説明

ガンダイオード発振器

【課題】 発振周波数の周波数変動率の小さいガンダイオード発振器を提供する。
【解決手段】 マイクロストリップ信号電極からWR12導波管線路に変換して信号を伝送する変換部の導波管接合部の開口寸法を所定の大きさとする。即ち、短辺寸法がWR12導波管線路の短辺寸法と同一で、長辺寸法が短辺寸法に対して1.549〜1.743の長さのとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波やミリ波用のガンダイオードを用いた発振器に係り、特に発振周波数の周波数変動率の小さいガンダイオード発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波帯域やミリ波帯域の発振素子として用いられている表面実装型のガンダイオード20の平面図を図5(a)に、図5(a)のA−A’面の断面図を図5(b)にそれぞれ示す。図5に示すように、高濃度n型GaAsからなる半導体基板21上に、MBE法又はMOCVD法により、高濃度n型GaAsからなる第1の半導体層22、低濃度n型GaAsからなる活性層23、高濃度n型GaAsからなる第2の半導体層24が順次積層され、電子の走行空間の面積を小さくするため、絶縁体25によって第2の半導体層24及び活性層23を区画したメサ型構造となっている。26はカソード電極、27はアノード電極、28は導電性突起電極であるカソードバンプ、29は導電性突起電極であるアノードバンプである。絶縁体25は、上面から第1の半導体層22までボロン注入して高抵抗化して形成され、カソード電極26をアノード電極27から分離している。この絶縁体25により囲まれた内側の第2の半導体層24、活性層23、及び第1の半導体層22によりガンダイオードの機能部が形成されている。図5では絶縁体25により囲まれた6個のカソード電極26下面に各々ガンダイオード機能部が形成され、カソードバンプ28は6個のカソード電極26の上面全てに形成されている。なお、ガンダイオードの発振周波数λのλ/10以内の寸法内に配置された複数のカソード電極26は、1個のカソード電極とみることができる。一方アノードバンプ29は、カソードバンプ28の一群を両側から挟むように、ガンダイオード20の両側のアノード電極27上に、片側2個ずつ合計4個形成されている。
【0003】
図6は、図5に示したガンダイオード20をマイクロストリップ線路で形成した発振回路30に搭載したガンダイオード発振器の一部断面図である。また図7は、ガンダイオード発振器10の斜視図である。発振回路30は、半絶縁性の平板基板31の上面に信号電極32とその信号電極32の両側に2個の表面接地電極33が形成されると共に、裏面には裏面接地電極34が形成されている。表面接地電極33と裏面接地電極34は、平板基板31を貫通するヴィアホール35によって接続されている。信号電極32には電圧印加用のバイアス電極32A、共振器を構成するオープンスタブ32B、及び発振出力取出用の出力部32Cが連続して形成されている。ガンダイオード20は、中央のカソードバンプ28が信号電極32に、両側のアノードバンプ29が両側の表面接地電極33にそれぞれ接着するように実装される。図6の36は放熱基台であるが、図7では図示していない。信号電極32先端の出力部32Cは、平板基板31表面の接地導体38に接続するように配置されたショート導波管37内の伝送空間へ突き出るように形成されている。また平板基板31裏面は、裏面接地電極34の一部が導波管と同じ寸法で取り除かれて平板基板31が露出する導波管接合部39が形成されている。このような構造のガンダイオード発振器10は、本出願人が先に開示したものである(特許文献1参照)。
【0004】
導波管出力となるガンダイオード発振器10では、平板基板31の裏面に、導波管接合部39にあわせて図示しない導波管が接続され、マイクロストリップ線路から導波管へ信号が伝送される。この種の変換器は、例えば特許文献2に開示されており、通常、ガンダイオード20側からみた信号電極32先端の出力部32Cからの反射係数が小さく、かつ挿入損失が少なくなるように構成されている。
【特許文献1】特開2003−218159号公報
【特許文献2】特開2002−100907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、出力部32Cからの反射係数が小さく、かつ挿入損失が小さくなるように構成された従来のガンダイオード発振器では、導波管に接続される外部負荷(具体的には、アイソレータやパワーアンプ)の温度変化に伴う特性変動に起因する周波数変動率が大きくなるという問題があった。それは、外部負荷の温度変化の伴う反射係数変動が、発振回路に影響して、回路定数が変化してしまうためである。従来のWR12導波管を用いたガンダイオード発振器では、6MHz/℃程度の周波数変動率であった。本発明は、周波数変動率の小さいガンダイオード発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本願発明は、半絶縁性の平板基板の表面に形成されたマイクロストリップ線路からなる信号電極と、該信号電極に連続するバイアス電極及びオープンスタブと、該オーブンスタブ近傍で前記信号電極を挟んで配置された2つの表面接地電極と、前記平板基板の裏面に形成された裏面接地電極と、該裏面接地電極と前記表面接地電極とを接続する前記平板基板を貫通するヴィアホールとを備えた発振回路と、底面の中央に形成されたアノード又はカソードのいずれか一方の電極と、前記底面の両側に形成された他方の電極とを備えた表面実装型のガンダイオードとを具備し、前記ガンダイオードの前記一方の電極を前記信号電極に接着すると共に前記他方の電極を前記表面接地電極にそれぞれ接着したガンダイオード発振器において、前記信号電極からWR12導波管線路に変換して信号を伝送する変換部を備え、該変換部は、前記平板基板表面に前記信号電極先端の出力部を覆うショート導波管を載置すると共に、前記WR12導波管線路が接合する前記平板基板裏面の前記裏面接地電極の一部を除去し、前記平板基板を露出する導波管接合部を備え、該導波管接合部の短辺寸法は前記WR12導波管線路の短辺寸法と同一であり、長辺寸法は前記短辺寸法に対して1.549〜1.743の長さであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、WR12導波管線路を用いたガンダイオード発振器おいて、導波管接合部の開口寸法を、短辺寸法がWR12導波管線路の短辺寸法と同一で、長辺寸法が所定の寸法(WR導波管線路の短辺寸法に対して1.549〜1.743の長さ)と構成することで、変換部からの反射係数を大きくし、発振回路のQファクタを大きくすることができ、外部負荷の影響を低減し、発振周波数の周波数変動率を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のガンダイオード発振器10は、前述の図5に示すガンダイオード20を用い、図7に示す発振回路30と比較して、導波管接合部39Aの大きさが異なる。即ち、本発明の導波管接合部39Aは、図7に示す従来の導波管接合部39と比較して、平板基板31を露出する開口の大きさが、短辺の寸法は同じで、長辺の寸法が短い構造となっている。
【0009】
このように形成することで、反射係数を大きくすることができ、発振回路のQ値を変化させる構造となり、外部負荷の影響をなくし、発振周波数の変動率を小さくしている。以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0010】
まず第1の実施例について説明する。ガンダイオード20は、図5に示すように、高濃度n型GaAsからなる半導体基板21上に、MBE法又はMOCVD法により、高濃度n型GaAsからなる第1の半導体層22、低濃度n型GaAsからなる活性層23、高濃度n型GaAsからなる第2の半導体層24が順次積層され、電子の走行空間の面積を小さくするため、絶縁体25によって第2の半導体層24及び活性層23を区画したメサ型構造となっている。26はカソード電極、27はアノード電極、28は導電性突起電極であるカソードバンプ、29は導電性突起電極であるアノードバンプである。絶縁体25は、上面から第1の半導体層22までボロン注入して高抵抗化し、カソード電極26をアノード電極27から分離している。この絶縁体25により囲まれた内側の第2の半導体層24、活性層23、及び第1の半導体層22によりガンダイオードの機能部が形成されている。図5では絶縁体25により囲まれた6個のカソード電極26の上面全てに各々カソードバンプ28が形成されている。一方アノードバンプ29は、カソードバンプ28の一群を両側から挟むように、ガンダイオード20の両側のアノード電極27上に、片側2個ずつ合計4個形成されている。
【0011】
一方、図1に示すように、マイクロストリップ線路で形成した発振回路30は、半絶縁性の平板基板31の上面に信号電極32とその信号電極32の両側に2つの表面接地電極33が形成されると共に、裏面には裏面接地電極34が形成されている。表面接地電極33と裏面接地電極34は、平板基板31を貫通するヴィアホール35によって接続されている。信号電極32には電圧印加用のバイアス電極32A、共振器を構成するオープンスタブ32B及び発振出力取出用の出力部32Cが連続して形成されている。ガンダイオード20は、中央のカソードバンプ28が信号電極32に、両側のアノードバンプ29が両側の表面接地電極33にそれぞれ接着するように実装される。
【0012】
本発明のガンダイオード発振器では、図7に示す発振回路30と比較して、平板基板31の裏面に形成された導波管接合部39Aが異なる。即ち、長辺の寸法を短く形成している。この導波管接合部39Aは、平板基板31の裏面側が露出する開口部の長辺が2.4mm以下となるように予めパターン形成した後、例えばレーザトリミング法によって導体膜34Aを少しずつ除去し、開口部の長辺の寸法が所定の範囲となるように調整する。もちろん、予め設定された長辺寸法に形成してもよい。導体膜34Aは、裏面接地電極34と一体で形成することができるし、別に金属膜等で形成することもできる。
【0013】
図2は本発明のガンダイオード発振器において、導波管接合部の開口寸法(長辺)と発振周波数の周波数変動率の関係を示している。発振周波は76.5GHzとした。また、測定温度は、−30℃〜85℃として測定を行った。導波管接合部の開口寸法3.1mmが、WR12導波管長辺の規格サイズ(図7の導波管結合部39の長辺寸法に相当)である。この場合周波数変動率は、6MHz/℃であった。これに対し、WR12導波管開口部の長さを2.4mmから2.7mmの範囲で周波数変動率が、約4MHz/℃に改善され、温度特性が良好になっていることがわかる。これらの結果から、開口部の長辺寸法が、WR導波管線路の短辺寸法(規格サイズ1.549mm)に対して1.549〜1.743の長さとなるように導体膜34Aを形成することが、周波数変動率の改善に効果が大きいことが確認された。
【0014】
図3は、導波管接合部の開口寸法と発振出力及び変調幅の関係を示している。図3に示すように、開口寸法が変化しても、発振出力、変調幅に大きな特性変動がないことがわかる。即ち、開口部の長辺寸法が、WR導波管線路の短辺寸法に対して1.549〜1.743の長さとなるように導体膜34Aを形成しても、発振出力と変調幅に特性の劣化はなく、所望の発振が可能であることが確認された。
【0015】
このように導波管接合部の管開口寸法を所定の範囲に設定することで、ガンダイオード発振器の発振周波数の温度特性を向上することができる。
【実施例2】
【0016】
次に、本発明を電圧制御型ガンダイオード発振器11に適用した場合について説明する。図4は本発明の電圧制御型ガンダイオード発振器11である。図1に示した構成と同一のものには同じ符号を付けている。
【0017】
本実施例では、第一のオープンスタブ32Bの延長線上の離れた位置に第二のオープンスタブ42Bを設け、第一のオープンスタブ32Bと第二のオープンスタブ42Bの間にバラクタダイオード40を搭載している。第一のバイアス電極32Aを介してガンダイオード20にバイアスを印加し、第二のバイアス電極42Aを介してバラクタダイオード40にバイアスを印加することにより、ガンダイオード20で発振する発振周波数をバラクタダイオード40により変調することができる電圧制御型ガンダイオード発振器11となる。
【0018】
このような電圧制御型ガンダイオード発振器においても、上述の実施例1同様、導波管接合部の開口寸法(長辺)が、WR導波管線路の短辺寸法に対して1.549〜1.743の長さとなるように形成すると、発振出力と変調幅に劣化は確認されず、発振周波数変動率の温度特性の優れたの発振が可能であることが確認された。電圧制御型ガンダイオードにおいても、導波管接合部39Aは、平板基板31の裏面側が露出する開口部の長辺が2.4mm以下となるように予めパターン形成した後、例えばレーザトリミング法によって導体膜34Aを少しずつ除去し、開口部の長辺の寸法が所定の範囲となるように調整すればよい。予め設定された長辺寸法に形成してもよい。導体膜34Aは、裏面接地電極34と一体で形成することができるし、別に金属膜等で形成することもできる。
【0019】
本発明のガンダイオード発振器においても、導体膜34Aを設ける構成とすることで、外部負荷の影響を低減し、発振周波数の周波数変動率を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施例のガンダイオード発振器の説明図である。
【図2】本発明の第1の実施例のガンダイオード発振器の周波数変動率の特性図である。
【図3】本発明の第1の実施例のガンダイオード発振器の発振出力及び変調幅の特性図である。
【図4】本発明の第2の実施例の電圧制御型ガンダイオード発振器の説明図である。
【図5】表面実装型のガンダイオードの説明図である。
【図6】ガンダイオード発振器の部分拡大図である。
【図7】従来のガンダイオード発振器の説明図である。
【符号の説明】
【0021】
10:ガンダイオード発振器、11:電圧制御型ガンダイオード発振器、20:ガンダイオード、21:半導体基板、22:第1の半導体層、23:活性層、24:第2の半導体層、25:絶縁体、26:カソード電極、27:アノード電極、28:カソードバンプ、29:アノードバンプ、30:発振回路、31:平板基板、32:信号電極、32A:第一のバイアス電極、32B:第一のオープンスタブ、32C:出力部、33:表面接地電極、34:裏面接地電極、34A:導体膜、36:放熱基台、37:ショート導波管、38:接地導体、39、39A:導波管結合部、40:バラクタダイオード、42A:第二のバイアス電極、42B:第二のオープンスタブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半絶縁性の平板基板の表面に形成されたマイクロストリップ線路からなる信号電極と、該信号電極に連続するバイアス電極及びオープンスタブと、該オーブンスタブ近傍で前記信号電極を挟んで配置された2つの表面接地電極と、前記平板基板の裏面に形成された裏面接地電極と、該裏面接地電極と前記表面接地電極とを接続する前記平板基板を貫通するヴィアホールとを備えた発振回路と、
底面の中央に形成されたアノード又はカソードのいずれか一方の電極と、前記底面の両側に形成された他方の電極とを備えた表面実装型のガンダイオードとを具備し、
前記ガンダイオードの前記一方の電極を前記信号電極に接着すると共に前記他方の電極を前記表面接地電極にそれぞれ接着したガンダイオード発振器において、
前記信号電極からWR12導波管線路に変換して信号を伝送する変換部を備え、
該変換部は、前記平板基板表面に前記信号電極先端の出力部を覆うショート導波管を載置すると共に、前記WR12導波管線路が接合する前記平板基板裏面の前記裏面接地電極の一部を除去し、前記平板基板を露出する導波管接合部を備え、
該導波管接合部の短辺寸法は前記WR12導波管線路の短辺寸法と同一であり、長辺寸法は前記短辺寸法に対して1.549〜1.743の長さであることを特徴とするガンダイオード発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−42601(P2008−42601A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215367(P2006−215367)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)