説明

ガラス繊維束包装体及びガラス繊維束包装体の製造方法

【課題】ガラス繊維束巻回体の使用後期における崩落を防止することができるガラス繊維束包装体及びガラス繊維束包装体の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス繊維束包装体1では、ガラス繊維束巻回体2cが個別に熱収縮性フィルム6にてシュリンク包装されていると共に、ガラス繊維束巻回体2cからガラス繊維束巻回体2aに向かってガラス繊維束巻回体が一つ増える毎に複数のガラス繊維束巻回体が熱収縮性フィルムにて一体的にシュリンク包装されており、第n(nは1以上N以下の整数)番目のガラス繊維束巻回体は、熱収縮性フィルムにてn回シュリンク包装されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維束包装体及びガラス繊維束包装体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維束は、例えばLFT(Long Fiber Thermo Plastics)の補強材等として用いられており、その番手(tex)としては、2310tex(17μm)もしくは2400tex(17μm)を用いるのが一般的である。しかし、このような太い番手のガラス繊維束を用いて成形品を作製すると、ガラス繊維の分散性が悪く、成形品の外観不良といった問題が生じる。そこで、細い番手のガラス繊維束が巻回された複数のガラス繊維束巻回体のそれぞれからガラス繊維束を解舒し、合糸して使用する方法がある。
【0003】
例えば特許文献1に記載のガラス繊維束包装体では、複数のガラス繊維束巻回体(ロービング)を同軸的に積み重ね、各ガラス繊維束巻回体の中空部から糸口を取り出し、この糸口を最上部のガラス繊維束巻回体の中空部の開口から取り出している。これにより、このガラス繊維束包装体では、解舒時におけるガラス繊維束の擦れを抑制することで毛羽の発生を防止しつつ、細い番手のガラス繊維束を合糸して太い番手のガラス繊維束を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭62−113173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のガラス繊維束包装体にあっては、ガラス繊維束が最外層付近まで引き出されると、ガラス繊維束巻回体が崩落するおそれがある。特に、最下段のガラス繊維束巻回体は、上段のガラス繊維束巻回体からの荷重が加わるため崩落し易い。この崩落により、ガラス繊維束に縺れが生じ、その結果、毛羽が発生するといった問題が依然として生じ得る。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ガラス繊維束巻回体の使用後期における崩落を防止することができるガラス繊維束包装体及びガラス繊維束包装体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るガラス繊維束包装体は、ガラス繊維束が筒状に巻回されて中空部が形成されたガラス繊維束巻回体がN個(Nは2以上の整数)同軸的に配置され、各ガラス繊維束巻回体の中空部側に位置する各ガラス繊維束の端部が、一端に配置されたガラス繊維束巻回体の中空部の開口に向かうように中空部を通って開口から外側に引き出されているガラス繊維束包装体において、各ガラス繊維束巻回体は、一端に配置されるガラス繊維束巻回体が第1番目となり他端に配置されるガラス繊維束巻回体が第N番目となる順に配置されており、第N番目のガラス繊維束巻回体が個別に熱収縮性フィルムにてシュリンク包装されていると共に、第N番目のガラス繊維束巻回体から第1番目のガラス繊維束巻回体に向かってガラス繊維束巻回体が一つ増える毎に複数のガラス繊維束巻回体が熱収縮性フィルムにて一体的にシュリンク包装されており、第n(nは1以上N以下の整数)番目のガラス繊維束巻回体は、熱収縮性フィルムにてn回シュリンク包装されていることを特徴とする。
【0008】
このガラス繊維束包装体では、第N番目のガラス繊維束巻回体が個別に熱収縮性フィルムにてシュリンク包装されていると共に、第N番目のガラス繊維束巻回体から第1番目のガラス繊維束巻回体に向かってガラス繊維束巻回体が一つ増える毎に複数のガラス繊維束巻回体が熱収縮性フィルムにて一体的にシュリンク包装されている。そして、第n番目のガラス繊維束巻回体は、熱収縮性フィルムにてn回シュリンク包装されている。このようなガラス繊維束包装体は、解舒時における毛羽の発生を抑制する観点から、一端が上端となり他端が下端となるように縦置きで配置されることが好ましいとされているが、縦置きとした場合には、下端に配置されたガラス繊維束巻回体への負荷が大きくなり崩落が発生し易い。そこで、他端側になるにつれてガラス繊維束巻回体におけるシュリンク包装の回数を多くすることで、他端側のガラス繊維束巻回体を熱硬化した熱収縮性フィルムにて強固に保持することができる。これにより、ガラス繊維束巻回体の使用後期におけるガラス繊維束巻回体の崩落を防止できる。なお、Nは2以上の整数であり、nは1以上N以下の整数である。
【0009】
ここで、熱収縮性フィルムによるシュリンク包装では、ガラス繊維巻回体の端面が開口近傍まで熱収縮性フィルムにて覆われている。そのため、第N番目のガラス繊維束巻回体が個別に熱収縮性フィルムにてシュリンク包装すると共に、第N番目のガラス繊維束巻回体から第1番目のガラス繊維束巻回体に向かってガラス繊維束巻回体が一つ増える毎に複数のガラス繊維束巻回体が熱収縮性フィルムにて一体的にシュリンク包装することで、隣接するガラス繊維束巻回体の接触面には、熱収縮性フィルムが介在することになる。これにより、ガラス繊維束巻回体同士の摩擦が低減されるため、ガラス繊維束間の擦れによる毛羽の発生を防止できる。特に、ガラス繊維束包装体が縦置きで使用される場合にあっては、ガラス繊維束巻回体同士の摩擦が大きくなるため、シュリンク包装にて熱収縮性フィルムをガラス繊維束巻回体同士の間に介在させることが有効となる。
【0010】
さらに、ガラス繊維束巻回体は、熱収縮性フィルムによって一体的にシュリンク包装されて相互に保持されているので、輸送中等におけるガラス繊維束巻回体のずれを抑制でき、その結果、ガラス繊維束巻回体のずれに起因する毛羽の発生を防止できる。
【0011】
また、ガラス繊維束は、100tex〜8000texであることが好ましい。ガラス繊維束の番手が8000texよりも大きくなると、ガラス繊維束巻回体の重量が大きくなり、これに伴い他端側のガラス繊維束巻回体への負荷も大きくなる。そこで、ガラス繊維束の番手を100tex〜8000texとすることで、ガラス繊維束巻回体の使用後期での他端側への負荷を低減でき、荷崩れを防止できる。
【0012】
また、ガラス繊維束を構成するガラス繊維は、断面偏平形状を成していることが好ましい。断面偏平形状のガラス繊維は、断面円形状のガラス繊維に比べてテンションバー上で配向したときのテンションバーとの接触面積が大きいため、ストランドの開繊が促進される。これにより、断面偏平形状のガラス繊維は、成形工程における樹脂含浸槽での樹脂の含浸性が向上するため、断面円形状のガラス繊維に比べて成形品内のガラス繊維の分散性が良好になる。
【0013】
また、本発明は、上記のようにガラス繊維束包装体の発明として記述できる他に、以下のようにガラス繊維束包装体の製造方法の発明としても記述することができる。これはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0014】
すなわち、本発明に係るガラス繊維束包装体の製造方法は、ガラス繊維束が筒状に巻回されて中空部が形成されたガラス繊維束巻回体がN個(Nは2以上の整数)同軸的に配置され、各ガラス繊維束巻回体の中空部側に位置する各ガラス繊維束の端部が、一端に配置されたガラス繊維束巻回体の中空部の開口に向かうように中空部を通って前記開口から外側に引き出されているガラス繊維束包装体の製造方法において、各ガラス繊維束巻回体を、一端に配置されるガラス繊維束巻回体が第1番目となり他端に配置されるガラス繊維束巻回体が第N番目となる順に配置し、第N番目のガラス繊維束巻回体を個別に熱収縮性フィルムにてシュリンク包装すると共に、第N番目のガラス繊維束巻回体から第1番目のガラス繊維束巻回体に向かってガラス繊維束巻回体が一つ増える毎に複数のガラス繊維束巻回体を熱収縮性フィルムにて一体的にシュリンク包装することで、第n(nは1以上N以下の整数)番目のガラス繊維束巻回体を、熱収縮性フィルムにてn回シュリンク包装することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラス繊維束巻回体の使用後期における崩落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るガラス繊維束包装体を示す斜視図である。
【図2】ガラス繊維の断面形状を示す図である。
【図3】ガラス繊維束巻回体のシュリンク包装を説明する図である。
【図4】ガラス繊維束巻回体のシュリンク包装を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係るガラス繊維束包装体を示す斜視図である。同図に示すガラス繊維束包装体1は、同形状を有するN個(ここでは3個)のガラス繊維束巻回体2a〜2cが上下方向(重力方向)に縦に積み重さねられて構成されている。ここで、Nは2以上の整数である。各ガラス繊維束巻回体2a〜2cは、ガラス繊維束(ロービング)3a〜3cが円筒状に複数層巻回されて成り、中央部分に中空部4a〜4cが形成されている。
【0019】
ガラス繊維束3a〜3cは、数百本のガラス繊維5(図2参照)が集束されて構成されており、ガラス繊維束3a〜3cの番手は、100tex〜8000tex程度である。各ガラス繊維束巻回体2a〜2cの重量は、ガラス繊維束3a〜3cの巻回数(積層数)等によってまちまちであるが、例えば1kg〜140kgであり、好ましくは5kg〜10kgであり、本実施形態では10kgである。また、ガラス繊維束巻回体2a〜2cの高さは、例えば50mm〜660mmであり、本実施形態では140mmである。さらに、ガラス繊維束巻回体2a〜2cの直径は、例えば100mm〜550mm程度であり、本実施形態では280mmである。
【0020】
ここで、図2を参照しながら、ガラス繊維5について説明する。ガラス繊維5には、図2(a)に示すように、断面円形状を有するガラス繊維5aや、図2(b)に示すように、断面偏平形状を有するガラス繊維5b等がある。本実施形態のガラス繊維束3a〜3cは、断面偏平形状のガラス繊維5bが集束されて構成されている。このガラス繊維5bは、断面楕円形状を成しており、長辺L(図示左右方向)の長さが例えば3μm〜30μmである。ガラス繊維5bは、偏平率が例えば2.0以上であり、短辺S(図示上下方向)と長辺Lとの比は、1:2.5〜1:15、好ましくは1:3.5〜1:8である。
【0021】
このような構成を有するガラス繊維束包装体1は、上下方向において、ガラス繊維束巻回体2a〜2cがこの順番に連続して設けられている。つまり、上端(一端)に配置されるガラス繊維束巻回体2aが第1番目となり、真中に配置されるガラス繊維束巻回体2bが第2番目となり、下端(他端)に配置されるガラス繊維束巻回体2cが第3番目となる順に配置されている。そして、第3番目のガラス繊維束巻回体2cが個別に熱収縮性フィルム6にてシュリンク包装されていると共に、第3番目のガラス繊維束巻回体2cから第1番目のガラス繊維束巻回体2aに向かってガラス繊維束巻回体が一つ増える毎に複数のガラス繊維束巻回体が熱収縮性フィルムにて一体的にシュリンク包装されている。
【0022】
具体的には、ガラス繊維束巻回体2cは、熱収縮性フィルム6にて個別にシュリンク包装されており、ガラス繊維束巻回体2cとガラス繊維束巻回体2bとは、熱収縮性フィルム7にて一体的にシュリンク包装されている。また、熱収縮性フィルム7にて一体的にシュリンク包装されたガラス繊維束巻回体2c及びガラス繊維束巻回体2bとガラス繊維束巻回体2aとは、熱収縮性フィルム8にて一体的にシュリンク包装されている。つまり、第1番目のガラス繊維束巻回体2aは、熱収縮性フィルム8にて1回シュリンク包装されており、第2番目のガラス繊維束巻回体2bは、熱収縮性フィルム7,8にて2回シュリンク包装されており、第3番目のガラス繊維束巻回体2cは、熱収縮性フィルム6〜8にて3回シュリンク包装されている。すなわち、第n番目のガラス繊維束巻回体は、熱収縮性フィルムにてn回シュリンク包装されている。なお、nは1以上N以下の整数である。
【0023】
また、ガラス繊維束包装体1においては、各ガラス繊維束巻回体2a〜2cの中空部4a〜4c側に位置する各ガラス繊維束3a〜3cの端部(糸口)が、ガラス繊維束巻回体2aの中空部4aの開口部4aAに向かうように中空部4a〜4cを通って開口部4aAから外側に引き出されている。つまり、各ガラス繊維束3a〜3cの端部(糸口)は、縦に3個同軸的に配置されたガラス繊維束巻回体2a〜2cの一端(上端)に配置されたガラス繊維束巻回体2aの中空部4aの開口4aAに向かうように中空部4a〜4cを通って開口部4aAから外側に引き出されている。詳細については後述する。
【0024】
続いて、このような構成を有するガラス繊維束包装体1の製造方法について、図1、図3及び図4を参照しながら説明する。図3及び図4は、ガラス繊維束巻回体のシュリンク包装を説明する図である。
【0025】
図3(a)に示すように、まずシュリンク包装が施されていないガラス繊維束巻回体2cを用意する。このガラス繊維束巻回体2cには、中空部4cの両端部に開口部4cA,4cBが形成されている。この開口部4cA,4cBの面積は、ガラス繊維束巻回体2cの端面2Tの面積に対して20%〜60%となっている。なお、図3においては、ガラス繊維束巻回体2cの端面2Tを平坦面としているが、実際の端面2Tでは、中空部4c側から外周面に向かって下り勾配で湾曲して傾斜している。ガラス繊維束巻回体2a,2bも同様である。
【0026】
次に、図3(b)に示すように、熱収縮性フィルム6を用意する。この熱収縮性フィルム6は、例えばポリオレフィン系材料(ポリプロピレン、ポリプロピレン等)、塩化ビニル系材料から成り、厚さが20μm〜200μm程度であり、好ましくは20μ〜100μmである。また、熱収縮性フィルム6は、熱収縮率が35%〜50%程度となっている。この熱収縮性フィルム6には、一端部に開口6aが設けられている。なお、熱収縮性フィルム6には、両端に開口が設けられていてもよい。
【0027】
続いて、図3(c)に示すように、ガラス繊維束巻回体2cの開口部4cAと熱収縮性フィルム6の開口6aとが同じ方向を向くように熱収縮性フィルム6をガラス繊維束巻回体2cに被せる。この状態において、熱収縮性フィルム6に熱を加えることにより、図3(d)に示すように、ガラス繊維束巻回体2cにおける開口部4cA以外の部分が熱収縮性フィルム6によってシュリンク包装される。これにより、ガラス繊維束巻回体2cは、熱収縮性フィルム6が最外層に巻回されたガラス繊維束3cの間に入り込むことにより保持され、巻き崩れが防止される。
【0028】
次に、図4(a)に示すように、上記のようにシュリンク包装されたガラス繊維束巻回体2cの上に、シュリンク包装が施されていないガラス繊維束巻回体2bを積み重ねる。このとき、各ガラス繊維束巻回体2b,2cの中空部4b、4cが同軸的、つまり中空部4b,4cの軸方向が揃うようにガラス繊維束巻回体2b,2cを積み重ねる。また、各ガラス繊維束巻回体2b,2cの中空部4b,4c側から繰り出されるガラス繊維束3b,3cの端部(糸端)を、ガラス繊維束巻回体2bの開口部4bAから外側に引き出す。そして、図4(b)に示すように、2つのガラス繊維束巻回体2b,2cを熱収縮性フィルム7にて一体的に覆いシュリンク包装する。この熱収縮性フィルム7は、熱収縮性フィルム6と同様の材質から成り、長方形状を呈していると共に、長手方向の一端側が開口し且つ他端側が封止されている。この時点において、ガラス繊維束巻回体2cには、熱収縮性フィルム6,7にて2層のシュリンク包装が施されており、ガラス繊維束巻回体2bには、熱収縮性フィルム7にて1層のシュリンク包装が施されている。
【0029】
続いて、図1に示すように、熱収縮性フィルム7にて一体的にシュリンク包装されたガラス繊維束巻回体2bの上にシュリンク包装が施されていないガラス繊維束巻回体2aを積み重ねる。このとき、各ガラス繊維束巻回体2a〜2cの中空部4a〜4cが同軸的、つまり中空部4a〜4cの軸方向が揃うようにガラス繊維束巻回体2a,2bを積み重ねる。また、各ガラス繊維束巻回体2a〜2cの中空部4a〜4c側から繰り出されるガラス繊維束3a〜3cの端部を、ガラス繊維束巻回体2aの開口部4aAから外側に引き出す。そして、ガラス繊維束巻回体2aと、熱収縮性フィルム7にて一体的にシュリンク包装された2つのガラス繊維束巻回体2b,2cとを熱収縮性フィルム8にて一体的に覆いシュリンク包装する。この熱収縮性フィルム8は、熱収縮性フィルム6と同様の材質から成り、長方形状を呈していると共に、長手方向の一端側が開口し且つ他端側が封止されている。このようにシュリンク包装を行うことにより、ガラス繊維束巻回体2cには、熱収縮性フィルム6〜8にて3層のシュリンク包装が施されており、ガラス繊維束巻回体2bには、熱収縮性フィルム7,8にて2層のシュリンク包装が施されており、ガラス繊維束巻回体2aには、熱収縮性フィルム8にて1層のシュリンク包装が施されている。このように、熱収縮性フィルム6〜8にてガラス繊維束巻回体2a〜2cがシュリンク包装されることで、隣接するガラス繊維束巻回体2a〜2cが相互に保持される。
【0030】
また、各ガラス繊維束巻回体2a〜2cの中空部4a〜4c側に位置する各ガラス繊維束3a〜3cの端部が、ガラス繊維束巻回体2aの中空部4aの開口部4aAに向かうように中空部4a〜4cを通って開口部4aAから外側に引き出されている。具体的には、最下部のガラス繊維束巻回体2cのガラス繊維束3cは、ガラス繊維束巻回体2a,2bの中空部4a,4bを通して開口部4aAから引き出され、ガラス繊維束巻回体2bのガラス繊維束3bは、ガラス繊維束巻回体2aの中空部4aを通して開口部4aAから引き出されている。なお、ガラス繊維束3a〜3cの端部は、ガラス繊維束巻回体2a〜2cにおいて最外層側と最内層側とに位置し、中空部4a〜4c側から繰り出されるガラス繊維束3a〜3cの端部とは、最内層側から繰り出される端部である。
【0031】
以上のようにして、図1に示すガラス繊維束包装体1が得られる。なお、図1、図3及び図4においては、説明の便宜上、ガラス繊維束巻回体2a〜2cと熱収縮性フィルム6との間、熱収縮性フィルム6と熱収縮性フィルム7との間、及び熱収縮性フィルム7と熱収縮性フィルム8との間に隙間が形成されているが、熱収縮性フィルム6〜8は実際には密着している。
【0032】
このようなガラス繊維束包装体1においては、ガラス繊維束3a〜3cの解舒の際、ガラス繊維束巻回体2aの開口部4aAからガラス繊維束3a〜3cが外側に引き出される。このとき、ガラス繊維束3a〜3cは、ガラス繊維束巻回体2a〜2cの内側、すなわち中空部4a〜4c側から引き出される。そして、ガラス繊維束包装体1では、ガラス繊維束巻回体2a〜2cの中空部4a〜4cが同軸的に積み重ねられているため、ガラス繊維束3a〜3cが同じ方向に向かって纏まって引き出される。
【0033】
以上説明したように、ガラス繊維束包装体1では、ガラス繊維束巻回体2cが個別に熱収縮性フィルム6にてシュリンク包装されていると共に、ガラス繊維束巻回体2cからガラス繊維束巻回体2aに向かってガラス繊維束巻回体が一つ増える毎に複数のガラス繊維束巻回体が熱収縮性フィルムにて一体的にシュリンク包装されており、第n(nは1以上N以下の整数)番目のガラス繊維束巻回体は、熱収縮性フィルムにてn回シュリンク包装されている。つまり、ガラス繊維束3a〜3cの引き出し口(開口部4aA)とは反対の下端側になるにつれてガラス繊維束巻回体2a〜2cにおけるシュリンク包装の回数を増やしている。このように、下端側のシュリンク包装の回数を増やすことにより、下端のガラス繊維束巻回体2cを強固に保持することができる。これにより、ガラス繊維束3a〜3cの引き出しの終盤において、上端側のガラス繊維束巻回体2a,2bの荷重等により最下段のガラス繊維束巻回体2cが崩落することを防止できる。その結果、ガラス繊維束巻回体2a〜2cの崩落によるガラス繊維束3a〜3cの縺れを防止でき、毛羽の発生を抑制できる。
【0034】
ここで、一般的に、シュリンク包装が施されていないガラス繊維束巻回体は、真円筒形状を成しておらず、周面(腹部)が膨らんだ凸状やへこんだ凹状となっている。また、開口が形成されている端面も、上述のように平坦面とはなっていない。そのため、複数のガラス繊維束巻回体を一度にまとめてシュリンク包装すると、ガラス繊維束巻回体の中空部の軸心が揃うように固定することができず、その結果、ガラス繊維束包装体が不安定となり縦に立てて配置できないといった問題が生じる。
【0035】
これに対して、本実施形態のガラス繊維束包装体1では、ガラス繊維束巻回体を一つ増やす毎にシュリンク包装を行っている。つまり、シュリンク包装により固定されて安定した複数のガラス繊維束巻回体とシュリンク包装が施されていないガラス繊維束巻回体とをシュリンク包装しているため、一度にまとめてシュリンク包装する場合とは異なり、個数が多くなった場合でも安定したガラス繊維束包装体1を作製することができる。その結果、ガラス繊維束包装体1を縦に立てて使用することができる。
【0036】
また、ガラス繊維束巻回体2a〜2cは、熱収縮性フィルム6〜8によって開口部以外の部分がシュリンク包装されている。そのため、ガラス繊維束巻回体2a〜2cが積み重ねられた際、ガラス繊維束巻回体2a〜2c同士の間には、熱収縮性フィルム6〜8が介在することになる。これにより、ガラス繊維束巻回体2a〜2c同士が直接接触する場合に比べて、摩擦を低減することができる。その結果、ガラス繊維束3a〜3cの擦れを防止でき、ガラス繊維束3a〜3cの状態を更に良好に維持できる。さらに、熱収縮性フィルム6によりガラス繊維束巻回体2a〜2cをシュリンク包装すると、熱収縮性フィルム6がガラス繊維束巻回体2a〜2cの最外層のガラス繊維束3a〜3cの間に入り込む。これにより、使用後期におけるガラス繊維束3a〜3cの巻き崩れを防止することができる。
【0037】
ここで、従来のガラス繊維束包囲体では、上記のガラス繊維束巻回体同士の摩擦の問題に対応するために、ガラス繊維束巻回体の間に仕切り板を配置している。しかしながら、ガラス繊維束巻回体の間に仕切り板を配置する構成では、ガラス繊維束巻回体の使用後期においてガラス繊維束の減少に伴い仕切り板が落下する。これにより、仕切り板の落下によってガラス繊維束も落下し、ガラス繊維束の縺れが発生するといった問題があった。これに対して、本実施形態のガラス繊維束包装体1では、ガラス繊維束巻回体2a〜2cを熱収縮性フィルム6〜8にて開口部近傍までを覆うようにシュリンク包装している。熱収縮性フィルム6〜8は、加工後にその形を保持する特性を有しているため、各ガラス繊維束巻回体2a〜2cの間に介在する部分がガラス繊維束巻回体2a〜2cの使用後期において落下することがない。したがって、ガラス繊維束巻回体2a〜2cの使用後期においてガラス繊維束3a〜3cが落下することを防止し、ガラス繊維束3a〜3cの縺れの発生を防止できる。
【0038】
また、ガラス繊維束3a〜3cの番手は、100tex〜8000texである。ガラス繊維束3a〜3cの番手が8000texよりも大きくなると、ガラス繊維束巻回体2a〜2cの重量が大きくなり、これに伴い下端側のガラス繊維束巻回体2cへの負荷も大きくなる。そこで、ガラス繊維束3a〜3cの番手を100tex〜8000texとすることで、ガラス繊維束巻回体2a〜2cの使用後期での下端のガラス繊維束巻回体2cへの負荷を低減でき、荷崩れを更に防止できる。
【0039】
また、上記実施形態では、ガラス繊維束3a〜3cが断面偏平形状のガラス繊維5bにより構成されている。断面偏平形状のガラス繊維5bは、断面円形状のガラス繊維5aに比べてテンションバー上で配向したときのテンションバーとの接触面積が大きいため、ストランドの開繊が促進される。これにより、ガラス繊維5bは、合糸の後段の成形工程において実施される樹脂含浸槽での樹脂の含浸性が向上するため、断面円形状のガラス繊維5aに比べて、成形品内のガラス繊維の分散性が良好になる。
【0040】
また、ガラス繊維束包装体1は、ガラス繊維束巻回体2a〜2cを縦に積み重ねているため、例えばガラス繊維束巻回体2a〜2cを平面的に配置する場合に比べて、配置スペースを確保することができるといった効果もある。
【0041】
なお、上記構成を有するガラス繊維束包装体1は、重量が数十kg〜数百kgとなっている。そこで、搬送性の観点から、複数個のガラス繊維束包装体1をパレットに載置する搬送形態を採用することができる。このとき、複数のガラス繊維束包装体1を包装材によってまとめて包装してもよいし、あるいは、バンド等により纏めて固定してもよい。これにより、安定した搬送が可能となる。また、複数のガラス繊維束包装体1をダンボールに梱包して搬送してもよい。
【0042】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、ガラス繊維束包装体1において、ガラス繊維束巻回体2a〜2cを3個積み重ねているが、積み重ねられるガラス繊維束巻回体2a〜2cの数は適宜変更可能である。なお、積み重ねられる個数としては、安定性や搬送生の観点から2〜8個が好ましい。特に、断面円形状のガラス繊維5aから成るガラス繊維束巻回体の場合には、4個が好ましく、断面偏平形状のガラス繊維5bから成るガラス繊維束巻回体の場合には、2個が好ましい。
【0043】
また、上記実施形態では、ガラス繊維束巻回体2a〜2cが縦に積み重ねられているが、ガラス繊維束巻回体2a〜2cは斜め、又は横方向に配置されてもよい。要は、ガラス繊維束巻回体2a〜2cの中空部4a〜4cが同軸的に配置されていればよい。
【0044】
また、上記実施形態では、ガラス繊維5を集束してガラス繊維束3a〜3cを構成してガラス繊維束巻回体2a〜2cを形成しているが、ガラス繊維束巻回体2a〜2cは、ブッシングから引き出されたストランドを円筒形状に直接巻き取ったダイレクトロービングを巻き返して合糸してもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、同形状を有するガラス繊維束巻回体2a〜2cを積み重ねているが、ガラス繊維束巻回体2a〜2cは、所定の範囲内の直径を有する筒状であればよい。
【0046】
また、上記実施形態では、ガラス繊維束巻回体2a〜2cの形状を円筒状としているが、ガラス繊維束巻回体2a〜2cは中空部4a〜4cを有する筒状であればよい。例えば、ガラス繊維束巻回体2a〜2cは、外径が多角形状であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…ガラス繊維束包装体、2a〜2c…ガラス繊維束巻回体、3a〜3c…ガラス繊維束、4a〜4d…中空部、4aA…開口部(開口)、5…ガラス繊維、6〜8…熱収縮性フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維束が筒状に巻回されて中空部が形成されたガラス繊維束巻回体がN個(Nは2以上の整数)同軸的に配置され、各ガラス繊維束巻回体の中空部側に位置する各ガラス繊維束の端部が、一端に配置されたガラス繊維束巻回体の中空部の開口に向かうように前記中空部を通って前記開口から外側に引き出されているガラス繊維束包装体において、
前記各ガラス繊維束巻回体は、前記一端に配置される前記ガラス繊維束巻回体が第1番目となり他端に配置されるガラス繊維束巻回体が第N番目となる順に配置されており、
前記第N番目のガラス繊維束巻回体が個別に熱収縮性フィルムにてシュリンク包装されていると共に、前記第N番目のガラス繊維束巻回体から前記第1番目のガラス繊維束巻回体に向かってガラス繊維束巻回体が一つ増える毎に複数のガラス繊維束巻回体が熱収縮性フィルムにて一体的にシュリンク包装されており、
第n(nは1以上N以下の整数)番目のガラス繊維束巻回体は、前記熱収縮性フィルムにてn回シュリンク包装されていることを特徴とするガラス繊維束包装体。
【請求項2】
前記ガラス繊維束の番手は、100tex〜8000texであることを特徴とする請求項1記載のガラス繊維束包装体。
【請求項3】
前記ガラス繊維束を構成するガラス繊維は、断面偏平形状を成していることを特徴とする請求項1又は2記載のガラス繊維束包装体。
【請求項4】
ガラス繊維束が筒状に巻回されて中空部が形成されたガラス繊維束巻回体がN個(Nは2以上の整数)同軸的に配置され、各ガラス繊維束巻回体の中空部側に位置する各ガラス繊維束の端部が、一端に配置されたガラス繊維束巻回体の中空部の開口に向かうように前記中空部を通って前記開口から外側に引き出されているガラス繊維束包装体の製造方法において、
前記各ガラス繊維束巻回体を、前記一端に配置される前記ガラス繊維束巻回体が第1番目となり他端に配置されるガラス繊維束巻回体が第N番目となる順に配置し、
前記第N番目のガラス繊維束巻回体を個別に熱収縮性フィルムにてシュリンク包装すると共に、前記第N番目のガラス繊維束巻回体から前記第1番目のガラス繊維束巻回体に向かってガラス繊維束巻回体が一つ増える毎に複数のガラス繊維束巻回体を熱収縮性フィルムにて一体的にシュリンク包装することで、第n(nは1以上N以下の整数)番目のガラス繊維束巻回体を、前記熱収縮性フィルムにてn回シュリンク包装することを特徴とするガラス繊維束包装体の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−195149(P2011−195149A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61186(P2010−61186)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】