説明

ガラス繊維織物及び照明装置

【課題】光源から発せられた熱を逃がして光源の寿命を延ばす。
【解決手段】光源2の下方に配置される照明カバー4を、フレーム枠7に通気性を有するガラス繊維織物8を張設したものとする。このガラス繊維織物8は、番手が75〜170texの開繊処理を施していないガラス繊維の経糸9及び緯糸10を1組3本の模紗織で織成したガラス繊維原反をフッ素樹脂で目止めした目抜き構造の織物で、織密度が経糸9及び緯糸10ともに20〜40本/25mm、原反重量が300〜420g/m、目止め樹脂の割合がガラス繊維原反全体の15〜35重量%、空隙率が5〜38%、である。これにより、眩光抑制機能を保持しつつ必要な透光率が得られるとともに、光源2から発せられた熱がガラス繊維織物8から逃がされるため、熱による蛍光管の安定器の劣化が抑制され、光源2の長寿命化が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光源の下方に配置される照明カバーのガラス繊維織物及びこのガラス繊維織物を用いた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ギャラリーやエントランスなどでは、天井面に取り付けた多数の蛍光管が視認されない柔らかい面照明が望まれており、特に近年では、天井面の広範囲に亘って全面一体型照明として機能する照明装置が求められている。この要求に対し、特許文献1では、ガラス繊維織物の一方面側に樹脂シートが形成された透光性の光拡散用ガラス繊維シートを矩形状の金属製フレーム枠に張って照明カバーとした照明装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4359967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された照明装置では、光拡散ガラス繊維シートがガラス繊維織物に樹脂シートが形成されているため、照明カバーと天井との間に密閉空間が形成され、この密閉空間において光源が発する熱がこもり、蛍光管の安定器が早期に劣化するなどして光源の寿命が短くなるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、光源から発せられた熱を逃がして光源の寿命を延ばすことができるガラス繊維織物及び照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るガラス繊維織物は、光源の下方に配置される支持枠に取り付けられる照明カバーのガラス繊維織物であって、ガラス繊維束を模紗織で織成したガラス繊維原反を樹脂で目止めしてなり、空隙率が5%以上かつ38%以下、ガラス繊維原反の重量が300g/m以上かつ420g/m以下、ガラス繊維束の番手が75tex以上かつ170tex以下、ガラス繊維原反を目止めする樹脂の割合がガラス繊維原反全体に対して15重量%以上かつ35重量%以下、であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るガラス繊維織物によれば、ガラス繊維束を模紗織で織成すことでガラス繊維原反が通気性を有する目抜き構造となり、ガラス繊維織物の空隙率を5%以上かつ38%以下とすることで、眩光防止機能を保持しつつ光源から発せられた熱をガラス繊維織物から適切に逃がすことができる。これにより、蛍光管の安定器などの劣化が抑制され、光源の寿命を延ばすことができる。このとき、ガラス繊維原反の重量を上記の範囲とすることで、ガラス繊維織物の空隙率を5%以上かつ38%以下とすることができ、目止めする樹脂の割合を上記の範囲とすることで、ガラス繊維原反の目止めを確実に行いつつガラス繊維織物の空隙率を5%以上かつ38%以下とすることができる。
【0008】
ところで、従来のガラス繊維を用いた照明カバーは、ガラス繊維が束ねられたガラス繊維束を用いるのではなく、開繊処理を施すことにより厚さを薄くしたガラス繊維を用いることで、照明カバーとして必要な透光率を得ていた。これに対し、本発明では、番手が75tex以上かつ170tex以下の開繊処理が施されていないガラス繊維束を模紗織に織成すことで、目抜き部分からは光が通過するが、ガラス繊維束の部分からは殆ど光が通過しないため、通気性を確保するだけでなく、眩光抑制機能を保持しつつ必要な透光率が得られる照明カバーを得ることができる。
【0009】
この場合、ガラス繊維束の経糸及び緯糸を1組3本以上で織成し、織密度が経糸及び緯糸ともに20本/25mm以上かつ40本/25mm以下、であることが好ましい。
【0010】
本発明では、光源から発せられた熱がガラス繊維織物の織目の隙間から逃げることで経糸及び緯糸のガラス繊維束は常に熱風に晒されてしまうため、通常の平織では、その熱風でガラス繊維束が散けるとともに、経方向又は緯方向からの引張力によって目ズレが生じ、照明カバーとしての美観が損なわれる。そこで、経糸及び緯糸を1組3本以上の模紗織で織成し、経糸と緯糸の織密度を20本/25mm以上かつ40本/25mm以下の範囲で同一にすることで、経糸同士及び緯糸同士が互いに均等な力で拘束し合うため、熱風に晒されてもガラス繊維束が散けるのを防止できるとともに、経方向又は緯方向からの引張力によっても目ズレが抑制され、照明カバーとしての美観を長期的に維持することができる。
【0011】
本発明に係る照明装置は、上記何れかのガラス繊維織物が支持枠に取り付けられた照明カバーを有することを特徴とする。このように構成することで、上述したように、眩光防止機能を保持しつつ光源から発せられた熱を照明カバーのガラス繊維織物から逃がすことができるため、蛍光管の安定器などの劣化が抑制され、光源の寿命を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光源から発せられた熱を逃がして光源の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る照明装置を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す照明装置の断面図である。
【図3】ガラス繊維織物の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るガラス繊維織物及び照明装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、全図中、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る照明装置を示す概略斜視図である。図1に示すように、本実施形態に係る照明装置1は、ギャラリーやエントランス等の広い天井面に複数個配列されて全面一体型照明として機能するものである。
【0016】
図2は、図1に示す照明装置の断面図である。図2に示すように、照明装置1は、天井面などに脱着可能に複数本配列された蛍光管などの光源2と、建物躯体に吊り下げられた吊下ボルト3に固定されて光源2の下方に配置された照明カバー4と、を備える。
【0017】
照明カバー4は、吊下ボルト3に固定された開口を有する矩形の固定枠5と、ラッチ機構6により固定枠5の下方側に開閉可能に取り付けられた開口を有する矩形のフレーム枠7と、フレーム枠7に張設されて光源2から出射された光を拡散するガラス繊維織物8と、を備える。なお、固定枠5とフレーム枠7とは、略同じ形状に形成されて、例えば亜鉛メッキ鋼板やアルミ等の一般的な金属材が用いられる。
【0018】
図3は、ガラス繊維織物の平面図である。図3に示すように、ガラス繊維織物8は、ガラス繊維束で構成される経糸9と緯糸10とを開繊処理を施すことなく模紗織に織成した目抜き構造のガラス繊維原反を樹脂で目止めした織物であり、従来の光拡散用ガラス繊維シートのようにガラス繊維織物の一方面側に樹脂シートが形成されていない。なお、以下の説明において、原反は、フッ素樹脂で目止めされていないガラス繊維原反を示し、製品は、ガラス繊維原反がフッ素樹脂で目止めされたガラス繊維織物8を示す。
【0019】
ガラス繊維織物8の全光線透過量は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることが更に好ましい。全光線透過率は、40%より小さいとガラス繊維織物8の発光光量が小さくなり全面一体型照明として機能が不十分となる。
【0020】
ガラス繊維織物8を構成するガラス繊維原反の織構造は、経糸9及び緯糸10を1組3本とした模紗織であり、経糸9を3本毎に離間するとともに緯糸10を3本ごとに離間して織成した目抜き構造である。
【0021】
ガラス繊維原反を構成する経糸9と緯糸10との目止めに用いる樹脂は、防炎性を有する樹脂であれば如何なる樹脂であってもよいが、防炎性及び防汚性の観点からは、フッ素樹脂やシリコン樹脂が好ましい。ガラス繊維原反の目止めは、例えば、経糸9及び緯糸10のガラス繊維束に樹脂を含浸させることで行ってもよく、経糸9及び緯糸10のガラス繊維束の表面に樹脂を覆うことで行ってもよい。
【0022】
ガラス繊維原反を樹脂で目止めしたガラス繊維織物8の空隙率は、光源2から発せられる熱を適切に逃がすために、5%以上かつ38%以下であることが好ましく、10%以上かつ30%以下であることが更に好ましく、15%以上かつ25%以下であることが特に好ましい。空隙率は、5%より小さいと通気性が悪くなり十分に照明装置1内の熱を逃がすことができなくなり、38%より大きいと室内から照明装置1の内部が見えすぎてしまい光源2の眩光防止機能を発揮することができなくなる。
【0023】
ガラス繊維原反の目止めを行うフッ素樹脂の割合は、ガラス繊維原反全体に対して15重量%以上かつ35重量%以下であることが好ましく、25重量%以上かつ30重量%以下であることが更に好ましい。このフッ素樹脂の割合は、15重量%より小さいと十分な目止めが行えなくなり、35重量%より大きいとフッ素樹脂がガラス繊維原反の目抜き部分(間隙)を埋めてしまい5%以上の空隙率を確保することが困難になる。
【0024】
ガラス繊維織物8の通気度は、光源2から発せられる熱を適切に逃がすために、30cm/cm/Sec以上かつ240cm/cm/Sec以下であることが好ましく、60cm/cm/Sec以上かつ220cm/cm/Sec以下であることが更に好ましく、70cm/cm/Sec以上かつ200cm/cm/Sec以下であることが特に好ましい。通気度は、30cm/cm/Secより小さいと通気性が悪くなり十分に照明装置1内の熱を逃がすことができなくなり、240cm/cm/Secより大きいと室内から照明装置1の内部が見えてしまい光源2の眩光防止機能を発揮することができなくなる。
【0025】
1m当たりの原反重量は、300g/m以上かつ420g/m以下であることが好ましく、310g/m以上かつ400g/m以下であることが更に好ましく、320g/m以上かつ380g/m以下であることが特に好ましい。また、1m当たりの製品重量は、400g/m以上かつ550g/m以下であることが好ましく、405g/m以上かつ545g/m以下であることが更に好ましい。
【0026】
ガラス繊維織物8の厚さは、0.35mm以上かつ0.80mm以下であることが好ましく、0.40mm以上かつ0.75mm以下であることが更に好ましく、0.50mm以上かつ0.70mm以下であることが特に好ましい。
【0027】
経糸9と緯糸10の織密度は、経糸9及び緯糸10ともに、20本/25mm以上かつ40本/25mmであることが好ましく、25本/25mm以上かつ35本/25mmであることが更に好ましい。また、経糸9と緯糸10の織密度は同じであることが好ましい。経糸9と緯糸10の織密度が異なると、室内側から見たときに、見る角度によっては眩光が感じられ、また、目ずれを起こして変形しやすくなる。
【0028】
経糸9及び緯糸10を構成するガラス繊維束の番手は、上記の各条件によって適宜設定されるが、75tex以上かつ170tex以下であることが好ましく、85tex以上かつ160tex以下であることが更に好ましく、90tex以上かつ150tex以下であることが特に好ましい。
【0029】
ガラス繊維束に含まれるフィラメント(ガラス繊維)の直径は、3〜20μmが好ましい。このフィラメント(ガラス繊維)の組成としては、汎用の無アルカリガラス繊維(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス繊維、高強度・高弾性率ガラス繊維(Sガラス、Tガラス)、耐アルカリ性ガラス繊維(ARガラス)などが挙げられる。
【0030】
このように、ガラス繊維束の番手を上記の範囲とし、開繊処理を施さずにフィラメント(ガラス繊維)を束ねた状態で経糸9と緯糸10とを模紗織に織成すことで、ガラス繊維織物の厚さが0.35mm〜0.80mm程度と照明カバーに用いられるものとしては厚手になる。しかしながら、このガラス繊維織物8は、ガラス繊維束の部分からは殆ど光が通過せず、目抜き部分からは光が通過するため、照明カバーに好適である。
【0031】
そして、照明カバー4は、光源2の反対側からガラス繊維織物8がフレーム枠7の外側面に巻き込まれることにより、ガラス繊維織物8がフレーム枠7における光源2と反対側の開口に張設されている。
【0032】
このように、本実施形態に係る照明装置1によれば、ガラス繊維束を模紗織で織成すことでガラス繊維原反が通気性を有する目抜き構造となり、ガラス繊維織物8の空隙率を5%以上かつ38%以下とすることで、眩光防止機能を保持しつつ光源から発せられた熱をガラス繊維織物から適切に逃がすことができる。これにより、蛍光管の安定器などの劣化が抑制され、光源2の寿命を延ばすことができる。このとき、ガラス繊維原反の重量を上記の範囲とすることで、ガラス繊維織物8の空隙率を5%以上かつ38%以下とすることができ、目止めする樹脂の割合を上記の範囲とすることで、ガラス繊維原反の目止めを確実に行いつつガラス繊維織物8の空隙率を5%以上かつ38%以下とすることができる。
【0033】
更に、番手が75tex以上かつ170tex以下の開繊処理が施されていないガラス繊維束を模紗織に織成すことで、目抜き部分からは光が通過するが、ガラス繊維束の部分からは殆ど光が通過しないため、通気性を確保するだけでなく、眩光抑制機能を保持しつつ必要な透光率が得られる照明カバー4を得ることができる。
【0034】
更に、経糸9及び緯糸10を1組3本の模紗織で織成し、経糸9と緯糸10の織密度を20本/25mm以上かつ40本/25mm以下の範囲で同一にすることで、経糸同士及び緯糸同士が互いに均等な力で拘束し合うため、光源2から発せられた熱による熱風に晒されても経糸9及び緯糸10のガラス繊維束が散けるのを防止できるとともに、経方向又は緯方向からの引張力によっても目ズレが抑制され、照明カバーとしての美観を長期的に維持することができる。
【0035】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態において、照明カバーのフレーム枠は、固定枠に着脱可能に取り付けられるものとして説明したが、光源の下方に配置されれば如何なる手段により取り付けられてもよく、例えば、建物躯体に吊り下げられた吊下ボルトに直接固定されてもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、製造容易性の観点からガラス繊維原反を1組3本の模紗織として説明したが、1組3本以上の模紗織であれば1組が何本であってもよい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例として、開口を有する矩形のフレーム枠に下記条件のガラス繊維織物を張設した照明カバーを製作した。このガラス繊維織物は、ガラス繊維束の経糸と緯糸とを1組3本の模紗織で織成したガラス繊維原反をフッ素樹脂で目止めしたものであり、ガラス繊維束の番手が137.5tex、経糸及び緯糸の織密度がともに32.5本/25mm、原反重量が350g/m、樹脂比率がガラス繊維原反全体に対して27.8%、空隙率が17%、通気度が180cm/cm/Secである。そして、照明装置内における熱のこもり状況を観察した。
【0039】
比較例として、開口を有する矩形のフレーム枠に従来の光拡散用ガラス繊維シート(日東紡績株式会社製のライトシェードに用いられている光拡散用ガラス繊維シートW1800G−213)を張設した照明カバーを製作した。この光拡散用ガラス繊維シートは、ガラス繊維束の経糸と緯糸とを平織で織成したガラス繊維原反をフッ素樹脂で目止めし、更に目止めしたガラス繊維原反の一方面側にフッ素樹脂の樹脂シートを形成したものであり、ガラス繊維束の番手が68.7tex、経糸の織密度が44本/25mm、緯糸の織密度が33本/25mm、原反重量が215g/m、樹脂比率がガラス繊維原反全体に対して41.9%、空隙率が0.9%、通気度が0.9cm/cm/Secである。そして、照明装置内における熱のこもり状況を観察した。
【0040】
観察の結果、比較例は、照明装置内に熱がこもってしまったのに対し、実施例は、照明装置内に熱がこもらず、適切に照明装置1が換気されて熱がこもらなかったことが確認され、更に、光源からの光がぎらつく眩光も感じられなかった。
【符号の説明】
【0041】
1…照明装置、2…光源、3…吊下ボルト、4…照明カバー、5…固定枠、6…ラッチ機構、7…フレーム枠(支持枠)、8…ガラス繊維織物、9…経糸、10…緯糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源の下方に配置される支持枠に取り付けられる照明カバーのガラス繊維織物であって、
ガラス繊維束を模紗織で織成したガラス繊維原反を樹脂で目止めしてなり、
空隙率が5%以上かつ38%以下、
前記ガラス繊維原反の重量が300g/m以上かつ420g/m以下、
前記ガラス繊維束の番手が75tex以上かつ170tex以下、
前記ガラス繊維原反を目止めする樹脂の割合が前記ガラス繊維原反全体に対して15重量%以上かつ35重量%以下、
であることを特徴とするガラス繊維織物。
【請求項2】
前記ガラス繊維束の経糸及び緯糸を1組3本以上で織成し、
織密度が経糸及び緯糸ともに20本/25mm以上かつ40本/25mm以下、
であることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維織物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガラス繊維織物が支持枠に取り付けられた照明カバーを有することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−144830(P2012−144830A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6194(P2011−6194)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】