説明

キャビネット

【課題】使用者に大きな力を必要とせずとも緩衝装置から生じる力に抗して引出を引き出すことができるキャビネットを提供すること。
【解決手段】引出1は、引出位置に向けて移動可能な第1リンク部材15,16と、第1リンク部材にかかる力を増力する増力手段17a,17bと、増力手段17a,17bによって第1リンク部材15,16の移動方向とは反対方向に移動可能な第2リンク部材18と、を備え、キャビネット本体2は、第2リンク部材18のキャビネット本体2の背面側への移動を阻止する阻止部材19を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引出が配置されるキャビネット本体内に設けられ、引出をキャビネット本体内に収納する収納位置とキャビネット本体外に引き出す引出位置との間で移動可能に案内するガイドレールと、引出を収納位置に向けて引き込む引込手段と、引込手段による引出の収納位置に向けての引き込みに抗力を加える緩衝装置と、を備えるキャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシステムキッチン(キャビネット)は、システムキッチン(キャビネット本体)内に取り付けられ、後端部が下方に向けて傾斜した傾斜部に形成されたガイドレールと、ガイドレールによってシステムキッチン内の収納位置とシステムキッチン外の引出位置との間を移動自在に設けられた引出と、システムキッチン内の後端部に設けられ、引出の後端部に永久磁石により取り付けられる緩衝装置と、を備えている。このようなシステムキッチンでは、使用者が引出を引出位置に向けて引き出すことで緩衝装置内のオイルダンパが永久磁石とともに引出位置に向けて引き出され、使用者が引出を傾斜部まで収納位置に向けて押し込むことで、緩衝装置が引出に抗力を加えて移動速度を低減させ、引出を収納位置に静かに配置させるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−278985号公報(第8頁、第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のシステムキッチン(キャビネット)にあっては、使用者が引出しを使用位置(引出位置)に向けて引き出そうとすると、引き出しに伴い緩衝装置内のオイルダンパが引き出されることで抗力が生じるとともに、同時に、傾斜部が引出を使用位置に向けて引き込む力に抗する力が必要となるため、使用者が引出しを使用位置まで引き出すためには大きな力が必要であるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、使用者に大きな力を必要とせずとも緩衝装置から生じる力に抗して引出を引き出すことができるキャビネットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明のキャビネットは、
引出が配置されるキャビネット本体内に設けられ、前記引出を前記キャビネット本体内に収納する収納位置と前記キャビネット本体外に引き出す引出位置との間で移動可能に案内するガイドレールと、前記引出を前記収納位置に向けて引き込む引込手段と、該引込手段による前記引出の前記収納位置に向けての引き込みに抗力を加える緩衝装置と、を備えるキャビネットであって、
前記引出は、前記引出位置に向けて移動可能な第1リンク部材と、該第1リンク部材にかかる力を増力する増力手段と、該増力手段によって前記第1リンク部材の移動方向とは反対方向に移動可能な第2リンク部材と、を備え、前記キャビネット本体は、前記第2リンク部材の前記キャビネット本体の背面側への移動を阻止する阻止部材を備えていることを特徴としている。
この特徴によれば、使用者が収納位置に収納されている引出に引出位置に向けて力を加えることで、使用者が引出に加えた力が第1リンク部材を介して増力手段に伝達されるとともに、増力手段によって増大した力によって第2リンク部材がキャビネット本体に備えられた阻止部材をキャビネット本体の背面側に向けて押圧し、この第2リンク部材が阻止部材を押圧する反力を利用して引出を引出位置に向けて引き出すことができるので、引込手段が引出を引出位置に向けて引き込む力や緩衝装置の抗力に対して引出を引出位置に向けて引き出す力が小さくとも引出を引き出すことができる。
また、キャビネット本体における阻止部材の設置位置を適宜調整することで、使用者が引出に引出位置に向けて力を加え始める地点から第2リンク部材が阻止部材をキャビネット本体の背面側に向けて押圧する地点までの距離を調整することができる。
【0007】
本発明のキャビネットは、
前記増力手段は、複数の歯車によって構成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、増力手段の機構を小さく纏めながら第2リンク部材に大きな力を伝達することができる。
【0008】
本発明のキャビネットは、
前記増力手段は、前記第2リンク部材にかける力を変更可能であることを特徴としている。
この特徴によれば、使用者が第1リンク部材を移動させる距離を変化させることなく、キャビネットの設置環境に応じて引出の収納位置から引出位置に向けての引き出し距離を適宜変更することができる。
【0009】
本発明のキャビネットは、
前記引出の正面側には、前記第1リンク部材に連結された前板が前後方向に揺動自在に下端部を前記引出に枢支されており、前記阻止部材は、前記前板が所定開度揺動することで前記第2リンク部材が該阻止部材を押圧する位置に設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、前板をキャビネット本体の正面側に揺動させることで、前板の荷重を第1リンク部材の引出位置に向けて引き出す力として使用することができるので、使用者が引出を引き出す際にかける力をより小さくすることができる。
また、第2リンク部材が阻止部材に対して押圧を開始するまでは、引出を収納位置から引き出すことなく、引込手段が引出を引出位置に向けて引き込む力や緩衝装置からの抵抗を受けずに前板を正面側に揺動させることができるので、引出を収納位置に配置したまま、収納箱内の正面側に配置されている収納物を取り出すことができる。
【0010】
本発明のキャビネットは、
前記前板の上端部には、把手が取り付けられており、前記第1リンク部材は、前記把手よりも下方で前記前板に連結されていることを特徴としている。
この特徴によれば、使用者が把手を把持して前板を正面側に揺動させる力が前板と第1リンク部材との連結部でテコの原理により増大されるので、使用者の引出を引き出す際にかける力を更に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における引出を示す斜視図である。
【図2】引出とガイドレールと緩衝装置とを示す側面図である。
【図3】引出の側板を示す一部拡大斜視図である。
【図4】引出の側板を示す横断平面図である。
【図5】収納位置に配置された引出の側板を示す縦断側面図である。
【図6】図5における引出の側板のA−A断面図である。
【図7】当接部が阻止部材を押圧するまで前板が正面側に揺動された状態を示す縦断側面図である。
【図8】引出位置に引き出された引出を示す縦断側面図である。
【図9】(a)は、実施例2における引出が収納位置に配置されている状態を示す縦断側面図であり、(b)は、引出が収納位置から引き出された状態を示す縦断側面図である。
【図10】実施例3における収納位置に配置された引出の側板を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るキャビネットを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0013】
実施例1に係るキャビネットにつき、図1から図8を参照して説明する。以下、図2、図5、図7、図8の紙面左側と、図4の紙面下側及び図6の紙面手前側をキャビネットの正面側(前方側)として説明する。
【0014】
図1の符号1は、本発明の適用された引出である。この引出1は、図1に示すように、正面側に開口するキャビネット本体2内に上下2段が収納されている。この引出1は、前方と上方とに開口して内部に皿や鍋等の収納物5を収納可能な略方形状の収納箱6を有しており、収納箱6の正面側には、上端部に使用者が把持するための把手7が取り付けられた前板8が配置されている。尚、本実施例における収納箱6は、前述のように前方と上方とに開口しているが、使用者が収納箱6内から収納物5を取り出すことができれば、収納箱6が開口する方向は上方のみでもよい。
【0015】
また、それぞれの引出1の左右側方には側板2a,2aが設けられている。これら側板2a,2aは、キャビネット本体2の左右両側板を構成するほか、引出1同士の間に設けられる仕切板を構成している。
【0016】
図2に示すように、キャビネット本体2における両側板2a,2aの内側には、ガイドレール3が取り付けられており、これらガイドレール3は左右側方から収納箱6を支持している。尚、本実施例では、両ガイドレール3の構成は同一につき、一方のガイドレール3のみで説明する。尚、本実施例では、収納箱6が使用者によって前方側に向けて長さL1だけ引き出され、以降、キャビネット本体2の背面側を向く抗力を受けることなく前方側への引き出しが可能となる引出1の位置を引出位置として定義する(図8参照)。
【0017】
引出1は、引出位置から使用者によりキャビネット本体2の背面側に向けて押し込まれることでキャビネット本体2内に収納配置されるようになっている。このとき、収納箱6の前板8がキャビネット本体2の側板2aの前端部に当接して、引出1が閉鎖された状態の引出1の位置を収納位置と定義する。
【0018】
また、ガイドレール3の後方であるキャビネット本体2の後端部には、引出1が引出位置から収納位置近傍まで移動されたときに、収納箱6に当接(緩衝)して引出1の移動速度を低減させる本発明における緩衝装置としてのオイルダンパ4が取り付けられている。このオイルダンパ4は、図2及び図8に示すように、キャビネット本体2に対して固定されるとともに、内部に粘性抵抗を発生させるオイルが充填された筒体4aと、後部側がこの筒体4aの前端部から筒体4a内に挿入されたロッド4bと、を備えている。ロッド4bは、後部側を筒体4a内に配置した状態で前後動可能となっており、このロッド4bの前後動に伴って筒体4a内のオイルとロッド4bの後部とで粘性抵抗が発生するようになっている。尚、ロッド4bの前端部には、強磁性の永久磁石4cが取り付けられている。
【0019】
ガイドレール3について詳述する。図2に示すように、ガイドレール3の上部には、キャビネット本体2の内方側に突出する上板3aが形成されるとともに、ガイドレール3の下部には、上板3aと同様に、キャビネット本体2の内方側に突出する下板3bが形成されている。
【0020】
ガイドレール3を構成する上板3a及び下板3bは、その前端部から後端部近傍にかけて水平な水平部3cに形成されている。また、ガイドレール3の後端部は、所定の傾斜角度θで後方に向かって下方に傾斜する、本発明における引込手段としての傾斜部3dに形成されている。更に、ガイドレール3の前端部には、後述する収納箱6の支持板6bを支持するためのガイドローラ3eが取り付けられている。
【0021】
尚、本実施例においては、傾斜部3dの水平部3cに対する傾斜角度θを4度としている。更に尚、ガイドレール3の傾斜部3dの傾斜は、少なくとも下板3bに形成されていればよく、上板3aは前端部から後端部にかけて水平に形成されていてもよい。
【0022】
次に、引出1について詳述する。尚、本実施例の引出1は左右対称に構成されているため、本実施例では引出1の右方側のみを説明し、引出1の左方側については説明を省略する。
【0023】
また、前板8の背面には、まな板や包丁等の収納箱6内の収納物5よりも使用頻度の高い収納物9を収納するための収納篭10が取り付けられている。また、収納箱6の背面における下端部には、オイルダンパ4のロッド4bの前端部に設けられた永久磁石4cが磁着するための金属片11が取り付けられている。
【0024】
更に、収納箱6を構成する側板6aには、図3、図4及び図5に示すように、前端部をカバー体12によって被覆されおり、前板8はこのカバー体12の前端下部に設けられた左右方向を向く枢軸13によって下端部を枢支され、前後方向に揺動可能となっている。このため、前板8の収納箱6の前方側への揺動によって収納箱6の正面側への開放がなされるようになっている。
【0025】
尚、図5に示すように、引出1が収納位置に収納配置されているときの前板8の重心Gは、前板8をカバー体12に枢支する枢軸13よりも収納箱6の背面側に配置されており、使用者が把手を把持していないときに前板8が収納箱6の前方側に向けて揺動してしまわないようになっている。
【0026】
一方、図2及び図3に示すように、側板6aの外側面には、前後方向に長い支持板6bが取り付けられている。この支持板6bは、ガイドレール3の上板3aの上方でガイドローラ3eによって支持されている。更に、この側板6aの外側面における支持板6bよりも後部側の下方には、ローラ6cが左右方向を向く枢軸によって回転自在に枢支されている。このローラ6cは、ガイドレール3の上板3aと下板3bとの間で転動可能に載置されている。このため、引出1は、ガイドレール3によって引出位置と収納位置との間を滑らかに移動可能となって支持されている。
【0027】
また、図4及び図5に示すように、側板6aは、内部が中空部14に形成されている。この中空部14の上端部には、前後方向を向く略直方体形状のスライド板15が前後方向に移動自在に配置されている。具体的には、中空部14の上端部の左右側部には、左右方向を向く溝部6dが側板6aの前後方向略全長に亘って形成されており、スライド板15の上端部には、これら溝部6d内に配置される摺接片15aが突設されている。
【0028】
このため、スライド板15は溝部6d内で両摺接片15a,15aによって吊持されている状態で、中空部14内を前後方向に摺動する。尚、スライド板15の下面には、前後方向略全長に亘ってラック部15bが形成されている。
【0029】
そして、スライド板15の前端部には、棒状のステー16の一端が左右方向を向く枢軸によって前後方向に揺動可能に枢支されている。このステー16の他端は、側板6aの正面に形成された貫通孔6eとカバー体12に形成された貫通孔12aとを介して前板8の背面の右端部に左右方向を向く枢軸によって揺動可能に枢着されている。つまり、スライド板15とステー16とで本発明における第1リンク部材を構成しており、スライド板15は前板8の前後方向への揺動に応じて前後方向に中空部14内を移動可能となっている。
【0030】
尚、スライド板15は、摺接片15aが溝部6dの前端部に当接することでそれ以上の収納箱6の正面側への移動が規制されているため、スライド板15にステー16を介して接続されている前板8も収納箱6の前方側への揺動が規制されている。
【0031】
図4、図5及び図6に示すように、中空部14内のスライド板15下方には、ラック部15bと噛み合うピニオンギア(歯車)17aが左右方向を向く枢軸によって枢支されている。このピニオンギア17aの同一の枢軸上には、ピニオンギア17aよりも小径に形成されたピニオンギア17bが枢支されている。
【0032】
更に、ピニオンギア17bの下方には、上面にピニオンギア17bに噛み合うラック部18aが形成された前後方向を向く直方体形状の本発明における第2リンク部材としてのスライド板18が、スライド板15の移動に従い中空部14内を前後方向に移動自在に配置されている。このため、スライド板15にかかる力は、ピニオンギア17a、17bによって増力されるようになっている。つまり、これらピニオンギア17a,17bによって本発明における増力手段が構成されている。
【0033】
更に、ピニオンギア17bの下方には、上面にピニオンギア17bに噛み合うラック部18aが形成された前後方向を向く直方体形状のスライド板18が、スライド板15の移動に従い中空部14内を前後方向に移動自在に配置されており、ピニオンギア17a,17bで増力された力が伝達されるようになっている。このスライド板18によって本発明における第2リンク部材が構成されている。
【0034】
図5、図6及び図7に示すように、側板6aの外側面には、中空部14に貫通する貫通長孔6fが側板6aの前後方向を向いて形成されており、この貫通長孔6f内には、スライド板18の右側部が挿入配置されている。また、貫通長孔6fの上下には、貫通長孔6fの前後方向略全長に亘って係止溝部6g,6gが形成されており、スライド板18の右側部の上下には、これら係止溝部6g,6g内に挿入配置される係止片18bが突設されている。このため、スライド板18は貫通長孔6f内で左右方向に脱落することなく前後方向に摺動するようになっている。
【0035】
キャビネット本体2の側板2aの内側面には、平面視L字形状の阻止部材19が取り付けられており、スライド板18の前端部には、収納箱6の外側方に向けて当接部18cが貫通長孔6fを介して突設されている。これら阻止部材19と当接部18cとは、引出1がキャビネット本体2内の収納位置に収納配置されているときには前後方向に離間して配置されている。
【0036】
次に、このように構成された引出1の収納位置から引出位置への引き出しに伴う動作について説明する。先ず、図5に示すように、引出1が収納位置に収納配置されている状態から、使用者が把手7を把持して前板8を収納箱6の前方側に揺動させる。このとき、前板8の収納箱6の前方側への揺動に応じてスライド板15の収納箱6の正面側への移動がなされる(図7参照)。
【0037】
加えて、前板8の重心Gが前板8をカバー体12に枢支している枢軸13よりも収納箱6の前方側まで移動されると、使用者が把手にかける力に加えて、前板8の荷重自体を前板8の収納箱6の前方側に揺動させる力として使用することができる。
【0038】
このスライド板15の収納箱6の正面側への移動によって、ラック部15bがピニオンギア17aを図5における側面視反時計回りに回転させる。このピニオンギア17aの図5における側面視反時計回りの回転は、ピニオンギア17a,17bによって増力され、ラック部18aに伝達されるようになっている。このため、スライド板18は、ピニオンギア17a,17bの図5における側面視反時計回の回転によって中空部14内をキャビネット本体2の背面側に向けて摺動する。
【0039】
図7に示すように、前板8が使用者によって収納箱6の前方側に所定開度揺動されることで、当接部18cが阻止部材19に正面側から当接する。尚、阻止部材19の側板2aの内側面における取り付け位置は、スライド板18が中空部14内を摺動することで当接部18cに当接可能であれば、引出1に収納されている収納物5や引出1の使用用途に応じて適宜前後方向に調整可能である。特に、使用者が把手7を把持して前板8を収納箱6の前方側に揺動させる以前から当接部18cに阻止部材19を当接させておくことで、使用者が前板8を収納箱6の前方側に向けて揺動させると同時に引出1を引出位置に向けて引き出すことができる。
【0040】
このときの前板8の上端部は、使用者の手を前板8の背面側に上方から挿通させる程度の前後幅に開放されている。このため、本実施例の引出1は、引出1を収納位置に収納配置した状態のまま、前板8を収納箱6の前方側に所定開度揺動させるのみで収納篭10内の収納物9を取り出すことができるようになっている。
【0041】
そして、使用者は、この当接部18cが阻止部材19に正面側から当接している状態から更に前板8を収納箱6の前方側に向けて揺動させることで、ピニオンギア17a、17bを介してスライド板18に対してキャビネット本体2の背面側に向けて力を加える。スライド板18は、このキャビネット本体2の背面側に向けての力によって阻止部材19を当接部18cによってキャビネット本体2の背面側に向けて押圧し、収納箱6に正面側に向けての反力を生じさせる。
【0042】
このため、図8に示すように、収納箱6はこの反力によってキャビネット本体2内から押圧されることで、キャビネット本体2内の収納位置から引出位置に向けて引き出され、スライド板18は当接部18cが阻止部材19を押圧する位置を維持した状態で貫通長孔6f内を相対移動する。
【0043】
このとき、収納箱6には、ローラ6cが傾斜部3d内の前上方に転動する抵抗力と、オイルダンパ4のロッド4bが永久磁石4cの金属片11への磁着によって収納箱6とともに引出位置に向けて引き出される際に筒体4a内で生じる粘性抵抗力と、ロッド4bがキャビネット本体2の正面側に向けて所定量引き出されたことにより抗力として作用する永久磁石4cと金属片11との間に生じている磁力と、を合わせたキャビネット本体2の背面側を向く抗力が生じるが、使用者が把手7に掛けた力がピニオンギア17a,17bで増強されているため、使用者が前板8を揺動させる際にこれらローラ6cの抵抗とオイルダンパ4での粘性抵抗を感知することはない。
【0044】
尚、このピニオンギア17cで増強された力によって永久磁石4cと金属片11との磁着が解除されると、ロッド4bのキャビネット本体2の正面側への引き出しが停止され、ロッド4bの前端部は、キャビネット本体2の正面側への引き出しを停止した位置で待機する。
【0045】
そして、スライド板15が溝部6dの前端部に当接することによって前板8の収納箱6の前方側への揺動が終了し、引出1は収納箱6がキャビネット本体2内から前方に距離L1だけ引き出された引出位置に配置される。
【0046】
尚、前板8の収納箱6の前方側への揺動が終了した後は、引出1を引出位置から更に使用者が把手7を把持して引き出すことによって、前板8の揺動を維持したまま引出1を全開量引き出すことができる。
【0047】
更に尚、引出1を引出位置から収納位置に収納配置させる場合は、使用者が前板8を収納箱6の背面側に向けて押し込むことで、前板8を、前板8の重心Gが前板8をカバー体12に枢支している枢軸13よりも収納箱6の背面側に配置されるまでキャビネット本体2の背面側に向けて揺動させるとともに、ローラ6cがガイドレール3の傾斜部3d内を転動するまで引出1をガイドレール3に沿って案内させる。
【0048】
ローラ6cがガイドレール3の傾斜部3d内を転動するまで引出1を押し込んだ後は、ローラ6cが傾斜部3dを後下方に向って下っていくことで引出1が収納位置に向かって引き込まれ、金属片11と永久磁石4cとが再び磁力により磁着される。このため、引出1は、傾斜部3d内をローラ6cが下ることで自動的に収納位置に向けて移動を開始するとともに、オイルダンパ4の筒体4a内にロッド4bが挿入されることで生じる粘性抵抗によって引出1の収納位置に向けての加速が抑えられ、最終的に引出1を静かに収納位置に収納配置することができる。
【0049】
以上、本実施例におけるキャビネットにあっては、引出1は、引出位置に向けて移動可能なスライド板15及びステー16と、スライド板15及びステー16にかかる力を増力する増力手段と、増力手段によってスライド板15及びステー16の移動方向とは反対方向に移動可能なスライド板18と、を備え、キャビネット本体2は、スライド板18のキャビネット本体2の背面側への移動を阻止する阻止部材19を備えているので、使用者が収納位置に収納されている引出1に引出位置に向けて力を加えることで、使用者が引出1に加えた力がスライド板15及びステー16を介して増力手段に伝達されるとともに、増力手段によって増大した力によってスライド板18がキャビネット本体2に備えられた阻止部材19をキャビネット本体2の背面側に向けて押圧し、このスライド板18が阻止部材19を押圧する反力を利用して引出1を引出位置に向けて引き出すことができるので、傾斜部3dが引出1を引出位置に向けて引き込む力や緩衝装置4の抗力に対して引出1を引出位置に向けて引き出す力が小さくとも引出1を引き出すことができる。また、キャビネット本体2における阻止部材19の設置位置を適宜調整することで、使用者が引出1に引出位置に向けて力を加え始める地点からスライド板18が阻止部材19をキャビネット本体2の背面側に向けて押圧する地点までの距離を調整することができる。
【0050】
また、増力手段は、複数のピニオンギア17a,17bによって構成されているので、増力手段の機構を小さく纏めながらスライド板18に大きな力を伝達することができる。
【0051】
また、収納箱6の正面側には、スライド板15及びステー16に連結された前板8が前後方向に揺動自在に下端部を収納箱6に枢支されており、阻止部材19は、前板8が所定開度揺動することでスライド板18が阻止部材19を押圧する位置に設けられているので、前板8をキャビネット本体2の正面側に揺動させることで、前板8の荷重をスライド板15及びステー16の引出位置に向けて引き出す力として使用することができるので、使用者が引出1を引き出す際にかける力をより小さくすることができる。また、スライド板18が阻止部材19に対して押圧を開始するまでは、引出1を収納位置から引き出すことなく、傾斜部3dが引出1を引出位置に向けて引き込む力や傾斜部3dやオイルダンパ4からの抵抗を受けずに前板8を正面側に揺動させることができるので、引出1を収納位置に配置したまま、収納箱6内の収納物9を取り出すことができる。
【0052】
また、前板8の上端部には、把手7が取り付けられており、スライド板15及びステー16は、把手7よりも下方で前板8に連結されているので、使用者が把手7を把持して前板8を正面側に揺動させる力が前板8とステー16との連結部でテコの原理により増大されるので、使用者の引出1を引き出す際にかける力を更に小さくすることができる。
【実施例2】
【0053】
次に、実施例2に係るキャビネットにつき、図9を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成を省略する。以下、図9(a)及び図9(b)の紙面左側をキャビネットの正面側(前方側)として説明する。
【0054】
図9(a)及び図9(b)に示すように、本実施例における増力手段は、一端が前板8の背面の右端部に左右方向を向く枢軸によって揺動可能に枢支されている本発明における第1リンク部材を構成する第1アーム20と、一端が第1アーム20の他端に左右方向を向く枢軸21によって揺動可能に枢支され、中間部よりも他端側で左右方向を向く枢軸23によって側板6aに前後方向に揺動自在に枢支される本発明における第2リンク部材を構成する第2アーム22と、で構成されており、第2アーム22の他端部には、収納箱6の外側方に向けて貫通長孔6fを介して当接ピン24が突設されている。また、阻止部材19は、引出1がキャビネット本体2内の収納位置に収納配置されているときから、当接ピン24に当接するように配置されている。
【0055】
貫通長孔6fは、当接ピン24が、前板8が収納箱6の前方側に揺動されることによって円弧軌道を描いて前後方向に移動するため、前板8の揺動時に当接ピン24に当接しないよう、上下幅寸法が実施例1よりも上下方向に長寸に形成されている。
【0056】
更に、第2アーム22における第1アーム20が枢支される一端側には、第2アーム22の長手方向に沿って複数の枢支孔22aが形成されている。これら枢支孔22aには、第1アーム20と第2アーム22とを枢支するための枢軸21を挿通可能となっている。このため、第2アーム22における枢軸21から枢軸23までの距離R1は、枢軸21をいずれかの枢支孔22aに挿通させることによって、枢軸23から当接ピン24までの距離R2よりも長寸を維持する範囲で変更することができるようになっている。
【0057】
このように構成された引出1を収納位置から引出位置に向けて引き出すには、図9(a)及び図9(b)に示すように、まず、使用者が把手7を把持することで前板8を収納箱6の前方側に揺動させる。この前板8の収納箱6の前方側への揺動によって、第1アーム20の他端が第2アーム22の一端側を枢軸23を揺動中心として収納箱6の前方側に揺動させようとし、第2アーム22の他端側は、当接ピン24を阻止部材19に当接させながら収納箱2の背面側に揺動しようとする。
【0058】
このとき、第2アーム22における枢軸21から枢軸23までの距離R1は、枢軸23から当接ピン24までの距離R2よりも長寸となっているので、当接ピン24は、テコの原理により使用者が前板8を収納箱6の前方側に揺動する力よりも大きな力で阻止部材19を背面側に向けて押圧する。このため、引出1は、オイルダンパ4からの粘性抵抗に抗して、当接ピン24が阻止部材19から受ける引出1の正面側を向く反力によってキャビネット本体2の正面側に距離L1だけ引き出される。
【0059】
尚、本実施例では第2アーム22における枢軸21の位置を変更することによって当接ピン24が阻止部材19を押圧する力を調整したが、第2アーム22における枢軸21から枢軸23までの距離R1が枢軸23から当接ピン24までの距離R2よりも長寸を維持する範囲で、第2アーム22における枢軸23の位置を当接ピン24と枢軸21との間で適宜変更し、当接ピン24が阻止部材19を押圧する力を調整するようにしてもよい。
【0060】
以上、本実施例におけるキャビネットにあっては、第1アーム20及び第2アーム22は、第2アーム22にかける力を変更可能であるので、使用者がスライド板15及びステー16を移動させる距離を変化させることなく、キャビネットの設置環境に応じて引出1の収納位置から引出位置に向けての引き出し距離を適宜変更することができる。
【実施例3】
【0061】
次に、実施例3に係るキャビネットにつき、図10を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成を省略する。以下、図10の紙面左側をキャビネットの正面側(前方側)として説明する。
【0062】
図10に示すように、本実施例における増力手段は、側板6aの中空部14内における後部側で左右方向を向く枢軸によって枢支されているプーリ25と、このプーリ25と同一の枢軸上で枢支され、プーリ25よりも小径に形成されたプーリ26と、で構成されている。
【0063】
また、本実施例におけるスライド板15’の後端部とプーリ25とは、プーリ25の周面に巻回されているベルト体27を介して接続されている。更に、スライド板18の前端部とプーリ26とは、ベルト体28の周面に巻回されているベルト体28を介して接続されている。
【0064】
尚、プーリ25,26と側板6aとの間には、図示しないコイルバネ等の付勢手段が設けられており、プーリ25,26はこの付勢手段によって図10における時計周りに向けて付勢されている。更に尚、スライド板18と側板6aとの間には、図示しないコイルバネ等の付勢手段が設けられており、スライド板18は、この付勢手段によって収納箱6の正面側に向けて付勢されている。
【0065】
使用者が把手7を把持して前板8を収納箱6の前方側に揺動させると、スライド板15’がベルト体27を収納箱6の正面側に向けて引張りながら移動し、これら付勢手段による付勢方向に反してプーリ25,26が図10における反時計周りに回転する。同時に、プーリ26が図10における反時計回りに回転することで、プーリ25にかかる力が増力されるとともに、プーリ26がベルト体28をキャビネット本体2の背面側に向けて巻き取り、スライド板18をキャビネット本体2の背面側に向けて移動させる。これら一連の動作によって当接部18cが阻止部材19に当接し、引出1が引出位置に向けて引き出される。
【0066】
引出1が引出位置に向けて引き出された後は、使用者が把手7から手を離す事で、プーリ25,26と側板6aとの間に設けられた図示しない付勢手段の付勢力によってプーリ25がベルト体27を巻き取ることで前板8が収納箱6の正面側を閉塞するまで収納箱6の背面側に向けて揺動される。同時に、スライド板18と側板6aとの間に設けられた図示しない付勢手段の付勢力によってスライド板18がプーリ26からベルト体28を収納箱6の正面側に向けて引張りながら移動する。
【0067】
尚、引出1の配置された引出位置自体は保持されるため、引出1を収納位置に移動させるには、使用者が引出1を収納位置に向けて移動させるのみでよい。
【0068】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0069】
例えば、前記実施例では、前板8の下端部をカバー体12の前端下部に設けられた左右方向を向く枢軸によって枢支することで前板8を前後方向に揺動可能とし、前板8の収納箱6の前方側への揺動によって引出1を収納位置から引出位置に向けて引き出されるようにしたが、前板8を収納箱6と一体に形成するとともに、ステー16の一端を前板8の前方側に露出させ、使用者が直接ステー16を収納箱6の前方側に引き出すことで、引出1が収納位置から引出位置に向けて引き出されるようにしてもよい。
【0070】
また、前記実施例では、緩衝装置としてオイルダンパ4を用いたが、緩衝装置はこれに限定されるものではなく、ガスダンパや粘弾性ダンパやバネ等を用いたダンパを使用してもよく、更にロータリダンパのように回転することで緩衝力を発生するダンパであってもよい。
【0071】
また、前記実施例では、ガイドレール3の後端部に傾斜部3dを形成し、この傾斜部3dでローラ6cを後下方に向けて移動させることで引出1を収納位置に向けて引き込んだが、ガイドレール全体を水平部に形成するとともに、キャビネット本体2と引出1との間に引出1を収納位置に向けて付勢するコイルバネ等の付勢手段を設け、この付勢手段の付勢力によって引出1を引出位置側から収納位置に向けて引き込むようにしてもよい。
【0072】
また、前記実施例1では、増力手段としてピニオンギア17a,17bを用い、前記実施例2では、増力手段として第1アーム20及び第2アーム22を用い、前記実施例3では、増力手段としてプーリ25,26を用いたが、増力手段の組合せとしては上記に限らず、例えば、ピニオンギア17aと第2アーム22、ピニオンギア17aとプーリ26、第1アーム20とピニオンギア17b、第1アーム20とプーリ26、プーリ25とピニオンギア17b、又はプーリ25と第2アーム22のように動作の異なる複数の部材を組み合わせて構成してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 引出
2 キャビネット本体
3 ガイドレール
3d 傾斜部(引込手段)
4 オイルダンパ(緩衝装置)
5 収納物
7 把手
8 前板
15 スライド板(第1リンク部材)
16 ステー(第1リンク部材)
17a,17b ピニオンギア(増力手段)
18 スライド板(第2リンク部材)
19 阻止部材
20 第1アーム(増力手段,第1リンク部材)
21 枢軸
22 第2アーム(増力手段,第2リンク部材)
22a 枢支孔
23 枢軸
24 当接ピン
25,26 プーリ(増力手段)
27,28 ベルト体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引出が配置されるキャビネット本体内に設けられ、前記引出を前記キャビネット本体内に収納する収納位置と前記キャビネット本体外に引き出す引出位置との間で移動可能に案内するガイドレールと、前記引出を前記収納位置に向けて引き込む引込手段と、該引込手段による前記引出の前記収納位置に向けての引き込みに抗力を加える緩衝装置と、を備えるキャビネットであって、
前記引出は、前記引出位置に向けて移動可能な第1リンク部材と、該第1リンク部材にかかる力を増力する増力手段と、該増力手段によって前記第1リンク部材の移動方向とは反対方向に移動可能な第2リンク部材と、を備え、前記キャビネット本体は、前記第2リンク部材の前記キャビネット本体の背面側への移動を阻止する阻止部材を備えていることを特徴とするキャビネット。
【請求項2】
前記増力手段は、複数の歯車によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のキャビネット。
【請求項3】
前記増力手段は、前記第2リンク部材にかける力を変更可能であることを特徴とする請求項1または2に記載のキャビネット。
【請求項4】
前記引出の正面側には、前記第1リンク部材に連結された前板が前後方向に揺動自在に下端部を前記引出に枢支されており、前記阻止部材は、前記前板が所定開度揺動することで前記第2リンク部材が該阻止部材を押圧する位置に設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のキャビネット。
【請求項5】
前記前板の上端部には、把手が取り付けられており、前記第1リンク部材は、前記把手よりも下方で前記前板に連結されていることを特徴とする請求項4に記載のキャビネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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