説明

ガラス繊維集束剤及びそれを用いたガラス繊維

【課題】切断性及び集束性などの作業性と、成形したパネルの高い透明性の両方を備えた、繊維強化熱硬化性樹脂製パネルの成形に使用されるガラス繊維収束材を提供する。
【解決手段】γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂水性エマルジョン及び酢酸ビニル重合体水性エマルジョンの混合物からなる組成を有し、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキキシシラン、エポキシ樹脂及び酢酸ビニル重合体を合わせた固形分質量を100%基準とする質量百分率で表して、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが5.0質量%以上20.0質量%以下であることを特徴とするガラス繊維集束剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明FRP成形体用ガラス繊維集束剤及びそれを用いたガラス繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、土木、建築分野で、コンクリート打設の際に、使用されている型枠(以下「コンクリート型枠」という)は、木製、合板製、金属製等のものである。木製及び合板製の型枠は、近年の森林資源保護の観点から、合板に代替品が求められている。金属製の型枠は、耐久性が高いという長所があるが、重量が大きく作業性上好ましくない。また、これら従来の材質のものは、不透明で、コンクリートを充填・養生する際、枠内を観察できないので、空隙等の欠陥を発見できない。
【0003】
そこで、特許文献1には、コンクリート型枠に関するもので、繊維強化樹脂が熱硬化樹脂からなり、型枠が透明又は半透明であることを特徴とする繊維強化樹脂製型枠が開示されている。
【0004】
これら、コンクリート型枠用透明パネルとしての、繊維強化熱硬化性樹脂製パネルの成形に使用されるガラス繊維には、成形したパネルの透明性が要求される。そのためには、ガラス繊維の集束剤は熱硬化樹脂との相溶性を高める必要がある。
【0005】
例えば、特許文献2には、白化現象を起こさず、透明性を備えた成形体を得るために、特定組成の成分を含有させたガラス繊維用サイズ剤(集束剤)を用いたガラスロービング(ガラス繊維)が開示されている。なお、白化とは、ガラス繊維集束剤とマトリックス樹脂との相溶性が低く、樹脂成形体中のガラス繊維束が白く見える現象である。白化現象が起こると、成形体の強度低下及び透明性が損なわれる。
【0006】
また、特許文献3には、ガラス繊維の帯電性及びガラス繊維強化プラスチックスの透明性ならびに耐熱性に対応するためのガラス繊維サイジング剤(集束剤)が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、ガラスストランドを切断する時等における静電気の発生ならびに得られたガラスチョップドストランドをFRPやFRTPの補強材として用いた際の耐煮沸性及びガラス繊維の着色に対処するため、ガラス繊維用帯電防止剤と、それを塗布したガラスロービングならびにシートモールディングコンパウンドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−177312号公報
【特許文献2】特開昭63−297249号公報
【特許文献3】特開平5−339034号公報
【特許文献4】特開平11−60289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術では、コンクリート型枠用などの繊維強化熱硬化性樹脂製パネルの成形に使用されるガラス繊維には、切断性及び集束性などの作業性と、成形したパネルの高い透明性の両方を備えて要求される性能を満たすことができなかった。
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、ガラス繊維の切断性及び集束性が良く、ガラス繊維強化熱硬化性樹脂製成形体において白化を抑え、可視光透過率80%以上の透明性に優れた性能を発現するガラス繊維集束剤及び、該集束剤で被覆されたガラス繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下に示すガラス繊維集束剤及びそれを用いたガラス繊維に関する。
【0012】
つまり、本発明は、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂水性エマルジョン及び酢酸ビニル重合体水性エマルジョンの混合物からなる組成を有し、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂及び酢酸ビニル重合体を合わせた固形分質量を100%基準とする質量百分率で表して、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが5.0質量%以上20.0質量%以下であることを特徴とするガラス繊維集束剤である。
【0013】
また、本発明は、さらに第4級アンモニウム塩を含むことを特徴とする上記のガラス繊維集束剤である。
【0014】
また、本発明は、前記のガラス繊維集束剤を、該ガラス繊維集束剤も含むガラス繊維全体に対して、固形分として0.1〜0.5質量%被覆していることを特徴とするガラス繊維である。
【0015】
また、本発明は、前記のガラス繊維で強化した不飽和ポリエステル樹脂成型体である。
【0016】
さらに、本発明は、可視光透過率が80%以上であることを特徴とする上記の不飽和ポリエステル樹脂成型体である。
【0017】
さらに、本発明は、前記不飽和ポリエステル樹脂成形体からなるコンクリート型枠である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガラス繊維集束剤及び、該集束剤で被覆されたガラス繊維を用いると、該ガラス繊維の切断性及び集束性が良いため作業性に優れ、該ガラス繊維を使用した繊維強化熱可塑性樹脂製パネルは白化を抑え、透明性に優れる。特に、コンクリート型枠用透明パネルとして用いると枠内の観察が容易であり好適である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において用いられるガラス繊維集束剤は、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂水性エマルジョン、酢酸ビニル重合体水性エマルジョンの混合物からなる組成を有し、又は、前記組成にさらに帯電防止剤として第4級アンモニウム塩を含有しても良い。
【0020】
γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランは、シランカップリング剤であるが、不飽和ポリエステル樹脂とガラス繊維との接着性の発現を目的として添加する。γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン以外に、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いても接着性は発現するが、不飽和ポリエステルとの強固な接着性と不飽和ポリエステル樹脂をマトリックス樹脂としたFRP成形体の白化を抑え、可視光透過率80%以上の高い透明性を発現するためにはγ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好適に使用される。γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランは、例えば、SZ6030(東レダウ・コーニング社製、固形分99質量%)として入手できる。
【0021】
エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型、F型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型又はウレタン変性エポキシ樹脂から選ばれる。重量平均分子量828〜1002のビスフェノールA型エポキシ樹脂を乳化したエポキシ樹脂水性エマルジョンは樹脂との接着性の点で好適に使用され、例えば、ユカレジンKE−002(吉村油化学社製、固形分50質量%)として入手できる。
【0022】
酢酸ビニル重合体は、酢酸ビニル樹脂又は、エチレン酢酸ビニル共重合体を乳化したもので、酢酸ビニル樹脂を乳化した酢酸ビニル樹脂水性エマルジョンは樹脂との接着性の点で好適に使用され、例えば、モビニール350(日本合成化学社製、固形分45質量%)として入手できる。
【0023】
本発明において用いられるガラス繊維集束剤を塗布乾燥したガラス繊維を切断機で切断して、不飽和ポリエステル樹脂などのマトリックス樹脂とあわせて成形体を作製するとき、
その作業環境によっては、ガラス繊維を切断機で切断するとき静電気が発生し、切断したガラス繊維が、切断機に付着し、あるいは、切断したガラス繊維の成形体への均一な分散が損なわれることがある場合は、静電気を抑えるために、前記ガラス繊維集束剤に第4級アンモニウム塩を帯電防止剤として加えることが望ましい。
【0024】
第4級アンモニウム塩は、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド又はアルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドは上記切断時の静電気を抑える点で好適に使用され、例えば、カチオーゲンESO(第一工業製薬社製、固形分50質量%)として入手できる。
【0025】
本発明のガラス繊維集束剤を塗布乾燥したガラス繊維がマトリックス樹脂と成型され、所望の白化抑制及び透明性を得るには、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂及び酢酸ビニル樹脂の固形分を合わせた質量を100%基準として、質量百分率で表して、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランは5.0〜20.0質量%であることが望ましい。5.0質量%よりも小さいとガラス繊維とマトリックス樹脂との充分な接着を得ることができずに所望のFRP成型板の白化抑制及び透明性が発現しない。一方、20.0質量%を超えると、静電気が多く発生し、作業性上好ましくない。より好ましくは7.0〜15.0質量%である。
【0026】
エポキシ樹脂は20.0〜60.0質量%であることが望ましい。20.0質量%よりも小さいとFRP成形板に白化が発生しやすい。一方、60.0質量%を超えるとガラス繊維束が柔らかくなりすぎ好ましくない。より好ましくは25.0〜55.0質量%である。
【0027】
酢酸ビニル樹脂は25.0〜70.0質量%であることが望ましい。25.0質量%よりも小さいと糸が柔らかくなりすぎ好ましくない。一方、70.0質量%を超えると、FRP成形板に白化が発生しやすい。より好ましくは30.0〜65.0質量%である。
【0028】
第4級アンモニウム塩は、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂及び酢酸ビニル樹脂の固形分を合わせた質量を100%基準として、質量百分率で表して、1.0〜12.0質量%であることが望ましい。1.0質量%よりも小さいと静電気が多く発生し、作業性上好ましくない。一方、12.0質量%を超えると、FRP成形板に白化が発生しやすい。より好ましくは2.0〜10.0質量%である。
【0029】
前記ガラス繊維集束剤を、溶融紡糸時に常法によりガラス繊維に塗布してから、所定の集束本数で集束して巻取り、乾燥して所望のガラス繊維を得る。このとき、該ガラス繊維集束剤が該ガラス繊維集束剤も含むガラス繊維全体に対して、固形分として0.1〜0.5質量%被覆されていることが望ましい。換言すれば強熱減量(強熱減量(%)=(M1−M2)/M1×100、(M1:集束剤で被覆し乾燥したガラス繊維の質量、M2:前記ガラス繊維を600℃で15分間焼いて集束剤を除いた後のガラス繊維の質量))が0.1〜0.5質量%であることが望ましい。0.1質量%よりも小さいとガラス繊維とマトリックス樹脂との充分な接着を得ることができずに所望のFRP成型板の白化抑制、透明性が発現しない。一方、0.5質量%を超えると、過剰の集束剤がマトリックス樹脂との馴染を阻害してFRP成形板に白化が発生し好ましくない。より好ましくは0.2〜0.4質量%である。
【0030】
該ガラス繊維は所望のtex(ガラス繊維束1000m当りの質量をグラム数で表した数値)となるように合糸し巻き取られ、ガラスロービングを得る。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0032】
実施例1
γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂水性エマルジョン及び酢酸ビニル樹脂水性エマルジョンの固形分を合わせた質量を100%基準として、質量百分率で表して、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウ・コーニング社製、SZ6030)を固形分として7.8質量%、重量平均分子量828〜1002のビスフェノールA型エポキシ樹脂を乳化したエポキシ樹脂水性エマルジョン(吉村油化学社製、ユカレジンKE−002)を固形分で27.2質量%、酢酸ビニル樹脂水性エマルジョン(日本合成化学社製、モビニール350)を固形分で65.0質量%を用いてガラス繊維集束剤を調合した。
【0033】
前記集束剤(固形分4.0質量%)を、溶融紡糸時に常法によりガラス繊維(直径12μm)に塗布してから、400本集束して巻取り、135℃で12時間乾燥し、強熱減量0.32質量%、115texのストランドを得て、このストランドを20本合糸し、2310texのガラスロービングを得た。
【0034】
前記ガラスロービングを切断速度60m/分の速さで50mmの長さに切断した。
【0035】
前記切断したストランドと不飽和ポリエステル樹脂(ジャパンコンポジット社製ポリホープG−227K)を用いてガラス含有率40.0質量%、成形体板厚4.0mmのFRP成形体をハンドレイアップ法により成形した。
【0036】
この成形体は不飽和ポリエステル樹脂の硬化後に120℃で10分間加熱して充分に硬化させ、室温まで冷却した後に成形体の白化現象を肉眼で観察した。また、成形体の透明性については濁度計(日本電色工業社製)を用い、ヘイズ値(曇りの度合を表す値。数値が小さい程、透明性が高い。ヘイズ値(%)=Td/Tt × 100(Td:拡散透過率 Tt:全光線透過率)で算出される)と可視光透過率を測定した。
【0037】
実施例2
表1に記載した組成になるよう、集束剤を調合した以外は実施例1と同じ条件で成形体を製造した。また、実施例1と同様にして白化現象を観察し, ヘイズ値及び可視光透過率を測定した。これらの結果を表1にまとめた。
【0038】
実施例3〜7
表1に記載した組成になるよう、集束剤を調合した。第4級アンモニウム塩としてラウリルトリメチルアンモニウムクロライド(第一工業製薬社製、カチオーゲンESO)を固形分で、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂及び酢酸ビニル樹脂の固形分を合わせた質量を100%基準として、質量百分率で表して、表1に記載した組成になるよう集束剤に加えた。集束剤の調合以外は実施例1と同じ条件で成形体を製造した。また、実施例1と同様にして白化現象を観察し, ヘイズ値及び可視光透過率を測定した。これらの結果を表1にまとめた。
【0039】
比較例1〜2
表1に示した組成になるよう、集束剤を調合した。また、実施例1と同様にして白化現象を観察し, ヘイズ値及び可視光透過率を測定した。これらの結果を表1にまとめた。
【0040】
<白化・ヘイズ値・可視光透過率について>
成形体の白化現象を肉眼で観察した。実施例1〜7の本発明の範疇にあるガラスロービングの成形体には白化現象は見られなかった。一方、比較例1、2の本発明の範疇にないガラスロービングの成形体には白化現象が見られた。
【0041】
濁度計(日本電色工業製)を用い、成形体のヘイズ値と可視光透過率を測定した。実施例1〜7の本発明のガラスロービングの成形体のヘイズ値は60%を超えなかった。これに対し、比較例1、2の本発明の範疇にないガラスロービングの成形体のヘイズ値は80%を超えていた。実施例1〜7の本発明のガラスロービングの成形体の可視光透過率は80%以上であった。これに対して、比較例1、2の本発明の範疇にないガラスロービングの成形体の可視光透過率は80%より小であった。
【0042】
以上から、白化、ヘイズ値及び可視光透過率から、本発明の範疇にある実施例1〜7のロービングで作製した成形体は、本発明の範疇に無い比較例1、2ロービングで作製した成形体と比較して、透明性が高い。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によって得られる透明FRP成形体は、ガラス繊維で強化した高い透明性を有するプラスチックであり、例えば、土木、建築分野で使用されるコンクリート型枠に用いると好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂水性エマルジョン及び酢酸ビニル重合体水性エマルジョンの混合物からなる組成を有し、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキキシシラン、エポキシ樹脂及び酢酸ビニル重合体を合わせた固形分質量を100%基準とする質量百分率で表して、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが5.0質量%以上20.0質量%以下であることを特徴とするガラス繊維集束剤。
【請求項2】
第4級アンモニウム塩を含むことを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維集束剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガラス繊維集束剤を、該ガラス繊維集束剤も含むガラス繊維全体に対して、固形分として0.1〜0.5質量%被覆していることを特徴とするガラス繊維。
【請求項4】
請求項3に記載のガラス繊維で強化した不飽和ポリエステル樹脂成形体。
【請求項5】
可視光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項4に記載の不飽和ポリエステル樹脂成形体。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の不飽和ポリエステル樹脂成形体からなることを特徴とするコンクリート型枠。

【公開番号】特開2013−18665(P2013−18665A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151473(P2011−151473)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】