説明

キトサン含有組成物とその製造方法

【課題】医薬品添加物、飲食物及び化粧品に応用できる産業上有用な、水溶液の状態で中性〜弱アルカリ性のpH域である透明な水溶液、ゲル及びこれらの乾燥粉末のいずれかの状態のキトサン含有組成物、並びにその製造方法の提供。
【解決手段】キトサンに酸を加えて溶解しキトサン酸性水溶液を作製するA工程と、前記キトサン酸性水溶液に酸性高分子化合物を混合し、次いで、混合により生成した、水に不溶性のキトサンと酸性高分子化合物との塩から水溶性の塩を取り除くB工程と、前記水に不溶性のキトサンと酸性高分子化合物との塩を、直接又は乾燥固形化した後に弱塩基性溶液に溶解し、水溶液又はゲルの状態のキトサン含有組成物を得るC工程と、を有することを特徴とするキトサン含有組成物の製造方法。該製造方法により得られるキトサン含有組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサンを含み、透明性の高い溶液、ゲル及びこれらの乾燥粉末のいずれかの状態であり、水溶液の状態で中性から弱アルカリ性であるキトサン含有組成物、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、アミノ基を有する多糖であり、これまでに食品、化粧品、整髪料への利用が知られている。さらにキトサンは、医薬分野、特に、創傷治療での利用及び機能性製剤の基剤として注目されている物質である。
【0003】
キトサンを構成するグルコサミンのオリゴ糖は、水に溶解することは知られているが、従来、キトサンの溶液としては酢酸、塩酸、乳酸等の塩またはこれらの酸性溶液を用い溶解した酸性溶液しか知られていない。したがって、キトサン溶液は、酸性であるため、食品または機能性食品においては、酸味のあるものしか製造できず、中性或いは弱塩基性においては溶解せず懸濁液となるため、透明な液或いはゲルを作製できなかった。
【0004】
また、非特許文献1には、キトサンと酸性高分子化合物であるコンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸との塩が開示されており、非特許文献2には、キトサンとカラギナンとの塩が開示されているが、これを溶解し中性から弱アルカリ性の透明性の高い溶液、高粘性溶液又はゲルができることは知られていない。
【非特許文献1】化学工学会第36回秋季大会講演要旨集 講演番号 W2A02,1148頁
【非特許文献2】山形大学大学工学部 機能高分子工学科、物質工学科平成15年度卒業研究発表要旨、C−32
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キトサンを中性ないし弱アルカリ性に溶解した溶液、粘性溶液及びゲルを用いることにより、透明な外観を持つ飲食物、機能性食品または、特に酸性で不安定な医薬品の医薬品添加物としての利用が期待されているが、キトサンを中性ないし弱アルカリ性に溶解した溶液、粘性溶液及びゲルについてのその調製方法及び性質は知られていない。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、医薬品添加物、飲食物及び化粧品に応用できる産業上有用な、キトサン、酸性高分子化合物及び炭酸塩からなり、水溶液の状態で中性〜弱アルカリ性のpH域である透明な水溶液、ゲル及びこれらの乾燥粉末のいずれかの状態のキトサン含有組成物、並びにその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、キトサンと、酸性高分子化合物と、炭酸塩とを含み、水溶液、ゲル又はそれらを乾燥して得られる乾燥粉末のいずれかの状態であり、水溶液の状態でpH7.0〜9.5の範囲であることを特徴とするキトサン含有組成物を提供する。
【0008】
本発明のキトサン含有組成物において、前記酸性高分子化合物が、カラギナン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0009】
本発明のキトサン含有組成物において、前記炭酸塩が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0010】
本発明のキトサン含有組成物において、前記キトサン含有組成物が水溶液の状態であることが好ましい。
【0011】
本発明のキトサン含有組成物において、前記キトサン含有組成物がゲルの状態であってもよい。
【0012】
本発明のキトサン含有組成物において、前記キトサン含有組成物が前記水溶液又はゲルを乾燥して得られる乾燥粉末の状態であってもよい。
【0013】
また本発明は、キトサンに酸を加えて溶解しキトサン酸性水溶液を作製するA工程と、
前記キトサン酸性水溶液に酸性高分子化合物を混合し、次いで、混合により生成した、水に不溶性のキトサンと酸性高分子化合物との塩から水溶性の塩を取り除くB工程と、
前記水に不溶性のキトサンと酸性高分子化合物との塩を、直接又は乾燥固形化した後に弱塩基性溶液に溶解し、水溶液又はゲルの状態のキトサン含有組成物を得るC工程と、を有することを特徴とするキトサン含有組成物の製造方法を提供する。
【0014】
本発明のキトサン含有組成物の製造方法において、前記C工程で得られた水溶液又はゲルの状態のキトサン含有組成物を、乾燥処理して乾燥粉末状態のキトサン含有組成物を得る工程を有していてもよい。
【0015】
本発明のキトサン含有組成物の製造方法において、前記酸性高分子化合物が、カラギナン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0016】
本発明のキトサン含有組成物の製造方法において、前記弱塩基性溶液が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムからなる群から選択される1種又は2種以上を含む水溶液であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、キトサンを含有し、水溶液の状態で中性から弱アルカリ性のpH域で透明性の高い水溶液、ゲル及びそれらを乾燥して得られる乾燥粉末のいずれかの状態のキトサン含有組成物を提供でき、これにより、食品、飲料、化粧品、医薬品などの分野において、キトサンを含み、透明性が高く、酸味のない使用感に優れた製品を提供することができる。
また本発明は、食品、飲料、化粧品、医薬品などの分野において、酸性で安定性の低い化合物へのキトサンの配合のための手段を提供する。
また本発明のキトサン含有組成物の製造方法は、前述した通り、産業上有用な前記キトサン含有組成物を簡便に製造することができる。
また、本発明のキトサン含有組成物の製造方法により得られるキトサン含有組成物の乾燥粉末は、医薬品製造のゲル化用添加物として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明者らは、まず、キトサンの酸性溶液を種々の方法で中性〜弱アルカリ性とする試みを実施したが、キトサンが析出してしまい、透明な中性〜弱アルカリ性キトサン水溶液を得ることはできなかった。また、キトサンを溶解するための酸を中和するために、単にアルカリ中和剤を添加していくと、その溶液の塩濃度が高くなってしまい、食品、飲料、化粧品、医薬品などの分野で使用する場合を考えると、望ましくない。
【0019】
そこで、析出を防止するため、酸性高分子化合物の増粘剤またはゲル化剤を用い、水に難溶性の塩とし、キトサンを溶解するために用いた酸を水による洗浄により除き、この水に難溶性の塩を弱塩基性溶液に溶解すること及びこの溶解液及びこの溶解液の凍結乾燥物を見出し、本発明を完成した。
【0020】
すなわち、本発明は、キトサンに酸を加えて溶解しキトサン酸性水溶液を作製するA工程と、
前記キトサン酸性水溶液に酸性高分子化合物を混合し、次いで、混合により生成した、水に不溶性のキトサンと酸性高分子化合物の塩から水溶性の塩を取り除くB工程と、
前記水に不溶性のキトサンと酸性高分子化合物との塩を、直接又は乾燥固形化した後に弱塩基性溶液に溶解し、水溶液又はゲルの状態のキトサン含有組成物を得るC工程と、必要に応じて、得られた水溶液又はゲルの状態のキトサン含有組成物を、乾燥処理して乾燥粉末状態のキトサン含有組成物を得る工程を有することを特徴とするキトサン含有組成物の製造方法であり、且つ本製造方法により得られ、キトサン、酸性高分子化合物及び炭酸塩からなり、水溶液の状態でpH7.0〜9.5の範囲である水溶液、ゲル及びこれらの乾燥粉末のいずれかの状態のキトサン含有組成物である。
【0021】
本発明のキトサン含有組成物は、水溶液の状態でpH7.0〜9.5の範囲であることを特徴としており、好ましくはpH7.2〜9.2の範囲であり、さらに好ましくはpH7.3〜9.1の範囲である。このpHが7.0〜9.5の範囲内であれば、キトサンの析出が少ないので好ましい。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、キトサン含有組成物は、キトサン濃度が0.2質量%から2質量%の水溶液の状態で、光路長10mmの石英セルに入れ、波長600nmで測定し、キトサン濃度1%に補正した透過率が10%以上、好ましくは20%以上、さらに好ましくは40%以上であるような高い透明性を有している。前記条件の水溶液での透過率が10%以上であれば白濁感が感じられないので好ましい。
【0023】
本発明の製造方法のA工程では、キトサンに酸を加え溶解させてキトサン酸性水溶液を作製する。キトサンを溶解させる方法としては、キトサンに水をあらかじめ加えた後、酸または、酸溶液を加えてもよいし、キトサンに直接酸溶液を加えてもよい。また、キトサンの水溶性塩を水に溶解してもよい。この溶解時の温度は、0℃から100℃で温度を変化させてもよく、必要に応じて撹拌し、溶解液が透明になるまで溶解させることが望ましい。また、必要に応じて、溶液中に塩化ナトリウム等の塩類を添加してもよい。
【0024】
本発明に用いられるキトサンは、主にカニ、エビなどの甲殻類の殻に含まれるキチンの脱アセチル化物であり、アミノ基を有する多糖であり、公知の物質である。キトサンの市販品としては、例えば、甲陽ケミカル株式会社製の商品名「コーヨーキトサンFL−80」、「コーヨーキトサンFM−40」、「コーヨーキトサンFM−80」、「コーヨーキトサンFH−80」、「コーヨーキトサンFM−200」、和光純薬株式会社製の商品名「キトサン5」、「キトサン50」、「キトサン500」、「キトサン1000」等が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用することも可能である。また、水溶性塩の市販されている例としては、甲陽ケミカル株式会社製の商品名「コーヨーキトサンFLA−40」等が挙げられる。
【0025】
前記A工程において、キトサンの溶解のために用いる酸としては、酢酸、塩酸、蟻酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸等の有機酸、塩酸、硫酸等の無機酸からなる群から選択される酸が挙げられ、これらの中から1種を単独で、又は2種以上を組み合わせ、直接又は水溶液にして用いることができる。
【0026】
本発明の製造方法のB工程において、キトサン酸性水溶液に加える酸性高分子化合物溶液は、酸性高分子化合物に水を加え溶解させたものを用いることが望ましい。このときの温度は、0℃から100℃の範囲とし、温度を変化させてもよく、必要に応じて撹拌し、溶解液が透明になるまで溶解させることが望ましい。また、必要に応じ塩化ナトリウム等の塩類を溶液中に添加してもよい。この酸性高分子化合物の量は、キトサン酸性水溶液中のキトサンを、可能な限り不溶性の塩として析出させる十分な量とすることが好ましい。
【0027】
本発明に用いられる酸性高分子化合物としては、分子量1000以上、好ましくは分子量5000以上で、硫酸基、カルボキシル基及びこれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム等の塩を1つ以上含む化合物が挙げられる。具体的な化合物の例としては、カラギナン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0028】
本発明において酸性高分子化合物として用いるカラギナンは、イューキュマ・コトニ、イューキュマ・スピノサム等の海藻(紅藻類)を原料に得られる公知の物質であり、その構造によりカッパ、ラムダ、イオタの各タイプが知られているが、そのいずれでもよく、2種以上の混合物でもよい。市販品としては、例えば、大日本住友製薬株式会社製の商品名「シーピーガムFA」、伊那食品工業株式会社製の商品名「カラギナンPA−1」、「カラギナンPA−2」、「カラギナンPA−3」、「カラギナンCS−1」、「カラギナンCS−2」、「カラギナンCS−3」等が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0029】
本発明において酸性高分子化合物として用いるコンドロイチン硫酸ナトリウムは、サメ、イカ等の軟骨を原料に得られる公知の物質であり、市販品としては、例えば、生化学工業株式会社製の商品名「コンドロイチン硫酸ナトリウム」、キューピー株式会社製の商品名「コンドロイチンQ」等が挙げられる。
【0030】
本発明において酸性高分子化合物として用いるポリアクリル酸は、合成高分子であり、カルボキシビニルポリマーとも称される公知の物質でありる。市販品としては、例えば、日光ケミカルズ株式会社製の商品名「カーボポール980」、「カーボポール981」、「カーボポール2984」、「カーボポール5984」、「カーボポールUltrez 10」等が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0031】
前記B工程において、キトサン酸性水溶液と酸性高分子化合物溶液とを混合する場合、キトサン酸性水溶液を酸性高分子化合物溶液に加えてもよいし、キトサンに酸性高分子化合物溶液を加えてもよい。このときの温度は、0℃から100℃の範囲とし、温度を変化させてもよく、必要に応じて撹拌してもよい。また、必要に応じて塩化ナトリウム等の塩類を溶液中に加えてもよい。混合溶液は、キトサンと酸性高分子化合物との不溶性の塩を生成させるため、必要に応じて撹拌又は静置する。このときの温度は、0℃から100℃の範囲とし、温度を変化させてもよい。
【0032】
キトサンと酸性高分子化合物との不溶性の塩(以下、固形物と記す。)が十分に生成した後、固形物を液相から分離することによって、固形物と液相中に溶解している水溶性塩とを分離する。この分離処理は、濾過、遠心分離、圧搾、透析等のいずれかの処理方法を用いて行うことができる。また必要に応じて、分離した固形物に繰り返し水を加え、濾過、遠心分離、圧搾等の方法で固形物から水溶性の塩をさらに分離(固形物の洗浄)してもよい。
【0033】
前記の固形物の分離操作により、湿潤状態の固形物が得られる。この湿潤状態の固形物は、特に脱水・乾燥することなく、次のC工程の材料として直接用いてもよい。また、必要に応じてこれを粉砕してもよい。この湿潤状態の固形物は、風乾、凍結乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥等により、乾燥固形化してもよく、さらに、必要に応じ乾燥物を粉砕してもよい。
【0034】
本発明の製造方法におけるC工程では、B工程で得た種々の状態(湿潤状態や乾燥状態)の固形物を弱塩基性溶液に溶解し、pH7.0〜9.5の範囲である中性から弱アルカリ性の透明性の高い水溶液又はゲルのいずれかのキトサン含有組成物を作製する。前記固形物を弱塩基性溶液に溶解させる方法は、固形物に弱塩基性溶液を加えてもよいし、固形物を弱塩基性溶液中に加えてもよいし、固形物を水と混合した後に弱塩基性塩を加えてもよい。このとき必要に応じて撹拌してもよい。
【0035】
このC工程において用いる前記弱塩基性溶液としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムからなる群から選択される1種又は2種以上を含む水溶液であることが好ましい。この弱塩基性溶液は、固形物の溶解後に得られる水溶液又はゲルのpHが前記範囲内に収まるよう、混合物のpHを測定しながら、適量を添加することが望ましい。
【0036】
このように本発明によれば、キトサンを含有し、水溶液の状態で中性から弱アルカリ性のpH域で透明性の高い水溶液やゲル状のキトサン含有組成物を提供でき、これにより、食品、飲料、化粧品、医薬品などの分野において、キトサンを含み、透明性が高く、酸味のない使用感に優れた製品を提供することができる。
また本発明は、食品、飲料、化粧品、医薬品などの分野において、酸性で安定性の低い化合物へのキトサンの配合のための手段を提供する。
また本発明のキトサン含有組成物の製造方法は、前述した通り、産業上有用な前記キトサン含有組成物を簡便に製造することができる。
【0037】
また本発明では、前記C工程で得られた水溶液又はゲルの状態のキトサン含有組成物を、乾燥処理して乾燥粉末状態のキトサン含有組成物を得ることもできる。これにより得られるキトサン含有組成物の乾燥粉末は、医薬品製造のゲル化用添加物として利用できる。
【0038】
以下、実施例により本発明をより具体的に例示するが、以下の実施例は本発明の単なる例示にすぎず、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
精製水97mLにキトサン(和光純薬株式会社製、商品名「キトサン500」)2.7gを加え懸濁し、これに酢酸3mL、塩化ナトリウム5.44gを加え、90℃で15分撹拌し、均一に溶解させてキトサン酸性水溶液を作製した。
これとは別に、精製水100mLに塩化ナトリウム5.44g及びカラギナン(和光純薬株式会社製、商品名「κ−カラギーナン」)4.3gを加え、90℃で15分撹拌してカラギナン溶液を作製した。
これら2液を混合し、更に90℃で15分撹拌した。次いで、荒熱をとり、冷蔵庫で1夜冷却した。
次いで、生成した固形物を圧搾し、水溶性塩を分離し、更に精製水300mLを加え、圧搾し、水溶性塩をさらに分離した。
水溶性塩を分離した固形物の半量を0.10mol/Lの炭酸水素ナトリウム溶液250mLに溶解し、透明な粘性の高い溶液を作製した。この溶液のpHは9.03であった。また、この溶液を光路長10mmの石英セルに入れ、波長600nmで透過率を測定した結果、キトサン濃度1%に補正した透過率は68.68%であった。
【0040】
[実施例2]
精製水97mLにキトサン(和光純薬株式会社製、商品名「キトサン500」)2.7gを加え懸濁し、これに酢酸3mL、塩化ナトリウム5.44gを加え、90℃で15分撹拌し、均一に溶解させてキトサン酸性水溶液を作製した。
これとは別に、精製水100mLに塩化ナトリウム5.44g及びカラギナン(和光純薬株式会社製、商品名「κ−カラギーナン」)4.3gを加え、90℃で15分撹拌してカラギナン溶液を作製した。
これら2液を混合し、更に90℃で15分撹拌した。次いで、荒熱をとり、冷蔵庫で1夜冷却した。
次いで、生成した固形物を圧搾し、水溶性塩を分離し、更に精製水300mLを加え、圧搾し、水溶性塩をさらに分離した。
水溶性塩を分離した固形物の半量を凍結乾燥後、粉砕して固形物乾燥粉末とした。この固形物乾燥粉末0.017gに、0.2mol/L炭酸水素ナトリウム溶液1.4mL及び精製水0.35mLを加え、pH8.19の均一で透明な粘度のある溶液を得た。この溶液を光路長10mmの石英セルに入れ、波長600nmで透過率を測定した結果、キトサン濃度1%に補正した透過率は15.00%であった。
【0041】
[実施例3]
実施例2で作製した固形物乾燥粉末0.05gに、0.2mol/L炭酸アンモニウム溶液2mL及び精製水3mLを加え、pH9.12のほぼ透明な粘度のある溶液を得た。この溶液は、実施例2とほぼ同等の外観を有していた。
【0042】
[実施例4]
精製水10mLにキトサン(甲陽ケミカル株式会社製、商品名「コーヨーキトサンFL−80」)0.27gを加え懸濁し、クエン酸0.34gを加え90℃で15分撹拌し、均一に溶解させてキトサン酸性水溶液を作製した。
これとは別に、精製水10mLにκ−カラギナン(和光純薬株式会社製、商品名「κ−カラギーナン」)0.43gを加え、90℃で15分撹拌してカラギナン溶液を作製した。
これら2液を混合し、更に90℃で15分撹拌した。次いで、荒熱をとり、冷蔵庫で1夜冷却した。
次いで、生成したゲル状の固形物を圧搾し、水溶性塩を分離し、更に精製水30mLを加え、圧搾して水溶性塩をさらに分離した。得られた固形物を凍結乾燥し、粉砕して固形物乾燥粉末とした。
この固形物乾燥粉末0.05gに0.2 mol/L炭酸水素ナトリウム溶液4mL及び精製水1mLを加え、pH7.40の均一で透明な溶液を得た。この溶液は、実施例2とほぼ同等の外観を有していた。
【0043】
[実施例5]
実施例4で作製した固形物乾燥粉末0.05gに、0.2mol/L炭酸水素アンモニウム溶液5mLを加え、pH7.67のほぼ透明な溶液を得た。この溶液は、実施例2とほぼ同等の外観を有していた。
【0044】
[実施例6]
精製水10mLにキトサン(甲陽ケミカル株式会社製、商品名「コーヨーキトサンFM−40」)0.27gを加え懸濁し、1mol/Lの塩酸2mLを加え90℃で15分撹拌し、均一に溶解させてキトサン酸性水溶液を作製した。
これとは別に、精製水10mLにι−カラギナン(東京化成株式会社製、商品名「ι−カラギーナン」)0.43gを加え、90℃で15分撹拌してカラギナン溶液を作製した。
これら2液を混合し、更に90℃で15分撹拌した。次いで、荒熱をとり、冷蔵庫で1夜冷却した。
次いで、生成したゲル状の固形物を圧搾し、水溶性塩を分離し、更に精製水30mLを加え、圧搾し水溶性塩をさらに分離した。得られた固形物を凍結乾燥し、粉砕して固形物乾燥粉体とした。
この乾燥粉末0.05gに0.2mol/L炭酸水素ナトリウム溶液5mLを加え、pH7.36の均一で透明な溶液を得た。この溶液は、実施例2とほぼ同等の外観を有していた。
【0045】
[実施例7]
精製水5mLにキトサン(甲陽ケミカル株式会社製、商品名「コーヨーキトサンFL−80」)0.13gを加え懸濁し、クエン酸0.17gを加え室温で15分撹拌し、均一に溶解させてキトサン酸性水溶液を作製した。
これとは別に、精製水5mLにコンドロイチン硫酸ナトリウム(生化学工業株式会社製、商品名「コンドロイチン硫酸ナトリウム」)0.21gを加え、室温で15分撹拌した。
これら2液を混合し、更に15分撹拌した。次いで、生成した固形物を遠心分離し、上清を捨て、精製水20mLを加え、洗浄、脱塩を3回繰り返した。
洗浄した固形物に精製水を加え、全容量を20mLにし、これに炭酸水素ナトリウム0.5gを加え、固形物を溶解した。得られた溶液を凍結乾燥し、乾燥状態のキトサン含有組成物0.6855gを得た。
更に、これに精製水10mLを加え、透明な溶液を得た。この溶液は、実施例2とほぼ同等の外観を有していた。
【0046】
[実施例8]
精製水5mLにキトサン(甲陽ケミカル株式会社製、商品名「コーヨーキトサンFL−80」)0.13gを加え懸濁し、クエン酸0.17gを加え15分撹拌し、均一に溶解させてキトサン酸性水溶液を作製した。
これとは別に、精製水10mLにアルギン酸ナトリウム(和光純薬株式会社製、商品名「アルギン酸ナトリウム80−120」)0.21gを加え15分撹拌した。
これら2液を混合し、更に15分撹拌した。これに塩化ナトリウム1gを加え、更に1時間撹拌した。次いで、生成した固形物を遠心分離し、上清を捨て、精製水20mLを加え、洗浄、脱塩を3回繰り返した。
洗浄した固形物に精製水を加え、全容量を20mLにし、これに炭酸水素ナトリウム0.5gを加え、固形物を溶解した。得られた溶液を凍結乾燥し、乾燥状態のキトサン含有組成物0.5298gを得た。
更に、これに精製水10mLを加え、透明な溶液を得た。この溶液は、実施例2とほぼ同等の外観を有していた。
【0047】
[実施例9]
精製水5mLにキトサン(甲陽ケミカル株式会社製、商品名「コーヨーキトサンFL−80」)0.13gを加え懸濁し、クエン酸0.17gを加え15分撹拌し、均一に溶解させてキトサン酸性水溶液を作製した。
これとは別に、精製水5mLにデキストラン硫酸ナトリウム(和光純薬株式会社製、商品名「デキストラン硫酸ナトリウム5000」)0.21gを加え15分撹拌した。
これら2液を混合し、塩化ナトリウム1gを加え、更に3時間撹拌した。生成した固形物を遠心分離し、上清を捨て、精製水10mLを加え、洗浄、脱塩を3回繰り返した。
洗浄した固形物に精製水10mLを加え懸濁し、凍結乾燥し、乾燥固形物0.160gを得た。
次いで、得られた乾燥固形物に精製水10mL及び炭酸水素ナトリウム0.5gを加え溶解し、透明でやや粘性のあるpH7.89の溶液を得た。この溶液を光路長10mmの石英セルに入れ、波長600nmで透過率を測定した結果、キトサン濃度1%に補正した透過率は48.08%であった。
【0048】
[比較例]
精製水10mLにキトサン(甲陽ケミカル株式会社製、商品名「コーヨーキトサンFL−80」)0.27gを加え懸濁し、これにクエン酸0.34gを加え、90℃で15分撹拌し、均一に溶解させてキトサン酸性水溶液を作製した。このキトサン酸性水溶液のpHは2.79であった。
このキトサン酸性水溶液に、溶液のpHをモニタしながら、1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を滴下し、中和処理を行った。
溶液のpHが3.79以上になると、キトサンが析出し、溶液が白濁した。溶液のpHが7.45となった時点で、水酸化ナトリウム溶液の滴下を止め、その白濁溶液を光路長10mmの石英セルに入れ、波長600nmで透過率を測定した結果、溶液の透過率は0.5%以下であった。
得られた白濁溶液は、含有する水溶性塩の濃度が高く、外観が悪いため、飲料製造などの食品用途などでは実用化が困難なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンと、酸性高分子化合物と、炭酸塩とを含み、水溶液、ゲル又はそれらを乾燥して得られる乾燥粉末のいずれかの状態であり、水溶液の状態でpH7.0〜9.5の範囲であることを特徴とするキトサン含有組成物。
【請求項2】
前記酸性高分子化合物が、カラギナン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のキトサン含有組成物。
【請求項3】
前記炭酸塩が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のキトサン含有組成物。
【請求項4】
前記キトサン含有組成物が水溶液の状態であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキトサン含有組成物。
【請求項5】
前記キトサン含有組成物がゲルの状態であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキトサン含有組成物。
【請求項6】
前記キトサン含有組成物が前記水溶液又はゲルを乾燥して得られる乾燥粉末の状態であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキトサン含有組成物。
【請求項7】
キトサンに酸を加えて溶解しキトサン酸性水溶液を作製するA工程と、
前記キトサン酸性水溶液に酸性高分子化合物を混合し、次いで、混合により生成した、水に不溶性のキトサンと酸性高分子化合物との塩から水溶性の塩を取り除くB工程と、
前記水に不溶性のキトサンと酸性高分子化合物との塩を、直接又は乾燥固形化した後に弱塩基性溶液に溶解し、水溶液又はゲルの状態のキトサン含有組成物を得るC工程と、を有することを特徴とするキトサン含有組成物の製造方法。
【請求項8】
前記C工程で得られた水溶液又はゲルの状態のキトサン含有組成物を、乾燥処理して乾燥粉末状態のキトサン含有組成物を得る工程を有することを特徴とする請求項7に記載のキトサン含有組成物の製造方法。
【請求項9】
前記酸性高分子化合物が、カラギナン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項7又は8に記載のキトサン含有組成物の製造方法。
【請求項10】
前記弱塩基性溶液が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムからなる群から選択される1種又は2種以上を含む水溶液であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のキトサン含有組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−167124(P2009−167124A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6843(P2008−6843)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】