キトサンのような親水性ポリマーフォームから形成された粒状止血薬を使用する、止血の組成、アセンブリ、システムおよび方法
本発明は、圧迫による止血が不可能な出血を含む出血部位を止血し、シールし、または安定させるために使用し得る、顆粒または粒子の形状の改良止血薬に関する。本発明は、一般的な出血部位への、安全で効果的な止血薬の迅速な投与法、出血部位における、強力な凝血塊形成のより一層の促進、および外傷部分にタンポン挿入を行う技術(必要に応じて)を提供する。本発明はまた、創傷の治癒速度の向上を提供すると同時に、線維性癒着の減少および創傷感染の機会を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、表題が「Hemostatic Compositions, Assemblies, Systems, and Methods Employing Particulate Hemostatic Agents Formed from Hydrophilic Polymer Foam Such As Chitosan」である、2005年7月13日に出願された米国仮出願第60/698,734号の利益を主張するものであって、参照により本明細書に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して出血、体液の漏出若しくは浸出、またはその他の体液損失を改善するために、外部または内部から組織損傷または組織外傷部位に適用される薬剤に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
出血は、戦場での外傷による死亡の主な原因であり、民間社会での外傷後の死亡原因の第二位である。圧迫による止血ができない出血(直接圧迫するために容易にアクセスできない出血、例えば腔内出血)は、早期の外傷性死亡の大多数の一因となっている。液体の止血剤や組み換え第VIIa因子を圧迫による止血ができない出血部位に適用するという提案を除き、この問題に対する対処はほとんどない。より効果的な治療法の選択肢を提供するために、重篤な内出血、例えば腔内出血を制御するために、戦場の衛生兵に対して、より効果的な治療法の選択肢を提供するという重要なニーズがある。
【0004】
腔内出血の制御を複雑にする多くの要因があるが、それらの主なものには、例えば圧力を加えたり局所に包帯を巻いたりする、従来の出血の制御法によるアクセスの不足、傷の程度および場所の評価が困難なこと、腸の穿孔、そして血流や体液の貯留による障害がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(発明の概要)
本発明は、例えば腔内出血の部位などで起こる、圧迫による止血ができない出血を含む出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために使用し得る改良止血薬を提供する。本発明は、一般的な出血部位への、安全で効果的な止血薬の迅速な投与法、出血部位における、強力な凝血塊形成のより一層の促進、そして外傷部分にタンポン挿入を行う技術(必要に応じて)を提供する。本発明はまた、創傷の治癒速度の向上を提供し、線維性癒着の減少と、創傷感染の機会を低減する。従って本発明は、腔内出血を含む、出血の制御における目下の困難に関連する多くの重大な問題と、これら様々な傷害の回復に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位に適用して、その部位を止血し、シールし、または安定化させる前記止血薬を提供する。
【0007】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために適用できる顆粒または粒子の形状をとる止血薬を提供する。
【0008】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために適用できる顆粒または粒子の形状のキトサン物質を提供する。
【0009】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために適用できる顆粒または粒子の形状をとる高密度キトサン物質を提供する。
【0010】
本発明の一つの態様は、高密度キトサンビーズを含む、顆粒または粒子の形状の止血薬物質を提供する。
【0011】
本発明の一つの態様は、ポリマーメッシュ材を含む、顆粒または粒子の形状の止血薬物質を提供する。
【0012】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために併用可能な、ポリマーメッシュ材の帯状の断片が点在させられた、顆粒または粒子の形状をとる止血薬の合成物を提供する。
【0013】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために、ポリマーメッシュソックレット内に適用可能な、顆粒または粒子の形状をとる止血薬を提供する。
【0014】
本発明の一つの態様は、高密度キトサンビーズを含む、顆粒または粒子の形状のキトサン物質を提供する。
【0015】
本発明の一つの態様は、ポリマーメッシュ材を含む、顆粒または粒子の形状のキトサン物質を提供する。
【0016】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために併用可能な、ポリマーメッシュ材の細長い断片が点在させられた顆粒または粒子の形状をとるキトサン物質の合成物を提供する。
【0017】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために、ポリマーメッシュソックレット内に適用できる、顆粒または粒子の形状をとる止血薬を提供する。
【0018】
本発明の一つの態様は、本明細書に記載の技術的特徴を有する材料を使用する、出血を治療する方法を提供する。
【0019】
本発明の一つの態様は、本明細書に記載の技術的特徴を有する材料を使用する、腔内出血を治療する方法を提供する。
【0020】
本発明の一つの態様は、タンパク質を除去した、そしてまた任意で完全または部分的にカルシウムを除去した、甲殻類の殻材料を制御して粉砕することで得られ、その後部分的(30%)または完全に(80〜85%)に脱アセチル化される、顆粒状止血物質を提供する。
【0021】
本発明のその他の特徴や利点は、添付の鍵となる技術的特徴の説明、図面、そしてリストに基づいて明らかとなるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(詳細な説明)
本発明は、本発明を当業者が実施可能なように詳細かつ正確に開示されるが、本明細書で開示される物質的な実施形態は単に本発明を例示するものに過ぎず、他の特定の構成で実施されてもよい。好適な実施形態が説明されているが、特許請求の範囲で定義される本発明から逸脱せずに詳細を変更してもよい。例示的目的で、本発明は圧迫による止血ができない出血を治療するステップにおいて開示される。本発明は、圧力の付加の有無にかかわらず、概して出血を治療できることが理解されるべきである。
【0023】
(I.止血剤)
(A.概要)
図1Aは、止血し、シールし、または不安定化させるために処置を行われない場合、重篤な内出血が起こる可能性のある腹部の腔内損傷部位10を示す。部位10は圧迫による止血ができない出血の場所であり、つまり直接圧迫するために出血部位に容易にアクセスできない。
【0024】
図1Aと1Bに示されるように、本発明の特徴を具体化する止血薬12は、直接的な圧力または圧迫を適用せずに、部位10を止血し、シールし、または不安定化させるために適用されている。薬剤12は、生体分解性の親水性ポリマーの離散粒子14の形状である(図1Bと図2が最も良く表している)。
【0025】
粒子14を形成するポリマーは、強力な粘着剤または接着剤になる、血液、体液、または水分の存在下で反応する生体適合性材料を含むように選択されている。望ましくは、粒子14を形成するポリマーは、その他の有益な特質、例えば抗菌および/または抗微生物、抗ウィルス特性、および/または損傷に対する体の防衛反応を促進する、あるいは高める特性を持つことが望ましい。粒子14を含むポリマー材は望ましくは高密度であるか、またはそうでなければ血流および/または部位10に作用するその他の動的条件によって粒子14が部位10から分散されないように処理されたものである。
【0026】
これにより薬剤12は出血、体液漏出または浸出、またはその他の体液損失に対して部位10を止血し、シールし、および/または安定化させるように機能する。また、薬剤12は組織の治療部位10に、またはその周囲に、望ましくは抗菌性および/または抗微生物、および/または抗ウィルス性保護バリアを形成する。薬剤12を、部位10を急性の基準で止血し、シールし、および/または安定化させるための、一時的な診療として適用してもよい。後述するように、より永久的な内部使用を可能にするために薬剤12を増加してもよい。
【0027】
(B.止血粒子)
図2に示される粒子14は、ポリアクリル酸塩、アルギン酸塩、キトサン、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリシン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラゲニン、第4アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、でんぷん、修飾セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロン酸またはそれらの組み合わせなどの、親水性ポリマー構造を含んでもよい。でんぷんは、アミラーゼ、アミロペクチン、およびアミロペクチンとアミラーゼの組み合わせであってもよい。
【0028】
好適な実施形態では、粒子14の生体適合性材料は非哺乳類の材料を含み、最も好ましくはポリ[β−(1→4)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノース]であり、これはより一般的にはキトサンと呼ばれる。粒子14用に選択されるキトサンは、好ましくは平均分子量が少なくとも約100kDaであり、より好ましくは少なくとも約150kDaである。最も好ましくは、キトサンは平均分子量が少なくとも約300kDaである。
【0029】
粒子14を形成する上で、キトサンは、望ましくは酸、例えばグルタミン酸、乳酸、ギ酸、塩酸および/または酢酸を含む溶液中に加えられる。これらのうち、キトサン酢酸塩とキトサン塩酸塩は血液に溶解しないが、キトサン乳酸塩とキトサングルタミン酸塩はそうではないため、塩酸と酢酸は最も好ましい。分子量(Mw)の大きい陰イオンはキトサン塩の準結晶構造を破壊し、構造中の可塑化効果をもたらす(柔軟性の向上)。望ましくないことに、それらはこれらの分子量の大きい陰イオン塩の血液中への溶解速度の向上もまた提供する。
【0030】
粒子14の好ましい一形態は、キトサン酢酸塩溶液を凍結させて凍結乾燥させることによって生成される、密度が0.035g/cm3未満の「圧縮されていない」キトサン酢酸塩基質を含み、これは次に密度0.6から0.5g/cm3まで圧縮することによって高密度化され、最も好ましい密度は約0.25から0.5g/cm3までである。このキトサン基質を、圧縮された親水性のスポンジ構造として特徴付けることもできる。高密度キトサン基質は、望ましいと考えられる上述の特徴の全てを示す。また、高密度キトサン基質は後に詳述する、使用中の基質にロバスト性や寿命を与える、特定の構造的、機械的利点を有する。
【0031】
上述の方法で形成した後、スポンジ構造を、例えば機械的プロセスによって望ましい粒子径、例えば0.9mmに、あるいはそれに近くなるように粒化する。
【0032】
粒子14を形成するキトサン基質は堅固で、透過性で、高比表面積を持ち、正に帯電された表面を提示する。正の帯電面は、赤血球と血小板の相互作用のための、反応性が高い表面を作り出す。赤血球膜は負に帯電しており、キトサン基質にひきつけられる。細胞膜は接触するとキトサン基質と融合する。凝血塊が非常に速く形成され、通常は止血に必要とされる凝固タンパクが早期に必要となる状況が回避される。この理由から、キトサン基質は、正常な人だけでなく抗凝固療法中の人、さらに血友病のような凝固障害を持つ人々にも効果的である。キトサン基質は細菌、エンドトキシン、微生物にも結合し、細菌、微生物、および/またはウィルス性因子を接触することで殺すことができる。さらに、キトサンは体内で生体分解性であり、良性の物質であるグルコサミンに分解される。
【0033】
(C.止血粒子の製造)
粒子14を生成するための望ましい方法を説明する。この方法を図3に概略的に示す。当然ながら、他の方法を用いてもよいことは理解するべきである。
【0034】
(1.キトサン溶液の調製)
キトサン溶液の調製に使用するキトサンは、好ましくは、0.78より大きいが0.97未満の、わずかな脱アセチル化度を有する。最も好ましくは、キトサンは0.85より大きいが0.95未満の、わずかな脱アセチル化度を有する。好ましくは、基質に加工するために選ばれるキトサンは、1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中、25℃、30rpmのスピンドルLVIで、約100センチポアズから約2000センチポアズの粘度を持つ。より好ましくは、キトサンは、1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中、25℃、30rpmのスピンドルLVIで、約125センチポアズから約1000センチポアズの粘度を持つ。最も好ましくは、キトサン1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中、25℃、30rpmのスピンドルLVIで、約400センチポアズから約800センチポアズの粘度を持つ。
【0035】
キトサン溶液は、好ましくは固形のキトサンフレークまたはパウダーに水を加え、攪拌、混合、または振とうすることで液体中に固形を分散させて、25℃で調製される。キトサンの液体中への分散では、キトサンの固形物を溶解させるために酸性成分を加え、分散の間中、混合する。溶解速度は、溶液の温度、キトサンの分子量、攪拌の程度によって異なる。好ましくは、溶解ステップは、攪拌ブレード付きの密封の反応タンクまたは密封の回転容器内で行われる。これにより、キトサンの均一な溶解が確実になり、粘着性の残渣が容器の片方に固まることがなくなる。好ましくは、キトサン溶液の割合(w/w)は0.5%キトサンより大きく、2.7%キトサン未満である。より好ましくは、キトサン溶液の割合(w/w)は1%キトサンより大きく、2.3%キトサン未満である。最も好ましくはキトサン溶液の割合(w/w)は1.5%キトサンより大きく、2.1%キトサン未満である。好ましくは使用する酸は酢酸である。好ましくは、酢酸溶液濃度(w/w)が0.8%より高く、4%未満になるように、酢酸を溶液に添加する。より好ましくは、酢酸溶液濃度(w/w)が1.5%(w/w)より高く、2.5%未満になるように、酢酸を溶液に添加する。
【0036】
キトサン基質の構造または形状生成ステップは、典型的には溶液から行われ、凍結(相分離を起こすため)、非溶剤の鋳型押し出し(フィラメントを生成するため)、電子スピニング(フィラメントを生成するため)、非溶剤を用いた転相や沈殿(透析および濾過膜を生成するときに典型的に用いられるように)、または予め生成されたスポンジ様または織物製品上の溶液コーティングなどのテクニックを用いて達成される。凍結の場合は、凍結させることによって二つ以上の明確に区別できる相が形成される(典型的には、水が凍結して氷になり、キトサン生体適合材料が分離して固相となり識別される)が、凍結した溶媒(典型的には氷)を除去するために別のステップが必要であり、故に凍結構造を破壊せずにキトサン基質12を生成する。これは、凍結乾燥および/または凍結置換ステップによって行われてもよい。フィラメントを、不織布の紡織処理によって非織物のスポンジ様メッシュに形成できる。代替的には、フィラメントを、従来のスピニングと織り処理によってフェルト織物に生成してもよい。生体適合性スポンジ様製品を生成するために使用可能なその他の処理として、固形のキトサン基質由来の添加されたポロゲンの溶解、または固形基質由来材料のせん孔が含まれる。
【0037】
(2.キトサン水溶液の脱気)
好ましくは(図3、ステップB参照)、キトサン生体材16から一般的な大気ガスを脱気する。典型的には、続いて行われる凍結処理中に、ガスが漏出して、患者の創傷の包帯材料中に好ましくない大きい空洞、または閉じ込められたガスの大きな気泡が形成されないように、脱気はキトサン生体材から十分な残留ガスを除去することである。脱気ステップは、典型的には水溶液の形状のキトサン生体材を加熱し、その後それを真空にすることで行われてもよい。例えば、水溶液を攪拌しながら、約500ミリトールで約5分間真空にする直前に、キトサン溶液を約45℃に加熱することで脱気を行ってもよい。
【0038】
一実施形態では、最初の脱気後に、いくらかのガスを管理分圧になるまで溶液に戻してもよい。そのようなガスにはアルゴン、窒素、ヘリウムが含まれるがこれに限定されない。このステップの利点は、これらのガス分圧を含む溶液は凍結したときに微小空洞を形成することである。その後微小空洞は氷の先端の進行にしたがって、スポンジ中に残存する。これにより、スポンジ孔の相互連絡性を補助する、境界が明瞭かつ適切に制御されたチャネルが残る。
【0039】
(3.キトサン水溶液の凍結)
次に(図3、ステップC参照)、上述のように酸性溶液中で脱気された、キトサン生体材16に対して凍結処理が行われる。凍結は、好ましくは、鋳型中に維持されるキトサン生体材溶液を冷却し、溶液温度を室温から氷点以下の最終温度まで下げることによって行われる。より好ましくは、この凍結処理は、プレート状の冷却面を介した熱損失によって、鋳型中のキトサン溶液を通る温度勾配が導入される、プレート状の冷却面で行われる。好ましくは、このプレート状の冷却面は、鋳型と温度的に良好な接触状態にある。好ましくは、プレート状の冷却面に接触させる前のキトサン溶液と鋳型の温度は室温付近である。好ましくは、プレート状の冷却面の温度は、鋳型と溶液の導入前には−10℃を超えない。好ましくは、鋳型と溶液を足した熱質量はプレート状の冷凍棚と熱伝導流体を足した熱質量より少ない。好ましくは、鋳型は、金属元素、例えば鉄、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、バナジウム、モリブデン、金、ロジウム、パラジウム、白金および/またはこれらの組み合わせから形成されるが、これに限定されない。キトサン溶液の酸性成分とキトサン塩基質が反応しないようにするために、薄く不活性な金属被膜、例えばチタン、クロム、タングステン、バナジウム、ニッケル、モリブデン、金、白金で、鋳型をコーティングしてもよい。鋳型内の熱伝導を制御するために、金属性の鋳型と併用して断熱コーティングまたは断熱要素を使用してもよい。好ましくは、鋳型の表面は、凍結したキトサン溶液と固着しない。鋳型の内面は、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、フッ素化エチレンポリマー(FEP)、またはその他のフッ素化ポリマー剤から生成される、薄く、恒久的に剥離しないフッ素系離型剤でコーティングされている。コーティングされた金属性の鋳型が好ましいが、薄壁のプラスチック製の鋳型が、溶液を保持する代替品として便利である。そのようなプラスチック製の鋳型には、射出成形、機械加工、または熱成形によって、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンの共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィンから製造される鋳型が含まれるが、これに限定されない。絶縁要素を部分的に使用した金属性の鋳型の利点は、それらが熱流量と、凍結スポンジ内の構造の制御を向上させる機会も提供することである。この熱流量の制御の向上は、鋳型内に使われる熱伝導性素子と断熱素子間の熱伝導率の差が大きいことから生じる。
【0040】
キトサン溶液をこの方法で凍結させると、調製する薬剤12を好ましい構造にすることができる。
【0041】
プレートの氷結温度は、最終的なキトサン基質16の構造と力学的性質に影響を与える。プレートの氷結温度は、好ましくは約−10℃より高くなく、より好ましくは約−20℃より高くなく、最も好ましくは約−30℃より高くない。−10℃で凍らせた場合、圧縮していないキトサン基質16の構造は、スポンジ構造全体で連続性が高く垂直である。−25℃で凍らせた場合、圧縮していないキトサン基質12の構造はより独立しており、それでもなお垂直である。−40℃で凍らせた場合、圧縮していないキトサン基質16の構造は独立しており垂直ではない。その代わり、キトサン基質16は、強固に互いにかみ合った構造をより多く含む。使用される凍結温度が低くなるほど、キトサン基質16の接着性/凝集性の密封特性が向上するのが認められる。凍結温度が約−40度の場合、最上の接着性/凝集性特性を持つキトサン基質16の構造が形成される。
【0042】
凍結処理の間、既定の時間中に温度を下げてもよい。例えば、キトサン生体材溶液の凍結温度を、約90分間から約160分間の間に、約−0.4℃/mmから約−0.8℃/mmの間の一定の温度冷却率で、プレートを冷却することにより、室温から−45℃まで下げてもよい。
【0043】
(4.キトサン/氷基質の凍結乾燥)
凍結したキトサン/氷基質では、凍結基質の間の中から望ましくは水が除去される(図3、ステップD参照)。この水の除去処理は、凍結したキトサン生体材の構造的完全性を損わずに行うことが可能である。これは、最終的なキトサン基質16の構造配列を破壊することがある、液相を作り出すことなく達成可能である。故に、キトサン生体材中の氷は、中間の液相を形成せずに凍結固相から気相へ変化する(昇華)。昇華した気体は、凍結したキトサン生体材よりもはるかに低い温度で真空の凝縮チャンバー中に氷として閉じ込められる。
【0044】
水の除去処理を行うのに好ましい方法は、フリーズドライすなわち凍結乾燥法である。凍結したキトサン生体材のフリーズドライは、凍結したキトサン生体材をさらに冷却することで行ってもよい。典型的には、その時に真空となる。次に、真空にした凍結キトサン物質を徐々に熱してもよい。
【0045】
より具体的には、凍結したキトサン生体材に対して、好ましくは約−15℃で、より好ましくは約−25℃で、そして最も好ましくは約−45℃で、好ましくは少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約2時間、そして最も好ましくは少なくとも約3時間の間に二次凍結してもよい。このステップの後に、約−45℃未満、より好ましくは約−60℃まで、最も好ましくは約−85℃まで凝縮装置を冷却してもよい。次に、好ましくは最大約100ミリトール、より好ましくは最大約150ミリトール、そして最も好ましくは少なくとも約200ミリトールの真空度を適用してもよい。真空にした凍結キトサン物質を好ましくは約−25℃で、より好ましくは約−15℃で、そして最も好ましくは約−10℃で、好ましくは少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約5時間、そして最も好ましくは少なくとも約10時間加熱してもよい。
【0046】
さらにフリーズドライを行うのに、200ミリトール付近での減圧を、棚温度約20℃、より好ましくは約15℃で、そして最も好ましくは約10℃で、好ましくは少なくとも約36時間、より好ましくは少なくとも約42時間、そして最も好ましくは少なくとも約48時間維持する。
【0047】
(5.キトサン基質の高密度化)
高密度化の前のキトサン基質16(密度は0.03g/cm3前後)は「非圧縮キトサン基質」と呼ばれる。この非圧縮基質は、すぐに血液に溶けてしまい、また機械的特性が乏しいため、出血を止める効果がない。キトサン生体材は必然的に圧縮される(図3、ステップE参照)。厚さを減らし、基質の密度を高めるために、加熱されたプラテンを用いた、親水性基質ポリマー表面に対し垂直な圧縮負荷を、乾燥した「非圧縮」キトサン基質16を圧縮するために使用してもよい。以下、時として簡潔に「高密度化」と呼ばれる圧縮処理によって、キトサン基質12の密着強度、凝集強度、溶解抵抗性が顕著に向上させる。閾値密度(ほぼ0.1g/cm3)を超えて圧縮した、適切に凍結したキトサン基質16は、37℃で血流中には簡単に溶解しない。
【0048】
圧縮温度は、好ましくは約60℃を下回らず、より好ましくは約75℃を下回らず約85℃を超えない。
【0049】
次に、高密度キトサン生体材を、好ましくは最高約75℃、より好ましくは最高約80℃、そして最も好ましくは最高約85℃までオーブンでキトサン基質16を加熱することによって、好ましくは前処理を行う(図3、ステップF)。前処理は、典型的には最高約0.25時間、好ましくは最高約0.35時間、より好ましくは最高約0.45時間、そして最も好ましくは最高約0.50時間行われる。この前処理ステップは、20〜30%という少ない密着強度の損失で、溶解抵抗性をさらに顕著に向上させる。
【0050】
さらなる処理を容易にするために、キトサン基質16の片側に裏張りを固定してもよい。裏張りを、キトサン基質16の最上層に直接付着させることで、取り付けまたは接着させてもよい。代替的には、接着剤、例えば3M9942アクリレート系皮膚接着剤、またはフィブリン接着剤、またはシアノアクリレート接着剤を用いてもよい。
【0051】
(6.高密度キトサン基質の粒化)
基質16を、例えば機械的過程などで、所望の粒子径、例えば約0.9mmまたはそれに近くなるまで粒化する。適切な機械的装置18(図3、ステップGに示されるような)で行われるキトサン基質16の単純な機械的粒化を、直径がほぼ0.9mmのキトサンスポンジ粒子14を製造するのに使用できる。その他の粒化法を用いてもよい。例えば、すぐに入手可能な、ステンレス製の粉砕/粒化用の、実験用/食品加工装置を用いてもよい。さらに、より堅固で、目的に合うよう設計された、より過程を制御できるシステムを使用してもよい。
【0052】
キトサン基質16の粒化を、室温下または液体窒素温度条件下で行ってもよい。
【0053】
好ましくは、粒子の大きさが適切に限定された分布をした粒子顆粒が製造される。粒子の大きさの分布は、例えば、Leica製のZP6 APO実体顕微鏡やImage Analysis MCソフトウェアを用いて特性化される。
【0054】
(7.滅菌)
続いて、所望の重量の粒子14を、望ましくは、不活性ガス、例えばアルゴンまたは窒素ガスのいずれかで浄化した、パウチ20に詰めて、真空化し、熱で封をしてもよい。パウチ20は、内容物の滅菌性を長期間維持するように働き(少なくとも24ヶ月)、また同期間中に、湿気と大気気体の侵入を高度に防ぐ。
【0055】
パウチに詰めた後、粒子14に対して、望ましくは滅菌処理を行う(図3、ステップH参照)。粒子14を、数多くの方法で滅菌できる。例えば、好ましい方法は、照射殺菌、例えばガンマ線照射であり、これは創傷包帯剤の、血液溶解抵抗性、引張特性、そして密着特性をさらに高める。照射を、少なくとも約5kGy、より好ましくは少なくとも約10kGy、そして最も好ましくは少なくとも約15kGyのレベルで行ってもよい。
【0056】
(D.止血剤の性質の変更)
(粒子)
キトサン基質16の性質と、それから形成される粒子14の性質を、圧迫による止血ができない出血を制御する目的で、止血性能の向上を提供するためにさらに最適化してもよい。
【0057】
(1.キトサン塩成分)
例えば、迅速な凝血を促進するために、キトサン塩の成分を最適化してもよい。脱アセチル化度が低いキトサンよりも、高脱アセチル化度で、分子量が大きいキトサンが、より容易に迅速な凝血をもたらすことが知られている。酢酸、乳酸、グリコール酸の塩が、一定の量のその他のアジュバント、例えば、イソプロピルアルコールが存在する場合にこの凝血塊形成の促進をもたらすことも知られている。
【0058】
キトサン基質16の成分を適宜調整すること、例えば、異なる酸の範囲の(乳酸、グリコール酸、酢酸)高脱アセチル化度のキトサンと、異なる密度の高分子量の基質16を、異なる濃度のアジュバント、例えばイソプロピルアルコールと共に提供することで、局所的な凝血の促進を増加させることができる。基質16を、上述の方法で、機械的過程で粒化し、パウチに詰め、使用前に滅菌できる。
【0059】
(2.キトサン発泡体と高密度キトサンビーズの均一な混合)
キトサン酸性溶液と多価陰イオン溶液(例えばアルギン酸塩)を、振動電場で流しながら混合することで、直径が管理されたキトサンビーズ22(図4に示される)を調製できる。中和し乾燥させた後、ビーズ22は、相対的に不溶性の小さく硬い高密度の球体を形成する。図4に示されるように、凍結ステップ(上述)の直前に、多量のこれらの球状ビーズ22を粘性のキトサン溶液16へ加えて均一に混合すると、凍結乾燥発泡スポンジ全体にビーズが均一に分散される。十分な量のこれらのビーズ22は、図5が示すように発泡顆粒14の中心に、高密度コアをもたらす。ビーズ22から形成される高密度ビーズコアは、ビーズ化された粒子14を出血性の損傷への適用を、さらに局所で行えるように支援する。
【0060】
(3.メッシュ強化粒子)
生体吸収性のポリマーメッシュ材24の小さな細片または断片を含ませることによって、粒子14の内部を強化できる(図6と7に示されるように)。これらのメッシュ材料24の細片を、凍結処理の直前に、粘性のキトサン溶液16に加えることができる(図6が示すように)。あるいは(図7が示すように)、生体吸収性のポリマーメッシュ材24の、ばらばらの小さい細片または断片を、粒化の後でパウチ詰めと滅菌の前に加えることもできる。この処理では、メッシュ材料24の細片または断片は、パウチ22に入れられた個々の粒子14の間にある(図8に示されるように)。
【0061】
メッシュ材料24が存在することで、キトサン顆粒14、血液、そしてメッシュ材料24の複合成分を全体的に強化されることによって、止血効果が高まる。
【0062】
メッシュ材料24の成分は様々である。ポリ−4−ヒドロキシ酪酸(Tepha Inc.社製TephaFLEX(商標)材料)から製造されたメッシュが望ましいと考えられる。この原料は、化学合成よりも発酵工程で作られる生合成の吸収性ポリエステルである。それは、強固かつ柔軟な熱可塑性物質として通常知られており、引張強度が50MPa、引張係数が70MPa、破損までの伸長度は〜1000%、硬度(Shore D)が52.8である。配向させると、引張強度はおよそ10倍増加する(市販の吸収性モノフィラメント縫合材料、例えばPDSII(商標)と比べて約25%高値)。
【0063】
その生合成経路にもかかわらず、ポリエステルの構造は非常に単純で、医学的用途に使用される他の既存の合成吸収性生体材の構造に酷似している。このポリマーは、大きく分けて、多数の微生物によって天然で産生されるポリヒドロキシアルカノエート(PHA)と呼ばれる素材の種類に属する。天然界では、細胞内部の貯蔵顆粒としてこれらのポリエステルが産生され、エネルギー代謝を調節するように働く。熱可塑特性を持ち、比較的製造が簡単であることから、これらもまた商業的に魅力があるものである。TephaInc社は、このホモポリマーを産生するために特別に設計された、特許登録されたトランスジェニック発酵工程を用いて、医療用にTephaFLEX生体材を産生している。TephaFLEX生体材の産生工程は、ポリマーを産生するために新たな生合成経路を組み込む、遺伝子操作された大腸菌K12株を利用する。このポリマーは、発酵中に、内部に識別できる顆粒として発酵細胞を蓄積し、そして工程の最後に高純度の形状で抽出される。この生体材は以下の試験に合格している:細胞毒性、感作能、刺激性と皮内反応性、血液適合性、エンドトキシン、移植性(皮下および筋肉内)、USPクラスVI。生体では、TephaFLEX生体材は、天然のヒト代謝産物であり、通常は脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、筋肉に存在する、4−ヒドロキシ酪酸塩に加水分解される。この代謝産物の半減期はわずか35分間であり、主に呼気の二酸化炭素として急速に体内から排出される(クレブス回路を介して)。
【0064】
熱可塑性であることから、TephaFLEXバイオポリマーを、伝統的なプラスチック加工技術、例えば射出成形または押し出し成形を用いて幅広い範囲の加工形状に変えることができる。この新規吸収性ポリマーから作られる溶融押し出し繊維は、市販の吸収性モノフィラメント縫合材料に比べて、少なくとも30%強度が高く、大幅に柔軟性であり、自身の強度を保つ期間が長い。これらの特性により、TephaFLEXバイオポリマーは、腔内出血を制御するための止血包帯剤の構造に対する優れた選択となる。
【0065】
TephaFLEX生体材を、吸収性スポンジとして使用するのに適した繊維や織物に加工できる。
【0066】
(E.粒子の投与)
局所投与を向上させ、場合によっては、固められた顆粒が創傷に対していくらかの圧力による圧縮(タンポン挿入)をもたらすように、キトサン顆粒14を、投与用に所望の目の粗いメッシュソックレットまたはバッグ26(図9参照)に入れてもよい。ソックレット26は、例えば上述のTephaFLEX生体材製でもよい。
【0067】
ソックレット26のメッシュは、キトサン顆粒14がソックレット26から突出できるように十分に粗いが、顆粒14がメッシュを通して血流によって洗い流されるほど粗くはない。ソックレット26は、投与中および投与後にキトサン顆粒14を保持し、顆粒14のボーラスをより直接的に投与できるようにする。ボーラスの外面で、その外面から個々のキトサン顆粒14を損失せずにキトサン粒子14が突出できるように、メッシュソックレット26は十分に目が粗くなくてならない。メッシュソックレット26の機械的特性は十分であり、裂けたり破損したりせずに、その表面に圧力を局所的にかけられる。
【0068】
粒子14が充満したソックレット26のタンポン挿入を、例えば、ソックレット26をカニューレ28を通して創傷部位10に押し出すために押し出し器34を用いて、カニューレ28で行ってもよい(図10参照)。必要に応じて、複数のソックレット26を、カニューレ28を通して連続して投与できる。代替的には、表面の切開部から、施術者が手動で一つ以上のソックレット26を治療部位10に挿入してもよい。
【0069】
代替的には、図11Aと図11Bに示すように、例えば、分離可能な縫合糸32で、メッシュソックレット30をカニューレ28の端部から外れるように取り付けてもよい。カニューレ28は、空のソックレット30を創傷部位10に導入する。この処理では、例えば、押し出し器を用いて、カニューレ28を通して、個々の粒子14(すなわち、図9に示されるように、投与の際にメッシュソックレット26内に閉じ込められていないもの)を、創傷部位内にあるソックレット30を満たすように押し出してもよい。ソックレット30を粒子14で充満させる際に、図11Bに示すように、カニューレ28を分離して、創傷部位10の内部に粒子が充満したソックレット30を残すために縫合糸32を引張してもよい。
【0070】
代替的には、図12に示すように、個々の粒子14を創傷部位10に、注射器36で投与してもよい。この処理では、すでに述べた閉じ込めるための器具と技術を用いて、粒子14が創傷部位10に目標を定める手段と、血流によって創傷部位10から粒子14が分散するのを防ぐ方法が必要になるかもしれない。長期的な内部使用には、ソックレットまたは同等の閉じ込め技術の使用が必要になると考えられる。
【0071】
(II.顆粒状止血剤(別の実施形態))
顆粒状キトサン塩と、場合によっては単独あるいは無機カルシウムとを併用した顆粒状のキチンは、表面やアクセス困難な出血部位に迅速に投与するための、非常に有用な止血薬となるであろう。また、そのような顆粒は、適切な精製ストックから調製された場合、免疫学的作用、炎症性作用、細胞傷害作用、または熱傷作用を気にせずに使用できるであろう(産生される熱による止血の制御による)。
【0072】
効果的な止血微粒子(顆粒状)キトサン発泡体はこれまでに説明した。代替的な実施形態では、ここで説明するように、同じように効果的な顆粒状止血発泡体(すなわち、上述の、粒子14の代表的な別の発泡体を含む)を、最小限の工程で、ほぼキトサン原料から直接生成できる。この実施形態では、凍結乾燥またはその他の発泡体生成工程は必要ではない。この実施形態の顆粒状止血材料は、タンパク質を除去した、場合によってはカルシウムを除去した(または場合によっては完全にカルシウムを除去した)甲殻類の殻材料を、制御して粉砕し(粒子の大きさを制御する)、次に部分的(30%)またはほぼ完全に(80〜85%)脱アセチル化することで得られる。
【0073】
タンパク質を除去し、カルシウムを除去した甲殻類の外骨格は、「キチン」またはポリβ−(1→4)w−アセチル−D−グルコサミンまたはポリβ−(1→4)2−アセトアミド−2−D−グルコピラノースと呼ばれるものが最も一般的である。正式学名(RUPAC)は、ポリβ−(1→4)−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノースだが、便宜上この材料(最大30%まで脱アセチル化されたもの)を我々はキチンと呼ぶことにする。
【0074】
キチン殻物質は、例えばイカ、カニ、またはその他の甲殻類から得られる。粒子14となるまで粉砕されたキチン顆粒を、上述の全ての方法と実施形態で、出血を制御し、止血薬としてふるまうように使用してもよい。
【0075】
キチン顆粒の表面積を拡大するために、真空下で、吸収された揮発性の膨張剤を急速に放出することで、それを膨らませ、部分的に破裂させてもよい。そのような部分的に破裂し、膨張したキチンの粒子、ビーズ、または顆粒14を、高い割合で吸収されたCO2またはその他の揮発性溶媒を含む粒子内で、過熱する圧力を急速に放出することで得ることができる。粒子の破裂の程度は、粒子または顆粒中の、揮発性膨張剤の均一性と吸収深度によって制御してもよい。
【0076】
制御された粒子表面の破裂と容積は、表面と容積の特性が制御された顆粒14の調製につながる。吸収された溶媒(特定の体積または凍結で増加するもの)の凍結は、破裂を制御するもう一つの方法となるだろう。
【0077】
例として、約3分の2の原型のままの粒子直径(膨らませていない)の内部と、残りの約3分の1を表面で膨らませた粒子直径を用いて製造した粒子14は、高密度粒子コアと、著しく密度が低い、高比表面積の粒子表面を可能にする。高比表面積は、血液との止血反応を向上させ、高密度コアは浮力やその他の液体の流れに関連する投与上の問題を克服するのに十分な粒子の密度をもたらす。
【0078】
密度の向上は、鉄および/またはカルシウムを膨張した粒子に加えることでも得られる。密度の向上は、止血の向上につながる。
【0079】
キチンまたは膨張したキチン粒子14を、酵素処理または加水分解処理でキトサンにさらに加工してもよい。キトサンは通常、脱アセチル化度が50%を超えるまで脱アセチル化されたキチンである。それは実際に、ポリマー鎖に沿って区画またはランダムな繰り返し単位中に存在する、残留アセチル基を含むが、キトサンは、ポリβ−(1→4)D−グルコサミン、またはより正確には(RUPAC)ポリβ−(1→4)w−アセチル−D−グルコサミンまたはポリ−β(1→4)2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースと呼ばれることが多い。
【0080】
商業的なキチンの脱アセチル化は全て不均一に行われるため(脱アセチル化溶剤中に分散された粒子)、不均一な脱アセチル化度を持つ粒子を製造することが可能である。そのような不均一性は、粒子コアに比べて、粒子表面で脱アセチル化度が高いものとして存在するであろう。容積に比べて表面の脱アセチル化度がより高い顆粒、粒子、またはビーズが、有効性が高い止血性キトサン/キチン顆粒を製造する上で有益なのは、顆粒表面に酢酸を加える、または他の種類の酸、例えば乳酸、グリコール酸、塩酸、グルタミン酸、プロピオン酸、クエン酸、またはその他の一塩基酸、二塩基酸、または三塩基酸を加えると、赤血球の凝集と止血を促進する、陽イオン特性と粘膜接着特性が得られるからである。表面局在性の粘膜接着特性の利点は、反応基は、それらが最も効果的に血液と反応する場所に存在し、粒子のコアが粘膜接着性でないこと、つまり粒子の有効性の向上と、その効果的な投与と、血液とその他の強力かつ粘着性の凝血塊を形成する同様の構造を持つ粒子の凝集の向上のために、それは血液不溶性であり、高密度キチン中心を提供するであろうということである。
【0081】
脱アセチル化されたキチン(キトサン)が粒子表面に局在していることの、特に破裂/膨張ビーズまたは顆粒の場合におけるもう一つの利点は、止血、抗菌、または抗ウィルスの用途に効果的に使用される、高比表面積で官能基を持つビーズ/顆粒/粒子を生成するために、キトサンのアミン基の誘導体化が容易に可能になることである。
【0082】
(III.結論)
本発明の上述の実施形態は、その原則を説明するものに過ぎず、限定されるものでないことは明らかであるべきである。代わりに、本発明の範囲は、それらと同等のものを含む、以下の特許請求の範囲から定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1A】図1Aは、圧迫による止血ができない出血の腔内部位の概略的な解剖図であり、この部位を止血し、シールし、または安定化させるために内部に止血薬が適用される。
【図1B】図1Bは、図1Aに示される止血薬の拡大図であり、薬剤を含む顆粒または粒子を示す。
【図2】図2は、図1Bに示される顆粒または粒子をさらに拡大した図である。
【図3】図3は、図2に示される顆粒または粒子をキトサン材料から製造する過程の概略的なフローチャート図である。
【図4】図4は、キトサン物質高密度ビーズを顆粒または粒子に添加する、図3に示される製造過程の代替的ステップを示す。
【図5】図5は、キトサン材料の高密度ビーズを含むように生成された顆粒または粒子を示す。
【図6】図6は、ポリマーメッシュ材の細片を顆粒または粒子に添加する、図3に示される製造過程の代替的ステップを示す。
【図7】図7は、ポリマーメッシュ材を含む、生成された顆粒または粒子を示す。
【図8】図8は、ポリマーメッシュ材の細片と混合した止血顆粒または粒子を含む止血薬の合成物を示す。
【図9】図9は、投与用に、ポリマーメッシュ材のソックレットに入れられた、図2または4または7に示される顆粒または粒子のボーラスを示す。
【図10】図10は、ポリマーメッシュ材のソックレットに入れられた、図9に示される顆粒または粒子のボーラスを、損傷部位に投与する一つの方法を示す。
【図11A】図11Aと11Bは、図2または4または7に示される顆粒または粒子のボーラスを、損傷部位で分離可能なポリマーメッシュのソックレット内に投与する一方法を示す。
【図11B】図11Aと11Bは、図2または4または7に示される顆粒または粒子のボーラスを、損傷部位で分離可能なポリマーメッシュのソックレット内に投与する一方法を示す。
【図12】図12は、図2または4または7に示される顆粒または粒子のボーラスを、封じ込めソックレットなどを使用せずに損傷部位に投与する代替的な方法である。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、表題が「Hemostatic Compositions, Assemblies, Systems, and Methods Employing Particulate Hemostatic Agents Formed from Hydrophilic Polymer Foam Such As Chitosan」である、2005年7月13日に出願された米国仮出願第60/698,734号の利益を主張するものであって、参照により本明細書に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して出血、体液の漏出若しくは浸出、またはその他の体液損失を改善するために、外部または内部から組織損傷または組織外傷部位に適用される薬剤に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
出血は、戦場での外傷による死亡の主な原因であり、民間社会での外傷後の死亡原因の第二位である。圧迫による止血ができない出血(直接圧迫するために容易にアクセスできない出血、例えば腔内出血)は、早期の外傷性死亡の大多数の一因となっている。液体の止血剤や組み換え第VIIa因子を圧迫による止血ができない出血部位に適用するという提案を除き、この問題に対する対処はほとんどない。より効果的な治療法の選択肢を提供するために、重篤な内出血、例えば腔内出血を制御するために、戦場の衛生兵に対して、より効果的な治療法の選択肢を提供するという重要なニーズがある。
【0004】
腔内出血の制御を複雑にする多くの要因があるが、それらの主なものには、例えば圧力を加えたり局所に包帯を巻いたりする、従来の出血の制御法によるアクセスの不足、傷の程度および場所の評価が困難なこと、腸の穿孔、そして血流や体液の貯留による障害がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(発明の概要)
本発明は、例えば腔内出血の部位などで起こる、圧迫による止血ができない出血を含む出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために使用し得る改良止血薬を提供する。本発明は、一般的な出血部位への、安全で効果的な止血薬の迅速な投与法、出血部位における、強力な凝血塊形成のより一層の促進、そして外傷部分にタンポン挿入を行う技術(必要に応じて)を提供する。本発明はまた、創傷の治癒速度の向上を提供し、線維性癒着の減少と、創傷感染の機会を低減する。従って本発明は、腔内出血を含む、出血の制御における目下の困難に関連する多くの重大な問題と、これら様々な傷害の回復に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位に適用して、その部位を止血し、シールし、または安定化させる前記止血薬を提供する。
【0007】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために適用できる顆粒または粒子の形状をとる止血薬を提供する。
【0008】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために適用できる顆粒または粒子の形状のキトサン物質を提供する。
【0009】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために適用できる顆粒または粒子の形状をとる高密度キトサン物質を提供する。
【0010】
本発明の一つの態様は、高密度キトサンビーズを含む、顆粒または粒子の形状の止血薬物質を提供する。
【0011】
本発明の一つの態様は、ポリマーメッシュ材を含む、顆粒または粒子の形状の止血薬物質を提供する。
【0012】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために併用可能な、ポリマーメッシュ材の帯状の断片が点在させられた、顆粒または粒子の形状をとる止血薬の合成物を提供する。
【0013】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために、ポリマーメッシュソックレット内に適用可能な、顆粒または粒子の形状をとる止血薬を提供する。
【0014】
本発明の一つの態様は、高密度キトサンビーズを含む、顆粒または粒子の形状のキトサン物質を提供する。
【0015】
本発明の一つの態様は、ポリマーメッシュ材を含む、顆粒または粒子の形状のキトサン物質を提供する。
【0016】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために併用可能な、ポリマーメッシュ材の細長い断片が点在させられた顆粒または粒子の形状をとるキトサン物質の合成物を提供する。
【0017】
本発明の一つの態様は、直接的な圧力または圧迫の適用の有無にかかわらず、出血部位を止血し、シールし、または安定化させるために、ポリマーメッシュソックレット内に適用できる、顆粒または粒子の形状をとる止血薬を提供する。
【0018】
本発明の一つの態様は、本明細書に記載の技術的特徴を有する材料を使用する、出血を治療する方法を提供する。
【0019】
本発明の一つの態様は、本明細書に記載の技術的特徴を有する材料を使用する、腔内出血を治療する方法を提供する。
【0020】
本発明の一つの態様は、タンパク質を除去した、そしてまた任意で完全または部分的にカルシウムを除去した、甲殻類の殻材料を制御して粉砕することで得られ、その後部分的(30%)または完全に(80〜85%)に脱アセチル化される、顆粒状止血物質を提供する。
【0021】
本発明のその他の特徴や利点は、添付の鍵となる技術的特徴の説明、図面、そしてリストに基づいて明らかとなるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(詳細な説明)
本発明は、本発明を当業者が実施可能なように詳細かつ正確に開示されるが、本明細書で開示される物質的な実施形態は単に本発明を例示するものに過ぎず、他の特定の構成で実施されてもよい。好適な実施形態が説明されているが、特許請求の範囲で定義される本発明から逸脱せずに詳細を変更してもよい。例示的目的で、本発明は圧迫による止血ができない出血を治療するステップにおいて開示される。本発明は、圧力の付加の有無にかかわらず、概して出血を治療できることが理解されるべきである。
【0023】
(I.止血剤)
(A.概要)
図1Aは、止血し、シールし、または不安定化させるために処置を行われない場合、重篤な内出血が起こる可能性のある腹部の腔内損傷部位10を示す。部位10は圧迫による止血ができない出血の場所であり、つまり直接圧迫するために出血部位に容易にアクセスできない。
【0024】
図1Aと1Bに示されるように、本発明の特徴を具体化する止血薬12は、直接的な圧力または圧迫を適用せずに、部位10を止血し、シールし、または不安定化させるために適用されている。薬剤12は、生体分解性の親水性ポリマーの離散粒子14の形状である(図1Bと図2が最も良く表している)。
【0025】
粒子14を形成するポリマーは、強力な粘着剤または接着剤になる、血液、体液、または水分の存在下で反応する生体適合性材料を含むように選択されている。望ましくは、粒子14を形成するポリマーは、その他の有益な特質、例えば抗菌および/または抗微生物、抗ウィルス特性、および/または損傷に対する体の防衛反応を促進する、あるいは高める特性を持つことが望ましい。粒子14を含むポリマー材は望ましくは高密度であるか、またはそうでなければ血流および/または部位10に作用するその他の動的条件によって粒子14が部位10から分散されないように処理されたものである。
【0026】
これにより薬剤12は出血、体液漏出または浸出、またはその他の体液損失に対して部位10を止血し、シールし、および/または安定化させるように機能する。また、薬剤12は組織の治療部位10に、またはその周囲に、望ましくは抗菌性および/または抗微生物、および/または抗ウィルス性保護バリアを形成する。薬剤12を、部位10を急性の基準で止血し、シールし、および/または安定化させるための、一時的な診療として適用してもよい。後述するように、より永久的な内部使用を可能にするために薬剤12を増加してもよい。
【0027】
(B.止血粒子)
図2に示される粒子14は、ポリアクリル酸塩、アルギン酸塩、キトサン、親水性ポリアミン、キトサン誘導体、ポリリシン、ポリエチレンイミン、キサンタン、カラゲニン、第4アンモニウムポリマー、コンドロイチン硫酸、でんぷん、修飾セルロースポリマー、デキストラン、ヒアルロン酸またはそれらの組み合わせなどの、親水性ポリマー構造を含んでもよい。でんぷんは、アミラーゼ、アミロペクチン、およびアミロペクチンとアミラーゼの組み合わせであってもよい。
【0028】
好適な実施形態では、粒子14の生体適合性材料は非哺乳類の材料を含み、最も好ましくはポリ[β−(1→4)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノース]であり、これはより一般的にはキトサンと呼ばれる。粒子14用に選択されるキトサンは、好ましくは平均分子量が少なくとも約100kDaであり、より好ましくは少なくとも約150kDaである。最も好ましくは、キトサンは平均分子量が少なくとも約300kDaである。
【0029】
粒子14を形成する上で、キトサンは、望ましくは酸、例えばグルタミン酸、乳酸、ギ酸、塩酸および/または酢酸を含む溶液中に加えられる。これらのうち、キトサン酢酸塩とキトサン塩酸塩は血液に溶解しないが、キトサン乳酸塩とキトサングルタミン酸塩はそうではないため、塩酸と酢酸は最も好ましい。分子量(Mw)の大きい陰イオンはキトサン塩の準結晶構造を破壊し、構造中の可塑化効果をもたらす(柔軟性の向上)。望ましくないことに、それらはこれらの分子量の大きい陰イオン塩の血液中への溶解速度の向上もまた提供する。
【0030】
粒子14の好ましい一形態は、キトサン酢酸塩溶液を凍結させて凍結乾燥させることによって生成される、密度が0.035g/cm3未満の「圧縮されていない」キトサン酢酸塩基質を含み、これは次に密度0.6から0.5g/cm3まで圧縮することによって高密度化され、最も好ましい密度は約0.25から0.5g/cm3までである。このキトサン基質を、圧縮された親水性のスポンジ構造として特徴付けることもできる。高密度キトサン基質は、望ましいと考えられる上述の特徴の全てを示す。また、高密度キトサン基質は後に詳述する、使用中の基質にロバスト性や寿命を与える、特定の構造的、機械的利点を有する。
【0031】
上述の方法で形成した後、スポンジ構造を、例えば機械的プロセスによって望ましい粒子径、例えば0.9mmに、あるいはそれに近くなるように粒化する。
【0032】
粒子14を形成するキトサン基質は堅固で、透過性で、高比表面積を持ち、正に帯電された表面を提示する。正の帯電面は、赤血球と血小板の相互作用のための、反応性が高い表面を作り出す。赤血球膜は負に帯電しており、キトサン基質にひきつけられる。細胞膜は接触するとキトサン基質と融合する。凝血塊が非常に速く形成され、通常は止血に必要とされる凝固タンパクが早期に必要となる状況が回避される。この理由から、キトサン基質は、正常な人だけでなく抗凝固療法中の人、さらに血友病のような凝固障害を持つ人々にも効果的である。キトサン基質は細菌、エンドトキシン、微生物にも結合し、細菌、微生物、および/またはウィルス性因子を接触することで殺すことができる。さらに、キトサンは体内で生体分解性であり、良性の物質であるグルコサミンに分解される。
【0033】
(C.止血粒子の製造)
粒子14を生成するための望ましい方法を説明する。この方法を図3に概略的に示す。当然ながら、他の方法を用いてもよいことは理解するべきである。
【0034】
(1.キトサン溶液の調製)
キトサン溶液の調製に使用するキトサンは、好ましくは、0.78より大きいが0.97未満の、わずかな脱アセチル化度を有する。最も好ましくは、キトサンは0.85より大きいが0.95未満の、わずかな脱アセチル化度を有する。好ましくは、基質に加工するために選ばれるキトサンは、1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中、25℃、30rpmのスピンドルLVIで、約100センチポアズから約2000センチポアズの粘度を持つ。より好ましくは、キトサンは、1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中、25℃、30rpmのスピンドルLVIで、約125センチポアズから約1000センチポアズの粘度を持つ。最も好ましくは、キトサン1%(w/w)酢酸(AA)の1%(w/w)溶液中、25℃、30rpmのスピンドルLVIで、約400センチポアズから約800センチポアズの粘度を持つ。
【0035】
キトサン溶液は、好ましくは固形のキトサンフレークまたはパウダーに水を加え、攪拌、混合、または振とうすることで液体中に固形を分散させて、25℃で調製される。キトサンの液体中への分散では、キトサンの固形物を溶解させるために酸性成分を加え、分散の間中、混合する。溶解速度は、溶液の温度、キトサンの分子量、攪拌の程度によって異なる。好ましくは、溶解ステップは、攪拌ブレード付きの密封の反応タンクまたは密封の回転容器内で行われる。これにより、キトサンの均一な溶解が確実になり、粘着性の残渣が容器の片方に固まることがなくなる。好ましくは、キトサン溶液の割合(w/w)は0.5%キトサンより大きく、2.7%キトサン未満である。より好ましくは、キトサン溶液の割合(w/w)は1%キトサンより大きく、2.3%キトサン未満である。最も好ましくはキトサン溶液の割合(w/w)は1.5%キトサンより大きく、2.1%キトサン未満である。好ましくは使用する酸は酢酸である。好ましくは、酢酸溶液濃度(w/w)が0.8%より高く、4%未満になるように、酢酸を溶液に添加する。より好ましくは、酢酸溶液濃度(w/w)が1.5%(w/w)より高く、2.5%未満になるように、酢酸を溶液に添加する。
【0036】
キトサン基質の構造または形状生成ステップは、典型的には溶液から行われ、凍結(相分離を起こすため)、非溶剤の鋳型押し出し(フィラメントを生成するため)、電子スピニング(フィラメントを生成するため)、非溶剤を用いた転相や沈殿(透析および濾過膜を生成するときに典型的に用いられるように)、または予め生成されたスポンジ様または織物製品上の溶液コーティングなどのテクニックを用いて達成される。凍結の場合は、凍結させることによって二つ以上の明確に区別できる相が形成される(典型的には、水が凍結して氷になり、キトサン生体適合材料が分離して固相となり識別される)が、凍結した溶媒(典型的には氷)を除去するために別のステップが必要であり、故に凍結構造を破壊せずにキトサン基質12を生成する。これは、凍結乾燥および/または凍結置換ステップによって行われてもよい。フィラメントを、不織布の紡織処理によって非織物のスポンジ様メッシュに形成できる。代替的には、フィラメントを、従来のスピニングと織り処理によってフェルト織物に生成してもよい。生体適合性スポンジ様製品を生成するために使用可能なその他の処理として、固形のキトサン基質由来の添加されたポロゲンの溶解、または固形基質由来材料のせん孔が含まれる。
【0037】
(2.キトサン水溶液の脱気)
好ましくは(図3、ステップB参照)、キトサン生体材16から一般的な大気ガスを脱気する。典型的には、続いて行われる凍結処理中に、ガスが漏出して、患者の創傷の包帯材料中に好ましくない大きい空洞、または閉じ込められたガスの大きな気泡が形成されないように、脱気はキトサン生体材から十分な残留ガスを除去することである。脱気ステップは、典型的には水溶液の形状のキトサン生体材を加熱し、その後それを真空にすることで行われてもよい。例えば、水溶液を攪拌しながら、約500ミリトールで約5分間真空にする直前に、キトサン溶液を約45℃に加熱することで脱気を行ってもよい。
【0038】
一実施形態では、最初の脱気後に、いくらかのガスを管理分圧になるまで溶液に戻してもよい。そのようなガスにはアルゴン、窒素、ヘリウムが含まれるがこれに限定されない。このステップの利点は、これらのガス分圧を含む溶液は凍結したときに微小空洞を形成することである。その後微小空洞は氷の先端の進行にしたがって、スポンジ中に残存する。これにより、スポンジ孔の相互連絡性を補助する、境界が明瞭かつ適切に制御されたチャネルが残る。
【0039】
(3.キトサン水溶液の凍結)
次に(図3、ステップC参照)、上述のように酸性溶液中で脱気された、キトサン生体材16に対して凍結処理が行われる。凍結は、好ましくは、鋳型中に維持されるキトサン生体材溶液を冷却し、溶液温度を室温から氷点以下の最終温度まで下げることによって行われる。より好ましくは、この凍結処理は、プレート状の冷却面を介した熱損失によって、鋳型中のキトサン溶液を通る温度勾配が導入される、プレート状の冷却面で行われる。好ましくは、このプレート状の冷却面は、鋳型と温度的に良好な接触状態にある。好ましくは、プレート状の冷却面に接触させる前のキトサン溶液と鋳型の温度は室温付近である。好ましくは、プレート状の冷却面の温度は、鋳型と溶液の導入前には−10℃を超えない。好ましくは、鋳型と溶液を足した熱質量はプレート状の冷凍棚と熱伝導流体を足した熱質量より少ない。好ましくは、鋳型は、金属元素、例えば鉄、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、バナジウム、モリブデン、金、ロジウム、パラジウム、白金および/またはこれらの組み合わせから形成されるが、これに限定されない。キトサン溶液の酸性成分とキトサン塩基質が反応しないようにするために、薄く不活性な金属被膜、例えばチタン、クロム、タングステン、バナジウム、ニッケル、モリブデン、金、白金で、鋳型をコーティングしてもよい。鋳型内の熱伝導を制御するために、金属性の鋳型と併用して断熱コーティングまたは断熱要素を使用してもよい。好ましくは、鋳型の表面は、凍結したキトサン溶液と固着しない。鋳型の内面は、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、フッ素化エチレンポリマー(FEP)、またはその他のフッ素化ポリマー剤から生成される、薄く、恒久的に剥離しないフッ素系離型剤でコーティングされている。コーティングされた金属性の鋳型が好ましいが、薄壁のプラスチック製の鋳型が、溶液を保持する代替品として便利である。そのようなプラスチック製の鋳型には、射出成形、機械加工、または熱成形によって、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンの共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィンから製造される鋳型が含まれるが、これに限定されない。絶縁要素を部分的に使用した金属性の鋳型の利点は、それらが熱流量と、凍結スポンジ内の構造の制御を向上させる機会も提供することである。この熱流量の制御の向上は、鋳型内に使われる熱伝導性素子と断熱素子間の熱伝導率の差が大きいことから生じる。
【0040】
キトサン溶液をこの方法で凍結させると、調製する薬剤12を好ましい構造にすることができる。
【0041】
プレートの氷結温度は、最終的なキトサン基質16の構造と力学的性質に影響を与える。プレートの氷結温度は、好ましくは約−10℃より高くなく、より好ましくは約−20℃より高くなく、最も好ましくは約−30℃より高くない。−10℃で凍らせた場合、圧縮していないキトサン基質16の構造は、スポンジ構造全体で連続性が高く垂直である。−25℃で凍らせた場合、圧縮していないキトサン基質12の構造はより独立しており、それでもなお垂直である。−40℃で凍らせた場合、圧縮していないキトサン基質16の構造は独立しており垂直ではない。その代わり、キトサン基質16は、強固に互いにかみ合った構造をより多く含む。使用される凍結温度が低くなるほど、キトサン基質16の接着性/凝集性の密封特性が向上するのが認められる。凍結温度が約−40度の場合、最上の接着性/凝集性特性を持つキトサン基質16の構造が形成される。
【0042】
凍結処理の間、既定の時間中に温度を下げてもよい。例えば、キトサン生体材溶液の凍結温度を、約90分間から約160分間の間に、約−0.4℃/mmから約−0.8℃/mmの間の一定の温度冷却率で、プレートを冷却することにより、室温から−45℃まで下げてもよい。
【0043】
(4.キトサン/氷基質の凍結乾燥)
凍結したキトサン/氷基質では、凍結基質の間の中から望ましくは水が除去される(図3、ステップD参照)。この水の除去処理は、凍結したキトサン生体材の構造的完全性を損わずに行うことが可能である。これは、最終的なキトサン基質16の構造配列を破壊することがある、液相を作り出すことなく達成可能である。故に、キトサン生体材中の氷は、中間の液相を形成せずに凍結固相から気相へ変化する(昇華)。昇華した気体は、凍結したキトサン生体材よりもはるかに低い温度で真空の凝縮チャンバー中に氷として閉じ込められる。
【0044】
水の除去処理を行うのに好ましい方法は、フリーズドライすなわち凍結乾燥法である。凍結したキトサン生体材のフリーズドライは、凍結したキトサン生体材をさらに冷却することで行ってもよい。典型的には、その時に真空となる。次に、真空にした凍結キトサン物質を徐々に熱してもよい。
【0045】
より具体的には、凍結したキトサン生体材に対して、好ましくは約−15℃で、より好ましくは約−25℃で、そして最も好ましくは約−45℃で、好ましくは少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約2時間、そして最も好ましくは少なくとも約3時間の間に二次凍結してもよい。このステップの後に、約−45℃未満、より好ましくは約−60℃まで、最も好ましくは約−85℃まで凝縮装置を冷却してもよい。次に、好ましくは最大約100ミリトール、より好ましくは最大約150ミリトール、そして最も好ましくは少なくとも約200ミリトールの真空度を適用してもよい。真空にした凍結キトサン物質を好ましくは約−25℃で、より好ましくは約−15℃で、そして最も好ましくは約−10℃で、好ましくは少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約5時間、そして最も好ましくは少なくとも約10時間加熱してもよい。
【0046】
さらにフリーズドライを行うのに、200ミリトール付近での減圧を、棚温度約20℃、より好ましくは約15℃で、そして最も好ましくは約10℃で、好ましくは少なくとも約36時間、より好ましくは少なくとも約42時間、そして最も好ましくは少なくとも約48時間維持する。
【0047】
(5.キトサン基質の高密度化)
高密度化の前のキトサン基質16(密度は0.03g/cm3前後)は「非圧縮キトサン基質」と呼ばれる。この非圧縮基質は、すぐに血液に溶けてしまい、また機械的特性が乏しいため、出血を止める効果がない。キトサン生体材は必然的に圧縮される(図3、ステップE参照)。厚さを減らし、基質の密度を高めるために、加熱されたプラテンを用いた、親水性基質ポリマー表面に対し垂直な圧縮負荷を、乾燥した「非圧縮」キトサン基質16を圧縮するために使用してもよい。以下、時として簡潔に「高密度化」と呼ばれる圧縮処理によって、キトサン基質12の密着強度、凝集強度、溶解抵抗性が顕著に向上させる。閾値密度(ほぼ0.1g/cm3)を超えて圧縮した、適切に凍結したキトサン基質16は、37℃で血流中には簡単に溶解しない。
【0048】
圧縮温度は、好ましくは約60℃を下回らず、より好ましくは約75℃を下回らず約85℃を超えない。
【0049】
次に、高密度キトサン生体材を、好ましくは最高約75℃、より好ましくは最高約80℃、そして最も好ましくは最高約85℃までオーブンでキトサン基質16を加熱することによって、好ましくは前処理を行う(図3、ステップF)。前処理は、典型的には最高約0.25時間、好ましくは最高約0.35時間、より好ましくは最高約0.45時間、そして最も好ましくは最高約0.50時間行われる。この前処理ステップは、20〜30%という少ない密着強度の損失で、溶解抵抗性をさらに顕著に向上させる。
【0050】
さらなる処理を容易にするために、キトサン基質16の片側に裏張りを固定してもよい。裏張りを、キトサン基質16の最上層に直接付着させることで、取り付けまたは接着させてもよい。代替的には、接着剤、例えば3M9942アクリレート系皮膚接着剤、またはフィブリン接着剤、またはシアノアクリレート接着剤を用いてもよい。
【0051】
(6.高密度キトサン基質の粒化)
基質16を、例えば機械的過程などで、所望の粒子径、例えば約0.9mmまたはそれに近くなるまで粒化する。適切な機械的装置18(図3、ステップGに示されるような)で行われるキトサン基質16の単純な機械的粒化を、直径がほぼ0.9mmのキトサンスポンジ粒子14を製造するのに使用できる。その他の粒化法を用いてもよい。例えば、すぐに入手可能な、ステンレス製の粉砕/粒化用の、実験用/食品加工装置を用いてもよい。さらに、より堅固で、目的に合うよう設計された、より過程を制御できるシステムを使用してもよい。
【0052】
キトサン基質16の粒化を、室温下または液体窒素温度条件下で行ってもよい。
【0053】
好ましくは、粒子の大きさが適切に限定された分布をした粒子顆粒が製造される。粒子の大きさの分布は、例えば、Leica製のZP6 APO実体顕微鏡やImage Analysis MCソフトウェアを用いて特性化される。
【0054】
(7.滅菌)
続いて、所望の重量の粒子14を、望ましくは、不活性ガス、例えばアルゴンまたは窒素ガスのいずれかで浄化した、パウチ20に詰めて、真空化し、熱で封をしてもよい。パウチ20は、内容物の滅菌性を長期間維持するように働き(少なくとも24ヶ月)、また同期間中に、湿気と大気気体の侵入を高度に防ぐ。
【0055】
パウチに詰めた後、粒子14に対して、望ましくは滅菌処理を行う(図3、ステップH参照)。粒子14を、数多くの方法で滅菌できる。例えば、好ましい方法は、照射殺菌、例えばガンマ線照射であり、これは創傷包帯剤の、血液溶解抵抗性、引張特性、そして密着特性をさらに高める。照射を、少なくとも約5kGy、より好ましくは少なくとも約10kGy、そして最も好ましくは少なくとも約15kGyのレベルで行ってもよい。
【0056】
(D.止血剤の性質の変更)
(粒子)
キトサン基質16の性質と、それから形成される粒子14の性質を、圧迫による止血ができない出血を制御する目的で、止血性能の向上を提供するためにさらに最適化してもよい。
【0057】
(1.キトサン塩成分)
例えば、迅速な凝血を促進するために、キトサン塩の成分を最適化してもよい。脱アセチル化度が低いキトサンよりも、高脱アセチル化度で、分子量が大きいキトサンが、より容易に迅速な凝血をもたらすことが知られている。酢酸、乳酸、グリコール酸の塩が、一定の量のその他のアジュバント、例えば、イソプロピルアルコールが存在する場合にこの凝血塊形成の促進をもたらすことも知られている。
【0058】
キトサン基質16の成分を適宜調整すること、例えば、異なる酸の範囲の(乳酸、グリコール酸、酢酸)高脱アセチル化度のキトサンと、異なる密度の高分子量の基質16を、異なる濃度のアジュバント、例えばイソプロピルアルコールと共に提供することで、局所的な凝血の促進を増加させることができる。基質16を、上述の方法で、機械的過程で粒化し、パウチに詰め、使用前に滅菌できる。
【0059】
(2.キトサン発泡体と高密度キトサンビーズの均一な混合)
キトサン酸性溶液と多価陰イオン溶液(例えばアルギン酸塩)を、振動電場で流しながら混合することで、直径が管理されたキトサンビーズ22(図4に示される)を調製できる。中和し乾燥させた後、ビーズ22は、相対的に不溶性の小さく硬い高密度の球体を形成する。図4に示されるように、凍結ステップ(上述)の直前に、多量のこれらの球状ビーズ22を粘性のキトサン溶液16へ加えて均一に混合すると、凍結乾燥発泡スポンジ全体にビーズが均一に分散される。十分な量のこれらのビーズ22は、図5が示すように発泡顆粒14の中心に、高密度コアをもたらす。ビーズ22から形成される高密度ビーズコアは、ビーズ化された粒子14を出血性の損傷への適用を、さらに局所で行えるように支援する。
【0060】
(3.メッシュ強化粒子)
生体吸収性のポリマーメッシュ材24の小さな細片または断片を含ませることによって、粒子14の内部を強化できる(図6と7に示されるように)。これらのメッシュ材料24の細片を、凍結処理の直前に、粘性のキトサン溶液16に加えることができる(図6が示すように)。あるいは(図7が示すように)、生体吸収性のポリマーメッシュ材24の、ばらばらの小さい細片または断片を、粒化の後でパウチ詰めと滅菌の前に加えることもできる。この処理では、メッシュ材料24の細片または断片は、パウチ22に入れられた個々の粒子14の間にある(図8に示されるように)。
【0061】
メッシュ材料24が存在することで、キトサン顆粒14、血液、そしてメッシュ材料24の複合成分を全体的に強化されることによって、止血効果が高まる。
【0062】
メッシュ材料24の成分は様々である。ポリ−4−ヒドロキシ酪酸(Tepha Inc.社製TephaFLEX(商標)材料)から製造されたメッシュが望ましいと考えられる。この原料は、化学合成よりも発酵工程で作られる生合成の吸収性ポリエステルである。それは、強固かつ柔軟な熱可塑性物質として通常知られており、引張強度が50MPa、引張係数が70MPa、破損までの伸長度は〜1000%、硬度(Shore D)が52.8である。配向させると、引張強度はおよそ10倍増加する(市販の吸収性モノフィラメント縫合材料、例えばPDSII(商標)と比べて約25%高値)。
【0063】
その生合成経路にもかかわらず、ポリエステルの構造は非常に単純で、医学的用途に使用される他の既存の合成吸収性生体材の構造に酷似している。このポリマーは、大きく分けて、多数の微生物によって天然で産生されるポリヒドロキシアルカノエート(PHA)と呼ばれる素材の種類に属する。天然界では、細胞内部の貯蔵顆粒としてこれらのポリエステルが産生され、エネルギー代謝を調節するように働く。熱可塑特性を持ち、比較的製造が簡単であることから、これらもまた商業的に魅力があるものである。TephaInc社は、このホモポリマーを産生するために特別に設計された、特許登録されたトランスジェニック発酵工程を用いて、医療用にTephaFLEX生体材を産生している。TephaFLEX生体材の産生工程は、ポリマーを産生するために新たな生合成経路を組み込む、遺伝子操作された大腸菌K12株を利用する。このポリマーは、発酵中に、内部に識別できる顆粒として発酵細胞を蓄積し、そして工程の最後に高純度の形状で抽出される。この生体材は以下の試験に合格している:細胞毒性、感作能、刺激性と皮内反応性、血液適合性、エンドトキシン、移植性(皮下および筋肉内)、USPクラスVI。生体では、TephaFLEX生体材は、天然のヒト代謝産物であり、通常は脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、筋肉に存在する、4−ヒドロキシ酪酸塩に加水分解される。この代謝産物の半減期はわずか35分間であり、主に呼気の二酸化炭素として急速に体内から排出される(クレブス回路を介して)。
【0064】
熱可塑性であることから、TephaFLEXバイオポリマーを、伝統的なプラスチック加工技術、例えば射出成形または押し出し成形を用いて幅広い範囲の加工形状に変えることができる。この新規吸収性ポリマーから作られる溶融押し出し繊維は、市販の吸収性モノフィラメント縫合材料に比べて、少なくとも30%強度が高く、大幅に柔軟性であり、自身の強度を保つ期間が長い。これらの特性により、TephaFLEXバイオポリマーは、腔内出血を制御するための止血包帯剤の構造に対する優れた選択となる。
【0065】
TephaFLEX生体材を、吸収性スポンジとして使用するのに適した繊維や織物に加工できる。
【0066】
(E.粒子の投与)
局所投与を向上させ、場合によっては、固められた顆粒が創傷に対していくらかの圧力による圧縮(タンポン挿入)をもたらすように、キトサン顆粒14を、投与用に所望の目の粗いメッシュソックレットまたはバッグ26(図9参照)に入れてもよい。ソックレット26は、例えば上述のTephaFLEX生体材製でもよい。
【0067】
ソックレット26のメッシュは、キトサン顆粒14がソックレット26から突出できるように十分に粗いが、顆粒14がメッシュを通して血流によって洗い流されるほど粗くはない。ソックレット26は、投与中および投与後にキトサン顆粒14を保持し、顆粒14のボーラスをより直接的に投与できるようにする。ボーラスの外面で、その外面から個々のキトサン顆粒14を損失せずにキトサン粒子14が突出できるように、メッシュソックレット26は十分に目が粗くなくてならない。メッシュソックレット26の機械的特性は十分であり、裂けたり破損したりせずに、その表面に圧力を局所的にかけられる。
【0068】
粒子14が充満したソックレット26のタンポン挿入を、例えば、ソックレット26をカニューレ28を通して創傷部位10に押し出すために押し出し器34を用いて、カニューレ28で行ってもよい(図10参照)。必要に応じて、複数のソックレット26を、カニューレ28を通して連続して投与できる。代替的には、表面の切開部から、施術者が手動で一つ以上のソックレット26を治療部位10に挿入してもよい。
【0069】
代替的には、図11Aと図11Bに示すように、例えば、分離可能な縫合糸32で、メッシュソックレット30をカニューレ28の端部から外れるように取り付けてもよい。カニューレ28は、空のソックレット30を創傷部位10に導入する。この処理では、例えば、押し出し器を用いて、カニューレ28を通して、個々の粒子14(すなわち、図9に示されるように、投与の際にメッシュソックレット26内に閉じ込められていないもの)を、創傷部位内にあるソックレット30を満たすように押し出してもよい。ソックレット30を粒子14で充満させる際に、図11Bに示すように、カニューレ28を分離して、創傷部位10の内部に粒子が充満したソックレット30を残すために縫合糸32を引張してもよい。
【0070】
代替的には、図12に示すように、個々の粒子14を創傷部位10に、注射器36で投与してもよい。この処理では、すでに述べた閉じ込めるための器具と技術を用いて、粒子14が創傷部位10に目標を定める手段と、血流によって創傷部位10から粒子14が分散するのを防ぐ方法が必要になるかもしれない。長期的な内部使用には、ソックレットまたは同等の閉じ込め技術の使用が必要になると考えられる。
【0071】
(II.顆粒状止血剤(別の実施形態))
顆粒状キトサン塩と、場合によっては単独あるいは無機カルシウムとを併用した顆粒状のキチンは、表面やアクセス困難な出血部位に迅速に投与するための、非常に有用な止血薬となるであろう。また、そのような顆粒は、適切な精製ストックから調製された場合、免疫学的作用、炎症性作用、細胞傷害作用、または熱傷作用を気にせずに使用できるであろう(産生される熱による止血の制御による)。
【0072】
効果的な止血微粒子(顆粒状)キトサン発泡体はこれまでに説明した。代替的な実施形態では、ここで説明するように、同じように効果的な顆粒状止血発泡体(すなわち、上述の、粒子14の代表的な別の発泡体を含む)を、最小限の工程で、ほぼキトサン原料から直接生成できる。この実施形態では、凍結乾燥またはその他の発泡体生成工程は必要ではない。この実施形態の顆粒状止血材料は、タンパク質を除去した、場合によってはカルシウムを除去した(または場合によっては完全にカルシウムを除去した)甲殻類の殻材料を、制御して粉砕し(粒子の大きさを制御する)、次に部分的(30%)またはほぼ完全に(80〜85%)脱アセチル化することで得られる。
【0073】
タンパク質を除去し、カルシウムを除去した甲殻類の外骨格は、「キチン」またはポリβ−(1→4)w−アセチル−D−グルコサミンまたはポリβ−(1→4)2−アセトアミド−2−D−グルコピラノースと呼ばれるものが最も一般的である。正式学名(RUPAC)は、ポリβ−(1→4)−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノースだが、便宜上この材料(最大30%まで脱アセチル化されたもの)を我々はキチンと呼ぶことにする。
【0074】
キチン殻物質は、例えばイカ、カニ、またはその他の甲殻類から得られる。粒子14となるまで粉砕されたキチン顆粒を、上述の全ての方法と実施形態で、出血を制御し、止血薬としてふるまうように使用してもよい。
【0075】
キチン顆粒の表面積を拡大するために、真空下で、吸収された揮発性の膨張剤を急速に放出することで、それを膨らませ、部分的に破裂させてもよい。そのような部分的に破裂し、膨張したキチンの粒子、ビーズ、または顆粒14を、高い割合で吸収されたCO2またはその他の揮発性溶媒を含む粒子内で、過熱する圧力を急速に放出することで得ることができる。粒子の破裂の程度は、粒子または顆粒中の、揮発性膨張剤の均一性と吸収深度によって制御してもよい。
【0076】
制御された粒子表面の破裂と容積は、表面と容積の特性が制御された顆粒14の調製につながる。吸収された溶媒(特定の体積または凍結で増加するもの)の凍結は、破裂を制御するもう一つの方法となるだろう。
【0077】
例として、約3分の2の原型のままの粒子直径(膨らませていない)の内部と、残りの約3分の1を表面で膨らませた粒子直径を用いて製造した粒子14は、高密度粒子コアと、著しく密度が低い、高比表面積の粒子表面を可能にする。高比表面積は、血液との止血反応を向上させ、高密度コアは浮力やその他の液体の流れに関連する投与上の問題を克服するのに十分な粒子の密度をもたらす。
【0078】
密度の向上は、鉄および/またはカルシウムを膨張した粒子に加えることでも得られる。密度の向上は、止血の向上につながる。
【0079】
キチンまたは膨張したキチン粒子14を、酵素処理または加水分解処理でキトサンにさらに加工してもよい。キトサンは通常、脱アセチル化度が50%を超えるまで脱アセチル化されたキチンである。それは実際に、ポリマー鎖に沿って区画またはランダムな繰り返し単位中に存在する、残留アセチル基を含むが、キトサンは、ポリβ−(1→4)D−グルコサミン、またはより正確には(RUPAC)ポリβ−(1→4)w−アセチル−D−グルコサミンまたはポリ−β(1→4)2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースと呼ばれることが多い。
【0080】
商業的なキチンの脱アセチル化は全て不均一に行われるため(脱アセチル化溶剤中に分散された粒子)、不均一な脱アセチル化度を持つ粒子を製造することが可能である。そのような不均一性は、粒子コアに比べて、粒子表面で脱アセチル化度が高いものとして存在するであろう。容積に比べて表面の脱アセチル化度がより高い顆粒、粒子、またはビーズが、有効性が高い止血性キトサン/キチン顆粒を製造する上で有益なのは、顆粒表面に酢酸を加える、または他の種類の酸、例えば乳酸、グリコール酸、塩酸、グルタミン酸、プロピオン酸、クエン酸、またはその他の一塩基酸、二塩基酸、または三塩基酸を加えると、赤血球の凝集と止血を促進する、陽イオン特性と粘膜接着特性が得られるからである。表面局在性の粘膜接着特性の利点は、反応基は、それらが最も効果的に血液と反応する場所に存在し、粒子のコアが粘膜接着性でないこと、つまり粒子の有効性の向上と、その効果的な投与と、血液とその他の強力かつ粘着性の凝血塊を形成する同様の構造を持つ粒子の凝集の向上のために、それは血液不溶性であり、高密度キチン中心を提供するであろうということである。
【0081】
脱アセチル化されたキチン(キトサン)が粒子表面に局在していることの、特に破裂/膨張ビーズまたは顆粒の場合におけるもう一つの利点は、止血、抗菌、または抗ウィルスの用途に効果的に使用される、高比表面積で官能基を持つビーズ/顆粒/粒子を生成するために、キトサンのアミン基の誘導体化が容易に可能になることである。
【0082】
(III.結論)
本発明の上述の実施形態は、その原則を説明するものに過ぎず、限定されるものでないことは明らかであるべきである。代わりに、本発明の範囲は、それらと同等のものを含む、以下の特許請求の範囲から定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1A】図1Aは、圧迫による止血ができない出血の腔内部位の概略的な解剖図であり、この部位を止血し、シールし、または安定化させるために内部に止血薬が適用される。
【図1B】図1Bは、図1Aに示される止血薬の拡大図であり、薬剤を含む顆粒または粒子を示す。
【図2】図2は、図1Bに示される顆粒または粒子をさらに拡大した図である。
【図3】図3は、図2に示される顆粒または粒子をキトサン材料から製造する過程の概略的なフローチャート図である。
【図4】図4は、キトサン物質高密度ビーズを顆粒または粒子に添加する、図3に示される製造過程の代替的ステップを示す。
【図5】図5は、キトサン材料の高密度ビーズを含むように生成された顆粒または粒子を示す。
【図6】図6は、ポリマーメッシュ材の細片を顆粒または粒子に添加する、図3に示される製造過程の代替的ステップを示す。
【図7】図7は、ポリマーメッシュ材を含む、生成された顆粒または粒子を示す。
【図8】図8は、ポリマーメッシュ材の細片と混合した止血顆粒または粒子を含む止血薬の合成物を示す。
【図9】図9は、投与用に、ポリマーメッシュ材のソックレットに入れられた、図2または4または7に示される顆粒または粒子のボーラスを示す。
【図10】図10は、ポリマーメッシュ材のソックレットに入れられた、図9に示される顆粒または粒子のボーラスを、損傷部位に投与する一つの方法を示す。
【図11A】図11Aと11Bは、図2または4または7に示される顆粒または粒子のボーラスを、損傷部位で分離可能なポリマーメッシュのソックレット内に投与する一方法を示す。
【図11B】図11Aと11Bは、図2または4または7に示される顆粒または粒子のボーラスを、損傷部位で分離可能なポリマーメッシュのソックレット内に投与する一方法を示す。
【図12】図12は、図2または4または7に示される顆粒または粒子のボーラスを、封じ込めソックレットなどを使用せずに損傷部位に投与する代替的な方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顆粒または粒子の形状の止血材料を含む止血薬。
【請求項2】
前記止血材料はキトサン材料を含む、請求項1に記載の薬。
【請求項3】
前記止血材料はキチン材料を含む、請求項1に記載の薬。
【請求項4】
前記止血材料は高密度キトサン材料を含む、請求項1に記載の薬。
【請求項5】
前記顆粒または粒子は高密度キトサンビーズを内部に含む、請求項1に記載の薬。
【請求項6】
前記顆粒または粒子はポリマーメッシュ材を内部に含む、請求項1に記載の薬。
【請求項7】
請求項1に定義されるような薬を提供し、該薬を出血に適用することを含む、出血を止血し、シールし、または安定化させるための方法。
【請求項8】
前記顆粒または粒子の形状の止血薬と、前記止血材料を点在させられたポリマーメッシュ材の細片とを含む、止血アセンブリ。
【請求項9】
前記顆粒または粒子の形状の止血薬と、該止血薬を運ぶポリマーメッシュソックレットとを含む、止血アセンブリ。
【請求項10】
前記止血薬はキトサン材料を含む、請求項8または9に記載のアセンブリ。
【請求項11】
前記止血薬はキチン材料を含む、請求項8または9に記載のアセンブリ。
【請求項12】
前記止血薬は高密度キトサン材料を含む、請求項8または9に記載のアセンブリ。
【請求項13】
請求項8または9に定義されるような薬を提供し、該薬を出血に適用することを含む、出血を止血し、シールし、または安定化させるための方法。
【請求項14】
顆粒または粒子の形状に既に粉砕されている、部分的または完全にタンパク質除去された甲殻類の殻材料を含む止血薬。
【請求項15】
前記甲殻類の殻材料は、部分的または完全にカルシウムを除去もされている、請求項14に記載の薬。
【請求項16】
前記甲殻類の殻材料はキチンを含む、請求項14に記載の薬。
【請求項17】
前記甲殻類の殻材料はキトサンを含む、請求項14に記載の薬。
【請求項18】
前記粉砕された甲殻類の殻材料を点在させられたポリマーメッシュ材の細片をさらに含む、請求項14に記載の薬。
【請求項19】
前記粉砕された甲殻類の殻材料を含むポリマーメッシュソックレットをさらに含む、請求項14に記載の薬。
【請求項20】
請求項14に定義されるような薬を提供し、該薬を出血に適用することを含む、出血を止血し、シールし、または安定化させるための方法。
【請求項1】
顆粒または粒子の形状の止血材料を含む止血薬。
【請求項2】
前記止血材料はキトサン材料を含む、請求項1に記載の薬。
【請求項3】
前記止血材料はキチン材料を含む、請求項1に記載の薬。
【請求項4】
前記止血材料は高密度キトサン材料を含む、請求項1に記載の薬。
【請求項5】
前記顆粒または粒子は高密度キトサンビーズを内部に含む、請求項1に記載の薬。
【請求項6】
前記顆粒または粒子はポリマーメッシュ材を内部に含む、請求項1に記載の薬。
【請求項7】
請求項1に定義されるような薬を提供し、該薬を出血に適用することを含む、出血を止血し、シールし、または安定化させるための方法。
【請求項8】
前記顆粒または粒子の形状の止血薬と、前記止血材料を点在させられたポリマーメッシュ材の細片とを含む、止血アセンブリ。
【請求項9】
前記顆粒または粒子の形状の止血薬と、該止血薬を運ぶポリマーメッシュソックレットとを含む、止血アセンブリ。
【請求項10】
前記止血薬はキトサン材料を含む、請求項8または9に記載のアセンブリ。
【請求項11】
前記止血薬はキチン材料を含む、請求項8または9に記載のアセンブリ。
【請求項12】
前記止血薬は高密度キトサン材料を含む、請求項8または9に記載のアセンブリ。
【請求項13】
請求項8または9に定義されるような薬を提供し、該薬を出血に適用することを含む、出血を止血し、シールし、または安定化させるための方法。
【請求項14】
顆粒または粒子の形状に既に粉砕されている、部分的または完全にタンパク質除去された甲殻類の殻材料を含む止血薬。
【請求項15】
前記甲殻類の殻材料は、部分的または完全にカルシウムを除去もされている、請求項14に記載の薬。
【請求項16】
前記甲殻類の殻材料はキチンを含む、請求項14に記載の薬。
【請求項17】
前記甲殻類の殻材料はキトサンを含む、請求項14に記載の薬。
【請求項18】
前記粉砕された甲殻類の殻材料を点在させられたポリマーメッシュ材の細片をさらに含む、請求項14に記載の薬。
【請求項19】
前記粉砕された甲殻類の殻材料を含むポリマーメッシュソックレットをさらに含む、請求項14に記載の薬。
【請求項20】
請求項14に定義されるような薬を提供し、該薬を出血に適用することを含む、出血を止血し、シールし、または安定化させるための方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【公表番号】特表2009−505685(P2009−505685A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521624(P2008−521624)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/027279
【国際公開番号】WO2007/009050
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(506211517)ヘムコン, インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/027279
【国際公開番号】WO2007/009050
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(506211517)ヘムコン, インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】
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