説明

ガラス

【課題】ガラス組成中に鉛を含まなくても、放射線遮蔽性能が高いガラスを創案すること。
【解決手段】本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 15〜55%、B 0〜10%、SrO 0.001〜35%、ZrO+TiO 0.001〜30%、La+Nb 0〜10%を含有し、質量比BaO/SrOが0〜40、質量比SiO/SrOが0.1〜40であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスに関し、具体的には、放射線遮蔽性能が高いガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
X線画像撮像装置等の放射線装置を取り扱う施設では、技師等が当該装置を操作する際、放射線被曝しないように、高い放射線遮蔽性能を有する特殊ガラスが用いられている。従来まで、このような特殊ガラスの主要成分として、放射線吸収係数が高い鉛が使用されてきた。
【0003】
しかし、鉛は、人体や環境に対する負荷が高いとされている。よって、鉛を含むガラスを製造、或いは廃棄する際には、鉛を外部に流出させないような対策が必要になり、結果として、ガラスの処理コストが高騰するという問題があった。
【0004】
このような問題に鑑み、近年、鉛を含まないガラス、所謂、無鉛ガラスが開発されるに至っている。例えば、特許文献1には、BaOやSrOを含むケイ酸塩ガラスが開示されている。特許文献2には、ビスマスを含むガラスが開示されている。特許文献3には、酸化ガドリニウム等の希土類金属酸化物を含むガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−315490号公報
【特許文献2】国際公開第2007/043280号パンフレット
【特許文献3】特開2007−290899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の無鉛ガラスには、未だ改良の余地が残されていた。
【0007】
例えば、特許文献1に記載の無鉛ガラスは、上記の通り、BaOとSrOを含むものの、その含有量が少ないため、放射線遮蔽性能が十分であるとは言えない。
【0008】
また、特許文献2に記載の無鉛ガラスは、BiとSiOを各々10モル%以上含むが、BiとSiOの含有量が共に多くなると、分相や失透が生じて、ガラスの可視光透過性が低下し易くなる。また、ビスマスは、周期律表上で鉛の隣に位置するため、鉛の化学的特性と類似しており、人体や環境に対する負荷が懸念される。
【0009】
また、特許文献3に記載の無鉛ガラスは、高価な希土類酸化物(Gd等)を多量に含むため、原料コストが高騰するという問題がある。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑み成されたものであり、その技術的課題は、ガラス組成中に鉛を含まなくても、放射線遮蔽性能が高いガラスを創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意検討を行なった結果、ガラス組成を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 15〜55%、B 0〜10%、SrO 0.001〜35%、ZrO+TiO 0.001〜30%、La+Nb 0〜10%を含有し、質量比BaO/SrOが0〜40、質量比SiO/SrOが0.5〜40であることを特徴とする。ここで、「ZrO+TiO」は、ZrOとTiOの合量を指す。「La+Nb」は、LaとNbの合量を指す。
【0012】
第二に、本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 20〜50%、Al 0〜10%、B 0〜10%、MgO 0〜5%、CaO 0〜10%、SrO 1〜30%、BaO 0〜40%、ZnO 0〜12%、ZrO+TiO 0.001〜30%、La+Nb 0〜10%、Gd 0〜1%、LiO+NaO+KO 0〜15%、SnO 0〜3%、Sb 0〜3%を含有し、実質的にPbO、Biを含有せず、質量比BaO/SrOが0〜40、質量比SiO/SrOが1〜40であることが好ましい。ここで、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO、及びKOの合量を指す。
【0013】
第三に、本発明のガラスは、液相粘度が103.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶の析出する温度を測定した値を指す。
【0014】
第四に、本発明のガラスは、150keVのエネルギーにおける線吸収係数が0.9/cm以上であることが好ましい。ここで、「150keVのエネルギーにおける線吸収係数」は、例えば、PHOTXのデータを用いて、ガラス組成と密度から算出することができる。
【0015】
第五に、本発明のガラスは、屈折率ndが1.55〜2.3であることが好ましい。ここで、「屈折率nd」は、市販の屈折率測定器(例えば、島津製作所製の屈折率測定器KPR−2000)で測定可能である。
【0016】
第六に、本発明のガラスは、板状であることが好ましい。
【0017】
第七に、本発明のガラスは、フロート法で成形されてなることが好ましい。
【0018】
第八に、本発明のガラスは、104.0dPa・sにおける温度が1250℃以下であることが好ましい。ここで、「104.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0019】
第九に、本発明のガラスは、歪点が650℃以上であることが好ましい。ここで、「歪点」は、ASTM C336−71に基づいて測定した値である。
【0020】
第十に、本発明のガラスは、放射線遮蔽窓又は放射線遮蔽衝立に用いることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 15〜55%、B 0〜10%、SrO 0.001〜35%、ZrO+TiO 0.001〜30%、La+Nb 0〜10%を含有し、質量比BaO/SrOが0〜40、質量比SiO/SrOが0.5〜40である。上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を以下に説明する。なお、以下の含有範囲の説明において、%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を表す。
【0022】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は15〜55%である。SiOの含有量が多くなると、溶融性、成形性が低下し易くなり、また放射線遮蔽性能が低下し易くなる。よって、SiOの含有量は53%以下、52%以下、50%以下、49%以下、48%以下、特に45%以下が好ましい。一方、SiOの含有量が少なくなると、ガラスの網目構造を形成し難くなり、ガラス化が困難になる。またガラスの粘性が低下し過ぎて、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、SiOの含有量は20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、特に40%以上が好ましい。
【0023】
は、ガラスのネットワークを形成する成分である。Bの含有量は0〜10%である。Bの含有量が多くなると、温度変化に対して粘度変化が急激になって、ガラス板を成形し難くなると共に、ヤング率が低下し易くなる。よって、Bの好適な上限範囲は8%以下、7%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%未満、1%以下、特に1%未満である。
【0024】
SrOは、放射線遮蔽性能を高める成分である。SrOの含有量は0.001〜35%である。SrOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、失透性を抑制しつつ、放射線遮蔽性能を高める効果が大きい成分である。しかし、SrOの含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなる。よって、SrOの好適な上限範囲は30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、12%以下、10%以下、特に8%以下である。SrOの好適な下限範囲は0.01%以上、0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、3.5%以上、特に4%以上である。
【0025】
質量比SiO/SrOは0.5〜40である。質量比SiO/SrOが大き過ぎると、放射線遮蔽性能が低下し易くなる。一方、質量比SiO/SrOが小さ過ぎると、耐失透性が低下し易くなったり、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎる虞がある。よって、質量比SiO/SrOの好適な上限範囲は30以下、20以下、15以下、10以下、9以下、特に8以下である。質量比SiO/SrOの好適な下限範囲は1以上、2以上、2.5以上、特に3以上である。
【0026】
ZrO+TiOは、放射線遮蔽性能を高める成分である。ZrO+TiOの含有量は0.001〜30%である。ZrO+TiOの含有量が多くなると、耐失透性が低下し易くなったり、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎる虞がある。一方、ZrO+TiOの含有量が少なくなると、上記効果を得難くなる。よって、ZrO+TiOの好適な上限範囲は25%以下、20%以下、18%以下、15%以下、14%以下、特に13%以下である。ZrO+TiOの好適な下限範囲は0.01%以上、0.5%以上、1%以上、3%以上、5%以上、6%以上、特に7%以上である。
【0027】
ZrOは、放射線遮蔽性能を高める成分である。ZrOの含有量は0〜30%が好ましい。ZrOは、放射線遮蔽性能を高めつつ、液相温度付近の粘性を高める効果が大きい成分である。しかし、ZrOの含有量が多くなると、密度が高くなり過ぎたり、耐失透性が低下し易くなる。よって、ZrOの好適な上限範囲は20%以下、18%以下、15%以下、10%以下、7%以下、特に6%以下である。ZrOの好適な下限範囲は0.001%以上、0.01%以上、0.5%以上、1%以上、2%以上、特に3%以上である。
【0028】
TiOの含有量は0〜30%が好ましい。TiOは、放射線遮蔽性能を高める成分であるが、TiOの含有量が多くなると、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎたり、耐失透性が低下し易くなったり、透過率が低下する傾向にある。よって、TiOの好適な上限範囲は25%以下、15%以下、12%以下、特に8%以下である。TiOの好適な下限範囲は0.001%以上、0.01%以上、0.5%以上、1%以上、特に3%以上である。
【0029】
La+Nbの含有量は0〜10%である。La+Nbの含有量が多くなると、放射線遮蔽性能が高くなり易いが、その含有量が10%より多くなると、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下したり、原料コストが上昇して、ガラスの製造コストが高騰する虞がある。よって、La+Nbの好適な下限範囲は8%以下、5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。
【0030】
Laは、放射線遮蔽性能を高める成分である。Laの含有量が多くなると、耐失透性が低下し易くなり、また密度、熱膨張係数が高くなり過ぎる虞がある。よって、Laの含有量は10%以下、8%以下、5%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下が好ましい。
【0031】
Nbは、放射線遮蔽性能を高める成分である。Nbの含有量が多くなると、耐失透性が低下し易くなり、また密度、熱膨張係数が高くなり過ぎる虞がある。よって、Nbの含有量は10%以下、8%以下、5%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下が好ましい。
【0032】
質量比(La+Nb)/(ZrO+TiO)は0〜30が好ましい。質量比(La+Nb)/(ZrO+TiO)が大きい程、耐失透性の低下を抑制しつつ、放射線遮蔽性能を高めることが可能になるが、この値が大き過ぎると、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下したり、原料コストが高くなり過ぎる。よって、質量比(La+Nb)/(ZrO+TiO)の好適な上限範囲は20以下、10以下、5以下、2以下、1以下、0.1以下、特に0.01以下である。
【0033】
BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、ガラスの粘性を極端に低下させずに、放射線遮蔽性能を高める成分であり、その含有量は0〜40%が好ましい。BaOの含有量が多くなると、放射線遮蔽性能、密度、熱膨張係数が高くなり易い。しかし、BaOの含有量が40%を超えると、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなる。よって、BaOの好適な上限範囲は35%以下、32%以下、30%以下、29.5%以下、29%以下、特に28%以下が好ましい。但し、BaOの含有量が少なくなると、所望の放射線遮蔽性能を得難くなる上、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、BaOの好適な下限範囲は0.5%以上、1%以上、2%以上、5%以上、10%以上、15%以上、23%以上、特に25%以上が好ましい。
【0034】
質量比BaO/SrOは0〜40である。質量比BaO/SrOが大き過ぎると、耐失透性が低下したり、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎる虞がある。一方、質量比BaO/SrOが小さ過ぎると、放射線遮蔽性能が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下する虞がある。よって、質量比BaO/SrOの好適な上限範囲は30以下、20以下、10以下、8以下、特に5以下である。質量比BaO/SrOの好適な下限範囲は0.1以上、0.5以上、1以上、2.5以上、特に3以上である。
【0035】
上記成分以外にも、任意成分として、例えば以下の成分を添加してもよい。
【0036】
Alは、ガラスのネットワークを形成する成分である。Alの含有量は0〜20%が好ましい。Alの含有量が多くなると、ガラスの粘度が上昇したり、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、液相粘度が低下し易くなる。よって、Alの好適な上限範囲は15%以下、10%以下、8%以下、7%以下、特に6%以下である。なお、Alの含有量が少なくなると、ガラス組成の成分バランスを欠いて、逆にガラスが失透し易くなる。よって、Alの好適な下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、1%以上、特に3%以上である。
【0037】
MgOの含有量は0〜10%が好ましい。MgOは、ヤング率、歪点を高める成分であると共に、高温粘度を低下させる成分であるが、MgOを多量に添加すると、液相温度が上昇して、耐失透性が低下したり、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎる虞がある。よって、MgOの好適な上限範囲は5%以下、3%以下、2%以下、1.5%以下、1%以下、特に0.5%以下である。
【0038】
CaOは、高温粘度を低下させる成分である。CaOの含有量は0〜15%が好ましい。CaOの含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなり易く、更にCaOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなる。よって、CaOの好適な上限範囲は12%以下、10%以下、9%以下、8.5%以下、8%以下、特に7%以下である。なお、CaOの含有量が少なくなると、溶融性が低下したり、ヤング率が低下し易くなる。よって、CaOの好適な下限範囲は0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に4%以上である。
【0039】
質量比(MgO+CaO)/SrOは0〜20が好ましい。質量比(MgO+CaO)/SrOが大きくなると、放射線遮蔽性能を維持しつつ、ガラスを低密度化したり、高温粘度を低下させることが可能になるが、液相温度も高くなり易く、高い液相粘度を維持し難くなる。よって、質量比(MgO+CaO)/SrOの好適な上限範囲は10以下、8以下、5以下、3以下、2以下、特に1以下である。
【0040】
ZnOは、放射線遮蔽性能の向上に有効な成分である。ZnOの含有量は0〜12%が好ましい。ZnOの含有量が多くなると、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下したり、高温粘性が低下し過ぎて、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、ZnOの好適な上限範囲は10%以下、8%以下、4%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.1%以下、特に0.01%以下である。
【0041】
Gdの含有量は0〜12%が好ましい。Gdは放射線遮蔽性能を高める成分であるが、Gdの含有量が多くなると、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下したり、高温粘性が低下し過ぎて、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、Gdの好適な上限範囲は8%以下、4%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.1%以下、特に0.01%以下である。
【0042】
LiO+NaO+KOの含有量は0〜15%が好ましい。LiO+NaO+KOは、ガラスの粘性を低下させる成分であり、また熱膨張係数を調整する成分であるが、LiO+NaO+KOを多量に添加すると、ガラスの粘性が低下し過ぎて、高い液相粘度を確保し難くなることに加えて、アルカリ成分の溶出量が増加して、白やけとなって、ガラス表面に析出する虞がある。よって、LiO+NaO+KOの好適な上限範囲は10%以下、8%以下、5%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。なお、LiO、NaO、及びKOの各々の含有量は、好ましくは10%以下、8%以下、5%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。
【0043】
清澄剤として、As、Sb、CeO、SnO、F、Cl、SOの群から選択された一種又は二種以上を添加することができる。但し、As、及びF、特にAsは、環境的観点から、その使用を極力控えることが好ましく、各々の含有量は0.1%未満が好ましい。
【0044】
SnO、及びSbは、放射線遮蔽性能を高める効果もあり、放射線遮蔽性能を高めつつ、清澄効果を確保したい場合は、その含有量を各々0〜5%、0〜3%、0〜1%、0.01〜0.5%、特に0.05〜0.4%とすることが好ましい。
【0045】
PbOは、高温粘性を低下させる成分であるが、環境的観点から、その使用を極力控えることが好ましく、その含有量は0.5%以下が好ましく、実質的に含有しないこと、即ち1000ppm(質量)未満がより好ましい。
【0046】
Biは、高温粘性を低下させる成分であるが、環境的観点から、その使用を極力控えることが好ましく、その含有量は0.5%以下が好ましく、実質的に含有しないこと、即ち1000ppm(質量)未満がより好ましい。
【0047】
上記の成分以外にも、本発明の効果を大幅に損なわない限り、他の成分、例えばWO等を添加してもよい。
【0048】
各成分の好適な含有範囲を組み合わせて、好適なガラス組成範囲を構築することは当然に可能であるが、その中でも、放射線遮蔽性能、耐失透性、製造コスト等の観点から、特に好適なガラス組成範囲は以下の通りである。
【0049】
(1)ガラス組成として、質量%で、SiO 20〜50%、Al 0〜10%、B 0〜10%、MgO 0〜5%、CaO 0〜10%、SrO 1〜30%、BaO 0〜40%、ZnO 0〜12%、ZrO+TiO 0.001〜30%、La+Nb 0〜10%、Gd 0〜1%、LiO+NaO+KO 0〜15%、SnO 0〜3%、Sb 0〜3%を含有し、実質的にPbO、Biを含有せず、質量比BaO/SrOが0〜40、質量比SiO/SrOが1〜40。
【0050】
(2)ガラス組成として、質量%で、SiO 20〜50%、B 0〜8%、CaO 0〜10%、SrO 0.01〜35%、BaO 0〜30%、ZnO 0〜4%、ZrO+TiO 0.001〜20%、La+Nb 0〜3%、LiO+NaO+KO 0〜1%を含有し、質量比BaO/SrOが0〜20、質量比SiO/SrOが1〜15、質量比(MgO+CaO)/SrOが0〜10。
【0051】
(3)ガラス組成として、質量%で、SiO 35〜50%、B 0〜5%、CaO 0〜9%、SrO 1〜35%、BaO 0〜29%、ZnO 0〜3%、ZrO+TiO 1〜15%、La+Nb 0〜0.1%、LiO+NaO+KO 0〜0.1%を含有し、質量比BaO/SrOが0〜10、質量比SiO/SrOが1〜10、質量比(MgO+CaO)/SrOが0〜5。
【0052】
(4)ガラス組成として、質量%で、SiO 35〜50%、B 0〜3%、CaO 0〜9%、SrO 2〜20%、BaO 0〜28%、ZnO 0〜1%、ZrO+TiO 3〜15%、La+Nb 0〜0.1%、LiO+NaO+KO 0〜0.1%を含有し、質量比BaO/SrOが0〜8、質量比SiO/SrOが2〜10、質量比(MgO+CaO)/SrOが0〜3。
【0053】
(5)ガラス組成として、質量%で、SiO 35〜50%、B 0〜1%、CaO 0〜8.5%、SrO 4〜15%、BaO 0〜28%、ZnO 0〜0.1%、ZrO+TiO 6〜15%、La+Nb 0〜0.1%、LiO+NaO+KO 0〜0.1%を含有し、質量比BaO/SrOが0〜8、質量比SiO/SrOが2.5〜10、質量比(MgO+CaO)/SrOが0〜3。
【0054】
本発明のガラスにおいて、150keVのエネルギーにおける線吸収係数は、好ましくは0.9/cm以上、0.93/cm以上、特に0.95/cm以上である。150keVのエネルギーにおける線吸収係数が低下すると、放射線遮蔽性能が低下して、放射線遮蔽窓又は放射線遮蔽衝立に適用し難くなる。
【0055】
本発明のガラスにおいて、屈折率ndは、好ましくは1.55以上、1.58以上、1.6以上、1.63以上、1.65以上、特に1.66以上である。屈折率ndが低くなると、放射線遮蔽性能が低下する傾向がある。一方、屈折率ndが2.3超になると、空気−ガラス界面で光の反射率が高くなる。よって、屈折率ndは2.3以下、2.2以下、2.1以下、2.0以下、1.9以下、特に1.75以下が好ましい。
【0056】
本発明のガラスにおいて、液相温度は1200℃以下、1150℃以下、1130℃以下、1110℃以下、1090℃以下、1070℃以下、特に1050℃以下が好ましい。また、液相粘度は103.0dPa・s以上、103.5dPa・s以上、103.8dPa・s以上、104.0dPa・s以上、104.1dPa・s以上、104.2dPa・s以上、特に104.3dPa・s以上が好ましい。このようにすれば、成形時にガラスが失透し難くなり、フロート法でガラス板を成形し易くなる。
【0057】
本発明のガラスは、板状であることが好ましい。このようにすれば、放射線遮蔽窓や放射線遮蔽衝立に適用し易くなる。
【0058】
本発明のガラスは、フロート法で成形されてなることが好ましい。このようにすれば、未研磨で表面品位が良好なガラス板を安価、且つ大量に製造することができる。
【0059】
フロート法以外にも、ガラス板の成形方法として、例えば、ダウンドロー法(オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等)、キャスト法、プレス法、ロールアウト法等を採用することもできる。
【0060】
本発明のガラスにおいて、密度は5.0g/cm以下、4.8g/cm以下、4.5g/cm以下、4.3g/cm以下、3.7g/cm以下、特に3.5g/cm以下が好ましい。このようにすれば、ガラスが軽量化する。なお、「密度」は、周知のアルキメデス法で測定可能である。
【0061】
本発明のガラスにおいて、102.5dPa・sにおける温度は1400℃以下、1350℃以下、1300℃以下、1250℃以下、特に1200℃以下が好ましい。このようにすれば、溶融性が向上するため、泡品位に優れたガラスが得られ易く、ガラスの製造効率が向上する。
【0062】
本発明のガラスにおいて、104.0dPa・sにおける温度は1250℃以下、1200℃以下、1150℃以下、1110℃以下、特に1060℃以下である。このようにすれば、フロート法による成形において、成形温度を低下させることが可能になる。結果として、低温操業が可能になり、成形部に使用されている耐火物が長寿命化して、ガラス板の製造コストが低下し易くなる。
【0063】
本発明のガラスの製造方法を例示すると、まず所望のガラス組成になるように、ガラス原料を調合して、ガラスバッチを作製する。次いで、このガラスバッチを1000〜1600℃で溶融した上で、清澄した後、得られた溶融ガラスを板厚5〜30mm程度の板状に成形する。
【0064】
その後、必要に応じて、アニール(徐冷)、切断、研磨等の加工処理を施し、表面に機能性膜を形成する。なお、機能性膜として、防曇性膜、反射防止膜等を例示できる。機能性膜の形成には、スパッタ法、CVD法、PVD法等の蒸着法を用いることが好ましい。これらの方法によれば、膜厚の制御を容易に行うことができる。
【0065】
上記のようにして作製されたガラス板は、例えば、樹脂シート等と積層して、合わせガラスとしてもよい。合わせガラスは、例えば、二枚のガラス板で樹脂シートを挟み込むようにして接着することで作製することができる。ガラス板と樹脂シートを接着する方法として、例えば、樹脂シートとガラス板とを熱圧着する方法、液状樹脂をガラス板に塗布して挟み込んだ後に、熱や紫外線等の外部刺激によって当該液状樹脂を硬化させる方法等を採用することができる。樹脂として、例えば、ポリビニルブチラール、エチレン−酢酸ビニル、フッ素樹脂等を用いることができる。なお、合わせガラスであれば、放射線遮蔽窓や放射線遮蔽衝立の厚みを大きくすることができる。
【0066】
なお、上記の合わせガラスの作製方法は一例であり、その態様は任意に変更してもよい。例えば、二枚以上のガラス板を樹脂シートと交互に積層してもよい。また、合わせガラスの表面に更に樹脂シートを積層してもよい。最表面に樹脂層を形成すれば、合わせガラスの耐候性を高めることができる。
【0067】
次に、放射線遮蔽窓の作製方法を例示する。各種形状(例えば、板状、ブロック状、合わせガラス等)のガラスを金枠に固定した上で、この金枠をコンクリートや鉄の壁に設けられた開口部に嵌め込んだ後、金枠と開口部との間に目地剤等を充填する。なお、金枠に固定するガラスは、単数だけでなく、複数でもよい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0069】
表1〜3は、本発明の実施例(試料No.1〜28)及び比較例(試料No.29)を示している。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
まず表1〜3に記載のガラス組成になるように、ガラス原料を調合した後、得られたガラスバッチをガラス溶融炉に供給して1500〜1600℃で4時間溶融した。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して板状に成形した後、所定のアニール処理(450℃に設定した電気炉内で炉冷)を行った。最後に、得られたガラス板について、種々の特性を評価した。
【0074】
密度は、アルキメデス法を用いて測定した。
【0075】
150keVにおける放射線の線吸収係数は、ガラス組成と密度から算出した。なお、各元素の質量吸収係数としてPHOTXのデータを用いた。
【0076】
耐失透性は、溶融ガラスを流し出した際、得られたガラスが失透せずに透明であったものを○、部分的に乳白していたものを△、全体的に不透明であったものを×として評価した。
【0077】
表1〜3に示すように、試料No.1〜28は、何れも150keVにおける線吸収係数が0.9/cm以上であり、放射線遮蔽性能が良好であった。一方、試料No.29は、ガラス組成が所定範囲外であるため、放射線遮蔽性能が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のガラスは、例えば、放射線遮蔽窓又は放射線遮蔽衝立に利用可能であり、特に放射線施設における観察窓、X線を発する分析機器の観察窓等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO 15〜55%、B 0〜10%、SrO 0.001〜35%、ZrO+TiO 0.001〜30%、La+Nb 0〜10%を含有し、質量比BaO/SrOが0〜40、質量比SiO/SrOが0.5〜40であることを特徴とするガラス。
【請求項2】
ガラス組成として、質量%で、SiO 20〜50%、Al 0〜10%、B 0〜10%、MgO 0〜5%、CaO 0〜10%、SrO 1〜30%、BaO 0〜40%、ZnO 0〜12%、ZrO+TiO 0.001〜30%、La+Nb 0〜10%、Gd 0〜1%、LiO+NaO+KO 0〜15%、SnO 0〜3%、Sb 0〜3%を含有し、実質的にPbO、Biを含有せず、質量比BaO/SrOが0〜40、質量比SiO/SrOが1〜40であることを特徴とする請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
液相粘度が103.0dPa・s以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
150keVのエネルギーにおける線吸収係数が0.9/cm以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のガラス。
【請求項5】
屈折率ndが1.55〜2.3であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のガラス。
【請求項6】
板状であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のガラス。
【請求項7】
フロート法で成形されてなることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のガラス。
【請求項8】
104.0dPa・sにおける温度が1250℃以下であることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のガラス。
【請求項9】
歪点が650℃以上であることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載のガラス。
【請求項10】
放射線遮蔽窓又は放射線遮蔽衝立に用いることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載のガラス。

【公開番号】特開2012−254920(P2012−254920A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−112994(P2012−112994)
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】