説明

キシレンの製造方法

【課題】付加価値の高い炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の中で、特にキシレンを選択的に製造することができる、キシレンの製造方法を提供する。
【解決手段】10容量%留出温度が135℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油からキシレンを製造する方法である。原料油を触媒と接触させることで単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程と、分解改質反応工程で製造した製造物から10容量%留出温度が75℃以上かつ90容量%留出温度が140℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Aと、キシレンを含むキシレン留分と、10容量%留出温度が145℃以上かつ90容量%留出温度が215℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Bとを分離回収する分離回収工程と、留分Aと留分Bとを混合して得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動接触分解(以下、「FCC」という。)装置で生成する分解軽油であるライトサイクル油(以下、「LCO」という。)は、多環芳香族炭化水素を多く含み、軽油または重油として利用されていた。しかし、近年ではLCOから、高オクタン価ガソリン基材や、石油化学原料として利用でき、付加価値の高い炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等)を得ることが検討されている。
例えば、特許文献1〜3では、ゼオライト触媒を用いて、LCO等に多く含まれる多環芳香族炭化水素から、単環芳香族炭化水素を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−2128号公報
【特許文献2】特開平3−52993号公報
【特許文献3】特開平3−26791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ベンゼン、トルエン、キシレンは、いずれも付加価値が高いものであるが、近年ではテレフタル酸の需要の増大などに伴い、キシレンの需要がベンゼンやトルエンの需要を上回ることがある。その場合に、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素として、特にキシレンをベンゼンやトルエンに比べて高い収率で製造するのが好ましいものの、従来ではキシレンをベンゼンやトルエンに対して選択的に製造するプロセスは提供されていない。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、付加価値の高い炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の中で、特にキシレンを選択的に製造することができる、キシレンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のキシレンの製造方法は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油からキシレンを製造する方法であって、
前記原料油を、結晶性アルミノシリケートを含有する触媒と接触させることで単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程と、
前記分解改質反応工程にて製造した製造物から、10容量%留出温度が75℃以上かつ90容量%留出温度が135℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Aと、キシレンを含むキシレン留分と、10容量%留出温度が145℃以上かつ90容量%留出温度が215℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Bと、を分離回収する分離回収工程と、
前記留分Aと前記留分Bとを混合して得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の別のキシレンの製造方法は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油からキシレンを製造する方法であって、
前記原料油を、結晶性アルミノシリケートを含有する触媒と接触させることで単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程と、
前記分解改質反応工程にて製造した製造物から、10容量%留出温度が75℃以上かつ90容量%留出温度が135℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Aと、キシレンを含むキシレン留分と、10容量%留出温度が145℃以上かつ90容量%留出温度が195℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Cと、を分離回収する分離回収工程と、
前記留分Aと前記留分Cとを混合して得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のさらに別のキシレンの製造方法は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油からキシレンを製造する方法であって、
前記原料油を、結晶性アルミノシリケートを含有する触媒と接触させることで単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程と、
前記分解改質反応工程にて製造した製造物から、10容量%留出温度が85℃以上かつ90容量%留出温度が135℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Dと、キシレンを含むキシレン留分と、10容量%留出温度が145℃以上かつ90容量%留出温度が195℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Cと、を分離回収する分離回収工程と、
前記留分Dと前記留分Cとを混合して得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、前記キシレンの製造方法においては、前記キシレン転換工程の後に、該キシレン転換工程にて得られた生成物をキシレンとキシレン以外の留分とに分離するキシレン分離工程と、該キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分を前記キシレン転換工程に循環させる循環工程と、を有することが好ましい。
また、前記キシレンの製造方法においては、前記キシレン転換工程の後に、該キシレン転換工程にて得られた生成物を前記分解改質反応工程または前記分離回収工程に返送する返送工程を有することが好ましい。
【0010】
また、前記キシレンの製造方法においては、前記固体酸を含む触媒が、モルデナイト型ゼオライトまたはベータ型ゼオライトを含むことが好ましい。
【0011】
また、前記キシレンの製造方法において、前記キシレン転換工程では、前記固体酸を含む触媒に前記混合留分を接触させる際の反応温度を、300℃以上500℃以下とすることが好ましい。
また、前記キシレンの製造方法において、前記キシレン転換工程では、前記固体酸を含む触媒に前記混合留分を接触させる際の反応圧力を、2.0MPaG以上7.0MPaG以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のキシレンの製造方法によれば、分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の異なる複数の留分から得られる混合留分を、キシレン転換工程にて固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するようにしたので、分離回収工程にて分離回収するキシレン留分以外の留分からキシレンを生成することにより、キシレンを選択的に多く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のキシレンの製造方法の第1の実施形態を説明するための図である。
【図2】本発明のキシレンの製造方法の第2の実施形態を説明するための図である。
【図3】本発明のキシレンの製造方法の第3の実施形態を説明するための図である。
【図4】本発明のキシレンの製造方法の第4の実施形態を説明するための図である。
【図5】本発明のキシレンの製造方法の第5の実施形態を説明するための図である。
【図6】本発明のキシレンの製造方法の第6の実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「第1の実施形態」
以下、本発明のキシレンの製造方法の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明のキシレンの製造方法の第1の実施形態を説明するための図であり、本実施形態のキシレンの製造方法は、原料油から主にキシレンを製造する方法である。
【0015】
すなわち、本実施形態のキシレンの製造方法は、図1に示すように、
(1)原料油を、単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させ、反応させて、主に炭素数6〜10の単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程
(2)分解改質反応工程にて製造した製造物から異なる複数の留分を分離回収する分離回収工程
(3)分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の異なる複数の留分から得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程
(4)キシレン転換工程にて得られた生成物をキシレンとキシレン以外の留分とに分離するキシレン分離工程
(5)キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分を前記キシレン転換工程に循環させる循環工程
(6)分離回収工程にて分離回収された重質分を水素化する水素化反応工程
(7)分離回収工程にて分離回収された軽質分から、分解改質反応工程にて副生した水素を回収する水素回収工程
(8)水素回収工程にて回収した水素の一部をキシレン転換工程に供給する第1水素供給工程
(9)水素回収工程にて回収した水素の一部を水素化反応工程に供給する第2水素供給工程
(10)水素化反応工程により得た重質留分の水素化反応物を分解改質反応工程に戻すリサイクル工程
上記(1)〜(10)の工程のうち、(1)〜(3)の工程は本願請求項1に係る発明における必須の工程であり、(4)〜(10)の工程は任意の工程である。ただし、(4)キシレン分離工程については、目的とするキシレンを得るうえで、本実施形態では必須となる。
【0016】
以下、各工程について具体的に説明する。
<分解改質反応工程>
原料油には、多環芳香族炭化水素および飽和炭化水素が含まれている。
分解改質反応工程では、原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させて、原料油に含まれる飽和炭化水素を水素供与源とし、飽和炭化水素からの水素移行反応によって多環芳香族炭化水素を部分的に水素化し、開環させて単環芳香族炭化水素に転換する。また、原料油中もしくは分解過程で得られる飽和炭化水素を環化、脱水素することによっても単環芳香族炭化水素に転換できる。さらには、炭素数9以上の単環芳香族炭化水素を分解することによって、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を製造することもできる。なお、この製造物には、単環芳香族炭化水素以外にも、水素、メタン、LPG、炭素数9以上の重質留分などが含まれる。
【0017】
(原料油)
本発明で使用される原料油は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の油である。10容量%留出温度が140℃未満の油では、軽質のものから単環芳香族炭化水素を製造することになり、キシレンを選択的に多量に製造するとする本発明の主旨にそぐわなくなる。また、90容量%留出温度が380℃を超える油を用いた場合には、単環芳香族炭化水素の収率が低くなる上に、単環芳香族炭化水素製造用触媒上へのコーク堆積量が増大して、触媒活性の急激な低下を引き起こす傾向にある。
原料油の10容量%留出温度は150℃以上であることが好ましく、原料油の90容量%留出温度は360℃以下であることが好ましい。
【0018】
なお、ここでいう10容量%留出温度、90容量%留出温度とは、JIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油としては、例えば、LCO、LCOの水素化精製油、石炭液化油、重質油水素化分解精製油、直留灯油、直留軽油、コーカー灯油、コーカー軽油およびオイルサンド水素化分解精製油などが挙げられる。
【0019】
多環芳香族炭化水素は反応性が低く、本発明の分解改質反応工程では単環芳香族炭化水素に転換されにくい物質である。しかし、一方で、多環芳香族炭化水素が水素化反応工程にて水素化されるとナフテノベンゼン類に転換され、再び分解改質反応工程にリサイクル供給されることで単環芳香族炭化水素に転換可能である。そのため、原料油において多環芳香族炭化水素を多く含むことに関しては特に限定されない。ただし、多環芳香族炭化水素の中でも3環以上の芳香族炭化水素は、水素化反応工程において多くの水素を消費し、かつ水素化反応物であっても分解改質反応工程における反応性が低いため、多く含むことは好ましくない。したがって、原料油中の3環以上の芳香族炭化水素は、25容量%以下であることが好ましく、15容量%以下であることがより好ましい。
【0020】
なお、水素化反応工程でナフテノベンゼンに転換される2環芳香族炭化水素を含有し、かつ3環以上の芳香族炭化水素を削減するための原料油としては、例えば原料油の90容量%留出温度が330℃以下であることがより好ましい。
また、ここでいう多環芳香族炭化水素とは、JPI−5S−49「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠して測定、あるいはFIDガスクロマトグラフ法または2次元ガスクロマトグラフ法にて分析される2環芳香族炭化水素含有量(2環芳香族分)、および3環以上の芳香族炭化水素含有量(3環以上の芳香族分)の合計値を意味する。以降、多環芳香族炭化水素、2環芳香族炭化水素、3環以上の芳香族炭化水素の含有量が容量%で示されている場合は、JPI−5S−49に準拠して測定されたものであり、質量%で示されている場合は、FIDガスクロマトグラフ法または2次元ガスクロマトグラフ法に基づいて測定されたものである。
【0021】
(反応形式)
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応形式としては、固定床、移動床、流動床等が挙げられる。本発明においては、重質分を原料とするため、触媒に付着したコーク分を連続的に除去可能で、かつ安定的に反応を行うことができる流動床が好ましく、反応器と再生器との間を触媒が循環し、連続的に反応−再生を繰り返すことができる、連続再生式流動床が特に好ましい。単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触する際の原料油は、気相状態であることが好ましい。また、原料は、必要に応じてガスによって希釈してもよい。
【0022】
(単環芳香族炭化水素製造用触媒)
単環芳香族炭化水素製造用触媒は、結晶性アルミノシリケートを含有する。
【0023】
[結晶性アルミノシリケート]
結晶アルミノシリケートは、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトであることが好ましい。
中細孔ゼオライトは、10員環の骨格構造を有するゼオライトであり、中細孔ゼオライトとしては、例えば、AEL型、EUO型、FER型、HEU型、MEL型、MFI型、NES型、TON型、WEI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、MFI型が好ましい。
大細孔ゼオライトは、12員環の骨格構造を有するゼオライトであり、大細孔ゼオライトとしては、例えば、AFI型、ATO型、BEA型、CON型、FAU型、GME型、LTL型、MOR型、MTW型、OFF型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、工業的に使用できる点では、BEA型、FAU型、MOR型が好ましく、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、BEA型、MOR型がより好ましい。
【0024】
結晶性アルミノシリケートは、中細孔ゼオライトおよび大細孔ゼオライト以外に、10員環以下の骨格構造を有する小細孔ゼオライト、14員環以上の骨格構造を有する超大細孔ゼオライトを含有してもよい。
ここで、小細孔ゼオライトとしては、例えば、ANA型、CHA型、ERI型、GIS型、KFI型、LTA型、NAT型、PAU型、YUG型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
超大細孔ゼオライトとしては、例えば、CLO型、VPI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
【0025】
分解改質反応工程を固定床の反応とする場合、単環芳香族炭化水素製造用触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、単環芳香族炭化水素製造用触媒全体を100質量%とした際の60〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くできる。
【0026】
分解改質反応工程を流動床の反応とする場合、単環芳香族炭化水素製造用触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、単環芳香族炭化水素製造用触媒全体を100質量%とした際の20〜60質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましく、35〜60質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が20質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くできる。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%を超えると、触媒に配合できるバインダーの含有量が少なくなり、流動床用として適さないものになることがある。
【0027】
[ガリウム、亜鉛]
単環芳香族炭化水素製造用触媒には、必要に応じて、ガリウムおよび/または亜鉛を含有させることができる。ガリウムおよび/または亜鉛を含有させれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くできる。
単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるガリウム含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内にガリウムが組み込まれたもの(結晶性アルミノガロシリケート)、結晶性アルミノシリケートにガリウムが担持されたもの(ガリウム担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
【0028】
単環芳香族炭化水素製造用触媒における亜鉛含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内に亜鉛が組み込まれたもの(結晶性アルミノジンコシリケート)、結晶性アルミノシリケートに亜鉛が担持されたもの(亜鉛担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、SiO、AlOおよびGaO/ZnO構造が骨格中に存在する構造を有する。また、結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、例えば、水熱合成によるゲル結晶化、結晶性アルミノシリケートの格子骨格中にガリウムまたは亜鉛を挿入する方法、または結晶性ガロシリケートまたは結晶性ジンコシリケートの格子骨格中にアルミニウムを挿入する方法により得られる。
【0029】
ガリウム担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートにガリウムをイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いるガリウム源としては、特に限定されないが、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩、酸化ガリウム等が挙げられる。
亜鉛担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートに亜鉛をイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いる亜鉛源としては、特に限定されないものの、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛塩、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0030】
単環芳香族炭化水素製造用触媒がガリウムおよび/または亜鉛を含有する場合、単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるガリウムおよび/または亜鉛の含有量は、触媒全体を100質量%とした際の0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.05〜2.0質量%であることがより好ましい。ガリウムおよび/または亜鉛の含有量が0.01質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くでき、5.0質量%以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできる。
【0031】
[リン、ホウ素]
単環芳香族炭化水素製造用触媒においては、リンおよび/またはホウ素を含有することが好ましい。単環芳香族炭化水素製造用触媒がリンおよび/またはホウ素を含有すれば、単環芳香族炭化水素の収率の経時的な低下を防止でき、また、触媒表面のコーク生成を抑制できる。
【0032】
単環芳香族炭化水素製造用触媒にリンを含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等により、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにリンを担持する方法、ゼオライト合成時にリン化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をリンと置き換える方法、ゼオライト合成時にリンを含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。その際に用いるリン酸イオン含有水溶液としては、特に限定されないものの、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、およびその他の水溶性リン酸塩などを任意の濃度で水に溶解させて調製したものを好ましく使用できる。
【0033】
単環芳香族炭化水素製造用触媒にホウ素を含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等により、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにホウ素を担持する方法、ゼオライト合成時にホウ素化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をホウ素と置き換える方法、ゼオライト合成時にホウ素を含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。
【0034】
単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるリンおよび/またはホウ素の含有量は、触媒全体を100質量%とした際の0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜9質量%であることがより好ましく、0.5〜8質量%であることがさらに好ましい。リンおよび/またはホウ素の含有量が0.1質量%以上であれば、経時的な収率低下をより防止でき、10質量%以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできる。
【0035】
[形状]
単環芳香族炭化水素製造用触媒は、反応形式に応じて、例えば、粉末状、粒状、ペレット状等にされる。例えば、流動床の場合には粉末状にされ、固定床の場合には粒状またはペレット状にされる。流動床で用いる触媒の平均粒子径は30〜180μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。また、流動床で用いる触媒のかさ密度は0.4〜1.8g/ccが好ましく、0.5〜1.0g/ccがより好ましい。
【0036】
なお、平均粒子径は、ふるいによる分級で得られた粒径分布において50質量%となる粒径を表し、かさ密度はJIS規格R9301−2−3の方法で測定された値である。
粒状またはペレット状の触媒を得る場合には、必要に応じて、バインダーとして触媒に不活性な酸化物を配合した後、各種成形機を用いて成形すればよい。
単環芳香族炭化水素製造用触媒がバインダー等の無機酸化物を含有する場合、バインダーとしてリンを含むものを用いても構わない。
【0037】
(反応温度)
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応温度については、特に制限されないものの、400〜650℃とすることが好ましい。反応温度の下限は400℃以上であれば原料油を容易に反応させることができ、より好ましくは450℃以上である。また、反応温度の上限は650℃以下であれば単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くでき、より好ましくは600℃以下である。
【0038】
(反応圧力)
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応圧力については、1.5MPaG以下とすることが好ましく、1.0MPaG以下とすることがより好ましい。反応圧力が1.5MPaG以下であれば、軽質ガスの副生を抑制できる上に、反応装置の耐圧性を低くできる。
【0039】
(接触時間)
原料油と単環芳香族炭化水素製造用触媒との接触時間については、所望する反応が実質的に進行すれば特に制限はされないものの、例えば、単環芳香族炭化水素製造用触媒上のガス通過時間で1〜300秒が好ましく、さらに下限を5秒、上限を150秒とすることがより好ましい。接触時間が1秒以上であれば、確実に反応させることができ、接触時間が300秒以下であれば、コーキング等による触媒への炭素質の蓄積を抑制できる。または分解による軽質ガスの発生量を抑制できる。
【0040】
<分離回収工程>
分離回収工程では、分解改質反応工程にて製造した製造物から異なる複数の留分を分離回収する。
複数の留分に分離するには、公知の蒸留装置、気液分離装置を用いればよい。蒸留装置の一例としては、ストリッパーのような多段蒸留装置により複数の留分を蒸留分離できるものが挙げられる。気液分離装置の一例としては、気液分離槽と、該気液分離槽に前記生成物を導入する生成物導入管と、前記気液分離槽の上部に設けられたガス成分流出管と、前記気液分離槽の下部に設けられた液成分流出管とを具備するものが挙げられる。
【0041】
分離回収工程では、主として炭素数5以下のガス成分からなる軽質分(水素を含む)と、主として炭素数11以上の重質分と、これらの中間分とを分離する。また、中間分については、本実施形態ではさらに、10容量%留出温度が75℃以上かつ90容量%留出温度が135℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Aと、キシレンを含むキシレン留分(図中ではキシレンと記す。以下同様)と、10容量%留出温度が145℃以上かつ90容量%留出温度が215℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Bとに分離し、それぞれ別々に回収する。
なお、留分Aの10容量%留出温度の上限は85℃以下、90容量%留出温度の下限は105℃以上であることが好ましく、留分Bの10容量%留出温度の上限は175℃以下、90容量%留出温度の下限は175℃以上であることが好ましい。
【0042】
留分Aは、具体的には炭素数6(C6)及び7(C7)の単環芳香族炭化水素、すなわち、ベンゼン、トルエンを主として含有する。
キシレン留分は、本発明の目的製造物であり、炭素数8の単環芳香族炭化水素であるo−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを含有している。また、エチルベンゼン、スチレンを含有していても良い。
留分Bは、具体的には炭素数9(C9)及び10(C10)の単環芳香族炭化水素、すなわち、トリメチルベンゼン、エチルトルエン、プロピルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、エチルキシレンなどを主として含有する。2環芳香族炭化水素であるナフタレンは沸点が218℃であり、留分Bにはほぼ含まれない。
なお、留分A、留分Bについては、それぞれの留分中の単環芳香族炭化水素の含有量を、50容量%以上とするのが好ましく、60容量%以上とするのがより好ましい。
【0043】
このように留分A、キシレン留分、留分Bをそれぞれ別々に回収したら、この分離回収工程では、回収した留分Aと留分Bとを混合し、混合留分1とする。留分Aと留分Bとの混合比としては、特に限定されないものの、以下示す範囲とするのが、キシレンをより多く製造するうえで好ましい。
各単環芳香族炭化水素(単環芳香族化合物)のモル分率を[C6],[C7],[C9],[C10] と表した時の、単環芳香族炭化水素の合計モル量に対する、各単環芳香族炭化水素のメチル基の合計モル量の値、すなわち、
([C7] +3×[C9]+4×[C10] )/([C6]+[C7]+[C9]+[C10]) を、1.0〜2.4とするのが好ましく、1.2〜2.2とするのがより好ましい。1.0未満、または2.4を超えると、キシレンへの転換効率が低くなり、キシレンの生成量が低下する。なお、得られる留分A、留分Bの量が前記範囲を満たすようになる原料油としては特に制限はないが、C9〜C10程度のアルキルベンゼン類を多く含む留分が挙げられる。例えば、流動接触分解装置由来の分解軽油(LCO)、接触改質装置由来の重質油、FCC由来のHCCG留分などがある。
【0044】
また、この分離回収工程では、前記したように炭素数5以下の、ガス成分(水素、メタン、エタン)やLPGを主とする成分(軽質分)を分離回収するとともに、炭素数11以上の重質分も分離回収する。そして、軽質分については、後述する水素回収工程に供することにより、例えば水素とその他のガス成分(メタン、エタン)、LPG等の軽質分に分離し、回収する。一方、重質分については、後述する水素化反応工程に供給し、さらに得られた水素化反応物をリサイクル工程によって分解改質反応工程に戻す。
【0045】
<キシレン転換工程>
キシレン転換工程では、分離回収工程で得られた前記留分Aと前記留分Bとからなる混合留分1を、反応器内において水素共存下にて固体酸を含む触媒(以下、固体酸触媒と記す。)に接触させることにより、キシレンに転換する。
【0046】
固体酸触媒としては、前記単環芳香族炭化水素製造用触媒において示した、中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトを主成分とするものが好適に用いられる。また、このような中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトとしては、モルデナイト型ゼオライトまたはベータ型ゼオライトを含んでいることが好ましい。モルデナイト型ゼオライト単独で用いても、ベータ型ゼオライト単独で用いても、あるいは両者を適宜に混合して用いてもよい。
【0047】
モルデナイト(MOR)型ゼオライトの場合、そのケイバン比(ケイ酸とアルミナとの比)は10〜100であることが好ましく、15〜50であることがより好ましい。ベータ(BEA)型ゼオライトの場合、そのケイバン比は10〜100であることが好ましく、15〜35であることがより好ましい。
【0048】
また、このような固体酸触媒としては、前記ゼオライト(モルデナイト型ゼオライトまたはベータ型ゼオライト)に、Rh、Pt、Pd、Re、などの貴金属や、Ni、Mo、W、Ga、Zn、Bなどの卑金属成分、La、Ce、Pr、Ndなどの希土類元素が添加(担持)されているのが好ましく、特にレニウム(Re)が添加(担持)されているのが好ましい。レニウムは、金属形態で添加されているのが好ましいが、酸化物、硫化物、セレン化物等の形態で添加されていてもよい。レニウムの量は、いずれの場合でもゼオライト(モルデナイト)100質量%に対して、金属換算で0.1〜5質量%であることが好ましく、0.3質量%から1.0質量%であることがより好ましい。レニウム成分として好適に用いられるものとしては、過レニウム酸、過レニウム酸アンモニウム等が挙げられる。
【0049】
このような固体酸触媒と前記混合留分1とを接触させると、トランスアルキレーション、不均化、脱アルキル、異性化などの反応が起こる。また、このキシレン転換工程では、特にコーク析出抑制の観点から、前記したように水素を共存させる必要がある。供給する水素の量については、水素/混合留分1がモル比で0.5〜15となるようにすることが好ましく、1〜10となるようにするのがより好ましい。このキシレン転換工程に供給する水素については、後述する水素回収工程で得られた水素を用いてもよく、本実施形態のプロセスとは別のプロセスで得られた水素を用いてもよい。
【0050】
また、このキシレン転換工程では、水素共存下にて固体酸触媒に混合留分1を接触させる際の反応温度を、300℃以上500℃以下とすることが好ましく、350℃以上450℃以下とすることがより好ましい。300℃以下では反応速度が十分でないため、キシレン収率が低くなり好ましくない。また、500℃以上では平衡上、キシレンの生成が不利となるため好ましくない。
【0051】
また、このキシレン転換工程では、水素共存下にて固体酸触媒に混合留分1を接触させる際の反応圧力を、2.0MPaG以上7.0MPaG以下とすることが好ましく、2.5MPaG以上5.0MPaGとすることがより好ましい。2.0MPaG以下では水素分圧が低下し、コーク析出による触媒劣化が著しくなり好ましくない。また、7.0MPaG以上では反応器の材料の耐圧性の観点などから、装置の建設コストが莫大となり好ましくない。
【0052】
また、このキシレン転換工程では、反応器内において水素共存下にて固体酸触媒に混合留分1を接触させる際の重量空間速度(WHSV)、すなわち[(供給する留分の重量/時間)/触媒重量]を、0.5h−1以上4.0h−1以下とすることが好ましく、1.0h−1以上3.0h−1以下とすることがより好ましい。0.5h−1以下では反応器サイズが大きくなり、装置の建設コストが莫大となるため好ましくない。また、4.0h−1以上では原料油Bと固体酸触媒との接触時間が十分でないため、キシレン収率が低くなり好ましくない。
【0053】
<キシレン分離工程>
キシレン分離工程では、キシレン転換工程で得られた生成物をキシレンとキシレン以外の留分とに分離する。キシレンとキシレン以外の留分とに分離するには、公知の蒸留装置、気液分離装置を用いればよい。蒸留装置の一例としては、ストリッパーのような多段蒸留装置により複数の留分を蒸留分離できるものが挙げられる。気液分離装置の一例としては、気液分離槽と、該気液分離槽に前記生成物を導入する生成物導入管と、前記気液分離槽の上部に設けられたガス成分流出管と、前記気液分離槽の下部に設けられた液成分流出管とを具備するものが挙げられる。
【0054】
分離したキシレン(キシレン留分)は、先に分離回収工程で分離回収したキシレン留分と同様に本発明の目的製造物であり、したがってキシレン以外の留分を分離した後、これを回収する。このキシレン留分にも、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼンが含まれている。このような各成分の分離回収については、先に分離回収工程で分離回収したキシレン留分と、このキシレン分離工程で分離回収したキシレン留分とを混合した後、得られた混合物についてさらに蒸留することなどにより、行ってもよい。
【0055】
分離されたキシレン以外の留分、すなわち副生成物には、未反応の混合留分1、すなわち未反応の留分Aと留分Bとが主に含まれている。したがって、この副生成物は、再度キシレン転換工程に供することで、キシレンを生成する。
【0056】
<循環工程>
循環工程では、キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分をキシレン転換工程に循環させる。
すなわち、この循環工程では、キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分を、分離回収工程で得られた留分Aと留分Bとに混合し、これら留分A、留分Bとともに混合留分1を形成する。これにより、キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分を、キシレン転換工程に循環させる。
【0057】
キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分の循環については、その全量を循環させてもよく、一部のみを循環(リサイクル)させ、残部は別のプロセス原料とし、または中間製品などとしてもよい。なお、このキシレン以外の留分を前記留分Aと留分Bとに混合し、混合留分1を形成するにあたっては、この混合留分1の、単環芳香族炭化水素の合計モル量に対する各単環芳香族炭化水素のメチル基の合計モル量の値が、前記した範囲(好ましくは1.0〜2.4、より好ましくは1.2〜2.2)を満足するように調整するのが好ましい。
【0058】
このような循環工程を備えることにより、キシレン転換工程で副生成物として得られた未反応の混合留分1、すなわち未反応の留分Aと留分Bとを、再度キシレン転換工程に供することができる。したがって、キシレンの製造効率を充分に高くすることができる。
【0059】
<水素化反応工程>
水素化反応工程では、分離回収工程にて分離された重質分(炭素数11以上の炭化水素)を水素化する。具体的には、前記重質分と水素とを水素化反応器に供給し、水素化触媒を用いて、重質分に含まれる炭化水素、例えば多環芳香族炭化水素の少なくとも一部を水素化処理する。
すなわち、この水素化反応工程では、ナフタレン等の2環芳香族炭化水素を含む多環芳香族炭化水素を、芳香環が平均1つ以下になるまで水素化することが好ましい。例えば、ナフタレンはテトラリン(ナフテノベンゼン)になるまで水素化することが好ましく、メチルナフタレンやジメチルナフタレン等のアルキルナフタレンについても、ナフテノベンゼン、すなわちテトラリン骨格を有する芳香環が一つの芳香族炭化水素とすることが好ましい。同様に、インデン類はインダン骨格を有する芳香族炭化水素に、アントラセン類はオクタヒドロアントラセン骨格を有する芳香族炭化水素に、フェナントレン類はオクタヒドロフェナントレン骨格を有する芳香族炭化水素に、とすることが好ましい。
【0060】
芳香環が平均1つ以下になるまで水素化すれば、後述するリサイクル工程にてこの水素化反応物を分解改質反応工程に戻した際に、該水素化反応物、特にテトラリン骨格を有する芳香族炭化水素が単環芳香族炭化水素に容易に変換される。このように分解改質反応工程での単環芳香族炭化水素の収率を高めるためには、この水素化反応工程で得られる水素化反応物における多環芳香族炭化水素の含有量を、40質量%以下にすることが好ましく、25質量%以下にすることがより好ましく、15質量%以下にすることがさらに好ましい。
【0061】
また、得られる水素化反応物における多環芳香族炭化水素の含有量は、原料油の多環芳香族炭化水素含有量より少ないことが好ましい。水素化反応物における多環芳香族炭化水素の含有量、すなわち多環芳香族炭化水素の濃度については、水素化触媒量を増やすことや、反応圧力を高くすることによって該濃度を低くすることができる。ただし、多環芳香族炭化水素の全部を飽和炭化水素になるまで水素化処理する必要はない。過剰な水素化は、水素消費量の増加を招くとともに、発熱量の過度な増大を招いてしまう。
【0062】
水素化反応工程における反応形式としては、固定床が好適に採用される。
水素化触媒としては、公知の水素化触媒(例えば、ニッケル触媒、パラジウム触媒、ニッケル−モリブデン系触媒、コバルト−モリブデン系触媒、ニッケル−コバルト−モリブデン系触媒、ニッケル−タングステン系触媒等)を用いることができる。
水素化反応温度は、使用する水素化触媒によっても異なるが、通常は100〜450℃、より好ましくは200〜400℃、さらに好ましくは250〜380℃の範囲とされる。
【0063】
水素化反応圧力としては、0.7MPa以上13MPa以下にすることが好ましい。特に、1MPa以上10MPa以下にすることがより好ましく、1MPa以上7MPa以下にすることがさらに好ましい。水素化圧力を13MPa以下にすれば、耐用圧力が比較的低い水素化反応器を使用でき、設備費を低減できる。また、水素回収工程にて回収される水素の圧力は通常13MPa以下であるから、回収された水素を昇圧せずに使用することができる。一方、0.7MPa以上にすれば、水素化反応の収率を充分に適正に維持することができる。
【0064】
水素消費量は3000scfb(506Nm/m)以下であることが好ましく、2500scfb(422Nm/m)以下であることがより好ましく、1500scfb(253Nm/m)以下であることがさらに好ましい。
一方、水素消費量は、水素化反応の収率の点からは、300scfb(50Nm/m)以上であることが好ましい。
液空間速度(LHSV)は0.1h−1以上20h−1以下にすることが好ましく、0.2h−1以上10h−1以下にすることがより好ましい。LHSVを20h−1以下とすれば、より低い水素化反応圧力にて多環芳香族炭化水素を十分に水素化することができる。一方、0.1−1以上とすることで、水素化反応器の大型化を避けることができる。
【0065】
<リサイクル工程>
リサイクル工程では、水素化反応工程にて得られた重質分の水素化反応物を、原料油に混合して分解改質反応工程に戻す。
重質分の水素化反応物を分解改質反応工程に戻すことにより、副生物であった重質分も原料にして単環芳香族炭化水素を得ることができる。そのため、副生物量を削減できる上に、単環芳香族炭化水素の生成量を増やすことができ、これによってキシレンの製造効率を高めることができる。また、水素化によって飽和炭化水素も生成するため、分解改質反応工程における水素移行反応を促進させることもできる。これらのことから、原料油の供給量に対する総括的な単環芳香族炭化水素の収率を向上させ、目的製造物であるキシレンの収率を高めることができる。
【0066】
なお、リサイクル工程においては、水素化反応物を必ずしも全量、分解改質反応工程の原料油へリサイクルしなくてもよい。その場合、リサイクルされなかった水素化反応物を燃料基材として使用することもできる。
また、水素化処理せずに重質留分をそのまま分解改質反応工程に戻した場合には、多環芳香族炭化水素の反応性が低いため、単環芳香族炭化水素の収率はほとんど向上しない。
【0067】
<水素回収工程>
水素回収工程では、分離回収工程にて得られた軽質分から水素を回収する。
水素を回収する方法としては、分離工程で得られたガス成分に含まれる水素とそれ以外のガスとを分離できれば、特に制限はなく、例えば圧力変動吸着法(PSA法)、深冷分離法、膜分離法などが挙げられる。
【0068】
<第1水素供給工程>
第1水素供給工程では、水素回収工程にて回収した水素の一部をキシレン転換工程に供給する。なお、キシレン転換工程で必要な水素量は、前述したように水素/混合留分1がモル比で0.5〜10となる量である。したがって、水素回収工程にて回収した水素の量が前記モル比を満足させるのに充分な量であれば、この第1水素供給工程のみでキシレン転換工程で用いる水素を賄ってもよいが、不足する場合には、前述したように本実施形態のプロセスとは別のプロセスで得られた水素を併用するようにする。
【0069】
<第2水素供給工程>
第2水素供給工程では、水素回収工程にて回収した水素の一部を水素化反応工程の水素化反応器に供給する。その際の水素供給量については、水素化反応工程に供する前記重質分の量に応じて調整される。ただし、この水素供給量についても、水素回収工程にて回収した水素の一部の量で充分であれば、この第2水素供給工程のみで水素化反応工程で用いる水素を賄ってもよいが、不足する場合には、本実施形態のプロセスとは別のプロセスで得られた水素を併用するようにする。
なお、水素回収工程にて回収した水素を、第1水素供給工程、第2水素供給工程にそれぞれ分けて用いることなく、一方の水素供給工程にのみ用いるようにし、他方の水素供給工程については、本実施形態のプロセスとは別のプロセスで得られた水素を用いるようにしてもよい。
【0070】
本実施形態のキシレンの製造方法にあっては、分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の留分Aと留分Bとから得られる混合留分1を、キシレン転換工程にて固体酸触媒に接触させることでキシレンに転換するようにしたので、分離回収工程にて分離回収するキシレン留分以外の留分からキシレンを生成することにより、キシレンを選択的に多く製造することができる。
また、キシレン転換工程を経てキシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分を、キシレン転換工程に循環させるようにしたので、キシレン転換工程で副生成物として得られた未反応の混合留分1、すなわち未反応の留分Aと留分Bとを、再度キシレン転換工程に供することができる。これにより、キシレンの製造効率をより充分に高くすることができる。
さらに、水素化反応工程とリサイクル工程とを有するので、副生物であった重質分も原料にして単環芳香族炭化水素を得ることができる。そのため、副生物量を削減できる上に、単環芳香族炭化水素の生成量を増やすことができ、これによってキシレンの製造効率を高めることができる。
【0071】
「第2の実施形態」
本発明のキシレンの製造方法の第2の実施形態について説明する。
図2は、本発明のキシレンの製造方法の第2の実施形態を説明するための図であり、本実施形態のキシレンの製造方法も、原料油から主にキシレンを製造する方法である。
【0072】
すなわち、本実施形態のキシレンの製造方法は、図2に示すように、
(11)原料油を、単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させ、反応させて、主に炭素数6〜10の単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程
(12)分解改質反応工程にて製造した製造物から異なる複数の留分を分離回収する分離回収工程
(13)分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の異なる複数の留分から得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程
(14)キシレン転換工程にて得られた生成物を分解改質反応工程または分離回収工程に返送する返送工程
(15)分離回収工程にて分離回収された重質分を水素化する水素化反応工程
(16)分離回収工程にて分離回収された軽質分から、分解改質反応工程にて副生した水素を回収する水素回収工程
(17)水素回収工程にて回収した水素の一部をキシレン転換工程に供給する第1水素供給工程
(18)水素回収工程にて回収した水素の一部を水素化反応工程に供給する第2水素供給工程
(19)水素化反応工程により得た重質留分の水素化反応物を分解改質反応工程に戻すリサイクル工程
【0073】
ここで、本実施形態が図1に示した第1の実施形態と異なるところは、第1の実施形態における(4)キシレン分離工程および(5)循環工程に代えて、(14)返送工程を採用した点である。
すなわち、本実施形態では、キシレン転換工程で得られた生成物を、キシレンとキシレン以外の留分とに分離することなく、基本的に全量、分解改質反応工程または分離回収工程に返送するようにしている。したがって、本実施形態では、返送工程以外の工程は、全て第1の実施形態の対応する工程と同様にして行うことができる。
【0074】
<返送工程>
返送工程では、キシレン転換工程にて得られた生成物を分解改質反応工程または分離回収工程に返送する。好ましくは、キシレン転換工程にて得られた生成物の全量を、分離回収工程に返送する。キシレン転換工程にて得られた生成物は、前述したようにキシレンとキシレン以外の留分とを含む。また、キシレン以外の留分には、未反応の混合留分1、すなわち未反応の留分Aと留分Bとが主に含まれている。そこで、これらキシレンとキシレン以外の留分とを全て分離回収工程に返送することにより、分離回収工程にてキシレンを分離回収できるとともに、未反応の留分A、留分Bについてもそれぞれ分離回収し、混合留分1として再度キシレン転換工程に供することができる。したがって、このように分離回収工程、キシレン転換工程を循環させることにより、キシレンを選択的に多く製造することができる。
【0075】
また、キシレン転換工程にて得られた生成物の全量を、分解改質反応工程に返送してもよい。その場合には、原料油とともに前記生成物も再度分解改質反応に供せられる。しかし、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素は分解改質されにくいため、これらのほとんどはそのまま分離回収工程に供給され、前述した分離回収工程に返送した場合と同様にして、キシレン、留分A、留分Bにそれぞれ分離回収される。ただし、炭素数9、10の単環芳香族炭化水素については、分解改質されて一部炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素に転換される。したがって、この炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素が分解改質反応工程後、分離回収工程に送られることにより、その後のキシレン転換工程でのキシレンの収率が高まる。
【0076】
なお、本実施形態においても、キシレン転換工程の後に第1の実施形態で示したようなキシレン分離工程(図示せず)を設け、分離回収された副生成物中から特に炭素数9以上の重質留分を分離回収するようにしてもよい。その場合、炭素数9以上の重質留分以外の留分(キシレンを含む)については、返送工程にて分離回収工程に返送する。一方、分離回収した炭素数9以上の重質留分については、分解改質反応工程に直接返送してもよいが、水素化反応工程、リサイクル工程を介して分解改質反応工程に返送するのが好ましい。水素化反応工程に供してここで水素化反応を行わせることにより、炭素数9以上の重質留分を、分解改質反応工程においてより炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素に転換され易いナフテノベンゼン等に変換することができる。
また、本実施形態では、キシレン転換工程にて得られた生成物の全量を、分解改質反応工程または分離回収工程に返送するようにしたが、全量でなく、その一部のみを返送するようにしてもよい。
【0077】
本実施形態のキシレンの製造方法にあっても、分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の留分Aと留分Bとから得られる混合留分1を、キシレン転換工程にて固体酸触媒に接触させることでキシレンに転換するようにしたので、分離回収工程にて分離回収するキシレン留分以外の留分からキシレンを生成することにより、キシレンを選択的に多く製造することができる。
また、キシレン転換工程にて得られた生成物を分解改質反応工程または分離回収工程に返送するようにしたので、キシレン転換工程で得られたキシレン、および副生成物として得られた未反応の留分A、留分Bを、再度キシレン転換工程に供することができる。これにより、キシレンの製造効率をより充分に高くすることができる。また、キシレン分離工程を省略できるため、キシレン分離工程に用いる蒸留塔などの設備を省略することができ、したがって装置コストを低減することができる。
さらに、水素化反応工程とリサイクル工程とを有するので、副生物であった重質分も原料にして単環芳香族炭化水素を得ることができる。そのため、副生物量を削減できる上に、単環芳香族炭化水素の生成量を増やすことができ、これによってキシレンの製造効率を高めることができる。
【0078】
「第3の実施形態」
本発明のキシレンの製造方法の第3の実施形態について説明する。
図3は、本発明のキシレンの製造方法の第3の実施形態を説明するための図であり、本実施形態のキシレンの製造方法も、原料油から主にキシレンを製造する方法である。
【0079】
すなわち、本実施形態のキシレンの製造方法は、図3に示すように、
(20)原料油を、単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させ、反応させて、主に炭素数6〜10の単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程
(21)分解改質反応工程にて製造した製造物から異なる複数の留分を分離回収する分離回収工程
(22)分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の異なる複数の留分から得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程
(23)キシレン転換工程にて得られた生成物をキシレンとキシレン以外の留分とに分離するキシレン分離工程
(24)キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分を前記キシレン転換工程に循環させる循環工程
(25)分離回収工程にて分離回収された重質分を水素化する水素化反応工程
(26)分離回収工程にて分離回収された軽質分から、分解改質反応工程にて副生した水素を回収する水素回収工程
(27)水素回収工程にて回収した水素の一部をキシレン転換工程に供給する第1水素供給工程
(28)水素回収工程にて回収した水素の一部を水素化反応工程に供給する第2水素供給工程
(29)水素化反応工程により得た重質留分の水素化反応物を分解改質反応工程に戻すリサイクル工程
上記(20)〜(29)の工程のうち、(20)〜(22)の工程は本願請求項2に係る発明における必須の工程であり、(23)〜(29)の工程は任意の工程である。ただし、(23)キシレン分離工程については、目的とするキシレンを得るうえで、本実施形態では必須となる。
【0080】
ここで、本実施形態が図1に示した第1の実施形態と異なるところは、分離回収工程において分離回収する留分が異なる点である。すなわち、第1の実施形態の(2)分離回収工程では、中間分の留分として、主に炭素数6及び7の単環芳香族炭化水素を含有する留分Aと、キシレン留分と、主に炭素数9及び10の単環芳香族炭化水素を含有する留分Bとをそれぞれ分離回収するようにし、留分Aと留分Bとから混合留分1を調整していたのに対し、本実施形態の(21)分離回収工程では、留分Bに代えて留分Cを分離回収し、留分Aと留分Cとから混合留分2を調整している。
【0081】
本実施形態の分離回収工程では、軽質分と重質分と中間分とをそれぞれ分離回収する。中間分については、前記留分Aと、キシレン留分と、10容量%留出温度が145℃以上かつ90容量%留出温度が195℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Cとに分離し、それぞれ別々に回収する。
なお、留分Cの10容量%留出温度の上限は175℃以下、90容量%留出温度の下限は160℃以上であることが好ましい。
【0082】
留分Cは、具体的には炭素数9(C9)の単環芳香族炭化水素、すなわち、トリメチルベンゼン、エチルトルエン、プロピルベンゼンなどが含まれている。
留分C中の単環芳香族炭化水素の含有量は、50容量%以上とするのが好ましく、60容量%以上とするのがより好ましい。
【0083】
このように留分A、キシレン留分、留分Cをそれぞれ別々に回収したら、この分離回収工程では、回収した留分Aと留分Cとを混合し、混合留分2とする。留分Aと留分Cとの混合比としては、特に限定されないものの、以下示す範囲とするのが、キシレンをより多く製造するうえで好ましい。
各単環芳香族炭化水素(単環芳香族化合物)のモル分率を[C6],[C7],[C9]と表した時の、単環芳香族炭化水素の合計モル量に対する、各単環芳香族炭化水素のメチル基の合計モル量の値、すなわち、
([C7] +3×[C9] )/([C6]+[C7]+[C9]) を、1.0〜2.4とするのが好ましく、1.2〜2.2とするのがより好ましい。1.0未満、または2.4を超えると、キシレンへの転換効率が低くなり、キシレンの生成量が低下する。なお、得られる留分A、留分Cの量が前記範囲を満たすようになる原料油としては特に制限はないが、C9〜C10程度のアルキルベンゼン類を多く含む留分が挙げられる。例えば、流動接触分解装置由来の分解軽油(LCO)、接触改質装置由来の重質油、FCC由来のHCCG留分などがある。
【0084】
また、この分離回収工程では、第1の実施形態と同様に、炭素数5以下の、ガス成分(水素、メタン、エタン)やLPGを主とする成分(軽質分)を分離回収する。一方、重質分については、第1の実施形態と異なり、炭素数10以上の重質分を分離回収する。そして、軽質分については、水素回収工程に供することにより、例えば水素とその他のガス成分(メタン、エタン)、LPG等の軽質分に分離し、回収する。一方、重質分については、第1の実施形態と同様に水素化反応工程に供給し、さらに得られた水素化反応物をリサイクル工程によって分解改質反応工程に戻す。
【0085】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、分離回収工程で得られた留分Aと留分Cとからなる混合留分2を、キシレン転換工程において水素共存下にて固体酸触媒に接触させることにより、キシレンに転換する。使用する固体酸触媒や反応条件については、第1の実施形態と同様とされる。また、水素を共存させるために供給する水素の量についても、第1の実施形態と同様に、水素/混合留分2がモル比で0.5〜15となるようにすることが好ましく、1〜10となるようにするのがより好ましい。
【0086】
キシレン分離工程でも、第1の実施形態と同様にして、キシレン転換工程で得られた生成物をキシレンとキシレン以外の留分とに分離する。
分離したキシレン(キシレン留分)については、先に分離回収工程で分離回収したキシレン留分と同様にして、必要に応じ精製などの処理を行う。
また、分離されたキシレン以外の留分(副生成物)には、未反応の混合留分2、すなわち未反応の留分Aと留分Cとが主に含まれている。したがって、本実施形態でも、この副生成物を、循環工程にて再度キシレン転換工程に供する。
【0087】
循環工程でも、第1の実施形態と同様にして、キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分をキシレン転換工程に循環させる。これにより、キシレン転換工程で副生成物として得られた未反応の混合留分2、すなわち未反応の留分Aと留分Cとを、再度キシレン転換工程に供することができる。
【0088】
本実施形態のキシレンの製造方法にあっては、分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の留分Aと留分Cとから得られる混合留分2を、キシレン転換工程にて固体酸触媒に接触させることでキシレンに転換するようにしたので、分離回収工程にて分離回収するキシレン留分以外の留分からキシレンを生成することにより、キシレンを選択的に多く製造することができる。
また、キシレン転換工程を経てキシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分を、キシレン転換工程に循環させるようにしたので、キシレン転換工程で副生成物として得られた未反応の混合留分2、すなわち未反応の留分Aと留分Cとを、再度キシレン転換工程に供することができる。これにより、キシレンの製造効率をより充分に高くすることができる。
さらに、水素化反応工程とリサイクル工程とを有するので、副生物であった重質分も原料にして単環芳香族炭化水素を得ることができる。そのため、副生物量を削減できる上に、単環芳香族炭化水素の生成量を増やすことができ、これによってキシレンの製造効率を高めることができる。
【0089】
「第4の実施形態」
本発明のキシレンの製造方法の第4の実施形態について説明する。
図4は、本発明のキシレンの製造方法の第4の実施形態を説明するための図であり、本実施形態のキシレンの製造方法も、原料油から主にキシレンを製造する方法である。
【0090】
すなわち、本実施形態のキシレンの製造方法は、図4に示すように、
(30)原料油を、単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させ、反応させて、主に炭素数6〜10の単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程
(31)分解改質反応工程にて製造した製造物から異なる複数の留分を分離回収する分離回収工程
(32)分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の異なる複数の留分から得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程
(33)キシレン転換工程にて得られた生成物を分解改質反応工程または分離回収工程に返送する返送工程
(34)分離回収工程にて分離回収された重質分を水素化する水素化反応工程
(35)分離回収工程にて分離回収された軽質分から、分解改質反応工程にて副生した水素を回収する水素回収工程
(36)水素回収工程にて回収した水素の一部をキシレン転換工程に供給する第1水素供給工程
(37)水素回収工程にて回収した水素の一部を水素化反応工程に供給する第2水素供給工程
(38)水素化反応工程により得た重質留分の水素化反応物を分解改質反応工程に戻すリサイクル工程
【0091】
ここで、本実施形態が図2に示した第2の実施形態と異なるところは、第3の実施形態が第1の実施形態と異なる点と同様、分離回収工程において分離回収する留分が異なる点である。すなわち、第2の実施形態の(12)分離回収工程では、中間分の留分として、留分Aと、キシレン留分と、留分Bとをそれぞれ分離回収するようにし、留分Aと留分Bとから混合留分1を調整していたのに対し、本実施形態の(31)分離回収工程では、留分Bに代えて留分Cを分離回収し、留分Aと留分Cとから混合留分2を調整している点である。
【0092】
したがって、本実施形態では、分離回収工程以外の工程は、全て第2の実施形態の対応する工程と同様にして行うことができる。また、分離回収工程については、第3の実施形態の分離回収工程と同様にして行うことができる。
【0093】
なお、返送工程ついても、第2の実施形態と同様にして行うことができるが、本実施形態においてキシレン転換工程で得られる副生成物には、第2の実施形態と異なり、炭素数10の単環芳香族炭化水素がほとんど含まれない。したがって、このキシレン転換工程で得られた生成物を分解改質反応工程に返送する利点は少ないため、本実施形態の返送工程では、キシレン転換工程にて得られた生成物の全量を、分離回収工程に返送することが好ましい。
【0094】
本実施形態のキシレンの製造方法にあっても、分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の留分Aと留分Cとから得られる混合留分2を、キシレン転換工程にて固体酸触媒に接触させることでキシレンに転換するようにしたので、分離回収工程にて分離回収するキシレン留分以外の留分からキシレンを生成することにより、キシレンを選択的に多く製造することができる。
また、キシレン転換工程にて得られた生成物を分解改質反応工程または分離回収工程に返送するようにしたので、キシレン転換工程で得られたキシレン、および副生成物として得られた未反応の留分A、留分Cを、再度キシレン転換工程に供することができる。これにより、キシレンの製造効率をより充分に高くすることができる。また、キシレン分離工程を省略できるため、キシレン分離工程に用いる蒸留塔などの設備を省略することができ、したがって装置コストを低減することができる。
さらに、水素化反応工程とリサイクル工程とを有するので、副生物であった重質分も原料にして単環芳香族炭化水素を得ることができる。そのため、副生物量を削減できる上に、単環芳香族炭化水素の生成量を増やすことができ、これによってキシレンの製造効率を高めることができる。
【0095】
「第5の実施形態」
本発明のキシレンの製造方法の第5の実施形態について説明する。
図5は、本発明のキシレンの製造方法の第5の実施形態を説明するための図であり、本実施形態のキシレンの製造方法も、原料油から主にキシレンを製造する方法である。
【0096】
すなわち、本実施形態のキシレンの製造方法は、図5に示すように、
(39)原料油を、単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させ、反応させて、主に炭素数6〜10の単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程
(40)分解改質反応工程にて製造した製造物から異なる複数の留分を分離回収する分離回収工程
(41)分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の異なる複数の留分から得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程
(42)キシレン転換工程にて得られた生成物をキシレンとキシレン以外の留分とに分離するキシレン分離工程
(43)キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分を前記キシレン転換工程に循環させる循環工程
(44)分離回収工程にて分離回収された重質分を水素化する水素化反応工程
(45)分離回収工程にて分離回収された軽質分から、分解改質反応工程にて副生した水素を回収する水素回収工程
(46)水素回収工程にて回収した水素の一部をキシレン転換工程に供給する第1水素供給工程
(47)水素回収工程にて回収した水素の一部を水素化反応工程に供給する第2水素供給工程
(48)水素化反応工程により得た重質留分の水素化反応物を分解改質反応工程に戻すリサイクル工程
上記(39)〜(48)の工程のうち、(39)〜(41)の工程は本願請求項3に係る発明における必須の工程であり、(42)〜(48)の工程は任意の工程である。ただし、(42)キシレン分離工程については、目的とするキシレンを得るうえで、本実施形態では必須となる。
【0097】
ここで、本実施形態が図3に示した第3の実施形態と異なるところは、分離回収工程において分離回収する留分が異なる点である。すなわち、第3の実施形態の(21)分離回収工程では、中間分の留分として、主に炭素数6及び7の単環芳香族炭化水素を含有する留分Aと、キシレン留分と、主に炭素数9の単環芳香族炭化水素を含有する留分Cとをそれぞれ分離回収するようにし、留分Aと留分Cとから混合留分2を調整していたのに対し、本実施形態の(40)分離回収工程では、留分Aに代えて留分Dを分離回収し、留分Dと留分Cとから混合留分3を調整している点である。
【0098】
本実施形態の分離回収工程では、軽質分と重質分と中間分とをそれぞれ分離回収する。中間分については、10容量%留出温度が85℃以上かつ90容量%留出温度が135℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Dと、キシレン留分と、留分Cとに分離し、それぞれ別々に回収する。
なお、留分Dの10容量%留出温度の上限は115℃以下、90容量%留出温度の下限は105℃以上であることが好ましい。
【0099】
留分Dは、具体的には炭素数7(C7)の単環芳香族炭化水素、すなわちトルエンを主として含有する。
なお、留分Dについても、留分中の単環芳香族炭化水素の含有量を、50容量%以上とするのが好ましく、60容量%以上とするのがより好ましい。
【0100】
このように留分D、キシレン留分、留分Cをそれぞれ別々に回収したら、この分離回収工程では、回収した留分Dと留分Cとを混合し、混合留分3とする。留分Dと留分Cとの混合比としては、特に限定されないものの、以下示す範囲とするのが、キシレンをより多く製造するうえで好ましい。
各単環芳香族炭化水素(単環芳香族化合物)のモル分率を [C7],[C9]と表した時の、単環芳香族炭化水素の合計モル量に対する、各単環芳香族炭化水素のメチル基の合計モル量の値、すなわち、
([C7] +3×[C9] )/( [C7]+[C9]) を、1.0〜3.0とするのが好ましく、1.2〜2.6とするのがより好ましい。1.0未満、または3.0を超えると、キシレンへの転換効率が低くなり、キシレンの生成量が低下する。なお、得られる留分D、留分Cの量が前記範囲を満たすようになる原料油としては特に制限はなく、C9〜C10程度のアルキルベンゼン類を多く含む留分が挙げられる。例えば、流動接触分解装置由来の分解軽油(LCO)、接触改質装置由来の重質油、FCC由来のHCCG留分などがある。
【0101】
また、この分離回収工程では、第3の実施形態と異なり、炭素数6以下の成分(水素、メタン、エタン、LPG、ベンゼン等)を主とする軽質分を分離回収する。一方、重質分については、第3の実施形態と同様に、炭素数10以上の重質分を分離回収する。そして、軽質分については、水素回収工程に供することにより、例えば水素とその他のガス成分(メタン、エタン)、LPG、ベンゼン等の軽質分に分離し、回収する。特にベンゼンはキシレンと同様、単環芳香族化合物として、他の軽質分とは分離して回収することが望ましい。一方、重質分については、第3の実施形態と同様に水素化反応工程に供給し、さらに得られた水素化反応物をリサイクル工程によって分解改質反応工程に戻す。
【0102】
本実施形態では、第3の実施形態と同様に、分離回収工程で得られた留分Dと留分Cとからなる混合留分3を、キシレン転換工程において水素共存下にて固体酸触媒に接触させることにより、キシレンに転換する。使用する固体酸触媒や反応条件については、第3の実施形態と同様とされる。また、水素を共存させるために供給する水素の量についても、第3の実施形態と同様に、水素/混合留分3がモル比で0.5〜10となるようにすることが好ましく、1〜8となるようにするのがより好ましい。
【0103】
キシレン分離工程でも、第3の実施形態と同様にして、キシレン転換工程で得られた生成物をキシレンとキシレン以外の留分とに分離する。
分離したキシレン(キシレン留分)については、先に分離回収工程で分離回収したキシレン留分と同様にして、必要に応じ精製などの処理を行う。
また、分離されたキシレン以外の留分(副生成物)には、未反応の混合留分3、すなわち未反応の留分Dと留分Cとが主に含まれている。したがって、本実施形態でも、この副生成物を、循環工程にて再度キシレン転換工程に供する。
【0104】
循環工程でも、第3の実施形態と同様にして、キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分をキシレン転換工程に循環させる。これにより、キシレン転換工程で副生成物として得られた未反応の混合留分3、すなわち未反応の留分Dと留分Cとを、再度キシレン転換工程に供することができる。
【0105】
本実施形態のキシレンの製造方法にあっては、分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の留分Dと留分Cとから得られる混合留分3を、キシレン転換工程にて固体酸触媒に接触させることでキシレンに転換するようにしたので、分離回収工程にて分離回収するキシレン留分以外の留分からキシレンを生成することにより、キシレンを選択的に多く製造することができる。
また、キシレン転換工程を経てキシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分を、キシレン転換工程に循環させるようにしたので、キシレン転換工程で副生成物として得られた未反応の混合留分3、すなわち未反応の留分Dと留分Cとを、再度キシレン転換工程に供することができる。これにより、キシレンの製造効率をより充分に高くすることができる。
さらに、水素化反応工程とリサイクル工程とを有するので、副生物であった重質分も原料にして単環芳香族炭化水素を得ることができる。そのため、副生物量を削減できる上に、単環芳香族炭化水素の生成量を増やすことができ、これによってキシレンの製造効率を高めることができる。
【0106】
「第6の実施形態」
本発明のキシレンの製造方法の第6の実施形態について説明する。
図6は、本発明のキシレンの製造方法の第6の実施形態を説明するための図であり、本実施形態のキシレンの製造方法も、原料油から主にキシレンを製造する方法である。
【0107】
すなわち、本実施形態のキシレンの製造方法は、図6に示すように、
(49)原料油を、単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させ、反応させて、主に炭素数6〜10の単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程
(50)分解改質反応工程にて製造した製造物から異なる複数の留分を分離回収する分離回収工程
(51)分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の異なる複数の留分から得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程
(52)キシレン転換工程にて得られた生成物を分解改質反応工程または分離回収工程に返送する返送工程
(53)分離回収工程にて分離回収された重質分を水素化する水素化反応工程
(54)分離回収工程にて分離回収された軽質分から、分解改質反応工程にて副生した水素を回収する水素回収工程
(55)水素回収工程にて回収した水素の一部をキシレン転換工程に供給する第1水素供給工程
(56)水素回収工程にて回収した水素の一部を水素化反応工程に供給する第2水素供給工程
(57)水素化反応工程により得た重質留分の水素化反応物を分解改質反応工程に戻すリサイクル工程
【0108】
ここで、本実施形態が図4に示した第4の実施形態と異なるところは、第5の実施形態が第3の実施形態と異なる点と同様、分離回収工程において分離回収する留分が異なる点である。すなわち、第4の実施形態の(31)分離回収工程では、中間分の留分として、留分Aと、キシレン留分と、留分Cとをそれぞれ分離回収するようにし、留分Aと留分Cとから混合留分2を調整していたのに対し、本実施形態の(50)分離回収工程では、留分Aに代えて留分Dを分離回収し、留分Dと留分Cとから混合留分3を調整している。
【0109】
したがって、本実施形態では、分離回収工程以外の工程は、全て第4の実施形態の対応する工程と同様にして行うことができる。また、分離回収工程については、第5の実施形態の分離回収工程と同様にして行うことができる。
なお、返送工程ついても、第4の実施形態と同様にして行うことができる。
【0110】
本実施形態のキシレンの製造方法にあっても、分離回収工程にて分離回収されたキシレン留分以外の留分Dと留分Cとから得られる混合留分3を、キシレン転換工程にて固体酸触媒に接触させることでキシレンに転換するようにしたので、分離回収工程にて分離回収するキシレン留分以外の留分からキシレンを生成することにより、キシレンを選択的に多く製造することができる。
また、キシレン転換工程にて得られた生成物を分解改質反応工程または分離回収工程に返送するようにしたので、キシレン転換工程で得られたキシレン、および副生成物として得られた未反応の留分A、留分Cを、再度キシレン転換工程に供することができる。これにより、キシレンの製造効率をより充分に高くすることができる。また、キシレン分離工程を省略できるため、キシレン分離工程に用いる蒸留塔などの設備を省略することができ、したがって装置コストを低減することができる。
さらに、水素化反応工程とリサイクル工程とを有するので、副生物であった重質分も原料にして単環芳香族炭化水素を得ることができる。そのため、副生物量を削減できる上に、単環芳香族炭化水素の生成量を増やすことができ、これによってキシレンの製造効率を高めることができる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
(実施例1)
原料油である表1に示すLCO(10容量%留出温度226.5℃、90容量%留出温度が350.0℃)を、反応温度:450℃、反応圧力:0.3MPaG、LCOと触媒に含まれるゼオライト成分との接触時間が30秒の条件で、流動床反応器にて触媒(ガリウム0.4質量%およびリン0.7質量%を担持したMFI型ゼオライト)と接触、反応させ、分解改質反応工程を行った。
得られた生成物を、前記第1の実施形態の分離回収工程と同様にして軽質分、中間分(留分A、キシレン留分、留分B)、重質分に分離し、キシレン留分(沸点範囲137〜145℃)を回収するとともに、留分Aと留分Bとの混合比率を1:1.5(質量%)で調整した混合留分1を調整した。混合留分1中の単環芳香族炭化水素の合計モル量に対する、各単環芳香族炭化水素のメチル基の合計モル量の値は1.89である。なお、留分A、留分Bの性状を表2に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
また、キシレン転換工程として、まず、金属換算で2質量%のレニウム(Re)を担持したモルデナイトからなる固体酸触媒を、反応器内に充填した。そして、反応温度400℃、反応圧力3.0MPaG、重量空間速度(WHSV)=1.0h−1の条件で、前記混合留分1を反応器内に供給するとともに、水素を、水素と混合留分1との混合比(H/混合留分)がモル比で5.0となるように前記反応器内に導入し、キシレン転換反応を行った。
反応後、得られた生成物からキシレンを分離回収した。
【0116】
分解改質反応工程に供給した原料油(表1に示すLCO)に対する、キシレンの収率(質量%)を調べたところ、12.6質量%であった。得られた結果を表3に示す。
なお、キシレンの収率については、分離回収工程で得られたキシレンと、キシレン転換工程で得られたキシレンの合計量の、供給した原料油の量に対する百分率で示した。
【0117】
(実施例2)
実施例1の分解改質反応工程で得られた生成物を、前記第3の実施形態の分離回収工程と同様にして軽質分、中間分(留分A、キシレン留分、留分C)、重質分に分離し、キシレン留分(沸点範囲137〜145℃)を回収するとともに、留分Aと留分Cとの混合比率を1:1.1(質量%)にして混合留分2を調整した以外は、実施例1と同様にして分解改質反応工程、キシレン転換工程を行った。そして、それぞれの工程でキシレンを分離回収した。混合留分2中の単環芳香族炭化水素の合計モル量に対する、各単環芳香族炭化水素のメチル基の合計モル量の値は1.65である。なお、留分A、留分Cの性状を表2に示す。
分解改質反応工程に供給した原料油(表1に示すLCO)に対する、分離回収したキシレンの収率(質量%)を調べたところ、10.8質量%であった。得られた結果を表3に示す。
なお、キシレンの収率については、実施例1と同様に、分離回収工程で得られたキシレンとキシレン転換工程で得られたキシレンとの合計量についての百分率とした。
【0118】
(実施例3)
実施例1の分解改質反応工程で得られた生成物を、前記第5の実施形態の分離回収工程と同様にして軽質分、中間分(留分D、キシレン留分、留分C)、重質分に分離し、キシレン留分(沸点範囲137〜145℃)を回収するとともに、留分Dと留分Cとの混合比率を1:1.6(質量%)にして混合留分3を調整した以外は、実施例1と同様にして分解改質反応工程、キシレン転換工程を行った。そして、それぞれの工程でキシレンを分離回収した。混合留分3中の単環芳香族炭化水素の合計モル量に対する、各単環芳香族炭化水素のメチル基の合計モル量の値は2.11である。なお、留分C、留分Dの性状を表2に示す。
分解改質反応工程に供給した原料油(表1に示すLCO)に対する、分離回収したキシレンの収率(質量%)を調べたところ、9.6質量%であった。得られた結果を表3に示す。
なお、キシレンの収率については、実施例1と同様に、分離回収工程で得られたキシレンとキシレン転換工程で得られたキシレンとの合計量についての百分率とした。
【0119】
(実施例4)
実施例1と同様にして分解改質反応工程、キシレン転換工程を行い、さらに、前記キシレン転換工程にて得られた生成物をキシレン分離工程にてキシレン(沸点範囲137〜145℃)とキシレン以外の留分とに分離し、得られたキシレン以外の留分を前記キシレン転換工程に循環させ、再度キシレン転換工程を行い、得られたキシレンを分離回収した。なお、再度キシレン転換工程を行った時の単環芳香族炭化水素の合計モル量に対する各単環芳香族炭化水素のメチル基の合計モル量の値は表3に示すとおり、1.96であった。
分解改質反応工程に供給した原料油(表1に示すLCO)に対する、分離回収したキシレンの収率(質量%)を調べたところ、13.2質量%であった。得られた結果を表3に示す。
なお、キシレンの収率については、実施例1と同様に、分離回収工程で得られたキシレンとキシレン転換工程で得られたキシレンとの合計量についての百分率とした。
【0120】
(実施例5)
実施例1の分解改質反応工程で得られた生成物を、前記第2の実施形態の分離回収工程と同様にして軽質分、中間分(留分A、キシレン留分、留分B)、重質分に分離し、キシレン留分(沸点範囲137〜145℃)を回収するとともに、留分Aと留分Bとの混合比率を1:1.5(質量%)に調整した混合留分1を、前記キシレン転換工程にて転換した。なお、留分A、留分Bの性状を表2に示す。前記キシレン転換工程で得られた生成物の全量を分離回収工程に返送し、再び、軽質分、中間分(留分A、キシレン留分、留分B)、重質分に分離し、キシレン留分(沸点範囲137〜145℃)を回収し、さらに留分Aと留分Bとの混合留分を前記キシレン転換工程にて再度転換した。2度目のキシレン転換工程で得られた生成物の全量を分離回収工程に返送し、軽質分、中間分(留分A、キシレン留分、留分B)、重質分に分離し、キシレン留分(沸点範囲137〜145℃)を回収した。なお、2度目のキシレン転換工程を行った時の単環芳香族炭化水素の合計モル量に対する各単環芳香族炭化水素のメチル基の合計モル量の値は表3に示すとおり、1.91であった。
分解改質反応工程に供給した原料油(表1に示すLCO)に対する、分離回収したキシレンの収率(質量%)を調べたところ、13.7質量%であった。得られた結果を表3に示す。
なお、キシレンの収率については、分離回収工程で得られたキシレンとキシレン転換工程、返送工程、分離回収工程を経て得られたキシレンとの合計量についての百分率とした。
【0121】
(実施例6)
実施例1と同様にして分解改質反応工程、キシレン転換工程を行い、前記第1の実施形態の分離回収工程で得られた重質分を市販のニッケル−モリブデン触媒を用い、水素化反応温度350℃、水素化反応圧力3MPa、LHSV=0.5h−1の条件で水素化処理して水素化反応物とし(水素化反応工程)、得られた水素化反応物をリサイクル工程にて分解改質反応工程の前に戻し、原料油であるLCOと混合し、再度分解改質反応工程に供給した。得られた生成物について前記と同様に分離回収工程、キシレン転換工程、得られたキシレンを分離回収した。なお、2度目のキシレン転換工程における、単環芳香族炭化水素の合計モル量に対する各単環芳香族炭化水素のメチル基の合計モル量の値は表3に示すとおり、1.77であった。
分解改質反応工程に供給した原料油(表1に示すLCO)に対する、分離回収したキシレンの収率(質量%)を調べたところ、13.4質量%であった。得られた結果を表3に示す。
なお、キシレンの収率については、実施例1と同様に、分離回収工程で得られたキシレンとキシレン転換工程で得られたキシレンとの合計量についての百分率とした。
【0122】
(比較例1)
実施例1と同様にして分解改質反応工程を行い、キシレンを分離回収した。
分解改質反応工程に供給した原料油(表1に示すLCO)に対する、分離回収したキシレンの収率(質量%)を調べたところ、7.4質量%であった。得られた結果を表3に示す。
なお、この比較例ではキシレン転換工程を行わないため、キシレンの収率については、分離回収工程で得られたキシレンの量についての百分率とした。
【0123】
【表3】

【0124】
表3に示す結果より、本発明に係る実施例1〜6では、キシレン転換工程を行わない比較例1に比べ、キシレンの収率が高くなることが確認された。
また、混合留分としては、単環芳香族炭化水素(単環芳香族化合物)の種類(単環芳香族化合物種)を多く含む混合留分の方が、少ない混合留分よりキシレンの収率が高くなることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油からキシレンを製造する方法であって、
前記原料油を、結晶性アルミノシリケートを含有する触媒と接触させることで単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程と、
前記分解改質反応工程にて製造した製造物から、10容量%留出温度が75℃以上かつ90容量%留出温度が135℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Aと、キシレンを含むキシレン留分と、10容量%留出温度が145℃以上かつ90容量%留出温度が215℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Bと、を分離回収する分離回収工程と、
前記留分Aと前記留分Bとを混合して得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程と、を有することを特徴とするキシレンの製造方法。
【請求項2】
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油からキシレンを製造する方法であって、
前記原料油を、結晶性アルミノシリケートを含有する触媒と接触させることで単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程と、
前記分解改質反応工程にて製造した製造物から、10容量%留出温度が75℃以上かつ90容量%留出温度が135℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Aと、キシレンを含むキシレン留分と、10容量%留出温度が145℃以上かつ90容量%留出温度が195℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Cと、を分離回収する分離回収工程と、
前記留分Aと前記留分Cとを混合して得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程と、を有することを特徴とするキシレンの製造方法。
【請求項3】
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油からキシレンを製造する方法であって、
前記原料油を、結晶性アルミノシリケートを含有する触媒と接触させることで単環芳香族炭化水素を製造する分解改質反応工程と、
前記分解改質反応工程にて製造した製造物から、10容量%留出温度が85℃以上かつ90容量%留出温度が135℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Dと、キシレンを含むキシレン留分と、10容量%留出温度が145℃以上かつ90容量%留出温度が195℃以下の単環芳香族炭化水素を含有する留分Cと、を分離回収する分離回収工程と、
前記留分Dと前記留分Cとを混合して得られる混合留分を、固体酸を含む触媒に接触させることでキシレンに転換するキシレン転換工程と、を有することを特徴とするキシレンの製造方法。
【請求項4】
前記キシレン転換工程の後に、該キシレン転換工程にて得られた生成物をキシレンとキシレン以外の留分とに分離するキシレン分離工程と、該キシレン分離工程にて得られたキシレン以外の留分を前記キシレン転換工程に循環させる循環工程と、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のキシレンの製造方法。
【請求項5】
前記キシレン転換工程の後に、該キシレン転換工程にて得られた生成物を前記分解改質反応工程または前記分離回収工程に返送する返送工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のキシレンの製造方法。
【請求項6】
前記固体酸を含む触媒が、モルデナイト型ゼオライトまたはベータ型ゼオライトを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のキシレンの製造方法。
【請求項7】
前記キシレン転換工程では、前記固体酸を含む触媒に前記混合留分を接触させる際の反応温度を、300℃以上500℃以下とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のキシレンの製造方法。
【請求項8】
前記キシレン転換工程では、前記固体酸を含む触媒に前記混合留分を接触させる際の反応圧力を、2.0MPaG以上7.0MPaG以下とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のキシレンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240997(P2012−240997A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115637(P2011−115637)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】