説明

キノリン−2(1H)−オンのフッ素化誘導体、同物質の調製法および合成中間体としてのこの使用

本発明は、キノリン(quinoleine)−2(1H)−オン(I)のフッ素化誘導体、同物質の調製法および7−フルオロ−2−オキソ−4−[2−[4−[チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル]ピペラジン−1−イル]エチル]−1、2−ジヒドロキノリン(quinoleine)−1−アセトアミドの合成における中間体としてのこの使用に関する。本発明は、医薬として許容できるこれらの塩にも関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノリン−2(1H)−オンの新規なフッ素誘導体、この調製法、および特に7−フルオロ−2−オキソ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]エチル]−1,2−ジヒドロキノリン−1−アセトアミドを合成するための合成中間体としてのこの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
以下「化合物(II)」と呼称される、7−フルオロ−2−オキソ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]エチル]−1,2−ジヒドロキノリン−1−アセトアミドは、欧州特許第0850235号に記載されている。
【0003】
この化合物は、治療的価値、特にセロトニンアンタゴニスト、より特に5HT1B受容体および5HT2A受容体アンタゴニストとして知られている。この化合物は、動脈、静脈、肺、門脈、腎臓または眼の高血圧症、心臓、腎臓、眼もしくは脳の虚血または下肢虚血、心不全、心筋梗塞、狭心症、冠状動脈または末梢血管けいれん、血栓症(単独でまたは血栓溶解に対する補助剤として)、動脈炎、間欠性跛行、血管形成術後の再狭窄、およびアテローム性動脈硬化症、微小循環障害または肺機能不全に付随する様々な病理状態など、セロトニンが関与する様々な病理形態の治療および予防に使用できる。この化合物は、血管移植手順において、単独でまたは他の物質と組み合わせて使用することもできる。
【0004】
欧州特許第0850235号に記載されているように、化合物(II)の調製法は、以下の通り:
1)洗浄および乾燥後、3−(アセチルオキシ)−5−[(3−フルオロフェニル)アミノ]−5−オキソペント−2−エン酸を得るための、周囲温度、純酢酸中での4−(アセチルオキシ)−2H,3H−ピラン−2,6−ジオンと3−フルオロアニリンとの反応、
2)4−(酢酸)−7−フルオロキノリン−2(1H)−オン(以下、化合物(III)と称す。)を得るための、濃硫酸などの無機酸の存在下における取得済み前記化合物の環化、
3)メチル−7−フルオロ−キノリン−2(1H)−オン4−アセテートを得るための、このようにして得られた前記酸のエステル化、
4)7−フルオロ−4−(2−ヒドロキシエチル)キノリン−2(1H)−オンを得るための、取得済み前記エステルの還元、
5)塩素化誘導体である4−(2−クロロエチル)−7−フルオロキノリン−2(1H)−オンを得るための、塩化チオニルとの反応によるこのアルコールの活性化、
6)7−フルオロ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]エチル]キノリン−2(1H)−オンを得るための、このようにして得られた前記塩素化化合物と4−(ピペラジン−1−イル)チエノ[3,2−c]ピリジン(以下、化合物(IV)と称す)との反応、
7)7−フルオロ−2−オキソ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]エチル]−1,2−ジヒドロキノリン−1−アセトアミド(以下、化合物(II)と称す)を生じる、水酸化カリウムおよびテトラブチル臭化アンモニウムの存在下における、このようにして得られた前記化合物とブロモアセトアミドとのテトラヒドロフラン中での反応
である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第0850235号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、新規の合成中間体を使用して、化合物(II)を合成する新規の方法を実現することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の主題は、式(I)
【0008】
【化1】

の化合物および医薬として許容できるこれらの塩である。
【0009】
実際に、式(I)の化合物は、塩基の形態で、または酸もしくは塩基、特に医薬として許容できる酸もしくは塩基で塩形成された形態で存在することができる。このような付加塩は、本発明の一部である。
【0010】
これらの塩は、医薬として許容できる酸で有利に調製されるが、例えば式(I)の化合物を精製または単離するために有用である他の酸の塩も、本発明の一部である。
【0011】
式(I)の化合物は、水和物または溶媒和物の形態、すなわち1つもしくは複数の水分子または溶媒との同伴または組合せの形態で存在することもできる。このような水和物または溶媒和物も、本発明の一部である。
【0012】
この化合物は、キノリン−2(1H)−オン誘導体の合成、特に欧州特許第0850235号に記載のように、以下の構造式を有する化合物(II)の合成のために特に有用である。
【0013】
【化2】

【0014】
欧州特許第0850235号に記載されている7段階法によれば、化合物(II)は、出発生成物、すなわち4−(アセチルオキシ)−2H,3H−ピラン−2,6−ジオンおよび3−フルオロアニリンから16%の最大化学収率で回収される。その上、7−フルオロ−4−(2−ヒドロキシエチル)キノリン−2(1H)−オンが塩素化(段階5)される上述の反応は、あまり選択的ではなく、以下に示す二塩素化副生化合物をモル量で25%まで形成する。
【0015】
【化3】

【0016】
したがって、段階数の減少を含み、所望化合物の充分な収率を提供する、化合物(II)の調製法の開発は、議論の余地のない利点となっている。
【0017】
今や、化合物(II)を合成するために、新しい反応中間体である、化合物(I)として知られている7−フルオロ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル]−2−オキソエチル]キノリン−2(1H)−オンを使用することが可能であることが発見された。中間体(I)を使用するこの新規な方法は、既知の従来方法と比較して段階数を減少させ、著しく改良した収率で化合物(II)を合成することを可能にする。
【0018】
本発明によれば、化合物(I)は、図1に従って合成することができる。
【0019】
【化4】

【0020】
化合物(I)は、塩化ピバロイル、塩化チオニル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸イソブチル、好ましくはカルボニルジイミダゾールなど、過剰に存在するカップリング剤の存在下で、テトラヒドロフラン(THF)、メチルテトラヒドロフラン、トルエン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン(NMF)またはジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性極性溶媒中、4−(酢酸)−7−フルオロキノリン−2(1H)−オン(III)と4−(ピペラジン−1−イル)チエノ[3,2−c]ピリジン(IV)とを反応させることにより、段階(i)で得ることができる。
【0021】
出発化合物(III)および(IV)は、市販されもしくは文献、特に欧州特許出願第0850235号に記載されており、または本明細書に記載されもしくは当業者に知られている方法に従って調製することができる。
【0022】
段階(ii)において、次いで、化合物(I)は、例えばテトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、トルエン中の水素化アルミニウムリチウムなどの極性溶媒もしくは非極性溶媒中の水素化アルカリ金属、テトラヒドロフラン中の水素化ホウ素亜鉛、TiClもしくはAlClなどのルイス酸の存在下の水素化ホウ素ナトリウムまたはボランを用いて、当業者に知られている条件に従い、好ましくはテトラヒドロフラン中の水素化アルミニウムリチウムを用いて還元される。欧州特許第0850235号に記載の化合物(II)の合成中に前述した7−フルオロ−4−[2−[4−[チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル]ピペラジン−1−イル]エチル]キノリン−2(1H)−オン(V)が得られる。
【0023】
段階(iii)において、次いで、この第2級アミンは、テトラヒドロフランなどの非プロトン性極性溶媒中の炭酸カリウム、ジメチルホルムアミド中の水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムなどの塩基の存在下で、また臭素化テトラブチルアンモニウムなどの相間移動触媒の存在下または非存在下で、求電子剤またはアルキル化剤、例えば、2−ブロモアセトアミドまたは2−クロロアセトアミド型のハロゲン化アルキル、好ましくは2−クロロアセトアミドなどの式ハロゲン−CH−CO−NHを使用して、アルキル化される。この合成化合物(II)が得られる。
【0024】
したがって、本発明による新規の方法によれば、化合物(V)は、2段階で4−(酢酸)−7−フルオロキノリン−2(1H)−オン(III)および4−(ピペラジン−1−イル)チエノ[3,2−c]ピリジン(IV)から得られ、収率は各段階でそれぞれ99.3%および64.6%,これらの二段階の収率は64%である。欧州特許第0850235号と比較して、化合物(V)は、化合物(III)から4段階で得られ、全収率は30.5%である。
【0025】
以下に述べる実施例は、本発明を制限すること無しに本発明を例示している。微量分析およびIR、NMRならびに質量スペクトルが、得られた化合物の構造を確認している。
【実施例】
【0026】
実施例1:化合物(I)の合成
1.出発生成物の合成
1.1.4−(ピペラジン−1−イル)チエノ[3,2−c]ピリジン(IV)
4−クロロチエノ[3,2−c]ピリジン1kg(1当量)、ピペラジン1.5kg(3当量)および1−ペンタノールまたはイソアミルアルコール8lを反応器に導入する。この混合物を5時間還流し、冷却し、形成した塩酸ピペラジンを濾過する。水2.4lを濾液に添加し、この混合物を濃塩酸で酸性にする。沈澱による分離後、この水性相を、30%水酸化ナトリウム2.3lと水2.6lの溶液で塩基性pHにし、次いでトルエン1.3lで2回抽出する。トルエン相を半分だけ濃縮し、メチルシクロヘキサン3.5lを添加する。この混合物を0℃に冷却し、濾過し、得られた生成物を50℃、真空下で乾燥する。化合物(IV)の淡黄色粉末が得られる。
収率:74%
分析:HPLC=99.2%
【0027】
1.2.4−(酢酸)−7−フルオロキノリン−2(1H)−オン(III)
欧州特許第0850235号に記載のように、4−(アセチルオキシ)−2H,3H−ピラン−2,6−ジオン62.32kg(366.3mol)を、純酢酸125l中の3−フルオロアニリン40.77kg(366.9mol)の攪拌溶液に、少しずつ添加する。この反応媒体を30℃で2時間攪拌し、放置して周囲温度に冷却し、脱塩水375lで希釈する。得られた固形物を回収し、スピンフィルター乾燥し、充分に水洗し、真空(40℃)下で48時間、オーブン内で乾燥する。
【0028】
粉末形態の3−(アセチルオキシ)−5−[(3−フルオロフェニル)アミノ]−5−オキソペント−2−エン酸67.38kgが得られる。
収率:65.4%
分析:融点=117℃
【0029】
3−(アセチルオキシ)5−[(3−フルオロフェニル)アミノ]−5−オキソペント−2−エン酸67.38kg(239.6mol)量を、15℃で強く攪拌しながら濃硫酸186lに少しずつ注ぎ、次いで反応媒体を、100℃で90分間加熱する。冷却後、この溶液を、15℃で脱塩水371lにゆっくり注ぐ。このようにして得られた固形物を濾過する。この固形物を水洗する。含水生成物を、DMF154l中で懸濁し、混合物を、30℃で1時間、強く攪拌する。この生成物を濾過し、DMFで洗浄する。化合物(III)が得られる。
収率:82.3%
分析:HPLC=97.3%
【0030】
2.7−フルオロ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]−2−オキソエチル]キノリン−2(1H)−オン(I)
4−(酢酸)−7−フルオロキノリン−2(1H)−オン(III)56.95kg(1当量)、次にTHF850lを、反応器に導入する。次いで、カルボニルジイミダゾール49.2kg(1.17当量)を攪拌しながら添加する。この混合物を、45℃で17時間加熱し、次いでTHF114l中の4−(ピペラジン−1−イル)チエノ[3,2−c]ピリジン(IV)56.9kg(1当量)の溶液に添加する。この混合物を、60℃で12時間攪拌する。混合物を20℃に冷却し、濾過およびTHFでの洗浄を行う。生成物(I)は、乾燥しないで、以下の段階に直接使用する。
収率:99.3%
分析:HPLC=95.2%
1H NMR(DMSO,300MHz):δ 3.50(m,4H);3.75(m,4H);4.05(s,2H);6.37(s,1H);7.05(m,2H);7.5(m,2H);7.70(m,1H);7.79(d,1H);8.04(d,1H);11.77(s,1H)。
【0031】
実施例2:7−フルオロ−2−オキソ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]エチル]−1,2−ジヒドロキノリン−1−アセトアミド(II)の合成
1.7−フルオロ−4−[2−[4−[チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル]ピペラジン−1−イル]エチル]キノリン−2(1H)−オン(V)
中間体7−フルオロ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]−2−オキソエチル]キノリン−2(1H)−オン(I)107.7kg(1当量)、次にTHF323lを、反応器中のテトラヒドロフラン580l中の水素化リチウムアルミニウム22.2kg(2.3当量)の懸濁液に、10℃で30分間導入する。この混合物を、周囲温度で3時間攪拌し、次いで、反応が終了することを確認後、混合物を冷却し、水21.5l、4N水酸化ナトリウム21.5lおよび水180lを、15℃を超えない温度で、この後に添加する。混合物を1時間攪拌し、無機塩を濾過する。混合物を、THFの3容積に濃縮し、水1400lに入れる。混合物を濾過するとペーストが水/THF混合物:3/7の1000l中に再形成される。この生成物を、50℃、真空下で乾燥する。化合物(V)が得られる。
収率:64.6%
分析値:HPLC=98.5%
【0032】
2.7−フルオロ−2−オキソ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]エチル]1,2−ジヒドロキノリン−1−アセトアミド(II)
7−フルオロ−4−[2−[4−[チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル]ピペラジン−1−イル]エチル]−キノリン−2(1H)−オン(V)66.9kg、2−クロロアセトアミド18.4kg(1.2当量)、炭酸カリウム51.5kg(2当量)およびDMF335lを反応器に導入する。この混合物を、50℃で20時間攪拌し、次いで25℃に冷却し、水1000lを添加する。得られた懸濁液を濾過し、水洗するとペーストがエタノール307l中で再形成される。この固形物を濾過する。乾燥基準での推定値である、白い固形物(II)60.7kgが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化5】

の7−フルオロ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]−2−オキソエチル]キノリン−2(1H)−オンおよび医薬として許容できるこれらの塩。
【請求項2】
水和物または溶媒和物の形態であることを特徴とする、請求項1に記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
3−(アセチルオキシ)−5−[(3−フルオロフェニル)−アミノ]−5−オキソペント−2−エン酸(III)が、4−(ピペラジン−1−イル)チエノ−[3,2−c]ピリジン(IV)と反応させられることを特徴とする、7−フルオロ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]−2−オキソエチル]キノリン−2(1H)−オンの調製法。
【請求項4】
7−フルオロ−2−オキソ−4−[2−[4−[チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル]ピペラジン−1−イル]エチル]−1,2−ジヒドロキノリン−1−アセトアミド(II)の合成における中間体としての、式(I)の7−フルオロ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]−2−オキソエチル]−キノリン−2(1H)−オンの使用。
【請求項5】
以下の段階:
i)4−(酢酸)−7−フルオロキノリン−2(1H)−オン(III)と4−(ピペラジン−1−イル)チエノ[3,2−c]ピリジン(IV)との反応、
ii)7−フルオロ−4−[2−[4−(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]−2−オキソエチル]キノリン−2(1H)−オン(I)の還元、
iii)ハロゲン化アルキル型のアルキル化剤による還元された化合物(V)の第2級アミンのアルキル化
を含むことを特徴とする、7−フルオロ−2−オキソ−4−[2−[4−[チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル]ピペラジン−1−イル]エチル]−1,2−ジヒドロキノリン−1−アセトアミド(II)の調製方法。

【公表番号】特表2010−512373(P2010−512373A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540809(P2009−540809)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【国際出願番号】PCT/FR2007/002027
【国際公開番号】WO2008/087277
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】