説明

キナーゼ阻害物質の測定方法

【課題】 キナーゼ阻害物質を含む生体試料と標的キナーゼを発現する細胞を用いて、生体試料中に含まれるキナーゼ阻害物質を測定する方法、該キナーゼ阻害物質を測定するための、免疫学的測定方法、免疫学的測定用試薬またはキット等を提供すること。
【解決手段】 以下の工程a及びbを含む、生体試料中に含まれるキナーゼ阻害物質の測定方法;
(a)該生体試料とキナーゼ阻害物質の標的となるキナーゼを発現する細胞とを接触させる工程;
(b)該細胞内部に存在する標的となるキナーゼの基質及び/または標的となるキナーゼの下流のキナーゼのリン酸化レベルを測定する工程;
等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料とキナーゼ阻害物質の標的となるキナーゼを発現する細胞を用いて、生体試料中に含まれるキナーゼ阻害物質を測定する方法に関する。また、本発明は、該キナーゼを発現する細胞を含む、該キナーゼ阻害物質を測定するための試薬またはキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
キナーゼは、生体内の様々な情報伝達に関与し、従来から創薬のターゲットとして注目されており、キナーゼ阻害物質は種々の疾患の治療剤として期待されている。
フムス様チロシンキナーゼ3(Fms like tyrosine kinase 3、以下FLT3)は血小板誘導増殖因子受容体(PDGFR)ファミリーに属する受容体型のタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)であり、そのリガンドであるFLT3リガンドの結合によって二量体化されることにより活性化され、細胞内基質であるさまざまなタンパク質をリン酸化させるキナーゼであり、細胞増殖や分化に関与している。特にFLT3またはFLK2(Fetai liver kinase-2)は造血幹細胞で発現し、その増殖に重要な役割を果たしていることが知られている[セル(Cell)、65巻、1143頁(1991年)]。また近年、白血病患者検体での検討の結果、FLT3の細胞膜近傍(Juxter membrane)の領域でチロシン残基の繰り返し配列が挿入(Internal Tandem Duplication、ITD)される変異により、リガンドの結合なくFLT3の活性化が生じることが明らかにされた[ルイケミア(Leukemia)、11巻、1447頁(1997年)]。その他、FLT3の細胞膜近傍領域のアミノ酸配列が長くなったり、短くなったりする変異で、同様なFLT3の活性化が生じることが示されている[ブラッド(Blood)、96巻、3907頁(2000年)]。その他、FLT3のキナーゼ領域でアミノ酸の点変異によりFLT3が恒常的に活性化されていることが示されている[ブラッド(Blood)、97巻、2434頁(2001年)]。更にFLT3の過剰発現によってもFLT3の恒常的な活性化が生じることが示されている[ブラッド(Blood)、103巻、1901頁(2004年)]。
【0003】
上述したように、現在、FLT3の変異には、細胞膜近傍の領域でのチロシン残基の繰り返し配列の挿入、細胞膜近傍領域の長さの変化、FLT3のキナーゼ領域でのアミノ酸の点変異、FLT3キナーゼの過剰発現等が知られており、急性骨髄性白血病患者の半数程度でFLT3が恒常的に活性化されていると考えられている。サイトカインに依存的な細胞株、例えば32D細胞に、これらの変異遺伝子を導入することにより、サイトカイン非依存的な増殖能が獲得されることが知られている。従って、FLT3阻害物質は、白血病をはじめとした様々な癌の治療剤として有用であると考えられている。これらのFLT3の変異に基づく恒常的な活性化は細胞増殖シグナルを伝達することにより、細胞の無限増殖を引き起こし、白血病の重要な原因になっていると考えられている。一方、これらのFLT3の活性化に共通のシグナル伝達分子としてSTAT5のリン酸化が報告されている。即ち、変異型のFLT3細胞株ではSTAT5が恒常的にリン酸化されていることが報告されている[ブラッド(Blood)、105巻、4792頁(2005年)]。
【0004】
FLT3阻害物質を、FLT3が恒常的に活性化している白血病細胞へ添加することにより、細胞内FLT3のリン酸化及びSTAT5のリン酸化が低下することが報告されている。
Bcr-Abelsonキナーゼ(Bcr-Abl)は、フィラデルフィア染色体(Ph染色体)転座によりAblキナーゼとBCR遺伝子が融合して生じる融合蛋白であり、慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia、CML)及び急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia、ALL)において、原因遺伝子産物として同定された分子である[ネイチャー(Nature)、315巻、550頁(1985年);同、325巻、631頁(1987年)]。Bcr-AblはPh陽性のCML及びALL細胞の癌化、無限増殖を制御するチロシンキナーゼであり、Ablキナーゼを選択的に阻害するイマチニブはCML及びALL患者に対して毒性が低く、高い臨床効果を示す薬剤として、臨床応用されている[ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine)、345巻、645頁(2002年)]。
【0005】
また、近年イマチニブによるCML及びALL治療において、イマチニブに対する薬剤耐性が生じており、その耐性機序の原因の一つとして、Bcr-Ablのキナーゼドメインに点変異が生じることにより、イマチニブに対する感受性が低下することが報告されている[ネイチャー・レビュー・ドラッグ・ディスカバリー(Nature Review Drug Discovery)、3巻、1001頁(2004年)]。従って、イマチニブの感受性が低くなる点変異を起こしたBcr-Ablに対する阻害物質は、イマチニブに耐性を獲得した白血病に対して有用である。イマチニブ耐性のCML及びALL患者において最も高い頻度で検出されるBcr-Ablの点変異の一つとして、315位のスレオニン残基がイソロイシンに置換される遺伝子変異(T315I変異)が報告されており[サイエンス(Science)、293巻、876頁(2001年)]、Abl T315I変異を有する白血病細胞に対する阻害物質は、イマチニブに耐性を獲得した白血病に対して有用である。
【0006】
kinase insert domain-containing receptor(KDR)は、受容体型のタンパク質チロシンキナーゼである血管内皮増殖因子受容体(Vascular endothelial growth factor receptor, VEGFR)のサブタイプの1つであり、血管内皮細胞の細胞増殖や分化に重要な役割を果たしている[ネイチャー・メディスン(Nature Medicine)、7巻、199頁(2001年);ブラッド(Blood)、99巻、2179頁(2002年)]。KDR等を阻害する薬剤であるスニチニブ(Sunitinib)が腎臓癌で著効を示し抗癌剤として承認されている。
【0007】
受容体型のタンパク質チロシンキナーゼである繊維芽細胞増殖因子受容体(Fibroblast growth factor receptor, FGFR)は、そのリガンドであるFGFの結合によって、二量体化により活性化され、細胞内基質であるさまざまなタンパク質をリン酸化させる酵素である。FGFRにはFGFR1〜FGFR4の4つのサブタイプが知られている。これらのFGFRは繊維芽細胞の細胞増殖や分化に重要な役割を果たしている[エクスパート・オピニオン・オン・セラピューテック・ターゲッツ(Expert Opinion on Therapeutic Targets)、6巻、469頁(2002年)]。また、腫瘍組織においては繊維芽細胞が腫瘍細胞を取り巻き、腫瘍増殖に重要な働きをしていると考えられている[セル(Cell)、100巻、57頁(2000年)]。一方、多発性骨髄腫患者検体での検討の結果、多発性骨髄腫の約25%で染色体転座によりFGFR3遺伝子の過剰発現が生じていることが明らかにされた[ブラッド(Blood)、92巻、3025頁(1998年)]。また、多発性骨髄腫患者の骨髄でFGFの発現が高くなっており、FGFR3を発現した多発性骨髄腫細胞ではFGFRシグナルの活性化が起こっていると考えられている[ブラッド(Blood)、101巻、2775頁(2003年)]。更に多発性骨髄腫の細胞株や患者検体においてFGFR3の活性型変異が知られており、このような恒常的な活性化は細胞増殖シグナルを伝達することにより、細胞の無限増殖を引き起こし、多発性骨髄腫の重要な原因になっていると考えられている[ブラッド(Blood)、97巻、729頁(2001年)]。また、FGFまたはFGFRの過剰発現や活性型変異が多発性骨髄腫以外の多くの癌(例えば、下垂体腫瘍、骨髄増殖性疾患、腎癌、膀胱癌、大腸癌、頭頸部癌、皮膚癌、胃癌、非ホジキンリンパ腫、脳腫瘍、乳癌、卵巣癌等)で報告されている[エクスパート・オピニオン・オン・セラピューテック・ターゲッツ(Expert Opinion on Therapeutic Targets)、6巻、469頁(2002年);ネイチャー(Nature)、411巻、355頁(2001年)]。従って、FGFR阻害物質は、様々な癌の治療剤として有用であると考えられている。
【0008】
オーロラは、細胞分裂期(G2/M期)に活性化するセリン/スレオニンキナーゼであり、中心体の複製、染色体の分離、細胞質分裂等に関与することが報告されている。オーロラには、A、B、Cの3つのサブタイプが知られているが、その中でもオーロラAは、様々な癌で増幅が報告されている染色体20q13上に存在し、乳癌、大腸癌、膀胱癌、膵臓癌、胃癌等で高頻度に過剰発現が認められているだけでなく、悪性度や予後との相関も報告されている[トレンズ・イン・セル・バイオロジー(Trends in Cell Biology)、9巻、454頁(1999年);ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・キャンサー(British Journal of Cancer)、84巻、824頁(2001年);ジャーナル・オブ・ナショナル・キャンサー・インスティテュート(Journal of National Cancer Institute)、94巻、1320頁(2002年)]。オーロラBに関しても、オーロラAとともに乳癌及び大腸癌の臨床検体で過剰発現していることが報告されている[オンコジーン(Oncogene)、14巻、2195頁(1997年);エンボ・ジャーナル(EMBO Journal)、17巻、3052頁(1998年)]。オーロラCに関しては、まだ機能については明らかにされていない部分が多いが、乳癌等の癌細胞株で発現が確認されている[ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、274巻、7334頁(1999年)]。このような分裂期キナーゼの異常は、多くの癌細胞の特徴である染色体不安定性を引き起こす原因の一つであると考えられており、オーロラ阻害物質は、大腸癌をはじめ、様々な癌の治療剤として有用であると考えられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
キナーゼ阻害物質を患者に投与する場合、各薬剤の蛋白結合率や癌患者での血漿中濃度が大きく異なること、更に生体内においては様々な代謝物が生成することから、臨床現場において、標的となるキナーゼまたはその標的キナーゼの下流のキナーゼのリン酸化を低下させるのに十分な血漿中薬剤濃度を薬剤投与後の患者を用いて解析するのは困難な状況である。
【0010】
本発明の目的は、キナーゼ阻害物質を投与した患者由来の生体試料と標的となるキナーゼを発現する細胞を用いて、患者の生体中に含まれるキナーゼ阻害物質の活性体を測定する方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の(1)〜(15)に関する。
(1)以下の工程a及びbを含む、生体試料中に含まれるキナーゼ阻害物質の測定方法;
(a)該生体試料とキナーゼ阻害剤の標的となるキナーゼを発現する細胞とを接触させる工程;
(b)該細胞内部に存在する標的となるキナーゼの基質及び/または標的となるキナーゼの下流のキナーゼのリン酸化レベルを測定する工程。
【0012】
(2)キナーゼがチロシンキナーゼまたはセリン/スレオニンキナーゼである前記(1)記載の測定方法。
(3)チロシンキナーゼがフムス様チロシンキナーゼ3、変異型Abelsonキナーゼ、血管内皮増殖因子受容体2及び繊維芽細胞増殖因子受容体からなる群から選ばれるチロシンキナーゼである前記(2)記載の測定方法。
(4)セリン/スレオニンキナーゼがオーロラである前記(2)記載の測定方法。
(5)生体試料が血液、血漿または血清である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の測定方法。
(6)生体試料がキナーゼ阻害物質を投与した患者の生体試料である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の測定方法。
【0013】
(7)標的となるキナーゼを発現する細胞が癌細胞である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の測定方法。
(8)癌細胞が固形癌細胞または造血器腫瘍細胞である前記(7)に記載の測定方法。
(9)造血器腫瘍細胞が白血病細胞である前記(8)に記載の測定方法。
(10)標的となるキナーゼを発現する細胞がキナーゼ阻害物質を投与した患者由来の癌細胞である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の測定方法。
(11)標的となるキナーゼの基質がsignal transducer and activator of transcription 5(STAT5)、signal transducer and activator of transcription 3(STAT3)、histone H3及びCRKLからなる群から選ばれるシグナル伝達分子である前記(1)〜(10)のいずれかに記載の測定方法。
【0014】
(12)細胞内部に存在する標的となるキナーゼの基質及び/または標的となるキナーゼの下流のキナーゼのリン酸化レベルを測定する工程が免疫学的測定方法からなる工程である前記(1)〜(11)のいずれかに記載の測定方法。
(13)免疫学的測定方法がウエスタンブロッティングまたは免疫細胞染色法である、前記(12)記載の測定方法。
(14)標的となるキナーゼを発現する細胞を含む、前記(1)〜(11)のいずれかに記載の測定用試薬。
(15)標的となるキナーゼを発現する細胞を含む、前記(1)〜(11)のいずれかに記載の測定用キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、キナーゼ阻害物質を投与した患者由来の生体試料と該キナーゼ阻害剤の標的となるキナーゼを発現する細胞を用いて、患者の生体試料中に含まれるキナーゼ阻害物質を測定する方法等が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の生体試料中のキナーゼ阻害物質の測定法は、以下の工程a、b及びcを含む。
工程a:生体試料と標的となるキナーゼを発現する細胞とを接触させる工程
工程b:該細胞内に存在する標的となるキナーゼの基質及び/または標的となるキナーゼの下流のキナーゼのリン酸化レベルを測定する工程
キナーゼとは、ATP等の高エネルギーリン酸結合を有する分子からリン酸基を基質またはターゲット分子に転移させる酵素であり、キナーゼのうち蛋白質分子にリン酸基を転移させる酵素をプロテインキナーゼという。
【0017】
本発明におけるキナーゼとしては特に制限されないが、プロテインキナーゼが好ましい。プロテインキナーゼとしては、セリン/スレオニンキナーゼ、チロシンキナーゼ等が挙げられる。チロシンキナーゼとしては、受容体型チロシンキナーゼ、非受容体型チロシンキナーゼ等が挙げられるが、いずれのものでもよい。具体的には、上皮増殖因子受容体(EGFR)キナーゼ、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)キナーゼ、インスリン受容体及びインスリン様増殖因子(IGF)受容体キナーゼ、幹細胞因子(SCF)受容体キナーゼ(c-Kit)、Janusキナーゼ(JAK)、ERBB/HERプロテインキナーゼ、SRCキナーゼ、FLT3キナーゼ、Abelsonキナーゼ(Abl)、血管内皮増殖因子受容体2(KDR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)等が挙げられる。セリン/スレオニンキナーゼとしては、例えばオーロラ(Aurora)等が挙げられる。
【0018】
本発明において、キナーゼ阻害物質とは、キナーゼ阻害活性を有する物質であればいずれでもよく、生体に投与したキナーゼ阻害物質の他、活性代謝物等、投与したキナーゼ阻害物質に由来し、生体内でキナーゼ阻害活性を有する物質を含む。
本発明で用いられるキナーゼ阻害物質は、キナーゼ阻害活性を有する化合物であれば特に限定されないが、例えばWO2005/012257、WO2005/012258、WO2005/095382、WO2005/095341等に記載の化合物を挙げることができる。より具体的には、例えば式(I)
【0019】
【化1】

(式中、R1は置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換の複素環基を表す)で表されるインダゾール誘導体またはその薬理学的に許容される塩、式(Ia)
【0020】
【化2】

[式中、R2はCONR4aR4b(式中、R4a及びR4bは、同一または異なって水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアラルキルまたは置換もしくは非置換の複素環基を表すか、またはR4a及びR4bが隣接する窒素原子と一緒になって置換もしくは非置換の複素環基を形成する)またはNR5aR5b(式中、R5aは置換もしくは非置換の低級アルキルスルホニルまたは置換もしくは非置換のアリールスルホニルを表し、R5bは水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表す)を表し、
R3は水素原子、ハロゲン、シアノ、ニトロ、ヒドロキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルコキシ、置換もしくは非置換の低級アルカノイル、CONR6aR6b(式中、R6a及びR6bは、同一または異なって水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアラルキルまたは置換もしくは非置換の複素環基を表すか、またはR6a及びR6bが隣接する窒素原子と一緒になって置換もしくは非置換の複素環基を形成する)またはNR7aR7b(式中、R7a及びR7bは、同一または異なって水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルカノイル、置換もしくは非置換のアロイル、置換もしくは非置換のヘテロアロイル、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換の低級アルキルスルホニルまたは置換もしくは非置換のアリールスルホニルを表す)を表す]で表されるインダゾール誘導体またはその薬理学的に許容される塩、式(Ib)
【0021】
【化3】

[式中、R8a、R8b及びR8cは同一または異なって、水素原子、ハロゲン、ニトロ、ニトロソ、カルボキシ、シアノ、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルカノイル、置換もしくは非置換の低級アルコキシカルボニル、置換もしくは非置換のアリール、NR9aR9b(式中、R9a及びR9bは同一または異なって、水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換の低級アルコキシ、置換もしくは非置換の低級アルカノイル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアロイル、置換もしくは非置換の複素環基または置換もしくは非置換のヘテロアロイルを表すか、またはR9a及びR9bが隣接する窒素原子と一緒になって置換もしくは非置換の複素環基を形成する)またはOR10(式中、R10は水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアロイルまたは置換もしくは非置換の複素環基を表す)を表す]で表されるインダゾール誘導体またはその薬理学的に許容される塩、式(Ic)
【0022】
【化4】

{式中、R11は置換もしくは非置換の複素環基[該置換複素環基における置換基は、同一または異なって置換数1〜3の、オキソ、ホルミル、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルコキシ、CONR12aR12b(式中、R12a及びR12bは、同一または異なって水素原子または置換もしくは非置換の低級アルキルを表す)、NR13aR13b(式中、R13a及びR13bは、同一または異なって水素原子、低級アルカノイル、低級アルコキシカルボニル、アラルキル、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアロイルまたは置換もしくは非置換の複素環基を表す)または-O(CR14aR14b)nO-(式中、R14a及びR14bは、同一または異なって水素原子または低級アルキルを表し、nは2または3を表し、末端の2つの酸素原子は置換複素環基における複素環基上の同一炭素原子に結合する)である]を表す}で表されるインダゾール誘導体またはその薬理学的に許容される塩、式(II)
【0023】
【化5】

〔式中、-X-Y-Z-は-O-CR17=N-{式中、R17は水素原子、ヒドロキシ、カルボキシ、低級アルキル、以下の置換基群Aより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜4つの置換基で置換された低級アルキル[置換基群A:ハロゲン、アミノ、アミノスルホニル、ニトロ、ヒドロキシ、メルカプト、シアノ、ホルミル、カルボキシ、カルバモイル、低級アルカノイルオキシ、低級アルカノイルアミノ、モノまたはジ(低級アルキル)アミノカルボニル、低級アルコキシカルボニル、モノまたはジ低級アルキルアミノ、N-アリール-N-低級アルキルアミノ、低級アルキルスルホニル、低級アルキルスルフィニル、モノまたはジ(低級アルキルスルホニル)アミノ、モノまたはジ(アリールスルホニル)アミノ、トリ低級アルキルシリル、低級アルキルチオ、芳香族複素環アルキルチオ、低級アルカノイル、以下の置換基群aより選ばれる同一のまたは異なる1つ〜3つの置換基で置換された低級アルカノイル(置換基群a:ハロゲン及びヒドロキシ)、低級アルコキシ、前記置換基群aより選ばれる同一のまたは異なる1つ〜3つの置換基で置換された低級アルコキシ、アリールオキシ、前記置換基群aより選ばれる同一のまたは異なる1つ〜3つの置換基で置換されたアリールオキシ、アラルキルオキシ及び前記置換基群aより選ばれる同一のまたは異なる1つ〜3つの置換基で置換されたアラルキルオキシ;なお該置換された低級アルキルが置換メチル、置換エチルまたは置換プロピルであるときは、その置換基は-NR18aR18b(式中、R18a及びR18bは同一または異なって、水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級シクロアルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換の芳香族複素環アルキル、置換もしくは非置換の脂環式複素環アルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換の芳香族複素環基または置換もしくは非置換の脂環式複素環基を表す)であってもよい]、低級シクロアルキル、前記置換基群Aより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜4つの置換基で置換された低級シクロアルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換の芳香族複素環アルキル、置換もしくは非置換の脂環式複素環アルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換の芳香族複素環基、置換もしくは非置換の脂環式複素環基、置換もしくは非置換の低級アルコキシ、置換もしくは非置換の低級アルコキシカルボニル、置換もしくは非置換の低級アルキルチオ、置換もしくは非置換の低級アルカノイルまたは-C(=O)NR19aR19b(式中、R19a及びR19bは同一または異なって、水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級シクロアルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換の芳香族複素環アルキル、置換もしくは非置換の脂環式複素環アルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換の芳香族複素環基または置換もしくは非置換の脂環式複素環基を表すか、またはR19a及びR19bが隣接する窒素原子と一緒になって置換もしくは非置換の脂環式複素環基を形成する)を表す}、-N=CR17a-O-(式中、R17aは前記R17と同義である)、-O-N=CR17b-(式中、R17bは前記R17と同義である)、-O-C(=O)-NR20-(式中、R20は水素原子、低級アルキル、前記置換基群Aより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜4つの置換基で置換された低級アルキル、低級シクロアルキル、前記置換基群Aより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜4つの置換基で置換された低級シクロアルキルまたは置換もしくは非置換の脂環式複素環アルキルを表す)、-N=N-NR21-(式中、R21は置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級シクロアルキルまたは置換もしくは非置換の脂環式複素環アルキルを表す)または-NR21a-N=N-(式中、R21aは前記R21と同義である)を表し、
【0024】
R15は-NR22aR22b(式中、R22a及びR22bは同一または異なって、水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級シクロアルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換の芳香族複素環アルキル、置換もしくは非置換の脂環式複素環アルキル、置換もしくは非置換の単環性アリール、置換もしくは非置換の単環性芳香族複素環基または置換もしくは非置換の脂環式複素環基を表すか、またはR22a及びR22bが隣接する窒素原子と一緒になって置換もしくは非置換の脂環式複素環基を形成する。ただし、R22aまたはR22bの一方が水素原子であるとき、R22aまたはR22bの他方は置換もしくは非置換のピラゾール-3-イル及び置換もしくは非置換の1,2,4-トリアゾール-3-イルではない)または-OR23(式中、R23は水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級シクロアルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換の芳香族複素環アルキル、置換もしくは非置換の脂環式複素環アルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換の芳香族複素環基または置換もしくは非置換の脂環式複素環基を表す)を表し、
【0025】
R16は-NR24aR24b{式中、R24a及びR24bは同一または異なって、水素原子、低級アルキル、以下の置換基群Bより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜4つの置換基で置換された低級アルキル[置換基群B:ハロゲン、アミノ、アミノスルホニル、ニトロ、ヒドロキシ、メルカプト、シアノ、ホルミル、カルボキシ、カルバモイル、低級アルカノイルオキシ、低級アルカノイルアミノ、モノまたはジ(低級アルキル)アミノカルボニル、低級アルコキシカルボニル、モノまたはジ低級アルキルアミノ、N-アリール-N-低級アルキルアミノ、低級アルキルスルホニル、低級アルキルスルフィニル、モノまたはジ(低級アルキルスルホニル)アミノ、モノまたはジ(アリールスルホニル)アミノ、トリ低級アルキルシリル、低級アルキルチオ、芳香族複素環アルキルチオ、低級アルカノイル、以下の置換基群aより選ばれる同一のまたは異なる1つ〜3つの置換基で置換された低級アルカノイル(置換基群a:ハロゲン及びヒドロキシ)、低級アルコキシ、前記置換基群aより選ばれる同一のまたは異なる1つ〜3つの置換基で置換された低級アルコキシ、アリールオキシ、前記置換基群aより選ばれる同一のまたは異なる1つ〜3つの置換基で置換されたアリールオキシ、アラルキルオキシ及び前記置換基群aより選ばれる同一のまたは異なる1つ〜3つの置換基で置換されたアラルキルオキシ]、低級シクロアルキル、前記置換基群Bより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜4つの置換基で置換された低級シクロアルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換の脂環式複素環アルキル、置換もしくは非置換の単環性アリールまたは置換もしくは非置換の脂環式複素環基を表すか、またはR24a及びR24bが隣接する窒素原子と一緒になって置換もしくは非置換の脂環式複素環基または置換もしくは非置換の芳香族複素環基を形成する。ただし、R24a及びR24bは同時に水素原子にはならない}、-NR25CR26aR26b-Ar{式中、R25は水素原子、低級アルキルまたは低級シクロアルキルを表し、R26a及びR26bは同一または異なって水素原子、低級アルキル、以下の置換基群bより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜3つの置換基で置換された低級アルキル(置換基群b:ハロゲン、ヒドロキシ及びヒドロキシメチル)、低級シクロアルキルまたは前記置換基群bより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜3つの置換基で置換された低級シクロアルキルを表し、Arはアリール、以下の置換基群Cより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜3つの置換基で置換されたアリール[置換基群C:ハロゲン、アミノ、ニトロ、ヒドロキシ、メルカプト、シアノ、カルボキシ、アミノスルホニル、低級アルキル、前記置換基群bより選ばれる同一のまたは異なる1つ〜3つの置換基で置換された低級アルキル、低級シクロアルキル、前記置換基群bより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜3つの置換基で置換された低級シクロアルキル、低級アルコキシ、低級アルキルチオ、モノまたはジ低級アルキルアミノ、低級アルカノイルアミノ、モノまたはジ(低級アルキルスルホニル)アミノ、低級アルコキシカルボニルアミノ、脂環式複素環アルキルオキシ及びアルキレンジオキシ]、芳香族複素環基または前記置換基群Cより選ばれる同一のもしくは異なる1つ〜3つの置換基で置換された芳香族複素環基を表す}または-NR25CR26aR26bCR27aR27b-Ar(式中、R25、R26a、R26b及びArはそれぞれ前記と同義であり、R27a及びR27bはそれぞれ前記R26a及びR26bと同義である)を表す〕で表されるピリミジン誘導体またはその薬理学的に許容される塩、式(III)
【0026】
【化6】

〔式中、Wは-C(=O)-または-CHR31-(式中、R31は水素原子、ヒドロキシ、置換もしくは非置換の低級アルキルまたは置換もしくは非置換の低級アルコキシを表す)を表し、
R28
【0027】
【化7】

{式中、Ar3はアリール、以下の置換基群Aから選ばれる同一のもしくは異なる1つまたは2つの置換基で置換されたアリール、単環性芳香族複素環基または以下の置換基群Aから選ばれる同一のもしくは異なる1つまたは2つの置換基で置換された単環性芳香族複素環基を表す;置換基群C[ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルコキシ、置換もしくは非置換の低級アルカノイル、-CONR32aR32b(式中、R32a及びR32bは同一または異なって水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換のアリールまたは置換もしくは非置換のアラルキルを表すか、またはR32a及びR32bが隣接する窒素原子と一緒になって置換もしくは非置換の複素環基を形成する)及び-NR33aR33b(式中、R33a及びR33bは同一または異なって水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルカノイル、置換もしくは非置換の低級アルキルスルホニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換のアロイル、置換もしくは非置換のアリールスルホニルまたは置換もしくは非置換のヘテロアロイルを表す)]}を表し、
R29は水素原子または
【0028】
【化8】

(式中、Ar4は前記Ar3と同義である)を表し、
R30は水素原子、ハロゲン、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルカノイル、置換もしくは非置換のアリール、-NR34aR34b[式中、R34a及びR34bは同一または異なって水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキルまたは-C(=O)-R35(式中、R35は水素原子、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルコキシまたは置換もしくは非置換のアラルキルを表す)を表す]または
【0029】
【化9】

(式中、Ar5は前記Ar3と同義である)を表す。但しR29が水素原子であり、かつAr1がアリール、2つの低級アルコキシで置換されたアリール、または1つの低級アルキルもしくは低級アルコキシのみで置換されたアリールである場合、R30は水素原子ではない〕で表される含窒素複素環化合物またはその薬理学的に許容される塩等が挙げられる。
本発明のキナーゼ阻害物質の測定方法の対象となるキナーゼまたはその基質のリン酸化レベルは前記疾患のバイオマーカーとして用いることもできる。
【0030】
本発明の生体試料としては、キナーゼ阻害物質が存在する或いは存在が疑われる生体中の試料あるいはその処理物であれば、とくに制限はなく、血液、血漿、血清、膵液、尿、糞便、組織液等が挙げられる。とくに、キナーゼ阻害物質を投与した患者の生体試料が好ましい。キナーゼ阻害物質を投与した患者とは、各種疾患を治療するためにキナーゼ阻害物質を投与された患者をいう。具体的には、癌(例えば、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、形質細胞性白血病等の白血病、多発性骨髄腫等の骨髄腫、リンパ腫、乳癌、子宮体癌、子宮頚癌、前立腺癌、膀胱癌、腎癌、胃癌、食道癌、肝癌、胆道癌、大腸癌、直腸癌、膵癌、肺癌、口頭頚部癌、骨肉腫、メラノーマ、脳腫瘍による癌等)、各種アレルギー疾患(例えば、喘息、鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎等)、各種炎症性疾患、変形性関節症、関節炎、骨粗鬆症、自己免疫疾患、感染症、敗血症、悪液質、脳梗塞、アルツハイマー病、慢性肺炎症性疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、再灌流障害、血栓症、糸球体腎炎、糖尿病、対宿主性移植片拒絶反応、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、キャッスルマン病、心房内粘液腫、乾癬、皮膚炎、痛風、成人呼吸器窮迫症候群(ARDS)、動脈硬化症、経皮経冠状動脈拡張術(PTCA)後再狭窄、膵炎、疼痛、リウマチ等の患者が挙げられる。
【0031】
キナーゼ阻害物質の標的となるキナーゼ(以下、標的キナーゼという)を発現する細胞としては、標的キナーゼを発現する細胞であればいかなる細胞でもよく、生体から単離した細胞であっても、遺伝子組換え細胞であってもよい。例えばMOLM-13(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)、MV-4-11(American Type Culture Collection)、K562(American Type culture Collection社製)、BV173(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen社製)、TCC-Y、TCC-Ysr、TCC-Ywr(WO2004/094628)等の白血病細胞株等が挙げられる。また、キナーゼ阻害剤を投与した患者由来の細胞を用いることもできる。その他、変異型FLT3を発現する細胞、Ablを発現する細胞、Auroraを発現する細胞等も用いることができる。
【0032】
前記工程bにおける、該細胞内に存在する標的キナーゼの基質とは、標的キナーゼを発現する細胞内に存在し、標的キナーゼが活性化されることによりリン酸化が起こる基質を表し、例えばsignal transducer and activator of transcription 1(STAT1)、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5、STAT6、Histone H3、CRKL等が挙げられる。
工程bにおいて、標的キナーゼの下流のキナーゼとは、標的キナーゼを発現する細胞内に存在するキナーゼ(以下、細胞内キナーゼという)であって、標的キナーゼのシグナル伝達経路の下流に位置し、標的キナーゼにより活性化されることにより、リン酸化が起こるキナーゼをいう。標的キナーゼの基質及び/または標的キナーゼの下流のキナーゼのリン酸化レベルを測定する方法としては、標的キナーゼ及び/またはキナーゼの下流にあるキナーゼのリン酸化レベルを測定できる方法であれば特に制限はないが、リン酸化された標的キナーゼの基質及び/またはリン酸化された細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体または抗体断片を用いた免疫学的測定方法が挙げられる。該抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、またはそれらの抗体断片等が挙げられる。
【0033】
本発明における免疫学的測定方法としては、蛍光抗体法、免疫酵素抗体法(ELISA)、放射性物質標識免疫抗体法(RIA)、免疫組織染色法、免疫細胞染色法などの免疫組織化学染色法(ABC法、CSA法等)、ドットブロッティング法、ウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、酵素免疫測定法、サンドイッチELISA 法[単クローン抗体実験マニュアル(講談社サイエンティフィック、1987年)、続生化学実験講座5 免疫生化学研究法(東京化学同人、1986年)]等が挙げられる。
蛍光抗体法は、文献[Monoclonal Antibodies: Principles and practice, Third edition (Academic Press, 1996), 単クローン抗体実験マニュアル(講談社サイエンティフィック、1987年)]等に記載された方法を用いて行うことができる。具体的には、生体試料と標的キナーゼを発現した細胞とを接触させ、該細胞を溶解した後に、リン酸化された標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体を反応させ、さらにフルオレシン・イソチオシアネート(FITC)またはフィコエリスリン等の蛍光物質でラベルした抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、蛍光色素をフローサイトメーターで測定する方法である。
【0034】
免疫酵素抗体法(ELISA)は、生体試料と標的キナーゼを発現する細胞とを接触させ、該細胞を溶解した後に、リン酸化された標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体を反応させた後に、さらにペルオキシダーゼ、ビオチン等の酵素標識等を施した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、発色色素を吸光光度計で測定する方法である。
放射性物質標識免疫抗体法(RIA)は、生体試料と標的キナーゼを発現する細胞とを接触させ、該細胞を溶解した後に、リン酸化された標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体を反応させた後に、さらに放射線標識を施した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、シンチレーションカウンター等で測定する方法である。
【0035】
免疫細胞染色法、免疫組織染色法などの免疫組織化学染色法(ABC法、CSA法等)は、文献[Monoclonal Antibodies: Principles and practice, Third edition (Academic Press, 1996), 単クローン抗体実験マニュアル(講談社サイエンティフィック, 1987年)]等に記載された方法を用いて行うことができる。
免疫細胞染色法は、生体試料と標的キナーゼを発現する細胞とを接触させ、該細胞を溶解した後に、リン酸化された標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体を反応させた後に、さらにフルオレシン・イソチオシアネート(FITC)等の蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチン等の酵素等で標識した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、フローサイトメーターを用いて測定する方法である。
免疫組織染色法は、生体試料と標的キナーゼを発現する細胞とを接触させ、該細胞を溶解した後に、リン酸化された標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体を反応させた後に、さらにフルオレシン・イソチオシアネート(FITC)等の蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチン等の酵素等で標識した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、顕微鏡を用いて観察する方法である。
【0036】
ドットブロッティング法は、生体試料と標的キナーゼを発現する細胞とを接触させ、該細胞を溶解した後に、該溶解液をPVDF膜あるいはニトロセルロース膜にブロッティングし、該膜にリン酸化された標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチンなどの酵素等で標識した抗マウスIgG抗体あるいは結合断片を反応させた後、標識を確認する方法である。
ウェスタンブロッティング法は、生体試料と標的キナーゼを発現する細胞とを接触させ、該細胞を溶解した後に、該溶解液をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Antibodies-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988年)で分画した後、該ゲルをPVDF膜あるいはニトロセルロース膜にブロッティングし、該膜にリン酸化された標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチンなどの酵素等で標識した抗マウスIgG抗体あるいは結合断片を反応させた後、標識を確認する方法である。
【0037】
免疫沈降法とは、生体試料と標的キナーゼを発現する細胞とを接触させ、該細胞を溶解した後に、リン酸化された標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体を反応させた後に、プロテインG-セファロース等のイムノグロブリンに特異的な結合能を有する担体を加えて抗原抗体複合体を沈降させる方法である。
サンドイッチELISA法とは、抗原抗体反応で結合した被検液中の目的物質と該目的物質に対する第一の抗体に、該目的物質に対する第二の抗体を第一の抗体と同時に、または別々に反応させ、被検液中の目的物質を測定する方法である。用いる2種類の抗体は異なるエピトープを認識する。具体的には、予め標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体をプレートに吸着させ、生体試料と標的キナーゼを発現する細胞とを接触させ、該細胞を溶解した溶解液をプレートに加えた後、リン酸化された標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体を反応させる。その後、フルオレシン・イソチオシアネート(FITC)またはフィコエリスリン等の蛍光物質でラベルした抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、蛍光色素をフローサイトメーターで測定する方法である。二次抗体であるリン酸化された標的キナーゼの基質または細胞内キナーゼを特異的に認識する抗体をフルオレシン・イソチオシアネート(FITC)またはフィコエリスリン等の蛍光物質でラベルした該抗体を用いて、その後蛍光色素を測定してもよい。
【0038】
以下に標的キナーゼの基質としてSTAT5を例とした具体的な測定方法を示す。
標的キナーゼを発現する細胞を遠心分離し、洗浄する。これをリン酸緩衝液で懸濁後3×106/tubeになるようにエッペンドルフチューブに分注し、遠心分離する。遠心分離後、上清を除去し、キナーゼ阻害物質を含むヒト血漿500 μLを添加し、37 ℃設定の炭酸ガスインキュベーター内で1時間接触させる。接触後の細胞をリン酸緩衝液で洗浄し、次いで2%ホルムアルデヒド水溶液を添加し、37 ℃で10分間反応させ固定する。その後100%メタノールを添加し、氷上で30分間反応させ浸透させる。
固定、浸透後の細胞をテストチューブに分注し、Phamingen Stain Buffer(BSA)を加えて、遠心分離して細胞を洗浄後、1.0 mg/mLのAlexa488ラベル抗リン酸化STAT5抗体[抗リン酸化STAT5抗体KM3461をAlexa Flour488標識試薬(Molecular PROBES社製)でAlexa488標識化したもの]またはAlexa488ラベルRat IgG[SDラットより血清を採取し、その血清から得たIgG画分をAlexa Flour488標識試薬(Molecular PROBES社製)でAlexa488標識化したもの]を氷上で30分間反応させる。反応後、0.2W/V%ウシ血清アルブミン、0.09W/V%アジ化ナトリウムを含むリン酸緩衝液で遠心分離して細胞を洗浄し、リン酸緩衝液で懸濁後、フローサイトメーター(EPICS ELITEまたはCytomics FC500、Beckman Coulter)を用いて、488 nm励起波長、575 nm蛍光波長で10000個の細胞の赤色蛍光を測定する。
【0039】
本発明の測定方法は、生体試料中のキナーゼ阻害物質を検出する方法及び定量する方法を包含する。本発明の定量方法としては、上述した免疫学的測定方法を用いた以下の方法が例示される。
標的キナーゼを発現している細胞を遠心分離する。
キナーゼ阻害物質が投与された患者から体液を採取し、該体液に標的キナーゼを発現している細胞を接触させる。標準曲線を作成するために、各濃度のキナーゼ阻害物質を、ヒトから単離された細胞株にそれぞれ添加して培養を行い、該細胞株に標的キナーゼを発現している細胞を接触させるか、各濃度のキナーゼ阻害物質を、健常人に投与後、体液を採取し、該体液に標的キナーゼを発現している細胞を接触させる。
接触後の細胞を溶解した後、標識された標的キナーゼの基質に反応性を有する抗体を反応させる。反応後、フローサイトメーターを用いて、488 nm励起波長、575 nm蛍光波長で1×104細胞あたりの赤色蛍光を測定する。
標準曲線は、赤色蛍光の値とキナーゼ阻害物質の濃度とにより表すことができる。
従って、生体試料中に含まれるキナーゼ阻害物質の濃度は、上記測定により得られた赤色蛍光の値から標準曲線を用いて求めることができる。
【0040】
本発明のキットは、試薬の組み合わせにより構成されるが、以下に述べる各構成要素と本質的に同一、またはその一部と本質的に同一な物質が含まれていれば、構成または形態が異なっていても、本発明のキットに包含される。
試薬としては、標的キナーゼを発現する細胞及び標的キナーゼの基質及び/または細胞内キナーゼのリン酸化レベルを測定するための試薬を含み、また、必要に応じ、生体試料の希釈液等も含まれる。
生体試料の希釈液としては、界面活性剤、緩衝剤等に安定化剤を含む水溶液等が挙げられる。検体として全血を用いる場合には、水性溶液は、赤血球等の血球の膨張や収縮による血清中の成分濃度の変化を防止する目的で、塩類、糖類等、緩衝剤等により等張液に調製されたものであることが好ましい。塩類としては、特に制限はないが、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属塩等が挙げられる。糖類としては、特に制限はないが、例えばマンニトール、ソルビトール等の糖アルコール等が挙げられる。
【0041】
以下、実施例により本発明をより具体的に述べる。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の実施例1において、試験化合物としては4-{5-(ピペラジン-1-イルメチル)[1,3,4]オキサゾール-2-イル}-4-(n-プロピルアミノ)-2-[2-(ピリジン-4-イル)エチル]ピリミジン(以下、化合物1)を用いた。なお、化合物1はWO2005/095382記載の方法により合成することができる。
【実施例1】
【0042】
化合物1を雄性Balb/cマウス(日本クレア)へ投与した後、該動物に対して採血を行った。採血は化合物1投与前、投与後4時間、8時間、24時間後に行った。得られた血液を1,500 g、5分間遠心分離し、血漿を単離した。得られた血漿の不溶性画分を15,000 g、5分間遠心分離することにより除去した。なお、化合物1を投与していないマウスから同様の操作でコントロール血漿を調製した。
MOLM-13細胞をリン酸緩衝液にて洗浄し、5×105〜5×106細胞/チューブとなるようチューブ(1.5 mLポリプロピレンチューブ、Treff AG、カタログ番号:96.7246.9.01)に分注し、750 g、5分間で遠心分離しペレットにした。ペレットとなった細胞に前記血漿またはコントロール血漿を500 μL/チューブとなるように添加し、続いて37 ℃、5%CO2の条件下で60分間反応させた。反応後の混合物に対して750 g、5分間遠心分離を行い、血漿を除去した。得られた細胞をリン酸緩衝液にて洗浄した。
【0043】
細胞内の蛋白質を可溶化するために、lysis buffer[50 mmol/L HEPES、150 mmol/L NaCl、1 vol% Nonidet-P40、50 mmol/L NaF、2 mmol/L Na3VO4、1 vol% Protease inhibitor cocktail for General Use (ナカライテスク社製)]を細胞に添加し、氷上にて10分間処理した。これを15000 g, 5 分間遠心分離し、得られた上清を細胞抽出液とした。各サンプルに含まれる蛋白質濃度をprotein assay kit(Bio Rad社製)を用いて測定し、サンプル間の蛋白質量が一定になるようにlysis bufferにより希釈した。さらに2×sample buffer(ナカライテスク社製)を添加し、95 ℃で5分間加熱処理を行ったものを SDS-PAGE 用サンプルとした。
上記で調製したSDS-PAGE用サンプルをSDS-PAGEにて分離した後、PVDF膜(Polyvinylidene Fluoride膜、MILLIPORE社、カタログ番号:IPVH00010)に転写した。転写後の膜をblocking buffer[50 mmol/L Tris-buffered saline (pH 8.0) containing 0.05 vol% Tween 20 (Bethyl Laboratories, Montgomery, TX, USA), 5 w/v% skim milk (ナカライテスク社製)]中に浸し、一次抗体及び二次抗体を加えて反応させた。一次抗体としては参考例1の方法で作製された抗リン酸化STAT5抗体KM3461及び抗STAT5抗体(Santa Cruz社製)を用いた。抗体を反応させた後、ECL Western blotting検出試薬(Amersham Biosciences)にて反応させたX線フィルムを感光させて目的のバンドを検出した。結果を図1に示す。リン酸化されたSTAT5に相当するバンドについて、No reduction (N)、Partial reduction (P)、Complete reduction (C) に分類し、縦軸を血漿中総薬物濃度としてドットプロットを作製した。なお、N、P、Cの定義は以下の通りである。
No reduction (N):目視にてコントロールのバンドに比べ、STAT5リン酸化レベルに低下が確認できない群
Partial reduction (P) :目視にてコントロールのバンドに比べ、STAT5リン酸化レベルに低下していると確認される群
Complete reduction (C) :目視にてSTAT5リン酸化レベルに相当するバンドが確認できない群
【0044】
血漿中の化合物の濃度はLC/MS/MSを用いて下記の分析条件で測定した。LC/MS/MSにて測定した化合物1の濃度とSTAT5リン酸化のレベルに関してプロットした結果を図2に示す。
LC/MS/MSによる分析条件
HPLC装置: Agilent 1100(Agilent Technologies社製)
オートサンプラー: HTC PAL(CTC Analytics社製)
質量分析計: API2000(Applied Biosystems/MDS Sciex社製)
解析ソフトウェア: Analyst 1.3.1(Applied Biosystems/MDS Sciex社製)
ガードフィルター: プレフィルター(野村化学社製)
カラム : CAPCELL PAK C18 MG(3 μm、3 mm i.d.×35 mm、資生堂社製)
カラム温度: 室温
移動相条件: A) 10 mmol/L酢酸アンモニウム水溶液、B) アセトニトリル
【0045】
【表1】

【0046】
流速: 0.8 mL/min
注入量:60 μL
イオン化法: Atmospheric pressure chemical ionization、positive
カーテンガス: Nitrogen 207 kPa
ネブライザーガス: Air 552 kPa
オーグジュリアリーガス: Air 138 kPa
コリジョンガス: Nitrogen 27.6 kPa
イオン源温度: 450 ℃
インターフェイスヒーター:On
ニードル電流: 3 μA
オリフィス電圧: 16 V
リング電圧: 370 V
コリジョンエネルギー: 23 eV
検出質量(m/z:Q1/Q3): 424.08/319.15
参考例1:STAT5の694位チロシンのリン酸化を特異的に検出できるモノクローナル抗体の作製
(1)抗原ペプチドの調製
(略号について)
本発明において使用したアミノ酸及びその保護基に関する略号は、生化学命名に関するIUPAC-IUB委員会(IUPAC-IUB Joint Commission on Biochemical Nomenclature)の勧告[ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(European Journal of Biochemistry)、138巻、9頁(1984年)]に従った。
【0047】
以下の略号は、特に断わらない限り対応する下記のアミノ酸を表す。
Ala: L-アラニン
Asp: L-アスパラギン酸
Asx: L-アスパラギン酸またはL-アスパラギン
Arg: L-アルギニン
Cys: L-システイン
Gln: L-グルタミン
Glx: L-グルタミン酸
Gly: グリシン
Ile: L-イソロイシン
Leu: L-ロイシン
Met: L-メチオニン
PHe: L-フェニルアラニン
Ser: L-セリン
Thr: L-スレオニン
Tyr: L-チロシン
pTyr: L-ホスホチロシン
Met: L-メチオニン
Val: L-バリン
ヒトSTAT5の蛋白配列を解析し、694位のチロシンを含む部分で、親水性や二次構造から抗原として適当と考えられる部分配列として、以下の配列を選択した。なお、Acはアセチルを表す。
【0048】
化合物PY694(配列番号1)
Ac-Ala Lys Ala Val Asp Gly pTyr Val Lys Pro Gln Ile Lys Gln Val Val Pro Glu PHe Val Cys-OH
また、ハイブリドーマスクリーニングに使用する陰性対照抗原としては以下の配列を用いた。
【0049】
化合物Y694(配列番号2)
Ac-Ala Lys Ala Val Asp Gly Tyr Val Lys Pro Gln Ile Lys Gln Val Val Pro Glu PHe Val Cys-OH
化合物PY694、PY694は自動合成機を用い、島津製作所の合成プログラムに従って合成後、HPLCにて精製し、抗原として用いた。
(2)免疫原の調製
(1)で得られた化合物PY694は、免疫原性を高める目的で以下の方法でKLH(カルビオケム社)とのコンジュゲートを作製し、免疫原とした。すなわち、KLHをPBSに溶解して10 mg/mLに調整し、1/10容量の25 mg/mL MBS[N-(m-Maleimidobenzoyloxy)succinimide;ナカライテスク社]を滴下して30分間撹拌し反応させた。あらかじめPBSで平衡化したゲルろ過カラム(セファデックスG−25カラム)でフリーのMBSを除いて得られたKLH−MBS 2.5 mgを0.1 mol/Lリン酸ナトリウムバッファー(PH7.0)に溶解した1 mgの化合物PY694と混合し、室温で3時間、攪拌し反応させた。反応後、PBSで透析したものを免疫原として用いた。
(3)動物の免疫と抗体産生細胞の調製
(2)で調製した化合物PY694のKLHコンジュゲート50 μgをそれぞれ水酸化アルミニウムアジュバント(Antibodies-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、99頁、1988年)2 mg及び百日咳ワクチン(千葉県血清研究所製)1×109細胞とともに4週令雌SDラット3匹(静岡県実験動物農業協同組合)に投与した。投与2週間後より、化合物PY694のKLHコンジュゲート50 μgを1週間に1回、計4回投与した。該ラットの尾静脈より部分採血し、その血清抗体価を以下に示す酵素免疫測定法で調べ、十分な抗体価を示したラットから最終免疫3日後に脾臓を摘出した。
【0050】
脾臓をMEM(Minimum Essential Medium)培地(日水製薬社製)中で細断し、ピンセットでほぐし、遠心分離(1200 rpm、5分間)した。得られた沈殿画分にトリス−塩化アンモニウム緩衝液(PH7.6)を添加し、1〜2分間処理することにより赤血球を除去した。得られた沈殿画分(細胞画分)をMEM培地で3回洗浄し、細胞融合に用いた。
(4)酵素免疫測定法[バインディングELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)]
アッセイ用の抗原には(1)で得られたPY694、Y694をサイログロブリン(以下、THYと略す)とコンジュゲートしたものを用いた。作製方法は(2)に記した通りであるが、架橋剤にはMBSの代わりにSMCC[4-(N-Maleimidomethyl)-cyclohexane-1-carboxylic acid N-hydroxysuccinimido ester;シグマ社]を用いた。96穴のELISA用プレート(グライナー社)に、上記のように調製したコンジュゲートを5 μg/mL、50 μL/穴で分注し、4 ℃で一晩放置して吸着させた。該プレートを洗浄後、1%牛血清アルブミン(BSA)-ダルベッコリン酸バッファー(Phosphate buffered saline:PBS)を100 μL/穴加え、室温で1時間放置し、残っている活性基をブロックした。
【0051】
放置後、1% BSA-PBSを捨て、該プレートに一次抗体として(2)で部分採血した被免疫ラット抗血清、下記(6)で得られたハイブリドーマ培養上清を50 μL/穴分注し、2時間放置した。該プレートを0.05% ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート[(ICI社商標Tween 20相当品:和光純薬社製)]/PBS(以下Tween-PBSと記載)で洗浄後、2次抗体としてペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリン(ダコ社)を50 μL/穴で加えて室温、1時間放置した。該プレートをTween-PBSで洗浄後、ABTS基質液[2.2-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾール-6-スルホン酸)アンモニウム、1 mmoL/L ABTS/0.1moL/Lクエン酸バッファー(PH4.2)]を添加し、発色させOD415 nmの吸光度をプレートリーダー(Emax;MoLecuLar Devices社)を用いて測定した。
(5)マウス骨髄腫細胞の調製
8-アザグアニン耐性マウス骨髄腫細胞株P3X63Ag8U.1(P3-U1:ATCCより購入)を10%ウシ胎児血清添加RPMI1640(インビトロジェン社)で培養し、細胞融合時に2×107個以上の細胞を確保し、細胞融合に親株として供した。
(6)ハイブリドーマの作製
(3)で得られたラット脾細胞と(5)で得られた骨髄腫細胞とを10:1になるよう混合し、遠心分離(1200 rpm、5分間)した。得られた沈澱画分の細胞群をよくほぐした後、攪拌しながら、37 ℃で、ポリエチレングリコール−1000(PEG-1000)1 g、MEM培地1 mL、及びジメチルスルホキシド0.35 mLの混液を108個のマウス脾細胞あたり0.5 mL加え、該懸濁液に1〜2分間毎にMEM培地1 mLを数回加えた後、MEM培地を加えて全量が50 mLになるようにした。
【0052】
該懸濁液を遠心分離(900 rpm、5分間)し、得られた沈澱画分の細胞をゆるやかにほぐした後、該細胞を、メスピペットによる吸込み吸出しでゆるやかにHAT培地[10%ウシ胎児血清添加RPMI1640培地にHAT Media Supplement(インビトロジェン社製)を加えた培地]100 mL中に懸濁した。該懸濁液を96穴培養用プレートに200μL/穴ずつ分注し、5%CO2インキュベーター中、37 ℃で10日間培養した。
【0053】
培養後、培養上清を(4)に記載した酵素免疫測定法で調べ、化合物PY694に反応して化合物Y694に反応しない穴を選び、そこに含まれる細胞から限界希釈法によるクローニングを2回繰り返し、抗PY694モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株KM3461、KM3462及びKM3463を確立した。
(7)モノクローナル抗体の精製
プリスタン(2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン、シグマ社)を3日前に0.5 mL/匹腹腔内投与した8週令ヌード雌マウス(BALB/c、静岡県実験動物農業協同組合)に(6)で得られたハイブリドーマ株を5〜20×106細胞/匹それぞれ腹腔内注射した。10〜21日後、ハイブリドーマが腹水癌化することにより腹水のたまったマウスから、腹水を採取(1〜8 mL/匹)した。
【0054】
該腹水を遠心分離(3000rpm、5分間)し固形分を除去した。精製IgGモノクローナル抗体は、カプリル酸沈殿法(Antibodies-A Laboratory ManuaL、Cold Spring Harbor Laboratory、1988年)により精製することにより取得した。モノクローナル抗体のサブクラスはサブクラスタイピングキットを用いたELISA法により決定した。KM3461、KM3462及びKM3463のサブクラスはすべてIgG2aであった。
参考例2:抗PY694モノクローナル抗体の反応性の検討
(1)抗原固層系における抗原化合物との反応性(バインディングELISA)
参考例1の(4)に示した方法に従って行なった。ただし、1次抗体には参考例1の(5)で得られたハイブリドーマ培養上清を原液から5倍希釈で5点ふったものを用いた。結果を図3に示す。KM3461、KM3462及びKM3463は、化合物PY694にのみ反応し、化合物Y694には全く反応しなかった。
(2)抗原液相系における抗原化合物との反応性(インヒビションELISA)
KM3461、KM3462及びKM3463の液相系における抗原化合物に対する反応性を、インヒビションELISAで調べた。
【0055】
参考例1の(4)に示したように抗原を固相化したプレートを準備し、20 μg/mLより5倍希釈で段階的に希釈した参考例1の(1)で得られた化合物 PY694、化合物Y694を50 μL/穴で分注後、KM3461、KM3462及びKM3463の各培養上清を希釈して(希釈倍率;KM3461:x10、KM3462:x50、KM3463:x7)50 μL/穴で分注し、ウェル内で混合して室温で2時間反応させた。ウェルをTween−PBSで洗浄後、希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリン(ダコ社)を50 μL/穴で加えて室温、1時間反応させ、Tween−PBSで洗浄後ABTS基質液[2.2-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾール-6-スルホン酸)アンモニウム]を用いて発色させOD415nmの吸光度をプレートリーダー(Emax;和光純薬)にて測定した。
【0056】
図4に示すように、KM3461、KM3462及びKM3463はいずれも液相系において化合物PY694に特異的な反応性を示した。
(3)ウエスタンブロットによるリン酸化STAT5検出
恒常的にSTAT5がリン酸化されていることが報告されている[Leukemia Research、第27巻、803-805頁(2003年)]細胞株K562(理研セルバンク 0027)に可溶化バッファー[50 mmol/L Tris-HCl(PH7.2)、150 mmol/L Sodium chloride、1% TritonX、2 mmol/L Magnesium chloride、2 mmol/L Calcium cholride、0.1% Sodium azide、5μmol/L Phenylmethylsulfonyl fluoride、50 mmol/L N-etylmaleimide、1 mg/mL Leupeptin、100 μmol/L 1,4-dithiothreitol、2 mmol/L Sodiumorthovanadate、1 mmol/L Sodium fluoride、10 mmol/L βglycerophosphate]を細胞5×107個あたり1 mL添加し、4 ℃で30分間反応させた後、遠心分離した上清を可溶化画分とした。1レーンあたり、1.5×105個細胞相当量の可溶化画分をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動にて分画し、泳動後のゲルをPVDF膜に転写した。該膜を1%BSA-PBSでブロッキング後、KM3461、KM3642、及びKM3463の各培養上清、陽性対照抗体として抗リン酸化STAT5モノクローナル抗体Clone47(ベクトンデッキンソン社)5 μg/mL/1%BSA-PBS、および陰性対照抗体としてKM1762(抗アベルメクチン抗体)5 μg/mL/1%BSA-PBSを室温で2時間反応させた。抗体を反応させた該膜をTween-PBSでよく洗浄した後、希釈したペルオキシターゼ標識ウサギ抗ラットイムノグロブリン(ダコ社)を室温で1時間反応させた。該膜をTween-PBSでよく洗浄し、ウエスタンブロッテイング検出試薬(ECLウエスタンブロッテイングディテクションリージェンツ(登録商標)、アマシャムファルマシア社製)を用いてバンドを検出した。
【0057】
図5に示すようにKM3461、KM3462及びKM3463は市販抗リン酸化STAT5モノクローナル抗体Clone47(ベクトンデッキンソン社)と同様に95キロダルトン付近にバンドを検出した。したがって、(1)、(2)の結果と考え合わせることにより、KM3461、KM3462及びKM3463はリン酸化STAT5を特異的に認識する抗体であると考えられた。また、これらの抗体がウエスタンブロットによるリン酸化STAT5の検出に使用可能な抗体であることが示された。
(4)細胞を用いた蛍光抗体染色法(フローサイトメトリー)
K562細胞を10%牛胎児血清入りRPMI1640(インビトロジェン社)で2-3日培養し、遠心分離により回収した細胞をPBSで洗浄した。細胞の膜透過性を上昇させる為、2%中性緩衝ホルマリン溶液(ナカライテスク社)を37 ℃、10分間反応させ、PBSを用いて遠心分離法で洗浄後、更に100%メタノールを氷温中で30分間反応させた。PBSで洗浄後、抗体の非特異的な吸着を避けるためにヒトイムノグロブリンIgG(三菱ウエルファーマ社)/1%BSA-PBSを用いて、氷温中で20分間ブロッキングした。1×106個/100 μL/1%BSA-PBSとなるように96穴U字プレートに分注し、遠心分離(1800 rpm、2分間)した後、上清を除いて一次抗体として、KM3461、KM3462及びKM3463の各培養上清、陽性対照抗体として抗リン酸化STAT5モノクローナル抗体Clone47(ベクトンデッキンソン社)10 μg/mL/10%ウシ胎児血清添加RPMI1640、及び陰性対照抗体としてKM511[抗GCSF変異体抗体、アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agricultural and Biological Chemistry)、53巻、1095頁(1989年)]またはラットIgG2aコントロール抗体(ベックマン・コールター社)10 μg/mL/10%牛胎児血清添加RPMI1640を50μL/穴分注し、氷温中で30分間反応させた。PBSを用いて3回洗浄し、2次抗体としてアレクサ488標識抗ラットイムノグロブリンG(H+L)(モレキュラープローブ社製)を20 μL/穴加えて氷温中、遮光下で30分間反応させた。再びPBSを用いて3回洗浄し、PBSに懸濁してアルゴン−イオンレーザー光(488 nm)で励起される510〜530 nmの波長をフローサイトメーター(ベックマンコールター社)で測定した。
【0058】
図6に示すように、KM3461、KM3462及びKM3463はK562細胞内部のリン酸化STAT5を検出可能な抗体であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1におけるSDS-PAGEの結果を示す図である。
【図2】実施例1におけるSTAT5リン酸化レベルを示す図である。各記号は、N(No reduction)、P(Partial reduction)、C(complete reduction)を表し、縦軸は血漿中総薬物濃度(ng/mL)を表す。○は化合物1の投与量50 mg/kg、▲は化合物1の投与量100 mg/kg、●は化合物1の投与量200 mg/kgをそれぞれ示す。
【図3】バインデイングELISAにおけるモノクローナル抗体KM3461、KM3462及びKM3463の反応性を示す図である。横軸にモノクローナル抗体KM3461、KM3462及びKM3463の各培養上清の希釈を、縦軸にモノクローナル抗体KM3461、KM3462及びKM3463の各培養上清の結合活性を示す。○は化合物1の投与量50 mg/kg、▲は化合物1の投与量100 mg/kg、●は化合物1の投与量200 mg/kgをそれぞれ示す。
【図4】インヒビションELISAにおけるモノクローナル抗体KM3461、KM3462及びKM3463の反応性を示す図である。横軸に化合物 PY694、化合物Y694の濃度を、縦軸にモノクローナル抗体KM3461、KM3462及びKM3463の各培養上清の結合活性を示す。Inhibition0は化合物 PY694または化合物Y694を加えなかった時のモノクローナル抗体KM3461、KM3462及びKM3463の各培養上清の結合活性を示す。○は化合物1の投与量50 mg/kg、▲は化合物1の投与量100 mg/kg、●は化合物1の投与量200 mg/kgをそれぞれ示す。
【図5】ウエスタンブロットにおけるモノクローナル抗体KM3461、KM3462及びKM3463の反応性を示す図である。レーンの左から、1.分子量マーカー、2.K562可溶化画分を示す。
【図6】フローサイトメトリーにおけるモノクローナル抗体KM3461、KM3462及びKM3463の反応性を示す図である。縦軸は細胞数、横軸は蛍光強度をそれぞれ示す。
【配列表フリーテキスト】
【0060】
配列番号1−人工配列の説明:合成DNA
配列番号2−人工配列の説明:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程a及びbを含む、生体試料中に含まれるキナーゼ阻害物質の測定方法;
(a)該生体試料とキナーゼ阻害剤の標的となるキナーゼを発現する細胞とを接触させる工程;
(b)該細胞内部に存在する標的となるキナーゼの基質及び/または標的となるキナーゼの下流のキナーゼのリン酸化レベルを測定する工程。
【請求項2】
キナーゼがチロシンキナーゼまたはセリン/スレオニンキナーゼである請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
チロシンキナーゼがフムス様チロシンキナーゼ3、変異型Abelsonキナーゼ、血管内皮増殖因子受容体2及び繊維芽細胞増殖因子受容体からなる群から選ばれるチロシンキナーゼである請求項2記載の測定方法。
【請求項4】
セリン/スレオニンキナーゼがオーロラである請求項2記載の測定方法。
【請求項5】
生体試料が血液、血漿または血清である請求項1〜4のいずれかに記載の測定方法。
【請求項6】
生体試料がキナーゼ阻害物質を投与した患者の生体試料である請求項1〜5のいずれかに記載の測定方法。
【請求項7】
標的となるキナーゼを発現する細胞が癌細胞である請求項1〜6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項8】
癌細胞が固形癌細胞または造血器腫瘍細胞である請求項7に記載の測定方法。
【請求項9】
造血器腫瘍細胞が白血病細胞である請求項8に記載の測定方法。
【請求項10】
標的となるキナーゼを発現する細胞がキナーゼ阻害物質を投与した患者由来の癌細胞である請求項1〜6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項11】
標的となるキナーゼの基質がsignal transducer and activator of transcription 5(STAT5)、signal transducer and activator of transcription 3(STAT3)、histone H3及びCRKLからなる群から選ばれるシグナル伝達分子である請求項1〜10のいずれかに記載の測定方法。
【請求項12】
細胞内部に存在する標的となるキナーゼの基質及び/または標的となるキナーゼの下流のキナーゼのリン酸化レベルを測定する工程が免疫学的測定方法からなる工程である請求項1〜11のいずれかに記載の測定方法。
【請求項13】
免疫学的測定方法がウエスタンブロッティングまたは免疫細胞染色法である、請求項12記載の測定方法。
【請求項14】
標的となるキナーゼを発現する細胞を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の測定用試薬。
【請求項15】
標的となるキナーゼを発現する細胞を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の測定用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−261764(P2008−261764A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105436(P2007−105436)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】