説明

ガラス繊維物品及びガラス繊維強化プラスチック

【課題】水溶性保護コロイドの特性である優れた結束性を有しながら、ホワイトガラスの存在の少ない、透明性に優れ、高い強度を持ったFRPが得られるガラス繊維、及びこのガラス繊維を使用して製造されたガラス繊維強化プラスチックを提供する。
【解決手段】アルキレン変性ポリビニルアルコールを保護コロイドとして、酢酸ビニル単量体単独、又は酢酸ビニル単量体と、酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体の1種又は2種以上との単量体混合物を重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含むサイジング組成物でガラス繊維を処理してなるガラス繊維物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化プラスチックの製造に使用されるプラスチック樹脂を強化するために好適に用いられるガラス繊維物品及びこのガラス繊維物品を使用して製造されたガラス繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)は、強度、化学的安定性に優れているため、住宅用資材(浴槽、浄化槽)、ボート、自動車用部品等の広範囲の用途に多量に使用されている。上記FRPは、不飽和ポリエステル等のマトリックスとなる樹脂と、一定長さにカットされたガラス繊維束(チョップドストランド、以下CS)もしくはこれをマット状にしたCSマットとを用いて製造される。上記CSは一般にガラス繊維紡糸工程を経由し数百本のガラスフィラメントを束ね、ポリ酢酸ビニルエマルジョンを主剤とするサイジング剤により集束される。また、このCSからCSマットを製造する際のサイジング剤にも同様にポリ酢酸ビニルエマルジョンなど様々な組成物が検討されている。この際、プラスチックの補強剤としてガラス繊維の特性を生かし、機械的強度のみならず外観的にも優れたFRPを得るには、ガラス繊維の加工工程でガラス繊維を損傷させることなく、このガラス繊維をマトリックスとなる樹脂中に均一に分散させ、かつ樹脂成分と強固に結合させなければならないが、上記サイジング剤はマトリックスとなる樹脂のガラス繊維間への含浸性や、マトリックス樹脂とガラス繊維との密着性を妨げるために、得られるFRPの強度、透明性に悪影響を及ぼす。このガラス繊維とマトリックスとなる樹脂との間の相溶性又は不相溶性の一つの目安は、ホワイトガラスの存在である。“ホワイトガラス”とは、透明なFRP成形シートにおいてそれを黒色の背景上に置いた場合に、白色の繊維ガラスストランドが見え得ることを意味する。ホワイトガラスが見えるということは、サイジングされたガラス繊維と樹脂とが接触していないことを示している。この接触欠陥は、一般的にFRPの透明性低下、及び強度低下を招く。
【0003】
上記サイジング剤の主剤としてポリ酢酸ビニルエマルジョンを用いる場合、そのエマルジョン安定化剤として、従来から、例えば、ポリビニルアルコールのような高分子保護コロイドや、ポリオキシエチレンオキシド系界面活性剤が用いられている。これらの安定化剤がガラス繊維サイジング時、FRP成形時に及ぼす影響として、ポリビニルアルコール等の水溶性保護コロイドを用いた場合は、ガラスフィラメントに対して優れた結束性を示すことが知られている。しかしながら、上記水溶性保護コロイドを用いた場合、水溶性であるためにサイジング剤がFRPの構成成分である不飽和ポリエステルの溶剤であるスチレンに不溶となり、その結果、不飽和ポリエステル樹脂とガラス繊維束の細部まで浸透することができず、ホワイトガラスが存在することになる。また、上記ポリオキシエチレンオキシド系界面活性剤のような非イオン性界面活性剤を用いた場合は、ホワイトガラスの存在は少ないが、結束性が著しく低下するという問題があった。
【0004】
なお、プラスチックの補強剤として用いられるガラス繊維のサイジング剤としては、従来、下記のものが知られている。
【0005】
米国特許第3,997,306号明細書(特許文献1)では、フェノール性エポキシ樹脂、一つ又はそれ以上の未エステル化カルボキシル基を含むポリカルボン酸の部分エステルと二つ以上のエポキシ基を含む化合物との反応生成物、アミノシランカップリング剤、メタクリルオキシアルキルトリアルコキシシラン、及び非イオン性界面活性剤を含むガラス繊維サイジング剤を開示している。
【0006】
米国特許第4,126,729号明細書(特許文献2)では、エポキシ化ポリ酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニルエチレン共重合体及び酢酸ビニル共重合体を含むサイジング組成物をコーティングしたガラス繊維をチョップしたガンロービング製品を開示している。
【0007】
米国特許第4,457,970号明細書(特許文献3)は、改善された加工性を有する処理済ガラス繊維ストランドを開示している。この処理済ガラス繊維ストランドは、ガラス繊維ストランドを含んでなるガラス繊維の上に水性処理用配合物又はそれの乾燥残留物を有する。前記処理用配合物は、カップリング剤、エポキシ化熱可塑性重合体もしくは共重合体、未加水分解条件及び/又は部分加水分解条件で有機反応性のシランカップリング剤、又は前記エポキシ化重合体もしくは共重合体と有機反応性シランカップリング剤との相互作用生成物、及び繊維滑剤を含む。
【0008】
米国特許第4,789,593号明細書(特許文献4)では、極性熱可塑性成膜性ポリマー、カップリング剤及び潤滑剤を含む水性化学的処理用組成物で処理したガラス繊維を開示している。しかし、いずれもCSの結束が弱い、もしくはFRP透明性が不良であった。
【0009】
また、米国特許第5,491,182号明細書(特許文献5)、米国特許第5,665,470号明細書(特許文献6)では、様々なモノマーから製造したポリマー、特に平均分子量55,000未満のポリマーを含むサイジング組成物を開示している。
特開平8−291469号公報(特許文献7)では、非イオン性界面活性剤単独、もしくは非イオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤の存在下で、酢酸ビニルモノマーを主成分としたモノマーを乳化重合して得られるガラス繊維集束剤用エマルジョンを開示している。
特表2006−518815号公報(特許文献8)では、フェニル、ヒドロキシ又はアルコキシ化官能基を含むコポリマーを含むガラスサイジング組成物を開示しており、ポリマー性樹脂材料との優れた相溶性を有するとしている。
特許文献5〜8は、いずれもFRP透明性に言及しているものの、いずれもCSに十分な結束性が得られるものではなかった。
【0010】
更に、本発明者らは、特開2006−28722号公報(特許文献9)において、有機ポリマーエマルジョンとそれをゲル化させるゲル化剤とからなるガラス繊維結合剤を開示しているが、2液型という点で必ずしも作業効率が良好ではなく、FRP透明性について十分に検討がなされたものではなかった。
また、特開平6−80709号公報(特許文献10)では、エチレン変性ポリビニルアルコール及びそれを保護コロイドとして酢酸ビニルモノマー等を重合して得られる樹脂エマルジョンを開示している。しかしながら、この樹脂エマルジョンは、ガラス繊維を処理し、ガラス繊維強化プラスチックに使用するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第3,997,306号明細書
【特許文献2】米国特許第4,126,729号明細書
【特許文献3】米国特許第4,457,970号明細書
【特許文献4】米国特許第4,789,593号明細書
【特許文献5】米国特許第5,491,182号明細書
【特許文献6】米国特許第5,665,470号明細書
【特許文献7】特開平8−291469号公報
【特許文献8】特表2006−518815号公報
【特許文献9】特開2006−28722号公報
【特許文献10】特開平6−80709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、水溶性保護コロイドの特性である優れた結束性を有しながら、ホワイトガラスの存在の少ない、透明性に優れ、高い強度を持ったFRPが得られるガラス繊維物品、及びこのガラス繊維物品を使用して製造されたガラス繊維強化プラスチックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、アルキレン変性ポリビニルアルコール、好ましくは分子内に炭素数4以下のアルキレン単位を1〜10モル%含有する変性ポリビニルアルコールの存在下、酢酸ビニル単量体単独、又は酢酸ビニル単量体と、酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体の1種又は2種以上との単量体混合物を重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含むサイジング組成物で処理したガラス繊維が、優れた結束力を有し、得られたガラス繊維物品を使用して得られたガラス繊維強化プラスチックは、ホワイトガラスが発生することなく透明性に優れ、高い強度を有することを知見し、本発明をなすに至った。
【0014】
従って、本発明は、下記に示すガラス繊維物品及びガラス繊維強化プラスチックを提供する。
請求項1:
アルキレン変性ポリビニルアルコールを保護コロイドとして、酢酸ビニル単量体単独、又は酢酸ビニル単量体と、酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体の1種又は2種以上との単量体混合物を重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含むサイジング組成物でガラス繊維を処理してなるガラス繊維物品。
請求項2:
アルキレン変性ポリビニルアルコールが、ビニルエステルとオレフィンとの共重合体をケン化することによって得られたものである請求項1記載のガラス繊維物品。
請求項3:
オレフィンがエチレン、プロピレン又はブテンである請求項2記載のガラス繊維物品。
請求項4:
オレフィンがエチレンである請求項3記載のガラス繊維物品。
請求項5:
酢酸ビニル単量体単独、又は酢酸ビニル単量体と、酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体の1種又は2種以上との単量体混合物100質量部に対して、アルキレン変性ポリビニルアルコールを1〜50質量部使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のガラス繊維物品。
請求項6:
アルキレン変性ポリビニルアルコールが、分子内にアルキレン基を1〜10モル%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のガラス繊維物品。
請求項7:
アルキレン変性ポリビニルアルコールが、平均重合度300〜3,300、ケン化度が80モル%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のガラス繊維物品。
請求項8:
ガラス繊維物品がガラス繊維束である請求項1〜7のいずれか1項記載のガラス繊維物品。
請求項9:
ガラス繊維物品が、ガラス繊維製織布又は不織布である請求項1〜7のいずれか1項記載のガラス繊維物品。
請求項10:
ガラス繊維製不織布がガラス繊維製マットである請求項9記載のガラス繊維物品。
請求項11:
ガラス繊維製マットがチョップドストランドマット又はグラスウールマットである請求項10記載のガラス繊維物品。
請求項12:
ガラス繊維製織布がガラスクロスである請求項9記載のガラス繊維物品。
請求項13:
請求項1〜12のいずれか1項記載のガラス繊維を使用して製造されたガラス繊維強化プラスチック。
請求項14:
プラスチックが熱硬化性樹脂である請求項13記載のガラス繊維強化プラスチック。
請求項15:
熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂又はエポキシノボラック樹脂である請求項14記載のガラス繊維強化プラスチック。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた結束力を有するガラス繊維物品が得られ、該ガラス繊維物品を使用することにより、ホワイトガラスの存在の少ない、透明性に優れ、高い強度を有するFRPが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のガラス繊維物品は、ガラス繊維を、アルキレン変性ポリビニルアルコールを保護コロイドとして、酢酸ビニル単量体単独、又は酢酸ビニル単量体と、酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体の1種又は2種以上との単量体混合物(以下、これらをエチレン性不飽和基含有単量体と総称する)を重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含むガラス繊維サイジング組成物で処理されてなるものである。
【0017】
以下に、ガラス繊維サイジング組成物について詳細に説明する。
本発明に用いられるアルキレン変性ポリビニルアルコール(以下、変性PVA)は、ビニルエステルと、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィンとの共重合体をケン化することにより得ることができる。ビニルエステルとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられるが、酢酸ビニルが経済的に好ましい。
【0018】
上記変性PVAにおいて、分子内のアルキレン単位含有量としては、1〜10モル%であることが好ましく、より好ましくは5〜10モル%である。アルキレン単位含有量が1モル%未満であると、十分なFRPの透明性が得られない場合があり、10モル%を超えると、重合ができない場合がある。また、上記アルキレン単位は、炭素数4以下、特に炭素数2のエチレン単位であることが好ましい。
【0019】
また、変性PVAは、本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでもよい。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を、炭素数4以下のエチレン系単量体と共重合し、それをケン化することによって得られる末端変性物を用いることもできる。
【0020】
本発明に用いられる変性PVAのケン化度は、エチレン系単量体含有量にもよるが、80モル%以上が好ましく、95モル%以上が更に好ましい。また、該変性PVAの平均重合度は、300〜3,300が好ましく、300〜2,000がより好ましく、300〜1,000が更に好ましい。
なお、上記平均重合度は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算の数平均値として求めることができる(以下、同じ)。
【0021】
変性PVAの使用量は、後述するエチレン性不飽和基含有単量体100質量部に対して1〜50質量部が好ましく、5〜30質量部が更に好ましい。変性PVAの使用量が、1質量部未満では乳化重合時の安定性が低下する場合があり、50質量部を超える量では十分なFRP透明性が得られない場合がある。
【0022】
本発明に用いるエチレン性不飽和基含有単量体は、酢酸ビニル単量体単独、又は酢酸ビニル単量体と、酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体の1種又は2種以上との単量体混合物である。酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体としては、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、アルコキシカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
【0023】
ここで、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸類、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられ、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸である。
アルコキシカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体のアルコキシ基としては、炭素数1〜10、特に1〜4のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が例示できる。アルコキシカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、好ましくはアクリル酸エチル、アクリル酸ブチルである。
【0024】
上記エチレン性不飽和基含有単量体を単量体混合物として用いる場合、それらの混合割合は、酢酸ビニル単量体が50〜99.9質量%に対して、酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体が0.1〜50質量%であることが好ましい。酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体が50質量%を超えるとFRP透明性が低下するおそれがある。
【0025】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、官能基を有するエチレン性不飽和基含有単量体を混合することもできる。そのような例としては、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体類、N−メチロールアクリルアミド等のメチロール基含有単量体類、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアルコール性水酸基含有単量体類、メトキシエチルアクリレート等のアルコキシル基含有単量体類、アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体類、アクリルアミド等のアミド基含有単量体類、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有単量体類、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレート等の一分子中にエチレン性不飽和基を2個以上有する単量体類等が挙げられる。
【0026】
官能基を有するエチレン性不飽和基含有単量体を混合する場合、該単量体の配合量は、エチレン性不飽和基含有単量体全量のうち、10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
【0027】
上記エチレン性不飽和基含有単量体の重合には、公知のあらゆる乳化重合法を採用することができる。変性PVA、エチレン性不飽和基含有単量体及びその他の重合助剤(例えば、アルキル硫酸エステル塩等の乳化剤、過硫酸アンモニウム等の重合開始剤、メルカプタン類等の連鎖移動剤、炭酸ソーダ等のpH調整剤、各種消泡剤他)を初期に一括添加してもよいし、連続的に添加してもよいし、その一部を重合中に連続又は分割して添加してもよい。
【0028】
また、上記乳化重合には、本発明の効果を損なわない範囲で、下記(1)〜(5)の界面活性剤、水溶性高分子を使用することも可能である。
【0029】
(1)アニオン系界面活性剤、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルリン酸エステル塩等の界面活性剤。
【0030】
(2)ノニオン系界面活性剤、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、又はアセチレンアルコール、アセチレングリコール及びそれらのエチレンオキサイド付加物等の界面活性剤。
【0031】
(3)カチオン系界面活性剤、例えばアルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルアミン塩等の界面活性剤。
【0032】
(4)分子中にラジカル重合能を有する二重結合を持つ重合性界面活性剤、例えばアルキルアリルスルホコハク酸塩、メタアクリロイルポリオキシアルキレン硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩等の重合性界面活性剤。
【0033】
(5)水溶性高分子、例えば変性PVA以外のポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、澱粉等の水溶性繊維素誘導体、ポリアクリル酸及びその塩、ポリメタクリル酸及びその塩、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸エステルの部分ケン化物等の合成高分子電解質等の高分子。
【0034】
上記界面活性剤及び水溶性高分子を使用する場合の添加量は、上記エチレン性不飽和基含有単量体に対して、0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0035】
上記乳化重合に用いられる重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、2,2’−ジアミジノ−2,2’−アゾプロパンジ塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物が挙げられる。また、公知のレドックス系開始剤、例えば過硫酸カリウムと亜硫酸水素ナトリウム、過酸化水素と酒石酸等も挙げられる。
重合開始剤の使用量は、上記単量体に対して、通常は0.05〜5質量%、望ましくは0.1〜2質量%である。
【0036】
上記乳化重合を行う重合温度は、通常は10〜90℃、望ましくは50〜80℃である。重合時間は3〜20時間である。この重合は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気中で行うのが望ましい。
【0037】
上記重合により得られた合成樹脂エマルジョン中の固形分量は、25〜50質量%、特に30〜40質量%であることが好ましい。
また、上記重合により得られた合成樹脂エマルジョンの粘度は、繊維の種類により適宜調整すればよいが、50〜1,500mPa・s(25℃)、特に100〜1,000mPa・s(25℃)であることが好ましい。なお、粘度は、回転粘度計により測定することができる(以下、同じ)。
【0038】
本発明に用いられるガラス繊維サイジング組成物には、上記で得られた合成樹脂エマルジョンの他に、必要に応じて、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース系水溶性高分子、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸及びその塩、ポリメタクリル酸及びその塩、ポリアクリルアミド、アルカリ増粘型アクリルエマルジョン等の合成水溶性高分子、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化ナトリウム等の塩基類、ポリエチレンワックス、消泡剤、レベリング剤、粘着付与剤、防腐剤、抗菌剤、防錆剤、表面処理剤、潤滑剤、帯電防止剤等を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0039】
次に、ガラス繊維物品について説明する。
本発明のガラス繊維物品は、前述のようにして得られたガラス繊維サイジング組成物でガラス繊維を処理してなるものであり、上記ガラス繊維サイジング組成物で処理されてなるガラス繊維物品としては、ガラス繊維からなる不織布又は織布からなる物品で、具体的には、不織布からなる物品は、ガラス繊維束(CS)、これをマット状にしたCSマットやグラスウール等のガラス繊維製マット等が挙げられ、織布からなる物品は、ガラスクロス等が挙げられる。
【0040】
本発明のガラス繊維サイジング組成物は、特にガラス繊維製織布・不織布、具体的にはマット、特にCSマット、グラスウールマット等のガラス繊維製マットの製造に適している。
【0041】
ガラス繊維製織布・不織布、例えばCSマットとする場合、ガラス溶融炉の底部に取り付けられた多数のノズルからガラスフィラメントを紡出し、直後に酢酸ビニル樹脂系エマルジョン等を主剤とするサイジング剤を付与して集束し、ストランドとした後、巻き取ってケーキを形成する。次に、このケーキを乾燥し、そこから複数本のストランドを引き出し、所定の長さに切断する(これがCSである)。その後、これらの切断物を移動するネットコンベア上に均等に堆積し、本発明のガラス繊維サイジング組成物を塗布し、乾燥することにより所定密度のCSマットを作製する。
【0042】
ガラス繊維サイジング組成物を塗布する場合、公知の塗布機、例えばスプレー、カーテンコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター等を使用できる。また、塗布する際、本発明のガラス繊維サイジング組成物をそのまま使用してもよいし、水等で適宜希釈して使用してもよい。ガラス繊維サイジング組成物は、通常は、固形分が1〜10質量%となるように希釈して使用する。希釈溶媒は、環境に配慮できるイオン交換水が好ましい。
【0043】
ガラス繊維サイジング組成物の塗布量は、ストランド切断物(ガラス繊維堆積物)に対して、通常固形分換算で、0.5〜20質量%、望ましくは1〜10質量%である。塗布量が0.5質量%未満の場合、ガラス繊維製織布・不織布のガラス繊維間の結合力が不足するおそれがあるし、20質量%を超える場合、FRP作製時の熱硬化性樹脂の含浸性が低下するおそれがある。
塗布後の乾燥条件は、100〜180℃の温度で乾燥することが望ましい。
【0044】
また、本発明のガラス繊維サイジング組成物は、上述したCSのガラスフィラメントを集束するサイジング剤としても利用できる。
この場合、ガラス繊維サイジング組成物は、表面処理剤、潤滑剤、帯電防止剤等を配合したものが好適に使用できる。表面処理剤、潤滑剤、帯電防止剤の配合量は、該ガラス繊維サイジング組成物中にそれぞれ0.01〜1質量%配合することが好ましい。
CSのサイジング剤として使用する場合、ガラス繊維サイジング組成物の付与方法及び付与量は、上述したCSマット作製時のガラス繊維サイジング組成物の塗布方法及び塗布量等と同様である。付与後の乾燥条件は、100〜180℃の温度で乾燥することが望ましい。
【0045】
更に、本発明のガラス繊維サイジング組成物は、ガラスクロス等の織物の目止め剤としても使用できる。
この場合の使用方法は、ガラス繊維サイジング組成物の固形分を1〜10質量%に調整したサイジング剤希釈液にガラスクロスをディッピング処理し、100〜180℃で乾燥する。
【0046】
本発明においては、上述したCSマットに、熱硬化性樹脂を含浸させて該熱硬化性樹脂を硬化させることによりガラス繊維強化プラスチック(FRP)を作製することができる。ここで、熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂などが挙げられる。
熱硬化性樹脂の塗布方法としては、切断したCSマットを平坦なパネル上に置き、熱硬化性樹脂をCSマット上に注ぐ方法を採用し得る。この時の熱硬化性樹脂の使用量は、FRP全質量の10〜50質量%、好ましくは20〜40質量%である。塗布後、10〜100℃、10分〜10時間の条件で硬化させることにより得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明する。なお、実施例中の部及び%は、質量部及び質量%を示す。
【0048】
[実施例1]
(エマルジョンの作製)
撹拌機、還流冷却器、温度計を取り付けた3Lガラス製容器を用意し、このガラス製容器にイオン交換水173部、エチレン変性PVA(A)(エチレン含有率7%、ケン化度98.5%、平均重合度400)20部を入れ、窒素で空気置換を十分行った後、撹拌を開始した。
ガラス製容器の内温を80℃まで上昇させ、酢酸ビニルモノマー100部及び10%過酸化水素水1部と10%酒石酸水溶液1.5部を、それぞれ4時間連続追加した。その後、80℃で1時間反応させ、30℃まで冷却した。
蒸発残分(固形分)35.0%、粘度100mPa・sの酢酸ビニル系重合体エマルジョンが得られた。なお、蒸発残分と粘度の測定方法は、以下に示すとおりである。
【0049】
<蒸発残分>
試料約1gをアルミニウム箔製の皿に正確に量り取り、約105℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、試料の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分(固形分)を算出した。
【数1】

R:蒸発残分(%)
W:乾燥前の試料を入れたアルミニウム箔皿の質量(g)
L:アルミニウム箔皿の質量(g)
T:乾燥後の試料を入れたアルミニウム箔皿の質量(g)
アルミニウム箔皿の寸法:70φ×12h(mm)
【0050】
<粘度>
試料液温を25±1.0℃に保持し、BH型粘度計(20rpm)にて測定した。
【0051】
(CSマットの作製)
ユニチカグラスファイバー(株)製のチョップドストランドUPDE13ZA509(ガラス繊維の太さ:6μm、ガラス繊維の長さ:13mm)を、移動するコンベア上に落下・堆積させて目付量450g/m2のマット状物とし、この上から前記重合体エマルジョンを固形分4%となるようにイオン交換水で希釈したものをスプレー塗布した。マット状物への重合体付着量は、マット状物質量の4%に設定した。次いで、150℃の乾燥炉で10分間乾燥して、CSマットを得た。
得られたCSマットの引張強度を下記方法により測定した。結果を表1に示す。
【0052】
<引張強度>
上記で得られたCSマットを、縦150mm、横50mmの大きさに裁断し、引張強度測定用試料とした。テンシロン型引張試験機を用いて、引張速度5mm/分の速度で上記試料の縦方向の強度を測定した。
【0053】
(FRPの作製)
上記で得られたCSマットを、縦150mm、横50mmの大きさに裁断して平坦なパネル上に置き、リゴラック158BQT−2(昭和高分子(株)製、不飽和ポリエステル)100部とパーメックN(日油(株)製、メチルエチルケトンパーオキサイド)1部の混合物を上記CSマット上に注ぎ、塗り込み用ローラーで均一にし、25℃で60分間硬化させ、FRPを得た。
得られたFRPは、熱硬化性樹脂をFRP全質量に対して28%使用してなるものであった。このFRPの特性を下記方法により評価した。結果を表1に示す。
【0054】
<透明性>
上記で得られたFRPのホワイトガラスの存在を目視で確認し、下記基準で評価した。
○:ガラス繊維が見える
×:ガラス繊維が見えない
【0055】
<促進試験>
FRP特性として、上記で得られたFRPを90℃の温水中で500時間煮沸促進試験し、試験後の外観を目視で確認し、下記基準で評価した。
○:クラックの発生や樹脂の劣化が見られない
×:ガラス繊維に沿ったクラックの発生が見られる
【0056】
[実施例2〜9、比較例1〜4]
表1に示す組成で実施例1と同様に乳化重合を行って、各種エマルジョンを得、その後、実施例1と同様にCSマット及びFRPを作製し、これらの性能を評価した。
【0057】
【表1】

【0058】
変性PVA(A):エチレン含有率7%、ケン化度98.5%、平均重合度400
変性PVA(B):エチレン含有率5%、ケン化度98.5%、平均重合度400
変性PVA(C):エチレン含有率9%、ケン化度98.5%、平均重合度400
変性PVA(D):エチレン含有率7%、ケン化度95.0%、平均重合度300
PVA(E) :エチレン含有率0%、ケン化度80.0%、平均重合度300
PVA(F) :エチレン含有率0%、ケン化度98.5%、平均重合度500
エマルゲン1135S−70:花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレン変性ポリビニルアルコールを保護コロイドとして、酢酸ビニル単量体単独、又は酢酸ビニル単量体と、酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体の1種又は2種以上との単量体混合物を重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含むサイジング組成物でガラス繊維を処理してなるガラス繊維物品。
【請求項2】
アルキレン変性ポリビニルアルコールが、ビニルエステルとオレフィンとの共重合体をケン化することによって得られたものである請求項1記載のガラス繊維物品。
【請求項3】
オレフィンがエチレン、プロピレン又はブテンである請求項2記載のガラス繊維物品。
【請求項4】
オレフィンがエチレンである請求項3記載のガラス繊維物品。
【請求項5】
酢酸ビニル単量体単独、又は酢酸ビニル単量体と、酢酸ビニルと共重合可能な不飽和基含有単量体の1種又は2種以上との単量体混合物100質量部に対して、アルキレン変性ポリビニルアルコールを1〜50質量部使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のガラス繊維物品。
【請求項6】
アルキレン変性ポリビニルアルコールが、分子内にアルキレン基を1〜10モル%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のガラス繊維物品。
【請求項7】
アルキレン変性ポリビニルアルコールが、平均重合度300〜3,300、ケン化度が80モル%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のガラス繊維物品。
【請求項8】
ガラス繊維物品がガラス繊維束である請求項1〜7のいずれか1項記載のガラス繊維物品。
【請求項9】
ガラス繊維物品が、ガラス繊維製織布又は不織布である請求項1〜7のいずれか1項記載のガラス繊維物品。
【請求項10】
ガラス繊維製不織布がガラス繊維製マットである請求項9記載のガラス繊維物品。
【請求項11】
ガラス繊維製マットがチョップドストランドマット又はグラスウールマットである請求項10記載のガラス繊維物品。
【請求項12】
ガラス繊維製織布がガラスクロスである請求項9記載のガラス繊維物品。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項記載のガラス繊維を使用して製造されたガラス繊維強化プラスチック。
【請求項14】
プラスチックが熱硬化性樹脂である請求項13記載のガラス繊維強化プラスチック。
【請求項15】
熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂又はエポキシノボラック樹脂である請求項14記載のガラス繊維強化プラスチック。

【公開番号】特開2012−21255(P2012−21255A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129995(P2011−129995)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000226666)日信化学工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】