説明

キトサンおよびヘパリンナノ粒子

本発明は、ヘパリンを制御しながら放出するためのナノ粒子系に関する。本発明は、特にキトサン、ヘパリンおよび所望によりポリオキシエチレン化された誘導体を含んでなり、イオン的に架橋させたナノ粒子系、ならびにそれらの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、ヘパリンを制御しながら放出するためのナノ粒子系に関し、とりわけ、キトサン、ヘパリンおよび所望によりポリオキシエチレン化された誘導体を含む、イオン架橋したナノ粒子系、ならびにその製造方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
生物学的に活性な試剤を放出するための系は、常に進展している研究分野である。様々な投与経路を通して人間および動物の体に活性成分を投与することには、問題があることが知られている。ある種の薬物、とりわけペプチド、タンパク質および多糖は、人間および動物の体の上皮バリヤー浸透性が制限されているために、粘膜表面を通して効果的に吸収されない。これらの、粘膜バリヤーを透過する能力のほとんど無い薬物の一例が、ヘパリンであり、その投与は、現在、非経口または皮下経路によるものであり、従って、既存の経路に変わる経路を見出すには、この活性分子が粘膜を通してより効果的に吸収され得る投与系を開発することが必要である。経口投与できることも特に望ましい。
【0003】
ヘパリンと組み合わせた、キトサン等の、生体適合性がありかつ生分解性の重合体およびその薬学的使用を記載した文献がある。
【0004】
例えば、欧州特許第0771206号には、骨組織のような硬質組織を再生できる薬物を製造するための、キトサンのマトリックスや、そのキトサンマトリックスに、沈殿または共有結合により固定したヘパリンの使用が記載されている。この組合せは、粉末、溶液、フィルムまたはゲルの形態でよいとされている。
【0005】
欧州特許第0930885号にも、ヘルペスウイルスにより引き起こされる感染を防止する薬物を製造するための、ヘパリンをキトサンと組み合わせた使用が記載されている。これは、いずれの物理的形態、例えば懸濁液、溶液またはゲルでよいとされている。
【0006】
欧州特許第0772446号および欧州特許第0759760号には、外傷の際に組織を再生するための、キトサン、ならびに、イオン性結合もしくは共有結合または機械的包接(inclusion)により、キトサンに固定したヘパリン等の多糖の使用が記載されている。この組成物は、フィルム、メンブラン、チューブ、溶液、粉末またはゲルの形態でよいとされている。
【0007】
これらの文献のいずれも、ナノ粒子の形態にある系や、系を、粘膜を経由して制御しながら投与するために使用することは記載していない。
【0008】
一方、国際出願WO03/090763号は、溶液の局所的投与による炎症性疾患の直腸内処置のために、キトサン複合体とヘパリンとを組み合わせた水性組成物を使用することを意図したものである。
【0009】
国際出願第WO96/20730号は、親水性薬物の上皮浸透性を向上させることができる重合体として、特定のアセチル化度および分子量を有するキトサンを含む薬学的処方物に関するものであり、可能な治療剤として、活性試剤の中でも特に低分子量ヘパリンを挙げている。
【0010】
薬物が直面する生物学的バリヤーを克服するために最近提案されている可能性の中で、活性成分を小粒子に配合することが特に強調される。
【0011】
この意味で、国際出願第WO98/04244号、第WO2004/009060号および第WO2004/112758号には、活性成分を投与するためにキトサンを含むナノ粒子系が記載されている。
【0012】
国際出願第WO96/05810号には、粘膜上に投与するためのキトサン粒子が記載されており、サイズ10〜50ミクロンに形成されたキトサン微小球に、低分子量ヘパリン溶液を加えて懸濁液を形成し、これを投与のために凍結させて凍結乾燥させることが記載されている。
【0013】
Andersson, MおよびLofroth, JEは、Int J Pharm. 2003, 257(1-2) 305-309において、マイクロエマルションで形成されたヘパリン/キトサン複合体の、ナノメートルサイズの粒子を記載している。
【0014】
ヘパリン放出系を開発することを目標とする多くの文献があるにも関わらず、容易に製造でき、ヘパリンとの会合容量が大きく、粘膜を通して制御された速度で放出することができる種類の、小サイズ粒子系を提供することが依然として強く求められている。
【発明の概要】
【0015】
本発明者らは、ポリオキシエチレン化された誘導体の存在下または非存在下において、キトサンの架橋を引き起こす試剤の存在下でのイオン性ゲル化方法により得られる、キトサンおよびヘパリンを含んでなるナノ粒子から製造された系が、ヘパリン分子を効果的に会合させると共に、好適な生物学的環境中でヘパリンを放出させることを見出した。驚くべきことに、これらのナノ粒子は、胃腸液中で安定しており、例えば生体内で得られるデータにより立証される、優れた効果および生物学的利用能を発揮する。放出は、制御された遅延方式で行われる。従って、これらの系は、経口投与に非常に適している。実際、これらのナノ粒子の経口投与により、ヘパリンを溶液で投与した場合より、10倍まで大きなヘパリンプラズマレベルが得られる。
【0016】
さらに、ヘパリンを会合させ、制御しながら放出させるための、本発明により提案されるナノ粒子系には、多くの利点がある。例えば、(1)ヘパリン配合方法が簡単であり、生物に対して毒性の成分を使用する必要がない、(2)これらの系の物理化学的特性、とりわけ、そのサイズおよび表面電荷を処方物成分の比率およびそれらの分子量により調整することができる、(3)これらの系は、顕著なヘパリン会合能力を有する、および(4)これらの系は、活性分子を制御された速度で放出する。
【0017】
従って、本発明の目的は、ヘパリンを制御しながら放出させるための、サイズが1ミクロン未満であるナノ粒子を含んでなる医薬組成物であって、ナノ粒子が、少なくともキトサンまたはその誘導体、および少なくとも一種のヘパリンまたはその誘導体を含んでなり、前記ナノ粒子が架橋剤により架橋されている、組成物を提供することである。
【0018】
本発明の好ましい実施態様においては、架橋剤は、ポリリン酸塩、好ましくはトリポリリン酸ナトリウムである。
【0019】
本発明の別の実施態様においては、ナノ粒子は、
a)50〜90重量%のキトサンまたはその誘導体、および
b)10〜50重量%のヘパリンまたはその誘導体
を含んでなる。
【0020】
別の実施態様においては、キトサン−ヘパリンナノ粒子が、ポリオキシエチレン化された化合物、好ましくはポリオキシエチレンまたはエチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体をさらに含んでなる。
【0021】
本発明の別の実施態様においては、ナノ粒子の表面電荷またはZ電位が0mV〜+50mVであり、好ましくは、電荷は+1〜+40mVである。
【0022】
好ましい実施態様においては、前記組成物を粘膜を通して投与する。
【0023】
別の好ましい実施態様においては、前記組成物は経口投与用である。
【0024】
本発明の別の実施態様においては、ナノ粒子が、凍結乾燥された形態にある。
【0025】
本発明の別の目的は、ヘパリンを制御しながら放出させるため上記のような医薬組成物を製造する方法であって、
a)キトサンまたはその誘導体を含んでなる水溶液を調製すること、
b)ヘパリンまたはその誘導体および架橋剤を含んでなる水溶液を調製すること、および
c)前記工程a)およびb)の溶液を攪拌しながら混合して、イオン性ゲル化により自発的にキトサン−ヘパリンナノ粒子を得ること、
を含んでなる、方法を提供することである。
【0026】
本発明の一実施態様においては、この方法は、工程c)の後に、ナノ粒子を凍結乾燥させる追加工程をさらに含んでなる。
【発明の詳細な説明】
【0027】
本発明の系は、構造がキトサンとヘパリンとの網状であるナノ粒子を含んでなる。この構造は、キトサン(正電荷を有する)とヘパリン(負電荷を有する)との間の、実質的にそれらの間の共有結合ではなく、電子的相互作用により一つに保持されている。
【0028】
用語「ナノ粒子」とは、キトサンとヘパリンとの間の静電気的相互作用により形成された構造であって、陰イオン系網状構造形成剤の添加により共役のイオン性ゲル化(ionotropic gelification)から形成された構造を意味する。ナノ粒子の両成分間で起きる静電気的相互作用とそれによる網状構造形成とにより、独立した、目に見える特徴的な物理的存在を生じ、その平均サイズは1μm未満、すなわち1〜999nmである。
【0029】
用語「平均サイズ」とは、重合体状網状構造を構成し、水性媒体中でともに移動するナノ粒子集団の平均直径を意味する。これらの系の平均サイズは、当業者には公知の、例えば下記の実験項に記載する、標準的な手順を使用して測定することができる。
【0030】
本発明による系のナノ粒子は、平均粒子径が1μm未満、すなわち平均粒子径が1〜999nm、好ましくは50〜800nm、より好ましくは50〜500nm、さらに好ましくは50〜200nmである。平均粒子径は、主として、キトサンの分子量、キトサンの脱アセチル化度、ポリオキシエチレン化された誘導体が存在する場合には、その誘導体に対するキトサンの比率、および粒子形成条件(キトサン濃度、架橋剤濃度およびそれらの比)により影響を受ける。一般的に、ポリオキシエチレン化された誘導体の存在により、誘導体無しにキトサンにより形成される系に対して、平均粒子径の増加が引き起こされる。
【0031】
ナノ粒子は、ナノ粒子中のキトサンとヘパリンとの比率に応じて変化する表面電荷(ゼータ電位により測定)を有することができる。正電荷は、キトサンのアミン基により与えられるのに対し、負電荷はヘパリンのカルボキシルおよび硫酸塩基により与えられる。キトサン/ヘパリン比率、特に脱アセチル化度および無機塩の有無に応じて、電荷の強度は0mV〜+50mV、好ましくは+1〜+40mVで変化し得る。
【0032】
ナノ粒子と、生物学的表面、とりわけ負に帯電している粘膜表面との間の相互作用を改善するには、表面電荷が正であることが重要である場合が多い。これによって、生物学的に活性な分子は、標的組織上で好ましい作用をする。しかし、非経口投与には、ナノ粒子の安定性を確保するのに、中性電荷がより好適である場合もある。
【0033】
<キトサン>
キトサンは、アミノ多糖構造および陽イオン的性質を有する天然重合体である。キトサンは、式(I):
【化1】

のモノマー繰り返し単位を含む(式中、nは整数であり、重合の度合い、すなわちキトサン鎖中のモノマー単位の数を表す)。
【0034】
これらのモノマー単位に加えて、キトサンは、一般的に、アミノ基がアセチル化されているモノマー単位をある割合で含む。実際、キトサンは、キチン(100%アセチル化されている)の脱アセチル化により得られる。脱アセチル化度は、一般的に30〜95、好ましくは55〜90の範囲内にあり、これは、10〜45%のアミノ基がアセチル化されていることを示す。
【0035】
本発明のナノ粒子を得るために使用するキトサンは、分子量が2〜2000kDa、好ましくは2〜500kDa、より好ましくは5〜150kDaである。
【0036】
本発明の特別な実施態様においては、分子量が10kDa未満である、いわゆる低分子量キトサン(LMWCS)を使用する。別の変形としては、分子量が10〜150kDaである、いわゆる高分子量キトサン(HMWCS)を使用する。
【0037】
キトサンの代替品として、キトサンの溶解度を増加させるか、またはキトサンの密着性を増加させるために、一個以上の水酸基および/または一個以上のアミン基が変性されたキトサン誘導体を使用してもよい。これらの誘導体としては、特に、Roberts, Chitin Chemistry, Macmillan, 1992, 166に記載されている、アセチル化、アルキル化またはスルホン化されたキトサンや、チオール化された誘導体がある。好ましくは、誘導体を使用する場合、O−アルキルエーテル、O−アシルエステル、トリメチルキトサン、プロピレングリコールで変性したキトサン等から選択される。他の可能な誘導体としては、塩、例えばクエン酸塩、硝酸塩、乳酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩等が挙げられる。いずれの場合も、当業者であれば、最終処方物の安定性および商業的有用性を損なわずに、キトサンに付与できる変性を見出すことができる。
【0038】
<ヘパリン>
ヘパリンは、血液中にある天然物質であり、血液凝固過程に関与する多糖である。その化学的構造は、式(II):
【化2】

のモノマー繰り返し単位を含む(式中、nは整数であり、重合の度合い、すなわちヘパリン鎖中のモノマー単位の数を表す)。
【0039】
通常の、または分断されていないヘパリン(UFH)は、分断されたまたは低分子量ヘパリン(LMWH)とは区別される。前者は、全ての脊椎生物中に存在する天然物質である。この物質は、様々な分子量の複数の鎖により形成され、そのために不均質性が大きいが、全ての鎖が二種類の糖、すなわちウロン酸とグルコサリン(glucosaline)との組合せにより一体化されている。鎖長は様々であるが、鎖一本あたり平均50個の糖を有し、平均分子量が15kDaである。ヘパリンは、それ自体で、または好ましくは塩(例えば、ナトリウムまたはカルシウム塩)の形態で使用される。
【0040】
分断された、または低分子量ヘパリンは、従来のヘパリンを化学的または酵素的に解重合することにより製造される。この種のヘパリンの例は、エノキサパリン、パルナパリン、ダルテパリンおよびナドロパリン、およびそれらの塩(例えば、ナトリウムおよびカルシウム塩)である。一般的に、18個の糖、または5.4kDaを有する鎖が大部分の割合で得られる。この鎖長の下で、ヘパリンの効果は、それらの薬物動態学が変化するので、酵素的な観点から変化する。
【0041】
ヘパリン誘導体は、本発明の組成物において、分断されていないかまたは低分子量ヘパリンの代わりにも使用できる。これらの誘導体は、公知であり、式IIから明らかなように、分子中に存在する異なった官能基の反応性から生じる。例えば、N−脱硫酸塩、N−アセチル化、O−脱カルボキシル化されたヘパリン、酸化または還元されたヘパリン等が公知である。
【0042】
ヘパリンまたはその誘導体の公知の用途の中で、それらの抗凝固活性による深静脈血栓症、肺動脈、動脈または脳血栓性塞栓症の予防および処置、外科手術、透析、あるいは輸血を受けた患者の血餅防止が特に挙げられる。
【0043】
本発明の、ヘパリンまたはその誘導体を投与するためのナノ粒子を含んでなる組成物は、好ましくはキトサンまたはその誘導体を50〜99重量%、好ましくは50〜90重量%含む。一方、その系におけるヘパリン含有量は、好ましくは10〜50重量%、好ましくは25〜40重量%である。
【0044】
本発明のキトサン−ヘパリンナノ粒子系は、架橋剤の添加により引き起こされる重合体状ナノクラスターの形態における、キトサンとヘパリンとの共同析出過程により形成されている点に特徴を有する。有機溶剤または極端なpH条件もしくは毒性補助物質を使用する必要がない。ナノ粒子に対するヘパリンの会合は、イオン性相互作用機構により起こる。ヘパリンは、その構造中に多くの陰性基、すなわち硫酸塩およびカルボキシレート基を有し、これが、キトサンの陽性アミノ基に対する高いイオン性親和力を与え、ナノ粒子に好ましい外観を与えている。架橋剤の存在により、キトサン−ヘパリン系が架橋されて格子が形成され、その格子間にヘパリンが挿入され、続いてそのヘパリンが放出されるのである。さらに、架橋剤は、ナノ粒子にそれらのサイズ、電位および構造的特徴を与え、これによってナノ粒子が活性分子の投与系として好適なものになる。
【0045】
架橋剤は、好ましくは、イオン性ゲル化によりキトサン−ヘパリン系の網状構造を形成し、ナノ粒子の自然な形成を引き起こす陰イオン系塩である。好ましくは、ポリリン酸塩を使用し、トリポリリン酸ナトリウム(TTP)が特に好ましい。
【0046】
本発明の系の特別な実施態様においては、ナノ粒子は、ポリオキシエチレン化された化合物を包含することができる。ポリオキシエチレン化された化合物とは、その構造中にエチレンオキシドの単位を有する非イオン的性格の合成親水性重合体を意味し、一般的にポロキサマー(poloxamer)と呼ばれる、ポリオキシエチレンまたはエチレンオキシド−プロピレンオキシド(PEO-PPO)共重合体を使用するのが好ましい。これらの重合体は、種々の分子量のものが市販されているが、本発明においては、分子量が2000〜10000であるポリオキシエチレン化された誘導体を使用するのが好ましい。好ましい実施態様においては、ポリオキシエチレン化された誘導体は、トリブロック共重合体(PEO-PPO-PEO)、例えば市販のPoloxamer 188である。
【0047】
粒子形成媒体に配合するポリオキシエチレン化された化合物に対するキトサンの比率は、50:0〜1:100、好ましくは50:0〜1:20の範囲内で変えることができる。ポリオキシエチレン化された化合物の存在により、ナノ粒子のサイズを僅かに増加させ、コロイド系を安定化させることができる。この化合物をナノ粒子形成に続いて添加すると、ナノ粒子のサイズが著しく増加させる被覆が形成される。ポリオキシエチレン化された誘導体の存在は、ナノ粒子を得るために必要ではないが、ナノ粒子の物理化学的特徴(サイズおよびゼータ電位)を変化させ、特に、その系を胃腸液中で安定化させることができる。
【0048】
ポリオキシエチレン化された化合物の存在下または非存在下で架橋剤によるキトサンナノ粒子および活性成分の調製ならびに形成は、国際出願第WO98/04244号(この文献は引用されることにより本明細書の開示の一部とされる)に記載されている。
【0049】
本発明の医薬組成物は、液体(ナノ粒子懸濁液)または固体形態として提供することができる。この場合、ナノ粒子を凍結乾燥した、またはスプレー形態で粉末を形成し、これを使用して顆粒、錠剤、カプセルまたは吸入用の製剤を製造することができる。
【0050】
本組成物は、主として粘膜を通して投与するが、本発明の医薬組成物は、経口、バッカルまたは舌下、経皮、眼、鼻、膣または非経口経路により投与することもできる。非経口的ではない経路の場合、ナノ粒子と皮膚または粘膜との接触は、粒子に、負に帯電した表面と好ましく相互作用をおこす重要な正電荷を与えることにより、改善することができる。
【0051】
好ましい実施態様においては、処方物を粘膜経路で投与する。キトサンの正電荷により、負に帯電している粘膜および上皮細胞の表面との相互作用を通して、粘膜表面におけるヘパリンの吸収が改善される。
【0052】
別の好ましい実施態様においては、処方物を経口投与する。この場合、ナノ粒子には、胃腸液中で安定しているので、分解することなく、腸上皮組織に到達し、そこに止まり、ヘパリンを放出するという利点がある。
【0053】
本発明の医薬組成物は、整形外科手術または一般的な手術を受けた外科患者や、中または高度の危険状態と規定される動けない非外科患者の、静脈血栓の予防に特に好適である。血液透析における体外循環回路中の血餅防止、確立した深静脈血栓(肺塞栓を伴うか、または伴わない)の処置および不安定なアンギナおよび心筋梗塞の処置においても、他の抗凝固剤と併用することができる。
【0054】
本発明の別の実施態様は、キトサン−ヘパリンナノ粒子、例えば上に規定するナノ粒子、の製造方法であって、
a)キトサンまたはその誘導体の水溶液を調製すること、
b)ヘパリンおよび架橋剤の水溶液を調製すること、および
c)前記工程a)およびb)の溶液を、攪拌しながら混合して、イオン性ゲル化およびそれに続く析出により、自発的にキトサン−ヘパリンナノ粒子を得ること、
を含んでなる、方法を提供することである。
【0055】
上記方法の特別な実施態様においては、得られる架橋剤/キトサンの比が0.01/1〜0.50/1であり、0.05/1〜0.40/1であることが好ましく、これは、多分散性指数が比較的低い処方物を与える。しかし、これより大きな、または小さな架橋剤/キトサン比も可能である。
【0056】
本方法の別の実施態様においては、ポリオキシエチレン化された化合物を上記のキトサン水溶液に配合することをさらに含んでなる。
【0057】
本発明のナノ粒子を得るための方法の別の実施態様においては、ナノ粒子の製造収率を増加させる無機塩、例えば塩化ナトリウムを使用することができる。これらの塩は、キトサンまたはキトサン誘導体溶液に加えることができる。しかし、塩を加えることにより、キトサンとヘパリンとの相互作用が変化し、ナノ粒子系に会合しているヘパリンの量が僅かに減少すること、および媒体の陰イオンがキトサンの陽性表面に吸収されるために、ナノ粒子電荷が中和されること、が観察されている。当業者は、このことを考慮して、低収率の場合、粘膜との相互作用が十分に高くなるように改善されることが望ましいのであれば会合度または電荷に影響を与えない範囲の量で、所望の最終特性に応じて塩を使用するとよい。
【0058】
本方法のさらに別の実施態様においては、キトサン−ヘパリンナノ粒子をポリオキシエチレン化された化合物で被覆することが望ましい場合、ポリオキシエチレン化された化合物をナノ粒子形成後に配合する。
【0059】
本発明のナノ粒子を製造するためのこれらの方法により、ナノ粒子に90%を超えるヘパリンを会合させることができる。キトサンの分子量、その脱アセチル化度およびポリオキシエチレン化された誘導体または無機塩の存在に応じて、会合の僅かな変動を観察することができる。
【0060】
ナノ粒子が形成された後、ナノ粒子に会合していないヘパリン分子を分離するために、グリセロールまたはグルコース床で、もしくはトレハロース溶液中で遠心分離し、上澄み液を廃棄することにより、ナノ粒子を単離することができる。続いて、ナノ粒子を、水または緩衝液中に再分散させ、ナノ粒子を懸濁液中で使用することができる。
【0061】
キトサン−ヘパリンナノ粒子の製造方法は、ナノ粒子を凍結乾燥または噴霧する追加工程をさらに含んでいてもよい。薬学的観点からは、ナノ粒子を凍結乾燥させた形態で利用できることが、貯蔵中の安定性が改良されるため重要である。キトサン−ヘパリンナノ粒子(キトサンは、ポリオキシエチレン化された誘導体と物理的に混合されていてよい)は、5%濃度の低温保護剤(cryoprotectant)、例えばグルコース、スクロースまたはトレハロースの存在下で凍結乾燥させることができる。事実、本発明のナノ粒子には、粒子径が凍結乾燥の前後で大きく変化しない、という別の利点がある。すなわち、ナノ粒子を、それらの特性を変化させずに、凍結乾燥および再分散させることができる。同様に、ナノ粒子は、補助材料としてマンニトールまたはラクトースを使用して噴霧することもできる。
【0062】
本発明の特徴および利点を示す幾つかの代表的な例を以下に記載するが、これらの例は、本発明の目的を限定するものではない。
【実施例】
【0063】
下記の全ての例に共通する方法として、ナノ粒子を、サイズ、ゼータ電位(または表面電荷)、会合効率(ナノ粒子に会合しているヘパリンの百分率)および製造収率(ナノ粒子を形成する材料の百分率)の観点から分析する。
【0064】
サイズ分布は、平均サイズおよびナノ粒子集団分布(多分散性指数)値を与える光子相関分光法(PCS、Zeta Sizer, Nano series, Nano-ZS, Malvern Instruments, UK)により行われている。
【0065】
ゼータ電位は、レーザ・ドップラー流速計(Laser Doppler Anemometry) (LDA、Zeta Sizer, Nano series, Nano-ZS, Malvern Instruments, UK)により測定されている。試料は、Milli-Q水中に希釈し、電気泳動移動度を測定する。
【0066】
会合したヘパリンの定量は、会合していないヘパリンを定量し、次いでこれを、Stachrom(登録商標)Heparin Kit (Diagnostica Stago, Roche)を使用し、抗Xa活性を定量することにより、間接的に行っている。この定量を行うために、ナノ粒子を遠心分離により単離し、得られた上澄み液をPVDF 0.22μmを通して濾過する。
【0067】
製造収率は、ナノ粒子を16000xgで40分間遠心分離し、続いて上澄み液を除去し(溶液中に残る成分はその中にある)、最後に乾燥残留物を計量することにより、定量した。
【0068】
これらの例で使用するキトサン(Protasan UP C1 113)はNovaMatrix-FMC Biopolymerから、低分子量ヘパリン(Enoxaarin)はAventis から、Poloxamer 188はBASF Corporationから、および使用した残りの物質、例えば分断していないヘパリン、トリポリリン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、スクロース、グルコース、マンニトール、および酵素を含まない疑似胃腸液を調製するための塩はSigma Aldrichから入手した。
【0069】
例1
異なった分子量のヘパリンを含むキトサンナノ粒子(キトサン溶液中にPoloxamer 188の存在下または非存在下で)の調製および特性試験
キトサン(CS)の水溶液(1mg/ml)を、Poloxamer 188を加えたものと加えないものとを調製した。これらの溶液を、異なった分子量のヘパリン(UHFおよびLMWH、キトサンに対する理論的装填量25重量%)およびトリポリリン酸ナトリウム(TPP、CS/TPP比1/0.1〜1/0.4)の水溶液と共に磁気攪拌にかけた。両方の水相間の体積比は、キトサン水溶液1ml:ヘパリンおよび架橋剤溶液0.2mlで一定に維持した。
【0070】
キトサン水相中にポロキサマーを配合することにより、表Iから分かるように、ヘパリン(UHFおよびLMWH)の種類に関係なく、粒子径が僅かに増加し、ナノ粒子系に会合しているヘパリンの百分率が僅かに低下した。幾つかの処方物(特にUHFと会合している処方物)では、ポロキサマーの存在により、表面電荷(またはゼータ電位)が僅かに低下したが、この効果は一般的には無視できる。ポロキサマーをキトサン水相に加えた時に観察されるこれらの変化(物理化学的特徴付けられる)は、系が形成される際に、それらの鎖がキトサンおよびヘパリンのマトリックス中に捕獲されたままであるという事実に帰せられる。
【0071】
0.20〜0.30である多分散性指数に関するデータは、ポロキサマーの存在または不在に関係なく、このパラメータが変化せず、従って、ポロキサマーはナノ粒子の分散度を増加させないことを示している。
【0072】
ポロキサマーは過剰にあり、遠心分離工程の後に上澄み液と共に除去されるので、ポロキサマーの重量は製造収率の計算に考慮しなかった。原則的に、溶液中のポロキサマーの存在は、系の安定性に好ましい(ポロキサマーは、コロイド系に一般的に使用される安定化界面活性剤である)。得られた製造収率に基づき、ポロキサマー鎖は、ナノ粒子マトリックス格子中に効果的に存在するといえる。
【0073】
【表1】

【0074】
例2
異なった分子量のヘパリンを含み、Poloxamer 188で被覆したキトサンナノ粒子の調製および特性試験
例1に記載する方法により、両種類のヘパリン(UFHおよびLMWH)でキトサン(CS)ナノ粒子(1mg/ml)を調製し、次いでPoloxamer 188(10mg/1mgCS)を加えた。得られるポロキサマー被覆の効果を観察するために、キトサンに対する理論的装填量25%および40%をLMWHで、そして理論的装填量25%をUFHで試験した。
【0075】
ナノ粒子の物理化学的特性を表IIに示す。キトサン溶液におけるポロキサマーの添加(例1、表I)と比較して、ナノ粒子の形成後にポロキサマーをナノ粒子に加えた場合に、特にヘパリンの理論的装填量を25%から40%(キトサンに対して)に増加した場合に、サイズ増加はより顕著である。さらに、ナノ粒子を被覆した場合、特にUFHヘパリンを使用した場合に、ナノ粒子のゼータ電位は僅かに低下した。これらのデータは、ポロキサマーがナノ粒子を確実に被覆していることを示している。
【0076】
【表2】

【0077】
例3
異なった分子量のヘパリンを含むキトサンナノ粒子(キトサン溶液中に塩化ナトリウムを含む、および含まない)の調製および特性試験
キトサン(CS)の水溶液(2mg/ml)を、0〜1.5mlの塩化ナトリウムを加えて、調製した。これらの溶液を、ヘパリン(UHFまたはLMWH)(キトサンに対する理論的装填量25%)および架橋剤、トリポリリン酸ナトリウム(TPP、CS/TPP比1/0.3〜1/0.4)の水溶液を加えて、磁気攪拌にかけた。
【0078】
表IIIに示すように、ナノ粒子を調製する前に塩化ナトリウムをキトサン水相に加えても、ナノ粒子の物理化学的特性は大きく変化しない。しかし、製造収率の明らかな増加およびナノ粒子系に会合したヘパリンの僅かな減少が観察される。これは、ナノ粒子を調製する前の初期溶液中にイオンが存在することにより、キトサン−ヘパリン相互作用が僅かに変化することを示している。
【0079】
塩化ナトリウムを含むナノ粒子のゼータ電位は、媒体の陰イオンがキトサンナノ粒子の表面上に吸収されたままであり、その電荷を中和するので、中性の値(約0mV)を与える。
【0080】
【表3】

【0081】
例4
異なった分子量のヘパリンを含むキトサンナノ粒子(Poloxamer 188および塩化ナトリウムを含む)の調製および特性試験
親水性重合体(例えばポロキサマー)または塩(例えば塩化ナトリウム)の添加により、ナノ粒子の特性がどのように変化するかを見た、前の例を考慮して、この例の目的は、ナノ粒子の調製で両方の物質を添加した時に得られるナノ粒子の特性を研究することである。
【0082】
下記の表に示すように、ポロキサマーと塩化ナトリウムをキトサン溶液に加えると、得られるナノ粒子系は、大きな粒子径を有し(基本的にポロキサマーの存在により)、会合効率が僅かに低い(両成分が存在するため)。
【0083】
【表4】

【0084】
例5
低分子量ヘパリンを含む(異なった分子量の)キトサンナノ粒子の調製および特性試験
この研究の目的は、分子量が異なったキトサンを使用してヘパリンに会合したナノ粒子を調製することである。分子量が異なったキトサン(CS)(1mg/ml)(高分子量キトサンHMWCS100〜150kDaおよび低分子量キトサンLMWCS<10kDa)の水溶液を調製した。低分子量キトサンは、高分子量キトサンの分裂後に得た。分裂工程を行うために、CSを超純水(Milli-Q)に磁気攪拌(2〜4時間)により溶解(20mg/ml)させ、次いでNaNO0.1ml(0.1M)を滴下しながらキトサン溶液に攪拌しながら加える。キトサン溶液を一晩磁気攪拌する。
【0085】
ナノ粒子を、高分子量キトサンおよび分断した(低分子量)キトサンの両方で、例1に記載する方法により調製した(キトサンナノ粒子およびヘパリン、外側水相中の添加剤としてポロキサマーを含む、および含まない)。
【0086】
得られた結果を表Vに示す。低分子量キトサンナノ粒子は、高分子量キトサンで調製したナノ粒子に関して得たデータよりも、粒子径、多分散性指数、ゼータ電位および会合百分率が低い。キトサンが低分子量である場合、ナノ粒子の調製にポロキサマーが存在しても、得られるナノ粒子系の平均サイズは増加しない(例1、表1)。
【0087】
【表5】

【0088】
例6
低分子量ヘパリンを含むキトサンナノ粒子(アセチル化度が異なった)の調製および特性試験
分子量(PM<10kDa)は等しいが、二種類の異なったアセチル化度を有するLMWH−キトサンナノ粒子を調製した。キトサンのアセチル化工程では、無水酢酸(2.5ml)をキトサン溶液(2mg/ml、25ml)に加え、一晩磁気攪拌した。未反応無水酢酸を除去するために、キトサンを24時間透析し、最後に凍結乾燥させた。低分子量キトサンは、例5に記載するようにして得た。アセチル化されたキトサン溶液は、水中に可溶化した後、得られたpHが5.8〜6.0であり、非アセチル化キトサンの条件に合わせるために、pH5.0に下げる必要があったので、そのpHを僅かに変える必要があった。
【0089】
ナノ粒子は、磁気攪拌下で、キトサン溶液(対応するアセチル化度を有する)およびポロキサマーを、網状構造形成剤およびLMWH溶液(理論的装填量25%)と共に混合することにより、調製した。
【0090】
これらのナノ粒子の特性を表VIに示す。両ナノ粒子系のサイズおよび分散は、キトサンのアセチル化度に関係なく、同等である。しかし、ゼータ電位は、アセチル化されたキトサンで調製したナノ粒子の方が、アミノ基の部分がアセチル化されているために、陽性が低い。このキトサンの化学的変性は、製造収率およびコロイド系に会合したヘパリンの百分率も著しく増加させる。
【0091】
【表6】

【0092】
例7
模擬胃腸液中の、ヘパリンを含むキトサンナノ粒子系の安定性
LMWHを含むキトサンナノ粒子を経口投与するために、ナノ粒子系の安定性を、先ずサイズおよびLMWH放出の観点から研究した。それらの処方物にアセチル化した、およびアセチル化していないLMWCSを使用して異なったナノ粒子を調製し、ナノ粒子調製の際に、または調製してから、Poloxamer 188を添加し、および添加しなかった。全ての場合に、加えたポロキサマーに対するキトサンの比率は、約10:1である。ナノ粒子を調製した後、これを希釈(系:液の比1:3)し、37℃で15および30分間培養した。ナノ粒子のサイズを、培養の前後に測定した。
【0093】
表VIIは、Df/Di(培養後の直径/培養前の直径)サイズの比を示す。該表中、ヘパリンを含む(アセチル化していない)キトサンナノ粒子は、ポロキサマーを(ナノ粒子調製の前および後の両方で)配合した場合、それらの初期サイズを胃腸液中で維持し、腸液中ではそれらのサイズを800〜1000 nm(Df/Di=4〜5)の値まで増加させることが分かる。しかし、媒体中にポロキサマーを配合しない場合、これらのナノ粒子は、3μm(Df/Di=14〜15)の値に達し、従って、特徴的なナノメートルサイズを失う。この研究により、ナノ粒子懸濁液中にポロキサマーが存在することにより、系の安定化効果が得られ、その凝集を阻止することが確認される。
【0094】
アセチル化されたキトサンナノ粒子は、腸媒体中で培養した後、粒子径が明らかに増加し、装置(Zeta Sizer, Nano series, Nano-ZS, Malvern Instruments, UK)により許容される最大サイズ(>3μm)を超える。
【0095】
キトサンナノ粒子系からのLMWHの放出は、酵素(USP XXVII)を含まない模擬胃腸液中で培養した後、上澄み液(試料を遠心分離し、濾過した後に得た)中で抗Xa活性を定量することにより、測定した。該放出は、検出不可能または会合した量の1%未満であった。
【0096】
抗Xa活性は、ヘパリンが、プラズマ抗トロンビンIIIにより、活性化された因子X(因子Xa)活性凝固酵素を阻害または中和する能力の尺度である。
【0097】
【表7】

【0098】
例8
キトサン−ヘパリン(両方共低分子量)ナノ粒子の凍結乾燥試験
ナノ粒子系を保存し易くし、起こり得る分解を阻止するために、調製中にポロキサマーを配合したHMWCS−LMWH系に対して凍結乾燥試験を行い、様々な低温保護剤、例えばスクロース、グルコースおよびトレハロース、を試験した。これらの保護剤を含まない処方物(希釈していない)を凍結乾燥させ、水で再生した後、重合体状凝集物が現れ、それらの物理化学的特性が失われるので、低温保護剤の存在は不可欠である。
【0099】
LMWHを含むキトサンナノ粒子を調製した後、1または5%(w/v)の濃度に達するように選択した量の低温保護剤を添加した。これらの処方物をガラス容器に計量し、凍結(−20℃)させ、凍結乾燥(Freeze-Dry System-12L, Labconco)させたが、その際、第一乾燥を−35℃で40時間行い、第二乾燥を、温度を0℃に(1℃/分)(1時間)、次いで14℃(1時間)に、最後に25℃に上昇させることにより、行った。凍結乾燥させた製品を水中に再分散させ、凍結乾燥工程の前および後におけるサイズを測定した。表VIIIは、Df/Di(最終直径−凍結乾燥および再分散させた系/凍結乾燥前の初期直径)サイズの比を示し、1に近い値は、ナノ粒子系が、凍結乾燥および再分散工程の後に、初期のナノメートルサイズを維持していることを示す。
【0100】
下記の表に示すように、凍結乾燥させた系の再分散は、供試低温保護剤5%を加えた時に好適である。
【0101】
【表8】

【0102】
例9
低分子量ヘパリンの、溶液およびキトサンナノ粒子(高分子量)に会合させた形態の、ラットにおける経口投与、生物学的利用能測定
例1に記載する方法によりHMWCS−LMWHナノ粒子を調製した後、これらのナノ粒子を、スクロース(5%)の存在下で凍結乾燥させ、200IU/ml/ラットを投与するように、好適な体積の水で再生した。ヘパリンは、標準として、ミリグラムの量をヘパリンが有する単位数に対して換算し、国際単位で計量することを指摘しておく必要がある。国際単位は、1抗トロンビン単位および1抗Xa単位に等しい。
【0103】
コロイド系に会合したヘパリンの量は95%を超えているので、溶液中のヘパリンを除去する目的でナノ粒子は単離せず、その理由から、会合していないヘパリンの量は無視し、(投与量による)投与体積の調節には分子の総量を考慮した。やはり(同じ濃度および同じ条件下で)凍結乾燥させ、試料が同じ量のスクロースを有するように、ナノ粒子と同じ体積で再分散させたLMWH処方物を調製した。
【0104】
投与前に、ラット(各群に対してn=5)を空腹状態に12時間保持し、プラズマ試料を下記の時間、すなわち0(投与前),1,2,4,6,8および10時間で採取した。
【0105】
抗Xa活性(IU/ml)は、プラズマ試料中で、比色キット(Stachrom Heparin, Diagnostica Stago, Roche)を使用し、HPBM溶液による標準線(standard line)を行うことにより、定量した。
【0106】
「生体内」で得た結果を図1に示すが、そこではHMWCS−LMWHナノ粒子が、ヘパリンが溶液にある場合よりも、投与後6時間で、著しく高いプラズマレベル(具体的には10倍高い)を与えることが分かる。
【0107】
経口投与したLMWH処方物(溶液およびナノ粒子に会合した)の相対的生物学的利用能を、食塩水(0.9%)中に溶解させたLMWHの皮下投与に対応する生物学的利用能に対して定量するために、LMWHを、両経路により、等しい投与量および同じ条件を使用して投与した。試料採取時間(0〜10時間)にわたる経口生物学的利用能は、LMWH溶液で5%、HMWCSナノ粒子に会合させたLMWHで8%であった。
生物学的利用能(%)=
経口投与プラズマレベルxI.V.投与量の曲線の下にある面積
I.V.投与プラズマレベルx経口投与量の曲線の下にある面積
【0108】
例10
低分子量ヘパリンの、溶液およびキトサンナノ粒子(低分子量)に会合させた形態の、ラットにおける経口投与、生物学的利用能測定
両処方物の調製および投与方法は、前の例に記載するものと全く等しいが、但し、ここで使用したキトサンは、低分子量キトサン(例5)であり、プラズマ試料採取範囲は4時間まで延長した(2時間毎)。
【0109】
抗Xa活性(IU/ml)プラズマレベルは、LMWCSナノ粒子に会合させたLMWHの腸吸収に、より長時間の治療効果があり、投与後、6〜12時間で著しく高いレベルを与えることを示した。
【0110】
経口投与した両処方物の生物学的利用能を定量するために、食塩水(0.9%)中に希釈したLMWHのラット群に対する皮下投与(等しい投与量および条件)を考慮した。試料採取時間(0〜12時間)にわたる生物学的利用能は、LMWH溶液で6%、HMWCSナノ粒子に会合させたLMWHで11%であった。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】低分子量ヘパリン(LMWH)の溶液および高分子量キトサン(HMWCS)ナノ粒子に会合させた溶液をラットに経口投与した後の、抗Xa活性(IU/ml)として表した低分子量ヘパリン(LMWH)プラズマレベルを示す。
【図2】低分子量ヘパリン(LMWH)の溶液および低分子量キトサン(LMWCS)ナノ粒子に会合させた溶液をラットに経口投与した後の、抗Xa活性(IU/ml)として表した低分子量ヘパリン(LMWH)プラズマレベルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリンを放出させるための、サイズが1ミクロン未満であるナノ粒子を含んでなる医薬組成物であって、前記ナノ粒子が、少なくともキトサンまたはその誘導体と、少なくとも一種のヘパリンまたはその誘導体とを含んでなり、前記ナノ粒子が架橋剤により架橋されている、組成物。
【請求項2】
前記架橋剤が、ポリリン酸塩、好ましくはトリポリリン酸ナトリウムである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、
a)50〜90重量%のキトサンまたはその誘導体、および
b)10〜50重量%のヘパリンまたはその誘導体
を含んでなる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ナノ粒子が、ポリオキシエチレン化された化合物をさらに含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリオキシエチレン化された化合物が、ポリオキシエチレンまたはエチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリオキシエチレン化された化合物の出発量に対する前記キトサンまたはその誘導体の比率が、重量で50:1〜1:50、好ましくは50:1〜1:20である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記キトサンまたはその誘導体の分子量が、2〜2000kDa、好ましくは2〜500kDa、より好ましくは5〜150kDaである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記キトサンまたはその誘導体の脱アセチル化度が、30%〜95%、好ましくは55%〜90%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記架橋剤と前記キトサンとの比が、0.01:1〜0.50:1、好ましくは0.05:1〜0.40:1である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ナノ粒子の電荷(Z電位)が、0mV〜+50mVであり、好ましくは、+1mV〜+40mVである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
粘膜を通して投与されるものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
経口投与されるものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ナノ粒子が、凍結乾燥された形態にある、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の、ヘパリンを投与するための医薬組成物の製造方法であって、
a)キトサンまたはその誘導体を含んでなる水溶液を調製すること、
b)ヘパリンまたはその誘導体と架橋剤とを含んでなる水溶液を調製すること、および
c)前記工程a)およびb)の溶液を攪拌しながら混合して、イオン性ゲル化により自発的にキトサン−ヘパリンナノ粒子を得ること、
を含んでなる、方法。
【請求項15】
前記工程a)の水溶液が、ポリオキシエチレン化された化合物をさらに含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記工程a)の水溶液が、無機塩、好ましくは塩化ナトリウムをさらに含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記架橋剤が、トリポリリン酸塩、好ましくはトリポリリン酸ナトリウムである、請求項14〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記工程c)の後に、前記ナノ粒子を凍結乾燥させる追加工程をさらに含んでなる、請求項14〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ナノ粒子が、グルコース、スクロースおよびトレハロースから選択される低温保護剤の存在下で凍結乾燥される、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−511549(P2009−511549A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535040(P2008−535040)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067389
【国際公開番号】WO2007/042572
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(504355789)アドバンスド、イン、ビートロウ、セル、テクノロジーズ、ソシエダッド、リミターダ (9)
【氏名又は名称原語表記】ADVANCED IN VITRO CELL TECHNOLOGIES, S.L.
【Fターム(参考)】