説明

ガラス繊維被覆用塗布液およびそれを用いたゴム補強用ガラス繊維。

【課題】クロロプレンゴムを母材とし補強のためのゴム補強用ガラス繊維を埋設してなる伝動ベルト、コンベアベルトに耐熱性、耐水性等の耐久性をバランスよく与え、加えて、クロロプレンゴムとの接着力に優れる被覆層を与えるガラス繊維被覆用塗布液およびそれを用いたゴム補強用ガラス繊維を提供する。
【解決手段】クロロプレンゴム2を母材とする伝動ベルトに埋設するゴム補強用ガラス繊維3であって、複数本のガラス繊維フィラメントを集束させたストランドに、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有する被覆層を設けてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトまたはコンベアベルトを作製する際に、母材であるゴムに芯線として埋設し補強を行うためのゴム補強用ガラス繊維に関する。
【0002】
具体的には、ガラス繊維フィラメントを撚り合わせて集束材にて集束させてなるストランドに被覆層を設けゴム補強用ガラス繊維を得る際、被覆層を設けるためのガラス繊維被覆用塗布液およびそれを用いたゴム補強用ガラス繊維、該ゴム補強用ガラス繊維を補強のために芯線として埋め込んだゴム製の伝動ベルトまたはコンベアベルトに関する。
【0003】
特に、母材にクロロプレンゴムを用いた伝動ベルトまたはコンベアベルトに埋設し補強を行うためのゴム補強用ガラス繊維に被覆層を設けるためのガラス繊維被覆用塗布液およびそれを用いたゴム補強用ガラス繊維、該ゴム補強用ガラス繊維を補強のために芯線として埋め込んだゴム製の伝動ベルトまたはコンベアベルトに関する。
【背景技術】
【0004】
伝動ベルト、タイヤ等のゴム製品に引っ張り強さおよび寸法安定性を与えるために、ガラス繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維およびポリエステル繊維等の引っ張り強度の高い繊維からなるコードであるゴム補強用繊維を母材であるゴムに補強材として埋設することは一般的に行われ、母材ゴムに埋設するゴム補強用繊維には、母材ゴムとの界面が強固で剥離しないことが必要とされる。しかしながら、多数本のガラス繊維フィラメントにシランカップリング剤および樹脂等を含有する集束剤を散布し集束させたガラス繊維コード、言い換えれば、ストランドをそのまま母材であるゴムに埋め込んでも、界面が剥離してしまい補強材としての用をなさない。そのため、伝動ベルトを製造する際に母材ゴムに埋設して使用するゴム補強用ガラス繊維には、母材ゴムと接着するために、ガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布被覆した被覆層を設ける。
【0005】
例えば、自動車のタイヤコードとしてのナイロンコード等の被覆材には、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物およびラテックスからなる被覆用塗布液が用いられてきた。レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物は反応性に富み、優れた接着力をもたらし、総需要の半分以上がタイヤコードの接着剤の原料である。通常、ラテックスには、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体が用いられる。
【0006】
しかしながら、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体のみを含有する被覆用塗布液からなる被覆層は乾燥させても高い粘着性を有し、ゴム補強用繊維の品質が安定しなく、ゴム補強用繊維に被覆する際の作業性に劣る。そこで、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等のラテックスが、被覆層の成分に加えられてきた。
【0007】
例えば、特許文献1には、ガラス繊維よりなる芯線上にレゾルシンホルムアルデヒドの水溶性縮合物、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスおよびアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスを含む層を形成させたゴムの補強用繊維が開示されている。
【0008】
また、伝動ベルトとした際の耐水性の向上を目的として、本出願人の特許出願に係る特許文献2には、ガラス繊維コードに被覆するための、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体とクロロスルホン化ポリエチレンとを水に分散させエマルジョンとしたガラス繊維被覆用塗布液が開示されている。当該ガラス繊維被覆用塗布液は、特に母材を水素化ニトリルゴムとするタイミングベルトに埋設するゴム補強用ガラス繊維に使用するに適し、1次被覆層を、当該ガラス繊維被覆用塗布液を用いて設け、接着性向上および耐久性向上のために2次被覆層に有機ジイソシアネート化合物、ビスアリルナジイミド系化合物、マレイミド系化合物またはトリアジン系化合物等を用いる。
【0009】
通常の産業用伝動ベルトには、耐候性、耐オゾン性、耐熱老化性、耐薬品性等の耐久性能に優れ、耐油性を有し且つ難燃性で性能バランスがとれ使いやすいことより、クロロプレンゴムを成分とするゴム(本発明においては単にクロロプレンゴムと記す)が伝動ベルト、コンベアベルトの母材として広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−103634号公報
【特許文献2】特開2006−104595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のように、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物は反応性に富み、優れた接着力を有する。しかしながら、母材を水素化ニトリルゴムとしたタイミングベルトにおいては、芳香環の水素をヒドロキシ基に2個置換したレゾルシンをホルムアルデヒドと反応させたレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物より、芳香環の水素をヒドロキシ基に1個置換したモノヒドロキシベンゼンをホルムアルデヒドと反応させたモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物を含有させた被覆層を有するゴム補強用ガラス繊維を用いる方が、タイミングベルトとした際に耐熱性、耐水性に優れる。
【0012】
耐水性に優れることは、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物より、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物が疎水性であることによる。
【0013】
耐熱性、耐水性の向上を目的として、ガラス繊維フィラメントに集束材を塗布し集束させてなるストランドに、特許文献2に記載のガラス繊維被覆塗布液を塗布後乾燥させて、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体とクロロスルホン化ポリエチレンを含有させた被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維を、クロロプレンゴムを母材とする伝動ベルトまたはコンベアベルトに埋設しようとしたところ、ゴム補強用ガラス繊維とクロロプレンゴムの接着力が弱く実用化できないレベルであった。
【0014】
本発明は、クロロプレンゴムを母材とし補強のためのゴム補強用ガラス繊維を埋設してなる伝動ベルト、コンベアベルトに耐熱性、耐水性等の耐久性をバランスよく与え、クロロプレンゴムとの接着力に優れる被覆層を与えるガラス繊維被覆用塗布液およびそれを用いたゴム補強用ガラス繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の問題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、複数本、具体的には多数本のガラス繊維フィラメントにシランカップリング剤および樹脂等を含有する集束剤を塗布した後に集束させたストランドに、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有するガラス繊維被覆用塗布液を塗布被覆してなる被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維が、母材であるクロロプレンゴムと優れた接着性を有することがわかった。
【0016】
ガラス繊維被覆用塗布液にモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を含有させゴム補強用ガラス繊維の被覆層とすることで、ゴム補強用ガラス繊維を埋設してなる、クロロプレンゴムを母材の伝動ベルト、コンベアベルトの耐熱性、耐水性が向上する。
【0017】
ガラス繊維被覆用塗布液にビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)を含有させゴム補強用ガラス繊維の被覆層とすることで、ゴム補強用ガラス繊維を埋設してなる伝動ベルト、コンベアベルトの機械的耐久性が保たれる。
【0018】
ガラス繊維被覆用塗布液にスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有させゴム補強用ガラス繊維の被覆層とすることで、被覆層の粘着性が低下し被覆が容易となる。
【0019】
即ち、本発明は、クロロプレンゴムを母材とする伝動ベルトに埋設するゴム補強用ガラス繊維に被覆層を設けるためのガラス繊維被覆用塗布液であって、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有することを特徴とするガラス繊維被覆用塗布液である。
【0020】
また、本発明のガラス繊維覆用塗布液において、含有物であるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)との組成比を調整することで、ゴム補強用ガラス繊維と母材であるクロロプレンゴムに好ましい接着力を得、耐熱性および耐水性をバランスよく合わせ持たせることが可能となった。
【0021】
さらに、本発明は、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)とを合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、被覆層にモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を、A/(A+B+C)=3%以上、30%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせて、(B+C)/(A+B+C)=70%以上、97%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、C/(B+C)=5%以上、70%以下の範囲で含有することを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
【0022】
このように、複数本、具体的には多数本のガラス繊維フィラメントにシランカップリング剤および樹脂等を含有する集束剤を塗布した後に集束させたストランドに、本発明のガラス繊維被覆用塗布液を塗布被覆して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有する被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維がクロロプレンゴムと優れた接着性を有することがわかった。
【0023】
ゴム補強用ガラス繊維の被覆層にモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を含有させることで、ゴム補強用ガラス繊維を埋設してなる伝動ベルト、コンベアベルトの耐熱性および耐水性が向上する。ゴム補強用ガラス繊維の被覆層にビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)を含有させることで、ゴム補強用ガラス繊維を埋設してなる伝動ベルト、コンベアベルトの機械的耐久性が保たれる。ゴム補強用ガラス繊維の被覆層にスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有させることで、ゴム補強用ガラス繊維と母材であるクロロプレンゴムの接着が向上し、さらに被覆層の粘着性が低下し被覆が容易となる。
【0024】
さらに、本発明は、クロロプレンゴムを母材とする伝動ベルトに埋設するゴム補強用ガラス繊維であって、複数本のガラス繊維フィラメントを集束させたストランドに、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有する被覆層を設けてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維である。
【0025】
また、本発明のゴム補強用ガラス繊維の被覆層に含有するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)との組成比を調整することで、ゴム補強用ガラス繊維と母材であるクロロプレンゴムとの好ましい接着力を得、耐熱性および耐水性をバランスよく合わせ持たせることが可能となった。
【0026】
また、本発明は、被覆層に含有するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)とを合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、被覆層にモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を、A/(A+B+C)=3%以上、30%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせて、(B+C)/(A+B+C)=70%以上、97%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、C/(B+C)=5%以上、70以下の範囲で含有することを特徴とする上記のゴム補強用ガラス繊維である。
【0027】
さらに、本発明は、上記のゴム補強用ガラス繊維がクロロプレンゴムに埋設されてなることを特徴とする伝動ベルトである。
【0028】
また、本発明は、上記のゴム補強用ガラス繊維がクロロプレンゴムに埋設されてなることを特徴とするコンベアベルトである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によって、クロロプレンゴムを母材とし補強のためのゴム補強用ガラス繊維を埋設してなる伝動ベルト、コンベアベルトに耐熱性および耐水性等の耐久性をバランスよく与え、加えて、クロロプレンゴムとの接着力に優れる被覆層を与えるガラス繊維被覆用塗布液およびそれを用いたゴム補強用ガラス繊維が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】MIT屈曲試験の試験片の模式図である。
【図2】MIT屈曲試験の試験状況の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、クロロプレンゴムを母材とする伝動ベルトに埋設するためのゴム補強用ガラス繊維に被覆層を設けるためのガラス繊維被覆用塗布液であって、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有することを特徴とするガラス繊維被覆用塗布液である。
【0032】
本発明のガラス繊維被覆用塗布液において含有物であるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)との組成比を調整することで、ゴム補強用ガラス繊維と母材であるクロロプレンゴムとの好ましい接着力を得、耐熱性および耐水性をバランスよく合わせ持たせることが可能となった。
【0033】
ガラス繊維被覆用塗布液中のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含有がA/(A+B+C)=3%より少ないと、当該ガラス繊維被覆用塗布液による被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維を埋設した伝動ベルト、コンベアベルトの耐熱性および耐水性が低下する。また、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含有が、A/(A+B+C)=30%より多いと、当該ガラス繊維被覆用塗布液を塗布被覆してなる被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維とクロロプレンゴムの接着力が低下する。
【0034】
また、ガラス繊維被覆用塗布液中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた含有が(B+C)/(A+B+C)=70%より少ないと、当該ガラス繊維被覆用塗布液を塗布被覆してなる被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維がクロロプレンゴムとの接着力が低下する。ガラス繊維被覆用塗布液中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた含有が(B+C)/(A+B+C)=97%より多いと、当該ガラス繊維被覆用塗布液による被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維を埋設した伝動ベルト、コンベアベルトの耐熱性、耐水性が低下する。
【0035】
また、本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、前記ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)の一部をスチレン−ブタジエン共重合体に替えて使用する。本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、スチレン−ブタジエン共重合体(C)を5%以上、70%以下の範囲で使用する。スチレン−ブタジエン共重合体(C)の含有が5%未満では、母材であるクロロプレンとの接着性が低下し、ゴム補強用ガラス繊維の被覆層に粘着性が生じ、被覆層が転写し易くなることを抑制する効果がない。好ましくは、20%以上である。70%を超えると、母材としての耐熱ゴムに埋設し、伝動ベルトとした際の耐熱性が失われる。好ましくは、55%以下である。
【0036】
即ち、本発明は、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、被覆層にモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を、A/(A+B+C)=3%以上、30%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)の質量を合わせて、(B+C)/(A+B+C)=70%以上、97%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、C/(B+C)=5%以上、70%以下の範囲で含有することを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
【0037】
尚、本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含有させると、当該ガラス繊維被覆用塗布液による被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維を埋設した伝動ベルト、コンベアベルトの耐熱性および耐水性が低下するため、含有しないことが好ましい。
【0038】
また、本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、クロロスルホン化ポリエチレンを含有させると、当該ガラス繊維被覆用塗布液による被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維とクロロプレンゴムの接着力が低下するため、クロロスルホン化ポリエチレンは含有しないことが好ましい。
【0039】
尚、ガラス繊維被覆用塗布液の塗布は、ガラス繊維被覆用塗布液中にストランドを屈曲走行させて強制的に付着させた後、加熱乾燥させる等の手段で行う。
【0040】
また、本発明は、クロロプレンゴムを母材とする伝動ベルトに埋設するゴム補強用ガラス繊維であって、複数本のガラス繊維フィラメントを集束させたストランドに、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有する被覆層を設けてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維である。
【0041】
被覆層に含有するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含有がA/(A+B+C)=3%より少ないと、ゴム補強用ガラス繊維を埋設した伝動ベルト、コンベアベルトの耐熱性および耐水性が低下する。また、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含有が、A/(A+B+C)=30%より多いと、ゴム補強用ガラス繊維とクロロプレンゴムの接着力が低下する。
【0042】
また、被覆層に含有するビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)の質量を合わせた含有が(B+C)/(A+B+C)=70%より少ないと、ゴム補強用ガラス繊維とクロロプレンゴムの接着力が低下し、クロロプレンゴムに埋設し、伝動ベルトまたはコンベアベルトとした際の疲労性が低下する。被覆層に含有するビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)の質量を合わせた含有が(B+C)/(A+B+C)=97%より多いと、補強用ガラス繊維を埋設した伝動ベルト、コンベアベルトの耐熱性、耐水性が低下する。
【0043】
また、本発明のゴム補強用ガラス繊維の被覆層において、前記ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)の一部をスチレン−ブタジエン共重合体(C)に替えて使用する。本発明のゴム補強用ガラス繊維の被覆層において、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、スチレン−ブタジエン共重合体(C)を5%以上、70%以下の範囲で使用する。スチレン−ブタジエン共重合体(C)の含有が5%未満では、母材であるクロロプレンとの接着性が低下し、ゴム補強用ガラス繊維の被覆層に粘着性が生じ、被覆層が転写し易くなることを抑制する効果がない。好ましくは、20%以上である。70%を超えると、母材であるクロロプレンとの接着性、およびクロロプレンゴムに埋設し、伝動ベルトまたはコンベアベルトとした際の耐熱性が失われる。好ましくは、55%以下である。
【0044】
即ち、本発明は、被覆層に含有するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)とを合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、被覆層にモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を、A/(A+B+C)=3%以上、30%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせて、(B+C)/(A+B+C)=70%以上、97%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、スチレン−ブタジエン共重合体(C)がC/(B+C)=5%以上、70%以下の範囲で含有することを特徴とする上記のゴム補強用ガラス繊維である。
【0045】
尚、本発明のゴム補強用ガラス繊維に被覆層に、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含有させると、ゴム補強用ガラス繊維を埋設した伝動ベルト、コンベアベルトの耐熱性および耐水性が低下するため、含有しないことが好ましい。
【0046】
また、本発明のゴム補強用ガラス繊維の被覆層に、クロロスルホン化ポリエチレンを含有させると、ゴム補強用ガラス繊維とクロロプレンゴムの接着力が低下するため、クロロスルホン化ポリエチレンは含有しないことが好ましい。
【0047】
本発明のゴム補強用ガラス繊維をクロロプレンゴムに埋設し、種々伝動ベルト、コンベアベルトに成形して使用する。伝動ベルト、コンベアベルトへの成形時には加熱し、その際に加硫硬化を行う。
【0048】
本発明のガラス繊維被覆用塗布液およびそれを用いたゴム補強用ガラス繊維に使用するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)、スチレン−ブタジエン共重合体(C)について説明する。
【0049】
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)としては、モノヒドロキシベンゼンに対するホルムアルデヒドのモル比が0.5以上、3.0以下で、アルカリの存在下で反応させたレゾール型のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を使用することが、固形分の析出なく、ゴム補強用ガラス繊維被覆用塗布液を安定させる効果があるので好ましい。ホルムアルデヒドのモル比が0.5未満では、ゴム補強用ガラス繊維と耐熱ゴムとの接着強さに劣り、3.0を越えると1次被覆用塗布液がゲル化し易い。レゾール型のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を用いることで、ガラス繊維被覆用塗布液の液安定性が向上する。尚、前記アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等が挙げられる。
【0050】
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)には、工業用フェノール樹脂として市販されている群栄化学工業株式会社製、商品名、レジトップ、型番PL−4667が挙げられる。
【0051】
尚、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物は水溶性であり、本発明のガラス繊維被覆用塗布液を調製する際は、これら縮合物の水溶液に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンとスチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンを加える。
【0052】
ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)には、日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックスが挙げられる。
【0053】
スチレン−ブタジエン共重合体(C)には、日本エイアンドエル株式会社、商品名、J−9049,JSR株式会社製、型番、2108、日本ゼオン株式会社製 Nipol LX112、旭化成株式会社製、商品名、L−1432等が挙げられる。本発明のガラス繊維被覆用塗布液、ゴム補強用ガラス繊維の被覆層にアクリロニトリルブタジエン系共重合体含有させると、ゴム補強用ガラス繊維と母材ゴムとしてのクロロプレンゴムの接着力が向上するとともに、本発明のゴム補強用ガラス繊維を埋設してなる伝動ベルトまたはコンベアベルトに耐油性を与える。アクリロニトリル−ブタジエン2元共重合体でなく、重合モノマーにスチレンを加えたアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体をアクリロニトリル−ブタジエン系共重合体として含有させた方が、ゴム補強用ガラス繊維をクロロプレンゴムに埋設した伝動ベルト、コンベアベルトの耐熱性および耐油性を低下させることなく耐水性が得られ、優れた伝動ベルトを得やすい。
【0054】
アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(D)には、例えば、日本ゼオン株式会社製、商品名、Nipol L1561、Nipol L1562、Nipol SX1503が挙げられる。
【0055】
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体(D)には、日本ゼオン株式会社製、商品名、NipolL1577K、Nipol L1571CLが挙げられる。
【0056】
また、本発明のゴム補強用ガラス繊維の1次被覆層または2次被覆層には、老化防止剤、pH調整剤、安定剤等を含有させても良い。老化防止剤にはジフェニルアミン系化合物、pH調整剤にはアンモニアが挙げられる。
【0057】
尚、本発明のゴム補強用ガラス繊維において、ゴム補強用ガラス繊維が上記被覆層により、母材であるクロロプレンゴムと充分な接着力を有するので、母材が水素化ニトリルゴムであるタイミングベルトに埋設する場合のように、2次被覆層を設ける必要はない。
【実施例】
【0058】
実施例1
(ガラス繊維被覆用塗布液の調製)
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンとスチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンとアンモニア水と水を添加し、本発明のガラス繊維被覆用塗布液を調製した。
【0059】
詳しくは、市販のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液(群栄化学工業株式会社製、商品名、レジトップ、型番PL−4667、固形分、50質量%、実施例において以下使用する。)を、濃度、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液で2倍の質量割合で希釈したモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を用いた。モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液、63重量部と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス、固形分、41.0質量%、実施例において以下使用する)、330重量部と、スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョン(旭化成株式会社製、品名、L−1432、固形分、45.0重量%)152量部と、PH調整剤としてアンモニア水(濃度、25.0質量%)22重量部を加え、全体として1000重量部になるように水を添加し、ガラス繊維被覆用塗布液を調製した。
【0060】
ガラス繊維被覆用塗布液中の各成分の含有割合は、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C)=7.2%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が、B/(A+B+C)=59.7%、スチレン−ブタジエン共重合体(C)が、C/(A+B+C)=33.1%である。このとき、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、スチレン−ブタジエン共重合体(C)はC/(B+C)=35.7%である。
【0061】
尚、ガラス繊維被覆用塗布液中のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)の質量は固形分濃度から固形分に換算して求めた。ほぼ、このままの含有割合でゴム補強用ガラス繊維の被覆層となる。
【0062】
(ゴム補強用ガラス繊維の作製)
径9μmのガラス繊維フィラメントを、アクリルシラン系カップリング剤および樹脂を含有する集束剤を用い200本集束させたストランド3本を引き揃えた後、前述の手順で作製したガラス繊維被覆用塗布液を塗布し、その後、温度280℃下で、22秒間乾燥させて被覆層を設け、1本のゴム補強用ガラス繊維を作製した。
【0063】
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の質量割合は、ゴム補強用ガラス繊維の全質量に対して19.0質量%であった。
【0064】
実施例2
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンと、スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンと、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン3元共重合体(D)のエマルジョンとアンモニア水と水を添加し、本発明のガラス繊維被覆用塗布液を調製した。
【0065】
上記、市販のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を濃度1質量%の水酸化ナトリウム水溶液で2倍の質量割合で希釈したモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を用いた。前記モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液、63重量部と、前記ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョン、280重量部と、前記スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョン、102重量部と、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体(D)のエマルジョン(日本ゼオン株式会社製、商品名、Nipol L1577K 固形分濃度、38.0質量%)、113重量部と、PH調整剤としてアンモニア水(濃度、25.0質量%)22重量部を加え、全体として1000重量部になるように水を添加し、ガラス繊維被覆用塗布液を調製した。
【0066】
ガラス繊維被覆用塗布液中の各成分の含有割合は、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)と、塩素化ポリエチレン(C)と、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)が7.2%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)が52.3%、スチレン−ブタジエン共重合体(C)が21.0%、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体が19.5%である。このとき、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、スチレン−ブタジエン共重合体(C)はC/(B+C)=28.7%である。
【0067】
尚、ガラス繊維被覆用塗布液中のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)、スチレン−ブタジエン共重合体(C)およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体(D)の質量は固形分濃度から固形分に換算して求めた。ほぼ、このままの含有割合でゴム補強用ガラス繊維の被覆層となる。次いで、実施例1と同様にして、ゴム補強用ガラス繊維を作製した。
【0068】
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の質量割合は、ゴム補強用ガラス繊維の全質量に対して19.0質量%であった。
【0069】
比較例1
レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンとスチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンとアンモニア水と水を添加し、ガラス繊維被覆用塗布液を調製した。
【0070】
レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合せた質量を100%基準とする質量百分率で表して、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物が7.2%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン重合体(B)が59.7%、スチレン−ブタジエン共重合体(C)が33.1%となるように調整し、ガラス繊維被覆用塗布液を調製した。ほぼ、このままの含有割合でゴム補強用ガラス繊維の被覆層となる。次いで、実施例1と同様にして、ゴム補強用ガラス繊維を作製した。
【0071】
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の質量割合は、ゴム補強用ガラス繊維の全質量に対して19.0質量%であった。
【0072】
比較例2
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)のエマルジョンとクロロスルホン化ポリエチレンのエマルジョンとアンモニア水と水を添加し、ガラス繊維被覆用塗布液を調製した。尚、クロロスルホン化ポリエチレンには、市販の住友精化株式会社製、商品名、CSM−450、固形分40.0質量%を用いた。
【0073】
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合せた質量を100%基準とする質量百分率で表して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物が7.2%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン重合体(B)が59.7%、クロロスルホン化ポリエチレンが33.1%となるように調整し、ガラス繊維被覆用塗布液を調製した。ほぼ、このままの含有割合でゴム補強用ガラス繊維の被覆層となる。次いで、実施例1と同様にして、ゴム補強用ガラス繊維を作製した。
【0074】
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の質量割合は、ゴム補強用ガラス繊維の全質量に対して19.0質量%であった。
【0075】
(各ゴム補強用ガラス繊維とクロロプレンゴムの接着強さの評価試験)
接着強さの評価試験を説明する前に、試験に使用した耐熱ゴムを説明する。
【0076】
母材としてのクロロプレンゴム、100重量部に対して、カーボンブラック、40重量部と、亜鉛華、5重量部と、ステアリン酸、0.5重量部と、硫黄、0.4重量部と、加硫促進剤、2.5重量部と、老化防止剤、1.5重量部とを配合した。
【0077】
試験片はクロロプレンゴムからなる3mm厚、25mm幅のゴムシート上に前記ゴム補強用ガラス繊維(実施例1、比較例1、2)を20本並べ、その上から布をかぶせ、温度、150℃下、196ニュートン/cm2の条件で端部を除き押圧し、35分間加硫させつつ成形して、接着強さ評価のための試験片を得た。この試験片の接着強さの測定を、端部において各々のゴムシートとゴム補強用ガラス繊維を個別にクランプにて挟み、剥離速度を50mm/minとし、ゴムシートからゴム補強用ガラス繊維を剥がす際の最大の抵抗値を測定し、接着強さとした。接着強さが大きいほど接着力に優れる。
【0078】
(接着強さの評価結果)
接着強さの評価結果を表1に示す。表2において、ガラス繊維とクロロプレンゴムが界面から剥離していない破壊状態をゴム破壊とし、界面から一部のみでも剥離している破壊状態を界面剥離とした。ゴム破壊の方が、界面剥離より接着強さに優れる。表2に、各ゴム補強用ガラス繊維のクロロプレンゴムに対する接着強さを示す。
【表1】

表1に示すように、本発明のゴム補強用ガラス繊維(実施例1、2)と本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維(比較例1)とクロロプレンレンゴムの接着強さは325N〜343Nと同等であり、剥離状態はゴム破壊であり、良好な接着力を示した。比較例2の被覆層に、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)およびクロロスルホン化ポリエチレンを含有するゴム補強用ガラス繊維と、クロロプレンゴムの接着強さは112Nと弱く、剥離状態も界面剥離だった。このことは、比較例2のゴム補強用ガラス繊維の被覆層に含有させたクロロスルホン化ポリエチレンが接着性に劣るためである。
【0079】
(各ゴム補強用ガラス繊維のMIT屈曲試験による耐水性、耐熱性、耐油性の評価結果)
実施例1、2および比較例1で作製したゴム補強用ガラス繊維を補強材として、母材に前記クロロプレンゴムを用い、厚さ2mm、幅5mm、長さ250mmのゴムの中に2本のコードを埋設させた後、150℃に35分間加硫させつつ養生させて、MIT屈曲試験用の試験片サンプルを作製し、耐熱性、耐水性および耐油性を評価した。
【0080】
耐熱性については、試験片を、加熱炉中で150℃に240時間加熱し室温に戻した後、試験片端部に3Kgの重りを付けて、210度の角度に1200回屈曲を繰り返し、その後、引っ張り強度を測定した。
【0081】
また、耐水性については、水を入れたビーカーに試験片を漬けて、ガスバーナーにかけて2時間煮沸した後に取り出し、水分をふき取った後、試験片端部に3Kgの重りを付けて、210度の角度に1200回屈曲を繰り返し、その後、引っ張り強度を測定した。
【0082】
また、耐油性については、120℃に加熱した自動車用エンジンオイルに試験片を100時間浸漬してから取り出し、エンジンオイルを拭き取った後、試験片端部に3Kgの重りを付けて、210度の角度に1200回屈曲を繰り返し、その後、引っ張り強度を測定した。
【0083】
以上のように、耐熱性、耐水性、耐油性評価のため、それぞれ劣化のための促進をした後、210度の角度に1200回屈曲を繰り返しMIT屈曲試験を行い、伝動ベルトにした際の耐熱性、耐水性、耐油性評価の指標とした。
【0084】
図1は、MIT屈曲試験の試験片の模式図である。
【0085】
試験片1の大きさは、高さ2mm、幅5mm、長さ250mmであり、クロロプレンゴム2の内部に実施例1、2、比較例1によるゴム補強用ガラス繊維3が埋設されている。
【0086】
図2は、MIT屈曲試験の試験状況の模式図である。
【0087】
クランプの曲げ角度は、120度であり、錘4を付けた状態で試験片1を1200回屈曲させる。
【0088】
表2に各ゴム補強用ガラス繊維3を用いた試験片1のMIT屈曲試験による耐水性、耐熱性、耐油性の評価結果を示す。耐水性、耐熱性、耐油性の評価のために、MIT屈曲試験後の各試験片1の引っ張り強さ保持率を測定した。表2中の数値は引っ張り強さ保持率であり、以下の数1の式により求めた。
【数1】

【表2】

表2に示すように、耐熱性は、実施例1、2に示した本発明のゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強さ保持率は、それぞれ65%、70%であり、比較例1に示した本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強さ保持率は45%であった。このことは、本発明の実施例1、2のゴム補強用ガラス繊維に被覆層に含有するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の効果である。比較例1のゴム補強用ガラス繊維に被覆層にはレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物が含まれる。
【0089】
また、耐水性は、実施例1、2に示した本発明のゴム補強用ガラス繊維引っ張り強さ保持率は、それぞれ85%、80%であり、比較例1に示した本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維引っ張り強さ保持率は65%であった。このことは、本発明の実施例1、2のゴム補強用ガラス繊維に被覆層に含有するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の効果である。比較例1のゴム補強用ガラス繊維に被覆層にはレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物が含まれる。
【0090】
比較して、耐油性は、実施例1に示した本発明のゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強さ保持率は68%であり、実施例2に示した本発明のゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強さ保持率は75%であり、比較例1に示した本発明の範疇にないゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強さ保持率は68%であった。このことは、本発明の実施例2のゴム補強用ガラス繊維に被覆層に含有するアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体の効果である。
【符号の説明】
【0091】
1 試験片
2 クロロプレンゴム
3 ゴム補強用ガラス繊維
4 錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレンゴムを母材とする伝動ベルトに埋設するゴム補強用ガラス繊維に被覆層を設けるためのガラス繊維被覆用塗布液であって、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有することを特徴とするガラス繊維被覆用塗布液。
【請求項2】
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)とを合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、被覆層にモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を、A/(A+B+C)=3%以上、30%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせて、(B+C)/(A+B+C)=70%以上、97%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、C/(B+C)=5.0%以上、70.0%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維被覆用塗布液。
【請求項3】
クロロプレンゴムを母材とする伝動ベルトに埋設するゴム補強用ガラス繊維であって、複数本のガラス繊維フィラメントを集束させたストランドに、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有する被覆層を設けてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維。
【請求項4】
被覆層に含有するモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)とを合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、被覆層にモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を、A/(A+B+C)=3%以上、30%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせて、(B+C)/(A+B+C)=70%以上、97%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(B)とスチレン−ブタジエン共重合体(C)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、C/(B+C)=5.0%以上、70.0%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項3に記載のゴム補強用ガラス繊維。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のゴム補強用ガラス繊維がクロロプレンゴムを主成分とするゴムに埋設されてなることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項6】
請求項3または請求項4に記載のゴム補強用ガラス繊維がクロロプレンゴムを主成分とするゴムに埋設されてなることを特徴とするコンベアベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−67410(P2012−67410A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213265(P2010−213265)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】