説明

キシリレンジアミン類の製造方法

【課題】設備面、安全面および経済面に優れるキシリレンジアミン類の製造方法を提供する。
【解決手段】フタル酸類、フタル酸エステル類およびフタル酸アミド類からなる群から選択される少なくとも1種のフタル酸類またはその誘導体をアンモニアと接触させて、フタロニトリル類を得、その後、得られたフタロニトリル類を水素と接触させることによるキシリレンジアミン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシリレンジアミン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維、フィルムなどに用いられるポリアミドの原料として、キシリレンジアミン類が、よく知られている。また、キシリレンジアミン類から誘導されるキシリレンジイソシアネート類は、例えば、塗料、接着剤、プラスチックレンズなどに用いられるポリウレタンの原料として、有用である。
【0003】
キシリレンジアミン類の製造方法としては、例えば、キシレンをバナジウムなどの金属酸化物触媒を用いてアンモ酸化させ、フタロニトリルを製造し、そのフタロニトリルをニッケル触媒などの存在下において水素化することが、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−26638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載の方法により、キシリレンジアミンを製造する場合には、キシレンを、420℃という非常に高い温度でアンモ酸化して、フタロニトリルを製造し、その後、得られたフタロニトリルを、12MPaという非常に高い圧力で水素化する必要がある(例えば、特許文献1(実施例1)参照。)。
【0006】
すなわち、特許文献1に記載の方法では、各成分を、高温および高圧において反応させる必要があり、そのため、設備面および安全面における改良が、望まれている。
【0007】
本発明は、このような不具合に鑑みなされたもので、その目的とするところは、設備面、安全面および経済面に優れるキシリレンジアミン類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のキシリレンジアミン類の製造方法は、フタル酸類、フタル酸エステル類およびフタル酸アミド類からなる群から選択される少なくとも1種のフタル酸類またはその誘導体をアンモニアと接触させて、フタロニトリル類を得るシアノ化工程と、前記シアノ化工程により得られたフタロニトリル類を水素と接触させて、キシリレンジアミン類を得るアミノメチル化工程とを備えることを特徴としている。
【0009】
また、本発明のキシリレンジアミン類の製造方法において、前記シアノ化工程では、金属酸化物を触媒として使用し、得られるフタロニトリル類の金属含有率が3000ppm以下であることが好適である。
【0010】
また、本発明のキシリレンジアミン類の製造方法においては、前記シアノ化工程では、沸点が180℃〜350℃の溶媒存在下にアンモニアと接触させることが好適である。
【0011】
また、本発明のキシリレンジアミン類の製造方法においては、前記シアノ化工程では、フタル酸類またはその誘導体100重量部に対して3〜20重量部の溶媒存在下にアンモニアと接触させることが好適である。
【0012】
また、本発明のキシリレンジアミン類の製造方法においては、前記核シアノ化工程では、使用する溶媒がo−ジクロロベンゼン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N,N’−ジエチルイミダゾリジノン、N,N’−ジプロピルイミダゾリジノン、N,N’,4−トリメチルイミダゾリジノンおよびN,N’−ジメチルプロピレン尿素から選択されることが好適である。
【0013】
また、本発明のキシリレンジアミン類の製造方法においては、前記シアノ化工程において接触させるアンモニアの供給速度が0.5モル当量/フタル酸類またはその誘導体/hrより大きいことが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のキシリレンジアミン類の製造方法は、設備面、安全面および経済面に優れており、安全に、低コストかつ高収率でキシリレンジアミン類を得ることができる。そのため、本発明は、キシリレンジアミン類の工業的な製造方法として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のキシリレンジアミン類の製造方法は、フタル酸類、フタル酸エステル類およびフタル酸アミド類からなる群から選択される少なくとも1種のフタル酸類またはその誘導体をアンモニアと接触させて、フタロニトリル類を得るシアノ化工程と、そのシアノ化工程により得られたフタロニトリル類を水素と接触させて、キシリレンジアミン類を得るアミノメチル化工程とを備えている。以下において、それぞれにつき詳細に説明する。
[シアノ化工程]
シアノ化工程では、フタル酸類、フタル酸エステル類およびフタル酸アミド類からなる群から選択される少なくとも1種のフタル酸類またはその誘導体をアンモニアと接触させて、フタロニトリル類を得る。
【0016】
フタル酸類としては、例えば、フタル酸(オルト体)、イソフタル酸(メタ体)、テレフタル酸(パラ体)などが挙げられる。
【0017】
これらフタル酸類またはその誘導体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0018】
シアノ化工程においては、例えば、特開昭63−10752号に記載の方法などを採用することができる。
【0019】
より具体的には、シアノ化工程では、フタル酸類またはその誘導体と、アンモニア供給源となり得る化合物(例えば、アンモニア、尿素、炭酸アンモニウムなど)(以下、アンモニア供給源化合物と略する場合がある。)とを、通常、200℃以上、350℃未満、好ましくは、230℃以上、320℃未満で加熱することにより、反応させる。
【0020】
反応温度がこの範囲にあると、反応速度が低下せず、また過度の加熱による分解などが起こりにくいため、有利である。
【0021】
また、本発明では、好ましくは、このシアノ化工程において、触媒として金属酸化物を用いる。
【0022】
金属酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、五酸化リン、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化コバルトなどが挙げられる。
【0023】
この中でも、反応後の分離のしやすさから、シリカ、アルミナ、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化コバルトなどの金属酸化物を用いることが好ましい。
【0024】
また、この工程では、さらに、金属酸化物と、その他の触媒とを併用することができ、そのような触媒としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸などの鉱酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、安息香酸などの有機酸などが挙げられる。
【0025】
なお、金属酸化物と、その他の触媒とを併用する場合において、それらの配合割合は特に制限されず、目的および用途に応じて適宜設定される。
【0026】
触媒形態としては、粉末、粒状、ペレット担体に担持された触媒を使用できる。好ましくは、粉末である。
【0027】
触媒が粉末であるなど、触媒が適度な大きさであると、触媒内部の有効に反応に寄与する部分が多く、反応速度が低下しにくい。
【0028】
触媒量は、フタル酸類またはその誘導体100重量部に対して、例えば、0.1〜50重量部、好ましくは、0.5〜20重量部である。
【0029】
また、本反応の原料であるフタル酸類やフタル酸エステル類などは昇華性があり、反応器の排気ガス管や脱水装置など反応器下流装置へのフタル酸またはその誘導体および生成物であるフタロニトリル類が析出するため、反応中に、適宜溶媒を使用することが好ましい。
【0030】
溶媒としては、本発明の方法の目的を阻害しなければいかなる溶媒でも構わないが、例えば、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、デカリンなどの脂肪族または脂環式炭化水素類、例えば、メシチレン、テトラリン、ブチルベンゼン、p−シメン、ジエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、トリエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ドデシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、例えば、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルコール類、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、o−ジエトキシベンゼンなどのエーテル類、例えば、ヨードベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、o−ジブロモベンゼン、ブロモクロロベンゼン、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、p−クロロエチルベンゼン、1−クロロナフタレンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N,N’−ジエチルイミダゾリジノン、N,N’−ジプロピルイミダゾリジノン、N,N’,4−トリメチルイミダゾリジノン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素などの非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0031】
溶媒として、反応器の排気ガス管や脱水装置など反応器下流装置へのフタル酸またはその誘導体および生成物であるフタロニトリル類の析出をより効率的に抑制する観点から、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、o−ジエトキシベンゼンなどのエーテル類、例えば、ヨードベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、o−ジブロモベンゼン、ブロモクロロベンゼン、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、p−クロロエチルベンゼン、1−クロロナフタレンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N,N’−ジエチルイミダゾリジノン、N,N’−ジプロピルイミダゾリジノン、N,N’,4−トリメチルイミダゾリジノン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素などの非プロトン性極性溶媒から選ばれることが好ましい。
【0032】
上記の溶媒の中でも、その沸点が180℃〜350℃のものが好ましい。沸点が180℃より低い溶媒を使用すると、反応器にかかるエネルギー負荷が増大し好ましくない。また、沸点が350℃より高い溶媒を使用すると、反応器の排気ガス管や脱水装置など反応器下流装置へのフタル酸またはその誘導体および生成物であるフタロニトリル類の析出を抑制する効果が小さくなるため好ましくない。
【0033】
これらの観点から、上記溶媒の中でもo−ジクロロベンゼン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N,N’−ジエチルイミダゾリジノン、N,N’−ジプロピルイミダゾリジノン、N,N’,4−トリメチルイミダゾリジノン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素から選ばれることがより好ましい。
【0034】
溶媒の使用量としては、特に制限されないが、通常、反応基質(フタル酸類またはその誘導体を含む。)の10重量倍以下であり、好ましくは反応基質の1重量倍以下であり、より好ましくはフタル酸類またはその誘導体100質量部に対して3〜20重量部である。溶媒量が少ないまたは無溶媒の場合は、反応器の排気ガス管や脱水装置など反応器下流装置へのフタル酸またはその誘導体および生成物であるフタロニトリル類の析出抑制が困難になり、溶媒量が多い場合は、反応器にかかるエネルギー負荷が増大し好ましくない。
【0035】
反応方式は、懸濁床による回分式、半回分式、連続式、固定床連続式など、特に限定されるものではないが、液相懸濁反応が好ましい。
【0036】
反応器は耐圧容器が好ましい。
【0037】
例えば、フタル酸類またはその誘導体、および、必要であれば触媒を、反応器の上部または下部から導入し、加熱によりフタル酸類またはその誘導体を溶解させ、懸濁状態にしたところで、アンモニアなどのアンモニア供給源化合物を、反応器に、間欠的あるいは連続的に供給し、所定温度で反応させる。
【0038】
アンモニア供給源化合物の供給量としては、反応後のアンモニアの処理あるいは回収を容易にするという観点から、フタル酸類またはその誘導体1モルに対して、例えば、1〜20モル、好ましくは、2〜20モルである。
【0039】
アンモニア供給源化合物の供給速度は特に制限されないが、フタル酸類またはその誘導体1モルに対して1時間当たり0.1モル〜2モルであることが好ましく、0.5モルより大きく2モル以下(すなわち、0.5モル当量/テレフタル酸またはその誘導体/hrより大きく、2モル当量/テレフタル酸またはその誘導体/hr以下)であることがより好ましい。供給速度がフタル酸類またはその誘導体1モルに対して1時間当たり0.5モルより小さい場合、反応に長時間を要するため好ましくない。また、供給速度がフタル酸類またはその誘導体1モルに対して1時間当たり2モルより大きい場合、未反応のアンモニア供給源化合物が大量となるため、例えば、アンモニア回収再使用する場合にその負荷が大きくなり、経済的に不利である。
【0040】
また、供給時間は供給速度により適宜選択されるが、例えば、1〜80時間、好ましくは、2〜50時間である。
【0041】
本反応により水が生成するため、水を系外に除去することが、反応速度向上の観点からは好ましい。また、水を系外に除去するために、例えば、反応器に窒素などの不活性ガスを供給することができる。
【0042】
反応圧力は、加圧、常圧および減圧のいずれでもよく、適宜選択される。
【0043】
必要であれば、この反応後のフタロニトリル類から、公知の方法、例えば、濾過、吸着、抽出などにより使用した触媒の除去を行い、フタロニトリル類を得ることができる。
【0044】
このようなシアノ化工程で得られるフタロニトリル類において、各ニトリル基(シアノ基)の置換位は、原料成分であるフタル酸類またはその誘導体のオルト体、メタ体、パラ体に対応する。
【0045】
すなわち、例えば、フタル酸類またはその誘導体として、例えば、イソフタル酸またはその誘導体(メタ体)を用いた場合には、イソフタロニトリル(メタ体)が製造され、テレフタル酸またはその誘導体(パラ体)を用いた場合には、テレフタロニトリル(パラ体)が製造される。
【0046】
また、例えば、原料として、イソフタル酸またはその誘導体(メタ)体と、テレフタル酸またはその誘導体(パラ体)とを併用した場合には、得られるフタロニトリル類は、上記したイソフタロニトリルおよびテレフタロニトリルの混合物である。
【0047】
また、上記シアノ化反応において、金属酸化物を触媒として用いた場合、得られるフタロニトリル類に使用した金属成分が混入する場合がある。この金属含有率(成分量)は、不純物であって、フタロニトリル類に対して、3000ppm以下であることが好ましく、2000ppm以下であることがより好ましく、1500ppm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
金属成分量が3000ppmより多くなると、後述するアミノメチル化工程において反応を阻害するため好ましくない。
【0049】
必要ならば、種々の方法、例えば、反応後の濾過、吸着、抽出などの触媒除去操作を繰り返す方法などにより金属成分量を低減させることが好ましい。
[アミノメチル化工程]
アミノメチル化工程においては、シアノ化工程により得られたフタロニトリル類を水素と接触させて、キシリレンジアミン類を得る。
【0050】
アミノメチル化工程においては、例えば、特開2001−187765号に記載の方法などを採用することができる。
【0051】
アミノメチル化工程に用いられる水素の品質は、工業的に用いられる水素で十分であり、不活性ガス(例えば、窒素、メタンなど)を含んでいてもよいが、水素濃度は、50%以上であることが好ましい。
【0052】
アミノメチル化工程に用いられる水素化触媒は、公知の水素化触媒、例えば、コバルト系触媒、ニッケル系触媒、銅系触媒、貴金属系触媒をいずれも使用することができる。
【0053】
反応性、選択性の点から、ニッケル、コバルトおよび/またはルテニウムを主成分とする触媒を用いること好ましく、ラネー型触媒あるいはシリカ、アルミナ、シリカアルミナ、珪藻土、活性炭などの多孔性金属酸化物に担持した触媒を用いることがより好ましい。
【0054】
また、さらにアルミニウム、亜鉛、珪素などの金属を含有していてもよい。
【0055】
これらの水素化触媒は反応促進剤として、クロム、鉄、コバルト、マンガン、タングステン、モリブデンから選ばれる金属を含有できる。
【0056】
また、水素化触媒は、完全固体触媒として使用できるが、担持固体触媒、例えば、ニッケル、コバルト、ルテニウムなどが酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、マグネシア/アルミナなどに担持されたものを使用することもできる。
【0057】
触媒形態としては、粉末、粒状、ペレット担体に担持された触媒を使用できる。好ましくは、粉末である。触媒が粉末であるなど、触媒が適度な大きさであると、触媒内部の有効に反応に寄与する部分が多く、反応速度が低下しにくい。
【0058】
触媒の使用量は、反応性、選択性の点から、フタロニトリル類100重量部に対して、例えば、0.1〜20重量部、好ましくは、0.5〜15重量部である。
【0059】
反応には適宜溶媒を使用することができる、このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール類、1,4−ジオキサンなどの水性溶媒が挙げられる。
【0060】
反応液中のフタロニトリル類の濃度は、例えば、1〜50重量%、好ましくは、2〜40重量%である。
【0061】
反応液中のフタロニトリル類の濃度がこの範囲であると、反応速度が低下せず、また、反応器内の温度上昇が小さい点で、有利である。
【0062】
また、本反応はアンモニアの存在下で行うことが好ましい。
【0063】
このアンモニアは目的とするキシリレンジアミン類の以外の2級アミンや3級アミン、ポリアミンのような副生物の生成を抑制する働き、すなわち、反応選択性を向上させる働きを持つ。
【0064】
アンモニアの使用量は、上記副生物の生成を抑制し、水素化速度の低下を防止し、かつ反応後のアンモニアの処理あるいは回収を容易にするという観点から、フタロニトリル類1モルに対して、例えば、0.05〜5モル、好ましくは、0.1〜2.5モルである。
【0065】
反応方式は、懸濁床による回分式、半回分式、連続式、固定床連続式など、特に限定されるものではないが、液相懸濁反応が好ましい。
【0066】
反応器は耐圧容器が好ましい。
【0067】
例えば、フタロニトリル類、触媒、水素および必要であれば溶媒やアンモニアを、反応器の上部または下部から導入し、所定温度で反応させる。
【0068】
反応圧力は、通常、0.1〜20MPa、好ましくは、0.5〜10MPa、さらに好ましくは、0.5〜8MPa、とりわけ好ましくは、0.5〜5MPaである。
【0069】
反応温度は、反応性、選択性の観点から、例えば、50〜250℃、好ましくは、50〜200℃、さらに好ましくは、70〜150℃であり、水素化反応中に連続的または段階的に、反応温度を上昇させることが好ましい。
【0070】
反応後、反応液からキシリレンジアミン類を分離する方法は、濾過、蒸留、抽出など、公知の方法が使用できる。
【0071】
このようなアミノメチル化工程で得られるキシリレンジアミン類において、各アミノメチル基の置換位は、原料成分であるフタル酸類またはその誘導体のオルト体、メタ体、パラ体に対応する。
【0072】
すなわち、例えば、フタル酸類またはその誘導体として、例えば、イソフタル酸またはその誘導体(メタ体)を用いた場合には、m−キシリレンジアミン(メタ体)が製造され、テレフタル酸またはその誘導体(パラ体)を用いた場合には、p−キシリレンジアミン(パラ体)が製造される。
【0073】
また、例えば、原料として、イソフタル酸またはその誘導体(メタ)体と、テレフタル酸またはその誘導体(パラ体)とを併用した場合には、得られるキシリレンジアミン類は、上記したm−キシリレンジアミンおよびp−キシリレンジアミンの混合物である。
【0074】
本発明のキシリレンジアミン類の製造方法は、設備面、安全面および経済面に優れており、安全に、低コストかつ高収率でキシリレンジアミン類を得ることができる。
【0075】
そのため、この方法は、キシリレンジアミン類の工業的な製造方法として、好適に用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、シアノ化工程およびアミノメチル化工程の分析はガスクロマトグラフィーで行った。また、金属成分量の分析はICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法で行った。
(実施例1)
[シアノ化工程]
攪拌器、ガス導入管、温度計、ガス排気管および脱水装置を装備した4つ口フラスコに、テレフタル酸14.9g、テレフタル酸ジメチル17.0g、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン4.9gおよび、酸化スズ(II)0.40gを仕込み、250rpmで攪拌しながら210℃まで加熱した。
【0077】
その後、アンモニアガスを72mL/min(1.1モル当量/テレフタル酸+テレフタル酸ジメチル/hr)の速度で流通して280℃に昇温し、この温度で一定にして反応させた。8時間後、反応を終了し90℃まで冷却した。
【0078】
ここに1−ブタノール31.6gを加え攪拌した反応液を熱時濾過し、触媒を除去した。濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、テレフタル酸の転化率は100%、テレフタル酸ジメチルの転化率は99.5%、テレフタロニトリル収率は90%であった。この濾液から溶媒留去し黄色固体を得た。この固体は純度95.8%のテレフタロニトリルであった。
【0079】
また、固体に含まれる金属(スズ)の含有率は、1ppm以下であり、これは、テレフタロニトリルに対して、0.90(1×0.90)ppm以下であった。
[アミノメチル化工程]
攪拌器付き100mLステンレス製オートクレーブに、シアノ化工程で得られたテレフタロニトリル3.5g(黄色固体として3.65g)、触媒(川研ファインケミカル社製マンガン含有ラネーコバルト)0.35g、28重量%アンモニア水3.9mL、1−ブタノール7.3mLを仕込み、オートクレーブノズル口より窒素2MPaで3回置換し、常圧状態で400rpm攪拌下に80℃に加熱した。
【0080】
80℃に到達したところで、圧力が0.95MPaになるように水素の供給を間欠的に開始し、水素吸収がなくなるまで反応した。
【0081】
反応終了後室温まで冷却し、反応生成液を抜き出し、濾過をして触媒を除去した。
【0082】
濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、テレフタロニトリルの転化率は100%、1,4−キシリレンジアミンの収率は96%であった。
【0083】
この反応液を10mmHgで減圧蒸留し、純度99.5%以上の1,4−キシリレンジアミンを97%の収率で得た。
(実施例2)
[シアノ化工程]
実施例1において、テレフタル酸の代わりにイソフタル酸、テレフタル酸ジメチルの代わりにイソフタル酸ジメチルを用いた以外は実施例1と同様に反応を実施した。反応後の反応液を実施例1と同様に熱時濾過し、濾液を分析したところ、イソフタル酸の転化率は100%、イソフタル酸ジメチルの転化率は99.1%、イソフタロニトリル収率は88%であった。この濾液から溶媒留去し黄色固体を得た。この固体は純度94.9%のイソフタロニトリルであった。
【0084】
また、固体に含まれる金属(スズ)の含有率は、1ppm以下であり、これは、イソフタロニトリルに対して、0.949(1×0.949)ppm以下であった
[アミノメチル化工程]
実施例1において、テレフタロニトリル3.5gの代わりに上記シアノ化工程で得られたイソフタロニトリル3.5g(黄色固体として3.7g)を用いた以外は実施例1と同様に反応を実施した。
【0085】
反応終了後室温まで冷却し、反応生成液を抜き出し、濾過をして触媒を除去した。
【0086】
濾液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、イソフタロニトリルの転化率は99.5%、1,3−キシリレンジアミンの収率は94%であった。
【0087】
この反応液を10mmHgで減圧蒸留し、純度99.5%以上の1,3−キシリレンジアミンを97%の収率で得た。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により、従来法に比べ安価な原料であるフタル酸類、フタル酸エステル類およびフタル酸アミド類からなる群から選択される少なくとも1種のフタル酸類またはその誘導体を用いて、より工業的に有利にキシリレンジアミン類を得ることができる。
【0089】
この化合物は、ポリアミド、ポリイミドやポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリイソシアネートおよびエポキシ樹脂の硬化剤などの用途において、その高性能化などのために、好適に用いられる。特に、ポリウレタンの塗料、接着剤、シーラントおよびエラストマーやポリチオウレタン系のレンズ用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタル酸類、フタル酸エステル類およびフタル酸アミド類からなる群から選択される少なくとも1種のフタル酸類またはその誘導体をアンモニアと接触させて、フタロニトリル類を得るシアノ化工程と、
前記シアノ化工程により得られたフタロニトリル類を水素と接触させて、キシリレンジアミン類を得るアミノメチル化工程と
を備えることを特徴とする、キシリレンジアミン類の製造方法。
【請求項2】
前記シアノ化工程では、金属酸化物を触媒として使用し、得られるフタロニトリル類の金属含有率が3000ppm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のキシリレンジアミン類の製造方法。
【請求項3】
前記シアノ化工程では、沸点が180℃〜350℃の溶媒存在下にフタル酸類またはその誘導体をアンモニアと接触させることを特徴とする、請求項1または2に記載のキシリレンジアミン類の製造方法。
【請求項4】
前記シアノ化工程では、フタル酸類またはその誘導体100重量部に対して3〜20重量部の溶媒存在下にアンモニアと接触させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のキシリレンジアミン類の製造方法。
【請求項5】
前記シアノ化工程では、使用する溶媒がo−ジクロロベンゼン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N,N’−ジエチルイミダゾリジノン、N,N’−ジプロピルイミダゾリジノン、N,N’,4−トリメチルイミダゾリジノンおよびN,N’−ジメチルプロピレン尿素から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のキシリレンジアミン類の製造方法。
【請求項6】
前記シアノ化工程では、接触させるアンモニアの供給速度が0.5モル当量/フタル酸類またはその誘導体/hrより大きいことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のキシリレンジアミン類の製造方法

【公開番号】特開2012−82146(P2012−82146A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227743(P2010−227743)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】