説明

キノロン誘導体又はその製薬学的に許容される塩

【課題】P2Y12阻害作用を有する医薬、特に血小板凝集阻害剤として有用な化合物を提供する。
【解決手段】発明者等は、P2Y12阻害剤について鋭意検討した結果、3位に置換されたカルバモイル基を有し、該カルバモイル基上の置換基が-(カルバモイル基に隣接する炭素原子が置換されているポリメチレン)-CO2R(ただし、Rは-H又は低級アルキル)であるキノロン誘導体が、優れた血小板凝集阻害作用を有すること、また、体内動態が改善していることを見出し本発明を完成した。本発明化合物は、優れたP2Y12阻害作用及び血小板凝集阻害作用を有することから、血小板凝集阻害剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、殊に血小板凝集阻害剤、P2Y12阻害剤として有用な、新規キノロン誘導体又はその製薬学的に許容される塩に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板はDonneによって1842年に発見されて以来、長い間、止血に必要な血液中の1成分として扱われてきた。今日では血小板は単に止血機構の主役を演ずるだけでなく臨床的に注目される動脈硬化の成立、血栓性疾患を含む循環器疾患、癌転移、炎症、移植後の拒絶反応、さらに免疫反応への関与など多機能性を示すことが明らかにされてきている。
【0003】
一般に血栓性疾患、虚血性疾患に対して、薬剤あるいは物理的方法によって血行の再開を図る治療が行なわれている。しかしながら、最近、血行再建が行なわれた後に、内皮細胞を含む血管組織の破綻、あるいは薬剤そのものによる線溶・凝固バランスの崩壊等で、血小板の活性化、粘着、凝集が亢進する現象が発見され臨床的にも問題になっている。例えば、t-PA等を用いた血栓溶解療法により再疎通が得られた後、線溶能、凝固能が活性化され、全身の凝固・線溶バランスが崩壊することが明らかになってきた。臨床上は再閉塞をもたらし治療上大きな問題となっている(非特許文献1)。
【0004】
一方、狭心症、心筋梗塞など冠動脈狭窄、大動脈狭窄を基盤とした疾患の治療にPTCA療法やステント留置術が急速に普及して一定の成果を挙げている。しかし、これらの治療法は内皮細胞を含む血管組織を傷害し、急性冠閉塞、さらに慢性期に起こる再狭窄が問題となっている。このような血行再建療法後の種々の血栓性弊害(再閉塞等)に血小板が重要な役割を果たしている。従って、抗血小板剤の有効性が期待されるところであるが、従来の抗血小板剤では充分な効果が証明されるまでには至っていない。
【0005】
これらの循環器系疾患の予防又は治療剤としては、アスピリン、シロスタゾール、プロスタグランジンI2、プロスタグランジンE1、チクロピジン、クロピドグレル、ジピリダモール等の血小板凝集阻害剤が使用されてきた。また近年、血小板凝集の最終段階を阻害し、強い血小板凝集阻害活性を有するGPIIb/IIIa拮抗剤が開発されたが、その使用は血栓症急性期の点滴静注に限定されている(非特許文献2)。
【0006】
近年、抗血小板剤として使用されているチクロピジン、クロピドグレルに関して、その活性代謝物がADP受容体であるP2Y12を阻害することにより、血小板凝集阻害作用を発揮していることが明らかとなった。その後、P2Y12阻害作用を有する化合物として、トリアゾロ[4,5-D]ピリミジン誘導体(特許文献1)、ピペラジン及び/又はホモピペラジン誘導体(特許文献2、特許文献3)、ピラゾリジンジオン誘導体(特許文献4)、イソキノリノン誘導体(特許文献5)等が報告されている。
【0007】
一方、キノロン誘導体としては、特許文献6及び7が知られている。
特許文献6では、抗菌作用を有する式(A)で示される化合物が知られているが、これらの誘導体について血小板凝集阻害作用を有することは知られていない。また、本発明化合物のR5に相当する部分がカルボン酸、エステルまたはカルバモイルである点で、本発明化合物とは構造が異なる。
【化2】

(式中、R1は-OR9、アミノ基、または低級アルキルアミノ基を、R9は水素原子またはカルボキシ保護基を示す。他の記号は、該公報参照)
【0008】
特許文献7では、式(B)で示される化合物がP2Y12阻害作用を有することが報告されている。
【化3】

(式中の記号は、該公報参照)
【0009】
特許文献8では、式(C)で示される化合物がP2Y12阻害作用を有することが報告されている。しかしながら、R12には本発明化合物の特徴的構造である-CH(R1)-(CH2)n-CO2Rは含まれていない。
【化4】

(式中の記号は、該公報参照)
【0010】
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・カレッジ・オブ・カルディオロジー(Journal of the American College of Cardiology)」、1988年、第12巻、p.616-623
【非特許文献2】「綜合臨床」、2003年、第52巻、p.1516-1521
【特許文献1】国際公開第WO 00/34283号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO 02/098856号パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO 03/022214号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO 2005/000281号パンフレット
【特許文献5】国際公開第WO 2005/035520号パンフレット
【特許文献6】国際公開第WO 98/23592号パンフレット
【特許文献7】国際公開第WO 2005/009971号パンフレット
【特許文献8】国際公開第WO 2006/077851号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、P2Y12阻害作用を有する医薬、特に血小板凝集阻害剤として有用な化合物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、既に特許文献7に示される前記キノロン誘導体(B)が、優れた血小板凝集阻害作用、P2Y12阻害作用を有することを見出している。本発明者等は、さらに薬理効果が高く、薬理効果と安全性とのバランスに優れた血小板凝集阻害剤を見出すべく、鋭意研究を行った。その結果、3位に置換されたカルバモイル基を有し、該カルバモイル基上の置換基が-(カルバモイル基に隣接する炭素原子が置換されているポリメチレン)-CO2R(ただし、Rは-H又は低級アルキル)であるキノロン誘導体が、優れた血小板凝集阻害作用を有すること、また、体内動態が改善していることを見出し本発明を完成した。
すなわち、本発明は式(I)で示されるキノロン誘導体又はその製薬学的に許容される塩に関する。
【化5】

(式中の記号は以下の意味を表す。
R:-H又は低級アルキル。
R1:低級アルキル、ハロゲノ低級アルキル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール又はヘテロ環基。ただし、R1におけるアリール及びヘテロ環基はそれぞれ置換されていてもよい。
R2:-H、ハロゲン、又は-OH。
R3:シクロアルキル又はシクロアルキルメチル。
R4:-CH(R5)2、シクロアルキル又は単環飽和へテロ環基。ただし、R4における単環飽和へテロ環基は置換されていてもよい。
R5:同一又は互いに異なって、低級アルキル又は低級アルキレン-OH。
X:-CH=又は-N=。
Y:ハロゲン。
n:1、2又は3。以下同様。)
【発明の効果】
【0013】
本発明化合物は、優れたP2Y12阻害作用を有していることから、医薬、特に血小板凝集阻害剤として有用である。従って、本発明化合物は血小板凝集による血栓形成に密接に関連する循環器系疾患、例えば、不安定狭心症、急性心筋梗塞及びその二次予防、肝動脈バイパス術後、PTCA術若しくはステント留置術後の再閉塞及び再狭窄、肝動脈血栓溶解促進及び再閉塞予防等の虚血性疾患;一過性脳虚血発作(TIA)脳梗塞、くも膜下出血(血管れん縮)等の脳血管障害;慢性動脈閉塞症等の抹消動脈性疾患;等の予防及び/又は治療薬、並びに心臓外科又は血管外科手術時の補助薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書中の定義において「低級アルキル」、「低級アルキレン」及び「低級アルケニレン」とは、特に断らない限り、直鎖又は分枝状の、好ましくは炭素数が1〜6(以後、C1-6と略す)の炭化水素鎖を意味する。
【0015】
「低級アルキル」として好ましくはC1-6アルキル(メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル基等)である。より好ましくはC1-4アルキルであり、特に好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピルである。
【0016】
「低級アルキレン」として好ましくはC1-6アルキレン(メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、プロピレン、メチルメチレン、エチルエチレン、1,2-ジメチルエチレン、1,1,2,2-テトラメチルエチレン基等)である。より好ましくはC1-3アルキレンであり、さらにより好ましくは、メチレン、エチレンである。
【0017】
「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードを示す。
「ハロゲノ低級アルキル」とは、1個以上のハロゲンで置換されたC1-6アルキル(フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル、ヘキサフルオロプロピル基等)を意味する。好ましくは1−5個のハロゲンで置換された低級アルキルであり、より好ましくは、トリフルオロメチルである。
【0018】
「シクロアルキル」とは、C3-10の飽和炭化水素環基であり、架橋を有していてもよい。好ましくはC3-6シクロアルキルであり、より好ましくは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルであり、さらにより、好ましくは、シクロブチル、シクロペンチルである。
【0019】
「シクロアルケニル」はC3-15シクロアルケニルであり、架橋を有していてもよい。具体的には、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル等である。より好ましくは、C5-10シクロアルケニルであり、さらにより好ましくは、シクロペンテニル、シクロヘキセニルである。
【0020】
「アリール」とは、C6-14の単環乃至三環式芳香族炭化水素環基であり、より好ましくはフェニル又はナフチル、さらに好ましくはフェニルである。
【0021】
「ヘテロ環基」とは、i)O、S及びNから選択されるヘテロ原子を1〜4個含有する単環3〜8員(好ましくは5〜7員)ヘテロ環、ii)当該単環ヘテロ環と、単環へテロ環、ベンゼン環、C5-8シクロアルカン及びC5-8シクロアルケンからなる群より選択される1又は2個の環とが縮環し形成される、O、S及びNから選択されるヘテロ原子を1〜5個含有する二環式8〜14員(好ましくは9〜11員)ヘテロ環及び三環式11〜20員(好ましくは12〜15員)ヘテロ環、からなる環基を意味する。環原子であるS又はNが酸化されオキシドやジオキシドを形成してもよい。
「ヘテロ環基」として好ましくは、アジリジニル、アゼチジル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、ホモピペラジニル、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニル、モルホリニル、ホモモルホリニル、テトラヒドロチオピラニル、ピロリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、フリル、チエニル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、インドリル、インドリジニル、ベンゾイミダゾリル、キノキサリニル、キノリル、イソキノリル、キナゾリル、シンノニル、フタラジル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾオキサゾリル、1,3-ベンゾジオキソリル、ベンゾチアゾリル、カルバゾリル、キヌクリジニルであり、より好ましくは、アゼチジル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニル、モルホリニル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、フリル、チエニル、1,3-ベンゾジオキソリルであり、さらにより好ましくは、オキセタニル、ピペリジニル、ジオキサニル、チエニル、ピリジルである。
【0022】
「単環飽和ヘテロ環基」とは、i)O、S及びNから選択されるヘテロ原子を1〜4個含有する飽和の単環3〜8員(好ましくは4〜6員)ヘテロ環基を意味する。環原子であるS又はNが酸化されオキシドやジオキシドを形成してもよい。好ましくは、アジリジニル、アゼチジル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、ホモピペラジニル、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニル、モルホリニル、ホモモルホリニル、テトラヒドロチオピラニルであり、より好ましくは、アゼチジル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニル、モルホリニルであり、さらにより好ましくは、オキセタニル、ピペリジニル、ジオキサニルである。
【0023】
「単環ヘテロアリール」とは、i)O、S及びNから選択されるヘテロ原子を1〜4個含有する芳香属性を有する単環5〜6員へテロ環基を意味する。環原子であるS又はNが酸化されオキシドやジオキシドを形成してもよい。好ましくは、ピロリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、フリル、チエニル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリルであり、より好ましくは、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、フリル、チエニルであり、特に好ましくは、チエニル、ピリジルである。
【0024】
「置換されていてもよい」とは、「無置換」あるいは「同一又は異なる置換基を1〜5個有していること」を示す。なお、複数個の置換基を有する場合、それらの置換基は同一でも互いに異なっていてもよい。
【0025】
R1におけるそれぞれ置換されていてもよい「アリール」及び「ヘテロ環基」における置換基として、好ましくは、ハロゲン、ニトロ、低級アルキル、ハロゲノ低級アルキル、-OH、-O-低級アルキル、-O-ハロゲノ低級アルキル、-S-低級アルキル、-CO2R、-O-アリール及び-O-低級アルキレン-アリールから選択される基であり、より好ましくは、ハロゲン、低級アルキル及び-O-低級アルキルから選択される基である。
【0026】
R4における置換されていてもよい「単環飽和へテロ環基」における置換基として、好ましくは、ハロゲン、低級アルキル及び-O-低級アルキルから選択される基である。
【0027】
本発明の好ましい態様を以下に示す。
(1)Rとして、好ましくは-Hである。
(2)R1として、好ましくは低級アルキル、置換されていてもよいフェニル又は置換されていてもよい単環ヘテロアリールであり、より好ましくはメチル、エチル、イソプロピル又はフェニルであり、さらにより好ましくは、メチル、エチル又はフェニルであり、特に好ましくは、メチルである。
(3)R2として、好ましくは-H、-F又は-OHであり、より好ましくは-Hである。
(4)R3として、好ましくはシクロヘキシル又はシクロプロピルメチルであり、より好ましくはシクロヘキシルである。
(5)R4として、好ましくはイソプロピル、3-ペンチル、シクロペンチル又は2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-4-イルであり、より好ましくはイソプロピル、3-ペンチル又はシクロペンチルであり、より好ましくは3-ペンチル又はシクロペンチルである。
(6)Xとして、好ましくは-CH=である。
(7)Yとして、好ましくは-Fである。
(8)nとして、好ましくは1又は2であり、より好ましくは2である。
別の好ましい態様としては、上記(1)〜(8)に記載の各好ましい基の組合せからなる化合物が好ましい。
【0028】
本発明の化合物は、置換基の種類によっては他の互変異性体や幾何異性体が存在する場合もある。本明細書中、それら異性体の一形態のみで記載することがあるが、本発明にはこれらの異性体も包含し、異性体の分離したもの、あるいは混合物も包含する。
また、化合物(I)は不斉炭素原子や軸不斉を有する場合があり、これに基づく(R)体、(S)体などの光学異性体が存在しうる。本発明はこれらの光学異性体の混合物や単離されたものを全て包含する。
更に、本発明には、化合物(I)の薬理学的に許容されるプロドラッグも含まれる。薬理学的に許容されるプロドラッグとは、加溶媒分解により又は生理学的条件下で本発明のアミノ基、OH、CO2H等に変換できる基を有する化合物である。プロドラッグを形成する基としては、例えば、Prog. Med., 5, 2157-2161 (1985)や「医薬品の開発」(廣川書店、1990年)第7巻 分子設計163-198に記載の基が挙げられる。
【0029】
また、本発明化合物は、酸付加塩又は置換基の種類によっては塩基との塩を形成する場合もあり、かかる塩が製薬学的に許容され得る塩である限りにおいて本発明に包含される。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、又はグルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リシン、オルニチン等の有機塩基との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
更に、本発明は、本発明化合物及びその製薬学的に許容される塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質をも包含する。また、本発明は、種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされた化合物も包含する。
【0030】
(製造法)
本発明化合物及びその製薬学的に許容され得る塩は、その基本骨格あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成法を適用して製造することができる。その際、官能基の種類によっては、当該官能基を原料乃至中間体の段階で適当な保護基(容易に当該官能基に転化可能な基)に置き換えておくことが製造技術上効果的な場合がある。このような官能基としては例えばアミノ基、水酸基、カルボキシル基等であり、それらの保護基としては例えばグリーン(Greene)及びウッツ(Wuts)著、「Protective Groups in Organic Synthesis(第3版、1999年)」に記載の保護基等を挙げることができ、これらを反応条件に応じて適宜選択して用いればよい。このような方法では、当該保護基を導入して反応を行った後、必要に応じて保護基を除去することにより、所望の化合物を得ることができる。
また、化合物(I)のプロドラッグは上記保護基と同様、原料乃至中間体の段階で特定の基を導入、あるいは得られた化合物(I)を用い反応を行うことで製造できる。反応は通常のエステル化、アミド化、脱水等、当業者により公知の方法を適用することにより行うことができる。
以下、本発明化合物の代表的な製造法を説明する。なお、本発明の製造法は以下に示した例には限定されない。
【0031】
(第1製法)
【化6】

本製法は、化合物(1)と化合物(2)をアミド化して、本発明化合物(I)を得る方法である。
アミド化は、当業者が通常用いうるアミド化を採用することができる。特に、カルボニルジイミダゾール(CDI)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド 塩酸塩(WSC・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジフェニルホスホリルアジド、ジエチルホスホリルシアニド等の縮合剤を使用する方法、クロロギ酸イソブチル、クロロギ酸エチル等を用いて混合酸無水物を経由する方法、塩化チオニル若しくはオキシ塩化リン等を用いて酸ハロゲン化物を経由する方法が好適である。反応条件は使用する反応性誘導体や縮合剤によって適宜選択でき、通常、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の反応に不活性な溶媒中、冷却下、冷却乃至室温下、室温乃至加熱下に行われる。反応によっては、有機塩基(トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン等が好適に用いられる)、又は金属塩塩基(炭酸カリウム、炭酸セシウム等が好適に用いられる)の存在下に行うのが有利な場合がある。
【0032】
(第2製法)
【化7】

本製法は、化合物(3)の二重結合を還元して、本発明化合物(I−a)を得る方法である。
二重結合の還元反応は、当業者が通常用いる二重結合の還元反応を用いることができる。例えば、触媒として、パラジウム−炭素、ラネーニッケル、白金等を用い、常圧乃至加圧の水素雰囲気下、前述の芳香族炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、メタノール、エタノール等のアルコール類、DMF、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N-メチルピロリジン-2-オン(NMP)、酢酸等反応に不活性な溶媒中、室温乃至加熱下に行うこともできる。化合物によっては酸(好ましくは、塩酸、酢酸等)の存在下に反応させることが、反応を円滑に進行させる上で有利な場合がある。
【0033】
(第3製法)
【化8】

(式中、Rpは低級アルキルを意味する。以下同様。)
本製法は、本発明化合物(I-b)を加水分解して、本発明化合物(I-c)を得る方法である。
加水分解反応は当業者が通常用いるエステルの加水分解反応を用いることができる。例えば、硫酸、塩酸、臭化水素酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸等の有機酸等の酸存在下;又は水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム若しくはアンモニア等の塩基存在下、冷却下乃至加熱下に行うことができる。溶媒としては、芳香族炭化水素類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、DMF、DMA、NMP、DMSO、ピリジン、水等の溶媒、或いは、前記の酸を溶媒として用いることができる。
【0034】
(第4製法)
【化9】

本製法は、化合物(4)のシアノ基を加水分解して、本発明化合物(I-c)を得る方法である。
加水分解反応は当業者が通常用いるシアノ基の加水分解反応を用いることができる。例えば、硫酸、塩酸、臭化水素酸等の酸存在下;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、冷却下乃至加熱下に反応を行うことができる。溶媒としては、エーテル類、アルコール類、DMF、DMA、NMP、DMSO、水等の溶媒、或いは、前記の酸を溶媒として用いることができる。
【0035】
さらに、式(I)で示されるいくつかの化合物は以上のように得られた化合物から公知のアルキル化、アシル化、置換反応、酸化、還元、加水分解等、当業者が通常採用しうる工程を任意に組み合わせることにより製造することもできる。
【0036】
(原料化合物の合成)
本発明化合物(I)の製造に使用する原料化合物は、下記の方法、公知の方法、またはその変法を用いることにより合成することができる。
【0037】
(原料合成1)
【化10】

化合物(3)は、化合物(1)と化合物(5)をアミド化して得ることが出来る。
アミド化は、前記第1製法に記載と同様の方法により行うことが出来る。
化合物(1)は、例えば前記特許文献7に記載の方法、或いは、その変法により得ることが出来る。
【0038】
(原料合成2)
【化11】

(式中、Zはホーナー-エモンズ試薬またはウィッティヒ試薬の残部を意味し、
【化12】

は、単結合又は二重結合を意味する。以下同様。)
(第一工程)
化合物(1)と化合物(6)をアミド化して化合物(7)を得る工程である。
アミド化反応は、前記第1製法に記載と同様の方法により行うことが出来る。
(第二工程)
化合物(7)を酸化して化合物(8)を得る工程である。
酸化反応は、当業者が通常用いるアルコールの酸化反応を採用することができる。例えば、冷却下、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類等の反応に不活性な溶媒中、DMSO及び二塩化オキサリルによって系中で生ずる酸化剤を用いて行う方法(スワン(Swern)酸化)により行うことができる。
(第三工程)
本工程は化合物(8)をホーナー-エモンズ反応またはウィッティヒ反応により、化合物(3)を得る工程である。
ホーナー-エモンズ反応又はウィッティヒ反応は、当業者が通常用いうる方法を採用することができる。例えば、ホーナー-エモンズ試薬またはウィッティヒ試薬存在下、芳香族炭化水素類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、DMF、DMA、NMP、DMSO、アセトニトリル等の溶媒中、冷却下乃至加熱下で反応を行うことができる。ホーナー-エモンズ試薬またはウィッティヒ試薬の種類によっては、炭酸カリウム、tert-ブトキシカリウム、水素化ナトリウム、n-ブチルリチウム等のアルキルリチウム等の塩基の存在下反応を行うことが好ましい。
【0039】
(原料合成3)
【化13】

化合物(4)は、化合物(1)と化合物(10)をアミド化して得ることが出来る。
アミド化は、前記第1製法に記載と同様の方法により行うことが出来る。
【0040】
(原料合成4)
【化14】

(第一工程)
化合物(1)と化合物(11)をアミド化して化合物(12)を得る工程である。
アミド化反応は、前記第1製法に記載と同様の方法により行うことが出来る。
(第二工程)
化合物(12)の水酸基をシアノ基に変換して化合物(4)を得る工程である。
シアノ基への変換反応は、水酸基を脱離基(好ましくは、ハロゲン又はメタンスルホニルオキシ、p-トルエンスルホニルオキシ等のスルホニルオキシ等)に変換した後、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等のシアノ化剤の存在下、アルコール類、DMF、DMA、NMP、DMSO、水等の溶媒中、冷却下乃至加熱下で行うことができる。
水酸基の脱離基への変換は、当業者が通常用いる方法により行うことができる。例えば、スルホニルオキシ基への変換は、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基存在下、塩化メタンスルホニル、塩化p-トルエンスルホニル等のスルホニル化剤を用いてエーテル類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等の溶媒中、冷却下乃至加熱下に行うことができる。
【0041】
本発明化合物は、遊離化合物、その製薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、あるいは結晶多形の物質として単離され、精製される。本発明化合物(I)の製薬学的に許容される塩は、常法の造塩反応に付すことにより製造することもできる。
単離、精製は、抽出、分別結晶化、各種分画クロマトグラフィー等通常の化学操作を適用して行われる。
各種の異性体は、適当な原料化合物を選択することにより、あるいは異性体間の物理化学的性質の差を利用して分離することができる。例えば、光学異性体は一般的な光学分割法(例えば、光学活性な塩基又は酸とのジアステレオマー塩に導く分別結晶化やキラルカラム等を用いたクロマトグラフィー等)により、立体化学的に純粋な異性体に導くことができる。また、適当な光学活性な原料化合物より製造することもできる。
【0042】
本発明化合物の薬理活性は以下の試験により確認した。
試験方法(1) ヒト血小板凝集阻害活性測定試験
健常人(成人男子)より1/10容の3.8%クエン酸ナトリウム溶液を入れたシリンジを用いて採血を行い、160×gで10分間の遠心処理を行うことで上清の多血小板血漿(PRP)を分離した。PRPを採取した残りの血液を1,800×gで10分間遠心処理を行い乏血小板血漿(PPP)を分離した。PRP中の血小板数を自動血球計数器(MEK-6258、日本光電)で測定したのち、PRPにPPPを加えて血小板数を3×108 /mlに調整し、以下の試験に使用した。血小板凝集惹起剤であるADPはエム・シー・メディカル社の製品を使用した。血小板凝集は血小板凝集計(MCMヘマトレーサー212;エム・シー・メディカル社)を用いて測定した。即ち、血小板数3×108 /mlのPRP 80 μlと被験化合物溶液又は溶媒(10%DMSO又は10%DMSO-9%ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン-4.5%d-マンニトール)10 μlを37 ℃で1分間インキュベート後、ADP(50 μM)を10 μl添加することで血小板凝集を惹起し、透過光の変化を5分間記録した。その血小板凝集曲線下面積を指標に阻害率を算出した。本発明化合物10 μM (最終濃度)における結果を表1に示す。尚、表中Rfは参考例化合物番号を、Exは実施例化合物番号を示す。また、参考例1及び2は、前記特許文献7に記載の実施例化合物であり、当該特許文献記載の方法に従い製造した。
参考例1(特許文献7の実施例467)
4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-シクロペンチル-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)ブタン酸
参考例2(特許文献7の実施例526)
4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)ブタン酸
【0043】
【表1】

【0044】
試験方法(2) ヒトP2Y12と2-methylthio-ADP(2-MeS-ADP)との結合に対する置換試験
10 cmシャーレにC6-15細胞を、1×106細胞となるようにDMEM培地を用いて播種し1日培養した後、プラスミド8 μgのpEF-BOS-dhfr-ヒトP2Y12と0.8 μgのpEF-BOS-neo(Nucleic Acid Res.,18,5322,1990)をトランスフェクション試薬(LipofectAMINE 2000;GIBCO BRL社製)を用いて遺伝子導入した。
前記の遺伝子導入操作から24時間経過した後、遺伝子導入した細胞を回収し、0.6 mg/mlのG418(GIBCO BRL社製)を含有するDMEM培地に懸濁した後、段階希釈して10 cmシャーレに播き直した。2週間後に出現したコロニーを個別に取得し、P2Y12タンパク質発現C6-15細胞として、以下の実験に使用した(WO 02/36631、Mol.Pharmacol.,60,432,2001)。
P2Y12タンパク質発現C6-15細胞を培養後、細胞を回収した。細胞をPBSで洗浄後、5 mmol/lのEDTAとプロテアーゼインヒビターカクテルセットCompleteTM(ベーリンガーマンハイム社製)を含有する20 mM Tris-HCl(pH 7.4)に懸濁してポリトロンにてホモジナイズした。超遠心を行った後、沈殿を1 mM EDTA、100 mM NaClおよびCompleteTMを含有する50 mM Tris-HCl(pH7.4)に懸濁し、これを膜画分とした。
【0045】
上記作製のP2Y12タンパク質発現C6-15細胞膜画分(100 μg/ml)100 μlに被験化合物溶液を1.5 μlと0.75 nM [3H]-2-MeS-ADP(80 Ci/mmol,Amersham Pharmacia Biotech社製)または0.75 nM [33P]-2-MeS-ADP(2100 Ci/mmol,PerkinElmer社製)を50 μl添加し、100 mM NaClと50 mM MgCl2を含有する50 mM Tris-HCl(pH7.4)中で室温で1時間インキュベーションした後、セルハーベスターにてグラスフィルターに回収した。グラスフィルターにマイクロシンチレーターを加え、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定した。また、同時に前述の試験において化合物を添加しないもの、100 μM AR-C69931MX(ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー、1999年、第42巻、p.213-220)を1.5 μl加えたものをそれぞれ総結合量、非特異的結合量として放射活性を測定した。総結合量、非特異的結合量をそれぞれ阻害率0%、100%として被験化合物の阻害率(%)を算出した。本発明化合物30 nM (最終濃度)における結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
試験方法(3)ラット血小板凝集阻害試験及び血漿中被験化合物濃度の測定
本発明化合物0.5%メチルセルロース水溶液(本発明化合物に水酸化ナトリウム水溶液、メチルセルロース水溶液を添加し調製)を、12時間以上絶食した雄性SDラット(5〜7週令)にゾンデを用いて30 mg/kgで経口投与した。化合物投与2時間後に、1/10容の3.8%クエン酸ナトリウム溶液を入れたシリンジを用いて採血を行った。試験方法(1)と同様にして、PPP及び血小板数が3×108 /mlのPRPを調製した。血小板数3×108 /mlのPRP 90 μlを37 ℃で1分間インキュベート後、ADP(50 μM)を10 μl添加することで血小板凝集を惹起し、透過光の変化を5分間記録した。その血小板凝集曲線下面積を指標に阻害率を算出した。
上記で調製したPPPを用い、血漿中濃度を測定した。標準曲線を描くために、化合物を投与していないSDラットのPPPも分離しておき、このPPPで本発明化合物を順次希釈(最終濃度30μM〜0.0003μM:化合物により適宜選択する)したものも用意しておく。本発明化合物を投与したラットのPPPおよび希釈した本発明化合物を含有するPPPの100μlに蒸留水を等量加え、さらに、5%トリクロロ酢酸を添加して混合した。氷中に10分間静置した後、遠心操作し、上清を回収した。その上清に2M Tris baseを3μl添加して混合することで中和した。P2Y12タンパク質発現C6-15細胞膜画分(200μg/ml)50μlと、このトリクロロ酢酸処理済のPPP 50μl(化合物によっては100 mM NaClと50 mM MgCl2を含有する50 mM Tris-HCl(pH7.4)で希釈したPPPを使用)を混合した。さらに、0.75 nM [3H]-2-MeS-ADP(80 Ci/mmol,Amersham Pharmacia Biotech社製)または0.75 nM [33P]-2-MeS-ADP(2100 Ci/mmol,PerkinElmer社製)を50 μl添加し、100 mM NaClと50 mM MgCl2を含有する50 mM Tris-HCl(pH7.4)中で室温で1時間インキュベーションした後、セルハーベスターにてグラスフィルターに回収した。グラスフィルターにマイクロシンチレーターを加え、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定した。順次希釈した本発明化合物を含有するPPP由来の測定結果より算出した結合阻害曲線を標準曲線として、本発明化合物を投与したラットのPPP由来の測定結果から、PPP中の本発明化合物の濃度を換算した。
結果を表3に示す。上記の方法で評価した結果、本発明化合物は経口投与において良好な血小板凝集阻害活性を示し、かつ良好な体内動態を示すことが明らかとなった。
【0048】
【表3】

【0049】
試験方法(4)サル血小板凝集阻害試験及び血漿中被験化合物濃度の測定
12時間以上絶食した雄性カニクイザル(2〜11歳令)に、ゴム製経口投与用チューブを用いて本発明化合物水溶液(本発明化合物に水酸化ナトリウム水溶液を添加し調製)を3 mg/kgで経口投与した。本発明化合物投与前及び投与4時間後に、1/10容の3.8%クエン酸ナトリウム溶液を入れたシリンジを用いて大腿静脈より採血を行った。試験方法(1)と同様にして、PPP及び血小板数が3×108 /mlのPRPを調製した。血小板数3×108 /mlのPRP 90 μlを37 ℃で1分間インキュベート後、ADP(50 μM)を10 μl添加することで血小板凝集を惹起し、透過光の変化を5分間記録した。その血小板凝集曲線下面積を指標に阻害率を算出した。
上記で調製したPPPを用い、血漿中濃度を測定した。本発明化合物を投与していないサルから採取したPPP 100μlに、本発明化合物を50%アセトニトリルで順次希釈したものを25μl加え、検量線用試料(最終濃度0.5 ng/ml〜2000 ng/ml)とした。本発明化合物を投与したサルのPPP 100μlに50%アセトニトリル25μlを加え、測定試料とした。なお、検量線の上限濃度を越えると予想される試料については、化合物を投与していないサルから採取したPPPを用いて適宜希釈し、50%アセトニトリル25μlを加え、測定試料とした。測定試料および検量線用試料に内部標準化合物50%アセトニトリル溶液50μlを加えた後、tert-ブチル メチル エーテルを3ml加え、よく攪拌した。遠心操作し、上清を回収した後、その上清を窒素気流で乾固した。そこに20mM 酢酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル(40:60 v/v)150μlを加え、その10μlをLC/MS/MS法によって測定した。得られたピークの保持時間およびモニターイオンの質量数により本発明化合物および内部標準化合物を同定した。ピーク面積比による内部標準法に基づき算出した検量線式より、PPP中の本発明化合物濃度を定量した。
上記の方法で評価した結果、本発明化合物は経口投与において良好な血小板凝集阻害活性を示し、かつ良好な体内動態を示すことが明らかとなった。

【0050】
上記の各試験の結果、本発明化合物は優れたP2Y12阻害作用、血小板凝集阻害作用及び体内動態を有することが確認された。従って、本発明化合物は血小板凝集による血栓形成に密接に関連する循環器系疾患、例えば、不安定狭心症、急性心筋梗塞及びその二次予防、肝動脈バイパス術後、PTCA術若しくはステント留置術後の再閉塞及び再狭窄、肝動脈血栓溶解促進及び再閉塞予防等の虚血性疾患;一過性脳虚血発作(TIA)脳梗塞、くも膜下出血(血管れん縮)等の脳血管障害;慢性動脈閉塞症等の抹消動脈性疾患;等の予防及び/又は治療薬、並びに心臓外科又は血管外科手術時の補助薬として有用である。
【0051】
本発明化合物(I)又はその塩の1種又は2種以上を有効成分として含有する製剤は、当分野において通常用いられている薬剤用担体、賦形剤等を用いて通常使用されている方法によって調製することができる。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はエタノールを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水溶性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はローション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0052】
通常経口投与の場合、1日の投与量は、体重当たり約0.001〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜30 mg/kg、更に好ましくは0.1〜10 mg/kgが適当であり、これを1回であるいは2乃至4回に分けて投与する。静脈内投与される場合は、1日の投与量は、体重当たり約0.0001〜10 mg/kgが適当で、1日1回乃至複数回に分けて投与する。また、経粘膜剤としては、体重当たり約0.001〜100 mg/kgを1日1回乃至複数回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0053】
本発明化合物は、前述の本発明化合物が有効と考えられる疾患の種々の治療又は予防剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、或いは別個に連続してもしくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づき本発明化合物(I)の製法を更に詳細に説明する。本発明化合物は下記実施例に記載の化合物に限定されるものではない。また原料化合物の製法を製造例に示す。
【0055】
製造例1
7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸 500 mgを塩化メチレン8 mlに溶解させ、氷冷下トリエチルアミン 196 μl及びクロロギ酸イソブチル182 μlを加えた。そのまま30分間攪拌したのち、(2R)-2-アミノ-2-フェニルエタノール275 mgを加え、氷冷下で2時間攪拌した。反応液に水を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過し減圧下濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-N-[(1R)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキサミド599 mgを得た。
【0056】
製造例2
メチル (2E,4R)-4-[(tert-ブトキシカルボニル)アミノ]ペンタ-2-エノアート 2.76 gをクロロホルム 15 mlに溶解させ、室温でトリフルオロ酢酸 15 mlを加え4時間攪拌した。反応液を減圧下濃縮し、得られた残渣に酢酸エチルおよびジエチルエーテルを加えた。生じた不溶物を濾取し、乾燥することにより、メチル (2E,4R)-4-アミノペンタ-2-エノアート トリフルオロ酢酸塩 2.93 gを得た。
【0057】
製造例3
3,4,5-トリフルオロアニリン 4.0 gおよびシクロペンタノン 3.6 mlのジクロロエタン 150 ml及び酢酸 3.1 ml溶液に氷冷下、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム 11.5 gを少しずつ加え、室温まで昇温し、3.5時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、クロロホルムで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、減圧下溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、N-シクロペンチル-3,4,5-トリフルオロアニリン 5.4 gを得た。
【0058】
製造例4
N-シクロペンチル-3,4,5-トリフルオロアニリン 3.3 gにジエチル (エトキシメチレン)マロナート 3.2 mlを加え、130℃で4時間攪拌した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、ジエチル {[シクロペンチル(3,4,5-トリフルオロフェニル)アミノ]メチレン}マロナート 2.2 gを得た。
【0059】
製造例5
ジエチル {[シクロペンチル(3,4,5-トリフルオロフェニル)アミノ]メチレン}マロナート 2.2 g にポリリン酸 5.7 gを加え、140℃で40分間攪拌した。反応液を氷水に注ぎ、不溶物を濾取した。これをクロロホルムに溶解させ、水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を留去し、エチル 1-シクロペンチル-5,6,7-トリフルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキシラート 1.4 g を得た。
【0060】
製造例6
エチル 1-シクロペンチル-5,6,7-トリフルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキシラート 1.1 gに42% ホウフッ化水素酸を加え、90℃で20時間加熱した。反応液に水を加え生じた不溶物をろ取、乾燥し、ホウ素化合物 1.4 gを得た。このホウ素化合物 1.4 g にDMSO 15 ml及びシクロヘキシルアミン 0.97 mlを加え、室温で30分攪拌した。反応液に水を加え不溶物を濾取した。乾燥したのち、エタノール 30 ml及び1M水酸化ナトリウム水溶液 15 mlを加え、80℃で1.5時間攪拌した。反応終了後、不溶物を濾去し、ろ液に水及びジエチルエーテルを加え、分液操作を行い、水層に1M塩酸を加えた。生じた沈殿を濾取、乾燥し、7-(シクロヘキシルアミノ)-1-シクロペンチル-5,6-ジフルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸 1.0 gを得た。
【0061】
製造例7
ベンジルアルコール0.58 mlのTHF 2.4 ml溶液に氷冷下n-ブチルリチウム(1.60M ヘキサン溶液) 3.2 mlを加え、1時間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、トルエン 8.0 mlを加え懸濁させた。調製した懸濁液を、別の容器に用意した7-(シクロヘキシルアミノ)-1-シクロペンチル-5,6-ジフルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸 400 mgのトルエン懸濁液に加え、室温で6時間攪拌した。反応液に1M塩酸を加え、クロロホルムで抽出し、飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥したのち、濾過し、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣を酢酸エチルを用いて再結晶し、5-(ベンジルオキシ)-7-(シクロヘキシルアミノ)-1-シクロペンチル-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸 400 mgを得た。
【0062】
製造例8
(4R)-4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)ペンタン酸 1.1 gのDMF 22 ml溶液に1,1’-カルボニルジイミダゾール 395 mgを加え、80℃で一晩加熱した。反応液を氷水に注ぎ、生じた固体をろ取した。得られた固体を乾燥後、THF 22ml及び水 11 mlの混合溶液に溶解させ、氷冷下水素化ホウ素ナトリウム 97 mgを加え、室温で3時間攪拌した。水を加え、析出した固体をろ取、乾燥し、7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-N-[(1R)-4-ヒドロキシ-1-メチルブチル]-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキサミド 500 mgを得た。
【0063】
製造例9
7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-N-[(1R)-4-ヒドロキシ-1-メチルブチル]-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキサミドを 410 mgの塩化メチレン 8 ml溶液に、氷冷下トリエチルアミン 0.19 ml及び塩化メタンスルホニル 0.10 mlを加え、氷冷下30分間、室温で30分間攪拌した。反応液に飽和食塩水を加え、クロロホルムで抽出し、1M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥したのち、濾過し、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣にDMF 10 ml及びシアン化ナトリウム 109 mgを加え60℃で6時間加熱した。反応液に水を加え、ジエチルエーテルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過したのち、減圧下溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、N-[(1R)-4-シアノ-1-メチルブチル]-7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキサミド 280 mgを得た。
【0064】
製造例10
ベンジル [2-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)エチル]カルバマート7.00 gを塩化メチレン100 mlに溶解させ、ピリジニウム パラトルエンスルホナート 390 mg及び2,2-ジメトキシプロパン38 mlを加え、室温で一晩攪拌した。得られた反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過し、減圧下濃縮することによって、ベンジル (2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)カルバマート 8.00 gを得た。
【0065】
製造例11
ベンジル (2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)カルバマート 4.00 gのエタノール 80 ml溶液に、パラジウム-炭素(10%) 400 mgを加え、水素雰囲気下一晩攪拌し、セライト濾過した。得られた濾液を別途調製した、エチル 2-(2-クロロ-4,5-ジフルオロベンゾイル)-3-エトキシアクリラート 3.84 gのエーテル50 ml溶液に注ぎ、室温にて3時間攪拌した。得られた反応液に飽和食塩水を加え、クロロホルムで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮した。得られた残渣のジオキサン溶液を、水素化ナトリウム(55%) 658 mgのジオキサン80 ml溶液に加え、60℃で一晩攪拌した。得られた反応液を室温に冷却し、1M塩酸 100 mlに注ぎ、生じた不溶物を濾取し、乾燥し、エチル 1-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)-6,7-ジフルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキシラート 1.10 gを得た。
【0066】
製造例12
DMSO 16.3 ml及び塩化メチレン 300 ml溶液に、-78℃で二塩化オキサリル 10 mlを加え、30分間攪拌した。tert-ブチル [(1R)-2-ヒドロキシ-1-メチルエチル]カルバマート 8.52 gを加え、1時間攪拌し、ジイソプロピルエチルアミン 46.9 mlを加えた。-78℃で30分間、氷冷下で1時間攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、クロロホルムで抽出し、有機層を飽和食塩水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣のクロロホルム 360 ml溶液に、メチル (トリフェニルホスホラニリデン)アセタート 19.3 gを加え、室温で2時間攪拌した。溶媒を留去したのち、ヘキサン-酢酸エチル(2:1)を加え、不溶物は濾去した。減圧下溶媒を留去したのち、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、メチル (2E,4R)-4-[(tert-ブトキシカルボニル)アミノ]ペンタ-2-エノアート 8.91 gを得た。
【0067】
製造例13
(3R)-3-[(tert-ブトキシカルボニル)アミノ]ブタン酸 1.18gのDMF 10 ml溶液に炭酸水素ナトリウム 971 mg及びヨウ化メチル 0.54 mlを加え、室温で終夜攪拌した。炭酸カリウム 1.61 g及びヨウ化メチル 0.54 mlを加え、室温で終夜攪拌した。不溶物を濾去した後、水を加え、酢酸エチルで抽出した。水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過したのち、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、メチル (3R)-3-[(tert-ブトキシカルボニル) アミノ]ブタノアート 995 mgを得た。
【0068】
製造例14
6,7-ジフルオロ-1-イソプロピル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸941 mgのDMSO 8 ml懸濁液に、ジイソプロピルエチルアミン 1.53 ml及びアミノメチルシクロプロパン 0.37 mlを加え、80℃で11時間加熱した。水及び希塩酸を加え、不溶物を濾取し、乾燥した。得られた残渣に80%酢酸水4mlを加え、加熱還流させたのち、氷冷下で攪拌し、不溶物を濾取、乾燥し、7-[(シクロプロピルメチル)アミノ]-6-フルオロ-1-イソプロピル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸 1.05 gを得た。
【0069】
製造例1〜14の方法と同様にして、後記表に示す製造例15〜68の化合物を製造した。製造例化合物の構造、製造法、及び、物理化学的データをを表4〜15に示す。
【0070】
実施例1
メチル (2E,4S)-4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)-4-フェニルブタ-2-エノアート 415 mgをメタノール 5 mlおよび酢酸エチル 5 mlの混合溶液に溶解させ、パラジウム-炭素(10%) 50 mgを加えた後、水素雰囲気下2時間攪拌した。セライトを用いて濾過後、ろ液を減圧下濃縮し、メチル (4S)-4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)-4-フェニルブタノアート 403 mgを得た。
【0071】
実施例2
メチル (4R)-4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-シクロペンチル-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)ペンタノアート 190 mgのメタノール 5 ml、THF 5 mlの混合溶液に1M水酸化ナトリウム水溶液 1.2 mlを加え、室温で5時間攪拌した。ジエチルエーテル、水を加え分液した後、水層に1M塩酸を加えた。生じた固体をろ取し、乾燥することにより、(4R)-4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-シクロペンチル-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)ペンタン酸 140 mgを得た。
【0072】
実施例3
N-[(1R)-4-シアノ-1-メチルブチル]-7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボキサミド 212 mgのエタノール溶液10 ml に、4M水酸化ナトリウム水溶液 0.34 ml 加え一晩加熱還流した。反応終了後、水及びジエチルエーテルを加え、分液し、得られた水層に1M塩酸を加えた。生じた固体をろ取し、乾燥し、(5R)-5-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)ヘキサン酸 200 mg を得た。
【0073】
実施例4
tert-ブチル 4-[7-(シクロヘキシルアミノ)-6-フルオロ-3-({[(1S)-4-メトキシ-4-オキソ-1-フェニルブチル]アミノ}カルボニル)-4-オキソキノリン-1(4H)-イル]ピペリジン-1-カルボキシラートの酢酸エチル 5 ml 懸濁液に4M塩化水素 酢酸エチル溶液 0.57 ml及びメタノール 5 mlを加え、4日間攪拌した。溶媒を留去したのち、ジエチルエーテル及びジイソプロピルエーテルを加えた。不溶物をろ取し、乾燥し、メチル (4S)-4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-6-フルオロ-4-オキソ-1-ピペリジン-4-イル-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル] カルボニル}アミノ)-4-フェニルブタノアート 塩酸塩 420 mg を得た。
【0074】
実施例5
メチル (4S)-4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-6-フルオロ-4-オキソ-1-ピペリジン-4-イル-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)-4-フェニルブタノアート 塩酸塩 103 mgのTHF 5 ml 溶液に、酢酸ナトリウム 51 mg、37%ホルマリン水溶液 64 μl、酢酸 0.4 ml及びトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム 92 mgを加え、室温で一晩攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、クロロホルムで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過した後、減圧下溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、メチル (4S)-4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-6-フルオロ-1-(1-メチルピペリジン-4-イル)-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)-4-フェニルブタノアート 95 mgを得た。
【0075】
実施例6
(4R)-4-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)ペンタン酸100 mgを90 %酢酸水2.30 mlに溶解させ、60℃で一晩攪拌した。得られた反応液を室温まで冷却し、水を加え、生じた不溶物を濾過、減圧乾燥し、(4R)-4-[({7-(シクロヘキシルアミノ)-6-フルオロ-1-[2-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)エチル]-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル}カルボニル)アミノ]ペンタン酸45 mgを得た。
【0076】
実施例7
(3R)-3-[(tert-ブトキシカルボニル)アミノ]ブタン酸 462 mgのクロロホルム 5 ml溶液に、氷冷下トリフルオロ酢酸 5 mlを加え、室温で2時間攪拌したのち、減圧下溶媒を留去し、アミン体を得た。別な容器で、7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の塩化メチレン 30 ml懸濁液に氷冷下でトリエチルアミン 0.34 ml及びクロロギ酸イソブチル 0.25 mlを加え、1時間攪拌した。トリエチルアミン 0.95 ml、および上記で合成したアミン体の塩化メチレン 5 ml およびDMF 5 ml 溶液を加え、室温で3時間攪拌した。1M塩酸を加え、クロロホルムで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過した後、減圧下溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(3R)-3-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)ブタン酸 774 mgを得た。
【0077】
実施例8
tert-ブチル (3S)-3-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ) ブタノアート 121mgのクロロホルム 3 ml溶液に、氷冷下トリフルオロ酢酸 3 ml を加え、室温で10.5時間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、得られた残渣にジエチルエーテル、及びヘキサンを加えた。生じた不溶物をろ取し、乾燥し、(3S)-3-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)ブタン酸 96 mgを得た。
【0078】
実施例9
7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸 1273 mgを塩化メチレン100 mlに溶解させ、氷冷下トリエチルアミン 1137 μl及びクロロギ酸イソブチル463 μlを加え、そのまま2時間攪拌した。調製した反応液の 1 mlを3-アミノ-3-(4-メトキシフェニル)プロパン酸6.8 mg 及びトリエチルアミン 6 μl に加え、室温で一晩攪拌した。反応液にポリスチレン メチルイソシアナート(PS-NCO, 1.58 mmol/g) 70 mgを加え一晩攪拌した後に、水を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を減圧下濃縮し、得られた残渣を分取HPLCにより精製し、3-({[7-(シクロヘキシルアミノ)-1-(1-エチルプロピル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-イル]カルボニル}アミノ)-3-(4-メトキシフェニル)プロパン酸 22 mgを得た。
【0079】
実施例1〜9の方法と同様にして、後記表に示す実施例10〜151の化合物を、それぞれ対応する原料を使用して製造した。各実施例化合物の構造及び製造法を表16〜46に、物理化学的データを表47〜52に示す。
【0080】
また、後記表中以下の略号を用いる。
Rf:参考例、REx:製造例、Ex:実施例、MS:質量分析におけるm/z値(EI:EI-MS、FAB:FAB-MS、ESI:ESI-MS、イオン化法のうしろの+は陽イオンを-は陰イオンを示す。特に断らない限り、陽イオンの場合は(M+H)+を、陰イオンの場合は(M-H)-を示す。)、NMR1:DMSO-d6中の1H NMRにおけるδ(ppm)、Syn:製造法(数字は、その番号を実施例番号として有する実施例化合物と同様にして、対応する原料を用いて製造したことを示す。数字の前にRがある場合はその番号を製造例番号として有する製造例化合物と同様にして、対応する原料を用いて製造したことを示す。数字が複数ある場合は、順次同様にして反応を行い製造したことを示す。)。また、構造式中のHClは塩酸塩であることを示し、TFAはトリフルオロ酢酸塩であることを示す。
【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【0084】
【表7】

【0085】
【表8】

【0086】
【表9】

【0087】
【表10】

【0088】
【表11】

【0089】
【表12】

【0090】
【表13】

【0091】
【表14】

【0092】
【表15】

【0093】
【表16】

【0094】
【表17】

【0095】
【表18】

【0096】
【表19】

【0097】
【表20】

【0098】
【表21】

【0099】
【表22】

【0100】
【表23】

【0101】
【表24】

【0102】
【表25】

【0103】
【表26】

【0104】
【表27】

【0105】
【表28】

【0106】
【表29】

【0107】
【表30】

【0108】
【表31】

【0109】
【表32】

【0110】
【表33】

【0111】
【表34】

【0112】
【表35】

【0113】
【表36】

【0114】
【表37】

【0115】
【表38】

【0116】
【表39】

【0117】
【表40】

【0118】
【表41】

【0119】
【表42】

【0120】
【表43】

【0121】
【表44】

【0122】
【表45】

【0123】
【表46】

【0124】
【表47】

【0125】
【表48】

【0126】
【表49】

【0127】
【表50】

【0128】
【表51】

【0129】
【表52】

【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明化合物は、優れたP2Y12阻害作用を有していることから、医薬、特に血小板凝集阻害剤として有用である。従って、本発明化合物は血小板凝集による血栓形成に密接に関連する循環器系疾患、例えば、不安定狭心症、急性心筋梗塞及びその二次予防、肝動脈バイパス術後、PTCA術若しくはステント留置術後の再閉塞及び再狭窄、肝動脈血栓溶解促進及び再閉塞予防等の虚血性疾患;一過性脳虚血発作(TIA)脳梗塞、くも膜下出血(血管れん縮)等の脳血管障害;慢性動脈閉塞症等の抹消動脈性疾患;等の予防及び/又は治療薬、並びに心臓外科又は血管外科手術時の補助薬として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示されるキノロン誘導体またはその製薬学的に許容される塩。
【化1】

(式中の記号は以下の意味を表す。
R:-H又は低級アルキル。
R1:低級アルキル、ハロゲノ低級アルキル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール又はヘテロ環基。ただし、R1におけるアリール及びヘテロ環基はそれぞれ置換されていてもよい。
R2:-H、ハロゲン又は-OH。
R3:シクロアルキル又はシクロアルキルメチル。
R4:-CH(R5)2、シクロアルキル又は単環飽和へテロ環基。ただし、R4における単環飽和へテロ環基は置換されていてもよい。
R5:同一又は互いに異なって、低級アルキル又は低級アルキレン-OH。
X:-CH=又は-N=。
Y:ハロゲン。
n:1、2又は3。)

【公開番号】特開2010−37198(P2010−37198A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316188(P2006−316188)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】