説明

キサンチン誘導体含有脂肪乳剤

【課題】 本発明は、キサンチン誘導体又はその薬理学的に許容される塩の非経口投与に適した安定な製剤を提供することを目的としている。詳細には、本発明は、降圧、利尿、腎保護作用を有し、特に腎不全の予防、治療、処置剤として有用なキサンチン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を高含有量で含有し長期の保存安定性に優れた製剤を提供することを目的としている。すなわち、本発明は、8−(ホリシクロアルキル)−キサンチン類又はその薬理学的に許容される塩を含有してなる安定な脂肪乳剤を提供することを目的としている。
【解決手段】 本発明は、式(I)


(式中、RおよびRは同一または異なって、置換もしくは非置換の低級アルキル基を表し、Qは水素、水酸基又は水酸基誘導体を表す。)で表されるキサンチン誘導体またはその薬理学的に許容される塩を含有してなる脂肪乳剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノシンA1受容体拮抗活性を示し、降圧作用、利尿作用、腎保護作用、気管支拡張作用、脳機能改善作用、抗痴呆作用等を有するキサンチン誘導体またはその薬理学的に許容される塩を含有してなる脂肪乳剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全、特に急性賢不全は、腎機能の欠損により血液中に老廃物質が蓄積されるという重篤な疾患であり、腎不全に対する予防、治療、処置剤の開発が望まれている。腎不全などの予防、治療、処置剤の開発において、腎機能を解明し、これらの機能不全に対して適切な措置を講じることを見いだすことが必要である。
【0003】
カフェインやチオフィリンなどのキサンチン類が利尿作用を有していることは古くからよく知られていることである。近年、これらのキサンチン類の有する利尿作用の機作についての研究が進められており、キサンチン類がアデノシン受容体の拮抗物質として作用してきていることが明らかにされている。また、近年、8−(3−ノルアダマンチル)−1,3−ジプロピルキサンチン(8−(3−noradamantyl)−1,3−dipropylxanthine)(以下、KW−3902ということもある。)が優れたアデノシン受容体拮抗作用を有することが見いだされ、降圧、利尿、腎保護作用を有する医薬として開発されている( F.Suzuki et al.,J.Med.Chem.,35,3066(1902))。KW−3902は特に急性腎不全に対して有効な医薬として注日されている。このKW−3902は非経口投与が有効であるとされているが、KW−3902は水に対して難溶性であり、製剤化が困難であるばかりでなく、長期の保存安定性にも問題があり、医薬品としての開発に大きな問題となっている。
【0004】
一方、脂肪乳剤(リピッドマイクロスフェアー)は栄養補給の目的で既に臨床応用されているが、これを消炎鎮痛剤などの製剤化に応用しようとする研究もなされている(水島ら、「最新医学」、第40巻第9号、第1806〜1813頁、1985年)。しかしながら、脂肪乳剤により製剤化できる医薬成分は限られており、かつ、脂肪乳剤の成分、配合量、物理的形態などによりその安定性や有効成分の吸収性が変動するなどの問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、キサンチン誘導体又はその薬理学的に許容される塩の非経口投与に適した安定な製剤を提供することを目的としている。詳細には、本発明は、降圧、利尿、腎保護作用を有し、特に腎不全の予防、治療、処置剤として有用なキサンチン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を高含有量で含有し長期の保存安定性に優れた製剤を提供することを目的としている。すなわち、本発明は、8−(ホリシクロアルキル)−キサンチン類又はその薬理学的に許容される塩を含有してなる安定な脂肪乳剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発肌者らは、キサンチン誘導体、特に、8−(ポリシクロアルキル)−キサンチン類の長期の保存要定性に優れた製剤化を研究してきたところ、脂肪乳剤により製剤化することにより、難溶性のキサンチン級導体を高含有量で含有し、さらに長期の保存安定性に俊れた、特に非経口投与に適した製剤が得られることを見いだした。
【0007】
本発明は式(I)
【0008】
【化1】

(式中、RおよびRは同一または異なって、置換もしくは非置換の低級アルキル基を表し、Qは水素、水酸基又は水酸基誘導体を表す。)で表されるキサンチン誘導体[以下、化合物(I)という。]またはその薬理学的に許容される塩を高含有量で含有し、長期の保存安定性に優れた脂肪乳剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、化合物(I)、特に、8−(3−ノルアダマンチル)−1,3−ジプロピルキサンチンを高含有量に含有し、長期の保存安定性に優れた医療上有用な脂肪乳剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
式(I)の定義において、低級アルキル基は、直鎖または分岐状の炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜6、さらに好ましくは1〜3の、例えばメチル、エチル、プロピル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等が挙げられ、好ましくはメチル、エチル、n−n−プロピルが挙げられる。置換低級アルキル基の置換基としては、例えば、水酸基、アセチル基などのアシル基、カルボニル基(O=)、低級アルコキシ基等が挙げられる。これらの置換基のうちで、水酸基、アセチル基が好ましい。低級アルコキシ基の低級アルキル基としては前記した低級アルキル基がある。
置換基Qの水酸基の誘導体としては、アセトキシ基などのアシルオキシ基やメトキシ基などの低級アルコキシ基などが挙げられる。
【0011】
化合物(I)の薬理学的に許容される塩としては、例えば、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機酸アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。
化合物(I)の薬理学的に許容される酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の有機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩があげられ、薬理学的に許容される金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等があげられ、薬理学的に許容されるアンモニウム塩としては、例えば、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩があげられ、薬理学的に許容される有機アミン付加塩としては、例えば、モルホリン、ピペリジン等の付加塩があげられ、薬理学的に許容されるアミノ酸付加塩としては、例えば、リジン、グリシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸等の付加塩があげられる。
化合物(I)またはその薬理学的に許容される塩は、種々の方法で製造することができ、例えば、特開平3−173889号公報記識の方法により製造することができる。
【0012】
化合物(I)の具体例を表1に例として示す。
【0013】
【表1】

前記の表1中の化合物番号1の化合物が、8−(3−ノルアダマンチル)−1,3−ジプロピル−キサンチン(KW−3902)である。
【0014】
本発明の脂肪乳剤は、有効成分としての前記式(I)で表される化合物(I)油脂、界面活性剤、及び、製薬上許容される担体からなる。
より詳細には、本発明の脂肪乳剤は、前記脂肪乳剤が0.5〜30%(w/v)の油脂及び当該油脂に対して重量で0.1〜2倍の界面活性剤、及び、製薬上許容される担体を含有してなる。
本発明の脂肪乳剤は、粒径が0.005〜0.3μm、好ましくは0.02〜0.15μmである。
【0015】
本発明の脂肪乳剤に使用される油脂成分としては、非経口投与可能な油脂であれば特に限定はなく、例えば、大豆油、ゴマ油、オリーブ油、ヤシ油などの植物性油が好ましく、より好ましくは例えば大豆油が挙げられる。
【0016】
本発明の脂肪乳剤に使用される界面活性剤としては、乳化剤としてO/W型エマルシヨンを調製することができ、非経口投与可能なものであれば特に限定はなく、例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン、高純度ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リゾレシチン、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレン高級アルコール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルキルエーテルなどが好ましく、より好ましくは例えば高純度ホスファチジルコリンが挙げられる。
【0017】
前述のように、本発明の脂肪乳剤の前記各成分の配合割合は、油脂成分が脂肪乳剤の全量に対して0.5〜30%(W/V)、界面活性剤は前記の油脂成分の0.1〜2倍(用量比)であり、これに適当量の水が使用される。
【0018】
本発明の脂肪乳剤には、前記の成分の他にさらに、必要に応じて乳化補助剤、安定化剤、等張化剤、防腐剤などを添加することもできる。本発明の脂肪乳剤においては、脂肪成分、界面活性剤に加えて、乳化補助剤、及び、等張化剤を添加してなる脂肪乳剤が好ましい。
本発明の脂肪乳剤に使用される乳化補助剤としては、炭素数6〜22、好ましくは炭素数12〜20の飽和もしくは不飽和脂肪酸またはその製薬上許容される塩が好ましく、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸など、より好ましくはオレイン酸を挙げることができる。乳化補助剤の使用量は、脂肪乳剤全量の3%(W/V)以下、より好ましくは1%(W/V)までの量である。
本発明の脂肪乳剤に使用される等張化剤としては、例えば、グリセリン、ブドウ糖などが挙げられ、より好ましくはグリセリンが挙げられる。
本発明の脂肪乳剤に使用される安定化剤としては、例えば、コレステロール類またはホスファチジン酸などが好ましい。使用量は5%(W/V)までの塩が好ましい。本発明の脂肪乳剤に使用される防腐剤としては、例えば、安息香酸、パラペン類などが好ましい。
さらに本発明の脂肪乳剤は凍結乾燥製剤として使用することもでき、その際にはさらに賦形剤を添加することもできる。使用される防腐剤としてはマンニトール、ラクロース、マルトース、スクロース、イノシトールなどが挙げられる。
【0019】
本発明の脂肪乳剤中の有効成分である化合物(I)の含有量は、脂肪乳剤の形態などにより適宜増減できるが、一般には当該脂肪乳剤1ml中に、0.01μg/ml〜10mg/ml、好ましくは0.1μg/ml〜5mg/ml、より好ましくは0.1μg/ml〜3mg/mlまで含有させることができる。難溶性の化合物(I)を高含有量で含有する製剤とすることができる点も本発明の特徴のひとつである。
【0020】
本発明の脂肪乳剤は、例えば次の方法によって製造される。
即ち、所定量の油脂成分、界面活性剤、化合物(I)、及び、必要に応じて乳化補助剤、安定化剤などを配合し、必要に応じて加熱して溶液となし、常用のホモジナイザー(例えば、ホモミキサーなど)を用いて均質化処理し、次いで、必要に応じてこれに必要量の等張化剤、安定化剤等を含む水を加えホモジナイザーを用いて粗乳化し、水中油型乳剤を得る。次いで、再びホモジナイザー(例えば、マントンガウリンなどの高圧乳化機)を用いて液滴粒子径が0.005〜0.3μmになるまで乳化を行う。製造上の都合によっては、脂肪乳剤の生成後に安定化剤、等張化剤、防腐剤などの添加剤を加えてもよい。
必要に応じて透析やゲル濾過などにより精製することもできる。
【0021】
本発明の脂肪乳剤は、殺菌してアンプルなどに封入することもできる。また、必要に応じて凍結乾燥して、凍結乾燥製剤とすることもできる。凍結乾燥製剤は使用時に適当な溶剤により乳剤として使用することができる。
本発明の脂肪乳剤は、各種の方法により投与することができるが、非経口投与が好ましい。非経口投与としては静脈内、筋肉内、皮下などに投与することができる。本発明の脂肪乳剤は注射剤として使用するのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
KW−3902(第1表の化合物番号1の化合物、以下KW−3902を用いる)500mg、大豆油50g、及びオレイン酸2.4gを約60℃で加温混合し、これに高純度ホスファチジルコリン50g、グリセリン22.4g、及び注射用水を加え全量を1000mLとし、ホモミキサーで攪拌し粗乳化液とした。この粗乳化液のpHを7に調整した後、マイクロフルイダイザーにより高圧乳化し、微細な脂肪乳剤を得た。これを室温まで冷却し、孔径0.2μmのメンブランフィルターを用いてろ過し、ガラス容器に分注し、窒素ガスで置換後、施栓した。
[試験例]
実施例で作製したKW−3902含有脂肪乳剤を25℃および40℃の恒温漕に30日間保存し、KW−3902の残存量、脂肪乳剤の着色及び平均粒子径を測定した。KW−3902残存量の分析は下記の条件での高速液体クロマトグラフィーにより行った。着色は脂肪乳剤をイソプロパノールで10倍に希釈溶解後、波長455nmの吸光度を測定して評価した。平均粒子径は動的光散乱光度計DLS−700(大塚電子)を用いて測定した。結果を表2に示す。
高速液体クロマトグラフィー分析条件
力ラム :Shim-pack CLC-ODS
移動相 :アセトニトリル:20mM リン酸二水素カリウムの混合溶液
(65:35)
流速 :1.0mL/min
検出波長:紫外吸光光度計(280nm)
【0023】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)

(式中、RおよびRは同一または異なって、置換もしくは非置換の低級アルキル基を表し、Qは水素、水酸基又は水酸基誘導体を表す。)で表されるキサンチン誘導体またはその薬理学的に許容される塩を含有してなる脂肪乳剤。
【請求項2】
前記式(I)で表されるキサンチン誘導体、油脂、界両活性剤、及び、製薬上許容される担体からなる脂肪乳剤。
【請求項3】
前記式(I)で表されるキサンチン誘導体が8−(3−ノルアダマンチル)−1,3−ジプロピルキサンチンである請求の範囲1又は2に記載の脂肪乳剤。
【請求項4】
脂肪乳剤が、0.5%〜30%(w/v)の油脂および該当油脂に対して重量で0.1〜2倍の界面活性剤を含有してなる請求の範囲1〜3に記載の脂肪乳剤。
【請求項5】
油脂が大豆油であり、界面活性剤がホスファチジルコリンである請求の範囲4に記載の脂肪乳剤。
【請求項6】
粒径が0.02〜0.15μmである請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪乳剤。
【請求項7】
脂肪乳剤が凍結乾燥製剤である請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪乳剤。

【公開番号】特開2008−231117(P2008−231117A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137775(P2008−137775)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【分割の表示】特願平10−507822の分割
【原出願日】平成9年8月7日(1997.8.7)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】