説明

キチンナノファイバーとその製造方法、キチンナノファイバー分散液、ナノフィブリル構造体、及びキチン複合体

【課題】十分な長さを有するシングルファイバーであり、かつ化学変性していないキチンナノファイバーを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明のキチンナノファイバーの製造方法は、精製アルファキチンを部分脱アセチル化処理する工程と、部分脱アセチル化した前記アルファキチンをpH5以下の酸性液体に浸漬する工程と、浸漬後の前記アルファキチンを解繊処理する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キチンナノファイバーとその製造方法、キチンナノファイバー分散液、ナノフィブリル構造体、及びキチン複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
幅が数nm〜数十nmのナノファイバーは、その膨大な表面積と他の材料との相互作用、複合化などにより、新しい機能材料として注目されている。ナノファイバーの製造方法は、分子状に溶解した状態から、電界紡糸、ナノ溶融紡糸などの方法によって製造されているが、コストがかかり、また結晶化度が低く、幅も50nm以上で通常100nmほどと太い。また、合成高分子を素材とした場合には、安全性に課題がある。カーボンナノチューブも注目されている素材であるが、安全性の確認やコストに大きな障害がある。一方、生物は生合成過程で高結晶性のナノファイバーを生産している。セルロースとキチンがそれであり、地球上で最も多量に生物生産されているナノファイバーである。これらのナノファイバーは、生体の維持に不可欠な構造多糖であり、高強度を発現する。
【0003】
しかし、これらセルロース、キチンから完全に一本一本のナノファイバーを調製するのは、強い(多量の)水素結合で互いに密に結合しているため容易ではない。例えば、セルロースの高圧ホモジナイザー処理では、10回ほどの繰り返し処理で約200kwh/kgのエネルギーをかけても完全にはナノファイバー化することはできない。
【0004】
さらにキチンについては、現在のところ、ファイバーとはいえないほど長さの短いもの(キチンナノウィスカー)に関する報告がほとんどである。
これまで報告されたキチンナノウィスカーは、天然キチンを強酸で加水分解し、その後機械的な解繊処理によって得られていた。例えば、非特許文献1では、エビのアルファキチンを3Mの塩酸中で90℃で90分加熱処理し、洗浄して酸を除去後、水分散液を高圧ホモジナイザーに10〜15回もかけて(キチン/水分散液を狭い隙間から高圧で押し出す機械的処理の繰り返し)解繊する。得られたキチンナノウィスカーは、10〜15nmの幅で、長さは200〜500nmである。上記の文献以外に、強酸処理によるキチンナノウィスカー調製方法は、以下の非特許文献2〜6に記載されている。
なお、いずれの文献にも収率は記載されていないが、強力な酸処理を行うことから、60%以下であることが推定される。
また、非特許文献7〜12では、上記と同様の方法で得られたキチンナノウィスカーをナノ複合体に変換し、強化材やバイオ分野での支持体などの応用を提案している。
【0005】
一方、最近になって、天然キチンを超音波処理のみでナノファイバー化する論文が発表された(非特許文献13)。この論文では、クモの糸、カイコの生糸等に対して、超音波ホモジナイザー装置を用い、水中で30〜45分の長時間処理を施してナノファイバーが得られる。同様に、魚のコラーゲン、エビやカニのキチン、綿、竹、木材、麻のセルロースからもナノファイバーが得られるとされている。同論文にはキチンナノファイバーとされる走査電子顕微鏡写真が掲載されているが、幅が30〜300nm程度もあり、不均一なものである。
以上に説明したように、キチンのシングルファイバー(集まった束を含んでいないもの)で長さが300nm以上のものは得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Goodrich, J. D.; Winter, W. T.; Biomacromolecules, 2007, 8,252
【非特許文献2】Revol, J.-F.; Marchessault, R. H. Int. Biol. Macromol. 1993, 15, 329.
【非特許文献3】Li, J.; Revol, J.-F.; Marchessault, R. H. J. Appl. Polym. Sci. 1997, 65, 373.
【非特許文献4】Paillet, M.; Dufresne, A. Macromolecules, 2001, 34, 6527.
【非特許文献5】Aoi, K.; Takasu, A.; Okada, M.; Imae, T. Macromol. Chem. Phys. 2002, 203, 2650.
【非特許文献6】Nair, G. K.; Dufresne, A. Biomacromolecules, 2003, 4, 657.
【非特許文献7】Nair, G. K.; Dufresne, A. Biomacromolecules, 2003, 4, 657.
【非特許文献8】Morin, A.; Dufresne, A. Macromolecules 2002, 35, 2190.
【非特許文献9】Nair, G. K.; Dufresne, A. Biomacromolecules 2003, 4, 666.
【非特許文献10】Nair, G. K.; Dufresne, A. Biomacromolecules 2003, 4, 1835.
【非特許文献11】Junkasem, J.; Rujiravanit, R.; Supaphol, P. Nanotechnol. 2006, 17, 4519.
【非特許文献12】Phongying, S.; Aiba S.-I.; Chirachanchai, S. Polymer 2007, 48, 393.
【非特許文献13】H.-P. Zhao, X.-Q. Feng and H. Gao, Ultrasonic technique for extracting nanofibers from nature materials, Applied Physics Letters, 90, 073112 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、セルロースを完全にナノファイバー化する方法としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)触媒酸化法が知られている。TEMPO触媒酸化法では、セルロース結晶表面にマイナス荷電を有するカルボキシル基を多数導入し、ナノファイバー間の荷電反発の力によって幅数nmのセルロースシングルファイバーの水分散液が得られる。また、同様の手法をアルファキチンに適用することで、長さは短いがキチンナノファイバーを作製することはできる。
【0008】
しかしながら、TEMPO触媒酸化法で得られるキチンナノファイバーは新規物質であり、体内に取り込む用途に使用する場合には、その効果以上に安全性を確認しなければならない。また、反応に用いたTEMPOを完全に除去しようとすれば、洗浄−精製に多大なコストがかかる。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、十分な長さを有するシングルファイバーであり、かつ化学変性していないキチンナノファイバーを製造する方法、及びこれにより得られるキチンナノファイバーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のキチンナノファイバーの製造方法は、上記課題を解決するために、精製アルファキチンを部分脱アセチル化処理する工程と、部分脱アセチル化した前記アルファキチンをpH5以下の酸性液体に浸漬する工程と、浸漬後の前記アルファキチンを解繊処理する工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の製造方法において、pH制御された酸性液体に浸漬する工程は、キチンミクロフィブリルの表面に分布すると考えられるグルコサミンにプラス荷電を付与する工程である。この工程により、キチンミクロフィブリル間に荷電反発を生じさせることができ、キチンミクロフィブリルを低エネルギーで解繊できるようになる。
結晶化度が低いベータキチンを原料とする場合には、上記の浸漬−解繊の工程のみでナノファイバー化することが可能である。しかしながら、分子同士が強固に水素結合しているアルファキチンを原料とする場合には、酸性液体への浸漬及び解繊だけでは一本一本が分離したナノファイバーを得ることができない。
【0012】
そこで本発明者らは鋭意検討を行い、酸性液体に浸漬するに先立って、アルファキチンの部分脱アセチル化処理を行うことで、アルファキチンを原料としてキチンナノファイバーを製造できることを見いだした。部分脱アセチル化処理によりアルファキチンのN−アセチル化度を低下させることで、キチンミクロフィブリルの表面により多くのプラス荷電を導入できるようになり、解繊工程で十分な荷電反発を生じさせることが可能になる。
【0013】
そして、本発明によれば、酸性液体中で解繊処理を行うという極めて簡便な処理で、一本一本が分離された幅5〜50nm、長さが300nm以上のキチンナノファイバーを製造することができる。また、本発明により得られるキチンナノファイバーは、元々キチン中に存在しているグルコサミンユニット部分に荷電を付与しているだけであるため化学変性しておらず、安全性の確認が不要であることから、実用化へのプロセスを著しく短縮しうるものである。
【0014】
前記部分脱アセチル化処理により、前記アルファキチンのN−アセチル化度を60%以上85%以下とすることが好ましい。
N−アセチル化度が60%未満になると、キトサンに近い特性となり、水に不溶のキチンナノファイバーを製造することが困難になる。一方、N−アセチル化度が85%を超える場合には、浸漬工程でキチンミクロフィブリルの表面に十分なプラス荷電が付与されなくなり、一本一本が分離されたキチンナノファイバーを得にくくなる。
N−アセチル化度の好ましい範囲は、65%以上80%以下である。このような範囲とすることで、一本一本が分離されたキチンナノファイバーを高収率で製造することができる。
【0015】
前記酸性液体として酸性水溶液を用いることが好ましい。このように水を溶媒に用いることで、得られたキチンナノファイバーの洗浄処理を不要あるいは極めて簡素なものとすることができる。これにより、製造コストの低減及び製造プロセスの簡素化が図れるとともに、キチンナノファイバーの安全性も高めることができ、生体用途に好適なキチンナノファイバーの製造方法とすることができる。
【0016】
前記酸性液体として食用に供される酸の水溶液を用いることが好ましい。このような製造方法とすれば、得られたキチンナノファイバーにほとんど処理を加えることなく生体用途に好適に用いることができる。
【0017】
前記解繊処理後の液体に含まれるキチンナノファイバーの平均長さが300nm以上であることを特徴とする。
本発明では、低エネルギーの解繊処理により容易にキチンミクロフィブリルの分離が可能であるため、キチンミクロフィブリルの損傷を回避できる点にも大きな利点を有している。すなわち、得られるキチンナノファイバーの長さが、従来のキチンナノウィスカーに比して著しく大きいのである。そして、アルファキチンを原料とするキチンナノファイバーでこのようなものは現在知られておらず、本発明に係る製造方法を用いて得られるキチンナノファイバーの特徴である。
【0018】
本発明のキチンナノファイバーは、N−アセチル化度が60%以上85%以下のアルファキチンからなり、幅が5nm以上50nm以下であることを特徴とする。また本発明のキチンナノファイバーは、精製アルファキチンを原料としてなり、幅が5nm以上50nm以下であるキチンナノファイバーとして特定することもできる。また、長さが300nm以上であることが好ましく、500nm以上であることがより好ましい。
先に記載の本発明に係る製造方法により得られるキチンナノファイバーは、アルファキチンを原料とし、一本一本が分離された幅の細いナノファイバーである。このようなキチンナノファイバーは従来知られていない新規なナノファイバーである。そして、このように細く長いキチンナノファイバーによれば、従来のキチンナノウィスカーでは得られない格別大きな強度が得られ、かつ、従来の太いナノファイバーでは得られない格別大きな表面積により優れた機能性を奏する。
【0019】
本発明のナノファイバー分散液は、本発明のキチンナノファイバーを液体に分散させたことを特徴とする。また本発明に係るキチンナノファイバー分散液は、液体中に分散された前記キチンナノファイバーの平均長さが300nm以上であることが好ましい。さらに、本発明のナノファイバー分散液では、キチンの含有量が0.1%であるときに、20℃における粘度が10mPa以上であることが好ましい。
かかる分散液についても、先に記載の本発明の製造方法により得られる新規なキチンナノファイバー分散液である。また、先に記載の発明と同様に、前記液体が水又は酸性水溶液であることが好ましい。
【0020】
本発明のナノフィブリル構造体は、本発明のキチンナノファイバーを含むことを特徴とする。
また本発明のナノフィブリル構造体は、本発明のナノファイバー分散液から乾燥処理又は凍結乾燥処理により液体成分を除去して得られるものである。
本発明の細く長いキチンナノファイバーを用いたことで、フィルム、シート、容器等の高強度のナノフィブリル構造体を提供することができる。
【0021】
本発明のキチン複合体は、本発明のキチンナノファイバーに有機物又は無機物を混合あるいは結合させたことを特徴とする。上記有機物としては、例えば水溶性高分子などである。また無機物としては、例えばヒドロキシアパタイトなどである。
本発明によれば、これまでになく細く長いキチンナノファイバーの機能性を利用したキチン複合体が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、極めて簡便な方法を用いて、十分な長さを有し、しかも化学変性していないキチンナノファイバーを、アルファキチンを原料として製造することができる。そして、本発明の製造方法により得られるキチンナノファイバーは、十分な長さを有していることから材料としての強度に優れ、また化学変性していないことから、食品や医療分野などの体内に取り込む用途においても安全に使用でき、種々の分野に応用できる極めて有用な素材である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】キチンナノファイバーの製造工程を示すフローチャート。
【図2】精製アルファキチンのミクロフィブリルの構造モデルを示す説明図。
【図3】キチン中のN−アセチルグルコサミン及びグルコサミン成分の化学構造を示す図。
【図4】グルコサミンにプラス荷電を付与した構造モデルを示す図。
【図5】プラス荷電を付与した化学構造の説明図。
【図6】部分脱アセチル化処理の説明図。
【図7】FT−IRの測定結果を示すグラフ。
【図8】部分脱アセチル化処理時間と、精製アルファキチン試料の重量減少率の関係を示すグラフ。
【図9】精製アルファキチン試料のX線回折パターンを示すグラフ。
【図10】X線回折パターンから計算した結晶化度を、部分脱アセチル化処理時間に対してプロットしたグラフ。
【図11】実施例に係る水分散液試料の写真。
【図12】実施例に係る水分散液試料の写真。
【図13】実施例に係る水分散液試料の光透過率を示すグラフ。
【図14】実施例に係る水分散液試料NMRの測定結果を示すグラフ。
【図15】実施例に係る水分散液試料の透過型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明のキチンナノファイバーの製造工程を示すフローチャートである。図1に示すように、本発明の製造方法は、部分脱アセチル化工程ST11と、浸漬工程ST12と、解繊工程ST13とを有する。
【0025】
まず、本発明に係るキチンナノファイバー及びその分散液の製造方法では、原料として、市販の精製アルファキチンを用いることができる。このような精製アルファキチンは、エビ殻やカニ殻などをアルカリ溶液に浸漬して脱タンパク処理し、続いて塩酸などの酸性溶液に浸漬して脱カルシウム処理することで製造される。必要に応じて亜塩素酸ナトリウムなどの漂白剤により漂白してもよい。
【0026】
図2は、精製アルファキチンのミクロフィブリルの構造モデルを示す説明図であり、図3は、キチン中のN−アセチルグルコサミン及びグルコサミン成分の化学構造を示す図である。
キチンは、カニエビなどの甲殻類や昆虫、クモなど、節足動物やイカの腱のように動物の体を支え、守るための直鎖状の構造多糖であり、結晶性があり(分子が規則的に並んでいる部分がある)、一部はタンパク質と結合している。キチンは、図2左側に示すN−アセチルグルコサミンを主な構成糖とした多糖であるが、単離−精製したキチンで、100%がN−アセチルグルコサミンからなる精製キチンはほとんどなく、一部は図2右側に示すようなグルコサミンを構成成分として含んでいる。
【0027】
キチン中のグルコサミン成分は、そのC2位のアミノ基(−NH)部分とタンパク質が元々結合していて生物体内に存在し、精製の過程(特に1MのNaOH処理)でキチン/タンパク質の結合が切断され、グルコサミン成分が出現したと考えられる。したがって、多くの精製したキチンは、図3に示すように、図2の左右の成分がさまざまな比率で混ざった構造を有している。
【0028】
キチンの化学構造を示す指標として、あるいはキチン中の図2の左右の成分の含有比を示す指標として、N−アセチル化度を用いる。すなわち、全てが図2左側に示すN−アセチルグルコサミン成分であれば、N−アセチル化度100%(あるいは1)と表示する。キチンの成分のうち、図2右側に示すユニット(グルコサミン成分)が100個中に10個存在すれば、N−アセチル化度は90%(あるいは0.9)と表示する。
【0029】
通常、精製したキチンはN−アセチル化度が70〜95%であり、市販の精製アルファキチンでは93%以上である。N−アセチル化度は精製キチンの窒素含有量、赤外吸収スペクトル(FT−IRスペクトル)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)などから計算できる。逆に、構成糖の75%以上が図2右側に示すグルコサミンを成分とする多糖(すなわち、N−アセチル化度が25%以下)であれば、その多糖はキトサンと称される。キトサンは、キチンを強アルカリで処理して、N−アセチル基を脱離させて調製する。キトサンは弱酸に溶解するが、キチンは弱酸には溶解しない。キトサンは健康食品など、生理活性作用が報告されている。
【0030】
精製したキチンは、結晶性のキチンミクロフィブリル間に強固な水素結合を形成しており、容易には一本一本のナノファイバーレベルにバラバラにはできないと考えられていた。既に非特許文献1〜13を参照して説明したように、キチンナノウィスカーを調製するためには、キチンの強酸処理とそれに続く強解繊処理が必要であった。
【0031】
しかし、図3に示したキチンミクロフィブリルの構造モデルから、グルコサミン成分はキチンミクロフィブリルの表面に高密度で存在している可能性が高い。そこで本発明者らは、図4及び図5に示すように、グルコサミン成分のアミノ基をカチオン化してプラスの荷電を付与させれば、キチンミクロフィブリル間にプラスどうしの荷電反発が生成し、水中で機械的な処理することにより、低解繊エネルギーでキチンナノファイバーが得られる可能性があると着想した。
【0032】
本発明者らは、上記着想に基づいて、精製ベータキチンを原料とするキチンナノファイバーの製造方法をすでに提案している。しかしながら、原料に精製アルファキチンを用いた場合には、一本一本が完全に分離したキチンナノファイバーを得ることはできない。これは、アルファキチンがベータキチンと比べて分子同士の水素結合を多く含み、キチンミクロフィブリル同士の結合力が強いためであると考えられた。
【0033】
そこで本発明者は、酸性液体に精製アルファキチンを浸漬したときの荷電反発力を高めることで、キチンミクロフィブリルの分離が可能になると考えた。すなわち、精製アルファキチンを部分脱アセチル化することでプラス荷電を付与しうるグルコサミン成分を増加させ、これにより酸性液体中での荷電反発力を高めることとした。
【0034】
本発明のキチンナノファイバーの製造方法は、上記着想に基づいて成されたもので、図1に示したように、部分脱アセチル化工程ST11において精製アルファキチンのN−アセチルグルコサミン成分の一部をグルコサミン成分に変換し、その後の浸漬工程ST12でグルコサミン成分をカチオン化することでキチンミクロフィブリル間に荷電反発力を生じさせ、解繊工程ST13において荷電反発力を利用した解繊処理により一本一本が分離したキチンナノファイバーを得る製造方法である。
【0035】
以下、図面を参照しつつ本発明によるキチンナノファイバーの具体的製造手順について説明する。
【0036】
(1)部分脱アセチル化工程ST11
市販の精製アルファキチンは、N−アセチル化度が93%以上であり、酸性液中でプラス荷電を有するグルコサミン成分は7%以下である。そこで本発明では、後段の浸漬工程に先立って、アルファキチンの部分脱アセチル化を行い、アルファキチン中のグルコサミン成分を増加させる。
【0037】
具体的には、精製アルファキチンを、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などのアルカリ水溶液中で加水分解により部分脱アセチル化する。例えば、0℃〜140℃に保温した20〜50%の水酸化ナトリウム水溶液に、精製アルファキチンを30分〜48時間浸漬することで部分脱アセチル化する。なお、処理温度と水酸化ナトリウム水溶液浸漬時間には相関があり、高温であるほど短時間処理でよい。
【0038】
部分脱アセチル化処理に用いるアルカリ溶液に、酸化防止を目的として、精製アルファキチンの重量に対して3%程度の水素化ホウ素カリウム(NaBH)を添加してもよい。
あるいは、コレトトリカム・リンデムチアナムなどの不完全菌由来の脱アセチル化酵素を作用させることで部分脱アセチル化処理を行ってもよい。
【0039】
図6は部分脱アセチル化処理の説明図である。
部分脱アセチル化処理により、図6に示すように、キチンミクロフィブリルの表面に位置するN−アセチルグルコサミン成分の一部がグルコサミン成分に変換される。本発明における部分脱アセチル化工程は、精製アルファキチンのN−アセチル化度が60%〜85%の範囲内となるように温度や処理時間によって制御する。
【0040】
アルファキチンのN−アセチル化度が60%未満になると、キトサンに近い特性となり、水に不溶のキチンナノファイバーを製造することが困難になる。一方、N−アセチル化度が85%を超える場合には、浸漬工程でキチンミクロフィブリルの表面に十分なプラス荷電が付与されなくなり、一本一本が分離されたキチンナノファイバーを得にくくなる。
【0041】
なお、部分脱アセチル化工程ST11の後に、必要に応じて、部分脱アセチル化工程ST11で用いたアルカリを除去する工程を設けてもよい。例えば、部分脱アセチル化処理後の精製アルファキチンを、中性になるまで遠心分離あるいはデカンテーションで水洗浄する工程を設けることができる。あるいは、一旦洗浄してアルカリ濃度を低下させた精製アルファキチンを、中性になるまでろ過により水洗浄してもよい。
【0042】
(2)浸漬処理
精製アルファキチンの部分脱アセチル化処理が終了したならば、次に、pHを5以下に調整した酸性液体を用意し、これに部分脱アセチル化後の精製アルファキチンを浸漬する。
【0043】
酸性液体としては、所望の範囲のpHが得られる限度で任意の酸を用いることができる。すなわち、酸は、有機酸であってもよく、無機酸であってもよく、特に制限されない。また、酸性液体の溶媒にも特に限定はなく、水以外のものを用いてもよい。
【0044】
有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、サリチル酸、アスコルビン酸、酒石酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、コハク酸ナトリウム、フィチン酸、アジピン酸、プロピオン酸、グリオキシル酸、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、グリコール酸、グリセリン酸、アクリル酸、安息香酸、パラニトロ安息香酸、パラトルエンスルホン酸、ピクリン酸、マレイン酸、などが挙げられる。無機酸としては、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、ピロリン酸二水素二ナトリウムなどが挙げられる。
【0045】
ただし、得られたキチンナノファイバーを医療、食品、薬剤などの生体に取り込む用途に用いる場合には、酢酸やクエン酸、リンゴ酸などの食用に供される酸を用い、溶媒に水を用いることが好ましい。ナノファイバーの作製に用いた酸や溶媒の除去が不要又は極めて容易になり、安全性の面でも有効だからである。
【0046】
本発明において、酸性液体のpH調整は極めて重要である。酸性液体のpHが5を超えている場合には、解繊処理を行ってもキチンナノフィブリルを一本一本に分離することができない。これは、アルファキチンを構成するグルコサミンへの荷電付与が不十分になり、キチンミクロフィブリル間の荷電反発が不足するためであると考えられる。
また、精製アルファキチンを浸漬した酸性液体における固形分濃度は5%以下とすることが好ましい。グルコサミンへの荷電付与が不十分になるのを回避するためである。
【0047】
(3)解繊処理
次に、精製アルファキチンが浸漬された酸性液体を解繊処理に供する。この解繊処理により、一本一本に分離されたキチンナノファイバーの分散液が得られる。かかる分散液に含まれるキチンナノファイバーは、化学変性していないアルファキチンからなり、幅が5nmから50nmであり、かつ、アルファキチンを原料としたナノファイバーではこれまでに実現されていない300nm以上の長さを有する新規なキチンナノファイバーである。
【0048】
解繊処理は、家庭用ミキサー(プロペラミキサー、カッターミキサー)、超音波印加装置、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練機などの解繊、粉砕装置を用いて行うことができる。またこれらの装置による解繊処理を複数組み合わせてもよい。例えば、家庭用ミキサーによる解繊処理の後、超音波印加装置による解繊処理を行ってもよい。
【0049】
本発明では、キチンナノフィブリル間の荷電反発を利用してナノファイバー化を行うので、解繊処理で精製アルファキチンに付与するエネルギーを低く抑えることができる。そのため、家庭用ミキサーのような簡便な装置であっても十分に適用できるのである。また、解繊処理の時間も数分間でよいため、極めて優れた効率でナノファイバーを製造することができる。
【0050】
なお、解繊処理に際して、精製アルファキチンを浸漬した酸性液体を希釈してもよい。解繊処理により精製アルファキチンがナノファイバー化されると高粘度の分散液となるので、希釈することであらかじめ固形分濃度を低下させておくことが好ましい。これにより解繊処理における攪拌を円滑に行えるようになる。希釈後の固形分濃度としては、1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下で、さらに好ましくは0.2%以下である。
【0051】
希釈に際しては、水や酸水溶液を酸性液体に加える。水を加えると酸性液体のpHが上昇するが、浸漬処理においてアルファキチンのグルコサミン成分に十分に荷電が付与されていれば、解繊処理の歩留まりにはほとんど影響しない。
また、必要に応じて、解繊処理で分散せず残ってしまった精製アルファキチンを、濾過、遠心分離などにより除去することが好ましい。
【0052】
以上詳細に説明したように、本発明に係るアルファキチンナノファイバーの製造方法によれば、原料である精製アルファキチンを部分脱アセチル化処理してN−アセチル化度を低下させ、これをpH調整された酸性液体に浸漬した後、解繊処理するという極めて簡便な工程で、一本一本に分離されたキチンナノファイバーを含む分散液を得ることができる。
本発明では、原料として比較的入手しやすい精製アルファキチンを用いるので、キチンナノファイバーを安定的に製造し提供することができる。
【0053】
得られるキチンナノファイバーは、化学変性していないアルファキチンからなるものであり、安全性確認が不要であることから、特に、食品、医療、薬剤、ヘルスケア分野など、体内に取り込んで使用される用途における応用展開が格段に容易になる。また上記工程で得られるキチンナノファイバー分散液についても、透明な高粘度の液体であり、添加する酸の種類によっては、そのままの状態で食品や医療材料に用いることができるものである。
【0054】
さらに、キチンナノファイバー分散液から種々の手法により液体成分を除去することで、キチンナノファイバーにより構成されるナノフィブリル構造体を得ることができる。例えば、キチンナノファイバー分散液を薄く延ばした状態で乾燥処理すれば、高強度の不織布やフィルムを作製することができる。本発明により製造されるキチンナノファイバーは、幅が細くしかも十分な長さを有するものであるから、大きな表面積により高い機能性を発現し、かつ優れた強度を備えたナノフィブリル構造体を実現できる。
また、キチンナノファイバー分散液を凍結乾燥処理すれば、エアロゲルのような多孔質体を容易に作製することができる。
【0055】
さらに、本発明に係る製造方法により得られるキチンナノファイバーは、他の材料と混合あるいは結合させて複合材料(コンポジット)を形成する用途にも好適である。例えば、水溶性高分子などの有機物を混合させたキチン複合体や、ヒドロキシアパタイトなどの無機物と混合(一部結合)させたキチン複合体を作製することができる。本発明に係るキチンナノファイバーは、一本一本に分離されて幅が細く、大きな表面積を有し、さらに荷電を有することから、他の材料との優れた複合化、イオン結合、あるいは共有結合を形成できるものである。また、長さが大きいことから高強度のキチン複合体が得られる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[ナノファイバーの作製]
本例では、以下に示す(1)精製アルファキチンの部分脱アセチル化処理、(2)浸漬処理、(3)解繊処理、の工程によりアルファキチンを原料とするナノファイバー分散液を作製した。
【0058】
(1)精製アルファキチンの部分脱アセチル化
まず、市販の精製アルファキチンを用意し、87℃〜99℃に保持した33%水酸化ナトリウム水溶液(キチン重量に対して3%のNaBHを含む)に2〜4時間浸漬し、アルファキチンを部分脱アセチル化処理した。その後、濾過−水洗浄によって、ろ液が中性になるまで十分洗浄した。以上の工程により、部分脱アセチル化によりN−アセチル化度を低下させた精製アルファキチン試料を得た。本例では、部分脱アセチル化処理時間を2時間、3時間、4時間とした3種類の精製アルファキチン試料を作製し、また比較試料として部分脱アセチル化処理していない精製アルファキチン試料も作製した。また、33%水酸化ナトリウム水溶液処理を室温とした場合には、ナノファイバー化に必要な脱アセチル化処理時間は1日となる。このような条件で脱アセチル化処理した場合にも、上記87℃〜99℃で脱アセチル化処理した場合と同様にナノファイバーを作製できるという結果が得られている。
【0059】
(2)浸漬処理
次に、上記で得られた精製アルファキチン試料に水を加えて固形分濃度0.1%の精製アルファキチン水分散液を調製した。その後、上記の水分散液に酢酸を添加することでpHを3〜4に調整した水分散液試料を作製した。
また、比較試料として、酢酸を加えない以外は同様とした中性(pH7)の精製アルファキチン水分散液試料を作製した。
【0060】
(3)解繊処理
次に、得られた精製アルファキチン水分散液試料を家庭用ミキサーで1分間解繊処理した後、超音波ホモジナイザーで1分間解繊処理した。
以上の(1)〜(3)の工程により、精製アルファキチンを原料とするナノファイバー水分散液を得た。具体的には、部分脱アセチル化処理を2,3,4時間行った精製アルファキチン試料を用い、弱酸性(pH3〜4)と中性(pH7)のそれぞれで解繊処理を行った水分散液試料と、部分脱アセチル化処理していない精製アルファキチンを用い、弱酸性と中性のそれぞれで解繊処理を行った水分散液試料を作製した。
【0061】
[試料分析及び評価]
(1)N−アセチル化度測定
まず、部分脱アセチル化処理後のN−アセチル化度の測定を行った。測定は、FT−IR、元素分析(窒素含有量測定)、及び電導度滴定を、部分脱アセチル化の処理時間をそれぞれ0,2,3,4時間とした試料について行った。測定結果を表1に示す。また図7は、すべての試料についてのFT−IRの測定結果を示すグラフである。
【0062】
【表1】

【0063】
FT−IRでは、図7のグラフに示すように、赤外吸収の1560cm−1/1030cm−1の吸光度比率からN−アセチル化度を求めた。
FT−IRの測定値は、元素分析及び電導度滴定による測定値に近い値であったが、やや高めであった。N−アセチル化度の値は、元素分析又は電導度滴定による測定値が最も確からしいと考えられ、元素分析と電導度滴定の測定値はよく一致していた。
【0064】
(2)部分脱アセチル化工程の回収率
図8は、部分脱アセチル化処理時間(0〜4時間)と、精製アルファキチン試料の重量減少率を示すグラフである。図8に示すように、33%水酸化ナトリウム水溶液による部分脱アセチル化処理過程で20%弱の重量減少が認められた。すなわち、部分脱アセチル化処理では、精製アルファキチンの80%以上を回収することができる。
また、N−アセチル化度は62%から74%の範囲であり、グラフに示されるように、元素分析によるN−アセチル化度と、電導度滴定によって測定したN−アセチル化度はよく対応している。
【0065】
(3)精製アルファキチンの結晶度
図9は、部分脱アセチル化処理時間を0〜4時間で変えた精製アルファキチン試料のX線回折パターンを示すグラフである。図9には4種類の試料のX線回折パターンを併記している。
図10は、図9のX線回折パターンから計算した結晶化度を、部分脱アセチル化処理時間に対してプロットしたグラフである。
【0066】
図9に示すように、4種類の試料のX線回折パターンに有為な差は認められず、また図10に示すX線回折パターンから計算した結晶化度及び結晶サイズの値も同等である。したがって、部分脱アセチル化処理を施しても精製アルファキチンの結晶度は低下せず、精製アルファキチン試料の部分脱アセチル化はキチンミクロフィブリルの表面のみで起こっている。
【0067】
(4)ナノファイバー水分散液
図11(a)は、部分脱アセチル化処理時間を2〜4時間で変えた精製アルファキチン試料を、弱酸性(pH3〜4)の水溶液中で解繊処理した水分散液試料を、透明なガラス瓶(試料瓶)に入れた状態で撮影したものである。なお、試料瓶の蓋部に付した2h、3h、4hは、それぞれ部分脱アセチル化処理時間を2時間、3時間、4時間とした精製アルファキチン試料を用いていることを示す。
【0068】
図11(b)は、部分脱アセチル化処理時間を2〜4時間で変えた精製アルファキチン試料を、中性(pH7)の水溶液中で解繊処理した水分散液試料を、透明なガラス瓶(試料瓶)に入れた状態で撮影したものである。なお、試料瓶の蓋部に付した2h、3h、4hは、それぞれ部分脱アセチル化処理時間を2時間、3時間、4時間とした精製アルファキチン試料を用いていることを示す。
【0069】
図12は、部分脱アセチル化処理していない精製アルファキチン試料を、弱酸水溶液中で解繊処理した水分散液試料を、透明なガラス瓶(試料瓶)に入れた状態で撮影したものである。
【0070】
図11(a)に示すように、pHが3〜4の弱酸水溶液中で解繊処理した水分散液試料では、透明で高粘度(10mPa以上、20℃)のゲルが得られた。
一方、図11(b)に示す中性で解繊処理した水分散液試料では、透明にならず、ゲル状のアルファキチンが残存していた。
また図12に示す部分脱アセチル化処理していない精製アルファキチン試料は、弱酸水溶液中で解繊処理しても透明な水分散液とはならなかった。
【0071】
図13には、図11(a)に示す水分散液試料のうち、部分脱アセチル化処理時間が2時間、4時間である精製アルファキチン試料を用いた水分散液試料の光透過率と、図11(b)に示す水分散液試料のうち、部分脱アセチル化処理時間が2時間、4時間である精製アルファキチン試料を用いた水分散液試料の光透過率とが示されている。
【0072】
図13に示すように、弱酸水溶液中で解繊処理を行った試料では、中性で解繊処理を行った試料に対して光透過率が20%程度高くなっていた。また、部分脱アセチル化処理の処理時間を長くした方が光透過率が高くなっていた。
このように、本発明に係る製造方法では、部分脱アセチル化処理後の精製アルファキチンを浸漬する酸性液体のpHが重要であり、一本一本にまで分離されたキチンナノファイバーを得るには、酸性液体のpHを5以下とすることが必要である。
【0073】
解繊処理により透明化した水分散液試料では、アルファキチンが光の波長以下のナノサイズで分散又は溶解していると考えられる。そこで、部分脱アセチル化処理時間を4時間とした精製アルファキチン試料を弱酸性で解繊処理した水分散液試料(図11(a)の”4h”と付した試料)について、溶液NMR(核磁気共鳴;Nuclear Magnetic Resonance)の測定を行った。
【0074】
図14は、NMRの測定結果を示すグラフである。図14に示すように、スペクトルにはほとんどピークが認められないことから、アルファキチンは分子で分散(溶解)しているのではなく、ナノファイバーとして分散していることが示唆された。
【0075】
そこで、透明な水分散液について、透過型電子顕微鏡観察を行った。図15は、その観察写真であり、繊維状に写っている部分がキチンナノファイバーである。図15に示すように、水分散液に含まれるキチンナノファイバーは、5nm程度の均一な幅を有する一本一本が分離されたものであり、その長さも300nm以上のものが多く含まれている。
このようなキチンナノファイバーは従来得られておらず、本発明のキチンナノファイバーは、アルファキチンを原料に用い、一本一本が分離されるとともに、5〜10nm程度の幅と300nm以上の長さを有するキチンナノファイバーとして特定することができるものである。
【0076】
なお、図15に示す写真では、キチンミクロフィブリルが一本一本にまで完全に分離されているため、幅が5〜10nm程度の均一なナノファイバーとなっているが、製造条件によっては数本のキチンミクロフィブリルが束になったものが得られる。このような数本が束になったキチンナノファイバーは、幅が10〜50nm程度であり、長さは上記と同様の300nm以上となる。
このような幅のキチンナノファイバーも、原料をアルファキチンとした場合には従来得られなかったものであり、本発明によって得られる新規なキチンナノファイバーである。
【符号の説明】
【0077】
ST11 部分脱アセチル化工程、ST12 浸漬工程、ST13 解繊工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製アルファキチンを部分脱アセチル化処理する工程と、部分脱アセチル化した前記アルファキチンをpH5以下の酸性液体に浸漬する工程と、浸漬後の前記アルファキチンを解繊処理する工程と、を有することを特徴とするキチンナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記部分脱アセチル化処理により、前記アルファキチンのN−アセチル化度を60%以上85%以下とすることを特徴とする請求項1に記載のキチンナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記酸性液体として食用に供される酸の水溶液を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のキチンナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
N−アセチル化度が60%以上85%以下であり、幅が5nm以上50nm以下であることを特徴とするキチンナノファイバー。
【請求項5】
長さが300nm以上であることを特徴とする請求項4に記載のキチンナノファイバー。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のキチンナノファイバーを液体に分散させたことを特徴とするナノファイバー分散液。
【請求項7】
請求項4又は5に記載のキチンナノファイバーを含むことを特徴とするナノフィブリル構造体。
【請求項8】
請求項4又は5に記載のキチンナノファイバーに有機物又は無機物を混合あるいは結合させたことを特徴とするキチン複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−180309(P2010−180309A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24286(P2009−24286)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】