説明

キャビン装置

【課題】キャビンの全高の増加や大型化を避け、加工費用も安価に抑制しつつキャビンの前方上方の運転者視界を確保することを可能としたキャビン装置を提供すること。
【解決手段】左右一対の前支柱(2)及び後支柱(3)を含んで構成されるキャビン骨格体(1)を備えたキャビン装置において、前記前支柱(2)の上部間に、四角形断面の角パイプからなる前上ビーム(4)を連結し、その際、前上ビーム(4)の底面(4a)をキャビン骨格体(1)内の運席席(11)に着座する運転者(A)の視線(S)とほぼ平行に設定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ車体に装着されるキャビン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、トラクタ車体の前方に装着されるフロントローダのブームの昇降操作や、該ブームの先端に装着されるバケットのスクイ・ダンプ操作などをキャビン内から行う場合、キャビンの前上ビームが運転者の前方上方の視界を妨げる事を避けるため、キャビンの左右一対の前支柱を上方へ延長して前上ビームの位置を上方に上げて高くしたり、前上ビームを上方にアーチ状に持ち上げて前方上方の視界を拡大するようにしたものが従来公知である(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−22459号公報
【特許文献2】特開2006−8076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のものは、キャビンの前支柱を上方へ延長する必要があるため、キャビンのルーフ(屋根、天井部)を水平に取り付けようとすると、後支柱も上方へ延長する必要があってキャビン全体の高さが高くなり、大型化するという問題点があった。
また、前上ビームを上方にアーチ状に持ち上げたものは、キャビンの前支柱を上方に延長する必要はないが、後傾状態とされる前支柱の上端に左右方向両端部を連結される前上ビームを上方にアーチ状に持ち上げるために、前記前上ビームを3次元的に曲げることや、後傾状態の前支柱の上端に左右方向両端を整合させて連結するための連結面のカットが必要となり、これらの加工費用が高価となるという問題点があった。
【0005】
そこで、本発明は、キャビンの全高の増加や大型化を避け、加工費用も安価に抑制しつつキャビンの前方上方の運転者視界を確保することを可能としたキャビン装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために本発明は、左右一対の前支柱及び後支柱を含んで構成されるキャビン骨格体を備えたキャビン装置において、前記前支柱の上部間に、四角形断面の角パイプからなる前上ビームを連結し、その際、前上ビームの底面をキャビン骨格体内の運席席に着座する運転者の視線とほぼ平行に設定してあることを特徴としている。
また、前記前上ビームは、底面に平行な平面に沿って前凸のアーチ状に湾曲させてあることが好ましい。
【0007】
さらに、前記前支柱は、上部前面を鉛直面に対して所定角度後方へ傾斜させてあり、該上部前面とキャビン骨格体内の運席席に着座する運転者の視線とがほぼ直交状に交差するように設定してあることが好ましい。
また、前記前上ビームは、上面に天窓枠の前側フレームを取り付けて、前記前上ビームの上面と天窓枠の前側フレームとでキャビン骨格体の前側上部に雨水をキャビン骨格体の左右方向両側へ排出させる雨樋を形成してあることが好ましい。
【0008】
この構成によれば、キャビン骨格体を正面から見た前上ビームの形状を上方に持ち上げたアーチ状とすることができ、運転者の前方上方視界を拡大させることができ、その際、左右一対の前支柱を上方に延長させる必要がないためキャビン骨格体の全高の増加や大型化を避けることができ、また、前上ビームを前凸のアーチ状に加工(2次元的に加工)すればよいため加工費用も安価に抑制することができる。更に、前上ビームは、四角形断面の角パイプからなり、その底面をキャビン骨格体内の運席席に着座する運転者の視線とほぼ平行に設定してあること、及び、底面に平行な平面に沿って前凸のアーチ状としてあることにより、運転者が前方上方を見るときの視線と平行な向きに配置して取り付けていることになり、前上ビームによる運転者視界の遮蔽面積を最小にすることができる。
【0009】
前記前上ビームは、四角形断面の角パイプで構成してあることにより、前上ビームを前凸のアーチ状にする加工が容易となり、要求される強度も容易に達成することができる。
また、前記前上ビームは、上面に天窓枠の前側フレームを取り付けて、前記前上ビームの上面と天窓枠の前側フレームとでキャビン骨格体の前側上部に雨水をキャビンの左右方向両側へ排出させる雨樋を形成してあることが好ましい。この構成によれば、ルーフに降り注ぐ雨水がキャビンのフロントガラスを伝って流下することによる運転者視界の妨げを防止するためにルーフ前端に上方へ突出した堰止め突部を別途に設けることが省略できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、キャビンの全高の増加や大型化を避け、加工費用も安価に抑制しつつキャビンの前方上方の運転者視界を確保することを可能としたキャビン装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るキャビン装置の実施形態を示す要部概略側面図である。
【図2】キャビン骨格体の概略斜視図である。
【図3】キャビン骨格体の天窓部付近の拡大斜視図である。
【図4】キャビン骨格体の天窓部付近の拡大側面図である。
【図5】キャビン骨格体の前上ビーム単体の正投象図法による3面図で、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るキャビン装置の実施形態を図面を参照して説明する。
図1〜図4において、1はトラクタ車体Tに搭載されるキャビン骨格体を示している。キャビン骨格体1は、前部に配置された左右一対の前支柱2と、後部に配置された左右一対の後支柱3と、左右一対の前支柱2の上部間を連結する前上ビーム4と、左右一対の後支柱3の上部間を連結する後上ビーム5と、左右同じ側にある前後支柱2,3の上部間を連結する側部上ビーム6と、左右一対の前支柱2の下部間を連結する前下ビーム7と、左右一対の後支柱3の下部間を連結する後下ビーム8と、左右同じ側にある前後支柱2,3の下部間を連結する側部下ビーム9とで箱形枠状とされている。
【0013】
側部下ビーム9は、後半部がトラクタの後輪用フェンダ(図示省略)に対応させて上方に円弧状に持ち上げられており、この部分に、左右一対のサイドパネル10が取り付けられている。
キャビン骨格体1内には、図1に示すように、運転者Aが着座する運転席11が設置され、この運転席11の前側下部に前基板12を介して操縦フレーム13が設置され、この操縦フレーム13にブレーキペダル14、アクセルペダル等が取り付けられ、さらに、ステアリングコラム及びステアリングシャフト15を介してステアリングハンドル16が取り付けられている。また、運転席11の下部にはエアコン装置17が配置されている。
【0014】
キャビン骨格体1の下面には、フロアシート18が取り付けられ、また、前面にはフロントパネル、側面にはドアパネル、後面にはリヤパネル、天井にはルーフがそれぞれ取り付けられるが図示は省略している。
左右一対の前支柱2の上部間を連結する前上ビーム4は、図5に示すように、四角形断面の角パイプで構成されており、底面4aを、図1に示すように、キャビン骨格体1内の運席席11に着座する運転者Aの視線Sとほぼ平行に設定してある。
【0015】
また、前上ビーム4は、図5に示すように、底面4aに平行な平面に沿って前凸のアーチ状に湾曲させてある。
そして、前記前支柱2は、図1に示すように、上部前面Vを鉛直面V’に対して所定角度α後方へ傾斜させてあり、該上部前面Vとキャビン骨格体1内の運席席11に着座する運転者Aの視線Sとがほぼ直交状に交差するように設定してある。
【0016】
前上ビーム4は、上記のような構成で前支柱2の上部に取り付けておくことによって、キャビン骨格体1を正面から見た前上ビーム4の形状を上方に持ち上げたアーチ状とすることができ(図5、図1参照)、運転者Aの前方上方視界を拡大させることができる。
また、前上ビーム4を前支柱2の上部に上記のような取付姿勢で取り付けておくことによって、前上ビーム4は、凸湾曲形状の突出方向を運転者が前方上方を見るときの視線と平行な向きに配置して取り付けていることになり、前上ビーム4による運転者視界の遮蔽面積を最小にすることができる。
【0017】
即ち、前上ビーム4による運転者視界の遮蔽面積は、角パイプの四角形断面の対角線が運転者Aの視線と直交状となるときが最大となるのであり、これを回避するには、前上ビーム4の取付姿勢を、図1に示すように、底面4aがキャビン骨格体1内の運転者Aが前方上方を見るときの視線Sと平行な向きに配置して取り付けておけばよいことになる。
また、キャビン骨格体1の前上部には、図1〜図4に示すように、天窓枠19が設置されている。この天窓枠19は、上面が平坦に形成されており、前側フレーム19aが前上ビーム4に溶接などで取り付けられ、後側フレーム19bが左右の側部上ビーム6,6間に架設された天窓取付ビーム20に溶接などで取り付けられている。
【0018】
上記天窓枠19は、前側が後側よりも低くなるように取り付けられている。そして、前上ビーム4は、図3〜図5に示すように、正面視で長手方向の中央部が両端部よりも上方に高くなっており、また、平面視で長手方向の中央部が両端部よりも前方に突出しているため、この前上ビーム4の上面と前記天窓枠19の前側フレーム19aとでキャビン骨格体1の前側上部に雨水をキャビン骨格体1の左右方向両側へ排出させる雨樋21を形成させることができる。なお、雨水の流動方向は、図3に矢印c、dで表示している。
【0019】
本発明に係るキャビン装置の実施形態は、以上の構成からなるため、キャビン骨格体1を正面から見た前上ビーム4の形状を上方に持ち上げたアーチ状とすることができ、運転者Aの前方上方視界を拡大させることができ、その際、左右一対の前支柱2を上方に延長させる必要がないためキャビン骨格体1の全高の増加や大型化を避けることができ、また、前上ビーム4の形状を前凸のアーチ状に2次元的に加工すればよいため加工費用も安価に抑制することができる。更に、前上ビーム4は、アーチ形状の突出方向をキャビン骨格体1内の運転者Aが前方上方を見るときの視線Sと平行な向きに配置して取り付けていることになり、前上ビーム4による運転者Aの視界遮蔽面積を最小にすることができる。
【0020】
また、前記前上ビーム4は、四角形断面の角パイプで構成してあることによって、前上ビーム4の底面に平行な平面に沿って前凸のアーチ状に湾曲させるための加工が容易となり、要求される強度も容易に達成することができる。
また、前記前上ビーム4は、上面に天窓枠19の前側フレーム19aを取り付けて、前記前上ビーム4の上面と天窓枠19の前側フレーム19aとでキャビン骨格体1の前側上部に雨水をキャビン骨格体1の左右方向両側へ排出させる雨樋21を形成してあることによって、ルーフに降り注ぐ雨水がキャビンのフロントガラスを伝って流下することによる運転者視界の妨げを防止するためにルーフ前端に上方へ突出した堰止め突部を別途に設けることが省略できる。
【0021】
本発明の実施形態は以上であるが、本発明は、この実施形態にのみ制約されるものではなく、自由に変形して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のキャビン装置は、農用トラクタや建機用トラクタに適用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 キャビン骨格体
2 前支柱
3 後支柱
4 前上ビーム
5 後上ビーム
6 側部上ビーム
7 前下ビーム
8 後下ビーム
9 側部下ビーム
10 サイドパネル
11 運転席
12 前基板
13 操縦フレーム
14 ブレーキペダル
15 ステアリングシャフト
16 ステアリングハンドル
17 エアコン装置
18 フロアシート
19 天窓枠
20 天窓取付ビーム
21 雨樋
A 運転者
S 運転者の視線
T トラクタ車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の前支柱(2)及び後支柱(3)を含んで構成されるキャビン骨格体(1)を備えたキャビン装置において、前記前支柱(2)の上部間に、四角形断面の角パイプからなる前上ビーム(4)を連結し、その際、前上ビーム(4)の底面(4a)をキャビン骨格体(1)内の運席席(11)に着座する運転者(A)の視線(S)とほぼ平行に設定してあることを特徴とするキャビン装置。
【請求項2】
前記前上ビーム(4)は、底面(4a)に平行な平面に沿って前凸のアーチ状に湾曲させてあることを特徴とする請求項1に記載のキャビン装置。
【請求項3】
前記前支柱(2)は、上部前面(V)を鉛直面(V’)に対して所定角度(α)後方へ傾斜させてあり、該上部前面(V)とキャビン骨格体(1)内の運席席(11)に着座する運転者(A)の視線(S)とがほぼ直交状に交差するように設定してあることを特徴とする請求項1に記載のキャビン装置。
【請求項4】
前記前上ビーム(4)は、上面に天窓枠(19)の前側フレーム(19a)を取り付けて、前記前上ビーム(4)の上面と天窓枠(19)の前側フレーム(19a)とでキャビン骨格体(1)の前側上部に雨水をキャビン骨格体(1)の左右方向両側へ排出させる雨樋(21)を形成してあることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のキャビン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−207416(P2011−207416A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78830(P2010−78830)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】