説明

キッチンシンク

【課題】耐水垢性と耐摩耗性に優れたステンレス鋼製キッチンシンクを提供する。
【解決手段】シンク形状に絞り加工されたステンレス鋼板からなる基材、前記基材の上に設けられた有機無機複合クリア塗膜を含むキッチンシンクであって、前記有機無機複合クリア塗膜は、下記一般式(1)のシリコーン化合物を含む、キッチンシンクを用いる。
【化1】


(1)
[式(1)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは5〜100を表す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水垢性と耐摩耗性に優れるステンレス鋼製キッチンシンクに関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼製キッチンシンクは、靭性、弾性特性に優れるため、茶碗等の食器が落下された場合も割れにくいという特性を有する。また、ステンレス鋼製キッチンシンクはステンレス鋼特有の美麗な外観を有する。これらの優れた特性から、ステンレス鋼製キッチンシンクは、業務用キッチンや、一般住宅のキッチン等に幅広く使用されている。
【0003】
しかし、ステンレス鋼製キッチンシンクは、表面硬度が低いため、疵付き易いことや、汚れやすいという問題がある。疵や汚れはステンレス鋼製キッチンシンクの外観を著しく損ねる。そこで、耐疵付き性、耐汚染性を改善するため、ステンレス鋼製キッチンシンクに塗装を施すことが提案されている。ところが、従来の塗装を施したステンレス鋼製キッチンシンクは、耐水垢性が十分でないという課題が残されていた。
【0004】
耐水垢性は水道中に含まれるカルシウムやマグネシウムや珪素などの無機成分が濡れと乾燥を繰り返えす事により、塗膜に強固にこびり付いてしまい簡単には取れなくなるという問題である。耐水垢性は塗料に使用されている成分に大きく影響される。シリカ系、チタニア、アルミナ系、ジルコニア系を始めとする各種無機系塗料は上記水道中の無機成分と親和性が高いため、水垢がこびり付き易い。一方、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂のような有機樹脂などの有機成分は無機成分と比べて水道中の無機成分と親和性が低いため、水垢がこびり付き難い。しかし、シンク用の塗料成分としては、耐傷付き性や耐摩耗性が要求されることから、どうしてもシリカ系、チタニア、アルミナ系、ジルコニア系を始めとする無機成分が塗料の主成分として使用されている。
【0005】
このようなことから、耐水垢性に関して、これまでに、シンク形状に絞り加工された金属の底面部の内面を平滑面とすると共に、シンクの側面部の内面を凹凸面とするキッチンシンク(特許文献1)や、ステンレス鋼板の表面に特定の微細凹凸をランダムに設置することにより、水滴の付着を防止したキッチンシンク(特許文献2)や、エンボス加工されたステンレス基材の表面にフッ素系塗膜がコーティングされたキッチンシンク(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−316195号公報
【特許文献2】特開2004−137796号公報
【特許文献3】特開2007−38626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1、2の発明により、耐水垢性は通常の裸材のシンクに比べれば水垢は付着しづらくなるが、十分とは言えない。また、上記特許文献3により、耐水垢性は改善されるが、耐摩耗性や耐傷付き性が無機系塗料に比べて不十分であるという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑み、耐水垢性と耐摩耗性に優れたステンレス鋼製キッチンシンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、シンク形状に加工されたステンレス鋼板の上に、特定のシリコーン化合物を含有する有機無機クリア塗膜を形成してなるキッチンシンクにより前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
【0010】
[1]シンク形状に加工されたステンレス鋼板からなる基材と、
前記基材の上に設けられた有機無機複合クリア塗膜を含むキッチンシンクであって、
前記有機無機複合クリア塗膜は、下記一般式(1)のシリコーン化合物を含む、キッチンシンク。
【化1】

(1)
式(1)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは5〜100を表す。
[2]前記基材は、BA仕上げ、酸洗仕上げ、研磨仕上げ、またはエンボス加工されたステンレス鋼板である[1]記載のキッチンシンク。
[3]前記有機無機複合クリア塗膜は、
(A)アルコキシシランまたはオルガノアルコキシシランの部分加水分解縮合物
(B)不飽和エチレン性単量体の重合体、および
(C)シリカ、をさらに含み、
前記(A)〜(C)の合計量に対して、前記(A)の含有量は20〜70質量%、前記(B)の含有量は20〜70質量%、前記(C)の含有量は10〜60質量%である、[1]または[2]いずれかに記載のキッチンシンク。
[4]前記(B)不飽和エチレン性単量体の重合体は、アクリルシリコン樹脂を含む、[3]に記載のキッチンシンク。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐水垢性と耐摩耗性に優れたステンレス鋼製キッチンシンクを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.キッチンシンク
本発明のキッチンシンクは、シンク形状に加工されたステンレス鋼板からなる基材、当該基材の上に設けられた有機無機複合クリア塗膜を含み、かつ当該有機無機複合クリア塗膜は、前記一般式(1)の化合物を含むことを特徴とする。以下各部材について説明する。
【0013】
(1)基材
本発明のキッチンシンクは、シンク形状に加工されたステンレス鋼板からなる基材を含む。基材は、所定形状に加工できるステンレス鋼板であれば限定されないが、絞り加工、特に深絞り加工でシンク形状に加工できるステンレス鋼板が好ましい。このようなステンレス鋼板の例には、オーステナイト系、フェライト系のステンレス鋼板が含まれる。ステンレス鋼板は、外観性に優れるため、BA仕上げされていることが好ましい。また、ステンレス鋼板に、研磨仕上げ、酸洗仕上げ等がなされると、表面から、塗膜密着性に有害なSi、Mnの濃化層が除去されるため好ましい。さらには、ステンレス鋼板はエンボス加工されたものでもよい。
【0014】
本発明のキッチンシンクの製造方法については後述するが、予めステンレス鋼板をシンク形状に絞り加工して基材とすることが好ましい。ステンレス鋼板をシンク形状に絞り加工する方法は、公知の方法を用いてよい。シンク形状に加工された基材は、必要に応じアルカリ脱脂、酸洗、リン酸塩処理の前処理が施されてもよい。本発明においてステンレス鋼板は、鋼板または原板とも呼ばれる。
【0015】
(2)有機無機複合クリア塗膜
有機無機複合クリア塗膜とは、金属酸化物などの無機系材料のマトリックス中に有機高分子化合物等の有機材料が複合化された塗膜であって、透明な塗膜をいう。以下、有機無機複合クリア塗膜を単に「本発明の塗膜」ということがある。
【0016】
1)シリコーン化合物
本発明の有機無機複合クリア塗膜は、下記一般式(1)で表されるシリコーン化合物(以下「本発明のシリコーン化合物」ともいう)を含む。本発明のシリコーン化合物は、ジメチルシリコーンを主鎖とし片末端に加水分解可能な基を3個有する。当該シリコーン化合物は塗膜表層に濃化し、耐水垢性を向上させると考えられる。従って、「塗膜が本発明のシリコーン化合物を含む」とは、シリコーン化合物が塗膜表層に濃化して塗膜表層に存在していることも含む。
【0017】
また、本発明のキッチンシンクは、後述するとおり、所望の形状に加工された鋼板に、本発明の有機無機複合クリア塗膜を与えうる塗料を塗装して製造することが好ましい。この際に、塗料が、下記一般式(1)で表されるシリコーン化合物を含むと、塗膜表層に濃化して、耐水垢性が向上する。
このシリコーン化合物は、片末端に加水分解可能な基を3個有するので、加水分解により水酸基が生成されると、塗膜の主成分である有機無機複合樹脂中の水酸基と部分的に脱水縮合反応して結合することが推測される。その結果、塗膜表層に濃化したシリコーン化合物は有機無機複合樹脂と結合している事から、温水に塗膜表面が長時間接触してもあるいは長時間流水が塗膜表面を流れても、シリコーン化合物は表面から流出・消失することなく長期間に渡って耐水垢性を保持できる。
【0018】
以上から、本発明のシリコーン化合物は、塗膜の表層に濃化し、かつ塗膜の主成分である有機無機複合樹脂と部分的に結合している事から、表面から流出・消失することなく長期間に渡って塗膜表層に存在するので、耐水垢性を保持できる。
このようなメカニズムにより、一般式(1)で示されるシリコーン化合物を含む塗膜を有するキッチンシンクは、耐水垢性に優れると考えられる。
【0019】
【化2】

(1)
【0020】
式(1)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは5〜100を表す。n
が5未満では耐水垢性が不十分であり、100を超えると塗料中での溶解性が劣り、凝集・沈殿などを起こし易くなる。
【0021】
本発明のシリコーン化合物の含有量は、乾燥塗膜中0.01〜5質量%であることが好ましく、0.1〜3.0質量%であることがより好ましい。前記量が、0.01%未満では耐水垢性が十分でないことがあり、5質量%を超える場合は、塗膜にベタツキ感が出てくることがある。
【0022】
2)塗膜の主成分
本発明の塗膜は、前述の通り、金属酸化物などの無機系材料のマトリックス中に有機高分子化合物等の有機材料が複合化された塗膜である。本発明においては、無機材料がアルコキシシランの加水分解縮合物またはシリカであり、有機材料がアクリル系の樹脂であることが好ましい。中でも、本発明の塗膜は、(A)アルコキシシランまたはオルガノアルコキシシラン部分加水分解縮合物と、(B)不飽和エチレン性単量体の重合体と、(C)シリカを含むことが好ましい。さらに、(A)〜(C)の合計量に対して、(A)は20〜70質量%、(B)は20〜70質量%、(C)は10〜60質量%であることが好ましい。
【0023】
(A)アルコキシシランまたはオルガノアルコキシシラン加水分解縮合物
アルコキシシランとは、一般式(2)で表される化合物である。
Si(OR) (2)
Rはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、またはアリール基である。アルコキシシランの加水分解縮合物とは、前記式(2)の一部または全部のOR基が加水分解されてOH基になり、そのOH基が縮合した化合物をいう。本発明においては、Rはメチル基であることが好ましい。
【0024】
オルガノアルコキシシランとは、一般式(3)で表される化合物である。
X−Si(OR) (3)
Xは一価の有機基であり、その例には炭素数1〜3のアルキル基、ビニル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−クロロプロピル基が含まれる。Rは前記式(2)と同様に定義される。オルガノアルコキシシランの加水分解縮合物とは、前記式(3)の一部または全部のOR基が加水分解されてOH基になり、そのOH基が縮合した化合物をいう。
【0025】
本発明においては、(A)成分であるアルコキシシランまたはオルガノアルコキシシラン加水分解縮合物の80質量%以上が、式(3)においてXとRがメチル基であるメチルトリメトキシランの加水分解縮合物であることが好ましい。得られる塗膜の硬度が高くなるからである。
【0026】
(A)成分の含有量は、(A)と(B)と(C)成分の合計(「固形分総量」ともいう)に対して、20〜70質量%の範囲が好ましく、50〜30質量%であることがより好ましい。前記値が20質量%未満では塗膜の密着性が低下することがある。一方、前記値が70質量%を超えると塗膜の耐疵付き性が低下することがある。
【0027】
(B)不飽和エチレン性単量体は、本発明の塗膜の有機材料ソースとなる。不飽和エチレン性単量体の例には、以下の化合物が含まれる。
メチルアクリレート、エチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等のアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル。
【0028】
γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシシラン。
その他、スチレン等のビニル基含有化合物。
【0029】
これらの単量体(「モノマー」ともいう)は、単独で用いてもよいが、複数を併用してもよい。中でも本発明においては、(B)成分として、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシシランを用いることが好ましい。このモノマーの重合体は、(メタ)アクリル基が重合してなる有機材料部分と、アルコキシシランが加水分解反応して生成されたシラノール部分を有する、いわゆるアクリルシリコン樹脂である。シラノールは、縮合反応により金属酸化物(無機材料)を形成する。すなわち、アクリルシリコン樹脂は、有機成分と無機成分のいずれにも親和性を有するため、有機無機複合塗膜としたときに、塗膜の強度等を向上させる。よって、γ−(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシシランは、本発明の塗膜の原料として好適である。
【0030】
この際、γ−(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシシランは単独で用いてもよいが、前記例示のアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルと併用されることがより好ましい。有機材料部分と無機材料部分のバランスに優れるポリマーを与えるからである。γ−(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシシランと前記例示のアクリル酸エステル等との配合比は、γ−(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシシラン1質量部に対して、前記例示のアクリル酸エステル等を1〜5質量部とすることが好ましい。
【0031】
また、アクリルシリコン樹脂は、塗装工程で塗膜表面に移行しやすいことが知られている。このため塗膜の表面に非粘着性を付与する。よって、サラダ油等の汚れが付着しても塗膜表面との結合力が弱いので流水洗浄で容易に除去できる。アクリルシリコン樹脂を含む塗膜を有するキッチンシンクは、防汚性に優れ、長期にわたって美麗な外観が維持される。
【0032】
(B)成分の含有量は、固形分総量に対し20〜70質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。この値が20質量%未満であると、数μm以上の膜厚の塗膜が得られにくく、熱収縮等で塗膜にクラックが発生することがある。逆に前記値が70質量%を超えると、塗膜硬度が低下して十分な耐疵付き性が得られないことがある。
【0033】
本発明の塗膜は(C)シリカを含んでいることが好ましい。シリカとは二酸化珪素のことである。本発明の塗膜は、コロイダルシリカがゲル化して形成されたシリカを含んでいることがより好ましい。(C)成分の含有量は、固形分総量に対し10〜60質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
【0034】
本発明の塗膜は、無機成分を含むため膜の硬度が高く、優れた耐疵付き性を有する。しかしながら、さらに耐疵付き性を向上させるために、一般的に使用されている潤滑剤を塗膜に含ませてもよい。例えば、潤滑性を有する樹脂粉末を本発明の塗膜に配合すると、樹脂粉末の潤滑作用により、耐疵付き性が一層向上する。
潤滑性を有する樹脂粉末の例には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PE(ポリエチレン)−PTFE、PAN(ポリアクリロニトリル)、シリコーンレジン等が含まれる。これらは単独で用いてもよいが、複数を併用してもよい。
また、本発明の塗膜は、公知の界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0035】
本発明の塗膜の厚みは、1〜30μmであることが好ましい。厚みが1μm未満であると、薄膜の均一性が失われやすい。また、膜厚が30μmを越えると塗膜の外観がゆず肌状になったり、ワキが発生しやすくなる。
【0036】
本発明の塗膜は透明である。透明性は、クリア塗膜の光透過率から判定できる。本発明では光透過率50%以上を透明という。具体的に透明性は、本発明の塗料をBA仕上げステンレス鋼板に10μmの乾燥膜厚で塗装した鋼板を準備し、ダブルビーム、ダイノードフィードバックによるダイレクトレシオ方式の分光光度計を用いて、前記鋼板に、波長500nmの可視光を照射したときの光透過率で評価される。光透過率は、前記測定値を式:E=−logT=log(I/I)〔E:吸光度、T:光透過率、I:入射光強度、I=透過率強度〕に代入することにより、算出される。
【0037】
2.塗料
本発明の塗膜は、前記(A)〜(C)と本発明のシリコーン化合物を含む塗料から形成されることが好ましい。塗料は、所望の量の前記成分を溶媒に溶解または分解させて調製してよい。溶媒としては、低級脂肪族アルコール、グリコール誘導体等の混合溶媒が好ましい。また塗料は、水性コロイダルシリカ等に由来する少量の水を含んでいてもよい。低級脂肪族アルコールの例には、メタノール、エタノ−ル、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールが含まれる。グリコ−ル誘導体の例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテルが含まれる。
【0038】
本発明の塗料は、特に(C)として酸性のコロイダルシリカを用い、これに(A)成分としてオルガノアルコキシシランを添加し、よく攪拌する工程を含んで調製されることが好ましい。オルガノアルコキシシランは酸性雰囲気下においては、加水分解が進行しやすいからである。
【0039】
本発明の塗料は保存安定性を維持するため、好ましくはpH3〜6.5、より好ましくはpH3〜5の範囲に調整される。pHは公知の方法で調整してよい。前述の通り、原料として酸性のコロイダルシリカを用いるとそもそも酸性になりやすいが、この場合、アンモニア水や、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエーテル等の有機アミン類を適宜添加して、所期のpHに調整してよい。
【0040】
本発明で用いるコロイダルシリカは、平均粒径が150nm以下であるシリカ粒子が溶媒に分散しているものが好ましく、平均粒径が30nm以下であるシリカ粒子が溶媒に分散しているものがより好ましい。さらに、前記溶媒は、水またはアルコールであることが好ましく、前記シリカ粒子の含有量は、コロイド溶液中10〜60質量%であるものが好ましい。
【0041】
続いて、この混合物に、本発明のシリコーン化合物や(B)成分や溶媒を添加してよい。溶媒の量は、固形分総量が、塗料中20〜40質量%となるように添加されることが好ましい。
【0042】
3.キッチンシンクの製造方法
本発明のキッチンシンクは発明の効果を損なわない範囲で任意に製造されうるが、以下好ましい製造方法を説明する。
【0043】
本発明のキッチンシンクは、(a)シンク形状に絞り加工されたステンレス鋼板からなる基材を準備する工程と、(b)前記基材表面に本発明の塗料を塗装する工程を含む方法で製造されることが好ましい。
【0044】
(a)工程
本工程では、シンク形状に絞り加工されたステンレス鋼板からなる基材を準備する。準備する手段は特に限定されないが、既に述べたとおりの方法で準備してもよいし、購入して準備してもよい。
【0045】
(b)工程
本工程では、前記基材表面に本発明の塗料を塗装する。本発明の塗料は、既に述べた方法で調製できる。
塗料は、基材に塗布され塗布膜を形成する。その後、塗布膜を乾燥して塗膜が形成される。基材はすでにシンク状に加工されているため、本工程においては、スプレーにより塗布されることが好ましい。一般に、スプレー塗装は空気を巻き込みやすいため、塗膜に気泡が入りやすい。気泡は鋼板と塗膜の界面に入りやすく、特に鋼板がエンボス加工されていると、その度合いは顕著になる。そうした場合には界面活性剤を添加して塗料の濡れ性を上げて気泡の発生を防止すれば良い。発明者らはこれまでに気泡の発生防止のためにある特定のリン酸エステル化合物を添加することにより、耐温水密着性が向上することを提案している(特願2008−036402)。
【0046】
このように、本発明においては、耐水垢性と耐摩耗性に優れたキッチンシンクを製造できる。
【0047】
本発明においては、塗料を塗布して得た未乾燥の膜を「塗布膜」、塗布膜を乾燥させたものを「塗膜」という。塗布膜の乾燥温度は特に限定されないが、到達板温度が150〜300℃となるように焼付けられることが好ましい。焼付け温度が150℃未満であると、主樹脂である有機無機複合樹脂の硬化反応が不十分になり、硬度が不足したり、耐溶剤性に劣ることがある。一方、前記温度が300℃を超えると塗膜にクラックが入り、温水環境下での塗膜密着性、すなわち耐水密着性が低下することがある。塗布膜の厚みは、塗膜としたときに既に述べたとおりの厚みになるように適宜調整される。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
酸性の水性コロイダルシリカ分散液:21.2g(平均粒径:10〜20nm、固形分:20質量%)をメタノール性コロイダルシリカ分散液:38.8g(平均粒径110〜20nm、固形分:30質量%)と混合した。この混合物に、メチルトリメトキシシラン:13.9gを加え、室温で5時間撹絆して加水分解を完了させた。得られた混合物にイソプロパノールを添加し、固形分:20質量%のコロイダルシリカ、オルガノアルコキシシランの分散液Aを得た。
【0049】
メチルメタクリレート:20g、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン:10gの混合物をイソプロパノール:20g、エチレングリコールモノブチルエーテル150gの混合溶媒で希釈し、定法により80℃で6時間重合させて、不飽和エチレン性単量体の重合体を含む樹脂溶液Bを得た。当該溶液は、固形分が30質量%であった。
【0050】
分散液A:83gと樹脂溶液B:22gを混合し、pH4.5の塗料1を調製した。この塗料に、本発明のシリコーン化合物X(信越化学工業製X24−9011)を乾燥塗膜に対して0.5質量%添加した。
【0051】
塗装原板にはエンボス加工を施した板厚が0.7mmのSUS304ステンレス鋼板を用い、シンク形状に絞り加工した。当該基材にアルカリ脱脂処理、水洗処理、乾燥処理を施した後、前記塗料をスプレー塗装した。その後、塗布膜を到達板温度180℃で20分間乾燥させて、膜厚が5μmの有機無機複合クリア塗膜が形成されたキッチンシンクを得た。
【0052】
このようにして得たステンレス鋼製キッチンシンクの底部から試験片を切り出し、耐水垢性試験を行った。結果を表1に示す。
1)初期耐水垢性
水道水5ccを塗膜表面に滴下し、室温で蒸発・乾燥させて水垢付着部を形成させた。その後、中性洗剤を含ませたスポンジで洗浄して跡が残るかどうか目視で評価した。
評価基準は以下のとおりとした。
◎:跡が全く残らない
○:跡がリング状に僅かに残る
△:跡がある程度残る
×:跡がはっきりと残る
【0053】
2)沸騰水試験後の耐水垢性
沸騰水に試験片を48時間連続して浸漬した後、乾燥して、1)と同様な試験を行い、耐水垢性を評価した。
【0054】
3)温水試験後の耐水垢性
80℃の温水に試験片を168時間連続して浸漬した後、乾燥して、1)と同様な試験を行い、耐水垢性を評価した。
【0055】
[実施例2〜3]
本発明のシリコーン化合物X(信越化学工業製X24−9011)の添加量を表1に示す値とした以外は実施例1と同様にして、キッチンシンクを製造し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
エンボス加工を施した板厚が0.7mmのSUS304ステンレス鋼板を用い、シンク形状に絞り加工した。塗装を施すことなく、実施例1と同様にして試験片を切り出し、同様に評価した。
【0057】
[比較例2]
本発明のシリコーン化合物X(信越化学工業製X24−9011)を含まない以外は、塗料1と同様にして、比較用塗料R1を準備した。当該塗料を用いて、実施例1と同様にして、キッチンシンクを製造し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例3]
本発明のシリコーン化合物X(信越化学工業製X24−9011)に代えて、シリコーンオイルY(信越化学工業製KF96)を1質量%用いた以外は、塗料1と同様にして、比較用塗料R2を準備した。当該塗料を用いて、実施例1と同様にして、キッチンシンクを製造し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果から、本発明のキッチンシンクは、耐水垢性に優れることが明らかである。
初期のみならず、沸騰水浸漬後及び温水試験後でも優れた耐水垢性を示す。一方、比較例3のシリコーンオイルを添加した場合は、初期はある程度の水垢性を示すが、沸騰水浸漬後および温水浸漬後の耐水垢性は初期に比べて低下する。この違いは、実施例のシリコーン系化合物を添加した場合には、沸騰水浸漬後および温水浸漬後でもシリコーン系化合物は塗膜表層から消失することなく存在するために、優れた耐水垢性を示すのに対して、比較例のシリコーンオイルを添加した場合には、沸騰水浸漬後および温水浸漬後では表層から流出し、消失してしまうために、耐水垢性が低下することを意味すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のキッチンシンクは、耐水垢性、さらには耐温水密着性や耐摩耗性にも優れるため、個人住宅用のシステムキッチンや、業務用のキッチンに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンク形状に加工されたステンレス鋼板からなる基材と、
前記基材の上に設けられた有機無機複合クリア塗膜を含むキッチンシンクであって、
前記有機無機複合クリア塗膜は、下記一般式(1)のシリコーン化合物を含む、キッ
チンシンク。
【化1】

(1)
[式(1)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは5〜100を表す]
【請求項2】
前記基材は、BA仕上げ、酸洗仕上げ、研磨仕上げ、またはエンボス加工されたステンレス鋼板である、請求項1記載のキッチンシンク。
【請求項3】
前記有機無機複合クリア塗膜は、
(A)アルコキシシランまたはオルガノアルコキシシランの部分加水分解縮合物、
(B)不飽和エチレン性単量体の重合体、および
(C)シリカ、をさらに含み、
前記(A)〜(C)の合計量に対して、前記(A)の含有量は20〜70質量%、前記(B)の含有量は20〜70質量%、前記(C)の含有量は10〜60質量%である、請求項1または2のいずれかに記載のキッチンシンク。
【請求項4】
前記(B)不飽和エチレン性単量体の重合体は、アクリルシリコン樹脂を含む、請求項3記載のキッチンシンク。



【公開番号】特開2011−38243(P2011−38243A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183337(P2009−183337)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002222)サンウエーブ工業株式会社 (196)
【Fターム(参考)】