説明

キチナーゼ(chitinase)活性を検知するための方法

【課題】 本発明はキチナーゼ(chitinase)活性を検知するためのセット及びその方法を提供するものである。
【解決手段】 本発明はテストサンプルをポリアクリルニトリルゲルにより電気泳動分解した後、肉眼で認識できるクマシーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue)染料によりキチナーゼの活性を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、テストサンプルをポリアクリルアミドゲルで電気泳動分離させてから、クマシーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue)染料を利用してキチナーゼの活性を検知する方法である。
【背景技術】
【0002】
キチナーゼはキチン質の加水分解反応を促進する。キチン質はN−アセチルグルコサミン(N−acetyl−D−glucosamine)がβ−1,4で結合形成されたポリマーで、真菌細胞壁と節足動物の外骨格を構成する主要成分である。キチナーゼはキチン質を加水分解してキトオリゴ糖(chito−oligosaccharides)と2個から6個のN−アセチルグルコサミン分子(Koga et al., EXS, 1999; 87,111−123)を作る。キチン質分解酵素は、細菌、真菌、植物、人を含む多種の生物の体内に存在する。
植物体の中のキチナーゼは抗病原体機能と関連がある(Stintzi et al., Biochimie, 1993; 75,687−706)と考えられている。人体のキチナーゼは食用するとアレルギーを起こす植物と関連があると(Hoffmann et al., Soc. Trans., 2002;30,930−935 & Sanchez et al., Clin. Exp. Allergy, 1999; 29, 673−680)と考えられている。人体のキチナーゼはマクロファージ(macrophage)から発生し、アテローム性粥状動脈硬化の塊(atherosclerotic plaques)にも見られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はキチナーゼ(chitinase)の活性を検知するセットとその使用方法を提供する。
本発明のキチナーゼの活性を検知する方法は、
(1)含有キチン質を含む蛋白質電気泳動ゲル;
(2)電気泳動槽に入れる一定量のテストサンプル;
(3)肉眼で判別できるキチン質染料を利用して手順1のゲルを染色する。
等の手順を含む。
本発明は、キチン質の蛋白質電気泳動ゲルと肉眼で検知できるキチン質染料を含むキチナーゼの活性を検知するセットも提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
本発明はキチナーゼ(chitinase)の活性を検知するセット及びその使用方法を提供する。本発明は簡単で迅速なグリコールキチン(glycol chitin)の検知方法を公開する。主な実験方法は放線菌(Streptomyces griseus)のキチナーゼを材料として使用し、キチン質を含む12%ポリアクリルアミドゲルを使ってサンプルの電気泳動の分析を行う。
【0005】
実験を行う手順は、先ずキチナーゼのサンプルと装填緩衝溶液(loading buffer)を混合し、それからさらに140ボルトで1時間電気泳動分離させる。各電気泳動槽に積載する蛋白質量は10mg以上にしなければ、クマシーブリリアントブルー染料で色が出ない。電気泳動槽にそれぞれ異なる活性単位のキチナーゼを入れ、:第1第2欄は5.0 × 10−4、第3第4欄は2.5 × 10−4,第5第6欄は1.3 × 10−4,第7第8欄は6.5 × 10−5とする。そのうち第2、4、6と8欄の電気泳動槽にはSDS緩衝液と混合したサンプルを入れ、混合液を沸騰水の中に入れて15分加熱してから電気泳動分析を行う。また、第1、3、5と7はサンプルとβ−メルカプトエタノールを含まないSDS緩衝液を混合し、過熱せずにそのまま電気泳動分析を行う。
【0006】
電気泳動でサンプルを分離させた後、分離したゲルを0.1Mの酢酸ナトリウム緩衝溶液に浸し、この溶液には重量の百分比が1%の脱イオン処理Triton X−100を含める。続けて、ゲルを室温で浸して、15分軽く揺すり、ゲル中のラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を除去する。その後さらにゲルを37℃の培養箱に入れ、酢酸ナトリウム緩衝液に12〜24時間浸し、ゲル中のキチナーゼを十分に反応させる。
反応が完了したら、ゲルをクマシーブリリアントブルー染料で10分染色し、その後さらに脱色溶液で余分な染料を洗い落とす。染料の成分は、重量百分比が0.025%のクマシーブリリアントブルー、重量百分比が25%のイソプロパノールと重量百分比が10%の酢酸である。最後にゲルを3MMの試験紙に上に置き、ゲル乾燥機で乾燥させる。キチナーゼに分解された部分は白色に、その他の部分は青色になる。
【0007】
1963年にクマシーブリリアントブルーが蛋白質染料として使用できることが発見された。そのうちCBB−G250はCBB−R250より水に溶けにくいが、明るい青色になる。その水に溶けにくい性質により、CBB−G250を利用して、電気泳動ゲル中の蛋白質と結合させることができるが、ポリアクリルアミドゲルとは結合させることができない。CBB−G250は亜硫酸の静電引力と疏水性の交互作用を利用して蛋白質と結合させることができる。
【0008】
グリコールキチン(glycol chitin)は正電性があり、クマシーブリリアントブルーで染色できる。キチナーゼの活性を測定する時、ゲルの電気泳動中の乙二醇キチン質はキチナーゼに分解されてN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)の単体分子或いは低分子量ポリマーとなり、分解されたものはゲル洗浄の段階で除去される。キチナーゼはキチン質を分解した後、ゲル上に退色の痕跡を残し、肉眼でも観察できる。
【0009】
本発明のクマシーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue)染料を利用してキチナーゼ活性を検知する方法は、銀染色法とCalcofluor White(Cw−M2R)染色法の代替案である。クマシーブリリアントブルー染料は低価格で、使用便利性がよく、無毒である等の特長があり、銀染色法固定液の問題が解決できる。
【実施例】
【0010】
実施例1
電気泳動ゲル中のキチン質の染色
本発明では放線菌(Streptomyces griseus)のキチナーゼを材料として採用し、キチナーゼを12%的ポリアクリルアミドゲルで電気泳動分析した。このゲルには重量百分比0.01%のキチン質が含まれる。キチナーゼを含むサンプルとβ−メルカプトエタノールを含まないラウリル硫酸ナトリウム(SDS)緩衝溶液(50mM Tris-HCl, 2%重量百分比 SDS, pH 6.8)を混合してから、140ボルトで1時間電気泳動処理した。
【0011】
電気泳動した後、ポリアクリルアミドゲルの分離したゲルを取り出して、0.1Mの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に浸した。この溶液には重量百分比1%の脱イオン処理Triton X−100が含まれる。ゲルを室温下で浸して15分軽く揺すり、ゲル中のラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を除去した。その後さらにゲルを37℃の培養箱に入れ、酢酸ナトリウム緩衝液に浸しゲル中のキチナーゼを十分に反応させた。
反応が完了したら、ゲルをクマシーブリリアントブルー染料で10分染色し、その後さらに脱色溶液で余分な染料を洗い落とした。最後にゲルを3MMの試験紙に上に置き、ゲル乾燥機で乾燥させた。キチナーゼに分解された部分は白色に、その他の部分は青色になった。
【0012】
実施例2
異なる酢酸質のキチナーゼ活性
電気泳動ゲルを異なるpH値の酢酸ナトリウム溶液中(pH5,pH6和pH7)に浸して、さらにキチナーゼの活性を測定した。図1Aのように、キチン質を含むSDSポリアクリルアミドゲルを異なる酸・アルカリ質で電気泳動させ、反応させた。
サンプルの調製で、第2、4、6と8欄の電気泳動槽に緩衝液と混合したサンプルを入れて、混合液を沸騰水に入れて15分加熱してから電気泳動分析をした。この緩衝液には50mM Tris-HCl、重量百分比2%の SDSと100mM のβ−メルカプトエタノールが含まれ、pHは 6.8だった。
第1、3、5と7に同様のサンプルを入れるが、沸騰水での加熱はせず、緩衝液はβ−メルカプトエタノールを含まないものとした。
【0013】
結果からわかるように、放線菌(Streptomyces griseus)のキチナーゼはpH6とpH7の反応効果がはっきりとしている。図1Bで電気泳動が完了後さらに12時間反応したキチナーゼが見え、その電気泳動ゲルの白色の色帶が比較的はっきりとしており、24時間反応させたキチナーゼは、その電気泳動ゲルの白色の色帶がはっきりと見えることがわかる。
実施例3
2種のキチナーゼ検知染料の比較
【0014】
図2は2種のキチナーゼ染色染料の効果を比較したものである。図2AとBの実験は、12%のSDSポリアクリルアミドゲルを利用して電気泳動させることにより、放線菌(Streptomyces griseus)のキチナーゼを分析したものである。電気泳動槽中に入れたそれぞれのキチナーゼの活性単位は以下のとおりである。第1第2欄は5.0×10−4,第3第4欄は2.5×10−4,第5第6欄は1.3×10−4,第7第8欄は6.5×10−5。図2Aはクマシーブリリアントブルー染料(CBB−G250)を利用して染色した結果で、図2はCalcofluor White(Cw−M2R)染料を利用して染色した結果である。図1Aの黒い矢印はキチナーゼが電気泳動槽中で移動した位置を示す。
【0015】
図2CとDの実験は、SDSを含まない10%のポリアクリルアミドゲルを利用してサンプルを電気泳動分析するもので、実験方法は同上である。図2Cはクマシーブリリアントブルー染料(CBB−G250)を利用して染色した結果で、図2DはCalcofluor White(Cw−M2R)染料を利用して染色した結果である。
【0016】
両者の染色効果を比較すると、図2AとBの実験中、Calcofluor White(Cw−M2R)染料を利用して染色してから、第5と第7欄の電気泳動槽での結果はクマシーブリリアントブルー染料(CBB−G250)を利用して染色した結果よりぼやけていることがわかるが、まだ肉眼で見ることができる。図2の結果この2種の染色方法による効果が優劣つけがたいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図Aは異なるpHにおいてキチナーゼのの活性染色したものを示す。電気泳動が終了したゲルを0.1Mの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)と0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0和7.0)に37℃で 24時間浸し、それからさらにクマシーブリリアントブルー染料で染色する(CBB−G250)。電気泳動槽にそれぞれ入れるキチナーゼの活性単位は以下のとおりとした。第1第2欄は5.0×10−4、第3第4欄は2.5×10−4、第5第6欄は1.3×10−4、第7第8欄は6.5×10−5。第2 、4 、6と第8欄に別途加熱処理をしたラウリル硫酸ナトリウム(SDS)サンプル緩衝液を入れた。図Bにクマシーブリリアントブルー染料(CBB−G250)で染色した結果を示す。第1欄に入れるキチナーゼの活性濃度は6.5×10−5である。第2欄は対照組で、加熱処理をしたラウリル硫酸ナトリウム(SDS)サンプル緩衝液を入れた。電気泳動が終了したゲルをそれぞれ37℃の0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)中に2時間、6時間、12時間、24時間浸した。
【図2】この実験ではSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動とSDSを含まない他ポリアクリルアミドゲル電気泳動を利用してキチナーゼの活性を検知した。電気泳動槽にそれぞれ異なる活性単位のキチナーゼを入れた。第1第2欄は5.0×10−4、第3第4欄は2.5×10−4、第5第6欄は1.3×10−4、第7第8欄は6.5×10−5とした。そのうち第2、4、6と第8欄は別途100℃で15分加熱処理をし、キチナーゼの活性を除去した。図2AとBの実験では12%のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を利用して放線菌(Streptomyces griseus)のキチナーゼを分析した。そのうち図2Aはクマシーブリリアントブルー染料(CBB−G250)を利用して染色した結果で、図2BはCalcofluor White(Cw−M2R)染料を利用して染色した結果である。図2CとDの実験では10%のSDSを含まないポリアクリルアミドゲル電気泳動を利用してサンプルを分析した。図2Cはクマシーブリリアントブルー染料(CBB−G250)による染色の結果で、図2DはCalcofluor White(Cw−M2R)染料を利用して染色した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)キチナーゼを含む蛋白質電気泳動ゲルを提供する工程と、
(2)電気泳動水溝に所定程度のテストサンプルを入れる工程と、
(3)肉眼で検知できるキチナーゼ染料により工程1のゲルを染色する工程であって、キチナーゼの作用領域は白くなり、残り部分は染料の色となることを順に含むことを特徴とするキチナーゼ(chitinase)活性を検知するための方法。
【請求項2】
前記蛋白質電気泳動ゲルはポリアクリルニトリルゲルであることを特徴とする請求項1に記載するキチナーゼ(chitinase)活性を検知するための方法。
【請求項3】
前記所定程度のテストサンプルのキチナーゼの活性単位は1.5×10―5より大きいか或いは等しいであることを特徴とする請求項1に記載するキチナーゼ(chitinase)活性を検知するための方法。
【請求項4】
前記キチナーゼ染料はクマシーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue、略称CBB)であることを特徴とする請求項1に記載するキチナーゼ(chitinase)活性を検知するための方法。
【請求項5】
キチナーゼを含む蛋白質電気泳動ゲルと、
肉眼で検知できるキチナーゼ染料を含むことを特徴とする請求項1に記載するキチナーゼ(chitinase)活性を検知するためのセット。
【請求項6】
前記蛋白質電気泳動ゲルはポリアクリルニトリルゲルであることを特徴とする請求項5に記載するキチナーゼ(chitinase)活性を検知するためのセット。
【請求項7】
前記キチナーゼ染料はクマシーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue、略称CBB)であることを特徴とする請求項5に記載するキチナーゼ(chitinase)活性を検知するためのセット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−130959(P2010−130959A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310556(P2008−310556)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(508359952)中山醫學大學 (1)
【Fターム(参考)】