キヌクリジニウム塩含有電解液
【課題】有機溶媒に対する溶解性の良好な電解質塩を含み、静電容量が向上した蓄電デバイスを与え得る電解液を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表されるキヌクリジニウム塩を含む電解液。
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、Xは、BF4またはBF3(CnF2n+1)(nは整数を意味する。)を表す。〕
【解決手段】下記式(1)で表されるキヌクリジニウム塩を含む電解液。
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、Xは、BF4またはBF3(CnF2n+1)(nは整数を意味する。)を表す。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キヌクリジニウム塩含有電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液系電気二重層キャパシタは、大電流で充放電可能という特徴を有しているため、電気自動車、補助電源等のエネルギー貯蔵装置として有望である。
この非水電解液系電気二重層キャパシタは、活性炭などの炭素質材料を主体とする正、負一対の分極性電極および非水電解液などから構成されるが、キャパシタの耐電圧や、静電容量には非水電解液の組成が大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
上記非水電解液は、一般的に電解質塩と非水系有機溶媒とから構成され、これら電解質塩および非水系有機溶媒の組み合わせについては、現在まで種々検討されてきている。
電解質塩としては、第4級アンモニウム塩(特許文献1:特開昭61−32509号公報、特許文献2:特開昭63−173312号公報、特許文献3:特開平10−55717号公報等)や、第4級ホスホニウム塩(特許文献4:特開昭62−252927号公報等)等が、有機溶媒への溶解性および解離度、ならびに電気化学的安定域が広いことから汎用されている。
【0004】
しかしながら、現在用いられている非水電解液系電気二重層キャパシタでは、通常用いられている有機溶媒に対する電解質塩(4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等)の溶解性が十分であるとはいえず、その添加量には限界がある。その結果、非水電解液のイオン電導度が低くなるとともに、電気二重層キャパシタの静電容量も低くなるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−32509号公報
【特許文献2】特開昭63−173312号公報
【特許文献3】特開平10−55717号公報
【特許文献4】特開昭62−252927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、有機溶媒に対する溶解性の良好な電解質塩を含み、静電容量が向上した蓄電デバイスを与え得る電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、窒素原子上に所定のアルキル基またはアルコキシアルキル基を有するとともに、ホウ素原子およびフッ素原子を含む所定の1価アニオンを有するキヌクリジニウム塩が、有機溶媒に対する溶解性に優れるとともに、電気化学的に安定であり、蓄電デバイスの電解質塩として有用であること、さらにはこの電解質塩を含む電解液を用いた電気二重層キャパシタは静電容量が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表されるキヌクリジニウム塩を含むことを特徴とする電解液、
【化1】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、Xは、BF4またはBF3(CnF2n+1)(nは整数を意味する。)を表す。〕
2. 有機溶媒を含む1の電解液、
3. 前記有機溶媒が、カーボネート系溶媒を含む2の電解液、
4. 前記有機溶媒が、フッ素系溶媒を含む2または3の電解液、
5. 前記有機溶媒が、スルホラン系溶媒を含む2〜4のいずれかの電解液、
6. その他の電解質塩を含む1〜5のいずれかの電解液、
7. 1〜6のいずれかの電解液を用いた電気二重層キャパシタ
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解質に用いられる各種有機溶媒に対する溶解性に優れるとともに、従来の4級アンモニウム塩と同等の電位窓を有する電気化学的安定性の良好なキヌクリジニウム塩を含む電解液、およびこれを用いた、静電容量が向上した電気二重層キャパシタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る電解液は、式(1)で示されるキヌクリジニウム塩を含むものである。
【0011】
【化2】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、Xは、BF4またはBF3(CnF2n+1)(nは整数を意味する。)を表す。〕
【0012】
式(1)において、炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
Rとしては、上記範囲の基であれば特に限定されるものではないが、比較的融点の低いキヌクリジニウム塩が得られることから、メチル基、エチル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)が好ましく、特にCH2CH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)がより好ましい。
【0013】
Xは、BF4またはBF3(CnF2n+1)(nは整数を意味する。)である。
BF3(CnF2n+1)は、特に限定されるものではないが、合成の容易さ、コスト、分子径の小ささという点から、nが1〜4のもの、具体的には、BF3CF3、BF3C2F5、BF3C3F7、BF3C4F9が好ましく、BF3CF3、BF3C2F5がより好ましい。
なお、BF3(CnF2n+1)アニオンを有する塩は、R.D.Chambers et al.,J.Am.Chem.Soc.,82,5298(1960)、M.Ue et al.,J.Fluorine Chem.,127−131,123(2003),G.A.Molander and B.P.Hoag,Organometallics,3313−3315,22(2003)等の文献記載の方法によって合成することができる。
【0014】
本発明の電解液に用いられるキヌクリジニウム塩の合成法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができるが、例として下記のような一般的な合成法を挙げることができる。
まず、キヌクリジンと、アルキルハライド等とを混合し、必要に応じて加熱や加圧を行うことでアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩とする。得られたアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩を有機溶媒中に溶解し、テトラフルオロホウ酸銀等の前述したアニオンの金属塩を混合するか、もしくはアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩を水に溶解し、ホウフッ化水素酸等の前述のアニオンの水素化物を混合することにより、塩交換反応を行い、本発明のキヌクリジニウム塩を得ることができる。
【0015】
具体例として、メチルキヌクリジニウムテトラフルオロボレートの合成法を挙げると、キヌクリジンをテトラヒドロフランに溶解し、氷冷下でよう化メチルを加え、終夜反応させてN−メチルキヌクリジニウムアイオダイドを得、これをアセトニトリルに溶解し、攪拌下、テトラフルオロほう酸銀を加え、終夜反応させて目的物へと変換させることができる。
【0016】
本発明の電解液は有機溶媒を含んでいてもよい。
有機溶媒としては、特に限定はなく、従来、蓄電デバイスの電解液に用いられている有機溶媒から適宜選択して用いることができる。
その具体例としては、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン、メチルジグライム、メチルトリグライム、メチルテトラグライム、エチルグライム、エチルジグライム、ブチルジグライム、グリコールエーテル類(エチルセルソルブ、エチルカルビトール、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール等)などの鎖状エーテル系溶媒;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキサン等の環状エーテル系溶媒;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン、3−エチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン等のブチロラクトン系溶媒;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン等のアミド系溶媒、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、スチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン系溶媒、スルホラン、メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等のスルホラン系溶媒、またはこれらの各種有機溶媒の水素原子やアルキル基がフルオロアルキル基に置換された、例えば、フッ素化プロピレンカーボネート、フッ素化γ−ブチロラクトン等のフッ素系溶媒などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0017】
これらの中でも、本発明の電解液に用いられる有機溶媒は、誘電率が大きく、電気化学的安定範囲および使用温度範囲が広く、かつ、安全性に優れるという点から、カーボネート系溶媒を含む有機溶媒、フッ素系溶媒を含む有機溶媒、スルホラン系溶媒を含む溶媒が好ましく、具体的には、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、2−メチルスルホラン、3−メチルスルホランを含む溶媒が好適である。
有機溶媒を含む電解液の場合、主にアニオン種により分子量が大きく異なることから、種類の異なる電解質の濃度範囲を一概に設定することは容易いことではないが、電解液中におけるキヌクリジニウム塩の含有量は、0.5〜1.8mol/Lが好ましく、0.9〜1.4mol/Lがより好ましい。0.5mol/L未満であると、得られるデバイスの内部抵抗が増大する虞があり、1.8mol/Lを超えると、低温下でキヌクリジニウム塩が析出する虞がある。
【0018】
また、本発明の電解液には、キヌクリジニウム塩の他に、一般的な蓄電デバイスに用いられるその他の電解質塩を添加することもできる。
このような電解質塩としては、例えば、(C2H5)4PBF4、(C3H7)4PBF4、(C4H9)4PBF4、(C6H13)4PBF4、(C4H9)3CH3PBF4、(C2H5)3(Ph−CH2)PBF4(Phはフェニル基を示す)、(C2H5)4PPF6、(C2H5)PCF3SO2、(C2H5)4NBF4、(C4H9)4NBF4、(C6H13)4NBF4、(C2H5)6NPF6、LiBF4、LiCF3SO3等が挙げられる。
その他の電解質塩の添加量は、キヌクリジニウム塩を用いる効果を阻害しなければ任意であるが、通常、キヌクリジニウム塩に対して、0.1〜200質量%程度が好適である。
【0019】
以上説明した本発明の電解液は、蓄電デバイス用の電解液として好適に用いることができる。ここで、蓄電デバイスとは、化学的、物理的または物理化学的に電気を蓄えることのできる装置または素子等をいい、例えば、リチウムイオン電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサなどの充放電可能なデバイスが挙げられるが、本発明の電解液は、特に電気二重層キャパシタ用の電解液として好適である。
蓄電デバイスの基本構造は、セパレータを介して正極および負極を対向配置し、これに電解液を含浸させるものであり、電気二重層キャパシタの場合、これら正極および負極として、一対の分極性電極が用いられる。
【0020】
分極性電極としては、集電基板およびこの基板表面に塗布された電極充填物から構成されるものである。これらは、一般的に電極活物質、導電材および結着材等を、N−メチルピロリドン等の溶媒中で混合した電極充填物用スラリーを、集電基板に塗布した後、乾燥し、圧延等して作製されるものである。
集電基板、並びに電極充填物を構成する電極活物質、導電材および結着材としては、特に限定されるものではなく、蓄電素子に使用される公知のものから適宜選択して用いることができる。
電極活物質としては、例えば、ヤシ殻、コーヒー豆、竹、木屑、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、コークス、メソフェーズカーボン、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂等の種々の原料を焼成、賦活してなる活性炭が挙げられる。
導電材としては、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム,ニッケル等の金属ファイバなどが挙げられる。導電材の添加量は、例えば、活性炭100質量部に対して0.1〜20質量部とすることができる。
【0021】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリイミド、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂等を用いることができる。結着剤の添加量は、例えば、活性炭100質量部に対して0.5〜20質量部とすることができる。
正極を構成する集電基板としては、アルミニウム箔、酸化アルミニウム箔等が挙げられ、負極を構成する集電基板としては、銅箔、ニッケル箔、表面が銅めっき膜またはニッケルめっき膜にて形成された金属箔等が挙げられる。
【0022】
セパレータとしては、公知のセパレータから適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、ポリオレフィン不織布、PTFE多孔体フィルム、クラフト紙、レーヨン繊維・サイザル麻繊維混抄シート、マニラ麻シート、ガラス繊維シート、セルロース系電解紙、レーヨン繊維からなる抄紙、セルロースとガラス繊維の混抄紙、またはこれらを組み合わせて複数層にしたものなどを使用することができる。
【0023】
本発明の電気二重層キャパシタの製造方法の一例を挙げると、一対の分極性電極間に、必要に応じてセパレータを介在させてなる電気二重層キャパシタ構造体を積層、折畳、または捲回し、これを電池缶またはラミネートパック等の電池容器に収容した後、電解液を充填し、電池缶であれば封缶することにより、一方、ラミネートパックであればヒートシールすること等により、組み立てる方法があるが、これに限定されるものではなく、キャパシタ構成部材の種類により適宜な手法を用いればよい。
【0024】
本発明の電気二重層キャパシタは、携帯電話、ノート型パソコンや携帯用端末等のメモリーバックアップ電源用途、携帯電話、携帯用音響機器等の電源、パソコン等の瞬時停電対策用電源、太陽光発電、風力発電等と組み合わせることによるロードレベリング電源等の種々の小電流用蓄電デバイスに好適に使用することができる。また、大電流で充放電可能な電気二重層キャパシタは、電気自動車、電動工具等の大電流を必要とする大電流蓄電デバイスとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例における化合物の構造確認は、1H−NMRおよび19F−NMR(日本電子(株)製、AL−400)を用いて行った。
【0026】
[1]キヌクリジニウム塩の合成
[合成例1]化合物1(MeQ BF4)の合成
【化3】
【0027】
キヌクリジン(シグマアルドリッチジャパン(株)品)5.0g(45mmol)をテトラヒドロフラン(以下THF、和光純薬工業(株)品)50mlに溶解した後に氷冷し、攪拌下、よう化メチル(シグマアルドリッチジャパン(株)品)3.36ml(54mmol)を加えた。終夜攪拌し、減圧濾過で生成した固体分を回収し、アセトニトリル(和光純薬工業(株)品)−THF系で再結晶を行い、N−メチルキヌクリジニウムアイオダイドの白色結晶を得た。
得られたN−メチルキヌクリジニウムアイオダイド3.41g(13.5mmol)をアセトニトリル50mlに溶解し、攪拌下、50mlのアセトニトリルに溶解したテトラフルオロほう酸銀(東京化成工業(株)品)2.62g(13.5mmol)を加え、終夜攪拌した。反応液中に生じた黄色結晶を減圧濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。残留分にアセトニトリル−THF混合液を少量加え、溶解しない新たに析出した固体をPTFEメンブレンフィルターろ過にて除去した。その後、アセトニトリル−THF系で再結晶を行い、析出した結晶を濾別して減圧乾燥を行い、1.56g(収率54%)の化合物1を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図1および図2に示す。
【0028】
[合成例2]化合物2(EtQ BF4)の合成
【化4】
【0029】
よう化メチルをよう化エチル(和光純薬工業(株)品)に変更し、これをキヌクリジンに対して3当量加えた以外は、合成例1と同様にしてN−エチルキヌクリジニウムアイオダイドを収率90%で、化合物2をN−エチルキヌクリジニウムアイオダイドから収率73%で得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図3および図4に示す。
【0030】
[合成例3]化合物3(EtQ BF3CF3)の合成
【化5】
【0031】
合成例3記載の方法で得たN−エチルキヌクリジニウムアイオダイド4.58g(17.1mmol)を超純水15mlに溶解した。攪拌下、この溶液にカリウムトリフルオロメチルトリフルオロボレート(三菱化学(株)品)3.32g(18.9mmol)を超純水15mlに溶解した溶液を100分間反応させた。析出した白色結晶を濾別し、超純水で洗浄した後に減圧乾燥を行い、1.43g(収率30%)の化合物3を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図5および図6に示す。
【0032】
[合成例4]化合物4(MOEQ BF4)の合成
【化6】
【0033】
キヌクリジン20.6g(186mmol)をTHF200mlに溶解した後に、塩化2−メトキシエチル(東京化成工業(株)品)を加え、還流下で14時間反応させた。放冷し、室温に戻した後、2層に分離した粘性の高い下層をデカンテーションにより上層と分離し、下層をアセトニトリル−THF系で再結晶を行い、N−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライドを25.6g(収率67%)で得た。
得られたN−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライド21.9g(112mmol)をアセトニトリル200mlに溶解し、攪拌下、100mlのアセトニトリルに溶解したテトラフルオロほう酸銀23.1g(112mmol)を加え、終夜攪拌した。反応液中に生じた黄色結晶を減圧濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。残留分にアセトニトリル−THF混合液を少量加え、溶解しない新たに析出した固体をPTFEメンブレンフィルターろ過にて除去した。その後、アセトニトリル−THF系で再結晶を行い、析出した結晶を濾別して減圧乾燥を行い、19.1g(収率66%)の化合物4を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図7および図8に示す。
【0034】
[合成例5]化合物5(MOEQ BF3CF3)の合成
【化7】
【0035】
カリウムトリフルオロメチルトリフルオロボレート2.61g(14.8mmol)を超純水5mlに溶解した。攪拌下、この溶液に合成例6記載の方法で合成したN−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライド2.54g(12.3mmol)を超純水5mlに溶かした溶液を加えて15分間反応させたところ2層に分離した。反応液にクロロホルム(和光純薬工業(株)品)を加えて下層を分液し、超純水で洗浄した後に溶媒留去、減圧乾燥を行い、2.28g(収率49%)で化合物5を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図9および図10に示す。
【0036】
[融点測定]
上記各実施例で得られた化合物1〜5について、室温固体のもの(化合物1〜4)については融点測定器(MP−500V、(株)ヤナコ製)を、室温液体のもの(化合物5)については示差走査熱量計(DSC−6200、セイコーインスツル(株)製)を用いて融点を測定した。結果を表1に示す。
[溶解性試験]
上記各実施例で得られた化合物1〜5、比較例としてテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(以下TEA BF4、関東化学(株)品)、およびトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(以下TEMA BF4、キシダ化学(株)品)を、各々0.5gサンプル瓶にとり、0.1ml刻みでプロピレンカーボネート(以下PC、キシダ化学(株)品)を加え、溶解性を確認した。得られた結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
[2]電解液
[実施例1〜5]
合成例1〜5で得られた化合物1〜5をPCに濃度0.1Mで溶解し、電解液を調製した。
【0039】
上記実施例1〜5で調製した電解液について、サイクリックボルタンメトリー測定を行った(測定装置:北斗電工(株)製 HSV−100)。なお、比較としてテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートの0.1Mプロピレンカーボネート溶液についても同様の測定を行った。結果を図11および図12に示す。
【0040】
表1に示されるように、合成例1〜5で得られたキヌクリジニウム塩は、TEA BF4やTEMA BF4に比べてPCに対する溶解性に優れている。
また、図11に示されるように、キヌクリジニウム塩は、同一のアニオンを有するTEA BF4と同等の広さの電位窓を有していることがわかる。
【0041】
[3]電気二重層キャパシタ
[実施例6]
(1)正の電極構造体の作製
活性炭マックスソーブMSP20(関西熱化学(株)製、BET比表面積:2,300m2/g、細孔容積:1.07ml/g、50%粒径:9.5μm)と、導電剤(HS−100、電気化学工業(株)製)と、バインダであるPVDF(アルドリッチ社製、重量平均分子量:534,000)とを85:8:7の質量組成になるように、塗工溶媒であるN−メチルピロリドン(以下NMP)中で混合し、正の分極性電極用塗工液を調製した。
得られた塗工液をエッチドアルミ箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)の両面に塗工した後、ロールプレスで圧延し、さらにNMPを乾燥除去して、集電体上に分極性電極を形成した正の分極性電極構造体を得た。
(2)負の電極構造体の作製
活性炭LPY039(日本エンバイロケミカルズ(株)製、MP法におけるピーク細孔半径:4.1×10-10m、比表面積:1,900m2/g、細孔容積:0.90ml/g、50%:粒径10.3μm)と、導電剤(HS−100、電気化学工業(株)製)と、バインダであるPVDF(アルドリッチ社製、重量平均分子量:534,000)とを85:7:8の質量組成になるように、塗工溶媒であるNMP中で混合し、負の分極性電極用塗工液を調製した。
得られた塗工液を、エッチドアルミ箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)の両面に塗工した後、ロールプレスで圧延し、さらにNMPを乾燥除去して、集電体上に分極性電極を形成した負の分極性電極構造体を得た。
(3)電気二重層キャパシタの作製
正の分極性電極構造体9枚と、負の分極性電極構造体10枚とを、セパレータ(TF40−35、日本高度紙工業(株)製)を介して交互に積層し(セパレータ枚数は最外層を含めて20枚)、正負ごとにまとめてアルミ製の電流取出し端子と溶接して電極群を得た。
次に電極群をアルミラミネート(大日本印刷(株)製)からなる外装容器に挿入し、電解液約30mlを注入して電極群に含浸させた後、外装容器を封止部にて熱融着して電気二重層キャパシタを得た。電解液として、合成例2で得られた化合物2(EtQ BF4)を、PCで1.4Mになるように溶解したものを用いた。
【0042】
[比較例1]
電解液として、TEA BF4をPCで1Mになるように溶解したものを用いた以外は、実施例6と同様にして電気二重層キャパシタを得た。
【0043】
上記実施例および比較例で得られた各キャパシタについて、初期特性試験を行った。結果を表3に示す。
[初期特性]
製造後の静電容量および内部抵抗を測定した。
一時間率の電流値で3.0Vまで定電流充電を行い、そのまま30分間、定電圧充電を行い、続いて、一時間率の電流値で3.0Vから0Vまで定電流放電した時の全放電エネルギー量から静電容量を算出した。
【0044】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】合成例1で得られた化合物1の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】合成例1で得られた化合物1の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】合成例2で得られた化合物2の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】合成例2で得られた化合物2の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】合成例3で得られた化合物3の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】合成例3で得られた化合物3の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図7】合成例4で得られた化合物4の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図8】合成例4で得られた化合物4の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図9】合成例5で得られた化合物5の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図10】合成例5で得られた化合物5の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図11】合成例1,2,4で得られた化合物およびTEAのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図12】合成例3および5で得られた化合物のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、キヌクリジニウム塩含有電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液系電気二重層キャパシタは、大電流で充放電可能という特徴を有しているため、電気自動車、補助電源等のエネルギー貯蔵装置として有望である。
この非水電解液系電気二重層キャパシタは、活性炭などの炭素質材料を主体とする正、負一対の分極性電極および非水電解液などから構成されるが、キャパシタの耐電圧や、静電容量には非水電解液の組成が大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
上記非水電解液は、一般的に電解質塩と非水系有機溶媒とから構成され、これら電解質塩および非水系有機溶媒の組み合わせについては、現在まで種々検討されてきている。
電解質塩としては、第4級アンモニウム塩(特許文献1:特開昭61−32509号公報、特許文献2:特開昭63−173312号公報、特許文献3:特開平10−55717号公報等)や、第4級ホスホニウム塩(特許文献4:特開昭62−252927号公報等)等が、有機溶媒への溶解性および解離度、ならびに電気化学的安定域が広いことから汎用されている。
【0004】
しかしながら、現在用いられている非水電解液系電気二重層キャパシタでは、通常用いられている有機溶媒に対する電解質塩(4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等)の溶解性が十分であるとはいえず、その添加量には限界がある。その結果、非水電解液のイオン電導度が低くなるとともに、電気二重層キャパシタの静電容量も低くなるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−32509号公報
【特許文献2】特開昭63−173312号公報
【特許文献3】特開平10−55717号公報
【特許文献4】特開昭62−252927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、有機溶媒に対する溶解性の良好な電解質塩を含み、静電容量が向上した蓄電デバイスを与え得る電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、窒素原子上に所定のアルキル基またはアルコキシアルキル基を有するとともに、ホウ素原子およびフッ素原子を含む所定の1価アニオンを有するキヌクリジニウム塩が、有機溶媒に対する溶解性に優れるとともに、電気化学的に安定であり、蓄電デバイスの電解質塩として有用であること、さらにはこの電解質塩を含む電解液を用いた電気二重層キャパシタは静電容量が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表されるキヌクリジニウム塩を含むことを特徴とする電解液、
【化1】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、Xは、BF4またはBF3(CnF2n+1)(nは整数を意味する。)を表す。〕
2. 有機溶媒を含む1の電解液、
3. 前記有機溶媒が、カーボネート系溶媒を含む2の電解液、
4. 前記有機溶媒が、フッ素系溶媒を含む2または3の電解液、
5. 前記有機溶媒が、スルホラン系溶媒を含む2〜4のいずれかの電解液、
6. その他の電解質塩を含む1〜5のいずれかの電解液、
7. 1〜6のいずれかの電解液を用いた電気二重層キャパシタ
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解質に用いられる各種有機溶媒に対する溶解性に優れるとともに、従来の4級アンモニウム塩と同等の電位窓を有する電気化学的安定性の良好なキヌクリジニウム塩を含む電解液、およびこれを用いた、静電容量が向上した電気二重層キャパシタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る電解液は、式(1)で示されるキヌクリジニウム塩を含むものである。
【0011】
【化2】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、Xは、BF4またはBF3(CnF2n+1)(nは整数を意味する。)を表す。〕
【0012】
式(1)において、炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
Rとしては、上記範囲の基であれば特に限定されるものではないが、比較的融点の低いキヌクリジニウム塩が得られることから、メチル基、エチル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)が好ましく、特にCH2CH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)がより好ましい。
【0013】
Xは、BF4またはBF3(CnF2n+1)(nは整数を意味する。)である。
BF3(CnF2n+1)は、特に限定されるものではないが、合成の容易さ、コスト、分子径の小ささという点から、nが1〜4のもの、具体的には、BF3CF3、BF3C2F5、BF3C3F7、BF3C4F9が好ましく、BF3CF3、BF3C2F5がより好ましい。
なお、BF3(CnF2n+1)アニオンを有する塩は、R.D.Chambers et al.,J.Am.Chem.Soc.,82,5298(1960)、M.Ue et al.,J.Fluorine Chem.,127−131,123(2003),G.A.Molander and B.P.Hoag,Organometallics,3313−3315,22(2003)等の文献記載の方法によって合成することができる。
【0014】
本発明の電解液に用いられるキヌクリジニウム塩の合成法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができるが、例として下記のような一般的な合成法を挙げることができる。
まず、キヌクリジンと、アルキルハライド等とを混合し、必要に応じて加熱や加圧を行うことでアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩とする。得られたアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩を有機溶媒中に溶解し、テトラフルオロホウ酸銀等の前述したアニオンの金属塩を混合するか、もしくはアルキル置換キヌクリジニウムハライド塩を水に溶解し、ホウフッ化水素酸等の前述のアニオンの水素化物を混合することにより、塩交換反応を行い、本発明のキヌクリジニウム塩を得ることができる。
【0015】
具体例として、メチルキヌクリジニウムテトラフルオロボレートの合成法を挙げると、キヌクリジンをテトラヒドロフランに溶解し、氷冷下でよう化メチルを加え、終夜反応させてN−メチルキヌクリジニウムアイオダイドを得、これをアセトニトリルに溶解し、攪拌下、テトラフルオロほう酸銀を加え、終夜反応させて目的物へと変換させることができる。
【0016】
本発明の電解液は有機溶媒を含んでいてもよい。
有機溶媒としては、特に限定はなく、従来、蓄電デバイスの電解液に用いられている有機溶媒から適宜選択して用いることができる。
その具体例としては、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン、メチルジグライム、メチルトリグライム、メチルテトラグライム、エチルグライム、エチルジグライム、ブチルジグライム、グリコールエーテル類(エチルセルソルブ、エチルカルビトール、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール等)などの鎖状エーテル系溶媒;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキサン等の環状エーテル系溶媒;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン、3−エチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン等のブチロラクトン系溶媒;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン等のアミド系溶媒、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、スチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン系溶媒、スルホラン、メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等のスルホラン系溶媒、またはこれらの各種有機溶媒の水素原子やアルキル基がフルオロアルキル基に置換された、例えば、フッ素化プロピレンカーボネート、フッ素化γ−ブチロラクトン等のフッ素系溶媒などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0017】
これらの中でも、本発明の電解液に用いられる有機溶媒は、誘電率が大きく、電気化学的安定範囲および使用温度範囲が広く、かつ、安全性に優れるという点から、カーボネート系溶媒を含む有機溶媒、フッ素系溶媒を含む有機溶媒、スルホラン系溶媒を含む溶媒が好ましく、具体的には、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、2−メチルスルホラン、3−メチルスルホランを含む溶媒が好適である。
有機溶媒を含む電解液の場合、主にアニオン種により分子量が大きく異なることから、種類の異なる電解質の濃度範囲を一概に設定することは容易いことではないが、電解液中におけるキヌクリジニウム塩の含有量は、0.5〜1.8mol/Lが好ましく、0.9〜1.4mol/Lがより好ましい。0.5mol/L未満であると、得られるデバイスの内部抵抗が増大する虞があり、1.8mol/Lを超えると、低温下でキヌクリジニウム塩が析出する虞がある。
【0018】
また、本発明の電解液には、キヌクリジニウム塩の他に、一般的な蓄電デバイスに用いられるその他の電解質塩を添加することもできる。
このような電解質塩としては、例えば、(C2H5)4PBF4、(C3H7)4PBF4、(C4H9)4PBF4、(C6H13)4PBF4、(C4H9)3CH3PBF4、(C2H5)3(Ph−CH2)PBF4(Phはフェニル基を示す)、(C2H5)4PPF6、(C2H5)PCF3SO2、(C2H5)4NBF4、(C4H9)4NBF4、(C6H13)4NBF4、(C2H5)6NPF6、LiBF4、LiCF3SO3等が挙げられる。
その他の電解質塩の添加量は、キヌクリジニウム塩を用いる効果を阻害しなければ任意であるが、通常、キヌクリジニウム塩に対して、0.1〜200質量%程度が好適である。
【0019】
以上説明した本発明の電解液は、蓄電デバイス用の電解液として好適に用いることができる。ここで、蓄電デバイスとは、化学的、物理的または物理化学的に電気を蓄えることのできる装置または素子等をいい、例えば、リチウムイオン電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサなどの充放電可能なデバイスが挙げられるが、本発明の電解液は、特に電気二重層キャパシタ用の電解液として好適である。
蓄電デバイスの基本構造は、セパレータを介して正極および負極を対向配置し、これに電解液を含浸させるものであり、電気二重層キャパシタの場合、これら正極および負極として、一対の分極性電極が用いられる。
【0020】
分極性電極としては、集電基板およびこの基板表面に塗布された電極充填物から構成されるものである。これらは、一般的に電極活物質、導電材および結着材等を、N−メチルピロリドン等の溶媒中で混合した電極充填物用スラリーを、集電基板に塗布した後、乾燥し、圧延等して作製されるものである。
集電基板、並びに電極充填物を構成する電極活物質、導電材および結着材としては、特に限定されるものではなく、蓄電素子に使用される公知のものから適宜選択して用いることができる。
電極活物質としては、例えば、ヤシ殻、コーヒー豆、竹、木屑、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、コークス、メソフェーズカーボン、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂等の種々の原料を焼成、賦活してなる活性炭が挙げられる。
導電材としては、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム,ニッケル等の金属ファイバなどが挙げられる。導電材の添加量は、例えば、活性炭100質量部に対して0.1〜20質量部とすることができる。
【0021】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリイミド、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂等を用いることができる。結着剤の添加量は、例えば、活性炭100質量部に対して0.5〜20質量部とすることができる。
正極を構成する集電基板としては、アルミニウム箔、酸化アルミニウム箔等が挙げられ、負極を構成する集電基板としては、銅箔、ニッケル箔、表面が銅めっき膜またはニッケルめっき膜にて形成された金属箔等が挙げられる。
【0022】
セパレータとしては、公知のセパレータから適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、ポリオレフィン不織布、PTFE多孔体フィルム、クラフト紙、レーヨン繊維・サイザル麻繊維混抄シート、マニラ麻シート、ガラス繊維シート、セルロース系電解紙、レーヨン繊維からなる抄紙、セルロースとガラス繊維の混抄紙、またはこれらを組み合わせて複数層にしたものなどを使用することができる。
【0023】
本発明の電気二重層キャパシタの製造方法の一例を挙げると、一対の分極性電極間に、必要に応じてセパレータを介在させてなる電気二重層キャパシタ構造体を積層、折畳、または捲回し、これを電池缶またはラミネートパック等の電池容器に収容した後、電解液を充填し、電池缶であれば封缶することにより、一方、ラミネートパックであればヒートシールすること等により、組み立てる方法があるが、これに限定されるものではなく、キャパシタ構成部材の種類により適宜な手法を用いればよい。
【0024】
本発明の電気二重層キャパシタは、携帯電話、ノート型パソコンや携帯用端末等のメモリーバックアップ電源用途、携帯電話、携帯用音響機器等の電源、パソコン等の瞬時停電対策用電源、太陽光発電、風力発電等と組み合わせることによるロードレベリング電源等の種々の小電流用蓄電デバイスに好適に使用することができる。また、大電流で充放電可能な電気二重層キャパシタは、電気自動車、電動工具等の大電流を必要とする大電流蓄電デバイスとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例における化合物の構造確認は、1H−NMRおよび19F−NMR(日本電子(株)製、AL−400)を用いて行った。
【0026】
[1]キヌクリジニウム塩の合成
[合成例1]化合物1(MeQ BF4)の合成
【化3】
【0027】
キヌクリジン(シグマアルドリッチジャパン(株)品)5.0g(45mmol)をテトラヒドロフラン(以下THF、和光純薬工業(株)品)50mlに溶解した後に氷冷し、攪拌下、よう化メチル(シグマアルドリッチジャパン(株)品)3.36ml(54mmol)を加えた。終夜攪拌し、減圧濾過で生成した固体分を回収し、アセトニトリル(和光純薬工業(株)品)−THF系で再結晶を行い、N−メチルキヌクリジニウムアイオダイドの白色結晶を得た。
得られたN−メチルキヌクリジニウムアイオダイド3.41g(13.5mmol)をアセトニトリル50mlに溶解し、攪拌下、50mlのアセトニトリルに溶解したテトラフルオロほう酸銀(東京化成工業(株)品)2.62g(13.5mmol)を加え、終夜攪拌した。反応液中に生じた黄色結晶を減圧濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。残留分にアセトニトリル−THF混合液を少量加え、溶解しない新たに析出した固体をPTFEメンブレンフィルターろ過にて除去した。その後、アセトニトリル−THF系で再結晶を行い、析出した結晶を濾別して減圧乾燥を行い、1.56g(収率54%)の化合物1を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図1および図2に示す。
【0028】
[合成例2]化合物2(EtQ BF4)の合成
【化4】
【0029】
よう化メチルをよう化エチル(和光純薬工業(株)品)に変更し、これをキヌクリジンに対して3当量加えた以外は、合成例1と同様にしてN−エチルキヌクリジニウムアイオダイドを収率90%で、化合物2をN−エチルキヌクリジニウムアイオダイドから収率73%で得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図3および図4に示す。
【0030】
[合成例3]化合物3(EtQ BF3CF3)の合成
【化5】
【0031】
合成例3記載の方法で得たN−エチルキヌクリジニウムアイオダイド4.58g(17.1mmol)を超純水15mlに溶解した。攪拌下、この溶液にカリウムトリフルオロメチルトリフルオロボレート(三菱化学(株)品)3.32g(18.9mmol)を超純水15mlに溶解した溶液を100分間反応させた。析出した白色結晶を濾別し、超純水で洗浄した後に減圧乾燥を行い、1.43g(収率30%)の化合物3を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図5および図6に示す。
【0032】
[合成例4]化合物4(MOEQ BF4)の合成
【化6】
【0033】
キヌクリジン20.6g(186mmol)をTHF200mlに溶解した後に、塩化2−メトキシエチル(東京化成工業(株)品)を加え、還流下で14時間反応させた。放冷し、室温に戻した後、2層に分離した粘性の高い下層をデカンテーションにより上層と分離し、下層をアセトニトリル−THF系で再結晶を行い、N−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライドを25.6g(収率67%)で得た。
得られたN−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライド21.9g(112mmol)をアセトニトリル200mlに溶解し、攪拌下、100mlのアセトニトリルに溶解したテトラフルオロほう酸銀23.1g(112mmol)を加え、終夜攪拌した。反応液中に生じた黄色結晶を減圧濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。残留分にアセトニトリル−THF混合液を少量加え、溶解しない新たに析出した固体をPTFEメンブレンフィルターろ過にて除去した。その後、アセトニトリル−THF系で再結晶を行い、析出した結晶を濾別して減圧乾燥を行い、19.1g(収率66%)の化合物4を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図7および図8に示す。
【0034】
[合成例5]化合物5(MOEQ BF3CF3)の合成
【化7】
【0035】
カリウムトリフルオロメチルトリフルオロボレート2.61g(14.8mmol)を超純水5mlに溶解した。攪拌下、この溶液に合成例6記載の方法で合成したN−2−メトキシエチルキヌクリジニウムクロライド2.54g(12.3mmol)を超純水5mlに溶かした溶液を加えて15分間反応させたところ2層に分離した。反応液にクロロホルム(和光純薬工業(株)品)を加えて下層を分液し、超純水で洗浄した後に溶媒留去、減圧乾燥を行い、2.28g(収率49%)で化合物5を得た。化合物の構造は1H−NMRおよび19F−NMRにより確認した(溶媒:重ジメチルスルホキシド、フッ素:外部標準α,α,α−トリフルオロトルエン)。それぞれのNMRスペクトルを図9および図10に示す。
【0036】
[融点測定]
上記各実施例で得られた化合物1〜5について、室温固体のもの(化合物1〜4)については融点測定器(MP−500V、(株)ヤナコ製)を、室温液体のもの(化合物5)については示差走査熱量計(DSC−6200、セイコーインスツル(株)製)を用いて融点を測定した。結果を表1に示す。
[溶解性試験]
上記各実施例で得られた化合物1〜5、比較例としてテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(以下TEA BF4、関東化学(株)品)、およびトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(以下TEMA BF4、キシダ化学(株)品)を、各々0.5gサンプル瓶にとり、0.1ml刻みでプロピレンカーボネート(以下PC、キシダ化学(株)品)を加え、溶解性を確認した。得られた結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
[2]電解液
[実施例1〜5]
合成例1〜5で得られた化合物1〜5をPCに濃度0.1Mで溶解し、電解液を調製した。
【0039】
上記実施例1〜5で調製した電解液について、サイクリックボルタンメトリー測定を行った(測定装置:北斗電工(株)製 HSV−100)。なお、比較としてテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートの0.1Mプロピレンカーボネート溶液についても同様の測定を行った。結果を図11および図12に示す。
【0040】
表1に示されるように、合成例1〜5で得られたキヌクリジニウム塩は、TEA BF4やTEMA BF4に比べてPCに対する溶解性に優れている。
また、図11に示されるように、キヌクリジニウム塩は、同一のアニオンを有するTEA BF4と同等の広さの電位窓を有していることがわかる。
【0041】
[3]電気二重層キャパシタ
[実施例6]
(1)正の電極構造体の作製
活性炭マックスソーブMSP20(関西熱化学(株)製、BET比表面積:2,300m2/g、細孔容積:1.07ml/g、50%粒径:9.5μm)と、導電剤(HS−100、電気化学工業(株)製)と、バインダであるPVDF(アルドリッチ社製、重量平均分子量:534,000)とを85:8:7の質量組成になるように、塗工溶媒であるN−メチルピロリドン(以下NMP)中で混合し、正の分極性電極用塗工液を調製した。
得られた塗工液をエッチドアルミ箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)の両面に塗工した後、ロールプレスで圧延し、さらにNMPを乾燥除去して、集電体上に分極性電極を形成した正の分極性電極構造体を得た。
(2)負の電極構造体の作製
活性炭LPY039(日本エンバイロケミカルズ(株)製、MP法におけるピーク細孔半径:4.1×10-10m、比表面積:1,900m2/g、細孔容積:0.90ml/g、50%:粒径10.3μm)と、導電剤(HS−100、電気化学工業(株)製)と、バインダであるPVDF(アルドリッチ社製、重量平均分子量:534,000)とを85:7:8の質量組成になるように、塗工溶媒であるNMP中で混合し、負の分極性電極用塗工液を調製した。
得られた塗工液を、エッチドアルミ箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)の両面に塗工した後、ロールプレスで圧延し、さらにNMPを乾燥除去して、集電体上に分極性電極を形成した負の分極性電極構造体を得た。
(3)電気二重層キャパシタの作製
正の分極性電極構造体9枚と、負の分極性電極構造体10枚とを、セパレータ(TF40−35、日本高度紙工業(株)製)を介して交互に積層し(セパレータ枚数は最外層を含めて20枚)、正負ごとにまとめてアルミ製の電流取出し端子と溶接して電極群を得た。
次に電極群をアルミラミネート(大日本印刷(株)製)からなる外装容器に挿入し、電解液約30mlを注入して電極群に含浸させた後、外装容器を封止部にて熱融着して電気二重層キャパシタを得た。電解液として、合成例2で得られた化合物2(EtQ BF4)を、PCで1.4Mになるように溶解したものを用いた。
【0042】
[比較例1]
電解液として、TEA BF4をPCで1Mになるように溶解したものを用いた以外は、実施例6と同様にして電気二重層キャパシタを得た。
【0043】
上記実施例および比較例で得られた各キャパシタについて、初期特性試験を行った。結果を表3に示す。
[初期特性]
製造後の静電容量および内部抵抗を測定した。
一時間率の電流値で3.0Vまで定電流充電を行い、そのまま30分間、定電圧充電を行い、続いて、一時間率の電流値で3.0Vから0Vまで定電流放電した時の全放電エネルギー量から静電容量を算出した。
【0044】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】合成例1で得られた化合物1の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】合成例1で得られた化合物1の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】合成例2で得られた化合物2の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】合成例2で得られた化合物2の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】合成例3で得られた化合物3の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】合成例3で得られた化合物3の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図7】合成例4で得られた化合物4の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図8】合成例4で得られた化合物4の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図9】合成例5で得られた化合物5の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図10】合成例5で得られた化合物5の19F−NMRスペクトルを示す図である。
【図11】合成例1,2,4で得られた化合物およびTEAのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図12】合成例3および5で得られた化合物のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるキヌクリジニウム塩を含むことを特徴とする電解液。
【化1】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、Xは、BF4またはBF3(CnF2n+1)(nは整数を意味する。)を表す。〕
【請求項2】
有機溶媒を含む請求項1記載の電解液。
【請求項3】
前記有機溶媒が、カーボネート系溶媒を含む請求項2記載の電解液。
【請求項4】
前記有機溶媒が、フッ素系溶媒を含む請求項2または3記載の電解液。
【請求項5】
前記有機溶媒が、スルホラン系溶媒を含む請求項2〜4のいずれか1項記載の電解液。
【請求項6】
その他の電解質塩を含む請求項1〜5のいずれか1項記載の電解液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の電解液を用いた電気二重層キャパシタ。
【請求項1】
下記式(1)で表されるキヌクリジニウム塩を含むことを特徴とする電解液。
【化1】
〔式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、CH2CH2OR′基、またはCH2OR′基(R′は、メチル基またはエチル基を表す。)を表し、Xは、BF4またはBF3(CnF2n+1)(nは整数を意味する。)を表す。〕
【請求項2】
有機溶媒を含む請求項1記載の電解液。
【請求項3】
前記有機溶媒が、カーボネート系溶媒を含む請求項2記載の電解液。
【請求項4】
前記有機溶媒が、フッ素系溶媒を含む請求項2または3記載の電解液。
【請求項5】
前記有機溶媒が、スルホラン系溶媒を含む請求項2〜4のいずれか1項記載の電解液。
【請求項6】
その他の電解質塩を含む請求項1〜5のいずれか1項記載の電解液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の電解液を用いた電気二重層キャパシタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−108974(P2010−108974A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276614(P2008−276614)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2008年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー技術開発 系統連系円滑化蓄電システム技術開発/要素技術開発/高エネルギー密度を有する新型電気二重層キャパシタ及びその蓄電システムの研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2008年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー技術開発 系統連系円滑化蓄電システム技術開発/要素技術開発/高エネルギー密度を有する新型電気二重層キャパシタ及びその蓄電システムの研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】
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