説明

キナルギンの製造方法

【課題】 抗ウィルス剤の原料として有用なキナルギンを、高い収率で得る製造方法、又はキナルギンを原料とする薬学的に活性な化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 式(I):
【化5】


(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 及びR6 は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、C1-3 −アルキルなどである)で示されるキナルギン又はその誘導体の製造方法であって、キナルジン酸スクシンイミドエステルをアスパラギン又はその塩と反応させる方法、あるいは、この方法を含む薬学的に活性な化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、キナルギン(quinargine:N−(2−キノリルカルボニル)アスパラギン)又はキナルギン誘導体の新規な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】キナルギンはそれ自体公知であり、文献、例えばEP特許出願第611,774号明細書に記載がある。これは薬理学的に活性な化合物の製造中間体である。すなわち、キナルギンは、前記EP特許出願明細書の実施例7に記載のように、主としてウィルス感染症、特にHIV又は他のレトロウィルスによる感染症の治療に適している薬理学的に活性な化合物に変換することができる。
【0003】上記したタイプのキナルジン酸(quinaldic acid)誘導体の製造に関しては、いろいろな反応経路が記述されている。例えば、Davis は、通常良好な収率で進行するキナルジン酸クロリドと一級及び二級アミン、アミノ酸並びにアミノ酸エステルとのSchotten-Baumann条件下での反応を記載している(J. Am. Chem. Soc. (1959), 24, 1691-1694)。このScotten-Baumann 反応において、10%水酸化ナトリウム溶液中でアシル化される物質は酸クロリドとともに、これが消費されるまで攪拌される。この反応は大過剰のアルカリ及び酸クロリドを用いて実施される。しかし、キナルギン及びその誘導体の製造においては、この方法は中程度の収率をもたらすのみである。
【0004】Andersonらは、ペプチド合成においてN−ヒドロキシスクシンイミドエステルを用いることを記載している(Anderson et al. (1964) J. Am. Chem. Soc. 86,1839-1842)。水溶性がより大きいことを考慮すると、これらのエステルは対応のN−ヒドロキシフタルイミドエステルよりも一般に該合成に適している。N−アシルアミノ酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルの製造は、一般にN−アシル−アミノ酸をN−ヒドロキシスクシンイミドと、混合酸無水物法にしたがって、特にジシクロヘキシルカルボジイミドを用いて反応させることにより(P. Stelzel in Houben-Weyl: "Methoden der organischen Chemie; Synthese von Peptiden", volume 15, part 2, p.214, (1974))実施される。N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、次いで有機性−水性混合溶媒中で対応のアミノ酸と反応させる。
【0005】Wendlberger もまた、ヒドロキシスクシンイミドエステルをペプチド合成において用いることを記載している(Houben-Weyl: "Methoden der organischen Chemie; Synthese von Peptiden", volume 15, part 2 p.130(1974))。加水分解及び加アルコール分解に対する感受性の低さと比較して、その高いアミノ分解性のために、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルは、有機溶媒中においてのみならず、エタノール/水、ジオキサン/水などの有機性−水性混合溶媒中においてもペプチド合成を可能にしている。また、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル類によるペプチド合成は、ジクロロメタン/水のような、二相系においても実施されうる。
【0006】2S−N−(キノリン−2−イルカルボニル)アミノ−3−オキソ−3−アミノプロパン酸は、PCT特許出願公開パンフレットWO95/20962に記載されている。ここでは、対応のペンタフルオロフェニルエステルとアスパラギンの反応は、ジオキサン−水混合物中で実施される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記したすべての製法は、それらをキナルギン及び対応の誘導体の製造に用いる場合には重大な欠点を有している。すなわち、反応が、定量的な収率からほど遠い収率で進行する。これは主として加水分解副産物の生成によるものである。結果として、反応混合物は高価な処理工程に付さなければならない。さらに、毒性のあるペンタフルオロフェノールのような、困った副産物(WO95/20962)が、キナルギン及びそれぞれのキナルギン誘導体製造の間に生成し、現段階の当該技術の方法を用いる大規模な製法も十分には達成されない。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の方法は、当該技術の現状において公知である欠点を回避したものである。式(I):
【0009】
【化3】


【0010】(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 及びR6 は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、C1-3 −アルキル、ハロ−C1-3 −アルキル、ヒドロキシ−C1-3 −アルキル、C1-3 −アルコキシ、C1-3 −アルキルチオ、C1-3 −アルキルチオ−C1-3 −アルキル、ニトロ又はトリフルオロメチル、好ましくは水素を表す)で示されるキナルギン又はキナルギン誘導体の製造に関する本発明は、式(II):
【0011】
【化4】


【0012】(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 及びR6 は、上記と同義である)で示されるスクシンイミドエステル誘導体の、水性の反応媒質中、中性pH値におけるアスパラギン又はアスパラギン塩との反応に基づく。
【0013】この製法は、キナルギン(N−(2−キノリルカルボニル)−アスパラギン)の製造に特に適している。S−又はR−キナルギンは、用いられるアスパラギン又はアスパラギン塩に応じて得られる。
【0014】式(II)に対応する出発物質は既知であり、例えば、Andersonらの記載した方法(上記に引用)により製造される。スクシンイミドエステルの製造は、例えば、対応の酸成分をN−ヒドロキシスクシンイミドと、ジシクロヘキシルカルボジイミドを加えて反応させて実施される。
【0015】本発明の製法は、式(II)のスクシンイミドエステルを、水性媒質中で、ほぼ中性のpH値において反応させることを含む。有利には、反応は、pH6〜8、好ましくは約7において起きる。pH値は、従来の緩衝系、例えば炭酸塩又はリン酸塩緩衝液により調整しうる。炭酸水素ナトリウムの水性溶液が好ましい。
【0016】式(II)のN−スクシンイミドエステルの反応は、約20〜70℃、好ましくは50℃で実施される。この反応の持続時間は、2〜8時間に至り、平均して2.5時間が定量的変換には十分である。
【0017】反応バッチの仕上げ処理のために、メタノール及び濃塩酸を、温度を上昇させて加える。濃塩酸は、pH値が2.5〜3に調整されるように計算した量を添加する。有利には、30〜70℃、好ましくは50℃で、ほぼ等モル量の塩酸を添加する。次いで、反応混合物を0〜30℃、好ましくは10℃まで2〜8時間、好ましくは2.5時間、一定の冷却速度で冷却する。次いで、反応生成物をろ過する。
【0018】この方法によれば、式(I)の反応生成物は90〜93%の収率で得られ、これはほぼ定量的である。これに続く反応、例えばHIV阻害剤の製造のためのさらなる精製は必要ない。
【0019】さらに、本発明は、薬学的に活性な物質の製造にも関する。例えば、N−(2−キノリルカルボニル)−L−アスパラギンを、EP特許出願第635,493号から公知である2−〔3(S)−アミノ−2(R)−ヒドロキシ−4−フェニルブチル〕−N−tert−ブチル−デカヒドロ−(4aS,8aS)−イソキノリン−3(S)−カルボキサミドと、カルボジイミドのようなカップリング剤及びN−ヒドロキシ化合物の存在下で、このN−ヒドロキシ化合物を触媒量用いて反応させる。EP特許出願第611,774号明細書の実施例7に記載されたように、上記物質は、ジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下、触媒量の1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリドンを用いて、不活性溶媒又は溶媒混合物、例えば酢酸エチル/テトラヒドロフラン中で、N−tert−ブチル−デカヒドロ−2−〔2(R)−ヒドロキシ−4−フェニル−3(S)−〔〔N−(2−キノリルカルボニル)−L−アスパラギニル〕アミノ〕ブチル〕−(4aS,8aS)−イソキノリン−3(S)−カルボキサミド又はそれから誘導される薬学的に適切な塩もしくは対応するエステルに転換される。N−tert−ブチル−デカヒドロ−2−〔2(R)−ヒドロキシ−4−フェニル−3(S)−〔〔N−(2−キノリルカルボニル)−L−アスパラギニル〕アミノ〕ブチル〕−(4aS,8aS)−イソキノリン−3(S)−カルボキサミド及びその上記した誘導体は、EP特許出願第346,847号及び432,695号明細書に記載されたように、抗ウィルス剤として、特にHIV阻害剤として用いられる。
【0020】したがって、本発明はまた、これらの化合物の製造方法にも関する。そのような方法は、第一工程において、上記に記載したキナルギンの製造を含む。この物質を、これに続く工程で、上記したように2−〔3(S)−アミノ−2(R)−ヒドロキシ−4−フェニルブチル〕−N−tert−ブチル−デカヒドロ−(4aS,8aS)−イソキノリン−3(S)−カルボキサミドにより、N−tert−ブチル−デカヒドロ−2−〔2(R)−ヒドロキシ−4−フェニル−3(S)−〔〔N−(2−キノリルカルボニル)−L−アスパラギニル〕アミノ〕ブチル〕−(4aS,8aS)−イソキノリン−3(S)−カルボキサミドに変換し、場合によっては対応の塩、好ましくは対応のメタンスルホン酸塩へ、又はエステルへと転換する。
【0021】本発明はまた、上記した方法の、上記化合物に続く化合物、特に、例えばN−tert−ブチル−デカヒドロ−2−〔2(R)−ヒドロキシ−4−フェニル−3(S)−〔〔N−(2−キノリルカルボニル)−L−アスパラギニル〕アミノ〕ブチル〕−(4aS,8aS)−イソキノリン−3(S)−カルボキサミドのようなHIVプロテアーゼ阻害剤の製造のための用途にも関する。
【0022】さらに、本発明は、上記製造方法のいずれか1つにより得ることのできる物質に関する。
【0023】
【実施例】
実施例1S−キナルギンの製造キナルジン酸スクシンイミドエステル200mgを、弱い窒素流下、L−アスパラギン一水和物117gと、炭酸水素ナトリウム水溶液(66g/1.5リットル)中で攪拌しつつ(600r/min)2時間反応させた。一定の加温速度で暖めることにより、白色懸濁液の内部温度が2時間以内に20℃から50℃まで昇温した。これにより白色懸濁液は明るい紅白色に変化した。反応を調節するために、HPLCによりサンプル中のキナルジン酸スクシンイミドエステルの存在(<0.5%)を確認した。混合物をさらに50℃で0.5時間攪拌した。次いで反応を終了させ、メタノール750mlを反応混合物に加えた。5〜10分後、この反応混合物はほぼ完全に溶液に移行した。次いで、濃塩酸約90mlを、反応混合物のpHが2.5〜3に調整されるように加えた。白色のS−キナルギンがゆっくりと分離した。攪拌速度はそのままに保った。内部温度が50℃〜54℃に上昇した。塩酸をすべて加え終わったなら、一定の冷却速度で懸濁液を2.5時間以内に54℃から10℃まで冷却し、この温度で0.5時間さらに攪拌した。この懸濁液を内部ガラス吸引フィルター(直径10cm、多孔率3)でろ過した。かなり大きな結晶のせいで迅速なろ過が可能になった。反応容器を数回母液で洗浄し、10℃に冷却した。ろ取したケーキを、次いで脱ミネラル水各回300mlで3回洗浄した。ケーキを吸引乾燥し、真空乾燥器で(15〜20mbr)、60℃で24時間乾燥した。
収率:185.6〜190.3g(90〜93%);純度:≦97%実施例2実施例1と同じ手順を用いた。R−キナルギンを、旋光度−50.1°(C:1%DMF)で、>99%の含量で、かつS−キナルギンの含量0.1%で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 式(I):
【化1】


(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 及びR6 は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、C1-3 −アルキル、ハロ−C1-3 −アルキル、ヒドロキシ−C1-3 −アルキル、C1-3 −アルコキシ、C1-3 −アルキルチオ、C1-3 −アルキルチオ−C1-3 −アルキル、ニトロ又はトリフルオロメチルを表す)で示されるキナルギン又はキナルギン誘導体の製造方法であって、式(II):
【化2】


(式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 及びR6 は、上記と同義である)で示されるスクシンイミドエステル誘導体を、水性反応媒質中、中性pH値においてアスパラギン又はアスパラギン塩と反応させることを含む製造方法。
【請求項2】 R1 、R2 、R3 、R4 、R5 及びR6 が水素である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】 pH6〜pH8のpH値で反応を行う、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】 反応混合物を炭酸水素ナトリウムで緩衝する、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】 20℃〜70℃の温度で反応を行う、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項6】 反応時間が2〜8時間である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項7】 反応生成物を分離するためにメタノール中の等モル量のHClを加える、請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】 HCl/メタノールの添加を、30℃〜70℃の温度で行う、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】 N−tert−ブチル−デカヒドロ−2−〔2(R)−ヒドロキシ−4−フェニル−3(S)−〔〔N−(2−キノリルカルボニル)−L−アスパラギニル〕アミノ〕ブチル〕−(4aS,8aS)−イソキノリン−3(S)−カルボキサミド又はそれから誘導される塩もしくはエステルの製造方法であって、a) N−(2−キノリルカルボニル)−L−アスパラギンを、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法で製造し、b) 得られたN−(2−キノリルカルボニル)−L−アスパラギンを、2−〔3(S)−アミノ−2(R)−ヒドロキシ−4−フェニルブチル〕−N−tert−ブチル−デカヒドロ−(4aS,8aS)−イソキノリン−3(S)−カルボキサミドと反応させ、c) 工程b)で得られた物質を、場合により薬学的に適切な塩又は薬学的に適切なエステルに変換する、ことを含む製造方法。
【請求項10】 N−tert−ブチル−デカヒドロ−2−〔2(R)−ヒドロキシ−4−フェニル−3(S)−〔〔N−(2−キノリルカルボニル)−L−アスパラギニル〕アミノ〕ブチル〕−(4aS,8aS)−イソキノリン−3(S)−カルボキサミドの製造のための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法の使用。

【公開番号】特開平10−67748
【公開日】平成10年(1998)3月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−210380
【出願日】平成9年(1997)8月5日
【出願人】(591003013)エフ・ホフマン−ラ ロシユ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT