説明

ガレクチン−3またはトロンボスポンジン−2のレベルを定量することによって心不全を発症する危険性がある対象を同定する方法

【課題】鬱血性心不全のごとき高血圧性終末器官損傷を発症する危険性のある対象を同定する方法の提供。
【解決手段】高血圧性終末器官損傷を発症する危険性がある患者の末梢血漿試料について、非筋細胞マーカーであるガレクチン−3またはトロンボスポンジン−2のレベルを、mRNAまたは蛋白レベルで測定する方法。また、該疾患の予防・治療用医薬の製造のための、ガレクチン−3またはトロンボスポンジン−2の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鬱血性心不全のごとき高血圧性終末器官損傷を発症する危険性のある対象を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鬱血性心不全(heart failure; HF)は一般的であるが、特に、高齢者において、重篤かつ複雑な臨床症例であり、低下した心収縮機能および減少した運動耐性で特徴付けられ、しばしば心臓血管致死に至る患者の漸進的衰退をもたらす。かくして、大勢の患者が、診断後1から5年以内に死亡している。しかしながら、深刻な人数の患者が生命を脅かす合併症の発症まで進行しているのに、他の者は長期間安定している。
【0003】
心不全のごとき高血圧性終末器官損傷を発症する危険にある患者の早期同定は急性進行を防止するかもしれないので、心不全を発症しそうな患者を、それが発症する前に、同定することが可能であることが好ましい。また、心不全に罹患し、重篤な合併症を発症する危険にある患者を同定することができることが好ましい。
【0004】
現行の方法は、心不全を信頼性よく排除するが、心不全の存在を信頼性よく証明することや、すでに発症した心不全の成り行きを予想することもできず、あるいは、高価な機器および特訓された人を必要とする。
【0005】
それゆえ、心不全が開始する可能性を予想し、すでに発症した心不全の成り行きを予想するための単純かつ信頼性のある方法に対する要求が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、心不全のごとき終末器官損傷を発症する特別な危険にあるか、または、心不全の合併症を発症する特別な危険にある患者を同定できる方法を提供することにある。同定後、それらの患者は、例えば、心不全またはその合併症が発症する前に処置することができ、それは臨床的に非常に重要である。
【0007】
これは、高血圧性終末器官損傷を発症する危険にある対象を同定する方法を提供する本発明により達成され、その方法は、以下の:
(a)対象の生体試料を採取し;
(b)該試料中の少なくとも1の非筋細胞マーカーのレベルを定量し;
(c)該マーカーのレベルを標準レベルと比較し;
(d)該マーカーのレベルが高血圧性終末器官損傷を発症する危険を示すか否かを決定するステップを含む。
【0008】
本発明にいたる調査において、肥大した心臓が不全となりそうであるかを予想するのに用いることができる特定のマーカーが同定された。
【0009】
高血圧症が心臓肥大を引き起こし、それが心不全の最も重大な危険因子であることは一般的に知られている。しかしながら、全ての肥大心臓が最終的に不全となるわけではない。これらの観察は、代償された心肥大から不全にいたる進行の間に、肥大を引き起こすメカニズムに加えて、さらなるメカニズムが参画していることを示唆する。最近の研究は、心肥大に内在する多くの分子または細胞変化を報告するが[Lorell BH et al., Circulation 102: 470-479, 2000; Panidis et al., J Am Coll Cardiol. 3: 1309-1320, 1984]、心不全に寄与するさらなる因子が今でも依然として不明のまま残されている。
【0010】
Boluytらは、例えば、心不全の自発性高血圧ラット(spontaneously hypertensive rat; SHR)において細胞外基質(extracellular matrix; ECM)成分をコードする遺伝子のアップレギュレーションを立証した[Boluyt et al., Casrdiovasc Res. 46: 2399-249, 2000; Hypertension 30: 1362-1368, 1997; Cardiovasc Res. 30: 836-840, 1995; Eur Heart J. 16 suppl. N: 19-30, 1995]。しかしながら、これらの遺伝子の過剰発現が心不全の顕在的な臨床的症状に先行していたのかどうか、また、それらの過剰発現がすでに発症した能動的不全の過程の結果であったのかどうかは明らかではない。
【0011】
いくつかの他のバイアスされていない手法も採用され、心不全に特異的なメカニズムが同定されている[Korstin S et al., Circ Res. 92: 715-724, 2003; Hein S et al., Circulation 107: 984-991, 2003]。
【0012】
しかしながら、これらの以前の研究は、しばしば、最終段階かつ薬物治療した心筋と正常心筋とを比較する。それゆえ、得られた差異は、不全およびその治療に対して二次的なものであり、その研究は、代償された肥大心臓の不全をもたらし、危険にある患者を同定するためのマーカーとして用いることができる因子を同定しない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にいたる調査において、不全となりつつある肥大心臓由来の多数の遺伝子の遺伝子発現プロファイルが代償されている肥大心臓と比較された。かくして、遺伝子は、不全となりつつある肥大心臓対代償されたものとで、異なって発現された。特に、本発明は、特定の非心筋遺伝子が疾患心臓組織において異常発現されるという発見に基づく(実施例1および2)。
【0014】
本発明によれば、非心筋性マーカーを使用する。すなわち、心筋以外の細胞由来のマーカーである。これは、本発明の方法が、ストレスを受けた心筋において生じる既知の心筋変化の他のプロセスを「プローブ」するという利点を有する。これは、心不全を診断のみならず、既知の心不全の患者を連続的にモニターする、すなわち、主たる不利なイベントを告知するであろう不利な非心筋プロセス(例えば、炎症、瘢痕等)が生じるかどうかをモニターする機会も開く。
【0015】
本発明の方法によれば、生体試料を個々の患者から採取する。引き続き、その試料中の1以上のマーカーのレベルをよく知られた方法で測定する。典型的に、そのレベルを標準レベルと比較して、そのマーカーのレベルがその個人が心不全に進行する可能性を示すかどうかを決定する。この標準レベルは、健康な対象におけるそのマーカーのレベルに基づく。そのマーカーのレベルが標準レベルよりも上昇していれば、その対象はCFHを発症するかまたは心不全の合併症を発症する危険にある。
【0016】
生体試料は、血液、血漿、血清、尿等のごとき体液、または、心臓バイオプシーのごとき組織試料のいずれかの試料である。しかしながら、本発明の好ましい具体例によれば、生体試料は末梢血由来の血漿試料である。末梢血試料は患者から簡単に採取でき、カテーテル法のごとき複雑な非浸襲性手順も必要ない。生体試料は、よく知られた技術に準じてプロセスされて試験用試料が調製される。
【0017】
本発明の好ましい具体例によれば、マーカーは蛋白質である。蛋白質のレベルは、当該蛋白質に対する特異的抗体を用いる免疫学的方法のごとき単純かつ信頼性ある方法によって容易に定量できる。
【0018】
好ましくは、蛋白質は、ガレクチン−3である。ガレクチン−3のレベルは不全しそうな心臓において早期かつ特異的に発現されることが立証されているからである。
【0019】
本発明のもう1つの好ましい具体例において、蛋白質はトロンボスポンジン−2である。TSP2の増大した心臓発現が、明らかな心不全に進行しそうな肥大心臓を同定することが立証されている。
【0020】
それらのマーカーのレベルはいずれかのよく知られた適当な方法によって定量することができる。好ましくは、マーカーのレベルは、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって測定し、かくして、単純で、再現性があり、かつ、信頼性のある方法を提供する。
【0021】
本発明は、さらに、鬱血性心不全のごとき高血圧性終末器官損傷を発症する危険にある対象を同定するための1以上の非心筋マーカーの使用に関する。いくつかの非心筋マーカーを本発明により用いる。好ましくは、マーカーは、ガレクチン−3および/またはトロンボスポンジン−2である。
【0022】
本発明により同定されたマーカーは、さらに、本発明、および/または高血圧性終末器官損傷の治療、特に鬱血性心不全の予防および/または治療に用いることができる。例えば、ガラクチン−3の例えば抗体による阻害、および/または、TSP−2の適当なモジュレーターによる活性化が、心不全の発生を防ぐのに有益であろう。それゆえ、本発明は、さらに、高血圧性終末器官損傷の予防および/または治療用の医薬の製造のためのガラクチン−3および/またはそのモジュレーターの使用に関する。本発明は、さらに、高血圧性終末器官損傷の予防および/または治療用の医薬の製造のためのトロンボスポンジン−2の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、以前報告された統計的プロトコルの実行およびデータマイニングのための包括的カットオフのステップを示すフローチャートである。
【図2】図2は、10週齢のラットから採取した心筋バイオプシーにおける4つの選択した遺伝子のmRNA転写物の発現を定量するリアルタイムPCRの結果を示す。(a)TSP2は、17週間の実験期間中代償されたままのラットと比較して、後に急性心臓代償不全になるラットにおいて著しく過剰発現されている。(b)オステオアクチビン発現である。(c)コラーゲンVI発現である。(d)脳内ナトリウム排泄増加ペプチドの発現レベルである。これらのデータは、ハウスキーピング遺伝子に対して正規化した。Comp、代償;Decom、代償不全。*、p<0.01 代償対代償不全群;#、p<0.05 SD対Ren−2ラット;各群 n=4。
【図3】図3は、心筋梗塞の誘発後のマウスの生存率を示す。術後、TSP−2不存在マウス(点線)は72時間以内に全て死亡した。手術直後の死亡を除けば、野生型マウス(実線)では死亡は観察されなかった(n=22)。
【図4】図4は、第0日およびMI48時間後の心筋コラーゲン含有量の濃度分析の結果を示す棒グラフである(1切片あたり10箇所の無作為視野)。TSP−2不存在マウスは、野生型マウスと比較して、MI48時間後、反応性線維症形成の増加がなかった。*、p<0.01、Mi48時間後の野生型対不存在型株;野生型マウスにおける第0日目対MI48時間後。
【図5】図5は、心筋梗塞を起こした左心室壁の写真および電子顕微鏡像を示す。血管周辺の無傷のマトリックスを示すヘマトキシリン(Haematoxyline)/エオシン(Eosin)染色切片であり、野生型マウスでは間質性出血の証拠はない(a)。TSP−/−マウスにおける、広範囲にわたる組織破壊と出血(*)(b)。心筋梗塞を起こした左心室壁(野生型株)の電子顕微鏡像(c)。かなり良好に維持された血管およびマトリックス構造に注目。TSP−2不存在マウスからの切片は間質領域において心筋マトリックスの広がった損傷および出血(*)を示した(d)。
【図6】図6は、HF−S、HF−RおよびARB処理ラットの血流力学パラメータを示す。ARB投与(7〜11週からカンデサルタン0.05mg/kg/日)有無のRen−2トランスジェニックラットの血流力学評価。A、LVW/BW(%)、左心室肥大の代表値。B、LW/BW(%)、鬱血性心不全の発症を示す。C、LVEDPは拡張期機能障害の程度を示す。HF−SおよびHF−R動物の双方は、左心室肥大を有していた。高線維症形成スコアの動物は高めのLW/BWおよびLVEDPを有していた。これらのパラメータは犠牲前に測定した。HF−SおよびHF−Rにつき各々N=4、ARBにつき8。*、HF−S対HF−RおよびARBにおいて、P<0.05。
【図7】図7は、ラット心筋のピクロシリアス赤色染色切片の左心室コラーゲン体積フラクション分析の結果を示す。棒グラフは、LV間質性コラーゲンの定量を示す。1、対象;2、HF−R;3、HF−S;4、ARB。各群、N=4〜6;#、P<0.01 対対象;*、P<0.05 HF−S対HF−R;**、P<0.05 HF−R対SD。
【図8】図8は、Ren−2ラットにおいて異なって発現された遺伝子のドットブロットを示す。ガレクチン−3 mRNAレベルをラットのHF−S、HF−RおよびARB処理群と比較した。ドットの濃度および直径が、SD対象と比較した遺伝子発現のレベルに直接対応する。A、ホスホ−イメージャーは、HF−S、HF−RおよびARB処理ラットからのイメージを走査した。丸印をつけたドットはガレクチン−3 mRNA発現を表す。B、棒グラフは、濃度測定単位での定量したガレクチン−3の量を示す。各群、N=2であり、各試料を2回スポットした。
【図9】図9は、ガレクチン−3、サイクリンD1およびE2F−1の免疫ブロットである。ガレクチン−3のラット心筋ホモジネートにおける発現レベル:A1、代表的ブロット;A2、GAPDHに対して正規化した濃度測定単位での定量;サイクリンD1:B1、代表的ブロット;B2、GAPDHに対して正規化した濃度測定単位での定量。
【図10】図10は、ガレクチン−3、マクロファージおよびMHC−IIの免疫組織化学共局在化を立証する。HF−Sラットの心筋から得られた平行切片は、A、ヘマトキシリンで反対染色された抗−ガレクチン−3マウスモノクローナル抗体;B、マクロファージ特異的抗CD68マウスモノクローナル抗体;C、MHCII抗原に対するOX−6マウスモノクローナル抗体で染色された。別の微視的視野は、マクロファージの濃厚浸潤を示す、D。HF−R動物におけるマクロファージ浸潤は散在して見られ(E)、SD対象において、よく保存された心筋モルホロジーが見られた、F。
【図11】図11は、ヒト対象におけるLVHおよびHFの電気およびエコー心電図評価ならびに心筋ガレクチン−3遺伝子発現を評価する定量的リアルタイムPCRである。 A、SkowlowおよびLyon評価基準(SV1+RV5>35mm)によって評価された左心室肥大。55%より低いEFは代償不全状態にあるとみなされる。B、ヒトガレクチン−3プローブを用いたリアルタイムPCR。ガレクチン−3遺伝子発現がヒト心筋バイオプシーにおいてプロファイルされた。結果は、ハウスキーピング遺伝子、サイクロフィリンに対して正規化した。N=6、*、P<0.05 HF対LVH。
【図12】図12は、10週間バイオプシーにおけるガレクチン−3 mRNA発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、以下の実施例および図面によってさらに例示される。
【実施例】
【0025】
実施例1
トロンボスポンジン−2:増大した発現は不全となりそうな心肥大を同定する
心肥大は心不全(HF)の危険を増大するが、いままでのところ、どの肥大心筋が急速にHFに進行するかを予想するのは困難であった。本発明によれば、肥大関連遺伝子から離れ、個別の不全関連遺伝子を不全が明確になる前に発現し、かくして、不全しがちな肥大心臓の分子予測を可能とすることが考え出された。12〜14週齢でHFに進行する高血圧性ホモ接合レニン過剰発現(Ren−2)ラットの心遺伝子発現(12,336クローン)は17週間代償されたままの同腹仔による発現と比較した。代償された肥大(10週齢)の段階で採取された心臓バイオプシーは、発明者らが、同定した遺伝子の変化した発現が後のHFへの進行に先行するかどうかを試験することを可能にした。HFラットの心筋において過剰発現した49遺伝子を同定し、それらのマトリックス遺伝子は最大群を構成した。トロンボスポンジン−2(TSP2)は、後にHFに進行したラットからのバイオプシーにおいてのみ選択的に過剰発現し、一方、脳内ナトリウム排泄増大ペプチド(BNP)は、この初期段階で、全てのラットにおいて上昇した。心臓マトリックスに対するTSP2の不存在の影響を試験するため、心筋梗塞(MI)をTSP2−不存在マウスにおいて誘発させた;この手順は全てのTSP2不存在マウスにおいて心臓破裂を生じたが、野生型(WT)マウスには全く見られなかった。結論として、TSP2は心臓マトリックスの剛直性の新規かつ重要なレギュレータであると同定された。
【0026】
原料および方法
トランスジェニックラットおよび血流力学実験
ホモ接合Ren−2ラットは、Max-Delbruck-Zentrum fur Molekular Medizin, Berlin, Germanyから入手した。Sprague Dawley (SD)バックグラウンド上の30匹の雄Ren−2ラットおよび、対象として、9匹の齢適合SDラットを実験した。30匹のRen−2ラットのうち、8匹を10週齢で犠牲にし、8匹を、7〜13週齢から、0.05mg/kg/日のカンデサルタン、アンジオテンシンII受容体I型ブロッカー(ARB)、で処理した。残りの14匹の未処理ラットのうち、6匹を、心不全の臨床的徴候の発症から13週で犠牲にし、HF−Sラットと命名した。残りの8匹のRen−2ラットを綿密にモニターし、不全の臨床的徴候がまだ表れていない17週で犠牲にした。これらのラットをHF−Rラットと命名した。犠牲前に血流力学パラメータを定量し、犠牲後に心臓、肺および体重を測定した。動物の世話および処理は動物実験委員会に承認された。
【0027】
10週齢のRen−2ラットからのバイオプシー
12匹のRen−2および4匹のSDラットからなる第2群を麻酔し、前胸部を胸骨にて剃毛した。ラットを自作ループの助けを借りて、保温パッド上の堅い板に固定した。先の丸い20ゲージ針を気管に入れて気管カニューレとして機能させた。このカニューレを、室内空気で2.5ないし3mlの周期体積および80呼吸/分の呼吸レートの従量式齧歯類呼吸器(model 683, Harvard Apparatus, South Natick, MA)に連結した。さらなる手順は、マイクロ手術用顕微鏡の視覚的な助けを借りて行った。左の第4肋間に5mmの切開をして、胸郭に接近した。心臓の明瞭な視界を得た後、ゆっくりと回転するドリルに連結した特注の0.35mm針を用いてバイオプシーを採取した。全手順は、約15分間続いた。手術で生き延びた9匹のRen−2ラットのうち、5匹は12〜14週齢の間に心不全を発症し、一方、残りの4匹のラットは17週間代償されたままでいた。
【0028】
RNAの単離および逆転写
RNeasy Protocol (QIAGEN, Hilden, Germany) に準じて、RNeasy Mini Kitで、RNAを左心室から単離し、−80℃で保存した。抽出物の品質は、2100 Bioanalyser (Agilent Technologies, Amstelveen, The Netherlands)で、真核生物全RNAナノアッセイを用いて測定した。RNAは、PicoPure RNA Isolation Kit (Arcturus, CA, USA)で、製造者の指示書に準じて、10週齢ラットの心臓バイオプシーから単離した。RNAは、リバーストランスクリプターゼでcDNAに転写し、250mgのランダムプライマー (Invitrogen Life Technologies, Breda, The Netherlands)を用いた。
【0029】
cDNAマイクロアッセイ
Incyte GEM−2/GEM−3ラットcDNAライブラリー(全12,336遺伝子)を用いるマイクロアレイ上の分析のため、正規化ラットcDNAライブラリーから単離したcDNAクローンを選んだ。各cDNAのPCR増幅インサートを処理ガラス面上に印刷して高密度アレイとした。これらのアレイ素子上で、2匹のSDおよび6匹のRen−2ラットの心筋mRNAを用いて、3つの異なる時点で、重複ハイブリダイゼーションを行った。数値の対数変換を行って、データを均質にし、>1.7倍の発現差のみが異なって発現されると考えられた。すでに詳細に記載されたように[Tan et al., Proc Natl Acad Sci. 99: 11387-11392, 2002; Bandman et al., Ann NY Acad Sci., 975: 77-90, 2002]、データマイニングおよびバリデーションのプロトコルを採用した。
【0030】
配列決定、膜スポッティング、およびマクロアレイ用cDNAハイブリダイゼーション
マイクロアレイによって同定された異なって発現された遺伝子のクローンをIncyte genomicsから入手し、5'-GGTGAGACTATAGAAGAGC-3' プライマー(Eurotgentec, Seraing, Belgium)で配列決定した。配列決定によって同一性が確認された後、プラスミドインサートを、5'-ACCATGATTACGCCAAGCTC-3'よび3'-ACGACGGCCAGTGAATTGAA-5'プライマーとのPCR反応によって増幅した。次いで、各クローンをナイロン膜(マクロアレイ)上に重複してスポットした。ドットブロットをパーソナルfx−ホスホイメージャー (Cyclone System Packard, Meriden, CO, USA) で走査した。個々のハイブリダイゼーションシグナルを同定し、Quantity One, Version 4.2.3ソフトウェア(BioRad, Munich, Geramany)を用いて、密度測定で定量した。グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をブロットの内部標準用のハウスキーピング遺伝子として選択した。
【0031】
バイオインフォマティック分析
マイクロアレイ分析および多段階データマイニングストラテジーから選択された49のHF−特異的候補遺伝子から転写された蛋白質配列のバイオインフォマティック分析を行った。それらの生物学的機能の注釈に基づき、以前は心筋内で同定されず、マトリックス関連蛋白質をコードする3つの候補遺伝子をリアルタイムPCRによるさらなる試験用に選択した。
【0032】
プライマー、プローブおよびリアルタイムPCR
プライマーおよびプローブは、Primer Express Software (PE Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いてGenBankTMで入手可能なラット配列から設計した。プローブは、Ensembl-Mouse Genome Sequencing Consortium and Ensembl-Human Genome Browserから誘導された保存されたエクソンスプライス部位から設計し、かくして、いずれの潜在的に汚染するゲノムDNA(表1)のアッセイによる認識を防止する。最適PCR条件は、2mlの全量中、12.5ml 2×TaqmanTMアッセイ用PCR Master Mix、最終濃度5mM MgCl、300nMの各プライマー、200nMプローブ、および10ng cDNA鋳型であることが分かった。増幅および検出は、ABI Prism 7700 Sequence Detection System (PE Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いて行った。PCRデータは、ハウスキーピング遺伝子シクロフィリンAの発現レベルの相対で報告された。
【0033】
TSP2−/−マウスにおける実験的MIおよびモルホメトリー
22匹の野生型(129 SvJ株)および16匹のTSP2不存在変異体(TSP2−/−)において、左腹側下行冠状動脈を結索することによって心筋梗塞を誘発させた。2匹の擬手術マウスを対照として用いた。エーテル麻酔後、1mlの0.1M CdCl2を大静脈に注射することによって、これらのマウスを殺した。心臓を10分間5%バッファー化ホルマリンで潅流固定し、10%バッファー化ホルマリン中で一晩浸漬固定した。標準電子顕微鏡技術を用いて、野生型およびTSP2−/−マウスの組織標本を評価した。線維症形成の程度を定量するために、コンピュータ化面積測定を、1切片あたり7カ所の無作為に選んだ視野で行った。各視野は400μmの面積であった。コラーゲン面積を、末梢血管および心外膜コラーゲンを除外し、選択的に左心室間質から定量した。コラーゲン面積フラクションは、1視野あたり、全心筋面積に対するピクロシリウス−レッド染色した面積の比率として計算した。この手順の詳細は以前に報告されている[Cherayil et al., Proc Acad Sci USA, 87: 7324-7328, 1990; Cleutjens et al., Am J pathol., 147: 325-338, 1995]。
【0034】
統計分析
データは平均±SEMで表す。ワンウェイ分散分析(ANOVA)をDunnett ポストホック分析と組み合わせて用いて、各実験群(カンデサルタン処理および2群の未処理レニン−トランスジェニックラット)のデータを比較して、多重比較のために補正した。SDラットを内部対照コホートとして用いた。分析は統計パッケージSPSS10.0(Chicago, IL, USA)を用いて行った。P値<0.05は統計的に有意であるとみなした。
【0035】
結果
Ren−2ラットのサブセットの顕在的な心不全および死亡への急展開
左右の心室の肥大が、10週目に犠牲にした8匹のラットおよびそれよりも遅い日に犠牲にした他の未処理ラットにも見られた。SD対照にはLVHは見られなかった。プラセボの14匹のラットのうち6匹が12ないし14週齢の間に顕在的な臨床HFに急展開し、17週間の観察期間中代償されたままの8匹のラットと比較して抑制された心機能インデックスを有していた。胸膜滲出液およびdP/dtmaxにおける急下降がHF−Sラットに見られ;これらの変化はHF−Rラットには見られなかった(表2)。アンジオテンシンIIブロックは、13週で犠牲にした動物を評価したとき、心臓の肥大および不全の発症を完全に防止した(LV 重量/体重%、2.52±0.36、dP/dtmax、8400±202)。
【0036】
マイクロアレイは心不全の疑いのあるラットにおいて過剰発現した49の遺伝子を明らかにした。
マイクロアレイ分析について、本発明者らは、まず、HF−SおよびHFR群の間で、遺伝子発現における生態多様性を調査した。HF−SおよびHF−Rの2つの群におけるほとんどの遺伝子の発現レベルは非常に似通っていた。発現用にプロファイルした総数12,336の遺伝子から、49の遺伝子のみが多段階データマイニングストラテジーを生き残り(図1)、HF−Sラットにおいて過剰発現した。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)トランスハイドロゲナーゼが、心筋欠如で低下した発現を示した唯一の遺伝子であった。特に、オステオアクチジン、TSP2、いくつかのプロコラーゲンおよびトロンボスポンジン−1が増加した。同定された遺伝子の多くが既知の機能を持つ蛋白質をコードし、一方、それ以外は、未知の機能の遺伝子に対応し、新規遺伝子および心臓で今まで見出されていない遺伝子を含む。
【0037】
バイオインフォマティック分析は、3つの心臓マトリクス関連遺伝子に指向した。
HFにおける過剰発現遺伝子の多くの機能に関して情報が入手できなかったので、本発明者らは、49の遺伝子全てをバイオインフォマティック分析にかけた。最初、本発明者らは、いくつかの調査/整列ツールを組み合わせて急速かつ正確に遺伝子ファミリーを提供するGeneFIND (Gene Family Identification Network Design) システム(htpp://www-nbrf.georgetown.edu)を用いて、HFの疑いのある遺伝子の広い機能的分類を行った。このストラテジーは、ほとんどの過剰発現遺伝子がマトリクス関連蛋白質をコードすることを示した。特に、選択された3つの疑いのある遺伝子(オステオアクチビン、トロンポスポンディン−2およびコラーゲンVI)の機能は、今まで、心筋において報告されていない。
【0038】
マクロアレイはアンジオテンシンIIブロックによるHFの疑いのある遺伝子の正常化を示した。
このアンジオテンシン主導型心不全モデルにおけるレニン−アンジオテンシン系(RAS)活性化の役割を確かめるために、本発明者らは、7ないし13週齢のRen−2ラットのサブグループを(プレッサー下用量)のカンデサルタンで処理した後マイクロアレイによって同定された標的遺伝子の発現を再評価した。血流力学の向上に加えて、ARB処理は全てのHF関連候補遺伝子の過剰発現を防止した(データ示さず)。
【0039】
10週間の心筋バイオプシーは後にHFに急進行するラットにおいてTSP−2アップレギュレーションを示した。
HFが血流力学的および臨床的に顕在化する前に心筋における3つのマトリクス関連遺伝子の発現状態を評価するために、本発明者らは、自発鼓動するラット心臓の心臓バイオプシーを得る技術を開発した。バイオプシー後、ラットを回復させて、それが心不全に対して耐性または感受性であることを証明するかどうかを決定した。この新規アプローチは、われわれが、不全が顕在化する前に遺伝子発現のレベルを立証することを可能とした。TSP2発現は、12〜14週以内に急性心臓代償不全を起こしたラットにおいてのみ、早期肥大段階(10週間)にて著しく増大したが(図2a)、その後も代償されたままのラット心臓でも非トランスジェニック対照ラット心臓でも、この段階ではアップレギュレートされなかった。オステオアクチビン(図2b)およびコラーゲンVI(図2c)のごとき、他のHF関連遺伝子の発現レベルは、後に不全を起こすラットおよび対照と比較して代償されたままのラットの双方において、早期肥大段階で増大した。重要なことに、心臓の肥大および不全の広汎に用いられるマーカーは、後の代償または不全にかかわりなく、全てのラットにおいて10週バイオプシーでアップレギュレートし、それゆえ、不全耐性ラットから不全感受性ラットを識別できなかった(図2d)。本発明者らによる初期のマイクロアレイ実験によれば、これら3つの遺伝子の発現は、心不全の進行によって、10週発現レベルの2倍以上にまでさらに増大した。代償ラットは、10週にて高いオステオアクチビン、コラーゲンVIおよびBNPを有するにもかかわらず、17週にて犠牲にした時点でこれら遺伝子の発現レベルにさらなる著しい増大は見られなかった(データ示さず)。
【0040】
TSP−2ノックアウト(TSP−/−)マウスは急性心筋梗塞で生き残れなかった。
心不全の様々なラットモデルに反して、丹念に記録された過負荷に応答して確実に心不全を発症するラットモデルはない。それゆえ、本発明者らは、22匹の野生型ラットおよび16匹のTSP2−/−マウスにおいて腹側心筋を梗塞させて、急性の心筋構造損傷およびその結果の急速心臓再構築におけるTSP2の生物学的役割の解決に努力した。梗塞はTSP2なしマウスには耐えられなかった。全てのマウスがMIの最初72時間以内に死亡したからである。一方、手術直後の合併症により死亡しなかった野生型マウスの100%が生き残った(図3)。MIの48時間後のコンピュータ化モルフォメトリーは、野生型マウスと比較してTSP2なしマウスにおいて、心筋コラーゲンの反応性増大が完全に欠如していることを示した(各々、0.38±0.05%および0.70±0.04%;p<0.05)(図4)。光電子顕微鏡はTSP2なしマウスにおいて心筋マトリクスの広範囲にわたる分裂を明らかにした。野生型マウスは一匹もこの発現型を示さなかった(図5)。
【0041】
考察
この実験で、TSP2の増大した心発現は顕在化した心不全に進行しがちな肥大心臓を同定することが立証された。さらに、TSP2は急速心負荷(acute cardiac loading)に対する効果的な応答を行うのに必要とされることが示された。その反対に、肥大様BNPの既知のマーカーは、全ての形態の心肥大において例外なく増大し、それゆえ、不全感受性および不全耐性の肥大を区別できなかった。
【0042】
トロンボスポンジンのファミリーは、血管および血栓の疾患において広汎に研究されているが、心不全におけるトロンボスポンジンについて重要な役割を実現させる報告はない。本発明者らの発見は、TSP2は、直接的または間接的に、心臓マトリクス生物学における重要な機能を行うのであろうことを示唆する。
【0043】
TSP2は、その機能が多様であり完全には理解されていない分泌性マトリックス細胞間蛋白質(a secreted matricellular protein)である。TSP2に近接した相同体は、線虫(Caenorhabditis elegans)またはショウジョウバエ(Drosophila)のゲノムには見つかっていないので、この蛋白質は、脊椎動物における細胞マトリクス相互作用の増大した複雑性を対処するために進化したようである。
【0044】
細胞外マトリックスの組織化におけるTSP2の役割についての証拠として、TSP2−不存在マウスにおける以前の研究は、TSP2発現の喪失の結果、不規則な輪郭を持つ異常に大きなコラーゲルフィブリルが得られることを示している、さらに、TSP2−不存在マウスの皮膚はもろく、低下した聴力を有する。TSP2−ふそん剤の皮膚線維芽細胞は、基底へのその付着に欠陥があり、それらの培養において増大したレベルのマトリックスのメタロプロテイナーゼ−2(MMP−2)を有する。現在の研究は、心筋におけるTSP2に対して2つの明らかに矛盾する機能を同定する。Ren−2ラットにおける慢性高血圧症において、TSP2の増大した心臓発現は、心不全の傾向がある動物を同定する。この応答は、TSP2の発現が有害であることを示すようであるが、該応答が、延長された期間の間、以前として代償されるラットにおける応答と比較して、後に明白な不全に進行するラットにおける強調された従前に活性化された負傷応答を反映するようである。TSP2の発現は成体動物における負傷に対する応答に特徴的であることがよく確立されている。他方、マウスにおける実験的心筋梗塞においては、TSP2の存在は心臓破裂に対して明らかに保護する。2つの実験系は異なる種が関連し、TSP2−不存在マウスの場合には複雑な代償変化が存在しそうな故に比較するのが困難であるが、結果の双方の組は、代償後における十分に機能的な細胞該マトリックスを生じさせるにおいて、TSP2に対する重要な役割に合致する。TSP2−不存在マウスにおける切開皮膚創傷治癒の場合には、TSP2の不存在は有利であるようにも見える。なぜなら、創傷治癒のその特別な形態においては、脈管形成およびMMP−2における得られた増加は、この組織に存在することが知られているコラーゲン線維の予め存在する構造的変化にもかかわらず治癒を加速するからである。しかしながら、心臓組織の以前の固有の弱点が、心筋のマトリックスにおける同様な異常性のため、梗塞後に心臓破裂に対する素因があることが示唆されている。
【0045】
本データは、不全への進行に対してTSP2の増大した心臓発現が先行することを示唆している。トロンボスポンジンはインテグリンに結合できることが知られているので、TSP2はインデグリンシグナリングを介してプロ−線維症効果を媒介する可能性がある。最近、Zhang et al.(J Clin Invest 111: 833-841, 2003)は、アダプター蛋白質遺伝子Grb2のハプロ不全を持つマウスが圧力過剰負荷に応答する心臓線維症に対する抵抗性であると報告している。Grb2は、機械的なストレスに由来し得る病巣接着キナーゼのインテグリン−媒介活性化で補充される。我々の研究においては、我々は、β1インテグリンが、その発現が高血圧Renラットの心臓で明らかに増加しており、かつ不全心臓においてさらに増大した遺伝子の中にあることを見出した。この知見が、イン・ビトロでの心臓線維芽細胞の伸長がβ1インデグリンの蛋白質レベルを増加させたという我々の最近の観察によって実質化された(S. Pokharel and Y.M.Pinto,未公表データ)。
【0046】
コラーゲンの定量のためのピクロシリウス(picrosirius)赤色染色技術は、オレンジ色−赤色の目に見える偏光を示すコラーゲン線維のサイズ、整列、およびパッキングに依拠することに注意すべきである。TSP2−不存在マウスは、異常なコラーゲンフィブリルおよび線維構造、特にあまり組織化されていない線維および不規則かつより大きなフィブリルを有するので、測定された複屈折はこれらの変化によって影響された。
【0047】
結論として、本発明によると、TSP2が心臓マトリックスの一体性の非常に重要なレギュレーターとして機能することが提唱される。増大した細胞外マトリックス形成は、圧力過剰負荷−誘導心不全の実験的および臨床的形態を共に特徴付けるので、TSP2の初期の発現は、代償された肥大から心不全への転移で非常に重要であるマトリックス応答を反映するであろう。これらの観察は、TSP2の心臓過剰発現の初期の検出が、心不全にかかりやすい肥大心臓を同定でき、心不全に進行する傾向がある患者の初期同定およびおそらくは該患者の治療を促進することであろうことを示している。
【0048】
実施例2
ガレクチン−3は不全にかかりやすい肥大心臓における活性化されたマクロファージをマークする。
マクロファージ化学誘因蛋白質および種々のサイトカインの増大した心筋発現は、マクロファージが心不全(HF)に関与することを示唆した。しかしながら、マクロファージが既に確立された負傷に単に応答するのか、あるいはHFの初期段階に積極的に関与するのかは明らかではない。高血圧(HF)におけるこれらのメカニズムを調べるために本発明者らは、ホモ接合性高血圧TGR(mRen2)27(Ren−2)ラットを使用した。これらのラットは10週齢までに不変的に心臓肥大を発生し、その後、いくらかは17週までに代償され、他方、他は12ないし14週齢程度までに不全および死亡まで進行する。この研究は、心臓ガレクチン−3の発現が不全へ進行する傾向がある肥大心臓を特異的にマークする。マクロファージは不全の傾向がある肥大心臓において初期にかつ特異的に活性化されるように見え、マクロファージ由来メディエーター様ガレクチン−3は心臓線維症の発生およびHFに向けての進行に寄与するであろう。
【0049】
材料および方法
トランスジェニックラットおよび血流力学的研究
ホモ接合性Ren−2ラットはMax-Delbruck-Zentrum fur Molekulare Medizin, Berlin, Germanyから入手した。我々は、非−トランスジェニックバックグラウンドでSprague Dawley (SD)ラットからの16匹の雄Ren−2ラットおよび8匹の年齢が合致した対照を実験した。16匹のRen−2ラットのうち、8匹を、7ないし13週齢から、0.05mg/kg/日のカンデサルタン、アンジオテンシンII受容体I型ブロッカー(ARD)で処理した。8匹の未処理Ren−2ラット内では、HFの発生に際して4匹を13週において犠牲にした。残りの4匹のRen−2ラットをモニターし、17週において犠牲にし、その時、臨床的不全の兆候は出現しなかった。血流力学を10週において、および犠牲にする前に取った。心臓、肺および体重を犠牲にした後に測定した。動物のケアおよび治療の手法は、動物愛護協会によって認められたものであった。
【0050】
10週齢Ren−2ラットからの心筋バイオプシー
12匹のRen−2および4匹のSDラットの第2の群を麻酔し、平滑な20−ゲージ針を気管に入れて、気管カニューレとして供し、これを2.5ないし3mlの周期体積容量および80呼吸/分の呼吸速度にて部屋内の空気中の周期体積齧歯類呼吸器(model 683, Harvard Apparatus, South Natick, MA)に連結した。ミクロ−切開顕微鏡の視覚的助けを借りて、左第4肋間空間において5mnの切開を行って、胸部にアクセスした。特注の0.35mn針を用いてバイオプシーを採取した。
【0051】
cDNAマイクロアレイ
正規化されたラットcDNAライブラリー(合計12,336遺伝子)から単離されたcDNAクローンを、マイクロアレイ(Incyte Genomics, CA, USA, ラット GEM-2/3)での分析ように選択した。各cDNAのPCR増幅インサートをガラス表面上の高密度アレイとして印刷した。2匹のSDおよび6匹のRen−2ラット心筋mRNAを含む3つのガラスチップにて3つの異なる時点で2連ハイブリダイゼーションを行った。HF−S群における少なくとも2倍の過剰発現を伴う発現の統計学的に有意な(P<0.001)変化を示した標的遺伝子を、該遺伝子が独立して4回評価して、信頼性のレベルを改善するように、さらなる分析用のサブ−アレイに再度印刷した。データのマイニング(Tan FL et al., Proc Natl Acad Sci., 99: 11387-11392, 2002)および確証のためのプロトコルを、従前に詳細に記載されているように採用した(Bandman O et al., Ann NY Acad Sci. 975: 77-90, 2002)。
【0052】
プライマーおよびプローブ
ガレクチン−3に対して特異的なプライマー(順方向、5'-CCCGACTGGACCACTGACA-3',逆方向、5'-CAGCATGCGAGGCATGACT-3'およびプローブ、5'-TGCCCTACGATATGCCCTTGCCTG-3')をPrimer Express Software (PE Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いるGenBankTMで入手可能な配列から設計した。
【0053】
RNA単離およびリアルタイムPCR
RNeasy Mini Protocol (QIAGEN, Hilden, Germany)に従ったRNeasy Mini Kitで、RNAをラット左心室から単離し、−80℃で貯蔵した。製造業者の指示に従って、PicoPure RNA Isolation Kit (Arcturus, CA, USA)でラット心臓パイオプシーからRNAを単離した。最適なPCR条件は、25μlの合計容量中の、最終濃度5M MgClを含むTaqmanTMアッセイ用の12.5μm 2×PCR Master Mix、300nMの各プライマー230nMのプローブおよび10 ng cDNA鋳型であることが判明した。
【0054】
マクロアッセイのための配列決定、膜スポッティングおよびcDNAハイブリダイゼーション
マイクロアレイによって同定された異なって発現された遺伝子のクローンはIncyte genomicsから入手され、5'-GGTGACACTATAGAAGAGC-3'プライマー (Eurogentec, Seraing, Belgium)で配列決定した。同一性を確認した後、プラスミドインサートは5'-ACCATGATTACGCCAAGCTC-3'および3'-ACGACGGCCAGTGAATTGAA-5'プライマーでのPCR反応によって増幅した。次いで、各クローンをナイロン膜(マイクロアレイ)に二連でスポットした。ドットブロットをパーソナルfx−phpsphoイメージャー(Cyclone System Packard, Meriden, CO, USA)でスキャンした。
【0055】
蛋白質の単離およびウエスタンブロッティング
蛋白質の単離およびウエスタンブロッティングは、従前に記載されているように行った、一次抗体(ガレクチン−3)生物試薬;ED−1およびOX−6,Dr. M. de Winther, Department of Molecular Genetics, University of Maastricht, The Netherlands)からの親切な贈り物)をTWEEN−20を含むトリス−緩衝生理食塩水で1/1000希釈した(TBS-T)。二次抗体(ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲーテッドIgG,Cell Signaling Technology)をTBS−Tに1/2000希釈した。製造業者の指示に従って増強されたケミルミネセンス(ECL, Amersham, Arlington Heights, IL, USA)によって蛋白質バンドを可視化した。
【0056】
免疫組織化学、ガレクチン細胞化学および共焦点顕微鏡
ガレクチン−3および接近可能な結合部位の発現は、従前に記載されているように特異的抗−ガレクチン−3モノクローナル抗体およびビオチニル化ガレクチン−3によって可視化された(Gabius et al., Anal Biochem.: 189: 91-94, 1990)。他の文献に詳細に記載されているように、(Andre et al., Chembiochem. 2: 822-830, 2001)、ガレクチン−3を活性−維持条件下でビオチニル化した。共焦点レーザー走査型顕微鏡において、ガレクチン結合部位がFITC−標識アビジンによって検出された。テキサスレッド標識二次抗体を用いて、増殖する核抗原(PCNA)を免疫細胞化学的に可視化した。該手法についてのさらなる詳細は他の文献で入手できる(Broers et al., J Cell Sci.: 112 (Pt 20): 3463-3475, 1999)。
【0057】
心臓線維芽細胞増殖およびプロリン取り込みアッセイ
ラット心臓線維芽細胞は従前に記載されているように2日齢新生Sprague-Dawleyから単離した(Pokharel et al., Hypertension, 40: 155-161, 2002)。1%L−グルタメート、50U/mLペニシリンおよび0.1g/mLストレプトマイシンと共に10%胎児ウシ血清(FBS)を補足したイーグル培地(DMEM)のダルベッコウ修飾培地中で細胞を培養し、湿潤化5%CO雰囲気中にて37℃でインキュベートした。接種から24時間後に0.5%FBSを含有する培地との24時間のインキュベーションによって細胞を休止させた。次いで、細胞をネズミ組換えガレクチン−3(対照,10μg/ml、30μg/ml)で24時間処理した。分裂する細胞の数を放射線標識メチル−[H]チミジン取り込み(ウエル当たり0.5μCi)沸性によって測定した。放射能は、LKD−Wallaceベータカウンタ(FSA Laboratory Supplies, Loughborough, UK)を用いて線維芽細胞およびシンチレーション液体中で測定した。分泌したコラーゲンを、[H]プロリン取り込みアッセイを用いて測定した。簡単に述べれば、心臓線維芽細胞を90ないし100%密集にて6−ウエルプレート中に接種した。インキュベーションの最後の24時間の間に15Ci/ml L−[H]プロリンを加えた。条件培地から取り込まれた[H]プロリンを10%トリクロロ酢酸(TCA)で沈殿させ、シンチレーションカウンタでカウントした。
【0058】
統計学的解析
データは平均±SEMとして表す。各実験についてのデータをDunnettのポスト−hoc分析と組み合わせて、ワン−ウェイ偏差分析(ANOVA)を用いて比較して、内部対照コホルトとしてSDラットを用いて複数の比較につき修正した。統計学的パッケージSPSS10.0(Chicago, IL, USA)を用いて解析を行った。P−値<0.05は統計学的に有意であると考えられている。
【0059】
結果
HF−Sラットにおける損なわれた心機能および心臓線維症
8匹のプラセボ処理ラットにおける肥大した左および右心室を観察した。対照的に、カンデサルタン処理ラットおよび非−トランスジェニック対照においてLVの増加はなかった。処理無しの8匹のラットのうち、4匹は12ないし14週齢の間に明白な臨床的HFを発症し、これには機能低下した心臓機能の支障が伴った。残りの4匹のラットは17週間の実験期間の間に代償されたままであった。胸膜滲出を持つ明白なHF(肺重量/体重% HF−S, 10.61±0.7 vsHF−R, 4.97±0.2, P <0.001)および上昇した左心室終末/弛緩期圧力(LVEDT)は、HFラットにおいて明らかである。これはHF−Rおよび/またはARB処理ラットには存在しなかった(図6a、bおよびc)。10週において、全てのプラセボ−処理Ren−2ラットはLVHを有したが、代償不全に対する血流力学的証拠は有しなかった。(LV重量/体重%:Ren−2,3.88±0.08vs非トランスジェニック対照2.15±0.2、およびdP/dtmax:Ren−2,8556±296vs非−トランスジェニック対照8780±373)。コンピューター援助電子トメトリーによって測定された心筋コラーゲン含有量は、HF−Rラットと比較してHF−Sラットにおけるより高度な心臓線維症を明らかにした。ARBは、それが正常血圧バックラウンド株のそれと匹敵したままであるように、LVHおよび心筋コラーゲン含有量を正規化した(図7)。
【0060】
マイクロアレイはHF罹患性ラットにおける免疫−関連遺伝子の豊富さを明らかにする。
まず、我々はHF−SおよびHF−R群の間の遺伝子発現の生物学的変動を調べた。双方の群からの試料の対の間のほとんどの遺伝子の発現レベルは高度に相関した。我々は、不全および非−不全肥大心臓の間の異なって発現された遺伝に焦点を当てた。
該値のLog変換を行い、2倍閾値を超える発現レベルの統計学的に有意な(p<0.05)差のみが異なって発現されたと考えられた。ガレクチン−3は最も顕著に過剰発現された遺伝子として出現し、HFラットにおいて、5倍を超える上昇であった(表3)。興味深いことには、主要組織適合性複合体抗原II(MHC−II)および免疫グロブリン受容体遺伝子はこれらの過剰発現された遺伝子内にあった。
【0061】
マイクロアレイは、アンジオテンシンII遮断によるHF罹患性遺伝子の正規化を明らかにする。
HFにおいて、異なって発現された遺伝子を確認するために、我々は、まず、配列決定によってクローンの同一性を確認し、その結果、別々の生体試料における反復ハイブリダイゼーションのためにこれらの遺伝子をナイロン膜マイクロアレイ上に再度スポットした。これにより、最初にマイクロアレイによって同定された7つの主な指標遺伝子の過剰発現が得られた。HFのこのアンジオテンシン駆動モデルにおけるレイン−アンジオテンシン系(RAS)活性化の役割を確認するために、我々は、Ren−2ラットのサブ群を7週齢から13週齢までにサブプレッサー用量のカンデサルタンで処理した後に、マイクロアレイによって同定された標的遺伝子の発現を再度評価した。アンジオテンシンII遮断は、心臓の肥大および不全の活性を完全に妨げた。遺伝子発現のレベルにおいては、それは全てもHF−関連候補遺伝子の過剰発現を妨げた。顕著にはガレクタン−3遺伝子の発現も妨げられた。
【0062】
ウエスタンブロッティングは不全心筋層において高いガレクチン−3発現を示す。
ガレクチン−3の頑強なトランスクリプトマル増加を仮定し、我々は心筋層におけるその蛋白質レベルに焦点を当てた。ミクロ/マクロアレイで得られた結果と匹敵して、ガレクチン−3発現の最高レベルが、最高程度の心臓線維症を有し、13週までに心臓代償不全を迅速に発生した動物の同一群で観察された(HF−S,94.6±8.9;HF−R,35±5.6;P<0.01)(図8aおよびb)。
【0063】
CD68陽性、MHCII抗原およびガレクチン−3の共−局所化
我々は、免疫組織化学によってラット心筋層におけるガレクチン−3の分布をモニターした。組織学的には、HF罹患性ラットは線維症のパッチ領域を明らかにした。非−患部領域における組織の人工物がよく保存されていた。対照的に、高線維症のこれらの領域はARB処理およびSDラットでは観察されず、また、肥大した非−不全HR−Rラットでも観察されなかった。重要なことには、ガレクチン−3陽性領域は、顕著な組織損傷および高レベルの線維症を示した。形態学的には、ガレクチン−3陽性細胞はかなり大きかった。これらの細胞はマクロファージであるという仮定を確認するために、我々は、マクロファージ特異的抗体(ED−1)で系列的切片を分析した。ガレクチン−3陽性領域はマクロファージ特異的染色と共−局所化された。これらのマクロファージはMHC−II抗原もまた強く発現し、これは、抗原提示におけるこれらの細胞の能動的な役割を示す。これらの特徴はHF−Rラットおよび非−トランスジェニック対照においては明らかでなかった。
【0064】
心臓線維芽細胞におけるガレクチン−3結合部位
マクロファージにおけるガレクチン−3の強い発現を定義し、我々は、ガレクチン−3が心臓線維芽細胞に結合するか否かを決定した。我々は、ビオチニル化ガレクチン−3を用いて心臓線維芽細胞上のガレクチン−3の結合部位を可視化した。0.1%トリトン−浸透において、ガレクチン−3結合部位の存在の結果、散漫な細胞質ならびに周辺染色が休止細胞において生じた(図10a)。対照的に、増殖する線維芽細胞は核の周りに増強された染色を示し、これは、染色プロフィールにおける有糸分裂−関連改変を明らかとする(図10b)。このパターンは、共焦点顕微鏡によって独立してモニターされた。事実、これらの実験は、ガレクチン−3が過剰発現された状態での反映する細胞周期活性化を喚起する増殖する(すなわち、PCNA陽性)心臓線維芽細胞における核の周りでの接近可能なガレクチン−3リガンドのコンパクトな存在を確認した(図10c、dおよびe)。
【0065】
ガレクチン−3は線維芽細胞の増殖およびコラーゲンの生産を誘導した。
心臓線維芽細胞における接近可能な部位の存在に対する証拠をそのようにして提供し、我々は、ガレクチン−3が心臓線維芽細胞の増殖を刺激するか否かを決定した。組換えガレクチン−3を用い、我々は増殖アッセイを行った。ガレクチン−3は血清を豊富化するまたは豊富化することなく異なる濃度で加えた(0、10および30μg/ml)。我々は、24時間にわたって10および30μg/ml外因性ガレクチン−3での心臓線維芽細胞増殖の有意な増加を観察した(30μg/mlにおけるガレクチン−3、1分あたり347±17.5カウント(cpm);10μg/mlにおけるガレクチン−3 309±4.8cpm;対照、145±4.8;p<0.01)。次いで、我々は、放射性プロリン−取り込みアッセイを用いて、外因性ガレクチン−3を添加した心臓線維芽細胞によるコラーゲン生産をモニターした。培地中30μg/mlのガレクチン−3にて、プロリン取り込みはほぼ66%だけ増加した(30μg/mlにおけるガレクチン−3、1066±56cpm;対照、707±52.8cpm;p<0.05)。より低い濃度のガレクチン−3は有意な効果を生じなかった(10μg/mlにおけるガレクチン−3、992±72cpm;p=0.13)。
10週における心筋層バイオプシーは、後に迅速にHFまで進行したラットにおいて高いガレクチン−3発現を示した。
【0066】
HFは血流力学的かつ臨床的に明らかとなる前に(すなわち、10週齢)心筋層におけるガレクチン−3の発現状態を評価するために、我々は、自然発生拍動ラット心臓において心臓バイオプシーを得るための技術を開発した。バイオプシーの後、ラットを回復させ、それがHFに対して回復性であるか、またはむしろ罹患性であるかを決定した。リアルタイムTCRによって測定して、ガレクチン−3遺伝子の心筋発現は後にHFまで進行したラットにおいてのみ増加し(任意単位、5.8±0.17)、他方、引き続いて代償されたラットにおいては比較的低いレベルで発現され(3.4±0.2)、および非−トランスジェニック対照ラット心臓においてもそうであった(2.5±0.033)(図12)。
【0067】
考察
本実験は、肥大した心室において特異的に補充されたメカニズムが不全に至ることを突き止めることを目的としたものであった。我々は、ガレクチン−3、マクロファージ発現蛋白質が、不全−傾向がある肥大した心臓で初期においてかつ特異的に発現されることを証明した。さらに、我々は、ガレクチン−3が心臓線維芽細胞において細胞内結合部位に結合し、心臓線維芽細胞の増殖およびコラーゲンの生産を活性化することを確立し、これは、これが心筋の強さおよびおそらくはHFへの進行に寄与し得ることを示唆する。
以前の実験は、HFにおけるマクロファージおよび炎症応答に対する役割を提唱した。しかしながら、これらの実験は、マクロファージの活性化がHFに先行するか、または単にそれに伴うものであるかという答えられていない疑問を残した。さらに、マクロファージを心臓線維症に結びつける特異的なメカニズムに対する説明は未だなされていない。
腹膜マクロファージの表面上の抗原として最初に同定され、ガレクチン−3はガレクチンファミリーの唯一のキメラ−タイプのメンバーである。それは、β−ガラクトシドならびに蛋白質に対するカルシウム−依存性特異性を有するレクチン基を有し、マクロファージの食作用カップおよびファゴソームに位置する。その抗−アポトーシスおよび成長促進作用以外に、ガレクチン−3は単球化学走性、ケモキネシスを調節し、サイトカインの利用性を変調する。さらに、最近の研究は、ガレクチン−3が、Fcγ受容体(FcγR)によって架橋された場合に、マクロファージによるファゴサイトーシスにおいて非常に重要な役割を演じることも検証している。
【0068】
興味深いことに、我々は、我々のHFモデルにおいてFcγRの過剰発現も観察した(表3)。
10週齢ラットから得られたバイオプシーが、迅速な不全に移行したラットにおいてのみ増大したガレクチン−3発現を示した。ガレクチン−3のプロ−炎症および線維芽細胞増殖促進作用を仮定すれば、この段階における増大した発現は不全に誘導する環境に寄与し得る。我々の知見によれば、マクロファージ(すなわち、クッパー細胞)の肝臓−アナログによって発現されたガレクチン−3は、肝臓における過剰なフィブリル−形成コラーゲンの合成を誘導することに関連付けられている。これは、ガレクチン−3がマクロファージ関連プロ−線維症メディエーターであり、マクロファージ浸潤によって特徴付けられる条件における心臓再形成に影響する能力を持つなおもう1つの炎症浸潤サイトカインであることを示唆する。どのようにしてガレクチン−3がHFに向けての進行に加わるかについての別の仮定は、コラーゲン架橋および心筋層の固さにおいて非常に重要な役割を有する進歩したグリコシル化最終産物(RAGE−3)に対する第3の受容体としてのガレクチン−3の発見から現れるものである。
【0069】
我々は、また、ガレクチン−3が細胞内受容体に結合し、心臓線維芽細胞の増殖を誘導し、コラーゲンの生産を強めることを記載する。炭水化物結合性蛋白質として元来は発見されたが、ガレクチン−3がグリココンジュゲート以外に細胞内標的と特異的に相互作用することが知られている。以前の研究は、Mac−2結合蛋白質、およびラミニンを含めたガレクチン−3結合部位としていくつかの分子を提案している。しかしながら、何が増殖する細胞におけるガレクチン−3結合エレメントの迅速な核周囲の移動を誘導するかは依然として知られていない。それが分裂する核からのガレクチン−3結合部位の輸出である(遠心移動)か、あるいはそれがこれらの受容体の核転移に対する細胞質に向けられているか(求心移動)はさらに探求する必要がある。
現在の研究は、HFに対する左心室肥大からの進行において免疫系活性化およびガレクチン−3の生産に対して鍵となる役割を示唆しており、およびプロ−免疫およびプロ−線維症因子の間のリンクを証明する。Fに先行するガレクチン−3の増大した発現は、肥大した不全心室におけるマクロファージの初期の異常な活性化を反映し得る。ガレクチン−3は、今度は、活性化されたマクロファージから心臓線維芽細胞へのシグナルをリレーすることができる。ガレクチン−3の末梢検出は、HFのプレディクター、およびガレクチン−3の作用の治療的阻害として働くことができ、過剰な心臓線維症に逆作用する新規な治療的標的となることができる。
【0070】
実施例3
ヒト血清におけるガレクチン−3の評価
ガレクチン−3のレベルを、心血管病を持つ患者の血清で測定した。ELISAによってガレクチン−3を測定するための商業的に入手可能なキットを使用した。結果を表4ないし6にまとめる。ガレクチン−3は心不全、LVHのような心血管病を持つ患者の血清で有意に上昇した。さらに、健康なコントロール対象におけるガレクチン−3レベルに対する上限が見出されており、これはほとんどのCHF患者において顕著である。
本発明によると、ヒト対象の血清中のガレクチン−3の測定は、信頼性よく、非−病気の対象から病気を区別し、従って、既知の筋肉細胞マーカー(BNP)と組み合わせて、非筋肉細胞病プロセスについてのさらなる情報を最初に提供した。
データテーブル:
LVH=高血圧症、肥大
CHF=心不全
Infl=炎症性血管病
Poscon=病気の混合した群
Infarct=梗塞患者
Healthy=健康なコントロール
【0071】
【表1】

【0072】
プローブは5’および3’の位置を、各々、6−カルボキシフルオレセインレポーターおよび6−カルボキシテトラメチルローダミンクエンチャーで標識した。プライマーおよびプローブの位置はGenbankからの配列に従って注記した。(かっこに受託番号を入れる)。Fwd、順方向;Rev、逆方向。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
プローブは5’および3’の位置を、各々、6−カルボキシフルオレセインレポーターおよび6−カルボキシテトラメチルローダミンクエンチャーで標識した。プライマーおよびプローブの位置はGenbankからの配列に従って注記した。(かっこに受託番号を入れる)。Fwd、順方向;Rev、逆方向。
【0076】
【表4】

【0077】
【表5】

【0078】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)高血圧性終末器官損傷を発症する危険性がある対象の生体試料を採取し、
(b)該試料中の少なくとも1つの非筋細胞マーカーのレベルを定量し、ここに、該非筋細胞マーカーはガレクチン−3およびトロンボスポンジン−2よりなる群から選択され;
(c)該マーカーのレベルを標準のレベルと比較し、次いで、
(d)該マーカーのレベルが高血圧性終末器官損傷を発症する危険性を示すか否かを決定する;
ことを特徴とする、高血圧性終末器官損傷の危険がある対象を同定する方法。
【請求項2】
該生体試料が末梢血液に由来する血漿試料である請求項1記載の方法。
【請求項3】
マーカーのレベルが酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって測定される請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
高血圧性終末器官損傷を発症する危険性がある対象を同定するための1以上の非筋細胞マーカーの使用であって、該非細胞マーカーはガレクチン−3およびトロンボスポンジン−2よりなる群から選択される使用。
【請求項5】
鬱血性心不全および高血圧性終末器官損傷の予防およびまたは治療用の医薬の製造のためのガレクチン−3の使用。
【請求項6】
鬱血性心不全および高血圧性終末器官損傷の予防およびまたは治療用の医薬の製造のためのトロンボスポンジン−2の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−279378(P2010−279378A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−167334(P2010−167334)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【分割の表示】特願2006−530040(P2006−530040)の分割
【原出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(506119165)ユニフェルジテイト・マーストリヒト (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT MAASTRICHT
【Fターム(参考)】