説明

ガーネット型イオン伝導性酸化物及びその製造方法

【課題】ガーネット型イオン伝導性酸化物において、伝導度の低下をできるだけ抑えると共に、焼成エネルギーをより低減する。
【解決手段】ガーネット型イオン伝導性酸化物は、Liと、Laと、Zrとを含み、Laと異なる元素でありアルカリ土類金属及びランタノイド元素のうち少なくとも1種以上の元素Aと、Zrと異なる元素であり酸素と6配位をとることが可能な遷移元素及び第12族〜第15族に属する典型元素のうち少なくとも1種以上の元素Bとを含む。また、基本組成LiXLa3-YSrYZr2-ZNbZ12(式中、Xは、(La3-YSrY)の平均価数をa、(Zr2-ZNbZ)の平均価数をbとしたとき、X=24−3×a−2×bを満たし、且つ0<Y≦1.0,0<Z≦1.0)を満たす)で表されるものとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガーネット型イオン伝導性酸化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオンを伝導する固体電解質としては、固相反応法で合成したガーネット型酸化物Li7La3Zr212や、Li7ALa3Nb212(A=Ca,Sr,Ba)などが提案されている(非特許文献1〜3)。この固体電解質では、伝導度が1.9〜2.3×10-4Scm-1(25℃)で活性化エネルギーが0.34eVであったと報告されている。このほか、例えば、ガラスセラミックスLi1.5Al0.5Ge1.5(PO43(以下、LAGPという)や、ガラスセラミックスLi1+XTi2SiX3-X12・AlPO4(以下、オハラ電解質という)なども提案されている(例えば、非特許文献4や特許文献1参照)。このLAGPの伝導度は7.0×10-4Scm-1程度であるが、0.5V以下(対リチウムイオン)で還元性を示し、オハラ電解質は、その伝導度が1×10-3Scm-1であるが、1.5V以下(対リチウムイオン)で還元性を示すため、いずれも伝導度は高いものの化学的安定性に課題がある。また、上述したLi7La3Zr212は、化学的安定性が高く、且つ従来のガーネット型酸化物に比べて伝導度が二桁近く高いものの、ガーネット型酸化物以外のリチウムイオン伝導性酸化物と比べると、伝導度にさほど有意な差があるとはいえなかった。
【0003】
そこで、本発明者らは、化学的安定性に優れ、電位窓が広いガーネット型酸化物のうちLi7La3Zr212系のものにおいて、Zrサイトを適切な量のNbで置換することで、伝導度を高めることを提案している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−320971号公報
【特許文献2】特開2010−202499号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】アンゲバンテ・ヘミー・インターナショナル・エディション(Angew.Chem.Int.Ed.),2007年、46巻、7778−7781頁
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・ソリッド・ステート・ケミストリー(Journal of Solid State Chemistry),182,2046−2052頁,2009年
【非特許文献3】ジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサイエティ(J.Ame.Ceram.Soc.),88[2],411−418頁,2005年
【非特許文献4】ジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサイエティ(J.Ame.Ceram.Soc.),90,2802−2806頁,2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の非特許文献1や特許文献2では、伝導度は高いものの、1200℃以上という高温で処理する必要があった。また、非特許文献2,3では、焼成温度が980℃や900℃など比較的低温で焼成することが記載されているが、伝導度が5.6×10-7S/cmや4.2×10-6S/cmと低く、活性化エネルギーも0.54eVや0.50eVと大きく、更なる改良が望まれていた。また、非特許文献4,特許文献1では、化学的安定性に課題があった。即ち、化学的安定性に優れ、高い伝導度を示し、且つ焼成エネルギーを低減した固体電解質は今まで無かった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、伝導度の低下をできるだけ抑えると共に、焼成エネルギーをより低減することができるガーネット型イオン伝導性酸化物及びその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、Li,La及びZrを含むガーネット型酸化物のLaサイトにSrやCaなどの元素を入れると共に、ZrサイトにNbなどの元素を入れると、伝導度の低下をできるだけ抑えると共に、焼成エネルギーをより低減することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物は、Liと、Laと、Zrとを含み、Laと異なる元素でありアルカリ土類金属及びランタノイド元素のうち少なくとも1種以上の元素Aと、Zrと異なる元素であり酸素と6配位をとることが可能な遷移元素及び第12族〜第15族に属する典型元素のうち少なくとも1種以上の元素Bとを含むものである。
【0010】
本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物の製造方法は、Liと、Laと、Zrと、Laと異なる元素でありアルカリ土類金属及びランタノイド元素のうち少なくとも1種以上の元素Aと、Zrと異なる元素であり酸素と6配位をとることが可能な遷移元素及び第12族〜第15族に属する典型元素のうち少なくとも1種以上の元素Bとを含む原料を混合する混合工程と、前記混合した原料を1100℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物及びその製造方法は、伝導度の低下をできるだけ抑えると共に、焼成エネルギーをより低減することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、一般的に構成元素数を増やすと融点が下がることが経験的に知られている。そこで、Laなどの元素の入るサイトを置換する元素を添加することによって融点が下がり、より低温で焼結できるものと推察される。また、ガーネット型の結晶構造は、4つの酸素イオンと配位するLiイオンと、6つの酸素イオンと配位するLiイオンとを有する。Zrなどの遷移金属の入るサイトに違うイオン半径を有する元素を置換すると、Liイオン周りの酸素イオンの原子座標が変化する。これらの元素を置換する量を調整すると、Liイオン周りの酸素イオンの距離が広く、かつ均等の距離になるため、Liイオンの移動が容易になる。その結果、伝導度が向上するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】参考例1〜7(4を除く)の格子定数のn値依存性を示すグラフ。
【図2】実験例5のナイキストプロット。
【図3】実験例1〜7のリチウムイオン伝導度のn値依存性を示すグラフ。
【図4】ガーネット型酸化物の結晶構造に含まれる部分構造の説明図。
【図5】ガーネット型酸化物の結晶構造の説明図であり、(a)は全体像、(b)は六面体のLiO6(II)を露出させた様子。
【図6】実験例5の電位窓の測定結果を示すグラフ。
【図7】実験例1〜7のリチウムイオン伝導度のY値,Z値依存性を示すグラフ。
【図8】Sr,Nb添加量(Y,Z)に対する相対密度の関係を示すグラフ。
【図9】実験例1,5,8の焼成温度に対する相対密度の関係を示すグラフ。
【図10】実験例8のX線回折測定結果及び結晶相の参考データ。
【図11】実験例5のX線回折測定結果及び結晶相の参考データ。
【図12】実験例5の伝導度のアレニウスプロット。
【図13】種々の固体電解質の伝導度のアレニウスプロット。
【図14】Sr,Nb添加量(Y,Z)に対する格子定数の関係を示すグラフ。
【図15】格子定数に対するLiイオン伝導度の関係を示すグラフ。
【図16】イオン半径差に対する格子定数の関係を示すグラフ。
【図17】実験例14のパウダーベッドとペレットのX線回折測定結果。
【図18】パウダーベッドなしの実験例15の底面と上面のX線回折測定結果。
【図19】Ca,Nb添加量(Y,Z)に対する格子定数の関係を示すグラフ。
【図20】イオン半径差に対する格子定数の関係を示すグラフ。
【図21】格子定数に対するLiイオン伝導度の関係を示すグラフ。
【図22】実験例20,24のX線回折測定結果及び結晶相の参考データ。
【図23】Sr及びCaの添加効果の比較結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物は、Liと、Laと、Zrとを含み、Laと異なる元素でありアルカリ土類金属及びランタノイド元素のうち少なくとも1種以上の元素Aと、Zrと異なる元素であり酸素と6配位をとることが可能な遷移元素及び第12族〜第15族に属する典型元素のうち少なくとも1種以上の元素Bとを含むものである。
【0014】
このガーネット型イオン伝導性酸化物は、基本組成LiXLa3-YYZr2-ZZ12で表されるものとしてもよい。この基本組成式は、原料配合時の組成をいう。この基本組成式において、元素Aは、ガーネット型酸化物においてLaのサイトに入る元素であり、Sr,Ba,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素である。このうち、元素Aは、Laのイオン半径に近いSrであることが好ましい。Srを含むものとすると、融点が下がり、焼成温度を低下させるなど、焼成エネルギーをより低減することができる。あるいは、Caがより好ましい。Caを含むものとするとリチウムイオン伝導度をより向上することができる。元素Bは、ガーネット型酸化物において、Zrのサイトに入る元素であり、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素である。このうち、元素Bは、Nbであることが好ましい。Nbを含むものとすると、リチウムイオン伝導度をより高めることができる。この基本組成式において、Xは、(La3-YY)の平均価数をa、(Zr2-ZZ)の平均価数をbとしたとき、X=24−3×a−2×bを満たす。但し、製造方法や実験の過程によって、Xの値は−1〜+1程度の範囲でずれてもよい。また、Yは、0<Y≦1.0を満たす。このYは、0.15以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.40以上であることが更に好ましい。Yが0〜0.5の範囲では、Yを増加させると、リチウムイオン伝導度がより向上するからである。また、Yは、0.85以下であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましく、0.60以下であることが更に好ましい。Yが0.5〜1の範囲では、Yを減少させると、リチウムイオン伝導度がより向上するからである。また、Zは、0<Z≦1.0を満たす。このZは、0.15以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.40以上であることが更に好ましい。Z=0.50までの範囲では、Zを増加させると、リチウムイオン伝導度がより向上するからである。また、Zは、0.85以下であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましく、0.60以下であることが更に好ましい。Zが0.5〜1の範囲では、Zを減少させると、リチウムイオン伝導度がより向上するからである。また、Y=Zであるものとしてもよいし、YとZとが異なるものとしてもよく、Y<Zであることがより好ましい。Y<Zでは、リチウムイオン伝導度をより向上することができるためである。そして、本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物は、基本組成LiXLa3-YSrYZr2-ZNbZ12(式中、Xは、(La3-YSrY)の平均価数をa、(Zr2-ZNbZ)の平均価数をbとしたとき、X=24−3×a−2×bを満たし、且つ0<Y≦1.0,0<Z≦1.0を満たす)で表されるものとしてもよい。
【0015】
ここで、ガーネット型イオン伝導性酸化物は、主としてガーネット型の構造を有していればよく、例えば、固体電解質として他の構造が一部含まれていたり、例えばX線回折のピーク位置がシフトしているなどガーネットからみて歪んだ構造を含むものとしてもよい。また、組成式で示しているが、固体電解質には他の元素や構造などが一部含まれていてもよい。なお、「基本組成」とは、A,Bにはそれぞれ主成分の元素と1以上の副成分の元素を含んでいてもよい趣旨である。
【0016】
本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物は、格子定数が12.92Å以上12.99Å以下の範囲であることが好ましく、12.94Å以上12.98Å以下の範囲がより好ましく、12.95Å以上12.96Å以下の範囲が更に好ましい。格子定数が12.92Å以上12.99Å以下の範囲では、リチウムイオン伝導度(25℃)をより高めることができる。
【0017】
本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物は、リチウムイオン伝導度(25℃)が0.4×10-4(S/cm)以上であることが好ましく、1.0×10-4(S/cm)以上であることがより好ましく、1.4×10-4(S/cm)以上であることが更に好ましく、1.5×10-4(S/cm)以上であることが最も好ましい。このリチウムイオン伝導度は、元素A,元素Bの添加割合(Y,Z)や、焼成温度を調整することにより、適宜変更することができる。
【0018】
本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物は、活性化エネルギーEaが0.45(eV)より小さいことが好ましく、0.36(eV)より小さいことがより好ましく、0.32(eV)より小さいことが更に好ましい。活性化エネルギーEaが0.45(eV)より小さいと、リチウムイオンがより移動しやすく好ましい。この活性化エネルギーEaは、元素A,元素Bの添加割合(Y,Z)や、焼成温度を調整することにより、適宜変更することができる。
【0019】
本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物は、1100℃以下で焼成されていることが好ましく、1050℃以下で焼成されていることがより好ましく、1000℃以下で焼成されていることが更に好ましい。1100℃以下の焼成では、焼成エネルギーの低減をより図ることができる。ガーネット型構造を形成する観点から、ガーネット型イオン伝導性酸化物は、900℃以上で焼成されていることが好ましい。
【0020】
本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物は、リチウム二次電池に利用することができる。リチウムイオン伝導度がより高められているからである。このガーネット型イオン伝導性酸化物は、例えば、リチウム二次電池の固体電解質として利用するものとしてもよいし、リチウム二次電池のセパレータとして利用するものとしてもよい。こうしたリチウム二次電池は、リチウムを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、リチウムを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極との間に、本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物を介在させた構成とすることができる。正極に用いる正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-m)MnO2(0<m<1など、以下同じ)、Li(1-m)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-m)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-m)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。また、負極に用いる負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、リチウムチタン複合酸化物及び導電性ポリマーなどが挙げられるが、このうち炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。この炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であるため、好ましい。
【0021】
本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物の製造方法は、原料を混合する混合工程と、混合した原料を焼成する焼成工程と、を含む。この混合工程では、Liと、Laと、Zrと、Laと異なる元素でありアルカリ土類金属及びランタノイド元素のうち少なくとも1種以上の元素Aと、Zrと異なる元素であり酸素と6配位をとることが可能な遷移元素及び第12族〜第15族に属する典型元素のうち少なくとも1種以上の元素Bとを含む原料を混合する。このとき、原料配合時に、基本組成LiX(La3-YY3(Zr2-ZZ212で表される配合比で、Liと、Laと、Zrと、元素Aと、元素Bとを混合するものとしてもよい。元素Aは、Sr,Ba,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素としてもよく、このうちイオン半径の観点からSrがより好ましい。あるいは、Caがより好ましい。Caを含むものとするとリチウムイオン伝導度をより向上することができる。また、元素Bは、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素としてもよく、このうち、Nbがより好ましい。基本組成式において、Xは、(La3-YY)の平均価数をa、(Zr2-ZZ)の平均価数をbとしたとき、X=24−3×a−2×bを満たすものである。こうすれば、電荷のバランスをとりやすい。また、Yは、0<Y≦1.0を満たし、更にYは、0.15以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.40以上であることが更に好ましい。また、Yは、0.85以下であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましく、0.60以下であることが更に好ましい。こうすれば、リチウムイオン伝導度をより向上することができる。また、Zは、0<Z≦1.0を満たし、更にZは、0.15以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.40以上であることが更に好ましい。また、Zは、0.85以下であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましく、0.60以下であることが更に好ましい。こうすれば、リチウムイオン伝導度をより向上することができる。このY,Zは、Y=Zであるものとしてもよいし、YとZとが異なるものとしてもよく、Y<Zであることがより好ましい。Y<Zでは、リチウムイオン伝導度を更に向上することができるためである。このとき、元素AをSrとし、元素BをNbとすると、Y及びZは、イオン半径が12.96Åに近くなるような値とすることが好ましく、例えば、0.25≦Y≦0.35,0.40≦Z≦0.50などが挙げられる。
【0022】
焼成工程では、混合した原料を1100℃以下の焼成温度で焼成する。混合した原料は、成形したのち焼成するものとしてもよい。この焼成では、例えば、ホットプレス焼結など、加圧しながら焼成してもよい。焼成温度は、1050℃以下がより好ましく、1000℃以下が更に好ましい。焼成エネルギーをより低減することができるからである。また、混合工程で得られた原料は、焼成前に仮焼することが好ましい。仮焼温度は、本焼成における焼成温度よりも低い温度で行うことが好ましく、950℃以下が好ましく、900℃以下がより好ましい。ここでは、原料に元素Aが含まれるため、より低い焼成温度でガーネット型の結晶構造にすることができる。
【0023】
以上詳述したガーネット型イオン伝導性酸化物は、伝導度の低下をできるだけ抑えると共に、焼成エネルギーをより低減することができる。これは、構成元素数を増やすことにより融点が下がり、Zrのサイトに違うイオン半径を有する元素を置換することによりLiイオン周りの酸素イオンの原子座標が変化し、Liイオンの移動が容易になるためであると考えられる。
【0024】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0025】
以下では、ZrサイトをNbで置換すると共に、LaサイトをSrで置換した本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物を具体的に合成した例を、実験例として説明する。なお、Srの置換をせずNbのみ置換を行った例を参考例として説明する(表1参照)。
【0026】
[ガーネット型酸化物の作製]
ガーネット型酸化物LiX(La3-YSrY)(Zr2-ZNbZ)O12(6.85≦X≦7.5,0≦Y≦1,0≦Z≦1,Y=Z)を合成した。このガーネット型酸化物は、Li2CO3、La(OH)3、SrCO3、ZrO2およびNb25を出発原料に用いて合成を行った。ここで、実験例1〜7は、それぞれX=7.0,Y=Z=0,0.125,0.19,0.25,0.5,0.75,1とした(表2参照)。また、実験例8はX=7.5,Y=0.5,Z=0とした(表2参照)。はじめに、出発原料を化学量論比になるように秤量し、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間、混合・粉砕を行った。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離したのち、Al23製のるつぼ中にて、900℃、10時間、大気雰囲気で仮焼を行った。その後、本焼成でのLiの欠損を補う目的で、仮焼した粉末に、LiX(La3-YSrY)(Zr2-ZNbZ)O12の組成中のLi量に対してLi換算で10at%になるようにLi2CO3を過剰添加した。この混合粉末を、混合のためエタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間処理した。得られた粉末を再び900℃、10時間、大気雰囲気の条件下で再度仮焼した。その後、ペレット状に成形したのち、仮焼粉体をパウダーベッドとして入れたAl23製のるつぼ中にこの成形体を入れ、1050℃、36時間、大気中の条件下で本焼成を行い、試料(実験例1〜8)を作製した。
【0027】
また、上記基本組成式において、Y=Z=0.125,0.25,0.5,1とし、焼成温度を1100℃とした以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物をそれぞれ実験例9〜12とした。
【0028】
また、上記基本組成式において、Y=Z=0.125,0.75とし、焼成温度を1000℃とした以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物をそれぞれ実験例13,14とした。また、上記基本組成式において、Y=Z=0.5とし、パウダーベッドなしのAl23製のるつぼ中に成形体を入れ焼成温度を1000℃で焼成した以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物を実験例15とした。
【0029】
また、上記基本組成式において、X=7.2,Y=0.7,Z=0.5とし、焼成温度を1050℃とした以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物を実験例16とした。また、上記基本組成式において、X=6.85,Y=0.3,Z=0.45とし、焼成温度を1050℃とした以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物を実験例17とした。また、上記基本組成式において、X=6.85,Y=0.3,Z=0.45とし、焼成温度を1000℃とした以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物を実験例18とした。
【0030】
また、参考例としてガーネット型酸化物Li5+nLa3(Zrn,Nb2-n)O12(n=0〜2)を合成した。参考例1〜7のnの値は、それぞれn=0,1.0,1.5,1.625,1.75,1.875,2.0とした(表1参照)。参考例では、実験例における2回の仮焼を950℃、10時間、大気雰囲気で行い、成型したのち1200℃、36時間、大気雰囲気で本焼成を行った。
【0031】
【表1】

【0032】
[ガーネット酸化物の物性の測定及び結果]
各評価方法及び参考例の測定結果をまず説明する。
1.相対密度
電子天秤にて測定した乾燥重量をノギスを用いて測定した実寸から求めた体積で除算することにより、各試料の測定密度を算出した。また、理論密度を算出し、測定密度を理論密度で除算し100を乗算した値を相対密度(%)とした。参考例1〜7の相対密度は、88〜92%であった。
【0033】
2.相及び格子定数
各試料の相及び格子定数は、XRDの測定結果から求めた。XRDの測定は、XRD測定器(リガク製、RINT−TTR)を用いて、試料粉末をCuKα、2θ:10〜80°,0.02°step/1sec.の条件で測定した。結晶構造解析は、結晶構造解析用プログラム:Rietan−2000(Mater. Sci. Forum, p321−324(2000),198)を用いて解析を行った。格子定数は、CellCalc(日本結晶学会誌,Vol.45,No.2,145−147)を用いて算出した。参考例1〜7を測定したところ、各試料は不純物を含まず単相であった。図1は、参考例1〜7(4を除く)の格子定数のn値依存性を示すグラフである。図1に示すように、XRDパターンより求めた格子定数のn値依存性は、Zrの割合が増えるほど格子定数が連続的に増大した。これは、Zr4+のイオン半径(rZr4+=0.79Å)がNb5+のイオン半径(rNb5+=0.69Å)よりも大きいためである。また、格子定数が連続的に変化していることから、NbはZrサイトに置換されていると考えられた(全率固溶が可能と考えられる)。
【0034】
3.伝導度
伝導度は、恒温槽中にてACインピーダンスアナライザー(Agilent4294A)を用い、周波数40Hz〜110MHz、振幅電圧100mVの条件で、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から算出した。図2は、実験例5のナイキストプロットである。伝導度σ=1/RTotal,RTotal=Rb+Rgbの式から算出した。ACインピーダンスアナライザーで測定する際のブロッキング電極にはAu電極を用いた。Au電極は市販のAuペーストを850℃、30分の条件で焼き付けることで形成した。参考例1〜7の25℃での伝導度のn値依存性を図3に示す。図3から、伝導度は、nが1.4≦n<2のとき、公知のLi7La3Zr212(n=2、参考例7)に比べて高くなり、nが1.6≦n≦1.95のとき、参考例7に比べて一段と高くなり、nが1.65≦n≦1.9の範囲のとき、ほぼ極大値(6×10-4Scm-1以上)を取ることがわかった。各試料の相対密度は88〜92%であったことから、伝導度がn値に応じて変化するのは、密度による影響ではないと考えられた。
【0035】
ニオブを適量添加することで、伝導度が向上した理由については、以下のように考察された。ガーネット型イオン伝導性酸化物の結晶構造には、図4に示すように、リチウムイオンが酸素イオンと4配位してなる四面体のLiO4(I)と、リチウムイオンが酸素イオンと6配位してなる八面体のLiO6(II)と、ランタンイオンが酸素イオンと8配位してなる十二面体のLaO8と、ジルコニウムイオンが酸素イオンと6配位してなる八面体のZrO6とが含まれている。図5は、ガーネット型酸化物の結晶構造の説明図であり、(a)はこの結晶構造の全体像、(b)は図5(a)の結晶構造からLiO8を削除して八面体のLiO6(II)を露出させた様子を示す。ここで、6配位しているリチウムイオンは、6個の酸素イオンと、3個のランタンイオンと、2個のジルコニウムイオンに囲まれた位置にあり、恐らく、伝導性にはほとんど寄与していないと考えられる。一方、4配位しているリチウムイオンは、酸素イオンを頂点とする四面体を形成している。リートベルド(Rietveld)構造解析よりLiO4(I)四面体構造の変化を求めた。LiO4(I)四面体を形成する酸素イオン間距離は二つの長さがある。ここでは長尺の二辺をa、短尺の一辺をbとする。図4に示すように、長尺の辺aは、Nbの置換量によらずほとんど一定の値を示すのに対し、短尺の辺bは、Nbを適量置換することで長くなった。つまり、酸素イオンが形成する三角形はNbを適量置換することで、正三角形に近付きつつ面積は増大した。このことから、適量のNbをZrと置換すると、伝導するリチウムイオン周りの構造(酸素イオンが形成している四面体)が最適となり、リチウムイオンの移動を容易にする効果があると考えられた。なお、Zrと置換する元素は、Nb以外の元素、たとえばSc,Ti,V,Y,Hf,Taなどであっても、同様の構造変化が見込まれることから、同様の効果が得られるものと推察された。
【0036】
4.活性化エネルギー(Ea)
活性化エネルギー(Ea)はアレニウス(Arrhenius)の式:σ=Aexp(−Ea/kT)(σ:伝導度、A:頻度因子、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)を用い、アレニウスプロットの傾きより求めた。その結果、nが1.4≦n<2のとき、Li7La3Zr212(n=2、参考例7)より低い活性化エネルギーEa(0.34eV未満)を示し、広い温度域で伝導度が安定した値をとることがわかった。また、nが1.5≦n≦1.9のときには活性化エネルギーが0.32eV以下となり、特にnが1.75のときに極小値0.3eVとなった。0.3eVという値は既存のLiイオン伝導性酸化物中で最も低い値と同等である(オハラ電解質:0.3eV、LAGP:0.31eV)。
【0037】
5.化学的安定性
ガーネット型酸化物Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(n=1.75、参考例5)の室温大気中での化学的安定性を調べた。具体的には、大気中に放置したLi6.75La3Zr1.75Nb0.2512の伝導度の経時変化(0〜7日)の有無を確認することで行った。その結果、バルクの抵抗成分が大気中に放置していた時間によらず一定であった。このため、ガーネット型酸化物は室温大気中でも安定であった。
【0038】
6.電位窓
ガーネット型酸化物Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(n=1.75、参考例5)の電位窓を調べた。電位窓は、Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512のバルクペレットの片面に金を、もう片面にLiメタルを貼り付け、0〜5.5V(対Li+)および−0.5V〜9.5V(対Li+)の範囲で電位をスイープ(1mV/sec.)させることで調べた。その測定結果を図6に示す。電位を0〜5.5Vの範囲で走査しても、電流は全く流れなかった。即ち、Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512は0〜5.5Vの範囲で安定であった。走査する電位を−0.5〜9Vに広げると、0Vを境にして、酸化・還元電流が流れた。これはリチウムの酸化・還元に起因すると思われる。また、約7V以上でわずかに酸化電流が流れ始めた。しかし、流れる酸化電流量が非常に微弱であること、目視で色に変化が無いことなどから、流れる酸化電流は電解質の分解ではなく、セラミックス中に含まれている微量の不純物や粒界の分解が原因だと考えられた。このように、参考例では、焼成温度は1200℃と高いものの、化学的安定性が高く、リチウムイオン伝導性も高いことが示された。
【0039】
(実験例の結果と考察)
実験例1〜7のLiXLa3-YYZr2-ZZ12の25℃でのリチウムイオン伝導度を図7に示す(X=7,Y=Z=0〜1,A=Sr,B=Nb)。また、評価結果をまとめて表2に示す。図7に示すように、何も添加しない実験例1(Y=Z=0)では、リチウムイオン伝導度σが1×10-6S/cmと極めて低いのに対し、SrとNbとを添加し1050℃で低温焼成をした実験例2〜7は、高いリチウムイオン伝導率を保つことがわかった。添加量(Y,Z)を増減させるとリチウムイオン伝導度も変化し、0.1≦Y≦1,0.1≦Z≦1の範囲で、実験例1と同等又は同等以上のリチウムイオン伝導度を示した。
【0040】
【表2】

【0041】
図8は、実験例1〜7のSr,Nb添加量(Y,Z)に対する相対密度(%)の関係を示すグラフである。図9は、実験例1,5,8の焼成温度(℃)に対する相対密度(%)の関係を示すグラフである。SrとNbとを添加した際の相対密度は、添加量(Y,Z)によらず90%前後の値を示し、低温で緻密体ができていることが分かった。何も添加しない実験例1(Y=Z=0)は57%と焼成前のペレットの密度と同程度の値を示し、緻密体にはならなかった。また、SrとNbとを添加したLi7(La3-YY)(Zr2-ZZ)O12(0<Y=Z<1)と同程度のリチウムイオン伝導率を有する参考例1〜7のガーネット型酸化物Li5+nLa3(Zrn,Nb2-n)O12(n=0〜2)の大気中での焼結温度と相対密度と比べても、実験例2〜7では、低温で緻密体が焼結可能であった(図8)。補足実験として、Nbを含まずSrのみを添加した実験例8(Li7.5(La2.5Sr0.5)Zr212)の組成をもつガーネット型酸化物を1050℃で焼成させたところ、相対密度85%、リチウムイオン伝導度7×10-6S/cmであった。このことから、Srが低温での焼結を促し、Nbが伝導率を向上させていると予想された。Nbの伝導率向上の効果については、参考例1〜7のガーネット型酸化物Li5+nLa3(Zrn,Nb2-n)O12(n=0〜2)に示すように、LiとOの構造が最適になり特性が向上したと考えられ、他の元素でも同様の効果は期待できる。たとえば、イオン半径がNbと同値で、周期表で同族である元素(Taなど)でも同じことが期待できる。Srのみの実験例8(Li7.5(La2.5Sr0.5)Zr212)は結晶構造が崩れ、Cubic型とTetragonal型との混相になってしまっていることが、図10に示すX線回折の結果から分かった。図10は、実験例8のX線回折測定結果及び結晶相の参考データである。なお、Tetragonalの回折ピークは文献(Journal of Solid State Chemistry,182,2046−2052,2009)を参考にシュミレーションした。SrとNbとの両方を添加した実験例5では、X線回折ピークはCubic型を示した(図11)。このように、Srの添加により、ガーネット型酸化物は、構造的に安定になるものと推察された。
【0042】
図12は、Y=Z=0.5とした実験例5の伝導度の温度依存性(アレニウスプロット)を示すグラフである。図13は、Liイオン伝導性酸化物の中でも特に高い伝導度を示す、ガラスセラミックスLi1.4Ti2Si0.42.612・AlPO4(オハラ電解質)、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43(LAGP)と、電解液の伝導度の温度依存性(いずれも文献値)を併せたアレニウスプロットである。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で3:4:3で混合した電解液に支持塩としてのLiPF6を1.0M溶解した溶液を用いた。実験例5のアレニウスプロットより求めた活性化エネルギーEaは、0.41eV(25℃)であり、既存のLiイオン伝導性酸化物であるオハラ電解質(0.3eVや、LAGP(0.31eV)などに近い値を示した。
【0043】
図14は、実験例1〜7のSr,Nb添加量(Y,Z)に対する格子定数(Å)の関係を示すグラフである。図14に示すように、格子定数は、添加量(Y,Z)の増加に伴って小さくなった。また、図15は、格子定数(Å)に対するLiイオン伝導度σ(S/cm)の関係を示すグラフである。図15に示すように、格子定数に対してLiイオン伝導度をプロットすると、格子定数が、好ましくは12.92〜12.99Åの範囲、より好ましくは12.94〜12.98Åの範囲、更に好ましくは12.95〜12.96Åの範囲であるときに、高いリチウムイオン伝導度を示す傾向があった。ここで、La3+、Sr2+、Zr4+、Nb5+のイオン半径はそれぞれ1.18、1.21、0.79、0.69Åである。平均のイオン半径は、LaサイトをSrで置換すると小さくなり、ZrサイトをNbで置換すると大きくなる。添加量(Y,Z)におけるイオン半径の変化量をイオン半径差(Å)={1.18×(3−Y)+1.21×Y}/3−1.18+{0.79×(2−Z)+0.69×Z }/2−0.79とする。図16は、イオン半径差(Å)に対する格子定数(Å)の関係を示すグラフである。図16に示す通り、イオン半径差に対して格子定数をプロットすると平均イオン半径が小さくなるに従って格子定数も小さくなり、焼成温度によってその傾きに変化がみられた。このイオン半径差を利用してSrやNbの添加量を調整することで、目標とする格子定数をもち高いイオン伝導率の酸化物の組成を決定できる可能性がある。
【0044】
そこで、基本組成LiXLa3-YYZr2-ZZ12(A=Sr,B=Nb)において、YとZとが異なる試料について検討した(実験例16〜18)。Y=Zでの1050℃焼成の格子定数が12.96Åに近く、イオン半径差が−0.02Åの近傍となる組成として実験例16〜18を作成した。実験例16では、Y=0.7,Z=0.5,イオン半径差=−0.018Åであり、実験例17では、Y=0.3,Z=0.45,イオン半径差=−0.0195Åである。実験例16〜18では、表2及び図15に示すように、Sr添加比率の多いY>Zの実験例16の場合、格子定数が12.96Åに近いにもかかわらず、伝導度が比較的低かった(約1×10-5S/cm)。これに対して、Sr添加比率の少ないY<Zの実験例17では、高い伝導度(約2×10-4S/cm)を示した。このように、Y<Zの方がより好ましいことがわかった。
【0045】
また、表2や図15に示すように、焼成温度は、1100℃,1050℃,あるいは1000℃など、焼成温度をより低下しても、相対密度が80%を超え、伝導度の若干の低下はあるものの、焼結することができることがわかった。また、実験例18(Y=0.3,Z=0.45)では、1000℃焼成において、特に高い伝導度を示すことがわかった。実験例1〜14,16〜18では、パウダーベッドを用いて焼成を行ったが、実験例14の焼成後のパウダーベッドとペレットのX線回折測定結果を図17に示す。図17に示すように、パウダーベッドとペレットとは、ほぼ同じ回折ピークを有しており、Li抜けがみられなかった。また、実験例15(Y=Z=0.5)では、パウダーベッドなしで、るつぼにそのままペレットを入れて焼成したが、ペレットは通常通りに焼結した。この実験例15において、るつぼに接触していた側の底面と、大気側の上面についてX線回折測定を行った結果を図18に示す。図18に示すように、1000℃でパウダーベッドなしでペレットを焼成しても、単一相に焼結させることができることがわかった。このように、SrやNbの添加量を調整することにより、1000℃以下で焼成することが可能であり、焼成を行う電気炉も安価なものが利用可能になることがわかった。また、パウダーベッドなしでの焼成が可能であるため、仮焼粉体の無駄がなくなり、生産効率の向上をより図ることができる(歩留まりがよくなる)ことがわかった。
【0046】
以上の実験結果より、Li,La,Zrを含むガーネット型イオン伝導性酸化物に、Sr及びNbを添加すると、化学的安定性に優れ、高いリチウムイオン伝導度を示し、且つ焼成エネルギーをより低減することができることが明らかとなった。また、原料の比率において、基本組成LiX(La3-YY3(Zr2-ZZ212で表され、6.85≦X≦7.5,0<Y≦1.0,0<Z≦1.0を満たすことが好ましく、0.2≦Y≦0.85,0.2≦Z≦0.85を満たすことが更に好ましいことがわかった。また、焼成温度は、900℃以上1100℃以下とすることができ、1050℃以下や、1000℃であっても、緻密な構造を有するガーネット型酸化物を作製することができることがわかった。
【0047】
次に、ZrサイトをNbで置換すると共に、LaサイトをCaで置換した本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物を具体的に合成した例を、実験例として説明する。
【0048】
[ガーネット型酸化物の作製]
ガーネット型酸化物LiX(La3-Y'CaY')(Zr2-Z'NbZ')O12(6.85≦X≦7.5,0≦Y’≦1,0≦Z’≦1,Y’=Z’)を合成した。このガーネット型酸化物は、Li2CO3、La(OH)3、CaCO3、ZrO2およびNb25を出発原料に用いて合成を行った。ここで、実験例19〜22は、それぞれX=7.0,Y’=Z’=0.125,0.25,0.5,0.75とした(表3参照)。はじめに、出発原料を化学量論比になるように秤量し、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間、混合・粉砕を行った。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離したのち、Al23製のるつぼ中にて、900℃、10時間、大気雰囲気で仮焼を行った。その後、本焼成でのLiの欠損を補う目的で、仮焼した粉末に、LiX(La3-Y'CaY')(Zr2-Z'NbZ')O12の組成中のLi量に対してLi換算で10at%になるようにLi2CO3を過剰添加した。この混合粉末を、混合のためエタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間処理した。得られた粉末を再び900℃、10時間、大気雰囲気の条件下で再度仮焼した。その後、ペレット状に成形したのち、仮焼粉体をパウダーベッドとして入れたAl23製のるつぼ中にこの成形体を入れ、1050℃、36時間、大気中の条件下で本焼成を行い、試料(実験例19〜22)を作製した。
【0049】
また、焼成温度を1000℃とした以外は、実験例19〜22と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物をそれぞれ実験例23〜26とした。
【0050】
[ガーネット酸化物の物性の測定及び結果]
得られた実験例19〜26に対して、上述した活性化エネルギー(Ea)、イオン伝導度、相対密度及び格子定数について検討した。測定結果をまとめて表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
図19は、1050℃で本焼成した実験例19〜22のCa,Nb添加量(Y,Z)に対する格子定数の関係を示すグラフである。図19に示すように、格子定数は、添加量(Y’,Z’)の増加に伴って小さくなった。ここで、Ca2+のイオン半径は1.03Åであることから、上述したSrの場合と同様に、イオン半径差について検討した。図20は、Ca,Nbを添加した試料におけるイオン半径差に対する格子定数の関係を示すグラフである。基本組成式LiXLa3-Y'CaY'Zr2-Z'NbZ'12の添加量(Y’,Z’)におけるイオン半径の変化量をイオン半径差(Å)={1.18×(3−Y)+1.03×Y’}/3−1.18+{0.79×(2−Z’)+0.69×Z’ }/2−0.79として求めた。図20に示す通り、イオン半径差に対して格子定数をプロットすると平均イオン半径が小さくなるに従って格子定数も小さくなった。したがって、Caを用いた場合も、Srと同様に、このイオン半径差を利用してCaやNbの添加量を調整することで、目標とする格子定数をもち高いイオン伝導率の酸化物の組成を決定できる可能性がある。次に、リチウムイオン伝導度と格子定数の関係を検討した。図21は、1050℃で本焼成した実験例19〜22の格子定数(Å)に対するLiイオン伝導度σ(S/cm)の関係を示すグラフである。図21に示すように、格子定数に対してLiイオン伝導度をプロットすると、Caを添加した場合においても、Srを添加した場合と同様に、格子定数が、好ましくは12.92〜12.99Åの範囲、より好ましくは12.94〜12.98Åの範囲、更に好ましくは12.95〜12.96Åの範囲であるときに、高いリチウムイオン伝導度を示す傾向があった。特に、Srを添加した実験例のリチウムイオン伝導度の最高値は1.5×10-4(S/cm)であるのに対し、Caを添加した実験例のリチウムイオン伝導度の最高値は4.3×10-4(S/cm)であり、2倍以上の値を示した。
【0053】
図22は、実験例20,24のX線回折測定結果及び高温焼成時のLiXLa3Zr212の結晶相(参考データ)である。図22に示すように、CaとNbとの両方を添加した実験例20,24では、X線回折ピークはCubic型を示した。上述したSrの添加と同様に、Caの添加によりガーネット型酸化物は構造的に安定になるものと推察された。また、図23は、Sr及びCaの添加効果の比較結果である。図23に示すように、基本組成式LiXLa3-YYZr2-ZZ12の添加量(Y,Z)、A(Sr,Ca)の比較結果より、Sr及びCaの添加により、得られるガーネット型イオン伝導性酸化物の大まかな傾向は変わらないことがわかった。また、Sr,Ca及びNbの添加によって、より低い焼成温度で高密度化を図り且つリチウムイオン伝導度をより向上させることができることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liと、Laと、Zrとを含み、Laと異なる元素でありアルカリ土類金属及びランタノイド元素のうち少なくとも1種以上の元素Aと、Zrと異なる元素であり酸素と6配位をとることが可能な遷移元素及び第12族〜第15族に属する典型元素のうち少なくとも1種以上の元素Bとを含む、ガーネット型イオン伝導性酸化物。
【請求項2】
基本組成LiXLa3-YYZr2-ZZ12(式中、元素Aは、Sr,Ba,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、元素Bは、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、Xは、(La3-YY)の平均価数をa、(Zr2-ZZ)の平均価数をbとしたとき、X=24−3×a−2×bを満たし、且つ0<Y≦1.0,0<Z≦1.0を満たす)で表される、請求項1に記載のガーネット型イオン伝導性酸化物。
【請求項3】
リチウムイオン伝導度(25℃)が1.5×10-4(S/cm)以上であり、
活性化エネルギーEaが0.45(eV)より小さい、請求項1又は2に記載のガーネット型イオン伝導性酸化物。
【請求項4】
1100℃以下で焼成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガーネット型イオン伝導性酸化物。
【請求項5】
格子定数が12.92Å以上12.99Å以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガーネット型イオン伝導性酸化物。
【請求項6】
Liと、Laと、Zrと、Laと異なる元素でありアルカリ土類金属及びランタノイド元素のうち少なくとも1種以上の元素Aと、Zrと異なる元素であり酸素と6配位をとることが可能な遷移元素及び第12族〜第15族に属する典型元素のうち少なくとも1種以上の元素Bとを含む原料を混合する混合工程と、
前記混合した原料を1100℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程と、
を含むガーネット型イオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程では、基本組成LiXLa3-YYZr2-ZZ12(式中、元素Aは、Sr,Ba,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、元素Bは、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、Xは、(La3-YY)の平均価数をa、(Zr2-ZZ)の平均価数をbとしたとき、X=24−3×a−2×bを満たし、且つ0<Y≦1.0,0<Z≦1.0を満たす)となるよう前記原料を混合する、請求項6に記載のガーネット型イオン伝導性酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−32259(P2013−32259A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−269244(P2011−269244)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】