説明

キシログルカン−カチオン複合体及びそれを含有する安定化組成物

【課題】キシログルカン−2価カチオン複合体及びそれを含有する安定化組成物の提供。
【解決手段】下記(1)及び(2)を特徴とする多糖類及び2価カチオンを含有する複合体、並びにリン酸塩を含有する安定化組成物:(1)多糖類がキシログルカンである、及び(2)多糖類と2価カチオンの配合割合が、100:0.01〜100:2.0である。キシログルカンは、タマリンドシードガムが好ましく、2価カチオンは、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン及び亜鉛カチオンからなる群から選択される少なくとも1種以上の2価カチオンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシログルカン−2価カチオン複合体に関する。また、該複合体を含有する安定化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
キシログルカンは高等植物の一次壁に多く存在する中性の多糖類であり、1,4−β−グルカン主鎖にキシロースが枝状に結合した規則的な骨格構造をもち、分岐したキシロース残基の一部にガラクトース残基がβ(1→2)結合している。
タマリンド、エンドウ、ダイズ、ポプラ、イネ、タケノコなどに由来するキシログルカンの化学構造が、いくつか報告されている(非特許文献1〜6)。
【0003】
キシログルカンの中でもタマリンドの種子から得られるタマリンドシードガムは、食品添加物として広く普及しており安全性が高い。近年、タマリンドシードガムが眼表面に発現している糖蛋白質「ムチン」に類似した構造を持ち、点眼時にその代替として作用することでドライアイ症状の緩和に有用であることが見出された(非特許文献7)。
【0004】
一方、薬効成分を含む医薬用点眼剤において、成分の眼内移行性を高めるため、眼表面への滞留性に優れた製剤が求められている。そこで、水溶性高分子を配合して粘性を付与し、滞留性を向上させる製剤設計が行われている。また、人工涙液においては、ドライアイ患者の増加に伴って潤い訴求の製品が増えており、水溶性高分子を配合した高粘性の液剤が使用されている。
【0005】
上記のような眼科用組成物に求められる物理化学的要件としては、所定の粘度を発揮し、点眼時に眼表面で滞留すること、粘度が経時的に安定で粘度低下が無いこと、安全性が高いことが挙げられる。さらには、眼組織に適用するための衛生的見地から、当該溶液を加熱殺菌し、微生物を極限まで減少させることが望まれている。この分野に使用される水溶性高分子として、ヒアルロン酸ナトリウムやコンドロイチン硫酸ナトリウムが知られている。しかしながら、これらの水溶性高分子は耐熱性に欠けるため、点眼剤等の無菌製剤に使用する際加熱殺菌ができず、粘度を有する溶液をろ過滅菌しなければならないため、製造が著しく煩雑である。また、これらの水溶性高分子はアニオン性であるため、点眼剤に汎用される塩化ベンザルコニウム等の陽イオン性界面活性剤と不溶性の塩を形成し、白濁や白沈などの配合変化を起こすことが問題であった。
【0006】
このことから、中性の水溶性高分子が用いられた眼科用組成物が報告されている。例えば、すなわち、タマリンドシードガムを含有する粘稠化点眼液が知られている(特許文献1、2)。一般に眼科用組成物は、pH調整の目的で、しばしばリン酸塩が使用される。しかし、リン酸塩は元来セルロースやペクチンを加水分解して野菜を軟化させる働きがあり、特に加熱時に使用すると多糖類水溶液の粘度低下を引き起こすため、多糖類を安定剤としてこれらリン酸塩との併用は困難であった。すなわち、多糖類としてタマリンドシードガムとリン酸塩が共存する前記粘稠化点眼液も、処方中に含まれるリン酸塩の影響から、加熱殺菌により点眼剤の粘度が低下する問題点がある。
【0007】
ローカストビーンガム、タラガム、タマリンドシードガムなどからなる糊料の粉体表面に金属塩類を付着することで、分散性を向上させた糊料組成物が報告されている(特許文献3)。しかしながら、該糊料組成物は、該組成物最終形態の粉末の水への分散性を高めるものであって、溶液の耐熱性の向上を可能にする特定の比率を有する組成物を開示するものでもない。また、タマリンドシードガムのような中性の多糖類は、一般的には2価カチオンとの反応性が無いため、酸性多糖類で見られるカチオンを介する架橋あるいは会合に伴う、粘度の上昇、ゲル化、耐熱性の向上のような性質はこれまでに知られていない。加えてこれら糊料組成物が、眼科用(点眼剤、人工涙液、コンタクトレンズケアソリューションなど)に使用されることの記載はない。
【0008】
さらに、これまで、点眼剤のようにリン酸塩を含有する溶液中で耐熱性を有し、かつ加熱殺菌後も長期に渡り安定的に粘度を保持できる安定剤は知られておらず、安全性と安定性に優れる眼科用の組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3872515号
【特許文献2】特表2007−507498
【特許文献3】特開2009−60794
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Rec. Trav. Chem. Pays-Bas, 80, 849-865 (1961)
【非特許文献2】Plant Physiology, 75, 596-604 (1984)
【非特許文献3】Plant Cell Physiology, 21, 1405-1418 (1980)
【非特許文献4】Bioscience Biotechnology Biochemistry, 58, 1707-1708 (1994)
【非特許文献5】Plant Cell Physiology, 26, 437-445 (1985)
【非特許文献6】Carbohydrate Research, 109, 233-248 (1982)
【非特許文献7】BMC Ophthalmology 2007, 7:5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、リン酸塩を含有する溶液中において、加熱殺菌によっても粘度が低下することのない優れた耐熱性を有し、かつ加熱殺菌後の溶液の粘度が経時的に安定であるキシログルカン−2価カチオン複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、キシログルカンの水溶液に微量の2価水溶性金属塩を共存させることにより、中性多糖類であるキシログルカンと2価のカチオンが、両者が化学的には直接結合する部位が無いにもかかわらず、弱い相互作用によって非結合状態の複合体を形成することで、意外にもリン酸塩を含有する溶液中における加熱殺菌時の粘度低下を抑制できることを見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0013】
項1:下記(1)及び(2)を特徴とする多糖類及び2価カチオンを含有する複合体、並びにリン酸塩を含有する安定化組成物:
(1)多糖類がキシログルカンである、及び
(2)多糖類と2価カチオンの配合割合(重量比)が、100:0.01〜100:2.0である。
項2:キシログルカンがタマリンドシードガムである、項1に記載の安定化組成物。
項3:2価カチオンが、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン及び亜鉛カチオンからなる群から選択される少なくとも1種以上の2価カチオンである、項1又は2に記載の安定化組成物。
項4:2価カチオンがカルシウムカチオンである、項3に記載の安定化組成物。
項5:リン酸塩の配合割合が、キシログルカン及び2価カチオンを含有する複合体1重量部に対して0.1〜2.5重量部である、項1〜項4のいずれか一項に記載の安定化組成物。
項6:安定化組成物が眼科用組成物である、項1〜項5のいずれか一項に記載の安定化組成物。
項7:下記(1)〜(5)を含有する眼科用組成物:
(1)キシログルカン、
(2)2価カチオン、
(3)リン酸塩、
(4)マンニトール、及び
(5)塩化ベンザルコニウム。
項8:キシログルカンと2価カチオンの配合割合(重量比)が、100:0.01〜100:2.0である、項7に記載の眼科用組成物。
項9:キシログルカンがタマリンドシードガムである、項7又は項8に記載の眼科用組成物。
項10:2価カチオンが、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン及び亜鉛カチオンからなる群から選択される少なくとも1種以上の2価カチオンである、項7〜項9のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
項11:2価カチオンがカルシウムカチオンである、項10に記載の眼科用組成物。
項12:リン酸塩の配合割合が、キシログルカン−2価カチオン複合体1重量部に対して0.1〜2.5重量部である、項7〜項11のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
項13:下記(1)及び(2)を特徴とする多糖類及び2価カチオンを含有する複合体:
(1)多糖類がキシログルカンである、及び
(2)多糖類と2価カチオンの配合割合(重量比)が、100:0.01〜100:2.0である。
項14:キシログルカンがタマリンドシードガムである、項13に記載の複合体。
項15:2価カチオンが、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン及び亜鉛カチオンからなる群から選択される少なくとも1種以上の2価カチオンである、項13又は14に記載の複合体。
項16:2価カチオンがカルシウムカチオンである、項15に記載の複合体。
項17:下記工程(1)及び(2)を含むキシログルカン−2価カチオン複合体の製造法:
工程(1):キシログルカン及び水溶性金属塩を水に混合する工程、及び
工程(2):工程(1)で得られる水溶液を乾燥する、又はアルコールを添加して沈殿する工程。
項18:下記(1)及び(2)を特徴とする多糖類及び2価カチオンを含有する複合体、ならびにリン酸塩を含有する、眼科用組成物の安定化方法:
(1)多糖類がキシログルカンである、及び
(2)多糖類と2価カチオンの配合割合(重量比)が、100:0.01〜100:2.0である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、キシログルカンに微量の2価カチオンを含有させることにより、リン酸塩を含有する溶液中において、高温加熱殺菌に供した後も安定的に粘度を保持することができる。従って、優れた耐熱性を有する眼科用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明について、更に詳細に説明する。
【0016】
本発明には、キシログルカン、特にタマリンドシードガム、食品や化粧品及び医薬品に通常添加することができる2価の水溶性金属塩、及びリン酸塩が用いられる。
【0017】
本発明における「キシログルカン」は高等植物、例えばエンドウ、ダイズ、ポプラ、イネ、タケノコ、タマリンド種子などの細胞壁より抽出して得ることができる。また、ある種のキシログルカンは冷水で組織から抽出可能であるが、一般にはアルカリ水溶液を用いてより容易に抽出することができる。抽出して得られるキシログルカンは必要に応じて、ろ過、アルコール沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性,アフィニテイー等の差を利用した各種のクロマトグラフィーを用いて精製してもよい。
【0018】
「タマリンドシードガム」とは、熱帯地方に産するマメ科植物タマリンダス・インディカ(Tamarindus indica)の種子由来で、キシログルカンを主成分とする多糖類である。タマリンド種子由来のキシログルカンは市販品としても入手することができる(大日本住友製薬株式会社製「グリロイド」)。
【0019】
「2価カチオン」としては、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン、亜鉛カチオンなどを挙げることができ、そのうち少なくとも1種以上であれば特に限定するものではない。効果の点から、カルシウムカチオンが好ましい。
【0020】
「2価カチオン」は、2価の水溶性金属塩を、水を含む溶媒に溶解することで得ることができる。2価の水溶性金属塩とは、一般的に食品や化粧品、医薬品等に使用されるもので、カルシウム塩、マグネシウム塩、及び亜鉛塩からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であればよく、特にこれらに限定されることはない。
【0021】
「カルシウム塩」は、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、L−グルタミン酸カルシウム、酢酸カルシウム、酸化カルシウム、骨未焼成カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、及びリン酸二水素カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上であればよく、特にこれらに限定されることはない。
【0022】
「マグネシウム塩」は、塩化マグネシウム、L−グルタミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、及び硫酸マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上であればよく、特にこれらに限定されることはない。
【0023】
「亜鉛塩」は、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及び乳酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であればよく、特にこれらに限定されることはない。
【0024】
本発明で用いる「リン酸塩」としては、いわゆる正リン酸塩であるリン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素アンモニウムなどがあげられる。これらを2種以上選択し、pHが6.0〜7.8の範囲に入るように組み合わせて添加する。リン酸塩は、水和物であってもよい。安定化組成物中のリン酸塩の配合割合は、キシログルカン−2価カチオン複合体1重量部に対して0.1〜2.5重量部が好ましく、0.5重量部〜2.0重量部がさらに好ましい。
【0025】
「キシログルカン−2価カチオン複合体」とは、溶解した状態で、水溶液中で中性の多糖類であるキシログルカンと2価カチオンが非結合状態で相互作用する形態を意味する。複合体は水溶液中に当該複合体を含有する状態であっても、一度両者を溶解した後回収・乾燥された粉末状態であっても、いずれの形態でも良い。
【0026】
「キシログルカン−2価カチオン複合体」は、キシログルカンと2価のカチオンを含有する水溶性金属塩の混合物を溶解することで製造することができる。キシログルカンと金属塩の混合方法は、粉末同士であっても、また粉末と溶液であっても、さらには溶液同士であってもどの組み合わせでもよい。粉末同士あるいは粉末と溶液を組み合わせた混合物は、最終的に水溶液に溶解することで複合体となり得る。混合物は、具体的には、キシログルカン粉末と金属塩を粉末同士で混合して製造することができる。また、キシログルカンの水溶液に金属塩を溶解する方法、又は金属塩の水溶液をキシログルカン粉末に均一に噴霧することで製造することができる。さらには、キシログルカンの水溶液と金属塩の水溶液を混合してもよい。
一方、複合体は溶解状態から回収し、粉末化することもできる。具体的には、キシログルカン−2価カチオン複合体の溶液を乾燥して粉末を得るか、アルコール沈殿により複合体を分取し、これを乾燥して粉末化する方法などが挙げられる。この場合、乾燥及び粉砕する方法についても何ら限定されるものではない。
2価カチオンの含有量は、キシログルカン100重量部に対して、金属イオン換算で0.01重量部以上2.0重量部以下が好ましく、0.01重量部以上0.1重量部以下がさらに好ましい。金属イオン含量が0.1重量部を超えると、不溶性の塩が生じて溶液が白濁し、使用用途が限られるためである。また、0.01重量部未満では、金属イオン量が少なく効果が見られない。また、マグネシウムカチオンに関しては、十分な効果を得るためには0.1重量部以上0.5重量部以下がさらに好ましい。
【0027】
本発明の「安定化組成物」とは、キシログルカン−2価カチオン複合体及びリン酸塩を含有する組成物であり、両者を混合して製造することができる。当該安定化組成物は、高温加熱でも粘度が低下しない優れた耐熱性を有する。
【0028】
本発明において、「耐熱性の向上」とは、加熱殺菌後でも所期の所定の粘度を保持しうることを指す。
【0029】
「眼科用組成物」としては、水性点眼剤、非水性点眼剤、懸濁性点眼剤、乳濁性点眼剤、ソフトコンタクトレンズ、ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼が可能な点眼剤等の点眼剤、眼軟膏剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装着液、洗浄液、保存液、殺菌液等のコンタクトレンズ用剤等が挙げられる。
【0030】
「眼科用組成物」には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、医薬上許容される他の成分を配合することができる。それらの成分としては、従来公知の活性成分、等張化剤、保存剤、増粘剤、糖類、界面活性剤、可溶化剤、洗浄成分、抗酸化剤、清涼化剤、香料、防腐剤、pH調整剤等の添加剤があげられる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例、比較例を挙げ、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の技術分野における通常の技術を用いることができる。
【0032】
実施例1
表1及び表2の処方に従い、キシログルカンと塩化カルシウムの混合物を脱イオン水に室温溶解し、キシログルカン-カルシウム複合体の溶液を得た。次いで各成分を溶解させて全量を100mLとし、121℃で30分オートクレーブにて加熱殺菌した。耐熱性の有無は、以下の式に従って判断した。粘度の測定は、B型粘度計であるデジタル粘度計(型名:TV-20、TOKIMEC社製)を用い、回転数30rpm、液温25℃の条件で行った。結果を表1及び表2に示す。
粘度残存率A : [加熱殺菌後の粘度(当日)/加熱殺菌前の粘度]×100%
【0033】
【表1】

* キシログルカン100重量部あたりの重量部
【0034】
【表2】

* キシログルカン100重量部あたりの重量部
【0035】
表1及び表2から明らかなように、比較例1(カチオン無添加)に比べ、キシログルカン100重量部あたりカルシウムカチオンを0.01重量部以上含む系で、加熱後の試験液の粘度残存率が顕著に向上した。カルシウムカチオン含量が0.1重量部を超えると、試験液中のリン酸塩と不溶性の塩を形成し試験液が薄く白濁する傾向が見られるが、粘度は安定的に残存した。
【0036】
実施例2
表3及び表4の処方に従い、キシログルカンと2価の水溶性金属塩の混合物を脱イオン水に室温溶解し、キシログルカン-2価カチオン複合体の溶液を得た。次いで各成分を溶解させて全量を100mLとし、121℃で30分オートクレーブにて加熱殺菌した。耐熱性の有無は、以下の式に従って判断した。粘度の測定は、B型粘度計であるデジタル粘度計(型名:TV-20、TOKIMEC社製)を用い、回転数30rpm、液温25℃の条件で行った。結果を表3及び表4に示す。
粘度残存率A : [加熱殺菌後の粘度(当日)/加熱殺菌前の粘度]×100%
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
表3及び表4から明らかなように、キシログルカン−2価カチオン複合体の試験液について、粘度残存率が向上した。比較例として用いたカチオン無添加及び1価のカチオンであるナトリウム、カリウムは添加しても粘度残存率は向上しなかった。
【0040】
実施例3:経時安定性試験
表2の実施例4及び表1の比較例1の処方に従い、各成分を脱イオン水に溶解させて全量を100mLとし、121℃で30分オートクレーブにて加熱殺菌した。各試験液を40℃にて1ヶ月保存し、以下の式に従って粘度安定性を判断した。粘度の測定は、B型粘度計であるデジタル粘度計(型名:TV-20、TOKIMEC社製)を用い、回転数30rpm、液温25℃の条件で行った。結果を表5に示す。
粘度残存率B : [加熱殺菌後の粘度(40℃保存1ヶ月後)/加熱殺菌後の粘度(当日)]×100%
【0041】
【表5】

【0042】
表5から明らかなように、キシログルカン−2価カチオン複合体の試験液は、比較例と同様粘度は40℃で長期間安定であり、2価カチオンが存在しても経時的な粘度変化を生じなかった。キシログルカン−2価カチオン複合体を含む安定化組成物は、高温加熱殺菌や長期保存といった条件下でも品質変化が起こりにくい優れた安定性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、リン酸塩を含有する溶液中において、加熱殺菌によっても粘度が低下することのない優れた耐熱性を有し、かつ加熱殺菌後の溶液の粘度が経時的に安定である安定化組成物、又は眼科用組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)を特徴とする多糖類及び2価カチオンを含有する複合体、並びにリン酸塩を含有する安定化組成物:
(1)多糖類がキシログルカンである、及び
(2)多糖類と2価カチオンの配合割合(重量比)が、100:0.01〜100:2.0である。
【請求項2】
キシログルカンがタマリンドシードガムである、請求項1に記載の安定化組成物。
【請求項3】
2価カチオンが、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン及び亜鉛カチオンからなる群から選択される少なくとも1種以上の2価カチオンである、請求項1又は請求2に記載の安定化組成物。
【請求項4】
2価カチオンがカルシウムカチオンである、請求項3に記載の安定化組成物。
【請求項5】
リン酸塩の配合割合が、キシログルカン及び2価カチオンを含有する複合体1重量部に対して0.1〜2.5重量部である、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の安定化組成物。
【請求項6】
安定化組成物が眼科用組成物である、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の安定化組成物。
【請求項7】
下記(1)〜(5)を含有する眼科用組成物:
(1)キシログルカン、
(2)2価カチオン、
(3)リン酸塩、
(4)マンニトール、及び
(5)塩化ベンザルコニウム。
【請求項8】
キシログルカンと2価カチオンの配合割合(重量比)が、100:0.01〜100:2.0である、請求項7に記載の眼科用組成物。
【請求項9】
キシログルカンがタマリンドシードガムである、請求項7又は請求項8に記載の眼科用組成物。
【請求項10】
2価カチオンが、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン及び亜鉛カチオンからなる群から選択される少なくとも1種以上の2価カチオンである、請求項7〜請求項9のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
【請求項11】
2価カチオンがカルシウムカチオンである、請求項10に記載の眼科用組成物。
【請求項12】
リン酸塩の配合割合が、キシログルカン−2価カチオン複合体1重量部に対して0.1〜2.5重量部である、請求項7〜請求項11のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
【請求項13】
下記(1)及び(2)を特徴とする多糖類及び2価カチオンを含有する複合体:
(1)多糖類がキシログルカンである、及び
(2)多糖類と2価カチオンの配合割合(重量比)が、100:0.01〜100:2.0である。
【請求項14】
キシログルカンがタマリンドシードガムである、請求項13に記載の複合体。
【請求項15】
2価カチオンが、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン及び亜鉛カチオンからなる群から選択される少なくとも1種以上の2価カチオンである、請求項13又は請求項14に記載の複合体。
【請求項16】
2価カチオンがカルシウムカチオンである、請求項15に記載の複合体。
【請求項17】
下記工程(1)及び(2)を含むキシログルカン−2価カチオン複合体の製造法:
工程(1):キシログルカン及び水溶性金属塩を水に混合する工程、及び
工程(2):工程(1)で得られる水溶液を乾燥する、又はアルコールを添加して沈殿する工程。
【請求項18】
下記(1)及び(2)を特徴とする多糖類及び2価カチオンを含有する複合体、ならびにリン酸塩を含有する、眼科用組成物の安定化方法:
(1)多糖類がキシログルカンである、及び
(2)多糖類と2価カチオンの配合割合(重量比)が、100:0.01〜100:2.0である。

【公開番号】特開2012−12328(P2012−12328A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150055(P2010−150055)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(501360821)DSP五協フード&ケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】