説明

ガラス表面の微細加工方法

【課題】ミクロンオーダーだけでなくナノオーダーでの微細加工を容易に施すことができるガラス表面の微細加工方法を提供する。
【解決手段】アルカリ酸化物を含有するガラスの表面に凸部を形成するガラス表面の微細加工方法であって、凸部となるべき第2領域の表面に隣接する第1領域の表面を保護層で被覆する工程と、第2領域の表面側からアルカリイオンを除去する工程と、第1領域の表面から保護層を除去する工程と、アルカリイオンが除去された第2領域の表面と保護層が除去された第1領域の表面とを研磨する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス表面に凹凸を形成する微細加工方法に関し、特に、ミクロンオーダーだけでなくナノオーダーの微細加工を施すことができるガラス表面の微細加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスは化学的に安定で、熱膨張率が小さく、物理的または化学的に優れた特性を持つため、化学反応チップ、光学部品、電子部品の材料として好適に用いられる。しかし一方で、ガラスは脆性材料であるため、研削や切削といった機械的な除去加工によって、割れや欠けのない鏡面加工を行うことが難しい。ガラスの鏡面加工を行うためには、加工速度を落とす必要があり、また高度な加工技術が要求されるため、効率的に機械的な鏡面加工を行うことは困難である。
【0003】
そこで特許文献1では、ミクロン(μm)オーダーの加工を実現するべく、KNOなどの溶融塩中にガラスを数時間浸漬させガラスの表面付近に存在するNaをKに交換するイオン交換処理(いわゆる化学強化処理)をしたガラス表面を研削することにより加工するという加工方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−298312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、化学強化を行っているため研削(研磨)という加工を施す際にはラテラルクラック(遅れクラック)が生じやすいので、ミクロンオーダーの加工であれば問題がなくてもナノ(nm)オーダーでの加工には向いていないという問題がある。
【0006】
また、イオン交換は高温の溶融塩中にガラスを浸漬させるものであるから、特許文献1の加工方法において高温に耐え得るマスクを施す必要があり、このような処理は煩雑であるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、ミクロンオーダーだけでなくナノオーダーでの微細加工を容易に施すことができるガラス表面の微細加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルカリ酸化物を含有するガラスの表面に凸部を形成するガラス表面の微細加工方法であって、
凸部となるべき第2領域の表面に隣接する第1領域の表面を保護層で被覆する工程と、
前記第2領域の表面側からアルカリイオンを除去する工程と、
前記第1領域の表面から保護層を除去する工程と、
前記アルカリイオンが除去された第2領域の表面と前記保護層が除去された第1領域の表面とを研磨する工程と、を備えたことを特徴とするガラス表面の微細加工方法を提供する。
また、前記第2領域の表面側からアルカリイオンを除去する工程は、前記第2領域の表面を酸性液にさらすことが好ましく、PH≦5の酸溶液にさらすことがさらに好ましい。
また、前記ガラスは、ドーナツ状の磁気ディスク用ガラス基板又はスライドガラスであることが好ましい。
また、本発明は、アルカリ酸化物を含有するガラスの表面に凸部を形成するガラス表面の微細加工方法であって、
凸部となるべき第2領域の表面に隣接する第1及び第3領域の表面を保護層で被覆する工程と、
前記第2領域の表面側からアルカリイオンを除去する工程と、
前記第1及び第3領域の表面を被覆している保護層を除去する工程と、
前記アルカリイオンが除去された第2領域の表面と前記保護層が除去された第1及び第3領域の表面とを研磨する工程と、を備えたことを特徴とするガラス表面の微細加工方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ミクロンオーダーだけでなくナノオーダーでのガラス表面の微細加工が可能となり、割れやラテラルクラックの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のガラス表面の微細加工方法を示すフローチャートである。
【図2】凸部となるべき第2領域を説明するガラス表面の一例を示す模式図である。
【図3】図1の各工程におけるガラスの構成を示す図2のIII−III線断面の模式図である。
【図4】凸部となるべき第2領域を説明するガラス表面の他の例を示す模式図である。
【図5】図1の各工程におけるガラスの構成を示す図4のV−V線断面の模式図である。
【図6】本発明のガラス表面の微細加工方法により製造されたスライドガラスの構成を示す斜視図である。
【図7】図6のスライドガラスをA−A線で切断したときの断面図である。
【図8】図7の破線で囲まれた部分を拡大し、表面のイオン状態を示す模式図である。
【図9】本発明のガラス表面の微細加工方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板の構成を示す斜視図である。
【図10】図9の磁気ディスク用ガラス基板をB−B線で切断し拡大した表面のイオン状態を示す模式図である。
【図11】ガラスAの浸漬時間、酸性液のpHとリーチング深さとの関係を示すグラフである。
【図12】ガラスA〜Dの酸性液のpHとリーチング深さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて、本発明のガラス表面の微細加工方法について説明するが、本発明はこれら図面に限定されない。
図1は本発明のガラス表面の微細加工方法を示すフローチャートである。図2は凸部となるべき第2領域を説明するガラス表面の一例を示す模式図、図3は図1の各工程におけるガラスの構成を示す図2のIII−III線断面の模式図である。先ず、図2に示す第1領域711に囲まれる第2領域712に凸部を形成する態様を例に本発明のガラス表面の微細加工方法について説明する。
【0012】
初めに、本発明の微細加工方法においては、薄板状のスライドガラス、ドーナツ状の磁気ディスク用ガラス基板などのガラスを準備する(ステップ610)。ここで、ガラス700は、図3(A)に示されるように、表面710と裏面720とを有し、酸化ナトリウム、酸化リチウム、酸化カリウム等のアルカリ酸化物を少なくとも1種以上含有する。ガラス700の表面710は、第1領域711と、第1領域711と隣接する第2領域712と、を有する。ここで、図3(A)に示されるように、ガラス700の表面近傍には、アルカリイオンが存在する。なお、図3(A)では、アルカリイオンとしてNaを開示しているが、これに限定されないことは言うまでもない。また、図3では、アルカリイオンの存在をわかり易くするために、Naが表面近傍に直線的に1列に存在しているように開示しているが、数や配列はこれに限定されるものではないことも言うまでもない。
【0013】
次に、図3(B)に示されるように、フォトリソグラフィ技術を用いて、ガラス700の表面710に所望のパターンのレジスト730を形成する(以下、マスク工程と称する。ステップ620)。マスク工程は、コート工程、プリベーク工程、露光工程、現像工程、ポストベーク工程を有する。詳細に説明すると、ガラス700の表面710の全面に、レジスト液をスピンコーターや吹きつけにより塗布する(コート工程)。次に、レジストを塗布したガラスを加熱し、レジストを固化する(プリベーク工程)。次に、レジストに光を照射する(露光工程)。ここで、ポジ型レジストの場合、感光した部分が溶解されるので、アルカリイオンの除去(以下、脱アルカリ処理と称する)を施したい第2領域712の表面710上のレジストを感光する。一方、ネガ型レジストの場合、感光した部分が残るので、脱アルカリ処理をしたくない第1領域711の表面710上のレジストを感光する。次に、露光したガラス700を現像液に浸し、余分な部分のレジストを除去する(現像工程)。次に、現像工程において用いたリンス液を除去するために、ガラス700を加熱する(ポストベーク工程)。よって、図3(B)に示されるような、脱アルカリ処理を施したくない第1領域711の表面710上に 保護層としてのレジスト730が形成される。
なお、ガラス基板へのマスク工程はフォトリソグラフィー技術に限ることはなく、ナノインプリント技術や、さらに簡易的な手法として所謂カプトンテープのような耐熱性あるいは耐薬液性に優れるテープをマスク材としてガラス表面に部分的に貼り付ける手法でも構わない。
【0014】
次に、図3(C)に示されるように、ガラス700の表面710側からアルカリイオンを除去する脱アルカリ処理を行う(ステップ630)。脱アルカリ処理の方法としては温水浸漬、酸性水溶液(例えば、硫酸、塩酸、蓚酸、マレイン酸、リン酸、クエン酸、フッ酸と硫酸、塩酸若しくは蓚酸との混酸、塩酸と硝酸との混酸等)、または酸性蒸気(硫化水素、亜硫酸ガス等)にさらす方法(リーチング)などがある。脱アルカリ処理は、ガラス700を、60〜99℃の温水中に20分〜20時間程度浸漬処理すること、又は、pH7以下、常温〜99℃の酸性水溶液中に10秒〜1時間程度浸漬処理すること、又は、湿度60〜90%RH、温度60〜200℃の高温高湿雰囲気に1時間〜10日間程度暴露することにより行うことができる。なお、ここでは、脱アルカリ処理によって、ガラス700の表面近傍に存在していたアルカリイオン(ここでは、Na)が抜け、代わりにプロトンHが入る。ここで、Hのイオン半径はNaのイオン半径に比べてとても小さいので、ガラス700の表面710には化学強化処理のような圧縮応力(引張応力)は発生しない。一般的に、化学強化処理では抜けたイオンよりも大きいイオンが入ることによりガラス表面が強化されるが、脱アルカリ処理では抜けたイオンよりも小さいイオンが入ることによりガラス表面が脆弱となる。なお、脱アルカリ処理により、ガラスの表面近傍のアルカリイオンが抜けると共に、表面が削れる。よって、脱アルカリ処理をされた領域と脱アルカリ処理をされなかった領域のガラスの裏面を基準としたガラスの厚さに差異が生じる。従って、ガラスの裏面を基準として、脱アルカリ処理をされた第2領域712のガラスの厚さは、脱アルカリ処理をされなかった第1領域711のガラスの厚さに比べて、薄くなっている。
なお、脱アルカリ処理は、アルカリ土類金属イオンをも除去するのを排除するものではない。
【0015】
次に、ガラス700の表面710のレジスト730を溶剤で除去する(以下、マスク除去工程と称する。ステップ640)。ここで、図3(D)に示されるように、レジスト730が上に形成されていたガラス700の第1領域711の表面近傍には、アルカリイオンが残っている。
【0016】
次に、研磨装置を用いて、レジスト730が除去されたガラス700の表面710を研磨する(以下、研磨工程と称する。ステップ650)。
【0017】
ここで、上述した研磨工程は、1回の研磨工程で行うものでも良いが、2回の研磨工程(第1研磨工程、第2研磨工程)で行われるのでも良い。以下、2回の研磨工程で行なう研磨工程について説明する。
【0018】
第1研磨工程としては、研磨パッドとして発泡ポリウレタンを用いて実施する。研磨条件は、酸化セリウム及びRO水からなる研磨液を用いる。この第1研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬させて、超音波洗浄し、乾燥させる。
【0019】
次に、第1研磨工程で使用した研磨装置と同様の研磨装置を用いて、ポリッシャを軟質研磨パッド(発泡ポリウレタン)に替えて、主表面の鏡面研磨工程として、第2研磨工程を実施する。
【0020】
第2研磨工程は、前述した第1研磨工程により得られた平坦な主表面を維持しつつ、クラックを確実に除去し、この主表面の表面粗さ算術平均粗さ(Ra)を、例えば、0.4乃至0.1nm程度まで低減させた鏡面とすることを目的とするものである。研磨液は、コロイダルシリカ研磨砥粒(平均粒径80nm以下)及びRO水からなる研磨液を用い、荷重を100g/cm、研磨時間を5分とする。
【0021】
この第2研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬させて、超音波洗浄し、乾燥させる。ここで、研磨工程では、脱アルカリ処理がされなかった第1領域711のガラスは、脱アルカリ処理がされた第2領域712のガラスよりも多く削れる。それにより、図3(E)に示すように、脱アルカリ処理後のガラスの厚さ関係が逆転し、ガラスの裏面を基準として、脱アルカリ処理をされた第2領域712のガラスの厚さは、脱アルカリ処理をされなかった第1領域711のガラスの厚さに比べて、厚くなる。
【0022】
また、第2研磨工程を終えたガラス700は、脱アルカリ処理をされた第2領域712のガラスの表面近傍のアルカリイオンの濃度と、脱アルカリ処理をされなかった第1領域711のガラスの表面近傍のアルカリ金属イオンの濃度とは同じとなっている。アルカリ金属イオンの濃度は、X線光電子分光法(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis:ESCA、X−ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)により、ガラス表面から測定することができる。また、アルカリ金属イオンの濃度は、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Microanalyzer:EPMA)により、ガラスの断面をみてラインプロファイルによって測定することができる。
【0023】
本発明のガラス表面の微細加工方法は、脱アルカリ処理により脱アルカリ処理された領域(第2領域712)が、脱アルカリ処理によりその表面が削られ脆弱になり脱アルカリ処理されなかった領域(第1領域711)の厚さに比べて薄くなるが、続く研磨処理によって厚さの関係に逆転現象が生じて、研磨処理後は脱アルカリ処理されなかった領域(第1領域711)の厚さが脱アルカリ処理された領域(第2領域712)の厚さよりも薄くなることを発明者らが見出したことに起因するものである。このメカニズムは明確には解明されていないが、脱アルカリ処理された領域(第2領域712)は脱アルカリ処理によりその表面が削られ脆弱になりその後の研磨処理においては弾性的な挙動を示し、研磨速度に差が生じることから、スラリーに対し脱アルカリ処理されなかった領域(第1領域711)の方がより多く研磨されたものと推定される。脱アルカリ処理によるガラスの厚さの差に対し、逆転現象が生じた後のガラスの厚さの差は数倍〜数十倍になることが確認されている。
【0024】
なお、上記実施形態においては、第1領域711に囲まれる第2領域712に凸部を形成する例を説明したが、図4に示すように、第1領域711と第3領域713との間に隣接する第2領域712に凸部を形成する場合にも適用することができる。
この場合、脱アルカリ処理を施したくない第1領域711及び第3領域713の表面710上にレジスト730を形成し(図5(B)参照)、ガラス700の表面710側から脱アルカリ処理を行い(図5(C)参照)、続いてガラス700の表面710のレジスト730を溶剤で除去する(図5(D)参照)。そして、レジスト730が除去されたガラス700の表面710を研磨することで、脱アルカリ処理をされた第2領域712のガラスの厚さは、脱アルカリ処理をされなかった第1領域711及び第3領域713のガラスの厚さに比べて厚くなり、第2領域712に凸部が形成される(図5(E)参照)。この場合においても、上記実施形態と同様に、脱アルカリ処理により脱アルカリ処理された領域(第2領域712)が、脱アルカリ処理によりその表面が削られ脆弱になり脱アルカリ処理されなかった領域(第1領域711及び第3領域713)の厚さに比べて薄くなるが、続く研磨処理によって厚さの関係に逆転現象が生じて、研磨処理後は脱アルカリ処理されなかった領域(第1領域711及び第3領域713)の厚さが脱アルカリ処理された領域(第2領域712)の厚さよりも薄くなる。
【0025】
<ガラス>
図6は、本発明のガラス表面の微細加工方法により製造されたスライドガラスの構成を示す斜視図である。図7は、図6のスライドガラスをA−A線で切断したときの断面図である。図8は、図7の破線で囲まれた部分200を拡大し、表面のイオン状態を示す模式図である。
【0026】
スライドガラスとしては、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダタイムガラス、ホウ珪酸ガラス等が挙げられるが、特に、DNAなどのバイオテクノロジー用途としてはホウ珪酸ガラスが好ましい。例えば、ホウ珪酸ガラスのガラス成分としては、質量%表示で、SiOを90〜95%、Bを6〜7%、NaOを0.3〜1%、Alを0.01〜1%を含有する。ここで、DNAを合成するための用途としてのスライドガラスを作製する場合においては、Alの含有量に比例してガラスの吸着水分量が増すため、0.1質量%を超えないようにすることが好ましい。
【0027】
スライドガラスの可視光透過率は、90%以上が好ましい。また、スライドガラスの屈折率は、JIS R3703で規定されているe線(546.1nm)において、1.51〜1.53が好ましい。
【0028】
図6に示されるように、スライドガラス100は、表面110と裏面120とを有する。スライドガラス100の表面110は、凹凸形成領域111と周辺領域112とを有する。凹凸形成領域111は、図7に示されるように、上述のガラス表面の微細加工方法により形成された凸部210と凹部220とを有する。スライドガラス100における凸部210と凹部220の高低差は好ましくは数μmである。スライドガラス100の凸部210の表面近傍のアルカリ成分量は、図8に示されるように、凹部220の表面近傍のアルカリ成分量とほぼ同じである。アルカリ金属イオンの濃度は、上述の通り、X線光電子分光法や、電子線マイクロアナライザにより測定することができる。なお、凹部220には、観察される試料が搭載されることを想定している。
【0029】
なお、図6のスライドガラス100は、試料が搭載される領域(凹部)を3つとして開示しているがその数を限定すべきものではなく、1つ以上あれば良いことは言うまでもなく、矩形状の凹部220が格子状に例えば100μmピッチで設けられることが好ましい。また、図8の模式図において、Naのみを開示しているが、Naに限定されるものではなく、他のアルカリイオン(Li、Kなど)であっても良いことは言うまでもない。さらに、図6の模式図において、表面にNaが1〜2のみ存在するように開示しているが、その個数に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0030】
本発明のガラス表面の微細加工方法により製造したスライドガラス100によれば、化学強化処理を行なっていないため、いかなるサイズでもこの方法で凹凸を形成してから容易に切断して使用するサイズに揃えることができる。一方、従来のガラス表面の微細加工方法では化学強化処理を行なうため、凹凸を形成した後切断すると破壊するおそれがあり、最初から使用するサイズのガラスを用いて凹凸を形成する必要があった。
【0031】
<磁気ディスク用ガラス基板>
図9は、本発明のガラス表面の微細加工方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板の構成を示す斜視図である。図10は、図9の磁気ディスク用ガラス基板をB−B線で切断し拡大した表面のイオン状態を示す模式図である。磁気ディスク用ガラス基板は、中心領域に表面から裏面に亘る貫通孔が形成されたドーナツ形状を有する。
【0032】
磁気ディスク用ガラス基板としては、リチウムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノリチウムシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダタイムガラス、ホウ珪酸ガラス等が挙げられるが、アルミノシリケートガラスが好ましい。また、アモルファスガラス、結晶化ガラスを用いることもできる。ガラス上に形成する軟磁性層をアモルファスとする場合にあっては、アモルファスガラスとすると好ましい。例えば、アルミノシリケートガラスのガラス成分としては、モル%表示で、SiOを57〜74%、ZnOを0〜2.8%、Alを3〜15%、LiOを7〜16%、NaOを4〜14%、を含有する。また、他のアルミノシリケートガラスのガラス成分としては、質量%表示で、SiOを50〜65%、Alを5〜15%、NaOを2〜7%、KOを4〜9%、MgOを0.5〜5%、CaOを2〜8%、ZrOを1〜6%、を含有する。なお、高いヤング率(100GPa以上)を得るためのガラス成分としては、モル%表示で、SiOを45〜65%、Alを0〜15%、LiOを4〜20%、NaOを1〜8%、CaOを0〜21%、MgOを0〜22%、Yを0〜16%、TiOを1〜15%、及び、ZrOを0〜10%を含有する。
【0033】
図9に示されるように、磁気ディスク用ガラス400は、表面410と裏面420とを有する。磁気ディスク用ガラス400の表面410は、上述のガラス表面の微細加工方法により形成された凸部510と凹部520とを有する。凸部510と凹部520の高低差は好ましくは10nm〜100nmであり、凸部510は周方向に連続して環状をなし径方向に例えば100nmピッチで同心円状に複数形成される。
【0034】
磁気ディスク用ガラス400の凸部510の表面近傍のアルカリ成分量は、図10に示されるように、凹部520の表面近傍のアルカリ成分量とほぼ同じである。また、凸部510の表面の算術平均粗さRaは、凹部520の表面の算術平均粗さRaとほぼ同じである。ここで、アルカリ金属イオンの濃度は、上述の通り、X線光電子分光法や、電子線マイクロアナライザにより測定することができる。
【0035】
磁気ディスクを製造するためには、以上の工程により得られたガラス上に磁性記録層を形成する。この場合、磁性記録層としては、例えば、コバルト(Co)系強磁性材料からなるものを用いることができる。特に、高い保磁力が得られるコバルト−プラチナ(Co−Pt)系強磁性材料や、コバルト−クロム(Co−Cr)系強磁性材料からなる磁性記録層として形成することが好ましい。なお、磁性記録層の形成方法としては、DCマグネトロンスパッタリング法を用いることができる。また、ガラス基板と磁性記録層との間に、適宜、下地層等を介挿させることが好ましい。これら下地層の材料としてはFeNi系合金、FeNb系合金、FeCo系合金、Ru系合金などを用いることができる。また、磁性記録層上には、磁気ヘッドの衝撃から磁気ディスクを防護するための保護層を設けることができる。この保護層としては、硬質な水素化炭素保護層を好ましく用いることができる。さらに、この保護層上に、PFPE(パーフルオロポリエーテル)化合物からなる潤滑層を形成することにより、磁気ヘッドと磁気ディスクとの干渉を緩和することができる。この潤滑層は、例えば、ディップ法により、塗布成膜することにより形成することができる。
【0036】
本発明のガラス表面の微細加工方法により製造した磁気ディスク用ガラス400によれば、磁気ディスクにディスクリートトラックを形成することができ、隣接する記録トラック間の干渉を防いで高記録密度化を図ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明のガラス表面の微細加工方法の実施例について説明する。
(実施例1)
初めに、アルミノリチウムシリケートガラスであるガラスを準備し、セリアスラリーあるいはコロイダルシリカスラリーを用いて研磨により平均表面粗さが10nm未満になるように研磨した。
【0038】
次に、カプトンテープにより所定領域をマスクした。
【0039】
次に、室温でpH2に調整した硝酸水溶液に30分間、ガラスを浸漬させて、マスクされていない領域の脱アルカリ処理を行った。マスクされていない領域(脱アルカリ処理がされた領域)のガラス表面近傍はアルカリイオンが抜けると共にその表面は少し削られ、ガラスの裏面を基準とした脱アルカリ処理された領域のガラスの厚さは、ガラスの裏面を基準としたマスクされた領域(脱アルカリ処理されなかった領域)のガラスの厚さよりも薄くなった。そして、脱アルカリ処理された領域のガラスの厚さと脱アルカリ処理されなかった領域のガラスの厚さには、20nmの段差ができた。
【0040】
次に、カプトンテープを剥がした。
【0041】
次に、コロイダルシリカスラリーを用いてガラスを3分間ポリッシングした。その結果、脱アルカリ処理されなかった領域のガラスが脱アルカリ処理された領域のガラスよりも多く削られ、脱アルカリ処理後のガラスの厚さ関係はポリッシングにより逆転した。即ち、脱アルカリ処理されなかった領域のガラスの厚さが脱アルカリ処理された領域のガラスの厚さに比べ薄くなった。そして、脱アルカリ処理されなかった領域のガラスの厚さと脱アルカリ処理された領域のガラスの厚さには、約100nmの段差ができた。このとき、脱アルカリ処理されなかった領域のガラスの表面近傍のガラス組成と、脱アルカリ処理された領域のガラスの表面近傍のガラス組成とは、同じであることを確認した。つまり、ポリッシング後は、脱アルカリ処理されなかった領域のガラスの表面近傍のアルカリイオンの濃度と、脱アルカリ処理された領域のガラスの表面近傍のアルカリ金属イオンの濃度とは同じであった。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同じガラスを準備し、実施例1と同様に一部領域をカプトンテープで被覆した。
【0043】
次に、実施例1とは異なり、40℃でpH2に調整した硝酸水溶液に30分間、ガラスを浸漬させて、マスクされていない領域の脱アルカリ処理を行った。実施例1と同様に、脱アルカリ処理がされた領域のガラス表面近傍はアルカリイオンが抜けると共にその表面は少し削られ、脱アルカリ処理された領域のガラスの厚さと脱アルカリ処理されなかった領域のガラスの厚さには、30nmの段差ができた。
【0044】
次に、実施例1と同様に、カプトンテープを剥がした。
【0045】
次に、実施例1と同様に、コロイダルシリカスラリーを用いてガラスをポリッシングした。このとき、ポリッシング時間は、実施例1とは異なり、30分間とした。その結果、脱アルカリ処理されなかった領域のガラスが脱アルカリ処理された領域のガラスよりも多く削られ、脱アルカリ処理後のガラスの厚さ関係はポリッシングにより逆転した。即ち、脱アルカリ処理されなかった領域のガラスの厚さが脱アルカリ処理された領域のガラスの厚さに比べ薄くなった。そして、脱アルカリ処理されなかった領域のガラスの厚さと脱アルカリ処理された領域のガラスの厚さには、約600nmの段差ができた。このとき、脱アルカリ処理されなかった領域のガラスの表面近傍のガラス組成と、脱アルカリ処理された領域のガラスの表面近傍のガラス組成とは、同じであることを確認した。つまり、ポリッシング後は、脱アルカリ処理されなかった領域のガラスの表面近傍のアルカリイオンの濃度と、脱アルカリ処理された領域のガラスの表面近傍のアルカリ金属イオンの濃度とは同じであった。
【0046】
(実施例3)
脱アルカリ処理のうち特にガラスを酸性液に浸漬するリーチングにおけるガラス組成、浸漬時間、温度、pHの関係を調べた。
先ず、表1に示す4つの組成のガラスを準備した。表1中の組成はmol%で示している。
【0047】
【表1】

【0048】
続いて、ガラスAを室温でpH2.0の硝酸に5分、10分、20分、30分、60分浸漬させたときのガラスAに形成された凹部の深さ(以下、リーチング深さと呼ぶ。)を測定した。また、ガラスAをpH3.0、4.0、7.0の硝酸に20分浸漬させたときのリーチング深さも測定した。測定結果を図11に示す。
【0049】
図11の結果から、pH7.0以上ではガラスAを60分以内にリーチングすることはできなかった。また、浸漬時間が長くなるほど、またpHが小さくなるほどリーチング深さが深くなっていることが分かる。従って、リーチングにおいてはpH7.0より小さいpHの酸性液を用いることが好ましく、酸性液のpHに応じて浸漬時間を調整することで所望のリーチング深さを有するガラスを得ることができることが分かった。特にpH5以下であれば確実にリーチングを行なうことができ、pH2のときのリーチング深さは、pH4の10倍以上、pH3の3倍近い値を示しており、pH2以下であることがさらに好ましいことが確認できた。また、硝酸温度を室温より高い70℃として同じ測定を行なったところリーチング深さの時間依存性は室温の場合の約10倍の値を示した。これにより、リーチング深さは酸性液の温度が高ければ高いほど深くなることが分かった。
さらに、このガラスAを用いて、硝酸の代わりに塩酸、硫酸、マレイン酸を用いて同じ測定を行なったところリーチング深さの時間依存性はほぼ同じ挙動を示した。一方、硝酸の代わりにリン酸、クエン酸、シュウ酸を用いて同じ測定を行なったところリーチング深さの時間依存性は硝酸の場合の約10倍の値を示した。これにより、リーチングは酸性液のpH、温度に依存するのみならず酸性液の種類にも依存することが分かった。
【0050】
次に、ガラスB〜Dも表2に示す条件でリーチング深さの測定を行なった。
【表2】

このガラスB〜Dの測定結果をガラスAの結果とあわせて図12に示す。
ガラスB〜DはガラスAに比べてリーチングが生じにくいが、酸性液のpHをより小さくしたり、酸性液の温度を上げたり、浸漬時間を長くすることでガラスAと同様にリーチング深さを制御することができることが確認できた。
【0051】
以上説明したように、本発明のガラス表面の微細加工方法によれば、実施例1、2で示したように部分的に脱アルカリ処理をした後に研磨処理を行なうことで、脱アルカリ処理された領域と脱アルカリ処理されなかった領域で凹凸の逆転現象が起こり、割れやラテラルクラックの発生を回避しながらミクロンオーダーだけでなくナノオーダーでの凹凸をガラス表面に形成することができる。また、実施例3で示したように、脱アルカリ処理は、例えばリーチングにより酸性液の種類、pH、温度、浸漬時間を調整することで所望の深さのリーチングを行うことができ、さらにその後の研磨処理の時間を適宜調節することで最終的に形成されるガラスの凹凸の高さを制御することができる。
【符号の説明】
【0052】
100 スライドガラス
210、510 凸部
220、520 凹部
400 磁気ディスク用ガラス
711 第1領域
712 第2領域
713 第3領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ酸化物を含有するガラスの表面に凸部を形成するガラス表面の微細加工方法であって、
凸部となるべき第2領域の表面に隣接する第1領域の表面を保護層で被覆する工程と、
前記第2領域の表面側からアルカリイオンを除去する工程と、
前記第1領域の表面から保護層を除去する工程と、
前記アルカリイオンが除去された第2領域の表面と前記保護層が除去された第1領域の表面とを研磨する工程と、を備えたことを特徴とするガラス表面の微細加工方法。
【請求項2】
前記第2領域の表面側からアルカリイオンを除去する工程は、前記第2領域の表面を酸性液にさらすものであることを特徴とする請求項1に記載のガラス表面の微細加工方法。
【請求項3】
前記酸性液は、PH≦5であることを特徴とする請求項2に記載のガラス表面の微細加工方法。
【請求項4】
前記ガラスはドーナツ状の磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス表面の微細加工方法。
【請求項5】
前記ガラスは、スライドガラスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス表面の微細加工方法。
【請求項6】
アルカリ酸化物を含有するガラスの表面に凸部を形成するガラス表面の微細加工方法であって、
凸部となるべき第2領域の表面に隣接する第1及び第3領域の表面を保護層で被覆する工程と、
前記第2領域の表面側からアルカリイオンを除去する工程と、
前記第1及び第3領域の表面を被覆している保護層を除去する工程と、
前記アルカリイオンが除去された第2領域の表面と前記保護層が除去された第1及び第3領域の表面とを研磨する工程と、を備えたことを特徴とするガラス表面の微細加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−163352(P2010−163352A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196971(P2009−196971)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】