説明

ガレクチンの標的増強活性化

本発明は、とりわけ免疫学および腫瘍学の分野における、レクチン結合タンパク質およびそれらの治療用途に関している。詳細には、本発明は、ガレクチンの標的および標的化増強多量体化および活性化に関している。ガレクチン結合体が提供され、これは、非ガレクチン細胞標的手段と結合された少なくとも1つのガレクチン分子を含む。例示的な標的手段としては、EGP2、ガン腫関連細胞表面標的抗原、CD抗原、例えば、CD7もしくはCD38、またはTNFファミリのメンバ、例えば、TRAIL−Rに結合し得る標的手段が挙げられる。この標的手段は、抗体またはその機能的なフラグメント、好ましくは単鎖可変抗体フラグメント(scFv)を含んでもよい。ガンまたは免疫障害、例えば、自己免疫性疾患、アレルギ障害、自己免疫脳脊髄炎、関節炎、大腸炎、肝炎、喘息、多発性硬化症、移植片拒絶、対宿主移植片病(GVHD)および炎症性腸疾患のような疾患の処置のためのガレクチン−結合体の使用も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ免疫学および腫瘍学の分野における、レクチン結合タンパク質およびそれらの治療用途に関している。詳細には、本発明は、ガレクチンの標的および標的化誘導多量体化ならびに引き続く活性化に関している。
【0002】
ガレクチンは、βガラクトシド結合動物レクチンの高度に保存されたファミリのメンバである。このファミリのメンバは、ポリN結合アセチルラクトサミンリッチ糖タンパク質(poly−N−linked−acetyl−lactosamine−rich glycoproteins)に親和性を有する、保存された炭化水素認識ドメインの存在によって他のレクチンから識別される。ほとんどのガレクチンが、糖分子に対して、スルフヒドリル依存性の方式で結合して、しばしば、S型レクチンと呼ばれるが、この特性は、このクラスでのメンバであることに必要ではない。
【0003】
現在、少なくとも15のメンバが同定されており、さらなる相同体が発見されているようである。動物の進化におけるそれらの保存性を考えれば、それらが、糖依存性および非依存性の機構を通じて、先天性免疫および適応免疫応答において重要な役割を果たし得るということは驚くことではない。現在、ガレクチンが、細胞の活性および機能に特異的に影響し得るということがますます明らかになってきている。これらの生物学的な効果は、細胞生物学、生化学、腫瘍生物学、腫瘍学、糖鎖生物学および免疫学において、ガレクチンの作用様式においてだけでなく、免疫監視機構、アポトーシス、細胞接着および走化性の推定される調節因子としてのそれらの役割についても、研究者らの興味をひいている。興味深いことに、同じガレクチンは細胞内局在および標的細胞のタイプを含む多数の要因に依存して炎症促進性または抗炎症性の効果を発揮し得るということが、近年では理解されている。概説としては、例えば、Liu, 「Regulatory roles of galectins in the immune response」, Int. Arch. Allergy Immunol. 2005, 136(4): 385-400; Liu and Rabinovich, 「Galectins as modulators of tumor progression.」, Nat. Rev. Cancer. 2005, 5(1): 29-41; Rubinstein et al., 「The role of galectins in the initiation, amplification and resolution of the inflammatory response.」, Tissue Antigens. 2004, 64(1): 1-12;ならびにYang and Liu, 「Galectins in cell growth and apoptosis」, Cell. Mol. Life Sci. 60 (2003); 267-276を参照のこと。
【0004】
ガレクチンはまた、ガラプチン、S型レクチン、;D−ガラクトシド結合レクチン(D−Galactoside−Binding Lectins)、ガラクトース結合レクチン(Galactose−Binding Lectins)、β−D−Gal(1−3)D−GalNAc特異的レクチン;β−D−ガラクトシル−特異的レクチン(beta−D−Galactosyl−Specific Lectins)、β−ガラクトシド結合レクチン(beta−Galactoside Binding Lectins)またはβ−ガラクトシド結合タンパク質(βGBPs)として当該分野で公知である。
【0005】
ガレクチンファミリのメンバは、約130個のアミノ酸の1つまたは2つの炭化水素−認識ドメイン(CRDs)から構成される(図1)。生物化学的な構造を考慮すれば、いくつかのガレクチンは、1つのCRD(プロトタイプ)を含み、そして単量体(ガレクチン−5、−7、および−10)または二量体(ガレクチン−1、−2、−11、−13および−14)として存在するが、他のガレクチン、例えば、ガレクチン−4、−6、−8、−9および−12は、短いリンカ領域(タンデムリピート)によって接続される2つのCRDを含む。対照的に、ガレクチン−3は、このタンパク質のオリゴマ化に関与する、1つのCRDおよびさらなる非レクチンドメインを有する「キメラの」タンパク質として独自に存在する(図1)。それらのCRDおよびそれらの架橋特性に関するガレクチンファミリの個々のメンバの多能性は、特定の細胞表面糖受容体の凝集(これは、多くの場合、異なるシグナル伝達事象に関連する)を誘導することによって異なる生物学的な応答を決定し得るということが示唆されている。
【0006】
(自己)免疫疾患の処置におけるこれらのガレクチンファミリのメンバのいくつかの能力は、いくつかの研究グループによって検討されている。最も科学的な注意は、このファミリの最初の同定されたメンバ、ガレクチン−1(Galectin−1)に集中している。ガレクチン−1は、ホモダイマとして生物学的に活性であって、細胞接着、細胞増殖、悪性形質転換、遊走、T細胞成熟、ならびにマクロファージ、胸腺細胞およびT細胞におけるアポトーシスの誘導のような宿主の(免疫)調節機能を示す。
【0007】
組換えガレクチン−1のインビボ投与は、関節炎、対宿主移植片病、肝炎、腎炎、炎症性腸疾患および多発性硬化症のマウスモデルにおいて疾患活動を寛解させることが示されている(Rabinovich et al, J. Exp. Med. 1999 Aug 2;190 (3): 385-98; Baum et al, Clin. Immunol. 2003 Dec; 109(3): 295-307; Santucci et al, Hepatology. 2000 Feb; 31(2): 399-406; Tsuchiyama et al, Kidney Int. 2000 Nov; 58(5): 1941-52; Santucci, Gastroenterology. 2003 May; 124(5): 1381-94; Offner et al, J. of Neuroimmunol. 1990; 28: 177-184)。さらに、ガレクチン−3は近年、ガレクチン3欠損(gal3(−/−))マウスおよび野性型(gal3(+/+))マウスにおいてアレルギ性気道応答を比較することによって、喘息の実験的モデルで気管支閉塞および炎症を阻害することが示されている(Zuberi et al., Am. J. Pathol. 2004; 165(6): 2045)。
【0008】
興味深いことに、種々のガレクチンファミリのメンバは、腫瘍の発達および抗腫瘍応答において重要な役割を果たすことが示されている。例えば、ガレクチン−1は、多数の異なる腫瘍タイプで発現されており、浸潤T細胞の排除によって腫瘍に対する免疫応答を調節し得る。逆に、いくつかのT−ALL白血病細胞株は、ガレクチン−1によるアポトーシス誘導に対して高度に感受性であることが示されている。ごく最近では、種々の起源の多剤抵抗性腫瘍細胞が、ガレクチン−1によるアポトーシス誘導に対して感受性であることが示された(Ravatn et al., Cancer Res. 2005; 65(5): 1631-4)。したがって、ガレクチンによって発揮される効果は、アポトーシス促進性であっても、または抗アポトーシス性であっても、細胞タイプ依存性であると考えられる。
【0009】
ガレクチン−1の生理学的に活性な型のほとんどの活性については、14.5kDaのサブユニット分子量を有するホモ二量体であることが報告されている(Cho and Cummings, 1995a,b; Perillo et al., 1995)が、この単量体型はほとんど生物学的に活性ではない。この単量体型および二量体型は、約7μMの可逆平衡Kdで見出されている(Cho and Cummings, 1995a,b)。この低い親和性に基づいて、ガレクチン1−のインビボ有効性は限定される。なぜなら、濃度が低ければ、平衡は急激に、不活性単量体型に向かってシフトするからである。上述の研究では、共有結合されなかったガレクチンサブユニットが用いられた。いくつかのマウスモデルで、治療効果を得るには最大4mg/kgまで必要であり、これではヒトでの治療適用は大きく妨げられることが示された。このように、治療剤として生物学的な有効性に必要とされる活性二量体の臨界濃度に達するには大量のガレクチンが必要である。
【0010】
この問題は、ガレクチン−1について当該分野では部分的に取り組まれてきている。Battig et al. (Mol. Immunol. 2004; 41(1): 9-18)は、ガレクチン−1の構造的に最適な形状の設計を記載しており、ここでは2つの単量体が、2つのグリシン(GG)リンカ部分を介して、遺伝的にCからNに融合される。この人工的な共有結合二量体は、野性型ガレクチン−1と比較した場合、効率的に分泌されることが見出されており、かつインビトロアッセイ系でアポトーシスを誘導するのに3〜10倍強力であった。
【0011】
ガレクチンのインビボ有効性を増強する別の方法を提供することが本発明の目的である。さらに、本発明の目的は、標的細胞特異性を損なうことのない、高いインビボ有効性を有するガレクチンの治療用途を提供することである。
【0012】
この目的は、標的細胞表面分子に結合し得る非ガレクチン細胞標的手段に対して結合された少なくとも1つのガレクチン分子を含むガレクチン結合体の提供によって満たされる。標的細胞の細胞表面に対するガレクチンの補充によって、所望の作用部位でその存在が濃くなり、それによって生物学的効果を発揮するのに必要な量が減る。
【0013】
本発明のガレクチン結合体は、標的細胞、例えば、活性化T細胞または腫瘍細胞に対する特異的な結合後に、その完全な生物学的(ガレクチン媒介性)活性を発揮する。この新規なガレクチン結合体は、天然の非標的化ガレクチンと、そして非標的化人工二量体と比較して強力に増強された活性を有する。標的手段の特異性は、ガレクチン活性を予め選択された細胞タイプに対して指向させることを可能にする。ガレクチンの強力な細胞依存性の効果を考慮すれば、これは、ガレクチンの治療適用には特に適切である。例えば、所望の細胞型、例えば、腫瘍細胞においてガレクチンがアポトーシスを誘導することを目標とする場合、他の細胞型に対する望ましくない副作用は、腫瘍細胞には結合するが、ガレクチンによって負に影響されるかまたは悪影響され得る細胞には結合しない、1つ以上の標的手段を選択することによって軽減され得る。本発明の治療用ガレクチン結合体は、所定の疾患について特異的に設計され、かつ最適化され得る。ガレクチンに対する標的手段の結合体は、おそらく、細胞表面付着によって、ガレクチンの生物学的な有効性を劇的に増強するということが見出された。図4およびその説明文によって、本明細書において開示されるようなガレクチン結合体の作用のこの提唱された機構がさらに例示される。
【0014】
本発明のガレクチン結合体は、予め選択された細胞タイプに対する標的化送達の際に、アポトーシス促進活性を有するように設計される。このガレクチン結合体は、悪性細胞を特異的に排除するために、1つ以上のガン細胞選択特異的標的化ドメインを備えられてもよい。あるいは、このガレクチン結合体は、異常なまたは制御されない免疫応答、例えば、種々の炎症疾患および自己免疫障害で観察される免疫応答を故意に終わらせるために1つ以上の免疫細胞選択標的化ドメインを備わせられてもよい。重要なことに、本明細書に記載されるガレクチン結合体の作用様式は、さらなる細胞タイプ、例えば、抗原提示免疫細胞(APC)またはT細胞のあらゆる要件も、再指向(redirection)も、活性化も必要としない。さらに、腫瘍選択性ガレクチン結合体は、機能的免疫系の存在にかかわらず、完全な治療活性を保持している。
【0015】
したがって、本明細書に開示されるガレクチン結合体の治療または予防適用は、完全に機能的な免疫系に依存せず、そして/または種々のタイプの免疫細胞の引き続く補充および活性化、例えば、機能的なAPCによる呑食のための標的細胞(またはその一部)のオプソニン化に依拠せず、それぞれの標的細胞/標的抗原に向かうT細胞媒介性免疫応答を誘発する標的細胞由来ペプチドの引き続くMHC拘束交差提示を伴う。むしろ、このガレクチン−結合体は、アポトーシス促進性/免疫抑制性の活性それ自体を有する。
【0016】
標的手段に対する結合体は、多量体として活性であるガレクチン(例えば、ガレクチン−1)について、そして他のガレクチンサブタイプ、例えば、ガレクチン−3について、有益である。新規なガレクチン結合体の提供によって、本発明はこのように、種々の疾患の処置におけるガレクチンの標的細胞拘束治療適用を提供する。
【0017】
本明細書において用いられる場合、「細胞標的手段(cell targeting means)」という用語は、標的細胞に対してガレクチン分子を、それが標的細胞の表面上で発現される分子に結合するかまたは相互作用する能力のおかげで指向し得る、部分または物質をさす。この細胞標的手段は、任意の性質であってもよい。これは、例えば、標的細胞に結合し得る合成化合物であって、化合物のライブラリを用いるハイスループットスクリーニングによって同定され得る化合物である。これは、標的細胞の表面上で発現される分子に結合するか、または相互作用し得る天然に存在する分子の模倣物であってもよい。この標的手段は、ガレクチン分子のN末端またはC末端のいずれかに対して、直接的にまたはリンカ配列を介して、必要に応じて、二量体化ドメインを介して結合され得る(下をさらに参照のこと)。
【0018】
1実施形態では、この標的手段は、タンパク質性の物質である。この標的手段は、任意の適切な方式で、例えば、化学的カップリングによって、または遺伝的融合によって、ガレクチン分子と結合体化されてもよい。好ましい実施形態では、本発明は、ガレクチン分子に遺伝的に融合された、タンパク質性の標的手段を含むガレクチン結合体を提供する。このようなガレクチン結合体は、ガレクチン結合体融合タンパク質をコードする核酸構築物を含む発現プラスミドの組換え発現によって容易に生成され得る。また本明細書で提供されるのは、ガレクチン結合体融合タンパク質をコードする核酸構築物である(図2も参照のこと)。細胞標的手段に対するガレクチン分子の融合は、直接であっても、またはリンカ配列を介してもよい。リンカ配列の使用は、ガレクチン分子および細胞標的手段の両方の最適な空間組織化を達成するのに有利であり得る。リンカ配列は、例えば、1〜約15アミノ酸と小さくても、中程度でも(約15〜50アミノ酸)、または大きくても(50アミノ酸以上、例えば、75または100アミノ酸でさえ)よい。有用なリンカ配列の例としては、IgG重鎖定常領域CH1の選択されたアミノ酸、IgGヒンジ領域の選択されたアミノ酸、1つ以上のアミノ酸モチーフGGGGS(G4S)を含む人工的なリンカペプチド(Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA.; 85(16): 5879-83.)またはその誘導体、例えば、GGGSSが挙げられる。
【0019】
さらに、融合タンパク質は、組換え発現の際の融合タンパク質の単離および精製を補助するために、アフィニティタグ、例えば、HA、ポリ−His(6×His)、FLAG、GSTまたはc−Mycを含んでもよい。多くのタグが、それら自身の特徴を有する。例えば、ポリ−His−融合タンパク質は、ニッケル−セファロースまたはニッケル−HRPに結合し得る。GST−融合タンパク質は、グルタチオン−セファロースに結合し得る。したがって、融合タンパク質の高い程度の精製は、単に1回のアフィニティ精製工程で達成され得る。
【0020】
好ましい実施形態では、この細胞標的手段は、抗体またはその機能的なフラグメント、好ましくは単鎖可変フラグメント(scFv)を含む。組換え抗体は、バイオテクノロジおよび医学においてますます適用の数が増えてきている。分子技術によって、元のモノクローナル抗体の抗原結合能力を維持する組換え抗体を生成することが可能になる。この抗体の抗原結合能力は通常、VHおよびVLドメインが単鎖可変フラグメント(scFv)組換え抗体を構成するポリペプチドリンカと接続される場合にのみ、保存される。このscFv組換え抗体は、抗体の完全な抗原結合部位を含む。scFvのさらに小さいフォーマット(27kDa)によって、例えば、哺乳動物、酵母または細菌の産生系を用いる、フォーマッティング(他の分子との融合)および組換え宿主細胞の製造の重大な利点が可能になる。
【0021】
ペプチド、糖、脂質、核酸または生物体全体などである、本質的に任意の抗原に特異的な抗体フラグメントおよびペプチドは、当該分野で公知の方法によって選択され得る。大量のランダムに合成されたペプチドを含むペプチドライブラリであって、目的の抗原の適切な結合パートナを選択するのに用いられ得るライブラリは市販されている。例えば、New England Biolabsが、予め作成されたランダムペプチドライブラリ、およびカスタムライブラリの構築のためのクローニングベクタM13KEを提供する。この予め作成されたライブラリは、直鎖状ヘプタペプチドおよびドデカペプチドライブラリ、ならびにジスルフィド限定ヘプタペプチドライブラリから構成される。ジスルフィド限定ヘプタペプチドの無作為化されたセグメントは、1対のシステイン残基に隣接し、このシステイン残基は、ジスルフィド結合に対するファージアッセンブリの間に酸化され、その結果、この提示されたペプチドは、ループとして標的に提示される。全てのライブラリは、過剰な20億個の独立したクローンという複雑性を有する。3つ全てのライブラリにおける無作為化されたペプチド配列は、マイナーなコートタンパク質pIIIのN末端で発現され、その結果、1ビリオンあたりに提示されるペプチドが5コピーという価数が得られる。全てのライブラリが、提示されたペプチドとpIIIとの間に短いリンカ配列(Gly−Gly−Gly−Ser)を含む。
【0022】
特に重要なのは、ファージディスプレイ技術の使用である。ファージディスプレイに対する多くの総説が入手可能であり、例えば、Smith and Petrenko [1997] Chem. Rev. 97: 391-410を参照のこと。要するに、ファージディスプレイ技術は、選択技術であり、ペプチドまたはヒト単鎖Fv抗体の変異体のライブラリは、ファージビリオンの外側で発現されるが、各々の変異体をコードする遺伝物質は内側に存在する。これによって、各々の変異タンパク質配列とそれをコードするDNAとの間の物理的連結が作成され、パニング(panning)と呼ばれるインビトロの選択プロセスによって、所定の標的分子(抗体、酵素、細胞表面レセプタなど)に対する結合親和性に基づいた迅速な分配が可能になる。その最も簡易な形態では、パニングは、ファージが提示するペプチドのライブラリと標的(すなわち目的の抗原)でコーティングされたプレート(またはビーズ)とをインキュベートすること、未結合のファージを洗い流すこと、および特異的に結合したファージを溶出することによって行われる。次いで、この溶出されたファージが増幅されて、結合配列に従ってプールを富化するさらなる結合/増幅サイクルを通じて採取される。3〜4回後、個々のクローンを代表的には、DNA配列決定およびELISAによって特徴付ける。次いで、特定のペプチド配列をコードする所望のファージ内に含まれるDNAを、本発明のガレクチン結合体をコードする核酸構築物中で非ガレクチン細胞標的手段をコードする核酸として用いてもよい。あるいは、高親和性の結合因子は、設計されたアンキリンリピートタンパク質のコンビナトリアルライブラリから選択されてもよい(Binz et al. Nat. Biotechnol. 2004; 22(5): 575-82。また、細胞標的手段としての使用のために適切なのは、CatchMabs BV,Wageningen,The Netherlandsによって開発された、iMabs(工業的な分子親和性体)である。IMabsは、加工産業の過酷な化学的条件下でさえ、高親和性および高特異性の両方でもって標的分子を結合し得る小型のデザイナタンパク質である。それらの小さいサイズに起因して、iMabは、安価に、例えば、ガレクチン分子との融合物として、E.coliまたは酵母のような標準的な生成微生物において生成され得る。特定の結合タンパク質の設計に関連する技術の一般的な概説は、Binz and Pluckthun (Curr. Opin. Biotechnol. 2005 Jul 5; [印刷前のEpub])に見出され得る。前言どおり、ガレクチン結合体は、標的細胞表面分子に結合し得る細胞標的手段のおかげで、目的の標的細胞に配向され得る。この標的手段は、例えば、分化抗原群(CD)、ABC輸送タンパク質、接着分子、1つ以上のタイプの白血球で排他的にまたは優先的に発現されるリガンド、T細胞またはB細胞の1つ以上の亜集団、サイトカインレセプタ、増殖因子レセプタ、膜貫通タンパク質を含む分子または複合体、チロシンキナーゼ型レセプタ、致死受容体、セリンキナーゼ型レセプタ、ヘテロ三量体Gタンパク質共役型レセプタ、チロシンキナーゼに結合したレセプタ、TNFファミリレセプタ、ノッチファミリレセプタ、グアニレートシクラーゼタイプ、チロシンホスファターゼタイプ、デコイレセプタ、阻害性レセプタ、および接着レセプタ、またはこのようなレセプタと協調する任意の細胞表面レセプタリガンドからなる群より選択される標的細胞表面分子と反応性である。
【0023】
好ましい実施形態では、ガレクチン結合体は、CD抗原、例えば、CD7もしくはCD38もしくはCD95(Fas)、またはTNFファミリのメンバ、例えば、TRAIL−Rに結合し得る標的手段を含む。例えば、本明細書に提供されるのは、CD7またはCD38と反応性のscFvと結合体化されたガレクチンである。また、ガレクチン結合体であって、ガレクチン、例えば、ガレクチン−1が、例えば、遺伝的融合によって、溶解性Fasリガンド(sFasL)またはsTRAILに対して結合されるガレクチン結合体が提供される。
【0024】
1局面では、本発明は、標的細胞上の細胞表面レセプタであって、内部移行を受け得るレセプタと相互作用し得る細胞標的手段を含むガレクチン結合体に関する。これによって、レセプタと一緒にガレクチン結合体の同時内部移行が可能になり、その結果このガレクチン分子は、細胞内環境に達して、そこでその作用を発揮し得る。同じガレクチン(例えば、ガレクチン−3)は、それらが細胞外で働こうと細胞内で働こうと、異なった効果かつ対照的な効果を発揮し得るということが示されている(Yang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1996; 25; 93(13): 6737-42; Fukumori et al., Cancer Res. 2003 Dec1; 63(23): 8302-ll)。ガレクチン分子の取り込みを可能にする細胞標的手段に対する結合体化によって、細胞内効果が増強される。これは、ガレクチン分子の細胞外効果に対する細胞内効果を増強するために用いられ得る。当該分野では、内部移行を受ける多くのレセプタが公知である。例示的なレセプタとしては、トランスフェリンレセプタ(TfRまたはCD71)、EGFレセプタ(EGF−R)、幹細胞因子(SCF)レセプタKIT、マンノース−6−リン酸レセプタなどが挙げられる。本発明の1実施形態では、この標的手段によって、ガレクチンのガン細胞選択的標的化が可能になる。これは、非腫瘍細胞と比較して腫瘍細胞上で過剰発現される表面分子と反応性である標的手段を選択することによって達成され得る。ガレクチンのガン細胞選択的な標的化を達成するために適切な標的化抗原としては、上皮細胞成長因子レセプタ3(EGF−R3)およびEGP−2が挙げられる。
【0025】
ガレクチン分子は、多様な、同一であるか別個である細胞表面分子に対して同時に結合し得る標的手段とともに提供され得る。二機能性または複数機能性の標的手段の使用によって、標的細胞に対する結合親和性および/または特異性の増大が可能になる。例えば、ガレクチン結合体は、必要に応じてリンカ配列で隔てられて、分子Bと結合体化し得る第2のscFvに隣接される、分子Aを結合し得る第1のscFvとともに提供されるガレクチンを含む。分子AおよびBが、同じ標的細胞上でお互いの近くに存在する場合、この二機能性ガレクチン結合体は、両方の標的手段を介して標的細胞に結合し得る。これは、標的細胞に対するガレクチン結合体の結合親和力および/または特異性を増強し得る。
【0026】
本明細書において用いる場合、「ガレクチン分子」という用語は、保存された炭水化物認識ドメイン(CRD)を含む分泌されたガレクチンのガレクチンファミリのあらゆる公知の、そしてまだ発見されていないメンバをいう。ガレクチン−1、−2、−3、−4、−5、−6、−7、−8、−9、−10、−11、−12、−13、−14および−15が含まれる。これらの公知のガレクチンのヒトおよび/または他の種についてのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、公的なデータベースから入手可能である。
【0027】
好ましい実施形態では、本発明は、多量体として活性であるガレクチン分子を含むガレクチン結合体を提供する。例として、ガレクチン−1、−2、−5、−7、−10、−11、−13および−14が挙げられる。標的細胞に対するこれらのガレクチンの標的化は、細胞表面付着が多量体化誘導性活性化を増強し、それによってインビボの効力がさらに増強されるというさらなる利点を有している。したがって、標的細胞へ向かうガレクチン活性は、標的細胞表面でのレクチン誘導性の二量体化の程度によってやはり制御される。これは、人工的な二量体、例えば、Battigらによって記載されるガレクチン−1二量体とは対照的である。人工的な二量体は、その局所環境にも細胞状況にもかかわらず常に活性である。結果として、所望の標的細胞に特異的に標的されない、構成的に活性なガレクチン二量体のインビボ投与は、望ましくない副作用を、特に、ガレクチンと通常は遭遇されない細胞上で生じるということが考えられる。
【0028】
本発明は、天然に存在するガレクチンの結合体だけでなく、ガレクチン変異体または修飾ガレクチンとも呼ばれる天然に存在しないガレクチン分子の結合体も提供する。修飾されたガレクチンは、天然に存在するアミノ酸配列と比較した場合に少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失または付加を有する。野性型ガレクチンと比較した安定性の増大(例えば、酸化に対する感受性の低下)および/または活性の増大を有する修飾ガレクチンも包含される。修飾ガレクチンは、活性であっても不活性であってもよい。修飾ガレクチンとは、例えば、短縮されたガレクチンである。短縮されたガレクチンは、天然に存在するガレクチンの競合インヒビタとして作用することによって治療薬として作用し得る。例えば、キメラ型のガレクチン−3は細胞間接着を促進することによってガン形成においてある役割を果たすと考えられる。正常には細胞をお互いに付着させるガレクチン−3のドメインの除去によって、細胞の表面上の部位を占める修飾ガレクチンが得られ、それによって、正常な内因性のガレクチン−3が結合からブロックされる。これによって細胞はお互いに対する接着を止められる。修飾タンパク質は、転移性腫瘍を発症したマウスの数の半分より多かったことが示された。マウスに移植されたガンは、偽薬注射した20匹のコントロールマウスのうち11匹でリンパ節または他の器官に転移するが、短縮タンパク質を与えられた20匹のマウスのうちでは4匹だけであった(John et al., 「Truncated galectin-3 inhibits tumor growth and metastasis in orthotopic nude mouse model of human breast cancer.」 Clin. Cancer Res. 2003 Jun; 9(6): 2374-83)。
【0029】
ガレクチン結合体は、ガレクチン分子の二量体を含んでもよく、その少なくとも1つが細胞標的手段に結合される。この二量体のガレクチン分子は、共有結合されても、共有結合されなくてもよい。ガレクチン分子の間の非共有結合は、ロイシンジッパドメインのような二量体化ドメインによって達成され得る。このロイシンジッパは、2つのαらせんから構成される。各々のαらせんは、N末端で塩基性領域を有し、このN末端は、いくつかの正に荷電された残基であって、転写因子に存在する場合、DNAの主要な溝(groove)と相互作用し得る残基を含む。αらせんのC末端に向かって、二両体化領域が見出される。共有結合は、ガレクチン−1についてBattigらによって当該分野で記載されたとおりGGリンカを通じて達成され得る。
【0030】
別の実施形態では、S−Sジッパが利用される(De Kruif J., Logtenberg T. J. Biol. Chem. 1996 Mar 29; 271(13): 7630-4 「Leucine zipper dimerized bivalent and bispecific scFv antibodies from a semi-synthetic antibody phage display library」。しかし、SS−ジッパは、複数回の酸化および還元を必要とし、これは、ガレクチンのスルフヒドリル−依存性レクチン結合活性には不利であり得る。したがって、S−S/S−H官能基に依拠しないジッパが好ましい。
【0031】
別の実施形態では、いわゆるノブ・インツー・ホール技術(knobs into holes technology)が利用される:「ノブ・インツー・ホール」とは、もともと1952年にCrickによって、隣接したαらせんの間のアミノ酸側鎖のパッケージングのモデルとして提唱された。「ノブ・インツー・ホール」は、ヘテロ二量体化のために抗体重鎖ホモ二量体を操作するための有効なデザインストラテジであることが当該分野で実証されている。重鎖ヘテロ二量体化に関するRidgewayらによる研究(Protein Eng. 1996 Jul; 9(7): 617-21)では、「ノブ」変異体は、CD4−IgG免疫付着因子(immunodhesin):T366YのCH3ドメインにおける小さいアミノ酸の、それより大きいアミノ酸での置換によって最初に得られた。このノブは、より小さい残基でのより大きい残基の思慮深い置換によって製作されたヒト化抗CD3抗体のCH3ドメインにおける「ホール」に挿入するように設計された。あるいは、本発明者らは、Fab抗体フラグメントを利用してもよい。その場合、2つの鎖が必要であり、その1つはモジュール構造を有する:VL−Cκ−Gal1、そしてその他は、モジュール構造VH−CH1−Gal1を有する。このCκおよびCH1モジュールは、S=S架橋を介してお互いと相互作用し得る。
【0032】
二量体化ドメインは、ガレクチン分子のN末端またはC末端に結合され得る。細胞標的手段の結合体部位について前記されるものと同様、これは、ガレクチン分子に直接結合されても、またはリンカ部分を介して結合されてもよい。1実施形態では、ガレクチン分子は、scFvと同様に、リンカを介してそのN末端で、細胞標的手段に結合体化され、そしてC末端を介して、二量体化ドメイン、例えば、ロイシンジッパと結合体化される。このガレクチン結合体は、類似の構成の別の結合体と効率的に二量体化し得る(図3Cを参照のこと)。しかし、他の構成もまた、両方の標的手段および二量体化ドメインがガレクチン分子のN末端またはC末端のいずれかと結合体化される場合でさえ、適切に用いられ得る(図3の説明も参照のこと)。
【0033】
好ましくは、二量体内の両方のガレクチンモノマが、細胞標的手段と結合体化される。なぜなら、これはさらに、標的化の有利な効果を増強するからである。1実施形態では、ガレクチン結合体は、各々のガレクチンが同一の細胞標的手段に結合されているガレクチンの二量体を含む。別の実施形態では、本発明によるガレクチン結合体内の各々のガレクチン分子は、別個の細胞標的手段と結合体化される。これによって、2つの別個の細胞表面分子の(過剰)発現によって特徴付けられる(腫瘍)細胞の例えばサブセットに対する標的化特異性の増大が可能になる。
【0034】
さらに、本発明は、本発明のガレクチン結合体を調製するための方法に関する。1実施形態では、ガレクチン分子は、宿主細胞、例えば、目的のガレクチンをコードする核酸構築物でトランスフェクトされた細菌または哺乳動物宿主細胞において、組換え体生成のための標準的な手順に従って生成される。精製後、このガレクチンを、タンパク質性の物質であってもまたはタンパク質性でない物質であってもよい、所望の細胞標的手段に対して結合体化してもよい。結合体化のための方法は、スクシンイミドのようなカップリング剤を用いる化学的カップリングのように、当該分野で周知である。好ましくは、このカップリング反応は、酸化工程に関与しない。なぜなら、ガレクチンは一般には、それらの炭水化物結合機能であって、酸化条件では破壊される機能のために還元環境を要するからである。細胞標的手段がタンパク質性の物質である場合、ガレクチン結合体を融合タンパク質として調製することが好ましい。その目的のために、scFv抗体フラグメントのような、細胞標的手段をコードする核酸のストレッチのフレーム単位でクローニングされるガレクチンをコードする核酸のストレッチを含む融合遺伝子構築物が調製される。この細胞標的手段、例えば、scFvは、ガレクチン分子のN末端、またはC末端のいずれと結合体化されてもよい(図3およびその説明を参照のこと)。
【0035】
さらなる局面では、本発明は、本発明によるガレクチン結合体と薬学的に受容可能なキャリアとを含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、薬学的に受容可能な補助物質および必要に応じて他の治療剤と混合した、活性な物質ガレクチン結合体を含む。この補助物質は、組成物の他の成分と親和性であり、かつそのレシピエントに有害でないという意味で「受容可能(acceptable)」でなければならない。目的の他の治療剤は、例えば、当該分野で公知の抗炎症剤または抗癌剤である。
【0036】
組成物としては、例えば、経口、舌下、皮下、静脈内、筋肉内、局所または直腸投与などに適切であり、全てが投与のために単位剤形である組成物が挙げられる。特に目的とするのは、徐放性処方物である。経口投与について、活性成分は、別個の単位として、例えば、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、溶液、懸濁液などとして与えられてもよい。非経口投与について、本発明の医薬組成物は、単位用量または複数用量の容器に、例えば、密閉バイアルおよびアンプル中の、例えば、予め決定された量の注射液に与えられてもよく、そしてまた使用前に、滅菌液体キャリア、例えば、水の添加しか必要としないフリーズドライ(凍結乾燥)条件で貯蔵されてもよい。
【0037】
例えば、標準的な引用文献、Gennaro, A. R. et al., Remington: The Science and Practice of Pharmacy (20th Edition., Lippincott Williams & Wilkins, 2000、特にPart 5を参照: Pharmaceutical Manufacturing)に記載されているとおり、このような薬学的に受容可能な補助剤と混合したガレクチン結合体は、固体投与単位、例えば、丸剤、錠剤に圧縮されても、またはカプセルもしくは坐剤に処理されてもよい。薬学的に受容可能な液体によって、活性物質は、液体組成物として、例えば、注射調製物として、溶液、懸濁液、エマルジョンの形態で、またはスプレー、例えば、経鼻スプレーとして与えられてもよい。
【0038】
固体単位剤形を作成するためには、充填剤、着色料、ポリマ結合剤などのような従来の添加物の使用が意図される。一般的には、ガレクチン結合体の機能に干渉しない任意の薬学的に受容可能な添加物が用いられ得る。本発明の活性剤とともに固体成分として投与され得る適切なキャリアとしては、適切な量で用いられる、ラクトース、デンプン、セルロース誘導体など、またはそれらの混合物が挙げられる。非経口投与のためには、薬学的に受容可能な分散剤および/または湿潤剤、例えば、プロピレングリコールまたはブチレングリコールを含む、水性懸濁液、等張性生理食塩水溶液および滅菌注射用溶液が用いられてもよい。
【0039】
疾患の処置のための本明細書で開示されるようなガレクチン結合体の使用も提供される。ガレクチン結合体は、ガレクチン療法から利点を得る状態の処置または予防のために適切に用いられ、ガレクチン療法は、それが必要な患者(動物/ヒト)に対して、本明細書において上記された医薬組成物の治療上有効な用量を投与する工程を有する。詳細には、アポトーシス誘導または免疫抑制(抗炎症)剤として、本発明によるガレクチン結合体は利用される。ガレクチン療法から利点を得る状態としては、炎症性疾患および障害が包含される。1実施形態では、ガレクチン結合体で処置されるべき状態(治療上または予防上のいずれか)は、(自己)免疫障害の処置を包含する。ガレクチン処置から利点を得る例示的な免疫障害としては、急性または慢性の炎症性疾患、例えば、自己免疫疾患、アレルギ性障害、自己免疫脳脊髄炎症、関節炎、大腸炎、肝炎、喘息、多発性硬化症、移植片拒絶、対宿主移植片病(GVHD)および炎症性腸疾患が挙げられる。ガレクチン結合体の臨床能力は、当該分野において例示されており、例えば、Rubinsteinら(2004, Tissue Antigens 64: 1〜12)の表1で、多発性硬化症、関節リウマチおよびクローン病のモデルを含む、実験的な急性および慢性の炎症の異なる動物モデルにおけるガレクチンの治療効果の概説が得られる。抗炎症性治療における使用のために特に興味深いのは、ガレクチン−1、ガレクチン−2またはガレクチン−3を含むガレクチン結合体である。
【0040】
別の局面では、本発明は、ガンの処置のための方法を提供し、この方法は、それが必要な患者(動物/ヒト)に対して、本明細書に開示されるようなガレクチン結合体を含む医薬組成物の治療上有効な用量を投与する工程を有する。また、ガンの処置のための医薬品の製造のためのガレクチン結合体の利用も提供される。種々のガレクチンファミリのメンバが、腫瘍の発達および抗腫瘍応答において重要な役割を果たすことが示されている。例えば、細胞内ガレクチン−3は、薬物誘導性アポトーシスを抑制する活性を現すことが示されている。アポトーシスに対する抵抗性は、ガン細胞生存に必須であって、腫瘍進行においてある役割を果たす。さらに、腫瘍細胞によって分泌されたガレクチン−3は、ガン浸潤T細胞のアポトーシスを誘導し、これによって、腫瘍の免疫回避機構においてある役割を果たすことが示された。ガレクチン結合体としてガン細胞に標的化され得る短縮ガレクチン、例えば、T細胞に結合し得るが、アポトーシスは誘導できない短縮ガレクチン−3の使用によって、腫瘍細胞によって分泌される高レベルのガレクチンとの競合が可能になる。それによって、ガレクチン結合体は、腫瘍細胞の免疫回避機構に干渉し得る。他方では、いくつかのT−ALL白血病細胞株が、ガレクチン−1によるアポトーシス誘導に極めて感受性であることが公知である。したがって、抗CD7、CD3、CD38などのようなT−ALL白血球細胞を標的する標的手段を有するガレクチン−1結合体は、白血病の処置において用いられ得る。また、種々の起源の多剤抵抗性腫瘍細胞が、ガレクチン−1によるアポトーシス誘導に感受性であることが報告されている(Ravatn et al.,「Circumventing multidrug resistance in cancer by beta-galactoside binding protein, an antiproliferative cytokine.」 Cancer Res. 2005; 65(5): 1631-4)。試験されたガン細胞における薬物抵抗性の機序としては、P−糖タンパク質の過剰発現、DNA修復の効率の増大、およびトポイソメラーゼIおよびII酵素における発現の変更および突然変異が挙げられる。ガレクチン−1は、プログラム細胞死の活性化の前のS期に細胞を停止させることによってその効果を発揮することが見出された。これらの薬物抵抗性細胞およびそれらの親細胞によるガレクチン−1に対する応答の固有に類似のプロフィールは、ガンの処置におけるガレクチンの治療能力を伸展させる。したがって、本発明によるガレクチン結合体は、患者の腫瘍が現在利用可能な中核の化学療法剤に対して難治性である患者における代替療法またはアジュバント療法として用いられ得る。したがって、本明細書においてはまた、多剤抵抗性細胞に関与するかまたは関与すると疑われるガンの処置のための医薬品の製造のための標的細胞表面分子に結合し得る、非ガレクチン細胞標的手段に結合された少なくとも1つのガレクチン分子を含むガレクチン結合体の使用が提供される。好ましくは、この結合体はガレクチン−1結合体である。
【0041】
(実験のセクション)
結合体化されたガレクチン分子の増強された生物学的有効性を実証するために、5つの異なるscFv:ガレクチン−1結合体を生成して、それらがアポトーシスを誘導する能力に関してさらに詳細に特徴付けた。本研究に関与する標的細胞表面抗原は以下であった:ヒトCD7、ヒトCD38、およびヒトEGP2。CD7およびCD38は両方とも、確立された白血病関連標的抗原および活性化T細胞上で高度に発現される抗原である。上皮糖タンパク質−2(EGP2)は、確立された汎癌腫標的抗原である。
【0042】
(材料および方法)
(モノクローナル抗体およびscFv抗体フラグメント)
ヒトガレクチン−1に特異性を有するマウスIgG1であるMAb NCL−Gal1は、Novocastra Laboratories,UKから購入した。MAb TH69は、ヒトCD7に特異性を有するマウスIgG1であって、Division of Stem Cell and Immunotherapy,2nd Medical Department,University Clinic Schleswig−Holstein,Kiel,GermanyのDr.Martin Gramatzki教授から贈呈された。MAb MOC31は、ヒトEGP2に高い親和性を有するマウスIgG1である。scFvCD38は、利用可能な配列データを用いて生成した。抗CD7抗体フラグメント3A1FをコードするファージミドpCANTAB5E/scFv3A1Fは、Department of Laboratory Medicine and Pathology,University of MinnesotaのChris Pennell博士から贈呈された。MAb TH69およびscFv−3A1Fは、ヒトCD7の細胞外ドメインの同じまたは重複するエピトープに対する結合について競合する。
【0043】
抗EGP2抗体フラグメントC54をコードするファージミドpCANTAB6E/scFvC54は、University of UtrechtのLogtenberg教授から贈呈された。MAb MOC31およびscFvC54は、ヒトEGP2の細胞外ドメインの同じまたは重複するエピトープに対する結合について競合する。
【0044】
(細胞株)
ヒトCD7陽性T−ALL細胞株JurkatおよびCD7陰性ヒトB細胞リンパ腫細胞株Ramosは、ATCC(Manassas,USA)から購入した。T細胞株MOLT16は、Dr.Martin Gramatzki教授からの贈呈であった。Jurkat細胞株のEGP2陽性形質転換体は、以前に記載されたとおり生成した(Bremer et al., IJC,2004, 109; 281-290, 2004)。全ての細胞株は、13%のFCSを補充したRPMI(Cambrex,New Jersey,New Hampshire,USA)中で、37℃で加湿5%CO2の環境において培養した。
【0045】
(活性化T細胞)
末梢血リンパ球(PBL)は、標準的な密度勾配遠心分離手順(Lymphoprep,Axis−Shield PoC As.,Oslo,Norway)によって健康なドナーの全血から単離した。単離したてのPBLを、RPMI中で2.0×10*6細胞/mlに再懸濁して、10%のヒトプール血清を補充した。活性化T細胞は、単離したてのPBLと抗CD3 MAb WT32(0.5μg/ml)との72時間のインキュベーション、その後の48時間のIL−2刺激(100ng/ml)によって得た。
【0046】
(scFv:ガレクチン−1結合体の構築)
全長ヒトガレクチン−1 cDNAは、Department of Pathology and Laboratory Medicine,UCLA School of Medicine,Los Angeles,California 90095,USAのLinda Baum博士から贈呈された。以前には、本発明者らは、CHO−K1細胞におけるscFv:sTRAIL融合タンパク質の迅速な構築、評価および安定した発現のための真核生物発現プラスミドpEE14scFv:sTRAILを記載した(Bremer et al., Int. J. of Cancer, 109; 281-290, 2004)。このベクタの重要な特徴は、26残基のフレーム単位リンカ配列によって隔てられる2つのマルチクローニング部位(MCSs)の上流にコードされるマウスκ軽鎖リーダペプチドの存在、および確立された生成細胞株CHO−K1中の組換えタンパク質の増幅発現を可能にするグルタミンシンテターゼ選択性マーカ遺伝子である。このベクタは、組換えタンパク質発現を駆動する強力なCMVプロモータを活かし、一方でリーダペプチドは、培養液上清へ融合タンパク質の排出を指向する。第1のMCSでは、抗CD7、抗EGP2または抗CD38scFvのいずれかをコードするDNAフラグメントが、固有のSfiIおよびNotI制限酵素部位を用いて一方向に挿入された。第2のMCSでは、sTRAILをコードするcDNAを、制限酵素XhoIおよびXbaIならびに標準的なDNA操作手順を用いて、ヒトガレクチン−1をコードするPCR修飾438bpのDNAフラグメントと置換した。これによって、プラスミドpEE14−scFv:ガレクチン(図2)が生じた。ガレクチン−1のcDNA操作は、プライマ:T1:5’−ATCCTCGAGTCTAGTGGGAGCGGATCTGCTTGTGGTCTGGTCGCC−3’(XhoI部位に下線を付す)およびT2:5’−TCTAGATCAGTCAAAGGCCACACATTTGATCTT−3’(XbaI部位に下線を付す)を用いる標準的なプロトコールに従って、プルーフリーディングDNAポリメラーゼを用いるPCRによって行った。
【0047】
プラスミドpEE14 scFv:ガレクチンを、一連の異なるscFv:ガレクチン結合体の迅速かつコンビナトリアルな構築に用いてもよい。このシリーズは、scFvドメインが、sFasLおよびsTRAILのような標的細胞表面分子のリガンドに交換される結合体を含む。さらに、このシリーズは、scFvおよびガレクチンの直列の順序が逆になる結合体を含み、ここで生じる結合体は、所定のガレクチンがMCS#1に挿入され、その後にリンカ配列が続き、そしてMCS#2に所定のscFvが挿入されている。さらに、プラスミドのプラットフォームによって、融合タンパク質のN末端もしくはC末端のいずれかへの、または必要に応じてリンカ領域内への、(ホモまたはヘテロ)−二量体化ドメインの挿入が可能になる。HAタグは、ヒトインフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来であり、そして市販の抗HA免疫親和性マトリックスを用いて、調整細胞培地から、自然条件下でHAタグ化scFv:ガレクチン結合体を精製してもよい。あるいは、ガレクチン結合体の精製は、αガラクトシルアガロース樹脂を用いて自然条件下で行ってもよい。
【0048】
(scFv:ガレクチン−1結合体の生成)
種々のscFv:ガレクチン−1融合タンパク質を、グルタミンシンテターゼ選択/増幅システムを用いてCHO−K1細胞で発現させた。要するに、CHO−K1細胞は、Fugene−6試薬(Roche Diagnostics,Almere,The Netherlands)を用いて種々のpEE14scFv:ガレクチン−1でトランスフェクトした。増幅発現が安定している形質転換体を単離して、単一の細胞を、高速細胞ソータ(Cytomation,Fort Collins,USA)を用いて選別した。個々のクローンをMSX選択試薬の不在下でのscFv:ガレクチン−1の安定かつ高い分泌について評価した。ScFv:ガレクチン−1含有培地を回収した(10.000g,10分)。
【0049】
(scFv:ガレクチン−1の標的抗原特異的結合)
scFvC54:ガレクチン−1結合体のEGP2−特異的結合を、1.0×106個のJurkat.EGP2細胞と、EGP2−ブロッキングMAb MOC31(5μg/ml)を有する、または有さないscFvC54:ガレクチン−1含有培地とをインキュベーションすることによって評価した。EGP2−特異的結合を、フローサイトメトリによって分析した。インキュベーションは、0℃で45分間行い、その後に無血清培地で2回洗浄した。scFvCD7:ガレクチン−1およびscFvCD38:ガレクチン−1のCD7またはCD38拘束結合を、MOLT16(CD7−陽性)およびJurkat細胞(CD7およびCD38−陽性)を用いる同様の手順を用いて評価した。
【0050】
(scFv:ガレクチン−1による標的抗原拘束アポトーシス誘導)
腫瘍細胞を、48ウェルプレート中に1ウェルあたり0.5×106個の細胞を播種して、標的抗原ブロッキングMAb(5μg/ml)を有する、または有さない、示した濃度のそれぞれのscFv:ガレクチン−1によって16時間処理した。アポトーシスは、ホスファチジルセリン(PS)の細胞表面出現を測定することによって、またはミトコンドリア膜電位(ΔΨ)の損失によって評価した。PS曝露は、製造業者の指示に従って、AnnexinV−FITC/PIキット(VPS Diagnostics, Hoeven, The Netherlands)でのフローサイトメトリ分析を用いて決定した。ΔΨは、細胞浸透性緑色蛍光親油性色素DiOC6(Molecular Probes,Eugene,USA)で分析した。処置後、細胞を遠心分離(300g,5分)によって回収して、37℃で20分間、新鮮培地中0.1μMのDiOC6とインキュベートして、PBSで1回洗浄し、そしてフローサイトメトリによって分析した。
【0051】
(結果)
(scFv:ガレクチン−1結合体によるアポトーシスの腫瘍選択的な誘導)
scFvCD7:ガレクチン−1の特異的な結合は、抗原CD7を高度に発現する急性T細胞白血病細胞株Jurkatを用いて分析した。Jurkat細胞を、ガレクチン結合体scFvCD7:ガレクチン−1を含む上清とともにインキュベートした。引き続き、結合体の結合は、抗−ガレクチン−1抗体NC1−Galおよび適切な二次PE結合体化抗体を用いてフローサイトメトリによって分析した(図5A)。Jurkat細胞とscFvCD7:ガレクチン−1とのインキュベーションによって、抗体コントロール単独(黒塗り)と比較して蛍光強度の強力な増大が明らかに生じた(実線)。CD7ブロッキングMAb TH−69とのプレインキュベーションによって、scFvCD7:ガレクチン−1の結合が阻害された。さらに、CD7陰性のRamos細胞では結合は検出されなかった(データ示さず)。まとめると、これによって、scFvCD7:ガレクチン−1が標的細胞の細胞表面上でのみCD7と強力に結合することが示される。CD7陰性のRamos細胞の細胞表面に対するガレクチン−1媒介性結合は、検出レベル未満であったので、これによって、この結合体は、CD7特異的細胞標的手段を介して優先的に結合することがさらに示される。EGP−2形質導入Jurkat細胞(Jurkat−EGP2)を用いて、EGP2−特異的なscFvC54:ガレクチン−1結合体で同様の結果が得られた(図5B)。Jurkat−EGP2のインキュベーションによって、EGP−2を発現しない親のJurkat細胞とscFvC54:ガレクチン−1とのインキュベーション(黒塗り)と比較して細胞表面に対する結合体の強力な結合が生じた(実線)。
【0052】
次に、結合体scFvCD7:ガレクチン−1およびscFvC54:ガレクチン−1のアポトーシス活性を分析した。CD7について強力に陽性である急性T細胞白血病細胞株Jurkatを、scFvCD7:ガレクチン−1(約1μM)または従来の組換えガレクチン−1(20μM)で24時間処理した(図6A)。この手順によって、培地コントロールレベルと比較して、scFvCD7:Gal−1処理細胞でアポトーシスの強力な誘導が明らかになった。重要なことに、従来の組換えガレクチン−1は、約10倍高い濃度でアポトーシスを最小限しか誘導せず、このことは、非標的化ガレクチン−1と比較してscFvCD7:ガレクチン−1結合体の優れたアポトーシス活性を示している。同様の実験では、scFvC54:ガレクチン−1のアポトーシス活性を、EGP2陽性Jurkat.EGP2細胞および親のEGP2陰性Jurkat細胞を用いて調査した(図6B)。scFvC54:ガレクチン−1による24時間のJurkat.EGP2の処置は、培地コントロールと比較して、アポトーシスの強力な増大を生じたが、親のEGP2陰性Jurkat細胞の処置は、アポトーシスの有意な増大を生じなかった。人工的なGalectin−1二量体(ガレクチン−1dm)を含む抗CD7scFv:ガレクチン−1によるJurkat細胞の処理は、アポトーシスを強力に活性化した。抗−CD7 scFv:ガレクチン−1dmによるアポトーシス誘導は、カスパーゼ非依存性であった。なぜなら、一般的なカスパーゼ−インヒビタZ−VAD−FMKは、アポトーシス誘導を有意にブロックしなかったからである(図6C)。これは、ガレクチン−1誘導性アポトーシスがZ−VAD−FMKによって阻害できないという初期の報告と一致している。
【0053】
(T細胞再標的化scFv:ガレクチン−1結合体の抗炎症性活性)
T細胞媒介性自己免疫の解決のためのscFv:ガレクチン−1の能力を検討するために、抗原CD7およびCD38に特異性を有するscFv:ガレクチン−1結合体を、上記のとおり生成した。CD7およびCD38は、特異的に活性化T細胞上で高度に発現される。scFvCD7:ガレクチン−1の結合は、フローサイトメトリを用いて活性化T細胞上で評価した。活性化T細胞とscFvCD7:ガレクチン−1とのインキュベーションによって、抗体コントロール(図7A:黒塗り)と比較して、細胞表面に対する強力な結合が明らかに生じた(図7A:実線)。CD7ブロッキングMAb TH−69とのプレインキュベーションによって、scFvCD7:ガレクチン−1の結合は強力に阻害され(図7A;破線)、このことは、結合がCD7媒介性であることを示している。CD7陰性B細胞上では結合は検出されず(図7B;抗体コントロール、黒塗り;scFvCD7:ガレクチン−1、実線)、このことは、活性化T細胞に対するscFvCD7:ガレクチン−1の特異性の増強を示した。同様の結果をscFvCD38:ガレクチン−1結合体について得た(データ示さず)。
引き続いて、活性化T細胞に向けたscFvCD7:ガレクチン−1のアポトーシス活性を分析した。scFvCD7:ガレクチン−1(約lμM)による活性化T細胞の24時間の処置によって、およそ80%までのアポトーシスの強力な誘導が生じた(図8A)。重要なことに、活性化T細胞を従来の、非結合体化組換えガレクチン−1によって極めて高濃度(20μM)で処理した場合、最小限のアポトーシス活性しか見出されず、このことは、活性化T細胞に向けたscFvCD7:ガレクチン−1結合体のアポトーシス活性の増強を示している。同様に、scFvCD38:ガレクチン−1は、また、活性化T細胞においてアポトーシスを強力に誘導する(図8B)が、従来の組換えの非結合体化ガレクチン−1は、アポトーシスを誘導しなかった。
【0054】
(scFv425:ガレクチン−1によるアポトーシスのEGFR特異的活性化)
scFv425:ガレクチン−1の特異的結合は、抗原EGFRを高度に発現するEGFR−陽性細胞株RC21を用いて分析した。RC21細胞を、ガレクチン結合体scFv425:ガレクチン−1を含む上清とともにインキュベートした。結合体の結合は、抗ガレクチン−1抗体NCL1−Galおよび適切な二次PE結合体化抗体を用いてフローサイトメトリによって分析した(図9A)。RC21細胞とscFv425:ガレクチン−1とのインキュベーションによって、抗体コントロール単独(黒塗り)と比較して、蛍光強度の強力な増大が明らかに生じた(実線)。結合は、RC21細胞と親のEGFRブロッキングMab425とのプレインキュベーションによって特異的に阻害した(破線)。
引き続いて、EGFR−特異的なscFv425:ガレクチン−1によるアポトーシスの誘導を調査した。卵巣癌細胞株A2780の処置によって、代表的なアポトーシスの形態的特徴の出現が生じた(図9B)。細胞株のパネルでは、scFv425:ガレクチン−1は、用量依存的にアポトーシスを活性化した(図9C)。重要なことに、A2780の多剤抵抗性変異体であるA2780.CP70(Zhen et al., MoI. Cell Biol. 1992 Sep; 12(9): 3689-98)は、親のA2780細胞株よりもscFv425:ガレクチン−1に対してさらに感受性であった。両方の細胞株では、アポトーシス誘導は、一般的なカスパーゼインヒビタZ−VAD−FMKでは阻害され得ず(図9D)、このことは、scFv425:ガレクチン−1誘導性アポトーシスがカスパーゼ非依存性であることを示す。
【0055】
(sFasL:ガレクチン−1/sTRAIL:ガレクチン−1によるT細胞白血病におけるアポトーシスの活性化)
scFvドメインを含まないが、代わりのドメインを含むガレクチン−1結合体を用いるアポトーシスの活性化の実現可能性を決定するために、本発明者らは、sFasL:ガレクチン−1およびsTRAIL:ガレクチン−1構築物を構築した。T細胞株に対するこれらの結合体の特異的な結合によって、アポトーシスの強力な誘導が生じたが(図10A)、非標的B細胞株Ramosの同様の処置は、アポトーシスの有意な誘導を生じなかった。アポトーシス誘導は、それぞれsFasLおよびsTRAILの、それらの同族の(cognate)レセプタとの結合を防止することによって特異的にブロックされ得る(図10B)。
【0056】
これらの結合体による、ガレクチン−1およびsFasLによるアポトーシス誘導に対して感受性であることが公知の活性化T細胞の処置はまた、アポトーシスを強力に活性化した(図10C)。ガレクチン−1およびsFasLによるアポトーシス誘導に対して非感受性であることが公知である静止PBLの同様の処置では、sFasL:ガレクチン−1の「インノセントな(innocent)」アポトーシス誘導活性はもたらされなかった(図10D)。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】現在公知のガレクチンの模式図。(出典はRubinstein et al, Tissue Antigens, Vol 64, July 2004より)
【図2】真核生物発現プラスミドpEE14−scFv:ガレクチンの図。構造的な要素としては、CMV、強力なCMVプロモータ;Sig、マウスκ軽鎖リーダ配列;HA、N−末端HAアフィニティタグ、鎖間リンカ配列およびGSによって隔てられた2つのMCS、安定した形質転換体における増幅発現のためのグルタミンシンテターゼ抵抗性遺伝子、が挙げられる。この第1のMCS(MCS#1)は、(例えば、樹立されたファージディスプレイ技術によって選択される)scFvsの迅速な定方向挿入のための固有のSfiIおよびNotI部位を含む。この第2のMCS(MCS#2)は、適切なPCR操作の後に種々のガレクチンファミリメンバの定方向性挿入のためのXhoIおよびXbaI部位を含む。
【図3】scFv:ガレクチン融合タンパク質のいくつかの例示的構成の模式図。A:予め決定された特異性の組換え抗体フラグメント(scFv)からなる非ガレクチン細胞標的手段は、可塑性のアミノ酸リンカ配列を介してヒトガレクチンファミリのメンバのN末端に遺伝的に融合される。B:あるいは、scFv抗体フラグメントは、ガレクチンファミリのメンバのC末端と結合体化される。C:二量体化ドメイン、例えば、ロイシンジッパが、N末端scFvドメインに遺伝的に融合されて、第2のガレクチン結合体との二量体化が強制される。あるいは、二量体ドメインは、C末端領域に融合されてもよいし、またはリンカ領域に挿入されてもよい。この図には尺度を記していないことに注意のこと。
【図4】scFvガレクチンの標的化誘導性活性化の仮説的な原理。ガレクチン−結合体化scFv:ガレクチン(またはガレクチン:scFv)に対する標的細胞の曝露によって、標的の抗原陽性細胞の細胞表面での結合体の強力かつ選択的な結合が生じる。引き続き、細胞表面付着によって、scFv:ガレクチンの局所的活性化が生じ、これによって次に、それぞれのガレクチンレセプタの相互の架橋結合によって、同じ細胞において、または隣接する標的抗原陽性細胞において、レセプタアポトーシスを誘導する能力が得られる(それぞれ自殺および同胞殺し(fratricide)アポトーシス)。さらに、標的細胞上の細胞表面固定scFv:ガレクチンは、標的抗原発現を欠く隣接する腫瘍細胞においてアポトーシスを誘導するように開発され得る。この現象は、バイスタンダ効果として公知であって、これは、治療から別の方法で回避する疾患細胞を処置するために用いられ得る(図には尺度を記していない)。
【図5】腫瘍標的scFv:ガレクチン−1結合体の標的抗原拘束結合。A:scFvCD7:ガレクチン−1の標的抗原拘束結合の原理の証明は、T白血病Jurkat細胞を用いて得た。scFvCD7:ガレクチン−1とのJurkat細胞のインキュベーションによって、抗体コントロール(黒塗り)と比較して結合体の強力な結合(実線)が得られた。CD7ブロッキングMAb TH−69とのプレインキュベーションによって、scFvCD7:ガレクチン−1の結合は強力に阻害された(破線)。B:scFvC54:ガレクチン−1の結合は、ヒトEGP2を発現するJurkat細胞(Jurkat.EGP2)を用いて検討した。結合体scFvC54:ガレクチン−1は、EGP2選択性抗体フラグメントscFvC54を含む。EGP2は、抗体に基づく治療で以前に用いられた、確立された標的抗原であり、種々のヒト癌腫の細胞表面上で選択的に発現されるが、野性型Jurkat細胞では発現されない抗原である。Jurkat.EGP2とscFvC54:ガレクチン−1とのインキュベーションによって、細胞表面に対する強力かつ選択的な結合(実線)が得られたが、親のEGP2陰性のJurkat細胞では結合は検出されなかった(黒塗り)。
【図6】腫瘍再標的化scFv:ガレクチン−1結合体による標的抗原拘束アポトーシス誘導。A:抗CD7scFv:ガレクチン−1(<1μM)での16時間のJurkat細胞の処理によって、細胞の約80%までのアポトーシスの強力な誘導が得られた。高濃度の従来の組換えガレクチン−1での処理(rGal−1;20μM)はアポトーシスを最小限にしか誘導しなかった。B:汎癌腫(pan−carcinoma)マーカEGP2を有するレトロウイルスによって形質導入されたJurkat細胞(白抜きバー)を、EGP2標的化結合体scFvC54:ガレクチン−1(<1μM)で処理して、アポトーシスの強力な誘導を生じた。親のJurkat細胞(黒いバー)は、抗EGP2scFv:ガレクチン−1での処置には感受性ではなかった。
【図7】T細胞特異的なscFv:ガレクチン−1の標的抗原拘束結合。A:抗CD3/IL−2活性化T細胞と抗CD7scFv:ガレクチン−1とのインキュベーションによって、抗体コントロール(黒塗り)と比較して、細胞表面に対する強力な結合(実線)が生じる。結合は、標的抗原ブロッキングMabとの同時インキュベーションによって競合的に阻害される(破線)。B:標的抗原陰性細胞上では結合は検出されない。scFv:ガレクチン−1とのインキュベーション(実線)によって、抗体コントロール(黒塗り)に匹敵する蛍光強度が得られる。
【図8】T細胞特異的なscFv:ガレクチン−1による活性化T細胞に対するアポトーシスの標的抗原拘束誘導。活性化T細胞をA:抗CD7、またはB:抗CD38scFv:ガレクチン−1で処理して、その後に、アポトーシスの誘導をフローサイトメトリを用いてAnnexinV/ヨウ化プロピジウム(PI)染色によって評価した。抗CD7または抗CD38 scFv:ガレクチン−1(約1μM)での処理によって、培地と比較して、活性化T細胞におけるアポトーシスの強力な増大が生じた。従来の組換えガレクチン−1(20μM)での処理は、アポトーシスを誘導しなかった。
【図9】EGFR特異的なscFv:ガレクチン−1によるEGFR−陽性腫瘍細胞でのアポトーシスの標的抗原拘束誘導。A:EGFR陽性腎臓癌腫細胞(RC21)と抗EGFRscFv:ガレクチン−1結合体とのインキュベーションによって、抗体コントロール(黒塗り)と比較して、細胞表面に対する強力な結合(実線)が生じる。結合は、標的抗原ブロッキングMAbとの同時インキュベーションによって競合的に阻害される(破線)。B:抗EGFRscFv:ガレクチン−1結合体でのEGFR−陽性細胞株A2780の処理は、形態学的に典型的なアポトーシスの変化を誘発する。C:EGFR陽性腫瘍細胞株(A2780、OVCAR−3、SKOV−3、A594および多剤抵抗性A2780変異体A2780.CP70)を、抗EGFR scFv.ガレクチン−1で16時間処理して、これによって、強力な用量依存性のアポトーシスの誘導を生じた。D:A2780およびA2780.CP70における抗EGFR scFv:ガレクチン−1によるアポトーシスの誘導は、一般的なカスパーゼインヒビタZ−VAD−FMKによって阻害されず、このことは、両方の細胞株において、scFv:ガレクチン−1がカスパーゼ非依存性のアポトーシスを誘導することを示している。
【図10】ガレクチン−結合体sFasL:ガレクチン−1およびsTRAIL:ガレクチン−1によるアポトーシスの標的細胞拘束誘導。A:sFasL:ガレクチン−1での処理は、T細胞株JurkatおよびMOLT16における、ただしB細胞株Ramosにおいてではない、T細胞に対する特異的なガレクチン媒介性結合、および引き続く、sFasLおよびガレクチン−1媒介性のアポトーシスの用量依存性の誘導を生じる。B:T細胞株JurkatのsTRAIL:ガレクチン−1によるアポトーシス誘導は、TRAIL中和抗体MAb2E5によって特異的にブロックされた。sFasL:ガレクチン−1によるアポトーシス誘導は、FasL中和抗体Alf2.1によって特異的にブロックされた。C:sFasL:ガレクチン−1結合体での、sFasLおよびガレクチン−1によるアポトーシス誘導に対して感受性のCD3/IL−2活性化T細胞の処置は、アポトーシスを強力に誘導した。D:sFasL:ガレクチン−1結合体での、sFasLおよびガレクチン−1によるアポトーシス誘導に対して非感受性の、単離されたヒト末梢血リンパ球(PBL)の処置は、これらの「インノセントな」PBLの誘導は生じなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞表面分子に結合し得る非ガレクチン細胞標的手段と結合体化した少なくとも1つのガレクチン分子を含む、ガレクチン結合体。
【請求項2】
前記細胞標的手段がタンパク質性物質である、請求項1に記載のガレクチン結合体。
【請求項3】
前記ガレクチン分子が、必要に応じてリンカ配列を介して、前記細胞標的手段に遺伝的に融合される、請求項1または2に記載のガレクチン結合体。
【請求項4】
前記ガレクチン分子が、前記細胞標的手段に対して化学的に結合される、請求項1または2に記載のガレクチン結合体。
【請求項5】
前記細胞標的手段によってガン細胞特異的標的化が可能になる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガレクチン結合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のガレクチン結合体であって、前記細胞標的手段が、分化抗原群(CD)抗原、ABC輸送タンパク質、腫瘍細胞上で過剰発現されるリガンド、接着分子、白血球の1つ以上のタイプで排他的にまたは優勢的に発現されるリガンド、T細胞またはB細胞の1つ以上の亜集団、サイトカインレセプタ、増殖因子レセプタ、膜貫通タンパク質を含む分子または複合体、チロシンキナーゼ型レセプタ、セリンキナーゼ型レセプタ、ヘテロ三量体Gタンパク質結合体化レセプタ、チロシンキナーゼに結合したレセプタ、TNFファミリレセプタ、ノッチファミリレセプタ、グアニレートシクラーゼタイプ、チロシンホスファターゼタイプ、デコイレセプタ、阻害性レセプタ、および接着レセプタ、またはこのようなレセプタと協調する任意の細胞表面レセプタリガンドからなる群より選択される標的細胞表面分子に結合し得、好ましくは該標的手段が、CD抗原、例えば、CD7もしくはCD38、またはTNFファミリのメンバ、例えば、TRAIL−Rに結合し得る、ガレクチン結合体。
【請求項7】
前記標的手段が、抗体またはその機能的なフラグメント、好ましくは単鎖可変抗体フラグメント(scFv)を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガレクチン結合体。
【請求項8】
前記少なくとも1つのガレクチン分子が、二機能または多機能の標的手段と結合体化される、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガレクチン結合体。
【請求項9】
前記少なくとも1つのガレクチン分子が、二量体として生物学的に活性である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のガレクチン結合体。
【請求項10】
前記ガレクチン分子が、突然変異ガレクチン分子である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のガレクチン結合体。
【請求項11】
前記ガレクチン結合体が、ガレクチン分子の二量体を含み、その少なくとも一方が、細胞標的手段と結合体化され、好ましくは該二量体のガレクチン分子が、GGもしくはSS−リンカなどを介して共有結合されるか、またはロイシンジッパドメインのような二量体化ドメインを介して安定化される、請求項1〜10のいずれか1項に記載のガレクチン結合体。
【請求項12】
前記2つのガレクチン分子が各々、細胞標的手段と結合体化される、請求項11に記載のガレクチン結合体。
【請求項13】
前記ガレクチン分子が、同一のまたは別個の細胞標的手段に対して結合体化される、請求項12に記載のガレクチン結合体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のガレクチン結合体および薬学的に受容可能なキャリアを含む医薬組成物。
【請求項15】
少なくとも1つのさらなる免疫抑制剤または抗炎症剤をさらに含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
炎症性疾患の処置のため、またはガンの処置のための医薬品の製造のための請求項1〜13のいずれか1項に記載のガレクチン結合体の使用。
【請求項17】
アポトーシス誘導または免疫抑制剤としての請求項1〜13のいずれか1項に記載のガレクチン結合体の使用。
【請求項18】
ガレクチン療法から恩恵を受け得る状態の処置または予防のための方法であって、それが必要な患者に対して、請求項14または15に記載の医薬組成物を治療上有効な用量を投与する工程を有し、好ましくは該状態は、免疫障害であり、より好ましくは、急性もしくは慢性の炎症性疾患からなる群より選択される免疫障害であって、例えば、自己免疫疾患、アレルギ性障害、自己免疫脳脊髄炎、関節炎、大腸炎、肝炎、喘息、多発性硬化症、移植片拒絶、対宿主移植片病(GVHD)および炎症性腸疾患からなる群より選択される免疫障害である、方法。
【請求項19】
ガンの処置のための方法であって、それが必要な患者に対して、請求項14または15に記載の医薬組成物の治療上有効な用量を投与する工程を有する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−502909(P2009−502909A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523820(P2008−523820)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【国際出願番号】PCT/NL2006/000394
【国際公開番号】WO2007/013807
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(596127864)リイクスウニヴェルシタイト グロニンゲン (3)
【氏名又は名称原語表記】Rijksuniversiteit Groningen
【Fターム(参考)】