説明

ガンの中性子捕捉療法を可能とする架橋型ホウ素内包ミセル

【課題】生体環境下で安定な高分子ミセルとして存在できる、ホウ素化合物と親−疎水型ブロックコポリマーのポリマーコンジュゲートの提供。
【解決手段】ポリマーコンジュゲートは、1分子のホウ素化合物が2分子の親−疎水型ブロックコポリマーと共有結合を介して架橋した構造を少なくとも1つは含んでなり、かつ、該ホウ素化合物は重合性官能基を2つ有する二官能性であり、該親−疎水型ブロックコポリマーはその疎水性ブロックの末端に重合性官能基を有し、上記共有結合は該ホウ素化合物の重合性官能基と該ブロックコポリマーの重合性官能基相互の重合反応により形成されたものである。該ホウ素化合物は下記式で表される。


式中●はBHを表し、L3は、メチレン結合など、Zは、重合性官能基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内のガン組織にホウ素化合物を集積させることのできる架橋型ホウ素内包ミセル及び該ミセルを形成できるホウ素化合物とポリマーのコンジュゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素中性子捕捉療法は10B核と熱中性子線の捕捉反応によって生じるα粒子およびLi粒子によってガン組織を殺傷する、放射線療法の一形態である。これらの飛程は細胞1つ分(数μm)であるため、ガン組織にホウ素を高濃度で集積させることができれば、正常組織の損傷を最小限にしながらガン組織を選択的に殺傷することが可能となる。
【0003】
従来ガン組織へ高濃度でホウ素を集積させる技術として、表面をポリエチレングリコール(PEG)で被覆したリポソームにボロカプテイト(BSH)やパラボロノフェニルアラニン(BPA)などの親水性ホウ素化合物を封入する手法が用いられている(非特許文献1参照)。しかしながら、これらの方法では高濃度でホウ素化合物を封入した場合、親水層のイオン浸透圧によって二重膜の不安定化、リポソームの崩壊、ホウ素化合物の漏れ出しが引き起こされる。これによって正常組織へのホウ素の集積や治療効果の低減が大きな問題となっている。これらの問題を解決するため、脂質と疎水性ホウ素化合物を共有結合によって結合させ、リン脂質二重膜内にホウ素化合物を取り込ませる技術も開発されているが、多段階かつ複雑な合成を必要するため、効率やコスト面から問題が多い。また動物実験において急性毒性が数例報告されており、安全面においても問題がある(非特許文献2)。さらにリポソームは凍結乾燥処理を行うと水へ再分散させることが非常に困難であり、製剤化を目指す上で問題となる。
【0004】
他方、ホウ素リッチの化合物を提供するために適当な官能基によりパラ−カルボラン(para−carborane)を修飾し、該官能化カルボランをデンドリマーのフレーム構造中に共有結合せしめた化合物や、重合性カルボラン含有モノマーを重合せしめた線状ブロックコポリマーが提案されている(非特許文献3)。また、カルボラン機能化スチレンモノマーの重合、次いで、該カルボラン上でのデンドリマーを成長せしめたポリマー(非特許文献4)、さらには、シリル保護オキソノルボルネンイミドカルボランとBoc保護オキソノルボルネンイミドアミンのコポリマーも提案されている(非特許文献5)。該コポリマーは、低多分散性であり、荷電状態の親水性ブロックがコロナを構成しそしてカルボラン含有ブロックがコアを構成する流体力学的平均半径41nmの高分子ミセルの形成することが示唆されている。しかし、これらは血流中でカルボランが漏出することおよびブロックの解離によるミセルの崩壊が起こり易い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Anti−Cancer Agents in Medical Chemistry,(2006)6,168−184
【非特許文献2】YAKUGAKU ZASSHI,(2008)128,193−208
【非特許文献3】Matthew C.Parrott,et al.,Macromol.Symp.(2003)196,201−211
【非特許文献4】S.Rahima Benhabbour,et al.,Macromolecules,published on Web 07/04/2007 PAGE EST:10.1
【非特許文献5】Yoan C.Simon,et al.,Macromolecules,published on Web 07/06/2007 PAGE EST:2.6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術は、いずれも生体内または血流中でホウ素化合物の漏れ出し、標的組織以外の組織、器官にホウ素化合の集積が起こる可能性があり、ホウ素中性子捕捉療法物にとって必ずしも安全でない場合がある。したがって、本発明では、高い分散性を持ち、ホウ素化合物の漏れ出しを抑制し体内の標的組織、例えば、ガン組織へホウ素化合物を高濃度で集積させルことが可能であり、かつ、高い生体適合性及び生分解性を有する架橋型ホウ素内包高分子ミセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明者らは生分解性を有する疎水性ポリマーセグメントの末端に重合性官能基を導入した親−疎水型ブロックコポリマーを水中でミセル化し、重合性官能基を2つ有する疎水性のホウ素化合物(架橋剤として働く)をミセル内核に内包させ、次いで重合させることにより、ホウ素化合物の漏れ出しを抑制し、血中において高い安定性を有する架橋型ホウ素内包高分子ミセルを極めて効率よく提供できることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、水中で高分子ミセルとして存在できる、ホウ素化合物と親−疎水型ブロックコポリマーのポリマーコンジュゲート、並びに該コンジュゲートにより形成される高分子ミセル含有水性組成物に関する。
【0009】
該ポリマーコンジュゲートは、1分子のホウ素化合物が2分子の親−疎水型ブロックコポリマーと共有結合を介して架橋した構造を少なくとも1つは含んでなり、かつ、
該ホウ素化合物は重合性官能基を2つ有する二官能性であり、該親−疎水型ブロックコポリマーはその疎水性ブロックの末端に重合性官能基を有し、上記共有結合は該ホウ素化合物の重合性官能基と該ブロックコポリマーの重合性官能基相互の重合反応により形成されたものであることに特徴を有する。このような架橋した構造を有する高分子ミセルを本願明細書では「架橋型ホウ素内包ミセル」ともいう。
【発明の効果】
【0010】
該親−疎水型ブロックコポリマーはそれら自体、水中で会合して高分子ミセルを形成し、その後該ホウ素化合物をミセル内に封入でき、または該ブロックコポリマーと該ホウ素化合物はそれらが水中で一緒になって、該ホウ素化合物が内包された高分子ミセルを形成する。当該技術分野で周知のように、これらの高分子ミセルは疎水性ブロックまたは疎水性ブロックとホウ素化合物をコアとし、親水性ブロックをコロナまたはシェルとして構成されていると理解される(また、上記非特許文献5参照)。
【0011】
しかし、このような単に会合することのみで生成したホウ素化合物含有高分子ミセルの典型的なものは、後述する実施例で例証するとおり水性媒体中でホウ素化合物の多くが漏れ出すのに対し、このような高分子ミセルを重合反応に供して取得した、すなわち、架橋型ホウ素内包ミセルは、同様な処理条件下で実質的にホウ素化合物の漏れ出しが起こらない。
【0012】
したがって、本発明に従う、該ポリマーコンジュゲートに由来する架橋型ホウ素内包高分子ミセルは、水性媒体中で安定である。また、後述するとおり、典型的な架橋型ホウ素内包高分子ミセルは100nm以下のサイズ、または平均直径が100nm付近にある分散性の狭いものであり、5−10wt%程度ホウ素元素を内包できることを確認した。
【0013】
さらに本発明に従う、架橋型ホウ素内包高分子ミセルを放射性同位体によって標識化してマウスへ静脈注射によって投与した後、体内動態を評価したところ架橋による血中滞留性に著しい向上が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られた架橋型ホウ素内包高分子ミセルの動的散乱の測定の結果に基づく粒径分布を示すグラフ表示である。
【図2】実施例2により測定された架橋型ホウ素内包高分子ミセルまたは非架橋型ホウ素内包高分子ミセルのウシ胎児血清存在下におけるホウ素化合物の漏れ出しの挙動を示すグラフ表示である。グラフ中、白抜き丸印は架橋後のミセルを意味し、黒塗り四角印は架橋前のミセルを意味する(n=3,mean±SD)。
【図3】実施例3による架橋型ホウ素内包高分子ミセルの125標識化の確認の結果を示すグラフ表示である。
【図4】実施例3による、架橋型ホウ素内包高分子ミセルのマウス静脈注射後の体内動態分布を示すグラフ表示である。
【図5】実施例3による、非架橋型ホウ素内包高分子ミセルのマウス静脈注射後の体内動態分布を示すグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリマーコンジュゲートは、水中で高分子ミセルとして存在でき、好ましくは、後述する実施例2に記載のin vitroでの安定性評価試験で、少なくとも10時間、好ましくは20時間、実質的に内包されているホウ素化合物を放出しないように構成されるものであり、本発明の目的に沿うものであるなら、当該技術分野で、ホウ素クラスター、官能化カルボランと称されるホウ素化合物に由来し、かつ、適当な重合性官能基を2個分子内に有するホウ素化合物と、それ自体水中で高分子ミセルを形成できる如何なる親−疎水型ブロックコポリマーとのコンジュゲートをも包含する。ホウ素化合物に含まれるホウ素は、11B及び10Bの同位体組成が、それぞれ約80%及び約20%からなる天然に存在するものに由来することができるが、10Bが50%以上、さらには70%以上に濃縮されたものに由来するのが好ましい。
【0016】
該ポリマーコンジュゲートは、1分子のホウ素化合物が2分子の親−疎水型ブロックコポリマーと共有結合を介して架橋した構造を少なくとも1つは含んでおり、高分子ミセルの水中での安定性に悪影響を及ぼさないかぎり、1分子のホウ素化合物が一分子の該ブロックコポリマーに結合した構造を含んでいてもよい。
【0017】
限定されるものでないが、具体的なものとして例示できるホウ素化合物としては、式(Ia)、(Ib)または(Ic)
【0018】
【化1】

【0019】
式中
● はBHを表し、
各Zは、独立して、クロトニル、アクリロイル、メタクリロイル、ビニルカルボニルオキシエチル、イソプロペニルカルボニルオキシエチル、クロチル、ビニルカルボニルアミノ、イソプロペニルカルボニルアミノ、p−ビニルベンジル、p−イソプロペニルフェニル、ビニルジメチルシリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アリル及びビニルからなる群より、好ましくは、メタクリロイル、p−ビニルベンジル、アクリルアミド、メタクリルアミドアリルからなる群より、より好ましくはメタクリロイル、p−ビニルベンジルからなる群より選ばれる化合物に由来する重合性官能基であって、また、好ましくは、各基が同一の基を表し、
各Lは、独立してメチレン結合、フェニレン結合、C−C10アルキレンフェニレン結合、エステル結合,アミド結合、カーボネート結合、尿素結合、エーテル結合、チオエーテル結合及びウレタン結合からなる群より、好ましくは、フェニレン結合、エステル結合,アミド結合からなる群より、より好ましくは、フェニレン結合からなる群より選ばれ、また、各結合が同一であるものが好ましく、そして
各pは、独立して1〜10、好ましくは、1〜5の整数、である、
で表されるカルボラン誘導体を挙げることができる。さらに、式(Ia)、(Ib)または(Ic)で表されるカルボランは、これらの混合物であってもよい。
【0020】
このようなカルボラン誘導体は、例えば、非特許文献4に記載されているようなカルボランのジアニオンに適当な重合性官能基を導入できる上記のごとき化合物を反応させることにより導入できる。非特許文献4では、単一の重合性官能基として、p−ビニルベンジルを4−ビニルベンジルクロライドを用いて導入しているが、かような方法を改良することにより2個の当該官能基を導入できる。
【0021】
該親−疎水型ブロックコポリマーの具体的なものとしては、限定されるものでないが、式(II)
X−(CH−L−(PHLS)−(PHBS)−L−Y (II)
式中、
Xはアセタール基、アルデヒド基、カルボキシル基,マレイミド基、アジド基、アルキレン基及びチオール基からなる群より選ばれる官能基を表し、
PHLSはポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド)、ポリ{(2−ヒドロキシ)プロピルアクリルアミド}、ポリオキサゾリン及びポリ(メチルビニールエーテル)からなる群より、好ましくは、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)及びポリオキサゾリンからなる群より選ばれ、特に、ポリ(エチレングリコール)であるポリマー鎖に由来する親水
性ブロックを表し、かつ、各ポリマーの反復単位は3〜1000、好ましくは40〜200の範囲内にあり、
PHBSはポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ブチロラクトン)、ポリ(バレロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(α−アミノ酸)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸エチル)、ポリ(スチレン)、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(クロロメチルスチレン)、ポリ(イソプレン)、ポリ(ブタジエン)、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)及びポリ酢酸ビニルからなる群より、好ましくは、ポリ(ラクチド)及びポリ(カプロラクトン)からなる群より、より好ましくは、ポリ(ラクチド)であるポリマー鎖に由来する疎水性ブロックを表し、かつ、各ポリマーの反復単位は5〜1000、より好ましくは、40〜300の範囲内にあり、
及びLは、独立して、メチレン結合、フェニレン結合、C−C10アルキルフェニレン結合、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、尿素結合、エーテル結合、チオエーテル結合及びウレタン結合からなる群より、好ましくは、フェニレン結合、エステル結合及びアミド結合からなる群より、より好ましくは、フェニレン結合であるリンカーを表し、そして
Yはクロトニル、アクリロイル、メタクリロイル、ビニルカルボニルオキシエチル、イソプロペニルカルボニルオキシエチル、クロチル、ビニルカルボニルアミノ、イソプロペニルカルボニルアミノ、p−ビニルベンジル、p−イソプロペニルフェニル、ビニルジメチルシリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アリル及びビニルからなる群より、好ましくは、メタクリロイル、p−ビニルベンジル、アクリルアミド及びメタクリルアミドからなる群より、より好ましくはメタクリロイル及びp−ビニルベンジルからなる群より選ばれる化合物に由来する重合性官能基を表す、
で表されるブロックコポリマーを挙げることができる。
【0022】
なお、上記において、該化合物に由来する重合性官能基とは、重合性官能基以外で重合反応に悪影響を及ぼさない化合物の部位の水素原子等が単結合により置換された形態にある基を意味する。
【0023】
このようなブロックコポリマーは、それ自体公知であるか、公知のコポリマーの製造方法に準じて製造できる。例えば、ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(ラクチド)またはその他のポリエステルについては、WO97/06202(または米国特許第5,929,177号)また、WO96/33233に記載のヘテロテレケリックブロックコポリマーを参照できる。また、ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(α−アミノ酸)に関しては、例えば、特開平6−107565号に記載のブロックコポリマーを用い、それらのα−及びω−末端に特定の官能基を導入したものを挙げることができる。このような末端への特定の官能基の導入方法としては、当業者であれば、上記へテロテレケリック共重合体の製造方法を参照できる。
【0024】
親−疎水型ブロックコポリマーは、水と混和性の有機溶媒や緩衝剤を含んでいてもよい水性媒体中でのそれ自体公知の会合条件下で高分子ミセルを形成することができ、こうして形成された高分子ミセルにその後、予め形成された高分子ミセルの疎水性ブロックから構成されるコア部分にホウ素化合物をとり込ませてホウ素化合物内包高分子ミセルとすることができる。また、別法として、親−疎水型ブロックコポリマーとホウ素化合物を水性媒体中で混合して、それ自体公知の会合条件下で処理することにより、ホウ素化合物が高分子ミセルのコア部分に取り込まれた高分子ミセルを製造することもできる。
【0025】
こうして形成されたホウ素化合物内包高分子ミセルは、該ミセル含有水性媒体中で、重合性官能基を重合できる条件下で重合せしめることにより、該ホウ素化合物の重合性官能基と該グロックコポリマー2分子の各重合性官能基とが共有結合した架橋構造を含む架橋
型ホウ素内包ミセルとすることができる。このような、重合条件は、後述する実施例を参照し、また、使用する重合性官能基の既知の性質を考慮して、必要があれば、小実験を行った後、設定することができる。
【0026】
こうして製造された本願発明に従う架橋型ホウ素内包ミセルは、上記の如き構成を採用することにより
1)ナノサイズでかつ外殻に水溶性高分子を有していることから、高い生体適合性を有する。
2)ミセル内核がホウ素化合物によって架橋されていることから、血液中にてポリマーの解離、ホウ素化合物の漏れ出しが引き起こされない。
3)内核がホウ素化合物を架橋点とした生分解性高分子により構築されることから、治療後は体内に残留することなく排泄される。
等の特徴を有する。
【0027】
以下、さらなる具体例を挙げて本発明を説明するが、本願発明をこれらの例示の態様に限定することを意味するものでない。
【実施例1】
【0028】
1) 1,2−ビス(ビニルベンジル)−closo−カルボランの合成
窒素雰囲気下、ナスフラスコ中、室温においてo−カルボラン2.6mmol(0.38g)を溶媒テトラヒドロフラン20mLに溶解した後、0℃に氷冷しn−ブチルリチウムヘキサン溶液5.2mmol(3.3mL)を滴下し、0℃にて30分間攪拌を行った。次にp−クロロメチルスチレン5.2mmol(0.78mL)を加え室温にて8時間攪拌を行った。反応後溶媒をロータリーエバポレートによって除去した後生成物をジクロロメタンに溶解し、溶離液にヘキサンを用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製を行い、減圧乾燥を行った目的の生成物を回収した。回収量は1.1mmol(0.40g)であり、反応収率は40.8%であった。生成物の解析は有機元素分析、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES)とプロトン核磁気共鳴スペクトル測定(1H−NMR)によって行った。有機元素分析の結果炭素元素、水素元素の組成比はそれぞれC:63.8%,H:7.50%であった(計算値C:63.8%,H:7.54%)。
ICP−AESの結果、ホウ素元素の組成比は26.7%であった(計算値28.7%)。
H−NMRスペクトルの結果は次の通りである。H−NMR(270MHz,CDCl):δ(ppm)=3.62(s,{2H},−CHC(BH)10)5.25(d,{1H},−CH=CHPh),5.75(d,{1H},−CH=CHPh),6.72(dd,{1H},−CH=CH),7.20(d,(2H},−CH=C−CH=CH2),7.40(d,(2H},−CH=C−CHC−(BH)10)。
【0029】
2) アセタールPEGブロックポリ乳酸メタクリレートの合成
窒素下、ナスフラスコ中、室温において、開始剤3,3−ジエトキシ−1−プロパノール0.5mmol(0.079mL)を溶媒テトラヒドロフラン15mLにマイクロシリンジで加え、K−ナフタレン0.50mmol(0.34MTHF溶液,1.5mL)を加えて20分間メタル化を施した。次いで、エチレンオキシド110mmol(5.5mL)を加えて室温で48時間撹拌し、アニオン開環重合を行った。ここにD,L−ラクチド/THF溶液17mmol(22mL)を加え、さらに室温にて2時間攪拌を行い、無水メタクリル酸1.55mL(10mmol)を加え24時間攪拌を行った。その後、2−プロパノール沈澱(2L)、遠心分離(6000g,15分間)、減圧乾燥、ベンゼン凍結乾燥により精製を行った。この生成物の収量は4.5(62%)であった。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により、ポリエチレングリコールセグメント(PE
G)の数平均分子量は9,500であり、H−NMR測定によりポリ乳酸(PLA)セグメントの数平均分子量は5,000であることが明らかとなった。さらにH−NMR測定の結果、両末端のアセタール基、メタクリロイル基共に90%以上導入されていることが明らかとなった。
【0030】
3) 架橋型ホウ素内包高分子ミセルの製造
ポリエチレングリコール(PEG)と生分解性高分子であるポリ乳酸(PLA)のブロック共重合体のPEG末端にアセタール基とPLA末端に重合性官能基であるメタクリロイル基(MA基)をそれぞれ導入したacetal−PEG−b−PLA−MA(PEG:Mn=9500,PLA:Mn=5000)を140mgをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)20mLに溶解し、分画分子量3,500の透析膜を用いて、24時間蒸留水2Lに対して透析を行いミセル粒子の調製を行った。なお透析液は2,4,8時間後に交換を行った。次に得られたミセル溶液100mL(1.6mg/mL)へ、架橋剤1,2−ビス(ビニルベンジル)−closo−カルボラン79.7μmol(30mg)と重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)9.1μmol(1.5mg)を溶解したクロロホルム3mlを添加し、室温、密封下にて1時間攪拌を行った後、室温、開放下にて2時間攪拌を行い、クロロホルムの除去および架橋剤、重合開始剤のミセルへの内包を行った。次に窒素バブリングを20分間行い、残存クロロホルムの除去および溶存酸素の除去を行った後、60℃にて一晩攪拌を行い、ミセルコア部の重合を行った。精製は遠心限外濾過(分画分子量30,000)によって行った。
動的光散乱の測定により、得られた架橋型ホウ素内包高分子ミセルの平均粒径は85.3nmであった(図1)。
【実施例2】
【0031】
架橋型ホウ素内包高分子ミセルのin vitroでの安定性評価
得られた架橋型ホウ素内包高分子ミセル1.5mL(2.0mg/mL)にウシ胎児血清(FBS)を1mL添加し、蒸留水7.5mLに対して37℃にて透析(分画分子量1,000,000)を行い、経時的に内液の動的光散乱測定を行うことで、粒子の形態変化を評価した。さらに経時的に内液中のVB−carboraneの蛍光(λex334nm,λem380nm)を蛍光分光器によって測定し、ホウ素化合物のミセルからの漏れ出しを評価した。
【0032】
10%FBS存在下におけるVB−carboraneの漏れ出しを図2に示す。この結果より、架橋前は約8割のホウ素化合物が漏れ出したのに対して、架橋後は全く漏れ出しが起こらないことが確認された。
【実施例3】
【0033】
架橋型ホウ素内包高分子ミセルの体内動態評価
架橋型ホウ素内包高分子ミセル10mL(2.0mg/mL)へ1Nの塩酸を滴下し、pHを2に調整し、2時間攪拌を行うことで、PEG末端のアセタール基の脱保護を行い、表面に反応性官能基であるアルデヒド基を有した高分子ミセルの調製を行った。次にL−チロシンヒドラジドを55.3μmol(10.8mg)加え30分間攪拌を行った後、10mMのリン酸バッファーによってpHを6.5に調整し、シアノホウ素化水素ナトリウムを27.1μmol(1.7mg)加え室温にて一晩攪拌を行った。精製は蒸留水に対して透析(分画分子量3,500)を3日間行い、フェノールを表面に有する架橋型ホウ素内包高分子ミセルの調製を行った。
【0034】
フェノールを表面に有するミセル溶液0.2mL(5.4mg/mL)に放射性化合物であるNa125I溶液を20μL(74MBq/mL)添加した後、クロラミン−T溶液を100μL(1mM)加え、5分間室温にて反応させた。次に未反応のヨウ素を失活
させるため、過硫酸ナトリウム溶液を100μL(40mM)を加えた。反応後溶液をゲル濾過カラムによって分取し書くフラクションのγ線量をγカウンターによって測定したところ、架橋型ホウ素内包ミセルに125Iが標識化され、さらに未反応のNa125Iとミセルを分離できたことを確認した(図3)。
【0035】
得られた溶液を用いて、1.8mg/kgの濃度にてICRマウス(mail,5W,30g)へ尾静脈注射により投与を行った後、5分、1時間、24時間後にエーテル麻酔の後心臓より採血を行ない、頚椎脱臼によって安楽死を行った後、臓器(脳、心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓)の摘出を行った。次に血液、各組織の放射線量をγカウンターによって測定することで、架橋型ホウ素内包高分子ミセルの血中滞留性および体内動態を評価した。
【0036】
投与後の架橋型ホウ素内包高分子ミセル、非架橋ミセルの体内動態をそれぞれ図4,5に示す。これより、架橋を行うことでホウ素内包高分子ミセルの血中滞留性が著しく向上することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、体内で安定な架橋型ホウ素内包高分子ミセルまたは該ミセルを形成するポリマーコンジュゲートを提供できるので、例えば、中性子捕捉療法に有用な成分を提供する医薬製造業において利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中で高分子ミセルとして存在できる、ホウ素化合物と親−疎水型ブロックコポリマーのポリマーコンジュゲートであって、
該ポリマーコンジュゲートは、1分子のホウ素化合物が2分子の親−疎水型ブロックコポリマーと共有結合を介して架橋した構造を少なくとも1つは含んでなり、かつ、
該ホウ素化合物は重合性官能基を2つ有する二官能性であり、該親−疎水型ブロックコポリマーはその疎水性ブロックの末端に重合性官能基を有し、上記共有結合は該ホウ素化合物の重合性官能基と該ブロックコポリマーの重合性官能基相互の重合反応により形成されたものである、上記ポリマーコンジュゲート。
【請求項2】
請求項1記載のポリマーコンジュゲートであって、該コンジュゲートから形成された高分子ミセルが37℃の10%血清存在下の水溶液中でホウ素化合物を放出しない、上記ポリマーコンジュゲート。
【請求項3】
請求項1記載のポリマーコンジュゲートであって、該ホウ素化合物が,式(Ia)、(Ib)または(Ic)
【化1】

式中
● はBHを表し、
各Zは、独立して、クロトニル、アクリロイル、メタクリロイル、ビニルカルボニルオキシエチル、イソプロペニルカルボニルオキシエチル、クロチル、ビニルカルボニルアミノ、イソプロペニルカルボニルアミノ、p−ビニルベンジル、p−イソプロペニルフェニル、ビニルジメチルシリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アリル及びビニルからなる群より選ばれる化合物に由来する重合性官能基を表し、
各Lは、独立してメチレン結合、フェニレン結合、C−C10アルキレンフェニレン結合、エステル結合,アミド結合、カーボネート結合、尿素結合及びウレタン結合からなる群より選ばれ、そして
各pは、独立して1乃至10の整数である、
で表されるカルボラン誘導体であり、かつ、
該親−疎水型ブロックコポリマーが、式(II)
X−(CH−L−(PHLS)−(PHBS)−L−Y (II)
式中、
Xはアセタール基、アルデヒド基、カルボキシル基,マレイミド基、アジド基、アルキレン基及びチオール基からなる群より選ばれる官能基を表し、
PHLSはポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド)、ポリ{(2−ヒドロキシ)プロピルアクリルアミド}、ポリオキサゾリン及びポリ(メチルビニールエーテル)からなる群より選ばれるポリマー鎖に由来する親水性ブロックを表し、かつ、各ポリマーの反復単位は3〜1000
の範囲内にあり、
PHBSはポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ブチロラクトン)、ポリ(バレロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(α−アミノ酸)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸エチル)、ポリ(スチレン)、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(クロロメチルスチレン)、ポリ(イソプレン)、ポリ(ブタジエン)、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)及びポリ酢酸ビニルからなる群より選ばれるポリマー鎖に由来する疎水性ブロックを表し、かつ、各ポリマーの反復単位は5〜1000の範囲内にあり、
及びLは、独立して、メチレン結合、C−C10アルキルフェニレン結合、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、尿素結合及びウレタン結合からなる群より選ばれるリンカーを表し、そして
Yはクロトニル、アクリロイル、メタクリロイル、ビニルカルボニルオキシエチル、イソプロペニルカルボニルオキシエチル、クロチル、ビニルカルボニルアミノ、イソプロペニルカルボニルアミノ、p−ビニルベンジル、p−イソプロペニルフェニル、ビニルジメチルシリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アリル及びビニルからなる群より選ばれる化合物に由来する重合性官能基を表す、
で表されるブロックコポリマーである、上記コンジュゲート。
【請求項4】
請求項3記載のポリマーコンジュゲートであって、式(II)のPHLSがポリ(エチレングリコール)である親水性ブロックであり、そしてPHBSがポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(カプロラクトン)及びポリ(アミノ酸)からなる群より選ばれる疎水性ブロックである、上記コンジュゲート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリマーコンジュゲートと水性媒体を含んでなる、高分子ミセル組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−63562(P2011−63562A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217359(P2009−217359)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】