説明

キャパシタ用電極及びその製造方法、キャパシタ

【課題】仕事関数値が高く、熱耐性がある低抵抗なキャパシタ用電極を提供する。
【解決手段】互いに対向する第1面及び第2面を有するキャパシタ用電極であって、酸素原子及び窒素原子を含有し、厚み方向における第1面と第2面の間に酸素原子の濃度が最大値を示す位置Aを有し、窒素原子は位置Aよりも第1面側にのみ存在することを特徴とする、キャパシタ用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高誘電率膜を有するキャパシタ用電極及びその製造方法、並びにキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DRAMでは微細化が進んでおり、F40nm世代(設計ルール40nm以降の世代)では、キャパシタ用の誘電体膜として高誘電率膜が必要となっている。そこで、現在、その有力候補としてSrTiO3等が提案されている。
【0003】
一方、従来から、キャパシタ用電極としてTiN/Ti電極が使用されているが、誘電体膜として上記のような高誘電率膜を使用すると、誘電体の伝導帯と電極のフェルミエネルギー間のバンドオフセットが小さくなる。このため、ショットキー伝導によりリーク電流が増大してしまうという問題があり、TiN/Ti電極を、高誘電率膜を有するキャパシタへ使用することは困難であった。そこで、高誘電率膜を有するキャパシタ用の電極としては仕事関数値の高い電極が必要とされ、近年、電極材料の検討が行われている。
【0004】
例えば、仕事関数の最も高い材料としてPtを挙げることができる。しかし、Ptは加工性に乏しく、DRAM等の半導体装置を作製する上で実用性に乏しく、加工性に富んだ電極材料を用いる必要がある。このため、Pt以外の電極材料での開発が行われている。
【0005】
非特許文献1には、Ru/SrTiO3/Ruの、MIM構造(Metal−Insulator−Metal;上下の電極を金属膜で形成したキャパシタ構造)を有するキャパシタが開示されている。この非特許文献1のキャパシタでは、Ru/SrTiO3/RuのMIM構造を作製後、熱処理をすることにより、キャパシタ(SrTiO3)の結晶性を向上させてリーク電流値を減少させている。
【0006】
特許文献1には、高誘電率膜を用いたキャパシタ用電極が開示されている。非特許文献2では、下部電極として導電性酸化物/バリアメタル/sub(Substrate;半導体基板)を形成し、この上に高誘電率膜を積層する。次に、この高誘電率膜/導電性酸化物/バリアメタル/sub構造の高誘電率膜上に、上部電極としてバリアメタル/導電性酸化物を形成している。従って、非特許文献2のキャパシタの構造は、バリアメタル/導電性酸化物/高誘電率膜/導電性酸化物/バリアメタル/subとなる。ここで、上記導電性酸化物としてはRuOxなどが使用され、バリアメタルとしてはRuNなどの窒化物が使用されている。
【非特許文献1】C.M.Chu,et.al.,Symp.On.VLSI Tech,Dig.,2001,T4B−3
【非特許文献2】Electrodes for high dielectric constant materials,Patent Number,US−5520992
【特許文献1】米国特許第5520992号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1で使用されている電極材料のRuは酸化しやすい材料であり、抵抗率とともに仕事関数が変動して不安定な(熱耐性が悪い)ものとなっていた。従って、キャパシタ用電極としてRu単膜を用いる限り、リーク電流値の低減には限界があり、仕事関数が高く安定な電極材料が要望されていた。
【0008】
また、特許文献1で導電性酸化物として使用されているRuOxは、Ru金属と同程度の仕事関数を示し(〜5.1eV)、このような導電性酸化物は膜中の酸素欠損により伝導が起こっていた。このため、膜中の酸素濃度により抵抗率と共に仕事関数も変動することとなっていた。そして、キャパシタ用の高誘電率膜を形成する際、性能向上を図る目的で熱処理を加える必要があるため、この熱処理時にRuOxは酸素濃度が変化することにより抵抗率、仕事関数が変化して、非常に熱耐性が悪いものとなっていた。
【0009】
以上より、従来、提案されているキャパシタ用電極は、仕事関数が高く熱耐性を有する低抵抗な電極材料ではなかった。
そこで、本発明者は鋭意検討した結果、キャパシタ用電極を、酸素原子と窒素原子を特定の濃度分布で分布させた膜とすることにより、仕事関数が高く、且つ熱耐性のある低抵抗な電極材料として使用可能なことを発見した。すなわち、本発明は、仕事関数値が高く、熱耐性を有する低抵抗なキャパシタ用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、
互いに対向する第1面及び第2面を有するキャパシタ用電極であって、
酸素原子及び窒素原子を含有し、
厚み方向における前記第1面と第2面の間に、前記酸素原子の濃度が最大値を示す位置Aを有し、
前記窒素原子は、前記位置Aよりも第1面側にのみ存在することを特徴とする、キャパシタ用電極に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、仕事関数値が高く、熱耐性を有する低抵抗なキャパシタ用電極を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.キャパシタ用電極
本発明は、キャパシタ用の誘電体膜に接する第1面と、第1面に対向する反対側の第2面と、を有するキャパシタ用電極に関する。このキャパシタ用電極は、酸素原子及び窒素原子を含有する。そして、厚み方向における第1面と第2面の間に酸素原子が最大濃度を示す位置Aを有し、窒素原子は、この位置Aよりも第1面側にのみ存在するという特徴(以下、この窒素原子と酸素原子の組成分布を「組成プロファイル」と記載する。)を有する。この位置Aは、第1面及び第2面と平行な面状に存在する。
【0013】
本発明のキャパシタ用電極は、このように特定の組成プロファイルを有することにより、熱負荷によっても仕事関数及び抵抗率が変化せず、熱耐性を向上させることができる。この結果、リーク電流値が低く、微細化を図った場合にも安定してキャパシタ用電極として動作可能となる。特に、酸素原子の濃度が最大値を示す位置Aよりも第1面側にのみ窒素原子が存在することによって、キャパシタ用電極の、キャパシタとの界面近傍を仕事関数が高く熱的に安定な物質とすることができ、リーク電流を抑制することができる。また、例えば、キャパシタ製造時に、本発明のキャパシタ用電極上に誘電体膜を形成する際、高温で処理をした場合であっても、キャパシタ用電極の熱耐性が高く、仕事関数及び抵抗率の変化を防止することができる。
【0014】
キャパシタ用電極の総膜厚は5〜20nmが好ましい。位置Aは第1面側からその厚み方向に2〜7nmの位置に存在することが好ましい。位置Aでの酸素濃度は40〜70atm%であることが好ましい。また、窒素原子は第1面側からその厚み方向に0〜2nmの位置に存在することが好ましい。
【0015】
図6は、本発明のキャパシタ用電極の一例を模式的に示したものである。このキャパシタ用電極は、キャパシタ用の誘電体膜に接する第1面1とこの第1面1に対向する反対側の第2面2とを有する。そして、酸素原子及び窒素原子を含有し、厚み方向5において、この第1面1と第2面2の間の領域中に酸素原子濃度が最大となる位置A(符号6)を有する。この位置Aは、第1面1及び第2面2に平行な面状となっている。また、窒素原子は、この位置A(符号6)よりも第1面側(図6中のグレーの部分)にのみ存在する。
【0016】
なお、本発明のキャパシタ用電極は、複数の層から構成し、各層の酸素原子濃度及び窒素原子濃度を調節することによって上記組成プロファイルを形成しても良い。また、キャパシタ用電極は上記組成プロファイルを有する単一の層としても良い。更に、窒素原子は、第1面1と位置A(符号6)の間の全ての領域中に存在しても、一部の領域にのみ存在しても良い。
【0017】
本発明のキャパシタ用電極は、シリコン基板と、Ru膜と、RuOx膜と、RuON膜とをこの順に有し、Ru膜はシリコン基板に接する第2の面を有し、RuOx膜は位置Aを有し、RuON膜はRuOx膜に接する面と反対側の面として第1の面を有し、且つ窒素原子を含有することが好ましい。なお、本明細書において、「RuOx膜」とは、Ru原子及びO原子を含有し、N原子を含有しない膜を表す。また、「RuON膜」とは、Ru原子、O原子及びN原子を含有する膜を表す。
図2(d)は、このキャパシタ用電極の一例を表したものである。
【0018】
また、図1は、図2(d)のキャパシタ用電極の、厚み方向の窒素原子と酸素原子の組成分布の一例を示したものである。なお、図1において、膜厚0nmの位置はキャパシタ用電極が誘電体膜と接する第1面、膜厚約10nmの位置はキャパシタ用電極の第2面を表す。図1においては、膜厚が0〜約4nmまでの部分がRuON膜、膜厚が約4〜8nmまでの部分がRuOx膜、膜厚が約8〜10nmまでの部分がRu膜となっている。図1より、このキャパシタ用電極は膜厚約4.2nmの位置が、酸素濃度が最大値となる位置Aであることが分かる。また、膜厚約4.2nmの位置Aと第1面(膜厚0nm)の間の領域のみに窒素原子が存在することが分かる。
【0019】
また、図1では、窒素原子と酸素原子の組成分布は、高分解能RBS(High Resolution Rutherford Backscattering Spectrometry:高分解能ラザフォード後方散乱法)を用いて測定した。この測定条件、測定方法及び解析方法を以下に示す。
(測定条件)
入射イオンエネルギー:300keV、イオン種:He+、入射角:試料の面方向に垂直な法線に対して45度、試料への印加電流:25nA、照射量:90μC
(測定方法)
試料の面方向に垂直な法線に対して45度の角度で、入射エネルギー300keVのHe+を試料に照射し、散乱されたHe+を設定散乱角で偏向磁場エネルギー分析器により検出した。
(解析方法)
(1)酸素の高エネルギー側エッジの中点を基準にして横軸のチャンネルを散乱イオンエネルギーに変換する。
(2)システムバックグラウンドを差し引く。
(3)酸素のバックグラウンドを直線により差し引く。
(4)窒素のバックグラウンドを、窒素を含有しない試料のシグナルにより見積もり差し引く。
(5)シミュレーションフィッティングにより深さ方向の濃度プロファイルを求める。
【0020】
また、図4及び5は、従来のRuOx膜と、本発明のキャパシタ用電極に、主に誘電体膜の形成時に負荷する温度である300〜550℃の熱処理を行った際の、仕事関数と抵抗率の変化を示した図である。なお、従来のRuOx膜と本発明のキャパシタ用電極は10nm未満の同じ膜厚とした。また、従来のRuOx膜は窒素原子と酸素原子の濃度が膜内で均一となっており、O/Ru比は1.5〜2.0となっている。一方、本発明のキャパシタ用電極は、Ru膜と、RuOx膜と、RuON膜とをこの順に有し、RuOx膜は位置Aを有し、RuON膜は窒素原子を含有している。
【0021】
また、図4において、仕事関数は紫外光ケルビンプローブ装置を用いて算出し、紫外光を照射した時の励起光電子を測定して試料の仕事関数の校正を行った。図5において、抵抗率の測定には三菱化学製ロレスターGP、MCP−T6000を用い、JIS−R−1637に従って四端子法により求めた。
【0022】
図4に示されるように、従来のRuOx膜では、熱処理温度が300から550℃まで変化すると徐々に仕事関数が低下し、特に400℃より高温では急激に仕事関数が低下していることが分かる。これに対して、本発明のキャパシタ用電極では、熱処理温度に関わらず、仕事関数がほぼ一定であり高い熱耐性を有していることが分かる。
【0023】
また、図5に示されるように、従来のRuOx膜では、熱処理温度が300から550℃まで変化すると徐々に抵抗率が増加し、特に400℃より高温では急激に抵抗率が増加していることが分かる。これに対して、本発明のキャパシタ用電極では、熱処理温度に関わらず、抵抗率がほぼ一定であり高い熱耐性を有していることが分かる。
【0024】
このように、上記のRu膜と、位置Aを有するRuOx膜と、RuON膜とをこの順に有するキャパシタ用電極において、仕事関数が高く熱耐性に優れたものとし、抵抗率を熱耐性に優れた低いものとできる理由は、以下のように考えられる。すなわち、Ru単体よりもRu中に酸素を導入したRuOxを形成することにより仕事関数を高くすることができる。しかし、この反面、RuOxは耐熱性が低く、熱処理などにより容易にRuO4となって揮発する。このRuOxの熱的不安性は、RuOx中に酸素欠損があり、これが容易に酸化されるためと考えられる。そこで、RuOx膜の他方の面に、RuOxを窒化して酸素欠損をなくしたRuON膜を設けることによって、この揮発を防止して熱耐性に優れたものとすることができる。また、RuONはRuOxよりも仕事関数が高いため、このようにRuON膜を設けることによってキャパシタ用電極全体の仕事関数を更に高くすることができる。更に、RuOx膜の他方の面に、キャパシタ用電極の所望の特性に応じてRu膜を設けることによって、このRuOxの揮発を防止して熱耐性に優れたものとすることができる。
【0025】
一方、RuON膜は熱耐性に優れると共に仕事関数が高いため、全てRuON膜から構成したキャパシタ用電極を考えることができる。しかしながら、キャパシタ用電極を全てRuON膜から構成するとキャパシタ用電極全体の仕事関数を高くすることができるものの、RuONはRuOxよりも抵抗率が高いためキャパシタ用電極全体の抵抗率が高くなってしまう。この理由は、RuOxは酸素欠損によりキャリアを生成するためこれにより電気伝導が起こるが、RuON膜では窒化によりこのキャリアがなくなるためと考えられる。
【0026】
そこで、キャパシタ用電極全体の抵抗率と仕事関数及び熱的安定性の兼ね合いから、Ru膜と、位置Aを有するRuOx膜と、RuON膜とをこの順に有するキャパシタ用電極とすることによって、仕事関数値が高く、熱耐性を有する低抵抗なキャパシタ用電極とすることができる。
【0027】
このRu膜と、位置Aを有するRuOx膜と、RuON膜とをこの順に有するキャパシタ用電極において、Ru膜の膜厚は1〜3nmが好ましい。また、RuOx膜の膜厚は3〜6nmが好ましい。RuON膜の膜厚は0.1nmを超え、4nm以下であることが好ましい。
RuOx膜中のRu、Oの平均組成の範囲は1<O/Ru<2であることが好ましい。また、RuON膜中のRu、O、Nの平均組成の範囲は5<N/(N+Ru+O)<30、1<O/(Ru+O)<2であることが好ましい。
【0028】
2.キャパシタ用電極の製造方法
本発明のキャパシタ用電極の製造方法は、以下の工程を有する。
(1)シリコン基板上にRu膜を形成する工程、
(2)Ru膜上にRuOx膜を形成する工程、
(3)RuOx膜上にRuON膜を形成する工程。
【0029】
このように少なくとも3段階に分けてRu膜、RuOx膜、及びRuON膜を成膜することにより、所望の組成プロファイル及び特性を有するキャパシタ用電極を安定して高精度で成膜することができる。なお、工程(2)では、Ru膜上に新しくRuOx膜を形成しても、既に工程(1)で形成したRu膜の一部をRuOx膜としても良い。同様に、工程(3)では、RuOx膜上に新しくRuON膜を形成しても、既に工程(2)で形成したRuOx膜の一部をRuON膜としても良い。
【0030】
また、工程(1)は、
ALD(Atomic Layer Deposition)法によって下記工程(1a)〜(1d)を1サイクルとして複数回のサイクルを実施することによりシリコン基板上にRu膜を形成する工程であることが好ましい。
【0031】
(1a)シリコン基板上にRu原料ガスを供給してシリコン基板上にRu膜を形成する工程、
(1b)Ru原料ガスをパージする工程、
(1c)Ru膜上にO2ガスを供給する工程、
(1d)O2ガスをパージする工程。
【0032】
このように工程(1)を、ALD法により複数のサイクルにより形成することによって、高精度で薄膜の電極を安定して製造できる。また、工程(1c)でRu膜上にO2ガスを供給する理由は、Ru膜の形成時に生成した有機物を除去するためである。
【0033】
なお、「ALD(Atomic Layer Deposition)法」とは、第1の原料ガスを供給して成膜、パージを行った後、第2の原料ガスを供給して第1の原料と第2の原料を反応させ、次に第2の原料ガスをパージする方法を、1サイクルとする方法である。このALD法では上記1サイクルにより、1原子又は1分子の層を形成することができる。
【0034】
また、工程(2)及び(3)は、下記第一の方法又は第二の方法により実施することが好ましい。
第一の方法:
工程(2)において、
Ru膜上にO3ガスを供給し、Ru膜を構成するRuの一部とO3を反応させることによりRu膜上にRuOx膜を形成し、
工程(3)において、
RuOx膜上にNH3ガスを供給し、RuOx膜を構成するRuOxの一部とNH3を反応させることによりRuOx膜上にRuON膜を形成することが好ましい。
第一の方法の工程(2)では、工程(1)で予め形成したRu膜の一部がRuOx膜となる。また、第一の方法の工程(3)では、工程(2)で形成したRuOx膜の一部がRuON膜となる。
【0035】
第二の方法:
工程(2)は、
ALD(Atomic Layer Deposition)法によって下記工程(2a)〜(2d)を1サイクルとして複数回のサイクルを実施することによりRuOx膜を形成する工程であり、
(2a)Ru原料ガスを供給してRu膜1を形成する工程、
(2b)Ru原料ガスをパージする工程、
(2c)Ru膜1上にO2ガス及びO3ガスの少なくとも一方からなる反応ガス1を供給して反応させることによりRu膜1をRuOx膜1とする工程、
(2d)反応ガス1をパージする工程、
工程(3)は、
ALD(Atomic Layer Deposition)法によって下記工程(3a)〜(3e)を1サイクルとして複数回のサイクルを実施することによりRuON膜を形成する工程であることが好ましい。
【0036】
(3a)Ru原料ガスを供給してRu膜2を形成する工程、
(3b)Ru原料ガスをパージする工程、
(3c)Ru膜2上にO2ガス及びO3ガスの少なくとも一方からなる反応ガス2を供給して反応させることによりRu膜2をRuOx膜2とする工程、
(3d)反応ガス2をパージする工程、
(3e)RuOx膜2上にNH3ガスを供給して反応させることによりRuOx膜2をRuON膜とする工程。
【0037】
(第1実施例)
第1実施例として、図2を用いて、本発明の製造方法の一例を以下に説明する。なお、本実施例は、上記第一の方法に対応する方法である。
まず、シリコン基板を準備し、このシリコン基板上にALD(Atomic Layer Deposition)法により、Ru膜を成膜する。この工程を以下に示す。
Ru膜の成膜工程:
(1a)シリコン基板を反応チャンバー内に設置し、シリコン基板の温度を300℃に加熱すると共に、20ms以下の時間から1sの時間の範囲で、反応チャンバー内にRu原料ガスを供給する。
(1b)次に、反応チャンバー内のRu原料ガスをパージする。
(1c)この後、反応チャンバー内に3秒以下の時間でO2ガスを供給する。
(1d)この後、反応チャンバー内のO2ガスをパージする。
【0038】
そして、上記(1a)〜(1d)の工程の1サイクルにより約0.1nmのRu膜を成膜することができる。本実施例では100サイクルを実施することにより、10nmの膜厚のRu膜を成膜する。
【0039】
この後、酸化処理を行うことによりRu膜の表面をRuOx膜とする(図2(b))。この際、RuOx膜中で酸素濃度が最大値となる位置Aを有するようにRuOx膜を形成する。この工程を以下に示す。
【0040】
RuOx膜の成膜工程:
上記で得たRu膜に対して5〜100秒、Ru膜を構成するRuの一部とO3を反応させることにより酸素濃度の最大値を有するRuOx膜を成膜する。なお、この工程では、途中で成膜条件を変更しても、成膜条件を一定としても良い。
【0041】
次に、窒化処理を行うことにより(図2(c))、RuOx膜の表面をRuON膜とする(図2(d))。この工程を以下に示す。
【0042】
RuON膜の成膜工程:
上記RuOx膜上にNH3ガスを供給し、RuOx膜を構成するRuOxの一部とNH3を反応させることにより、RuOx膜の表面側の部分のみを窒化させてRuON膜を形成する。この窒化処理は例えば、550℃、30分の処理条件で行うことができる。
【0043】
以上のようにして、目的の組成プロファイルを持ったキャパシタ用電極を成膜することができる。このキャパシタ用電極の膜厚は約10nm程度となる。
【0044】
(第2実施例)
第2実施例として、図3を用いて、本発明の製造方法の他の一例を以下に説明する。なお、本実施例は、上記第二の方法に対応する方法である。
この実施例では、ALD(Atomic Layer Deposition)法によりRu膜の成膜を行う点で第1実施例と共通するが、RuOx膜及びRuON膜の成膜をそれぞれALD法により複数サイクルで行う点が第1実施例と異なる。
【0045】
このキャパシタ用電極の形成方法としては、一例として下記の方法を挙げることができる。
Ru膜の成膜工程(図3(a)):
(1a)シリコン基板を反応チャンバー内に設置し、シリコン基板の温度を300℃に加熱すると共に、20ms以下の時間から1sの時間の範囲で、反応チャンバー内にRu原料ガスを供給する。
(1b)次に、反応チャンバー内のRu原料ガスをパージする。
(1c)この後、反応チャンバー内に3秒以下の時間でO2ガスを供給する。
(1d)この後、反応チャンバー内のO2ガスをパージする。
上記(1a)〜(1d)の工程の1サイクルにより、約0.1nmのRu膜を成膜することができる。
【0046】
RuOx膜の成膜工程(図3(b)):
(2a)20ms以下の時間から1sまでの時間の範囲で、Ru原料ガスを反応チャンバー内に供給して、Ru膜1を形成する工程、
(2b)反応チャンバー内のRu原料ガスをパージする工程、
(2c)反応チャンバー内のRu膜1上に、O2又はO3からなる反応ガス1を、1sec以上60秒未満の時間で供給して反応させることによりRu膜1をRuOx膜1とする工程、
(2d)反応チャンバー内の反応ガス1をパージする工程。
上記(2a)〜(2d)の工程の1サイクルにより約0.1nmのRuOx膜を成膜することができる。
なお、この成膜工程では、サイクルごとに工程(2a)、(2d)等の成膜条件を変更しても、成膜条件を一定としても良い。
【0047】
RuON膜の成膜工程(図3(c)):
(3a)20ms以下の時間から1sまでの時間の範囲で、Ru原料ガスを反応チャンバー内に供給してRu膜2を形成する工程、
(3b)反応チャンバー内のRu原料ガスをパージする工程、
(3c)反応チャンバー内に、O2又はO3からなる反応ガス2を、1sec以上60秒未満の時間でRu膜2上に供給、反応させることによりRu膜2をRuOx膜2とする工程、
(3d)反応チャンバー内の反応ガス2をパージする工程、
(3e)反応チャンバー内のRuOx膜2上にNH3ガスを供給して、10秒以下のNH3プラズマ処理反応を行うことによりRuOx膜2をRuON膜とする工程。
上記(3a)〜(3e)の工程の1サイクルにより約0.1nmのRuON膜を成膜することができる。
なお、この成膜工程では、サイクルごとに工程(3a)、(3c)、(3e)等の成膜条件を変更しても、成膜条件を一定としても良い。
【0048】
典型的には、上記Ru膜の成膜工程、RuOx膜の成膜工程、及びRuON膜の成膜工程をそれぞれ連続して複数サイクル、実施することにより、目的の組成プロファイルを有するキャパシタ用電極を成膜することができる。例えば、Ru膜の成膜工程を20サイクル、RuOx膜の成膜工程を40サイクル、RuON膜の成膜工程を20サイクル行うことができる。これによりキャパシタ用電極の膜厚は10nm程度となる。
【0049】
本発明のキャパシタ用電極の製造方法では、上記第1実施例及び第2実施例の何れの方法を使用しても良い。例えば、下部キャパシタ用電極を作製する際には上記第1実施例を使用し、上部キャパシタ用電極を作製する際には上記第2実施例を使用することが好ましい。
【0050】
3.キャパシタ
本発明のキャパシタは、2つのキャパシタ用電極と、この2つのキャパシタ用電極間に、2つのキャパシタ用電極の第1面に接するように設けられた誘電体膜と、を備える。すなわち、第一のキャパシタ用電極、第一のキャパシタ用電極の第1面に接するように設けられた誘電体膜、誘電体膜上に第1面が接するように設けられた第二のキャパシタ用電極、をこの順に備える。
【0051】
図7は、本発明のキャパシタの一例を模式的に示したものである。このキャパシタは、2つのキャパシタ用電極3と、この2つのキャパシタ用電極3間に誘電体膜4が設けられている。そして、各キャパシタ用電極3は、その第1面2が誘電体膜4に接するように配置されている。
【0052】
この誘電体膜としては、比誘電率が40以上1000以下の膜を用いることが好ましい。誘電体膜としてこのような高い比誘電率の膜を用いることにより、微細化に対応可能なリーク電流のないキャパシタとすることができる。
【0053】
また、誘電体膜は、SrTiO3、TiO2、La23、Y23、HfO2、ZrO2及び(Ba,Sr)TiO3からなる群から選択された少なくとも一種を含むことが好ましい。なお、この(Ba,Sr)TiO3の典型的な組成としては、BaxSryTiO3(ただし、0.1≦x≦0.7、0.3≦y≦0.9である)を挙げることができる。また、これらの中でも、好ましくはSrTiO3から構成される高い比誘電率の誘電体膜を用いると、高性能のキャパシタを容易に形成することができる。
【0054】
また、本発明を用いて形成したキャパシタと、MOS型トランジスタを公知の手段で電気的に接続することにより、高性能のDRAM用メモリセルを容易に形成することが可能となる。図8及び9は、本発明のキャパシタを有するDRAMのメモリセルの一例を説明する図である。図8は、DRAMのメモリセルを上面から見た平面図を模式的に表したものであり、簡略化のため、キャパシターより下の部分の構造のみを記載している。また、図9(a)、(b)は、図8のA−A線、B−B線にそれぞれ沿った断面図である。
【0055】
図8の楕円で囲まれた部分11はメモリセル領域に規則的に配置した電界効果型トランジスタのソース/ドレイン領域を表す。また、ビットコンタクトプラグ14及びキャパシタ用のコンタクトプラグ17は、それぞれビット線及びキャパシタと電気的に接続されている。
【0056】
図9では、28は電界効果型トランジスタのゲート電極を表し、DRAMのワード線として機能する。ゲート電極(ワード線)28の両側に位置するソース/ドレイン領域20は不純物がドープされている。そして、隣接するソース/ドレイン領域の間は、STI(Shallow Trench Isolation)法を用いて形成した素子分離領域21で絶縁されている。
【0057】
ゲート電極28の両側のソース/ドレイン領域20上には、導電体を埋め込んで形成したキャパシタ用コンタクトプラグ26、及びビットコンタクトプラグ29が形成されている。より具体的には、絶縁層27内をソース/ドレイン領域まで貫通するように、ビットコンタクトプラグ29が設けられている。このビットコンタクトプラグ29には、ビット線25が電気接続されている。また、キャパシタ用コンタクトプラグ26は絶縁層27内をソース/ドレイン領域20まで貫通するように設けられている。このキャパシタ用コンタクトプラグ26は、キャパシタとソース/ドレイン領域20とを電気的に接続している。
【0058】
そして、このキャパシタは、順に形成された下部電極24、誘電体膜22、上部電極23から構成されている。誘電体膜22は、下部電極24の第1面及び上部電極23の第1面を介して、下部電極24及び上部電極23に接するように配置されている。
【0059】
なお、図9では、半導体領域上に設けられた1つのゲート電極と、このゲート電極を挟んだ両側に設けられたソース/ドレイン領域、一方の不純物拡散領域に電気的に接続されたビットコンタクトプラグ29、他方の不純物拡散領域に電気的に接続されたキャパシタ用コンタクトプラグ26、キャパシタ等から1つのメモリセルが構成されている。従って、図9(b)では、2つのメモリセルが示されていることとなり、この2つのメモリセルの間でビットコンタクトプラグ29は共通化されている。同様にして、図8では、2つのキャパシタ用コンタクトプラグ17と1つのビットコンタクトプラグ14と2つのゲート電極等で構成される部分(楕円で囲まれた部分11及びその上に設けられた構造)が、2つのメモリセルを構成することとなる。
また、本発明のキャパシタは、DRAM以外にもキャパシタを使用する半導体デバイスであれば、特に限定されることなく適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のキャパシタ用電極の膜厚方向のRu、O及びNの分布を表す図である。
【図2】本発明の第1実施例の製造方法を表す図である。
【図3】本発明の第2実施例の製造方法を表す図である。
【図4】本発明のキャパシタ用電極と従来のRuOx膜の仕事関数に対する熱処理温度の影響を表す図である。
【図5】本発明のキャパシタ用電極と従来のRuOx膜の抵抗率に対する熱処理温度の影響を表す図である。
【図6】本発明のキャパシタ用電極の一例を模式的に表す図である。
【図7】本発明のキャパシタの一例を模式的に表す図である。
【図8】本発明のキャパシタを有するDRAMの一部を表す図である。
【図9】本発明のキャパシタを有するDRAMの一部を表す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 誘電体面
2 第2面
3 キャパシタ用電極
4 誘電体膜
5 厚み方向
6 位置A
12 ワード線(ゲート電極)
14 ビットコンタクトプラグ
15 ビット線
17 キャパシタ用コンタクトプラグ
20 ソース/ドレイン領域
21 素子分離領域
22 誘電体膜
23 上部電極
24 下部電極
25 ビット線
26 キャパシタ用コンタクトプラグ
27 層間絶縁膜
28 ゲート電極
29 ビットコンタクトプラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1面及び第2面を有するキャパシタ用電極であって、
酸素原子及び窒素原子を含有し、
厚み方向における前記第1面と第2面の間に、前記酸素原子の濃度が最大値となる位置Aを有し、
前記窒素原子は、前記位置Aよりも第1面側にのみ存在することを特徴とする、キャパシタ用電極。
【請求項2】
シリコン基板と、Ru膜と、RuOx膜と、RuON膜とをこの順に有し、
前記Ru膜は前記シリコン基板に接する前記第2の面を有し、
前記RuOx膜は前記位置Aを有し、
前記RuON膜は前記RuOx膜に接する面と反対側の面として前記第1の面を有し、且つ窒素原子を含有することを特徴とする請求項1に記載のキャパシタ用電極。
【請求項3】
2つの、請求項1又は2に記載のキャパシタ用電極と、
2つのキャパシタ用電極間に、各キャパシタ用電極の第1面に接するように設けられた誘電体膜と、
を備えたことを特徴とするキャパシタ。
【請求項4】
前記誘電体膜の比誘電率が40〜1000であることを特徴とする請求項3に記載のキャパシタ。
【請求項5】
前記誘電体膜は、SrTiO3、TiO2、La23、Y23、HfO2、ZrO2及び(Ba,Sr)TiO3からなる群から選択された少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項3又は4に記載のキャパシタ。
【請求項6】
(1)前記シリコン基板上にRu膜を形成する工程と、
(2)Ru膜上にRuOx膜を形成する工程と、
(3)RuOx膜上にRuON膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする請求項2に記載のキャパシタ用電極の製造方法。
【請求項7】
前記工程(1)は、
ALD(Atomic Layer Deposition)法によって下記工程(1a)〜(1d)を1サイクルとして複数回のサイクルを実施することにより、シリコン基板上にRu膜を形成する工程であることを特徴とする請求項6に記載のキャパシタ用電極の製造方法。
(1a)前記シリコン基板上にRu原料ガスを供給してシリコン基板上にRu膜を形成する工程、
(1b)前記Ru原料ガスをパージする工程、
(1c)前記Ru膜上にO2ガスを供給する工程、
(1d)前記O2ガスをパージする工程。
【請求項8】
前記工程(2)において、
前記Ru膜上にO3ガスを供給し、前記Ru膜を構成するRuの一部とO3を反応させることによりRu膜上にRuOx膜を形成し、
前記工程(3)において、
前記RuOx膜上にNH3ガスを供給し、前記RuOx膜を構成するRuOxの一部とNH3を反応させることによりRuOx膜上にRuON膜を形成することを特徴とする請求項6又は7に記載のキャパシタ用電極の製造方法。
【請求項9】
前記工程(2)は、
ALD(Atomic Layer Deposition)法によって下記工程(2a)〜(2d)を1サイクルとして複数回のサイクルを実施することによりRuOx膜を形成する工程であり、
(2a)Ru原料ガスを供給してRu膜1を形成する工程、
(2b)前記Ru原料ガスをパージする工程、
(2c)前記Ru膜1上にO2ガス及びO3ガスの少なくとも一方からなる反応ガス1を供給して反応させることにより前記Ru膜1をRuOx膜1とする工程、
(2d)前記反応ガス1をパージする工程、
前記工程(3)は、
ALD(Atomic Layer Deposition)法によって下記工程(3a)〜(3e)を1サイクルとして複数回のサイクルを実施することによりRuON膜を形成する工程であることを特徴とする請求項6又は7に記載のキャパシタ用電極の製造方法。
(3a)Ru原料ガスを供給してRu膜2を形成する工程、
(3b)前記Ru原料ガスをパージする工程、
(3c)前記Ru膜2上にO2ガス及びO3ガスの少なくとも一方からなる反応ガス2を供給して反応させることにより前記Ru膜2をRuOx膜2とする工程、
(3d)前記反応ガス2をパージする工程、
(3e)前記RuOx膜2上にNH3ガスを供給して反応させることにより前記RuOx膜2をRuON膜とする工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−140955(P2009−140955A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312469(P2007−312469)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【Fターム(参考)】