説明

キャピラリー回転装置並びにこれを用いたX線回折装置及びラマン分光分析装置

【課題】キャピラリーの回転ぶれを簡便に抑制することができるキャピラリー回転装置を提供する。
【解決手段】キャピラリー回転装置10は、キャピラリーCの先端部側から後端部側に向けて順に配置された第1案内部材11と第2案内部材12と第3案内部材13と回転支持機構14とを備える。回転支持機構は、キャピラリーの後端部を支持すると共に、キャピラリーを軸方向周りに回転させるように動作する。第1及び第3案内部材の凹溝はキャピラリーの同じ側面側に配置される一方、第2案内部材の凹溝は対向する側面側に配置され、少なくとも回転支持機構によってキャピラリーを軸方向周りに回転させる際、第1及び第2案内部材の凹溝の離間距離はキャピラリーの外径と略同等に設定される一方、第3案内部材の凹溝は該凹溝によってキャピラリーが第2案内部材の凹溝側に押圧されるように位置決めされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折装置やラマン分光分析装置等によって物質を解析する(例えば、化合物の結晶形を解析する)際に該物質を収容するための容器として用いられるキャピラリーの回転装置並びにこれを用いたX線回折装置及びラマン分光分析装置に関し、特に、解析精度の低下をもたらすキャピラリーの回転ぶれを簡便に抑制し得るキャピラリー回転装置並びにこれを用いたX線回折装置及びラマン分光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬等の化合物は、複数の結晶形(結晶多形)を有するのが一般的である。そして、各結晶形に応じて、その安定性等が異なったり、特に医薬の場合には治療上の有効性等が異なる場合がある。従って、新規に開発した化合物を評価するにあたっては、各種条件下で該化合物を晶析させ、これにより生成された各結晶形の安定性等をX線回折装置やラマン分光分析装置等の解析装置を用いて評価した上で、有用な結晶形及びこの結晶形を得るための晶析条件を選択、決定している。
【0003】
ここで、上記X線回折装置等の解析装置を用いて化合物の結晶形を解析する際、該化合物を収容するための容器として、キャピラリーと称されるガラス製の細長容器(外径0.1〜1.5mmφ程度)が広く用いられている。以下、キャピラリーを用いる解析装置としてX線回折装置を例に挙げ、その構成を具体的に説明する。
【0004】
図1は、上記キャピラリーを取り付けたX線回折装置の概略構成を模式的に示す正面図である。図1に示すように、X線回折装置100は、X線を出射するX線管球20と、X線管球20から出射したX線を平行化するための光学素子30と、キャピラリーC内に収容された化合物によって回折した回折X線を検出するX線検出器40とを備えている。斯かる構成により、X線管球20から出射し、光学素子30で平行化されたX線は、キャピラリーCの先端部側壁(長さ5〜20mm程度)を介してその内部に収容された化合物に照射され、化合物の結晶形に応じた特有の方向に強く回折することになる。そして、X線検出器40を図1の矢符方向に回転させて順次回折X線の強度を測定することにより、X線検出器40の回転角(2θ)と、各回転角に対応する方向における回折X線の強度との関係(回折パターン)が得られることになる。この回折パターンに基づいて回折X線のピーク位置が検出され、この検出したピーク位置によってキャピラリーCに収容された化合物の結晶形が評価されることになる。
【0005】
ここで、上記X線回折装置100に取り付けられるキャピラリーCは、収容された化合物の結晶の全ての方位について回折X線のピーク位置を検出できるように、キャピラリー回転装置によって軸方向周りに回転可能とされている。
【0006】
図2は、従来のキャピラリー回転装置の概略構成を模式的に示す側面図である。図2に示すように、従来のキャピラリー回転装置10Aは、キャピラリーCを取り付けると共にその位置や方向を調整するためのゴニオヘッド(ゴニオメータヘッドと称されることもある)101と、回転軸にゴニオヘッド101を取り付けることによりキャピラリーCをゴニオヘッド101ごと軸方向周りに回転させる回転モータ102とを備えている。
【0007】
キャピラリーCは、ロウや粘土等を用いて後端部が金属製のピンPに固定され、このピンPをゴニオヘッド101にネジ止めすることにより、ゴニオヘッド101に取り付けられる。ゴニオヘッド101は、例えば、互いに直交する3軸方向の平行移動機構と、互いに直交する2軸方向の傾動機構(スイベル機構)とを具備しており、これらの機構により、取り付けたキャピラリーCの位置や方向を調整可能とされている。
【0008】
ここで、キャピラリーCの回転中心(回転モータ102の回転中心MC)とキャピラリーCの軸心CCとが一致していないと、キャピラリーCをキャピラリー回転装置10Aで回転させたときに、その回転角度に応じてキャピラリーCの位置や方向が変動する回転ぶれが生じることになる。前述のように、キャピラリーCは、ロウや粘土等を用いて金属製のピンPに固定されるため、たとえ、ピンPの軸心と回転モータ102の回転中心MCとを精度良く一致させることができるとしても、キャピラリーCの軸心CCと回転モータ102の回転中心(キャピラリーCの回転中心)MCとを精度良く一致させることは困難である。
【0009】
そして、キャピラリーCに過度の回転ぶれが生じると、化合物の結晶形の解析精度が低下してしまうという問題がある。すなわち、キャピラリーCに過度の回転ぶれが生じると、キャピラリーCに収容された化合物にX線が適切に照射されない結果、回折X線のピーク位置を正確に検出できなかったり、化合物の全ての方位について回折X線のピーク位置を検出できなかったり、或いは、回転ぶれの程度によっては回折X線が得られないという事態が生じてしまう。そこで、従来のキャピラリー回転装置10Aにおいては、キャピラリーCをゴニオヘッド101に取り付けた後、ゴニオヘッド101の平行移動機構や傾動機構を用いてキャピラリーCの位置や方向を調整し、キャピラリーCの回転中心とキャピラリーCの軸心CCとを極力一致させる作業を行っている。
【0010】
しかしながら、上記の調整作業は、顕微鏡を用いてキャピラリーCの取り付け箇所近傍を拡大視しながら、ゴニオヘッド101が具備する平行移動機構の移動量や、傾動機構の傾動量を手動で調整するという極めて手間の掛かる作業であるため、X線回折装置を用いた結晶形評価試験の効率向上を阻害する一要因となっている。また、調整精度が作業者の経験や技量に依存するため、結晶形評価試験の再現性向上を阻害する一要因にもなっている。
【0011】
以上に説明した従来技術の問題点は、例示したX線回折装置に限るものではなく、また、化合物の結晶形を解析する場合に限るものではなく、物質を収容したキャピラリーを軸方向周りに回転させる必要のある各種の解析装置に共通する問題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するべくなされたものであり、キャピラリーの回転ぶれを簡便に抑制することができ、ひいてはキャピラリーに収容された物質を解析する解析装置に適用した場合に、精度の良い解析結果を得ることを可能とするキャピラリー回転装置並びにこれを用いたX線回折装置及びラマン分光分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するべく、本発明は、キャピラリーの先端部側から後端部側に向けて順に配置された第1案内部材と、第2案内部材と、第3案内部材と、回転支持機構とを備え、前記回転支持機構は、前記キャピラリーの後端部を支持すると共に、前記キャピラリーを軸方向周りに回転させるように動作し、前記第1案内部材、前記第2案内部材及び前記第3案内部材は、前記キャピラリーを案内するための凹溝をそれぞれ具備し、前記第1案内部材の凹溝と前記第3案内部材の凹溝とは、前記キャピラリーの同じ側面側に配置される一方、前記第2案内部材の凹溝は、前記第1案内部材及び前記第3案内部材の凹溝が配置された前記キャピラリーの側面側と対向する前記キャピラリーの側面側に配置され、少なくとも前記回転支持機構によって前記キャピラリーを軸方向周りに回転させる際、前記第1案内部材の凹溝と前記第2案内部材の凹溝との対向方向に沿った離間距離は、前記キャピラリーの外径と略同等に設定されると共に、前記第3案内部材の凹溝は、該凹溝によって前記キャピラリーが前記第2案内部材の凹溝側に押圧されるように位置決めされることを特徴とするキャピラリー回転装置を提供するものである。
【0014】
本発明に係るキャピラリー回転装置は、キャピラリーの先端部側から後端部側に向けて順に配置された第1案内部材と、第2案内部材と、第3案内部材とを備えている。そして、第1案内部材、第2案内部材及び第3案内部材は、キャピラリーを案内するための凹溝をそれぞれ具備し、第1案内部材の凹溝と第3案内部材の凹溝とが、キャピラリーの同じ側面側に配置される一方、第2案内部材の凹溝は、第1案内部材及び第3案内部材の凹溝が配置された前記キャピラリーの側面側と対向するキャピラリーの側面側に配置される。さらに、キャピラリーを軸方向周りに回転させる際、第1案内部材の凹溝と第2案内部材の凹溝との対向方向に沿った離間距離がキャピラリーの外径と略同等に設定される一方、第3案内部材の凹溝は、該凹溝によってキャピラリーが第2案内部材の凹溝側に押圧されるように位置決めされる。これにより、キャピラリーの第2案内部材より後端部側の部位が第2案内部材の凹溝側に向けて凹状に変形し、梃子の原理で、キャピラリーの第2案内部材より先端部側の部位が、第2案内部材の凹溝を支点として第1案内部材の凹溝側に移動しようとする結果、キャピラリーの所定部位が第1案内部材の凹溝に常に押し付けられた状態となる。
【0015】
そして、本発明に係るキャピラリー回転装置は、キャピラリーの後端部を支持すると共に、キャピラリーを軸方向周りに回転させるように動作する回転支持機構を備える。この回転支持機構によってキャピラリーを軸方向周りに回転させた場合、前述のように、キャピラリーは、梃子の原理によって、所定部位が第1案内部材の凹溝に常に押し付けられた状態で回転することになる。このため、仮に回転支持機構の回転中心と、キャピラリーの後端部の軸心や第1案内部材の凹溝に押し付けられたキャピラリーの所定部位の軸心とが一致していなくても、第1案内部材の凹溝に押し付けられたキャピラリーの所定部位の回転中心は、常にキャピラリーの当該所定部位の軸心と一致し、ひいてはキャピラリーの第1案内部材よりも先端側の部位の回転中心もキャピラリーの当該先端側の部位の軸心と略一致することになる。
【0016】
以上のように、本発明に係るキャピラリー回転装置によれば、手間の掛かる調整作業を必要とすることなく、キャピラリーの回転ぶれ(第1案内部材よりも先端側の部位の回転ぶれ)を簡便に抑制することが可能である。従って、物質を解析する解析装置(例えば、X線回折装置)に本発明に係るキャピラリー回転装置を適用し、キャピラリーの第1案内部材よりも先端側の部位にX線を照射するようにすれば、精度の良い解析結果を得ることが可能である。
【0017】
好ましくは、前記第3案内部材及び前記回転支持機構は、前記第1案内部材の凹溝と前記第2案内部材の凹溝との対向方向に沿って移動可能に構成される。
【0018】
斯かる好ましい構成によれば、第3案内部材及び回転支持機構の移動量を調整することにより、第2案内部材より後端部側の部位におけるキャピラリーの変形量、ひいてはキャピラリーの第1案内部材の凹溝に対する押し付け力を調整できるという利点が得られる。また、キャピラリーを取り付ける際には、第3案内部材の凹溝を第2案内部材の凹溝からキャピラリーの外径以上の距離だけ離間させておき、第1案内部材の凹溝と第2案内部材の凹溝との間にキャピラリーを挿入して取り付けた後に、第3案内部材を第2案内部材側に移動させることが可能であるため、キャピラリーの取り付け作業がより一層簡便になるという利点も得られる。
【0019】
本発明に係るキャピラリー回転装置を構成する回転支持機構の具体的な構成としては、例えば、前記キャピラリーの後端部を嵌入するプーリと、回転モータと、前記プーリに前記回転モータの回転動力を伝達するための動力伝達機構とを備える構成を採用することが可能である。
【0020】
好ましくは、前記キャピラリー回転装置は、X線回折装置に適用され、前記第1案内部材は、前記キャピラリーに収容された物質にX線が照射される領域で且つ前記物質によって回折した回折X線が出射する側に配置されると共に、前記キャピラリーの外径よりも小さな幅を有し且つ前記キャピラリーの軸方向に沿って延びる開口部を具備する構成とされる。
【0021】
斯かる好ましい構成によれば、キャピラリーの外径よりも小さな幅を有する開口部によって、X線回折装置のX線検出器で検出する回折X線の幅が制限されるため、回折X線のピーク位置の検出分解能を高めることが可能である。また、X線が照射され回折X線を出射するキャピラリーの部位自体が第1案内部材に押し付けられることになるため、キャピラリーの第1案内部材よりも先端側の部位にX線を照射して回折X線を検出する場合に比べ、解析精度への回転ぶれの影響をより一層抑制することが可能である。
【0022】
また、前記課題を解決するべく、本発明は、前記キャピラリー回転装置を備えることを特徴とするX線回折装置、或いは、前記キャピラリー回転装置を備えることを特徴とするラマン分光分析装置としても提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るキャピラリー回転装置によれば、キャピラリーの回転ぶれを簡便に抑制することができ、ひいてはキャピラリーに収容された物質を解析する解析装置に適用することにより、精度の良い解析結果を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明に係るキャピラリー回転装置をX線解析装置に適用する場合を例に挙げて説明する。
【0025】
図3は、本発明の一実施形態に係るキャピラリー回転装置の概略構成を模式的に示す側面図である。図3に示すように、本実施形態に係るキャピラリー回転装置10は、キャピラリーCの先端部側から後端部側に向けて順に配置された第1案内部材11と、第2案内部材12と、第3案内部材13と、回転支持機構14とを備えている。本発明においては、第1案内部材を配置した部位或いは第1案内部材よりも先端部側の部位をX線照射領域(キャピラリーCに収容された物質にX線が照射される領域)とすることが可能であるが、本実施形態に係る第1案内部材11については、第1案内部材11よりも先端部側の部位がX線照射領域とされている。
【0026】
第1案内部材11、第2案内部材12及び第3案内部材13は、キャピラリーCを案内するための凹溝をそれぞれ具備している。以下、斯かる凹溝の構成について、具体的に説明する。図4は、本実施形態に係る第1案内部材11、第2案内部材12及び第3案内部材13の具体的構成を示す図であり、図4(a)は側面図を、図4(b)は図4(a)に示す矢符Aの方向から見た図を、図4(c)は図4(a)に示す矢符Bの方向から見た図を表す。図4に示すように、本実施形態に係る第1案内部材11、第2案内部材12及び第3案内部材13は、軸M(図4(a))及び軸N(図4(b))に対して対称な円錐台状の壁面で区画された凹溝Gを具備する。そして、円錐台の小さい方の直径がキャピラリーCの外径D(図3参照)よりも0.03〜0.2mm程度大きく、大きい方の直径がキャピラリーCの外径Dよりも0.5〜2mm程度大きく設定されている。このような凹溝Gを具備することにより、後述するようにキャピラリーCを軸方向周りに回転させた場合、キャピラリーCは、第1案内部材11〜第3案内部材13が具備する凹溝Gに安定した接触状態で案内されることになる。より具体的に説明すれば、凹溝Gの壁面によって、図3の紙面に対して平行な方向のみならず垂直な方向へのキャピラリーCの移動が阻止されることになる。また、後述するように第3案内部材13を移動させた際、その移動方向とキャピラリーCの軸心との成す角が厳密に直角でなくとも、また、第3案内部材13の凹溝GによってキャピラリーCが押圧され変形した後であっても、第3案内部材13の凹溝GをキャピラリーCにしっかりと接触させることが可能である。
【0027】
なお、第1案内部材11、第2案内部材12及び第3案内部材13が具備する凹溝Gの壁面形状は、図4に示す形態に限られるものではなく、例えば、図5に示すような多角錐台状など、キャピラリーCが回転した際にも安定した接触状態が得られる限りにおいて、種々の形態を採用することが可能である。また、第1案内部材11、第2案内部材12及び第3案内部材13は、後述するように回転するキャピラリーCと接触するため、キャピラリーCに対して過度の接触抵抗を与えることのない材料(例えば、樹脂)を用いて形成することが好ましい。
【0028】
また、本実施形態に係るキャピラリー回転装置10のようにX線回折装置に適用される場合、第1案内部材として、図6に示すような形態を用いることも可能である。図6は、他の実施形態に係る第1案内部材の具体的構成を示す図であり、図6(a)は側面図を、図6(b)は図6(a)の矢符Fの方向から見た図を、図6(c)は図6(a)の矢符Gの方向から見た図を表す。図6に示す第1案内部材11Aは、キャピラリーCのX線照射領域で且つ前記物質によって回折した回折X線が出射する側に配置される。すなわち、本実施形態では、矢符Fの方向からX線が照射され、キャピラリーCを透過して矢符Fの方向に回折X線が出射される。そして、キャピラリーCの外径Dよりも小さな幅を有し且つキャピラリーCの軸方向に沿って延びる開口部を具備している。
【0029】
より具体的に説明すれば、第1案内部材11Aは、キャピラリーCと接触する面側に配置された一対の柱状(例えば、円柱状)部材111と、柱状部材111のキャピラリーCと接触する面と反対側に配置され、開口窓112aを具備するプレート状部材112とを備えている。柱状部材111及び開口窓112aの長さは、キャピラリーCの先端部におけるX線照射領域の長さに略等しく設定されている。そして、一対の柱状部材111の隙間の幅がキャピラリーCの外径Dよりも小さく設定されている。すなわち、一対の柱状部材111の隙間が前述した開口部に相当すると共に、当該開口部と一対の柱状部材111とによってキャピラリーCを案内する凹溝(この場合は貫通溝)が形成されていることになる。なお、好ましくは、前記開口部を区画する部材の材料は、X線吸収度の高い材料を用いて形成される。図6に示す第1案内部材11Aの場合、開口部を区画する柱状部材111が、X線吸収度の高い材料(タンタル、鉛、真鍮など)を用いて形成されている。
【0030】
図6に示す第1案内部材11Aを採用することにより、キャピラリーCの外径Dよりも小さな幅を有する開口部によって、X線回折装置のX線検出器で検出する回折X線の幅が制限されるため、回折X線のピーク位置の検出分解能を高めることが可能である。また、後述するように、第1案内部材にはキャピラリーCの側壁が押し付けられることになるが、図6に示す第1案内部材11Aを採用することにより、キャピラリーCのX線照射領域自体が第1案内部材11Aに押し付けられることになる。このため、図3に示すように、キャピラリーCの第1案内部材11よりも先端側の部位にX線を照射して回折X線を検出する場合に比べ、解析精度への回転ぶれの影響をより一層抑制することが可能である。さらに、柱状部材111をX線吸収度の高い材料を用いて形成しているため、柱状部材111を透過した回折X線がX線検出器で検出されることを効果的に抑制することが可能である。
【0031】
図3に示すように、第1案内部材11の凹溝Gと第3案内部材13の凹溝Gとは、キャピラリーCの同じ側面側(図3に示す例では上面側)に配置される一方、第2案内部材12の凹溝Gは、第1案内部材11及び第3案内部材13の凹溝Gが配置されたキャピラリーCの側面側と対向するキャピラリーCの側面側(図3に示す例では下面側)に配置されている。そして、本実施形態では、好ましい構成として、第3案内部材13が、第1案内部材11の凹溝Gと第2案内部材12の凹溝Gとの対向方向(図3の矢符Yの方向であり、屈曲していないキャピラリーCの一つの径方向に相当する)に沿って移動可能に構成されている。具体的には、第3案内部材13は、ステッピングモータによって駆動する一軸ステージ(図示せず)に載置されており、この一軸ステージを駆動することにより、設定した距離だけ矢符Yの方向に移動可能とされている。また、本実施形態では、第2案内部材12についても同様に一軸ステージによって矢符Yの方向に移動可能とされている。
【0032】
回転支持機構14は、キャピラリーCの後端部を支持すると共に、キャピラリーCを軸方向周りに回転させるように動作する。図7は、本実施形態に係る回転支持機構14の具体的構成を示す図であり、図7(a)は側面視断面図を、図7(b)は図7(a)に示す矢符Eの方向から見た図を表す。図7に示すように、本実施形態に係る回転支持機構14は、キャピラリーCの後端部を嵌入するプーリ141と、回転モータ142と、プーリ141に回転モータ142の回転動力を伝達するための動力伝達機構143とを備えている。斯かる回転支持機構14により、キャピラリーCは、軸方向周りに60〜600rpm程度の回転速度で回転する。
【0033】
より具体的に説明すれば、本実施形態に係る動力伝達機構143は、プーリ141の外周に形成された凹溝141aに嵌め込まれたOリング143aと、回転モータ142の回転軸に取り付けられたゴムローラ143bと、ゴム又は他の材料からなる従動ローラ143cとを備えている。斯かる構成において、ゴムローラ143bとOリング143aとが接触することにより、回転モータ142の回転動力はゴムローラ143b及びOリング143aを介してプーリ141に伝達される。この際、ゴムローラ143bと共に従動ローラ143cをOリング143aに接触させることにより、プーリ141を容易に且つ安定して回転させることが可能である。そして、プーリ141が回転することにより、プーリ141に嵌入されたキャピラリーCが周方向に(軸方向周りに)回転することになる。
【0034】
本実施形態では、好ましい構成として、回転支持機構14が、第1案内部材11の凹溝Gと第2案内部材12の凹溝Gとの対向方向(図3の矢符Yの方向)に沿って移動可能に構成されている。具体的には、回転支持機構14を構成する回転モータ142、ゴムローラ143b及び従動ローラ143cがステッピングモータによって駆動する一軸ステージ(図示せず)に載置されており、この一軸ステージを駆動することにより、設定した距離だけ矢符Yの方向に移動可能とされている。また、回転支持機構14を構成するプーリ141及びOリング143aは、後述するように第3案内部材13の凹溝GによってキャピラリーCが押圧され変形することに伴って、自然に移動することになる。
【0035】
なお、本実施形態においては、動力伝達機構143がOリング143aひいてはプーリ141に回転動力を伝達するためにゴムローラ143bを備えると共に、プーリ141を容易に且つ安定して回転させるために従動ローラ143cを備える構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限るものではなく、従動ローラ143cを備えることなく、ゴムローラ143bのみをOリング143aに接触させる構成を採用することも可能である。また、プーリ141の回転を安定化させるため、ゴムローラ143bのOリング143aが接触する部位に、Oリング143aの寸法に対応する凹溝を形成することも可能である。
【0036】
また、本発明に係る動力伝達機構としては、図7に示す構成に限られるものではなく、例えば、図8に示すような動力伝達機構143Aを採用することも可能である。図8に示す動力伝達機構143Aは、回転モータ142の回転軸に取り付けられたプーリ143dと、プーリ141とプーリ143dとの間に掛け渡された無限軌道のゴムベルト143eとを備えている。斯かる構成において、回転モータ142の回転動力はプーリ143d及びゴムベルト143eを介してプーリ141に伝達され、これによりプーリ141に嵌入されたキャピラリーCが周方向に(軸方向周りに)回転することになる。この他、本発明に係る動力伝達機構としては、プーリ141に回転モータ142の回転動力を伝達することができる限りにおいて、種々の構成を採用することが可能である。
【0037】
以下、図9を適宜参照しつつ、上記の構成を有するキャピラリー回転装置10の初期設定の動作について説明する。図9は、本実施形態に係るキャピラリー回転装置の初期設定動作を説明するための説明図である。キャピラリー回転装置10の初期設定としては、先ず最初に、キャピラリーC内に解析対象とする物質を収容し、キャピラリーCの後端部をプーリ141に嵌入する。次に、図9(a)に示すように、キャピラリーCの先端部におけるX線照射領域の後端近傍の側壁が第1案内部材11の凹溝Gに接触する位置となるようにキャピラリーCを位置決めした後、一軸ステージ(図示せず)を駆動して第2案内部材12を矢符Y1の方向に移動させる。この際、第1案内部材11の凹溝Gと第2案内部材12の凹溝Gとの対向方向(矢符Y1の方向)の離間距離は、キャピラリーCの外径と略同等(キャピラリーCの外径の公差を考慮して、外径公称値よりも若干広めに設定するのが好ましい)に設定される。
【0038】
次に、一軸ステージ(図示せず)を駆動して第3案内部材13を矢符Y2の方向に移動させる。この際、図9(b)に示すように、第3案内部材13の凹溝GによってキャピラリーCが第2案内部材12の凹溝G側に押圧される位置となるまで、第3案内部材13を移動させる。より具体的には、図9(b)に示すように、第3案内部材13の凹溝Gと第2案内部材12の凹溝Gとの矢符Y2の方向に沿った離間距離L2が、第1案内部材11の凹溝Gと第2案内部材12の凹溝Gとの対向方向に沿った離間距離L1よりも小さくなるまで第3案内部材13を下方に移動させる。さらに、離間距離L2が0となる位置よりも下方に移動させてもよい。斯かる動作により、キャピラリーCは第3案内部材13の凹溝Gによって第2案内部材12の凹溝G側に押圧され、第2案内部材12より後端部側の部位が第2案内部材12の凹溝G側に向けて凹状に変形することになる。そして、梃子の原理で、キャピラリーCの第2案内部材12より先端部側の部位が、第2案内部材12の凹溝Gを支点として第1案内部材11の凹溝G側に移動(図9(a)に示す矢符Y1の方向に移動)しようとする結果、キャピラリーCの所定部位(X線照射領域の後端近傍の側壁)が第1案内部材11の凹溝Gに常に押し付けられた状態となる。
【0039】
最後に、一軸ステージ(図示せず)を駆動して回転モータ142、ゴムローラ143b及び従動ローラ143cを矢符Y3の方向に移動させ、図9(c)に示すように、ゴムローラ143b及び従動ローラ143cの表面がプーリ141に嵌め込まれたOリング143aに接触する位置で停止させることにより、キャピラリー回転装置10の初期設定は完了する。
【0040】
なお、本実施形態では、ゴムローラ143b及び従動ローラ143cの表面がOリング143aに接触するまで、回転モータ142、ゴムローラ143b及び従動ローラ143cを移動させる構成について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、回転モータ142、ゴムローラ143b及び従動ローラ143cの位置を固定する一方、Oリング143aがゴムローラ143b及び従動ローラ143cの表面に接触するまで、第3案内部材13を移動させる構成を採用することも可能である。
【0041】
以上のようにして、キャピラリー回転装置10の初期設定動作が完了した後、X線回折装置による解析動作を実行する。この際、回転モータ142を駆動してキャピラリーCを軸方向周りに回転させるが、前述のように、キャピラリーCは、梃子の原理によって、所定部位(X線照射領域の後端近傍の側壁)が第1案内部材11の凹溝Gに常に押し付けられた状態で回転することになる。このため、仮にキャピラリーCの後端部の回転中心(プーリ141の回転中心PC)と、キャピラリーCの後端部の軸心や第1案内部材11の凹溝Gに押し付けられたキャピラリーCの所定部位の軸心CCとが一致していなくても、第1案内部材11の凹溝Gに押し付けられたキャピラリーCの所定部位の回転中心CC’は、常にキャピラリーCの当該所定部位の軸心CCと一致することになる。そして、キャピラリーCの第1案内部材よりも先端側の部位(X線照射領域)の回転中心もキャピラリーCの当該先端側の部位の軸心と略一致することになる。このようにして、本実施形態に係るキャピラリー回転装置10によれば、従来に比べて手間の掛かる調整作業を必要とすることなく、キャピラリーCの回転ぶれ(第1案内部材11よりも先端側の部位の回転ぶれ)を簡便に抑制することが可能である。
【0042】
表1に、各種の外径D(図3参照)を有するキャピラリーCについて、回転ぶれを抑制するために好ましい初期設定値の範囲を調査した結果を示す。具体的に説明すれば、表1には、第3案内部材13の好ましい移動量を近似円の曲率半径Rで表現したものを示している。より具体的に説明すれば、初期設定完了後の第2案内部材12と第3案内部材13との間に位置するキャピラリーCの軸心が側面視で円弧であると近似した場合における、該円弧の曲率半径Rの好ましい範囲を示している。曲率半径Rが小さくなるほど、キャピラリーCの変形量が大きく、第3案内部材13の移動量が大きい(第3案内部材13の押圧力が大きい)ことを意味する。また、表1には、第1案内部材11と第2案内部材12とのキャピラリーCの軸方向に沿った離間距離L(図3参照)の好ましい範囲も示している。
【表1】

【0043】
キャピラリーCの回転ぶれをできる限り抑制するには、第3案内部材13の移動量を大きくして押圧力を高める方が好ましいが、キャピラリーCの外径Dが大きくなるほど、キャピラリーCは変形し難くなる。そして、過度の押圧力を加えて変形させると、キャピラリーCは破損するおそれがある。従って、表1に示すように、キャピラリーCの外径Dが大きくなるほど、好ましい曲率半径Rの範囲は大きい値にシフトする。また、初期設定を簡便にするべく、キャピラリーCの外径Dの大きさに関わらず第3案内部材13の移動量を一定に設定する(曲率半径Rを一定に設定する)と、外径Dの大きなキャピラリーCほど、第3案内部材13が加えるべき押圧力は大きくなる。これに伴い、第1案内部材11に加わる押圧力も大きくなるが、梃子の原理により、第1案内部材11と第2案内部材12との離間距離Lを大きくした方が、第1案内部材11に加わる押圧力は低減し、ひいては第2案内部材12に加わる押圧力も低減することになる。従って、キャピラリーCが第1案内部材11及び第2案内部材12に過度に押し付けられることに起因した破損のおそれをなくすという点で、表1に示すように、キャピラリーCの外径Dが大きくなるほど、好ましい離間距離Lの範囲は大きい値にシフトする。
【0044】
以上のように初期設定することにより、キャピラリーCの破損を防止し得ると共に、回転ぶれ(第1案内部材11よりも先端部側の部位の回転ぶれ)を効果的に抑制することが可能であった。
【0045】
具体的に説明すれば、各種の外径DのキャピラリーCについて、上記表1に示す条件で初期設定を行った後、回転モータ142を駆動してキャピラリーCを軸方向周りに回転させ、回転ぶれを評価した。ここで、回転ぶれは、キャピラリーCのX線照射領域に含まれる部位(具体的には、第1案内部材11よりも先端部側に10mm程度離間した部位)を顕微鏡で拡大して観察し、キャピラリーCの径方向の位置変動量として評価した。この結果、いずれの条件についても、回転ぶれを±20μm以下に抑制することが可能であった。特に、外径D=0.5mmφ、L=10mm、R=1000mmの条件については、回転ぶれを±9μm程度に抑制可能であった。これに対し、第1案内部材11、第2案内部材12及び第3案内部材13を設けない構成で、回転モータ142を駆動してキャピラリーCを軸方向周りに回転させ、同様に回転ぶれを評価したところ、回転ぶれは±500μmと極めて大きくなった。
【0046】
以上に説明したように、本実施形態に係るキャピラリー回転装置10を用いれば、キャピラリーCの回転ぶれを効果的に抑制でき、ひいてはX線回折装置の解析精度を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、キャピラリーを用いるX線回折装置の概略構成を模式的に示す正面図である。
【図2】図2は、従来のキャピラリー回転装置の概略構成を模式的に示す側面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係るキャピラリー回転装置の概略構成を模式的に示す側面図である。
【図4】図4は、図3に示す第1〜第3案内部材の具体的構成を示す図である。
【図5】図5は、図3に示す第1〜第3案内部材の他の構成例を示す図である。
【図6】図6は、図3に示す第1案内部材の他の構成例を示す図である。
【図7】図7は、図3に示す回転支持機構の具体的構成を示す図である。
【図8】図8は、図3に示す回転支持機構の他の構成例を示す図である。
【図9】図9は、本実施形態に係るキャピラリー回転装置の初期設定動作を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0048】
10・・・キャピラリー回転装置
11・・・第1案内部材
12・・・第1案内部材
13・・・第3案内部材
C・・・キャピラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリーの先端部側から後端部側に向けて順に配置された第1案内部材と、第2案内部材と、第3案内部材と、回転支持機構とを備え、
前記回転支持機構は、前記キャピラリーの後端部を支持すると共に、前記キャピラリーを軸方向周りに回転させるように動作し、
前記第1案内部材、前記第2案内部材及び前記第3案内部材は、前記キャピラリーを案内するための凹溝をそれぞれ具備し、
前記第1案内部材の凹溝と前記第3案内部材の凹溝とは、前記キャピラリーの同じ側面側に配置される一方、前記第2案内部材の凹溝は、前記第1案内部材及び前記第3案内部材の凹溝が配置された前記キャピラリーの側面側と対向する前記キャピラリーの側面側に配置され、
少なくとも前記回転支持機構によって前記キャピラリーを軸方向周りに回転させる際、前記第1案内部材の凹溝と前記第2案内部材の凹溝との対向方向に沿った離間距離は、前記キャピラリーの外径と略同等に設定される一方、前記第3案内部材の凹溝は、該凹溝によって前記キャピラリーが前記第2案内部材の凹溝側に押圧されるように位置決めされることを特徴とするキャピラリー回転装置。
【請求項2】
前記第3案内部材及び前記回転支持機構は、前記第1案内部材の凹溝と前記第2案内部材の凹溝との対向方向に沿って移動可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のキャピラリー回転装置。
【請求項3】
前記回転支持機構は、前記キャピラリーの後端部を嵌入するプーリと、回転モータと、前記プーリに前記回転モータの回転動力を伝達するための動力伝達機構とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャピラリー回転装置。
【請求項4】
前記キャピラリー回転装置は、X線回折装置に適用され、
前記第1案内部材は、前記キャピラリーに収容された物質にX線が照射される領域で且つ前記物質によって回折した回折X線が出射する側に配置されると共に、前記キャピラリーの外径よりも小さな幅を有し且つ前記キャピラリーの軸方向に沿って延びる開口部を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載のキャピラリー回転装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載のキャピラリー回転装置を備えることを特徴とするX線回折装置。
【請求項6】
請求項1から3の何れかに記載のキャピラリー回転装置を備えることを特徴とするラマン分光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−96330(P2008−96330A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279489(P2006−279489)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】