説明

ガランタミンの口腔用製剤およびその使用

ガランタミンまたはその塩もしくは誘導体の口腔投与用のフィルム形医薬は、中枢神経系に作用するコリン作動性活性成分またはその種の活性成分の少なくとも2種の組合せ含む、少なくとも1つの層を含み、前記成分(複数を含む)は、ガランタミン、ガランタミンの薬学的に許容される塩類、ガランタミン誘導体類、およびそれらの薬学的に許容される塩類からなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガランタミンならびにその塩類および誘導体類の口腔投与用のフィルム形医薬に関するとともに、これらの医薬の疾病または疾病症状の治療ための使用に関する。
【0002】
ガランタミン(4a,5,9,11,12−ヘキサヒドロ−3−メトキシ−11−メチル[6H]−ベンゾフロ−[3a,3,2ef][2]ベンズアゼピン−6−オール)は、コリンエステラーゼ酵素の脳浸透抑制物質であるとともに、神経型ニコチンアセチルコリン受容体(NACHRs:nicotinic acetylcholine receptors)の修飾物質である。後者は、様々な神経経路、特にコリン作動性およびドーパミン作動性シナプス前末端に位置し、天然リガンドアセチルコリンによるか、または合成リガンドによって活性化することができる。低濃度においては、ガランタミンは、アセチルコリン上のこれらの受容体の応答を増大させる、いわゆるアロステリック効果増強リガンド(APL:allosterically potentiating ligand)として直接的にNACHRに作用する。この濃度範囲において、ガランタミンは、異化酵素(catabolic enzyme)アセチルコリンエステラーゼの抑制物質としてシナプス領域におけるアセチルコリンの濃度を同時に増加させるので、それは、特に顕著なコリン作動性神経伝達の増大を示す。
【0003】
このようなガランタミンの強いコリン作用は、アルツハイマー病における中枢コリン欠乏の治療に使用されている。臭化水素酸塩は、活性物質を即時に放出する錠剤(WO97/47304)と飲用溶液の形態で、軽症から中程度に重症のアルツハイマー型痴呆症の治療用に両者ともReminylの商品名の下に認可されている。ガランタミンおよびその塩類は、さらに別の様々な疾病および疾病症状の治療に使用または考慮されており、それには次のものが含まれる。
・灰白髄炎(poliomyelitis)、重症筋無力症(myasthenia gravis)、脳および脊髄傷害(Gaepel et al., Psychiat. Neurol. Med. Psych. 23, 712-718 (1971))における、またはその結果としての麻痺状態、
・慢性疲労症候群(EP−B−0584185)、
・精神分裂症(EP−B−0584285)、
・睡眠障害、特にいびきおよび無呼吸(WO97/22339)、
・時差ぼけの影響(EP−B−0764025)、
・中枢神経系の障害および向精神性物質の作用に起因する中毒(DE−A−10119862)、神経毒による被毒(DE−C−4342174)、
・アルコール中毒症(DE−C−4010079)またはニコチン依存症(DE−C−4301782、DE−A−10134038)、
・神経遮断麻酔に対する解毒剤として(Cozanitis et al., J. Amer. Med. Assoc. 240, 108 (1978))。
【0004】
ガランタミンは、一方では臭化水素酸塩(または別の薬理学的に許容できる塩の形態)として胃腸管から完全に吸収されるが、他方では血漿中で約5時間という比較的短い半減期を有するので、一日当り2回の経口投与方式を達成するためには、用量投与間の時間間隔のできる限り長い部分において、約10〜25ng/mlの治療上有効な範囲の血漿濃度を維持するために、不必要に高い用量を投与する必要があるので、直接放出(遅延なし)剤形を投与すると、ガランタミン血漿濃度の鋸歯状の時間経過が生じる。この投与方式を用いると、ガランタミン調剤の投与直後に、血漿濃度が無制御に明らかに40ng/mlを超えるまでに達し、これは、特に以前にガランタミンによる治療を受けていない患者においては、周辺的な、特に胃腸および心臓血管の、副作用(腸痙攣、下痢、低血圧)につながる可能性がある。
【0005】
したがって、ガランタミンの制御された遅延放出を伴う剤形を開発しようとする様々な試みがなされてきており、それらは、24〜48時間の期間にわたって血漿濃度のほぼ台形型の時間経過を達成し、それによって濃度プラトーを約24時間の間、治療に有効でありながら、ほとんどの患者に対して副作用がない範囲に維持することができるものである。遅延作用物質放出を伴う錠剤(WO−A−0038686に記載)が、現在、アルツハイマー型痴呆症の効能に対しての世界的認可のための認可段階にある。
【0006】
錠剤として、これらの剤形には、嚥下が困難な患者に対して好適でないこと、および液体と共に摂取する必要があることにおいて欠点がある。一方で、経皮治療システム(TTS:trans-dermal therapeutic system)も開発されており、これは、ガランタミンをその遊離塩基の形態で含有し(DE−C−4301783、DE−C−4010079)、かつ特にそのアルコール乱用の治療のための使用に関して臨床的に試験されている(DE−C−4010079)。アルコールに対する欲求の治療に最適な血漿濃度は、痴呆症の治療に必要される濃度と類似しているので、そのようなガランタミン含有TTSは、アルツハイマー病の治療において使用することもできる。直接放出を伴う製剤においては、ガランタミンの最高血漿濃度は30〜60分後に達成され、上述の遅延放出製剤の場合には、これは数時間後に発生する。
【0007】
しかしながら、そのような剤形は、特に耽溺行動の性質のために、長期間の節制に続いて繰り返し発生することの多い、制御困難な物質欲求を伴う場合には、数分間内に達成することのできるガランタミンの作用の開始を起こさせるのにも望ましいと思われる。その他の疾病または症状の治療においても、作用の迅速な開始が望ましいことがある。しかしながら、これは上述のTTSには当てはまらない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、アセチルコリン誘発伝導(acetylcholine-induced conduction)の欠如および/または神経型ニコチン受容体の調整不良を伴うか、またはそれに起因する疾病または疾病症状を治療するための、ガランタミン(またはその塩または誘導体)の投与のための剤形であって、一方では、許容できない周辺副作用を発生することなしに作用の迅速な開始が可能であり、他方では、既知の剤形、特に錠剤についての上述の欠点を回避する剤形を提供することであった。
驚くべきことに、これらの目的は、請求項1に記載の口腔投与用のフィルム形医薬に加えて、請求項13〜24に記述した、疾病および症状の治療に対するそのような医薬の使用によって達成されることがわかった。
【0009】
上記に照らして、確実に予想されることは、作用の開始が適用後の数分以内に生じる、迅速に放出する製剤を使用すると、相当の副作用が伴うことが避けられないことであった。驚くべきことに、活性物質が中枢神経系に対して短時間の内に消耗の効果を示しながら、許容できない周辺副作用の受け入れを余儀されることなく、口腔用剤形を構成できることがわかった。
【0010】
このことは、口腔投与用のフィルム形医薬の形態で、医薬の製剤を提供することによって達成される。「口腔投与(buccal administration)」の用語は、この医薬が活性物質(複数を含む)を口腔の領域内に放出し、それによって口腔粘膜を介しての活性物質(複数を含む)の吸収(すなわち、経粘膜吸収)を可能にすることを意味する。これによって、適用期間中における迅速な作用の開始が導かれ、ウェーハ(wafer)が唾液を吸収し、活性物質がウェーハから外部に口腔内へと放出されて、口腔粘膜を介して吸収される。適用部位の接触領域においては、ウェーハからその下にある粘膜へと活性物質を直接に送達することができる。活性物質の放出の開始は、適用を開始した後の、非常に短い遅れ時間(約10秒から5分)の後に行われる。
【0011】
特に好適であるのは、(活性物質貯蔵所として)生体適合性マトリックス中に水に溶け易いガランタミン塩(またはガランタミン誘導体の水に溶け易い塩)を含め、そのマトリックスを適用のために口腔内に導入する、上述のタイプの医薬である。好ましくは、前記マトリックスは唾液に可溶である。
【0012】
本発明による製剤には、患者が、それらの製剤をいつでも、すなわち、液体が利用できないとき、または患者が嚥下することが困難であるときでも、容易に自分自身に投与することができるという追加の利点がある。さらに、この医薬は、例えば、液体を必要としないために、錠剤と比較して目立つことなく摂取することが可能であり、このことによってこの医薬を摂取しようとする患者の意欲は相当に増大する。また、口腔粘膜へのフィルム形医薬の適用は、この医薬の厚さが小さいために、治療を受ける人が不快に感ずることがない。
さらに、本発明の医薬は、特に粘膜吸収剤形として、獣医学における薬物療法に有利に使用することができる。
【0013】
本発明のフィルム形医薬は、平坦剤形、好ましくは薄層板(thin lamellas)またはウェーハ形物体(「ウェーハ」とも呼ばれる)の形態であり、好ましくは、これらの全体層厚は、0.01〜5mmの範囲、特に好ましくは0.03〜2mmの範囲、さらに好ましくは0.05〜1mmの範囲である。このフィルム状医薬は経口で適用され、好ましくは、それが口腔粘膜(特に口腔または舌下適用、または歯ぐきもしくは口蓋の部位)に付着することを可能にするために、粘膜吸収特性を備える。
【0014】
ウェーハは高密度の物体として存在してもよく、この密度は、好ましくは0.3g/cmから1.7g/cmの間、特に好ましくは0.5g/cmから1.5g/cm、さらに好ましくは0.7g/cmから1.3g/cmである。好都合なことに、個々のウェーハの平坦な本体は、円形、楕円形、三角形から四角形もしくは多角形、または任意所望の幾何学的形状とすることができる。
本発明は、さらに、ウェーハの少なくとも1つの側面もしくは表面、または両側面に、複数の突起構造および/または凹所、例えばノブ、リブまたは溝などを設けた態様を含む。
【0015】
本発明の医薬は、好ましくは、活性剤ガランタミンを、水溶性の薬学的に許容される塩類の1種の形態、または複合塩の形態で含有し、臭化水素酸ガランタミンが特に好ましい。しかしながら、ガランタミンは、その遊離塩基の形態で医薬中に含有されてもよい。他に活性物質として考えられるものとしては、血液脳関門(blood-brain barrier)を通過することができるとともに、許容できない副作用を生じない場合には、ガランタミンの効果と同様な効果、または場合によっては、より強いまたはより弱い効果を有する、ガランタミン誘導体もある。同様に好適なものとして、そのような誘導体の薬学的に許容される塩類がある。
【0016】
好適なガランタミン誘導体およびその塩類は、例えば、WO−A−0174820、EP−B−0854873、EP−B−0853624、EP−B−0653427、EP−B−0648771、EP−B−0649846、または米国特許第5958903号、第6093815号、第6150354号、第6268358号、第631991号に記載されている。 ガランタミンは、例えば、EP−B−0815112に記載されている方法によって、ガランタス種の球根から分離することができる。代替的に、ガランタミンは、合成的に製造することもできる(例えば、Shimizu et al., Heterocycles 8, 277-282 (1977))。
前述の刊行物の内容は、本発明の開示に含めてある。
【0017】
本発明は、前述の活性物質のラセミ混合物の使用と、濃縮または分離された鏡像異性体の使用との両方を含む。
本発明による医薬は、任意選択で、前述の活性成分の2種以上の組合せを含有してもよい。活性物質含有層(複数を含む)に対する、合計活性物質含有量は、好ましくは0.1〜30重量%、特に好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは5〜15重量%である。
含有される活性物質用量は、好ましくは、1〜500mg、特に10〜100mgの範囲である。
【0018】
任意選択で、本発明のウェーハは、追加的に、ガランタミンとその誘導体から選択されない、アセチルコリンエステラーゼ抑制剤の群からのさらにもう1種の活性物質を含有しもよい。さらに、本発明のウェーハは、追加的に、アセチルコリンエステラーゼ抑制剤の群から選択されない、少なくとも1種の活性物質を含有してもよい。すなわち、例えば、ニコチン乱用の治療に使用されるウェーハは、追加的にアヘン拮抗薬を含有してもよい。
【0019】
フィルム状医薬の構造は、少なくとも1つの層を含む。この層、またはいくつかの層の少なくとも1つは、好ましくは、活性物質貯蔵所として働く、ポリマーマトリックスを有する。このポリマー含有率は、それぞれの層に対する重量で、好ましくは5〜95%、より好ましくは15〜75%、特に好ましくは20〜50%である。
【0020】
ポリマーマトリックスの製造に対して好ましいポリマー類は、特に、セルロースエーテル、特にエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、プロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、Naカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、セルロースエーテル類、セルロースアセテート、ポリビニルアルコール類(完全または部分的に加水分解)、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシドポリマー類、ポリエチレングリコール類、ポリウレタン、ポリアクリル酸、ポリアクリラート、ポリメタクリラート;ポリ(メチルビニルエーテル−無水マレイン酸);例えば、Gantrez(登録商標)−AN、−S、−ES、−MS、特にGantrez(登録商標)AN119、Gantrez(登録商標)AN117、Gantrez(登録商標)MS955(ISPによる)などのGantrez(登録商標)タイプ);アルギン酸塩、ペクチン類、ゼラチン;多糖類、特にデンプンおよびデンプン誘導体類、例えばタピオカデンプン;天然ゴムである。
【0021】
上述の成分は、組合せで用いるか、または2種以上の成分を含有する混合物として用いることもできる。
本発明の好ましい態様によれば、フィルム形医薬は、水性媒体に溶解する特性および/または水性媒体中で迅速に崩壊する特性を有するが、粘膜付着性ではない。生理的媒体の用語は、特に、水および唾液および粘液などの生理的液体を意味するものと理解される。
【0022】
迅速に崩壊するフィルムとは、水性媒体において温度37℃において2分以内、好ましくは60秒、特に好ましくは10秒以内に完全に、または本質的に完全に崩壊するようなフィルムであると理解される。
さらに好ましい態様によれば、フィルム形医薬は、粘膜付着特性を有し、適用期間中に、それら自体が口腔粘膜に付着することを可能にし、上述の条件下において、それらは、水性媒体中で不溶性または崩壊不能であるか、または水性媒体中で部分的にのみ可溶または崩壊可能である。
【0023】
「粘膜付着性」とは、フィルム状医薬の表面の少なくとも片側が、粘膜付着性であることを意味する。「部分的にのみ可能または崩壊可能」とは、適用の期間中(約2〜24時間)に、(放出された活性物質の量を度外視して)調剤の50重量%未満、好ましくは70重量%未満、特に好ましくは90%未満が非溶解状態または非崩壊状態において存在することを意味する。
【0024】
さらに好ましい態様によれば、フィルム形調剤は、粘膜付着性かつ水性媒体中で可溶または崩壊可能であること、または粘膜付着性かつ水性媒体中でゲル化または膨潤化が可能であることを特徴とする。この崩壊時間は、好ましくは10秒から12時間、特に好ましくは1分から1時間、さらに好ましくは3分から15分である。粘膜付着性ならびに崩壊および溶解特性は、主として、マトリックスを形成するポリマー(複数を含む)のタイプ(複数を含む)に加えて、これらのポリマーの関係部分(relative portions)によって決まる。
【0025】
以下に示すポリマー類は、好ましいマトリックス形成ポリマーと考えられ、これらは、(当業者に知られているその他の適当な原材料を除外することなく)本発明の粘膜付着性製剤の成分とすることができる。これらのポリマーは、単独または異なる組合せで使用することができる:ポリビニルアルコール類(例えばMowiol(登録商標))、セルロース誘導体類、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(例えば、Walocel(登録商標))、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルエチルセルロース;デンプンおよびデンプン誘導体類;ゼラチン(様々な種類);ポリビニルピロリドン;アラビアゴムおよびその他のゴム;プルラン;アクリレート類;ポリアクリルアミド。
【0026】
水溶性(または崩壊性)または/および膨潤性または/およびゲル形成性のポリマーとして好適なポリマーとしては、特に、次の群のものがある:デンプンおよびデンプン誘導体類、デキストラン;セルロース誘導体類(上述のとおり;ならびにカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース);ポリビニルアルコール類、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリラート類、ポリビニルピロリドン、ポリ酸化エチレンポリマー類、ポリアクリルアミド類、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲンおよびその他のゲル形成タンパク質;アルギン酸塩類、ペクチン類、プルラン、キサン、トラガカント(tragacanth)、キトサン、アルギン酸、アラビノガラクタン(arabinogalactan)、ガラクトマンナン(galactomannan)、寒天(agar-agar)、アガロース(agarose)、カラギーナン(carrageenan)、天然ゴム。前述の物質は、単独で、または異なる組合せで使用することができる。
【0027】
本発明によるフィルム形成医薬は、さらに、固体化発泡体の形態で製造することもできる。この態様は、特に、水性媒体中で迅速に崩壊するフィルム形調剤に対して好ましい。それらの大きな内部表面およびそれらの比較的剛性のある構成のために、一方で、それらは優れた「食感(mouthfeel)」が特徴であり、他方で、それらは特に迅速な活性物質放出を可能にする。これらの乾燥発泡体の密度は、好ましくは、0.01g/cmから0.9g/cmからの間、特に好ましくは0.08g/cmから0.4g/cmの間、特に0.1g/cmから0.3g/cmの間である。厚さを計算するために使用する体積は、ウェーハ本体の全体によって充填される体積によって定義される。そのような発泡体状ウェーハは、例えば、DE−A−10032456に記載されている方法によって製造することができる。
【0028】
本発明のフィルム形医薬の製造は、最初に、マトリックスポリマー(複数を含む)、活性物質(複数を含む)および場合によっては溶媒中または溶媒混合物中の補助剤を含む、被覆材(coating mass)を製造し、この材料を、例えば、ドクターナイフ、ローラ塗布、噴霧または押し出し方法によって、不活性支持体に被覆し、湿りのあるフィルムを得る。このフィルムを、要求に応じて、乾燥(または固体化)させて、所望の表面積(および所定の活性成分含有量)の用量単位に分ける。好ましくは、乾燥フィルムは、10cm未満、特に好ましくは8cm未満、さらに好ましくは4cm未満の大きさの表面区画に切り離す。上記の成分を含有する溶融物からの製造も考えられる。
【0029】
好ましい一態様によれば、本発明のウェーハは、活性物質(複数を含む)を、適用後30分以内、好ましくは15分以内、特に好ましくは5分以内に、口腔内に放出し、それによって有効な血漿レベルを得ることを特徴とする。
【0030】
さらに、前記フィルム形医薬には、任意選択で、二重層または多層構造を備えて、それらの層の少なくとも1層が活性物質を含有させる。個々の層は、次に示すパラメータの1つまたは2つ以上において互いに異なってもよい:ポリマー組成、活性物質の種類、活性物質濃度、溶解または崩壊特性、膨潤能力、粘膜付着特性、補助剤の含有量。多層フィルムは、例えば、最初に(説明したような)第1のフィルム層を製造し、乾燥後に、この層の上にさらに層をつけることによって得ることができる。代替手法として、2つ以上の層を別個の処理工程で製造して、次いで、これらの層を互いに積層してもよい。
【0031】
特に好ましい一態様によれば、ウェーハの活性物質含有層、またはそれらの層の少なくとも一方が、活性物質放出の遅延された時間過程を有する。これによって、活性物質を、好ましくは6時間まで、特に好ましくは12時間まで、最も好ましくは24時間までの期間にわたって放出することが可能となる。この放出の遅延は、当業者に知られている方策、例えば、それぞれのマトリックス層の組成(ポリマー、補助剤)、密度および水不溶性を決定することによるか、制御膜を設けることによるか、または活性物質をポリマー粒子内にカプセル化することによって達成することができる。上述の方策を用いることによって、活性物質放出の時間過程を様々に制御することができる。
【0032】
多層フィルム形調剤の場合には、これらは、好ましくは水溶性または崩壊性であって、かつ活性物質(複数を含む)を含有する、粘膜付着性層を有するのが好ましい。この層には、遠位(すなわち、口腔に向う)方向に、好ましくは遅延活性物質放出を示す、少なくとももう1つの層が続く。このようにして、一方では、作用の迅速開始、他方では長時間にわたっての維持用量の放出を達成することができる。
【0033】
さらに、迅速な初期の作用開始を確実するために、遠位層の少なくとも一層を、水性媒体に可溶または崩壊可能な層として設ける方策を用いてもよい。また、水および/または活性物質の拡散を減速または防止するために、複数層の1つ、好ましくは遠位層の1つ、特に最外層を、バリヤ層として構成してもよい。このバリヤは、水性媒体中で不溶性であるか、またはゆっくりとのみ溶解可能であり、好ましくは活性物質を含まない。
【0034】
本発明の製剤は、追加で1種または2種以上の補助剤、特に次に示す群からの補助剤を追加で含有してもよい:
充填剤(例えば、SiO、二酸化チタン、酸化亜鉛、チョーク、活性炭、トウモコロシデンプン);着色剤;
乳化剤(例えば、ポリエトキシ化ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエトキシ化脂肪アルコール、レシチン);
可塑剤(例えば、ポリエチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトールおよびその他の糖アルコール類、デクスパンテノール;ポリアルコール類、例えばグリセロール、プロパンジオール、ブタンジオール、ミグリオール(mygliol);高級アルコール類、例えばドデカノール、ウンデカノール、オクタノール、トリグリセリド類)、崩壊促進剤、崩壊剤(芯剤(wick agent)、例えばエアロジル(aerosil));
湿潤剤;甘味料および調味料(例えば、ペパーミント、ミント、メントール、樟脳);酸化防止剤;
保存剤(例えば、ソルビン酸とその塩類、ビタミンAおよびE)、pH調整剤;
【0035】
浸透促進物質および吸収促進物質(例えば、飽和または不飽和脂肪酸;脂肪酸エステル、特にメタノール、エタノールおよびイソプロパノールとのエステル、例えば、オレイン酸エチルエステル、オレイン酸メチルエステル、ラウリン酸エチルエステル、ラウリン酸メチルエステル、アジピン酸メチルエステル、アジピン酸エチルエステル;脂肪アルコール類およびそのエステル類、特に酢酸または乳酸とのエステル類、例えばエチルオレエート、エチルラウレート、エチルパルミタート;多価脂肪酸アルコール類、例えばプロパンジオール、またはポリエチレングリコール類;エトキシ化によって得られるソルビン酸脂肪酸エステル類とその誘導体類;エトキシ化脂肪アルコール類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ラウリン酸ジエタノールアミド;オレイン酸ジエタノールアミド;トコフェノール;ラウリン酸ヘキシルエステル;2−オクチルドデカノール、デクスパンテノール、イソプロピリデングリセロール、トランスキュトール(transcutol=エトキシジグリコール)、DEET、ソルケタル(solketal);メタノールおよびその他の精油類またはそのような油類の成分;ならびにそれらの組合せ)。
【0036】
上述の補助剤物質は、それぞれ活性物質含有層(複数を含む)に対して、特に1〜15重量%の合計濃度で、好ましくは50重量%までの合計濃度で含められる。添加する補助剤の種類および量を変更することによって、ウェーハの化学的または物理的特性、例えば、可撓性、粘膜付着性、崩壊能力、膨潤能力、拡散特性などに影響を与えることが可能である。
【0037】
本発明は、アセチルコリン誘発伝導の欠如および/または神経型ニコチン受容体の調整不良に関連または起因する疾病または症状を治療するための、活性物質(複数を含む)の経粘膜投与用のフィルム形成口腔用医薬の製造のための、ガランタミン、薬学的に許容されるガランタミンの塩類、ガランタミン誘導体およびそれらの薬学的に許容される塩類を含む群から選択される、中枢神経系に作用する少なくとも1種のコリン作用活性物質の使用を包含する。
【0038】
さらに、本発明は、アセチルコリン誘発伝導の欠如および/または神経型ニコチン受容体の調整不良に関連または起因する疾病または症状を治療するための、活性物質(複数を含む)の経粘膜投与用のフィルム形成口腔用医薬の製造のための、ガランタミン、薬学的に許容されるガランタミンの塩類、ガランタミン誘導体およびそれらの薬学的に許容される塩類を含む群から選択される中枢神経系に作用する少なくとも1種のコリン作動性活性物質を含有する、フィルム形口腔用医薬の使用を含む。
【0039】
本発明によるフィルム形調剤は、特に、以下の疾病および症状の医薬療法に対して好適である:
(その発現および段階のすべてにおける)アルツハイマー病、特にそれに関連する記憶障害(アルツハイマー型痴呆症);さらに、ダウン症候群、後期ダウン症候群(特に痴呆症、知覚能力失調);その他の原因を有する記憶障害。
特に灰白髄炎(poliomyelitis)、重症筋無力症(myasthenia gravis)、脳および脊髄傷害、多重硬化症、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、溢血(apoplexy)、頭蓋脳損傷(cranio-cerebral trauma)、腫瘍疾病の場合、またはその結果としての神経疾病または症状。
【0040】
慢性疲労症候群、精神分裂症;躁病;
睡眠障害、特にいびきおよび無呼吸;
時差ぼけの影響、ならびにその他の体機能の生理的リズム失調;
向精神性物質の作用に起因する中枢神経系の障害、特にそのような物質による中毒;神経毒または化学兵器薬剤(特に有機燐酸物質)による被毒;
向精神性物質の作用の結果として、あるいは耽溺性物質、麻薬または医薬の不定期もしくは慢性使用または乱用の結果として、あるいは医薬の意図的使用、特に医薬の反復的または長期的使用の副作用として、あるいは急性中毒の結果として、あるいは有毒物質の慢性作用の結果として発生する、中枢神経系の障害;特に記憶障害、ならびに記憶能力の低下、知覚障害、運動連係障害;
アルコール中毒症またはニコチン依存症、その他の化学物質の乱用;特にアルコールに対する欲求低減、またはニコチンに対する欲求低減のための治療。
【0041】
これらの治療目的で、ガランタミン(またはその誘導体)を―好ましくは、迅速放出、フィルム形口腔用剤形で―それぞれの乱用症状を中和する別の治療活性薬と組み合わせて、例えば、(DE−A−10134038に記載のような)ニコチン乱用治療のための麻酔薬拮抗薬と組み合わせて、または(DE−A−10129265に記載のような)アルコール乱用の処理の治療のために抗興奮作用のある物質と組み合わせて、それぞれに好適な剤形で、投与することも可能である。前記の別の活性物質は、ガランタミン(またはその誘導体)と組み合わせて、本発明によるウェーハ中に含めてもよい。
【0042】
本発明のウェーハは、さらに、神経遮断麻酔の場合には解毒処理のために使用することもできる。
さらに、本発明によるウェーハは、本明細書において明白に述べていない、別の治療処置目的に対しても使用することができる。
【0043】
本発明は、さらに、上記の疾病の1種、または上記の症状の1種を患う人、あるいはその他の理由で中枢神経系に作用するコリン作動性薬剤による治療を必要とする人の治療方法を含む。この目的で、治療しようとする人に、上述のようなフィルム形医薬の形態で、ガランタミン、ガランタミンの薬学的に許容される塩類、ガランタミン誘導体、およびそれらの薬学的に許容される塩類を含む群から、中枢神経系に作用する少なくとも1種のコリン作動性薬剤の治療的に有効な用量が口腔投与される。
【0044】
投与は、フィルム形調剤を口腔内に導入すること(口腔投与、舌下投与)によって達成され、粘膜付着性フィルムの場合には、調剤を頬粘膜もしくは歯肉粘膜、または口腔粘膜のその他の領域(例えば、口蓋または舌下)に貼り付けることによって達成される。
【0045】
活性物質含有量、放出速度、崩壊特性および個々に必要とされる用量に応じて、好ましくは2〜24時間、特に6〜12時間の間隔で適用を繰り返す。
投与されるガランタミン(および/またはガランタミン誘導体(複数を含む))の日用量は、その人の体重およびその他の因子に応じて、10〜750mg、好ましくは50〜500mgの間である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガランタミンまたはその塩もしくは誘導体の口腔投与用のフィルム形医薬であって、中枢神経系に作用するコリン作動性活性薬剤またはそのような活性薬剤の少なくとも2種を含む、少なくとも1つの層を含み、前記物質(複数を含む)は、ガランタミン、ガランタミンの薬学的に許容される塩類、ガランタミン誘導体、およびそれらの薬学的に許容される塩類を含む群から選択される、前記フィルム形医薬。
【請求項2】
前記層または前記層の少なくとも1つが、活性物質貯蔵所の役割をするポリマーマトリックスを有し、ポリマー含有量が、5〜95重量%、好ましくは15〜75重量%、特に好ましくは20〜50重量%であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム形医薬。
【請求項3】
水性媒体に可溶であるか、または/および水性媒体中で迅速に崩壊するが、粘膜付着性ではないことを特徴とする、請求項1または2に記載のフィルム形医薬。
【請求項4】
粘膜付着性であるが、水性媒体中で不溶もしくは部分的にのみ可溶または崩壊可能であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム形医薬。
【請求項5】
粘膜付着性であるとともに、
水性媒体に可溶もしくは崩壊可能であるか、または
水性媒体中でゲル化もしくは膨潤が可能であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム形医薬。
【請求項6】
適用後30分以内、好ましくは15分以内、特に好ましくは5分以内に、有効な血漿レベルが達成する量のそれに含有された活性物質(複数を含む)を口腔内に放出することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のフィルム形医薬。
【請求項7】
少なくとも1つの層が活性物質を含有する、二層または多層の構造であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のフィルム形医薬。
【請求項8】
前記層の少なくとも1つが、遅延活性物質放出を行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のフィルム形医薬。
【請求項9】
活性物質が、それぞれ活性物質含有層(複数を含む)に対して、0.1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のフィルム形医薬。
【請求項10】
医薬が、好ましくはアセチルコリンエステラーゼ抑制剤の群から選択される、少なくとも1種のさらに別の薬学的に許容される活性物質と組み合わせて、ガランタミンまたはガランタミンの塩もしくは誘導体を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のフィルム形医薬。
【請求項11】
その層厚が0.01〜5mm、好ましくは0.03〜2mm、特に好ましくは0.05〜1mmであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載のフィルム形医薬。
【請求項12】
充填剤、着色剤、乳化剤、可塑剤、崩壊促進剤、崩壊剤(芯剤)、湿潤剤、甘味料および調味料、保存剤、pH調整剤、浸透強化物質および酸化防止剤を含む群から選択される、1種または2種以上の補助剤を含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のフィルム形医薬。
【請求項13】
ガランタミン、ガランタミンの薬学的に許容される塩類、ガランタミン誘導体、およびそれらの薬学的に許容される塩類からなる群から選択される、中枢神経系に作用する少なくとも1種のコリン作動性活性薬剤の使用であって、アセチルコリン誘発伝導の欠如および/または神経型ニコチン受容体の調節不良に付随または起因する疾病または疾病症状を治療するための前記活性物質(複数を含む)の経粘膜投与を意図するフィルム形口腔用医薬の製造のための、前記使用。
【請求項14】
フィルム形医薬が、請求項1から12に記載の医薬であることを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
疾病がアルツハイマー病であること、または症状がアルツハイマー病の過程で発生する記憶障害であることを特徴とする、請求項13または14に記載の使用。
【請求項16】
前記治療が、アルコール乱用の治療であり、特にアルコールへの欲求を低下させるための処置であるか、またはニコチン乱用の治療、特にニコチンに対する要求を低下させるための処置であることを特徴とする、請求項13または14に記載の使用。
【請求項17】
前記処置が、神経遮断麻酔に続く解毒処置であることを特徴とする、請求項13または14に記載の使用。
【請求項18】
前記処置が、化学物質の乱用、またはそのような物資への依存の治療であるか、特に向精神性物質による中毒の治療であることを特徴とする、請求項13または14に記載の使用。
【請求項19】
前記症状または疾病が、時差ぼけの症状、またはその他の体機能の生理的リズムの失調の症状であることを特徴とする、請求項13または14に記載の使用。
【請求項20】
前記症状または疾病が、慢性疲労症候群または睡眠障害であることを特徴とする、請求項13または14に記載の使用。
【請求項21】
前記疾病が、精神分裂病または躁病であることを特徴とする、請求項13または14に記載の使用。
【請求項22】
前記疾病または症状が、神経性疾患および症状、特に麻痺症状であることを特徴とする、請求項13または14に記載の使用。
【請求項23】
前記医薬が、人または他の脊椎動物における、耽溺性物質、麻薬または医薬の不定期もしくは慢性使用または乱用に起因する向精神性物質の作用の結果として、あるいは医薬の意図的使用、特に医薬の反復的または長期的使用の副作用として、あるいは急性中毒の結果として、あるいは有毒物質の慢性作用の結果として発生する、中枢神経系の障害の治療のために使用されることを特徴とする、請求項13または14に記載の使用。
【請求項24】
症状が、知覚障害、特に記憶障害、ならびに記憶能力低下、認知障害、運動連係障害を含む群からの症状であることを特徴とする、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
請求項13〜24のいずれかに記載の疾病、または請求項13〜24のいずれかに記載の症状の1種を患う人、あるいは1種または2種以上の化学物質への依存によって影響を受けた人のための治療方法であって、治療を受ける人に、フィルム形医薬の形態で、ガランタミン、ガランタミンの薬学的に許容される塩類、ガランタミン誘導体類、およびそれらの薬学的に許容される塩類を含む群から中枢神経システムに作用する、少なくとも1種のコリン作動性活性物質の治療的に有効な用量を口腔投与する、前記方法。
【請求項26】
請求項1〜12のいずれか1項に従って、フィルム形医薬を使用することを特徴とする、請求項25に記載の方法。

【公表番号】特表2007−509031(P2007−509031A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523531(P2006−523531)
【出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004325
【国際公開番号】WO2005/027870
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(506056549)ヤンセン ファーマスーティカ エヌ.ファウ. (1)
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA N.V.
【住所又は居所原語表記】Turnhoutseweg 30, B−2340 Beerse, Belgium
【Fターム(参考)】