説明

キノキサリン系化合物またはその塩、および、工業用殺菌組成物

【課題】 細菌、カビ、酵母、藻などの有害微生物に対して優れた防除効果を発現する有効成分と、それを含有する工業用殺菌組成物を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1)で示されるキノキサリン系化合物、および、それを含有する工業用殺菌組成物を提供する。
一般式(1):
【化1】


(式中、XおよびYは、同一または互いに異なって、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。但し、XおよびYが、ともに塩素原子である場合を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌、カビ、酵母、藻などの有害微生物に対して優れた防除効果を発現するキノキサリン系化合物またはその塩と、それらを含有する工業用殺菌組成物、詳しくは、細菌、かび、酵母、藻の防除剤として用いられる工業用殺菌組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、製紙パルプ工場の抄紙工程、各種工場の冷却水循環工程などにおける種々の産業用水や、金属加工油剤(切削油など)、カゼイン、澱粉糊、にかわ、塗工紙、紙用塗工液、表面サイズ剤、塗料、接着剤、合成ゴムラテックス、インキ、ポリビニルアルコールフィルム、塩化ビニルフィルム、樹脂製品、セメント混和剤、シーリング剤、目地剤などの各種の産業製品には、細菌、カビ、酵母、藻などの有害な微生物が繁殖しやすく、生産性や品質の低下、悪臭の発生などの原因となっている。そのため、このような有害微生物の繁殖を防除すべく、産業用水や産業製品には、抗菌、防カビ、防腐、防藻効果などを発現する種々の工業用殺菌組成物を添加することが、広く実施されている。
【0003】
このような工業用殺菌組成物の有効成分としては、例えば、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾリン系化合物や、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメートなどのハロアセチレン系化合物などがよく知られている。
また、特許文献1および2に記載されるように、キノキサリン系化合物(例えば、2,3−ジアルコキシ−6−ニトロキノキサリンなど。)に殺菌効果があることが知られている。
【0004】
さらに、2,3−ジクロロ−ニトロキノキサリン系化合物を含有する殺菌性組成物(特許文献3参照)や、2,3−ジクロロ−ニトロキノキサリン系化合物を含有する防汚塗料(特許文献4参照)も知られている。
【特許文献1】特開2002−338552号公報
【特許文献2】特開2004−161699号公報
【特許文献3】英国特許第1009791号明細書
【特許文献4】特公昭41−20099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年、公知の有効成分では殺菌効果が発現できない耐性菌なども現れている。
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、細菌、カビ、酵母、藻などの有害微生物に対して優れた防除効果を発現する有効成分と、かかる有効成分を含有する工業用殺菌組成物とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者らは、細菌、カビ、酵母、藻などの有害微生物に対して防除効果を有するキノキサリン系化合物について、さらに検討を重ねたところ、特許文献1〜4に具体的に開示されていない特定の構造のキノキサリン系化合物、具体的には、6−ニトロキノキサリンのキノキサリン環における2位と3位が、同一または互いに異なって、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である化合物(但し、キノキサリン環の2位および3位が、ともに塩素原子である場合を除く。)が、上記の有害微生物に対する防除効果に優れているという知見を見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1) 下記一般式(1)で示されることを特徴とする、キノキサリン系化合物またはその塩、
一般式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、XおよびYは、同一または互いに異なって、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。但し、XおよびYが、ともに塩素原子である場合を除く。)
(2) 前記一般式(1)に示すXおよびYが、ともに臭素原子である組み合わせ、ともにヨウ素原子である組み合わせ、一方が臭素原子で他方が塩素原子である組み合わせ、および、一方がヨウ素原子で他方が塩素原子である組み合わせ、からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせであることを特徴とする、前記(1)に記載のキノキサリン系化合物またはその塩、
(3) 2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン、2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン、および、3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、キノキサリン系化合物またはその塩、
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載のキノキサリン系化合物、または、その塩を含有することを特徴とする、工業用殺菌組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記一般式(1)で示されるキノキサリン系化合物またはその塩、および、それらを含む本発明の工業用殺菌組成物によれば、細菌、カビ、酵母、藻などの有害微生物に対する、優れた防除効果を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のキノキサリン系化合物は、下記一般式(1)で示される。
一般式(1):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、XおよびYは、同一または互いに異なって、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。但し、XおよびYが、ともに塩素原子である場合を除く。)
上記一般式(1)で示されるキノキサリン系化合物は、上記一般式(1)のXおよびYで示される原子の組み合わせにより、下記に示す8通りの態様が挙げられる。
・XおよびYがともに臭素原子である態様(2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン)
・XおよびYがともにヨウ素原子である態様(2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン)
・Xが臭素原子で、Yが塩素原子である態様(2−ブロモ−3−クロロ−6−ニトロキノキサリン)
・Xが塩素原子で、Yが臭素原子である態様(3−ブロモ−2−クロロ−6−ニトロキノキサリン)
・Xがヨウ素原子で、Yが塩素原子である態様(3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン)
・Xが塩素原子で、Yがヨウ素原子である態様(2−クロロ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン)
・Xが臭素原子で、Yがヨウ素原子である態様(2−ブロモ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン)
・Xがヨウ素原子で、Yが臭素原子である態様(3−ブロモ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン)
上記一般式(1)で示されるキノキサリン系化合物の好ましい態様としては、上記一般式(1)に示すXおよびYが、ともに臭素原子である組み合わせ、ともにヨウ素原子である組み合わせ、一方が臭素原子で他方が塩素原子である組み合わせ、および、一方がヨウ素原子で他方が塩素原子である組み合わせ、からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせが挙げられる。
【0014】
また、上記一般式(1)で示されるキノキサリン系化合物のより好ましい態様としては、XおよびYがともに臭素原子である態様(2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン)、XおよびYがともにヨウ素原子である態様(2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン)、および、Xがヨウ素原子でYが塩素原子である態様(3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン)が挙げられる。
【0015】
上記一般式(1)で示されるキノキサリン系化合物の合成は、特に限定されないが、例えば、下記の反応式(I)および(II)に示すように、公知化合物である2,3−ジクロロ−6−ニトロキノキサリン(CAS.No.2379−60−4,G.W.H.Cheeseman,J.Chem.Soc.,1170(1962);K.Tanaka,J.Heterocyclic Chem.,29,777(1992)に記載される方法により合成することができる。)を出発原料として合成すればよい。
【0016】
すなわち、上記一般式(1)で示されるキノキサリン系化合物を得るには、例えば、2,3−ジクロロ−6−ニトロキノキサリンを、極性溶媒中、好ましくは、非プロトン性極性溶媒中において、ハロトリアルキルシランまたはハロゲン化アルカリと反応させる。
ハロトリアルキルシランのアルキルとしては、これに限定されないが、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどの、炭素数1〜4のアルキルが挙げられる。また、ハロトリアルキルシランのハロゲンとしては、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられる。
【0017】
また、ハロトリアルキルシランの具体例としては、例えば、ブロモトリメチルシラン、ヨードトリメチルシラン、ブロモエチルジメチルシラン、ヨードエチルジメチルシラン、ブロモジエチルメチルシラン、ヨードジエチルメチルシラン、ブロモトリエチルシラン、ヨードトリエチルシランなどが挙げられる。
ハロゲン化アルカリのアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどが挙げられ、好ましくは、ナトリウムが挙げられる。また、ハロゲン化アルカリのハロゲンとしては、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられる。
【0018】
また、ハロゲン化アルカリの具体例としては、例えば、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムなどが挙げられ、好ましくは、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムが挙げられる。
極性溶媒としては、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノールなど。)、フェノール類(例えば、フェノール、クレゾール(o,m,p−)、キシレノール(2,4−,2,6−,3,5−など)、エチルフェノール(o,m,p−)など。)のプロトン性極性溶媒や、例えば、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど。)、含窒素化合物(例えば、2−ピロリドン、ピロリジン、N−メチルピロリドン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミドなど。)、アセトン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0019】
上記極性溶媒は、2,3−ジクロロ−6−ニトロキノキサリン、上記ハロトリアルキルシランおよび上記ハロゲン化アルカリについての溶解度に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されないが、通常、上記した極性溶媒の中でも、非プロトン性極性溶媒がより好ましい。
上記の合成反応では、ハロトリアルキルシランまたはハロゲン化アルカリの添加量は、2.0〜10.0当量が好ましく、2.5〜5.0当量がより好ましい。また、反応は、常圧下、50〜120℃で、24〜72時間反応させることが好ましく、常圧下、60〜100℃で、24〜50時間反応させることがより好ましい。
【0020】
また、上記の合成反応は、還流下で実施してもよく、反応に関与しない溶媒を適宜添加してもよい。また、大気雰囲気または不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス)雰囲気のいずれにおいても実施できる。
上記の合成反応によれば、通常、上記一般式(1)のXおよびYで示される原子の組み合わせが異なる2以上のキノキサリン系化合物が、混合物として得られる。
【0021】
上記の合成反応により得られたキノキサリン系化合物は、混合物として用いることができ、また、単離精製を経た上で用いることもできる。
上記の合成反応により得られたキノキサリン系化合物の混合物は、例えば、濃縮、減圧濃縮、蒸留、分留、溶媒抽出、液性変換、転溶、クロマトグラフィー、結晶化、再結晶などの公知の分離手段により(必要に応じて、単一の分離手段による分離精製を繰り返し、または、2以上の分離手段による分離精製を組み合わせることにより)、単離精製することができる。
【0022】
上記一般式(1)で示されるキノキサリン系化合物のうち、例えば、2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン、2−ブロモ−3−クロロ−6−ニトロキノキサリンおよび3−ブロモ−2−クロロ−6−ニトロキノキサリンを得るには、例えば、下記反応式(I)に示すように、2,3−ジクロロ−6−ニトロキノキサリン(2)を、上記極性溶媒(好ましくは、上記非プロトン性極性溶媒)中にて、上記した反応条件と同様の条件で、ブロモトリアルキルシランまたは臭化アルカリと反応させる。
【0023】
上記の合成反応により、下記反応式(I)に示すように、主生成物の2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン(3)と、副生成物の2−ブロモ−3−クロロ−6−ニトロキノキサリン(4)および3−ブロモ−2−クロロ−6−ニトロキノキサリン(5)とが、混合物として得られる。
反応式(I):
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、R1、R2およびR3は、同一または互いに異なって、アルキル基を示す。Mは、アルカリ金属を示す。)
上記の合成反応により得られた混合物から、上記した分離手段によって、2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン(3)単独と、2−ブロモ−3−クロロ−6−ニトロキノキサリン(4)および3−ブロモ−2−クロロ−6−ニトロキノキサリン(5)の混合物とを得ることができる。さらに、上記した分離手段によって、2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン(3)と、2−ブロモ−3−クロロ−6−ニトロキノキサリン(4)と、3−ブロモ−2−クロロ−6−ニトロキノキサリン(5)とを、それぞれ単独で得ることもできる。
【0026】
上記一般式(1)で示されるキノキサリン系化合物のうち、例えば、2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン、2−ヨード−3−クロロ−6−ニトロキノキサリンおよび3−ヨード−2−クロロ−6−ニトロキノキサリンを得るには、例えば、下記反応式(II)に示すように、2,3−ジクロロ−6−ニトロキノキサリン(2)を、上記極性溶媒(好ましくは、上記非プロトン性極性溶媒)中にて、上記した反応条件と同様の条件で、ヨードトリアルキルシランまたはヨウ化アルカリと反応させる。
【0027】
上記の合成反応により、下記反応式(II)に示すように、主生成物の2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン(6)と、副生成物の3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(7)および2−クロロ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン(8)とが、混合物として得られる。
反応式(II):
【0028】
【化4】

【0029】
(式中、R1、R2、R3およびMは、前記と同じである。)
上記の合成反応により得られた混合物から、上記した分離手段によって、2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン(6)および3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(7)の混合物と、3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(7)および2−クロロ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン(8)の混合物と、を得ることができる。さらに、上記した分離手段によって、2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン(6)単独と、3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(7)および2−クロロ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン(8)の混合物とを得ることもでき、また、2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン(6)と、3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(7)と、2−クロロ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン(8)とを、それぞれ単独で得ることもできる。
【0030】
また、上記一般式(1)で示されるキノキサリン系化合物のうち、例えば、2−ブロモ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリンおよび3−ブロモ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリンを得るには、例えば、下記反応式(III)に示すように、上記反応式(I)で得られた2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン(3)を、上記極性溶媒(好ましくは、上記非プロトン性極性溶媒)中で、上記のヨードトリアルキルシランまたはヨウ化アルカリと反応させるか、または、下記反応式(IV)に示すように、上記反応式(II)で得られた2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン(6)を、上記極性溶媒(好ましくは、上記非プロトン性極性溶媒)中にて、上記した反応条件と同様の条件で、上記のブロモトリアルキルシランまたは臭化アルカリと反応させる。
【0031】
上記の合成反応のうち、下記反応式(III)に示す反応の場合、主生成物の3−ブロモ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(9)と、副生成物の2−ブロモ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン(10)とが、混合物として得られる。
反応式(III):
【0032】
【化5】

【0033】
(式中、R1、R2、R3およびMは、前記と同じである。)
また、上記の合成反応のうち、下記反応式(IV)に示す反応の場合、主生成物の2−ブロモ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン(10)と、副生成物の3−ブロモ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(9)とが、混合物として得られる。
反応式(IV):
【0034】
【化6】

【0035】
(式中、R1、R2、R3およびMは、前記と同じである。)
上記反応式(III)または(IV)に示す合成反応により得られた混合物から、さらに、上記した分離手段によって、3−ブロモ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(9)と、2−ブロモ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン(10)とを、それぞれ単独で得ることができる。
【0036】
このようにして合成されたキノキサリン系化合物は、所望により塩にすることもできる。好ましい塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機塩、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、イソ酪酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、アジピン酸塩、クエン酸塩などの有機酸塩などが挙げられる。
そして、このような本発明のキノキサリン系化合物またはその塩は、細菌、カビ、酵母、藻などの有害微生物に対する防除効果を発現するため、工業用殺菌組成物の有効成分として用いることができる。
【0037】
本発明のキノキサリン系化合物またはその塩を、工業用殺菌組成物として用いる場合には、特に限定されず、上記したキノキサリン系化合物またはその塩を単独で配合してもよく、2種以上を併用して配合してもよい。また、本発明のキノキサリン系化合物またはその塩を含有する工業用殺菌組成物は、種々の剤型に調製することができる。
本発明の工業用殺菌組成物の製剤化は、特に制限されることなく、その目的および用途に応じて、例えば、液剤(水懸濁剤および油剤を含む。)、ペースト剤、粉剤、粒剤、マイクロカプセルなどの公知の種々の剤型に製剤化することができる。また、包接化合物として調製してもよく、さらに、層状ケイ酸塩などのモンモリロナイト(スメクタイト類など)などに担持させ、あるいは、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルクなどに吸着させることにより調製することもできる。
【0038】
また、本発明のキノキサリン系化合物またはその塩は、剤型、目的および用途などに応じて、工業用殺菌組成物に対して、0.1〜99重量%の範囲から適宜選択して配合することができる。より具体的には、例えば、本発明の工業用殺菌組成物を液剤として製剤化する場合には、液剤に対してキノキサリン系化合物またはその塩を、例えば、0.1〜50重量%の範囲で配合することができる。また、ペースト剤として製剤化する場合には、ペースト剤に対してキノキサリン系化合物またはその塩を、例えば、5〜70重量%の範囲で配合することができる。また、粉剤、粒剤として製剤化する場合には、粉剤、粒剤に対してキノキサリン系化合物またはその塩を、例えば、20〜100重量%の範囲で配合することができる。
【0039】
また、液剤として調製する場合など、本発明のキノキサリン系化合物またはその塩の溶解を向上させる観点より、溶媒を配合してもよい。
溶媒としては、例えば、水、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノールなどのアルコール系溶媒、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、例えば、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶媒、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどの極性溶媒、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテートなどのエステル系溶媒、例えば、キシレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、エチルビフェニル、ソルベントナフサ、ミネラルスピリットなどの芳香族系溶媒などが挙げられる。これら溶媒は、単独または2種以上併用してもよく、好ましくは、グリコール系溶媒や芳香族系溶媒が挙げられる。
【0040】
溶媒の配合割合は、有効成分1重量部に対して、通常、1〜100重量部である。なお、キノキサリン系化合物またはその塩の種類や、後述する添加剤の種類によっては、溶媒の比率を大幅に変えて調製することもできる。
さらに、本発明の工業用殺菌組成物には、その目的、用途などに応じて、公知の添加剤、例えば、防藻剤および/または防かび剤(有効成分)、界面活性剤、酸化防止剤、光安定剤などを添加してもよい。
【0041】
防藻剤および/または防かび剤としては、例えば、イソチアゾリン系化合物、ニトロアルコール系化合物、ジチオール系化合物、チオフェン系化合物、ハロアセチレン系化合物、フタルイミド系化合物、ハロアルキルチオ系化合物、ピリチオン系化合物、フェニルウレア系化合物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、ベンズイミダゾール系化合物、四級アンモニウム塩系化合物などが挙げられる。
【0042】
イソチアゾリン系化合物としては、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4−クロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンツイソチアゾリン−3−オン、N−n−ブチル−1,2−ベンツイソチアゾリン−3−オンが挙げられる。
【0043】
ニトロアルコール系化合物としては、例えば、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノールなどが挙げられる。
ジチオール系化合物としては、例えば、4,5−ジクロロ−1,2−ジチオール−3−オンがなど挙げられる。
チオフェン系化合物としては、例えば、3,3,4−トリクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド、3,3,4,4−テトラクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシドなどが挙げられる。
【0044】
ハロアセチレン系化合物としては、例えば、N−ブチル−3−ヨードプロピオール酸アミド、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメートなどが挙げられる。
フタルイミド系化合物としては、例えば、N−1,1,2,2−テトラクロロエチルチオ−テトラヒドロフタルイミド(Captafol)、N−トリクロロメチルチオ−テトラヒドロフタルイミド(Captan)、N−ジクロロフルオロメチルチオフタルイミド(Fluorfolpet)、N−トリクロロメチルチオフタルイミド(Folpet)などが挙げられる。
【0045】
ハロアルキルチオ系化合物としては、例えば、N−ジメチルアミノスルホニル−N−トリル−ジクロロフルオロメタンスルファミド(Tolylfluanide)、N−ジメチルアミノスルホニル−N−フェニル−ジクロロフルオロメタンスルファミド(Dichlofluanide)などが挙げられる。
ピリチオン系化合物としては、例えば、ナトリウムピリチオン、ジンクピリチオンなどが挙げられる。
【0046】
フェニルウレア系化合物としては、例えば、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレアなどが挙げられる。
トリアジン系化合物としては、例えば、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジンなどが挙げられる。
グアニジン系化合物としては、例えば、1,6−ジ−(4’−クロロフェニルジグアニド)−ヘキサン、ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩などが挙げられる。
【0047】
トリアゾール系化合物としては、例えば、α−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(慣用名:テブコナゾール)、1−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−4−n−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(慣用名:プロピコナゾール)、1−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(慣用名:アザコナゾール)、α−(4−クロロフェニル)−α−(1−シクロプロピルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(慣用名:シプロコナゾール)などが挙げられる。
【0048】
ベンズイミダゾール系化合物としては、例えば、メチル 2−ベンズイミダゾールカルバメート、エチル 2−ベンズイミダゾールカルバメート、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾールなどが挙げられる。
四級アンモニウム塩系化合物としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジ−n−デシル−ジメチルアンモニウムクロライド、1−ヘキサデシルピリジニウムクロライドなどが挙げられる。
【0049】
また、他の防藻剤および/または防かび剤として、その他に、例えば、ジヨードメチル−p−トルイルスルホン、p−クロロフェニル−3−ヨードプロパルギルフォルマールなどの有機ヨウ素系化合物、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィドなどのチオカーバメート系化合物、例えば、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリルなどのニトリル系化合物、例えば、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジンなどのピジリン系化合物、例えば、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾールなどのベンゾチアゾール系化合物、例えば、3−ベンゾ[b]チエン−2−イル−5,6−ジヒドロ−1,4,2−オキサチアジン−4−オキサイドなどのオキサチアジン系化合物、例えば、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロパンアミドなどのシアノアセトアミド系化合物、例えば、メチレンビスチオシアネートなどのチオシアネート系化合物などが挙げられる。
【0050】
これら防藻剤および/または防かび剤は、単独または2種以上併用してもよく、好ましくは、イソチアゾリン系化合物(2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、N−n−ブチル−1,2−ベンツイソチアゾリン−3−オン)、ハロアセチレン系化合物(3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート)、ピリチオン系化合物(ジンクピリチオン)、フェニルウレア系化合物(3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア)、トリアジン系化合物(2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン)トリアゾール系化合物(α−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(慣用名:テブコナゾール))、ベンズイミダゾール系化合物(メチル 2−ベンズイミダゾールカルバメート)と併用することで、相乗的な微生物の防除効果を発現させることができる。
【0051】
また、防藻剤および/または防かび剤の配合割合は、剤型、目的および用途によって適宜選択されるが、例えば、キノキサリン系化合物100重量部に対して、1〜9000重量部、好ましくは、3〜8000重量部である。
界面活性剤としては、例えば、石鹸類、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン界面活性剤、高分子界面活性剤など公知の界面活性剤が挙げられる。これら界面活性剤は、単独または2種以上併用してもよく、好ましくは、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0052】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、酸化エチレンと酸化プロピレンブロック共重合物などが挙げられる。
また、アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルナフタレンスルホン酸金属塩、ポリカルボン酸型界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸エステル金属塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩、リグニンスルホン酸金属塩、リグニンスルホン酸金属塩などが挙げられ、金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。
【0053】
これら、界面活性剤は、単独または2種以上併用してもよく、その配合割合は、特に制限されず、剤型、目的および用途によって適宜選択されるが、例えば、液剤として製剤化される場合には、その液剤100重量部に対して0.1〜5重量部添加される。
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤、例えば、アルキルジフェニルアミン、N,N’−ジ−s−ブチル−p−フェニレンジアミンなどのアミン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0054】
これら、酸化防止剤は、単独または2種以上併用してもよく、その配合割合は、特に制限されず、剤型、目的および用途によって適宜選択されるが、例えば、液剤として製剤化される場合には、その液剤100重量部に対して0.1〜5重量部添加される。
また、光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートなどのヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられる。光安定剤は、単独または2種以上併用してもよく、その配合割合は、特に制限されず、剤型、目的および用途によって適宜選択されるが、例えば、液剤として製剤化される場合には、その液剤100重量部に対して0.1〜10重量部添加される。
【0055】
このような、本発明のキノキサリン系化合物またはその塩を有効成分として含有する本発明の工業用殺菌組成物は、優れた、抗菌、防かび、防腐、防藻作用などを発現し、細菌、かび、酵母、藻などに対する防除剤(微生物防除剤)として用いることができる。
本発明の工業用殺菌組成物は、例えば、製紙パルプ工場、冷却水循環工程などの種々の産業用水や、切削油などの金属加工用油剤、カゼイン、澱粉粉、にかわ、塗工紙、紙用塗工液、表面サイズ剤、紙力増強剤、塗料、接着剤、合成ゴムラテックス、インキ、ポリビニルアルコールフィルム、塩化ビニルフィルム、樹脂製品、セメント混和剤、シーリング剤、目地剤などの各種工業製品における工業用殺菌剤として好適に用いられる。
【0056】
なお、本発明の工業用殺菌組成物は、適用対象、微生物の種類(細菌類、かび類、酵母、藻類など)や防除期間に応じて、添加量を適宜選択すればよいが、例えば、スライムコントロール剤として用いる場合には、0.1〜500mg(有効成分)/kg(製品)、好ましくは、0.5〜100mg(有効成分)/kg(製品)、防腐剤として用いる場合には、1〜5000mg(有効成分)/kg(製品)、好ましくは、10〜1000mg(有効成分)/kg(製品)、防かびまたは防藻剤として用いる場合には、10〜50000mg(有効成分)/kg(製品)、好ましくは、100〜10000mg(有効成分)/kg(製品)となるように添加すればよい。
【実施例】
【0057】
次に、合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの合成例および実施例により限定されるものではない。
合成例1
2,3−ジクロロ−6−ニトロキノキサリン198mg(0.81mmol)に、ブロモトリメチルシラン0.3mL(2.43mmol)と、プロピオニトリル5mLとを加え、油浴上で50時間加熱還流した。なお、加熱還流時には、反応中に生成するクロロトリメチルシラン(沸点58℃)を系外へ除去するために、冷却水として温水を使用した。次いで、反応溶液を、氷50gとともに、2M−水酸化ナトリウム水溶液50mL中に注いで、析出した固体をろ過することにより、茶色固体の粗生成物を得た。
【0058】
次いで、得られた粗生成物から、リサイクル分取ゲル振蘯クロマトグラフィー(以下、リサイクル分取GPCと省略する。分取カラム:JAIGEL−1H、JAIGEL−2H;展開溶媒:クロロホルム)により、2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン81mol%と、2−ブロモ−3−クロロ−6−ニトロキノキサリンおよび3−ブロモ−2−クロロ−6−ニトロキノキサリンの混合物19mol%と、を含む混合物を得た。
【0059】
・2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン(C83Br232):
収量116mg、収率:70%
IR(KBr)νmax:3085cm-1(νC-H),3044cm-1(νC-H),1521,1358cm-1(νNO2),829cm-1(σC-H
1H−NMR(δ,CDCl3,400MHz):8.21(1H,d,J=9.3Hz,C8−H),8.59(1H,dd,J=2.7および9.3Hz,C7−H),8.94ppm(1H,d,J=2.7Hz,C5−H).
・3−クロロ−2−ブロモ−6−ニトロキノキサリン(C83ClBrN32)および2−クロロ−3−ブロモ−6−ニトロキノキサリン(C83ClBrN32)の混合物:
1H−NMR(δ,CDCl3,400MHz):8.19および8.23(1H,d,J=9.3Hz,C8−H),8.56−8.61(1H,m,C7−H),8.92および8.95ppm(1H,d,J=2.4Hz,C5−H).
合成例2
ヨウ化ナトリウム756mg(5.04mmol)のアセトン(10mL)溶液に、2,3−ジクロロ−6−ニトロキノキサリン118mg(0.48mmol)を加え、24時間加熱還流した。次いで、反応溶液から溶媒を減圧留去し、酢酸エチル50mLを加え、水(50mL×2)と飽和食塩水(50mL)で洗浄することにより、粗生成物を得た。
【0060】
さらに、得られた粗生成物を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去し、得られた残渣をリサイクル分取GPC(分取カラム:JAIGEL−1H、JAIGEL−2H;展開溶媒:クロロホルム)で分離精製した。これにより、主フラクションとして、2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン95mol%と、3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン5mol%とを含む混合物を得た(淡黄色固体、収量107mg、収率:52%)。また、副フラクションとして、3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン77mol%と、2−クロロ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン23mol%と、を含む混合物を得た(淡黄色固体、収量68mg、収率:42%)。
【0061】
・2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン(C83232):
IR(KBr)νmax:3078cm-1(νC-H),3032cm-1(νC-H),1514,1348cm-1(νNO2),818cm-1(σC-H
1H−NMR(δ,CDCl3,400MHz):8.17(1H,d,J=9.0Hz,C8−H),8.55(1H,dd,J=2.4および9.0Hz,C7−H),8.92ppm(1H,d,J=2.4Hz,C5−H).
・3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(C83ClIN32):
1H−NMR(δ,CDCl3,400MHz):8.22(1H,d,J=9.3Hz,C8−H),8.55(1H,dd,J=2.4および9.3Hz,C7−H),8.90ppm(1H,d,J=2.4Hz,C5−H).
・2−クロロ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン(C83ClIN32
1H−NMR(δ,CDCl3,400MHz):8.16(1H,d,J=9.0Hz,C8−H),8.59(1H,dd,J=2.4および9.0Hz,C7−H),8.97ppm(1H,d,J=2.4Hz,C5−H).
実施例1
合成例1で得られた、2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン(3)81mol%と、2−ブロモ−3−クロロ−6−ニトロキノキサリン(4)および3−ブロモ−2−クロロ−6−ニトロキノキサリン(5)の混合物19mol%と、を含む混合物0.1重量部と、メチルカルビトール(ジエチレングリコールモノメチルエーテル)20重量部と、水79.9重量部とを配合して、攪拌混合することにより、液剤を得た。
【0062】
実施例2
合成例2で得られた、2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン(6)95mol%と、3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(7)5mol%とを含む混合物0.1重量部と、メチルカルビトール20重量部と、水79.9重量部とを配合して、攪拌混合することにより、液剤を得た。
【0063】
実施例3
合成例2で得られた、3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリン(7)77mol%と、2−クロロ−3−ヨード−6−ニトロキノキサリン(8)23mol%と、を含む混合物0.1重量部と、メチルカルビトール20重量部と、水79.9重量部とを配合して、攪拌混合することにより、液剤を得た。
【0064】
試験例1(細菌に対するMICの測定)
実施例1〜3で得られた液剤をそれぞれ添加したグルコースブイヨン寒天培地(pH6.0)に、ミクロプランタ(佐久間製作所製)を用いて、接種用細菌懸濁液を接種し、33℃で18時間培養した。次いで、培養後の菌の生育を観察して、最小発育阻止濃度MIC(μg/mL)を求めた。
【0065】
試験例2(カビおよび酵母に対するMICの測定)
実施例1〜3で得られた液剤をそれぞれ添加したグルコースブイヨン寒天培地(pH6.0)に、ミクロプランタ(佐久間製作所製)を用いて、カビ胞子懸濁液および接種用酵母を接種し、33℃で18時間培養し、さらに、28℃で2日間培養した。次いで、培養後の菌の生育を観察して、最小発育阻止濃度MIC(μg/mL)を求めた。
【0066】
MICの測定に使用した細菌、カビおよび酵母の菌株名と、試験例1および2の結果とを、表1に示す。なお、表中の数値は、最小発育阻止濃度MIC(μg/mL)を示す。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
上述したように、本発明のキノキサリン系化合物またはその塩は、細菌、カビ、酵母、藻などの有害微生物に対する防除効果を発現するため、工業用殺菌組成物の有効成分として用いることができる。
また、本発明のキノキサリン系化合物またはその塩を有効成分として含有する本発明の工業用殺菌組成物は、優れた、抗菌、防かび、防腐、防藻作用などを発現することから、細菌、かび、酵母、藻などに対する防除剤(微生物防除剤)を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする、キノキサリン系化合物またはその塩。
一般式(1):
【化1】

(式中、XおよびYは、同一または互いに異なって、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。但し、XおよびYが、ともに塩素原子である場合を除く。)
【請求項2】
前記一般式(1)に示すXおよびYが、ともに臭素原子である組み合わせ、ともにヨウ素原子である組み合わせ、一方が臭素原子で他方が塩素原子である組み合わせ、および、一方がヨウ素原子で他方が塩素原子である組み合わせ、からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載のキノキサリン系化合物またはその塩。
【請求項3】
2,3−ジブロモ−6−ニトロキノキサリン、2,3−ジヨード−6−ニトロキノキサリン、および、3−クロロ−2−ヨード−6−ニトロキノキサリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、キノキサリン系化合物またはその塩。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のキノキサリン系化合物、または、その塩を含有することを特徴とする、工業用殺菌組成物。


【公開番号】特開2007−84473(P2007−84473A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274154(P2005−274154)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】