説明

キセノンと亜酸化窒素に基づく吸入可能なガス状医薬

本発明は、ヒトの神経中毒を予防または治療するための吸入可能な医薬の全部または一部を作るためのガスキセノンおよびガス亜酸化窒素並びに有利には酸素を含むガス混合物の使用に関する。本発明のキセノン/亜酸化窒素混合物は、ドーパミン、グルタミン酸、セロトニン、タウリン、GABA、ノルアドレナリンおよび/またはいずれか他の神経伝達物質の放出および/または効果を減少させるために1以上の大脳のレセプターに対して作用する。本混合物のキセノンの体積比率は、5〜45%の範囲にあり、亜酸化窒素の体積比率は、10〜50%の範囲にあり、残部は好ましくは酸素である。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、神経毒作用を有する病状、即ち、神経中毒、特に薬物または他の嗜癖性物質の神経毒作用を有する病状を治療または予防するための吸入可能な医薬の全部または一部を製造するための、キセノンおよび亜酸化窒素(N2 O)を含むガス混合物の使用に関する。
【0002】
アンフェタミンのような嗜癖性薬物の神経毒作用に関連する病理学において、黒質線条体および中脳辺縁起源のドーパミン作動神経伝達がそれらの医薬の精神刺激薬および神経毒作用に関与しているということが受け入れられている。
【0003】
しかしながら、デル・アルコらのニューロファーマコロジー、38:943、1999による最近の研究は、アンフェタミンの促進効果はドーパミン作動神経伝達に限られないことを示している。
【0004】
すなわち、線条体−中隔側坐核複合体において、アンフェタミンは、ドーパミン放出の増加を誘発するのみならず、セロトニン、タウリン、γ−アミノ酪酸(GABA)およびグルタメート放出の増加もまた誘発する。
【0005】
特に有利には、グルタミン酸トランスポーターの特異的阻害は活動亢進の減少(デービッド、テブノーおよびアブレイニ、ニューロファーマコロジー、2001)と、ドーパミンではなくグルタメートの増加の減少(デル・アルコら、ニューロファーマコロジー38:943、1999)との双方を可能とすることが示され、したがって、アンフェタミンの精神刺激薬効果におけるグルタメートの決定的な役割を示唆している。
【0006】
さらに、インビトロで実施された最近の研究は、キセノンおよび亜酸化窒素(N2 O)がN−メチル−D−アスパラギン酸グルタミン酸作動レセプター(NMDA:フランクスら、ネーチャー396:324、1998:ジェフトビック−トドロビックら;Nature Med.4:460、1998)に対し低い親和性を有するアンタゴニストのように挙動し得ることを示した。
【0007】
加えて、プラセボ副作用における内因性痛覚過敏性オピオイド系の研究の文脈において、F.J.リヒティッヒフェルトおよびM.A.ギルマンの、Intern.J.Neuroscience、1989、vol.49、pp.71〜74は、50%を超える個体については同一の正の効果がプラセボでも見いだされているが、アルコールからの断絶についての亜酸化窒素の効果がプラセボ効果よりわずかに優れていることを結論付けている。
【0008】
しかしながら、同じ著者らは、Nitrous Oxide and Aws、785頁において、麻酔性または前麻酔性濃度は無効であり、またはある場合には逆効果でさえあるので、亜酸化窒素の有益な効果はその濃度に密接に依存することを付け加えており、鎮痛性濃度が推奨されている。
【0009】
これらの著者によるIntern.J.Neuroscience、1994、Vol.76、pp.17〜33として刊行されたさらに別の刊行物は、アルコールからの断絶の機構における亜酸化窒素の急速で長時間継続する向精神性鎮痛効果を強調する。
【0010】
Postgrad.Med.J,Clinical Toxicology、1990、66、pp.543〜546において、同じ著者は、亜酸化窒素濃度が、患者のアルコール依存の程度の関数として、個体に依存して15%未満から70%を超えるまで変化し得ることを説明している。
【0011】
さらに、文献EP−A−1158992は、神経中毒を治療するために、キセノンまたはキセノンと酸素、窒素もしくは空気との混合物の使用を教示する。しかしながら、この文献により記載されるキセノンまたは混合物の使用は、特にあるキセノン含有量による毒性の発現のためにそしてこの物質の高いコストのために実施する上で完全に満足できるものではない。
【0012】
さらに、US−A−6274633は、特に、ある種の疾患、虚血性低酸素血症によりまたは心臓発作に続いて引き起こされる神経毒および神経細胞死に関連すると推定されるNMDAレセプターアンタゴニスト物質としてキセノンの使用を教示する。
【0013】
加えて、EP−A−861672は、酸素とキセノン等のいくつかの可能なガスに基づく吸入可能なガス混合物を提案する。
【0014】
最後に、FR−A−2596989は、特に癌の放射線治療において用いることのできる放射線感受性増強製品としてのキセノンまたは他のガスをおそらく含み得る亜酸化窒素と酸素に基づくガス混合物を提案する。
【0015】
本発明はこの文脈に当てはまり、ヒトの嗜癖状態、すなわち、神経毒作用、特に嗜癖性薬物の神経毒作用と関連するいずれかの状態、疾患または病状を有効に予防または治療することを意図する現存する吸入可能な医薬を改善することに向けられている。
【0016】
すなわち、本発明の解決策は、ヒトの神経中毒症状を予防または治療するための吸入可能な医薬を全部または一部を製造するためのキセノン(Xe)ガスおよび亜酸化窒素(N2 O)ガスを含むガス混合物の使用であって、キセノンの体積比率が5%〜45%であり、亜酸化窒素の体積比率が10%〜50%であるものである。
【0017】
場合に応じて、本発明の使用は、以下の技術的特徴の1以上を含み得る。
【0018】
− 神経中毒は、1以上の神経伝達物質の大脳での過剰に由来するものであること、
− キセノンおよび亜酸化窒素を含む混合物は、ドーパミン、グルタメート、セロトニン、タウリン、GABA、ノルアドレナリンおよび/またはいずれか他の神経伝達物質の効果および/または放出を減少させるように少なくとも1種の大脳のレセプターに作用すること
− キセノンの体積比率が20%〜40%であり、亜酸化窒素の体積比率が10%〜40%であること、
− キセノンの体積比率が20%〜32%であり、亜酸化窒素の体積比率は20%〜40%であり、好ましくは、キセノンと亜酸化窒素の体積比率が、それぞれ約30%であること、
− キセノンの体積比率が10%〜20%であり、亜酸化窒素の体積比率が40%〜50%であり、好ましくは、キセノンの体積比率が約16%であり、亜酸化窒素の体積比率が約50%であること、
− 医薬は、また、酸素、酸素/窒素混合物または空気も含み、ガス混合物は、好ましくは、キセノンと亜酸化窒素からなり、残部は酸素であること、
− 神経中毒は、嗜癖の状態、すなわち、ヒトまたは動物の嗜癖、依存および/または習慣を生じさせる薬物、分子または物質の神経毒作用と関連する状態、疾患または病状を生じさせるタイプのものであること。嗜癖性物質、薬物または分子は、アンフェタミンおよびその誘導体、コカイン、タバコ、アルコールおよび大麻またはいずれか他の同様のまたは類似の薬物からなる群より選択される、
− 吸入可能な医薬は、2バール〜350バールの圧力で、好ましくは2バール〜200バールの圧力でパッケージされ、
− 医薬はすぐに使用できるものであり、すなわち、予備希釈することなく直接患者に投与することができること。
【0019】
本発明は、また、5体積%〜35体積%のキセノンおよび10体積%〜50体積%の亜酸化窒素、および可能的に酸素を含むガス状の吸入可能な医薬にも関する。
【0020】
場合に応じて、本発明のガス混合物は、以下の技術的特徴の1以上を含み得る。
【0021】
− 5体積%〜32体積%のキセノン、10%〜50%の亜酸化窒素からなり、残部は酸素であること、
− 20体積%〜32体積%のキセノンおよび20体積%〜40体積%の亜酸化窒素からなり、残部は酸素であり、キセノンと亜酸化窒素の体積比率はそれぞれ好ましくは約30%であること、
− 10体積%〜20体積%のキセノンおよび45体積%〜50体積%の亜酸化窒素からなり、残部は酸素であり、好ましくは、キセノンの体積比率は約16%であり、亜酸化窒素の体積比率は約50%であること。
【0022】
言い換えれば、本発明の基礎を形成している思想は、すなわち、キセノンと亜酸化窒素のNMDAレセプターアンタゴニスト特性が、神経毒作用、特に、アンフェタミンおよびその誘導体、コカイン、タバコ、アルコール、大麻またはいずれか他の依存症発生性物質のような嗜癖性薬物の神経毒作用と関連する状態または疾患の予防および/または治療におけるその神経保護特性のために、組み合わせられたまたは相乗効果的様態で、特に吸入可能なガス状医薬の全部または一部に用いられ得るということである。
【0023】
一般的には、本発明による医薬は、呼吸マスクまたは気管プローブのような患者の呼吸インターフェースを含む適切な投与装置を用いて、患者の上気道経路を介して、すなわち、鼻および/または口を介しての吸入により患者に投与することができ、1以上の供給管はこの医薬を含む供給源からガス状医薬をインターフェースに運ぶ役割をし、医療用通気装置は、患者にガスを送り込み、および/または引き出す役割をする。
【0024】
本発明は、また、ヒトの患者の神経中毒を予防または治療するための方法にも関連し、ここで、キセノンガスおよび亜酸化窒素ガスを含むガス混合物は吸入により患者に投与され、ガス混合物中のキセノンの体積比率は、5%〜45%であり、亜酸化窒素の体積比率は10%〜50%である。
【0025】
例:キセノンと亜酸化窒素の神経保護能力の立証
NMDAタイプのグルタミン酸作動レセプターに対してはアンタゴニスト特性が最近立証されているキセノンと亜酸化窒素ガスの、アンフェタミンに対する感作に対する神経保護能力を評価するために、挙動的、神経化学的および組織学的研究を以下に記載する通りに行った。
【0026】
約250gの重さの雄のスプラーグ−ドーリーラットを実験に用いた。
【0027】
試験では、d−アンフェタミン感作のプロトコールおよび亜酸化窒素およびキセノンによる治療試験は以下の通りであった。
【0028】
実際の感作研究での10群と、および後方帯状皮質および脳梁膨大帯状後皮質(posterior and retrosplenial cingulate cortices)のニューロンの組織学的研究での他の5群を含む15群の動物(それぞれ7または8匹の動物)を用いた。
【0029】
動物には、d−アンフェタミン(Amph;1mg/ml/kg)を、または場合に応じて対照の動物に生理食塩水(1ml/kg)をD1〜D3まで連続3日間腹腔内(i.p.)に注射した。
【0030】
それぞれの注射の後、ラットを、即座に体積100リットルの閉ざされた部屋の中に3時間入れ、空気(群1:生理食塩水;群2:Amph)によるか、または50体積%の亜酸化窒素(群3:生理食塩水;群4:Amph)によるか、または75%(群5:生理食塩水;群6:Amph)によるか、または50体積%のキセノン(群7:生理食塩水;群8:Amph)によるか、または75%(群9:生理食塩水、群10:Amph)によるかのいずれかにより5l.min-1の一定流量の力学的状態でフラッシュしたが、ここで混合物の残り(100%に対する残部)は酸素であった。
【0031】
後方帯状皮質および脳梁膨大帯状後皮質に対する亜酸化窒素またはキセノンへの反復された暴露(1日当り3時間)の可能な神経毒能力を確認するために、生理食塩水の投与により上記定義と同一のプロトコールにしたがって5つの追加の群の動物を予備処理し、次いで、空気(群11)または50%もしくは75%の亜酸化窒素(群12および13)または50%もしくは75%のキセノン(群14および15)のいずれかに暴露した。
【0032】
群1〜10の動物の自発運動(locomotor activity)を、生理食塩水のi.p.注射(1ml/kg)後D6に、そしてd−アンフェタミンのi.p.注射(1mg/ml/kg)後D7に評価した。これらの注射に応答する動物の自発運動を光電池(フランスのペサックのイメトロニック社)を有する活動測定かごを用いて記録した。
【0033】
さらに、上記組織学的研究と挙動研究に加えて、亜酸化窒素とキセノンの作用の機構を確認するために、そして亜酸化窒素とキセノンの神経毒能力を評価するために、ラットの脳の切片に対して神経化学的研究を行った。
【0034】
そうするために、処理後、D8に、動物をハロタンによる一般的な麻酔の下で断頭することにより殺傷し、次いで、頭蓋をすぐにパラホルムアルデヒド溶液中に入れ、1週間入れておいた。脳を取り出し、パラフィンで被覆し、4μmの前頭切片に切断し、ゼラチン化スライド上に載置し、ヘマルン−エオジン−サフロン溶液により染色した。後方帯状皮質および脳梁膨大帯状後皮質を光学顕微鏡(×400)を用いて分析した。
【0035】
加えて、中隔側坐核の切片の調製を以下のように行った。動物をハロタンによる穏やかな麻酔の下で断頭し、次いで、脳をすばやく取り出した。+0.70/1.20mmのアンテリオリティー(1998年、ブレグマ、パキシノスおよびワトソンによる)に対応する300μmの前頭部の切片をチョッパー(イギリスの、サリーの、ゴムショールの、ミッキー・ラボレートリー・エンジニアリング・カンパニー)を用いて採取した。この脳の切片を、神経化学的研究のための使用の前に、少なくとも1時間3〜4℃の温度の緩衝生理食塩水中に回復のために入れておいた。
【0036】
ドーパミン放出の測定を、直径10μmで250μm長の単一繊維炭素電極(CFN10−250;イギリスの、ハートフォードシェアのスティーブネージュのアストンのワールド・プレシジョン・インストルメンツ)を用いた通常の示差パルスボルタンメトリーの技術により行った。このタイプの電極を対ドーパミン感受性にさせる電気化学的処理は、20秒間リン酸緩衝生理食塩水に−1.5Vの連続電流を印加し、ついで、作用電極に20秒間+2.6Vの三角電流を印加することからなるものであった(ブラゼルら、1987)。これらの条件の下で、ドーパミン作動信号は+100mVの電位で出現する。
【0037】
次いで、ラット脳切片を器官タンクの中に入れ、組成を有する人工脳脊髄液により温浸した:NaCl 118mM、MgCl2 1.18mM、KCl 4.9mM、NaH2 PO4 1.25mM、CaCl2 1.25mM、NaHCO3 3.6mM、d−グルコース 10mM、HEPES 30mM、pH7.4、その温度は温度制御装置(アメリカ合衆国、ペンシルベニア州、バトラー、バイオプテックス、デルタ4カルチャー・ディッシュ・コントローラー)を用いて34±1℃に維持された。電極は、顕微鏡制御(フランス、パリ、ニコン、顕微鏡EFN600)の下で、この顕微鏡に組み込まれた光学的なマイクロメーターを用いて、前交連から100μm離して配置し、次いで、45°の角度で、中隔側坐核中に完全に降下させ、以下のパラメーター:走査電位−150+350mV;10mV・s-1の走査速度について、走査時間0.4s、走査振幅4mV、40ms測定パルス;70ms測定予備パルス;30mV測定振幅による通常の示差パルスボルタンメトリーモードに設定されたパイオパルス・ポーラログラフに接続した。
【0038】
ドーパミン作動過敏症を、温浸液にd−アンフェタミンを添加することにより誘発させた。医療用空気、亜酸化窒素またはキセノンを、温浸での使用の前に、飽和まで溶解し、そのpHを、7.4に再調節した。
【0039】
d−アンフェタミン(d−アンフェタミン硫酸塩、ref.A5800)は、シグマ−アルドリッチ(イルキルク、フランス)由来のアジャンス・フランセーズ・ド・セキュリテ・サニテール・デ・プロデュイ・ド・サンテの麻酔剤と向精神薬の部門からの認可の後に取得した。
【0040】
医療用空気、亜酸化窒素およびキセノンは、エア・リキード・サンテ・アンテルナシオナル(フランス、パリ)により供給された。亜酸化窒素、酸素および/またはキセノンに基づく混合物は、やはりエア・リキード・サンテ・アンテルナシオナルにより供給される較正された流量計を用いて調製した。
【0041】
添付の図1および2に与えられた得られた結果は、平均±標準誤差として表現されている。群の比較は、ノンパラメトリック検定法、即ち、分散のクルスコール−ウォーリス分析により実施され、その後、有意な結果の場合には、マン−ホイットニーU検定を行う。
【0042】
より具体的には、挙動の側面については、図1および2の左側の柱状グラフは、d−アンフェタミンの反復投与により誘発される感作プロセスを示す。図1は、d−アンフェタミンに対する感作についての、50体積%および75体積%(残部は酸素)での亜酸化窒素の効果を示し、図2は、d−アンフェタミンに対する感作についての、50%および75%でのキセノンの効果を示す。
【0043】
これらの図において、d−アンフェタミンの反復注射は、d−アンフェタミン(図では、amph)により予備処理された動物の自発運動がD7で行われたd−アンフェタミンによる試験(P<0.05)の間、生理食塩水(図では、sal)を用いて予備処理された対照動物の自発運動より有意に高いことが明らかであるように、d−アンフェタミンの急性の注射により誘発される自発運動の増加を産み出すことが理解され得る。
【0044】
他方、d−アンフェタミンのD1からD3までの反復注射は、d−アンフェタミンにより予備処理された動物とD6で行われた生理食塩水試験に応答する対照動物との間の自発運動に有意な差異を生み出さない。
【0045】
図1に関していえば、上記実験条件の下で、d−アンフェタミンによる予備処理の直後の亜酸化窒素への暴露は、感作プロセスの投与量依存性阻止を誘発することが見いだされている。
【0046】
したがって、D7で行われたd−アンフェタミンによる試験により誘発されたd−アンフェタミンと50体積%の亜酸化窒素で予備処理された動物の自発運動は、生理食塩水と50体積%の亜酸化窒素により予備処理されたラットの自発運動とは、またはd−アンフェタミンと空気により予備処理された動物の自発運動とは、有意に異なるものではないことが明らかである。
【0047】
この結果は、上記実験条件の下での感作プロセスの部分的な阻止を立証する。
【0048】
d−アンフェタミンによる予備処理直後の75体積%の亜酸化窒素への暴露は、D7で行われたd−アンフェタミンによる試験により誘発されたd−アンフェタミンおよび75体積%の亜酸化窒素により予備処理された動物の自発運動が、d−アンフェタミンおよび空気により予備処理された動物の自発運動(P<0.05)を有意に下回ることが明らかであるが、生理食塩水および75体積%の亜酸化窒素により予備処理された動物の自発運動とは有意に異ならないことが明らかであるように、感作プロセスの顕著な阻止を生み出す。さらに、D7で行われた急性のd−アンフェタミン試験の間の生理食塩水により予備処理されたラットの場合に「ガス」効果が見いだされず、このことは、N2 Oが嗜癖と依存症の状態の原因である感作を阻止するが、薬物の急性投与に影響を与えないことを示す。
【0049】
同様に、自発運動の有意な差異は、D6では生理食塩水試験に応答しては見いだされず、ガスは、長時間の鎮静効果を有さないことを示す。
【0050】
図2に関していえば、上記実験条件の下で、用いられたキセノン濃度、すなわち、50体積%または75体積%にかかわらず、D7で行われたd−アンフェタミン投与により誘発されるd−アンフェタミンとキセノンにより予備処理された動物の自発運動は、d−アンフェタミンとキセノンにより予備処理された動物の自発運動がd−アンフェタミンおよび空気により予備処理された動物の自発運動(P<0.05)より有意に低くなることが明らかであるが、生理食塩水およびキセノンにより予備処理される動物の自発運動とは異ならないように、d−アンフェタミンに対する感作の阻止を生み出す。
【0051】
亜酸化窒素に関しては(図1)、自発運動における有意な差異はD6での生理食塩水試験に対する応答で見いだされなかったが、このことは、この場合には、これらガスは長時間の鎮静作用を有さないことも立証している。
【0052】
他方、生理食塩水により予備処理された動物の場合には、d−アンフェタミンに対する応答における有意な増加が、空気または50体積%のキセノンにより予備処理された動物と比較して、75体積%のキセノンを受容した動物で注目され、このことは、NMDAレセプターの感作と、高い投与量、すなわち75体積%付近でのキセノンの可能な毒作用を明らかにし得るものである。
【0053】
さらに、後方帯状皮質および脳梁膨大帯状後皮質の組織学的研究は、75体積%のキセノンに暴露されたラットの場合に、細胞核の核濃縮の外観と関連する全身性の細胞質の清澄化を示し、また、細胞質液胞を持ついくつかの動物の場合には、自発運動に従い、連続3日間で75体積%のキセノンの反復投与の神経毒作用を示唆する外観も示す。
【0054】
医療用空気に、75体積%の亜酸化窒素に、または50体積%のキセノンに暴露されたラットの場合には、同様の効果は見いだされなかった。
【0055】
さらに、図3は、d−アンフェタミンにより誘発された中隔側坐核におけるドーパミン放出の増加に対する亜酸化窒素の効果を示る。同一の結果が50%のキセノンで得られた。
【0056】
10-5Mでのd−アンフェタミンの添加は、測定された基底シグナル(P<0.05)に対するシグナルの有意な増加を発生させる。
【0057】
中隔側坐核でのドーパミン放出のこの増加は、輸液中の75(体積)%の亜酸化窒素または50(体積)%のキセノンの存在下で有意に減少する(P<0.05)。
【0058】
d−アンフェタミンの添加なしでは、シグナルは、実験を通して安定なままである。
【0059】
結論としていうと、得られた結果は、亜酸化窒素およびキセノンが、d−アンフェタミンに対する感作とそれに関連するドーパミン放出に対して阻害効果を有することを明らかに示す。
【0060】
したがって、d−アンフェタミンに対する感作相の間での亜酸化窒素またはキセノンへの動物の同時暴露は、75体積%の亜酸化窒素または50体積%および75体積%のキセノンの場合には、d−アンフェタミンの急性投与に応答する感作により過度自発運動を全体的に阻止する。
【0061】
亜酸化窒素およびキセノンが、AMPAタイプのグルタミン酸作動性(glutamatergic)レセプターに対する効果を示さないとみなされる(ヤカムラおよびハリス、2000)ならば、その阻害効果は、NMDAタイプのグルタミン酸作動性レセプターに対するアンタゴニスト特性(ジェフトビック−トドロビックら、1998;フランクスら、1998;ヤカムラら、2000)ばかりでなく、ニコチンタイプのコリン作動性レセプターに対するアンタゴニスト特性に、およびAタイプのGABA作動性レセプターに対するアゴニスト特性に帰し得る。
【0062】
NMDAタイプのグルタミン酸作動性レセプターのアンタゴニストとアンフェタミンの同時投与は、感作プロセスおよびそれと関連するドーパミン放出を阻止することを可能とする。
【0063】
さらに、得られた結果はまた、75体積%の亜酸化窒素およびわずか50体積%のキセノンが感作プロセスを阻止するために必要であることも示す。
【0064】
しかしながら、高い含有量のキセノンで観察された挙動的および組織学的効果の両方を考慮に入れると、75%でのキセノンの使用は、推奨されない。
【0065】
具体的には、生理食塩水および75%のキセノンにより(D1〜D3まで)予備処理された動物は、d−アンフェタミン試験(D7に行われた)の間、生理食塩水+空気により予備処理された対照の動物より高い自発運動を示し、これは、NMDAレセプターの感作を説明し得る。
【0066】
さらに、75%のキセノンは、2,3の場合には、後方帯状皮質および脳梁膨大帯状後皮質のニューロンの空胞化により悪化された細胞質の清澄化を生じさせ、これは、疑いなく、神経毒プロセスを示す。
【0067】
言い換えれば、75体積%の亜酸化窒素または50体積%および75体積%のキセノンは、d−アンフェタミンに対する挙動感作のプロセスを阻止するが、75体積%のキセノンはまた、d−アンフェタミンに対する急性の応答の増加も誘発し、これは、関連するレセプターの感受性の変化および潜在的に有害なプロセスを反映し得るものであり、これは、組織学的な研究を支持するものである。
【0068】
さらに、50体積%または75体積%の亜酸化窒素およびキセノンは、d−アンフェタミンにより誘発されるドーパミン放出の増加を阻止する。
【0069】
これらすべての結果は、d−アンフェタミンに対する感作およびそれと関連する神経化学的プロセスについての亜酸化窒素およびキセノンの議論の余地のない阻害効果を示している。
【0070】
このことから、キセノンにより与えられる利点から、しかし特に興奮毒性のグルタミン酸塩作動性成分によるより強い神経疾患の場合に上記の有害な効果または神経毒作用を生じることなく、そしてこのガスの高いコストによる障害が無く、利益を得るために、キセノン単独だけでなく、むしろキセノンと亜酸化窒素から生成されるガス混合物を使用することが推奨され、この場合、キセノン含有量は、この化合物の毒性しきい値から非常に遠ざかるように、すなわち、典型的には、ヒトでは約60%(ラットでは約75%)以下に維持される必要がある。
【0071】
したがって、5%体積〜35体積%のキセノンガスおよび10体積%〜50体積%の亜酸化窒素ガスを含むガス混合物(残部は酸素である)は、ヒトまたは動物の神経中毒を予防または治療するためのガス状の吸入可能な医薬としての使用にとって全く適切である。
【0072】
具体的には、キセノンおよび亜酸化窒素に基づく適切な混合物を用いることにより、上記問題に遭遇することなくそれら2種類の化合物の効果から利益を得ることが可能である。
【0073】
本発明のガス混合物は、すべての神経中毒を治療するために用いられ得る。用語「神経中毒」用語は、病原(etiopathogeneity)が少なくとも部分的に興奮毒プロセスを伴う中枢神経系の状態、疾患または病理、特に興奮性グルタミン酸神経伝達の機能不全を意味する。特に、刊行物、パーソンズら、Drug News Perspect.、1998年、第11巻、523〜569頁を参照されたい。
【0074】
したがって、例えば、アンフェタミンおよびアンフェタミン誘導体、アヘン物質およびその誘導体、コカインおよびその誘導体、タバコ、大麻および/またはアルコールのような嗜癖を生じ得る薬物または他の物質の神経毒作用の治療のみならず、例えば大脳虚血を含む頭骨外傷および大脳血管障害(CVA)のような急性大脳障害;例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病(舞踏病)、筋萎縮性側索硬化症、急性播種性脳脊髄炎、遅発性ジスキネジーおよびオリーブ橋小脳変質等の神経変質疾患;不安症、精神病、特に分裂症およびさまざまの形態の癲癇のようなさまざまの精神病または神経学的病理の治療も本発明の文脈に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】d−アンフェタミンに対する感作について、50体積%および75体積%(残部は酸素)での亜酸化窒素の効果を示す。
【図2】d−アンフェタミンに対する感作について、50%および75%でのキセノンの効果を示す。
【図3】d−アンフェタミンにより誘発される中隔側坐核でのドーパミン放出の増加に対する亜酸化窒素の効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの神経中毒を予防または治療するための吸入可能な医薬の全部または一部を製造するためのキセノンガスおよび亜酸化窒素ガスを含むガス混合物の使用であって、キセノンの体積比率が5%〜45%であり、亜酸化窒素の体積比率が10%〜50%であるガス混合物の使用。
【請求項2】
前記神経中毒が、1以上の神経伝達物質の大脳での過剰に由来することを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記キセノンおよび亜酸化窒素を含む混合物が、ドーパミン、グルタメート、セロトニン、タウリン、GABA、ノルアドレナリンおよび/またはいずれか他の神経伝達物質の放出および/または効果を減少させるように少なくとも1つの大脳のレセプターに作用することを特徴とする請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記ガス混合物の残部が酸素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
キセノンの体積比率が20%〜40%であり、亜酸化窒素の体積比率が10%〜40%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
キセノンの体積比率が20%〜32%であり、亜酸化窒素の体積比率が20%〜40%であり、好ましくは、キセノンと亜酸化窒素の体積比率がそれぞれ約30%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
キセノンの体積比率が10%〜20%であり、亜酸化窒素の体積比率が40%〜50%であり、好ましくは、キセノンの体積比率が約16%であり、亜酸化窒素の体積比率が約50%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
前記医薬が、また、酸素、酸素/窒素混合物または空気も含み、前記ガス混合物が好ましくはキセノンおよび亜酸化窒素からなり、残部が酸素であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
前記医薬が直ぐに使用できるものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
前記神経中毒が、嗜癖状態を生じさせるタイプのものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
吸入可能な医薬として、5体積%〜35体積%のキセノンおよび10体積%〜50体積%の亜酸化窒素を含むガス混合物。
【請求項12】
酸素もまた含むことを特徴とする請求項11記載のガス混合物。
【請求項13】
20体積%〜32体積%のキセノンおよび20体積%〜40体積%の亜酸化窒素からなり、残部が酸素であることを特徴とする請求項11または12記載の混合物。
【請求項14】
キセノンおよび亜酸化窒素の体積比率がそれぞれ約30%であることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項記載の混合物。
【請求項15】
10体積%〜20体積%のキセノンおよび45体積%〜50体積%の亜酸化窒素からなり、残部が酸素であり、好ましくは、キセノンの体積比率が約16体積%であり、亜酸化窒素の体積比率が約50体積%であることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項記載の混合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−500174(P2007−500174A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521634(P2006−521634)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050352
【国際公開番号】WO2005/011711
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(399035504)エール・リキード・サンテ(アンテルナスィオナル) (26)
【Fターム(参考)】