説明

ガラス

【課題】太陽光に対して高い透過率を示し、熱的な寸法安定性も有しており、集光型太陽電池装置等の部材用途に好適な低温溶融性および熱間成型性に優れたガラスを提供する。
【解決手段】酸化物基準の質量%で、B成分、Al成分を含有し、B成分の含有量が30〜65%であり、Al/Bが0.18〜0.45であるガラス。より好ましくは、粘度が102.5dPa・sを示すときの温度が1000℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽光の透過率が高く、低温溶融が可能なガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
電力用太陽電池装置として、照射された太陽光を集光レンズで集光し、集光した太陽光を照射面積よりも小さい太陽電池素子の受光面で受光して電力を取り出す集光型太陽電池装置が実用化されている。
【0003】
集光型太陽電池装置の集光レンズは通常ガラスを加工して製造されるが、高い発電効率を実現するために、この集光レンズは太陽光に対しての高い透過率を示すことが求められる。
さらに、集光レンズ製造コスト低減のため、熱間成型にて種々形状のレンズを作製出来るよう、より低い温度でガラスが軟化、変形することが好ましい。しかしながら一方で、集光レンズとしての耐熱性は確保されていなければならず、熱的な寸法安定性も同時に求められる。
【0004】
特許文献1に記載のガラスは集光レンズ用途ではないが、ソラリゼーションが抑制された太陽電池用ガラス基板が開示されている。このガラスはSiO成分が多いため、溶融温度が高く、熱間成型には不向きである。
特許文献2に記載のガラスは耐ソラリゼーション性を有し、高い屈折率を有する光学ガラスが開示されているが、LaおよびGd含有量が多く、熱膨張係数が充分に低いとは言い難い。
【特許文献1】特開2008−222542号公報
【特許文献2】特開2007−106611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は太陽光に対しての高い透過率を示し、低温溶融性および熱間成型性に優れたガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、このような特性を満足する特定組成のガラスを見いだし、この発明を完成したものであり、その具体的な構成は以下の通りである。
【0007】
(構成1)
酸化物基準の質量%で、B成分、Al成分を含有し、B成分の含有量が30〜65%、Al/Bが0.18〜0.45であるガラス。
(構成2)
粘度が102.5dPa・sを示すときの温度が1000℃以下である構成1に記載のガラス。
(構成3)
酸化物基準の質量%で、
Al成分を5〜29%を含有する構成1または2に記載のガラス。
(構成4)
酸化物基準の質量%で、
ZnO成分を0〜15%、および/または
MgO成分を0〜15%を含有し、
ZnO成分およびMgO成分の合計含有率が1%以上、20%以下である構成1から3のいずれかに記載のガラス。
(構成5)
酸化物基準の質量%で、
LiO成分を0〜15%、および/または
NaO成分を0〜15%、および/または
O成分を0〜15%含有し
LiO成分、NaO成分、およびKO成分の合計の含有率が1%以上、15%以下である構成1から4のいずれかに記載のガラス。
(構成6)
酸化物基準の質量%で、
SiO成分を4.5〜30%含有する構成1から5のいずれかに記載のガラス。
(構成7)
酸化物基準の質量%で、
ZrO成分を0〜8%含有する構成1から6のいずれかに記載のガラス。
(構成8)
0℃〜50℃における平均線膨張係数が60×10−7−1以下である構成1から7のいずれかに記載のガラス。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば太陽光に対しての高い透過率を示し、低温で溶融することが可能であり、熱的寸法性に優れたガラスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のガラスについて説明する。なお、ガラスを構成する各成分の含有量について説明する場合、本明細書においては前記各成分は酸化物基準の質量%にて表現する。
ここで、「酸化物基準」とは、本発明のガラスの構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定して、ガラス中に含有される各成分の組成を表記する方法であり、この生成酸化物の質量の総和を100質量%として、ガラス中に含有される各成分の量を表記する。
【0010】
成分、Al成分を含有し、B成分の含有量が30〜65%、Al/Bが0.18〜0.45であることを特徴とする。
成分はガラス骨格を形成する成分であり、低温溶融性を実現させるため必須な成分であり、含有量の下限は好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、最も好ましくは40%以上である。ただし、添加量が多いと化学的耐久性が低下しやすくなるため、その含有量の上限は、好ましくは65%以下、より好ましくは63%以下、最も好ましくは62%以下である。
【0011】
また、B成分と同様にガラス骨格を形成するAl成分は、化学的耐久性および失透性を向上させる必須な成分であり、Al/Bを所定の比率で含有させることで低温溶融が可能である高透過性ガラスを実現することができる。その比率が0.18未満であるとガラスの化学的耐久性が損なわれるため、下限は好ましくは0.180以上、より好ましくは0.185以上、最も好ましくは0.190以上である。また、0.45を超えると低温溶融性が損なわれるため、上限は好ましくは0.450以下、より好ましくは0.430以下、最も好ましくは0.410以下である。
【0012】
前記Al成分は化学的耐久性および失透性を向上させる必須な成分であり、含有量の下限は好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上、最も好ましくは8%以上である。ただし、添加量が多いと低温溶融性が低下しやすくなるため、その含有量の上限は、好ましくは29%以下、より好ましくは27%以下、最も好ましくは26%以下である。
【0013】
なお、ガラス原料の溶融温度(単に溶融温度ともいう)とは低温溶融性の指標であり、原料を加熱して融液とするとき、その粘度が102.5dPa・sとなる時の温度をいう。測定は球引上げ式粘度計を用いて測定をすることができ、例えば有限会社オプト企業製BVM−13LHを用いて測定することができる。
また、平均線膨張係数は低熱膨張性の指標であり、JOGIS(日本光学硝子工業会規格)16−2003「光学ガラスの常温付近の平均線膨張係数の測定方法」に則り、温度範囲を0℃から300℃の範囲に換えて測定した値をいう。
また、ガラス転移点は熱間加工性の指標とすることができ、JOGIS(日本光学硝子工業会規格)08−2003「光学ガラスの熱膨張の測定方法」により測定した値である。この値が低いほど低い温度でガラスを変形させることが可能となり、ガラスの熱間加工性は優れている。
【0014】
ZnO成分は低温溶融性を向上させ、溶融温度の低下に対する平均線熱膨張係数の増加への寄与が小さい成分であり、任意で含有させることができる。ただし、含有量が大きくなると失透性が増大するため含有量の上限を15%以下とすることが好ましく、13%とすることがより好ましく、12%とすることが最も好ましい。
【0015】
MgO成分は低温溶融性を向上させやすくし、温度−粘度曲線の勾配を調整するための成分であり、任意で含有させることができる。ただし含有量が大きくなると、平均線膨張係数が大きくなるとともに、失透性が増大するため、その含有量の上限を15%以下とすることが好ましく、13%とすることがより好ましく、12%とすることが最も好ましい。
【0016】
ZnO成分およびMgO成分は低温溶融性を実現させるためにどちらか一方、または両方の成分を含有させることが好ましい。ZnO成分およびMgO成分の合計含有量の下限は好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上、最も好ましくは4%以上である。ただし、合計含有量が大きくなると失透性が増大するため含有量の上限は好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、最も好ましくは12%以下である。
【0017】
アルカリ金属酸化物であるLiO成分、NaO成分およびKO成分はガラスの溶融性を向上させやすくする成分であり、この効果を得るためにはこれらの成分から選ばれる1種以上の成分の合計含有量が1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、5%以上であることが最も好ましい。ただし、前記合計含有量が大きくなると熱膨張係数が大きくなりやすく、化学的耐久性が低下しやすいことから、合計含有量の上限は好ましくは15%、より好ましくは13%以下、最も好ましくは12%以下である。
LiO成分、NaO成分およびKO成分の各々の成分は上記の合計含有量に従う限りにおいて任意で含有させることができる。また、LiO成分、NaO成分およびKO成分の各々の成分の上限は熱膨張係数を小さくし、化学的耐久性を良好とする為に各々15%とすることが好ましく、13%とすることがより好ましく、12%とすることが最も好ましい。
【0018】
SiO成分はガラス骨格を形成する成分であり、化学的耐久性を向上させ、平均線膨張係数および透過率の調整に必須な成分であり、含有量の下限は好ましくは4.5%以上、より好ましくは6%以上、最も好ましくは7%以上である。ただし、添加量が多いとガラスの溶融温度が高くなるため、含有量の上限は好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、最も好ましくは22%以下である。
【0019】
ZrO成分は化学的耐久性を改善させる効果があり、任意で添加できる成分である。ただし添加量が多いと失透性が増大するため、その含有量の上限は、好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下、最も好ましくは6%以下である。
【0020】
As成分、Sb成分およびSnO成分はガラスの清澄剤として任意で添加できる成分である。ただし多量に加えても清澄効果は大きくならないため各々1%を上限とし、好ましくは0.5%以下である。
ただしこれらの成分は製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるために含有しないことが最も好ましい。
【0021】
CeO成分もまた清澄剤としての効果が期待される成分ではあるが、ガラスが着色してしまい、本発明の目的への貢献が少ないため、含有しないことが好ましい。
【0022】
PbO成分はガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があり、そのためのコストを要するため、本発明のガラスにPbOを含有させるべきでない。
【0023】
さらに本発明のガラスにおいては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Mo、Eu、Nd、Sm、Tb、Dy、Er等の各成分はガラスが着色してしまい、本発明の目的への貢献が少ないため、含有しないことが好ましい。
ただし、ここでいう含有しないとは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0024】
その他の成分については、本発明の主旨を損なわない程度であれば添加しても良いが、その総量は3%程度であることが好ましい。
【0025】
本発明のガラスは低温溶融性を示し、粘度が102.5dPa・sを示すときの温度が1000℃以下であるので、通常の溶融法で低コストに製造することができる。本発明のガラスのより好ましい態様においては粘度が102.5dPa・sを示すときの温度が970℃以下であり、最も好ましい態様においては粘度が102.5dPa・sを示すときの温度が950℃以下である。
【0026】
本発明のガラスの平均線膨張係数は0℃から50℃の範囲において40×10−7−1〜60×10−7−1であるので、太陽電池素子との熱膨張特性を近似させることができる。
【実施例】
【0027】
本発明の実施例について説明する。ガラスが酸化物基準で表わされた表1に示す組成比となるように珪砂、硼酸、酸化アルミニウム、亜鉛華、酸化マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化ジルコニウム等からなるガラス原料バッチを調製した。バッチは白金坩堝へ充填し、1200℃の電気炉により、5時間加熱溶融した。溶融したガラスを板状に成型し徐冷した。
【0028】
表1に本発明の実施例の酸化物基準の質量%で表わされたガラス組成、着色度、ソラリゼーション、0℃〜50℃における平均線膨張係数(α)、ガラス転移点、およびガラスの粘度が102.5dPa・sを示すときの温度(T(℃)atlogη=2.5)、着色度T5%(nm)、着色度T80%(nm)を示す。
【0029】
着色度T5%とはJOGIS(日本光学ガラス工業会規格)02−2003に規定された測定方法で得られる透過率5%を示す波長であり、着色度T80%とはJOGIS(日本光学ガラス工業会規格)02−2003に規定された測定方法で得られる透過率80%を示す波長であり、それぞれ整数第1位を四捨五入し、10nmを単位として表示するものである。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、B成分、Al成分を含有し、B成分の含有量が30〜65%、Al/Bが0.18〜0.45であるガラス。
【請求項2】
粘度が102.5dPa・sを示すときの温度が1000℃以下である請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
酸化物基準の質量%で、
Al成分を5〜29%を含有する請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
酸化物基準の質量%で、
ZnO成分を0〜15%、および/または
MgO成分を0〜15%を含有し、
ZnO成分およびMgO成分の合計含有率が1%以上、20%以下である請求項1から3のいずれかに記載のガラス。
【請求項5】
酸化物基準の質量%で、
LiO成分を0〜15%、および/または
NaO成分を0〜15%、および/または
O成分を0〜15%含有し
LiO成分、NaO成分、およびKO成分の合計の含有率が1%以上、15%以下である請求項1から4のいずれかに記載のガラス。
【請求項6】
酸化物基準の質量%で、
SiO成分を4.5〜30%含有する請求項1から5のいずれかに記載のガラス。
【請求項7】
酸化物基準の質量%で、
ZrO成分を0〜8%含有する請求項1から6のいずれかに記載のガラス。
【請求項8】
0℃〜50℃における平均線膨張係数が60×10−7−1以下である請求項1から7のいずれかに記載のガラス。

【公開番号】特開2011−230967(P2011−230967A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104031(P2010−104031)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】