説明

キサンタンガムを含む再上皮化医薬組成物

【課題】再上皮化、特に角膜組織の再上皮化を促進することができる医薬組成物の提供。
【解決手段】上皮細胞増殖の有効成分としてのキサンタンガムの使用、およびこれと薬理学上許容される添加剤からなる予め形成されたゲルの形態における眼科再上皮化医薬組成物。また、最終的にヒアルロン酸と混合される再上皮化有効成分としてキサンタンガムを含む医薬処方に関する。該使用および組成物は、新生される上皮の形成を有利に促進および改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に眼病に使用するための、再上皮化医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮細胞、例えば、角膜の上皮細胞が、擦傷、切傷および創傷(偶発性、手術性、免疫学性など)などの異物および感染後潰瘍によって引き起こされる傷害を被ることがあることは、よく知られている。この種の傷害は一般に、長期の創傷治癒期間を必要とし;ひどい不快感を引き起こし、しばしば、不完全な創傷閉鎖をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、再上皮化、特に角膜組織の再上皮化を促進することができ、また、よく許容される医薬組成物である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
該目的は、添付の特許請求の範囲において詳述するように、上皮創傷の治療のための医薬の製造にキサンタンガムを用いること、ならびにキサンタンガムを含有する医薬組成物を用いて達成される。
本発明の局所的医薬組成物の他の特徴および利益は、下記の医薬組成物の処方のいくつかの好ましい具体例(説明の目的で記載されるものであり、制限するものとして解釈されるべきではない)から明らかになるであろう。
驚くべき実験的知見は、キサンタンガムが高い再上皮化機能を示すという観察であり、換言すれば、本明細書に下記するイン・ビボ実験においても示されるように、それが、上皮の損傷領域のレベルで新しい上皮細胞の形成を促進することができるということであった。
【発明を実施するための形態】
【0005】
キサンタンガムは、分子量3〜7.5x10Daを有するヘテロ多糖であり、Xanthomonas campestris細菌による発酵過程によって産生される。
キサンタンの主要構造は分枝鎖であり、セルロースと同じβ(1→4)−D−グルコースの主鎖を有し、ここに、アセチル化マンノース、グルクロン酸およびマンノースから構成されるグルコシド結合β(1→3)を有する三糖類鎖が一つおきに2番目の残基に結合し;最終的に、マンノースの末端単位の各炭素C4およびC6に、ピルビン酸分子が25−50%の可変割合で結合し、該ポリマーの側鎖の構造を完成している。
【0006】
入手可能なデータは、該ポリマーの側鎖が、そこに存在するグルコシド結合を保護する主鎖と(非共有型の相互作用で)協調する傾向にある一本鎖へリックスコンホメーション(二本鎖または三本鎖へリックス構造を除外することはできないが)を示唆する。その結果が、強酸および強塩基、高温、冷蔵および解凍サイクル、酵素的攻撃、長期の混合、剪断による分解、イオン強度およびpHの変化に対する優れた保護と共に、該分子に高い安定性を与える堅い棒状構造なのである。
【0007】
結果として、記載の構造特性のため、予め形成されたゲル形態におけるキサンタンガムは、機械的保護の重要な機能を十分に発揮することができる。
さらに、多くの実験後、驚くべきことに、予め形成されるゲルとしての調製における再上皮化組成物の有効成分として、キサンタンガムとヒアルロン酸の混合物が損傷した上皮の再上皮化の速度増加を引き起こし、さらに、優れた質の細胞層の形成をもたらす新たに形成した上皮の再組織化を促進することが観察された。
特に、走査電子顕微鏡下で行われた創傷治癒研究は、下記に詳細に説明するように、本発明の再上皮化医薬組成物を用いる処理後に驚くべき程度の上皮組織化を明らかにした。
【0008】
ヒアルロン酸は、細胞増殖に有利に働くだけでなく、薄層(lamina)およびフィブロネクチンの産生を刺激する上皮の基底層を安定化することがよく知られている。
いずれの事象においても、キサンタンガムおよびヒアルロン酸が再上皮化剤としてのそれらの能力において混合物として使用される場合、それらは驚くべき相乗効果を有する。
【0009】
ヒアルロン酸は、ポリアニオン性、高保水性、粘性、生体接着性および偽塑性であって、チキソトロピーを示さない高分子多糖類である。その主要構造は、β(1→4)二糖類ブロックからなり、各ブロックは、β(1→3)結合によって一緒に連結されたD−グルクロン酸およびN−アセチル−D−グルコサミンから構成される。
前記した観察を考慮すると、本発明のさらなる具体例は、本質的に、最終的にはヒアルロン酸と混合されることとなる有効成分としてのキサンタンガムおよび薬理学上許容される添加剤からなる予め形成されたゲル形態における局所的再上皮化医薬組成物を提供することである。
【0010】
予め形成されたゲルの全量に対するキサンタンガムの割合は、好ましくは、0.7%〜5%、より好ましくは、0.8%〜3%、さらにより好ましくは0.9%〜1.5%である。
賦形剤は、等張剤、バッファー、溶媒またはビヒクル、抗酸化剤、pH調整剤等から選択される。
特に、本発明の組成物の可能な等張剤は、イオン性、例えば、NaCl、KCl、または非イオン性、例えば、グリセロール、マンニトール、またはその混合物であってもよい。
【0011】
可能なバッファーは、例えば眼病用処方において一般的に使用されるものであればよく、例えば、リン酸バッファーまたはホウ酸バッファー、これらのバッファーの混合物、例えば、クエン酸/リン酸バッファー、または眼病の分野で頻繁に使用されていないバッファー、例えば、トリスHClであってもよく、またはヒスチジンもしくはアルギニンベースのバッファーであってもよい。
したがって、キサンタンを含有する予め形成されたゲルの組成物は、平衡セーライン溶液であってもよく、あるいは、Ca+2およびMg+2イオンの存在のために、必ずしも平衡ではないセーライン組成物であってもよい。
【0012】
可能な抗酸化剤は、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウムまたは硫酸ナトリウムを包含する。
可能なpH調整剤は、有機または無機酸あるいは塩基、ならびにその各々との酸性および塩基性塩である。
可能な溶媒またはビヒクルは水または水/油の混合物である。
【0013】
>0.25%のキサンタンを含有する組成物に塩を添加するとき、キサンタンおよび添加した塩の濃度に比例して粘度が増加するが、例えば、0.1%程度の少ないNaClを用いると、粘度が一定に達することが観察された。したがって、キサンタンは、イオン強度の変化に対して、塩の存在(水和の程度および鎖間の反発を減少させる)がランダムコイル(高粘度)から緻密なコイル構造(低粘度)へ分子内相互作用および分子崩壊を促進する他の多価電解質とは違った作用を示す。キサンタン溶液中において、塩の添加は、水和の程度および該分子側鎖のカルボキシレートアニオン間の電荷反発を減少し、それは、結果として、堅い棒状のコンホメーションを安定化し、粘度(1%キサンタンに対しNaCl 0.1%で約2倍)および有意な収量値を増加する、より強く、より堅い三次元ネットワークを促進し、それにより、一般に、熱処理、酸および塩基からの攻撃、長期の混合などの因子に対して、該ポリマー溶液がよりいっそう保護される。
【0014】
溶液中において、一本鎖へリックスといえば、主に弱いファンデルワールス力によって結合した堅い分子の複雑な規則正しい網の形成を関連づける傾向がある。溶液中におけるキサンタンの特徴的な独特の構造の効果は、すでに中程度の濃度(1〜2.5%)にて、有意な収量、応力値(したがって、懸濁およびエマルジョンの形成に有利に働く優れた能力)および良好な粘度を伴うゲル様コンシステンシーである。
まとめると、かくして大いに調べられた特性は、低毒性、生体接着性ならびに最も一般的な賦形剤および市販のパッケージングとの適合性に加えて、キサンタンガムを送達系として、ならびに純粋に機械的な根拠に対する保護剤としても有利に適当なものにする。
【0015】
上記のように、本発明の付加的な具体例はヒアルロン酸を含んでいてもよい。
詳細には、該組成物中に配合されるヒアルロン酸の量は、予め形成されたゲルの全量の0.01%〜1%、好ましくは0.05%〜0.5%、より好ましくは0.1%〜0.4%である。ヒアルロン酸は塩として存在する。可能な対イオンは、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウムであってもよい。
【0016】
本発明のまた別の具体例において、再上皮化医薬組成物は、再上皮化剤としてのキサンタンガムおよびヒアルロン酸の混合物の他に、抗感染薬、抗炎症薬、麻酔薬および散瞳薬から選択される1または数種の薬物を含んでいてもよい。
本発明は、さらに、下記の同じ処方の非限定的な例によって開示される。
【0017】
処方1
【表1】

【0018】
処方2
【表2】

【0019】
処方3
【表3】

【0020】
処方4
【表4】

【0021】
処方5
【表5】

【0022】
処方6
【表6】

【0023】
処方7
【表7】

【0024】
処方8
【表8】

【0025】
処方9
【表9】

【0026】
処方10
【表10】

【0027】
一般に、本発明の組成物において、グリセロールはキサンタンガムに対する分散作用を示し、HO中の該ポリマーの分散相中の凝集塊および塊の形成を防止する。
【0028】
本発明の医薬組成物の一般的な製造方法を下記する。例として、調製される処方は100ml/gの生産物についてである。
【0029】
予め形成された再上皮化ゲルの調製法
約50mlの精製水に、処方の全ての添加剤を加え、溶解する(前の1つが完全に溶解した後に各成分を添加する)。
必要に応じて、所定量の1以上の上記の薬物を該溶液に加え、該薬物を完全に溶解または混合する。
【0030】
別に、1gのキサンタンガムを50mlの水に加え、攪拌しないで液体表面上に分散させて、塊の形成を防ぐ。別法では、塊の形成を防ぐと同時に該工程を促進するために、該分散液をパドルスターラーまたはホモジナイザーでホモジナイズしてもよい。必要に応じ、ヒアルロン酸も該相に分散させる。
次いで、該均質分散液を、滅菌に有効な最小F0=15が得られるまで(蒸気滅菌過程の間、微生物の死滅に関し、121℃での時間(分)に相当する値に換算して表される致死性)、オートクレーブする。
【0031】
この時点で、ろ過(懸濁を適当な方法で滅菌するならば)によって滅菌した添加剤の溶液を無菌的にキサンタンガム分散液に加え、約1時間、過剰な乱れがないように静かに混合させるような速度で、均一なゲルが得られるまで攪拌する。
最後に、該ゲルを適当な容器に無菌的に分配してもよい。
【0032】
本発明の主要組成物の効力を説明するために、下記の2つの実験が、イン・ビボ再上皮化モデルにおいて、上記の処方にしたがう2つの予め形成されたゲル:1つは、キサンタンガムのみを含有する処方2(XNT)、もう1つは、キサンタンガムとヒアルロン酸の両方を含有する処方3(EPG)の、0.15%ヒアルロン酸ナトリウムおよび塩のみを含有する溶液(EYP)およびポリマーを含有しないセーライン溶液(SOL)と比較した効果を証明するために行われた。
【0033】
再上皮化効力
2つの実験の間にある差異は、種々の処方での処理後に、1つ目が再上皮化の動的および量的態様を評価するために設計されたものであり、2つ目が再上皮化の形態学的および質的態様を評価するために設計されたものであることにある。第1の実験において、共焦検眼鏡(CSLO)を用いて再上皮化率を追跡し、後者において、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて超微細構造分析を行った。
各実験につき、次の2段落に記載される事項にしたがって6つの処理群に再分したニュージーランドアルビノウサギを用いた。
【0034】
動物
雄性ニュージーランド・アルビノ・ウサギ(Charles River Italia)、中間体重2.400kgを用いた。
該動物を、人工光(12時間暗/明)の交互のサイクルを用いる標準湿度(50%±10%RH)および温度(19±2℃)条件において維持された動物室に配置した。該動物に給餌し、水を無制限に与えた。
【0035】
処理スキームおよび計画
眼科的病状の可能性のあるものを排除するために動物の目をチェックした後、下記のスキームにしたがって、該動物を6つの異なる処理群に割り当てた。
【0036】
【表11】

凡例
対照:薬理学的に処理していない無傷角膜を有する動物
非処理の創傷:薬理学的に処理していない角膜創傷を有する動物
EPG、XNT、EYP、SOL:異なる処方を用いて処理した角膜創傷を有する動物
【0037】
試験物質は全て、実験終了まで1日に5回投与した。
【0038】
実験モデル
動物をケタミン(37.5mg/kg体重)およびキシラジン(10mg/kg体重)の筋内注射ならびにオキシブプロカイン(1滴/眼)によって麻酔した。
角膜創傷は、1mm先端を有するAlgerbrushを用いて作成された。6mm穴を中央に有する滅菌パラフィンマスクを用いて、円形領域を脱上皮化した。眼をすぐに滅菌BBSで洗浄して細胞破片を除去し、処理を行った。
時間経過において、ウサギを、イメージ処理システムに連結されたCLSOを用いて0、24、48、72および96時間目に評価したか、またはSEM分析のために殺した(0、24、48および78時間)。
各実験の研究方法および結果を下記する。
【0039】
CLSO実験
各処理群のウサギの眼を25μlの0.5%ナトリウムフルオレセイン溶液で処理した。2分後、過剰のフルオレセインを生理学的溶液で洗い流した。鎮静剤を与えたウサギを次いで、CLSOで検査した。該システムは、上皮欠如損傷ゾーンから生じる蛍光シグナルを検出し、イメージ処理システムにより該損傷領域を量的に測定するものである。
【0040】
結果
CLSO分析は、全処理群において72時間後に、創傷が自発的に治癒することを明らかにした。
キサンタンガムのみを有効成分として含有する処方(XNT)で処理した群は、処理後24時間ですでに、加速した再上皮化過程を示した。創傷の閉鎖は、「非処理の創傷」群、EYP群およびSOL群におけるよりも少なくとも30%進んでいた。より高い再上皮化率(他の群より50%高い)が、キサンタンガムのみで処理した群(XNT)およびヒアルロン酸と混合したキサンタンガムで処理した群(EPG)の両方において処理後48時間で観察された。ヒアルロン酸ナトリウムのみで処理した群(EYP)とSOL群および「非処理の創傷」群との間に差はなかった。
【0041】
SEM実験
所定の時間(処理の開始から0、24、48、72時間)で、異なる処理群の動物を殺した(Tanax、静脈内注射)。殺害後すみやかに、球を摘出し、角膜を切り出し、すぐに2%グルタルアルデヒドで24時間固定した。固定後、角膜をSEM分析に処した。
【0042】
結果
角膜の脱上皮化直後(T)の観察に処した全ての角膜は、シャープな隆起した縁および裸の実質を有する創傷を示す。対照(無傷角膜)は、好ましい程度の細胞分化、「孔」(おそらく伝達機能を有する上皮細胞の表面に存在する微絨毛を欠く限られた領域)の正常な存在、鋸歯状の細胞接触および多数の微絨毛、異なる成熟段階(暗細胞、中位の明細胞、明細胞)を反映する典型的なモザイク態様を示す表面上皮の存在を有する均質の上皮を示す。
【0043】
T24時間
実験開始から24時間後、「非処理の創傷」群の角膜は、完全に裸の実質を有する脱上皮化領域を示し、上皮欠如ゾーンの縁はシャープであるが、ほとんど隆起していない。「創傷」の縁またはわずかに外側に存在する新たに形成した細胞は、微絨毛をほとんど示さず、明らかに、暗細胞、中位の明細胞および明細胞に分化していない。
SOL群の角膜の創傷の縁は、上記の群のそれに類似しているが、新たに形成した細胞がより分化しており、3分化段階を示し、かつ、より豊富な微絨毛がある。さらに、該細胞は、長円形があまり明白ではない「非処理の創傷」群由来の試料とは対照的に、求心的に伸長している。
【0044】
EYP群の角膜において、上皮剥離ゾーンの縁は平坦化しており、求心的に伸長した態様を示す分化した新たに形成した細胞の輪によって取り囲まれている。
XNT群の角膜は、EYP群のそれに大いに類似した態様を示す。
EPG群の角膜は、他の処理群におけるよりも多くの微絨毛を有する細胞を有する平坦化した創傷縁を示す。新たに形成した細胞は、相当数の「孔」を示す。
【0045】
T48時間
最低倍率で48時間後に観察された「非処理の創傷」群の角膜は、際立ったギザギザのある縁を有するほとんど組織を破壊された脱上皮化ゾーン、および部分的に拡大した接合部を有する新たに形成した細胞を示す。少数の細胞が伸長しており、少数の微絨毛が短く、明細胞、中位の明細胞および暗細胞間の分化がなく均一に分布されている。
SOL群の試料もまた、際立った縁を有するかなり不規則な輪郭を有する脱上皮化ゾーンを示すが、新たに形成した細胞はより分化しているようであり、より多くの微絨毛が実質的に正常な形状を有する。再上皮化ゾーンの縁と接している細胞の端は拡大しており、場合により、隆起している。
【0046】
EYP群の角膜は、他の群の角膜と同様に再上皮化した。しかしながら、分化の程度、新たに形成した細胞の微絨毛の分布および質が良好であっても、脱上皮化ゾーンの輪郭は不規則なままである。
XNT処理群由来の試料は、不規則な創傷輪郭を示すが、新たに形成した上皮の状態は他の群のそれよりも著しく良好である。創傷の縁付近の新しい上皮ゾーンは、求心的に伸長した細胞の輪を提供する。さらに、細胞分化の程度ならびに細胞輪郭は良好であるが、細胞が隆起したように見えるゾーンは部分的に残存する。微絨毛は正常で、多数ある。
【0047】
EPG処理群の試料の組織化は、EYPおよびXNT群のそれと同様である。しかしながら、以前の観察時と同様に、創傷の縁は平坦なままである。結果として、求心的に配向した細胞を有する新たに形成したゾーンはより大きく、一般に、最低倍率であっても、脱上皮化ゾーンの態様はより均質である。
【0048】
T72時間
処理の72時間後、全群が治癒した創傷を示すが、細胞が欠如し、拡大した接合部を有する小さい斑点が分布した領域が残存する。この現象は、正常な再上皮化過程の一部であり、新たに形成した上皮の連続的な再配列によって引き起こされる。
【0049】
群間の差は、新たに形成した上皮の組織化にある。実際に、「非処理の創傷」群において、「ペーストのよう」な外観を上皮に与える短く、わずかな微絨毛の存在のために、上皮は均質に見える。かくして、おそらく、中心からより遠くで新たに形成した上皮のゾーンでは細胞のターン・オーバーが正常に戻っているので、該ゾーン以外で典型的な暗細胞、中位の明細胞および明細胞分化は存在せず、一方、中心では、細胞増殖はまだ無秩序である。
ある程度の上皮組織化がSOL試料によって示される。実際、中心ゾーンであっても、再上皮化後、わずかな分化が存在し、「非処理の創傷」群の角膜と比べて、微絨毛は多く、「ペーストのよう」ではない。
【0050】
生体ポリマーを含有する生産物で処理した群間の差は、72時間後であっても持続するが、EPGで処理した角膜はXNTで処理した角膜よりも良好であり、後者はEYP群のものよりも良好である。一般に、EPGで処理した角膜の態様は対照(無傷角膜)のそれと類似しており、多くの長い微絨毛および細胞層において均一に分布した相当数の孔を有し、また、多様な分化段階をよく表す細胞を有する。
【0051】
これまでの記載によると、予め形成されたゲル形態における再上皮化医薬組成物は、損傷した上皮の再構築を促進する。
さらに、該組成物は、上皮の再組織化に有利に働き、結果として、基礎をなす結合組織における新しい上皮の接着および安定性を増加する。
該組成物のさらなる利益は、本発明によると、予め形成されたゲルとしてのその処方であり、その結果として、再上皮化医薬組成物は機械的保護機能をも発揮する。
【0052】
好ましくは、本発明の組成物はヒアルロン酸のナトリウム塩を含み、その処方は、局所的使用のための生産物に極めて好ましい特徴を示す。
特に、コンシステンシーは、ほとんど透明で明るいクリーム色をした、手触りがよく、べたつきがなく、容易に広げることができる吸収性のソフトゲルのそれである。滴下時の感覚は同様である:該調製物はヒリヒリせず、「ぼんやりした視覚」の感覚は非常に限定されているか、または存在せず、同時に、眼の清々しさおよび滑らかさの感覚が持続する。さらに、該生産物は、容器からの放出(滴の形成および送達が容易)および眼表面上での滴の分布の両方によって、容易に投与される。
【0053】
さらに、驚くべきことに、ヒアルロン酸(キサンタンガムよりも約7倍低濃度で水中に存在するのだが)はキサンタンガムのコンホメーションに関して著しい安定化能を有することが観察された。
実際に、塩を含有しないキサンタンガム溶液の粘度は、熱処理後、約30%減少する。
一方、ヒアルロン酸ナトリウム塩を含有するキサンタンガム溶液の粘度は、熱処理後、たった10−15%減少するのみである。
特に、該生産物の流動学的特徴の研究は、下記の結果を与えた。
【0054】
例として、1%キサンタンガム+ヒアルロン酸からなる組成物の粘度/ずり速度(η/γ)ダイアグラムが研究され、1%キサンタン+セーライン溶液(BSS)および1%キサンタン+HOと比較された。
完全な生産物の流動学的プロファイルは、非常に高いη(粘度)および低いγでの明確なずり応力を示し、したがって、良好な強度、コンシステンシー、および適用部位での保持を示す。ずり速度の増加と共に、粘度(η)はすみやかに減少し、適用部位で該系に良好な拡散性および分布性を与える高い偽塑性を示し、気持ちのいい感覚をユーザーに与える。ずり速度を徐々に上げることによって得られるη/γ曲線は、ずり速度を徐々に減少させることによって得られる逆経路のそれと符合し;したがって、該系は、向組織性(tissuetropy)を与えず、ずり応力の停止と同時にその構造を再獲得する。
【0055】
特に、眼への適用に関し、このことは、まばたきの間に、それ自体を該生産物の構造および粘度の回復において有利に変形し、結果として、角膜接触時間を増加する。
上記からわかるように、本発明の再上皮化医薬組成物は、序章において記載した要求に応え、当該分野の現状の短所を克服する。
明らかに、当該分野における専門家は、偶発的な特定の要求を満足するために、特許請求の範囲に定義したような本発明の範囲を逸脱することなく、多くの修飾および変更を上記の組成物に導入することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の上皮創傷の治療薬の製造のための、医薬の有効成分としてのキサンタンガムの使用。
【請求項2】
抗感染薬、抗炎症薬、麻酔薬および散瞳薬から選択される医薬と併用した請求項1記載のキサンタンガムの使用。
【請求項3】
上皮が角膜上皮である請求項1または2記載のキサンタンガムの使用。
【請求項4】
上皮細胞の増殖を促進するための請求項1〜3のいずれか1項記載のキサンタンガムの使用。
【請求項5】
実質的に、有効成分としてのキサンタンガムおよび薬理学上許容される添加剤からなる予め形成されたゲルの形態における眼科再上皮化医薬組成物。
【請求項6】
有効成分が予め形成されたゲルの全量の0.7%〜5%の量のキサンタンガムを含む請求項5記載の眼科医薬組成物。
【請求項7】
キサンタンガムが予め形成されたゲルの全量の0.8%〜3%の量で配合される請求項5記載の眼科医薬組成物。
【請求項8】
キサンタンガムが予め形成されたゲルの全量の0.9%〜1.5%の量で配合される請求項5記載の眼科医薬組成物。
【請求項9】
添加剤が等張剤、バッファー、溶媒、抗酸化剤、pH調整剤などを包含する請求項5〜8のいずれか1項記載の眼科医薬組成物。
【請求項10】
等張剤がイオン性または非イオン性であるか、またはその混合物であってもよく、バッファーがリン酸バッファーまたはホウ酸バッファー、酢酸バッファー、クエン酸/酢酸バッファー、トリスHCl、またはヒスチジンもしくはアルギニンベースのバッファーであってもよく、抗酸化剤がクエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウムまたは硫酸ナトリウムであってもよく、pH調整剤が有機もしくは無機酸または塩基あるいはその塩形態であってもよく、溶媒またはビヒクルが水または油/水混合物であってもよい請求項9記載の眼科医薬組成物。
【請求項11】
キサンタンガム 1.0000g 有効成分、再上皮化剤
塩化ナトリウム 0.3500g 等張剤
リン酸水素二ナトリウム・12HO 0.3638g バッファー
リン酸一ナトリウム・HO 0.0354g バッファー
グリセロール 1.0000g 等張剤
精製水 100.0mlまで十分な量 溶媒
からなる、眼の上皮創傷の治療において用いられる眼科医薬組成物。
【請求項12】
キサンタンガム 1.0000g 有効成分、再上皮化剤
塩化ナトリウム 0.3500g 等張剤
塩化カリウム 0.1500g 等張剤
塩化マグネシウム・6HO 0.0120g 等張剤
塩化カルシウム・2HO 0.0084g 等張剤
リン酸水素二ナトリウム・12HO 0.0890g バッファー
リン酸一ナトリウム・HO 0.0069g バッファー
クエン酸ナトリウム・2HO 0.0590g バッファー/抗酸化剤
グリセロール 1.0000g 等張剤
精製水 100.0mlまで十分な量 溶媒
からなる、眼の上皮創傷の治療において用いられる眼科医薬組成物。
【請求項13】
リン酸デクサメタゾン二ナトリウム 0.1500g 有効成分
キサンタンガム 1.0000g 有効成分、再上皮化剤
リン酸水素二ナトリウム・12HO 0.5000g バッファー
リン酸一ナトリウム・HO 0.1465g バッファー
クエン酸ナトリウム・2HO 2.1000g 抗酸化剤
精製水 100.0mlまで十分な量 溶媒
からなる、眼の上皮創傷の治療において用いられる眼科医薬組成物。
【請求項14】
リン酸デクサメタゾン二ナトリウム 0.1500g 有効成分
硫酸ネチルマイシン 0.4550g 有効成分
ネチルマイシン塩基(0.3000g)に等しい
キサンタンガム 1.0000g 有効成分、再上皮化剤
リン酸水素二ナトリウム・12HO 0.5000g バッファー
リン酸一ナトリウム・HO 0.1465g バッファー
クエン酸ナトリウム・2HO 2.1000g 抗酸化剤
精製水 100.0mlまで十分な量 溶媒
からなる、眼の上皮創傷の治療において用いられる眼科医薬組成物。
【請求項15】
十分量の添加剤を十分量の水に溶解し、
必要により、他の薬物を添加し、
該溶液を滅菌し、
塊の形成を回避するために攪拌しないで、所定の量のキサンタンガムを十分量の水に分散し、
該分散液を滅菌し、
該キサンタンガム分散液に添加剤溶液を加え、最終的には薬物が添加されることとなり、乱れないように攪拌し、
上記の工程で得られたゲルを適当な容器に無菌的に分配する
工程を含む請求項5〜14のいずれか1項記載の眼科再上皮化医薬組成物の調製法。
【請求項16】
キサンタンガムの分散工程がホモジネーションによって行われる請求項15記載の方法。

【公開番号】特開2011−102315(P2011−102315A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−5761(P2011−5761)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【分割の表示】特願2004−500890(P2004−500890)の分割
【原出願日】平成15年4月24日(2003.4.24)
【出願人】(504403781)シフィ・ソシエタ・ペル・アチオニ (1)
【氏名又は名称原語表記】SIFI S.p.A.
【Fターム(参考)】