説明

キクラゲ類に属するきのこの瓶容器栽培方法

【課題】瓶容器を使用して仕込み、発生操作時の大幅な省力化を計って安定かつ効率的に高収量のきのこを収穫できる、キクラゲ類に属するきのこの栽培方法を提供する。
【解決手段】栽培瓶を使用したキクラゲ類に属するきのこの栽培において、菌床表面の含水率を60%以上に保持した状態で、菌糸蔓延完了前の培養段階において10Lx以上の光照射を行って意図的に原基の形成を行うことによりきのこを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキクラゲ類に属するきのこの瓶容器栽培方法に関し、詳しくは、従来の袋容器による発生方法と比較して省力かつ効率的に高収量を得ることを可能とし、他のきのこ類と同様に施設空調型の周年栽培を可能にする栽培法に関する。
【背景技術】
【0002】
キクラゲ類に属するきのこの菌床栽培においては、耐熱性のポリプロピレン製などの袋容器を使用した栽培方法が採用されている。袋容器による栽培方法においては、発生操作の方法として菌糸蔓延後の菌床袋上部を切り開く方法(非特許文献1)、又は菌床の側面や底部に長短の切れ込みを入れてきのこを発生させる方法(非特許文献2、非特許文献3)が知られているのみで、瓶容器での栽培方法はこれまで知られていない。
【0003】
しかしながら、袋容器による栽培においては、袋口の切除や個々の菌床の側面や底部に切れ込みを手作業で行わなければならないことから、多大な労力を要するばかりでなく、培地の仕込みにおいても培地充填や接種作業など機械化に限界があるため、作業効率が極めて悪いという欠点を有している。
【0004】
瓶容器でのきのこ類の栽培方法はエノキタケやブナシメジ、さらにはナメコなどで広く採用されているが、キクラゲ類に属するきのこの栽培にはこれまで採用された経緯が全くなかった。そこで、本発明者等は、アラゲキクラゲを使用した瓶容器による従来の栽培方法に準じた形で栽培を試みたが、ナメコ用のポリプロピレン製800ml広口栽培瓶(口径62mm)を使用してキャップと培地表面を密着させた場合にはキャップの除蓋の際に菌床表面が剥離してしまい上手くきのこを発生させることが出来なかった。また、ブナシメジ用のポリプロピレン製850mlブロー瓶(口径58mm)を使用してキャップに種菌接種後の培地が接触しないよう培地充填時に培地表面の高さを調整し、種菌接種後の培地表面とキャップとに間隙が出来るように調整して栽培を試みたが、培養の段階で菌床表面が乾燥してしまい、安定的にきのこを発生させることはできなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】キノコの辞典;中村克哉編;朝倉書店;429−430頁
【非特許文献2】図解よくわかるきのこ栽培;日本きのこセンター編;家の光協会;91−95頁、
【非特許文献3】2010年度版きのこ年鑑別冊最新きのこ栽培技術;プランツワールド;212−216頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、瓶容器を使用して仕込み、発生操作時の大幅な省力化を計って安定かつ効率的に高収量のきのこを収穫できる、キクラゲ類に属するきのこの栽培方法を提供することにある。
【0007】
本発明者等は、キクラゲ類に属するきのこの栽培において、前述の問題点を解決すべく、瓶容器を使用した栽培方法について鋭意検討した結果、菌糸蔓延前の段階で菌床表面の含水率を60%以上に保持し、培養基に均一となるように10Lx以上の光照射を行いながら培養するならば、菌床表面に原基の形成を促進させることによって安定的に高収量が得られることを見出し、本発明を完成した。因みに、きのこの瓶容器を使用した施設空調
型栽培において、培養途中で原基形成を目的とした光照射を行い意図的に原基を形成させることは、その後の発生管理で収量やきのこの形状に悪影響を与えることから、忌避すべき管理とされており、通常は全く行われることのない管理方法である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、栽培瓶を使用したキクラゲ類に属するきのこの栽培において、菌床表面の含水率を60%以上に保持した状態で、菌糸蔓延完了前の培養段階において10Lx以上の光照射を行って意図的に原基の形成を行うことによりきのこを発生させることを特徴とするキクラゲ類に属するきのこの瓶容器栽培方法に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るキクラゲ類に属するきのこの瓶容器栽培方法によれば、省力的、かつ短期間に安定して効率的にキクラゲ類に属するきのこを高収率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をアラゲキクラゲ栽培の場合を例にして詳細に説明する。
【0011】
本発明において、瓶容器を使用したアラゲキクラゲの培地調整は、常法に従って実施することができる。具体的には、オガコに米ヌカ、フスマ、オカラ等の穀類ヌカの栄養源を混合し、更に水を加えて60〜63%の含水率となるように調整した培養基を調製し、瓶容器に充填する。瓶容器への培地充填においては、施蓋後の培地表面に空隙ができるように充填の高さを調整する。そして、所定の殺菌、放冷を行った後、アラゲキクラゲの種菌を接種する。
【0012】
本発明においては、培養管理の際、菌床表面の含水率を60%以上に保持した状態で、菌糸蔓延完了前の培養段階において10Lx以上の光照射を行って意図的に原基の形成を行うことが重要である。菌床表面の含水率は好ましくは65%以上である。また、培養管理においては、前期培養と後期培養とに分けて培養条件を変更することができ、意図的原基形成に先立ち、前期培養管理を行ってもよい。
【0013】
前期培養においては、管理室温度23℃前後、管理室湿度60〜70%の培養環境下で5〜30日間、好ましくは10〜15日間培養する。その後の後期培養においては、同温度帯で管理室湿度を70%以上、好ましくは75〜85%、管理室照度10〜3,000Lx、好ましくは50〜200Lxの連続照射または昼間のみの連続または断続照射環境下で瓶容器表面に均一に光が照射されるように配置して10日間以上、好ましくは15〜20日間培養を継続して菌糸を蔓延させる。なお、通常の瓶栽培管理においては、菌糸蔓延完了前の培養段階において、環境湿度70%以上で10〜3,000Lxの照度環境を同時に維持した状態で培養管理されることはない。
【0014】
上記のようにして種菌接種後20〜60日間、好ましくは30〜40日間の所定日数を培養し、発生操作以前に原基が形成されていることを確認した後、瓶容器の蓋を取り除いて発生処理を実施する。発生管理は、管理室温度12〜26℃、好ましくは18〜20℃、管理室湿度70〜100%、好ましくは90〜98%、管理室炭酸ガス濃度600〜3,000ppm、好ましくは800〜1,000ppm、管理室照度50〜1,000Lx、好ましくは100〜500Lxの生育環境条件下で実施することができる。
【0015】
発生操作の翌日から原基の肥大開始が認められ、20日目頃から収穫が可能となり、発生きのこの全体の8割が傘直径5cm以上の大きさとなった時点で、一括で根元から株ごと収穫することができる。通常、収穫ピークまでの期間は発生操作後から25日程度で、1瓶当りの収量は140〜180g(生重量)である。
【0016】
なお、2番発生に関しては、アラゲキクラゲは生育適温が20〜25℃と高温域であることから、袋栽培で採用されている収穫期間の長い栽培方式の場合には、害菌や害虫などの発生による連作障害が問題となることが判明している。よって、瓶栽培を前提とした施設空調型の栽培方式においては長期にわたる収穫管理は適していないため、当該発明においては1番発生のみの収穫で生育管理を終了することとし、年間の回転率を高めることによって増収を図る栽培方式とした。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0018】
実施例1:
広葉樹オガコに栄養源として培養基総重量当たり10重量%となるようにフレッシュフスマとネオビタスNを重量比で8:2の割合(1瓶当たりフレッシュフスマ:44g、ネオビタスN:11gの合計55g)で混合した後、更に水を加えて63%の含水率となるように調整した培養基を、850mlのブナシメジ用ポリプロピレン製ブロー瓶(口径58mm)に正味重量が570gとなるように充填した。
【0019】
瓶に充填した培養基は一般的な充填の高さとなる瓶口の上部より10mm程度の空間ができるように填圧した後、中央部に直径が約15mmの底部にまで到達する接種孔を設け、ウレタンフィルター付きのブナシメジ栽培用のキャップを施蓋した。その後、常法に従って高圧殺菌釜中で所定の殺菌処理を行い、殺菌終了後に培地の冷却処理を行った。冷却は、放冷時における戻り空気による再汚染を防止するため、クリーンルーム内で実施した。
【0020】
その後、同クリーンルーム内で無菌的にアラゲキクラゲ種菌を接種し、接種した種菌がキャップに接触しない程度の空間を確保した状態で培養を開始した。前期培養の管理は、温度は23℃の一定温度で、湿度は60〜70%、照度は点検時の点灯(500Lx程度)以外は暗黒状態を維持するように14日間実施した。
【0021】
14日間の前期培養の後、温度環境が同一で湿度80%前後、照度が500Lx程度の後期培養室に移動して16日間の点灯培養管理を継続した。この場合、菌床表面の含水率は66.3%であった。後期培養の照明管理においては、昼間のみの点灯とし、個々の瓶に均一に光が照射されるように配置した。なお、菌床表面の含水率は赤外線水分計にて測定した。
【0022】
総培養日数が30日となった時点で、キャップを取り外して発生操作を行った。その際、全ての菌床表面には既に原基が形成された状態であったが、菌掻き操作は行わずにそのまま発生室へ移動し、発生管理を行った。生育条件は環境温度18〜20℃、炭酸ガス濃度が800〜2,000ppm、昼間の時間帯のみ500Lx程度の光を照射して、環境湿度70〜98%の範囲で管理した。発生結果は、表1に示すとおり、収穫ピーク日数25日で、1瓶当たり150g以上の安定した収量を確保することができた。なお、表1中の( )内の数字は標準偏差を表す(以下、同じ)。
【0023】
比較例1:
実施例1において、後期培養の湿度管理を高湿度環境に設定せずにそのまま通常の湿度管理設定(60〜70%)とした培養管理を維持した以外は、実施例1と同様の管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。この場合、菌床表面の含水率は58.5%であった。発生結果は、表1に示したように、原基形成のための点灯管理を行ったにも係わらず、菌床表
面が乾燥いてしまって良好な発生結果を得ることはできなかった。
【0024】
比較例2:
実施例1において、後期培養の照度管理を点検時のみの照明(1日2回の点灯で500Lx程度の照明)として極力暗黒状態を維持するように変更した以外は、実施例1と同様の管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。発生結果は、表1に示したように、比較例1に比べて菌床表面の乾燥は生じなかったものの、培養中に原基形成が認められなかったことから、収穫までに時間を要し、しかも収量的にも少ない発生結果となった。
【0025】
表1の結果から明らかなように、培養開始14日目に菌床表面が乾燥しないように室内湿度80%前後の高湿度環境下で、室内照度500Lx前後の明培養の環境下に移動し、意図的な原基の形成促進管理を行った場合において最も良好な発生結果が得られた。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例2:
実施例1において、ブナシメジ用のブロー瓶に替えてナメコ栽培で使用されている800mlの広口瓶(口径62mm)を使用し、培地充填時の培地の高さを瓶口上部から2mm程度の空間ができるように填圧して種菌の接種後にキャップ底部が種菌部分に密着するように変更した以外は、実施例1と同様の管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。発生結果は、表2に示すとおり、種菌接種後の菌床表面とキャップとの間に空隙がない状態であっても実施例1と同様に1瓶当たり150g以上の良好な発生結果を得ることができた。
【0028】
実施例3:
実施例2において、後期培養の湿度管理を室内湿度80%の高湿度環境に設定せずにそのまま通常の湿度管理設定(60〜70%)とした培養管理を維持した以外は、実施例2と同様の管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。この場合、菌床表面の含水率は65.6%であった。発生結果は、表2に示したように、比較例1の場合と異なりキャップの底部を菌床面に密着させたことで低い湿度環境下であっても菌床表面の乾燥症状は認められず、点灯管理による原基形成が確認されて良好な発生結果を得ることができた。
【0029】
比較例3:
実施例3において、後期培養の照度管理を点検時のみの照明(1日2回の点灯で500Lx程度の照明)として極力暗黒状態を維持するように変更した以外は、実施例2と同様の管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。発生結果は、表2に示したように、実施例3に比べて後期培養による点灯管理が行われなかったことで、菌床表面での原基形成が確認されない状態であった。その結果、発生操作時の除蓋の際に菌床表面が剥離してしまい、剥離した部分からはきのこの発生がまったく認められず、瓶口周辺部からのみ散状に発生する状況で、収穫までに時間を要し、しかも収量的にも少ない発生結果となった。
【0030】
表2の結果から明らかなように、種菌の接種後にキャップ底部が種菌部分に密着するよ
うに培地の充填の高さを調整することで、菌床表面の乾燥が抑制されて通常の湿度管理設定(60〜70%)でも良好な発生となることが判明した。しかし、同様の管理であっても後期培養における点灯管理を行わない場合(比較例3)には、発生操作時に菌床表面が剥離してしまい、剥離部分からは全くきのこが発生しない結果となった。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例4〜6:
実施例1と同様の管理において、点灯日数を30日間(実施例4)、23日間(実施例5)、9日間(実施例6)のそれぞれ3水準の試験区に変更した以外は、実施例1と同様の管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。この場合、念のため、菌床表面の含水率を測定した。
【0033】
表3の結果から明らかなように、点灯日数が短くなるにつれて収量の低下する傾向が見られたが、実施例1の16日間以上の点灯管理を行っても特に収量が増加する傾向は認められなかった。なお、菌床表面の含水率について調査した結果、すべての試験区において60%以上を維持していることが確認できた。
【0034】
【表3】

【0035】
実施例7、比較例4及び5:
実施例1において、培養室の環境湿度設定を培養開始直後から、80%湿度区(実施例7)、65%湿度区(比較例4)、50%湿度区(比較例5)のそれぞれ3水準の異なる室内湿度の試験区に変更した以外は、実施例1と同様の管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。
【0036】
表4の結果から明らかなように、室内湿度と菌床表面含水率との間には相関関係が認められ、室内湿度を高く維持することで菌床表面の含水率を原基形成に必要な60%以上に維持することができた。表4の結果から菌床表面含水率が60%未満でもある程度の原基形成は可能であるが、良好な発生結果を得るためには菌床表面含水率を60%以上に維持する必要のあることが判明した。
【0037】
【表4】

【0038】
実施例8〜11:
実施例1と同様の管理において、点灯管理を開始する16日目以降の室内照度を、3,000Lx照度区(実施例8)、1,000Lx照度区(実施例9)、100Lx照度区(実施例10)、10Lx照度区(実施例11)のそれぞれ4水準の異なる照度の試験区に変更した以外は、実施例1と同様の管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。この場合、念のため、菌床表面の含水率を測定した。
【0039】
表5の結果から明らかなように、100Lx以上の照度区において良好な結果が得られているが、照度に比例して収量が増加する傾向は認められず、10〜500Lxの明るさで十分であることが判明した。
【0040】
【表5】

【0041】
上記の実施例1〜11及び比較例1〜5の結果から明らかなとおり、本発明に従い、キクラゲ類に属するきのこの瓶容器栽培において、菌糸蔓延前の菌床に、菌床表面の含水率を60%以上に保持した状態で10Lx以上の照射を行って意図的に培養段階で原基の形成を行うことにより、効率良く安定的にきのこを収穫することが出来る。また、本発明に従い、1番発生のみで収穫を終了して年間の栽培回数を多くすることで生育室での累積汚染を防止することにより、他のきのこ類と同様に施設空調型の周年栽培が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培瓶を使用したキクラゲ類に属するきのこの栽培において、菌床表面の含水率を60%以上に保持した状態で、菌糸蔓延完了前の培養段階において10Lx以上の光照射を行って意図的に原基の形成を行うことによりきのこを発生させることを特徴とするキクラゲ類に属するきのこの瓶容器栽培方法。

【公開番号】特開2013−48616(P2013−48616A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246375(P2011−246375)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(591225039)株式会社キノックス (5)
【Fターム(参考)】