ガードル
【課題】膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段を提供する。
【解決手段】装着者の腰部を覆う胴部、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部又は脚部の側部まで周回する引き上げ構造であり、前記引き上げ構造は、装着状態において内転筋群に負荷をかけることにより骨盤底筋を収縮させることを特徴とするガードル。
【解決手段】装着者の腰部を覆う胴部、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部又は脚部の側部まで周回する引き上げ構造であり、前記引き上げ構造は、装着状態において内転筋群に負荷をかけることにより骨盤底筋を収縮させることを特徴とするガードル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に装着することにより骨盤底筋をトレーニングすることができるガードルに関する。
【背景技術】
【0002】
骨盤底筋は、図15に示すように、腹腔内臓器(膀胱、直腸、子宮など)を支えながら、尿道、肛門、膣を閉める筋の総称であり、骨盤底筋群と呼ばれることもある。加齢や出産で機能が低下すると尿失禁、便失禁、子宮脱などを生じることがある。これを治療するために試みられるのが骨盤底筋体操(訓練)である。しかし、骨盤底筋体操は正しく、長期間継続して実行しないと効果が得られない。また、骨盤底筋体操の習得には口頭説明のみでは不十分で、指導者が膣内診を行いながら骨盤底筋群の位置を認識させ、正しい収縮法を伝えることが必要となることもあり、侵襲性と心理的抵抗の面からも実施に困難性が伴う。
【0003】
正しい骨盤底筋の収縮法の習得や、運動継続を動機付ける方法として、バイオフィードバック療法や、膣内コーンなどがあるが、いずれも器具の膣挿入が必要であり、侵襲性と心理的抵抗感を否めない。
【0004】
骨盤底筋(肛門挙筋、尿道括約筋、肛門括約筋)は随意収縮できる筋肉であるが、誰もが容易に収縮できる訳ではない。腹圧性尿失禁女性の約30%は骨盤底筋の随意収縮ができないと言われている。
【0005】
既存の骨盤底筋や周辺の筋力強化運動具は、膣への機器挿入が必要で侵襲性が高い(例えば、特許文献1,2)。膣への機器挿入が不要の骨盤底筋力強化具もあるが、これらは、足に装着したり、股間に挟んだり、用具の上に座るなどの構造となっており、使用しながら自由に日常生活を送ることはできない(特許文献3,4,5,6)。また、肛門付近から大腿部にかけて挟み、落下させないように肛門部の筋肉を締め、その状態で短時間保持又は歩行することで骨盤底筋が徐々に鍛えられ、尿失禁等の改善を期待できるとする発明があるが、日常生活の中で負担なく使えるものではない(特許文献7)。
【0006】
したがって、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段が求められている。
【0007】
一方、スパッツ、トレーニングパンツ等の衣類の構成面に帯状の弾性片を結合することにより、身体に装着するだけで弾性片の伸縮によるトレーニング効果を意図した提案が種々行なわれている。
【0008】
例えば、特許文献8に示された衣類は、トレーニングによる筋力アップが困難な大腿部内転筋群または臀部外転筋の筋力強化を目的とし、衣類には強伸度の帯状部材をこれらの筋該当箇所に設けた構造となっている。そして、この強伸度の帯状部材により、目的とする筋の強化ないし維持を補助しようとするものである。
【0009】
特許文献9に示されたガードルは、腰の歪み、腰痛、O脚の治療を目的とし、内転筋に沿って延びる前面の弾性帯と、大殿筋を持ち上げるように設けた背面の弾性帯とを設けた構造となっている。そして、弾性帯の伸縮性により、筋肉を鍛える効果を発揮するとしている。
【0010】
特許文献10に示された衣類(スパッツ)は、下肢部の筋肉や関節の動作をサポートし、疲労の蓄積やO脚の原因となる体軸に対する重心ブレに関し、そのブレを抑制することを目的とし、大殿筋及び中殿筋を通る帯状部材に強い緊締力を持たせた構造となっている。左右各2本の帯状部材は大転子で交差することにより、大転子が強い緊締力をもって加圧されて内外への回転を抑制され、重心のブレが防止されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−281662号公報
【特許文献2】特許第3472551号公報
【特許文献3】特開2008−297号公報
【特許文献4】特開2001−104515号公報
【特許文献5】実用新案登録第3139627号公報
【特許文献6】実用新案登録第3117998号公報
【特許文献7】特許第4372225号公報
【特許文献8】特開2005−36353号公報
【特許文献9】特許第4493047号公報
【特許文献10】特開2006−322121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、骨盤底筋の強化を目的とするものとしては、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使えるものが求められるにも拘わらず、適切な手段が存在しない。また、トレーニング効果を意図した衣類は、強化を目的とする筋に対して設けられた帯状弾性片を用いる構造となっており、帯状弾性片による引張り作用を中心に目的の筋の強化を図るものであり、骨盤底筋の強化及びそのための手段については何ら示していない。
【0013】
本発明は、これら従来技術の問題を解決し、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討をした結果、ガードルに引張り弾性を有した伸長性帯状構造を設けることにより、ガードルの装着者に対し、内転筋群(特に内転筋上部、恥骨筋等)に負荷を掛ければ、これによって骨盤底筋を収縮させることができることを見出し、本発明を完成させた。この知見に基づくガードルによれば、ガードルを装着するだけで、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を強化することができる。
【0015】
すなわち、本発明は、装着者の腰部を覆う胴部、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部又は脚部の側部まで周回する引き上げ構造であり、前記引き上げ構造は、装着状態において内転筋群に負荷をかけることにより骨盤底筋を収縮させることを特徴とするガードルを提供するものである。
【0016】
前記引き上げ構造は、内転筋群に対してかかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に負荷をかけるものとできる。
【0017】
前記引き上げ構造は、前記作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/4〜1/2であるものが好ましい。
【0018】
また、本発明は、装着者の腰部を覆う胴部、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部又は脚部の側部まで周回する引き上げ構造であることを特徴とする骨盤底筋トレーニング用ガードルを提供する。
【0019】
この場合も、前記引き上げ構造は、内転筋群に対してかかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に負荷をかけるものとできる。
【0020】
また、前記引き上げ構造は、前記作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/4〜1/2であるものが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るガードル(骨盤底筋トレーニング用ガードル)の表(おもて)面を示し、(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図2】図1に示したガードルの裏面を示し、(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図3】図1に示したガードルの身体装着状態を示し、(a) は正面図、(b) は側面図、(c) は背面図である。
【図4】内転筋を中心に人体の骨格及び筋肉を示す縦断正面図である。
【図5】図1に示したガードルの斜視図であり、作用領域を説明するための図である。
【図6】本発明のガードルの変形例において、ガードルの裏返状態での背面を示す簡略図である。
【図7】本発明のガードルの変形例において、ガードルの裏返状態での表(おもて)面を示す簡略図である。
【図8】本発明のガードルの他の変形例を示し、(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図9】本発明の性能評価の実験に検体として用いた骨盤底筋トレーニング用ガードルの仕様をガードルの裏返状態で示し、各仕様(1) ,(2) の(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図10】図9に続く図であり、各仕様(3) ,(4) の(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図11】図10に続く図であり、各仕様(5) ,(6) の(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図12】本発明の性能評価の実験において、筋電位測定の際に装着者がとる動作を示す図である。
【図13】装着者の動作が骨盤底筋収縮に及ぼす影響を示すグラフである。
【図14】本発明に関する性能評価実験の結果を示すグラフである。
【図15】骨盤底筋を中心に示す人体(女性)の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を一部省略する。
【0024】
[基本構成の例]
図1は、本発明の一実施形態に係るガードル(骨盤底筋トレーニング用ガードル)を示しており、(a) は正面図、(b) は背面図である。図2は、図1のガードルの裏面を示し、(a) は正面図、(b) は背面図、図3は、図1のガードルを身体に装着した状態を示し、(a) は正面図、(b) は側面図、(c) 背面図である。
【0025】
この骨盤底筋トレーニング用ガードル1は、装着者の腰部を覆う胴部11、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部12を備えた本体部10と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造30(帯状緊締構造)とを備えている。
【0026】
伸長性帯状構造30は、前身ごろ1aに設けられている。伸長性帯状構造30は、ガードル1の裏面に縫着されており、表面にはそのステッチ31のみが表れている。この実施形態では、ガードル1の面全体を構成する本体部10は、ナイロン83%及びポリウレタン17%からなる伸縮性のあるメッシュ生地(いわゆるパワーネット)でできており、伸長性帯状構造30は、ナイロン75.4%及びポリウレタン24.6%からなる2ウェイストレッチテープとして形成されたゴム帯状緊締材でできている。これらの素材は、ガードルの寸法、用途、品質、トレーニング効果の程度等に応じて、他の種々のものを選択することができる。本体部10の素材の伸縮性は、身体に対するフィット機能、引き締め機能を奏するように決められる。伸長性帯状構造30の伸縮性は、本体部10より強い弾性を示すように決められ、以下に説明する内転筋への適切な負荷が与えられるように決められる。
【0027】
伸長性帯状構造30は、一対の脚部12の内側部分における股底部15に隣り合う部分を作用領域35とし、該作用領域35から前身ごろ1a側へ延びて上昇し、胴部11の側部に延びて、さらに、図3(b)に示すように装着状態で端部が後身ごろにまで達する引き上げ構造40となっている。この側部は、ガードルの装着状態において、人の大転子(図3(b)のP2参照)に対応する部分である。引き上げ構造40は、図2(b)に示すように、ガードルの外側縁部16において、上側端縁17aが胴部11に位置するとともに、下側端縁17aも胴部11に位置している。前身ごろ1aには胴部11中央に中間領域13が形成されている。中間領域13は、装着者への圧迫力が高くならないように柔軟性のある素材または構造で形成されたものであり、前身ごろ1aにおいては装着者の腹部の膨らみを圧迫しないようになっている。また、中間領域がなく、本体部の素材または構造を経て引張り力を伝達し得る場合も含む。
【0028】
引き上げ構造は、図3(a)に示すように、前記作用領域35において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/4となっている。すなわち、装着者(例えば、日本人女性の平均身長を有する人)が本発明のガードルを装着したときに、引き上げ構造40の下側端縁17bは、股下から大腿骨内側上顆までの1/4の場所に位置し、引き上げ構造40が股下からこの場所までを覆うことになる。図4に示すように、人の股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法をLとすると、通常股下からL/4までには恥骨筋が存在する。従って、引き上げ構造40は、作用領域35において股下からL/4の長さ寸法とすることにより、装着者の恥骨筋乃至その近傍を覆うことになる。
【0029】
股底部15は、図5に示すように、一対の脚部の内側の湾曲線Linにおける最奥部(最も胴部寄りの部分)を言い、作用領域Fは、一対の脚部の内側部分における股底部15に隣り合う部分を言う。股底部は、近似的には、前身ごろと後身ごろとを重ねるようにしてガードルを平らに置いたときに、一対の脚部の内側湾曲線における最奥部に位置する部分とすることができる。作用領域の範囲は、本発明に係るガードルの機能上必要とされる伸長性帯状構造の幅を受け入れる範囲である。また、「股底部に隣り合う部分」というのは、股底部15に接する領域F1の他、股底部15から脚部延在方向及び/またはこれを横切る方向に間隔をおいた近傍領域F2も含む。
【0030】
この実施形態に係る骨盤底筋トレーニング用ガードル1は、以下のように使用されて効果を発揮する。
【0031】
ガードル1は、図3に示すように通常通りに身体に装着する。この装着状態において、引き上げ構造40は、作用領域35から前身ごろ1a側へ延びて上昇しつつガードルの側部を周回した状態となる。これにより、引き上げ構造は、内転筋群に負荷を掛ける。発明者の知見によれば、以下の実験例から明らかなように、この負荷を通じて骨盤底筋を収縮させることができる。その結果、ガードル1を装着すれば、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を強化することができる。
【0032】
すなわち、作用領域35に作用する弾性力は、後述する実験例から明らかなように、作用領域35において、かかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に作用する(以下、外旋という)。装着者はこれに対し、多くの場合無意識的に戻そうとする、つまり、かかとを支点に足の指先側が他方の足に近接しつつ回旋することになる(以下、内旋という)。この内旋運動に伴って内転筋群に負荷がかかる。内転筋群(特に、上部に位置する短内転筋や恥骨筋等)は骨盤底筋に近接し、内旋運動にて内転筋群に負荷をかけることにより、骨盤底筋を間接的に収縮させることができると考えられる。従って、本発明のガードルを使用することにより骨盤底筋を収縮させることができて、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を強化することができる。しかも、本発明のガードルは、骨盤底筋に間接的に負荷を作用させるものであるため、骨盤底筋に過大な負担をかけることはない。これにより、骨盤底筋の疲労を防止することができるため、装着者の使用負担が緩和されて長時間使用しやすいものとなる。
【0033】
さらに、本実施形態では、引き上げ構造40は作用領域において股下からL/4までの長さ寸法を有するものであり、恥骨筋を覆う。従って、引き上げ構造40は、特に恥骨筋近傍の着圧を高めることができ、恥骨筋に効果的に負荷をかけることができる。このようにして、本発明のガードルは骨盤底筋を効果的に収縮させることができ、これによる強化作用が確実に得られるのである。
【0034】
このようにして、本実施形態に係る骨盤底筋トレーニング用ガードルによれば、身体に装着して日常生活を負担なく過ごしながら、正しく骨盤底筋を強化することができる。
【0035】
なお、引き上げ構造40は、少なくとも側部(大転子に対応する部分)にまで延びていればよく、装着状態で引き上げ構造40の端部が後身ごろ1bにまで達しないものであってもよい。また、引き上げ構造40が後身ごろ1bにまで達する場合、さらに後身ごろ1bを延びる延長部分を有するものとしてもよい。例えば、図6(a)に示すように、延長部分の端部は後身ごろ1bに位置するものであり、夫々の引き上げ構造40の延長部分を不連続なものとすることができる。また、図6(b)に示すように、夫々の引き上げ構造40の延長部分が背部中央で山形形状となるように連続するものとしてもよい。図6(c)に示すように、夫々の引き上げ構造40の延長部分の端部が、胴部11の開口部に位置するものであってもよい。さらには、図6(d)に示すように、夫々の引き上げ構造40の延長部分が背部中央で1本の直線状となるように連続するものとしてもよい。
【0036】
引き上げ構造40の傾斜角度は、図7に示すように種々のものとできる。すなわち、図7(a)のように、ガードルの外側縁部16において、上側端縁17aが胴部11に位置するとともに、下側端縁17bが脚部12に位置するものとしたり、図7(b)のように外側縁部16において、上側端縁17aが脚部12に位置するとともに、下側端縁17bが脚部12に位置するものとしたりできる。
【0037】
さらに、前面を引き上げる引き上げ構造40(以下、前面引き上げ構造とよぶこともある)に加えて、図8に示すような後面引き上げ構造50や太もも部螺旋構造70を備えていてもよい。すなわち、図8(a)に示すように、後面引き上げ構造50は、作用領域35において前面引き上げ構造40と隣接し該作用領域から後身ごろ1b側へ延びて上昇しつつガードルの側部を周回する。前面引き上げ構造40は、図8(b) に示すように、後身ごろ1bにおいて弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている。また、後面引き上げ構造50は、図8(a) に示すように、前身ごろ1aにおいて弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている。一対の後面引き上げ構造50は、前記した中間領域13を介して、弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている。前面引き上げ構造及び後面引き上げ構造について、一対の引き上げ構造が「弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている」というのは、一対の引き上げ構造が直接結合されている場合の他、間に上記中間領域13等の補強構造が介在している場合も含み、後者の場合は、結合された補強構造を介して弾性に基づく引張り力を伝達できればよい。また、中間領域がなく、本体部の素材または構造を経て引張り力を伝達し得る場合も含む。
【0038】
また、後面引き上げ構造50を備える場合、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合され、前面引き上げ構造40の上端が前身ごろ1aにおいて後面引き上げ構造50に接続されていてもよい(後述の実験例の検体3のような形態)。このように、前面引き上げ構造の「周回」とは、前面引き上げ構造と後面引き上げ構造との側部での結合も含まれる。
【0039】
これにより、後面引き上げ構造50は、臀部を引き上げるように作用し、肛門括約筋に負荷を掛け、これを通じて骨盤底筋を収縮させることができる。このような構成とすれば、ガードル1を装着することにより、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を一層強化することができる。
【0040】
太もも部螺旋構造70は、作用領域35から前身ごろ1a側へ延びて下降しつつガードルの側部を周回する。太もも部螺旋構造70は、後述する実験例から明らかなように、脚部の外転動作時に骨盤底筋の収縮を促すように作用する。したがって、ガードルの装着者は、意識的にまたは無意識的に、外旋を伴う動作を繰り返し行なうことにより、骨盤底筋を強化することができる。
【0041】
[実験例]
次に、発明者が内転筋への負荷と骨盤底筋の収縮との関係を見出すに至った実験例について説明する。以下に、実験に用いたガードルの仕様及びその性能評価について記載する。
【0042】
(1) ガードルの仕様
実験に用いた検体の概略図を図9〜図11に示し、各検体の仕様(構造要素)を表1に示し、その詳細を説明する。表中の項目は、以下の仕様を示している。
「引き上げ構造」:長手方向に引張り弾性を有する伸長性帯状構造の内、少なくとも前面引き上げ構造を備えたものであり、前面引き上げ構造のみ、又は前面引き上げ構造と後面引き上げ構造と組み合わせ。
「難伸長性構造」:引張り力に対して弾性変形し難い構造であり、作用領域に隣接して股下部に設けられる。例えば、前面引き上げ構造40が、作用領域35に隣接する部分において、同様の素材からなる伸長性構造と重なり合い、その重なり部は、相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い構造。
「背部中央縫合」:前面引き上げ構造の背部での結合。
「太もも部螺旋構造」:作用領域から前身ごろ側へ延びて下降しつつガードルの側部を螺旋状に周回する構造。
「本体部素材」:ガードルの胴部及び脚部を形成する本体部の素材。
「メッシュ」:ナイロン83%、ポリウレタン17%からなる素材(東洋紡エスパ パワーネットT7381)
「光沢」:ナイロン80%、ポリウレタン20%からなる素材(ナイロン2WAY T6008)
「混合綿」:ポリエステル65%、綿35%からなる素材
【表1】
【0043】
表1の検体1〜6及びブランクは以下の形態となっている。
(i) 検体1:図9(1)
・一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士が後身ごろ1bで結合され背部中央縫合を形成し、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合されている。これらの結合は、前面引き上げ構造及び後面引き上げ構造が、当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように行なわれている。中間領域13は、装着者への圧迫力が高くならないように、本体部10と同等またはより低い引張り弾性係数を有するものとなっている(以下の検体においても同様)。
・太もも部螺旋構造70は、前身ごろ1aから後身ごろ1bへ周回し、周回端部が前面引き上げ構造40の下部部分41の近傍に結合されている。
・前面引き上げ構造40及び太もも部螺旋構造70は、作用領域35に隣接する部分において重なり合っている。両構造40,70の重なり部は、相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い難伸長性構造60を形成している。
【0044】
(ii) 検体2:図9(2)
・前面引き上げ構造40の周回端部と、後面引き上げ構造50の周回端部とが、胴部10の側部(後身ごろ1b側)で結合されている。一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合されている。
・背部中央縫合を備えていない。
・太もも部螺旋構造70は、前身ごろ1aから後身ごろ1bへ周回し、周回端部が前面引き上げ構造40の下部部分41の近傍に結合されている。
・前面引き上げ構造40及び太もも部螺旋構造70は、作用領域35に隣接する部分において重なり合っている。両構造40,70の重なり部は、相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い難伸長性構造60を形成している。
【0045】
(iii) 検体3:図10(3)
・一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合され、前面引き上げ構造40の上端が前身ごろ1aにおいて後面引き上げ構造50に接続されている。前面引き上げ構造の「周回」とは、この検体3のように前面引き上げ構造40と後面引き上げ構造50との側部での結合も含む。
・背部中央縫合を備えていない。
・太もも部螺旋構造70は、前身ごろ1aから後身ごろ1bへ周回し、周回端部が前面引き上げ構造40の下部部分41の近傍に結合されている。
・前面引き上げ構造40及び太もも部螺旋構造70は、作用領域35に隣接する部分において重なり合い、難伸長性構造60を形成している。
【0046】
(iv) 検体4:図10(4)
・一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士が後身ごろ1bで結合され背部中央縫合を形成し、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を解して結合されている。
・太もも部螺旋構造70は、設けられていない。
【0047】
(v) 検体5:図11(5)
・一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士が後身ごろ1bで結合され背部中央縫合を形成し、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を解して結合されている。
・太もも部螺旋構造70は、設けられていない。
・前面引き上げ構造40は、作用領域35に隣接する部分において、同様の素材からなる伸長性構造と重なり合い、その重なり部は、相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い難伸長性構造60を形成している。
【0048】
(vi) 検体6:図11(6)
・一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士が後身ごろ1bで結合され背部中央縫合を形成している。
・後面引き上げ構造50は、設けられていない。
・太もも部螺旋構造70は、設けられていない。
【0049】
(vii)比較検体1
メッシュ素材にて構成されたガードルである。前面引き上げ構造40、後面引き上げ構造50、及び太もも部螺旋構造70のいずれも設けられていない。
【0050】
(viii)ブランク
綿素材にて構成されたショーツである。前面引き上げ構造40、後面引き上げ構造50、及び太もも部螺旋構造70のいずれも設けられていない。
【0051】
(2) 性能評価
上記検体について、以下の性能評価を行なった。
(2-1) 官能評価
官能評価: 女性7名に全ての検体をはかせ、装着感を5段階評価した数値の平均値を求めた。
(2-2) 着圧
マネキンに着圧測定プローブを固定した後に、検体をはかせ、各部位における着圧を測定した。
使用機器:ハンディ接触圧計 株式会社エイエムアイ・テクノ製
測定部位:股下、腹部、おしり、大転子部分等、図3のP1〜P8に示す部位。但し、以下の評価結果には、実験の進行に伴って骨盤底筋の収縮との関係性が予測されるに至った腹部着圧P1及び股下着圧P4のみを記載する。
(2-3) 筋電位
筋電計を装着し、その上から検体のガードルをはいて各種運動をした時の筋電位を測定した。筋電計は膣内に装着しているので、その測定値は骨盤底筋力の強弱を明確に反映している。
使用機器:フェミスキャン クリニックシステム仕様(販売元 株式会社メディカル・タスクフォース)
測定条件:次の動作における筋収縮力:安静位、通常歩行時、がに股歩行時、通常の立位、内股にした立位、外転、外寄り旋回運動、内寄り旋回運動
これらの内、(a) 股締め歩行、(b) がに股歩行、(c) 外転、(d) 外寄り旋回運動、(e) 内寄り旋回運動の状態を図12に示す。
【0052】
(3) 評価結果
官能評価及び着圧の評価結果を表2、筋電位の評価結果を表3に示す。
【表2】
【表3】
【0053】
検体1〜6の仕様(構造要素)が評価項目(官能評価、着圧、筋電位)に与える影響の強さを比較するために、回帰分析を行ない、重相関R、係数、P−値を求めた。その結果を表4及び表5に示す。
【表4】
【表5】
【0054】
上記の関係に関し、表4の官能評価の結果は、骨盤底筋の収縮に対応する官能評価項目として「股下締め感」、「外股効果」、「膣締まり感」を挙げている。これらの項目と高い相関を有する仕様(構造要素)は、「引き上げ構造」であり、特に、前面引き上げ構造が、これらの項目に高い相関を有することが確かめられた。
【0055】
図13は、表3に基づいて、前記各動作が骨盤底筋収縮に及ぼす影響を集計した結果を示すグラフである。図13から、以下の関係を導き出すことができる。
(a) 通常歩行と足の旋回運動は、特に強く骨盤底筋の収縮を促進する。特に、外寄り旋回運動は、内寄り旋回運動よりも強く骨盤底筋の収縮を促進する。
(b) 立位でも、内股に力が入るように意識すると骨盤底筋収縮が促進される。
【0056】
図14は、この実験において測定した筋電位(膣内挿入による測定)及び股下着圧(難伸長性構造での圧力)を、表3に基づいて集計した結果を示すグラフである。このグラフから、検体1〜6は比較検体1及びブランクに対して筋電位及び股下着圧の双方において、明らかに高い数値を示している。また、表5から筋電位と股下着圧とは高い相関関係を示している。そして、筋電位は骨盤底筋の収縮度に対応し、股下着圧は内転筋への負荷に対応している。すなわち、検体Fのように、少なくとも前面に引き上げ構造を備えたものでも高い筋電位を示していることから、前面における引き上げ構造は内転筋群に負荷をかけて外旋運動を促進し、これによって骨盤底筋の収縮に影響を与えることがわかった。したがって、上記相関は、内転筋に負荷を掛ければ、骨盤底筋を収縮させることができることを示していると言えるのであり、これが本発明を完成させるに至った知見となった。
【0057】
以上、本発明の実施形態及び実験例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、難伸長性構造は、引張り力に対して弾性変形し難い他の部材によって形成することもできる。
【0058】
前記引き上げ構造は、作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/3となるものとしてもよい。通常股下からL/3(図3及び図4参照)までには短内転筋が存在する。従って、引き上げ構造は、作用領域において股下からL/3の長さ寸法とすることにより、装着者(例えば、日本人女性の平均身長を有する人)の短内転筋乃至その近傍を覆うことになるため、短内転筋近傍の着圧を高めることができて、短内転筋に効果的に負荷をかけることができる。
【0059】
また、前記引き上げ構造は、作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/2となるものとしてもよい。通常股下からL/2(図3及び図4参照)までには内転筋群が存在する。従って、引き上げ構造は、作用領域において股下からL/2の長さ寸法とすることにより、装着者(例えば、日本人女性の平均身長を有する人)の内転筋群乃至その近傍を覆うことになるため、恥骨筋近傍の着圧を高めることができて、恥骨筋に効果的に負荷をかけることができる。
【0060】
前記実施形態及び実験例では、伸長性帯状構造30は、ガードル1の裏面に縫着されたものであったが、伸張性帯状構造30をガードル1の表面に縫着してもよく、さらには、表面と裏面との両面に縫着してもよい。また、本発明の対象は、ガードルの他、スパッツ、タイツ、パンティストッキング、ボディスーツ、ズボン等の下衣とすることもできる。
【符号の説明】
【0061】
1: ガードル
10:本体部
11:胴部
12:脚部
15:股底部
30:伸長性帯状構造
35:作用領域
40:前面引き上げ構造
50:後面引き上げ構造
60:難伸長性構造
70:太もも部螺旋構造
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に装着することにより骨盤底筋をトレーニングすることができるガードルに関する。
【背景技術】
【0002】
骨盤底筋は、図15に示すように、腹腔内臓器(膀胱、直腸、子宮など)を支えながら、尿道、肛門、膣を閉める筋の総称であり、骨盤底筋群と呼ばれることもある。加齢や出産で機能が低下すると尿失禁、便失禁、子宮脱などを生じることがある。これを治療するために試みられるのが骨盤底筋体操(訓練)である。しかし、骨盤底筋体操は正しく、長期間継続して実行しないと効果が得られない。また、骨盤底筋体操の習得には口頭説明のみでは不十分で、指導者が膣内診を行いながら骨盤底筋群の位置を認識させ、正しい収縮法を伝えることが必要となることもあり、侵襲性と心理的抵抗の面からも実施に困難性が伴う。
【0003】
正しい骨盤底筋の収縮法の習得や、運動継続を動機付ける方法として、バイオフィードバック療法や、膣内コーンなどがあるが、いずれも器具の膣挿入が必要であり、侵襲性と心理的抵抗感を否めない。
【0004】
骨盤底筋(肛門挙筋、尿道括約筋、肛門括約筋)は随意収縮できる筋肉であるが、誰もが容易に収縮できる訳ではない。腹圧性尿失禁女性の約30%は骨盤底筋の随意収縮ができないと言われている。
【0005】
既存の骨盤底筋や周辺の筋力強化運動具は、膣への機器挿入が必要で侵襲性が高い(例えば、特許文献1,2)。膣への機器挿入が不要の骨盤底筋力強化具もあるが、これらは、足に装着したり、股間に挟んだり、用具の上に座るなどの構造となっており、使用しながら自由に日常生活を送ることはできない(特許文献3,4,5,6)。また、肛門付近から大腿部にかけて挟み、落下させないように肛門部の筋肉を締め、その状態で短時間保持又は歩行することで骨盤底筋が徐々に鍛えられ、尿失禁等の改善を期待できるとする発明があるが、日常生活の中で負担なく使えるものではない(特許文献7)。
【0006】
したがって、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段が求められている。
【0007】
一方、スパッツ、トレーニングパンツ等の衣類の構成面に帯状の弾性片を結合することにより、身体に装着するだけで弾性片の伸縮によるトレーニング効果を意図した提案が種々行なわれている。
【0008】
例えば、特許文献8に示された衣類は、トレーニングによる筋力アップが困難な大腿部内転筋群または臀部外転筋の筋力強化を目的とし、衣類には強伸度の帯状部材をこれらの筋該当箇所に設けた構造となっている。そして、この強伸度の帯状部材により、目的とする筋の強化ないし維持を補助しようとするものである。
【0009】
特許文献9に示されたガードルは、腰の歪み、腰痛、O脚の治療を目的とし、内転筋に沿って延びる前面の弾性帯と、大殿筋を持ち上げるように設けた背面の弾性帯とを設けた構造となっている。そして、弾性帯の伸縮性により、筋肉を鍛える効果を発揮するとしている。
【0010】
特許文献10に示された衣類(スパッツ)は、下肢部の筋肉や関節の動作をサポートし、疲労の蓄積やO脚の原因となる体軸に対する重心ブレに関し、そのブレを抑制することを目的とし、大殿筋及び中殿筋を通る帯状部材に強い緊締力を持たせた構造となっている。左右各2本の帯状部材は大転子で交差することにより、大転子が強い緊締力をもって加圧されて内外への回転を抑制され、重心のブレが防止されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−281662号公報
【特許文献2】特許第3472551号公報
【特許文献3】特開2008−297号公報
【特許文献4】特開2001−104515号公報
【特許文献5】実用新案登録第3139627号公報
【特許文献6】実用新案登録第3117998号公報
【特許文献7】特許第4372225号公報
【特許文献8】特開2005−36353号公報
【特許文献9】特許第4493047号公報
【特許文献10】特開2006−322121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、骨盤底筋の強化を目的とするものとしては、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使えるものが求められるにも拘わらず、適切な手段が存在しない。また、トレーニング効果を意図した衣類は、強化を目的とする筋に対して設けられた帯状弾性片を用いる構造となっており、帯状弾性片による引張り作用を中心に目的の筋の強化を図るものであり、骨盤底筋の強化及びそのための手段については何ら示していない。
【0013】
本発明は、これら従来技術の問題を解決し、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討をした結果、ガードルに引張り弾性を有した伸長性帯状構造を設けることにより、ガードルの装着者に対し、内転筋群(特に内転筋上部、恥骨筋等)に負荷を掛ければ、これによって骨盤底筋を収縮させることができることを見出し、本発明を完成させた。この知見に基づくガードルによれば、ガードルを装着するだけで、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を強化することができる。
【0015】
すなわち、本発明は、装着者の腰部を覆う胴部、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部又は脚部の側部まで周回する引き上げ構造であり、前記引き上げ構造は、装着状態において内転筋群に負荷をかけることにより骨盤底筋を収縮させることを特徴とするガードルを提供するものである。
【0016】
前記引き上げ構造は、内転筋群に対してかかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に負荷をかけるものとできる。
【0017】
前記引き上げ構造は、前記作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/4〜1/2であるものが好ましい。
【0018】
また、本発明は、装着者の腰部を覆う胴部、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部又は脚部の側部まで周回する引き上げ構造であることを特徴とする骨盤底筋トレーニング用ガードルを提供する。
【0019】
この場合も、前記引き上げ構造は、内転筋群に対してかかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に負荷をかけるものとできる。
【0020】
また、前記引き上げ構造は、前記作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/4〜1/2であるものが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るガードル(骨盤底筋トレーニング用ガードル)の表(おもて)面を示し、(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図2】図1に示したガードルの裏面を示し、(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図3】図1に示したガードルの身体装着状態を示し、(a) は正面図、(b) は側面図、(c) は背面図である。
【図4】内転筋を中心に人体の骨格及び筋肉を示す縦断正面図である。
【図5】図1に示したガードルの斜視図であり、作用領域を説明するための図である。
【図6】本発明のガードルの変形例において、ガードルの裏返状態での背面を示す簡略図である。
【図7】本発明のガードルの変形例において、ガードルの裏返状態での表(おもて)面を示す簡略図である。
【図8】本発明のガードルの他の変形例を示し、(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図9】本発明の性能評価の実験に検体として用いた骨盤底筋トレーニング用ガードルの仕様をガードルの裏返状態で示し、各仕様(1) ,(2) の(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図10】図9に続く図であり、各仕様(3) ,(4) の(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図11】図10に続く図であり、各仕様(5) ,(6) の(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図12】本発明の性能評価の実験において、筋電位測定の際に装着者がとる動作を示す図である。
【図13】装着者の動作が骨盤底筋収縮に及ぼす影響を示すグラフである。
【図14】本発明に関する性能評価実験の結果を示すグラフである。
【図15】骨盤底筋を中心に示す人体(女性)の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を一部省略する。
【0024】
[基本構成の例]
図1は、本発明の一実施形態に係るガードル(骨盤底筋トレーニング用ガードル)を示しており、(a) は正面図、(b) は背面図である。図2は、図1のガードルの裏面を示し、(a) は正面図、(b) は背面図、図3は、図1のガードルを身体に装着した状態を示し、(a) は正面図、(b) は側面図、(c) 背面図である。
【0025】
この骨盤底筋トレーニング用ガードル1は、装着者の腰部を覆う胴部11、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部12を備えた本体部10と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造30(帯状緊締構造)とを備えている。
【0026】
伸長性帯状構造30は、前身ごろ1aに設けられている。伸長性帯状構造30は、ガードル1の裏面に縫着されており、表面にはそのステッチ31のみが表れている。この実施形態では、ガードル1の面全体を構成する本体部10は、ナイロン83%及びポリウレタン17%からなる伸縮性のあるメッシュ生地(いわゆるパワーネット)でできており、伸長性帯状構造30は、ナイロン75.4%及びポリウレタン24.6%からなる2ウェイストレッチテープとして形成されたゴム帯状緊締材でできている。これらの素材は、ガードルの寸法、用途、品質、トレーニング効果の程度等に応じて、他の種々のものを選択することができる。本体部10の素材の伸縮性は、身体に対するフィット機能、引き締め機能を奏するように決められる。伸長性帯状構造30の伸縮性は、本体部10より強い弾性を示すように決められ、以下に説明する内転筋への適切な負荷が与えられるように決められる。
【0027】
伸長性帯状構造30は、一対の脚部12の内側部分における股底部15に隣り合う部分を作用領域35とし、該作用領域35から前身ごろ1a側へ延びて上昇し、胴部11の側部に延びて、さらに、図3(b)に示すように装着状態で端部が後身ごろにまで達する引き上げ構造40となっている。この側部は、ガードルの装着状態において、人の大転子(図3(b)のP2参照)に対応する部分である。引き上げ構造40は、図2(b)に示すように、ガードルの外側縁部16において、上側端縁17aが胴部11に位置するとともに、下側端縁17aも胴部11に位置している。前身ごろ1aには胴部11中央に中間領域13が形成されている。中間領域13は、装着者への圧迫力が高くならないように柔軟性のある素材または構造で形成されたものであり、前身ごろ1aにおいては装着者の腹部の膨らみを圧迫しないようになっている。また、中間領域がなく、本体部の素材または構造を経て引張り力を伝達し得る場合も含む。
【0028】
引き上げ構造は、図3(a)に示すように、前記作用領域35において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/4となっている。すなわち、装着者(例えば、日本人女性の平均身長を有する人)が本発明のガードルを装着したときに、引き上げ構造40の下側端縁17bは、股下から大腿骨内側上顆までの1/4の場所に位置し、引き上げ構造40が股下からこの場所までを覆うことになる。図4に示すように、人の股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法をLとすると、通常股下からL/4までには恥骨筋が存在する。従って、引き上げ構造40は、作用領域35において股下からL/4の長さ寸法とすることにより、装着者の恥骨筋乃至その近傍を覆うことになる。
【0029】
股底部15は、図5に示すように、一対の脚部の内側の湾曲線Linにおける最奥部(最も胴部寄りの部分)を言い、作用領域Fは、一対の脚部の内側部分における股底部15に隣り合う部分を言う。股底部は、近似的には、前身ごろと後身ごろとを重ねるようにしてガードルを平らに置いたときに、一対の脚部の内側湾曲線における最奥部に位置する部分とすることができる。作用領域の範囲は、本発明に係るガードルの機能上必要とされる伸長性帯状構造の幅を受け入れる範囲である。また、「股底部に隣り合う部分」というのは、股底部15に接する領域F1の他、股底部15から脚部延在方向及び/またはこれを横切る方向に間隔をおいた近傍領域F2も含む。
【0030】
この実施形態に係る骨盤底筋トレーニング用ガードル1は、以下のように使用されて効果を発揮する。
【0031】
ガードル1は、図3に示すように通常通りに身体に装着する。この装着状態において、引き上げ構造40は、作用領域35から前身ごろ1a側へ延びて上昇しつつガードルの側部を周回した状態となる。これにより、引き上げ構造は、内転筋群に負荷を掛ける。発明者の知見によれば、以下の実験例から明らかなように、この負荷を通じて骨盤底筋を収縮させることができる。その結果、ガードル1を装着すれば、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を強化することができる。
【0032】
すなわち、作用領域35に作用する弾性力は、後述する実験例から明らかなように、作用領域35において、かかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に作用する(以下、外旋という)。装着者はこれに対し、多くの場合無意識的に戻そうとする、つまり、かかとを支点に足の指先側が他方の足に近接しつつ回旋することになる(以下、内旋という)。この内旋運動に伴って内転筋群に負荷がかかる。内転筋群(特に、上部に位置する短内転筋や恥骨筋等)は骨盤底筋に近接し、内旋運動にて内転筋群に負荷をかけることにより、骨盤底筋を間接的に収縮させることができると考えられる。従って、本発明のガードルを使用することにより骨盤底筋を収縮させることができて、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を強化することができる。しかも、本発明のガードルは、骨盤底筋に間接的に負荷を作用させるものであるため、骨盤底筋に過大な負担をかけることはない。これにより、骨盤底筋の疲労を防止することができるため、装着者の使用負担が緩和されて長時間使用しやすいものとなる。
【0033】
さらに、本実施形態では、引き上げ構造40は作用領域において股下からL/4までの長さ寸法を有するものであり、恥骨筋を覆う。従って、引き上げ構造40は、特に恥骨筋近傍の着圧を高めることができ、恥骨筋に効果的に負荷をかけることができる。このようにして、本発明のガードルは骨盤底筋を効果的に収縮させることができ、これによる強化作用が確実に得られるのである。
【0034】
このようにして、本実施形態に係る骨盤底筋トレーニング用ガードルによれば、身体に装着して日常生活を負担なく過ごしながら、正しく骨盤底筋を強化することができる。
【0035】
なお、引き上げ構造40は、少なくとも側部(大転子に対応する部分)にまで延びていればよく、装着状態で引き上げ構造40の端部が後身ごろ1bにまで達しないものであってもよい。また、引き上げ構造40が後身ごろ1bにまで達する場合、さらに後身ごろ1bを延びる延長部分を有するものとしてもよい。例えば、図6(a)に示すように、延長部分の端部は後身ごろ1bに位置するものであり、夫々の引き上げ構造40の延長部分を不連続なものとすることができる。また、図6(b)に示すように、夫々の引き上げ構造40の延長部分が背部中央で山形形状となるように連続するものとしてもよい。図6(c)に示すように、夫々の引き上げ構造40の延長部分の端部が、胴部11の開口部に位置するものであってもよい。さらには、図6(d)に示すように、夫々の引き上げ構造40の延長部分が背部中央で1本の直線状となるように連続するものとしてもよい。
【0036】
引き上げ構造40の傾斜角度は、図7に示すように種々のものとできる。すなわち、図7(a)のように、ガードルの外側縁部16において、上側端縁17aが胴部11に位置するとともに、下側端縁17bが脚部12に位置するものとしたり、図7(b)のように外側縁部16において、上側端縁17aが脚部12に位置するとともに、下側端縁17bが脚部12に位置するものとしたりできる。
【0037】
さらに、前面を引き上げる引き上げ構造40(以下、前面引き上げ構造とよぶこともある)に加えて、図8に示すような後面引き上げ構造50や太もも部螺旋構造70を備えていてもよい。すなわち、図8(a)に示すように、後面引き上げ構造50は、作用領域35において前面引き上げ構造40と隣接し該作用領域から後身ごろ1b側へ延びて上昇しつつガードルの側部を周回する。前面引き上げ構造40は、図8(b) に示すように、後身ごろ1bにおいて弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている。また、後面引き上げ構造50は、図8(a) に示すように、前身ごろ1aにおいて弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている。一対の後面引き上げ構造50は、前記した中間領域13を介して、弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている。前面引き上げ構造及び後面引き上げ構造について、一対の引き上げ構造が「弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている」というのは、一対の引き上げ構造が直接結合されている場合の他、間に上記中間領域13等の補強構造が介在している場合も含み、後者の場合は、結合された補強構造を介して弾性に基づく引張り力を伝達できればよい。また、中間領域がなく、本体部の素材または構造を経て引張り力を伝達し得る場合も含む。
【0038】
また、後面引き上げ構造50を備える場合、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合され、前面引き上げ構造40の上端が前身ごろ1aにおいて後面引き上げ構造50に接続されていてもよい(後述の実験例の検体3のような形態)。このように、前面引き上げ構造の「周回」とは、前面引き上げ構造と後面引き上げ構造との側部での結合も含まれる。
【0039】
これにより、後面引き上げ構造50は、臀部を引き上げるように作用し、肛門括約筋に負荷を掛け、これを通じて骨盤底筋を収縮させることができる。このような構成とすれば、ガードル1を装着することにより、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を一層強化することができる。
【0040】
太もも部螺旋構造70は、作用領域35から前身ごろ1a側へ延びて下降しつつガードルの側部を周回する。太もも部螺旋構造70は、後述する実験例から明らかなように、脚部の外転動作時に骨盤底筋の収縮を促すように作用する。したがって、ガードルの装着者は、意識的にまたは無意識的に、外旋を伴う動作を繰り返し行なうことにより、骨盤底筋を強化することができる。
【0041】
[実験例]
次に、発明者が内転筋への負荷と骨盤底筋の収縮との関係を見出すに至った実験例について説明する。以下に、実験に用いたガードルの仕様及びその性能評価について記載する。
【0042】
(1) ガードルの仕様
実験に用いた検体の概略図を図9〜図11に示し、各検体の仕様(構造要素)を表1に示し、その詳細を説明する。表中の項目は、以下の仕様を示している。
「引き上げ構造」:長手方向に引張り弾性を有する伸長性帯状構造の内、少なくとも前面引き上げ構造を備えたものであり、前面引き上げ構造のみ、又は前面引き上げ構造と後面引き上げ構造と組み合わせ。
「難伸長性構造」:引張り力に対して弾性変形し難い構造であり、作用領域に隣接して股下部に設けられる。例えば、前面引き上げ構造40が、作用領域35に隣接する部分において、同様の素材からなる伸長性構造と重なり合い、その重なり部は、相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い構造。
「背部中央縫合」:前面引き上げ構造の背部での結合。
「太もも部螺旋構造」:作用領域から前身ごろ側へ延びて下降しつつガードルの側部を螺旋状に周回する構造。
「本体部素材」:ガードルの胴部及び脚部を形成する本体部の素材。
「メッシュ」:ナイロン83%、ポリウレタン17%からなる素材(東洋紡エスパ パワーネットT7381)
「光沢」:ナイロン80%、ポリウレタン20%からなる素材(ナイロン2WAY T6008)
「混合綿」:ポリエステル65%、綿35%からなる素材
【表1】
【0043】
表1の検体1〜6及びブランクは以下の形態となっている。
(i) 検体1:図9(1)
・一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士が後身ごろ1bで結合され背部中央縫合を形成し、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合されている。これらの結合は、前面引き上げ構造及び後面引き上げ構造が、当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように行なわれている。中間領域13は、装着者への圧迫力が高くならないように、本体部10と同等またはより低い引張り弾性係数を有するものとなっている(以下の検体においても同様)。
・太もも部螺旋構造70は、前身ごろ1aから後身ごろ1bへ周回し、周回端部が前面引き上げ構造40の下部部分41の近傍に結合されている。
・前面引き上げ構造40及び太もも部螺旋構造70は、作用領域35に隣接する部分において重なり合っている。両構造40,70の重なり部は、相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い難伸長性構造60を形成している。
【0044】
(ii) 検体2:図9(2)
・前面引き上げ構造40の周回端部と、後面引き上げ構造50の周回端部とが、胴部10の側部(後身ごろ1b側)で結合されている。一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合されている。
・背部中央縫合を備えていない。
・太もも部螺旋構造70は、前身ごろ1aから後身ごろ1bへ周回し、周回端部が前面引き上げ構造40の下部部分41の近傍に結合されている。
・前面引き上げ構造40及び太もも部螺旋構造70は、作用領域35に隣接する部分において重なり合っている。両構造40,70の重なり部は、相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い難伸長性構造60を形成している。
【0045】
(iii) 検体3:図10(3)
・一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合され、前面引き上げ構造40の上端が前身ごろ1aにおいて後面引き上げ構造50に接続されている。前面引き上げ構造の「周回」とは、この検体3のように前面引き上げ構造40と後面引き上げ構造50との側部での結合も含む。
・背部中央縫合を備えていない。
・太もも部螺旋構造70は、前身ごろ1aから後身ごろ1bへ周回し、周回端部が前面引き上げ構造40の下部部分41の近傍に結合されている。
・前面引き上げ構造40及び太もも部螺旋構造70は、作用領域35に隣接する部分において重なり合い、難伸長性構造60を形成している。
【0046】
(iv) 検体4:図10(4)
・一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士が後身ごろ1bで結合され背部中央縫合を形成し、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を解して結合されている。
・太もも部螺旋構造70は、設けられていない。
【0047】
(v) 検体5:図11(5)
・一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士が後身ごろ1bで結合され背部中央縫合を形成し、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を解して結合されている。
・太もも部螺旋構造70は、設けられていない。
・前面引き上げ構造40は、作用領域35に隣接する部分において、同様の素材からなる伸長性構造と重なり合い、その重なり部は、相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い難伸長性構造60を形成している。
【0048】
(vi) 検体6:図11(6)
・一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士が後身ごろ1bで結合され背部中央縫合を形成している。
・後面引き上げ構造50は、設けられていない。
・太もも部螺旋構造70は、設けられていない。
【0049】
(vii)比較検体1
メッシュ素材にて構成されたガードルである。前面引き上げ構造40、後面引き上げ構造50、及び太もも部螺旋構造70のいずれも設けられていない。
【0050】
(viii)ブランク
綿素材にて構成されたショーツである。前面引き上げ構造40、後面引き上げ構造50、及び太もも部螺旋構造70のいずれも設けられていない。
【0051】
(2) 性能評価
上記検体について、以下の性能評価を行なった。
(2-1) 官能評価
官能評価: 女性7名に全ての検体をはかせ、装着感を5段階評価した数値の平均値を求めた。
(2-2) 着圧
マネキンに着圧測定プローブを固定した後に、検体をはかせ、各部位における着圧を測定した。
使用機器:ハンディ接触圧計 株式会社エイエムアイ・テクノ製
測定部位:股下、腹部、おしり、大転子部分等、図3のP1〜P8に示す部位。但し、以下の評価結果には、実験の進行に伴って骨盤底筋の収縮との関係性が予測されるに至った腹部着圧P1及び股下着圧P4のみを記載する。
(2-3) 筋電位
筋電計を装着し、その上から検体のガードルをはいて各種運動をした時の筋電位を測定した。筋電計は膣内に装着しているので、その測定値は骨盤底筋力の強弱を明確に反映している。
使用機器:フェミスキャン クリニックシステム仕様(販売元 株式会社メディカル・タスクフォース)
測定条件:次の動作における筋収縮力:安静位、通常歩行時、がに股歩行時、通常の立位、内股にした立位、外転、外寄り旋回運動、内寄り旋回運動
これらの内、(a) 股締め歩行、(b) がに股歩行、(c) 外転、(d) 外寄り旋回運動、(e) 内寄り旋回運動の状態を図12に示す。
【0052】
(3) 評価結果
官能評価及び着圧の評価結果を表2、筋電位の評価結果を表3に示す。
【表2】
【表3】
【0053】
検体1〜6の仕様(構造要素)が評価項目(官能評価、着圧、筋電位)に与える影響の強さを比較するために、回帰分析を行ない、重相関R、係数、P−値を求めた。その結果を表4及び表5に示す。
【表4】
【表5】
【0054】
上記の関係に関し、表4の官能評価の結果は、骨盤底筋の収縮に対応する官能評価項目として「股下締め感」、「外股効果」、「膣締まり感」を挙げている。これらの項目と高い相関を有する仕様(構造要素)は、「引き上げ構造」であり、特に、前面引き上げ構造が、これらの項目に高い相関を有することが確かめられた。
【0055】
図13は、表3に基づいて、前記各動作が骨盤底筋収縮に及ぼす影響を集計した結果を示すグラフである。図13から、以下の関係を導き出すことができる。
(a) 通常歩行と足の旋回運動は、特に強く骨盤底筋の収縮を促進する。特に、外寄り旋回運動は、内寄り旋回運動よりも強く骨盤底筋の収縮を促進する。
(b) 立位でも、内股に力が入るように意識すると骨盤底筋収縮が促進される。
【0056】
図14は、この実験において測定した筋電位(膣内挿入による測定)及び股下着圧(難伸長性構造での圧力)を、表3に基づいて集計した結果を示すグラフである。このグラフから、検体1〜6は比較検体1及びブランクに対して筋電位及び股下着圧の双方において、明らかに高い数値を示している。また、表5から筋電位と股下着圧とは高い相関関係を示している。そして、筋電位は骨盤底筋の収縮度に対応し、股下着圧は内転筋への負荷に対応している。すなわち、検体Fのように、少なくとも前面に引き上げ構造を備えたものでも高い筋電位を示していることから、前面における引き上げ構造は内転筋群に負荷をかけて外旋運動を促進し、これによって骨盤底筋の収縮に影響を与えることがわかった。したがって、上記相関は、内転筋に負荷を掛ければ、骨盤底筋を収縮させることができることを示していると言えるのであり、これが本発明を完成させるに至った知見となった。
【0057】
以上、本発明の実施形態及び実験例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、難伸長性構造は、引張り力に対して弾性変形し難い他の部材によって形成することもできる。
【0058】
前記引き上げ構造は、作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/3となるものとしてもよい。通常股下からL/3(図3及び図4参照)までには短内転筋が存在する。従って、引き上げ構造は、作用領域において股下からL/3の長さ寸法とすることにより、装着者(例えば、日本人女性の平均身長を有する人)の短内転筋乃至その近傍を覆うことになるため、短内転筋近傍の着圧を高めることができて、短内転筋に効果的に負荷をかけることができる。
【0059】
また、前記引き上げ構造は、作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/2となるものとしてもよい。通常股下からL/2(図3及び図4参照)までには内転筋群が存在する。従って、引き上げ構造は、作用領域において股下からL/2の長さ寸法とすることにより、装着者(例えば、日本人女性の平均身長を有する人)の内転筋群乃至その近傍を覆うことになるため、恥骨筋近傍の着圧を高めることができて、恥骨筋に効果的に負荷をかけることができる。
【0060】
前記実施形態及び実験例では、伸長性帯状構造30は、ガードル1の裏面に縫着されたものであったが、伸張性帯状構造30をガードル1の表面に縫着してもよく、さらには、表面と裏面との両面に縫着してもよい。また、本発明の対象は、ガードルの他、スパッツ、タイツ、パンティストッキング、ボディスーツ、ズボン等の下衣とすることもできる。
【符号の説明】
【0061】
1: ガードル
10:本体部
11:胴部
12:脚部
15:股底部
30:伸長性帯状構造
35:作用領域
40:前面引き上げ構造
50:後面引き上げ構造
60:難伸長性構造
70:太もも部螺旋構造
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の腰部を覆う胴部、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、
上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部又は脚部の側部まで周回する引き上げ構造であり、
前記引き上げ構造は、装着状態において内転筋群に負荷をかけることにより骨盤底筋を収縮させることを特徴とするガードル。
【請求項2】
前記引き上げ構造は、内転筋群に対してかかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に負荷をかけるものであることを特徴とする請求項1のガードル。
【請求項3】
前記引き上げ構造は、前記作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/4〜1/2であることを特徴とする請求項1又は請求項2のガードル。
【請求項4】
装着者の腰部を覆う胴部、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、
上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部又は脚部の側部まで周回する引き上げ構造であることを特徴とする骨盤底筋トレーニング用ガードル。
【請求項5】
前記引き上げ構造は、内転筋群に対してかかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に負荷をかけるものであることを特徴とする請求項4の骨盤底筋トレーニング用ガードル。
【請求項6】
前記引き上げ構造は、前記作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/4〜1/2であることを特徴とする請求項4又は請求項5の骨盤底筋トレーニング用ガードル。
【請求項1】
装着者の腰部を覆う胴部、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、
上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部又は脚部の側部まで周回する引き上げ構造であり、
前記引き上げ構造は、装着状態において内転筋群に負荷をかけることにより骨盤底筋を収縮させることを特徴とするガードル。
【請求項2】
前記引き上げ構造は、内転筋群に対してかかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に負荷をかけるものであることを特徴とする請求項1のガードル。
【請求項3】
前記引き上げ構造は、前記作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/4〜1/2であることを特徴とする請求項1又は請求項2のガードル。
【請求項4】
装着者の腰部を覆う胴部、及び装着者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、
上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部又は脚部の側部まで周回する引き上げ構造であることを特徴とする骨盤底筋トレーニング用ガードル。
【請求項5】
前記引き上げ構造は、内転筋群に対してかかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に負荷をかけるものであることを特徴とする請求項4の骨盤底筋トレーニング用ガードル。
【請求項6】
前記引き上げ構造は、前記作用領域において、装着者の股下からの長さ寸法が、股下から大腿骨内側上顆までの長さ寸法の1/4〜1/2であることを特徴とする請求項4又は請求項5の骨盤底筋トレーニング用ガードル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−77408(P2012−77408A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223157(P2010−223157)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】
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