説明

ガングリオシド又はその誘導体を有効成分とするBDNF産生促進剤並びにそれを含有する医薬品、飲食品及び飼料

【課題】安全でかつ優れた効果を奏する新規なBDNF産生促進剤を提供する。
【解決手段】ガングリオシド又はその誘導体を有効成分とする、BDNF産生促進剤である。前記ガングリオシド又はその誘導体は、さつまいも由来であるものが好ましく、用量は前記ガングリオシド又はその誘導体換算で1日当たり9.4ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重であることが好ましい。BDNF産生促進剤は、体重若しくは食欲抑制剤、認知若しくは記憶力増強剤、糖若しくは脂質代謝改善剤、シナプス形成促進剤、運動麻痺回復剤等のヒト又は動物用の医薬品、又は栄養補助剤、健康食品、健康飲料、乳児用調整乳、離乳食、人工栄養、栄養補助食等の飲食品として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガングリオシド又はその誘導体を有効成分とするBDNF産生促進剤並びにそれを含有する医薬品、飲食品及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
脳由来神経栄養因子(BDNF:brain−derived neurotrophic factor)は、神経細胞等で常時分泌され、脳機能に関与するタンパク質である。BDNFは神経突起の成長を促し、神経間の架橋構造(シナプス)の形成を促すことで神経機能を高め、また、脳を様々な致死的ストレスから守る作用を有する。
【0003】
上記のごとく、BDNFはシナプス形成を促進するため、認知能や記憶力を高める。BDNFの産生が体内で減少すると、シナプス数の減少と脳萎縮が生じ、記憶力が減退し、認知症を発症しやすくなる。また、BDNFの減少は、うつ病、うつ的気分障害、慢性的意欲低下状態等を引き起こす。
【0004】
また、遺伝子操作により体内BDNFの産生を抑制された動物は、過食、肥満、凶暴若しくは、不安定な精神状態やメタボリックシンドロームとなり、高血糖、糖尿病、高脂質血症、短命となる。一方、BDNFの産生増加により、受精卵の成熟が促進され、勃起機能の低下が改善し、老化によって衰えることが知られている上皮角化細胞の増殖や頭皮の毛嚢細胞の再生が促進されることが知られている。
【0005】
従って、体内でのBDNF産生を促進することで、認知能又は記憶力改善作用の他、脳卒中予防、脳機能向上又は改善作用、運動又は感覚麻痺改善作用、平衡機能向上又は改善作用、自律神経機能向上又は改善作用、抗うつ又は抗不安作用、気力向上作用、精神安定化作用、体重軽減作用、抗肥満作用、食欲抑制作用、糖代謝向上又は改善作用、脂質代謝向上又は改善作用、上皮角化細胞再生促進作用、美肌作用、毛嚢細胞再生促進作用、増毛作用、性機能向上又は改善作用、卵細胞成熟促進作用、生殖能増強作用、鎮痛又は疼痛緩和作用、脳又は末梢神経再生作用、寿命又は余命延伸作用、勃起機能不全改善作用、免疫能調整又は増強作用等の好ましい機能性を発現させることが期待される。
【0006】
しかしながら、タンパク質を合成するにはコストがかかり、タンパク質であるBDNFそのものを、経口的、経静脈的又はその他の手段によって体内へ投与したとしても、速やかに代謝されることより、効果の持続する有効な薬剤とは成り難い。また、BDNFは基本的に分泌された細胞の極近傍にある細胞表面のBDNF受容体に取り込まれて機能するため、必ずしも全身又は血管内に投与されたBDNFが、所謂ホルモンのように全身の血液循環から目的とする臓器に取り込まれて作用するとは限らない。従って、体内BDNFの産生を促進させることのできる有効、かつ、安全な体内BDNF産生促進剤の開発が望まれていた。
【0007】
一方、ガングリオシド(Ganglioside)は、その糖鎖部分に1つ以上のシアル酸(N−アセチルノイラミン酸:NANA、Neu5Ac又はNeuAc)等を有するスフィンゴ糖脂質の総称であり、シアロ糖脂質、シアログリコリピド又はシアル酸含有糖脂質とも呼ばれる。現在までに、GD1、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GM1、GM2、GM3、GT1、GT1b、GT3、GQ1、GM4等、多数のガングリオシドが発見されており、これらはシアル酸の数と位置がそれぞれ異なるものである。生体内に取り込まれた様々なガングリオシドは、必ずしも元の構造を保つわけではなく、それぞれの代謝機能を伴って、例えば、GM1が分解されてGM2へ、更に、GM2が分解されてGM3へ、ダイナミックに変化することが知られている。また、ガングリオシドの体内分布様式には一定の特徴があり、例えば、GM1等は高等生物の神経系に比較的多く存在し、GD1、GD3、GQ1、GT1等は神経系の発生初期の成長発達段階に観察されることが知られている。
【0008】
ガングリオシドの医薬用途については、単体又はその代謝産物を含むガングリオシドの生体への投与が、学習能力の向上に有効であったとの報告がある(特許文献1、2及び非特許文献1〜6参照)。例えば、非特許文献1〜6では、精製ガングリオシド、又はGM1、GM3若しくはGD3の何れかを含むガングリオシドを1日当たり10〜50mg/kg体重を動物に腹腔内投与又は皮下投与して、また、特許文献1では、ガングリオシド0.02重量%(ラットの体重を300g、1日当たりの食餌摂取量を15〜30gとして、1日当たり約10〜20mg/kg体重)、特許文献2ではガングリオシド0.5重量%(マウスの体重を30〜50g、1日当たりの食餌摂取量を2〜6gとして、1日当たり約200〜1000mg/kg体重)を混餌により動物に経口投与して、それぞれ学習能力の向上が見られたことが開示されている。
【0009】
また、非特許文献7には、脳梗塞モデルとして、脳皮質を部分的に除去し、その後の7日間、GM1の脳・脳室内投与を行い、その後の脳皮質下の前脳基底核コリン作動成神経変性への影響を観察したところ、5mg/kg体重の投与量では神経保護効果が見られたが、0.5mg/kg体重の投与量では無効であることが報告されている。
【0010】
更には、これらの動物実験の知見に基づいて、体内で代謝されることでGM2やGM3に変化することが知られる精製ガングリオシドGM1を、ヒトでの虚血性脳疾患後遺症に対して、1日当たり2.0〜6.0mg/kg体重(1日の総使用量より換算)を静脈内又は筋肉内に投与する臨床試験が多数行われた(非特許文献8参照)。しかしながら、驚くべきことに、非特許文献9において、1日投与量100〜200mg(体重を50kgとして、1日当たり2.0〜4.0mg/kg体重)の精製ガングリオシドGM1を静脈内投与した臨床試験の結果、ギランバレー症候群(急性炎症性末梢神経症)を発症した例が報告された。これは、投与された高濃度の精製ガングリオシドGM1が抗GM1抗体の産生を促し、同抗体がGM1と同一の構造を持つ自己神経組織を攻撃し、ギランバレー症候群(自己免疫疾患)を発症させたと考えられ、その後、ヒトの脳神経保護や脳機能の回復を目的とした精製GM1の筋肉、皮下又は静脈内投与は一切行われていない(非特許文献9に基づく精製ガングリオシドGM1の大用量静脈内投与法は、"ギランバレー症候群動物モデル"の作成法として確立している)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−246418号公報
【特許文献2】特開平8−266255号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Glasier MM、et al、Neurobiology of Learning and Memory、1995、vol.64、p.203−214
【非特許文献2】Silva Rh、et al、Neurobiology of Aging、1996、vol.17、p.583−586
【非特許文献3】Tamura G、et al、Behavioural Brain Research、1997、vol.85、p.203−211
【非特許文献4】Silva Rh、et al、Psycopharmacology、1999、vol.141、p.111−117
【非特許文献5】Silva Rh、et al、pharmacology & Toxicology、2000、vol.87、p.120−125
【非特許文献6】She JQ、et al、Brain Research、2005、vol.1060、p.162−169
【非特許文献7】Cuelluo AC、et al、Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA、1989、vol.86、p.2056−2060
【非特許文献8】Candelise L、et al、The Cochrane Collaboration、John Wiley Publisher、2008、p.1−16
【非特許文献9】Lenzi GL、et al、Stroke、1994、vol.25、p.1552−1558
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、これまで、ガングリオシドの投与が体内のBDNF産生を促進すること、特に極低用量での投与が体内のBDNF産生を顕著に促進し様々な生体機能の改善効果をもたらすことについては知られていなかった。
【0014】
また、従来の脳機能改善等を目的とするガングリオシドの投与で常用されていた用量では十分な効果が得られず、或いは副作用の点でむしろ問題があり、健康人のみならず、誰に対しても安全に適用でき、更に乳児、幼児、老人等の常人と比較して身体機能が劣る患者、胎児への影響を最小限に抑える必要がある妊婦、複数の薬剤を併用する合併症患者等に対しても適用することができる安全な脳機能改善剤等が求められていた。
【0015】
本発明は、上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、優れた効果を発揮する新規なBDNF産生促進剤並びにそれを含有する医薬品、飲食品及び飼料を提供することにある。
【0016】
本発明の更に他の目的は、極低用量で安全に摂取することができる新規なBDNF産生促進剤並びにそれを含有する医薬品、飲食品及び飼料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、新規なBDNF産生促進剤について鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに極低用量によるガングリオシドの投与が体内のBDNF産生を顕著に促進させ、様々な生体機能の改善効果を奏することを見出し、本発明を完成した。
【0018】
(1)即ち、本発明は、ガングリオシド又はその誘導体を有効成分とする、BDNF産生促進剤である。
【0019】
(2)本発明はまた、前記ガングリオシド又はその誘導体は、さつまいも由来である、(1)に記載のBDNF産生促進剤である。
【0020】
(3)本発明はまた、用量が前記ガングリオシド又はその誘導体換算で1日当たり9.4ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重である、(1)又は(2)に記載のBDNF産生促進剤である。
【0021】
(4)さらに、本発明は、(3)に記載のBDNF産生促進剤を含有するヒト又は動物用の医薬品である。
【0022】
(5)本発明はまた、体重若しくは食欲抑制剤、認知若しくは記憶力増強剤、糖若しくは脂質代謝改善剤、シナプス形成促進剤、運動麻痺回復剤、脳保護剤、脳卒中若しくは脳疾患予防剤、脳卒中若しくは脳障害後遺症改善剤、脳若しくは末梢神経再生促進剤、神経前駆細胞若しくは幹細胞分裂促進剤、気力低下防止剤、抗鬱剤、気力向上剤、寿命若しくは平均余命延伸剤、性機能若しくは生殖機能改善剤、受精卵成熟促進剤、勃起機能改善剤、上皮角化細胞増殖促進剤、上皮機能調整剤、美肌促進剤、毛嚢細胞再生促進剤、増毛若しくは育毛剤、湿疹治療剤、糖尿病治療剤、血糖降下剤、インスリン抵抗性改善剤、免疫機能調整若しくは増強剤、抗アレルギー剤、抗アトピー剤、抗炎症剤、皮膚疾患治療剤、抗腫瘍剤、抗悪性腫瘍剤、抗ガン剤、抗感染症剤又は疼痛軽減若しくは緩和剤である、(4)に記載の医薬品である。
【0023】
(6)本発明はまた、体重又は食欲抑制剤であり、用量が前記ガングリオシド又はその誘導体換算で1日当たり9.4ng/kg体重〜8.5×10ng/kg体重である、(5)に記載の医薬品である。
【0024】
(7)本発明はまた、認知又は記憶力増強剤であり、用量が前記ガングリオシド又はその誘導体換算で1日当たり9.4ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重である、(5)に記載の医薬品である。
【0025】
(8)本発明はまた、糖又は脂質代謝改善剤であり、用量が前記ガングリオシド又はその誘導体換算で1日当たり94ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重である、(5)に記載の医薬品である。
【0026】
(9)さらに、本発明は、(3)に記載のBDNF産生促進剤を含有する飲食品である。
【0027】
(10)本発明はまた、栄養補助剤、健康食品、健康飲料、乳児用調整乳若しくはその補助剤、離乳食若しくはその補助剤、人工栄養若しくはその補助剤、又は栄養補助食若しくはその補助剤である、(9)に記載の飲食品である。
【0028】
(11)さらに、本発明は、(3)に記載のBDNF産生促進剤を含有する飼料である。
【発明の効果】
【0029】
本発明のBDNF産生促進剤は、ガングリオシド又はその誘導体を有効成分とするので、体内のBDNFの産生を顕著に促進することができる。また、本発明のBDNF産生促進剤は、極めて低用量で有効性が発揮されるため、副作用を殆ど伴うことがなく、健康人のみならず、誰に対しても安全に適用でき、特に、乳児、幼児、老人等の常人と比較して身体機能が劣る患者、胎児への影響を最小限に抑える必要がある妊婦、複数の薬剤を併用する合併症患者等に対しても安全に適用することができる。更には、極めて低用量で用いるので、医薬品の使用量を大幅に削減することができ、医療費の削減をも図ることができる。
【0030】
従って、本発明のBDNF産生促進剤は、体重又は食欲抑制剤、認知又は記憶力増強剤、糖又は脂質代謝改善剤、シナプス形成促進剤、運動麻痺回復剤、脳保護剤、脳卒中又は脳疾患予防剤、脳卒中又は脳障害後遺症改善剤、脳又は末梢神経再生促進剤、神経前駆細胞又は幹細胞分裂促進剤、気力低下防止剤、抗鬱剤、気力向上剤、寿命又は平均余命延伸剤、性機能又は生殖機能改善剤、受精卵成熟促進剤、勃起機能改善剤、上皮角化細胞増殖促進剤、上皮機能調整剤、美肌促進剤、毛嚢細胞再生促進剤、増毛又は育毛剤、湿疹治療剤、糖尿病治療剤、血糖降下剤、インスリン抵抗性改善剤、免疫機能調整又は増強剤、抗アレルギー剤、抗アトピー剤、抗炎症剤、皮膚疾患治療剤、抗腫瘍剤、抗悪性腫瘍剤、抗ガン剤、抗感染症剤、疼痛軽減又は緩和剤等のヒト又は動物用の医薬品、栄養補助剤、健康食品、健康飲料、乳児用調整乳又はその補助剤、離乳食又はその補助剤、人工栄養又はその補助剤、栄養補助食又はその補助剤等の飲食品、飼料等に利用した場合極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の結果による、1日当たりのガングリオシドの摂取量と脳内のBDNF量との関連性を示した図である。
【図2】実施例2の結果による、1日当たりのガングリオシドの摂取量とマウスの体重との関連性を示した図である。
【図3】実施例3の結果による、1日当たりのガングリオシドの摂取量とマウスの水迷路試験による総走行距離との関連性を示した図である。
【図4】実施例4の結果による、1日当たりのガングリオシドの摂取量とマウスの血糖値との関連性を示した図である。
【図5】実施例4の結果による、1日当たりのガングリオシドの摂取量とマウスの総コレステロール値との関連性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0033】
本発明のBDNF産生促進剤は、ガングリオシド又はその誘導体を有効成分とするものである。
【0034】
本発明で利用されるガングリオシド又はその誘導体としては、GD1、GD1a、GD1α、GD1b、GD2、GD3、GM1、asialo−GM1、GM1a、GM1b、GM2、asialo−GM2、GM2−1、GM3、GT1、GT1a、GT1b、OAc−GT1b、GT1c、GT3、GM4、GQ1、GQ1b、GGa1等の単体若しくはその誘導体、又はそれらの2以上の混合物等が挙げられ、これらの中では、GM3若しくはGD3の単体又はそれを含むガングリオシド混合物が好適であり、特に、サツマイモ等の天然素材から抽出されたシアル酸を含むスフィンゴ糖脂質中であるガングリオシドには、様々なガングリオシドが含まれており、好適に利用される。なお、本発明で利用されるガングリオシド又はその誘導体は、セラミドに糖鎖を結合したスフィンゴ糖脂質、その誘導体、またはその生体内代謝産物であれば特に限定されるものではなく、上述した既知のガングリオシド以外にも未命名又は今後発見されるガングリオシド、ガングリオシド類似物質又はガングリオシド複合体をも含むものである。
【0035】
本発明で利用されるガングリオシド又はその誘導体は、人乳、牛乳その他の哺乳類が分泌する乳、哺乳類の神経組織、サツマイモやジャガイモ等の根菜類や豆類等の野菜類、穀類、果実類、種子類、株類、ウコン、朝鮮人参、バターミルク、ホエー、脱脂乳等の乳質原料、鶏卵等の卵類から得ることができる他、哺乳類等の乳腺、唾液線、唾液線からの分泌物、ツバメの巣、胎盤、精巣や卵巣等の生殖器、脳、神経組織等からも得ることもできる。ガングリオシドの抽出方法としては、例えば、ガングリオシドを含む乳質原料に、塩酸や乳酸等の酸を作用させ、又はトリプシンやペプシン等の蛋白質分解酵素を作用させ、蛋白質を分解した後に限外濾過、ゲル濾過、透析等の処理を行うことにより、GM3やGD3等を含むガングリオシド類を得ることができる(例えば、特開昭63−269992号公報参照)。得られたガングリオシドを、更にGM3やGD3等の単一成分に分離精製し、それらを組み合わせた複合物として用いてもよい。
【0036】
本発明のBDNF産生促進剤は、ヒト又は動物用の医薬品、飲食品、飼料等として利用することができる。ヒト又は動物用の医薬品としては、体重又は食欲抑制剤、認知又は記憶力増強剤、糖又は脂質代謝改善剤、シナプス形成促進剤、運動麻痺回復剤、脳保護剤、脳卒中又は脳疾患予防剤、脳卒中又は脳障害後遺症改善剤、脳又は末梢神経再生促進剤、神経前駆細胞又は幹細胞分裂促進剤、気力低下防止剤、抗鬱剤、気力向上剤、寿命又は平均余命延伸剤、性機能又は生殖機能改善剤、受精卵成熟促進剤、勃起機能改善剤、上皮角化細胞増殖促進剤、上皮機能調整剤、美肌促進剤、毛嚢細胞再生促進剤、増毛又は育毛剤、湿疹治療剤、糖尿病治療剤、血糖降下剤、インスリン抵抗性改善剤、免疫機能調整又は増強剤、抗アレルギー剤、抗アトピー剤、抗炎症剤、皮膚疾患治療剤、抗腫瘍剤、抗悪性腫瘍剤、抗ガン剤、抗感染症剤、疼痛軽減又は緩和剤等が挙げられる。また、飲食品としては、栄養補助剤、健康食品、健康飲料、乳児用調整乳又はその補助剤、離乳食又はその補助剤、人工栄養又はその補助剤、栄養補助食又はその補助剤等が挙げられる。
【0037】
本発明のBDNF産生促進剤を医薬品とする場合、前記ガングリオシド又はその誘導体をそのままで、又は錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤等として患者や動物に経口投与できる。また、注射剤として静脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内、動脈内、脊髄腔内等に投与できる。更に、座薬として直腸内に投与しても良いし、ペレットや徐放剤等による埋め込みも可能である。点眼剤、点鼻剤、噴霧剤、吸入剤等として直接患部及びその周辺部位に局所的に投与することもできるし、軟膏、クリーム、粉状若しくは液状塗布剤、貼付剤等の外用剤として経皮的に投与しても良い。上述したうち、特に医薬品として利用される場合の好ましい製剤形態や投与形態等は、患者の年齢、性別、体質、症状、処置時期等に応じて、医師によって適宜選択される。
【0038】
本剤を錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤等の固形製剤とする場合には、前記ガングリオシド又はその誘導体を、常法に従って適当な添加剤、例えば、乳糖、ショ糖、マンニット、トウモロコシデンプン、合成若しくは天然ガム、結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、セルロース誘導体、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボシキメチルセルーロースカルシウム、カルボシキメチルセルーロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等の滑沢剤、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の充填剤又は希釈剤等と適宜混合して製造することができる。錠剤等は、必要に応じて適当な被覆用基剤を用いて、糖衣、ゼラチン、腸溶被覆、フイルムコーティング等を施してもよい。
【0039】
本剤を注射剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤、噴霧剤、ローション剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の液状製剤として医薬品に利用する場合には、前記ガングリオシド又はその誘導体を、精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理的食塩水、リンゲル溶液、ロック溶液等の生理的塩類溶液、カカオバター、ゴマ油、オリーブ油等の植物油、鉱油、高級アルコール、高級脂肪酸、エタノール等の有機溶媒等に溶解して、必要に応じてコレステロール等の乳化剤、アラビアゴム等の懸濁剤、分散助剤、浸潤剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系、ポリエチレングリコール系等の界面活性剤、リン酸ナトリウム等の溶解補助剤、糖、糖アルコール、アルブミン等の安定化剤、パラベン等の保存剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリン等の等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸着防止剤、保湿剤、酸化防止剤、着色剤、甘味料、フレーバー、芳香物質等を適宜添加することにより、滅菌された水溶液、非水溶液、懸濁液、リポソーム又はエマルジョン等として調整できる。この際、注射剤は、生理学的なpH、好ましくは6〜8の範囲内のpHを有することが好ましい。
【0040】
本剤を医薬品に利用し、ローション剤、クリーム剤、軟膏等の半固形製剤とするには、前記ガングリオシド又はその誘導体を脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、蝋、硬膏剤、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤、懸濁化剤等と適宜混和することにより製造することができる。
【0041】
本発明のBDNF産生促進剤を医薬品として用いる場合、BDNF産生促進剤に含まれる前記ガングリオシド又はその誘導体の含有量は、投与形態、重篤度や目的とする投与量などによって様々であるが、一般的には、製剤の全重量に対して9.4×10−9重量%〜2.5×10−4重量%である。
【0042】
また、本発明のBDNF産生促進剤の投与量は、患者や動物の年齢、体重及び症状、目的とする投与形態や方法、治療効果、及び処置期間等によって異なり、正確な量は医師により決定されるものであるが、通常、成人に対し1日当り前記ガングリオシド又はその誘導体の投与量換算で、経口投与の場合は9.4ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重、好ましくは94×10ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重を、1回又は数回に分けて投与する。上記投与量の下限値を下回った場合には、体内のBDNFの産生促進効果を得ることができないので好ましくなく、また、上記上限値を上回った場合には、体内のBDNFの産生促進効果を得ることができないだけでなく、BDNF産生促進剤の投与による副作用の可能性があるので好ましくない。
【実施例1】
【0043】
次に、本発明のBDNF産生促進剤を、実施例により更に詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0044】
[実施例1]
【0045】
6〜7週齢の若年C57BL/6J系雄性マウスを10群(n=10〜12)に分け、これらのマウスにサツマイモ、あるいは、牛乳より抽出した天然ガングリオシド類を、1日当たりガングリオシド類の用量が9.4ng/kg体重(A群)、2.8×10ng/kg体重(B群)、9.4×10ng/kg体重(C群)、2.8×10ng/kg体重(D群)、8.5×10ng/kg体重(E群)、2.5×10ng/kg体重(F群)、7.6×10ng/kg体重(G群)、1.0×10ng/kg体重(H群)及び3.0×10ng/kg体重(I群)となるように、また、同期間ガングリオシドを含まない通常の水を飲水として与えた群をコントロール(N群)として、それらいずれかの飲水を3週間に亘って与え、摂取期間終了後にBDNFの脳内含有量を、ELISA法にてそれぞれ測定し、その結果を図1に示した。なお、A〜G群はさつまいもより、H,I群は牛乳より抽出した天然ガングリオシド類を用いた。
【0046】
図1に示した通り、A〜F群は、BDNFの脳内含有量がN群に比して上回っており、C〜F群は、N群に比して統計学的な有意差を持ってBDNFの脳内含有量の増加を確認することができ、また、H群は、BDNFの脳内含有量がN群に比して下回っており、更に、I群はN群に比して統計学的な有意差を持ってBDNFの脳内含有量の減少を確認することができた(平均±SD、P<0.05、one−way ANOVA)。すなわち、9.4ng/kg体重〜7.6×10ng/kg体重、好ましくは94ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重の範囲で、ガングリオシドを摂取した群は、摂取しない対照群に比して、脳内BDNFの産生が促進されることが示された。一方、3.0×10ng/kg体重では、脳内BDNFの産生が抑制されることが示された。
【0047】
[実施例2]
【0048】
実施例1で使用したマウスと同様に10群(n=10〜25)に分け、ガングリオシド類を、9.4ng/kg体重〜3.0×10ng/kg体重(A〜I群)となるように調製した飲水のいずれかを3週間に亘って与えた。なお、同期間ガングリオシド類を含まない飲水を与えた群をコントロール(N)群とした。摂取開始時の体重を100%とし、摂取開始後3週間の各群の体重の増加率を図2に示した。
【0049】
図2に示した通り、A〜E群は、N群に比して低値を示し、また、B〜D群では統計学的な有意差を持って体重の自然増加の抑制を確認することができた(平均±SD、P<0.05、one−way ANOVA)。すなわち、9.4ng/kg体重〜8.5×10ng/kg体重の範囲、好ましくは28ng/kg体重〜280ng/kg体重の範囲のガングリオシド類の摂取が、食欲を抑制し、体重の増加を抑制することが示された。
【0050】
[実施例3]
【0051】
実施例1で使用したマウスと同様に10群(n=6〜42)に分け、ガングリオシドを、1日当たりの用量が9.4ng/kg体重〜3.0×10ng/kg体重(A〜I群)となるように調製した飲水を3週間に亘って与えて、摂取期間終了後に下記の通りの空間認識にかかる記憶力を評価するために、水迷路試験(モリスの水迷路試験変法)を行った。なお、同期間ガングリオシドを含まない飲水を与えた群をコントロール(N)群とした。
【0052】
まず、濁った水を満たしたプール(64×91cm)の中に、マウスが水中で立つことができる足台(10cm四方の足場)を隠して設置した。次に、足台から一定の距離をおいた位置にマウスを落下させた。遊泳を開始したマウスが足台へ辿り着くまでに要する総走行距離を解析した結果を図3に示した。なお、足台へ辿り着くまでの1回の試技は、1日4回連続して5日間実施し、足台へ到達できなかった場合は、1回の試技を最長300秒(カットオフ値)で終了させた。また、解析の際には、1日4回×4日間(2日目から5日目まで)の16試技を評価の対象とした。
【0053】
図3に示した通り、A〜G群は、N群に比して距離の短縮傾向が見られ、また、A〜E群では、N(コントロール)群に比して、統計学的な有意差を持って総走行距離の短縮を確認することができた。一方、I群は、N群に比して統計学的な有意差を持って延長することを確認した(平均±SEM、one−way ANOVA)。これらの結果より、9.4ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重の用量、好ましくは9.4ng/kg体重〜8.5×10ng/kg体重の用量が認知能及び記憶力を正常に比して向上させることが示された。一方、1.0×10ng/kg体重では有効とは言えず、また、3.0×10ng/kg体重では、認知能及び記憶力が正常に比して低下する、すなわち、脳機能を悪化させることが示された。
【0054】
[実施例4]
【0055】
実施例1で使用したマウスと同様に10群(n=5〜28)に分け、ガングリオシド1日当たりの用量を9.4ng〜3.0×10ng/kg体重(A〜I群)となるように調製した飲水を3週間に亘って与え、摂取期間終了後に血液中の糖濃度(血糖)、及び、総コレステロール量を測定した。なお、同期間ガングリオシドを含まない飲水を与えた群をコントロール(N)群とした。
【0056】
図4に示した通り、C〜G群では、N群に比して血糖が統計学的な有意差を持って低下した。また、図5に示した通り、B〜F群では、総コレステロール値が、N(コントロール)群に比して、統計学的な有意差を持って低下した(平均±SEM、one−way ANOVA)。これらの結果より、ガングリオシド94ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重の用量が、血糖と総コレステロール値を共に低下させること、すなわち、糖・脂質代謝改善効果を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
上述したように、本発明のBDNF産生促進剤は、極めて低用量で体内のBDNFの産生を顕著に促進するので、体重又は食欲抑制剤、認知又は記憶力増強剤、糖又は脂質代謝改善剤、シナプス形成促進剤、運動麻痺回復剤、脳保護剤、脳卒中又は脳疾患予防剤、脳卒中又は脳障害後遺症改善剤、脳又は末梢神経再生促進剤、神経前駆細胞又は幹細胞分裂促進剤、気力低下防止剤、抗鬱剤、気力向上剤、寿命又は平均余命延伸剤、性機能又は生殖機能改善剤、受精卵成熟促進剤、勃起機能改善剤、上皮角化細胞増殖促進剤、上皮機能調整剤、美肌促進剤、毛嚢細胞再生促進剤、増毛又は育毛剤、湿疹治療剤、糖尿病治療剤、血糖降下剤、インスリン抵抗性改善剤、免疫機能調整又は増強剤、抗アレルギー剤、抗アトピー剤、抗炎症剤、皮膚疾患治療剤、抗腫瘍剤、抗悪性腫瘍剤、抗ガン剤、抗感染症剤、疼痛軽減又は緩和剤等のヒト又は動物用の医薬品、栄養補助剤、健康食品、健康飲料、乳児用調整乳又はその補助剤、離乳食又はその補助剤、人工栄養又はその補助剤、栄養補助食又はその補助剤等の飲食品、飼料等に利用した場合極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガングリオシド又はその誘導体を有効成分とする、BDNF産生促進剤。
【請求項2】
前記ガングリオシド又はその誘導体は、さつまいも由来である、請求項1に記載のBDNF産生促進剤。
【請求項3】
用量が前記ガングリオシド又はその誘導体換算で1日当たり9.4ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重である、請求項1又は2に記載のBDNF産生促進剤。
【請求項4】
請求項3に記載のBDNF産生促進剤を含有するヒト又は動物用の医薬品。
【請求項5】
体重若しくは食欲抑制剤、認知若しくは記憶力増強剤、糖若しくは脂質代謝改善剤、シナプス形成促進剤、運動麻痺回復剤、脳保護剤、脳卒中若しくは脳疾患予防剤、脳卒中若しくは脳障害後遺症改善剤、脳若しくは末梢神経再生促進剤、神経前駆細胞若しくは幹細胞分裂促進剤、気力低下防止剤、抗鬱剤、気力向上剤、寿命若しくは平均余命延伸剤、性機能若しくは生殖機能改善剤、受精卵成熟促進剤、勃起機能改善剤、上皮角化細胞増殖促進剤、上皮機能調整剤、美肌促進剤、毛嚢細胞再生促進剤、増毛若しくは育毛剤、湿疹治療剤、糖尿病治療剤、血糖降下剤、インスリン抵抗性改善剤、免疫機能調整若しくは増強剤、抗アレルギー剤、抗アトピー剤、抗炎症剤、皮膚疾患治療剤、抗腫瘍剤、抗悪性腫瘍剤、抗ガン剤、抗感染症剤又は疼痛軽減若しくは緩和剤である、請求項4に記載の医薬品。
【請求項6】
体重又は食欲抑制剤であり、用量が前記ガングリオシド又はその誘導体換算で1日当たり9.4ng/kg体重〜8.5×10ng/kg体重である、請求項5に記載の医薬品。
【請求項7】
認知又は記憶力増強剤であり、用量が前記ガングリオシド又はその誘導体換算で1日当たり9.4ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重である、請求項5に記載の医薬品。
【請求項8】
糖又は脂質代謝改善剤であり、用量が前記ガングリオシド又はその誘導体換算で1日当たり94ng/kg体重〜2.5×10ng/kg体重である、請求項5に記載の医薬品。
【請求項9】
請求項3に記載のBDNF産生促進剤を含有する飲食品。
【請求項10】
栄養補助剤、健康食品、健康飲料、乳児用調整乳若しくはその補助剤、離乳食若しくはその補助剤、人工栄養若しくはその補助剤、又は栄養補助食若しくはその補助剤である、請求項9に記載の飲食品。
【請求項11】
請求項3に記載のBDNF産生促進剤を含有する飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−241209(P2011−241209A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96625(P2011−96625)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(506263376)
【Fターム(参考)】