説明

キトサン誘導体、及び該キトサン誘導体を重合開始剤として含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物

【課題】水溶性であるともに生体に対する毒性が低いキトサン誘導体またはその塩、及び該キトサン誘導体を重合開始剤として含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の提供。
【解決手段】重合性官能基により置換された特定の構造を有するキトサン誘導体またはその塩の提供、及び該キトサン誘導体またはその塩を重合開始剤として含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の提供であって、該キトサン誘導体はキトサンにマレイミド基を有する基を導入することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水溶性キトサン誘導体またはその塩、並びに該キトサン誘導体を重合開始剤として含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線や可視光線などの活性エネルギー線により重合する活性エネルギー線硬化性組成物は、硬化が速いという利点を有し、塗料、印刷インキ、接着剤、コーティング剤等に広く利用されている。しかしながら、従来の活性エネルギー線硬化性組成物は、それら単独では重合が開始しないため、光重合開始剤を併用する必要がある。光重合開始剤は、硬化速度を速くするため、その添加量を増やすため添加量が多くなる傾向にある。
【0003】
活性エネルギー線硬化性樹脂の製造において、従来使われてきた光重合開始剤は、光を効率的に吸収するために、一般的に芳香環を有する化合物が用いられており、配合物又は熱により、硬化物が黄変しやすいという問題点を有している。また、光重合開始剤は、各種の活性エネルギー線硬化性モノマーまたはオリゴマーに溶解させて、重合反応を効率的に開始させる必要性から、通常、低分子量化合物が使用されている。低分子量の光重合開始剤は、蒸気圧が高く、常温〜150℃の状態で、悪臭を発生するものが多い。活性エネルギー線の光源の一つである紫外線ランプからは、紫外線以外に赤外線も発生するため、多数の紫外線ランプを連続的に並べて光照射すると、活性エネルギー線硬化性組成物が、かなり加温される結果、光重合開始剤による悪臭が発生し、作業環境が悪くなる欠点があった。
【0004】
また、活性エネルギー線硬化型樹脂は、一般に重合開始剤、機能性オリゴマー、モノマー等からなり、希釈剤や架橋剤として多官能性アクリル酸モノマーがよく用いられるが、アクリル酸モノマーは強い不快臭があり、目や皮膚に対して刺激性である等の欠点を有する。この問題を解決する一つの手段として、水を希釈剤として用いたシステムを構築することが有用であり、これまで、当該水系紫外線硬化性システムに関して種々の検討が行われてきた。本システムによれば、単に含水量を調節することによって、例えば、噴射または圧延するために必要な粘性を有する樹脂を容易に調節することが可能となる。
【0005】
これらの光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性組成物の欠点を改良するために、光重合開始剤を含まない活性エネルギー線硬化性組成物として、例えば、(特許文献1)には、重合性不飽和アクリル基を有する重合体及び有機溶剤可溶型スチレン含有アクリル系熱可塑性樹脂を含む硬化性組成物が、(特許文献2)及び(特許文献3)には、メタクリレート系単量体またはアクリル酸メチルの共重合体と光重合性単量体を含む光重合性接着剤組成物が、それぞれ提案されている。しかし、これらの活性エネルギー線硬化性組成物は、実用的な照射量では架橋度が低いという問題点を有する。
【0006】
さらに、(特許文献4)及び(非特許文献1)には、マレイミド化合物を電子受容体として用い、電子供与体と組み合わせて形成される電荷移動錯体を経由する光重合方法が開示されている。しかし、これらの反応においては、完全に硬化させるために高い照射強度を必要とする問題点を有する。しかし、これらの文献に記載のマレイミド化合物は常温で固体のものが多く、単独で硬化するか否かについては示唆されていない。また、特定のマレイミド誘導体がビニルエーテルと反応すること、アクリレートの開始剤的機能を発現することが開示されているが、実際には、前者に開示された重合方法では実用的な硬化塗膜を与えないという問題点を有し、後者に開示された重合方法では、溶解性の点から幅広い組成で共重合塗膜を形成し得ないという問題点を有していた。
【0007】
一方、キトサン誘導体に関しては、例えば、(特許文献5)には、アミノ基に炭素数4〜26のアシル基で置換されたアシルグルコサミンを構成単位とするキトサン誘導体についての記載がある。本文献には、アシル基となりうる不飽和脂肪酸として、リノール酸、オレイン酸の記載はあるが、本願に係るアシル基は記載されていない。また、用途も抗菌剤及び化粧品添加剤としての記載はあるが、重合開始剤としての具体的な記載、あるいはそれを示唆する記載もない。
【0008】
また、(特許文献6)には、アミノ基に飽和または不飽和の炭素数3〜24の飽和または不飽和の脂肪族アシル基で置換されたオリゴ糖を構成単位として有する新規なキトサン誘導体の記載がある。当該キトサン誘導体は、アミノ基にアシル基を有する点で本願発明のキトサン誘導体と類似するが、本願の構成単位である基とは異なる構造の基を有し、更には、用途については、ノニオン界面活性剤として、食品、医薬品、トイレタリー製品、化粧品、農薬、乳化剤、分散剤、洗浄剤としての記載があるものの重合開始剤の記載はない。
以上のように、本発明のキトサン誘導体またはその塩が水溶性の重合開始剤として優れた性能を有することはこれまで知られていなかった。
【0009】
【特許文献1】特開昭58−89609号公報
【特許文献2】特開平1−272676号公報
【特許文献3】特開平1−272677号公報
【特許文献4】特開平6−298817号公報
【特許文献5】特許第2615444号公報
【特許文献6】特許第3108763号公報
【非特許文献1】「ポリマー・プレプリンツ(Polymer Preprints)」第37巻第348〜349頁(1996年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では、上記の背景技術に鑑み、水溶性であるともに生体に対する毒性が低いキトサン誘導体またはその塩、及び該キトサン誘導体を重合開始剤として含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一般式(1)で表される基を構成単位として有するキトサン誘導体またはその塩、及び該キトサン誘導体またはその塩を重合開始剤として含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することにより、前記課題を解決する。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Rは−NH及び式(2)〜(11)
【0014】
【化2】

【0015】
(式(11)におけるRは、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、−X−は式(12)〜(16)からなる群から選ばれるいずれか1の基である。
【0016】
【化3】

【0017】
但し、mは1〜20の整数、nは1〜18の整数を表わす。)
で表される基からなる群から選ばれる基であり、
は−OH及び式(17)〜(24)
【0018】
【化4】

【0019】
(−X−は、上記式(12)〜(16)からなる群から選ばれるいずれか1の基である。)
で表される基からなる群から選ばれる基であるが、RまたはRの少なくともいずれか一方のうち、Rが式(10)または(11)で表される基であり、Rが式(24)で表される基である。)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の重合開始剤に比較し優れた活性エネルギー線硬化性能を有するばかりでなく、水溶性であって生体に対する毒性が低いキトサン誘導体、及び該キトサン誘導体を重合開始剤として含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者らは、新規キトサン利用技術の確立に向けて検討を重ねてきた。その結果、ある特定の置換基で置換された構成単位を有するキトサン誘導体またはその塩が、重合開始剤として、上記課題を解決するための優れた特性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、一般式(1)
【0022】
【化5】

【0023】
で表されるキトサン誘導体において、Rは−NH及び式(2)〜(11)
【0024】
【化6】

【0025】
(式(11)におけるRは、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、−X−は式(12)〜(16)からなる群から選ばれるいずれか1の基である。
【0026】
【化7】

【0027】
但し、mは1〜20の整数、nは1〜18の整数を表わす。)
で表される基からなる群から選ばれる基であり、
は−OH及び式(17)〜(24)
【0028】
【化8】

【0029】
(−X−は、式(12)〜(16)からなる群から選ばれるいずれか1の基である。)
で表される基からなる群から選ばれる基であるが、RまたはRの少なくともいずれか一方のうち、Rが式(10)または(11)で表される基であり、Rが式(24)で表される基である。)
であり、Rが式(24)であるキトサン誘導体またはその塩、並びに該キトサン誘導体またはその塩を重合開始剤として含んでなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関する。
【0030】
前記一般式(1)で表される基において、R及びRは、前記した基であれば特に制限はないが、本発明におけるキトサン誘導体またはその塩の化学構造上の特徴は、RまたはRの少なくともいずれか一方のうち、Rが式(10)または(11)で表される基であり、Rが式(24)で表される基である。
即ち、これらの基は、マレイミド基を有する基であり、本発明の重合開始剤としての性能を発揮するためには、RまたはRの少なくともいずれか一方が該マレイミド基を有することが必要である。
【0031】
これらの式(2)〜(11)で表される基の導入は、通常公知の方法によって行なうことができる。
即ち、例えば、式(2)または(3)で表される基の導入においては、キトサンと(メタ)アクリル酸ハライドを反応させればよいし、式(4)であらわされる基の導入においては、アリルハライドを反応させればよい。また、式(6)で表される基を導入する場合には、無水マレイン酸を反応させればよい。更に、式(7)で表される基を導入する場合には、p−ビニルベンゾイルハライドと反応させればよく、式(8)で表される基の導入には、p−ビニルベンジルハライドと反応させればよい。
【0032】
式(9)で表される基の導入は、無水フタル酸と反応させればよいし、式(10)で表される基の導入は、無水マレイン酸と反応させることにより目的物を得ることができる。
また、式(11)で表される基の導入は、式(A)で表される基と反応させることにより行なうことができる。
【0033】
【化9】

【0034】
(式(A)中、−X−は前記式(12)〜(16)のいずれか1の基、Yはハロゲン原子を表わす。)
同様にして、式(17)〜(24)で表される基の導入も、前記した通常公知の方法によって行なうことができる。
好ましい構成単位の構造としては、具体的には、例えば、以下の一般式(25)〜(31)で表される構造を有する基が挙げられるがこれらに限られるものではない。
【0035】
【化10】

【0036】
前記キトサン誘導体またはその塩における構成単位(1)において、RまたはRが置換された割合は特に制限はなく、以下のようにプロトンNMR測定によってその値を求めることができる。
即ち、プロトン核磁気共鳴チャートから、キトサンに置換したRまたはRの二重結合の水素原子数と、キトサンの骨格を形成する炭素原子に結合した水素原子の内、酸素原子或いは窒素原子のα位の炭素に置換した水素原子数6個(キトサン骨格の1位炭素に結合した水素:1個、同2位:1個、同3位:1個、同5位:1個、同6位2個、合計6個)との比率を求め、その数値からキトサン誘導体中に存在する二重結合の割合を算出する。
【0037】
本発明に係るキトサン誘導体は、RまたはRの少なくともいずれか一方がマレイミド基を有する基であることが必要である。
該マレイミド基が置換された割合を算出するには、キトサンの構成単位である2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースの有する水素原子数6個に対して、マレイミド基に由来する二重結合の水素原子が2個観測された場合、置換された割合を100%として、以下の計算式によって算出する。

置換された割合(%)=((観測されるマレイミド基の水素原子数)/6)/(100%置換された場合の水素原子数2/キトサンの有する水素原子数6)

上記の置換された割合(%)に、特に制限はないが、好ましくは1%以上200%以下であり、より好ましくは、5%以上150%以下である割合を挙げることができるが、略2%以上であれば、重合開始剤としての機能を発揮する。前記キトサン誘導体の分子量は、特に制限はないが、好ましくは500〜30,000の重量平均分子量を挙げることができる。
【0038】
上記キトサンは、単一の重合度を持つものであっても、種々の重合度を持つキトサンの混合物であってもよいが、好ましくは溶媒分別法等により重合度分布を狭めたものが好ましく、例えば各種クロマト法等により一定の重合度を持つオリゴ糖に精製したものを使用することができる。
【0039】
本発明に用いられるキトサンは、β−1,4結合した2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースであって、このようなキトサンは、カニ、エビ、昆虫の甲殻、酵母菌などの微生物の細胞壁に存在する多糖であるキチンから、通常公知の方法、例えば、キチンをアルカリ性条件下で脱アセチル化して得ることができる。また、該キチンを鉱酸または酵素により加水分解してもキトサンとすることができ、本発明のキトサンまたはその塩の製造は、これらのいずれかの方法によって得られたキトサンを用いることができる。
【0040】
本発明のキトサン誘導体は、上記のキトサンを溶解せしめる溶媒に溶解して、上記した方法により、式(2)〜(11)及び(17)〜(24)で表される基を導入することにより得ることができる。反応に用いられる溶媒としては、キトサンの溶解性が高いことから酸性溶媒が好ましく、例えば、メタンスルホン酸、酢酸等の溶媒を単独で或いは水と混合して用いることができる。
本発明のキトサンの塩は、一般式(1)の構成単位のアミノ基の酸付加塩であってもよい。該アミノ基と塩を形成する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸及びクエン酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、糖酸、グルコン酸等の有機酸が挙げられる。
【0041】
また、その他の塩としては、キトサン誘導体の構成単位の構造にカルボキシル基が含まれる場合は、公知のカルボキシル基と塩を形成しうるナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、アンモニア、アルキルアミン、芳香属アミン等のアミン類等が挙げられる。
これらの塩は、公知の方法によって得ることができ、生体に対する毒性低減のため、塩を生成するイオンは無毒性か低毒性であることが好ましい。
【0042】
本発明のキトサン誘導体またはその塩の重合開始剤としての使用は、活性エネルギー線によって硬化する樹脂組成物の存在下に活性エネルギー線を照射させることによって行なうことができる。
【0043】
本発明に用いられる活性エネルギー線によって硬化する樹脂組成物としては、アクリル樹脂組成物が好ましく、一般的に用いられるウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等を挙げることができ、さらにビニルウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等に代表される不飽和二重結合を含有する樹脂であってもよい。
本発明に使用が可能なアクリル樹脂は、例えば有機ジイソシアネートのイソシアヌレート化物(イソシアヌレート型ポリイソシアネート)に、1分子中に1個の水酸基及び1個以上の(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を付加することにより得ることができる。有機ジイソシアネートとしては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等のトリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート等の上記各種の芳香環含有ジイソシアネート化合物を水素化して得られる化合物等が挙げられるが、これらに限られない。
【0044】
また、1分子中に1個の水酸基及び1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の各種ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパンのジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのヘキサ(メタ)アクリレート等の各種多価水酸基含有化合物のポリアクリレート類が挙げられるが、これらに限られない。本発明においては、これらの化合物を1種または2種以上用いることができる。
【0045】
本発明においては、目的に応じて、さらに他の慣用のビニルエステル樹脂類、ポリイソシアネート化合物、ポリエポキシド類、アクリル樹脂類、アルキド樹脂類、尿素樹脂類、メラミン樹脂類、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル系共重合体類、ポリブタジエン系エラストマー、飽和ポリエステル類または飽和ポリエーテル類、あるいはニトロセルロース類、またはセルロースアセテートブチレートの如きセルロース誘導体類などを始め、アマニ油、桐油、大豆油、ヒマシ油またはエポキシ化油類等の油脂類のような天然ないしは合成高分子物質類;炭酸カルシウム、タルク、マイカ、クレー、シリカパウダー、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、亜鉛華、チタン白、ベンガラまたはアゾ顔料等の各種充填剤類、顔料類;ハイドロキノン、ベンゾキノン、トルハイドノキノン、またはp−t−ブチルカテコール等の重合禁止剤類;市販の酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、着色剤、レベリング剤、界面活性剤、滑剤、溶媒等を添加することもできる。
【0046】
本発明に用いられる活性エネルギー線は本発明のキトサン誘導体またはその塩が硬化を起こす活性エネルギー線であれば特に制限なく用いることができるが、代表的なものとして、紫外線を挙げることができる。
紫外線の発生源としては、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト、低圧、高圧、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、太陽光線などがある。紫外線の照射強度は、終始一定の強度でも行って良いし、硬化途中で強度を変化させることにより、硬化後の物性を微調整することもできる。
紫外線の他、活性エネルギー線として、例えば可視光線、電子線類の活性エネルギー線も用いることができる。本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、200〜400nmに固有の分光感度を有しており、光重合開始剤不在下に、通常用いられるエネルギー線の有するエネルギー、たとえば、20mW/cmのエネルギー数値を挙げることができるが、これに限られず、硬化が可能なエネルギーであれば特に制限はない。
【0047】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化は、重合開始剤として本発明の重合開始剤のみを用いて行なうことができるが、他の重合開始剤を混合して用いてもよい。これらの重合開始剤としては、公知慣用の光重合開始剤を添加すればよく、使用が可能な重合開始剤としては、分子内結合開裂型と分子内水素引き抜き型の2種に大別できる。
分子内結合開裂型の光重合開始剤としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノンの如きアセトフェノン系;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルの如きベンゾイン類;2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドの如きアシルホスフィンオキシド系;ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステルなどが挙げられる。
【0048】
一方、分子内水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンの如きベンゾフェノン系;2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンの如きチオキサントン系;ミヒラ−ケトン、4,4′−ジエチルアミノベンゾフェノンの如きアミノベンゾフェノン系;10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン、などが挙げられる。
光重合開始剤を使用する場合の配合量は、活性エネルギー線硬化性組成物の0.01〜10重量%の範囲が好ましい。
【0049】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、硬化反応をより効率的に行なうために、光増感剤を併用することもできる。
そのような光増感剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシルの如きアミン類が挙げられる。
【0050】
光増感剤を使用する場合の配合量は、活性エネルギー線硬化性組成物中0.01〜10重量%の範囲が好ましい。さらに、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物には、用途に応じて、非反応性化合物、無機充填剤、有機充填剤、カップリング剤、粘着付与剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、染料などを適宜併用することもできる。
【0051】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、実質的には溶剤を必要としないが、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンの如きケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルの如き酢酸エステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンの如き芳香族炭化水素などその他の一般によく用いられる有機溶剤によって本発明の活性エネルギー線硬化性組成物を希釈して使用することも可能である。
【実施例】
【0052】
以下に具体例をもって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(製造例1)キトサンとアクリル酸クロリドとの反応
温度計、還流冷却管を装着した4つ口丸底フラスコ中で、20〜30℃でキトサン10gをメタンスルホン酸150gに溶解し、11.3gのアクリル酸クロリドを添加し、5時間反応させた。アルコール/エーテルによって生成物を沈殿させ、下記構成単位(B)を有するキトサン誘導体を得た。
【0054】
【化11】

【0055】
IR及びH−NMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):1732(エステル基のC=O伸縮振動)、1633(アミド基のC=O伸縮振動)、781(C=C伸縮振動)
H−NMR(d−DMSO、ppm):6.4(−C=CH)、6.1(−O=C−CH=C)、6.0(−C=CH)
(製造例2)キトサンと無水マレイン酸との反応
【0056】
11.3gのアクリル酸クロリドの替わりに18.0gの無水マレイン酸を用い、5時間反応させる替わりに2日間反応させる他は、実施例1と同様にして、下記構成単位(C1)及び(C2)を有するキトサン誘導体を得た。
【0057】
【化12】

【0058】
IR及びH−NMRにて生成物の構造、及び前記方法で置換された割合(%)を測定した。
IR(cm−1):1733(エステル基のC=O伸縮振動)、1654(アミド基のC=O伸縮振動)、775(C=C伸縮振動)
H−NMR(d−DMSO、ppm):6.8、6.2(H−C=C)
置換された割合(%):50%
【0059】
(製造例3)キトサンとアリルブロマイドとの反応
11.3gのアクリル酸クロリドの替わりに15.1gのアリルブロマイドを用い、5時間反応させる替わりに2日間反応させる他は、製造例1と同様にして、下記構成単位(E)を有するキトサン誘導体を得た。
【0060】
【化14】

【0061】
IR及びH−NMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):780(C=C伸縮振動)
H−NMR(d−DMSO、ppm):5.6(−CH=C)、5.2(−C=CH
【0062】
(製造例4)キトサンとp−ビニルベンゾイルクロリドとの反応
11.3gのアクリル酸クロリドの替わりに20.8gのp−ビニルベンゾイルクロリドを用いた他は、製造例1と同様にして、下記構成単位(F)を有するキトサン誘導体を得た。
【0063】
【化15】

【0064】
IR及びH−NMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):1740(エステル基のC=O伸縮振動)、1625(アミド基のC=O伸縮振動)、780(C=C伸縮振動)
H−NMR(d−DMSO、ppm):6.7(−CH=C)、5.6、5.2(−C=CH)
【0065】
(製造例5)キトサンと無水フタル酸との反応
温度計、還流冷却管を装着した4つ口丸底フラスコ中で、キトサン5g(31mmol)、無水フタル酸13.8g(93mmol)、DMF100mLを混合し、130℃に加熱した。10時間同温度で加熱撹拌後、反応液を冷却、アセトンを添加して析出物をろ過し、下記構成単位(G)を有するキトサン誘導体を得た。
【0066】
【化16】

【0067】
IR及びH−NMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):1778、1715(フタルイミド基のC=O伸縮振動)
H−NMR(d−DMSO、ppm):7.6、7.4(フタルイミド基芳香環のH)
【0068】
(実施例1)製造例1で得られたキトサン誘導体とN−マレオイル−3−アミノプロピオン酸ペンチルとの反応
温度計、還流冷却管を装着した4つ口丸底フラスコ中で、製造例1で得られたキトサン誘導体6gをDMF50gに溶解し、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.046gを添加した。反応液を110℃に加熱し、9.19gのN−マレオイル−3−アミノプロピオン酸ペンチルを添加し、同温度で13時間加熱撹拌した。反応中空気を導入し、また生成するペンタノールを減圧下に留去した。アルコール/酢酸エチルによって生成物を沈殿させ、下記構成単位(H)を有するキトサン誘導体を得た。
【0069】
【化17】

【0070】
IR及びH−NMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):1732(エステル基のC=O伸縮振動)、1730(マレイミド基のC=O伸縮振動)、1633(アミド基のC=O伸縮振動)、781(C=C伸縮振動)
H−NMR(d−DMSO、ppm):7.2(マレイミド基二重結合のH)、6.4(−O=C−C=CH)、6.1(−O=C−CH=C)、6.0(−O=C−C=CH)
マレイミド基の置換された割合(%):10%
【0071】
(実施例2)製造例5で得られたキトサン誘導体とN−マレオイル−3−アミノプロピオン酸ペンチルとの反応
温度計、還流冷却管を装着した4つ口丸底フラスコ中で、製造例5で得られたキトサン誘導体5gをDMF200gに溶解し、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.046gを添加した。反応液を110℃に加熱し、8.24gのN−マレオイル−3−アミノプロピオン酸ペンチルを添加し、同温度で13時間加熱撹拌した。反応中空気を導入し、また生成するペンタノールを減圧下に留去した。アルコール/酢酸エチルによって生成物を沈殿させ、下記構成単位(I)を有するキトサン誘導体を得た。
【0072】
【化18】

【0073】
IR及びH−NMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):1778(フタルイミド基のC=O伸縮振動)、1730(マレイミド基のC=O伸縮振動)
H−NMR(d−DMSO、ppm):7.6、7.4(フタルイミド基芳香環のH)、7.2(マレイミド基二重結合のH)
マレイミド基の置換された割合(%):20%
【0074】
(実施例3)キトサンと無水マレイン酸との反応
無水フタル酸の替わりに、無水マレイン酸を用いる他は、製造例5と同様にして、下記構成単位(J)を有するキトサン誘導体を得た。
【0075】

IR及びH−NMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):1730(マレイミド基のC=O伸縮振動)
H−NMR(d−DMSO、ppm):7.2(マレイミド基二重結合のH)
マレイミド基の置換された割合(%):10%
【0076】
(実施例4)キトサンと無水マレイン酸との反応後、N−マレオイル−3−アミノプロピオン酸ペンチルとの反応
キトサンと無水マレイン酸を製造例2と同様にして反応させた後、実施例1と同様にしてN−マレオイル−3−アミノプロピオン酸ペンチルと反応させ、下記構成単位(K1)〜(K3)を有するキトサン誘導体を得た。
【0077】

IR及びH−NMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):1739(エステル基のC=O伸縮振動)、1730(マレイミド基のC=O伸縮振動)、1633(アミド基のC=O伸縮振動)、806(C=C伸縮振動)
H−NMR(d−DMSO、ppm):7.2(マレイミド基二重結合のH)、6.8、6.2(H−C=C)
マレイミド基の置換された割合(%):10%
【0078】
(実施例5)キトサンとp−ビニルベンゾイルクロリドとの反応後、N−マレオイル−3−アミノプロピオン酸ペンチルとの反応
キトサンとp−ビニルベンゾイルクロリドを製造例4と同様にして反応させた後、実施例1と同様にしてN−マレオイル−3−アミノプロピオン酸ペンチルと反応させ、下記構成単位(L)を有するキトサン誘導体を得た。

【0079】
IR及びH−NMRにて生成物の構造を測定した。
IR(cm−1):1739(エステル基のC=O伸縮振動)、1730(マレイミド基のC=O伸縮振動)、1630(アミド基のC=O伸縮振動)、806(C=C伸縮振動)
H−NMR(d−DMSO、ppm):7.2(マレイミド基二重結合のH)、6.7(−CH=C)、5.6、5.2(−C=CH)
【0080】
(実施例6)本発明化合物を含む硬化性樹脂組成物の硬化反応
ポリウレタンアクリレート樹脂100部、本実施例1〜5に記載のキトサン誘導体1.65部、水71.6部を均一に混合した。得られた樹脂組成物をガラス板に40〜60μmの厚さで塗膜した後、距離40cmでUV照射した(水銀ランプ:100W/cm、波長:300〜380nm、20mW/cm)。
照射を10分間続け、照射開始時を0分として、1分、3分、5分経過時に、試料の外観を観測した。
【0081】
(比較例1)
本比較例では、重合開始剤を用いない他は実施例6と同様にして、UV照射による硬化実験を行った。
(比較例2)
本比較例では、重合開始剤として本発明化合物の替わりに、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(UV-1173)を用いた他は実施例6と同様にして、UV照射による硬化実験を行った。
【0082】
実施例6及び比較例1、2の結果を表1に示す。
【0083】
(表1)

【0084】
本試験により、本発明化合物は、従来の重合開始剤に比較し、同等以上の性能を有することが明らかとなった。
【0085】
(試験例1)水溶性試験
実施例1から実施例5により得られた化合物(試験化合物)の水溶性について試験を行った。
使用した溶媒は、
1)1%酢酸溶液
2)1%塩酸溶液
3)1%酒石酸溶液
4)1%サリチル酸溶液
5)1%シュウ酸溶液
6)1%アスコルビン酸溶液
7)1%メタンスルホン酸溶液
を用いた。
いずれの試験物質についても溶解度は、>50g/溶媒100g(25℃)であった。一方、キチンについては、いずれの溶媒群にも不溶であり、本発明化合物の水溶性が高いことが確認された。
【0086】
(試験例2)安全性試験
試験化合物についての安全性試験を行った。
使用動物:雄性マウス(各化合物について5匹使用、体重20〜25g)
投与法:試験化合物500mg/水1mLの混合液を、0.4mL/体重20g(20mL/kg)経口投与
投与量:試験化合物10g/kg
その結果、いずれの試験化合物においても死亡が観察されず、本発明化合物は低毒性であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される基を構成単位として有するキトサン誘導体またはその塩。
【化1】

(式中、Rは-NH及び式(2)〜(11)
【化2】

(式(11)におけるRは、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、−X−は式(12)〜(16)からなる群から選ばれるいずれか1の基である。
【化3】


但し、mは1〜20の整数、nは1〜18の整数を表わす。)
で表される基からなる群から選ばれる基であり、
は−OH及び式(17)〜(24)
【化4】


(−X−は、式(12)〜(16)からなる群から選ばれるいずれか1の基である。)
で表される基からなる群から選ばれる基であるが、RまたはRの少なくともいずれか一方のうち、Rが式(10)または(11)で表される基であり、Rが式(24)で表される基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のキトサン誘導体またはその塩を重合開始剤として含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物がアクリル樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記活性エネルギー線が紫外線である請求項2または3に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−144076(P2010−144076A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323615(P2008−323615)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】