説明

キャブの前部構造

【課題】車両の重量化を抑制しつつ、ダッシュパネルの振動に起因する車室内の騒音を低減する。
【解決手段】キャブ3の前端下部から後方に延びるフロアパネル13と、フロアパネル13の前端部から車幅方向に沿って起立するダッシュパネル15と、熱交換器ケース体69と、シュラウド80と、を備える。熱交換器ケース体69は、ダッシュパネル15の後方でフロアパネル13とインストバー15に支持され、ダッシュパネル15の後面と対向するケース体前面70を有し、車外又は車内から流入する空気を冷却するエバポレータとエバポレータによって冷却された空気を加熱するヒータコアとを収容する。シュラウド80は、ケース体前面70からダッシュパネル15の後面まで前方へ延出して、シール部90を介してダッシュパネル15の後面に密着しダッシュパネル15の後面とケース体前面70との間に閉空間85を形成する枠状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャブオーバ型トラック等のキャブの前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007−106300号公報には、エンジン室と車室とを区画するダッシュパネルの車室の側面に装着されているダッシュパネルインシュレータが記載されている。ダッシュパネルインシュレータは遮音パネルを備え、遮音パネルの片面には吸音材が一体化されている。ダッシュパネルインシュレータは、吸音材をダッシュパネルの車室側に密接させた状態でダッシュパネルに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−106300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般にキャブオーバー型車両のキャブ内の騒音は、主にエンジンで発生した加振力が車両のエンジンマウント及びキャブマウントを介して、下方からキャブに伝達され、キャブを構成する各パネル(ルーフパネル、サイドパネル、ダッシュパネル、バックパネル及びフロアパネル)が振動することによって各パネルから放射される。
【0005】
特許文献1に記載のインシュレータは、ダッシュパネルから放射される騒音を低減するために有効であり、上記キャブオーバー型車両においても、ダッシュパネルから放射される騒音を低減するための措置を講じておくことが好ましい。
【0006】
しかし、特許文献1に記載のインシュレータを上記キャブオーバー型車両のダッシュパネルに固定した場合、下方からキャブに伝達される加振力によるダッシュパネルの振動及びダッシュパネルの振動に起因する音響放射によってインシュレータ自体が振動してインシュレータから車室内に騒音が放射される可能性がある。また、制振のためにインシュレータを重量化すると、車両の重量化を招いてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、車両の重量化を抑制しつつ、ダッシュパネルの振動に起因する車室内の騒音を低減することが可能なキャブの前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のキャブの前部構造は、フロアパネルと、ダッシュパネルと、熱交換器ケース体と、を備える。
【0009】
フロアパネルは、キャブの前端下部から後方に延びて車室の底部を区画する。ダッシュパネルは、フロアパネルの前端部から車幅方向に沿って起立し、車室の前部を区画する。熱交換器ケース体は、ダッシュパネルの後方でダッシュパネルを除くキャブ側に少なくとも支持され、ダッシュパネルの後面と対向するケース体前面を有し、車外又は車内から流入する空気を冷却するエバポレータとエバポレータによって冷却された空気を加熱するヒータコアとを収容する。また、前記熱交換器ケース体は、ケース体前面からダッシュパネルの後面まで前方へ延出してダッシュパネルの後面に密着しダッシュパネルの後面とケース体前面との間に閉空間を形成する枠状の閉空間形成部を有する。
【0010】
上記構成では、ダッシュパネルの振動によってダッシュパネルの後面から放射される騒音は、閉空間形成体が形成するダッシュパネルの後面とケース体前面との間の閉空間に放射され、車室内には放射されない。このため、ダッシュパネルの振動に起因する車室内の騒音を低減することができる。
【0011】
また、ダッシュパネルの後方でダッシュパネルを除くキャブ側に少なくとも支持され、重量物であるエバポレータ及びヒートコアを収容する熱交換器ケース体が、ケース体前面から前方へ延出してダッシュパネルの後面に密着する閉空間形成体を有しているので、ダッシュパネルの振動とダッシュパネルの後面からの音響放射とに起因する閉空間形成部の振動を低減することができる。このため、閉空間形成部の振動に起因する騒音の発生を抑制して車室内の騒音を低減することができる。また、閉空間形成部の制振のために、閉空間形成部を重量化する必要がないので、車両の重量化を抑制することができる。
【0012】
また、閉空間形成部は枠状に形成されるので、ダッシュパネルの後面に対向する面を有するパネル状の防音部材、例えば遮音パネルを設ける場合に比べて車両の重量化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両の重量化を抑制しつつ、ダッシュパネルの振動に起因する車室内の騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両の要部斜視図である。
【図2】図1の車両のキャブの要部斜視図である。
【図3】図1の車両のIII−III線断面図である。
【図4】図1の車両のIV−IV線断面図である。
【図5】図1の車両のHVACユニット及びシュラウドの概略を示す斜視図である。
【図6】図1の車両のダッシュパネル、HVACユニット及びシュラウドの概略を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図中矢印FRは車両前方を、矢印UPは上方を、矢印INは車幅方向内側をそれぞれ示している。また、以下の説明において、前後とは車両の前後を意味し、左右とは車両前方を向いた状態での左右を意味する。
【0016】
図1〜図4に示すように、本実施形態にかかるキャブの前部構造1は、ダッシュパネル15、フロアパネル13、インストバー50、HVAC(Heating,Ventilating and Air-Conditining)ユニット60、シュラウド80及びシール部90を有するキャブ3の前部に設けられる。
【0017】
車両2は、図1に示すように、キャブ3の下方にエンジンルーム9が位置するキャブオーバー型のトラックである。キャブ3は、車体フレーム4の前端部に取付けられている前方キャブマウント5及び後方キャブマウント(図示省略)によって前方へ傾斜可能に支持される。
【0018】
車体フレーム4は、前後方向に沿って並行に延びる左右のメインビーム6と、複数のクロスメンバ7と前方キャブマウント5及び後方キャブマウントとを有する。左右のメインビーム6は、直交する複数のクロスメンバ7によって相互に連結される。車体フレーム4の前端部付近及び後端部付近には、走行車軸(図示省略)が設けられる。走行車軸の車幅方向両端には、走行車輪8が回転自在に支持される。
【0019】
キャブ3は、略箱状体であり、内部に車室10を区画する。キャブ3は、ルーフパネル11と、サイドパネル12と、フロントフレーム部16と、ダッシュパネル15と、バックパネル14と、フロアパネル13と、を有する。これらのパネルは、例えば、鋼板などの高強度材料からなり、プレス成形によって成形される。また、キャブ3は、車室10の前側に位置するインストルメントパネル(図示省略)を支持するインストバー50(図2〜図4参照)を有する。
【0020】
ルーフパネル9は、車室10の上部を区画する。サイドパネル12は、ルーフパネル11の車幅方向両端部に接合し、車室10の車幅方向両端部を区画する。フロントフレーム部16は、車室10の前方でサイドパネル12に接合する。ダッシュパネル15は、フロントフレーム部16とサイドパネル12とに接合し、車幅方向に沿って起立して車室10の前部を区画する。バックパネル14は、ルーフパネル11とサイドパネル12とに接合し、車室10の後部を区画する。フロアパネル13は、サイドパネル12、ダッシュパネル15及びバックパネル14に接合し、車室10の底部を区画する。
【0021】
ルーフパネル11は、略矩形状の平板である。ルーフパネル11の車幅方向両端部は、サイドパネル12の上端部と接合し、後端部は、バックパネル14の上端部と接合する。
【0022】
サイドパネル12は、中央に略矩形状に形成されるドア開口20を有し、また、フロントピラー部21と、ロッカー部22と、フェンダー部23と、ルーフサイドレール部24と、リアピラー部25と、を有する。
【0023】
フロントピラー部21は、上端から前方へ傾斜して延びるフロントピラー傾斜部21aとフロントピラー傾斜部21aの下端から略垂直下方へ曲折して延びるフロントピラー鉛直部21bとを有し、ドア開口20の前縁を構成する。ロッカー部22は、フロントピラー部21の下端(フロントピラー鉛直部21bの下端)から後方へ曲折して延び、ドア開口20の下縁の一部を構成する。フェンダー部23は、ロッカー部22の後端からアーチ状に延びている。フェンダー部23の下端側は、前車輪を上方から覆うホイールハウスを構成する。また、フェンダー部23の上端側は、ドア開口20の下縁の一部を構成する。ルーフサイドレール部24は、フロントピラー部21の上端(フロントピラー傾斜部21aの上端)から車両後方へ曲折して延び、ドア開口20の上縁を区画する。リアピラー部25は、フェンダー部23の後端とルーフサイドレール部24の後端とを連結してドア開口20の後縁を区画する。
【0024】
フロアパネル13は、略矩形板状体である。フロアパネル13は、キャブの前端から後方へ延びるフロアパネル前方部30と、フロアパネル前方部30の後端から後上方へ傾斜して延びるフロアパネル傾斜部31と、フロアパネル傾斜部31の後端からフロアパネル前方部30に対して略平行に曲折してキャブの後端まで延びるフロアパネル後方部32と、を有する。車両2のフロアパネル13の下側には、エンジン(図示省略)を収容するエンジンルーム9が形成されている。
【0025】
フロアパネル前方部30は、図2〜図4に示すように、前端から後方へ略水平に延びる前端部33と、前端部33の後端から後下方へ傾斜して延びる傾斜部34と、傾斜部34の後端から前端部33と略平行に曲折してフロアパネル傾斜部31の前端まで延びる後端部35とを有する。
【0026】
フロア前方部30の前端部33の前端には、略垂直下方に延びるフロアパネル接合部36が形成されている。
【0027】
ダッシュパネル15は、図1に示すように、略矩形板状体であり、ダッシュパネル15の後面上部はフロントフレーム部16と接合し、ダッシュパネル15の車幅方向の両端はサイドパネル12に接合する。また、ダッシュパネル15の下部は、後述のようにフロアパネル13のフロアパネル接合部36と接合する(図3及び図4参照)。すなわち、ダッシュパネル15は、フロアパネル13の前端部から車幅方向に沿って起立して車室10の前部を区画する。
【0028】
バックパネル14は、略矩形板状体である。バックパネル14は、略中央部に後部窓ガラスが嵌合されるバックパネル開口部40を有する。
【0029】
インストバー50は、インストルメントパネルの内側に配置され、図2及び図3に示すように、フロアパネル13の上方でダッシュパネル15と略平行に車幅方向に沿って延びる金属製の略円柱状の部材であるインストバー本体51と、ダッシュパネル15の後方で、且つ、車幅方向の中心よりもやや左側(助手席側)で、インストバー本体51とフロアパネル13とを連結しインストバー本体51を下方から支持する金属製の略円柱状の部材である支柱52と、を有する。
【0030】
インストバー本体51は、略中央部が後方に曲折して、上方から見て略U字状に形成されている。また、インストバー本体51の車幅方向の両端には、上下方向に延びるブラケット部56が形成されている。ブラケット部56は、ブラケット部56に設けられたボルト孔を挿通するボルト(図示省略)が、サイドパネル12のフロントピラー鉛直部21bに設けられたボルト孔(図示省略)と螺合することによって、フロントピラー鉛直部21bの内側の上部に固定される。インストバー本体51の車幅方向右側(運転席側)には、ステアリング103のステアリングコラム104を支持するステアリングサポートブラケット105が固定される。また、インストバー本体51は、複数のブラケット部によりダッシュパネル15の後面上部に支持されている。
【0031】
支柱52は、支柱本体53と、支柱本体53の上端から延びる上ブラケット部54と、支柱本体53の下端から延びる下ブラケット部55と、を有する。
【0032】
下ブラケット部55は、略平板状体であり、支柱本体53の下端部に一体的に形成されている。下ブラケット部55は、支柱本体53の下端部から後下方に傾斜して延びる。下ブラケット部55の略中央に設けられたボルト孔(図示省略)に挿通するボルトが、フロアパネル13のフロアパネル前方部30の傾斜部34に設けられたボルト孔(図示省略)に螺合することによって、下ブラケット部55は傾斜部34に固定される。なお、スポット溶接等によって、下ブラケット部55の下面を傾斜部34の上面に溶着してもよい。
【0033】
支柱本体53は、円柱状であり、下ブラケットの上端から後上方へ傾斜して延びる。
【0034】
上ブラケット部54は、略平板状体であり、支柱本体53の上端に一体的に形成されている。上ブラケット部54は、支柱本体53の上端から略垂直上方に延びる。上ブラケット部54の上端面には、前後方向の断面が円弧状に窪んだ接合面54aが形成されている。接合面54aとインストバー本体51の側面の下部とがスポット溶接等で固定(溶着)されることによって、支柱52は、インストバー本体51を下方から支持する。なお、接合面54aにボルト孔を形成し、ボルト孔を挿通するボルトがインストバー本体51の側面に形成されたボルト孔に螺合することによって、接合面54aとインストバー本体51とを固定してもよい。
【0035】
HVACユニット60は、インストルメントパネルの内側に配置され、図2、図5及び図6に示すように、熱交換器ユニット部61と、送風機ユニット部62と、を有する。熱交換器ユニット部61は車幅方向の略中央に配置され、送風機ユニット部62は熱交換器ユニット部61の車幅方向左側(助手席側)に並設されている。
【0036】
送風機ユニット部62は、車外または車内から流入する空気を切換導入する内外気切換箱63と、この内外気切換箱63から導入する空気を熱交換器ユニット部61に流入する遠心式の送風機64とを有している。内外気切換箱63には、図示しない内気導入口と、外気導入口と、内外気切換ダンパとが設けられている。内気導入口は、車室の空気を流入するための開口部である。外気導入口は、車外の空気を導入するための開口部である。内外気切換ダンパは、内気導入口および外気導入口のいずれか一方を閉止するためのダンパであり、その動作により流入する空気を車外の空気または車内の空気に切り換える。送風機64は、ブロアケース65、ブロアケース65内に収容された図示しないブロアファン及びブロアモータなどから構成されており、ブロアファンは車両用電源から電力を供給されたブロアモータによって駆動される。ブロアケース65の右側部には後述する熱交換器ケース体69の流入口と連通し、熱交換器ケース体69内に送風機64により送風された空気を流入させる送風路66(図2及び図6参照)が設けられている。ブロアケース65の上部には、上方に延びる2つの上ブロアブラケット接合部67が車幅方向に所定間隔を隔てて形成されている。また、ブロアケース65の左下部には、下方に延びる下ブロアブラケット接合部68が形成されている。各ブラケット接合部67,68は略平板状で中央にボルト孔が形成されている。
【0037】
熱交換器ユニット部61は、熱交換器ケース体69と、熱交換器ケース体69内に収容された図示しないエバポレータ及びヒータコアと、を有する。
【0038】
熱交換器ケース体69は、所定の機械的強度を有する樹脂材、例えばポリプロピレンによって、略直方体状に形成されている。熱交換器ケース体69は、前部にダッシュパネル15の後面の略中央部に対向する平面状のケース体前面70を有する。熱交換器ケース体69の上部には、車幅方向に所定間隔を隔てて後方に延びる2つの上熱交換器ブラケット接合部71(図3及び図4参照)が形成されている。また、熱交換器ケース体69の下部には、車幅方向に所定間隔を隔てて下方に延びる2つの下熱交換器ブラケット接合部72が形成されている。各ブラケット接合部71,72は略平板状で略中央部にボルト孔が形成されている。熱交換器ケース体69は、ケース内の空気が流れる空気通路(図示料略)を内部に有する。熱交換器ケース体69の後左側部には、空気通路の一端に接続され、送風機ユニットの送風路66と連通する流入口(図示省略)が設けられている。また、熱交換器ケース体69には、それぞれ空気通路の他端に接続されるデフロスタ開口部73、フェイス開口部74及びフット開口部(図示省略)が設けられている。デフロスタ開口部73は、デフロスタダクト(図示省略)を介して、空気の吹出方向を車両のフロントガラス等に向けて設定するデフロスタ吹出口(図示省略)に接続される。フェイス開口部74は、フェイスダクト(図示省略)を介して、インストルメントパネルの略中央部に配置され空気の吹出方向を前席乗員の頭部および上半身に向けて設定するフェイス吹出口(図示省略)に接続される。フット開口部は、フットダクト(図示省略)を介して、空気の吹出方向を前席乗員の足下に向けて設定するフット吹出口(図示省略)に接続される。流入口から流入した空気は、空気通路の一端に流入して空気通路内を流れ、デフロスタ開口部73、フェイス開口部74及びフット開口部からデフロスタ吹出口、フェイス吹出口及びフット吹出口を介して車室10内に流出される。
【0039】
エバポレータは、熱交換器ケース体69内の空気通路の上流側近傍に配置される。エバポレータは、周知のように、車両空調用冷凍サイクルの膨張弁等の減圧装置により減圧された低圧冷媒が流入し、この低圧冷媒が空気通路を流れる空気から吸熱して蒸発することにより、空気通路を流れる空気を冷却する。ヒータコアは、熱交換器ケース体69内の空気通路の下流側近傍に配置される。ヒータコアは、車両エンジンの冷却水を熱源として空気通路を流れる空気を加熱する。空気通路のエバポレータが近傍する位置とヒータコアが近傍する位置の間には、エアミックスダンパ(図示省略)が設けられている。このエアミックスダンパの開度制御により、ヒータコアの近傍を通過する空気量が調整され、上記各吹出口から車室10内に流入される空気の温度が調整される。
【0040】
このHVACユニット60では、送風機ユニット部62のブロアファンが回転すると、空気が内気導入口または外気導入口から流入し、送風路66を介して、流入した空気が熱交換器ユニット部61の空気通路を流れる。冷房運転時には、空気通路内の空気がエバポレータにて熱交換されて冷却され、エアミックスダンパの制御によりヒートコアの近傍を通過する冷却された空気の空気量が制限されて低温のままの空気が各吹出口から車室10内に流出される。また、暖房運転時には、エアミックスダンパの制御によりヒータコアの近傍を通過する冷却された空気の空気量が増加されて空気が加熱されることによって、冷房運転時と比較して高温の空気が各吹出口から車室10内に流出される。
【0041】
シュラウド80は、所定の機械的強度を有する樹脂材、例えばポリプロピレンによって、矩形枠状に形成されている。シュラウド80は、上下方向に所定間隔を隔てて略平行に車幅方向に延びる平板状の上板部81及び下板部82を有する。また、シュラウド80は、車幅方向に所定間隔を隔てて略平行に上下方向に延びる平板状の左板部83及び右板部84を有する。左板部83の上端部は上板部81の左端部に、また、左板部83の下端部は下板部82の左端部に連結する。右板部84の上端部は、上板部81の右端部に、また、右板部84の下端部は下板部82の右端部に連結する。各板部81〜84は、前後方向の後端から前方に向かって外側に傾斜するように延びる。
【0042】
シール部90は、弾性材料、例えば、ポリウレタンやゴム製であり、シェラウド80の前縁と等しい大きさで矩形枠状に形成されている。シール部90は、前端に密着部91を、また、後端に固着部92を有する。
【0043】
次に、フロアパネル13、ダッシュパネル15、インストバー50、HVACユニット60、シュラウド80及びシール部90の連結態様について説明する。
【0044】
図3及び図4に示すように、フロア前方部30のフロアパネル接合部36とダッシュパネル15の下部とがスポット溶接等によって溶着される。
【0045】
HVACユニット60の熱交換器ケース体69は、図2に示すように、インストバー本体51のU字のくぼみ部分の前方に配置される。図2〜図4に示すように、HVACユニット60のブロアケース65の上ブロアブラケット接合部67と熱交換器ケース体69の上熱交換器ブラケット接合部71が、インストバー本体51に固定されている上ブラケット100と接合し、各接合部67,71及び上ブラケット100に形成されたボルト孔に挿通するボルト(図示省略)がナット(図示省略)と螺合することによって、HVACユニット60は、インストバー50と連結し、インストバー50に支持される。また、ブロアケース65の下ブロアブラケット接合部68と熱交換器ケース体69の下熱交換器ブラケット接合部72が、フロアパネル13の傾斜部34に固定されている下ブラケット101と接合し、各接合部68,72及び下ブラケット101に形成されたボルト孔に挿通するボルト(図示省略)がナット(図示省略)と螺合することによって、HVACユニット60は、フロアパネル13と連結し、フロアパネル13に支持される。
【0046】
図4〜図6に示すように、熱交換器ケース体69のケース体前面70の外縁とシュラウド80の後端部(各板部81〜84の後端部)の内側とが、接着剤、例えばポリウレタン系接着剤やエポキシ樹脂系接着剤によって固着される。シュラウド80の前縁(各板部81〜84の前端部)とダッシュパネル15の後面の略中央部との間には、シール部90が配置される。シール部90の後端の固着部92は、シュラウド80の前縁に接着剤などによって固着される。シール部90の前端の密着部91は、ダッシュパネル15の後面の略中央部に密着する。これによって、ダッシュパネル15の後面の略中央部とケース体前面70との間に密閉された閉空間85(図4参照)が形成される。すなわち、閉空間85はダッシュパネル15の後面の略中央部、シュラウド80及びケース体前面70によって区画形成される。
【0047】
本実施形態では、ダッシュパネル15の内、下方から伝達される主にエンジンで発生した加振力によって比較的大きく振動して車室10内に大きな騒音を放射するダッシュパネル15の略中央部の後面と熱交換器ケース体69のケース体前面70との間に密閉された閉空間85が形成される。このため、閉空間85を区画形成するダッシュパネル15の後面の略中央部から放射される騒音は閉空間85にのみ放射され、車室10内には放射されないので、車室10内の騒音を低減できる。
【0048】
また、ダッシュパネル15の後方でインストバー50とフロアパネル13とに支持され、重量物であるエバポレータ及びヒートコアを収容する熱交換器ケース体69のケース体前面70とシュラウド80とが固着するので、ダッシュパネル15の振動とダッシュパネル15の後面の中央部からの音響放射とに起因するシュラウド80の振動を低減することができる。このため、シュラウド80の振動に起因する騒音の発生を防止することができるので、車室10内の騒音を低減することができる。また、制振のために、シュラウド80を重量化する必要がないので、車両2の重量化を抑制することができる。
【0049】
また、ダッシュパネル15の後面に対向する面を有するパネル状の防音部材、例えば遮音パネルに代えて、矩形枠状のシュラウド80及びシール部90を設けることによって閉空間85を形成することができるので、車両2の重量化を抑制しつつ、ダッシュパネル15の振動に起因する車室10内の騒音を低減することができる。
【0050】
また、ダッシュパネル15の振動を制振するために、ダッシュパネル15にアスファルトシートなどを貼り付け重量化する必要がないので、ダッシュパネル15の重量化による車両の重量化を防止しつつ、騒音を低減することができる。
【0051】
また、騒音の低減のために、ダッシュパネル15にビードを設けたり、ダッシュパネル15を曲面化したりして、ダッシュパネル15自体の曲げ剛性を高めて、ダッシュパネル15の共振周波数を、エンジンの加振周波数(エンジンの回転数が700rpm〜3200rpmの場合は23Hz〜107Hz)よりも高い値に設定する必要がない。このため、ダッシュパネル15の形状を変更する必要がないので、ダッシュパネル15の前方外側(キャブの前面)に配置されるフロントパネル(図示省略)やダッシュパネル15の後方内側に配置されるHVACユニット60などの車載ユニットのレイアウトを変更することなく騒音を低減することができる。
【0052】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態による発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。
【0053】
例えば、本実施形態では、シール部90をシュラウド80の前縁とダッシュパネル15の後面との間に配置したが、シール部90を省略してもよい。この場合、シュラウド80の前端は、ダッシュパネルの後面15の略中央部に、接着剤、例えばポリウレタン系接着剤やエポキシ樹脂系接着剤によって固着される。
【0054】
また、本実施形態では、熱交換器ケース体69がインストバー50及びフロアパネル13によって支持されているが、熱交換器ケース69がインストバー50又はフロアパネル13のいずれか一方によって支持されてもよい。
【0055】
また、本実施形態では、熱交換器ケース体69のケース体前面70の外縁とシュラウド80の後端の内側とを接着剤によって固着させたが、これに代えて、熱交換器ケース体69とシュラウド80とを一体的に成形してもよい。
【0056】
また、本実施形態では、シール部90の前端の密着部91は、ダッシュパネル15の後面の略中央部に密着させたが、接着剤などを用いて、シール部90の前端の密着部91とダッシュパネル15の後面の略中央部とを固着させてもよい。
【0057】
すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、キャブオーバー型車両のキャブの前部構造に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1:前部構造
2:車両
3:キャブ
10:車室
13:フロアパネル
15:ダッシュパネル
30:フロアパネル前方部
33:前端部
34:傾斜部
36:フロアパネル接合部
50:インストバー
51:インストバー本体
52:支柱
60:HVACユニット
61:熱交換器ユニット部
62:送風機ユニット部
69:熱交換器ケース体
73:ケース体前面
80:シュラウド(閉空間形成体)
85:閉空間
90:シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブの前端下部から後方に延びて車室の底部を区画するフロアパネルと、
前記フロアパネルの前端部から車幅方向に沿って起立し、前記車室の前部を区画するダッシュパネルと、
前記ダッシュパネルの後方で該ダッシュパネルを除くキャブ側に少なくとも支持され、
前記ダッシュパネルの後面と対向するケース体前面を有し、車外又は車内から流入する空気を冷却するエバポレータと該エバポレータから流入する空気を加熱するヒータコアとを収容する熱交換器ケース体と、を備え、
前記熱交換器ケース体は、前記ケース体前面から前記ダッシュパネルの後面まで前方へ延出して該ダッシュパネルの後面に密着し該ダッシュパネルの後面と前記ケース体前面との間に閉空間を形成する枠状の閉空間形成部を有する、
ことを特徴とするキャブの前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−28197(P2013−28197A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163531(P2011−163531)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】