説明

キャビンの防振支持装置

【課題】 保形板に包囲固定された弾性体及びホルダ等を安価に製作できかつ支持ブラケットへの取り付けも容易にできるようにする。
【解決手段】 車体に固定された支持ブラケット2に支持体3を介してキャビンKの前下部の水平軸4を支持する。前記支持体3は、支持ブラケット2に取り付けるためのホルダ5と、このホルダ5と支持ブラケット2とによって保持される板金製の保形板6と、この保形板6内に配置されていて少なくとも3方向から包囲される弾性体7と、この弾性体7内に配置されていて前記水平軸4に嵌合する円筒8とを有する。前記保形板6と弾性体7とは固着されており、保形板6を円筒8に近づけて弾性体7を圧縮した状態で前記ホルダ5を支持ブラケット2に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の作業機に使用されるキャビンの防振支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
キャビンの防振支持装置の従来技術においては、特許文献1に開示されているように、トラクタ車体に固定された支持ブラケットに支持体を介してキャビンの前下部の水平軸を支持しており、前記支持体は弾性体を有し、支持ブラケットに固着される鋳物製のホルダの孔内に圧入する構造となっている。
また、支持ブラケットに固着されて支持体を取り付ける構造として、特許文献2に開示されているように、分離可能な上下ブラケットで弾性体を挟持固定するように構成された技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】EP0863066A1
【特許文献2】特開2003−56643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記前者従来技術は、鋳物製のホルダとそれに圧入する弾性体が高価であり、後者従来技術は、上下ブラケット及び弾性体が高価であるとともに、弾性体の保形性が低く、上下ブラケットへの取り付けが困難になっている。
本発明は、このような従来技術の問題点を解決できるようにしたキャビンの防振支持装置を提供することを目的とする。
【0005】
本発明は、保形板に包囲固定された弾性体を圧縮した状態にして、ホルダと支持ブラケットとが協同で取り付けることにより、弾性体及びホルダ等を安価に製作できかつ支持ブラケットへの取り付けも容易にできるようにしたキャビンの防振支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における課題解決のための具体的手段は、次の通りである。
第1に、車体Tに固定された支持ブラケット2に支持体3を介してキャビンKの前下部の水平軸4を支持しており、
前記支持体3は、支持ブラケット2に取り付けるためのホルダ5と、このホルダ5と支持ブラケット2とによって保持される板金製の保形板6と、この保形板6内に配置されていて少なくとも3方向から包囲される弾性体7と、この弾性体7内に配置されていて前記水平軸4に嵌合する円筒8とを有しており、
前記保形板6と弾性体7とは固着されており、保形板6を円筒8に近づけて弾性体7を圧縮した状態で前記ホルダ5を支持ブラケット2に取り付けていることを特徴とする。
【0007】
第2に、前記保形板6はホルダ5に対して周方向の回動を止める回り止め形状となっていることを特徴とする。
第2に、前記キャビンKの左右各前下部に一対の支持壁9を設け、この一対の支持壁9とその間に配置される前記支持体3の円筒8とに前記水平軸4を貫通しており、前記弾性体7の両側面に各支持壁9に接当可能な突出部7aを設けていることを特徴とする。
【0008】
第3に、前記弾性体7は円筒8の上下少なくとも一方側に変形可能な空間部7bを形成していることを特徴とする。
第4に、前記保形板6を上下2部材6A、6Bで形成しており、上下保形板6A、6Bは前記弾性体7を圧縮すべく円筒8に対して遠近移動可能になっていることを特徴とする。
[作用]
前記特徴を有するキャビンの防振支持装置は次のような作用を奏する。
【0009】
キャビンKの前下部の水平軸4を防振支持装置1を介して車体Tに支持する。防振支持装置1の支持体3は、車体Tに固定の支持ブラケット2に載置され、ホルダ5を嵌合し、このホルダ5を支持ブラケット2に固定することにより、両者の協同によってその内部の弾性体7が圧縮した状態となって取り付けられ、水平軸4を弾力的に支持する。
支持体3は、板金製の保形板6内に弾性体7が固定され、この弾性体7内に水平軸4に嵌合する円筒8が設けられており、弾性体7は保形板6と円筒8との間で保形され、ホルダ5を支持ブラケット2に取り付けることによって、保形板6が円筒8に近づいて弾性体7が圧縮されている。
【0010】
前記保形板6は弾性体7を保形するとともにホルダ5に対して周方向の回動を止めをする。
キャビンKの左右各前下部に左右一対の支持壁9を設け、その間に支持体3を配置し、それらに水平軸4を貫通しており、前記弾性体7の両側面には支持壁9に接当可能な突出部7aを設けており、弾性体7は水平軸4及びホルダ5等に対して左右方向位置が常に適正になっている。
【0011】
前記弾性体7は円筒8の上下少なくとも一方側に空間部7bを形成していて、弾性体7自体の弾性変形に加えて空間部7bの変形も生じ、車体Tからの振動を十分に減衰できる。
前記保形板6を上下保形板6A、6Bで形成して弾性体7を上下から包囲すると、弾性体7の保形機能を発揮するとともに、ホルダ5への取り付けも容易にでき、上下保形板6A、6Bは円筒8に対して近づく方向に移動することにより、弾性体7を圧縮することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保形板に包囲固定された弾性体及びホルダ等を安価に製作できかつ支持ブラケットへの取り付けも容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示す断面正面図である。
【図2】断面側面図である。
【図3】斜視図である。
【図4】側面図である。
【図5】正面図である。
【図6】支持体の側面図である。
【図7】キャビン全体の正面図である。
【図8】キャビン全体の側面図である。
【図9】キャビン全体の斜視図である。
【図10】支持体の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図7〜9において、トラクタの車体Tに前後防振支持装置1、11を介して搭載されたキャビンKを示している。このキャビンKは、左右一対の前支柱12と、左右一対の後支柱13と、左右前支柱12の上端間、左右後支柱13の上端間及び前後支柱12、13の上端間を連結する上枠14と、左右前支柱12の下端間、左右後支柱13の下端間及び前後支柱12、13の下端間を連結する下枠15とを有して骨格枠が形成されている。
【0015】
前記骨格枠の上枠14にルーフ16が装着され、下枠15にステップ18及び運転席17を取り付けるフロアシート19がそれぞれ設けられ、フロアシート19の左右に後輪フェンダ20が連結され、下枠15の前下材15Aと左右前支柱12との間に操縦部21を取り付けた前パネル22が装着されている。
また、図示していないが、左右前支柱12間にはフロントガラスが、左右後支柱13間にはリアガラスがそれぞれ嵌め込まれ、前後支柱12、13には乗降口23が形成されていて、左右後支柱13には乗降口23を開閉するドアが枢支されている。
【0016】
前記後防振支持装置11は、車体Tの後部から左右に突出した後車軸ケース26上に支持台27が配置され、この支持台27に上下及び水平四方の振動を吸収する弾性支持体28を介してキャビンKの後部下面を受持している。
前記前防振支持装置1は、車体Tの前後中途部の側面に支持ブラケット2が左右外方突出状に固定されており、この支持ブラケット2に前後・上下の振動を吸収する支持体3を介してキャビンKの前部下面を受持している。
【0017】
キャビンKの前部の前下材15Aの下面には左右一対の連結ブラケット29が固着されている。この各連結ブラケット29は正面視門型形状であり、その上部が前下材15Aに固着され、左右両側が前下材15Aから下方に突出して一対の支持壁9を形成しており、この両支持壁9にわたってボルト形状の水平軸4が貫通されている。
図1〜6において、前防振支持装置1の前記支持体3は、支持ブラケット2に取り付けるためのホルダ5と、このホルダ5と支持ブラケット2とによって保持される板金製の保形板6と、この保形板6内に配置されていて4方向から包囲される弾性体(マウントゴム)7と、この弾性体7内に配置されていて前記水平軸4に嵌合する円筒8とを有している。
【0018】
前記ホルダ5は左右支持壁9間に嵌り込む幅の鉄板をコ字形状に屈曲して形成されており、コ字形状の嵌合部5aの各端部に、支持ブラケット2の上面にボルト固定される上面固定部5bと支持ブラケット2の前面にボルト固定される前面固定部5cとを形成している。
前記保形板6、弾性体7及び円筒8によってホルダ5と独立構成された弾支具Dが形成されており、この弾支具Dは支持ブラケット2の上面とホルダ5の嵌合部5aとの協同によって挟持固定されている。
【0019】
弾性体7は合成ゴム又は弾性を有する合成樹脂で形成され、内周面が円筒8に嵌合されており、円筒8と分離可能であっても焼き付け固定していてもよい。弾性体7の外周面はホルダ5の嵌合部5aと相似形の側面視四角形に形成されている。
前記弾性体7内には円筒8の上下少なくとも一方側に空間部7bを形成している。この空間部7bは弾性体7の左右両端間にわたって貫通状に形成され、圧縮変形可能な空隙であって、支持ブラケット2から水平軸4へ伝播される振動を空間変形により減衰するものである。
【0020】
また、弾性体7の外周面には前後に凹部7cが形成されており、保形板6に対向している。
弾性体7は水平軸方向の幅が円筒8より短いが、その左右各側面の前後上部には一対の突出部7aが左右外方へ突出されている。この突出部7aの先端は円筒8の端面と同一位置又は円筒8の端面より突出しており、少なくとも弾性体7が水平軸4から荷重を受けて弾性変形したとき、円筒8の端面より突出して支持壁9に接当可能である。この突出部7aの接当によって、保形板6及び円筒8が支持壁9と当接するのを回避できる。
【0021】
保形板6は弾性体7の下部を受持しかつ支持ブラケット2に受持される下保形板6Bと、この下保形板6Bに対して遠近移動可能でありかつ弾性体7の側面及び上面に嵌合する側面視略コ字形状の上保形板6Aとを有している。上下各保形板6A、6Bはホルダ5と略同幅でかつホルダ5より薄い板金で側面視略コ字形状に形成され、弾性体7の外周面と焼き付け固定又は接着固定されている。
【0022】
上下保形板6A、6Bは側面視四角枠になるように対向配置され、その両端縁が互いに対面しており、側面視四角形の弾性体7を上下から覆っている。この上下保形板6A、6Bの対向している両端縁は、前記弾性体7の外周面の前後凹部7cと対向している。
前記弾支具Dは支持ブラケット2に取り付ける前のフリー状態のとき、弾性体7は圧縮されていないので、上下保形板6A、6Bは図6に示すように分離しており、前後凹部7cが上下保形板6A、6Bの遠近移動を可能にしており、上下保形板6A、6Bを円筒8に対して近づけることにより弾性体7を圧縮することができる。
【0023】
前記保形板6及び弾性体7が側面視四角形に形成されているので、保形板6がコ字形状のホルダ5の嵌合部5aに当接した状態で周方向の回動が止められる回り止め形状となっている。
また、ホルダ5の嵌合部5aのコ字形状部分の上下寸法は、フリー状態の弾支具Dの上下寸法より小さくなっており、嵌合部5aに弾支具Dを挿入した状態でホルダ5の上面固定部5bを支持ブラケット2の上面にボルトで固定していくと、上下保形板6A、6Bが円筒8に近移動して弾性体7を圧縮し、その状態で支持ブラケット2に支持体3が固定される。
【0024】
前記支持体3は、キャビンKの水平軸4に円筒8を嵌合しており、この円筒8の径外側を弾性体7で包囲し、この弾性体7に外側から保形板6で覆って固着し、この保形板6を車体Tに固定された支持ブラケット2に載置するとともにその上方からホルダ5の嵌合部5aを嵌合して保形板6の外側を覆い、このホルダ5を支持ブラケット2に近づけて、ホルダ5で保形板6を円筒8に近づけて弾性体7を圧縮状態にして、そしてホルダ5を支持ブラケット2に取り付けられている。
【0025】
前記水平軸4は一対の支持壁9とその間の支持ブラケット2上の支持体3とを貫通しており、キャビンKの前部を枢支するとともに、キャビンKの荷重を支持体3で弾力的に支持し、車体T側からキャビンKに伝播される振動を、弾性体7自体の弾性変形と、空間部7bの空間変形によって減衰する。
図10は支持体3の変形例を示している。
【0026】
弾性体7の側面の突出部7aが円筒8の前後側方に位置し、円筒8の上方側に空間部7bが形成され、下面側に空間部7dが形成されている。上部の前後角部が大きなR面取りとなっており、下面側空間部7d間の下部中央には支持凸部7eが形成されている。
保形板6は、上保形板6Aが弾性体7の上部に適合嵌合する略門型(コ字形状)に形成され、下保形板6Bは弾性体7の下面と支持ブラケット2の上面に対面する平板であり、弾性体7の支持凸部7eを支持可能であるとともに、支持ブラケット2の前面側上面のR面取り部分に弾性体7が侵入するのを防止している。
【0027】
上下保形板6A、6Bは互いに遠近方向に移動可能であり、円筒8に近づけることにより弾性体7を圧縮可能であり、弾性体7は組み付け時にホルダ5と支持ブラケット2との間で圧縮状態にされる。前記下保形板6Bは上保形板6A及び弾性体7に対して分離自在であるが、弾性体7の支持凸部7eに焼き付けておいてもよい。
この変形例の支持体3においても、円筒8を水平軸4に嵌合して、キャビンKの荷重を支持体3で支持すると、車体T側からキャビンKに伝播される振動は、弾性体7自体の弾性変形、上側空間部7b及び下面側空間部7dの変形によって減衰される。
【0028】
なお、本発明は前記実施形態における各部材の形状及びそれぞれの前後・左右・上下の位置関係は、図1〜10に示すように構成することが最良である。しかし、前記実施形態に限定されるものではなく、部材、構成を種々変形したり、組み合わせを変更したりすることもできる。
例えば、キャビンの防振支持装置1はバックホー等の旋回作業機に適用してもよく、保形板6は弾性体7の上面と前後側面とを覆い、支持ブラケット2に接する下面を覆わないコ字形状であってもよい。
【0029】
側面視コ字形状の上下保形板6A、6Bは、中央部から屈曲した両側部を先端にかけて末広がり形状に形成し、両先端部間隔を狭めながら支持体3内に挿入する構成としてもよく、その場合、コ字形状の両先端部間隔を狭めることにより、その内部の弾性体7を圧縮状態にすることができる。
弾性体7の空間部7bは、弾性体7を貫通していなくともよく、スポンジ材又は弾性体7より軟質のゴムを充填したりしてもよく、弾性体7自体よりも圧縮変形容易な部位を形成しておけばよい。
【0030】
また、変形例においては、弾支具D及びホルダ5の嵌合部5aを側面視三角形に形成したり、下保形板6Bを割愛して、上保形板6Aのみで弾性体7を3方向から包囲し、弾性体7を支持ブラケット2の上面に当接支持させたり、支持凸部7eに突出部7aを設けたりしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 キャビンの防振支持装置
2 支持ブラケット
3 支持体
4 水平軸
5 ホルダ
6 保形板
6A 上保形板
6B 下保形板
7 弾性体
7a 突起部
7b 空間部
8 円筒
K キャビン
T 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体(T)に固定された支持ブラケット(2)に支持体(3)を介してキャビン(K)の前下部の水平軸(4)を支持しており、
前記支持体(3)は、支持ブラケット(2)に取り付けるためのホルダ(5)と、このホルダ(5)と支持ブラケット(2)とによって保持される板金製の保形板(6)と、この保形板(6)内に配置されていて少なくとも3方向から包囲される弾性体(7)と、この弾性体(7)内に配置されていて前記水平軸(4)に嵌合する円筒(8)とを有しており、
前記保形板(6)と弾性体(7)とは固着されており、保形板(6)を円筒(8)に近づけて弾性体(7)を圧縮した状態で前記ホルダ(5)を支持ブラケット(2)に取り付けていることを特徴とするキャビンの防振支持装置。
【請求項2】
前記保形板(6)はホルダ(5)に対して周方向の回動を止める回り止め形状となっていることを特徴とする請求項1に記載のキャビンの防振支持装置。
【請求項3】
前記キャビン(K)の左右各前下部に一対の支持壁(9)を設け、この一対の支持壁(9)とその間に配置される前記支持体(3)の円筒(8)とに前記水平軸(4)を貫通しており、前記弾性体(7)の両側面に各支持壁(9)に接当可能な突出部(7a)を設けていることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャビンの防振支持装置。
【請求項4】
前記弾性体(7)は円筒(8)の上下少なくとも一方側に変形可能な空間部(7b)を形成していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のキャビンの防振支持装置。
【請求項5】
前記保形板(6)を上下2部材(6A、6B)で形成しており、上下保形板(6A、6B)は前記弾性体(7)を圧縮すべく円筒(8)に対して遠近移動可能になっていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のキャビンの防振支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−208770(P2011−208770A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78829(P2010−78829)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】