樹脂を含浸させることを特徴とする。
【0009】
ここで、上記のガラス繊維布帛は、ガラス繊維フィラメントで構成された糸(ヤーン)を用いて、織製又は編製された布帛をいう。
上記のガラス繊維布帛はヒートクリーニングしていないので、高温に曝されておらず、ガラス繊維は加熱による強度劣化を生じていない。しかも洗浄液へ浸漬することにより、ガラス繊維の表面に付着された集束剤が良好に除去される。
この洗浄液への浸漬は、洗浄液の種類や濃度によっても異なるが、好ましくは数分間〜数時間、例えば3分間〜2時間程度にわたって洗浄液と接するように、例えば、2〜15m/分の速度で洗浄液中を移動させながら行い、これにより、例えばガラス繊維布帛に残存する集束剤が0.05重量%以下に、より好ましくは0.02重量%以下にされる。
【0010】
上記の洗浄液は、純水などの水であってもよいが、ガラス繊維に悪影響を与えるものでなく、ガラス繊維と樹脂との接触や馴染みを阻害しないものであれば、どのような成分を含有していてもよい。
特に、上記の集束剤が有機物からなる主成分を含有する場合は、上記の洗浄液にこの主成分を分解できる有機物分解酵素を含有すると、洗浄液と接することでこの酵素により集束剤が分解され、ガラス繊維の表面から速やかに除去されて好ましい。
【0011】
上記の集束剤と有機物分解酵素は、特定の材質のものに限定されず、集束剤としては、例えば、デンプン、界面活性剤、潤滑剤、合成油剤、ポバール(ポリビニルアルコール)、アクリル系ポリマー、鉱油などが挙げられ、特に集束剤の主成分がデンプンやポバールであると安価に実施できて好ましい。この集束剤の主成分にデンプンを含む場合、上記の有機物分解酵素にはデンプン分解酵素が用いられる。このデンプン分解酵素とは、デンプンを加水分解する酵素であれば特に限定されるものではなく、例えばα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、α−グルコシターゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、イソアミラーゼなどが挙げられる。またこれらのデンプン分解酵素は、1種類または2種類以上を組み合わせて使用することができる。デンプン分解酵素は通常水溶液で用いられ、その濃度は、5〜100g/mL程度が好ましく、30〜80g/mL程度用いるのがより好ましい。
【0012】
上記の洗浄処理は、ガラス繊維布帛を洗浄液へ一旦浸漬したのち、この洗浄液から引き上げて、浸漬により含浸した洗浄液をガラス繊維布帛から絞り出し、この浸漬操作と絞り出し操作とを複数回繰り返すと、浸漬液とガラス繊維とが良好に接触し、そのガラス繊維の表面から集束剤が良好に除去されて好ましい。
【0013】
上記のガラス繊維布帛は、超音波の存在下で洗浄液への浸漬処理を行うと、ガラス繊維に高周波振動が加えられて、そのガラス繊維の表面から集束剤が良好に除去されるうえ、ガラス繊維が均一に開繊され、ガラス繊維糸布帛の織目等に目あきが形成されることを防止できて好ましい。この場合、ガラス繊維布帛は洗浄液を含んでいればよく、洗浄液に浸漬された状態であってもよく、洗浄液から引き上げられた状態であってもよい。
【0014】
上記の洗浄液に浸漬したガラス繊維布帛は、押圧手段で布帛の厚さ方向に圧力を加えると、その押圧力でガラス繊維糸が扁平化され、ガラス繊維糸布帛の織目等に目あきが形成されることを防止できて好ましい。
【0015】
上記のガラス繊維布帛は、洗浄液への浸漬により集束剤を除去したのち、合成樹脂を含浸させる場合があるが、この合成樹脂との親和性を良好にするため、洗浄液に浸漬したのち、さらにこのガラス繊維布帛にシランカップリング剤を接触させると好ましい。このシランカップリング剤は液剤であるので、洗浄液への浸漬に引き続いてこのシランカップリング剤と接触させると、シランカップリング剤との接触が容易であるうえ、洗浄液とシランカップリング剤の乾燥処理が一度で済み、工程を簡略にできてより好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
(1)ヒートクリーニングがなされていないので、ガラス繊維布帛を鉄心に巻き替える手間や燃料にかかる費用を省略でき、安価に実施することができる。
(2)ガラス繊維布帛を焼成することがなく、例えば400℃もの高温に曝されることがないので、ガラス繊維は加熱による強度劣化がなく、高い強度を維持できる。
(3)洗浄液への浸漬により、例えばヒートクリーニングを行った場合と同程度に、集束剤を効率よく除去でき、しかもヒートクリーニングを行わないので、ガラス繊維布帛に目あきが発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態の、ガラス繊維布帛の製造工程を示すフロー図である。
【図2】本発明の実施形態の、ガラス繊維布帛を浸漬する浸漬装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1に示すように、このガラス繊維布帛の製造工程は、原糸受入工程(S1)と、荒巻整経工程(S2)と、糊付整経工程(S3)と、製織工程(S4)と、検査工程(S5)と、洗浄工程(S6)と、表面加工工程(S7)と、出荷工程(S8)とを備えている。
【0019】
上記の原糸受入工程(S1)で受け入れるガラス繊維糸は、特定の材質に限定されず、例えばEガラス、Sガラスなどが挙げられる。
このガラス繊維フィラメントの平均単糸径としては、特に限定されるものではないが、2〜20μm程度が好ましく、5〜15μmがより好ましい。織成されたガラス繊維布帛を薄くしたい場合には、細めの単糸を用いるのが効果的であるが、あまり細いものでは単糸切れや強度上の問題を生じやすい傾向にある。なお、ガラス繊維フィラメントの横断面形状としては、特に限定されるものではなく、扁平断面やその他の異形断面でもよいが、通常は丸断面が用いられる。
【0020】
上記の原糸受入工程(S1)で受け入れたガラス繊維糸は、荒巻整経工程(S2)を経たのち、糊付整経工程(S3)で集束剤がガス繊維の表面に塗布される。この集束剤としては、特定の成分や組成のものに限定されず、例えばデンプン、界面活性剤、潤滑剤、合成油剤、ポバール、アクリル系ポリマー、鉱油などが用いられるが、なかでも特に主成分としてポバールやデンプンが好ましく用いられる。
【0021】
次に、上記の集束剤が塗布されたガラス繊維糸は、上記の製織工程(S4)でガラス繊維布帛に織成される。
このガラス繊維布帛の織組織は、特に限定されるものではなく、例えば、平織り、朱子織り、綾織りなど公知のものであってもよく、あるいは特殊な織組織であってもよい。なお、本発明のガラス繊維布帛は、ガラス繊維糸で編製された布帛であってもよい。この場合の編組織としては、特に限定されるものではなく、例えば、平編、ゴム編、両面編などが挙げられる。これらの織組織や編組織のなかでも、目ずれが比較的少なく、平坦なガラス繊維織物が得られやすい点から、本発明のガラス繊維布帛には、平織り又は平編が好ましく採用される。
【0022】
上記のガラス繊維布帛の糸密度は、特に限定されるものではないが、経糸密度と緯糸密度がそれぞれ10〜50本/25mm程度が好ましく、25〜35本/25mmがより好ましい。
【0023】
上記のガラス繊維布帛の厚さは、特に限定されるものではなく、用途に応じて任意の寸法に設定されるが、0.1〜0.3mm程度が好ましい。また、ガラス繊維布帛の目付けとしては、特に限定されるものではなく、用途にもよるが、100〜400g/m程度が好ましく、150〜250g/mがより好ましい。これらのガラス繊維布帛の厚さや目付けは、使用するガラス繊維糸、織組織、糸密度などを適宜選択して調整することができる。
【0024】
上記の製織されたガラス繊維布帛は、検査工程(S5)を経たのち、洗浄工程(S6)で洗浄液に浸漬される。この浸漬は、特定の浸漬装置や浸漬手段によるものに限定されず、例えば図2に示す浸漬装置(1)を用いて行われる。
即ちこの浸漬装置(1)は、洗浄液(2)を収容した浸漬槽(3)と、その上方に形成した蒸気室(8)とを備えており、この蒸気室(8)には蒸気が満たされて、室内温度が50〜100℃となるように設定してある。上記の浸漬槽(3)内には、複数の下部ガイドローラ(5a)が並列配置してあり、上記の蒸気室(8)内には、複数の上部ガイドローラ(5b)が並列配置してある。導入ガイドローラ(4)を経て蒸気室(8)内へ引き込まれたガラス繊維布帛(6)は、上記の下部ガイドローラ(5a)と上部ガイドローラ(5b)とに交互に案内されて、浸漬槽(3)と蒸気室(8)とを複数回往復する。
【0025】
即ち、上記のガラス繊維布帛(6)は、上記の下部ガイドローラ(5a)に案内されて、浸漬槽(3)内で洗浄液(2)に浸漬されたのち、蒸気室(8)に引き上げられて上部ガイドローラ(5b)の周囲を通過する。このとき、この上部ガイドローラ(5b)は押圧手段(10)を構成しており、ガラス繊維布帛(6)はこの上部ガイドローラ(5b)に押し付けられて、厚さ方向に圧力が加えられる。そしてこの押圧力により、ガラス繊維布帛(6)に含浸された洗浄液(2)が絞り出されるとともに、ガラス繊維糸が扁平化して、織組織での目あきの発生が抑制される。なお、本発明ではこの押圧手段を、上部ガイドローラ(5b)とは別に、蒸気室(8)内や浸漬槽(3)内に設けることも可能である。
【0026】
上記の浸漬における、液温や浸漬時間は特に限定されるものではなく、例えば0〜100℃程度の洗浄液に、数分間〜数時間程度、好ましくは3分間〜2時間程度浸漬される。
この洗浄液は、上記の集束剤の主成分がポバールやデンプンである場合、デンプン分解酵素が含有される。このデンプン分解酵素としては、例えばα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、α−グルコシターゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、イソアミラーゼなどが、1種類または2種類以上を組み合わせて使用される。
【0027】
上記の洗浄液(2)へ浸漬したガラス繊維布帛(6)には、高周波発生装置から超音波を発すると好ましい。
即ち、図2に示すように、上記の蒸気室(8)内には、例えば2〜5台の高周波発生装置(9)が配置してあり、蒸気室(8)内を移動するガラス繊維布帛(6)へ押圧するように当接させてある。この高周波発生装置(9)が発する超音波は特定の周波数に限定されないが、好ましくは1〜50kHz程度、より好ましくは4〜10kHz程度の高周波の超音波が用いられる。
【0028】
上記の浸漬によって集束剤が除去されたガラス繊維布帛(6)は、マングル(11)など公知の技術によって洗浄液(2)が絞り取られたのち、導出ガイドローラ(7)を経て蒸気室(8)から引き出される。その後、上記の洗浄工程(S6)を終えたガラス繊維布帛は、図1に示すように、上記の表面加工工程(S7)でガラス繊維にシランカップリング剤が処理される。なお、本発明のガラス繊維布帛は、用途等によってはこの表面加工工程を省略してもよく、この場合は、上記の洗浄液が絞り取られたのち、加熱又は常温によって乾燥され、出荷工程(S8)に送られる。
【0029】
上記の表面加工工程(S7)で使用されるシランカップリング剤としては、特に限定されるものではなく、公知のシランカップリング剤を適宜用いればよい。例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン塩酸塩、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。それらのシランカップリング剤は、市販品として入手可能である。
【0030】
ガラス繊維布帛にシランカップリング剤を接触させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、上記のシランカップリング剤を含有する処理液を用いて、ガラス繊維布帛を該処理液中に浸漬してもよく、あるいは、ガラス繊維布帛に該処理液を噴霧又は塗布してもよい。これらの処理による、ガラス繊維布帛に対するシランカップリング剤の固形分付着量は、シランカップリング剤の種類や、ガラス繊維布帛に含浸される樹脂の種類等によって異なり、特定の値に限定されないが、例えば0.05〜0.50質量%程度であると好ましい。
【0031】
上記のシランカップリング剤との接触により余剰の処理液を含んだガラス繊維布帛は、必要に応じて、例えばマングル等を使用してその処理液が絞り取られたのち、加熱又は常温によって乾燥され、出荷工程(S8)に送られる。
【0032】
上記の製造方法により製造されたガラス繊維布帛は、公知の方法に従って、合成樹脂を含浸させて、ガラス繊維強化樹脂成形品にされる。この含浸に使用される合成樹脂は、当技術分野で通常用いられる樹脂を使用でき、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂のほか、塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂であってもよい。
これらの樹脂を含浸させたガラス繊維強化樹脂成形品は、特定の用途のものに限定されず、例えばバスタブ、モーターボート、プリント配線基板などのほか、不燃テントの基布などに用いる不燃シートなどに好ましく用いられる。
【0033】
また上記のガラス繊維布帛は、目あき率の拡大がヒートクリーニングを必須とする従来製造方法に比して抑制されているので、例えば接着剤で自動車鋼板に固定してこれを補強する場合に、その接着材がガラス繊維布帛の織目から漏出することを抑制でき、外観不良の発生が低減される。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0035】
Eガラスからなるガラス繊維糸を用いて布帛を織成した。このガラス繊維糸は、平均単糸径が9μm、繊度が0.35texのフィラメントを、200本集束させてあり、表面にポバールを主成分とする集束剤を塗布した。この集束剤の成分は、固形分換算でポバール4.5質量%とし、固形分合計が5.0質量%となるように水を加えて調製した。
【0036】
次に、上記の集束剤が塗布されたガラス繊維糸で平織りしてガラス繊維布帛を得た。織密度は、経糸密度が44本/25mm、緯糸密度が34本/25mmであり、ガラス繊維布帛の厚さは、約0.2mm、目付けが200g/m2であった。
【0037】
次に、上記のガラス繊維布帛を図2に示す浸漬装置(1)で洗浄した。即ち、ガラス繊維布帛(6)を、複数の下部ガイドローラ(5a)と上部ガイドローラ(5b)とで浸漬槽(3)と蒸気室(8)との間で往復移動させ、洗浄液(2)への浸漬と、押圧手段(10)である上部ガイドローラ(5b)での洗浄液(2)の絞り出しとを繰り返した。上記の洗浄液(2)にはアミラーゼからなるデンプン分解酵素液(商品名PAS−600エコ、洛東化成工業株式会社製)を5〜8%含有させた。この洗浄液の液温は60〜70℃に設定し、この洗浄液中に上記のガラス繊維布帛を、10m/分の移動速度で往復させて、3分間浸漬した。また、上記の蒸気室(8)内では、高周波発生装置(9)から6.0kHzの超音波を、これに当接しているガラス繊維布帛(6)に発した。
【0038】
上記の洗浄液(2)へ浸漬したガラス繊維布帛は、水ですすいだのち、このガラス繊維布帛を引き上げてマングルで絞り、120℃のホットロール6本で乾燥した。
【0039】
上記の洗浄後のガラス繊維布帛に残存する集束剤は、0.02重量%以下であった。このガラス繊維布帛の引張強度を測定したところ、経糸方向が1486Nであり、緯糸方向が1160Nであった。なお、引張試験は引張試験装置(島津製作所製)を用い、幅25mm、長さ250mmの試験片を、引張速度30mm/分で引っ張ったときの破断強度を測定した。また上記のガラス繊維布帛は、織目に目あきが形成されていなかった。
【0040】
これに対し、上記の洗浄工程に代えて、ガラス繊維布帛を、最高温度390℃で72時間かけてヒートクリーニングして得た比較例では、残存する集束剤は0.02重量%以下であったものの、ガラス繊維布帛の引張強度は、経糸方向が344Nであり、緯糸方向が291Nであった。即ち、本発明の実施例に比べて、23〜25%程度、強度が低下していた。また、このヒートクリーニングを施した比較例では、ガラス繊維布帛の織目に目あきが形成されていた。
【0041】
上記の実施形態や実施例で説明した、ガラス繊維布帛の製造方法は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、上記の浸漬装置や、浸漬液の成分、有機物分解酵素の種類、浸漬時間や処理温度などを、この実施形態や実施例のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
例えば、上記の浸漬装置において、浸漬処理と絞り出し処理との繰り返し回数は6回以上であってもよく、移動速度や浸漬経路を変更して浸漬時間を長くしたりしてもよいことは、言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、安価に実施できるうえ、ガラス繊維の強度の劣化を生じることなく集束剤を十分に除去でき、しかも目あきが大きくなることを抑制できる、集束剤が除去されたガラス繊維布帛の製造方法を提供できるので、繊維強化樹脂の補強材や自動車用鋼板の補強材のほか、不燃シート材の補強材等として有用である。
有用である。
【符号の説明】
【0043】
1…浸漬装置
2…洗浄液
3…浸漬槽
4…導入ガイドローラ
5a…下部ガイドローラ
5b…上部ガイドローラ
6…ガラス繊維布帛
7…導出ガイドローラ
8…蒸気室
9…高周波発生装置
10…押圧手段
11…マングル
S1…原糸受入工程
S2…荒巻整経工程
S3…糊付整経工程
S4…製織工程
S5…検査工程
S6…洗浄工程
S7…表面加工工程
S8…出荷工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束剤が付着されたガラス繊維布帛を、ヒートクリーニングすることなく、洗浄液に浸漬して上記の集束剤を除去することを特徴とする、ガラス繊維布帛の製造方法。
【請求項2】
上記の集束剤の主成分が有機物であり、上記の洗浄液がこの主成分を分解可能な有機物分解酵素を含有する、請求項1に記載のガラス繊維布帛の製造方法。
【請求項3】
上記の有機物分解酵素がデンプン分解酵素である、請求項2に記載のガラス繊維布帛の製造方法。
【請求項4】
上記の洗浄液への浸漬操作と、この浸漬操作で含浸した洗浄液をガラス繊維布帛から絞り出す操作とを複数回繰り返す、請求項1から3のいずれかに記載のガラス繊維布帛の製造方法。
【請求項5】
上記の洗浄液へ浸漬したガラス繊維布帛に、高周波発生装置から超音波を発する、請求項1から4のいずれかに記載のガラス繊維布帛の製造方法。
【請求項6】
上記の洗浄液へ浸漬したガラス繊維布帛に対し、押圧手段でガラス繊維布帛の厚さ方向に圧力を加える、請求項1から5のいずれかに記載のガラス繊維布帛の製造方法。
【請求項7】
上記のガラス繊維布帛を洗浄液に浸漬したのち、さらにこのガラス繊維布帛にシランカップリング剤を接触させる、請求項1から6のいずれかに記載のガラス繊維布帛の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の製造方法で製造されたガラス繊維布帛に、合成樹脂を含浸させることを特徴とする、ガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−79457(P2013−79457A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218914(P2011−218914)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(500232569)株式会社イセオリ (2)
【Fターム(参考)】