説明

ガンダイオード発振器

【課題】 外部負荷の影響を低減し、さらに発振出力の大きいガンダイオード発振器を提供する。
【解決手段】 半絶縁性の平板基板に形成された信号電極、信号電極に連続するバイアス電極、オープンスタブ、表面接地電極を備えたマイクロストリップ線路と、表面実装型のガンダイオードと、変換部とを備え、ガンダイオードのカソード電極を信号電極に接着し、アノード電極を表面接地電極にそれぞれ接着したガンダイオード発振器であって、ガンダイオードからみた信号電極先端の出力部からの反射係数が、−13dBから−23dBとなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波やミリ波用のガンダイオードを用いた発振器に係り、特に発振出力、位相雑音特性を向上させたガンダイオード発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7にマイクロ波やミリ波の発振器用のガリウム砒素(GaAs)からなる表面実装型のガンダイオード20の平面図(a)および断面図(b)を示す。図7に示すように、高濃度n型GaAsからなる半導体基板21上に、MBE法又はMOCVD法により、高濃度n型GaAsからなる第1の半導体層22、低濃度n型GaAsからなる活性層23、高濃度n型GaAsからなる第2の半導体層24が順次積層され、電子の走行空間の面積を小さくするため、絶縁体25によって第2の半導体層24及び活性層23を区画したメサ型構造となっている。26はカソード電極、27はアノード電極、28は導電性突起電極であるカソードバンプ、29は導電性突起電極であるアノードバンプである。絶縁体25は、上面から第1の半導体層22までボロン注入して高抵抗化し、カソード電極26をアノード電極27から分離している。この絶縁体25により囲まれた内側の第2の半導体層24、活性層23及び第1の半導体層22によりガンダイオードの機能部が形成されている。図7では絶縁体25により囲まれた6個のカソード電極26の上面全てに各々カソードバンプ28が形成されている。なお、図7では6個のカソード電極26が形成されているが、ガンダイオードの発振周波数λのλ/10以内の寸法ないに配置された複数のカソード電極26は、1個のカソード電極とみることができる。一方アノードバンプ29は、カソードバンプ28の一群を両側から挟むように、ガンダイオード20の両側のアノード電極27上に、片側2個ずつ合計4個形成されている。
【0003】
図8は、マイクロストリップ線路で構成された発振回路30に搭載したガンダイオード20部分の信号電極32の延出方向(信号伝送方向)と垂直方向の部分断面図である。また図9は、ガンダイオード発振器10の斜視図である。図9に示すようにガンダイオード発振器10は、半絶縁性の平板基板31の上面に信号電極32とその信号電極32の両側に2つの表面接地電極33が形成されると共に、裏面には裏面接地電極34が形成されている。表面接地電極33と裏面接地電極34は、平板基板31を貫通するヴィアホール35によって接続されている。信号電極32には電圧印加用のバイアス電極32A、共振器を構成するオープンスタブ32B及び発振出力取出用の出力部32Cが連続して形成されている。ガンダイオード20は、中央のカソードバンプ28が信号電極32に、両側のアノードバンプ29が両側の表面接地電極33にそれぞれ接着するように実装される。図8の36は放熱基台であるが、図9では図示していない。なお、この種のガンダイオード発振器は、本出願人が先に開示したものである(特許文献1参照)。
【0004】
信号電極32先端の出力部32Cは、ショート導波管37内の伝送空間Sへ突き出るように形成されると共に、平板基板31の裏面接地電極34の一部が取り除かれた裏面に導波管(図示せず)が接続する構造となっており、マイクロストリップ線路と導波管の変換器を構成している。この種の変換器は、例えば特許文献2に開示されており、通常、ガンダイオード20側からみた信号電極32先端の出力部32Cからの反射係数が小さく、かつ挿入損失が少なくなるように、信号電極32及び出力部32Cを構成されている。
【特許文献1】特開2003−218159号公報
【特許文献2】特開2002−100907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、出力部からの反射係数が小さく、かつ挿入損失が小さくなるように構成された従来のガンダイオード発振器では、マイクロストリップ線路から導波管出力に変換した場合、導波管に接続される外部負荷(具体的には、アイソレータやアンプ)の影響によって、充分な発振出力が得られなかった。本発明は、外部負荷の影響を低減し、さらに発振出力の大きいガンダイオード発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本願発明は、半絶縁性の平板基板に形成された信号電極と、該信号電極に連続するバイアス電極及びオープンスタブと、該オーブンスタブ近傍で前記信号電極を挟んで配置された2つの表面接地電極とを備えたマイクロストリップ線路と、底面の中央に形成されたアノード又はカソードのいずれか一方の電極と、前記底面の両側に形成された他方の電極とを備えた表面実装型のガンダイオードと、前記マイクロストリップ線路から別の伝送線路に変換して信号を伝送する変換部とを具備し、前記ガンダイオードの前記一方の電極を前記信号電極に接着すると共に前記他方の電極を前記表面接地電極にそれぞれ接着したガンダイオード発振器において、前記ガンダイオードからみた前記信号電極先端の出力部からの反射係数が、−13dBから−23dBであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ガンダイオードからみた信号電極先端の出力部からの反射係数を、−13dBから−23dBの範囲とすることで、外部負荷の影響を受けず、発振出力を向上させることが可能となった。また、位相雑音特性が改善されるという効果を奏するガンダイオード発振器を形成することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のガンダイオード発振器は、ガンダイオードからみた信号電極先端の出力部からの反射係数が、比較的大きい−13dBから−23dB(−23dB以上、−13dB以下)の範囲とすることで、発振出力特性及び位相雑音特性の優れたガンダイオード発振器を構成する。以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0009】
本発明のガンダイオード発振器は、従来例で説明した図7に示す構造のガンダイオード20を用い、図9に示すガンダイオード発振器10と比較して、ガンダイオード20から出力部32C先端までの寸法が短い、出力部32Dを備える構造としている。即ち、図7に示すように、ガンダイオード20は、高濃度n型GaAsからなる半導体基板21上に、MBE法又はMOCVD法により、高濃度n型GaAsからなる第1の半導体層22、低濃度n型GaAsからなる活性層23、高濃度n型GaAsからなる第2の半導体層24が順次積層され、電子の走行空間の面積を小さくするため、絶縁体25によって第2の半導体層24及び活性層23を区画したメサ型構造となっている。26はカソード電極、27はアノード電極、28は導電性突起電極であるカソードバンプ、29は導電性突起電極であるアノードバンプである。絶縁体25は、上面から第1の半導体層22までボロン注入して高抵抗化し、カソード電極26をアノード電極27から分離している。この絶縁体25により囲まれた内側の第2の半導体層24、活性層23及び第1の半導体層22によりガンダイオードの機能部が形成されている。図7では絶縁体25により囲まれた6個のカソード電極26の上面全てに各々カソードバンプ28が形成されている。なお、図7では6個のカソード電極26が形成されているが、ガンダイオードの発振周波数λのλ/10以内の寸法内に配置された複数のカソード電極26は、1個のカソード電極とみることができる。一方アノードバンプ29は、カソードバンプ28の一群を両側から挟むように、ガンダイオード20の両側のアノード電極27上に、片側2個ずつ合計4個形成されている。
【0010】
一方、図1に示すように、マイクロストリップ線路で構成された発振回路30は、半絶縁性の平板基板31の上面に信号電極32とその信号電極32の両側に2つの表面接地電極33が形成されると共に、裏面には裏面接地電極34が形成されている。表面接地電極33と裏面接地電極34は、平板基板31を貫通するヴィアホール35によって接続している。信号電極32には電圧印加用のバイアス電極32A、共振器を構成するオープンスタブ32B及び発振出力取出用の出力部32Dが連続して形成されている。ガンダイオード20は、中央のカソードバンプ28が信号電極32に、両側のアノードバンプ29が両側の表面接地電極33にそれぞれ接着するように実装される。
【0011】
本発明のガンダイオード発振器では、出力部32Dの信号伝送方向の延出長さが、図9の出力部32Cと比較して短く調整されており、信号線路先端から信号の伝送方向と逆方向への反射係数が最適化されている。この出力部32Dの延出長さの調整は、反射係数が最小となる長さの信号電極32及び出力部32Cをパターン形成した後、例えばレーザトリミング法によって長さを短くし、反射係数が所定の範囲となるように調整することができる。なおトリミングを行わず、予め設定される長さの出力部32Dを信号電極32等と同時に形成しても良い。
【0012】
出力部32Dを所定のパターンに形成した後、変換器のショート面を形成するため、接地導体38にショート導波管37を接続する。ショート導波管37の平板基板31表面と平行な天井面をショート面とすることで、ショート導波管37で囲まれた伝送空間Sから裏面接地電極34の一部を取り除いた平板基板31の裏面に接続された導波管(図示せず)に信号が変換、伝送される構造となっている(図2)。
【0013】
図3は本発明のガンダイオード発振器の発振出力特性と位相雑音特性を示している。レーザトリミングを行わない場合(図9の出力部32Cに相当)、反射係数は、−45dBと小さい値を示している。レーザトリミングを行い、出力部32Dの延出長さを短くするに伴い、反射係数が相対的に大きくなる。それに伴い、発振出力が大きくなり、位相雑音が小さくなることがわかる。特に、反射係数が−13dから−23dBの範囲では、発振出力が大きく、位相雑音の小さい、良好な特性がえられることがわかる。
【0014】
図4は、反射係数が上記範囲内となるように出力部32Dを形成したガンダイオード発振器に、発振開始直前のバイアス電流を印加したときの周波数と反射係数の関係を示している。発振周波数付近で反射係数の最小値が確認され、所望の発振が可能であることが確認された。
【0015】
このように従来の発振器は、反射係数が最小になる条件に調整していたため、ガンダイオード発振器においては、発振出力が小さく、位相雑音が大きいという結果であったが、反射係数が最適化されていない(最小でない)条件下でも、所定の反射特性範囲に設定することで、ガンダイオード発振器の発振出力特性及び位相雑音特性が向上することを見出すことができた。具体的にその範囲は、−13dBから−23dBであった。この反射係数の範囲は、変換される伝送線路が導波管以外であっても同様であることが確認されている。
【0016】
図5は、マイクロストリップ線路から変換される伝送線路を、導波管の代わりに同軸線路とした場合の発振出力及び位相雑音特性を示している。図5に示すように、同軸線路への変換であっても、反射係数が−13dBから−23dBの範囲で、良好な結果が得られることがわかる。なお、同軸線路に変換する場合は、信号電極先端の出力部に同軸線路の中心導体を接続する構造とすればよい。マイクロストリップ線路と同軸線路の変換器は、周知の構造を採用することができる。
【0017】
さらに、変換される伝送線路が、コプレーナ線路についても、反射係数が−13dBから−23dBの範囲で、良好な結果が得られることが確認された。
【実施例2】
【0018】
次に、ガンダイオード発振器として、電圧制御型ガンダイオード発振器11に本発明を適用した場合について説明する。図6は本発明の電圧制御型ガンダイオード発振器11である。図1に示した構成と同一のものには同じ符号を付けている。
【0019】
本実施例では、第一のオープンスタブ32Bの延長線上の離れた位置に第二のオープンスタブ42Bを設け、第一のオープンスタブ32Bと第二のオープンスタブ42Bの間にバラクタダイオード40を搭載している。第一のバイアス電極32Aを介してガンダイオード20にバイアスを印加し、第二のバイアス電極42Aを介してバラクタダイオード40にバイアスを印加することにより、ガンダイオード20で発振する発振周波数をバラクタダイオード40により変調することができ、電圧制御型ガンダイオード発振器11として利用することができる。図6に示すガン電圧制御型ダイオード発振器11は、接地導体38に図2で説明したようにショート導波管37を接着する構造となる。
【0020】
このような電圧制御型ガンダイオード発振器においても、反射係数が−13dBから−23dBの範囲で、実施例1同様、良好な結果が得られることが確認された。また、導波管への変換に限らず、同軸線路、コプレーナ線路についても同様に、良好な結果が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施例のガンダイオード発振器の説明図である。
【図2】本発明の第1の実施例のガンダイオード発振器の説明図である。
【図3】本発明の第1の実施例のガンダイオード発振器の発振出力特性と位相雑音特性の特性図である。
【図4】本発明の第1の実施例のガンダイオード発振器の特性図である。
【図5】本発明の実施例のガンダイオード発振器の発振出力特性と位相雑音特性の特性図である。
【図6】本発明の第2の実施例の電圧制御型ガンダイオード発振器の説明図である。
【図7】表面実装型のガンダイオードの平面図及び断面図である。
【図8】ガンダイオード発振器のガンダイオード部分の部分拡大図である。
【図9】従来のガンダイオード発振器の説明図である。
【符号の説明】
【0022】
10:ガンダイオード発振器、11:電圧制御型ガンダイオード発振器、
20:ガンダイオード、21:半導体基板、22:第1の半導体層、23:活性層、
24:第2の半導体層、25:絶縁体、26:カソード電極、27:アノード電極、
28:カソードバンプ、29:アノードバンプ、
31:平板基板、32:信号電極、32A:第一のバイアス電極、
32B:第一のオープンスタブ、32C、32D:出力部、33:表面接地電極、
34:裏面接地電極、36:放熱基台、37:ショート導波管、38:接地導体、
40:バラクタダイオード、42A:第二のバイアス電極、
42B:第二のオープンスタブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半絶縁性の平板基板に形成された信号電極と、該信号電極に連続するバイアス電極及びオープンスタブと、該オーブンスタブ近傍で前記信号電極を挟んで配置された2つの表面接地電極とを備えたマイクロストリップ線路と、
底面の中央に形成されたアノード又はカソードのいずれか一方の電極と、前記底面の両側に形成された他方の電極とを備えた表面実装型のガンダイオードと、
前記マイクロストリップ線路から別の伝送線路に変換して信号を伝送する変換部とを具備し、
前記ガンダイオードの前記一方の電極を前記信号電極に接着すると共に前記他方の電極を前記表面接地電極にそれぞれ接着したガンダイオード発振器において、
前記ガンダイオードからみた前記信号電極先端の出力部からの反射係数が、−13dBから−23dBであることを特徴とするガンダイオード発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−6309(P2007−6309A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186043(P2005−186043)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)