説明

キナゾリノン誘導体又はキノキサリン誘導体を有効成分として含有する後眼部疾患の予防又は治療剤

【課題】新たな後眼部疾患の予防又は治療剤の提供。
【解決手段】一般式(I)で表される化合物又はその塩は、脈絡膜や網膜といった後眼部組織において、優れた血管新生阻害作用、血管透過性亢進抑制作用及び網膜神経細胞保護作用を有するので、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、緑内障性視野狭窄などの後眼部疾患の予防又は治療剤として有用である。式中、A、Aは炭素原子又は窒素原子を示し、Xはアリール基等を示し、Lは単結合、アルキレン基等を示し、R1a、R1bは水素原子、ハロゲン原子等を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩の少なくとも1つを有効成分として含有する、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、緑内障性視野狭窄、虚血性視神経障害などの後眼部疾患の予防又は治療剤に関する。
【化1】

【0002】
[式中、A−A
【化2】

を示し、;
【0003】
Xは
【化3】

を示し、;
【0004】
Yは炭素原子又は窒素原子を示し、;
破線は単結合又は二重結合を示し、;
Lは単結合、アルキレン基、アルケニレン基、シクロアルキレン基又はシクロアルケニレン基を示し、;
1aとR1bは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基又はアミノカルボニル基を示し、;
は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を示し、;
は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を示す。]
【背景技術】
【0005】
硝子体、網膜、脈絡膜、強膜などといった後眼部組織における疾患は、眼科領域における最も重要な疾患群の一つであり、難治性疾患が多く、失明の原因となりうる重篤な症状を示すものも少なくない。代表的な疾患としては加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症などが挙げられる。これらは視力の低下又は失明の原因となりうる疾患であり、このような後眼部組織における疾患に対して効果的な薬物の開発が望まれている。特に、加齢黄斑変性又は糖尿病網膜症は、欧米諸国や日本などの先進国での壮年から老年期における失明の主要原因疾患となっており、眼科臨床及び社会的にも非常に重要な疾患とされている。
【0006】
加齢黄斑変性は黄斑部の加齢に伴う変化によっておこる疾患であり、最近の高齢化現象に伴い、有病患者数は増加している。加齢黄斑変性の基本病態は脈絡膜血管に由来する新生血管であり、その原因としては、黄斑部の網膜色素上皮細胞、ブルッフ膜、脈絡膜血管の加齢変化を基盤にして発症すると考えられている。しかしながら、脈絡膜血管新生の発症原因・メカニズムはいまだ解明されていない部分が多く、今後の発展が期待される領域である。また、黄斑部という視機能の中心部に病変部が生じるため、レーザー光凝固などの治療には限界があり、薬物療法の応用が待ち望まれている疾患である。
【0007】
糖尿病網膜症は、糖尿病による高血糖状態が持続するために、網膜血管に異常をきたし、網膜や硝子体に多彩な病変を形成する疾患である。糖尿病網膜症による高度の視力障害には、黄斑部近傍の毛細血管瘤又は網膜血管自体の血管透過性亢進により生じる黄斑浮腫や黄斑虚血などの黄斑症に起因するもの、網膜における血管新生をもととする硝子体出血、牽引性網膜剥離などに起因するものがある。糖尿病網膜症も高齢化現象に伴い、また、糖尿病罹患患者の長命化もあり、有病患者数は増加している。
【0008】
一方、特許文献1〜4には、一般式(I)に表される化合物が記載されている。特許文献1には、一般式(I)に表される化合物である2−[3−{4−(4−クロロフェニル)ピペラジン−1−イル}プロピル]キナゾリン−4(3H)−オン、5−クロロ−2−{3−(4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン−1−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オンなどが開示され、これらの化合物がoly(DP−ibose)olymerase(以下、「PARP」ともいう)阻害作用を有することが示唆されている。また、特許文献2には、一般式(I)に表される化合物である2−(4−クロロフェニル)キノキサリン−5−カルボキサミドなどが開示され、特許文献1と同様に、PARP阻害作用を有することが示唆されている。また、特許文献2記載の化合物がパーキンソン病など神経変性疾患に有用であることを記載している。
【0009】
非特許文献1には、パーキンソン病動物モデルにおいて、一般式(I)に表される化合物である2−[3−{4−(4−クロロフェニル)ピペラジン−1−イル}プロピル]キナゾリン−4(3H)−オンがMPTP(1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)誘発性の黒質線条体のドーパミン性障害に対して保護効果を示したことが報告されている。同様に、非特許文献2にも、一般式(I)に表される化合物である2−(4−クロロフェニル)キノキサリン−5−カルボキサミドがMETH(methamphetamine)誘発性の黒質線条体のドーパミン性障害に対して保護効果を示したことが報告されている。また、非特許文献3には、脳虚血/脳再灌流動物モデルにおいて、一般式(I)に表される化合物である5−クロロ−2−{3−(4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン−1−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オンがNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の枯渇や虚血性の脳障害を抑制したことが報告されている。
【0010】
しかしながら、一般式(I)で表される化合物又はその塩について、脈絡膜や網膜といった後眼部組織において、血管新生阻害作用、血管透過性亢進抑制作用及び網膜神経細胞保護作用を検討した報告はなく、これらの作用を示唆する報告もない。また、一般式(I)で表される化合物又はその塩の後眼部疾患に対する薬理作用を検討した報告はなく、特に、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、緑内障性視野狭窄などに対する予防又は改善効果について検討した報告はない。
【特許文献1】国際公開02/48117号パンフレット
【特許文献2】国際公開03/007959号パンフレット
【特許文献3】国際公開03/055865号パンフレット
【特許文献4】国際公開03/063874号パンフレット
【非特許文献1】J. Pharmacol. Exp. Ther., 309, 1067-1078(2004)
【非特許文献2】J. Pharmacol. Exp. Ther., 310, 1114-1124(2004)
【非特許文献3】J. Pharmacol. Exp. Ther., 310, 425-436(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、一般式(I)で表される化合物又はその塩に関して、新たな医薬用途を探索することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、一般式(I)で表される化合物又はその塩の新たな医薬用途を探索すべく鋭意研究を行ったところ、該化合物が、脈絡膜や網膜といった後眼部組織において、優れた血管新生阻害作用、血管透過性亢進抑制作用及び網膜神経細胞保護作用を有することを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「本化合物」ともいう)の少なくとも1つを有効成分とする、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、緑内障性視野狭窄、虚血性視神経障害などの後眼部疾患の予防又は治療剤である。
【化4】

【0014】
[式中、A−A
【化5】

を示し、;
【0015】
Xは
【化6】

を示し、;
【0016】
Yは炭素原子又は窒素原子を示し、;
破線は単結合又は二重結合を示し、;
Lは単結合、アルキレン基、アルケニレン基、シクロアルキレン基又はシクロアルケニレン基を示し、;
1aとR1bは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基又はアミノカルボニル基を示し、;
は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を示し、;
は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を示す。]
特許請求の範囲及び明細書中で使用される各基は、特許請求の範囲及び明細書全体を通して下記の意味を有するものとする。なお、原子も基の概念に含まれる。
【0017】
『ハロゲン原子』とはフッ素、塩素、臭素又はヨウ素を示す。
【0018】
『アルキル』とは炭素原子数1〜6個の直鎖又は分枝のアルキルを示す。具体例としてメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル等が挙げられる。
【0019】
『アルコキシ』とは炭素原子数1〜6個の直鎖又は分枝のアルコキシを示す。具体例としてメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキシルオキシ、イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、イソペントキシ等が挙げられる。
【0020】
『アルキレン』とは炭素原子数1〜8個の直鎖又は分枝のアルキレンを示し、好ましくは炭素原子数1〜6個の直鎖又は分枝のアルキレンを示し、より好ましくは炭素原子数1〜3の直鎖又は分枝のアルキレンを示す。具体例としてメチレン、エチレン、プロピレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、メチルメチレン、エチルエチレン、ジメチルエチレン、プロピルエチレン、イソプロピルエチレン、メチルプロピレン等が挙げられる。
【0021】
『アルケニレン』とは炭素原子数2〜8個の直鎖又は分枝のアルケニレンを示し、好ましくは炭素原子数2〜6個の直鎖又は分枝のアルケニレンを示し、より好ましくは炭素原子数2〜4の直鎖又は分枝のアルケニレンを示す。具体例としてビニレン、プロペニレン、ヘキセニレン、ジメチルプロペニレン等が挙げられる。
【0022】
『シクロアルキレン』とは炭素原子数3〜9個のシクロアルキレンを示し、好ましくは炭素原子数3〜7個のシクロアルキレンを示し、より好ましくは炭素原子数3〜5個のシクロアルキレンを示す。具体例としてシクロプロピレン、シクロブチレン(1,2−シクロブチレン、1,3−シクロブチレン等)、シクロペンチレン(1,2−シクロペンチレン、1,3−シクロペンチレン等)、シクロヘキシレン(1,3−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキシレン等)等が挙げられる。
【0023】
『シクロアルケニレン』とは炭素原子数3〜9個のシクロアルケニレンを示し、好ましくは炭素原子数3〜7個のシクロアルケニレンを示し、より好ましくは炭素原子数3〜5個のシクロアルケニレンを示す。具体例としてシクロプロペニレン、シクロブテニレン、シクロペンテニレン(1,3−シクロペンタ−1−エニレン等)、シクロヘキセニレン(1,3−シクロヘキサ−1−エニレン等)等が挙げられる。
【0024】
本化合物に幾何異性体又は光学異性体が存在する場合は、それらの異性体も本発明の範囲に含まれる。
【0025】
また、本化合物は水和物又は溶媒和物の形態をとっていてもよい。さらに、本化合物に互変異性体又は多形体が存在する場合には、それらも本発明の範囲に含まれる。
【0026】
(a)本化合物における好ましい例として、一般式(I)で表される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0027】
(a1)Lは単結合、アルキレン基又はシクロアルケニレン基を示し、;及び/又は
(a2)R1aとR1bは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基又はアミノカルボニル基を示し、;及び/又は
(a3)Rは水素原子又はハロゲン原子を示し、;及び/又は
(a4)Rは水素原子又はハロゲン原子を示す。
【0028】
すなわち、一般式(I)で表される化合物において、上記(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)から選択される1又は2以上の組合せからなる化合物又はその塩。
【0029】
(b)本化合物におけるより好ましい例として、一般式(I)で表される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0030】
(b1)Lは単結合、プロピレン基又はシクロペンテニレン基を示し、;及び/又は
(b2)R1aは水素原子、塩素原子又はアミノカルボニル基を示し、;及び/又は
(b3)R1bは水素原子を示し、;及び/又は
(b4)Rは塩素原子を示し、;及び/又は
(b5)Rは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示す。
【0031】
すなわち、一般式(I)で表される化合物において、上記(b1)、(b2)、(b3)、(b4)及び(b5)から選択される1又は2以上の組合せからなる化合物又はその塩。
【0032】
(c)本化合物におけるさらに好ましい例として、一般式(I)で表される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0033】
(c1)Xは4−クロロフェニル基、4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジル−1−イル基、4−(4−フロオロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリジル−1−イル基、4−フェニルピペリジン−1−イル基、4−フェニルピペラジン−1−イル基、4−(4−クロロフェニル)ピペラジン−1−イル基、1,2,3,4,9,10−ヘキサヒドロベンゾ[f]イソキノリン−2−イル基又は2,3,4,9−テトラヒドロ−1H−ピリド[3,4−b]インドール−2−イル基を示し;及び/又は
(c2)Lは単結合、プロピレン基又は1,3−シクロペンタ−1−エニレン基を示し、;及び/又は
(c3)R1aは水素原子、塩素原子又はアミノカルボニル基を示し、;及び/又は
(c4)R1bは水素原子を示す。
【0034】
すなわち、一般式(I)で表される化合物において、上記(c1)、(c2)、(c3)及び(c4)から選択される1又は2以上の組合せからなる化合物又はその塩。
【0035】
本化合物における最も好ましい例としては、
下記式(II)で示される8−クロロ−2−[3−{4−(4−フルオロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン−1−イル}プロピル]キナゾリン−4(3H)−オン(以下、「化合物A」ともいう)、
下記式(III)で示される2−[3−{4−(4−クロロフェニル)ピペラジン−1−イル}プロピル]キナゾリン−4(3H)−オン(以下、「化合物B」ともいう)、
下記式(IV)で示される5−クロロ−2−{3−(4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン−1−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン(以下、「化合物C」ともいう)、
下記式(V)で示される2−(4−クロロフェニル)キノキサリン−5−カルボキサミド、
下記式(VI)で示される2−{3−(4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン−1−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン、
下記式(VII)で示される2−{3−(4−フェニルピペリジン−1−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン、
下記式(VIII)で示される2−{3−(4−フェニルピペラジン−1−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン、
下記式(IX)で示される2−{3−(1,2,3,4,9,10−ヘキサヒドロベンゾ[f]イソキノリン−2−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン、
下記式(X)で示される2−{3−(2,3,4,9−テトラヒドロ1H−ピリド[3,4−b]インドール−2−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン(以下、「化合物D」ともいう)、
下記式(XI)で示される3−(4−クロロフェニル)キノキサリン−5−カルボキサミド(以下、「化合物E」ともいう)、又は、
下記式(XII)で示される8−クロロ−2−{3−(4−フェニルピペリジン−1−イル)シクロペンタ−1−エニル}キナゾリン−4(3H)−オン(以下、「化合物F」ともいう)、並びに、それらの塩、
が挙げられる。
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
【化11】

【0040】
【化12】

【0041】
【化13】

【0042】
【化14】

【0043】
【化15】

【0044】
【化16】

【0045】
【化17】

【0046】
また、本発明の他の態様として、下記一般式(I’)で表される化合物又はその塩の少なくとも1つを有効成分として含有する後眼部疾患の予防又は治療剤がある。
【化18】

【0047】
[式中、X’は
【化19】

を示し、;
【0048】
Y’は炭素原子又は窒素原子を示し、;
破線は単結合又は二重結合を示し、;
’は水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基又はアミノカルボニル基を示し、;
’は水素原子又はハロゲン原子を示す。]
(a’)一般式(I’)で表される化合物における好ましい例として、一般式(I’)で表される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0049】
(a1’)R’は水素原子又は塩素原子を示し、;及び/又は
(a2’)R’は水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示す。
【0050】
すなわち、一般式(I’)で表される化合物において、上記(a1’)及び(a2’)から選択される1又は2以上の組合せからなる化合物又はその塩。
【0051】
(b’)一般式(I’)で表される化合物におけるより好ましい例として、一般式(I’)で表される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0052】
(b1’)X’は4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジル−1−イル基、4−(4−フロオロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリジル−1−イル基、4−フェニルピペリジン−1−イル基、4−フェニルピペラジン−1−イル基、4−(4−クロロフェニル)ピペラジン−1−イル基、1,2,3,4,9,10−ヘキサヒドロベンゾ[f]イソキノリン−2−イル基又は2,3,4,9−テトラヒドロ−1H−ピリド[3,4−b]インドール−2−イル基を示し、;及び/又は
(b2’)R’は水素原子又は塩素原子を示す。
【0053】
すなわち、一般式(I’)で表される化合物において、上記(b1’)及び(b2’)から選択される1又は2以上の組合せからなる化合物又はその塩。
【0054】
本化合物は、有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造でき、WO02/48117、WO03/007959、WO03/055865又はWO03/063874に記載された方法に基づいても製造することができる。
【0055】
本化合物における『塩』とは、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等の有機酸との塩等が挙げられる。
【0056】
本発明において後眼部疾患とは、硝子体、網膜、脈絡膜、強膜又は視神経における疾患をいい、例えば、加齢黄斑変性(初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成、萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性)、糖尿病網膜症(単純糖尿病網膜症、増殖前糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症)、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、緑内障性視野狭窄、虚血性視神経障害などといった眼疾患が挙げられる。好ましくは、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、緑内障性視野狭窄といった眼疾患が挙げられる。なお、脈絡膜、網膜といった後眼部組織において、血管新生を阻害すること、血管透過性亢進を抑制することが、上述の疾患に有用であることは公知文献(日眼会誌, 103, 923-947(1999)、新図説臨床眼科講座第5巻「網膜硝子体疾患」, P.184-189及び232-237(2000))より明らかである。
【0057】
本化合物は、必要に応じて、医薬として許容される添加剤を加え、単独製剤又は配合製剤として汎用されている技術を用いて製剤化することができる。
【0058】
本化合物は、前述の眼疾患の予防又は治療に使用する場合、患者に対して経口的又は非経口的に投与することができ、投与形態としては、経口投与、眼への局所投与(点眼投与、結膜嚢内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与等)、静脈内投与、経皮投与等が挙げられ、必要に応じて、製薬学的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等が挙げられ、非経口投与に適した剤型としては、例えば、注射剤、点眼剤、眼軟膏、貼布剤、ゲル剤、挿入剤等が挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。また、本化合物はこれらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアー等のDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
【0059】
例えば、錠剤は、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油等の滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン等のコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントール等の矯味剤などを適宜選択して用い、調製することができる。
【0060】
注射剤は、塩化ナトリウム等の等張化剤;リン酸ナトリウム等の緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の界面活性剤;メチルセルロース等の増粘剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0061】
点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィン等の汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0062】
挿入剤は、生体分解性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸等の生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤を用いることができる。眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース等の生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0063】
本化合物の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断等に応じて適宜変えるこができるが、経口投与の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、より好ましくは0.5〜1000mgを1回又は数回に分けて投与することができ、注射剤の場合、一般には、成人に対し0.0001〜2000mgを1回又は数回に分けて投与することができる。また、点眼剤又は挿入剤の場合には、0.000001〜10%(w/v)、好ましくは0.00001〜1%(w/v)、より好ましくは0.0001〜0.1%(w/v)の有効成分濃度のものを1日1回又は数回投与することができる。さらに、貼布剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mgを含有する貼布剤を貼布することができ、眼内インプラント用製剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mg含有する眼内インプラント用製剤を眼内にインプラントすることができる。
【発明の効果】
【0064】
後述の試験を実施したところ、本化合物である化合物Aの塩酸塩(以下、「化合物A’」ともいう)及び化合物Bは脈絡膜血管新生、光受容体細胞死及び視神経細胞死を抑制することが示された。さらに、化合物C、化合物D及び化合物Eは脈絡膜血管新生を抑制し、化合物Fは光受容体細胞死を抑制した。すなわち、本化合物は、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、緑内障性視野狭窄又は虚血性視神経障害などの眼疾患の予防又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下に、薬理試験及び製剤例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0066】
試験1.クリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルを用いた薬理試験
脈絡膜における血管新生阻害効果を検討する薬理試験モデルとして、レーザー誘発脈絡膜血管新生モデルが汎用されている(日本眼科紀要 1994; 45: 853-856)。そこで、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルを用いて、化合物A’、化合物B、化合物C、化合物D及び化合物Eの有用性を評価した。
【0067】
(クリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルの作製方法)
ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液及び2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1mL/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、クリプトンレーザー光凝固装置により光凝固を行った。光凝固は、眼底後局部において、太い網膜血管を避け、焦点を網膜深層に合わせて1眼につき8ヶ所散在状に実施した(凝固条件:スポットサイズ100μm、出力100mW、凝固時間0.1秒)。光凝固後、眼底撮影を行い、レーザー照射部位を確認した。
【0068】
(投与方法)
化合物A’投与群:
1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に懸濁した化合物A’を3、10又は30mg/kgの用量で、光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回反復経口投与した。
【0069】
化合物B投与群:
1%(W/V)メチルセルロース液に懸濁した化合物Bを3、10又は30mg/kgの用量で、光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回反復経口投与した。
【0070】
化合物C投与群:
1%(W/V)メチルセルロース液に懸濁した化合物Cを30mg/kgの用量で、光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回反復経口投与した。
【0071】
化合物D投与群:
1%(W/V)メチルセルロース液に懸濁した化合物Dを30mg/kgの用量で、光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回反復経口投与した。
【0072】
化合物E投与群:
1%(W/V)メチルセルロース液に懸濁した化合物Eを30mg/kgの用量で、光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回反復経口投与した。
【0073】
基剤投与群:
1%(W/V)メチルセルロース液を、光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回反復経口投与した。
【0074】
(評価方法)
光凝固後7日目、ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液及び2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1mL/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、10%フルオレセイン溶液0.1mLを尾静脈から注入して、蛍光眼底造影を行った。蛍光眼底造影で、蛍光露出が認められなかったスポットを陰性(血管新生なし)、蛍光露出が認められたスポットを陽性(血管新生あり)と判断した。また、若干の蛍光露出が認められる光凝固部位は、それが2箇所存在した時に陽性(血管新生あり)と判定した。その後、式1に従い、レーザー照射8ヶ所のスポットに対する陽性スポット数から脈絡膜血管新生発生率(%)を算出し、式2に従い、評価薬物の抑制率(%)を算出した。なお、各群の例数は、3−4匹(6−8眼)である。
【0075】
[式1]
脈絡膜血管新生発生率(%)=(陽性スポット数/全光凝固部位数)×100
[式2]
抑制率(%)=(A−A)/A×100
:基剤投与群の脈絡膜血管新生発生率(%)
:薬物投与群の脈絡膜血管新生発生率(%)
【表1】

【0076】
(結果)
表1から明らかなように、化合物A’、化合物B、化合物C、化合物D及び化合物Eが、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて、脈絡膜血管新生を阻害することが示された。
【0077】
(考察)
以上の結果から、化合物A’、化合物B、化合物C、化合物D及び化合物Eに代表される本化合物が、脈絡膜において優れた血管新生阻害作用を有し、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症など血管新生が関与する後眼部疾患に対して顕著な予防又は改善効果を有することが示された。
【0078】
試験2.マウス光障害モデルを用いた薬理試験
マウス光障害モデルを用いて、化合物A’、化合物B及び化合物Fの薬理効果を評価した。なお、マウス光障害モデルは光照射により、網膜光受容細胞の細胞死を誘発させたモデル動物であり、主に網膜変性(例えば、加齢黄斑変性)のモデル動物として汎用されている(Invest. Ophthalmol. Vis.Sci., 2005; 46: 979-987)。
【0079】
(マウス光障害モデルの作製方法及び評価方法)
8週齢のBALB/c雄性マウスを、暗室にて暗順応を24時間施した後、白色蛍光灯で5000lux、2時間光照射を実施して、光障害を誘発した。その後、暗室にて暗順応を22時間施し、electroretinogram(ERG)を測定した。得られた波形からa波及びb波の振幅(μV)を算出した。なお、正常対照群は、光照射を行わず、暗室にて暗順応を22時間施したあと、ERGを測定した。[式3]に従い、a波及びb波のそれぞれについて、振幅減弱抑制率(%)を算出した。なお、各群の例数は、4匹(8眼)である。
【0080】
[式3]
振幅減弱抑制率(%)=(V−V)/(V−V)×100
:基剤投与群の振幅(μV)
:正常対照群の振幅(μV)
:薬物投与群の振幅(μV)
(投与方法)
1)光照射前及び光照射後の2回投与時
化合物B投与群:
1%(W/V)メチルセルロース水溶液に懸濁した化合物B溶液を50mg/kgの用量で、光照射直前及び光照射開始後4時間の2回、経口投与した。
【0081】
正常対照群及び基剤投与群:
1%(W/V)メチルセルロース水溶液を、光照射直前及び光照射開始後4時間の2回、経口投与した。
【0082】
2)光照射前の単回投与時
化合物A’投与群:
1%(W/V)メチルセルロース水溶液に懸濁した化合物A’溶液を60mg/kgの用量で、光照射直前に1回、経口投与した。
【0083】
化合物B投与群:
1%(W/V)メチルセルロース水溶液に懸濁した化合物B溶液を60mg/kgの用量で光照射直前に1回、経口投与した。
【0084】
化合物F投与群:
1%(W/V)メチルセルロース水溶液に懸濁した化合物F溶液を60mg/kgの用量で、光照射直前に1回、経口投与した。
【0085】
正常対照群及び基剤投与群:
1%(W/V)メチルセルロース水溶液を、光照射直前に1回、経口投与した。
【表2】


【表3】

【0086】
(結果)
表2及び表3から明らかなように、化合物A’、化合物B及び化合物Fは、光照射によるERGのa波及びb波の減弱に対して、顕著な抑制作用を示した。
【0087】
(考察)
以上の結果から、化合物A’、化合物B及び化合物Fに代表される本化合物が、光受容体細胞死を抑制することにより、網膜変性に対して予防又は改善効果を有することが示された。
【0088】
試験3.NMDA誘発ラット網膜障害モデルを用いた試験
N−メチル−D−アスパラギン酸(以下、「NMDA」ともいう)誘発ラット網膜障害モデル(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2003; 44: 385-392)を用いて、化合物A’及び化合物Bの有用性を評価した。なお、NMDA誘発ラット網膜障害モデルは、NMDAを硝子体内に投与することによりNMDA型のグルタミン酸受容体を活性化させ、神経細胞内のカルシウム濃度を上昇させることにより、主に網膜神経節細胞及び網膜内網状層の細胞死を誘発させたモデル動物であり、主に緑内障に起因する視神経障害のモデル動物として汎用されている。
【0089】
(薬物投与方法及びNMDA誘発ラット網膜障害モデルの作製方法)
化合物A’を0.5%(W/V)メチルセルロース液に1mg/mLになるように懸濁し、10mg/kgの用量で化合物A’懸濁液をNMDA硝子体内投与の30分前に1回経口投与した。化合物Bも同様に経口投与した。すなわち、化合物Bを0.5%(W/V)メチルセルロース液に1mg/mLになるように懸濁し、10mg/kgの用量で化合物B懸濁液をNMDA硝子体内投与の30分前に1回経口投与した。なお、基剤投与群には0.5%(W/V)メチルセルロース液を同様に投与した。次に、ラットに100%(V/V)酸素 0.5L/分と100%(V/V)亜酸化窒素 1.5L/分の混合気体で気化させた3%(V/V)ハロセンを吸入させ全身導入麻酔し、1%(V/V)ハロセンで維持麻酔した。2mmol/LとなるようにPBS(リン酸緩衝液)に溶解したNMDA溶液を5μL(NMDAとして10nmol)硝子体内に投与した。
【0090】
(評価方法)
NMDA誘発ラット網膜障害モデルにおいて、視神経軸索の主構成成分であり軸索の形態維持に重要な、ニューロフィラメント軽鎖(以下、「NFL」ともいう)の網膜組織中での発現量を指標に、薬物処置の有効性を検討した。NMDAの硝子体内投与1日後に、ラットに100mg/kgペントバルビタールナトリウム注射液を腹腔内投与して全身麻酔を行った。眼球を摘出後、網膜を単離し、群毎に1つのサンプルとして2又は3匹分の網膜をプールした。単離した網膜をホモジナイズし、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてtotalRNAを抽出し、ExScriptTM RT reagent Kit(TAKARA)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAをSYBR Premix Ex Taq(TAKARA)中にグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(以下、「GAPDH」ともいう)、NFLのプライマーとともに加え、定量的PCR装置でPCR反応を実施し、NFL及びGAPDHの発現量を測定した。得られた結果から、[式4]に従いNFLの発現量をハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現量で補正する事により、相対的NFLの発現量を算出した。その後、[式5]に従い、PBS硝子体内投与を行った群を100%、基剤(0.5%(W/V)メチルセルロース液)投与群を0%とした場合の各薬剤のNMDAによるNFL減少に対するNFL回復率(%)を算出した。
【0091】
なお、本発明に用いたNFL又はGAPDHのプライマー配列を表4に示す。
【表4】

【0092】
[式4]
相対的NFL発現量=(NFL発現量/GAPDH発現量)
[式5]
NFL回復率(%)=(E−E)/(E−E)×100
:PBS硝子体内投与を行った群の相対的NFL発現量
:NMDA硝子体内投与に基剤経口投与を行った群の相対的NFL発現量
:NMDA硝子体内投与に薬物経口投与を行った群の相対的NFL発現量
(結果)
化合物A’及び化合物Bの評価結果を表5に示す。なお、各群の値は2又は3匹のプール済みサンプルの代表値である。表5から明らかなように、化合物A’及び化合物Bが、NMDA誘発ラット網膜障害モデルにおいて生じるNFL減少を回復させる事が示された。
【表5】

【0093】
(考察)
以上の結果から、化合物A’及び化合物Bに代表される本化合物が、網膜神経変性が生じる緑内障などに起因する視神経障害、虚血性視神経障害などの後眼部神経障害が関連する疾患に対して顕著な予防又は改善効果を有することが示された。
【0094】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0095】
処方例1 点眼剤
100ml中
化合物A 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
【0096】
滅菌精製水に化合物A及びそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)又は1%(w/v)の点眼剤を調製できる。
【0097】
処方例2 眼軟膏
100g中
化合物B 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
【0098】
均一に溶融した白色ワセリン及び流動パラフィンに、化合物Bを加え、これらを十分に混合して後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。化合物Bの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/w)、0.1%(w/w)、0.5%(w/w)又は1%(w/w)の眼軟膏を調製できる。
【0099】
処方例3 錠剤
100mg中
化合物C 1mg
乳糖 66.4mg
トウモロコシデンプン 20mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 6mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6mg
【0100】
化合物C、乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウム及びヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒し、得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒顆粒にステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、化合物Cの添加量を変えることにより、100mg中の含有量が0.1mg、10mg又は50mgの錠剤を調製できる。
【0101】
処方例4 注射剤
10ml中
化合物D 10mg
塩化ナトリウム 90mg
ポリソルベート80 適量
滅菌精製水 適量
【0102】
化合物D及び塩化ナトリウムを滅菌精製水に加えて注射剤を調製する。化合物Dの添加量を変えることにより、10ml中の含有量が0.1mg、10mg又は50mgの注射剤を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本化合物である化合物A’及び化合物Bは脈絡膜血管新生、光受容体細胞死及び視神経細胞死を抑制することが示された。さらに、化合物C、化合物D及び化合物Eは脈絡膜血管新生を抑制し、化合物Fは光受容体細胞死を抑制した。すなわち、本化合物は、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、緑内障性視野狭窄又は虚血性視神経障害などの眼疾患の予防又は治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物又はその塩の少なくとも1つを有効成分として含有する後眼部疾患の予防又は治療剤。
【化1】

[式中、A−A
【化2】

を示し、;
Xは
【化3】

を示し、;
Yは炭素原子又は窒素原子を示し、;
破線は単結合又は二重結合を示し、;
Lは単結合、アルキレン基、アルケニレン基、シクロアルキレン基又はシクロアルケニレン基を示し、;
1aとR1bは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基又はアミノカルボニル基を示し、;
は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を示し、;
は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基を示す。]
【請求項2】
一般式(I)において、
Lは単結合、アルキレン基又はシクロアルケニレン基を示し、;
1aとR1bは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基又はアミノカルボニル基を示し、;
は水素原子又はハロゲン原子を示し、;
は水素原子又はハロゲン原子を示す、
請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
一般式(I)において、
Lは単結合、プロピレン基又はシクロペンテニレン基を示し、;
1aは水素原子、塩素原子又はアミノカルボニル基を示し、;
1bは水素原子を示し、;
は塩素原子を示し、;
は水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示す、
請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項4】
一般式(I)において、
Xは4−クロロフェニル基、4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジル−1−イル基、4−(4−フロオロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリジル−1−イル基、4−フェニルピペリジン−1−イル基、4−フェニルピペラジン−1−イル基、4−(4−クロロフェニル)ピペラジン−1−イル基、1,2,3,4,9、10−ヘキサヒドロベンゾ[f]イソキノリン−2−イル基又は2,3,4,9−テトラヒドロ−1H−ピリド[3,4−b]インドール−2−イル基を示し、;
Lは単結合、プロピレン基又は1,3−シクロペンタ−1−エニレン基を示し、;
1aは水素原子、塩素原子又はアミノカルボニル基を示し、;
1bは水素原子を示す、
請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項5】
一般式(I)で表される化合物が、
・8−クロロ−2−[3−{4−(4−フルオロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン−1−イル}プロピル]キナゾリン−4(3H)−オン、
・2−[3−{4−(4−クロロフェニル)ピペラジン−1−イル}プロピル]キナゾリン−4(3H)−オン、
・5−クロロ−2−{3−(4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン−1−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン、
・2−(4−クロロフェニル)キノキサリン−5−カルボキサミド、
・2−{3−(4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン−1−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン、
・2−{3−(4−フェニルピペリジン−1−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン、
・2−{3−(4−フェニルピペラジン−1−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン、
・2−{3−(1,2,3,4,9,10−ヘキサヒドロベンゾ[f]イソキノリン−2−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン、
・2−{3−(2,3,4,9−テトラヒドロ1H−ピリド[3,4−b]インドール−2−イル)プロピル}キナゾリン−4(3H)−オン、
・3−(4−クロロフェニル)キノキサリン−5−カルボキサミド、又は、
・8−クロロ−2−{3−(4−フェニルピペリジン−1−イル)シクロペンタ−1−エニル}キナゾリン−4(3H)−オン、
である請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項6】
下記一般式(I’)で表される化合物又はその塩の少なくとも1つを有効成分として含有する後眼部疾患の予防又は治療剤。
【化4】

[X’は
【化5】

を示し、;
Y’は炭素原子又は窒素原子を示し、;
破線は単結合又は二重結合を示し、;
’は水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基又はアミノカルボニル基を示し、;
’は水素原子又はハロゲン原子を示す。]
【請求項7】
一般式(I’)において、
’は水素原子又は塩素原子を示し、;
’は水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示す、
請求項6記載の予防又は治療剤。
【請求項8】
一般式(I’)において、
X’は4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジル−1−イル基、4−(4−フロオロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリジル−1−イル基、4−フェニルピペリジン−1−イル基、4−フェニルピペラジン−1−イル基、4−(4−クロロフェニル)ピペラジン−1−イル基、1,2,3,4,9,10−ヘキサヒドロベンゾ[f]イソキノリン−2−イル基又は2,3,4,9−テトラヒドロ−1H−ピリド[3,4−b]インドール−2−イル基を示し、;
’は水素原子又は塩素原子を示す、
請求項6記載の予防又は治療剤。
【請求項9】
後眼部疾患が硝子体、網膜、脈絡膜、強膜又は視神経における疾患である、請求項1〜8のいずれか1記載の予防又は治療剤。
【請求項10】
後眼部疾患が、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、緑内障性視野狭窄又は虚血性視神経障害である、請求項1〜8のいずれか1記載の予防又は治療剤。
【請求項11】
後眼部疾患が加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫又は緑内障性視野狭窄である、請求項1〜8のいずれか1記載の予防又は治療剤。
【請求項12】
投与形態が点眼投与、硝子体内投与、結膜下投与、結膜嚢内投与、テノン嚢下投与、静脈内投与、経皮投与又は経口投与である請求項1〜8のいずれか1記載の予防又は治療剤。
【請求項13】
剤型が、点眼剤、眼軟膏、挿入剤、貼布剤、ゲル剤、注射剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤又はカプセル剤である請求項1〜8のいずれか1記載の予防又は治療剤。

【公開番号】特開2009−196973(P2009−196973A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247162(P2008−247162)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】