説明

キメラポリペプチドおよびその使用

【課題】DNA修復活性を制御する細胞システムおよび細胞周期制御の研究に係る分子および方法の提供。
【解決手段】特定のDNA配列と結合する特定のアフィニティーを有するポリペプチド領域、およびDNA修飾活性を有するポリペプチド領域を優先的に含むキメラ分子であって、輸送能力を有する領域が存在するため、生体膜を通過することができるキメラ分子。さらに、該キメラ分子をコードする単離されたポリヌクレオチド、および、該DNAを導入することで、細胞周期調節および細胞チェックポイントを阻害すると共に、該ポリペプチドを使用して細胞中のDNAの特定部位を修飾する。また、新規輸送活性または輸送活性の組み合わせをスクリーニング、抗増殖性物質、抗腫瘍性物質、抗生物質、駆虫物質または抗ウイルス物質として、該ペプチドを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA修復活性を制御する細胞システムおよび細胞周期制御の研究に係る分子および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物のゲノムは、自発的な内因性の化学的または生化学的損傷によって生じる化学損傷、あるいは外因的なゲノム損傷物質に曝されることによって生じる化学的損傷に常に曝されている。
【0003】
ゲノムの安定性に必要な進度を保障する一方で、すべての生物種にとって必要不可欠な進化および適応に必須のゲノムの不安定性を供給するため、非常に複雑なDNA修復およびDNA組換え装置に関するシステムが細胞内で進化してきた。一方でゲノムの厳密性のため、他方で分子の多様性を生み出すための2つのシステムの間にある平衡は、正確性および精密性を保障する制御機構によって調節されている。その制御のレベルは、いわゆる「チェックポイント」または「サーベイランス制御」によって実現され、すべての生物においてゲノムの厳密性を保障している。関係する機構および既知遺伝子についての報文、並びに参考文献の目録に関しては、Zhou B.およびS,Elledge、Nature、2000、408:433-439を参照のこと。
【0004】
近年、DNA修復に関与する機構を分析するための分子ツール、およびさらに重要なものとして、それらの機構を制御および調節するための分子ツールが数多く開発された。例えば、米国特許第6,307,015号では、プロテインChk1に基づく製品および方法が記載されており、それらは、Chk1プロテインによって、細胞チェックポイントおよびDNA修復の制御に重要な機構および遺伝子産物を同定できる、と規定されている。
【0005】
さらに、細胞のゲノムでの組換え導入方法が開発された:一例として、Peitz等は、Proc. Natl. Acad. Sci.、2002、99: 4489-4494にて、以前は50%の導入効率でゲノムに導入されていたlox−P部位と組み換えることのできるキメラCre組換え酵素の翻訳物を得た。さらに、国際公開第00/46386号には、メガヌクレアーゼ(meganuclease)SceIを発現するベクターを組み合わせて、特異的に導入されたSceI部位での染色体組換え導入法が記載されている。
【0006】
遺伝毒性のある物質を用いて誘導をかけた後にDNA損傷の修復を分析することが困難なのは、そのすべてのDNA損傷物質が様々なタイプのDNA病変を広範囲にわたって同時に引き起こすことから、単一特異的様式でDNAに作用するシステムの導入には非常に関心がある。それは、細胞周期を制御する経路および特にDNA修復に関与する遺伝産物を詳細に規定することを可能にし得る。これらの経路の効率は、正確な細胞複製に必須であり、それらを詳細に理解することで、より選択的な医薬およびより方向性をもった治療介入をスクリーニングするシステムの開発が可能となる。
【0007】
広範な身体的および遺伝的疾患は、DNA修復機構における、またはより一般的にはDNAにコードされた遺伝情報の制御における欠陥と関連している。これら欠陥の多くが、腫瘍病理学の根本原因であるが(例えば、p53、ARF、14−3−3シグマ、p16、Rbなどの遺伝子の突然変異)、さらにこれらの欠陥は、「身体的突然変異(somatic mutations)」または「遺伝的疾病素質(genetic preposition)」として単純に分類されており、これまでの特徴付けがなされていない多くの病状に関与するかもしれない。既に特定された1つの経路における突然変異があるが、それは遺伝的疾病の遺伝的根拠を構成し、それら遺伝子疾病には、毛細血管拡張性運動失調症(A−T)、運動失調(atassia)と関係のある疾患(毛細血管拡張性運動失調様疾病ATLD、Mrell)、ネイメーヘン染色体不安定症候群(Nijmegen breakage syndrome)(NBS)、ファンコーニ貧血、ロトムンド・トムソン症候群、非ホジキンリンパ腫(Non Hodgkin lymphomas)(NHL)、ウェルナー症候群、ブルームズ症候群、DNAリガーゼIV(LIG4)症候群、色素性乾皮症、BRCA1がある。
【0008】
DNA二本鎖切断(DSB)は、ゲノムの最も危険な損傷である。これは、例えば電離放射線、外的原因や内的条件(例えば細胞ストレス)から生じ得る活性酸素種(ROS)により導入され得る。また、ROSは、腫瘍治療に使用される化学療法剤、例えばDNA挿入剤またはDNA架橋剤により誘導される。DSBの修復は、他のDNA損傷よりも困難で、DSB末端の修復イベントおよび連結反応により、遺伝物質の喪失、増幅または修飾が生じるため遺伝的に不安定となり、また腫瘍化する可能性がある。
【0009】
これらの事象が修復経路およびその細胞制御を誘起することから、それらを理解することは、次の治療への使用の可能性を提供するために、基本的に興味深いことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,307,015号
【特許文献2】国際公開第00/46386号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Zhou B.およびS,Elledge、Nature、2000、408:433-439
【非特許文献2】Peitz等は、Proc. Natl. Acad. Sci.、2002、99: 4489-4494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、DNA修復機構または遺伝情報の制御における欠陥を治療するための有効物質を供給することである。好ましくは、これらの物質は、提供すべき場所でその活性を提供するために、細胞または特に核に輸送されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明は、
a.特定のヌクレオチド配列に対してアフィニティーを示すポリヌクレオチド
b.DNA修飾酵素
c.細胞内輸送活性を有する領域
を含むキメラポリペプチドを提供する。
【0014】
本発明は、本発明のキメラ分子を用いて、ゲノム中の同種の特定部位を示す、DSBを導入することによって細胞ゲノムを修飾するシステムを提供する。本発明のキメラ分子の有利なことには、直線的な反応速度活性、単一特異的活性、および該分子が受容体非依存的な形式で全ての細胞集団に浸透することが可能である事実がある。好都合なことに、これらのイベントは、選択的に試薬を選ぶことなく誘導できるので、これらの使用は非常に単純である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】大腸菌からのSCPVUTAT精製を示す図。
【図2】タンパク質形質導入後にU2OS細胞から抽出したタンパク質の免疫学的分析を示す図。
【図3】共焦点顕微鏡による免疫蛍光分析を示す図。
【図4】単一細胞レベルでDSBを検出するためのTUNEL分析を示す図。
【図5】SCPVUTATにより誘導されるヌクレアーゼ依存的細胞周期の遅延を示す図。
【図6】SCPVUTATにより誘導されるキナーゼ活性を示す図。
【図7】SCPVUTAT処理後の細胞周期停止に対する生化学的マーカーを示す図。
【図8】ATM突然変異細胞(AT-5)のSCPVUTATによる細胞周期阻害誘導およびコロニー形成活性を、非突然変異細胞(MRC-5)と比較する図。
【図9】NHEJ経路に関与する単一タンパク質における、選択された突然変異体を有する細胞のコロニー形成活性の比較に関する図。
【図10】SCPVUTAT処理後の神経芽腫細胞における種々のアポトーシス誘導に関する図。
【図11】低濃度のSCPVUTATと亜致死濃度のHとの相乗効果を示す図。
【図12】ヒストン2AXSer-139のリン酸化効果、およびPI3/ATMキナーゼ阻害剤であるウォルトマンニン(Wortmanin)によるこの効果の阻害作用の顕微鏡分析を示す図。
【図13】自動分析によるDNA依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKCS)の突然変異細胞についての感受性の決定に関する図。
【図14】SCPVUTAT処理後の細胞周期制御タンパク質の細胞内分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第一の実施形態は、特異的DNA結合活性を有する、好都合にはクラスII制限酵素から由来のポリペプチド特性の好ましい領域;好都合にはエンドヌクレアーゼ活性からなる触媒DNA修飾活性を示すポリペプチド特性の好ましい領域;ならびに細胞膜および/または核膜を通過する輸送活性を有する領域から成るキメラ分子に関する。上記機能性領域が、好ましくは相互に共有結合している。
【0017】
本発明の他の重要な実施形態は、本発明のキメラ分子が完全に、または部分的にポリヌクレオチドの性質を有している場合には、それらをコードする単離されたポリヌクレオチドに関する。
【0018】
本発明のその他の実施形態については、DNA二本鎖切断を導入することで細胞周期制御およびチェックポイントの制御の重要なポイントを阻害する本発明ポリペプチドの活性から導かれるものとして、本発明には、インビボ(in vivo)で細胞において本発明キメラ分子を使用することにより特徴づけられる様々な方法が含まれる。特に、本発明に係る方法には、細胞周期およびDNA修復の制御に関与する生成物をコードする遺伝子の遺伝的損傷を評価する診断方法が含まれ、かかる制御活性を調節できる生物学的活性有する組成物を選択する方法も含まれる。
【0019】
また、本発明には、新規輸送活性または輸送活性の組み合わせをスクリーニングするために、本発明のキメラ分子を使用する方法も含まれる。
【0020】
さらに、本発明は、抗増殖物質、抗腫瘍性物質、抗生物質、駆虫物質または抗ウイルス物質として前記組成物を治療上使用すること提供する。
【0021】
本発明の様々な態様は、単一特異的なDNA二本鎖切断(DSB)をインビボで細胞のゲノムに導入することができ、そのDSBが細胞周期の制御ポイント(チェックポイント)を活性化するのに十分なシグナルを示すという、本発明者らにより得られた実験結果に基づいている。これらの活性化は、そのほとんどが酵母からヒトへの進化を通じて保存されており、同様のメカニズムは原核生物や原始細菌中にも存在する。
【0022】
真核生物において、これらの活性化は、ATM(毛細血管拡張性運動失調症突然変異タンパク質)、ATR(毛細血管拡張性運動失調症関連)、DNA−PKcs(DNA依存性プロテイン−キナーゼ−触媒サブユニット)およびこれらの直接的または間接的な基質、例えばChk1(チェックポイント−キナーゼ1)、Chk2(チェックポイント−キナーゼ2)、Brca1(乳癌感受性−1)、Brca2(乳癌感受性−2)、Mre11(減数分裂性組換え11)、Rad50(放射線50二本鎖切断修復)、Nbs1(ネイメーヘン染色体不安定症候群)、Rad51(放射線51二本鎖切断修復)、FANCD2(ファンコーニ貧血相補D2)、ヒストン、BLM(ブルーム症候群突然変異)などのヘリカーゼ、WRN(ウェルナー症候群突然変異)、p53、p53の直接的または間接的な転写標的、例えばp21および14−3−3シグマなど、に由来する遺伝産物によって媒介されるが、このリストは完全なものではなく、またその他の多くの標的は既知のものや未だ発見されていないものがある。
【0023】
特に、この遺伝子産物の幾つかの活性化によって、DNA修復、アポトーシスまたは細胞周期阻害において、ゲノム完全性(integrity)に対するホメオスタシスの維持を調整し得ることが分かった。
【0024】
本発明は、細胞膜を通過でき、真核生物細胞の場合には核に、または細胞中の寄生体に進入して、DNA二本鎖の特定部位に結合して、理想的には一次速度則でDNAを修飾するキメラ分子を提供する。
【0025】
明らかに、この知見およびその使用形式は、医薬はもとより科学的目的のために広く実用化の道を開き、さらに、一般的なDNA修復、DNA修復の制御および細胞周期の制御のメカニズムを研究する独特の方法に、並びに選択的な形態で全ての細胞のゲノムを修飾することができる生成物に応用される。
【0026】
第一の実施形態において、本発明キメラ分子には、以下の3つの機能的構成要素:
−特定のDNAまたはRNA配列に対してアフィニティーを示す領域であって、好ましくはポリペプチドからなる領域。この領域は、DNA中のパリンドローム配列を認識することができる、クラスII制限酵素、そのサブユニットまたは機能性フラグメントであることが好ましい;
−DNAまたはRNA触媒活性を示す領域であって、好ましくはポリペプチドから構成される領域であり、この活性には、限定するわけではないが、例えば、メチル化酵素、アセチル化酵素、CAD阻害物質(ICAD)および活性剤EndoGを有するまたは有しないカスパーゼ活性化DNAses(CAD)、Rnase、DNAまたはRNA−リガーゼ、DNAまたはRNAポリメラーゼ、エンドヌクレアーゼおよびトポイソマーゼ、あるいはこれらのサブユニットもしくは機能性フラグメントが含まれるが、好ましくは酵素および好ましくは制限酵素、さらにより好ましくはクラスII制限酵素のエンドヌクレアーゼ活性が含まれる;
−細胞膜および/または核膜を通過でき、異種分子を細胞内および細胞小器官に運搬できる輸送活性を有する領域;この活性は「デリバラー」と称するが、「デリバラー」としては、細胞の生体膜を貫通でき、真核生物の場合には、さらに細胞膜および核膜もしくは、ミトコンドリアまたは色素体を含む他の細胞小器官の膜を貫通できる、好ましくはポリペプチドまたはペプチド、さらに脂質、リポソーム、有機または無機化合物もしくはナノ粒子からなる化学構造を意味する。特に、核内に運搬できるデリバラーが好ましい
が、含まれる。
【0027】
上記の機能性ドメインは好ましくは共有結合している。本発明のキメラ分子は、化学合成して得ることができ、あるいはその機能性領域がペプチド性質の領域である場合には、組換えDNA技術により好ましくは合成して得ることができる。この実施形態では、および本発明では、上記の3つの機能性領域を含むキメラタンパク質をコードするヌクレオチド配列が、好ましくは原核生物起源の宿主系において組換えポリペプチドを発現するのに役立つ。
【0028】
本発明のキメラ分子は化学的方法または組換え法によるなどの混合技術によって生成することもできるが、少なくとも1つの領域は組換えDNA技術により産生された他の2つの産物と化学的方法によって結合されるものである。
【0029】
本発明のキメラ分子の好ましい実施形態において、特異的DNA結合活性を有する領域はクラスIIエンドヌクレアーゼ由来である。エンドヌクレアーゼの中から、EcoRV、PvuII、HinfIまたはそれらのサブユニットもしくは機能性フラグメントが優先的に選択される。本発明の以下の記載において、機能性フラグメントとしては、アミノ酸配列として、天然酵素の少なくとも1つの機能を含む、完全型タンパク質の1つの配列から部分的に派生した配列を含むポリペプチドを意味する。
【0030】
別の好ましい実施形態においてもまた、DNA修飾活性の領域は、クラスII制限エンドヌクレアーゼであり、また特異的DNA結合活性を含む同じエンドヌクレアーゼ、特にEcoRV、PvuII、HinfI、またはそれらの機能性サブユニットもしくは機能性フラグメントから選択される。この好ましい実施形態においては、単一のホモ二量化タンパク質中にDNA認識およびDNA修飾活性が連結されている。
【0031】
この最後のケースでの好ましい実施形態において、制限酵素が一本鎖の分子として含まれていることが有利であるが、野生型酵素と比較して結合と切断の特性を維持している、Simoncsits A.等、J. Mol. Biol、2001、309:89-97にて酵素PvuIIについて記載されているように、酵素のすべてのサブユニットが共有結合されており、一本鎖ポリペプチドとして発現される。
【0032】
発明者らは、さらに、本発明の範囲内において、制限酵素を一本鎖のタンパク質として有しており、制限酵素の修飾活性領域、サブユニットまたは触媒ドメインが点突然変異、欠失またはその他の構造変化によって、その修飾活性が変化または欠如し、且つ、同種DNAの認識能および結合能に関して、天然酵素と同等のアフィニティーを維持している、キメラ分子を開発した。特に好ましい突然変異体には、核酸に対する結合活性を実質的に維持(または増強)しているが、酵素(切断)活性を(相当部分(例えば>50%)またはほとんど(>80%))失っている突然変異体が含まれる。
【0033】
本発明の最後の態様として、少なくとも、形質導入、細胞内輸送またはデリバラーに関する領域と、上記のようにアミノ酸配列が特定のDNA配列に対するアフィニティーを示す事実によって特徴付けられるDNA結合領域とを含むことがあるのは、好ましくはエンドヌクレアーゼの性質であり、少なくともクラスII制限酵素と95%の相同性を有するものである。このようなキメラ分子については、その酵素活性は失われているため、修飾能力を発揮することなく、ゲノム中の特定のDNA配列に輸送するためにベクターとして使用される。本発明のこの態様の好ましい実施形態としては、Nastri等、1997、J. Biol. Chem. 272:25761-25767に開示されているように、PvuII酵素(例えばSCPVUTAT中)の天然配列の代わりに、酵素PvuIIの34位における置換突然変異(Asp34/Gly34)によって得られる触媒部位の突然変異体D34Gを用いることで得られるキメラ酵素が挙げられる。この変異型酵素(SC34)では、DNA認識活性は野生型酵素と同等であるが、エンドヌクレアーゼ活性を失っている。このような分子は、修飾活性を示すキメラ分子と並行して用いる、コントロールとして有用である。
【0034】
細胞膜および/または核膜を通過するデリバラーまたは輸送領域は、好都合には、ペプチドである。これらは、HSVのタンパク質VP22、アンテナペディアプロテインのホメオドメインの第3番目のアルファ−へリックス、HIV−1のプロテインTatおよびRev、またはそのフラグメントもしくは機能性突然変異体の中から選択されることが好都合である。機能突然変異の例としては、Ho等、2001、Cancer Res.、61:474-577に記載されているものがある。好ましい実施形態は、Tat由来のペプチド、およびペプチドSYGRKKRRQRRRGGSのYGRKKRRQRRR配列(Tat領域の47−57に相当する)を有する機能ドメインを含むペプチドがある。HO等の文献に記載されているペプチド内のこのペプチドの機能性突然変異体が互換使用される。他の実施形態において、デリバラー配列は、いかなる種類のいかなる細胞型、およびウイルスを含む寄生体に対して特異性を有し得る。例えば、配列は、原核生物中にキメラ分子を特異的に導入させる細菌デリバラー配列から選択される。実施形態として、限定するものではないが、細菌デリバラーは、Rajarao等、2002、FEMS Microbiology Letters;215:267-272に記載および概説されているオリゴペプチド配列から選択することができる。これらのペプチドには、配列CFFKDELのような大腸菌の膜を通過して運搬するためのFKDEモチーフおよびその機能的誘導体が含まれ得る。S.aureusの場合には、例えばVLTNENPFSDPのようなPFSを含むモチーフを用いてもよく、B.subtilisの場合にはPFSを含むモチーフとしてYKKSNNPFSDを用いてもよい。その他の例において、例えば、S.cerevisiaeアルファの相同体など酵母中に進入するための当分野で既知の配列および/または核導入配列と組み合わせた要素を含む本発明の分子は、酵母細胞特異的な輸送に使用できる。様々な酵母株に輸送するための配列の例としては、Riezman等、1997;Cell 91, 731-738、およびRajarao等、2002、FEMS Microbiology Letters;215:267-272に記載されおり、特にPFS−、YQR−、PFR−、PMF−またはDCMD−を含むモチーフが挙げられる。
【0035】
本発明のこの態様の好ましい実施形態は、細菌膜を通過でき、またそのDNAを標的にして切断することができる、クラスII制限エンドヌクレアーゼの使用である。制限酵素は、原核生物界において最も有効で、高度に発展した自然発生的なキラーシステムである。酵素ヌクレアーゼ活性は、DNA損傷活性の膨大な増幅と共通点があり、ごく僅かの酵素だけが細菌成長を阻止するために必要とされる。本発明のこの態様の好ましい実施形態において、これらキメラ分子を抗生物質活性のために使用してもよく、また有利には、非常に選択的な方法で細菌の増殖を阻止するために使用してもよい。細菌性デリバラーはヒト細胞のような他種の細胞型に侵入せず、逆に、TAT配列のようなデリバラーは細菌細胞に侵入しないと考えられる。
【0036】
抗生物質、抗腫瘍物質(例えば、細胞増殖抑制剤)および他のさらなる活性物質は、本発明による物質により特異的に輸送され、好ましくはそのようなさらなる活性物質に本発明のポリペプチドを共有結合させることにより、特異的に輸送されてもよい。
【0037】
特に有利な実施形態において、デリバラーあるいは細胞膜および/または核膜もしくは細胞小器官膜を通過して運搬するための領域には、付加的な修飾成分または「補助」領域、好ましくはポリペプチドまたは化合物が含まれていてもよい。このドメインを、デリバラー配列と結合させるか、また本発明のキメラ分子の任意の部位に配置させることができる。この分子の付加は、当分野に周知の技術、例えば組換え技術または化学カップリングなどを用いて行うことができる。実施形態として、限定するものではないが、本発明のキメラ分子を細胞型特異的(cell type specific)にするため、細胞型特異的結合部位、例えば腫瘍特異的増殖受容体に対して結合する部位を有する補助ドメインを付加する。その例として、Her2、TGFβ RIまたはCD20受容体がある。これは、EGFの結合フラグメントおよび、TGFβまたはFvもしくは一本鎖Fv(scFv)免疫グロブリン断片を補助ドメインに付加することにより得ることができる。詳細な実施形態において、制限酵素はその天然二量体型で用いられるが、N末端の1番目のタンパク質には、機能性CDRL領域を含む特定の軽鎖免疫グロブリン断片が結合され、また、ホモ二量体の他のタンパク質のN末端には、機能的CDR1−3H領域を含む種々の重鎖免疫グロブリンタンパク質が連結されている。キメラタンパク質は、軽鎖重鎖の二量化により、また、制限酵素のドメインの二量化により、二量体化することができる。それゆえ、これにより、特定の細胞型に特異的な選択的結合を実現でき、選択された細胞への本発明のキメラタンパク質の優先的な取り込み吸収を著しく増加させ得る。これは、かかる補助ドメインが複合的であることの証拠となる。付加配列、例えば、細胞内のミトコンドリアまたは寄生DNA(例えば、ウイルス、無脊椎動物および細菌感染細胞)などの非染色体DNAを特異的に標的とする配列、を付加することができる。その他の実施形態として、デリバラーを増強する要素を付加することもできる。
【0038】
特に好都合な実施形態において、キメラ分子は、PvuII、EcoRVまたはHinfIが、好ましくは2個またはそれ以上のグリシン、さらにより好ましくは配列GSGGまたはGSGGSGSGGを優先的に含むペプチドリンカーにより連結されたサブユニットを有するクラスII制限酵素からなる。この他に、当該分野で既知の同様のペプチドリンカーを、活性機能を維持させたままホモ二量体サブユニットを共有結合させる目的で使用してもよい。
【0039】
キメラ分子には、例えばポリヒスチジンタグ、GST−タグまたはプロテインA−タグ、myc−タグ、HA−タグ、ビオチンのような当分野で周知の精製に有用なポリペプチド配列を任意に含ませることができる。
【0040】
本発明のキメラ分子の特に好ましい実施形態としては、配列番号:2により表され、それは、一本鎖タンパク質(SCPVU)として、連結された2つのサブユニットを有する制限酵素PvuIIがDNA結合アフィニティーおよびエンドヌクレアーゼ活性によるDNA修飾活性についてのドメインまたは領域を担い、さらにTatのペプチドSYGRKKRRQRRRGGSが細胞質間デリバリーサブユニットを担っている。
【0041】
本発明のキメラタンパク質の有利な実施形態の1つは、血清存在下での細胞培養培地中においても安定なことである。当分野において技術的に可能な範囲で、L型配置を有するアミノ酸をDアミノ酸または非天然アミノ酸で置き換えることにより、その安定性を最終的に増大させることができる。かかるキメラタンパク質の変異体は、点突然変異の場合のように、好ましくは制限酵素と同じ酵素活性を示し、または分子中で同じヌクレオチド活性を失っている場合にはコントロールとして用いられ、こうしてこれらの変異体は本発明に含まれる。
【0042】
本発明にさらに含まれるものとして、本発明のキメラ分子、およびその組換え体の性質の全部または一部である分子をコードする単離されたポリヌクレオチドがある。このポリヌクレオチド配列の好ましい実施形態は、配列番号:1によって表され、それには、化学的一本鎖型のPvuII酵素がコードされており、またヌクレオチド配列番号:3によりコードされている配列番号:4に対応したタンパク質デリバリー領域がコードされている。この好ましい実施形態は、ニッケルNTAアフィニティー・クロマトグラフィーによりキメラタンパク質を容易に精製できる、ポリヒスチジンタグがさらに含まれている。
【0043】
さらに本発明には、キメラ分子がポリペプチドであって、例えばSambrookおよびManiatis, 1989, CSH edに記載されているような当業者に周知の方法による組換えDNA技術を用いて得ることができるキメラ分子を含み、理解し得る全てをコードするポリヌクレオチド配列が含まれる。これらの方法との一致において、また例えば他の制限酵素について、合成リンカーとして用いられるペプチドについて、あるいはアフィニティー精製に用いられるペプチドについて記載されるように、当該分野における技法は本発明の理解と本質的に異なるところのない理解を生み出すことができ、かくしてそれらの理解も本発明に含まれる。
【0044】
さらに、本発明に含まれるものとして、本発明のキメラ分子について特に有利な実施形態であって、特にヌクレアーゼ活性を損なっているが、DNAに結合するキメラ分子、またRNAに結合するキメラ分子が含まれる。この実施形態において、キメラ分子のDNAまたはRNA結合活性は、細胞中で特定の核酸を標的とする分子として使用できる。これにより、細胞のDNAまたはRNAに積荷として化合物を運搬できるようになる。この場合、特定の化合物は、組換え技術または化学カップリングにより、このキメラ分子と共有的にまたは非共有的に結合されている。そのような化合物の例として、限定するものではないが、ナノ粒子、無機または有機化合物およびそれらの組み合わせであるか、例えば、限定するものではないが、放射性化合物、ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンクリスチン、エトポシド、シスプラチンのような化学治療剤、および他の放射性模倣物、またDSB含有物質、抗体および抗体断片、蛍光分子のような色素化合物、天然または非天然核酸、酵素活性を有するかまたは有しないペプチドまたはポリペプチドが挙げられる。化学カップリングは、例えばキメラ分子中の還元されたシステインとマレイミド活性化化合物をカップリングする当分野にて周知の方法を用いて達成できる。例えばPvuIIのように、天然にシステインを含まない本発明のキメラ分子の場合には、システインを当分野に周知の組換えまたは合成技術により導入することができる。さらなる例として、遊離アミノ基へのブロモシアンカップリングを用いてもよい。特に好適なカップリング法には、選択された化合物を用いて、タンパク質をスプライシングし、そしてタンパク質を再結合することにより達成することができる。分子は、精製のためにタンパク質に融合された様々なタグ、例えばポリヒスチジンタグ、GST‐タグまたはプロテインAタグ、mycタグ、HA−タグ、ビオチンなどにカップリングすることもでき、さらに、例えば限定するものではないが、抗体、抗体断片またはグルタチオン含有化合物にカップリングすることもできる。このような方法で本発明タンパク質と結合された分子を、化学試薬およびUVを用いて随意に架橋結合させることができる。限定するものではないが、これらのカップリング方法については、例えば、特にキメラ分子中の標的部位はNまたはC末端部位に存在する。一本鎖型の場合にも、2つのサブユニット間にリンカーを好適に用いることができる。
【0045】
さらに、上記のポリヌクレオチド配列を含むベクター、特に、一般的に組換えタンパク質を大量に発現できる、原核生物における発現用ベクターが含まれる。
【0046】
本発明の好ましいキメラ分子(DNA修飾酵素はクラスII制限酵素である)を使用することで、既定の酵素に認識される部位、好都合には、配列CAG/CTG(PvuII)、GAT/ATC(EcoRV)またはG/ANTC(HinfI)(これらは、およそ6000bp(EcoRVまたはPvuII)または400−600bp(HinfI)統計学的頻度でゲノム上にランダムに存在する)のパリンドローム部位で、DNA二本鎖切断を誘発、導入または生成する工程からなる、本発明の主要な態様に応用することができる。
【0047】
培地中の細胞を本発明のキメラタンパク質を用いて処理することで誘起された結果は、FACS分析による細胞周期分布の分析によって、またはサザンブロット法、TUNEL検定、ブロモデオキシウリジン標識(BrdU)による直接的なゲノムの分析によって検出され、また、特定の抗体または緑色蛍光タンパク質誘導体およびその色素誘導体を用いた免疫蛍光検査法、並びに通常用いられる方法の全てによって検出される。また、本発明のタンパク質を用いて処理された細胞のコロニー形成活性および増殖能を決定することは、増殖制御、細胞周期制御およびDNA修復の機能性についての指標となる。
【0048】
例えばTUNEL検定により測定したところ、本発明のタンパク質の好ましい実施形態の活性反応速度は、0.001nMおよび100μMの間で直線的であり、より好ましくは、0.1nMおよび1μMの間、さらに好ましくは1nMおよび500nMの間で直線的であった。この直線性は、単一特異的活性および任意の細胞に浸透する特性に加えて、本発明のキメラ分子、特にSCPVUTATが有する利点の1つである。さらに、キメラ分子によって引き起こされるイベントにより、特定の選択物質を用いて選択する必要がないため、注目すべきは、また有利な点には、今後の使用を単純化できることがある。
【0049】
本発明のキメラタンパク質、および特に好ましい本発明の理解の範囲内で処理した後に得られる効果は、制限するものではないが、以下の形式が想定される:
−細胞周期中の特定の時期、例えばG0−G1/S−S−G2−G2/M−Mまたはアポトーシスもしくは倍数体における、細胞の割合の増加。これらの変化の特性は細胞型に特異的であり、この特異性は、本発明の前記方法による将来における診断上の認識を提供し、また、1つまたはそれ以上のコントロール、例えば周知の遺伝的欠陥を含む細胞系または正常な細胞と比較して、未知のサンプル中で生じる変化および/または遺伝的突然変異もしくは後成的/身体的変化の検出を可能にする。例えば、G1/Sを決定する細胞周期の制御に特定の欠陥が細胞、例えばp21CIP/WAF1遺伝子中の突然変異体を、本発明の前記タンパク質を用いて処理することにより、本発明の前記タンパク質で正常細胞を処理した際に見られる分布に対して、G2期の細胞数が増加する。p21CIP/WAF1細胞の場合、G1/Sで停止しなかったが、G2/M制御ポイント(チェックポイント)の機能をなおも部分的に示すため、DNA量の分布をFACSにより分析する実験において見られるように、正常対照細胞と比較して、G2/M期のピークに相対的な増加が見られる。同様の結果は、ATMおよびNbsのようなDNA修復のチェックポイント制御に関与する遺伝産物の遺伝子についての突然変異体を用いた実験から得ることができる。
【0050】
上記のように、該方法の重要なことには、コントロール細胞(正常またはコントロール細胞)と比べて細胞の分布を比較することまたは挙動を比較することがある。
【0051】
−細胞周期の調節および修復に関与する重要なタンパク質の定常状態レベルでの変化。タンパク質の定常状態レベルでの変化として、タンパク質量の変動を測定するが、それは、例えば発現レベルの変動、またはmRNA安定性の変化、あるいはタンパク質修飾の変化、例えばタンパク質分解、リン酸化、ユビキチン化もしくはその他の翻訳後修正の変化に起因する。
【0052】
−ATM/ATR/DNA‐PKcs制御経路の中心にあるタンパク質のリン酸化レベルについては、前記の本発明タンパク質で処理した後に変化が現れる。リン酸化において変化を示すタンパク質は、後の実施例部分に詳細に記載するが、本明細書中に例示として示すがこれに制限されない。該タンパク質としては:ATM(毛細血管拡張性運動失調突然変異プロテイン)、ATR(毛細血管拡張性運動失調症関連タンパク質)、DNA−PKcs(DNA依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニット)、およびそれらの直接または間接的基質、例えばChk1(チェックポイントキナーゼ1)、Chk2(チェックポイントキナーゼ2)、Brca−1(乳癌罹患性1)、Brca2(乳癌罹患性2)、Mre11(基質組換えプロテイン11)、Rad50(放射性50二本鎖切断修復プロテイン)、Nbs(ナイメーヘン染色体不安定症候群)、Rad51(放射性51二本鎖切断修復プロテイン)、FANC−A、C、D2、E、FおよびG(ファンコーニ貧血相補性プロテイン)、ヒストン、ヘリカーゼ、BLM(ブルームズ症候群突然変異)、WRN(ウェルナー症候群突然変異)、p53などが挙げられる。特に好ましくは、分子および生化学的マーカーは、Nbs、Mre11、Rad51、p53、Chk2、Brca1である。
【0053】
特に詳細な実施形態として、p53において派生した変異体(variations)およびp21CIP/WAF1、14−3−3シグマなど、p53の直接または間接転写標的がある。本発明のタンパク質で処理した後の、上記タンパク質レベルの変化、または該タンパク質の活性および/またはリン酸化の状態変化の分析は、本発明の重要な態様であり、特に診断学的に興味深い。測定には、当分野で周知の方法、例えば、p53リン酸化型の増加の場合には、抗p53−S15Pを用いて検出するように、タンパク質のリン酸化型に特異的な抗体を用いる免疫学的方法(例えば、ウエスタンブロット法)を適用できる。後述の実施例部分において詳細に実証するが、本発明タンパク質を用いて種々の細胞株を処理することで、p53タンパク質および/またはリン酸化レベルに増加が見られた。
【0054】
−細胞周期制御またはDNA修復におけるストレス応答に重要な制御に関する重要なタンパク質である、複合体の細胞分布の変化。これらの変化は、Rad/Mre11/Nbs複合体が局在している(Zhong Q.等、1999、Science 285:747-750)核に焦点を当て、細胞応答、Chk2のThr68のリン酸化、ATMのリン酸化、ヒストン2AX−Ser135のリン酸化を、免疫学的に分析して観察することができる。
【0055】
−選択的に、本発明タンパク質を用いた処理に対して、突然変異体と正常細胞の変化を比較することにより、Cdc2/サイクリンB1、Cdc25C、p21CIP/WAF1および14−3−3シグマ複合体の細胞質/核分布における変化を追跡することができる。これは、例えば実験実施例12に記載のように、上記成分の1つを特異的に蛍光標識して、顕微鏡で分析することにより実施できる。
【0056】
−当分野において周知の方法、例えばFACS分析、シトクロームC放出またはカスパーゼ活性、もしくはアネキシンV特異的抗体を用いた標識化によって測定できるアポトーシス。アポトーシスの増加は、例えば、神経芽腫細胞を本発明のタンパク質を用いて処理した後に、その細胞におけるsubG1 DNA量の増加として、FACS分析により検出できる。
【0057】
−本発明タンパク質の処理により誘起された効果は、当分野で周知の着色反応を用いて、コロニー形成活性または増殖能を測定することによって分析できる。選択的に、本タンパク質の長期効果は、例えば動物モデル系において腫瘍形成活性または腫瘍侵襲性により決定することができる。
【0058】
本発明タンパク質による遺伝的損傷を調節することができる組成物を選択するのに、姉妹染色分体交換(SCE)、倍数性分析法、遺伝的増幅法、ヘテロ接合度の損失および他の当分野に周知の検査法により分析することができる。
【0059】
最終的に、本発明は、未知のサンプル(例えば生検)から得られた細胞を、必須工程として本発明タンパク質を用いて処理し、好ましくはコントロール細胞を並行して処理し、いずれかの腫瘍遺伝子、例えばmyc、rasもしくは癌抑制遺伝子(例えばARF、p16、p53、Brca1)の発現レベルまたは活性レベルを、免疫酵素法を含む、特定の検定用試薬による継続した測定をして分析することによる、腫瘍または遺伝毒性感受性(例えば、放射線または挿入剤に対する感受性)の進行に関する遺伝的疾病素質の測定法に応用される。
【0060】
細胞周期制御システム(チェックポイント)における成分の突然変異が、腫瘍罹病性を増大させるのに対し、DNA二本鎖切断修復に関与する因子をコードする遺伝子における遺伝的欠陥の浸透度は低いが、これらの欠陥と、他の危険因子、例えば活性酸素種(ROS)レベルの増加、慢性的な炎症由来の因子との組み合わせによって、腫瘍における発病率が大きく左右される。
【0061】
総合して、本発明は、その全てがインビボで細胞に、エクスビボ(ex vivo)またはインビトロ(in vitro)において、本発明ポリペプチドを使用する事実により特徴付けられる、種々の方法に関する。特に、本発明に関する方法には、細胞周期制御およびDNA修復に共通して関係する遺伝的損傷を評価する診断方法、および、上記制御活性を調節できる生物学的活性を有する化合物の選択方法が含まれる。本発明の多様な態様の幾つかは、上述の特異性を持ったDNA二本鎖切断の導入による、細胞周期およびDNA修復(チェックポイント)の制御経路を活性化する、本発明のキメラポリペプチドの生物学的活性に基づいている。
【0062】
実施例部分により詳しく見られおよび記載されるように、単一特異的DNA二本鎖切断の導入の結果、本発明のポリペプチドは治療的活性、特に抗増殖性および抗腫瘍性を示す。それゆえ、この活性は本発明のさらなる対象である。このように、本発明には、本明細書中に記載のポリペプチドまたはこのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを活性物質として含有する、医薬組成物が含まれる。さらに、本発明には、腫瘍性疾病またはその疾病に対する疾病素質の予防、治療または診断のための医薬を調製するための、本発明キメラポリペプチドおよび/またはこのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用が包含される。
【0063】
本発明のさらなる実施形態には、実施例部分に詳細に記載するように、腫瘍病理学の診断またはその疾病の疾病素質の診断のため、本発明由来のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの診断上の使用が挙げられる。
【0064】
より好ましい実施形態としては、本発明タンパク質を用いた細胞の処理を、例えば診断上の使用として、また上述のように用いて、試験サンプルおよび想定される突然変異を含んでない細胞系(コントロール)に並行して適用する。この検定のさらに好ましい実施形態としては、さらにコントロール処置を加えた検定であり、それは、例えば本発明のキメラタンパク質を用いた実験において、DNA修復経路の選択された過程に突然変異体を含む試験細胞系を使用するものであり、その比較によって、それぞれの遺伝子変化を精細マッピングすることができる。
【0065】
本発明タンパク質の投与後、長時間、例えば24時間経過後に、細胞が本発明タンパク質により導入された遺伝的損傷(DNA二本鎖切断、DSB)を修復できるかどうか、および、細胞周期のさまざまな時期にある細胞集団の分布が正常に戻るか戻らないか、に依存した種々の変化を検出することができる。ATMをコードする遺伝子に、または例えばNHEJ(非相同末端結合)DNA修復経路に関与する産物をコードする別の遺伝子に突然変異を有する細胞において、アポトーシスは直ぐには観察できないが、低い発生率で間接的な影響を示す。逆に、神経芽腫細胞の場合には、アポトーシスは迅速且つ直接的な様式で誘導される。本発明は包括的に、さらなる実施形態において、神経起源(origin)細胞、より好ましくは神経芽腫においてアポトーシス誘導するための、さらに、神経起源の腫瘍を処置するための医薬を調製するための、キメラタンパク質および該タンパク質をコードするポリヌクレオチドの使用を包含する。
【0066】
神経芽腫におけるアポトーシスの導入は、二重微小(DM)myc-N癌遺伝子増幅と組み合わさった1p36欠失と相関がある。この強い感受性は17p15転移の存在とは相関がない。DM myc-N増幅は、myc−N増幅NBの極めて強い侵攻型として知られるエピソーム myc-N クラスターであり、極めて予後が悪い。侵攻性悪性NBの重要な部分は、このタイプの癌遺伝子増幅を示すことである。その他の特定の実施形態において、発癌性のDM増幅を含む他の腫瘍、例えば限定するものではないが、前立腺または乳房腫瘍の処置も含まれる。一般に、前記化合物とカップリングされたキメラ分子を、特定の腫瘍を処置する医薬を調製するために使用することができる。
【0067】
本発明のタンパク質を用いた処理に対する細胞応答は、DNA修復経路中に突然変異を有する細胞であるか、または細胞周期および/または修復(チェックポイント)に関する経路の制御に関係する成分に変化を有する細胞であるかによって異なっている。このように、本発明には一連の方法が含まれ、その方法はすべて、本発明に係る好ましい実施形態のキメラ分子を適用して、試験細胞のゲノムにDSBを導入するために使用すること、および上記の検定によりその応答を分析すること、好ましくは可能な限り同質遺伝子型の性質を有する標準的な細胞を用いた試験サンプルから得られた結果と比較すること、により実質的に特徴付けられる。
【0068】
細胞周期およびDNA修復機構における本発明のタンパク質の効果は、フリー・ラジカル(ROS)の誘導物質の存在下で相乗効果を及ぼし、そのような誘導物質は例えばHであり得る。この相乗効果は、キメラタンパク質濃度が非常に低い場合、好ましくはSCPVUTATタンパク質が10nM以下で、Hが10μM以下でも観察される。従って、本発明には、本発明タンパク質を活性酸素産物(ROS)、例えばHと組み合わせて使用する事実により特徴付けられる、ゲノムにDSBを導入する方法が含まれる。この方法は、拮抗作用または相乗作用化合物を選択するためにも使用される。
【0069】
インビボで細胞にDSBを導入することにより、抗腫瘍療法に頻繁に用いられる電離放射線によって誘導される細胞応答および分子応答と同様にそれらの応答を活性化するが、電離放射線と比較して副作用は小さい。従って、本発明のさらなる実施形態には、
抗腫瘍活性を有する医薬の調製のための、または、
後の細胞の増殖活性の開放に起因する疾病を発症する個体の疾病素質を規定する遺伝的疾病、および特にDNA修復の制御機構に必須の遺伝子産物を含む腫瘍性疾病、を治療、診断または予防するための、
本発明のキメラポリペプチドの使用が含まれる。
【0070】
この態様に基づき、本発明は、本発明の上記キメラポリペプチド(ここでは、増殖抑制効果、好ましくは抗腫瘍性が要求される)をインビボまたエクスビボ投与することに基本的に基づく治療法を包含する。
【0071】
本発明のさらなる実施形態には、生物学的サンプルから得られた単離された細胞のDNA修復における遺伝的または身体的欠陥、または細胞周期の調節の欠陥についてのインビトロ診断する方法であって、基本的に以下の工程:
a)DNA修復経路または細胞周期経路における影響または損傷を測定するための培地での単離された細胞の生育;
b)本発明の好ましい分子、ここで、修飾酵素がクラスIIエンドヌクレアーゼであり、より好ましくはPvuII酵素の一本鎖型(SCPVU)である分子を用いた細胞のインキュベート。好適には、例えばSC34のような、特異的DNA結合活性を示すが、ヌクレアーゼ活性が損なわれているコントロール・ポリペプチドを用いて、細胞を並行して処理する。所望により、DNA修復に、DNA修復および/または細胞周期の制御に突然変異および/または欠損がある好適な細胞系、ここで、好ましくはほご同質遺伝子型の性質を有している細胞系の並行処理;
c)細胞応答の特徴づけおよび測定;
d)コントロール細胞系と任意に比較、
から構成される方法が含まれる。
【0072】
同質遺伝子型とは、2つまたはそれ以上の細胞系が、可能な限り類似の遺伝的背景を示すことを意味し、例えば、以下の実施例部分において記載および使用するように、細胞系:MRC−5およびAT−5;CHO−K1およびKU70、またはMO59KおよびMO59Jがある。標準−コントロール細胞系とは、細胞周期およびDNA修復の制御経路に変化を有しない正常細胞系であってもよく、試験サンプルに可能な限り同質遺伝子型であるか、または遺伝的変化が詳しく特徴付けられた細胞系であってもよい。
【0073】
本発明方法の好ましい実施形態において、試験細胞およびコントロール細胞を同一条件下で共に生育させる。これにより、細胞は保持され、直接的な形式で培養マーカーの相違を比較できる。そのマーカーの例としては:コロニー形成活性、アポトーシスまたは無活動細胞の百分率(%)があり、これらは、例えば生きた細胞着色を用いた増殖能の決定により、または上記生化学マーカーの測定により測定される。このタイプの検定の例は、Torrance C. J.等、2001、Nature Biotechnology、19、940-945に記載されている。
【0074】
c)に記載の細胞応答の特徴づけの好ましい実施形態については、当分野において周知のコロニー形成活性の測定法、例えば、培地中で細胞を生育させる、または軟寒天中で生育させてコロニー形成活性を測定する、あるいはDNA染色後にFACS分析する、方法を用いることができる。
【0075】
本発明に記載の特に有用な実施形態であって、腫瘍性疾患の発症に関する遺伝的疾病素質、腫瘍治療の感受性、特に放射性または化学療法の抗腫瘍治療に対する患者の耐性、または予後判断のため健常組織と比較した腫瘍組織の感受性を評価するための診断および/または予後診断が、特に有効な実施形態である。
【0076】
加えて、本発明には、本発明の方法を実施するためのキットが含まれるため、好ましい診断キットまたは調査用キットも含まれる。
【0077】
かかるキットの好ましい実施形態には:
1)キメラポリペプチド、好ましくは、EcoRV、PvuIIまたはHinfIの中から選択され、Tat輸送ペプチドと融合した状態の一本鎖型キメラエンドヌクレアーゼ、または、該キメラタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター、を含有するチューブ、併用される、特異的DNA結合性タンパク質であるがエンドヌクレアーゼ活性が損なわれているコントロール・ポリペプチドである、キメラタンパク質、または、該キメラタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター、を含有するチューブ。好ましい実施形態においては、キメラタンパク質SCPVUTATを含むチューブ、および、キメラタンパク質SC34を凍結乾燥状態または水溶液で含むことが有利な別のチューブで構成されるキット
2)キメラタンパク質の全部または一部に対する抗体、好ましくは抗SCPVUTAT抗体を含有するチューブを任意に含むキット
3)前記のコントロール細胞、例えばDSBに対して過敏な細胞、または、DNA修復および細胞周期経路およびその制御(チェックポイント)に関与するタンパク質をコードする遺伝子に詳しく特徴付けられた突然変異体を含む細胞を含有するチューブまたはフラスコを任意の含むキット。かかる細胞を、運搬に適するように凍結保存またはフラスコ中に含ませてよい
4)挿入剤のような化学療法試薬、放射線類似作用化学物質、または質的および量的効果を決定し、そして比較するための医薬を含有するその他のタイプの化学物質を任意の含むキット
が含まれる。
【0078】
好ましいキメラポリペプチドの活性に基づくさらに重要な実施形態として、本発明には、細胞に基づくハイスループットスクリーニングを用いた、ゲノムのDNA修復活性および/または制御を調節し、相乗作用を示し、拮抗作用を示し、あるいはそれらを変化させない、並びに、細胞システムの遺伝的安定性のための組成物を選択する方法が含まれ、基本的に以下の工程が含まれる:
a)優先的に本発明のキメラタンパク質を用いた、適当なコントロール・ポリペプチド(特に、特定のDNA結合活性を有するが、キメラポリペプチドSC34のようにエンドヌクレアーゼ活性を損なっているキメラ分子が含まれる)の存在下での、また、所望により例えばHまたは他のラジカル生成物質(producers)および/または他の調節物質もしくは拮抗作用物質の存在下での、試験細胞のインキュベート;
b)所望により、並行して、試験細胞と可能な限り同質遺伝子型の別のコントロール細胞、例えばレポーター遺伝子を含む同一細胞を用いてインキュベートする。様々なレポーター遺伝子が当分野で周知であり、その中でも例えば、EGFPタンパク質およびその変異体(例えば、Torrance等、2001、Nature Biotetechnology、19、940-945に記載されている)、または検定の自動読み取りに有効である別のタイプのレポーター遺伝子がある;
c)潜在的な活性を有するか、または活性を有しないかを試験し得る組成物の付加。それらには、例えば、単分子または化学ライブラリーまたは化合物、ペプチド若しくはその他のコレクション、または生物学的サンプルのコレクションがある;
d)細胞応答の読み取りは、優先して自動的に行われ、好ましくはハイスループットスクリーニング(HTS)装置を用いて行われる。この例として、コントロール物質および細胞中で生物学的活性を示すポジティブ試験物質に対する応答として誘導される蛍光シグナルなどの、形態学的表現型の変化の測定に基づくシステムが挙げられる。この細胞応答は、細胞シグナルまたは誘導された生化学的マーカー由来のシグナルから成り、細胞パラメーター、例えばカルシウム流動、ラジカルフロー、シトクロームCの変化なども検出されるが、それらを組み合わせると自動検出可能なシステムとなる。
【0079】
本発明のこの方法では、工程b)およびc)の順番は逆でもよい。
この検定により、細胞周期の制御、DNA修復経路、アポトーシスの誘導、老化の誘導または、別の経路の活性化を順番に起こさせる経路の1つを阻害すること、について重要な生物学的活性を含む、組成物の選択が可能となる。
【0080】
スクリーニングの最初のラウンドから単離した化合物を有利に修飾した後に、さらに選択サイクルを行うことで、最終的には、医薬により適した組成物を得ることができ、また、さらに有利な特徴、例えば生物学的適合性または生成物安定性について選択することができる。
【0081】
さらに上記から導かれる態様に加えて、本発明には、優先的にはクラスII制限ヌクレアーゼ、さらにより好ましくは一本鎖型であるか、もしくはさらにより好ましくは酵素SCPVUTATにより表される本発明キメラ分子、並びに、これらの分子をコードするポリヌクレオチドの使用に基づいた、細胞周期阻害を導入する方法、または選択的に好ましくは神経起源の細胞にアポトーシスを誘導する方法、または選択的に単離した細胞にDNA修復を誘起する方法が含まれ、ここで、これらの導かれる効果は、例えばフリー・ラジカル生成物などの組成物の存在下で相乗作用が与らえる。これらの方法は基本的に、本発明のキメラポリペプチドよってDNA二本鎖切断が導入される原理に基づいている。
【0082】
本発明のさらなる実施形態には、新規の貫通配列(penetration sequence)および補助配列を選択する方法が含まれる。この実施形態において、貫通配列または補助配列は、単独化合物から構成されるものではなく、化合物ライブラリー分子が想定される貫通ドメインまたは補助ドメインを選択するために使用される。これらの工程には、多数の異なるサンプルを分析できるハイスループットスクリーニングの使用が非常に適している。診断についての本発明に記載の原理は、基本的にすべての細胞型または生物に対する新規な貫通配列および補助配列を見つけだすことのできるスクリーニング方法にも基づいている。自動またはロボット利用の装置により、ハイスループットの能力を用いて後述の工程を実行することができる。これは、当分野に周知のピペッティングおよび読み出し装置を用いて実行できる。限定するものではないが、例示として、特定の補助配列または貫通配列のスクリーニングは、基本的に以下の工程からなる:
1.特定の補助配列の場合、貫通配列は一定であり、本発明のキメラタンパク質のライブラリーは当分野の方法で構成される。例えば、本発明のキメラタンパク質のN末端には、様々な軽鎖および機能的CDRLフラグメントが融合されており、ついで機能的CDR1−3H領域を含む種々の重鎖免疫グロブリンタンパク質に融合された本発明の同じタンパク質と混合される。これは、選択的に大腸菌での2つのプラスミド発現システムにおける組換え技術により得られる。一般に、免疫グロブリンもしくは免疫グロブリンのフラグメントのライブラリー、または受容体結合タンパク質、あるいは合成または天然源から生成されたランダムライブラリーは、上記の組換え技術またはその他のカップリング法により本発明のタンパク質に結合することができる。例えば、例示すると、抗体断片ライブラリーを、プロテインAに結合させることによって、本発明のタンパク質に連結することができる。
2.貫通配列の場合、スクリーニングライブラリーは当分野に周知の技術により得ることができる。例えば、かかるライブラリーは天然源またはすべてのクラスの化合物を含む合成源から入手できる。特に有利な実施形態として、細菌の貫通配列は、同種または異種からのランダムDNAフラグメントからスクリーニングされる。
3.ライブラリータンパク質発現大腸菌を増殖させ、タンパク質産生のために誘導する。タンパク質は、分泌システム由来して上清から、さらに細胞溶解液から、例えば様々なアフィニティータグ、具体的には、ポリヒスチジンタグ、GST−タグ、プロテインAタグ、mycタグ、HA−タグまたはビオチンを用いた、キメラタンパク質のハイスループットアフィニティー調製によって、単離される。
4.これらのタンパク質を用いて、ライブラリー由来の所定の分子の機能または異なる機能を分析する。配列が機能的である場合、キメラタンパク質は機能的である。これは、それらが細胞膜さらに最終的には核膜を通過し、DNAに結合し、場合によってはDSBを導入することができる。もしくは、補助スクリーニングの場合、機能は規定の細胞中で検出され得る。検出は上記のように実施し得る。
5.試験細胞または組織は、
本発明のキメラタンパク質の機能は、例えば上述の形式で検出することができる、原生生物細胞を含むあらゆる起源由来のものであってよい。
6.特に有用な実施形態において、試験細胞を、容易な読み出しのためにEGFP(増強した緑色蛍光タンパク質)を用いて安定的にトランスフェクトする;
7.もう1つ別の有用な実施形態において、コントロール細胞を、区別をつけて、例えばEYFP(増強した黄色蛍光タンパク質)を用いて安定的にトランスフェクトする;
8.試験およびコントロール細胞を、個別に生育するか、またはマルチ−ウェル装置または特定の膜上で混合する。細胞は、単一の変化を有して酷似しているか(すなわち、同一の起源由来である腫瘍細胞または非腫瘍細胞のように、補助配列を検出するために用いる)、または非常に多様化していてもよい(例えば、試験細胞では、輸送が生じるが、コントロール細胞では輸送されない;これには、異なる種由来の細胞、例えば試験細胞が細菌細胞であって、コントロール細胞がヒト由来の場合も含まれる)。細胞の選択には、すべての技術的に可能な組み合わせが可能である。
9.タンパク質を細胞の上清に加え、インキュベートする。
10.読み出しは、上記実施形態に記載のようにキメラ分子の機能について行われる。特に有利な実施形態において、上記調製の緑色および黄色細胞について検出される。緑細胞よりも有意に黄色細胞を生産するタンパク質は、当分野に周知のバック・スクリーニングおよび組換えもしくは質量分析法を用いた分析により、単一クローンとしてさらに単離される。好ましい適用例においては、キメラ分子が細胞に侵入後にDNA損傷を導入することで、この検定の感受性を非常に高め得る。試験細胞(例えば、腫瘍細胞)およびコントロール細胞(すなわち、比較可能な非腫瘍細胞)を、遺伝子破壊または遺伝子抑制、あるいはドミナントネガティブまたは優勢の機能獲得性突然変異の導入によって、DSB導入に対して高い感受性を与える。これは、当分野で周知の方法、例えば、siRNAを用いた同時形質変換、DNA修復における重要な機能を阻害し、DSB、化学阻害剤または活性剤に対して高い感受性を示すようになる、siRNA発現ベクター、遺伝子破壊または突然変異のための標的ベクター、突然変異体の発現もしくはタンパク質を過剰発現させるためのベクターによって行われる。これにより、低濃度でより迅速に詳しく識別された読み出しが可能になる。たとえば、siRNA阻害剤であるKu70、Ku80、DNAPKcs、ATM、XRCC4およびリガーゼIV、Bc12である。一方で、カフェインなどの化合物によってATMも阻害される。P53または他のアポトーシス調節因子が導入される。
11.スクリーニングから得た配列をさらなる最終確認のために、もう一度、選択的に、自動工程を用いる:
・クローンを精製タンパク質により確認する。
・濃度を滴定する。
・ヌクレアーゼ欠失型で選択された配列をテストする。
・別の細胞を試験する。
・マウスにおける毒性を試験する。
【0083】
本発明は、以下の実施例および図面によりさらに詳細に記載するが、これに制限されない。
図1 大腸菌からのSCPVUTAT精製
SCPVUTATの発現および精製。
SCPVUTATの発現プラスミドを含む大腸菌細胞を誘導してタンパク質を発現させ、実施例に記載のように精製を行った。NIおよびIは、大腸菌由来の全細胞性抽出液を示しており、誘導しておらず、また個別の誘導産物を示すものではない。H1およびH2は、Hiトラップ・キレートNi++アガロースカラム上で精製して得られたピーク画分である;S1およびS2はSP-セファロースカラム上で精製して得られたピーク画分である;Mは分子量マーカーを表す(上から下へ:94、67、43、33、20、14kDaである);SCPVUは、TAT配列を含んでいない、同様の方法で精製したタンパク質を表す。
【0084】
図2 タンパク質形質導入後にU2OS細胞から抽出したタンパク質の免疫学的分析
分析したタンパク質は:濃度調整したSCPVUTAT(1、19、50、100、200nM; レーン2-6)、SCPVU(200nM、TAT配列を含まない、レーン7)、SC34(200nM、酵素活性を示さないSCPVUTAT誘導体、レーン8)、コントロール(細胞へのタンパク質添加を行っていない、レーン1)であった。細胞培養上清にタンパク質を添加した10分後に、PBSで丁寧に洗浄して抽出物を調製し、SDS-PAGEを用いて分離した後にPvuIIに対する単一特異的抗体を用いて免疫ブロット法により分析した(下のパネル、導入)。比較のために、抽出物調製の前に取得した細胞培養液上清の一部をこの分析に含ませた(上のパネル、上清)。
【0085】
図3 共焦点顕微鏡による免疫蛍光分析
SCPVUTATを用いてタンパク質形質導入した30分後に、細胞を洗浄し、3%PFAを用いて固定化し、PvuII単一特異的抗体によりマークした後、FITC結合2次抗体を用いて共焦点免疫蛍光分析のために染色した(緑色、下のパネル)。さらに、RNAase A消化した後にプロピジウムJ-を用いてDNA共染色を得た(赤色、上のパネル)。
【0086】
図4 単一細胞レベルでDSBを検出するためのTUNEL分析
U2OS細胞をSCPVUTATで処理し、dUTP-FITCの存在下でTdTを用いて標識化した後に、共焦点免疫蛍光顕微鏡を用いてDSB分析を行った(TUNEL)。処理は、表示した時間、100nMのSCPVUTATを用いて行った。
【0087】
図5 SCPVUTATにより誘導されるヌクレアーゼ依存的細胞周期の遅延
本タンパク質を形質導入した細胞の細胞周期について、種々の時期の分布をFACS分析により分析した。細胞集団のDNA量分布を検出した。2nは2倍体のDNA当量を示し(複製されたものではない;G1期)、4nは4倍体のDNA当量を示す(複製されている;G2/M期)。FACS分析については、単一細胞あたりのDNA量を評価できるDDMモードを用いて、細胞を分離した。表示の調整量のSCPVUTAT(10nM、50nM、100nM)を一度だけ添加して存在させたU2OS細胞;未処理の細胞(コントロール);SCPVUTATのヌクレアーゼ欠損誘導体(SC34、100nM)で処理した細胞を、24時間(上の行)または48時間(下の行)生育させた。示したヒストグラムはすべて、右上のパネルにだけ示すように細胞数に対する相対的なDNA量の尺度を表す。
【0088】
図6 SCPVUTATにより誘導されるキナーゼ活性
基質としてのヒストンH1と、未処理またはSCPVUTAT(100nM)もしくはノコダゾール(0.2μg/ml)で30時間処理した生育U2OS細胞から得られたタンパク質抽出液由来のサイクリンB1特異的免疫沈降物とを用いて、サイクリンB1キナーゼ活性を決定する。サイクリンB1特異的免疫沈降物を、γ32P−ATPの存在下でヒストンH1と共にインキュベートし、その反抗混合物をSDS-PAGEにより分離し、オートラジオグラフィーにより分析した。下にある数字は、リン酸−撮像装置(phospho-imager)分析により決定した比活性を示す。
【0089】
図7 SCPVUTAT処理後の細胞周期停止に対する生化学的マーカー
A)平滑末端DSBを含む3’−OHおよび5’−リン酸(phospate)によるp53の誘導。U2OS細胞(レーン1−7)およびHCT116(レーン8−14)を、SCPVUTAT(100nM、SC)またはアドリアマイシン(ドキソルビシン、0.02μg/ml、AD)を用いて表示の時間処理し;コントロールとして未処理の細胞(レーン0)を用いた。抽出物を調製し、SDS-PAGEにより分離した後、p53(上のパネル、p53)またはPARP(下のパネル、PARP)に特異的な抗体を用いて免疫ブロット法により分析した。
B)SCPVUTATに対する毛細血管拡張性運動失調症突然変異(ATM)タンパク質の修復応答。p53のSCPVUTAT依存的Ser15のリン酸化。ATMポジティブ細胞系 MRC5を、SCPVUTAT(100nM、SC)またはヒドロキシウレア(1mM、HU)を用いて表示の時間処理した;未処理の細胞をコントロールとして用いた(0)。抽出液を調製し、SDS-PAGEにより分離した後、p53 Ser15(上のパネル、Ser15、p53)、またはアクチン(下のパネル、アクチン)に対する特異的抗体を用いて免疫ブロット法により分析した。
C)SCPVUTATに対する毛細血管拡張性運動失調症突然変異(ATM)タンパク質の修復応答。
p53のSCPVUTAT依存的Ser15のリン酸化におけるカフェイン感受性。ATMネガティブのAT-5細胞を、カフェイン(2mM)の存在下で、SCPVUTAT(100nM、SC)またはヒドロキシウレア(1mM、HU)を用いて4時間処理した;コントロールとして、未処理の細胞とカフェイン処理のみ行った細胞を用いた。抽出液を調製し、SES-PAGEにより分離した後、p53、p53 Ser15(上のパネル、Ser15、p53)またはアクチン(下のパネル、アクチン)のいずれかに対する特異的抗体を用いて免疫ブロット法により分析した。
【0090】
図8 ATM突然変異細胞(AT-5)のSCPVUTATによる細胞周期阻害誘導およびコロニー形成活性を、非突然変異細胞(MRC-5)と比較する
A)SCPVUTAT(25nM、100nM)、またはアドリアマイシン(0.02μg/ml; アドリアマイシン)、またはSC34(100nM)を用いて処理し、36時間後にAT-5細胞およびコントロールとして未処理細胞をFACS分析して細胞周期中のDNA量分布を決定した。ヒストグラムは細胞数に対する相対的なDNA量を表し、右側のパネルは、MODFITTM プログラム・パッケージを用いて計算した種々の細胞周期の時期に対応する分布の百分率を示す。
B)ATM突然変異細胞系であって、SCPVUTATによりDNA損傷を導入された細胞系によるコロニー形成能検定。AT-5またはMRC-5(ATMポジティブコントロールとして提供する)の種々の希釈液を、未処理(白色棒)またはSCPVUTAT(25nM、灰色棒;100nM、黒色棒)を用いて60分間処理した;これらの細胞を洗浄した後、7−10日間生育させ、ギムザ(GIEMSA)染色してコロニー数を計測した。この結果をヒストグラムにまとめ、独立して行った3回の実験の平均値と10%〜15%の範囲の標準偏差を表示する。未処理の細胞を100%に設定したところ、AT-5細胞を表示する黒色棒はほぼ0%となり表示できなかった。
【0091】
図9 NHEJ経路に関与する単一タンパク質における、選択された突然変異体を有する細胞のコロニー形成活性の比較
NHEJ修復経路に関与するタンパク質に変異を導入したCHO細胞を、SCPVUTATを用いて処理してコロニー形成能を検定する。細胞系としては、AA8(親株)、V3(DNA-PKCS(−/−))、xrss5(KU80(-/-))およびXR-1(XRCC4(-/-))、HIS P1.13-11(KU70(-/-))、ならびに対応する親細胞系 CHO-K1を用いた。表示のNHEJ突然変異を有するCHO細胞を種々希釈して、未処理(白色棒)またはSCPVUTAT(25nM、灰色棒;100nM、黒色棒)を用いて24時間処理した;これらの細胞を洗浄した後、7-10日間生育させ、ギムザ染色してコロニー数を計測した。この結果をヒストグラムにまとめ、独立して行った3回の実験の平均値と10%〜15%の範囲の標準偏差を表示する。未処理の細胞を100%に設定したところ、V3(DNA-PKCS(−/−))を表示する黒色棒は1%未満となり表示できなかった。
【0092】
図10 SCPVUTAT処理後の神経芽腫細胞における種々のアポトーシス誘導
SCPVUTAT処理(10nM、パネルC;100nM、パネルB)後に、神経芽腫細胞GI-LINをプロピジウムJ-染色してDNA量をFACS分析した。これらサンプルは30時間処理した。コントロールとして、未処理(パネルA)またはSC34の処理サンプル(100nM、パネルD)を用いた。各パネルの下には、得られた細胞周期の時期の分布を示す百分率を示す(G1/S/G2-M)。(A)はアポトーシスを起こした細胞を示す。
【0093】
図11 低濃度のSCPVUTATと亜致死濃度のHとの相乗効果
SCPVUTAT(10nM、パネルB)もしくはH(10μM、パネルC)又はその両方(SCPVUTAT、10nM;H、10μM;パネルD)と共に、あるいはコントロールとして試薬を用いず(パネルA)、U2OS細胞をインキュベートした。さらに、FACSにより、DNA量について処理細胞を分析した;種々の細胞周期の時期を百分率で各ヒストグラムの下に表示した。
【0094】
図12 ヒストン2AXSer-139のリン酸化効果、およびPI3/ATMキナーゼ阻害剤であるウォルトマンニン(Wortmanin)によるこの効果の阻害作用の顕微鏡分析
SCPVUTAT(100nM、中央の列)を用いて、U2OS細胞を60分間処理し、さらにウォルトマンニン(50μM、WM、右の列)を用いて、またはコントロールとして試薬を用いずに(左の列)、この処理を行った。リン酸化されたH2AX-Ser-139に対する特異抗体(赤)またはヒストン2Bについての特異抗体(コントロールとして提供、緑)を用いて、処理細胞を染色し、蛍光顕微鏡により単一細胞レベルで分析した。
【0095】
図13 自動分析によるDNA依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKCS)の突然変異細胞についての感受性の決定
A) 染色した細胞を用いて、突然変異細胞と比較用の正常細胞との増殖能(proliverative capacity)をVersadoc4(バイオラッド)イメージング装置により評価した。その結果を統計分析してヒストグラムで表示する。SCPVUTAT処理後の、ヒト神経芽腫細胞系MO59J(DNA-PKCS(-/-))のコロニー形成能をMO59K細胞(DNA-PKCS(+/+))のコロニー形成能と比較する。コロニー形成能検定の実施例を示す。この検定は、順に3段階の様々な濃度の細胞(上から下の行、1×10、2×10、4×10、8×10)を用いて実施した。右のB)では、MO59Kと比較して、細胞系MO59Jのコロニー形成能検定の結果をヒストグラムで示す。この検定は、Versadoc4(バイオラッド)システムを用いて分析することを除けば、図9と同様に実施した。白棒:未処理サンプル;灰色棒:25nM SCPVUTAT;黒棒:100nM SCPVUTATである。
【0096】
図14 SCPVUTAT処理後の細胞周期制御タンパク質の細胞内分布
未処理、又はSCPVUTAT(100nM)もしくはタキソール(0.2μg/ml)で30時間処理した、HCT116 (p53(+/+))細胞の顕微鏡分析。1次抗体にサイクロンB1特異抗体またはCdc25c特異抗体を用い、2次抗体にFITC標識化抗体(緑、サイクリンB1)またはTRITC標識化抗体(赤、Cdc25c)を用いて、免疫蛍光分析を行った。
【0097】
実施例
実施例1
組換えタンパク質発現用ベクターの構築
以下の実施例に記載の実験のために、次の組換えタンパク質を当業者に周知の方法を用いて作製した:SCPVUは、ホモ2量体エンドヌクレアーゼ酵素PvuIIの一本鎖変異体であって、2001年にSimoncsits等により既に明らかとなっている。HIV Tatタンパク質の一部分に続いて6個のヒスチジンを有するGSYGRKKRRQRRRGGSHHHHHHをコードする配列を、この構築物のC-末端に付加した。このような方法で得られた組換え融合タンパク質をSCPVUTATと称する。その結果、酵素PvuIIの1-157アミノ酸の次にリンカー配列−GSGGがあり、それが酵素PvuII の1番目のサブユニットと2番目のサブユニット(アミノ酸2−157)とを連結し、その後ろにGSYGRKKRRQRRRGGS-HHHHHH配列(tat-ペプチド+6ヒスチジン-タグ)を有するポリペプチドとなる。さらに、エンドヌクレアーゼPvuIIの変異体SC34(Simoncsits等、2001)を一本鎖ポリペプチドとして作製した。この変異体は、PvuIIの特定のDNA結合活性を示すが、PvuII酵素の両方のサブユニットの34位に突然変異(Asp34/Gly34)があるため、エンドヌクレアーゼ活性が損なわれている。
【0098】
実施例2
組み替えタンパク質の発現および精製
SCPVUTATの発現は、大腸菌株XL1 MRF’を用いて行い (Simoncsits等、2001)、Hiトラップ・キレート・アフィニティーカラム(5ml、アマシャム・ファルマシア・バイオテック)を用いて第一回目の精製を行い、次いでSPセファロース(5ml HiトラップSP HP、アマシャム・ファルマシア・バイオテック)を用いてさらに精製した。SP-セファロース上のタンパク質を0.63M〜0.67MのNaClを用いて溶出した。1.5Lの培地から約10mgの精製タンパク質を得た。TAT配列を融合した天然のPvuIIタンパク質(一本鎖変異体としてではない)を同様の方法で調製した。この場合のSP-セファロースからの溶出には0.81M〜0.85MのNaClを用いた。発現タンパク質をすべて精製して均一にし、それを15%SDS-PAGEを用いてゲル電気泳動により判断し、API150EX(パーキンエルマー)を用いて質量分析して理論的な質量を確認した。得られたエンドヌクレアーゼ誘導体の酵素活性は、基質にλDNAを用いて検査し、天然酵素と比較した。
【0099】
実施例3
抗体産生および免疫学的分析
組換えタンパク質に対する抗体を、例えば、「Using Antibodies: ラボラトリーマニュアル」、HarlowおよびDavid Lane著; CSHプレスニューヨーク、1999、ISBN 0-87969-544-7、「Cells: ラボラトリーマニュアル」、David L Spector、RobertD. Goldman; Leslie A. Leinwand; CSHプレス・ニューヨーク、1998、ISBN 0-87969-521-8に記載の標準的な方法により、産生および使用した。抗体は、適当な抗原でニュージランド白ウサギ(New Zealand white rabbit)を免疫し、対応する抗原を固定化したBrCN-セファロース(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)を用いて血清から精製して得た。プロテアーゼ阻害剤、例えば20μM TPCK、20μM TLCK、ホスファターゼ阻害剤60mM 4-ニトロフェニルリン酸塩を含有する20mM トリスHCl(pH 8.0)、5mM EDTA、150mM NaCl中で細胞を溶菌させるか、またはSDSサンプル・ローディング・バッファー中で細胞を直接溶菌して、免疫ブロット用の細胞抽出液を得た。当分野で周知の方法、例えば、3%パラフォルムアルデヒドまたはアセトンとメタノールの1:1混合液を用いて細胞を固定化して、免疫蛍光分析を行った。分析は、抗体染色後にLSM510共焦点ユニットに付属のツァイスAxiovert 100M顕微鏡を用いて行った。
【0100】
実施例4
真核細胞系へのキメラタンパク質のタンパク質形質導入
実施例4‐11では次の細胞系を用いた:NHEJ修復経路に欠損のある細胞系:CHO細胞系: Xrss5(KU80(-/-))、Xr−1(XRCC4(-/-))、V3(DNA-PKcs(-/-))及び対応する親細胞系AA8(ATCC CRL1859)、並びに細胞系:HIS P1.13-11(KU70(-/-))及び対応する親細胞系 CHO−K1(ATCC CCL61)。これらの細胞系を、10%胎児ウシ血清(FCS)を含有するDMEM培地中で生育させた。さらに、ヒト・グリオーマ細胞系MO59J(DNA-PKcs(-/-))および対応する親細胞系MO59K(野生型のDNA-PKcs) (Lees-Miller SP,等、 Science 1995、267 (5201):1183-5)を用い、それらを、10%FCSを含有するDMEM/NUT.MIX-F12 1:1培地中で生育させた。
【0101】
ATM(毛細血管拡張性運動失調症突然変異タンパク質)欠損個体から得た細胞系AT-5、及び対応する親細胞系、MCRC-5(Raj K,等、Nature. 2001、412 (6850): 914-7)を用い、その両方を10%FCS含有DMEM中で培養した。
【0102】
神経芽腫細胞系IMR32(ATCC CCL-127)、GI-LIN及びLAN-5(Panarello C.等、Cancer Genet、Cytogenet.、 2000, 116:124-132)は、必須アミノ酸及び10%FCSを含有するRPMI培地+Hepes 25mM中で生育させた。
【0103】
ヒト骨肉腫細胞系U2OS(ATCC HTB96);その初代繊維芽細胞IMR90(初代継代)を、10%FCS含有DMEM培地中で生育させた。
【0104】
結腸癌細胞系HCT-116 (不適正塩基対修復遺伝子ヒトMLH1タンパク質の欠損体(Raj K,等、 Nature. 2001、412 (6850): 914-7))を、10%FCS含有McCoy’s培地中で生育させた。
【0105】
キメラタンパク質の形質導入許容量を、U2OS骨肉腫細胞及びIMR90初代繊維芽細胞において検査した。これらの細胞を10%FCS含有DMEM中で生育させ、抗生物質の存在下で、概ね同じ培地中で本発明タンパク質を用いて処理した。融合タンパク質SCPVUTATの調製量(1、10、50、100、200nM)およびSCPVUタンパク質(TATを含まない一本鎖PvuII)、並びにコントロールとしてSC34(PvuII酵素の34位に変異を有することを除いて、SCPVUTATに記載のとおりに調製した)と共に、細胞を10分間培養した後、細胞抽出液を調製し、SDS-PAGEにより分離して、PvuIIに対する単一特異的抗体を用いた免疫ブロット分析により分析した。さらに、30分間インキュベートして、PvuII特異抗体と、プロピジウムヨウ化物とを用いて核を共染色した免疫蛍光分析により、取り込みを分析した。データは共に、タンパク質SCPVUTATが細胞内、特に核内に濃縮されており、その取り込みは図2で示すように分析した細胞ではほぼ100%であったことを示している。これに対して、tat配列を有しない融合タンパク質(SCPVU)では導入されていなかった。これらの濃縮は、用いたタンパク質が可溶性で且つ通常環境下で調製が行われ変性条件を経ていないことから、タンパク質の変性とは無関係である。実際、記載の方法により通常環境下で調製されたタンパク質は、タンパク質形質導入において効率よく機能し、Dowdyの米国特許第6,221,335号中の別のタンパク質について最近記載された変性法よりも優れていた。
【0106】
実施例5
インビボにおいて本発明の組換えタンパク質を用いて処理した後に、TUNEL検査によりDSB導入を確認する。
SCPVUTATを用いて細胞を素早く処理した後に、インビボでDSBを標識できる、末端デオキシヌクレオチジル転移酵素(TdT) dUTP-FITCによるTUNEL反応(インシトゥ細胞死検出キット(In Situ Cell Death Detection Kit)、ロッシュ・ダイノスティック、ドイツ・マンハイム)を用いて、このタンパク質の機能を検定した。この検定は、細胞をPBS中の4% パラホルムアルデヒド、0.1%トライトンにより固定化した後に行った。TUNEL反応後に、細胞をプロピジウムJを用いて対比染色(counter-stained)を行った。ネガティブコントロールとしてSC34構築物などのヌクレアーゼ活性欠損誘導体を使用することで、バックグラウンドの活性を見積もることができる。SCPVUTAT融合タンパク質を用いて処理してから少なくとも10分間は、試験したすべての細胞でTUNEL陽性反応を示した(90-100%)。試験した細胞の中には、上皮細胞(HEK-293、MCF-7、不適正塩基対修復遺伝子hMLH1に欠損を有する結腸癌細胞系HCT116)、初期繊維芽細胞(WI83、IMR90、マウス胎児繊維芽細胞、MEF)を含む、ヒトまたは齧歯類の細胞系があった。これにより、本発明の融合タンパク質が効率的に細胞核に輸送されることに加えて、検定した限りで、全ての細胞型でインビボ・エンドヌクレーゼ活性を示すことが確認された。実際に、SCPVUTATを用いて処理した数分間は、細胞培養上清中の本タンパク質の濃度が少なくとも10nMであっても、ほとんどの細胞で有意なTUNEL活性を示したことから、本キメラタンパク質がインビボで直接的かつ迅速に機能することが実証された。この態様により、本発明のシステムが、転写ユニットにより誘導されるエンドヌクレアーゼと比較しても、あるいは別のタイプのタンパク質導入法、例えばエレクトロポレーション法、またはリン酸カルシウムを用いる沈殿法、もしくはリポフェクションなどの脂質誘導法、のいずれと比較しても、もっとも効率が良いものなる。この活性は、細胞周期の時期とは無関係であり、また、ほんどの細胞でアポトーシスのポジティブマーカー(すなわち、シトクロームCの放出、ポジティブアネキシン(Anexin)V染色)が見られないことからアポトーシスとも相関はない。
【0107】
図4には、SCPVUTATまたはSC34を用いてU2OS細胞を30分間処理した後にTUNEL検定して得られた結果を示し、このタイプの検定によりSCPVUTAT構築物の機能が実証される。
【0108】
実施例6
細胞周期における本発明タンパク質処理の効果の評価
最終的に、インビボで生じるDSBが細胞周期にも影響を及ぼすかどうかを確かめるため、本発明タンパク質を形質導入した後に、様々な細胞周期の時期でのDNA量を蛍光活性化セルソーター(FACS)により分析した。種々の濃度で複数のタンパク質を用いて処理した後に様々な時点で、細胞を70%エタノール中で固定化し、RNAseAで処理した後にプロピジウムJを用いて染色した。
【0109】
FACS分析は、FACSCaliburTM (ベクトン・デッキンソン)機器を用いて行った。CellQuestTMソフトウェア・プログラム・パッケージを用いて、得られたデータを評価した。サンプル毎に単一の現象を少なくとも3×10回はDMモードで分析した。細胞周期におけるDNA量分布の統計解析は、MODFIT LTTMソフトウェア・プログラム・パッケージを用いて行った。2N 2倍体DNA量は細胞周期のG1期にある細胞に対応し、4Nは4倍体相当のDNA量を表し、細胞周期のG2期および/またはM期に対応する。DNA量がその中間にある場合には、DNAを活発に複製する時期に当たる細胞周期中のS期を表し、DNA量が2倍体2N以下の場合にはアポトーシス細胞を表す。
【0110】
図5では、U2OS細胞を10nMのタンパク質SCPVUTATと共に24時間インキュベートすれば、4倍体の集団を増加させるのに十分であることが示されている。SCPVUTATタンパク質を新鮮な培地を用いて希釈すると、細胞は24時間で正常な細胞周期をする集団に戻ることができるのに対し、連続的に(例えば12時間ごとに)SCPVUTATを加えると、分析したほとんどの細胞でアポトーシスは誘導されることなく、細胞周期の遅延が安定に誘発された。同様の処理を、タンパク質SC34およびSCPVU(TATドメインを有しない)を用いて行ったが、細胞周期の分布に変化は生じない。
【0111】
他の方法を用いれば、FACS分析で4倍体(4N)として検出された集団をG2期とM期とに最終的に区別できる;すなわち、100nMのSCPVUTATを用いて処理した4NのDNAを含むHCT116およびU2OS細胞において、その核が大きいままであり、有糸分裂構造や核膜の崩壊が全く見られないなら、それは細胞がG2期にあることを示しており、さらに細胞周期のM期に進む様子が全く見られないのであれば、G2細胞周期阻害を表している。さらに、生化学的分析を行って、Cdc2‐サイクリンB複合体のキナーゼ活性を検証することができる。また、微小管阻害剤ノコダゾールまたはタキソールを用いて誘起される、分裂の開始をCdc2キナーゼの核活動によって、またはCdc25Cの核局在によっても検出することができる。これらの検定により、SCPVUTAT処理後の細かな細胞周期停止ポイントを詳細に分析することができ、これにより、ポジティブコントロールと比較して、細胞周期のこの時期の分布をさらに検出することができる。細胞周期の別の時期についての同様の実験が当分野で周知である。図7Aに示した検定、および図14で示した免疫蛍光分析が、このタイプの実験についての実施例である。実施例で示すように、融合タンパク質SCPVUTATで処理することで、細胞系HCT116にDSBが導入され、次いで後期S/G2に相当する細胞周期の時期に可逆的に停止されることが示された。
【0112】
実施例7
ATM/ATRに突然変異を有する細胞に対する本タンパク質の効果
毛細血管拡張性運動失調症突然変異タンパク質(ATM)および毛細血管拡張性運動失調症関連突然変異タンパク質(ATR)は、チェックポイント活性において、DNA損傷に応答する中心的な信号伝達因子である。この経路により、細胞周期の進行およびDNA修復装置が調整されている。これらの制御により、細胞が損傷を受けた場合に、DNAが修復されるまで、細胞を細胞周期の次の時期に移行させないといった、適当な範囲のイベントが確保される。これは、細胞周期キナーゼが阻害され、同時に負の調節因子、この中にはp53のような腫瘍抑制遺伝子やその転写の標的として既知のもの(すなわちp21、14-3-3シグマ)、次いでDNA修復に関与するエフェクター・タンパク質の正確な機能や厳密な正確性に重要となる細胞周期阻害を惹起するタンパク質、が誘導されて、細胞周期装置の制御に影響を与えている。これら制御タンパク質における突然変異はガンに対する強い疾病素質であることには注意する必要がある。
【0113】
U2OS細胞を、2mMのカフェイン、メチルキサンチン(metylxantin)誘導体(IC50<1mM)で処理すると、細胞周期のG1期に適度な遅延を誘起し、DNA損傷に対して細胞が過敏になるのを阻止する効果をさらに誘起する(Sarkaria等、1999)。このことは、カフェインが、その全てが相同なセリン/スレオニンキナーゼ領域(PIKK)を有するホスホ−イノシトール3キナーゼ(PI3)クラスの少なくとも3種類のメンバー、ATM、ATRおよびTORの触媒活性を阻害することを示している。100nMのSCPVUTATと2mMのカフェインとを組み合わせた培地中で30時間生育させたU2OS細胞では、SCPVUTATの特徴的な細胞周期の停止を示さないが、適度なG1期の遅延を誘起する。このことは、カフェインがインビボにおいてSCPVUTAT効果に対する拮抗剤であることを示している。最後の実験で、カフェインはインビトロでもSCPVUTATを阻害せず、また本タンパク質の形質導入許容量に影響も与えないことが示された。これらの実験に用いたのと同じ論拠を、「インビボ」で活性があり、かつATMおよび/またはATM/ATR経路の阻害物質として作用する一般な組成物またはリード化合物を構成する、SCPVUTATに対する拮抗組成物を選択するのに応用できる。そして、ATM/ATRまたはこの経路に関与する他のタンパク質に対する特異性は、適当な突然変異細胞系を用いることによって最終的には詳細に分析することができる。SCPVUTATの迅速で詳細な特徴づけ及び単一特異的活性のために、これらの物質はこの検定に有効に使用できる。本発明の使用の簡便性により、このタイプの検定、さらに大規模、例えば組み合わせ化学(combinatorial chemistry)および/または組み合わせ分子生物学を有効に応用して組み合わせるハイスループットなどに応用できる。
【0114】
その他の実施形態において、SCPVUTATは、ATM/ATRの活性化に依存するイベントをモニターするのに用いられる。ATMは、DNA損傷により活性化され、チェックポイントに関与する多くの基質に対してセリン/スレオニンキナーゼとして機能する。それらの基質をリン酸化することで、チェックポイント応答の活性化に影響を及ぼしたり、しなかったりする。インビボで周知のATMまたはATM依存性キナーゼの基質としては、Nbs1、SMC1(染色体の構造維持)、MDC1(DNA損傷の仲介物質)、H2AX(ヒストン2Ax)、p53などが挙げられる。
【0115】
SCPVUTATに応答する、基質のp53-Ser15におけるATM/ATRのインビボ誘導を分析した。p53のSer15におけるリン酸化は、タンパク質の安定性およびp53の転写活性を制御するため、p53の転写応答に最も重要である。
【0116】
SCPVUTAT処理に応答したSer15におけるp53のリン酸化は、ATMポジティブまたはネガティブ細胞系(それぞれMRC-5およびAT-5)で検定した。比較のために、ヒドロキシウレア(HU)を用いた実験を並行して行った。HUは、リボヌクレオチジル還元酵素として機能し、S期中にDNA複製フォークを停止させDSBを惹起する。これについて、p53のリン酸化Ser15を特異的に検出するために、これに対する特異抗体を用いて、処理後の抽出物について免疫ブロット実験を行った。図7で示したように、ATMプラス細胞系MRC-5(図7B)と同様にATMマイナス細胞系AT-5でも、SCPVUTAT処理後にp53-Ser15の特異的リン酸化が得られた。HUを用いて処理した場合にも、p53‐Ser15のリン酸化が誘導され、同一の結果が見られたが、一貫して強い傾向にあった。このインビボでのリン酸化は、ATM/ATR阻害物質であるカフェインに対して過敏である;AT-5細胞を2mMカフェインと共にインキュベートして、SCPVUTATまたはHU処理しても有意なp53-Ser15のリン酸化は示さない(図7C)。本発明の目的に応じて、ATMの基質をリン酸化する他の実施例として、ヒストンH2AX Ser139リン酸化の分析を行った。それにより、細胞周期のS期およびG2期中の放射線照射によって惹起されたDNA損傷に迅速に応答して、ATMがヒストンH2AX Ser139をリン酸化することが示された。U2OS細胞をSCPVUTATで60分間処理した後に、固定化してヒストンH2AX Ser139のリン酸化を分析した。細胞を、ヒストンH2AXにおけるリン酸化-Ser139に対する特異抗血清を用いて分析し、単一細胞レベルで顕微鏡観察して分析した。コントロールとしてヒストン2Bを分析した。その結果、SCPVUTAT処理によって、ヒストンH2AX Ser139のリン酸化が迅速に誘導され、かつ、この活性が処理細胞の核内に特異的に局在する形で検出されるが、未処理細胞では検出されないことが示されている(図12)。さらに、ATMキナーゼ阻害剤であるウォルトマンニン(50μM)は、この反応の拮抗剤である。用いたウォルトマンニン濃度は、ATMに対して特異性を示したがATRを阻害しなかったため、これら2つのキナーゼを区別する簡便な検定法を表している。このタイプの実験では、ATM経路の基質を分析して、SCPVUTATにより惹起されるDSBによって誘導される生化学的分子ターゲットを明らかにできる。本発明により処理された細胞または細胞抽出物におけるウェスタン−ブロット法、免疫蛍光分析、または酵素学的検定によって、ATMキナーゼの基質を生化学的および/または免疫学的に分析することは、各経路における正常な誘導と比較して、特定の細胞についていの、インビボでのチェックポイント応答の状態を説明するのに有効である。
【0117】
さらに、これらの検定法は、本発明と併せて自動スクリーニングに用いるのに有効であり得る。本発明によりDNA中に生じた損傷の性質を正確且つより詳細に規定できるため、同様の検定タイプに従来から用いられている他の化合物に対して優れている。一回の検定またはハイスループットスクリーニングに本発明を使用すれば、副次的効果や多面的(pleotropic)効果を考慮する必要がほとんどなく、複合スクリーニングの成功に本質的な条件が必要なだけである。これらのタイプの実験で得られるデータは、DSBにより誘起される効果と同等と考えることができる。さらに、SC34のようなヌクレアーゼ活性を示さない突然変異タンパク質誘導体を利用することで、これらの検定法に対する重要なコントロールが提供される。
【0118】
実施例8
SCPVUTATに誘起されるATMおよびp53由来の効果の依存性
一般に、DNA損傷において、制御機構(チェックポイント)に相当する成分における突然変異は、細胞周期を抑制する特徴に変化をきたし、多くの場合、これらの突然変異がガンの疾病素質を決定付ける。
【0119】
一方、DNA修復にエフェクター分子として関与するタンパク質は、一般的に、細胞周期を正常に抑制するが、主にチェックポイント成分の欠陥と組み合わさった場合にのみ腫瘍進行を惹起し、腫瘍の疾病素質に対して相乗効果を頻繁に示す。エフェクター分子中の突然変異はDSBに対して特に過敏であり、チェックポイントの突然変異の場合には見られない顕著な特徴を示す。本発明のタンパク質が単一特異性を有するため、DSBに対する感受性や細胞周期における影響を、導入された損傷に対する端的な結果として説明することができる。実際に、欠損が細胞周期機構(チェックポイント)の成分または修復装置に生じた場合には、それを評価することができる。
【0120】
SCPVUTAT処理によって導入されたDSBに対する細胞周期応答を、p53ポジティブまたはネガティブ細胞において分析した。p53ポジティブ細胞の場合は、S期の値が低くなり、G1およびG2期において細胞周期抑制の働きが見られるが、p53ネガティブ細胞の場合には細胞周期を抑制する特徴は見られない。さらに、このタイプの結果はp53の下流因子についても得られた。p21中の突然変異はp53マイナス細胞に相当する挙動を示し、また、14-3-3シグマ中の突然変異についてはG1停止した。これにより、このタンパク質がp53と部分的にオーバーラップしており、さらに、細胞周期のG2期のみ制御する働きを担っていることが分かる。最終的には図8Aに示すように、SCPVUTATを用いて処理した後に突然変異体AT−5を分析した。ATMの突然変異細胞系(AT-5)をSCPVUTATと共に36時間インキュベートすることで細胞周期を過渡的に遅延させることができるが、これはDNA量のFACS分析により決定した。AT-5細胞では4N G2のDNA量に大きな増大が見られたが、G1遅延が全く見られなかったことから、G1チェックポイントにおける複合欠損が示された。重要なことに、ATMポジティブ細胞系と異なり、24時間経過してもG2遅延が解消せず、細胞周期に再び戻ることはなかった(図5を参照のこと)。AT-5細胞に60分間SCPVUTATを一回加えることで、24時間後の細胞周期停止を誘起させるのに十分であり(図8A)、最終的には、不正確なDNA連結によって細胞死が引き起こされ、その結果として、60分間のSCPVUTAT一回処理後のコロニー形成活性はAT-5細胞の0.02%以下となる。この検定において、ATMポジティブコントロール細胞系MRC-5では、SCPVUTAT処理に対して感受性は低かった(図8B)。加えて、コントロールとして、細胞をアドリアマイシンと共にインキュベートした。突然変異ヌクレアーゼ変異型で処理した場合に、未処理と同等の効率でコロニーが形成されたため、この効果はSCPVUTATのエンドヌクレアーゼ活性によるものであった。これらの実施例で、種々の突然変異細胞がSCPVUTAT処理に応答して厳密な細胞周期プロファイルを示すことに加え、その特徴がDSBによる細胞周期の欠損を診断するのに利用できることを実証している。
【0121】
実施例9
NHEJ(非相同末端再結合)修復経路に欠陥のある細胞に対するSCPVUTATタンパク質の診断能力を評価する。
NHEJは、相同組換え修復が頻繁に見られる下等真核生物と異なり、高等真核生物における二本鎖DNA切断修復に対する主要な機構を表す。このシステムに関与するタンパク質は、V(D)J免疫グロブリン組換えの最終段階にも関与する。本発明タンパク質が特定の様式でNHEJ酵素も活性化するかどうかを確かめるため、この経路に必須の要素の1つに個別に変異を有する齧歯細胞系を分析した。
【0122】
図9および図13にまとめるコロニー形成分析において、本発明タンパク質SCPVUTATによる1回の処理で、分析したNHEJ変異細胞系すべてにおいてコロニー形成活性を大きく低下させるのに十分であることが確認できる。
【0123】
本発明のDSB修復の特異性を実証するため、DSBのNHEJ修復に関与する必須要素の1つに機能性の変異を有する同型接合欠損を含む、齧歯類の細胞を用いた:DNA依存性プロテインキナーゼの調節サブユニットを含むPIKKサブユニット触媒ドメイン(DNA-PKcs; V3細胞系、相当する親細胞系AA8)、DNA依存性プロテインキナーゼKu70の調節サブユニット(HIS P1.13‐11;相当する親細胞系CHO−K1)、サブユニットKu80(xrss5;相当する親細胞系AA8)およびDNAライゲースIV調節サブユニットXRCC4(XR-1細胞系;相当する親細胞系AA8)。これらの細胞系を、インビボでSCPVUTATを用いたヌクレアーゼ活性検定で分析し、表示の親細胞系と比較した。さらに、これらNHEJ変異細胞をSCPVUTAT用いてコロニー形成、コロニー−副産物(outgrowth)検定で試験したが、検定は濃度10nM(灰色棒)または75nM(黒棒)のSCPVUTATを1回添加して、あるいはタンパク質処理を行わず(未処理、白棒)12時間経過した後に行った。添加の7〜10日後に、ギムザ−ブルーを用いて染色して細胞増殖を分析して、種々の細胞濃度を定量した。個々の実験で得られた結果を図9にまとめた。DNAライゲースIVのXRCC4サブユニットに変異がある細胞は、SCPVUTATによって導入された平滑末端DSBに非常に敏感であり、さらに興味深いことに、検査したDNA-PKに変異を有する細胞はすべて、触媒サブユニットに変異を有しているため、コロニー形成検定において同様に大きな低下を示す。親細胞と対照的に、hMLH1タンパク質をコードする遺伝子にホモ接合変異を示すHCT116のような、不適合修復経路に既知の欠損を含む細胞については、SCPVUTAT処理に対して同様の検定を行っても感受性に増加は全く見られない。
【0124】
さらなる実施例において、DNA-PKcsに欠損があるヒト膠芽腫細胞系(MO059J)をSCPVUTATで処理し、親細胞系MO59Kと比較した。同様に、SCPVUTAT(10nM、灰色棒;75nM、黒棒;未処理、白棒)で1回処理して12時間後に、細胞増殖を定量した。さらに、ヒトDNA-PKcs変異細胞もまたSCPVUTAT処理に応答して感受性に顕著で特異な増大を示す(図13A、B)。これらの細胞をマルチウェル−マイクロタイタープレートに種々の濃度で植え、表示のSCPVUTATを用いて処理してギムザ−ブルー染色を行った。マルチウェルーマイクロタイター−プレート(実施例については図13Aを参照のこと)をVersaDOC(バイオラッド)イメージングシステムを使用してスキャンし、その生育をマイクロタイター−プレート分析用のソフトウェア・パッケージ・Quantify One(マイクロタイター−プレート・スキャニング・ソフトウェア)を用いて自動的に定量した。得られたデータをさらにヒストグラムにまとめ、その概要を図13に示す。DNA-PKcsに変異のある齧歯類の細胞系と、SCPVUTAT処理に対して過敏であると実証されたヒト細胞系から得られた結果とが一致していることから、DSBの導入にSCPVUTATが高い特異性を有していることが認められる。これらの実施例で、半自動または完全自動検定への応用を含めて、使用したシステムの実行可能性が実証された。
【0125】
実施例10
DSB誘導ストレスに対する共同剤または拮抗剤の候補化合物のスクリーニングに関する検定
U2OS細胞を10nMのSCPVUTATを単独で、また10μMのHを単独で、あるいは組み合わせて用いてインキュベートし、細胞周期プロファイルをFACSにより分析した。10μMのHを単独で用いた場合にはG2期には増大は見られず、また10nMのSCPVUTATを単独で用いた場合にはG2期にも20%から28%というわずかな増大しか得られなかったのに対して、細胞を2種類の成分を同時にインキュベートすることで、G2期に対応するピークを20%から45%に大きく増大させ、細胞周期プロファイルに特異で大きな増大変化をもたらした(図11A、図11Dと比較して)。単一の成分をインキュベートして得られた結果に基づいて、両方の化合物を同時にインキュベートすることで、細胞周期の変動に相乗効果のあったことが明らかに示される。
【0126】
次に、同様の実験として、SCPVUTATタンパク質をアフィジコリン(DNA挿入剤およびトポイソメラーゼII阻害剤)と一緒にインキュベートしたが、相乗効果は見られず、単に両成分の効果が加算されるだけであった。再度、本発明タンパク質により平滑末端DSBが導入された細胞系に対する相乗作用および拮抗作用の検出に使用できるこの検定の簡便性を実証した。上記のように、この検定の利点は、導入されるDNA損傷が単一特異的であることと、ヌクレアーゼ欠損SC34タンパク質を用いた系でバックグラウンドを測定可能なこと、さらに、事実上全ての細胞およびどの細胞周期においてもこの検定は非常に迅速に且つ簡便に用いることができることである。このことは、インビボでDSBを導入できる他の試薬については、これまで記載されていなかった。したがって、ラジカルおよびカフェインについて示したこのタイプの検定において、DNA修復経路およびその制御を阻害する組成物をタイプごとにスクリーニングするのに用いることができる。
【0127】
実施例11
神経芽腫おけるSCPVUTAT処理によるアポトーシス誘導
分析した上皮細胞および間葉由来細胞の多くはSCPVUTATで処理してもアポトーシスを起こさなかったが、いくつかの神経芽腫細胞系(IMR32、LAN5、GI-LIN)やクリニックから単離された種々の初代神経芽腫細胞で、顕著なアポトーシスが誘導された。図10では、これらの細胞における、本発明タンパク質によるアポトーシス誘導の実施例を示す。この分析では、細胞をプロピジウムJ染色した後にFACSを用いて、そのDNA量を分析した。アポトーシス細胞(A)は、2N以下のDNA量を示す細胞として検出される。計算した領域は、各ヒストグラムの頂点にある矢印で示される対応範囲である。10nMのSCPVUTATを添加した場合には30時間内に素早くアポトーシス細胞が18%誘導され(図10B)、また、100nMのSCPVUTATを添加した場合にも、同じ時間単位でアポトーシス細胞が29%以上も誘導されたのに対し(図10C)、ヌクレアーゼ欠損変異体SC34はそのような影響は見られなかった。これらの実験で、神経芽腫細胞でアポトーシスが非常に特異的に誘導されることが実証され、本発明タンパク質がこのタイプの腫瘍の治療処置についての最有力候補として利用できることが実証された。
【0128】
さらに、組織特異的輸送システムと組み合わせることで、本発明の目的である配列に、神経芽腫治療についての候補物質として十分な特異性を含ませることができる。実際、本発明は組織特異的な輸送配列をスクリーニングするプラットフォーム技術として応用でき、今後に対して有効な含みを有している。
【0129】
加えて、既に上記の実施例(実施例8)で予想したように、本発明は、標的細胞において、特に腫瘍由来の悪性細胞またはそうでない細胞において、または同一個体の正常細胞の下層範囲において、別個に特定のアポトーシスを誘導することのできる特定のリード化合物または特定の混合物をスクリーニングするのに用いることもできる。
【0130】
実施例12
免疫顕微鏡分析によるSCPVUTAT処理後の細胞周期タンパク質の細胞局在。
HCT116(p53(+/+))を未処理、またはSCPVUTAT(100nM)もしくはタキソール(0.2μg/ml)で30時間処理して、3% PFAを用いて固定化した後、サイクリンB1またはCdc25cに対する特異抗体を用いて処理した。サイクリンB1に特異的な1次抗体に結合するFITC標識化2次抗体(緑)か、またはCdc25Cに特異的な1次抗体に結合するTRITC標識化2次抗体(赤)を用いて、顕微鏡により免疫蛍光分析した(図14を参照のこと)。SCPVUTAT処理後の4N DNA量の細胞から分かる細胞周期マーカー Cdc25CおよびサイクリンBの細胞質分布により、G2期の停止と、処理した細胞が細胞周期のM期に進行しないことが実証された。
【0131】
この結果は、細胞周期のM期で停止したことを示す顕著な核分布を表す、タキソールを用いた場合に得られる結果と異なっている。
【0132】
2つのマーカータンパク質の特定の分布に変化、すなわち、不活性型サイクリンBキナーゼの細胞質分布に対して、細胞周期を次の分裂後期に進行させる活性型サイクリンBキナーゼの核内局在を示すといった変化が生じ、続いて、cdc2/サイクリンBキナーゼはホスファターゼCdc25C(Cdc25Cから14-3-3タンパク質が放出されて、このホスファターゼは活性化する)によって脱リン酸化されて活性化されることが、G2期/M期移行の顕著な特徴である。実際に、この経路は細胞周期のこの時期における律速段階である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.特定のヌクレオチド配列に対してアフィニティーを示すポリペプチド
b.DNA修飾酵素
c.細胞内輸送活性を有する領域
を含むキメラポリペプチド。
【請求項2】
領域a.、b.およびc.が互いに共有結合されている請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
細胞内輸送活性がペプチド、ポリペプチド、脂質および炭水化物からなる群から選択される請求項2記載のポリペプチド。
【請求項4】
DNA修飾酵素がメチラーゼ、アセチラーゼ、エンドヌクレアーゼおよびトポイソメラーゼからなる群から選択される請求項3記載のポリペプチド。
【請求項5】
DNA修飾酵素が制限エンドヌクレアーゼである請求項4記載のポリペプチド。
【請求項6】
制限エンドヌクレアーゼが、クラスII型またはそのサブユニットもしくは機能性フラグメント由来である請求項5記載のポリペプチド。
【請求項7】
ポリペプチドa.およびポリペプチドb.の活性が同一分子内にある請求項5および6記載のポリペプチド。
【請求項8】
特定のヌクレオチド結合活性を有するポリペプチド、および酵素的DNA修飾活性を含むポリペプチドが、制限エンドヌクレアーゼまたはそのサブユニットもしくは機能性フラグメントである、請求項6および7記載のポリペプチド。
【請求項9】
制限エンドヌクレアーゼが、EcoRV、PvuII、HinfIおよびそれらのサブユニットおよび機能性フラグメントからなる群より選択される、請求項5〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項10】
エンドヌクレアーゼ活性は修飾されているが、核酸結合の特異性は天然酵素と同等である請求項5〜9のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項11】
細胞内輸送領域が、単純ヘルペスウイルスのVP22、HIV−1のTat、Hiv−1のRev、アンテナペディアホメオドメイン、およびそれらのフラグメントからなる群から選択されるペプチドを少なくとも1つ含む、請求項1〜10のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項12】
ペプチドYGRKKRRQRRR、またはその点突然変異体もしくは機能性突然変異体を含むHIV−1 Tatプロテインから派生した請求項11記載のポリペプチド。
【請求項13】
特定のヌクレオチド結合アフィニティーを備えたポリペプチドであって、そのDNA修飾酵素がEcoRV、PvuIおよびHinfI、またはそれらのサブユニットもしくは機能性フラグメントから選択されるクラスII制限エンドヌクレアーゼをコードする一本鎖ポリペプチドにより表わされ、その細胞内輸送機能がHIV−1 tatのアミノ酸配列に含まれるペプチドである、請求項8〜12のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項14】
制限エンドヌクレアーゼのサブユニットが、一本鎖のタンパク質として共有結合している請求項13記載のポリペプチド。
【請求項15】
配列番号:2(SCPVUTAT)を含む請求項14記載のポリペプチド。
【請求項16】
非天然アミノ酸を含む請求項1〜15のいずれかに記載のキメラポリペプチド。
【請求項17】
請求項5〜15のいずれかに含まれるポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項18】
配列番号:1を含む請求項17記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項19】
請求項17〜18のいずれかに記載のポリヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項20】
請求項19に記載のベクターで形質転換された細胞。
【請求項21】
治療上使用するための、請求項1〜16のいずれかに記載のポリペプチド、請求項17または18記載のポリヌクレオチド、請求項19記載のベクター、請求項20記載の細胞。
【請求項22】
適当な賦形剤、乳化剤または希釈剤と組み合わせた、有効成分として請求項1〜16のいずれかに記載のポリペプチドを含む医薬組成物。
【請求項23】
腫瘍性疾病または該疾病の疾病素質の予防用、治療用または診断用医薬の調製のための、請求項21記載のキメラ分子、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞の使用。
【請求項24】
請求項1〜16のいずれかに記載のキメラポリペプチドを用いて単離された細胞を処理することを本質的に含む、単離された細胞のゲノム中の特定部位を修飾する方法。
【請求項25】
請求項5〜16のいずれかに記載のキメラポリペプチドの使用に基づく方法であって、単離された細胞のゲノム中の特定部位に導入される修飾がDNA二本鎖切断である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
i)請求項6〜16のいずれかに記載のキメラポリペプチドと共に単離された細胞をインキュベートする
ii)任意にラジカル生成基質を存在させて、組成物を添加または組成物を回収する(ライブラリー)
iii)細胞応答を特徴づけおよび/または測定する
ことを本質的に含む、細胞システムにおけるゲノム修復活性を調節でき、または細胞周期の制御およびチェックポイントの活性を調節できる組成物のスクリーニング方法。
【請求項27】
請求項24および25記載の方法を使用し、または請求項5〜16のいずれかに記載のキメラポリペプチドを使用し、インビトロでDNA修復およびチェックポイント機構を活性化する方法。
【請求項28】
以下の工程:
a)試験サンプルの単離された細胞の任意培養、
b)適当なリファレンス細胞系を並行して用いることある、請求項5〜16のいずれかに記載のキメラポリペプチドを用いる単離された細胞のインキュベート、
c)細胞応答の特徴づけおよび/または測定、
を本質的に含む、インビトロでのDNA修復および細胞周期の制御およびチェックポイント経路における遺伝的欠陥を診断する方法。
【請求項29】
細胞応答が、コロニー形成活性、リン酸化の状態、または細胞内タンパク質から成る生化学マーカーの発現レベル、それらタンパク質の核もしくは細胞質レベルの局在、細胞集団の総DNA量、細胞増殖から選択される、請求項26および28のそれぞれポイントiii)およびc)に記載の方法。
【請求項30】
細胞内タンパク質が、p53、ATM、Chk1、Chk2、BRCA−1、BRCA−2、Nbs1、Mre11、Rad50、Rad51およびヒストンからなる群から選択される請求項29記載の方法。
【請求項31】
腫瘍に対する遺伝的疾病素質のインビトロ診断、または放射線感受性に対する診断のための請求項29および30記載の方法。
【請求項32】
単離された細胞において細胞周期の停止を誘導するための、請求項5〜16のいずれかに記載のキメラ分子の使用。
【請求項33】
神経芽腫由来の単離された細胞においてアポトーシスを誘導するための、請求項5〜16のいずれかに記載のキメラ分子の使用。
【請求項34】
特異的DNA結合活性を示すがヌクレアーゼ活性が損なわれているコントロール用のキメラポリペプチドを含むチューブと併用する、請求項5〜16のいずれかに記載のキメラポリペプチドを含む、離された細胞でのDNA修復システムまたは細胞周期の制御システム(チェックポイント)における遺伝的欠陥の診断用キット。
【請求項35】
請求項5〜16のいずれかに記載のキメラポリペプチドが配列番号:2を有し、コントロール用のキメラポリペプチドがポリペプチドSC34である、請求項34記載のキット。
【請求項36】
単離された細胞において腫瘍に対する疾病素質を決定する、遺伝的欠陥をインビトロ診断するための請求項35記載のキット。
【請求項37】
腫瘍の放射線感受性を診断するための請求項35記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−182792(P2011−182792A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51784(P2011−51784)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【分割の表示】特願2006−505169(P2006−505169)の分割
【原出願日】平成16年4月16日(2004.4.16)
【出願人】(510032427)アドリアセル・ソシエタ・ペル・アチオニ (1)
【氏名又は名称原語表記】ADRIACELL S.p.A.
【Fターム(参考)】