説明

キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法及びその利用

【課題】キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を効率的に得ることができる、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法、その方法によって得られた組成物、及び該組成物を含有する飲食品を提供し、更には、該方法を利用したキサントフモール含有組成物の製造方法、その方法によって得られた組成物、及びその組成物を含有する飲食品を提供する。
【解決手段】ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを、pH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中で混合し、ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物中に含まれるキサントフモールを、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体との包接複合体として可溶化させる。また、得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を吸着樹脂に処して吸着させた後、キサントフモールを溶出して、高純度なキサントフモール含有組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法、その方法によって得られた組成物、及びその組成物を含有する飲食品に関し、更には、該方法を利用したキサントフモール含有組成物の製造方法、その方法によって得られた組成物、及びその組成物を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
キサントフモールは、癌細胞増殖抑制作用、骨粗鬆症改善作用等を有する生理活性化合物であり、ビールの原料であるホップなどに多く含まれていることが知られている。しかし、ビールの製造過程においてキサントフモールはイソキサントフモールに異性化することなどから、ビール中に含まれるキサントフモール含量は微量である。
【0003】
有効量のキサントフモールを摂取する効率的な方法として、ホップより抽出したキサントフモールを飲食品に添加することが挙げられ、ホップよりキサントフモールを抽出する方法としては有機溶媒抽出や超臨界抽出等の一般的な方法での抽出例が報告されている(例えば、下記特許文献1,2参照)。しかしながら、キサントフモールはアルカリ条件下でのみ可溶化する難水溶性物質であるため、弱酸性から中性に保たれることの多い飲食品に添加した場合、結晶が析出してしまい、食品の外観や食感を損なうという問題がある。
【0004】
キサントフモールの水溶性を向上させる方法として、キサントフモールをシクロデキストリンに包接させてキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を形成する方法が知られている(例えば、下記特許文献3,4参照。)。キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体は、酸性〜中性の条件でも水に可溶性を示す。また、通常のキサントフモールと比べ安定性が高いことや、経口吸収性が高いことも報告されている(下記特許文献3参照。)。よって、キサントフモールを、シクロデキストリンとの包接複合体の形態とすることで、その水溶性を向上させることができるとともに、生体利用効率を高めることができ、これにより癌細胞増殖抑制作用等の有用な生理機能を有するキサントフモールを、効率的に摂取することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−289185号公報
【特許文献2】特表2007−513982号公報
【特許文献3】特表2011−513308号公報
【特許文献4】国際公開第2009/126320号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を形成する方法としては、例えば、上記特許文献1,2に記載の方法のように、pH10〜12のアルカリ条件下にて可溶化したキサントフモールをシクロデキストリンに包接する方法が採用されていた。しかしながら、包接複合体の形成効率に関する検討は一切行われておらず、必ずしも効率のよい方法とはいえなかった。
【0007】
従って、本発明の目的は、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を効率的に得ることができる、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法その方法によって得られた組成物、及びその組成物を含有する飲食品を提供し、更には、該方法を利用したキサントフモール含有組成物の製造方法、その方法によって得られた組成物、及びその組成物を含有する飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究し、意外にもキサントフモールがほとんど溶解しない酸性〜中性の条件において、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体が効率よく形成されることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
[1] ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを、pH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中で混合し、ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物中に含まれるキサントフモールを、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体との包接複合体として可溶化させることを特徴とするキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
[2] 前記ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、前記β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体の水溶液とを混合する上記[1]記載のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
[3] 前記ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、前記β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを含有する混合液の温度を20〜65℃に維持した状態で混合する上記[1]又は[2]記載のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
[4] 前記ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、前記β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを含有する混合液中のβ−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体の含量が0.1〜10W/V%となるようにする上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
[5] 前記ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、前記β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを、pH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中で混合した後、固液分離して液部を採取し、濃縮するか、あるいは、そのまま又は濃縮して噴霧乾燥又は凍結乾燥することにより粉末化する上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
[6] 前記ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物を温水で洗浄した後に、前記β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とpH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中で混合する上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
[7] 上記[1]〜[6]のいずれか1つの方法でキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物を得、これを吸着樹脂に処して吸着させた後、キサントフモールを溶出することを特徴とするキサントフモール含有組成物の製造方法。
[8] キサントフモール純度90〜99.9%のキサントフモール含有組成物を得る上記[7]記載のキサントフモール含有組成物の製造方法。
[9] 上記[1]〜[6]のいずれか1つの方法で得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物。
[10] 上記[7]又は[8]の方法で得られたキサントフモール含有組成物。
[11] 上記[1]〜[6]のいずれか1つの方法で得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物を含有する飲食品。
[12] 上記[7]又は[8]の方法で得られたキサントフモール含有組成物を含有する飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、キサントフモールがほとんど溶解しない酸性〜中性の水及び/又は親水性溶媒中で、ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物に含まれるキサントフモールを、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体と接触させることにより、キサントフモールをシクロデキストリンとの包接複合体として可溶化させて採取することができるので、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を効率よく得ることができる。また、本発明により得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を樹脂分画処理することにより、安全性が高く、低コストで、環境負荷が低い製法で高純度のキサントフモールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】キサントフモールのホップ抽出物からの可溶化率と温度条件との関係を示す図である。
【図2】キサントフモールのホップ抽出物からの可溶化率とシクロデキストリン添加量との関係を示す図である。
【図3】ホップ抽出物の温水洗浄処理とキサントフモール以外の夾雑物成分の溶出量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
キサントフモールはフラボノイドの一種であり、その構造中にフェノール性水酸基を複数有する黄色で無味無臭の化合物である。キサントフモールは、フェノール性水酸基を有する他の多くの化合物と同様、アルカリ性においてのみ水に溶解し、酸性及び中性領域では水に不溶である。
【0012】
ホップ(Humulus lupulus)は、クワ科に属する多年生植物であり、その毬花(雌花)、毬果(未授精の雌花が成熟したもの)、葉、茎、苞などにキサントフモールが含まれ、キサントフモールの天然物原料として知られている。そこで、本発明においては、キサントフモールの原料として、ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物を用いる。
【0013】
本発明におけるホップ破砕物としては、ホップの毬花(雌花)、毬果(未授精の雌花が成熟したもの)、葉、茎、苞等のホップ由来原料を乾燥して破砕した破砕物であって、キサントフモールを抽出可能に調製されたものであればよく、特にその形態に制限はない。
【0014】
また、本発明におけるホップ抽出物としては、上記ホップ中の成分を、水、食塩水、アルコール、エーテル、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、二酸化炭素等の溶剤で抽出し、必要に応じて抽出液をろ過、濃縮、乾燥等の加工処理を施したりすることにより得られた抽出物であって、キサントフモールを抽出可能に調製されたものであればよく、特にその形態に制限はない。また、このホップ抽出物は、抽出乾燥されたものを粉末化して用いてもよく、抽出方法によっては、抽出液をそのまま、または濃縮された液状物として用いてもよい。
【0015】
本発明に用いるホップ粉砕物及び/又はホップ抽出物は、上記のように調製されているものをそのまま用いてもよいが、適宜、使用時に適量の純水、特に温水にて水洗し、液部を濾別して、水溶性成分をあらかじめ取り除いてから用いることが好ましい。この洗浄工程を経ることでホップ粉砕物及び/又はホップ抽出物中のキサントフモール以外の夾雑物(水溶性成分)を取り除くことができるのでより効率的にキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を得ることができる。この洗浄工程時においては、洗浄効率やコストメリットを考慮すると40〜60℃の温水を用いることが好ましい。
【0016】
シクロデキストリン(以下、「CD」と表記する場合がある。)は、環状のα−1,4−グルカンであり、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼが澱粉等のα−1,4−グルカンに作用することにより、その分子内転移反応によって生成される。その重合度は主として6〜8であり、それぞれα−CD、β−CD、γ−CDと呼ばれる。シクロデキストリンは、立体的に見れば、いわば底のないバケツ様の構造をしており、空洞外部が親水性であるのに対し、空洞内部が疎水性を示すという特徴を有する。この特徴により、シクロデキストリンは空洞内部に特定の有機分子(ゲスト分子)を包み込むように取込む現象(包接)を示し、包接複合体が形成される。一般にシクロデキストリンによるゲスト分子の包接は、シクロデキストリンの空洞のサイズ及びゲスト分子のサイズ又はゲスト分子の構造の一部のサイズが一致する場合に起こり得る。また、シクロデキストリン空洞内部は疎水性であるため、ゲスト分子が疎水性である場合の方が比較的包接されやすい傾向がある。
【0017】
本発明においては、シクロデキストリンとして、重合度が7であるβ−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体を用いることができるが、特にβ−シクロデキストリンを用いることが好ましい。β−シクロデキストリン誘導体としては、置換基として例えば炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基を有するもの、炭素数1〜2のアルキル基を有するもの、1〜2残基からなる糖類を有するものが挙げられ、具体的には、ヒドロキシプロピル化β−CD、ヒドロキシブチル化β−CD、メチル化β−CD、マルトシル化β−CD、などが挙げられる。
【0018】
本発明に用いるβ−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体は、結晶品、非結晶粉末品、シラップなどの形態のものを用いてもよい。また、β−CD又はその誘導体以外に、それらの生成や調製の過程の副産物として含まれる、例えばα−CD、γ−CD、マルトオリゴ糖、その他糖質などを含有しているものを用いてもよい。
【0019】
以下、本発明のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法を更に詳細に説明する。
【0020】
まず、ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを、pH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中で混合する。
【0021】
これは、ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを、液中にて分散又は溶解せしめて混合し、pH1.0〜8.5の条件下にて、互いに接触させることを意味する。そのための溶媒としては、キサントフモールが溶解しにくくかつシクロデキストリンが溶解する水ないしは親水性溶媒が好ましく、pH調整済みの水、pH調整済み緩衝液などが挙げられるが、これらに限られない。pHは酸及び/又はアルカリを用いて適宜調整してもよい。具体的に1つの態様を例に挙げると、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体を水に溶解し且つpHを調整した溶液を調製し、その100質量部を0.1〜10質量部程度のホップ破砕物及び/又はホップ抽出物に対して添加して、工業的に利用可能な撹拌混合手段にて撹拌混合する態様などを例示できる。
【0022】
こうして、pH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中で、ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを接触させることにより、ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物中に含まれるキサントフモールを、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体との包接複合体として可溶化させる。
【0023】
すなわち、ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを、pH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中で接触させて、所定時間保持することによってなされる。この場合、上記混合液を撹拌混合しながら保持することが好ましいが、静置状態で保持することもできる。
【0024】
キサントフモールを、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体との包接複合体として可溶化させるのに必要な接触時間は、条件によっても異なるが、0.1時間〜7日程度が好ましく、7時間〜48時間がより好ましい。
【0025】
ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを接触させるための水及び/又は親水性溶媒のpH条件はpH1.0〜8.5である必要がある。pHが1.0を下回るとキサントフモールが分解されてしまうため好ましくない。pHが8.0を上回ると包接複合体の収率が大幅に低下してしまうため好ましくない。更に、後述の実施例から明らかなように包接複合体をより多く得るためにはpH3.5〜5.5であることが好ましく、pH3.8〜5.2であることが特に好ましい。
【0026】
ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを水及び/又は親水性溶媒中で接触させる際の温度は、工業的に実現可能な温度であれば特に制限はないが、後述する実施例で示されるように、温度条件によって包接複合体の生成量が影響を受けることを考慮すると、20〜65℃が好ましく、30℃〜55℃がより好ましく、45℃〜55℃が更により好ましい。
【0027】
ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを水及び/又は親水性溶媒中で接触させる際の、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体の濃度条件としては、包接複合体が得られる濃度であれば特段制限はないが、0.1〜10W/V%が好ましく、1〜5W/V%がより好ましい。上記濃度が0.1W/V%未満では効率的に包接複合体を得ることができないため好ましくない。また、後述する実施例で示されるように、シクロデキストリンの添加量が増加するにつれて包接複合体の生成量も増加するため、シクロデキストリンの添加量は多い方が望ましいが、得られる包接複合体の生成量とシクロデキストリンのコストとを比較衡量すると、10W/V%以下であることが望ましい。
【0028】
上記のようにして形成させたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体は、上記溶媒の液中に溶解しているので、その液部を固液分離して採取し、濃縮することにより製品化してもよく、あるいは、上記液部をそのまま又は濃縮して噴霧乾燥又は凍結乾燥することにより粉末化して製品化してもよい。また、公知の手段によって精製してキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体の純度を高めて製品化してもよく、その製品化の態様に特に制限はない。
【0029】
このような方法により、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を含有するキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物を得ることができる。このキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物は、その固形分中、好ましくは0.1〜99.9質量%、より好ましくは0.1〜75質量%、更により好ましくは1〜75質量%のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を含有している。また、このキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物は、pH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中に、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体との包接複合体となって溶解したキサントフモールを採取しており、シクロデキストリンとの包接複合体でないキサントフモールは上記条件下では殆ど可溶化しないため、シクロデキストリンとの包接複合体でないキサントフモールの含量が極めて少ない点で、例えば上記特許文献3,4の方法で得られる組成物とは相違している。
【0030】
一方、上記のようにして得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物を吸着樹脂に処し、キサントフモールとシクロデキストリンに分離することで、高純度なキサントフモール含有組成物を得ることができる。具体的には、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を吸着樹脂に吸着させた後、流水および40%エタノール溶液でシクロデキストリンを溶出させ、次に100%エタノールでキサントフモールを溶出させることで、高純度なキサントフモール含有組成物を得ることができる。キサントフモール純度は、通常90〜99.9%程度であり、より好ましくは90〜95%であり、更により好ましくは92.5〜95%である。また、分離したシクロデキストリンを回収し、再度ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と接触させキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を生成させたり、更にはその複合体からキサントフモールを上記同様に分離したりするなど、効率的に再利用することが可能である。
【0031】
この方法は、特殊な有機溶媒や防爆設備を必要としないため、有機溶媒抽出や超臨界抽出等の一般的な方法に比べて安全性、経済性および環境への影響性の面で優れている。更に、後述の実施例から明らかな通り、上記引用文献1,2に示されたものより更に純度の高いキサントフモール含有組成物を得ることができる。
【0032】
吸着樹脂としては、市販の合成吸着剤が使用される。例えば、ダイヤイオンHP20 (三菱化学製),ダイヤイオンHP21 (三菱化学製)、セパビーズSP825 (三菱化学製)、セパビーズSP850 (三菱化学製)、セパビーズSP700 (三菱化学製)、セパビーズSP207 (三菱化学製)、セパビーズSP70 (三菱化学製)、ダイヤイオンHP2MG (三菱化学製)、アンバーライトXAD2000 (ロームアンドハース製)、アンバーライトXAD4 (ロームアンドハース製)、アンバーライトFPX66 (ロームアンドハース製)、アンバーライトXAD1180N (ロームアンドハース製)、アンバーライトXAD7HP (ロームアンドハース製)、アンバーライトXAD-2 (ロームアンドハース製)などが使用できる。
【0033】
上記の方法で得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物又はキサントフモール含有組成物には、各種糖質、蛋白質、油脂、ビタミン類、無機塩類、香料、着色料等をさらに配合してもよく、配合するものの組み合わせに特に制限はない。
【0034】
上記の方法で得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物又はキサントフモール含有組成物には、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、粉末、顆粒、カプセル剤等の形態にして、これを医薬に利用することができる他、クリーム、ジェル、パック、化粧水、化粧料等の形態にして、これを化粧品として利用することができる。
【0035】
上記の方法で得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物又はキサントフモール含有組成物は、健康食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品)、機能性食品、病者用食品等として利用することもできる。その形態としては、錠剤、液剤、カプセル(軟カプセル、硬カプセル)、粉末、顆粒、スティック、ゼリーなどが挙げられる。なお、「特定保健用食品」とは、機能等を表示して食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。
【0036】
また、上記の方法で得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物又はキサントフモール含有組成物は、食品用添加剤として、通常の飲食品に含有せしめてもよい。その飲食品としては以下のようなものが挙げられる。
【0037】
即ち、飯類、麺類、パン類およびパスタ類等の炭水化物系の食品;クッキーやケーキなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルトやプリンなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%以下のノンアルコールビール、発泡酒、酎ハイなどのアルコール飲料;果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、清涼飲料水、牛乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、コーヒー、ココア、茶飲料、栄養ドリンク、スポーツ飲料、ミネラルウォーターなどの非アルコール飲料;卵を用いた加工品、魚介類(イカ、タコ、貝、ウナギなど)や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味を含む)などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明のより好ましい態様によれば、上記キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物含有せしめる飲食品として、アルコール飲料(ビール、発泡酒等)や非アルコール飲料(例えば、清涼飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、茶飲料、乳飲料、ノンアルコールビールテイスト飲料等)が挙げられる。このとき、本発明の組成物に含まれるキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体は、水溶性であるため、これらの飲料に添加しても安定した溶解状態を保つことができる。
【0039】
上記キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物を、食品用添加剤として、飲食品に含有せしめる際の含有量に特に制限がなく、目的に応じて適宜選択すればよいが、典型的には例えば、固形中にキサントフモール換算で0.1〜10.0質量%であり、より好ましくは固形中にキサントフモール換算で0.1〜5.0質量%である。また、上記キサントフモール含有組成物についても、食品用添加剤として、飲食品に含有せしめる際の含有量に特に制限がなく、目的に応じて適宜選択すればよいが、典型的には例えば、固形中にキサントフモール換算で0.1〜10.0質量%であり、より好ましくは固形中にキサントフモール換算で0.1〜5.0質量%である。
【実施例】
【0040】
以下に例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。なお、「%」の記載は特記しない限り「W/W%」を示すものとする。
【0041】
<試験例1>(pH条件の検討 その1)
ホップ抽出物と、β−シクロデキストリン(以下「β−CD」とする)とを、中性またはアルカリ性の各pH条件の水中で接触させた際のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体の生成効率を比較した。
【0042】
即ち、ホップ抽出物(商品名「Xantho Flav Extract」、キサントフモール1.8〜2.0%含有、Hopsteiner社製)の500mgを量り取り、pH7.0緩衝液(リン酸 buffer,10mM)、pH10.0 緩衝液(炭酸-重炭酸 buffer, 10mM))(以上、CD未添加区)、又は各緩衝液にβ−CD(商品名「セルデックス B−100」、日本食品化工株式会社製)を2W/V%の濃度で添加したβ−CD溶液(CD添加区)を、それぞれ160mL調製し、これらを上記ホップ抽出物500mgに加えて10〜30秒程度攪拌混合し、30℃で一日保存した後、0.45μmのフィルターで濾過して、溶液の上清を下記条件にてHPLCに供した。
【0043】
(HPLC条件1:キサントフモール分析用)
・カラム:Develosil RPAQUEOUS−AR−5 (φ4.6×250mm)
・溶離液:70V/V%アセトニトリル水(0.1%ギ酸含有)
・カラム温度:40℃
・流速:0.6mL/min
・注入量:50μL
・検出器:UV (370nm)
【0044】
純品キサントフモール(ALEXIS biochemicals社製:Lot No. 350-280-M005)の0〜120μmg/mL溶液を用いて作成した検量線を基にしてHPLC結果より溶液の上清中のキサントフモール含量(mg)を算出し、下記式(1)によりキサントフモール可溶化率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0045】
キサントフモール可溶化率(%)=(溶液の上清中のキサントフモール含量/溶液全体に含まれるキサントフモール量※1)×100 …(1)
(※1:ホップ抽出物中のキサントフモール含量を2.0%とし、溶液全体に含まれるキサントフモール量(mg)を算出した。)
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、pH7.0の条件において、CD未添加区ではHPLCによるキサントフモールのピークが検出限界以下であり、ホップ抽出物からのキサントフモール可溶化率が0%であった。これに対し、CD添加区では15%程度のキサントフモール可溶化率を示し、これらはすべて包接複合体の形態で可溶化しているものと考えられた。よって、キサントフモールがほとんど溶解しない中性条件において、シクロデキストリンによるホップ抽出物からのキサントフモールの可溶化により、効率よくキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体が形成されることが明らかとなった。
【0048】
一方で、pH10.0の条件においては、CD未添加区でキサントフモール可溶化率が23.6%であり、CD添加区では27.7%であり、可溶化率に大きな差が見られず、CD添加の寄与は限定的であったことから、中性条件下の試験区と比べキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体の形成効率が大幅に劣ることが明らかとなった。これは、もともとキサントフモールがアルカリ性溶液に可溶であり、アルカリ性溶液に溶解したキサントフモールそのものの形でホップ抽出物から抽出されるので、包接複合体の形成が、可溶化率の向上への寄与が乏しいためであると考えられた。
【0049】
溶液中においてシクロデキストリンがゲスト分子を包接するには、シクロデキストリン、ゲスト分子共に可溶化した状態であることが必要なため、ゲスト分子が可溶化し易い条件にてシクロデキストリンとの包接複合体を形成させるのが一般的である。例えば、特公57−56888号公報には、ヨウ素をシクロデキストリンで包接する技術が記載されているが、当該技術では少量のヨウ化カリウムを添加してゲスト分子であるヨウ素を可溶化した後、シクロデキストリンと包接している。特表平7−509498号公報には、ニメスライド塩をシクロデキストリンで包接する技術が記載されているが、当該技術では溶液のpHを7〜9.5のアルカリ性としてゲスト分子であるニメスライド塩を可溶化した後、シクロデキストリンと包接している。更に、特表2011−512346号公報には、キサントフモールと同じ疎水性ポリフェノールであるクルクミンをシクロデキストリンで包接し可溶化する技術が記載されているが、当該技術に置いてもpH11以上の水酸化ナトリウム溶液にゲスト分子であるクルクミンを溶解した後、シクロデキストリンと包接している。以上のようにゲスト分子が可溶化し易い条件にて溶解させた後、シクロデキストリンと包接させるケースが多く、あえてゲスト分子がほとんど可溶化しない条件にてシクロデキストリンと包接させることにより、包接複合体が多量に得られた本発明の試験結果は、予想外のものであった。
【0050】
また、上記特許文献3,4に記載の方法のように、pH10〜12のアルカリ条件下にて可溶化したキサントフモールをシクロデキストリンに包接する方法の場合、包接複合体とフリーのゲスト分子とが混在し、フリーのゲスト分子を含まない包接率の高い組成物とするためには、何らかの工程を経てそれらを分離する必要がある。これに対して、本発明の方法によれば、未包接のキサントフモールを含まないかほとんど含まないキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物を、未包接キサントフモールの分離のための工程などを経ることなしに、効率よく製造できるものと考えられた。
【0051】
<試験例2>(pH条件の検討 その2)
各緩衝液(反応液)のpHを1.0〜8.0に調整したこと、およびホップ抽出物(商品名「Xantho Flav Extract」、キサントフモール1.8〜2.0%含有、Hopsteiner社製)量を400mgに変更したこと以外は試験例1と同様の試験を実施し、各pHにおけるキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体の生成効率を比較した。なお、各pHの調整には、それぞれpH1.0:塩酸、pH2.0:塩酸、pH3.0:20mMクエン酸緩衝液、pH4.0:20mMクエン酸緩衝液、pH5.0:20mM酢酸緩衝液、pH6.0:20mMリン酸緩衝液、pH7.0:20mMリン酸緩衝液、pH8.0:20mMリン酸緩衝液を用いた。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、pH1.0〜7.0の試験区において、CD未添加区ではキサントフモールの可溶化率が0%(HPLCにおける検出限界以下)であったのに対し、CD添加区のキサントフモールの可溶化率は13〜20%程度であった。また、pH8.0の試験区において、CD未添加区ではキサントフモールの可溶化率が0.5%と僅かしか可溶化しなかったのに対して、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体の形成効率は15.6%であった。
【0054】
これらの結果から、pH1.0〜8.0付近のpH範囲においても、試験例1の結果と同様に、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体が効率よく形成されることが示された。また、特にpH4.0〜5.0付近のpH範囲において、可溶化率が高いことが明らかとなった。
【0055】
<試験例3>(シクロデキストリンの検討)
包接複合体の形成に用いるシクロデキストリンの種類を検討した。即ち、ホップ抽出物(商品名「Xantho Flav Extract」、キサントフモール1.8〜2.0%含有、Hopsteiner社製)の10mgを量り取り、α−CD(商品名「セルデックス A−100」、日本食品化工株式会社製)、β−CD(商品名「セルデックス B−100」、日本食品化工株式会社製)、又はγ−CD(商品名「セルデックス G−100」、日本食品化工株式会社製)の水溶液(2W/V%、pH5.9)を、それぞれ10mL調製し、これらを上記ホップ抽出物10mgに加えて10〜30秒程度攪拌混合し、30℃で一日保存した後、溶液の上清を上記HPLC条件にて分析し、試験例1と同様にキサントフモール可溶化率を算出した。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
表3に示すように、β−CDを用いた試験区では30%以上のキサントフモール可溶化率を示したのに対し、α−CDおよびγ−CDを用いた試験区ではいずれもキサントフモール可溶化率が0%であった。なお、一般にシクロデキストリンによるゲスト分子の包接は、シクロデキストリンの空洞のサイズ及びゲスト分子のサイズ又はゲスト分子の構造の一部のサイズが一致する場合に起こり得る。シクロデキストリンは誘導体化してもその空洞サイズはほとんど変化しないため、β−CDおよびその誘導体であればいずれも包接複合体が効率よく形成されるものと考えられた。よって、酸性〜中性条件にてホップ抽出物からキサントフモールを可溶化して、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を効率的に得るには、シクロデキストリンとしてβ−CD、又はその誘導体を用いる必要があることが示された。
【0058】
<試験例4>(温度条件の検討)
ホップ抽出物(商品名「Xantho Flav Extract」、キサントフモール1.8〜2.0%含有、Hopsteiner社製)の500mgを量り取り、β−CD(商品名「セルデックス B−100」、日本食品化工株式会社製)の2W/V%溶液(pH5.9)を160mL調製し、これを上記ホップ抽出物500mgに加えて10〜30秒程度攪拌混合し、30℃、50℃、又は74℃で一日保存した後、溶液の上清を上記HPLC条件にて分析し、試験例1と同様に包接複合体生成率を算出した。結果を表4及び図1に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
表4及び図1に示すように、50℃に保持した試験区が、最も高いキサントフモール可溶化率を示し、包接複合体が効率よく得られた。
【0061】
<試験例5>(シクロデキストリン添加量の検討)
ホップ抽出物(商品名「Xantho Flav Extract」、キサントフモール1.8〜2.0%含有、Hopsteiner社製)の500mgを量り取り、β−CD(商品名「セルデックス B−100」、日本食品化工株式会社製)を0W/V%、2W/V%、又は5W/V%の濃度となるよう純水に溶解した溶液(pH5.9)を、それぞれ160mL調製し、これらを上記ホップ抽出物500mgに加えて10〜30秒程度攪拌混合し、50℃に一日保存した後、溶液の上清を上記HPLC条件にて分析し、試験例1と同様にキサントフモール可溶化率を算出した。結果を表5及び図2に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
表5及び図2に示すように、β−CD添加量を2W/V%とした試験区に比べ5W/V%とした試験区のほうがキサントフモール可溶化率は高かった。そして、この方法によれば、シクロデキストリンの添加量や温度条件を好適化することにより、ホップ抽出物からキサントフモールを可溶化して、キサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を得る効率を、70%以上にまで高めることができることが示された。
【0064】
<試験例6>(ホップ抽出物の温水洗浄処理)
ホップ抽出物(商品名「Xantho Flav Extract」、キサントフモール1.8〜2.0%含有、Hopsteiner社製)の1gを量り取り、10mLの温水(20、40、および60℃)を加え、よく混和して懸濁液とした。得られた懸濁液を濾紙でろ過し、不溶物をろ取した。同様の洗浄操作を1〜10回繰り返し、各洗浄操作ごとに、ろ液中に含まれるキサントフモール以外の夾雑物成分を、下記HPLC条件にて分析した。結果を図3に示す。
【0065】
(HPLC条件2:キサントフモール以外の夾雑物成分の分析用)
・カラム:Asahipak NH2P−50 4E (φ4.6×250mm)
・溶離液:60V/V%アセトニトリル水
・カラム温度:30℃
・流速:1.0mL/min
・注入量:10μL
・検出器:RI
【0066】
図3に示すように、キサントフモール以外の夾雑物成分のろ液中への溶出量は、60℃の温水を用いた場合に最も多かった。また、洗浄回数の増加に伴い洗浄液に含まれる量が減少し、各温度とも、6回程度の洗浄でろ液中への溶出が見られなくなった。なお、後述の試験例7から明らかなように60℃の温水で6回洗浄処理をしてもキサントフモール含量は2%しか低下しないことから、温水洗浄処理により溶出されるキサントフモールはごく微量であることがわかる。よって、ホップ抽出物を温水洗浄処理することで夾雑物を取り除き、より効率的にキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を製造することができることが明らかとなった。
【0067】
<試験例7>(吸着樹脂分画処理による高純度キサントフモールの製造)
ホップ抽出物(商品名「Xantho Flav Extract」、キサントフモール1.8〜2.0%含有、Hopsteiner社製)の50gを量り取り、500mLの温水(60℃)を注ぎ、よく混和し洗浄した後に固形分をろ取した。ろ取した固形分を同様の操作にて6回洗浄し、風乾することで洗浄ホップ抽出物45.4gを得た。この洗浄ホップ抽出物の30gに、10W/V%の濃度のβ−CD(商品名「セルデックス B−100」、日本食品化工株式会社製)懸濁液3000mL(pH5.9)を添加し、60℃で2時間撹拌混合を行った。室温で一晩静置した後、ろ過し、固形物を取り除いてキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有溶液を得た。これを吸着樹脂(商品名「HP2MG」、三菱化学社製)(500mL、φ5.0×50cm)に通液後、40mL/minの流速で純水、40%エタノール水溶液、60%エタノール水溶液、100%エタノールの順で、それぞれ2500mLを通液した。得られた溶出溶液について、下記のHPLC条件にてキサントフモール含量を分析した。また、100%エタノールにより溶出した溶出液は、エバポレーターにて濃縮乾固して乾燥物を回収した。なお、キサントフモール含量は、試験例1と同様に、純品キサントフモール溶液を用いて作成した検量線を基にしてHPLCの結果より算出した。
【0068】
(HPLC条件3:キサントフモール分析用)
・カラム:Develosil RPAQUEOUS−AR−5 (φ4.6×250mm)
・溶離液:70V/V%アセトニトリル水(0.1%ギ酸含有)
・カラム温度:40℃
・流速:0.6mL/min
・注入量:10μL
・検出器:UV (370nm)
【0069】
その結果、上記方法により純水、40%エタノール水溶液、60%エタノール水溶液および100%エタノールの各溶出液中に回収されたキサントフモールの純度はそれぞれ、0%、15.1%、62.2%および93%であった。すなわち、100%エタノールで溶出させることにより上記引用文献1,2に記載されている高純度キサントフモール(純度60〜90%)と比べて純度の高いキサントフモールを得ることができた。
【0070】
また、ホップ抽出物を温水洗浄、β−CD溶液での抽出、及び吸着樹脂による精製を行った際の、各工程におけるキサントフモールの回収率について、同様にHPLCの結果より算出した。結果を表6に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
その結果、ホップ抽出物に含まれるキサントフモールの回収率は、温水による洗浄及びβ−CD溶液での抽出において、それぞれ98%及び91%と高い値であった。一方、吸着樹脂による精製において、キサントフモール回収率は48%となり、ホップ抽出物からの全体の回収率は42%となった。
【0073】
これらの結果から、ホップ抽出物を温水洗浄し、β−CD溶液と混合してキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体を得る後、吸着樹脂処理を行うことで、原料のホップ抽出物に対して約40%の効率で90% 以上の純度を有するキサントフモールを得られることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを、pH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中で混合し、ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物中に含まれるキサントフモールを、β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体との包接複合体として可溶化させることを特徴とするキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、前記β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体の水溶液とを混合する請求項1記載のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、前記β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを含有する混合液の温度を20〜65℃に維持した状態で混合する請求項1又は2記載のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、前記β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを含有する混合液中のβ−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体の含量が0.1〜10W/V%となるようにする請求項1〜3のいずれか1つに記載のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物と、前記β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とを、pH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中で混合した後、固液分離して液部を採取し、濃縮するか、あるいは、そのまま又は濃縮して噴霧乾燥又は凍結乾燥することにより粉末化する請求項1〜4のいずれか1つに記載のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ホップ破砕物及び/又はホップ抽出物を温水で洗浄した後に、前記β−シクロデキストリン及び/又はβ−シクロデキストリン誘導体とpH1.0〜8.5の水及び/又は親水性溶媒中で混合する請求項1〜5のいずれか1つに記載のキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの方法でキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物を得、これを吸着樹脂に処して吸着させた後、キサントフモールを溶出することを特徴とするキサントフモール含有組成物の製造方法。
【請求項8】
キサントフモール純度90〜99.9%のキサントフモール含有組成物を得る請求項7記載のキサントフモール含有組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1つの方法で得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物。
【請求項10】
請求項7又は8の方法で得られたキサントフモール含有組成物。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1つの方法で得られたキサントフモール/シクロデキストリン包接複合体含有組成物を含有する飲食品。
【請求項12】
請求項7又は8の方法で得られたキサントフモール含有組成物を含有する飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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