説明

ガラス繊維強化プラスチックの製造方法、及びガラス繊維強化プラスチック

【課題】ガラスロービングに含まれ得る導電性異物の検出を確実に行うことにより、電気絶縁性に優れたガラス繊維強化プラスチックを効率よく且つ確実に製造する技術を提供する。
【解決手段】ガラスロービング2を用いたガラス繊維強化プラスチックの製造方法であって、ガラスロービング2は、複数本のガラスフィラメントからなるストランド1がロール状に巻回されたものであり、ガラスロービング2からストランド1を解舒する解舒工程と、解舒したストランド1を検出器10に通過させる通過工程と、検出器10の信号に基づいて、ストランド1に含まれる異物を検出する検出工程と、異物を含むストランド1を選択的に取り除く除去工程と、除去工程を経たストランド1に樹脂を含浸させる含浸工程と、樹脂含浸後のストランド1を成形する成形工程と、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスロービングを用いたガラス繊維強化プラスチックの製造方法、及び当該製造方法を実行して得られるガラス繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維は、複合材料における強化材として様々な場面で使用されている。ガラス繊維が強化対象とするマトリックス(基材)には、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム、石膏、セメント等が挙げられる。これらのうち、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂とガラス繊維とを複合化したガラス繊維強化プラスチック(FRP)は、電子部品のコネクター、碍子、ムク棒等の高い電気絶縁性が必要とされる分野において、近年利用が増加している。
【0003】
ガラス繊維は、例えば、ガラスロービング等の巻回体の形態で出荷される。ここで、ガラスロービングの一般的な製造工程について説明する。先ず、原料となる溶融ガラスを多数のノズルを備えたブッシング(成形機)から紡糸する。紡糸により得られたガラスモノフィラメントに集束剤を塗布した後、これを複数本束ねてストランドとし、ロール状に巻き取った後、乾燥し、ダイレクトロービング(DWR)を得る。
【0004】
ここで、上記ガラスロービングの製造工程において、異物(特に、導電性異物)がガラス繊維(ガラスモノフィラメント)の表面に付着したり、ガラス繊維中に混入したりすることが稀にある。導電性異物としては、金属のほか、低融点金属化合物が挙げられる。低融点金属化合物は、ガラス紡糸温度(約1200℃)よりも低い融点を有する金属化合物である。異物は、例えば、ガラス原料を運搬する途中で混入し得る。ガラス原料の運搬にステンレス製容器を使用すると、磨耗によりステンレスの微粉がガラス原料に混入し得る。ガラス原料に混入したステンレスは、ガラス溶融工程においてガラス原料中に存在する硫黄分と反応し得る。その結果、低融点金属化合物である硫化ニッケル化合物(融点約976℃)が生成する可能性がある。硫化ニッケル化合物はガラス材料よりも高い導電性を有しているため、これがガラス繊維にいわゆるメタルファイバー等の形態となって微量でも混入すると、ガラス繊維の電気絶縁性が低下し、結果として、当該ガラス繊維を使用したガラス繊維強化プラスチックの電気絶縁性も低下することになる。そこで、ガラス繊維強化プラスチックの性能を維持するためには、ガラス繊維に混入した微量の導電性異物を検出し、何らかの対策を講じる必要がある。
【0005】
従来、ガラス繊維に混入した導電性異物を検出する技術として、マイクロ波を発生する検出器にガラス繊維を通過させ、その波形の変化から当該ガラス繊維に導電性異物が含まれているか否かを判定する方法が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0006】
特許文献1によれば、マイクロ波が伝送される導波管にスリット状の貫通孔を設け、当該貫通孔に織布形態のガラス繊維を通過させている。このとき、マイクロ波送信器から送信される送信波とガラス繊維を介して受信する受信波との位相差や、ガラス繊維の表面で反射される反射波の変化を検知することにより、ガラス繊維に含まれる導電性異物を検出し得る旨が記載されている(請求項1及び請求項2)。
【0007】
特許文献2によれば、マイクロ波が伝送される導波管を複数設け、各導波管に設けたスリット状の貫通孔に織布形態のガラス繊維を通過させている。その際、マイクロ波発信器から進行方向が相互に逆で且つ相互に位相をずらしたマイクロ波を導波管に送信し、ガラス繊維の表面で反射された反射波を検知している。測定原理は特許文献1と略同様であるが、検出回路を二系統設けるとともに、位相をずらしたマイクロ波を送信することで、高い検出性能が得られる旨が記載されている(第0021段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−20138号公報
【特許文献2】特開平10−185839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ガラス繊維強化プラスチックの成形法として、フィラメントワインディング(FW)成形法や引抜成形法が知られている。フィラメントワインディング成形法は、ガラスロービング(ストランド)に樹脂を直接含浸させ、これを回転するマンドレルにテンションを掛けながら巻き付け、樹脂を硬化させた後、マンドレルを離脱させることにより、管状成形体を得る成形法である。引抜成形法は、ガラスロービングに樹脂を直接含浸させ、これを所定の断面形状を有する金型に導入して樹脂を硬化させ、これを引抜装置で連続的又は間歇的に引き抜くことにより、金型の断面形状と同じ断面を有する長尺成形体を得る成形法である。これらの成形法によって製造されるガラス繊維強化プラスチックは、強化材として紐状のガラス繊維であるガラスロービングが使用されている。
【0010】
フィラメントワインディング成形法又は引抜成形法においては、強化材であるガラスロービングに低融点金属化合物である硫化ニッケル化合物等の導電性異物が混入することを防止する必要がある。導電性異物混入の有無を知るには、上述の特許文献1や特許文献2に記載されているマイクロ波による検査が有効である。ところが、特許文献1や特許文献2に記載されている導電性異物検知装置は、基本的には、織布形態にされた平面状のガラス繊維を検査対象としている。このため、フィラメントワインディング成形法や引抜成形法によってガラス繊維強化プラスチックを製造する場合においては、ガラスロービングの検査を行うにあたり、特許文献1又は特許文献2に記載されている検知装置をそのまま転用することは困難である。特許文献1及び特許文献2においては、フィラメントワインディング成形法及び引抜成形法への適用は想定されていないため、ガラスロービングを用いた繊維強化プラスチックの製造に関しては何も示唆されていない。
【0011】
このように、現状においては、ガラス繊維強化プラスチックの製造工程にガラスロービングの導電性異物検査を組み込むことにより、高品質のガラスロービングを用いてガラス繊維強化プラスチックを確実に製造する技術は未だ開発されていない。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、フィラメントワインディング成形法や引抜成形法に代表されるガラスロービングを用いたガラス繊維強化プラスチックの製造方法において、ガラスロービングに含まれ得る導電性異物の検出を確実に行うことにより、例えば、電子部品のコネクター、高電圧碍管等に利用可能な電気絶縁性に優れたガラス繊維強化プラスチックを効率よく且つ確実に製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係るガラス繊維強化プラスチックの製造方法の特徴構成は、
ガラスロービングを用いたガラス繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記ガラスロービングは、複数本のガラスフィラメントからなるストランドがロール状に巻回されたものであり、
前記ガラスロービングから前記ストランドを解舒する解舒工程と、
解舒したストランドを検出器に通過させる通過工程と、
前記検出器の信号に基づいて、前記ストランドに含まれる異物を検出する検出工程と、
異物を含むストランドを選択的に取り除く除去工程と、
前記除去工程を経たストランドに樹脂を含浸させる含浸工程と、
樹脂含浸後のストランドを成形する成形工程と、
を包含することにある。
【0013】
上記課題で説明したように、ガラス繊維の異物検査を行う従来技術は、検査対象を織布形態にされた平面状のガラス繊維とするものであった。このため、ガラスロービングを強化材とするガラス繊維強化プラスチックの製造においては、従来技術をそのまま転用することは実質的に不可能であった。
この点、本構成のガラス繊維強化プラスチックの製造方法では、ガラス繊維強化プラスチックにおける強化材としてガラスロービングを使用しており、当該ガラスロービングからストランドを解舒する解舒工程と、解舒したストランドを検出器に通過させる通過工程と、検出器の信号に基づいて、ストランドに含まれる異物を検出する検出工程とを行っている。つまり、ガラス繊維強化プラスチックの製造工程にストランドの異物検査を組み込んでいる。そして、ストランドに異物が含まれていた場合、当該ストランドを選択的に取り除く除去工程を行っている。これらの一連の工程を実行し、引き続いて含浸工程及び成形工程を実行すれば、例えば、フィラメントワインディング成形法や引抜成形法によって、電気絶縁性に優れたガラス製繊維強化プラスチックを効率よく且つ確実に製造することが可能となる。
【0014】
本発明のガラス繊維強化プラスチックの製造方法において、
前記成形工程によって得られた成形品を加熱し、軟化させた状態で再度成形を行う再成形工程をさらに実行することが好ましい。
【0015】
ガラス繊維強化プラスチックの基材となる樹脂として、本発明では主に熱硬化性樹脂を使用するが、熱可塑性樹脂を使用することも可能である。例えば、成形品を切断したものから再度成形を行う場合、樹脂として熱可塑性樹脂を使用することができる。約5〜30mmの長さに切断された熱可塑性樹脂とストランドとからなるガラス長繊維強化プラスチック(LFTPペレット)を加熱すると、熱可塑性樹脂が軟化してある程度の流動性を示すようになる。この状態で流動物を金型に射出すると(再成形工程)、目的とする成形体(再成形品)が得られる。このように、ガラスロービングを用いたガラス繊維強化プラスチックにおいて、熱可塑性樹脂を基材とすることも可能である。
【0016】
本発明のガラス繊維強化プラスチックの製造方法において、
前記除去工程として、
前記ストランドの移動を停止させる停止工程と、
前記ストランドのうち少なくとも異物が検出された部位を切除する切除工程と、
前記切除工程により分離したストランドを継ぎ合わせる糸継工程と、
前記ストランドの移動を再開する再開工程と、
を実行することが好ましい。
【0017】
本構成のガラス繊維強化プラスチックの製造方法によれば、異物を含むストランドを除去するに際し、ストランドの移動を停止させる停止工程と、ストランドのうち少なくとも異物が検出された部位を切除する切除工程と、切除工程により分離したストランドを継ぎ合わせる糸継工程と、ストランドの移動を再開する再開工程とを実行することにより、問題のあるストランド部位だけを確実に取り除くことができる。その結果、電気絶縁性に優れた高品質なガラス繊維強化プラスチックを製造することが可能となる。
【0018】
本発明のガラス繊維強化プラスチックの製造方法において、
前記解舒工程において、前記ガラスロービングを複数配置し、
前記通過工程において、前記ガラスロービングの数に応じて複数の検出器を設け、前記ガラスロービングから解舒した夫々のストランドを対応する検出器に個別に通過させることが好ましい。
【0019】
本構成のガラス繊維強化プラスチックの製造方法によれば、ストランドの異物検査を行うに際し、複数のガラスロービングから解舒した夫々のストランドを対応する検出器に個別に通過させているので、異物を含むストランドを特定し、それを除去することができる。この方法は、検査精度に優れているだけでなく、除去するストランド部位を最小とすることができるので、製品の歩留まりが向上する。
【0020】
本発明のガラス繊維強化プラスチックの製造方法において、
前記解舒工程において、前記ガラスロービングを複数配置し、
前記通過工程において、前記ガラスロービングから解舒した夫々のストランドを一列に並べて前記検出器に一群で通過させることが好ましい。
【0021】
本構成のガラス繊維強化プラスチックの製造方法によれば、ストランドの異物検査を行うに際し、複数のガラスロービングから解舒した夫々のストランドを一列に並べて検出器に一群で通過させているので、装置構成を簡素化することができる。この方法では、異物を含むストランドを個別に特定することはできないが、検出器が反応した領域のすべてを除去することにより、あまり手間を掛けずに製品への異物混入を防止することができる。
【0022】
本発明のガラス繊維強化プラスチックの製造方法において、
水平方向に10mmの間隔を空けて共に10mmの直径を有する第1円柱部材及び第2円柱部材を配置するとともに、前記第1円柱部材と前記第2円柱部材との中間点から垂直方向に250mm離間した位置に10mmの直径を有する第3円柱部材を配置し、
前記第1円柱部材、前記第3円柱部材、及び前記第2円柱部材に対して、その記載順に、5000mの全長を有する前記ストランドを300mm/分の速度で接触させながら進行させた場合に発生する毛羽の重量が15mg以下であるガラスロービングを用いることが好ましい。
【0023】
本構成のガラス繊維強化プラスチックの製造方法によれば、上記所定条件で発生する毛羽の重量が15mg以下であるガラスロービングを用いてガラス繊維強化プラスチックを製造しているため、検出工程において毛羽が検出器に溜まったり、詰まったりすることがない。よって、異物の誤検知や装置の故障が起こらず、安定してガラス繊維強化プラスチックの製造を継続することができる。製造されたガラス繊維強化プラスチックは、電気絶縁性に優れた高品質の製品となる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明に係るガラス繊維強化プラスチックの特徴構成は、
上記の何れか一つに記載のガラス繊維強化プラスチックの製造方法を実行して得られる、硫化ニッケル化合物の含有量がニッケル換算で5ppm以下であるガラス繊維強化プラスチックとしたことにある。
【0025】
本構成のガラス繊維強化プラスチックは、本発明のガラス繊維強化プラスチックの製造方法を実行することにより製造されるものであり、低融点金属化合物である硫化ニッケル化合物の含有量がニッケル換算で5ppm以下となる。このように、導電性異物の含有量が非常に少なくなるので、電気絶縁性に優れた高品質のガラス繊維強化プラスチックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、ガラス繊維強化プラスチックを製造するための製造設備を示した概略図である。
【図2】図2は、ガラス繊維強化プラスチックを製造する際の各工程を示したフローチャートである。
【図3】図3は、ガラスロービングから解舒したストランドを検出器に通過させて異物検出を行う様子を示した概略図である。
【図4】図4は、ガラスロービングの毛羽発生量を測定するための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のガラス繊維強化プラスチック、及びその製造方法に関する実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0028】
図1は、フィラメントワインディング成形法によりガラス繊維強化プラスチックを製造するための製造設備100を示した概略図である。製造設備100は、主に、検出器10、樹脂含浸槽20、樹脂調整部30、及びマンドレル40で構成されている。図2は、ガラス繊維強化プラスチックを製造する際の各工程を示したフローチャートである。以下、ガラス繊維強化プラスチックの製造工程を、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0029】
初めに、強化材となるガラス繊維として、複数本のガラスフィラメントからなるストランド1がロール状に巻回されたガラスロービング2を準備しておく。ガラスロービング2を所定のラック(図示せず)に配置し、当該ガラスロービング2からストランド1を解舒する(S1;解舒工程)。図1では、ガラスロービング2を一つだけ配置した状態を示してあるが、複数のガラスロービング2を並べて配置しても構わない。解舒工程の際、ガラスロービング2の持ち上がりが発生しないように留意する。ガラスロービング2の持ち上がりとは、ガラスロービング2からストランド1が二層以上に亘って同時に解けてしまい、その結果、ストランド1が縺れた状態で解舒されることである。ガラスロービング2の持ち上がりは、誤検知や故障の原因となり得る。ガラスロービング2の持ち上がりを防止するためには、ガラスロービング2の表面から10cm以上、好適には15cm以上離間させてストランド1を通すガイド部材50を設けることが有効である。なお、本実施形態ではガイド部材50として、ガラスロービング2の持ち上がり防止用の第1ガイド部材51と、ストランド1の垂れ下がりを防止して安定して進行させるための第2ガイド部材52とが設けられている。ガイド部材50の設置個数及び設置場所は、製造条件に応じて適宜変更することができる。
【0030】
ガラスロービング2からストランド1を解舒したら、そのストランド1を第1ガイド部材51に通し、さらに、検出器10に通過させる(S2;通過工程)。検出器10は、ストランド1に含まれる導電性異物(上述の低融点金属化合物)を検出するための装置であり、マイクロ波の発信器10aと受信器10bとから構成されるマイクロ波発生装置である。なお、検出器10は、マイクロ波以外の原理で測定する装置を採用しても構わない。
【0031】
検出器10は、解析・制御用のコンピュータ60に接続されており、製造装置100の稼働中は、検出器10からコンピュータ60に信号が送信されている。コンピュータ60は、検出器10からの信号に基づいて、ストランド1に導電性異物が含まれているか否かを判定する(S3;検出工程)。例えば、検出器10の発信器10aから発信したマイクロ波の波形と受信器10bで受信した波形とを比較し、両者の位相にずれが認められる場合、ストランド1に導電性異物が含まれている(S3;有り)と判断する。
【0032】
導電性異物が検出されたら、当該異物を含むストランド1を選択的に取り除く除去工程を行う。除去工程は、以下の工程S11〜S14により実行される。先ず、ストランド1の移動を停止させる(S11;停止工程)。これは、マンドレル40を回転駆動しているモーター70を停止させることで実行される。モーター70はコンピュータ60によって制御されており、コンピュータ60が検出器10から「導電性異物有り」の信号を受けたら、直ちにコンピュータ60からモーター70に停止命令が送信される。ストランド1が完全に停止した後、当該ストランド1のうち少なくとも異物が検出された部位を切除する(S12;切除工程)。ストランド1の切除は、例えば、図1中に示した二つの矢印の間(検出器10の直後と樹脂含浸槽20の直前との間)で行われる。この範囲でストランド1を切除すれば、導電性異物を含むストランド1を確実に除去することができる。ストランド1の切除を終えたら、分離したストランド1を継ぎ合わせる(S13;糸継工程)。糸継工程は、作業者が手作業で行ってもよいが、エアー噴射により糸を絡めながら糸の接続を行うエアースプライサー(図示せず)を利用することができる。糸継工程が完了したら、ストランド1の移動を再開する(S14;再開工程)。このように、除去工程を行うことにより、問題のあるストランド部位だけを確実に取り除くことができる。
【0033】
ガラスロービング2を複数使用してガラス繊維強化プラスチックの製造を行う場合は、上記通過工程において、ガラスロービング2の数に応じて複数の検出器10を設け、ガラスロービング2から解舒した夫々のストランド1を対応する検出器10に個別に通過させることができる。図3(a)の例では、ガラスロービング2を5個設け、夫々のガラスロービング2から解舒されたストランド1を個別の検出器10に通している状態を示している。この場合、どのストランドに異物が含まれているかを特定し、異物が含まれているストランドのみを除去することができる。この方法は、検査精度に優れているだけでなく、除去するストランド部位を最小とすることができるので、製品の歩留まりが向上する。一方、ガラスロービング2から解舒した夫々のストランド1を一列に並べて単独の検出器10に一群で通過させても構わない。図3(b)の例では、ガラスロービング2を5個設け、夫々のガラスロービング2から解舒されたストランド1を共通の検出器10に通している状態を示している。この場合、検出器10を一つだけ設置すればよいので、装置構成を簡素化することができる。この方法では、異物を含むストランド1を個別に特定することはできないが、検出器10が反応した領域のすべて(実際に異物が含まれているストランドと、それに平行するストランド)を除去することにより、あまり手間を掛けずに製品への異物混入を防止することができる。なお、図3では、説明容易化のため、夫々のガラスロービング2から解舒された夫々のストランド1が側方の第1ガイド部材51に通されているように示されているが、ストランド1の毛羽立ちを防止するため、実際には第1ガイド部材51はガラスロービング2の直上に配置されている。
【0034】
上記除去工程(S11〜S14)を終えた後、あるいは上記検出工程でストランド1に導電性異物が含まれていない(S3;無し)と判断された場合、ストランド1に樹脂を含浸させる(S4;含浸工程)。含浸工程は、樹脂が蓄えられた樹脂含浸槽20にストランド1を潜らせることにより実行される。ストランド1に含浸させる樹脂は、製造するガラス繊維強化プラスチックの種類に応じて適切なものが選択される。例えば、図1に例示したフィラメントワインディング成形法による成形体や、引抜成形法による成形体を製造する場合、熱硬化性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ウレタン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらのうち、電気絶縁性成形体を製造する用途としてはエポキシ樹脂が好適に用いられる。一方、ストランド1に熱可塑性樹脂を含浸させて、ガラス長繊維強化プラスチック(LFTP)からなる成形体を製造することもできる。熱可塑性樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、液晶ポリマー等が挙げられる。含浸工程を終えたストランド1は、樹脂調整部30によりストランド1の表面に付着した樹脂が適正な量となるように調整される。樹脂調整部30にはストランド1の直径より僅かに大きい貫通孔31が設けられており、当該貫通孔31に樹脂を含むストランド1を通すことによって余分な樹脂がストランド1の表面から削ぎ落される。
【0035】
樹脂量の調整がされたストランド1は、モーター70によって回転しているマンドレル40にテンションを掛けながら巻き付けられる。巻き付けは、ストランド1の進行速度が10〜30m/分となる回転速度で行われる。マンドレル40への巻き付けが完了したら、その状態でマンドレル40を加熱し、ストランド1に含浸させた樹脂を硬化させる。そして、樹脂が十分な硬度に達したら、内側のマンドレル40を抜き取り、成形が完了する(S5;成形工程)。このようにして得られたガラス繊維強化プラスチックは管状成形体となる。この管状成形体は、導電性異物を含まないため電気絶縁性に優れており、例えば、高電圧碍管として利用することができる。
【0036】
ちなみに、ガラス長繊維強化プラスチック(LFTP)からなる成形体を製造する場合は、上記成形工程後に再度の成形工程を実行する。ガラス長繊維強化プラスチック(LFTP)の場合、熱可塑性樹脂を含浸させたストランドをマンドレルに巻き付けるのではなく、所定の長さ(約5〜30mm)に裁断する。従って、この裁断が成形工程(S5)であり、裁断物が成形品である。成形工程によって得られた裁断物(成形品)を加熱し、軟化させた状態で射出成形(S6;再成形工程)を行うことにより、ガラス長繊維強化プラスチック(LFTP)からなる成形体(例えば、電子部品のコネクター等)が完成する。
【0037】
本発明で使用するガラスロービング2(ストランド1)は、毛羽発生量が少ないものを使用することが好ましい。毛羽発生量は以下の手順で測定することができる。図4は、ガラスロービング2の毛羽発生量を測定するための装置の概略図である。水平方向に10mmの間隔を空けて共に10mmの直径を有する第1円柱部材11及び第2円柱部材12を配置する。さらに、第1円柱部材11と第2円柱部材12との中間点から垂直方向に250mm離間した位置に10mmの直径を有する第3円柱部材13を配置する。この状態で、第1円柱部材11、第3円柱部材13、前記第2円柱部材12に対して、その記載順に、5000mの全長を有するストランド1を300mm/分の速度で接触させながら進行させる。このとき発生する毛羽の重量が、そのガラスロービング2の毛羽発生量である。本発明で使用するガラスロービング2の毛羽発生量は、15mg以下としている。この場合、検出工程において毛羽が検出器10に溜まったり、詰まったりすることがない。よって、異物の誤検知や装置の故障が起こらず、安定してガラス繊維強化プラスチックの製造を継続することができる。製造されたガラス繊維強化プラスチックは、電気絶縁性に優れた高品質の製品となる。好ましい毛羽発生量は10mg以下、より好ましくは5mg以下、最も好ましくは1mg以下である。毛羽発生量は、ガラスロービング2を製造する際、ロール状に巻回する前のストランド1に塗布する集束剤(結束剤、潤滑剤等を含む)の種類を変更したり、集束剤の塗布量を調整したりすることで、ある程度コントロール可能である。
【0038】
以上のように、本発明では、ガラス繊維強化プラスチックの製造工程にストランドの異物検査を組み込んでいる。そして、ストランドに異物が含まれていた場合、当該ストランドを選択的に取り除く除去工程を行っている。本発明の一連の工程を実行し、検査に合格したストランドについて含浸工程及び成形工程を実行すれば、フィラメントワインディング成形法や引抜成形法によって、高品質なガラス製繊維強化プラスチックを効率よく且つ確実に製造することが可能となる。本発明によって製造されたガラス繊維強化プラスチックは、硫化ニッケル化合物の含有量がニッケル換算で5ppm以下となるため、電気絶縁性に優れている。
【実施例】
【0039】
次に、本発明のガラス繊維強化プラスチックの製造方法によって製造したガラス繊維強化プラスチックに関する実施例を説明する。
【0040】
エポキシ樹脂用集束剤で表面処理された毛羽発生量が5mgのガラスロービング(1150tex)を専用ラックに48ロール載置し、第1ガイド部材をガラスロービングの上方15cmの高さに設置した。各ガラスロービングから解舒されたストランドを一列に並べ、夫々のストランドをスリット状の通過孔を有する導波管が設けられた検出器(マイクロ波発生装置)に一群で通過させた。その際、ストランドに強いマイクロ波が当たるように、導波管の通過孔に対してストランドを略垂直に進行させた。検出器が導電性異物を検出した場合は、本発明の除去工程によりストランドの当該部位を除去した。検査に合格したストランドに対してエポキシ樹脂を含浸させ、フィラメントワインディング成形法により、ガラス繊維強化プラスチックの管状成形体(最大内径1m、長さ9m)を製造した。
【0041】
このガラス繊維強化プラスチック製の管状成形体を高電圧碍管として使用し、導電破壊検査を行った。検査では、高電圧碍管に100万ボルトの高電圧を印加した。その結果、高電圧碍管は導電破壊を起こすことはなく、特に異常は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のガラス繊維強化プラスチックの製造方法によって得られるガラス繊維強化プラスチックは、電子部品のコネクター、高電圧碍管、碍子、ムク棒等の高い電気絶縁性が必要とされる製品の他、電子部品用パッケージ、FRP構造材等に利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 ストランド
2 ガラスロービング
10 検出器
11 第1円柱部材
12 第2円柱部材
13 第3円柱部材
20 樹脂含浸槽
30 樹脂調整部
40 マンドレル
50 ガイド部材
51 第1ガイド部材
52 第2ガイド部材
60 コンピュータ
70 モーター
100 製造設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスロービングを用いたガラス繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記ガラスロービングは、複数本のガラスフィラメントからなるストランドがロール状に巻回されたものであり、
前記ガラスロービングから前記ストランドを解舒する解舒工程と、
解舒したストランドを検出器に通過させる通過工程と、
前記検出器の信号に基づいて、前記ストランドに含まれる異物を検出する検出工程と、
異物を含むストランドを選択的に取り除く除去工程と、
前記除去工程を経たストランドに樹脂を含浸させる含浸工程と、
樹脂含浸後のストランドを成形する成形工程と、
を包含するガラス繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項2】
前記成形工程によって得られた成形品を加熱し、軟化させた状態で再度成形を行う再成形工程をさらに実行する請求項1に記載のガラス繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
前記除去工程として、
前記ストランドの移動を停止させる停止工程と、
前記ストランドのうち少なくとも異物が検出された部位を切除する切除工程と、
前記切除工程により分離したストランドを継ぎ合わせる糸継工程と、
前記ストランドの移動を再開する再開工程と、
を実行する請求項1又は2に記載のガラス繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
前記解舒工程において、前記ガラスロービングを複数配置し、
前記通過工程において、前記ガラスロービングの数に応じて複数の検出器を設け、前記ガラスロービングから解舒した夫々のストランドを対応する検出器に個別に通過させる請求項1〜3の何れか一項に記載のガラス繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
前記解舒工程において、前記ガラスロービングを複数配置し、
前記通過工程において、前記ガラスロービングから解舒した夫々のストランドを一列に並べて前記検出器に一群で通過させる請求項1〜3の何れか一項に記載のガラス繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項6】
水平方向に10mmの間隔を空けて共に10mmの直径を有する第1円柱部材及び第2円柱部材を配置するとともに、前記第1円柱部材と前記第2円柱部材との中間点から垂直方向に250mm離間した位置に10mmの直径を有する第3円柱部材を配置し、
前記第1円柱部材、前記第3円柱部材、及び前記第2円柱部材に対して、その記載順に、5000mの全長を有する前記ストランドを300mm/分の速度で接触させながら進行させた場合に発生する毛羽の重量が15mg以下であるガラスロービングを用いた請求項1〜5の何れか一項に記載のガラス繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載のガラス繊維強化プラスチックの製造方法を実行して得られる、硫化ニッケル化合物の含有量がニッケル換算で5ppm以下であるガラス繊維強化プラスチック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−161960(P2012−161960A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23015(P2011−23015)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】