説明

キノコの栽培期間決定方法及びキット

【課題】簡便かつ正確に最も効率的に子実体を作らせることのできるキノコの培養期間を決定する方法及び手段を提供すること。
【解決手段】遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを指標としてキノコの最適な栽培期間を決定する方法に関する。具体的には、HSP9遺伝子、cerato-platanin様タンパク質1遺伝子、cerato-platanin様タンパク質2遺伝子、cerato-platanin様タンパク質3遺伝子及びcerato-platanin様タンパク質4遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを指標としてキノコの最適栽培期間を決定する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコの人工栽培において、キノコ菌体に子実体を作らせるのに十分な菌体量及び栽培期間を経ているかを簡便かつ正確に判定する方法及びキットに関する。より具体的には、本発明は、遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを指標として優良なキノコを作らせるための栽培期間の決定方法及びキット、並びにキノコの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キノコの栽培において、種菌接種から子実体収穫に至るまで、品質の良いキノコを得るために、キノコの外観変化を観察する等、栽培者による経験的な管理が行われている。子実体を作らせる前のキノコ菌体の培養期間や子実体生育期間についても、経験的に優良なキノコを作らせることができる期間を採用している(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、当該技術も含め、多くの技術は目視検査であり、栽培者といえど、高度な観察眼が要求される。加えて、目視検査は外観に依存しているため、表面的な菌糸の成長具合しか見ることができず、培地内部やキノコ菌体内部の変化は確認することができない。この場合、菌叢や菌まわりで異常を感知できなかったときには、子実体発生の段階で異常に気付くことになり、採算性が低下する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大森及び小出編 (2001) キノコ栽培全科, 第102頁, 農文協
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような技術背景から、当該技術分野においては、優良な子実体を作らせることができるキノコの最短の培養期間や子実体生育期間を決定することのできる方法及び手段が望まれている。従って、本発明は、キノコ栽培において、目視判断のための高い技術を不要として、簡便かつ正確に最も効率的に子実体を作らせることのできるキノコの栽培期間を決定する方法及び手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、マイクロアレイ解析及び定量リアルタイムPCRの結果から、その遺伝子発現量と優良な子実体が得られる栽培期間とに相関のある遺伝子を特定することに成功し、該遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを検出することによって、キノコの最適な栽培期間を識別可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[10]である。
[1]遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを指標としてキノコの最適な栽培期間を決定する方法。
[2]HSP9遺伝子、cerato-platanin様タンパク質1遺伝子、cerato-platanin様タンパク質2遺伝子、cerato-platanin様タンパク質3遺伝子及びcerato-platanin様タンパク質4遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを指標とすることを特徴とする[1]に記載の方法。
[3]キノコの栽培期間が菌糸体の培養期間、原基形成、又は子実体の生育期間であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の方法。
【0008】
[4]遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを、ハイブリダイゼーション、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又はシークエンシングによって検出することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを、該遺伝子によりコードされるタンパク質の発現量及び/又はその発現パターンにより検出することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[6]タンパク質の発現量及び/又はその発現パターンを、該タンパク質に対する抗体を用いた、ウエスタンブロッティング、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ又はサンドイッチイムノアッセイによって検出することを特徴とする[5]に記載の方法。
【0009】
[7]キノコが、マイタケ、エリンギ、ブナシメジ、シイタケ、ホンシメジ、ハタケシメジ、エノキタケ、ナメコ、ツクリタケ、ヒラタケ及びマツタケを含む食用キノコより選択されることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]キノコ試料において、HSP9遺伝子、cerato-platanin様タンパク質1遺伝子、cerato-platanin様タンパク質2遺伝子、cerato-platanin様タンパク質3遺伝子及びcerato-platanin様タンパク質4遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを取得し、該発現量及び/又は発現パターンに基づいて該キノコ試料の栽培期間が最適であるかを判定し、該キノコ試料から子実体を誘導することを特徴とするキノコの製造方法。
[9]HSP9遺伝子、cerato-platanin様タンパク質1遺伝子、cerato-platanin様タンパク質2遺伝子、cerato-platanin様タンパク質3遺伝子及びcerato-platanin様タンパク質4遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子又は該遺伝子によりコードされるタンパク質の発現量及び/又はその発現パターンを検出するための手段を含むことを特徴とするキノコの栽培期間決定用キット。
[10]遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを検出するための手段がプライマー又はプローブであることを特徴とする[9]に記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、キノコの栽培期間決定方法及びキットが提供される。本方法及びキットは、キノコ栽培過程において発現する遺伝子又はタンパク質の発現量及び/又はその発現パターンを比較することによって、目視判断によらず、キノコ菌体の最適栽培期間を決定することが可能となる。また、遺伝子及びタンパク質の発現を指標としているため、従来の判定方法よりも、確実に最適栽培期間を決定し、優良なキノコ子実体を製造することが可能となる。従って、本発明は、農業、農芸化学、品種改良などの分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】定量PCR解析から得られたマイタケにおけるHSP9遺伝子の発現パターンを示すグラフである。
【図2】異なる期間培養で、かつ同時に発生させた子実体の写真である。
【図3】異なる期間培養で、かつ同時に発生させた子実体の収率(%)を示したグラフである。
【図4】マイタケHSP9遺伝子とそのエリンギ及びブナシメジ相同遺伝子について、それぞれの全栽培工程での発現挙動を示したグラフである。
【図5】マイタケHSP9遺伝子とその相同遺伝子について、コードされるタンパク質のアミノ酸配列をアライメントした結果を示す。図中、G.frondosaはマイタケ由来、H.marmoreusはブナシメジ由来、P.eryngiiはエリンギ由来、L.edodesはシイタケ由来、P.ostreatusはヒラタケ由来の遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を表す。
【図6】マイクロアレイ解析から得られたcerato-platanin様タンパク質1〜4遺伝子の発現パターンを示すグラフである。
【図7】マイタケcerato-platanin様タンパク質1遺伝子とその相同遺伝子であるcerato-platanin様タンパク質2〜4遺伝子について、コードされるタンパク質のアミノ酸配列をアライメントした結果を示す。
【図8】マイタケcerato-platanin様タンパク質1遺伝子とその相同遺伝子について、コードされるタンパク質のアミノ酸配列をアライメントした結果を示す。図中、Hm cerato-platanin-like protein 1はブナシメジ由来、Le cerato-platanin-like protein 1はシイタケ由来、Pe cerato-platanin-like protein 1はエリンギ由来、Tm cerato-platanin-like protein 1はマツタケ由来の遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においては、キノコを人工栽培する際に、キノコの発現遺伝子や発現タンパク質の量及び/又はその発現パターンをモニタリングすることで、目視判断によらず、優良なキノコを得るための最適な栽培期間を見分ける。
【0013】
従って、本発明は、キノコの栽培期間決定方法に関し、具体的には、特定の遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを指標としてキノコの最適な栽培期間を判断することにより、優良なキノコを得るための栽培期間を決定する。より具体的には、解析対象となるキノコ試料を準備し、キノコ試料における特定の遺伝子の発現を検出し、該遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを決定し、その発現量及び/又は発現パターンを指標としてキノコの栽培期間を決定する。
【0014】
本発明において対象となるキノコは、天然に存在する又は人工的に育種されているキノコのいずれでもよく、例えばマイタケ(Grifola frondosa、サルノコシカケ科)、エリンギ(Pleurotus eryngii、ヒラタケ科)、ブナシメジ(Hypsizigus marmoreus、キシメジ科)、シイタケ(Lentinus edodes、ヒラタケ科)、ホンシメジ(Lyophyllum shimeji、キシメジ科)、ハタケシメジ(Lyophyllum decastes、キシメジ科)、エノキタケ(Flammulina velutipes、キシメジ科)、ナメコ(Pholiota nameko、モエギタケ科)、ツクリタケ(Agaricus bisporus、ハラタケ科)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus、ヒラタケ科)、マツタケ(Tricholoma matsutake、キシメジ科)等の食用キノコ、及びこれらの近縁種が挙げられる。例えばマイタケの近縁種として、マイタケ属(Grifola)に属するシロマイタケ(G. albicans Imaz.)の他、トンビマイタケ(Meripilus giganteus)、チョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)などがある。
【0015】
本発明においては、まず解析対象のキノコ試料を準備する。キノコは、例えばキノコ栽培工場等、人為的に環境の制御が可能な施設内で栽培される菌床栽培(袋や瓶を容器とするものも含む)や、原木栽培のキノコであり、培養中の菌糸の状態のものである。また、キノコ試料の調製時には、試料中に培地が含まれてもよい。
【0016】
続いて、キノコ試料における遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを検出する。遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを検出するタイミングは、菌糸伸長段階の任意の時点である。従って、種菌から子実体を誘導するまでの期間、例えば、子実体を作らせるために菌糸体を増やす培養期間(菌糸体培養期間)や、子実体の原基を作らせる期間(原基誘導期間)などの期間の任意の時点である。本発明においては、キノコ菌糸体試料における遺伝子の発現量の相違や、キノコ菌糸体試料における遺伝子の発現パターンの相違に基づいて、優良なキノコ子実体を得るための栽培期間を決定する。
【0017】
検出対象となる遺伝子(マーカー)は、その発現量及び/又は発現パターンに基づいて最適栽培期間を決定できる遺伝子であり、本明細書中でそのような遺伝子を「マーカー遺伝子」という。キノコの栽培期間を決定するためのマーカー遺伝子として、例えば配列番号1(HSP9)、配列番号3(cerato-platanin-like protein 1)、配列番号5(cerato-platanin-like protein 2)、配列番号7(cerato-platanin-like protein 3)又は配列番号9(cerato-platanin-like protein 4)に示される塩基配列を有するマイタケ遺伝子が挙げられる。この遺伝子は、後述する実施例に示されるように、優良な子実体の形状・収量が得られるキノコの栽培期間とその発現量とに相関のある遺伝子として特定されたものである。
【0018】
本発明において「培養期間」とは、キノコの子実体を作らせるために菌糸体を培養する期間、すなわち種菌から子実体誘導までの期間を指す。また、「栽培期間」とは、キノコの子実体を得るまでの期間を指し、菌糸体の培養期間、子実体の原基を誘導する期間、子実体を発生させる期間を含む。さらに「最適栽培期間」とは、優良なキノコ子実体を得られ、かつ最低限必要な栽培期間を意味する。
【0019】
なお、検出対象となるマーカー遺伝子は、1種でもよいし、又は複数の遺伝子を組み合わせて検出してもよい。また、本発明において「遺伝子」には、DNA及びその相補的DNA(cDNA)、並びに全RNA及びメッセンジャーRNA(mRNA)が含まれる。
【0020】
また、マーカー遺伝子の塩基配列は、種間で、また種内においても変異を含むものであるため、上記塩基配列の全部又は一部の配列に相補的な配列を有する核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、目的の機能又は活性を有するタンパク質をコードする変異遺伝子も、本発明においてマーカー遺伝子として使用することができる。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、高い相同性(相同性が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上)を有する核酸がハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、ナトリウム濃度が150〜900mM、好ましくは600〜900mMであり、温度が60〜68℃、好ましくは65℃での条件をいう。例えばハイブリダイゼーション条件が65℃であり、洗浄の条件が0.1%SDSを含む0.1×SSC中で65℃、10分の場合に、慣例的な手法、例えばサザンブロット、ドットブロットハイブリダイゼーションなどによってハイブリダイズすることが確認された場合には、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするといえる。
【0021】
また、上記塩基配列に対し高い相同性を有する塩基配列を有する遺伝子も、所与の機能又は活性を有するタンパク質をコードする蓋然性が高いため、本発明においてマーカー遺伝子として使用することができる。遺伝子に関して「相同性」とは、2つのポリヌクレオチド間の塩基の配列類似性をいい、比較対象の塩基配列の領域にわたって、最適な状態にアライメントされた2つの塩基配列を比較することで決定される。配列相同性は、2つの塩基配列の同一の位置に存在する同一の塩基数を決定し、この数の、比較対象領域内の塩基総数に対する比として算出される。最適なアライメント及び配列相同性を得るためのアルゴリズムは、当技術分野で公知であり、例えばblastn等が挙げられる。
【0022】
本発明において、遺伝子に関して「相同性を有する」とは、配列番号1、3、5、7若しくは9に示される塩基配列と50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を有することを意味する。
【0023】
そのような変異又は相同遺伝子としては、例えばマイタケHSP9遺伝子(配列番号1)に対して高い相同性を有する、ブナシメジHSP9遺伝子(配列番号15)、エリンギHSP9遺伝子(配列番号17)、シイタケHSP9遺伝子(配列番号19)又はヒラタケHSP9遺伝子(配列番号21)が挙げられる。また、マイタケcerato-platanin-like protein 1遺伝子(配列番号3)に対して高い相同性を有するブナシメジ cerato-platanin-like protein 1 遺伝子(配列番号23)、シイタケ cerato-platanin-like protein 1 遺伝子(配列番号25)、エリンギ cerato-platanin-like protein 1 遺伝子(配列番号27)又はマツタケ cerato-platanin-like protein 1 遺伝子(配列番号29)が挙げられる。
【0024】
変異又は相同遺伝子が目的の機能又は活性を有しているか否か、すなわちキノコの栽培期間を決定するマーカーとして使用することができるか否かは、当業者であれば適宜確認することができる。例えば、任意の種のキノコにおいて、対象の遺伝子の発現及び/又は発現パターンを検出し、優良な子実体の形状が得られるキノコの栽培期間とその発現量とに相関があるか否かを確認することによって評価することができる。具体的な方法は、実施例に記載された方法を用いることができる。
【0025】
上記マーカー遺伝子によりコードされるタンパク質は、配列番号2(配列番号1に対応する)、配列番号4(配列番号3に対応する)、配列番号6(配列番号5に対応する)、配列番号8(配列番号7に対応する)、配列番号10(配列番号9に対応する)、配列番号16(配列番号15に対応する)、配列番号18(配列番号17に対応する)、配列番号20(配列番号19に対応する)、配列番号22(配列番号21に対応する)、配列番号24(配列番号23に対応する)、配列番号26(配列番号25に対応する)、配列番号28(配列番号27に対応する)、又は配列番号30(配列番号29に対応する)に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0026】
タンパク質のアミノ酸配列も、種間及び種内において変異を含むものであるため、本発明では、上記アミノ酸配列を有するタンパク質と同等の活性又は機能を有する限り、当該アミノ酸配列において複数個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に置換、欠失、挿入、付加等の変異が生じてもよい。同等の活性又は機能は、その活性又は機能の性質に応じて、当技術分野で公知の方法により確認することができる。例えば、配列番号2、4、6、8、10、16、18、20、22、24、26、28若しくは30に示されるアミノ酸配列の1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号2、4、6、8、10、16、18、20、22、24、26、28若しくは30に示されるアミノ酸配列に1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号2、4、6、8、10、16、18、20、22、24、26、28若しくは30に示されるアミノ酸配列の1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものも、本発明において使用することができる。特に、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1若しくは2個のアミノ酸に変異を有するタンパク質は、上記アミノ酸配列を有するタンパク質と同等の活性又は機能を保持する蓋然性が高い。
【0027】
また、上記アミノ酸配列に対し高い相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質も、本発明において使用することができる。タンパク質に関して「相同性」とは、2つのタンパク質間の残基の配列類似性をいい、比較対象のアミノ酸配列の領域にわたって、最適な状態にアライメントされた2つのアミノ酸配列を比較することで決定される。配列相同性は、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムであるblastp等を用いて2つのアミノ酸配列をアライメントさせた場合の、最適なアライメントにおける、オーバーラップする全アミノ酸に対する、同一アミノ酸残基の割合(%)として算出される。
【0028】
本発明において、タンパク質に関して「相同性を有する」とは、配列番号2、4、6、8若しくは10に示されるアミノ酸配列と40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、また好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有することを意味する。
【0029】
例えば、マイタケHSP9遺伝子(配列番号1)の相同遺伝子及び相同タンパク質は、エリンギ、ブナシメジ、シイタケ、及びヒラタケにおいて存在することがわかっており(図4及び5)、これらの相同遺伝子の塩基配列及び相同タンパク質のアミノ酸配列は変異を有するものの、同等の機能又は活性を示すことが予想される(後述する実施例3参照)。
【0030】
具体的な相同タンパク質としては、例えばマイタケHSP9タンパク質(配列番号2)に対して高い相同性を有する、ブナシメジHSP9タンパク質(配列番号16)、エリンギHSP9タンパク質(配列番号18)、シイタケHSP9タンパク質(配列番号20)又はヒラタケHSP9タンパク質(配列番号22)が挙げられる。また、マイタケcerato-platanin-like protein 1タンパク質(配列番号4)に対して高い相同性を有するブナシメジ cerato-platanin-like protein 1 タンパク質(配列番号24)、シイタケ cerato-platanin-like protein 1 タンパク質(配列番号26)、エリンギ cerato-platanin-like protein 1 タンパク質(配列番号28)又はマツタケ cerato-platanin-like protein 1 タンパク質(配列番号30)が挙げられる。
【0031】
本発明においては、キノコ試料において、上記のマーカー遺伝子の発現量及び/又は発現パターンを検出する。マーカー遺伝子の発現量及び/又は発現パターンを検出する手段としては、遺伝子に基づいて設計されたプローブDNA又はプライマーDNA、あるいは遺伝子によりコードされるタンパク質に対する抗体が挙げられる。以下、これらの手段について詳述する。
【0032】
本発明においては、マーカー遺伝子のDNAの全部若しくは一部の配列又はその相補配列を含むプライマーDNA又はプローブDNAを用いて、マーカー遺伝子の発現量及び/又は発現パターンを検出することができる。具体的には、該プライマーDNA又はプローブDNAは、キノコ試料において発現している遺伝子のmRNA又は該mRNAに対応するcDNAと特異的に結合することができるため、その結合に基づいてキノコ試料におけるマーカー遺伝子の発現を検出することが可能である。
【0033】
プライマーDNA及びプローブDNAは、マーカー遺伝子の塩基配列に基づいて、公知のプログラムにより容易に設計することができる。プライマーとして実質的な機能を有するDNAの長さとしては、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは15〜50塩基であり、さらに好ましくは15〜30塩基、20〜30塩基である。またプローブとして実質的な機能を有するDNAの長さとしては、20塩基以上が好ましく、さらに好ましくは30〜60塩基であり、さらに好ましくは50〜60塩基である。
【0034】
従って、プライマーDNA又はプローブDNAは、例えば、配列番号1、3、5、7若しくは9、又は配列番号15、17、19若しくは21、又は配列番号23、25、27若しくは29に示される塩基配列又はそれに対して相補的な配列の少なくとも10塩基、好ましくは少なくとも15塩基からなるものとすることができる。本発明において用いることができる具体的なプライマーDNAとしては、例えば限定されるものではないが、HSP9遺伝子(配列番号1)を検出するために配列番号11及び12に示される塩基配列を有するプライマーが挙げられる。
【0035】
上述のように設計したプライマーDNA及びプローブDNAは、当業者に公知の方法に従って調製することができる。さらに、当業者には周知のように、プライマーDNA又はプローブDNAには、アニーリング又はハイブリダイズする部分以外の配列、例えばタグ配列などの付加配列が含まれていてもよく、上述したプライマーDNA又はプローブDNAにそのような付加配列が付加されたものも本発明において用いることができる。
【0036】
キノコ試料におけるマーカー遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを検出するためには、上記プライマーDNA及び/又はプローブDNAをそれぞれ増幅反応又はハイブリダイゼーション反応において用い、その増幅産物又はハイブリッド産物を検出する。
【0037】
増幅反応又はハイブリダイゼーション反応を行う場合には、通常は、キノコ試料からmRNA又は該mRNAに対応するcDNAを調製する。mRNA及びcDNAは、当技術分野で周知の方法を適宜使用して抽出することができる。例えば、RNAを抽出する場合には、グアニジン-塩化セシウム超遠心法、ホットフェノール法、又はチオシアン酸グアジニウム-フェノール-クロロホルム(AGPC)法などを利用することができる。cDNAは、公知の逆転写酵素を利用して調製することができる。以上のように調製したキノコ試料を用いて、以下に示す増幅反応及び/又はハイブリダイゼーション反応を行う。
【0038】
1つの方法では、プライマーDNAを用いてmRNA又はcDNAを鋳型とした増幅反応を行い、その特異的増幅反応を検出することにより、キノコ試料におけるマーカー遺伝子の発現の検出を行うことができる。増幅手法としては、特に限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の原理を利用した公知の方法を挙げることができる。増幅は、増幅産物が検出可能なレベルになるまで行う。PCRの最適条件は、当業者であれば容易に決定することができる。またRT-PCR法では、まず、mRNAを鋳型として、逆転写酵素反応によりcDNAを作製し、その後、作製したcDNAを鋳型として一対のプライマーを用いてPCR法を行う。なお、増幅手法として競合PCR法やリアルタイムPCR法等の定量的PCR法などを採用することにより、定量的な検出が可能となる。
【0039】
上記増幅反応後に特異的な増幅反応が起こったか否かを検出するには、増幅反応により得られる増幅産物を特異的に認識することができる公知の手段を用いることができる。例えば、アガロースゲル電気泳動法等を利用して、特定のサイズの増幅断片が増幅されているか否かを確認することにより、特異的な増幅反応を検出することができる。
【0040】
あるいは、増幅反応の過程で取り込まれるdNTPに、放射性同位体、蛍光物質、発光物質などの標識体を作用させ、この標識体を検出することができる。放射性同位体としては、32P、125I、35Sなどを用いることができる。また蛍光物質としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、スルホローダミン(SR)、テトラメチルローダミン(TRITC)などを用いることができる。また発光物質としてはルシフェリンなどを用いることができる。これら標識体の種類や標識体の導入方法等に関しては、特に制限されることはなく、従来公知の各種手段を用いることができる。例えば標識体の導入方法としては、放射性同位体を用いるランダムプライム法が挙げられる。
【0041】
さらに、増幅産物に結合するサイバーグリーン(例えばSYBR Green I)などの標識体を利用して、標識体と結合した増幅産物を検出することができる。
【0042】
標識体を取り込んだ増幅産物を観察する方法としては、上述した標識体を検出するための当技術分野で公知の方法であればいずれの方法でもよい。例えば、標識体として放射性同位体を用いた場合には、放射活性を、例えば液体シンチレーションカウンター、γ-カウンターなどにより計測することができる。また標識体として蛍光を用いた場合には、その蛍光を蛍光顕微鏡、蛍光プレートリーダーなどを用いて検出することができる。
【0043】
以上のようにして特異的な増幅反応が検出された場合には、キノコ試料において目的のマーカー遺伝子が発現していることとなる。
【0044】
あるいは、上述のように増幅反応を行って得られる増幅産物の配列を決定(シークエンシング)することにより、キノコ試料において目的のマーカー遺伝子が発現していることを確認することも可能である。
【0045】
本発明において、キノコ試料中のマーカー遺伝子は、当技術分野で公知の方法により配列決定することができる。そのための実験手法として、例えば、Sambrookら, Molecular Cloning A Laboratory Mannual (1989) Cold Spring HarborLaboratory Press等に開示される手法を利用することができる。具体的には、例えば、キノコの組織又は菌糸体から抽出・精製した全RNAから、M-MLV Reverse Transcriptase等の逆転写酵素とOligo dTプライマー等を用いてcDNAに変換する。cDNAから、配列番号1、3、5、7若しくは9、又は配列番号15、17、19若しくは21、又は配列番号23、25、27若しくは29のいずれかに示される塩基配列の少なくとも一部にハイブリダイズするセンス鎖とアンチセンス鎖プライマーを設計し、これらのプライマーによって挟まれる領域をPCR法によって増幅する。増幅された塩基配列は、サンガー法等の公知の配列決定方法によって決定される。また、全RNAからcDNAを合成し、ライブラリーを作製する。このライブラリーをパイロシークエンシング等の高速シークエンシングによって、網羅的に塩基配列決定してもよい。
【0046】
また別の方法では、プローブDNAを用いてキノコ試料に対するハイブリダイゼーション反応を行い、その特異的結合(ハイブリッド)を検出することにより、マーカー遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを検出することもできる。
【0047】
ハイブリダイゼーション反応は、プローブDNAがマーカー遺伝子に由来するmRNA又はcDNAのみと特異的に結合するような条件、すなわちストリンジェントな条件下で行う必要がある。
【0048】
ハイブリダイゼーションを行う場合には、プローブDNAに蛍光標識(フルオレセイン、ローダミンなど)、放射性標識(32Pなど)、ビオチン標識等の適当な標識を付加することができる。従って、本発明においては、好ましくは、標識を付加したプローブを用いる。
【0049】
標識化プローブDNAを用いた検出は、キノコ試料又はそれから調製したmRNA若しくはcDNAとプローブDNAとをハイブリダイズ可能なように接触させることを含む。「ハイブリダイズ可能なように」とは、上述したストリンジェントな条件下にて特異的な結合が起こる環境(温度、塩濃度)において、ということである。具体的には、キノコ試料又はmRNA若しくはcDNAをスライドグラス、メンブラン、マイクロアレイ、マイクロタイタープレート等の適当な固相に固定化し、標識を付加したプローブDNAを添加することにより、あるいは標識化プローブDNAを適当な固相に固定化し、キノコ試料又はmRNA若しくはcDNAを添加することにより、プローブDNAとキノコ試料又はmRNA若しくはcDNAとを接触させてハイブリダイゼーション反応を行い、ハイブリダイズしなかったプローブDNA又はキノコ試料等を除去した後、キノコ試料又はmRNA若しくはcDNAとハイブリダイズしているプローブDNAの標識を検出する。標識が検出された場合には、キノコ試料において目的のマーカー遺伝子が発現していることとなる。
【0050】
また、標識の濃度を指標とすることにより、定量的な検出も可能となる。標識化プローブDNAを用いた検出方法の例としては、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等を挙げることができる。
【0051】
別の実施形態において、マーカー遺伝子によりコードされるタンパク質の発現量及び/又はその発現パターンを指標としても、キノコ菌糸体の最適栽培期間を判定することができる。例えば、キノコにおいて発現された、検出対象のマーカー遺伝子によりコードされるタンパク質は、該タンパク質に対する抗体と結合することができるため、そのような抗体を用いてキノコ試料におけるタンパク質との反応を検出することによって、キノコ試料におけるマーカー遺伝子の発現量及び/又は発現パターンを検出することができる。
【0052】
マーカー遺伝子によりコードされるタンパク質に対する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり、完全な分子、及びFab、F(ab’)2、Fvフラグメント等が含まれる。このような抗体は、例えばポリクローナル抗体の場合には、マーカー遺伝子によりコードされるタンパク質やその一部断片を免疫原として動物を免疫した後、血清から得ることができる。あるいは、該タンパク質又はその断片を発現する真核細胞用発現ベクターを注射や遺伝子銃によって、動物の筋肉や皮膚に導入した後、血清を採取することによって作製することができる。動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ニワトリなどが用いられる。また、モノクローナル抗体は、公知のモノクローナル抗体作製法(「単クローン抗体」、長宗香明、寺田弘共著、廣川書店、1990年; "Monoclonal Antibody" JamesW. Goding, third edition, Academic Press, 1996)に従い作製することができる。
【0053】
抗体を作製するために使用するタンパク質又はその一部断片も、当技術分野で公知の方法、例えば化学合成法及び組換え手法を用いて、作製することができる。
【0054】
また抗体には、標識物質によって標識化された抗体も含まれる。そのような標識化抗体に使用する標識としては、酵素、放射性同位体又は蛍光色素を使用することができる。酵素は、代謝回転数が大きいこと、抗体と結合させても安定であること、基質を特異的に着色させる等の条件を満たすものであれば特段の制限はなく、通常の酵素イムノアッセイ(EIA)に用いられる酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース-6-リン酸化脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素等を用いることもできる。また、酵素阻害物質や補酵素等を用いることもできる。これら酵素と抗体との結合は、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる公知の方法によって行うことができる。基質としては、使用する酵素の種類に応じて公知の物質を使用することができる。例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジシンを、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトロフェノール等を用いることができる。
【0055】
酵素を用いる場合には、酵素作用によって分解して発色する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定することによって酵素活性を求め、これを結合抗体量に換算し、標準値との比較から抗体量が算出される。
【0056】
放射性同位体としては、125Iや3H等の通常のラジオイムノアッセイ(RIA)で用いられているものを使用することができる。放射性同位体を用いる場合には、放射性同位体の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により測定する。
【0057】
蛍光色素としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等の通常の蛍光抗体法に用いられるものを使用することができる。蛍光色素を用いる場合には、蛍光光度計や蛍光顕微鏡を組み合わせた測定装置によって蛍光量を測定すればよい。
【0058】
抗体を用いてキノコ試料におけるマーカー遺伝子の発現量及び/又は発現パターンを検出する場合には、キノコ試料中に、検出対象のマーカー遺伝子によりコードされるタンパク質が存在するか否かを試験する。また、キノコ試料としては、マーカー遺伝子によりコードされるタンパク質が発現される試料であれば特に限定されるものではなく、キノコの破砕物、抽出物などを対象とすることができる。
【0059】
抗体を用いてマーカー遺伝子の発現を検出する方法の1つは、抗体とキノコ試料中のタンパク質との結合を固相系において試験する方法である。この固相系における方法は、極微量のタンパク質の検出と操作の簡便化のため好ましい方法である。すなわちこの固相系の方法は、抗体(一次抗体)を固相(樹脂プレート、メンブレン、ビーズ等)に固定化し、この固定化抗体にキノコ試料中のタンパク質を結合させ、非結合タンパク質を洗浄除去した後、プレート上に残った抗体+タンパク質結合体に標識化抗体(二次抗体)を結合させ、この二次抗体のシグナルを検出する方法である。この方法は、いわゆる「サンドイッチ法」と呼ばれる方法であり、マーカーとして酵素を用いる場合には、「ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)」として広く用いられている方法である。また、キノコ試料を電気泳動に供し、分離したタンパク質をメンブレンに転写した後、抗体と反応させる、ウエスタンブロッティングを行うことも可能である。
【0060】
また別の方法は、抗体とタンパク質との結合を液相系において行う方法である。例えば、標識化抗体とキノコ試料とを接触させて標識化抗体とキノコ試料中に含まれるタンパク質を結合させ、この結合体を上記と同様の方法で分離し、標識シグナルを同様の方法で検出する。
【0061】
液相系の別の方法は、抗体(一次抗体)とキノコ試料とを接触させて一次抗体とキノコ試料中に含まれるタンパク質を結合させ、この結合体に標識化抗体(二次抗体)を結合させ、この三者の結合体における標識シグナルを検出する。あるいは、さらにシグナルを増強させるために、非標識の二次抗体を先ず抗体+タンパク質結合体に結合させ、この二次抗体に標識物質を結合させるようにしてもよい。このような二次抗体への標識物質の結合は、例えば二次抗体をビオチン化し、標識物質をアビジン化しておくことによって行うことができる。あるいは、二次抗体の一部領域(例えば、Fc領域)を認識する抗体(三次抗体)を標識し、この三次抗体を二次抗体に結合させるようにしてもよい。液相からの結合体の分離は上記と同様とすることができる。
【0062】
反応後のシグナルの検出は、例えば、ウエスタンブロット分析を採用することができる。あるいは、タンパク質+抗体+標識化抗体の結合体を、公知の分離手段(クロマト法、塩析法、アルコール沈殿法、酵素法、固相法等)によって分離し、標識化抗体のシグナルを検出するようにしてもよい。
【0063】
あるいは、免疫組織化学染色法(例えば免疫染色法)又は免疫電顕法のように、遺伝子発現のin situ検出のために、抗体を組織学的に用いることも可能である。in situ検出は、キノコ試料を切除し(組織のパラフィン包埋切片など)、それに標識した抗体を接触させることにより実施しうる。
【0064】
以上のようにして、キノコ試料におけるマーカー遺伝子の発現を検出し、マーカー遺伝子の発現量及び/又は発現パターンを決定する。続いて、対象のキノコにおけるマーカー遺伝子の発現量及び/又は発現パターンを、参照のマーカー遺伝子発現量及び/又は発現パターンと比較する。参照のマーカー遺伝子発現量及び/又は発現パターンは、培養初期の菌糸体や、培養完了時の菌糸体から得られる。具体的な判定基準は、そのような参照(培養初期)のマーカー遺伝子発現量と比較して、10%以上、好ましくは30%以上変化している場合、あるいは参照のマーカー遺伝子の発現パターンと比較して、異なる発現パターンを示す場合である。
【0065】
本発明者らは、後述する実施例に示されるように、マイクロアレイ解析及び定量リアルタイムPCRにより、キノコ栽培工程中のマーカー遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを栽培期間で比較することによって、優良な子実体を得られる栽培期間を決定できることを確認している。
【0066】
従って、本発明は、キノコ栽培工程中のマーカー遺伝子を指標として、このマーカー遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンの差異に基づき、優良な子実体を得られる栽培期間を明らかにすることができる。そのため、本発明の方法により、目視判断のような栽培者の経験に頼ることなく、簡便かつ正確に最適栽培期間を決定することが可能となる。
【0067】
例えば、培養初期のマーカー遺伝子の発現量(参照)と比較して、キノコ試料におけるマーカー遺伝子の発現が10%以上、好ましくは30%以上増大している場合、あるいは培養完了時のマーカー遺伝子の発現量(参照)と比較して、キノコ試料におけるマーカー遺伝子の発現が同等(すなわち参照の80%〜120%程度)であるか又は増大している場合には、菌糸体の培養期間が最適であると判定し、その後の操作、例えば子実体の誘導を行うことができる。このように最適栽培期間を経て子実体の誘導を行うと、優良なキノコ子実体、すなわち期待する収量となる子実体を得ることができる。
【0068】
従って、本発明は、キノコの製造方法も提供するものであり、具体的には、キノコ試料において少なくとも1種のマーカー遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを取得し、該発現量及び/又は発現パターンに基づいて該キノコ試料の栽培期間が最適であるかを判定し、該キノコ試料から子実体を誘導する工程を含む。
【0069】
また本発明は、マーカー遺伝子又は該遺伝子によりコードされるタンパク質の発現量及び/又は発現パターンを検出するための手段を含むことを特徴とするキノコの栽培期間決定用キットに関する。このようなキットには、マーカー遺伝子の発現を検出するための手段(プライマーDNA、プローブDNA、抗体など)のほか、遺伝子発現を検出するために使用される、当技術分野で公知の各種成分(例えばバッファー、サンプル処理用試薬、標識化抗体など)が含まれてもよい。
【0070】
本発明のキットを用いることによって、上述したキノコの栽培期間決定方法及びキノコの製造方法を容易かつ簡便に行うことができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。この実施例の記載により、本発明の範囲が限定されるものではない。なお、実施例で言及されている市販試薬は、特に示さない限りは製造者の使用説明に従い使用した。
【0072】
[実施例1]定量PCRによる分子マーカーの発現パターンの確認
マイタケ栽培において、子実体を作らせるために菌糸体を増やす培養期間(以下、「菌糸体培養期間」という)がある。本実施例では、種菌を接種してから培養20日目、30日目、40日目、50日目、60日目及び70日目から菌糸体を得て、ただちに液体窒素で凍結した。
【0073】
凍結した菌糸体を液体窒素下で乳鉢と乳棒を用いて摩砕して、これを出発材料として、RNeasy Plant Mini kit(Qiagen)を用いて全RNAを抽出した。得られた全RNAはNano Drop(Thermo)と2100 Bioanalyzer(Agilent)を用いて濃度及び純度を検定した。cDNAインハウスデータベースを用いて、マイタケHSP9遺伝子の塩基配列を得た(配列番号1)。次いで特異的なPCRプライマーをコンピューターソフトウェアPrimer3(http://frodo.wi.mit.edu/primer3/)を用いて設計した。設計したプライマー配列を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
抽出した全RNAからTURBO DNA-freeTM Kit(ABI)を用いて混入するゲノムDNAを除去した後、PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit(TaKaRa)を用いてcDNAを合成した。リアルタイム定量PCRはTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(TOYOBO)を用いて、Chromo 4(Bio-Rad)にてPCR反応を行った。リアルタイム定量PCRは、95℃で1分間の初期熱変性の後、95℃で15秒間、60℃で30秒間、蛍光検出の条件を1サイクルとして40サイクルを行った。
【0076】
遺伝子の発現量は、いずれのステージにおいても一定量構成的に発現しているGAPDH遺伝子の発現量で補正した。GAPDH遺伝子を増幅するプライマー配列として、caaccttgac gaatacgact c(配列番号13)及びcctcgacgat accgaagttg(配列番号14)を用いた。発現量の相対比率はΔΔCt法(Livak KJ, and Schmittgen TD. Analysis of relative gene expression data using real-timequantitative PCR andthe 2ΔΔCT method. Methods 2001, 25(4):402-8)を用いて算出した。
【0077】
その結果を図1に示す。図1で示される線グラフは、菌糸体培養期間に応じたHSP9遺伝子の発現パターン(培養20日を1としたときの相対発現差)を示す。この結果から、菌糸体培養期間に応じてHSP9遺伝子の発現量が変化することがわかる。
【0078】
[実施例2]異なる培養期間における子実体発生への影響
培養20日目、30日目、40日目、50日目、60日目、70日目でそれぞれ菌糸体の培養を止め、子実体の発生を行った。その結果、図2に示すように、20日目及び30日目では子実体の発生は著しく悪く、40日目及び50日目で良好ではなく、60日目及び70日目で良好となった。そのときの子実体の収率(%)を最大培養日数69日目のときの収量(重量)を100%として図3にグラフとして示す。
【0079】
以上の実施例1及び実施例2の結果から、菌糸体培養期間中にHSP9の発現が最大値となった以降をマイタケの最適な培養期間とすることができる。HSP9の発現量が最大となったときの収率は、培養初期と比較しておおよそ460%増大となる。このHSP9遺伝子の培養中の発現量及び/又は発現パターンと子実体の表現型とが強く相関しており、従って、HSP9遺伝子は良好な子実体を得ることができる培養期間(すなわち栽培期間)の決定を目的とする分子マーカーとして好適である。
【0080】
[実施例3]エリンギ及びブナシメジHSP9遺伝子での定量PCRによる確認
実施例1に記載した方法と同様にして、エリンギ及びブナシメジHSP9遺伝子を全栽培工程で発現パターンを取得した。
【0081】
その結果を図4A〜Cに示す。図4AはマイタケHSP9遺伝子の栽培工程全体での発現量変化を示すグラフ、図4BはエリンギHSP9遺伝子の栽培工程全体での発現量変化を示すグラフ、図4CはブナシメジHSP9の栽培工程全体での発現量変化を示すグラフである。なお、グラフは、培養前期における発現を1としたときの各培養時期における相対発現差を表す。マイタケHSP9遺伝子は、培養(栽培)時間の経過と共に発現量が急増する。エリンギ及びブナシメジのHSP9遺伝子についてもマイタケと同様の発現パターンを示した。これらの結果から、いずれの種のHSP9遺伝子についても同じ発現量変化を起こすことが判明した。
【0082】
HSP9遺伝子は、様々なキノコ種において存在することがわかっており、HSP9遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列をフリーソフトウェアClustalWでアライメントし、BOXSHADEで配列整形した結果を図5に示す。図5において、G.frondosaはマイタケ由来、H.marmoreusはブナシメジ由来、P.eryngiiはエリンギ由来、L.edodesはシイタケ由来、P.ostreatusはヒラタケ由来の遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を表す。
【0083】
よって、この分子マーカー及びその相同遺伝子はどのようなキノコ種であっても同様の機能を持つと考えられ、実施例1及び実施例2で示した良好な子実体を得ることができる栽培期間の決定を目的とする分子マーカーとして好適である。従って、遺伝子発現量又はその発現パターンを指標とした良好な子実体を得ることができる本発明の栽培期間決定方法を利用することにより、最適な栽培期間を決定することができる。
【0084】
[実施例4]マイクロアレイによる分子マーカーの発現パターンの確認
マイタケ栽培において、子実体の原基を作らせる期間(以下、「原基誘導期間」という)がある。原基誘導期間に原基を作らせた後に子実体を発生させる(子実体誘導)。原基誘導期間の1日目、3日目及び6日目から原基を得て、直ちに液体窒素で凍結した。
【0085】
凍結した菌糸体を液体窒素下で乳鉢と乳棒を用いて摩砕して、これを出発材料として、RNeasy Plant Mini kit(Qiagen)を用いて全RNAを抽出した。得られた全RNAはNano Drop(Thermo)と2100 Bioanalyzer(Agilent)を用いて濃度及び純度を検定した。検定された全RNAを用いてマイクロアレイによって発現量の測定を行った。
【0086】
その結果を図6A〜Dに示す。図6A〜Dにおいて、黒丸で示される線グラフはそれぞれcerato-platanin-like protein 1〜4遺伝子の発現量変化を示す。この結果から、マイタケが保有するcerato-platanin-like protein遺伝子が4種類とも同じ発現量変化を起こすことが判明した。また、この4種の遺伝子は子実体発生操作の前に最大発現量を示すことが判明した。なお、cerato-platanin-like protein 1〜4遺伝子は相同遺伝子であり、これらの遺伝子によりコードされるアミノ酸配列のアライメントを図7に示す。
【0087】
よって、この分子マーカーは子実体発生操作を行う時期の決定を目的とする分子マーカーとして好適である。従って、遺伝子発現量又はその発現パターンを指標とした良好な子実体を得ることができる本発明の栽培期間決定方法を利用することにより、最適な栽培期間を決定することができる。
【0088】
[実施例5]
マイタケcerato-platanin-like protein 1遺伝子について、その相同遺伝子をブナシメジ(Hm)、シイタケ(Le)、エリンギ(Pe)及びマツタケ(Tm)で検索した。
その結果を図8に示す。図8の結果からいずれの菌種におけるcerato-platanin-like protein 1も相同性が高いことが判明した。
【0089】
よって、この分子マーカー及びその相同遺伝子はどのようなキノコ種であっても同様の機能を持つと考えられ、実施例4で示した良好な子実体を得ることができる栽培期間の決定を目的とする分子マーカーとして好適である。従って、遺伝子発現量又はその発現パターンを指標とした良好な子実体を得ることができる本発明の栽培期間判定方法を利用することにより、最適な栽培期間を決定することができる。
【0090】
配列情報
>マイタケHSP9遺伝子
ATGGCTGACGCTGGCAGACAATCCTTCACCGACAAGATGTCCTCCTCCATGAAGCCCGACACCCAGAAGTCGATGACCGAGTCCATGGGCGACAAGATGAAGGGGATGGGCGACAGCGTGGCGTCCACCCTCCAGCCTGAGAGCCAGAAGTCCACCACCCAGCAGGTTGGTGATTCGATGAGCGGCAACTCGAACGAGAACCAGGACTCGATGATGAACAAGATGAAGAACGCTGTCGGCATGGGCGACAAC(配列番号1)

>マイタケHSP9タンパク質
MADAGRQSFTDKMSSSMKPDTQKSMTESMGDKMKGMGDSVASTLQPESQKSTTQQVGDSMSGNSNENQDSMMNKMKNAVGMGDN(配列番号2)

>マイタケ cerato-platanin-like protein 1 遺伝子
ATGAGATTTTTCGCCGTCCTCGCTTCCTTGCTGTGTGCCGCGCCCGCCGTGTTCAGCGCGCCAACCGCGG
CGCTCAGCGCGCGGAGCGCGGTGCAGACGTTGCAAGTGACGTACGACCAGACGTACGACGTGGCGTCGAA
CTCGCTGGACATCGTCGCGTGCTCTAACGGCGTGAACGGGCTCCTCGCCAAGGGATTCACGACTTTCGGG
TCGCTCCCCGACTTCCCATTCATCGGCGGTGCACAGGCCGTCGAAGGCTGGAATTCGCCGAACTGCGGCA
CCTGCTGGCAGCTGCAGTACGGGAACACGACGATCAATGTGCTGGCGATCGACCATGCCGGATCGGGCTT
CAACATTGGGCTCGATGCGATGAACAAGCTCACGAACAACCAGGCCGTGGACCTAGGCGTCGTGGAGGTC
GTCTCCGTGCGGACCGCTGAGTCAGTGTGCGGGCTGCATTGA(配列番号3)

>マイタケ cerato-platanin-like protein 1 タンパク質
MRFFAVLASLLCAAPAVFSAPTAALSARSAVQTLQVTYDQTYDVASNSLDIVACSNGVNGLLAKGFTTFG
SLPDFPFIGGAQAVEGWNSPNCGTCWQLQYGNTTINVLAIDHAGSGFNIGLDAMNKLTNNQAVDLGVVEV
VSVRTAESVCGLH(配列番号4)

>マイタケ cerato-platanin-like protein 2 遺伝子
ATGAGATTTTTCGCCGTCCTCGCTTCCTTGCTGTGTGCCGCGCCCGCCGTGCTCAGCGCGCCGACTGCGG
CATCGACGGTGCAGGTGACGTACGACCAGACGTACGACGTGGCTTCGAACTCGTTGGCCATCGTCGCGTG
CTCTAACGGCGCGAACGGGCTCCTCACCAAGGGTGCGTGCGCTCTACAAGTTTCCTGACCCCGTTCATTG
CTGACGCGCACGCCGTAACGCAGGATTCACTACCTTCGGGTCGCTCCCCGACTTCCCGTTCATCGGCGGT
GCACAGGCCGTCGCAGGTATGCCGAAACCGAAGCCGCCACGCGCACGCACACACGCTGACGCCACtTTTT
TTTTGTAGGCTGGAACTCGCCGAACTGCGGCACCTGCTGGCAGCTGCAGTACGGGAACACGACGATCAAT
GTGTTGGCGGTCGACCATGCCGGATCGGGCTTCAACATTGGGCTCGATGCGATGAACAAGCTCACGAACA
ACCACGCCGTGGAGCTGGGCGTCGTGCAGGTCGCCTCCAAGCAGGTCGCTGCGTCGGTGTGCGGGCTGTG
A(配列番号5)

>マイタケ cerato-platanin-like protein 2 タンパク質
MRFFAVLASLLCAAPAVLSAPTAASTVQVTYDQTYDVASNSLAIVACSNGANGLLTKGFTTFGSLPDFPF
IGGAQAVAGWNSPNCGTCWQLQYGNTTINVLAVDHAGSGFNIGLDAMNKLTNNHAVELGVVQVASKQVAA
SVCGL(配列番号6)

>マイタケ cerato-platanin-like protein 3 遺伝子
ATGCAGTTCAAGACGCTTCTTTTTTCCACCGTCGCCCTCTTCCTCTCCACCGCATTCGCTCAAACTACTG
TCAGCGTCTCCTACGATCAAACATACGACACCGCCTCCACGTCCCTCGCCGAAGTTGCTTGCTCCGACGG
CCCTAACGGGCTGCTTTCCAAGGGCTTCACGACTTTCGGGTCTCTCCCGGACTTCCCGTTCATCGGCGGT
GCCCAAGCCGTTGCGGGATTCGACTCCCCGAACTGTGGGACATGCTGGACGTTGAGCTTCAACGGCAATA
GCATCCACGTGCTCGCGATCGACACAACTGCAAACGGGTTCAACATTGCATTGGAAGCGATGAATGTGTT
GACGGACAACCAGGGGGTGTTCTTGGGCAGGGTGAATGCCACGGCAGAGCAGACTACTGCTGCGACGTGT
GGGCTCTGACCGGTAGTGCCTATCTATTCTCCTGCATAAAGTGTCTCACTGATGTCGCTGTGTGATTGTA
GATGTTCCCTTCGTTCACTCGCACGGGGGCGGTTTAACGGTAGAGGCATGTTGTCAGGACTTTTCACGAC
TGGACCTTGGCAATGTTGTGCTGCGTCATCGCATACGGACTTTAATGATGAACGTCTGGACTAG(配列番号7)

>マイタケ cerato-platanin-like protein 3 タンパク質
MQFKTLLFSTVALFLSTAFAQTTVSVSYDQTYDTASTSLAEVACSDGPNGLLSKGFTTFGSLPDFPFIGG
AQAVAGFDSPNCGTCWTLSFNGNSIHVLAIDTTANGFNIALEAMNSRLLLRRVGSDRCSLRSLARGRFNG
RGMLSGLFTTGPWQCCAASSHTDFNDERLD(配列番号8)

>マイタケ cerato-platanin-like protein 4 遺伝子
ATGCAGTTCAAGGCTCTTCTCTTCTCCACCATCG
CCCTCTTCCTCCCCGCCGCATTCGCCCAAGTTATACCCGTCAGCGTATCCTACGATCAAGTATATGACGT
CGCCTCTACGCCTCTCACCGAAGTTGCTTGCTCCAACGGCCCTAACGGCATGCTCTCCAAGGGCTACACG
ACTTTCGGGACTCTCCCGATCTTCCCGTGGATTGGCGGTGCTCAGGCAATTACGGGATGGGACTCCCCGG
AGTGTGGGTCGTGCTGGACGTTGCGCTACGAAGGCAACAGCATAGACATCCTCGCGATCGACTACACTGC
AAACGGGTTCAACATCGCATTGTCGGCGATGAATCTGTTGACGAACAACCAGGCCGTGtTCTTAGGCAGG
GTGAATGCCACGGCGGAGCAGGTCGATGCCACTAATTGTGGAATCGGACTTTGA(配列番号9)

>マイタケ cerato-platanin-like protein 4 タンパク質
MQFKALLFSTIALFLPAAFAQVIPVSVSYDQVYDVASTPLTEVACSNGPNGMLSKGYTTFGTLPIFPWIG
GAQAITGWDSPECGSCWTLRYEGNSIDILAIDYTANGFNIALSAMNLLTNNQAVFLGRVNATAEQVDATN
CGIGL(配列番号10)

>ブナシメジHSP9遺伝子
ATGTCCGACACTGGCCGTCAATCTTTCACCGACAAAGCTGGCTCTGCTTTGAAGCCCGACTCTCAGAAGA
CTACCGTTGAACAAGCTGGTGACTACGTCAAGGGCACAGCGGATTCTGCCGCCTCGACTCTTACGCCTAG
CAGCGAAAAGTCCACAAGCCAGAAGGCTGGTGACACCGTGAGCGGTAGCCAGACCGAGGAATCTCTTCTT
GACAAAGCGAAGCACGCCGTCGGCATGGGCAAGTAA(配列番号15)

>ブナシメジHSP9タンパク質
MSDTGRQSFTDKAGSALKPDSQKTTVEQAGDYVKGTADSAASTLTPSSEKSTSQKAGDTVSGSQTEESLL
DKAKHAVGMGK(配列番号16)

>エリンギHSP9遺伝子
ATGTCTGACGCCGGACGCCAATCTTTCACCGACAAGGCTGGCGCTGCCATGAAGCCCGACTCGCAGAAGA
CCACCACCGAGTCCATGGGAGACTCTATCAAGGGCACGGCCGACTCCATCGCTTCCACCATGCAACCCAA
CAGCGAGAAATCGGCGGCCAGCGCATGGGTGACGCCGTGA(配列番号17)

>エリンギHSP9タンパク質
MSDAGRQSFTDKAGAAMKPDSQKTTTESMGDSIKGTADSIASTMQPNSEKSAASAWVTP(配列番号18)

>シイタケHSP9遺伝子
ATGTCTGACACTGGCCGCCAAAACTTCACTAACAAGGCTGCTGATGCTTTGAAGCCCGAGTCTGAAAAAT
CTACTTTCGAAAGTCTGGGCGACTCAGCTAAATCCACCGGTGACTCACTAGCTTCGACCCTTCAGCCAGA
GAGCCAGAAATCTACTACTCAAAAGGCCGGTGACGCCTTGAGCTCCAACTCGAACGGAACGAAGNCTCGT
TGTTGA(配列番号19)

>シイタケHSP9タンパク質
MSDTGRQNFTNKAADALKPESEKSTFESLGDSAKSTGDSLASTLQPESQKSTTQKAGDALSSNSNGTKXR
C(配列番号20)

>ヒラタケHSP9遺伝子
ATGTCTGACGCAGGACGCCAATCTTTCACCGACAAAGCTGGCGCTGCCATGAAGCCCGACTCGCAGA
AGACCACAACCGAGTCCATGGGTGACTCCATGAAGGGCATGGCCGACTCCGTCGCGTCTACCATGCA
ACCCAACAGCGAGAAATCAGGCGGTCAACGTATGGGCGACGCCATGAGCGGCAACTCTAACCACAAT
GATGTGCGTTGA(配列番号21)

>ヒラタケHSP9タンパク質
MSDAGRQSFTDKAGAAMKPDSQKTTTESMGDSMKGMADSVASTMQPNSEKSGGQRMGDAMSGNSNHNDVR
(配列番号22)

>ブナシメジ cerato-platanin-like protein 1 遺伝子
ATGAAGTTCTCCGCTTTACTTGCTCCCTTCGCCCTCTTCTCATCCGTCGCTCTGGCCGTGACCACCGCAT
ACGACCCAGTCTATGATAACCCCAACGGCTCTATGGCCAGCGTCGCATGCTCAAATGGAGCCAACGGCCT
CATCACTCGTGGCTACAACACCTTCGGTGCCCTCAGTAACTTCCCAAACATCGGAGGCGCCCAGGCCGTT
ACGGGCTGGAATTCGCCTAACTGCGGGACATGTTGGGAACTCACGTACACCAATTCGACGGGGGTCAAGA
AGACCATCAATATAGTCGCACTTGACGTTTCCACGAATGGATTCGTGCTTTCGCTGAAGGCAATGAACAC
GCTTACGAATAACAATGCTGTTCAATTCGGGCGTGTCGACGTAGCATCGAGGAAAGTTGCTGCGTCAGTT
TGTGGGCTGTGA(配列番号23)

>ブナシメジ cerato-platanin-like protein 1 タンパク質
MKFSALLAPFALFSSVALAVTTAYDPVYDNPNGSMASVACSNGANGLITRGYNTFGALSNFPNIGGAQAV
TGWNSPNCGTCWELTYTNSTGVKKTINIVALDVSTNGFVLSLKAMNTLTNNNAVQFGRVDVASRKVAASV
CGL(配列番号24)

>シイタケ cerato-platanin-like protein 1 遺伝子
ATGAAATTCTTCTCCCTCTTTGTCCCAGCTATTGTCGCTGCCTTCGTTGCCGCTGACACCCTCCAGTACG
ACCCCATCTACGACCAAGGAAGCGAGTCATTGGATGTCGTTGCCTGCTCCGATGGTGCCAATGGTCTTCT
GACCAAAGGATTTACCACATTCAACTCACTCCCCACTTTCCCCAACATTGGCGCTTTTGGTGCCGTGACT
GGATGGAATTCCCCCGAATGTGGCACATGCTGGCAAATCGTCTACACCAATTCGAACGGGGCTCAAACTA
CATTAAATGCTATTGCTGTTGATCATGCCGGTGCTGGCTTGATTAACCTTTCTGAGGAGGCCATGAATAC
TTTAACGAATGGAAATGCGGTTCAGTTCGGTGCTGTACCGGTGACTGCCACACAAGTGGCTAGTTCTGTG
TGTGGTTTGTGA(配列番号25)

>シイタケ cerato-platanin-like protein 1 タンパク質
MKFFSLFVPAIVAAFVAADTLQYDPIYDQGSESLDVVACSDGANGLLTKGFTTFNSLPTFPNIGAFGAVT
GWNSPECGTCWQIVYTNSNGAQTTLNAIAVDHAGAGLINLSEEAMNTLTNGNAVQFGAVPVTATQVASSV
CGL(配列番号26)

>エリンギ cerato-platanin-like protein 1 遺伝子
ATGATGATGTTCTTCTTCGCTGCCCTTGCCGCCCTCGCCGCGCCAGCTCTCTCCGTCTCGGTCACGTACG
ACCAGACGTACGACAACCGCCAAGGCTCCCTCTCCACCGTCGCGTGCTCCAACGGCATAAACGGCCTCCT
CACGCGCGGCTACAGGACCTTCGGCGACCTCCCCACCTTCCCTAATATCGGTGGTGCTTCGGCCGTCACA
GGCTGGAACTCCCCGAACTGCGGCACCTGCTGGGAGCTCACGTTCACCGACGAGAACAACGGGAAGAGGA
GGGTCAATGTGCTGGCAGTTGACTATGCTGCGAACGGATTCAATATCGGGTTGACGGCGATGAACCAGCT
GACGAATGGGCATGGCGTTGAATACGGTGTTGTGGATGTGGATGCCAAGCAAGTCGCTGCAACAGTTTGC
GGAATGCCCGCGAAGTAA(配列番号27)

>エリンギ cerato-platanin-like protein 1 タンパク質
MMMFFFAALAALAAPALSVSVTYDQTYDNRQGSLSTVACSNGINGLLTRGYRTFGDLPTFPNIGGASAVT
GWNSPNCGTCWELTFTDENNGKRRVNVLAVDYAANGFNIGLTAMNQLTNGHGVEYGVVDVDAKQVAATVC
GMPAK(配列番号28)

>マツタケ cerato-platanin-like protein 1 遺伝子
ATGAAGTTCTCTGCTCTTTTCGCtCCCCTCGCTCTCGCCTTGCTAGGCCCATACACAaCCCTCGCCGACG
aGGTATCCTATGATaCCGCATACGATAACAGTGCAGCGTCGCTTTCCACTGTGGCCTGCTCCGACGGAGC
TAACGGACTCATCACTCGTGGCTTCACAACTTTCGGCTCTCTCCCGGGTTTCCCAcACATTGGAGGAGCc
GCTGCtATTGCTGGGTGGAATTCACCAAGCTGtGGCACATGCTGGGCACTCACATACACAAATATGACCA
TCAATGTTTTAGCGATTGACGTTGCGAAaTATGGCTTCAATATCGCCcTGTCGGCAATGAATCACCTTAC
GAATGGAAATGCAGTACAATATGGGAGGATAAATGTGACGTCAACCAGTGTAGCTCCGTCGGTTTGTGGG
CTTTAA(配列番号29)

>マツタケ cerato-platanin-like protein 1 タンパク質
MKFSALFAPLALALLGPYTTLADEVSYDTAYDNSAASLSTVACSDGANGLITRGFTTFGSLPGFPHIGGA
AAIAGWNSPSCGTCWALTYTNMTINVLAIDVAKYGFNIALSAMNHLTNGNAVQYGRINVTSTSVAPSVCG
L(配列番号30)
【配列表フリーテキスト】
【0091】
配列番号19:核酸(n=A, T, G, C)
配列番号11〜14:人工配列(プライマー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを指標としてキノコの最適な栽培期間を決定する方法。
【請求項2】
HSP9遺伝子、cerato-platanin様タンパク質1遺伝子、cerato-platanin様タンパク質2遺伝子、cerato-platanin様タンパク質3遺伝子及びcerato-platanin様タンパク質4遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを指標とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
キノコの栽培期間が、菌糸体の培養期間、原基形成、又は子実体の生育期間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを、ハイブリダイゼーション、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又はシークエンシングによって検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを、該遺伝子によりコードされるタンパク質の発現量及び/又はその発現パターンにより検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質の発現量及び/又はその発現パターンを、該タンパク質に対する抗体を用いた、ウエスタンブロッティング、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ又はサンドイッチイムノアッセイによって検出することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
キノコが、マイタケ、エリンギ、ブナシメジ、シイタケ、ホンシメジ、ハタケシメジ、エノキタケ、ナメコ、ツクリタケ、ヒラタケ及びマツタケを含む食用キノコより選択されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
キノコ試料において、HSP9遺伝子、cerato-platanin様タンパク質1遺伝子、cerato-platanin様タンパク質2遺伝子、cerato-platanin様タンパク質3遺伝子及びcerato-platanin様タンパク質4遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを取得し、該発現量及び/又は発現パターンに基づいて該キノコ試料の栽培期間が最適であるかを判定し、該キノコ試料から子実体を誘導することを特徴とするキノコの製造方法。
【請求項9】
HSP9遺伝子、cerato-platanin様タンパク質1遺伝子、cerato-platanin様タンパク質2遺伝子、cerato-platanin様タンパク質3遺伝子及びcerato-platanin様タンパク質4遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子又は該遺伝子によりコードされるタンパク質の発現量及び/又はその発現パターンを検出するための手段を含むことを特徴とするキノコの栽培期間決定用キット。
【請求項10】
遺伝子の発現量及び/又はその発現パターンを検出するための手段がプライマー又はプローブであることを特徴とする請求項9に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−39056(P2013−39056A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176899(P2011−176899)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(593084915)株式会社雪国まいたけ (30)
【Fターム(参考)】