説明

キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス耐性アブラナ属植物およびそれらの調製

本発明は、キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス(Xanthomonas campestris pv.campestris)(Xcc)耐性アブラナ属(Brassica)植物、およびそれらの種子、果実および/または植物部位、ならびにそれらの調製方法に関する。詳細には、本発明は、Xcc耐性キャベツ(Brassica oleracea)植物、およびそれらの種子、果実および/または植物部位、ならびにそれらの調製方法に関する。さらに、本発明は、量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Loci:QTL’s)を同定するための、本Xcc耐性および分子マーカー、特別にはランダム増幅マイクロサテライト多型(RAMP)マーカーを提供するQTL’sに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス(Xanthomonas campestris pv.campestris)(Xcc)耐性アブラナ属(Brassica)植物、およびそれらの種子、果実および/または植物部位、ならびにそれらの調製方法に関する。詳細には、本発明は、Xcc耐性キャベツ(Brassica oleracea)植物に関する。本発明は、これらの耐性植物由来の種子、果実、および/またはその他の植物部位にさらに関する。さらに、本発明は、本Xcc耐性を提供する量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Loci:QTL’s)、および本QTL’sを同定するための分子マーカー、特別にはランダム増幅マイクロサテライト多型(RAMP)マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物のキサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリスは、十字花科(Cruciferae)における黒斑病の一番の原因物質である。世界中で、この微生物はおそらく十字花科の疾病の主要病原体である。黒斑病は、一般にヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、アジア、オーストラリアおよびオセアニアの一部において見出される。この細菌性疾病についての主要宿主植物は、キャベツである。しかし黒斑病は、他の十字花科、雑草および観賞植物においても見出される。
【0003】
キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリスによる感染は、一般に葉の排水組織を通して、または一部の場合には気孔もしくは損傷部を通して発生する。一次感染後、この微生物は維管束を通して拡がり、それによって葉における黒色葉脈およびV形病変を誘発する。結果として、葉の一部、または複数の部分は枯れて黄変する。
【0004】
キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリスは、発生初期に種子由来の植物を感染させることができる種子伝染性疾病である。本微生物は、3年間までの期間にわたって種子上で生残することができる。本微生物による感染は、さらにまた植物部位貯蔵室、第2宿主植物および潅漑システムを通して発生することができる。
【0005】
化学物質によるこの疾病の管理は不可能である。この疾病に対抗するために利用できる最適な対策は、疾病を生じさせない、すなわち微生物を含まない出発材料の使用および衛生対策、例えば感染した宿主植物の除去である。疾病を生じさせない出発材料は、病原体を含まない種子の使用または感染した種子を物理的に処置するステップによって入手できる。成長期中にもXcc感染を発生しないままでいる耐性植物種の使用および入手可能性は、健常植物、すなわちXccを含まない植物を栽培するために強く好ましい。
【0006】
アブラナ属は、アブラナ科(Brassicaceae)(以前は、十字花科と称された)の1植物属である。この植物属のメンバーは、キャベツまたはカラシナとしても公知である。アブラナ属は、セイヨウアブラナ、カリフラワー、赤キャベツ、サボイキャベツ、白キャベツ、オックスハートキャベツ、カーリー・ケールキャベツ、ブロッコリー、芽キャベツ、ハクサイ、カブカンラン(turnip cabbage)およびポルトガルキャベツ(トロンチューダ(tronchuda))を含む、多数の重要な農作物および園芸作物を含んでいる。
【0007】
アブラナ属植物の多数の植物部位、例えば根(カブ)、茎(カブカンラン)、葉(例えば、白および赤キャベツ)、腋芽(芽キャベツ)、花(カリフラワー、ブロッコリー)などは消費のために使用される。さらに、セイヨウアブラナおよび菜種もまた、植物油を提供するために使用される。白色もしくは紫色の花、または特異的な色もしくは形状の葉を備える一部の種は、観賞目的のために栽培される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
食品製造のためのアブラナ属植物の重要性およびキサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス感染に関連する経済的損失を考慮に入れると、本発明の幾つかある目的の中でも特に1つの目的は、Xcc耐性アブラナ属植物およびその調製方法を提供することである。
【0009】
Xcc耐性アブラナ属植物に対する必要性は、黒斑病を管理するための適正な費用効果的で効率的な手段の非存在によってさらに指摘される。例えば、本細菌に対して利用できる殺生物剤は存在しない。
【0010】
本発明の幾つかの目的の中でも特に上述の目的は、添付の特許請求項1に規定されたXcc耐性アブラナ属植物を提供するための方法によって満たされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
詳細には、特に本発明の上述の目的は、キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリスアクセプター植物を提供するための方法であって、
−ゲノム内に量的形質遺伝子座1(QTL1)を含む第1キャベツドナー植物を選択するステップと、
−ゲノム内に量的形質遺伝子座2(QTL2)を含む第2キャベツドナー植物を選択するステップと、
−アブラナ属アクセプター植物中において、第1ドナー植物由来の量的形質遺伝子座1(QTL1)および第2ドナー植物由来の量的形質遺伝子座2(QTL2)を遺伝子移入する、またはゲノム的に組み合わせるステップとを含み、
このとき、
量的形質遺伝子座1(QTL1)は、配列番号1およびプライマー6のプライマー組み合わせによる158〜162bpのフラグメント;配列番号2およびプライマー6のプライマー組み合わせによる283〜287bpのフラグメント;配列番号3およびプライマー6のプライマー組み合わせによる370〜374bpのフラグメント;ならびに配列番号4およびプライマー6のプライマー組み合わせによる41〜45bpのフラグメントからなる群から選択される1つ以上のRAMPマーカーを特徴とし、
量的形質遺伝子座2(QTL2)は、配列番号5およびプライマー6のプライマー組み合わせによる88〜92bpのフラグメント;配列番号6およびプライマー6のプライマー組み合わせによる125〜129bpのフラグメント;配列番号7およびプライマー6のプライマー組み合わせによる334〜338bpのフラグメント;ならびに配列番号8およびプライマー6のプライマー組み合わせによる47〜51bpのフラグメントからなる群から選択される1つ以上のRAMPマーカーを特徴とし、かつ、
このときアブラナ属アクセプター植物は、そのゲノムに関して、第1および第2アブラナ属ドナー植物と同一ではない、方法によって満たされる。
【0012】
本発明の第1態様によると、第1および第2ドナー植物を選択または同定するステップは、各ドナー植物のゲノム内の本Xcc耐性に関連する量的形質遺伝子座(QTL’s)の存在を決定することによって提供される。
【0013】
上記のような決定は、好ましくは一般に当分野において公知である標準分子生物学技術を使用することによって提供することができる。これらの技術の1つの例は、潜在的ドナー植物のゲノムDNAを単離するステップを含み、その後には例えばPCR、DNAフィンガープリンティングまたはサウザンブロットによって単離されるゲノム内の関連量的形質遺伝子座(QTL)の存在の決定が続く。
【0014】
各ドナー植物のゲノム内における本遺伝子座を同定するために特に好ましい方法は、当技術分野においてランダム増幅マイクロサテライト多型もしくはRAMPと呼ばれるDNAフィンガープリンティング技術である。この技術によると、PCR反応、または核酸増幅反応は、本プライマー(配列番号1〜8)およびRAPDプライマー(Operon RAPD 10−merキットA−01〜BH−20)を使用することによってドナー植物の単離ゲノム材料上で実施される。
【0015】
PCR反応後、得られた増幅産物は、例えば、ゲル電気泳動法によって分離することができ、塩基対中のそれらのサイズは、例えば分子塩基対ラダー(molecular basepair ladder)を使用することによって決定できる。本発明による量的形質遺伝子座1および2(QTL1およびQTL2)は、耐性を示さない潜在的な複数の他のサイズを備える他のバンドに加えて、少なくとも示唆された塩基対サイズを備えるバンドの存在を特徴とする。
【0016】
適切なドナー植物を選択した後、ドナー植物中で同定された遺伝子座(QTL1およびQTL2)は、所望のアクセプター植物のゲノム内に導入する、またはゲノム的に結合させることができる。これは、例えば標準異種交配、または遺伝子移入を使用して提供することができ、このとき本QTL’sの遺伝的形質は、好ましくは上述したマーカーの存在を決定することを通して、子孫において決定される。特に好ましい技術は、好ましくはマーカー分析と組み合わせた繰り返し戻し交配である。
【0017】
本発明によると、アブラナ属アクセプター植物は、そのゲノムに関して、第1および第2アブラナ属ドナー植物と同一ではない。この状況では、これはドナーおよびアクセプター植物のゲノムを示すドナーおよびアクセプター植物間の相違する表現型を確立することによって、または一般ゲノム解析を通して容易に決定することができる。
【0018】
したがって、本発明による用語「そのゲノムに関して、同一ではない」は、ドナー植物とアクセプター植物との間における、Xcc耐性に関連しない1つ以上の表現型の相違を示す。言い換えると、本アクセプター植物は、当技術分野において一般には相違する植物であると見なされる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によると、第1アブラナ属ドナー植物および第2アブラナ属ドナー植物は、それらのゲノムに関して同一である。これは、第1および第2ドナー植物を選択するステップが、そのゲノム内にQTL1およびQTL2の両方を含む1つのドナー植物を選択するステップを含むことを意味する。言い換えると、この好ましい実施形態は、QTL1およびQTL2の両方を有する適切なアブラナ属ドナー変種を同定し、その後に所望のアブラナ属アクセプター植物中にQTL1およびQTL2を導入し、それによってこのアクセプター植物にXcc耐性を提供するステップを含んでいる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によると、量的形質遺伝子座1(QTL1)は、プライマー1.1(配列番号1)および6の組み合わせによる160bpのフラグメント;プライマー1.2(配列番号2)および6の組み合わせによる285bpのフラグメント;プライマー1.3(配列番号3)および6の組み合わせによる372bpのフラグメント;ならびにプライマー1.4(配列番号4)および6の組み合わせによる43bpのフラグメントからなる群から選択される1つ以上のRAMPマーカーを特徴とする。
【0021】
本発明のまた別の好ましい実施形態によると、量的形質遺伝子座2(QTL2)は、プライマー2.1(配列番号5)および6の組み合わせによる90bpのフラグメント;プライマー2.2(配列番号6)および6の組み合わせによる127bpのフラグメント;プライマー2.3(配列番号7)および6の組み合わせによる336bpのフラグメント;ならびにプライマー2.4(配列番号8)および6の組み合わせによる49bpのフラグメントからなる群から選択される1つ以上のRAMPマーカーを特徴とする。
【0022】
本発明の特に好ましい実施形態によると、ドナー植物を選択するステップは、分子生物学技術によって、各アブラナ属ドナー植物のゲノム内の各QTLに対する1つ以上、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上、および最も好ましくは4つの本発明のRAMPマーカーの存在を決定する、または同定するステップを含んでいる。
【0023】
本発明の最も好ましい実施形態によると、選択または同定するステップは、第1および第2アブラナ属ドナー植物中のホモ接合性量的形質遺伝子座1および2(QTL’s 1および2)を選択するステップをさらに含んでいる。
【0024】
本発明によるアブラナ属アクセプター植物は、好ましくはキャベツ植物であり、好ましくはBrassica oleracea convar.botrytis var.botrytis(カリフラワー、ロマネスコ)、Brassica oleracea convar.botrytis var.cymosa(ブロッコリー)、Brassica oleracea convar.botrytis var.asparagoides(ブロッコリー)、Brassica oleracea convar.oleracea var.gemnifera(芽キャベツ)、Brassica oleracea convar.capitata var.alba(白キャベツ、オックスハートキャベツ)、Brassica oleracea convar.capitata var.rubra(赤キャベツ)、Brassica oleracea convar.capitata var.sabauda(サボイキャベツ)、Brassica oleracea convar.acephela var.sabellica(カーリー・ケールキャベツ)、Brassica oleracea convar.acephela var.gongyloides(カブカンラン)およびBrassica oleracea var.tronchuda syn.costata(ポルトガルキャベツ)からなる群から選択される。
【0025】
上述したXcc耐性アブラナ属植物の利点を考慮すると、本発明は、また別の態様によると、そのゲノム内に上記に規定した量的形質遺伝子座1(QTL2)および量的形質遺伝子座2(QTL2)を含む上記に規定したアブラナ属アクセプター植物、ならびにそれらの種子、果実および/またはその他の植物部位に関する。
【0026】
この態様の特に好ましい実施形態によると、本発明は、受託番号NCIMB41553を備えるアブラナ属植物ならびにそれらの種子、果実および/またはその他の植物部位に関する。
【0027】
さらにまた別の態様によると、本発明は、上記に規定した、キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス耐性アブラナ属アクセプター植物を提供するための、量的形質遺伝子座1(QTL1)および量的形質遺伝子座2(QTL2)の使用に関する。
【0028】
また別の態様によると、本発明は、本キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス耐性アブラナ属植物を提供するための、配列番号1〜8(それぞれ、プライマー1.1、1.2、1.3、1.4、2.1、2.2、2.3、および2.4)からなる群から選択される1つ以上のプライマーの使用に関する。
【0029】
以下では、好ましい実施形態の実施例を使用して、本発明をさらに説明する。この実施例は、単に例示することを目的としていて、決して添付の特許請求項に記載した本発明の範囲を限定することは意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】Xcc耐性およびXcc感受性アブラナ属が存在するフィールド試験を示す図である。
【図2】図1に示した同一画像をフルカラーで示した図である。
【実施例】
【0031】
キャベツへのキサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス(Xcc)耐性の品種改良は、複雑なプロセスである。Xccの数種の変種は記載されていて、Xcc耐性は一般にキャベツでは観察されない。本明細書に記載したXccに対するキャベツの耐性は定量的性質であり、すなわち、耐性およびそのレベルは遺伝的背景に左右される。これは、幾つかの遺伝子がこの耐性に関与することを意味していて、結果としてXccに対する耐性度を観察できる。
【0032】
定性的耐性キャベツ植物、すなわち耐性が遺伝的背景から独立して観察されるキャベツ植物を入手するためには、耐性が本質的に劣性である遺伝源が使用される。戻し交配のプログラムを通して、耐性は様々な遺伝的背景(感受性親系)に導入される。植物の耐性レベルは、フィールド試験によって決定される。関与する形質は劣性であるので、感受性植物との各交配の後には、ホモ接合形にある形質を入手するための同系交配世代が続く。この世代の子孫については、フィールド試験においてそれらの耐性レベルについて試験されなければならない。結果として、新規な交配の効果を視認するためには、一年生植物については少なくとも2年間、および二年生植物については少なくとも4年間を要することになる。
【0033】
関与する耐性は耐性の様々なレベルとして表示することができるので、耐性は定量的数値で表示される(0〜9のスケール上(このとき0は完全感受性を表し、9は完全耐性を表す))。様々な遺伝的背景における耐性は、単純メンデル遺伝の代わりに、正常分布内での表現型等級付けを示すことが証明された。この分布は感受性側にシフトする可能性があり、これは同系交配世代が耐性源と様々な感受性親系との間の交配から様々なレベルの耐性植物を提供することを意味する。
【0034】
植物の耐性レベルは幾つかの遺伝因子または量的形質遺伝子座によって決定されることが、分離比および耐性レベルの相違に基づいて証明された。量的形質遺伝子座を示す、または代表するDNAマーカーを同定するためには、QTL分析が使用されることが多い。QTL’sは、独立染色体領域であり、基礎遺伝子と結び付けられると、一緒に遺伝形質を説明する、または指示する。
【0035】
DNAマーカーを使用して、様々な遺伝的背景を有するキャベツ集団を対象に、全ゲノムにわたるQTL分析を実施した。これらの様々な集団の植物を用いて、個別植物の耐性レベルを決定するためにフィールド試験を実施した。マーカー分析のデータおよびフィールド試験のスコアは、観察されたXcc耐性の原因となるQTL’sの同定を可能にした。
【0036】
総計すると、6つの独立した遺伝性QTL’sが、ある程度は、観察された耐性レベルに寄与すると同定された。フィールド試験において植物間で観察された耐性レベルのばらつきは、QTL’sおよびそれらの様々な組み合わせの存在および/または非存在の結果である。同定された6つのQTL’s中、本明細書でQTL1およびQTL2と命名した2つのQTL’sは、耐性を提供する各遺伝的背景において存在した。言い換えると、これら2つのQTL’sは定性的耐性を示しているが、QTL’sの残り4つは定量的耐性に寄与すると思われる。これらのQTL’s中の1つ、すなわちQTL1は主要QTL、すなわち観察された耐性への最大寄与を提供するQTLであると見なすことができる。
【0037】
品種改良プロセスによって得られた各キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス耐性同系交配系統は、この主要QTLを有する。第2QTLは、主要QTLに類似して、定量的耐性レベルに寄与する。しかしこの寄与は主要QTLほど大きくないが、この寄与もまた同様に遺伝的背景から独立している。
【0038】
残り4つのQTL’sは、相違する遺伝的背景において見出される。これら4つのQTL’sは、耐性レベルのばらつきを生じさせる修飾する役割を有する可能性がある。
【0039】
これを以下の表1に例示したが、この表のキャベツ植物1〜6はこれらの観察を例示するための実施例である。
【0040】
【表1】

【0041】
2つの主要QTL’s、すなわちQTL1およびQTL2に関連するDNAマーカーの使用は、Xccに耐性である植物を選択する機会を提供した。
【0042】
疾病試験のみによっては、ホモ接合性形態にある両方のQTL’sを有する植物は、本質的には提供されないと思われる。この疾病試験は、さらにまた本質的には安定性耐性を提供しないと思われるヘテロ接合体形にある1つ以上のQTL’sを有する高耐性レベルを備える植物を生じさせることができる。
【0043】
数千種を超える植物を用いた疾病試験を実施することは、限定数の交配についてしか可能ではない。しかしDNAマーカーの使用は、所望の植物を予備選択するために1,000種の植物からなるより多くの集団を分析する機会を提供した。
【0044】
これに加えて、DNAマーカーを使用して選択するステップは、さらにまた2つの主要QTL’sが維持される繰り返し戻し交配を実施する機会を提供した。この方法は1交配世代に付き1または2年を獲得したが、これは品種改良プログラムの10〜20年間の加速を意味する。この迅速な方法は、雑種内への新規なXcc耐性の加速された導入を生じさせる。
【0045】
雑種の生産における追加の複雑化因子は、両方の親における劣性耐性の存在が必要とされることである。好ましくは、両方の親系、もしくはドナー植物は、2つの主要QTL’sに対してホモ接合性である。DNAマーカーを使用することによって、2つの主要QTL’sに対してホモ接合性である、したがって新規な耐性雑種を生産するために適合する親の同定は、比較的短期間で実施できる。
【0046】
当該の雑種の種子は、NCIMB(英国、スコットランド、アバディーン(Aberdeen,Scotland,UK)、AB21、9YA)に受託番号NCIMB41553を付けて寄託されている。
【0047】
2つの主要QTL’sは、どちらも起源内において存在することを特徴とする4つのDNAマーカーを特徴とする。QTL1は主要QTLであり、QTL2は副QTLである。
【0048】
DNAマーカーは、RAMP技術によって生成された。iSSRおよびRAPDプライマーが結合されるRAMP技術は、その中で耐性とともに特異的に分離する1つ以上のDNAフラグメントを含むバンドパターンを提供する。RAMPフラグメントおよび表現型耐性スコアをマッピングすることによって、QTLを同定する密接に関連したRAMPマーカーが同定された(表2)。QTL内のDNAマーカー間の遺伝距離は、cM(センチモルガン)によって表される。
【0049】
DNAマーカーを生成するために使用した一般PCR条件は以下の通りであった:
【0050】
<RAMP反応のためのPCRミックス>
反応1回に付き
約0.2ng/μLの植物ゲノムDNA
75mMのTris−HCL(pH8.8)
20mMのNHSO
0.01%(v/v)のTween20
2.8mMのMgCl
0.25mMのdNTPs
0.15μMのフォワードプライマー
0.20μMのリバースプライマー
0.04単位/μLのRed Hot(登録商標)DNAポリメラーゼ(ABgene社、エプソム(ABgene,Epsom))
【0051】
<PCRプログラムRAPD35>
サイクル数
ステップ1:2分間、93℃ 1
ステップ2:30秒間、93℃
ステップ3:30秒間、35℃
ステップ4:0.3℃/分で72℃へ加熱する
ステップ5:1分30秒間、72℃
ステップ2〜5を繰り返す 40
ステップ6:5分間、72℃ 1
【0052】
<PAGE/Licor社(Licor)>
RAMPパターンを分析するために、「Gene ReadIR 4200 DNA分析装置」(Licor社(Licor Inc.))を利用した。6.5%アクリルアミドの最適濃度に基づいて、単一塩基のサイズに相違を有するフラグメントを分離することができる。
【0053】
この系においてフラグメントを視認するためには、標識された(IRDye標識)プライマーを使用することが必要である。このために、フォワードプライマーの量の1/3を同一配列を備える標識されたプライマーと置換した。
【0054】
<マーカーの概説>
本発明をもたらした研究では、表2に示したDNAマーカーを生成するために、表3に示したプライマーを使用した。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
様々なプライマー組み合わせを用いたPCR反応は、各QTLの存在を表す既定の塩基対サイズを備える核酸フラグメントを提供する(表2を参照)。これらのDNAマーカーは、関係するQTL’sについて特徴的、または指示的である。QTLを特徴付けるこれらのDNAマーカーの組み合わせは、ドナー植物内のXcc耐性起源由来のQTL遺伝子移入の存在について疑う余地のない証拠を提供する。
【0058】
<用語の定義>
cM−センチモルガン:100個体当たりの交叉回数に基づく、マーカー間の遺伝距離についての単位。
DNAマーカー:1つの遺伝子に関連づけられるDNAフラグメント、または当該遺伝子もしくは位置の継承を監視するために使用される、ゲノム上に公知の場所に位置する別のDNAフラグメント。
ゲル電気泳動法:分子(DNA、RNA、タンパク質)をそれらのサイズ、形状もしくは電荷に基づいて、電場の影響下にあるマトリックス(アガロースまたはポリアクリルアミド)中で分離するための方法。
同系交配世代(自家受粉):自家花粉を用いた個体の受精。
遺伝子移入:異種交配によって別の系統(栽培品種)内に導入された系統(栽培品種)の染色体フラグメント。
IRDye標識:Licorイメージングシステムのために使用される、700nmまたは800nmで検出される赤外線標識。
単性:単一遺伝子によって決定される。
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応):特異的DNAフラグメントを増殖させるためのインビトロ(in vitro)増幅法。この合成反応は、DNAフラグメントとともにハイブリダイズする少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーを利用し、その後にDNAポリメラーゼが連続温度サイクルによってフランキング領域を増幅させる。
プライマー:ポリメラーゼの出発点として機能する一本鎖DNA分子の配列に相補的な短いオリゴヌクレオチド(約20〜50bp)。
QTL(量的形質遺伝子座):独立染色体領域であって、遺伝子に関連して形質を示す。
RAMPs(ランダム増幅マイクロサテライト多型):それを用いて様々なDNAサンプル間の多型が検出されるRAPDおよびiSSRプライマーに基づくDNAフィンガープリンティング技術。
RAPDプライマー(ランダム増幅多型DNAプライマー):GC含量は60%〜70%の間にあり、プライマー末端は自己相補的ではない「ランダム」配列を備える10量体。
iSSR(inter Simple Sequence Repeat:単純配列反復間):SSR(単一配列反復)の5’末端上で設計されたプライマー;2または3ヌクレオチドの繰り返しからなるDNAフラグメント。
BC(戻し交配):個体と原初の親の一方との交配。
XCC:キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス。
【0059】
【表4A】

【表4B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス(Xanthomonas campestris pv.campestris)耐性アブラナ属(Brassica)アクセプター植物を提供するための方法であって、
−ゲノム内に量的形質遺伝子座1(QTL1)を含む第1キャベツ(Brassica oleracea)ドナー植物を選択するステップと、
−ゲノム内に量的形質遺伝子座2(QTL2)を含む第2キャベツドナー植物を選択するステップと、
−アブラナ属アクセプター植物中において第1ドナー植物由来の量的形質遺伝子座1(QTL1)および第2ドナー植物由来の量的形質遺伝子座2(QTL2)を遺伝子移入する、またはゲノム的に組み合わせるステップとを含み、
このとき、
量的形質遺伝子座1(QTL1)は、配列番号1およびプライマー6のプライマー組み合わせによる158〜162bpのフラグメント;配列番号2およびプライマー6のプライマー組み合わせによる283〜287bpのフラグメント;配列番号3およびプライマー6のプライマー組み合わせによる370〜374bpのフラグメント;ならびに配列番号4およびプライマー6のプライマー組み合わせによる41〜45bpのフラグメントからなる群から選択される1つ以上のRAMPマーカーを特徴とし、
量的形質遺伝子座2(QTL2)は、配列番号5およびプライマー6のプライマー組み合わせによる88〜92bpのフラグメント;配列番号6およびプライマー6のプライマー組み合わせによる125〜129bpのフラグメント;配列番号7およびプライマー6のプライマー組み合わせによる334〜338bpのフラグメント;ならびに配列番号8およびプライマー6のプライマー組み合わせによる47〜51bpのフラグメントからなる群から選択される1つ以上のRAMPマーカーを特徴とし、かつ、
このとき前記アブラナ属アクセプター植物は、ゲノムに関して、第1および第2キャベツドナー植物と同一ではない方法。
【請求項2】
前記第1キャベツドナー植物および第2キャベツドナー植物は、それらのゲノムに関して実質的に同一である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記量的形質遺伝子座1(QTL1)は、配列番号1およびプライマー6のプライマー組み合わせによる160bpのフラグメント;配列番号2およびプライマー6のプライマー組み合わせによる285bpのフラグメント;配列番号3およびプライマー6のプライマー組み合わせによる372bpのフラグメント;ならびに配列番号4およびプライマー6のプライマー組み合わせによる43bpのフラグメントからなる群から選択される1つ以上のRAMPマーカーを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記量的形質遺伝子座2(QTL2)は、配列番号5およびプライマー6のプライマー組み合わせによる90bpのフラグメント;配列番号6およびプライマー6のプライマー組み合わせによる127bpのフラグメント;配列番号7およびプライマー6のプライマー組み合わせによる336bpのフラグメント;ならびに配列番号8およびプライマー6のプライマー組み合わせによる49bpのフラグメントからなる群から選択される1つ以上のRAMPマーカーを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
選択するステップは、各キャベツドナー植物のゲノム内において、請求項1〜4のいずれか一項において定義された1つ以上のRAMPマーカーの存在を分子生物学技術によって決定するステップを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
量的形質遺伝子座1(QTL1)および/または量的形質遺伝子座2(QTL2)は、各キャベツドナー植物のゲノム内における請求項1〜4のいずれか一項において定義された2つ以上のRAMPマーカーを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
量的形質遺伝子座1(QTL1)および/または量的形質遺伝子座2(QTL2)は、各キャベツドナー植物のゲノム内における請求項1〜4のいずれか一項において定義された3つ以上のRAMPマーカーを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
量的形質遺伝子座1(QTL1)および/または量的形質遺伝子座2(QTL2)は、各キャベツドナー植物のゲノム内における請求項1〜4のいずれか一項において定義された4つのRAMPマーカーを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
選択するステップは、前記第1および第2キャベツドナー植物内でホモ接合性量的形質遺伝子座1および2(QTL’s1および2)を選択するステップを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アブラナ属アクセプター植物は、キャベツ植物である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アブラナ属植物は、Brassica oleracea convar.botrytis var.botrytis(カリフラワー、ロマネスコ)、Brassica oleracea convar.botrytis var.cymosa(ブロッコリー)、Brassica oleracea convar.botrytis var.asparagoides(ブロッコリー)、Brassica oleracea convar.oleracea var.gemnifera(芽キャベツ)、Brassica oleracea convar.capitata var.alba(白キャベツ、オックスハートキャベツ)、Brassica oleracea convar.capitata var.rubra(赤キャベツ)、Brassica oleracea convar.capitata var.sabauda(サボイキャベツ)、Brassica oleracea convar.acephela var.sabellica(カーリー・ケールキャベツ)、Brassica oleracea convar.acephela var.gongyloides(カブカンラン)およびBrassica oleracea var.tronchuda syn.costata(ポルトガルキャベツ)からなる群から選択される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
そのゲノム内に、請求項1〜11のいずれか一項に規定された量的形質遺伝子座1(QTL1)および量的形質遺伝子座2(QTL2)を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のアブラナ属アクセプター植物。
【請求項13】
前記植物は、受託番号NCIMB41553である植物である、請求項12に記載のアブラナ属植物。
【請求項14】
ゲノム内に請求項1〜11のいずれか一項に規定された量的形質遺伝子座1(QTL1)および量的形質遺伝子座2(QTL2)を含む、請求項12または13に記載のアブラナ属植物の種子、果実および/または他の植物部位。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のキサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス耐性アブラナ属アクセプター植物を提供するための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の量的形質遺伝子座1(QTL1)および量的形質遺伝子座2(QTL2)の使用。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のキサントモナス・カンペストリス病原型カンペストリス耐性アブラナ属アクセプター植物を提供するための、配列番号1〜4からなる群から選択される1つ以上のプライマー、および配列番号5〜8からなる群から選択される1つ以上のプライマーの使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−521189(P2012−521189A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548694(P2011−548694)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051426
【国際公開番号】WO2010/089374
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(511192263)ベーヨ・ザーデン・ベスローテン・フェンノートシャップ (1)
【Fターム(参考)】